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ゲームまるごと文字起こし

探偵 神宮寺三郎 白い影の少女【1】

 

 

 当ブログは、私個人の趣味でゲームを"ほぼ全文"文字起こししています。

ローマ字入力・かな入力・親指シフト等、タイピング練習も兼ねています。

※誤字・脱字が多々あるかと思われます。 【○少女 ✕処女 etc...】

最初の頃は頑張ってひとりで校正をしていましたが、横着な性格のせいで挫折。

その時間をゲームに充てたいので止めました。(開き直り)

これは趣味であって、お金貰ってるライターさんのお仕事とかじゃないのだぜ!

もし、このブログ?を読んで面白いと思った方は、そのゲームを購入してプレイしましょう。

ゲームは自分でやった方が楽しいよね!

 

 

 

 

 

 

 

探偵 神宮寺三郎 -白い女-

 

 

 

 

哲司・・・


まさかこんな形で再会するとはな・・・

 

辺りには焼香の匂いが立ち込め、深い哀しみを伴った重苦しい空気が
胸を締めつけている。


俺は坊主の読経に耳を傾けながら、旧友の写真を見つめていた。


仕事もなく退屈に過ごす俺に、この突然の訃報が飛び込んで来たのは、
つい今朝の事だった。

 

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・・・
彼の名前は大河原哲司。


学生時代を共に過ごした旧友だ。


礼儀正しく、優しく・・・大らかで・・・どこか儚げでもある・・・
大切な友だった。

 

 

『また、二人で飲み明かそう・・・』

 

 

別れた時の約束は、果たされる事はなかった。


俺は家を出て海を渡り、哲司は家を継ぐために
それぞれ違う道を選んだ・・・。


そうやって俺達は疎遠になったまま今に至った。

 


安らかに眠ってくれ・・・
今の俺にはそう願う事しか出来ない。

 

-3月11日 大河原家告別式会場-

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探偵を始めて随分いろんな事件に関わってきた。


殺人事件など人の死をいろいろ見てきたが、
身近な人や友人の死はまた違った感情が込み上げてくる。

 

 

「先生、大丈夫ですか・・・」
「ああ、大丈夫だ・・・」
「・・・」

 

 

彼女は御苑 洋子(みその ようこ)。


神宮寺探偵事務所では唯一の従業員である。


彼女は長期に渡って俺の助手を務めてくれている。


そのせいもあってか、今日は俺の友人の葬式に同伴してくれた。

 

 

・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・

 

 

長くも短い告別式が終わりを告げた・・・。


周囲は次第に慌しい空間が広がり始めた。

 

 

「・・・・・・」
「・・・・・・ん?」

 

あの女性は・・・。


俺はふてくされた顔でこの会場から出て行く女性に目がとまった。


年は20代後半といったところか・・・。


随分、懐かしく感じるが・・・。


誰だったかな・・・?

 

 


・・・・・・

 

「先生、どうしました?」
「いや、何でもない」

 

駄目だ、どうしても思い出せない・・・。


まあ、いい・・・。

 

「洋子君、帰ろうか・・・」
「はい・・・」

 

俺が告別式会場を出ようとした時、
一人の女性が俺に声を掛けてきた。

 

 

「神宮寺さんでいらっしゃいますね?」

 

 

たしか告別式で泣き続けていた女性だ。


そして、目立つ席に座っていた事から考えて・・・。

 

 

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「あなたは・・・哲司のお母さんですね」
「えっ? よくご存じで・・・」
「・・・いえ、考えれば容易にわかる事です」
「・・・そうですか。
本日は息子のためにありがとうございます。
私は哲司の母親の静江と言います」

 

俺は哲司の母親に声を掛けられた事に思わず驚いた。


驚いたのは唐突だったからではない。


彼女が俺を知っていたという事にだ。


俺と哲司は大学で一緒だったが、母親とは会った事はなかった。

 

「どうかなさいましたか?」
「いえ、何でもありません。

この度はご愁傷様です。私は神宮寺三郎です。
彼女は助手の・・・」

 

 

「御苑洋子です。はじめまして・・・」

 


「どうも、はじめまして」

「仕事場からそのまま駆けつけましたので・・・」
「それは、お忙しいところを・・・
立ち話もなんですので、こちらへおいで下さい」
「いえ、今日はお忙しいでしょう・・・
邪魔にならぬようこれで失礼します」
「いえいえ、構いませんので。 どうぞ、どうぞ」

 

 

少々強引に勧める静江に連れられ、
俺と洋子君は大河原家の廊下へと向かった。


静江に招かれ応接室へ

 

 

・・・


「さぁ、こちらにお座り下さい」

 

静江の話とは一体、何なのだろう?


