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探偵 神宮寺三郎 白い影の少女【4】


・・・。

 

「神宮寺さん、哲司様の部屋はこの廊下から行けます!
さぁ、行きましょう」
「ああ・・・」


俺は新たな手掛かりを求め、哲司の部屋へと向かった。

 


・・・


・・・・・・


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インテリアも持ち物も、品があって落ち着く造りだ。


だが、それは個性のなさと紙一重で、どこか面白みのないものに思えた。


無理に個性を抑えているような印象さえ受ける。


それが、抑圧されてきた哲司の人生を象徴するかのようで、俺は複雑な思いがした。



・・・
感傷に浸っていても仕方ない。


今はやるべき事をやるだけだ・・・。


早速、哲司の部屋を調べよう。


亜希に関する手掛かりが何かしら得られるといいんだが・・・。



「早速、調査です!」
「ああ、わかっている」


派手な調度品はなく、全体的に落ち着いた感じのする部屋だ。


恐らく今も掃除だけはきちんとされているのだろう。


辺りにはホコリ一つない。


さて、哲司の部屋を捜索させてもらうか。


本棚は専門書が主だな。


法律や経営学の本に混じって医学書が何冊か置かれている。


・・・あいつなりに病気の事をいろいろと調べていたんだろうか。


壁に掛けられた絵は、大空を何羽もの鳥が舞っている様が描かれている。


淡いタッチが何とも美しいな・・・。


哲司でなくとも、この絵を気に入る人間は多いだろう。


机の上は、恐らく哲司が生きていた時のままになっているのだろう。


ペンや書類がいかにも作業のやりかけといった状態で残されている。


俺はやや胸の痛むものを感じながら、机の上の写真や書類を調べた。



・・・
だが、亜希に関係しそうな物は特に見当たらなかった。


机の引き出しの一段目には、文房具類が整然と並べられた状態で入っている。


俺の机とは大違いだ。


二段目には書類などが主に収められているようだ。


ん・・・?


これは、日記帳だな・・・。


かなり使い古されている感じだ。


哲司は普段からこれに日記を書き込んでいたんだろう。


俺は日記をめくってみた。


・・・ここ1年くらいの出来事が書かれているようだ。


哲司の病気に関する事が大体だが、亜希の名前も出てきている。


・・・付き合っていた時の思い出ばかりだな。


今の亜希に関係しそうな事は何も書かれていない。


だが、死ぬ間際まで、哲司が亜希を思い続けていた事はよくわかる。


・・・どうして二人は別れてしまったんだろうな。


三段目には主にファイルケースがしまわれているようだ。


タイトルを見る限り、仕事関係のものばかりだな。


プライベートなものは一切ないようだ。


この近辺にはどうやら佐藤亜希に関する手掛かりはないようだ。



部屋の反対側を調べてみるか。


窓からは庭が一望できる。


都会にあるとは思えない程、広々とした庭だ。


キャビネットにはCDや本などがしまわれているようだ。



ん・・・?



これは・・・昔、哲司が好きだと言っていた本だ。


あいつ、まだこれを大事に持っていたのか・・・。



・・・

飾られた絵を調べた。


鳥が大空を生き生きと飛んでいる様が描かれている。


そう言えば、哲司は鳥がうらやましいとよく言っていたな・・・。


あれは自分の境遇からの思いだったんだろうか。


クローゼットには服といくつかの箱がしまわれているようだ。


全部、哲司の服のようだ。


ジャケットやコートなどが吊り下げられている。


俺はポケットなどを念入りに調べてみた。


だが、ゴミさえ見つける事はできなかった。


箱の中には、卒業証書やアルバムなどが詰められている。


懐かしいな・・・。


大学時代のものばかりだ。


このアルバムは、確か大学から配られたものだったか・・・。


俺はアルバムのページをめくってみた。


そこには、大学時代の哲司や亜希達を写した写真が何枚か掲載されていた。



・・・


ん・・・?

