AIR
8月7日(月) 「おはよーさん、観鈴。 変わりないか」「お母さん」 だきっ。 「大丈夫や、ずっとそばにいてるで。朝食作ってくるからな、少し離してや。・・・な、お腹空いたやろ。ちゃんと食わなあかんで。今日は外、でかけよな。暑いから、帽子かぶって…
・・・ 目覚めは、日ざしの中・・・ いつだって、まぶしくて・・・ そして、優しさの中にあった。 見上げると、彼女の顔。 ・・・みすず。 その腕の中に僕はいた。 「そら・・・。わたしね・・・大好きなひとの夢を見てた・・・。はげまされてた。がんばれ…
7月21日(金) 「そら、おはよー」 ・・・・・・。 「あれ? まだ寝てる?」 つんつん。 「そら、朝だよー」 むくっ。 頭をあげる。 が・・・すぐ重くなって、おろす。 「どうしたのかなー。 元気ないな、そら。 調子悪いのかな」 彼女が話しかけてくれ…
7月19日(木) 「おはよう、そら」 彼女は笑顔だった。 うれしそうだったので、ぼくもうれしい。 『おはよう』の意味はわからないけど、きっと言うだけでうれしいんだろう。 「今日も元気に過ごそうねー」 肩に乗せてもらう。 「今日は終業式だったね。 明…
―AIR編― ・・・。 目ざめは・・・まぶしい。 ひかりの中にいた。 見上げれば・・・そら 真っ白にかがやくそら。 そこにはまだいけない・・・ じめん・・・ あつい・・・ やけるように・・・ どこにもまだいけない・・・ なら、もどらなければ・・・ だが、ど…
・・・ 四人で山頂を後にした。 駆け抜けるというわけにはいかなかった。 俺の傷が、にわかに痛みだした。 泥に身を浸しているような、じくじくとした鈍痛が背を這いまわる。 母君の具合も思わしくない。 俺や裏葉が助けを申し出ても、決して手を借りようと…
月光が、降りそそいでいた。 名もない森の隅々まで、淡い光が満ちていた。 俺は思い出していた。 蒸し暑い社殿の夜。 神奈がつぶやいた言葉。 ――『逢いたい・・・』 すべてはあの夜からはじまった。 あれからちょうど、一月が過ぎようとしていた。 霊峰高野…
社殿を脱出して、十日がたった。 あいかわらず、街道をさけて山中を進んでいた。 暑さは増すばかりだ。 まとまった雨もなく、飲み水を確保するのも一苦労だった。 日中に休息をとり、涼しくなってから月の入りまで行動するようにした。 それでも、旅は順調…
・・・・・・ ・・・ 俺が先頭をとり、濡れた下草を掻きわける。 すこしでも通りやすいよう草を左右に開き、ひたすら斜面を下る。 そのあとに神奈が続く。 後尾(しんがり)は裏葉が受け持った。 半刻ほど歩いただろうか。 足下が登り坂にかわった。 社殿があ…
―SUMMER編― ・・・。 空からなにかが降ってきた。 そう思った時には、もう避けようがなかった。 ・・・どすっ。 なにか重いものの下敷きになった。 俺は地面に倒れ、そのまま空を仰ぐ羽目になった。 「・・・痛てててっ」 「・・・おぬし、なぜそんなところ…
8月10日(木) 夜が明けて、朝になった。 空を見上げても、そこには星の光はなくて・・・。 どこまでも広がる、青い空だけが広がっていた・・・。 それは、とても美しい色をしていたけれど、とても悲しい色で・・・。 でも・・・それでも・・・。 ――『ね…
8月6日(日) 翌朝。 「・・・すいません・・・お米・・・焦げちゃいました」 遠野のすまなそうな声が、俺を起こしにきた。 「・・・炊き直しますので・・・もうしばらく待っていてください」 ぺこりと頭を垂れる。 「・・・・・・」 ずびっ。 「・・・?…
8月1日(火) ・・・そして翌日。 遠野は、駅前に姿を見せなかった。 一日中待っていたけれど、姿を見せなかった。 ・・・・・・。 「んにゅぅ~・・・美凪こないねぇ・・・」 一人シャボン玉の練習をしながら、みちるが寂しそうに呟く。 「あぁ~、もし…
7月29日(土) 朝。 いつものように夏の陽射しと空腹に目を覚ます。 あいかわらずセミの声。 今が朝なのか昼なのか、判断がつかない。 そんな時間。 微睡む時間が横たわっている。 ・・・・・・。 朝食の準備をする。 飯盒を火にかけて、しばらく放置。 …
7月26日(木) 駅での生活二日目の朝を迎えた。 目覚めと同時に耳の奥に響く蝉の鳴き声。 これはこれでなかなか辛い物がある。 憎々しいまでに青い空を見上げながら伸びをした。 歯を磨き、顔を洗って出かける準備を整える。 「さてと・・・」 まず向か…