わざわざ、こうして応接室まで連れてこられた事が気になるな・・・。


静江は時折、ハンカチで目元を押さえている。


取り乱した様子は全く見せないが、その胸にある悲しみは相当に深いものだろう。

 

 

「今、お茶を持ってこさせますので少々お待ち下さい」
「いえ、お構いなく」
「春菜、春菜」

 

 

静江がパンパンと手を叩くと、
しばらくしてメイド姿の若い女性がしずしずと入ってきた。

 

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「奥様、お呼びでございましょうか」
「お客様にお茶を。神宮寺さん、何かご希望は?」
「何でも結構です」

 

さすがに俺も、ここでコーヒーを要求するほど厚かましくはない。


静江が目で合図すると、メイドは辞儀をして去っていった。


大河原ほどの家ともなると、ああいった専用のメイドを雇うようだ。

 

・・・少し実家を思い出させられるな。

 

 

「突然の事で驚かれたでしょう」
「ええ、しばらく連絡もとっていませんでしたから。

新聞の記載を見て気付いたのですが、最初は目を疑いました」
「そうでしたか・・・
こちらから連絡ができず申し訳なかったですわね。
なにぶん連絡先が哲司にしか分からなかったものでして・・・」
「いえ、こうして告別式にも間に合いましたから・・・」

 

 

哲司の事を話す時になると、静江は何とも複雑な顔をする。


それは怒りのようでもあり、懐かしんでいるようにも見える。


そういった、やり切れない思いを人は哀しみと言うのだろう。

 

 

「失礼いたします。お茶をお持ちしました」

 

 

話が一段落したところで先ほどのメイドが入ってきた。

 

 

「奥様・・・」

 

 

メイドは静江に小耳で耳打ちをした。

 

 

「神宮寺さん、申し訳ありませんが少しお待ちいただけますか?」
「いえ、もうお暇しますので」
「いえ・・・。

実は神宮寺さんにお話があってお呼び止めしたのです。
すぐ戻りますのでここでお待ちください」

 

 

静江はそう言うと、部屋を出ていった。

 

 

「奥様は、すぐお戻りになられますので・・・。
何かご用件がありましたらお呼びください」

 

 

メイドも丁寧に辞儀をするとまた静かに去っていった。

 

 

「できれば長居はしたくなかったんだがな・・・」
「先生、そう言わずに・・・静江さんも寂しいのですよ」
「そうか・・・」

 

 

俺はため息をつき、静江の帰りを待つ事にした。


しかし・・・応接室といっても、俺の事務所の応接室とは大違いだな・・・。


一介の探偵事務所と由緒ある名家を比べても仕方ないかもしれんが。


明るい陽射しに照らされた部屋は調度品は豪華でありながら、
どこか落ち着いた雰囲気がある。


よく見る成金趣味が剥き出しの場所とは大違いだ。

 

 

「哲司の母親が俺に一体、何の用だろう?」
「哲司さんの思い出話をなさりたいのでは?
哲司さんのご友人である先生と・・・」
「そうかもしれんが・・・その相手に他の客を差し置いてまで、
わざわざ俺を選んだ事が気になるな・・・」
「・・・では、何か他に理由が?」
「それはわからんが・・・」

 

 

彩り豊かでありながらも上品さを併せ持った壁紙。


程良い色加減の照明も客を落ち着かせる。

 

 

「しかし、さっきのメイドといい、
こういった家の人間はどうも格式張っていて一緒にいると息がつまるな」
「・・・そうですね。
でも、あの方達もいつもああいった感じではないと思いますよ?」
「多分そうなんだろうがな・・・」

 

 

あえて言葉にするなら歴史と格式。


そんな雰囲気がある家だ。


哲司はこの家をどう思っていたのだろうか・・・。

 

洋子君の言う通り静江は哲司の昔話をしたいだけなのかもしれないが・・・。


しかし、それだけではないという気がどうもしてならんな・・・。


俺の勘は困った事にこういった方面では滅法当たるのだが・・・。

 

 

・・・

 

・・・・・・

 

 

「しかし、俺達はどのくらい待てばいいんだろうか」
「・・・・・・静江さんは、これからも忙しそうですしね」
「最悪、夜まで待ち続ける事もありえそうだな」

 

 

 

 

・・・・・・・・・!!