 

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この、亜希と一緒に写っている女性は・・・。


見覚えがあるな・・・名前は確か・・・。


俺は大学時代の記憶を呼び起こし、その中から懸命にこの女性の姿を探した。


哲司とよく一緒にいた亜希。


その亜希と仲が良く、一緒にいる事が多かった女性に彼女の姿が重なる。




そうだ・・・木下智美だ。


俺は続けて智美の連絡先も探したが、それらしきものを見つける事はできなかった。


ここで得られる手掛かりはもうなさそうだな。



「神宮寺さん、何か手掛かりを掴んだって感じですね!」
「・・・・・・」


俺は昨日の告別式で見かけた女性を思い出してみた。


なるほど・・・。


哲司の告別式の時に見た女性は・・・木下智美だった訳だな。


「・・・神宮寺さん?」
「ああ、実は亜希と大学時代、仲が良かった人物で木下智美という女性がいた」
「・・・なるほど。

じゃあ、智美さんが亜希さんの行方を知っていると・・・?」
「ああ、おそらく」
「・・・で、その智美さんの連絡先とかはわかるんですか?」
「いや、わからない」
「・・・ダメじゃないですか」
「しかし、木下智美は哲司の告別式に来ていた」
「・・・ふぇ?」
「告別式が終わった時に見かけたが、その時は彼女を思い出せなかった」
「そうですか、では・・・どうするんです!」
「ああ、智美が告別式に来ていたという事がわかっただけだが・・・」
「・・・・・・」
「とりあえず、廊下に戻ろう。

ここに長居しては哲司に悪い」
「そうですね・・・でも、神宮寺さん! 脈アリですね!」
「ああ、まあな」


俺達は廊下に戻った。


・・・木下智美、彼女と連絡を取りたいところだが、どうすれば・・・。


告別式の記帳簿を見るか。



・・・

「今やネット社会です!

インターネットでチョチョイのチョイです!」


チョチョイのチョイ?


「春菜・・・。

インターネットは確かに便利だが、木下智美の個人情報はさすがに調べるのは困難だろう。
木下智美が哲司の告別式に来ていた事はわかっている。
告別式の記帳簿を見れば名前が載っているかもしれない」
「・・・なるほど。

すぐ用意しますので、応接室で待っていて下さい」


春菜はここが屋敷である事も忘れ、バタバタと忙しなく走っていった。



・・・

廊下の至る所に先代当主と思われる人物達の肖像画が飾られている。



・・・

俺は再び応接室へとやって来た。


・・・どうやら、誰もいないようだ。


沈黙が支配するこの空間に浸っていると、慌しい音と共に春菜がやって来た。


「はぁ、はぁ・・・神宮寺さん!持って来ましたよ!」
「ああ、すまない」


佐藤亜希の友人、木下智美。


今、たどれる糸は彼女だけだ。


とにかく彼女の連絡先を調べよう。


「これで全部か?」
「香典のお返しの整理が終わったところだったので、まとめて持ってきました」
「そうか・・・じゃあ、早速探すぞ」
「はい!」


俺と春菜は慎重に記帳簿をめくり、木下智美の名前を探した。


・・・

「ふーん・・・」
「見つかったか?」
「ほら、見てください。

この人の名前、面白いですよ」
「・・・ちゃんと探してくれよ」
「任せて下さい!」


木下友美、名字が同じだが違うな。


新島朋美、名前が同じだがこれも違う。


澤田知美、これは全く違う。


・・・やはりいない。


こんな事なら昨日の告別式で声をかけておくべきだったな。


まあ、彼女を覚えていなかった訳だから、仕方のない事だが。


・・・

「神宮寺さん、『メイドさんは見た』って知ってます?
知らないなら見た方がいいですよ。
私は毎週欠かさず見てますから!
屋敷で起きる様々な事件を一人のメイドが目撃し、解決していく話なんですよ。
もうサイコーに面白いんです。

ぜったいオススメ!
あれを見なかったら人生の8割は損してますよ。
探偵ならぜったい見るべきです!」


止まらない春菜の台詞を聞きながら俺は作業を続けた。


「・・・頼むから、真面目に探してくれ」
「はぁい・・・」
「そこのところも見てくれ」
「はい、はい・・・」



・・・。


・・・・・・。



「はぁー、全部調べたのに無いじゃないですか!

この記帳簿は偽物なんですよ、きっと!」

「・・・春菜、この日記が偽物だと何を根拠に言っているんだ?」
「・・・このシミですかねぇ」

「・・・俺は木下智美の姓が変わった可能性が高いと思うのだが」
「・・・あっそうだ!女性なら得にって事ですね」

「ああ、その通りだ」
「じゃあ、早速、探しましょう!」


・・・という事は記帳簿から見て、
木下友美、新島智美、澤田友美の三人の中では。



「そうだな、可能性が高い推測をするならば・・・結婚して木下智美から新島智美になったと考えた方が自然だろう」
「なるほど!