~7月24日(月)の途中から~ 小さく息を吐いて、風に身をさらす。 変わらない潮の香りが、輪郭も持たずに辺りを漂っていた。 「さてと・・・」 肩の荷物を背負いなおして、海に背を向ける。 「・・・・・・」「!?」「・・・・・・」 き・・・気づかな…
―DREAM編 遠野美凪― ~7月21日(金)の途中から~ 赤から藍へと色を変え始めた空の下。 どこからともなく、小さなシャボン玉が漂ってきた。 「かわいい、にははっ」 観鈴はうれしそうに、漂ってきたシャボン玉に指先をのばす。 ふわ・・・。 「あれ?」 …
8月2日(水) 朝になっていた。 眠れなかった。 長い時間、俺は薄闇だけを見つめ続けた。 セミの鳴き声が聞こえだした。 ソファーの上で大きく伸びをしてから、一日を始めた。 ・・・・・・。 ・・・。 モップを取り出し、いつもそうしていたように床を磨…
7月30日(日) 目が覚めた。 地面がやけに柔らかい。 ソファーの上だと気づいた。 ブラインドの隙間から差し込む、真っ白な遮光。 コチコチという壁時計の音。 低く唸るクーラーの音。 霧島診療所の待合室だった。 「・・・・・・」 寝場所を借りたこと…
7月27日(木) ・・・・・・。 ばたっ。 人形が路上に倒れた。 「・・・・・・」 ばたっ。 俺も路上に倒れてみる。 頬が熱い。 首筋も熱い。 空っぽの腹も熱い。 このままでは行き倒れてしまいそうだった。 「・・・あ~っ、行き倒れだぁ。診療所まであ…
7月25日(火) 朝。 目覚めると同時に、透明な青空が視界を被った。 眩しい。 目を細めて、辺りを見回してみる。 ・・・・・・。 ・・・。 間違いない。 ここは、もう観鈴の家じゃない。 久しぶりに、一人きりの朝。 眼を擦りながら身を起こし、肺に空気…
~7月23日(日)の途中から~ ・・・。 俺は商店街の霧島診療所の中に入った。 「・・・涼しい」 エアコンの風が、そよそよと頬を撫でる。 (しかも楽ちんだ・・・) どかっと、窓際のソファに体を沈める。 (人形劇用のステージまであるぞ・・・) 脇の…
―DREAM編 霧島佳乃― ~7月20日(木)の途中から~ ――― ばっしゃ~~~~~~~~~~っ! ・・・・・・。 俺は辺りを見回した。 頭上には真っ青な空。 左右にはなだらかな緑の土手。 頭をさすると、大きなこぶがある。 そして、全身水浸しだった。 「何し…
7月27日(木) 目覚める。 ほこりっぽい天井があった。 昨夜は納屋で寝ることにしたんだった。 何となく、家に戻りづらかったせいだ。 相変わらず朝からセミの音がうるさい。 観鈴はちゃんと眠っているだろうか。 上体を起こす。 言葉を思い出した。 ――『…
7月24日(月) ・・・ 「もしかしたら、わたし、昔は空を飛べたのかなぁ。ずっと、この空にいるの」 いつもの通学路で、観鈴はそう言った。 「おまえはいつも能天気だな。もしかしたら、夕べも夢を見たのか?」「見たよ。 すごく気持ちよく飛んでた」 ・…
7月23日(日) ――「おはよーっ」 大量の洗濯物が、寝ぼけ眼をこする俺に向けて、挨拶をした。 それはそのままぱたぱたと駆けていった。 ・・・観鈴だった。 (そういえば、今日は日曜だったな・・・) 一週間、溜まりに溜まった洗濯物を朝のうちに片づけ…
7月22日(土) 翌朝。 いつものように、俺と観鈴は肩を並べて学校を目指す。 だが、この日は他に寄るところがあった。 女の子の家の前で、俺と観鈴は待っていた。 「時間、大丈夫か」「うん、もうちょっとだけ」 観鈴はずっと、ナマケモノのぬいぐるみを…
7月21日(金)目覚めると、眼前に猿の顔があった。 「おわっ・・・・・・と、おまえか」 ナマケモノのぬいぐるみだった。 夕べの晴子とのやり取りを思い出して、朝っぱらからブルーが入る。 「俺はこいつを買い取るために、金を稼がねばならないのか・・…
7月20日(木) ・・・。 目覚めは健やか。 案外、納屋のような窮屈なところのほうが寝慣れているのかもしれない。 「ふんっ」 俺は道ばたで、朝の体操を始める。 野宿が続いていた頃は、こういう習慣があったのを思い出す。 そして、目の前に置いてあった…
7月19日(水) 「・・・・・・」 寝起きはいつになく最悪だった。 「頭が痛い・・・」 少しでも動かすと、がんがんする。 「二日酔いとかいうやつか・・・。 このまま寝てよう・・・」 「わーっ!」 がんがんがん! 叫び声が頭に響く・・・。 (・・・一…