 

 

 

「・・・・・・ん?」
「どうしました? 先生?」
「何か声が聞こえないか?」
「・・・?」

 

 

 

・・・・・・うぅ・・・・・・うぅ・・・・・・

 

 

 

「ええ、廊下の方から聞こえますね」

 

この声は女性の泣き声か・・・?


どうやら廊下に誰かいるようだな・・・。

 

「見に行ってみるか・・・」
「・・・でも、勝手に動くのはよくないのでは・・・?」
「ハハ、洋子君もこの屋敷の雰囲気に飲まれているようだな」
「・・・・・・?」

 

俺達は女性の泣き声が聞こえてくる廊下へと向かった。

 

俺と洋子君は応接室を出て
廊下へとやって来た。


廊下には泣きはらした美しい女性と高齢で体つきのいい男性がいた。


男性の方は年齢は60代くらいだろうか・・・・・・。


いや、むしろ静江と近い年齢のように感じる。


女性の方は30歳前後といった所か・・・。

 

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「礼子さん、あまり思い詰めない方がいい」
「うっ、うっ・・・」
「哲司・・・ワシらと礼子さんを置いて先に逝ってしまって・・・。

残されたワシらは・・・全く・・・」
「うっ、うっ・・・」

 

 

二人は気付くと立ち止まり、丁寧に会釈をした。

 

 

「二人は哲司さんの祖父と妻でしょうか・・・」
「いや、父親と妻だろう。男性の方は祖父にしては年齢が若い。
女性の方は哲司の奥さんで間違いはないと思うが・・・」
「そう言われればそうですね。
先生のおっしゃるとおり、哲司さんの父親と奥さんの可能性が高そうです。
私もまだまだです・・・」

 

 

・・・

 

「・・・・・・この度は、ご愁傷様です。哲司のお父さんで?」
「おお・・・・・・どうも。以前、どこかで会ったかの?」
「いえ、仕事柄、人を観察する事は得意でして・・・・・・」
「そうか・・・すごいな。

わしは大河原 哲三(おおかわら てつぞう)だ」
神宮寺三郎です。哲司とは大学時代からの友人でした。
こちらが助手の・・・・・・」

 


「御苑洋子です」

 


「なるほど、探偵さん・・・・・・か?」
「ええ、ご名答です」
「おお、そうか、そうか。彼女は哲司の妻の・・・・・・」

 


「はじめまして、礼子です」

 

 

哲司の妻、玲子さんは目を赤く腫らして泣いている。

 

 

「玲子さん、どうか気を落とさずに」
「ええ、ありがとうございます。すみません・・・・・・」
「しかし、神宮寺さんよ。うちに何か用があるのかい?」

 


「ええ、静江さんに応接室で待つように言われて・・・・・・」
「うむ、そうなのか・・・」
「・・・・・・・・・」

 

 

泣きはらす礼子を前にして、哲三はひたすら困り顔だ。


哲三も哀しくはあるだろうが、目の前でこれだけ泣かれては、涙も引いてしまうだろう。

 

 

「あの・・・お義母様が何か?」
「いや、詳しくはわかりません・・・」
「恐らく先生と哲司さんの昔話などをなさりたいのではないかと思います・・・」

 


「確か哲司の大学時代のご友人でしたな」
「ええ、おかげで楽しい学生生活を送れました」
「そうか・・・しかし・・・申し訳ないですな。
ゆっくりお話でも出来れば良いのじゃが、礼子さんがこの有様だからのぉ。
あいにく、皆出払っておるが、もう戻って来る頃じゃろう。
今、お茶を・・・」
「いえ、お構いなく。静江さんに待つように言われているだけですし、
お茶ももういただきました」
「そうか・・・静江も、もう戻ってるはずだから、
見かけたら声を掛けておく・・・」
「・・・ええ、お願いします」
「何かあれば遠慮なく使用人に言ってくれ」
「ええ、どうも、ご親切に」

 


「では礼子さん、行こうか・・・」
「はい・・・では・・・」


二人はそう言うと沈みきった廊下の奥へと消えていった。

 

「では、洋子君、戻るとするか・・・」
「そうですね・・・」

 

 

・・・・・・!!

