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この女性が亜希と考えて間違いないはずだ。
・・・しかし、昔と比べてずいぶんと陰りがある。
一体、亜希の身に今まで何があったと言うのだろう。
「覚えていないかもしれないが、俺は哲司とあなたの事を知っている。俺は哲司と一緒の大学にいたから、あなたと哲司が付き合っていた事も知っている。はたから見ても、二人は仲睦まじかった。俺の想像通りならば、これはあなたと哲司の想い出の品なのではないか? どうか形見分けだと思って、受け取って欲しい」
「・・・」
亜希はまるで追いつめられたような顔をした。
「・・・いりません。私には受け取る資格はありません」
「資格というのなら、あなた以外に受け取る資格を持つ者はいないと思うのだが。中身はわからないが、あなたに渡すように頼まれた物だ。哲司はこれを大切に持っていたんだと思う」
「・・・もしそうなら、なおさら私には受け取れません。私にはそんな大切な物を受け取る資格がないんです」
亜希は哀しそうな顔で訴えた。
本当に受け取る気がないようだ。
「何か受け取れない事情でもあるのか?」
「・・・すいません。今日はお引取りを・・・」
どうやら話す気はないようだな・・・。
・・・まあ、下手に焦る必要もない訳だし今日は・・・。
感情的になっているし、明らかに何かを隠している。
今、焦って聞き出そうとすれば、拒絶される可能性がある。
・・・今日はここで引き返そう。
「これは俺が預かる。気が変わったら、連絡してくれ」
俺はひとまず引き下がる事にして、
亜希に事務所の連絡先を教えると、その場を後にした。
・・・。
俺と洋子君は意外な展開に戸惑いつつ、託児所を出てきた。
「どういう事でしょうか・・・」
洋子君も亜希の態度を不思議に思っている。
「わからんな。何か深い理由でもあるのか・・・洋子君はどう思う?」
「そうですね・・・亜希さんは迷っているように見えました。それが何かはわかりませんが、怖がっているようにも」
「ああ、俺も同感だ。どちらにせよ、少し時間をおいた方が良さそうだ」
「そうですね。これからどうなさいますか?」
「そうだな・・・時間がまた空いてしまったな」
夜になった訳だし、また例の調査をしようか。
「先生、静江さんに報告に行きますか?」
「夜になった事だし、今日は静江への報告はやめておこう。『ゆうちゃん』の調査をしてみるか。夜になればまた新しい手掛かりが得られるかもしれんしな・・・」
「そうですね」
「熊さんが昨日、『ゆうちゃん』を目撃した場所は人気がない西新宿8丁目だ。情報を集めるのは難しいだろう」
「確かにそうですね・・・。では、今日は違う場所に行きますか?」
「ああ、そうだな・・・。今日は目撃場所から近い、新宿中央公園に行ってみようか」
「はい、わかりました」
情報を集めるとしたら、やはり公園だろうか。
熊さんが見たという場所からそう離れていないし、そこなら人がいるだろう。
俺は新宿中央公園入口へ向かう事にした。
・・・。
夜の中央公園は閑散として、しかもところどころの暗がりが不気味な雰囲気をかもしている。
人影はほとんど見る事ができない。
カップルらしき二人連れがいるぐらいだ。
「先生・・・」
「そうだな」
どうも気が引けるが、聞き込んでみるか・・・。
野暮をしているみたいで、正直気は進まんが。
「な、何だよ、俺達は何にもしてないぜ」
「そうよ・・・ねぇタァ君!」
「おうよ」
やけに警戒されているようだ。
ここは聞くべき事を聞いて、早く立ち去りたいところだが・・・。
「申し訳ないが、ちょっと聞きたい事があるんだが・・・」
「ななな、何だよ。だから俺達は別に悪いコトなんてしてねぇって!」
「白い服を着た子供の噂を聞いた事がないか?」
「白い服を着た子供? ・・・ああー、アレか」
「知ってるぅ! 銀のエンゼルだよね?」
「は? 何言ってるんだよ。すごい速さで走って逃げる子供の幽霊の話だろ?」
「えー、タァ君こそ何言ってるのよぉ。幸せのエンゼルのコトだよ。ねぇオジサン、そうだよね?」
どうやらオジサンというのは俺の事らしい・・・。
「フフフ・・・」
やれやれ・・・何だか切ないな。
「どこで見かけたとか・・・そういう話は聞いた事はないか?」
「あ、それならすぐそこの新西少の方で見た事があるらしいよ。ミナの弟が見たって言って騒いでいたもん」
すぐそこの新西小・・・?