結婚すれば名字だけが変わる。

さすが!神宮寺さん、よっ!名探偵!」
「いいから、黙ってくれ・・・」
「早速、連絡を取りましょう。
こういった時は素早い行動がモノを言いますからね!」
「ああ、そうだな」


智美の連絡先がわかったんだ、早速だが電話してみよう。



「・・・?神宮寺さん、どうしたんですか?

まさか携帯を持っていないって事はないですよね?」
「・・・いや、持っている」
「じゃあ、電話してみて下さいよ」


・・・

俺はおもむろに携帯電話を取り出し、木下智美改め、新島智美に電話をした。




――
―――
電話のコールがただ鳴り続ける、


出ないのか・・・。


・・・・・・!



「はい・・・」
「神宮寺と言いますが、新島智美さんですか?」
「ええ、そうだけど・・・何か用?」


智美の声は機嫌の悪さがありありとわかるものだった。


「俺は佐藤亜希・・・、大河原哲司の友人の・・・」
「亜希・・・?

どうしてあなたが亜希を知ってるの?」


智美の声には機嫌の悪さに加えて、今度は不信感が滲み出てきた。


「大学時代の友人で、あなたとも何度か会った事があるんだが・・・」
「そうだったかしら・・・名前、なんて言ったっけ?」
「神宮寺・・・、神宮寺三郎だ」
「覚えてないわね」



智美は俺の名前すら覚えていないようだ。


いや、むしろ思い出そうともしていないように感じる。


突然の電話で警戒しているのだろうか・・・。


ここはきちんと説明しておいた方がよさそうだ。


「で・・・?」
「実は哲司の遺品を佐藤亜希に届けたいんだが、連絡がつかなくてな・・・そこで君なら知ってると思ってな」
「・・・・・・」


智美は不信感を拭えないようだ。


電話だけで一方的に信用しろと言っても無理だろう。


聞きたい事もあるし、できれば直接会って話した方がいいな。


「もし良ければ、一度会って話がしたいんだが・・・電話だけでは信じ難いだろうしな」
「・・・。
神宮寺さんって言ったわね、どこに行けばいいの?」
「じゃあ、俺の探偵事務所が新宿の歌舞伎町にある。
そこで、どうだ?」
「探偵・・・」


智美は探偵という言葉に反応したが、それが警戒によるものなのかどうかは、電話口ではわからない。


「わかった。これから行くから場所を教えて」


俺は事務所の住所と、だいたいの位置を教えた。


「何だ、そこなら知ってるわ」
「その6階にある神宮寺探偵事務所だ」
「15分・・・あー、ダメダメ、30分で行くわ」


智美はぶっきらぼうに言うと、一方的に電話を切った。


「神宮寺さん、どうでした?」
「ああ、とりあえず、これから会うことになった」
「いよいよですね・・・」
「それほど深刻な事態ではないが」
「そんな事ありません!」


佐藤亜希の友人、新島智美・・・。


果たして現在の亜希の行方に関する手掛かりを握っているのだろうか。


「急ぎましょう! 神宮寺さん! 早くしないと!」
「そこまで急ぐ事でもないとは思うが」
「何を言っているんです!
遅れて行ってその人が機嫌を悪くしたらどうするんです!」
「・・・確かにそうだな」


俺達は新たな手掛りに、わずかながら期待を持ちつつ、廊下へと出てきた。



「よし、事務所に戻るぞ」
「はい!」

 



・・・


・・・・・・



俺達は確かな手ごたえを感じつつ、事務所へと戻って来た。


新島智美はもう来ているだろうか。



「さあ!早く戻りましょう! 早くしないと智美さんが来てしまいます!」
「ああ・・・急がなければな」



・・・
「先生、春菜さん。 おかえりなさい」
「ああ、ただいま。 洋子君、来客はあったか?」
「いえ、今のところはまだ・・・」
「そうか、ありがとう」
「神宮寺さん、間に合いましたね!」
「ああ、まあな」



・・・
俺が一息ついた時、玄関のチャイムが鳴った・・・。


どうやら、ギリギリだったようだ。


まあ、遅れなかっただけマシか・・・。


洋子君に案内されて、智美が事務所に足を踏み入れた。

 