 

 

「あら・・・・・・神宮寺さん」
「どうも、静江さん。お戻りになったんですね」
「ええ、すみません。大変お待たせいたしました。
しかし、ここで何を・・・?」
「ええ、哲三さんと礼子さんと少し立ち話をしていました」
「そうですか。礼子さんはあの調子でしてね。
お客様の相手ぐらいはできれば良いのですけど」
「・・・それは仕方のない事です。
気持ちに整理をつけるまでは時間がかかるでしょう」
「そうですね・・・では、神宮寺さん。
応接室へ戻りましょう・・・」

 

 

俺と洋子君は再び静江の後を追って応接室へと向かった。

 

 

「さぁ、お座りになって下さい」
「どうも・・・」

 

 

俺がふと顔を上げると、静江はとても息子を失ったばかりの母親とは思えないような、凛とした女性に姿を変えていた・・・。

 

「ところで神宮寺さんは探偵をなさっているようですが・・・。

今はお仕事の方は・・・」
「・・・? どこで、それを?」
「ええ、息子から話を聞いておりました」
「そうでしたか・・・お恥ずかしい話ですが・・・最近は暇なものです」
「そうですか・・・」
「ところで、お話というのは・・・?」
「あ、そうでしたわね・・・そういえばここに戻るまでに思い出した事があるんです。
高校生の夏の時、哲司ったら・・・」

 

 

 

・・・

 

静江は明らかに話をそらしているな・・・。


・・・何かしら、探偵の俺に依頼があると考えた方が自然だろう・・・。


まあ、これは俺の経験上の推測でしかないが・・・。

 

 

「静江さんは、悲しみを紛らわす話し相手が欲しいんですね・・・」
「そうだろうか・・・」
「・・・?」

 

 

「神宮寺さん、聞いてます?高校生の時にねぇ、哲司は・・・」
「早速、本題に入ってもらっても構わないですよ」

 

 

洋子君は俺の意外な言葉に戸惑いの表情を浮かべている。


さすがの洋子君も静江の目的は見えていなかったようだ。

 

 

「さすが探偵を職業としているだけありますね・・・」

 

 

やはり静江の目的は哲司の昔話ではなく別の事のようだ・・・。


・・・覚悟を決めた者特有の顔をしている。

 

「実は神宮寺さんに折り入ってお願いがあるのです」
「それは探偵としての俺にですか?」
「いえ、哲司の友人である神宮寺さんにです」
「なるほど・・・」
「神宮寺さんにお願いしたいのは・・・」

 

 

そう言って静江は懐から小さな包みを取り出してテーブルに置いた。

 


「これは・・・?」
「息子の形見です。『佐藤亜季』という女性にこれを渡して欲しいのです」
「佐藤亜季・・・」

 

 

佐藤亜希・・・随分、懐かしい名前だな。


俺は驚きを悟られないように、注意深く平静を装った。

 

 

「もう少し詳しくお訊きしてもよろしいですか?」
「息子が学生時代に付き合っていた女性です」
「神宮寺さんならご存知ではないかと思いますが」
「ええ、確かに。

・・・ですが、今は連絡先もわかりません」
「そうですか・・・では、この女性を探して下さい」
「・・・他には?」
「それだけです」
「・・・では、一つお訊きしたいのですが、なぜ彼女に形見を?」
「・・・・・・・」

 

 

静江は顔を曇らせ、続けて遠い目をした。

 

「罪滅ぼしとでも言うんでしょうかね・・・一時とはいえ息子が愛した女性ですからね。

せめて形見の一つぐらいは届けてやりたいという親心ですよ。
ふふ、親馬鹿と笑ってください」

 

 

俺は相づちをうちながら、冷静に静江の様子を観察した。


罪滅ぼしとは一体どういう意味なのか。

 

 

「突然こんな事を聞くと失礼かもしれませんが・・・・・・
哲司の結婚相手はお見合いか何かで?」
「ええ、そうです」

 