「ホントかよ?」
「何よぉ、タァ君ってばミナの言うコト信じないのぉ?」
「いや、信じる、信じるってばよ。俺がミナの言うコトを信じない訳ないだろぉ」
「タァ君・・・嬉しい」
「テヘ・・・」
「・・・邪魔したな」
俺はそう言ってカップルから離れた。
・・・公園と小学校。
夜の閑散とした不気味な雰囲気が似ていると言えなくもない。
小学校の方も調べてみる必要がありそうだな。
「早速、その新西小へ行きたいところだが、どこの事だろうか?」
「そうですね・・・若い人は言葉を略しますから、何かの言葉を略しているとは思いますが」
「・・・」
さっきの証言から考えると、その学校はここから近いようだ。
おそらく新宿西小学校のことだろう。
確か、西新宿8丁目の方にあったはずだ。
「新宿西小学校のことだろうな。行ってみよう」
「はい、先生」
・・・。
俺達は西新宿8丁目の住宅街へやって来た。
この先に、新宿西小学校がある。
目撃証言があった以上、確かめてみよう。
新宿でも外れにある西新宿8丁目は、最近になってようやく再開発の手が伸びてきたところだ。
まだまだ古い建物が残っていて、しかも空き家も多い。
狭い路地からちょっと入れば、いったいどこの廃墟に来たのかと目を疑ってしまう場所もある。
・・・。
ここが、さっきの証言にあった小学校だな。
ここに『ゆうちゃん』が・・・?
まあ、いい。
「できれば中に入ってみたいところだが・・・」
「フフフ・・・」
「・・・? 洋子君、どうした?」
「最初と比べて、やけに気合が入ってますね」
「ハハハ、そうだな・・・。こうなったら、とことん調べてやろうと思っただけさ」
「そうですね」
「どこからか入れないだろうか・・・」
「では、少し探してみましょうか」
「ああ、そうだな。門やフェンスを乗り越えずに済む所があるといいんだが」
「そうですね・・・私はスカートですから、そうしていただけると助かります」
俺と洋子君は小学校の入り口を見渡した。
・・・しかし、入れそうな所は見当たらなかった。
「・・・ないな」
「そうですね。もう少し探してみましょう」
俺は道路に面した堀の周りをぐるりと回ってみた。
すると、街灯からも離れた薄暗い場所に、一人がやっと通れるぐらいの狭い隙間を見つけた。
「ここから入れそうだ・・・」
「そうですね、入りましょうか」
「そうだな」
俺は小学校の中へと足を踏み入れた。
・・・
広々とした空間に誰もいない。
その不気味さというのは、さながらゴーストタウンのようだ。
暗い校庭には誰かがいるような様子はない。
「やはり誰もいませんね・・・」
「そうだな・・・」
・・・やはり、そう簡単に会える訳はないか。
そもそもただの噂だしな。
「よし、帰るか・・・」
・・・ん?
まさか・・・!
「い、いまのは・・・!? 洋子君、追うぞ!」
「はい!」
こいつが『ゆうちゃん』なのか・・・?