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顔はきりりとしていて、初めて来た場所でも堂々とし、決して物怖じしないといった雰囲気がうかがえる。


しかし随分、雰囲気が変わったな・・・。


もっとも、まだ信用してもらってないという意味でもありそうだが。


「先ほど電話した神宮寺だ。

一応、初めましてと言っておこうか・・・」
「どうも。
初めまして、神宮寺さん・・・しょうがないじゃない。

ホントに覚えてないんだから。
まあ変なところじゃなさそうね。

超ボロいけど。
さっそく話を聞かせてもらおうかしら」

智美は攻めるような口調でそう言うと、自らテーブルについた。


「さぁ、神宮寺さん!聞き込みますよ!」
「あ、ああ・・・」


智美は探るような目で俺を見ている。


しかし、ずいぶんと頑なな態度だ。


俺を覚えていないにしても、一体どうしてなんだ?


「・・・で、何なの?」
「ああ、実は亜希について聞きたい事があってな・・・」
「ふーん、亜希ねぇ・・・。

ところでアンタ・・・本当は何なのよ。
昔の知り合いとか言って嘘ついて・・・」
「・・・嘘なんかじゃない。事実だ」
「フン、それはどうだか・・・」
「俺は神宮寺三郎だ。

覚えてないか?」
「さぁ・・・ねぇ」
「すまないが、こっちだって暇じゃないんだ。
そろそろ話してくれ・・・『木下智美』・・・」
「・・・!!
な、なんで私の旧姓を知っているのよ!」
「哲司のアルバムを見ていたら、君の名前を思い出してね・・・。
大学時代は佐藤亜希と仲が良かっただろう?」
「・・・・・・」
「今は君の力が必要だ。協力してくれ・・・」
「わ、わかったわ・・・。

とりあえず、話を聞かせてちょうだい」
「実は昨日の告別式帰りに、哲司の母親から依頼を受けた」
「・・・・・・」
「哲司の遺品を亜希に渡して欲しいと・・・。

まあ、それは哲司自身の願いでもある訳だが・・・」
「フン・・・何よ今更」
「亜希に会ってこの遺品を渡したいんだ・・・。
今、俺が哲司にしてやれる事といえばこれぐらいしかない・・・だから・・・」
「それが友情とでも言いたい訳?」
「・・・何が言いたいんだ?」
「別に・・・」
「亜希の居場所が知りたい」
「・・・私は知らないわ。

他の人を当たって。

じゃあ・・・」
「待ってくれ。

君しか俺の心当たりはないんだ。
君が友情故に、彼女を守ろうとする気持ちはわかる。
しかし、ただこの遺品を渡すだけでいいんだ・・・」
「嘘よ! そんなの!

大河原の人間は信用出来ないわ!
亜希の居場所なんて知らないわ!」



・・・


・・・・・・


「俺は大学時代・・・」
「・・・・・・あっ!

思い出した。
あなた神宮寺コンツェルンの三男坊ね・・・」
「ああ・・・」
「そういえばいたわね。

あなたみたいな人・・・」
「どうやら思い出してくれたみたいだな」
「こればっかりは謝っておくわ。

ごめんなさい、完全に忘れていたわ・・・」
「・・・ああ、いいんだ」


俺はそんなに影が薄かったのか・・・。


「話は戻るが・・・亜希とは今でもいい友達なんだろ?」
「どうかしらね・・・」


・・・?


「最近、連絡は取ったか?」
「さぁ・・・」
「亜希と何かあったのか?」
「別に・・・。

私は亜希とはただの友達よ。
それ以上でも、それ以下でもない。

ただの友達・・・」


・・・。



「随分、辛い想いをしたようだな。

その気持ち・・・」
「やめて、同情なんてして欲しくないわ!」
「・・・亜希と何があったかは知らないが正直、失望したよ・・・」
「な、何よ!