 

しかし、そのお見合いをした時には
哲司はまだ亜希と付き合っていたのだろう・・・。

 

 

「その時まだ、哲司さんと亜希さんは仲がよかったのですか?」
「・・・洋子くん、仲がよかっただけでは言葉が足りないな・・・」
「・・・・・・?」
「哲司は亜季とまだ付き合っていたんだろう」
「・・・なるほど」

 

 

「ああ・・・・・・静江さん、哲司がお見合いした時には亜樹と哲司はまだ付き合っていた・・・という事ですね」
「ふふふ・・・かないませんね、さすがです」

 

 

俺は亜季とは哲司を通して知り合っただけだが・・・。


二人の事はよく知っている。


もちろん二人の関係もだ。


俺から見ても二人はとても仲睦まじい恋人だった。


だが結果として哲司は亜季と別れ、結婚相手として礼子を選んだ事になる。


俺としては信じ難い事だ・・・親が決めたという事なのだろう。


遺品を残している事からどうも俺には哲司が佐藤亜季に未練があったようにしか思えないのだが・・・。

 

 


・・・という事は・・・。

 

 

 

「二人を別れさせたのですね?」
「直接手を下したという訳ではありませんが、そうなりますね」
「それで罪滅ぼし・・・と」
「それより、私のお願いは聞き入れていただけるのでしょうか?」

 

 

どこか、うさん臭さを感じる話ではあるな・・・。


この静江にとっては、哲司の昔の恋人など今さら関わり合いにならない方がいいはずだ。


それをわざわざ探してくれというのだから、何か裏があるのかもしれない。


それとも静江の言う『罪滅ぼし』というのが、それほどに大きなものなのだろうか。


これまで俺が受けてきた依頼とは少々おもむきが異なる話だ。


・・・依頼を受けるか、受けないか。


・・・。

 

・・・哲司のためだ、受けることにしよう・・・。

 

 

「・・・わかりました。

哲司のためにもやりましょう」
「ありがとうございます。哲司も喜んでくれる事でしょう」
「早速ですが、佐藤亜希の居場所はわからないんですね?」
「古い住所ならわかりますが、今は住んでいるかどうか・・・」
「その住所だけでも教えていただけますか?」
「ええ、中野の辺りで、詳しい住所はこちらになります」
「では、明日からでも調べてみます」
「良い結果を期待しています」
「あと、最後に・・・」
「・・・?」
「哲司の病気は・・・?」
白血病です。元から病弱な子でしたけど、最期は見る影もなくなって・・・」
「そうですか・・・」

 

 

知らぬ間に旧友が苦しんで死んでいったと思うと、言い様のない悲しみが俺を支配した・・・。

 

 

「ああ、それから、これは私の個人的な依頼ですので、報告は私に直接お願いいたします。
主人や礼子さんには折りを見て私の方から話しますので」
「わかりました」

 

 

 

・・・・・・!!

 

 

 

「・・・ん?」
「れ、礼子さん・・・」

 


「すみません、立ち聞きするつもりはなかったんですが・・・」

「いえ、いいのよ・・・いずれ話そうと思っていましたから・・・それより、もう大丈夫なの?」
「ええ、おかげさまで・・・」
「喪服では気分が沈んでしまうので私服に着替えました・・・」
「そう・・・」
「・・・お義母様。差し出がましいとは思いますが、報告役として、メイドの春菜を神宮寺さんの元に置いてもらってはどうです?

お義母様は、まだこれからも忙しくなりそうですし・・・」

 


「・・・・・・こちらの側の意見としてはその提案はお断りします」

 


「・・・・・・」
「でも・・・」
「そうね・・・礼子さんの言うとおり、春菜を置いてもらえないでしょうか?」

 

・・・・・・やれやれ。

 

「先生、困ったことになりましたね・・・」

 


「・・・依頼人のあなたが言うなら仕方がありません・・・」
「では、神宮寺さんの元に春菜を置いてやってください。
何か新しい進展や困った事態になりましたら、私に報告してください」
「・・・・・・わかりました」
「では、よろしくお願いします」
「・・・・・・・」

 

 

・・・

 

「先生、早速、事務所へ戻って今後の調査に備えましょう」

 