複雑な想いに襲われながらも、俺はひたすらその影を追った。
・・・。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・!」
新宿8丁目へと入ったところで、俺はようやくその影に追いついた。
「いててててて、離せ、離せよ!」
それはれっきとした生身の少年だった。
「子供か・・・」
俺は安堵と落胆の入り混じった、複雑なため息を漏らした。
「なんだよ、悪い事してないだろ!?」
まさかこいつが『ゆうちゃん』の正体ではないだろうな・・・。
いや、それはないだろう。
どうみても、ただの子供にしか見えない。
さて、どうするか・・・。
まあ、家に送り返すのが一番だろうが、
その前に聞くべき事を聞いておいた方がいいだろうな。
「先生、この子に話を聞いてみては?」
「そうだな・・・ 大人しくこっちの質問に答えてくれるといいんだが」
「相手が子供でも気を抜かないで下さいね」
「ああ、わかっている」
・・・。
「こんな時間にこんな場所で、一体何をしていたんだ?」
「オッサンには関係ないだろ」
「年はいくつだ?」
「フン・・・」
「名前は・・・?」
「・・・・・・」
「家はどこだ?」
「さぁな・・・」
「さっきの小学校に通っているのか?」
「・・・」
やれやれ、全く話す気はないようだな。
「オッサンこそ何者だよ。俺を捕まえる権利なんてあるのかよ!」
「話を聞く権利くらいは主張したい」
「フン・・・。でも、俺にだって話さないといけないっていう義務なんてないぞ!」
「・・・口の減らない奴だな」
とりあえずこの少年の名前を知りたいところだが・・・。
「このまま睨めっこしていても仕方がないだろ? 話したくない事は話さなくていい・・・」
「本当か?」
「ああ・・・」
「じゃあ、アンタと話したくないから帰る」
そうきたか・・・。
「おい、それは屁理屈ってやつだ。俺と話す事が前提だ」
「うるせぇ、都合が悪くなるとすぐ大人は怒る! あー、ヤダ、ヤダ・・・」
「・・・わかった。そこまで言うのなら帰ってもいい」
「えっ・・・?」
「親が心配しているだろうから、早く帰れ」
「・・・」
「・・・どうした?」
「少しなら話してもいいかも・・・」
「そうか・・・」
「じゃあ、名前は?」
「・・・」
なるほど、話したくないって事か・・・。
これは自力でこの少年の名前を見つけるしかないな。
しかし、どうやって・・・。
俺は少年にゆっくりと歩み寄った。
「お、おい、何するんだよ!」
俺は少年のえりを掴んだ。
「い、いきなり、な、なんだよ! やっぱり怒ってんじゃねーかよ!」
「いや、えりにゴミがついてるぞ・・・」
「そんなゴミなんかいいよ! やめろよ!」
「いいからじっとしてろ」
俺は嫌がる少年を無視して、えりの裏を見た。
子供の服にはたいていの母親が名前を書いているものだ。
えりの裏には予想通り、女性の文字で『貴之』と書いてある。
「・・・タカユキか」
「な、何でわかったんだよ!」
「・・・で、名字は?」
「フン、本当にわかんねぇのかよ?」
「ああ・・・」
「っていうかオッサン。人に名前を尋ねる時には自分から名乗るもんだぜ? ったく、これだから礼儀を知らない大人っていうのはよ・・・」
「・・・そうだな。俺は神宮寺三郎だ」
「ジングウジ? 変な名前だな」
「よく言われる。 それで・・・」
「藤村 貴之(ふじむら たかゆき)だよ」
「そうか・・・」
ようやくスタートラインにつけたようだ。
「貴之、あの小学校で何をしてた?」
「オッサンこそ・・・」
「おいおい・・・俺は神宮寺だ」
「何だよ、細かい奴だな・・・。 はい、はい・・・わかったよ。神宮寺こそ何をしてたんだよ!」
「おい・・・呼び捨てか?」
「何だよ、神宮寺だって俺の事を呼び捨てにしてるじゃねーか!」
「ああ、そうだな・・・」
「・・・で、何してたんだよ! 小学校に忍び込んで変なモン盗むつもりじゃないだろうな?」
「いや、ちょっと、人を探していてな」
「じゃあ、何で俺を追っかけてきたんだよ! 俺は関係ねーだろうが!」
「貴之が逃げるからだろ? 逃げれば追いかけるのが人の心理というものだ」
「フン、人の心理なんて・・・そんなの俺にはわからねーな! やっぱりお前も、そこら辺の奴らと同じで言い訳ばっかりだな! ・・・誰か探してるなら、警察にでも頼めよ。大人はすぐ警察だなんだって大騒ぎするじゃないか」