いきなり・・・」
「どうやら俺の考える友情ってのは、君達には存在しなかったようだ」
「むっ・・・」
「俺が大学時代に見た君達は、どこかへ消えてしまったみたいだ」
「・・・・・・」
「・・・もう君に聞く事はない。
帰ってもらって構わない」
「・・・・・・よ・・・・何よ。
アンタに何がわかるってのよ!」
「・・・!」
「・・・友達?・・・親友?・・・友情?」
「・・・・・・」
「そんなもんなんて、言葉にすればいくらでも言えるのよ!
肝心な時に力になってやれず、何も出来ずに見ている奴が、どうして、親友だって言うの・・・?」
「何があったんだ・・・?」
「・・・本当にわからない。
でも亜希が苦しんでいるのは事実。
私にはどうする事も出来ないの・・・何も話してくれない・・・いつも一人で苦しんでいる」
「・・・おそらく君に迷惑をかけたくないんだよ」
「・・・フン。
・・・あなたの事、信用してもいいの?」
「ああ・・・」
「亜希を・・・助けてあげて」
「わかった・・・」
新宿駅西口の近くにある『ゆりかご』っていう託児所よ。
今はそこに勤めているわ」
「ありがとう・・・」




・・・


「じゃあ、亜希の事頼んだよ!!」
「ああ、任せてくれ」
「またねぇ」


智美は安心したように、俺の事務所を出て行った。


「ふふふ、ついに犯人まで迫った!・・・という感じね」
「テレビの見過ぎだ春菜。

亜希は犯人じゃないぞ」
「気分ですよ気分。

テンション高くしていかないと。
さあ、神宮寺さん、託児所へ行きましょう!」


・・・全く。


智美には少々手こずらされたが、その収穫は十分なものだった。


これでようやく亜希の居場所を突き止める事ができたな。



「先生、今度は私が一緒に行きましょうか?」
「・・・そうだな。

洋子君、調査を手伝ってくれ」
「はい、わかりました」



「えー・・・私は留守番ですか?」
「ああ、頼んだぞ」
「ちぇ・・・」



・・・

「ようやく亜希さんの居場所がわかりましたね」
「ああ。

しかし、託児所とは何とも意外な場所にいたもんだな」
「私は亜希さんの事をよく知りませんが・・・子供がお好きなのでは?」
「そうなのかもしれんが・・・亜希が苦しんでいるという智美の言葉が気になるな・・・」
「・・・そうですね」


煙草を吸おうと思ったが、今日は吸いすぎたな・・・たまには肺を休めておくか。



「どうしたんですか、神宮寺さん?
・・・・・・あ、そうか。この私の手助けが必要なんですね?」
「・・・いや、それは必要ない」
「うぅ、そんなはっきり言わなくても」
「留守は任せたぞ、春菜」
「はぁーい・・・」



「早速、託児所に行こうか」
「はい、そうですね」



「いよいよですね! さぁ、行きましょう!」
「・・・春菜」
「へいへい、留守番してますよ・・・」





・・・
調査が順調に進んでいるせいか、太陽の光も心地良く思える。


・・・・亜希は今、西口近くの託児所で働いているのか。


優しそうな彼女のイメージには、よくあった職場のようにも思えるが・・・。


大学の頃に就きたいと言っていた職業とはまるで別のものだ。


なぜ、託児所に勤める事にしたのだろう?



「先生、そろそろ行きましょうか」
「ああ、今度こそ亜希と対面できそうだ」
「フフ、長いようで短い道程でしたね」





・・・


・・・・・・


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智美の言ったとおりの場所にその託児所はあった。


ここが亜希の働いているという託児所『ゆりかご』か・・・。



「・・・・・・? 閉まっているのか・・・」


どうやら今はやっていないようだが・・・。


「先生、閉まっているようですが・・・」
「ああ・・・仕方ないな。

とりあえず辺りをよく調べてみよう」
「はい」


・・・

何度見ても託児所のシャッターは固く閉ざされている。


しかし、どういう事だ?


「なぜ閉まっているのだろうな」
「わかりませんね・・・」
「・・・ふむ。

ここはおそらくだが、夜間のみ営業する託児所なのだろうな」
「先生、これを・・・」


洋子君が示したところには託児所の営業時間が書いてある。


やはり一般の託児所とは違い、深夜に働く者のために夜間に営業しているようだ。


「なるほど・・・新宿ならではのシステムだな。
仕方ない、夜にまた出直す事にしよう」


営業時間は午後6時からか。


夜からだとは・・・参ったな。


しかし、夜まで無駄に時間を潰すのもな・・・。


やれやれ・・・仕方ない。


『ゆうちゃん』について調べてみるか・・・。



・・・おっと、煙草の箱が空だな。


「先生、どうぞ・・・」


洋子君は、おもむろにカバンから新品の煙草を差し出した。


「さすが、洋子君だ。 気が利くな・・・ありがとう」

「でも、なるべく控えて下さいね」
「ああ、わかった」

「・・・洋子君、時間まで『ゆうちゃん』について調べてみる事にしよう」
「はい、わかりました」
「まあ、暇つぶしにはちょうどいいだろう・・・」
「フフフ、そうですね。