 

ようやく帰ることができそうだが、厄介な事になった・・・。

 

事務所に戻ったら俺の大学時代の資料を見て、佐藤亜希についてよく思い出す必要があるな・・・。

 

 

「では失礼します」
「・・・はい、よろしくお願いします」

 

 

解放感に浸りながら、俺と洋子君は廊下に出て来た。

 

 

「ようやく帰れるな・・・」
「そうですね、少し疲れてしまいましたね」
「全くだ・・・」

 

 

俺達は広い廊下を歩いて大河原家を出た。


複雑な想いだった。

 

 

・・・

 

・・・・・・

 

「・・・・・・」
「先生、どうかしました?」
「いや、何でもない・・・」
「そうですか・・・」

 

・・・・・・

 

「すみません」
「・・・・・・ん?」
「神宮寺さんですね」
「ああ、君は・・・・・・」
「メイドの春菜です」
「ああ、そうだった。お茶を出してくれた子だったな・・・
実は、君は明日から・・・」
「はい、話は聞いてます。
ですから、一言挨拶したくて・・・」
「ああ、そうだったのか・・・」
「明日からよろしくお願いします」
「ああ・・・よろしく」
「では、明日の朝一番に神宮寺さんの事務所でよろしいですね」
「ああ、わかった・・・」
「では、失礼しました」

 

 

 

・・・・・・・

 

「洋子君は彼女の事はどう思う?」
「はい、礼儀正しくて、いい子だと思いますよ」
「まあ、確かにそうだな・・・それほど気にする事でもないかもしれんな・・・
事務所に戻るとするか」
「はい」

 

 

 

 

・・・

 

・・・・・・

 

俺と洋子君は事務所前にようやく戻って来た。


歌舞伎町の一角にあるにも関わらずこの辺りはどこか寂れたような雰囲気が漂っている。


もっとも、この雰囲気を気に入って俺はここに事務所を構えたのだが・・・。

 

 

「私達がここに移ってからどれくらいが経つんでしょうね?
まるで、もうずっといるような気がしますが・・・」
「そうだな・・・一旦馴染んでしまうと時が経つのは早いな」

 

我が家か・・・。

 

どうもこのビルにはそんな響きは似つかわしくないが・・・。


俺にとって、ここがそうである事は間違いのない事実だ。


疲れた身体を引きずって事務所の中へと入った。

 

事務所に戻って一息つくと、俺は急に疲れに襲われた。

 

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「はぁ・・・・・・」
「先生、コーヒーを入れましょうか?」
「いや、大丈夫だ。洋子君も疲れただろう? 一息ついたらどうだ?」
「そうですね・・・では、お言葉に甘えて・・・」

 

 

・・・

 

俺は煙草に火を付けた。

 


やれやれ・・・今日は疲れたな・・・。


もう休みたいところだが・・・。


そうも言ってられんか・・・。

 

 

この神宮寺探偵事務所が俺の仕事場であり住処だ。


疲れている時ほど、ここに戻って来ると落ち着きを感じる。

 

 

・・・

「先生、今日はお疲れ様でした」
「・・・洋子君の方こそ、お疲れさん・・・。
しかし、すまなかったな、俺の私用につき合わせてしまって・・・」
「いえ、いいんですよ。

先生には、やはり私が付いていないと心配ですから」
「ハハ、そうか。

しかし、葬式は何度出ても疲れるな。
出来ればいろんな意味で出たくないものだな」
「そうですね、そういえば亡くなった哲司さんというのはどういう方だったのですか?」
「ああ、そうだな・・・」

 

俺はゆったりと椅子に腰掛け、哲司の事を思い出した。

 

 

「大学時代の友人で、体は弱かったが、頭が良くていい奴だった」
「ひょっとして、先生の悪友という感じですか?」
「・・・そうかもしれないな。あいつとはよく遊んだよ」
「先生が学生時代にどんな遊びをなさっていたのか気になりますね。
先生がハメを外すところなんて見た事がありませんけど・・・」
「ハハ、俺だってあの頃は普通の大学生だよ。
大学生の男がする遊びなんて貧乏学生だろうが、金持ちだろうが、そうは変わらないものだ。