「ああ、確かにそうかもしれないが・・・。今は貴之に話を聞きたい」
「フン、どうしよっかなぁ・・・」
「・・・わかった、もう諦める」
「・・・そ、そうか。でも、いいのか本当に俺の話を聞かなくても?」
「聞きたいのは山々だが・・・話す気がないのだろう?」
「・・・まあね。だったら神宮寺が当てればいいんだよ。小学校にいた俺の目的を・・・。当たっていたら教えてやる。まあ、わかるはずはないとは思うけど・・・」
「いいだろう」
「なんとか話はきけそうだが」
「先生、貴之君の目的・・・わかるんですか?」
「ああ、なんとなくな・・・」
おそらく俺達と目的は同じだろうな・・・。
「貴之・・・お前の目的は『ゆうちゃん』だな?」
「なっ!? 何でわかったんだ! まさかお前も探してるのか?」
「貴之、お前は『ゆうちゃん』を見た事があるのか?」
「いや、俺はまだ見てねぇけど・・・。うちの学校に出るって噂でよ。俺はそいつの正体を調べに来たんだ」
「なるほどな」
やはりこの小学校の辺りに『ゆうちゃん』は出るという事か。
「貴之、『ゆうちゃん』というのは・・・」
俺がそう言いかけたとき、貴之の視線が何かに釘付けになった。
俺が貴之の見ている方を見ると、そこに白い影があった。
いや、白い影がいた、という方が正しいだろうか。
それは俺の目には白い服を着た子供のように見えた。
その影は俺達の目の前を横切り、そのまま路地裏に消えていった。
「い、今のは・・・」
俺はハッと我に返り、その白い影を追おうとした。
だが子供の影はすでに辺りにはなく、見つける事はできなかった。
「み、見た・・・すげぇ。俺、ほんとに見たよ」
貴之は興奮覚めやらぬという感じで、肩を震わせている。
「先生、今のは・・・」
「あれが本物の・・・白い影なのか」
「・・・」
「しかし、もう追いかけるには遅いようだな・・・」
「そうですね・・・では、貴之君をどうしましょう?」
「そうだな・・・。このまま放っておく訳にもいかないしな」
「貴之、今日はもう帰れ・・・」
「勝手に決めんなよ! 俺はさっきの幽霊を追うんだよ!」
「子供が出歩くような時間じゃないだろう?」
「うるさいなぁ、俺の勝手だろ?」
仕方ない。
ちょうど俺達も帰ろうと考えたいた訳だし・・・。
「貴之君のお母さんに連絡しますか」
「洋子君・・・そんな事したら貴之に恨まれてしまうぞ」
「確かにそうですね」
「貴之を家まで送ってやるか」
「ええ・・・それがいいと思います」
「貴之、いいから帰るぞ。家はどっちだ」
「あ、こら、離せよ! 俺を子供扱いすんじゃねぇよ!」
俺は暴れる貴之を捕まえ、家まで送り届ける事にした。
・・・。
貴之を家に送り届けたあと、俺達は事務所まで戻ってきた。
「あっ、神宮寺さん。おかえりなさい」
「ああ・・・」
「お疲れ様です。すぐコーヒーを入れますね」
「ああ、すまない」
俺は洋子君が入れてくれたコーヒーを飲みながら今日あった事をかいつまんで話した。
まず亜希が哲司の形見を受け取ろうとしなかった事。
「亜希はまだ迷っているようだ。それに、何かはわからないが、怯えているようでもあった。これは亜希自身の口から聞かなければならないだろうな」
それから小学校で会った生意気な貴之という少年と、そこで会った白い影の事。
「ゆうちゃんは本当にいるんでしょうか・・・」
「ゆうちゃんはいますよ!私が言うから間違いないです!」
「フフフ・・・そうね」
「まだあれがゆうちゃんだと決まった訳じゃない。もう少し詳しく調べてみる必要はありそうだな・・・」
俺が一通り言い終わると、さすがの春菜も疲れたのかどことなく元気がない表情を見せた。
「はぁ・・・疲れた。では私は屋敷に戻りますね」
「ああ、気を付けてな」
「洋子君も遅くまですまなかった。今日はもう帰ってくれ」
「はい、ではお先に失礼します。先生もゆっくりお休みになられてください」
「では神宮寺さん。また明日・・・」
「ああ、お休み」
二人が帰って事務所が静かになると、書斎へと向かった。
俺は椅子に座り、一息ついた。
やがて、いつものまどろみがゆっくりとやってくる。
亜希やゆうちゃん、そして哲司の事を考えながらゆっくりと眠りに落ちていった。
・・・。