早速『ゆうちゃん』の捜査に向かいましょう」


俺達は淀橋署へとやって来た。


何度も足を運んでいる馴染みのある場所ではあるが・・・。


この建物全体が持つ威圧感には、そう簡単になれるもんじゃないな。


「『ゆうちゃん』の調査と言っても、どこで聞けばいいのでしょうか・・・」
「ああ、とにかくいろんなところに行ってみるしかないな・・・」



・・・


受付には熊さんの姿があった。


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「よお、神宮寺君。

どうだね?『ゆうちゃん』の調査は?」
「全く駄目だ・・・今のところはな。

熊さんの方はどうだ?」
「何がだ?」
「『ゆうちゃん』だよ」
「ワシは君に頼んだんだぞ!

ワシが調べる必要はあるまい・・」
「・・・」
「・・・・・・な、何じゃ!

その冷たい目は!」
「そもそも、熊さんの依頼じゃないか」
「・・・・・・」
「協力してくれないとなると調査は」
「わ、わかった、わかったわい」
「まさか、調べると呪われるとでも思ったのか?」
「・・・うむ」


・・・・・・図星なのか。


「ワシも調べればいいんだろうが!

暇な時にちょくちょく聞いてみるわい!」
「・・・ああ、助かる」
「全く!

じゃあ、ワシは忙しいからこの辺でな」
「ああ、また」
「おう」


・・・署員達が忙しげに来客者の応対をしている。


事故や事件に関する相談から、免許の手続きなど、ここを訪れる人間が絶える事はない。


・・・
俺達は淀橋署を出る事にした。



・・・


・・・・・・


俺達は新宿駅西口へとやって来た。


新宿駅西口といえば『前田』だな。


この辺りのホームレス達から絶大な信頼を寄せられている、ホームレスのまとめ役的存在だ。


今日はいるだろうか、探してみるか・・・。




・・・
せわしなく流れる人ごみを見渡していると、その人ごみの流れに逆らうように一人の男が歩み寄って来た。


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「どうも、神宮寺さん」
「よお、前田・・・」


ホームレスの前田明


前田とも長い付き合いになる。


今では頼りになる情報屋でもあり、よき友ともいえる。


前田は新宿に関してはかなりの事情通だ。


『ゆうちゃん』について知っている可能性は高いだろう。


「神宮寺さん、今日は珍しく・・・洋子さんをお連れで?」
「ああ、まあな・・・」


「フフフ・・・」


「・・・で、今日は?」
「唐突で悪いんだが、『ゆうちゃん』というのを知っているか?
「最近噂になっている・・・幽霊ですか?」
「ああ、そうだ・・・」
「まさか・・・神宮寺さん。

その幽霊を調べているんですか?」
「まあな・・・」
「相変わらず、大変そうだ・・・」
「前田は見た事ないか?」
「私は幽霊とか信じない主義ですからね。
ただ世間の暇潰しのネタにしか過ぎないと思いますが・・・」
「そうか、ありがとう」
「いえ、では・・・」
「ああ」


前田は俺達に軽く会釈すると、再び雑踏の中へと消えていった。


様々な人々が駅に向かい、また、駅から出てきている。


まさしく駅とは、街の要だ。


「前田さんも元気そうでよかったですね」
「ああ。

しかし、やはり『ゆうちゃん』探しなど、物笑いの種でしかないようだな」
「まだ、そうとは限りませんよ。
もっと色々な方からお話を伺ってみませんと」
「・・・まあな」



俺達は新宿の亜希の住んでいたアパートへ向かう事にした。

 

・・・


・・・・・・


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小学校帰りの少年だろう。


『ゆうちゃん』について何か知っているかもしれない。


「君、ちょっといいかな?」
「・・・!?

ひぃぃ、な、何ですか?」


・・・この少年は一体、何をそんなに怯えているのだろうか?


・・・少年は明らかに俺を怖がっている。


誰かと勘違いしているようだ。


・・・とにかく話を聞いてみよう。


「ぼ、僕は、な、何も知りません」
「・・・ん? どうした?