親が聞けば眉をひそめるような遊びばかりさ。
もっともその親も、学生時代にはきっと同じような遊びをしていただろうが・・・」
「大人になればなるほど、そういう昔の事を忘れてしまうものですね。

でも先生は子供の心をずっと持ってらっしゃる方だと思いますよ」
「それは洋子君から見ると俺はまだまだ子供っぽいという事か?」
「フフ、子供心と子供っぽさは全く別物ですよ」
「哲司とは気が合ったからな。

しばらく疎遠になってたのが不思議なくらいだよ」
「何か理由でもあったんですか?」
「いや、俺が海外に行ったりして、いつの間にか・・・な」
「哲司さんとは立場が似ていて共感したんじゃありませんか?
先生もご実家はお屋敷ですし、自分と近しいものを感じたのでは?」
「・・・そうかもしれないな。

だが、俺は三男だったし実家に関わる気など無かったが、アイツはひとり息子だからな。
アイツの性格からしても家を継がない訳にはいかなかっただろうな・・・。
愚痴など言う奴じゃなかったが、将来の事はかなり悩んでいたようだった・・・」
「結局は実家を継がれたんですよね?」
「ああ、そうなるな・・・」
「哲司さんの結婚式には出席されなかったんですか?」
「俺はそのときアメリカだ。

実家とも疎遠だったから知らなかったんだ」
「それでしばらく連絡も取っていなかったんですね」
「卒業してからは全く別々の道に進んでいたからな・・・」
「どうやってお知り合いになったんですか?」
「ん・・・そうだな、ゼミが一緒だったのか・・・いや違うな、もっと前か・・・」

 

・・・

俺はあやふやな記憶を必死に巻き戻し、哲司と初めて会った時の事を思い出した。


大学時代を思い出すなんてのは何年ぶりだろう。

 

 

「そうだ、同じ講義を聴いてたんだな。受講生が10人もいないような人気のない講義だったんだが、先生が面白くてね。俺も哲司もその先生の話を聞くために毎週欠かさず出てたよ」
「フフ、先生も普通に大学の講義を受けてらしたんですね」
「・・・そういう事だな。たまたまアイツが一回休んだ時、先週どんな話をしたんだって、俺に訊いてきたんだ。それがきっかけで・・・」

 

・・・

ふと俺は唐突に思いだした。


あの時、哲司が抗議を休んだのはおそらく病院に行っていたからだろうな。


哲司は当時から病弱だった。


ひょっとしたらすでに病を患っていたのかもしれない。


あの頃の俺は、哲司が死んでしまうなど考えた事もなかった。


考えていたからといって、哲司の死を止められた訳でもないのだが・・・

 

 

「・・・・・・」
「先生、どうかなさったんですか?」
「・・・ああ、なんでもない」

 

俺は嫌な想いを振り払うように、余計な事を考えるのをやめた。

 

 

「先生・・・」
「ん? 何だ?」
「私、この喪服を着替えたいんですけど・・・」
「ああ、そうだな。俺の書斎を使ってくれ・・・
散らかっているかもしれんが、そこは我慢してくれ」
「フフ、わかりました。では、書斎をお借りします」

 

 

 

・・・今日の依頼の事を考えてみるか。


・・・・・・佐藤亜希。


まずは彼女に会わなくては話にならないな・・・。


しかし・・・静江から貰った住所に、亜希が今も住んでいるという可能性には期待しない方がいいだろう。


彼女を探すために他にも何か手掛かりがあればいいんだが・・・。

 

 

「先生・・・」

 

 

・・・ん?

 

洋子君が呼んでいるようだ。


・・・書斎で何かあったのか?

 

俺が書斎に入ると、私服に着替えたせいか元気を取り戻したように、意欲に満ちた洋子君がいた。

 

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「どうした? 洋子君・・・」
「先生、この書斎には先生の学生時代の物などはないのでしょうか?」
「・・・ああ、もしかしたらあるかもしれんな・・・」

 

 

当時の事を確実に記憶していて、手掛かりになる物といえば何がいいだろうか・・・。

 

 

「・・・大学時代の写真だな」
「そうですね、

佐藤亜希さんの写真があれば聞き込みも効率よく出来ますし。

さすが、先生です。
・・・では、早速、佐藤亜希さんについて調べてみましょう」

 

やれやれ・・・。

 

洋子君の闘志に火がついてしまったようだ。


ここには俺が今まで携わった調査の資料が置かれている。

 

 

「さぁ先生、捜索しましょう」
「ああ。
しかし・・・写真はどこに置いたんだったか・・・」

 

 

本棚には本が隙間なく並べられている。


改めて見るとかなりの冊数だな・・・。


1冊1冊調べるのはちょっと勘弁しておきたいところだ。


とりあえずアルバムの類はここにはないようだな。

 

机を調べる・・・。


いつもの事ながらファイルや本が散乱している・・・。


ざっと見たところ亜季の写真はないようだ。

 

床を調べた。


ホコリ以外のものは特に落ちていないように見えるが・・・。

 

別の本棚を調べた・・・。


ファイルや本が乱雑に並べられている。


改めて見ると分類もロクにされてないな・・・。


アルバムの類は・・・ここにはないようだな。

 

キャビネットの一段目を調べた・・・。


中にはペンケースや電卓などがごちゃ混ぜになって入れられている。


いかにも適当に突っ込んだという感じだな・・・。


入れた本人であるはずの俺がここに何があるんだかさっぱりわからん・・・。

 

二段目を調べた・・・。

 

書類などが乱雑に詰め込まれている。


写真は・・・ここから見た限りではないように見えるが・・・。

 

三段目を調べた・・・。


ここにあるのは手紙の類だな・・・。


封筒の中をいちいちのぞいていくのは・・・まだ今の段階ではいいだろう。

 

四段目を調べようとたが、鍵がかかっている。


ここには何が入っていたんだったか?


えぇと、鍵は・・・。

 

確かどこかに隠したんだと思ったが・・・。


肝心の隠し場所を忘れてしまった。


まいったな、この部屋にある事は確かだと思うが・・・。

 


一通り部屋は見たつもりだが、亜季の写真はどこにあるのやら・・・。


もっと細かく探した方がいいのかもしれないな。

 

キャビネットをもう一度調べた。


引っかき回すようにして調べたが、特には何も見つからなかった。

 

ボードを調べた。


住所録や券など、細々とした物がボードに貼り出されている。


亜季の写真は・・・見たところないな。

 

・・・

俺は机の上に置かれているファイルや本をめくって中を丹念に調べた。

 

しかし、そこには特に何も見当たらなかった。

 

本棚を1冊1冊棚から取り出して中を調べた。

 


・・・


・・・・・・

 

だんだんと自分が途方もない作業をしているような気分に駆られてきた。

 

 

・・・ん?


待てよ・・・これは・・・。


そうだ・・・。

 

俺は確かここに引き出しの鍵を・・・。


やはり、そうだ・・・これで間違いない。


ずいぶんと長い間ここに放置していたからな、忘れるのも無理はない。


・・・まあ、隠した本人が忘れるというのはどうか、という気がしなくもないが。

 

俺は見つけた鍵を使って引き出しを開けた。

 

 


・・・これは、懐かしい物ばかりだな。


そう言えば、ここには想い出の品を置くようにしていたんだった。

 


ん・・・?


この表紙はもしかして・・・。

 

やはり大学時代のアルバムだ。


となると、ここに・・・。


あった。

 

亜季の写真だ。

 

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やれやれ・・・ようやく探し出せたな。


しかし、写真一枚探すのにこれだれかかるとは。


・・・やはり普段から整理整頓はしておくべきだな。

 

さて、目的を無事達成できたわけだ。


この写真があれば調査もスムーズに進みそうだ。

 

 

 

「では、先生、早速聞き込みに行きましょう」

 

やれやれ、洋子君は元気だな・・・。

 

「すまない、今日はもう休ませてくれ。
日も暮れてきたし、調査は明日からだ・・・」
「わかりました」
「・・・とりあえず、仕事場に戻ろうか?」
「ええ、そうですね。
そういえば、先生も着替えたらいかがですか?」
「ああ、そうだな。
じゃあ、俺は着替えてから行くよ・・・」
「わかりました。コーヒーを入れておきますね」
「ああ、ありがとう・・・」

 

 

 

・・・

 

・・・・・・

 

俺がふと窓を見ると、外は次第に闇が広がって来た。


長く感じた今日もようやく終わりを告げるようだ・・・。

 

 

・・・。