震えているみたいだが・・・」


「先生、この子怯えてますよ。 もっとやさしく接してあげて下さい」
「俺の接し方に問題があるとは思えないが・・・」
「でも、先生・・・」


「せ、先生・・・!!
他の学校の先生ですか?
ぼ、僕は寄り道なんてしてません。
だ、だから、山本先生にはこの事は言わないで下さい。
すみません、さようなら・・・。

ひぃぃ・・・」


そう言うと、その少年は逃げるように、走っていった。


「一体、何なんだ・・・?

やれやれ、何も聞けなかったな」
「フフフ・・・」


これからどうするか・・・。


今度はコーポ中野ハイツに行ってみるか。

 




・・・


・・・・・・


俺たちはコーポ中野ハイツに再び到着した。


・・・ん?


佐々木の姿があるな。


・・・

「度々、申し訳ありません。

もう一つ聞きたい事があるのですが・・・」
「はい、何でしょう?」
「『ゆうちゃん』というのをご存知です?」
「・・・?ゆうちゃん?

いえ、知りませんが・・・一体、誰なんです?」
「いえ、知らないのなら結構です。

ありがとうございます」
「そうですか・・・では私はこの辺で・・・」
「はい、どうも」





・・・
「先生、日が沈んできましたよ・・・」
「そうだな・・・。
じゃあ託児所にもう一度行ってみるか」
「はい」



・・・


・・・・・・


空の闇に逆らうように新宿の街が明るくなっていく。


俺は新宿の夜の街を洋子君と共に歩いて、託児所へと向かった。



・・・

託児所『ゆりかご』に到着した。


シャッターは開いていて、中からは明かりが漏れている。


どうやら開いているようだ。


これでようやく佐藤亜希と再開できそうだな・・・。



「もうこれで、調査を終えてしまうのですね・・・」
「まあ、こんな調査もたまにはいいだろう」
「フフフ、そうですね・・・では行きましょう」
「ああ」


託児所の明かりは、中から聞こえてくる子供達の声と相まって、辺りの雰囲気は昼間よりずっとにぎやかだ。


俺は託児所の中に足を踏み入れた。




・・・
一人の女性と、楽しそうに遊ぶ子供達の姿があった。


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「せんせー、次はきしゃぽっぽのうたをうたおうよぉ」
「はーい、そうね。 じゃあ、信二君の大好きな汽車ぽっぽ歌いましょうね」
「はーーーーーい」




「・・・・・・何でしょう?」


顔立ちに苦労がしのばれるが、この女性こそ亜希に間違いないと俺にはすぐわかった。


「・・・彼女が亜希さんでしょうか?」
「ああ、おそらく。

わずかではあるが、昔の面影がある」
「では、早速・・・」
「ああ」


・・・

「突然失礼しますが、佐藤亜希さんですね?」
「え、えぇ、そうですが・・・」


亜希は俺の事を覚えていないようだ。


深い面識があった訳ではないから、亜希が俺の事を覚えていなくても仕方はないのだが・・・。


やれやれ、こんな目で見られると俺の大学時代が希薄だったように思えてくる。


「覚えていないか・・・哲司の友人だった神宮寺だが」
「え・・・」


哲司の名前を出したとたん、亜希はあからさまに怯えるような反応を示した。


「すみませんが、掃除をしなければなりませんので」


亜希は俺を歓迎していない様子で仕事に戻ろうとした。


「待ってくれ。俺は哲司の遺品を・・・」
「遺品・・・?

ど、どういう事です?まさか哲司さんが・・・」
「哲司は病気で亡くなった。
昨日、告別式があったんだが・・・」
「う、うそ・・・。

冗談ですよね、だって・・・」
「・・・・・・」
「そ、そんな・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・うぅ・・・そんな・・・。

では、それを知らせるためにわざわざ?」
「いや、実は・・・渡したい物があるんだ」
「・・・?」


亜希はどこか怯えたような眼差しを俺に向けている。


一体、何をそんなに怯えているんだ・・・?



「先生。哲司さんの遺品を亜希さんに・・・」
「ああ」


・・・これを渡したら、依頼は終了だな。


「うぅ・・・哲司さん」


俺は静江から預かった物を亜希の前に差し出した。


「渡してくれと、頼まれたものだ」
「・・・結構です。
受け取る事は出来ません・・・」



・・・どういう事だ。


断る理由などないはずだが・・・。


まだ俺の事を疑っているのか?


・・・。