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探偵 神宮寺三郎 白い影の少女【6】


・・・。




3月13日
神宮寺探偵事務所

 

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俺はささやくような物音を聞き、長いまどろみから目を覚ました。


ぼんやりとして覚めやらぬ頭に、優しく扉をノックする音と控えめな声が聞こえてくる。

 

「先生、もうお昼になりますよ」

 

洋子君が呼んでいるということは、どうやら今日はいつもより深く眠っていたらしい。


おまけに、昨日も考え事をしながらまた椅子で眠ってしまったようだ。


・・・やれやれ。


これじゃあ、疲れが取れんな。



煙草に火を付けた。


今日も引き続き調査だな・・・。


亜希とゆうちゃん・・・二人に関する更なる情報が欲しいところだ。



・・・

この書斎は俺専用の私室となっており、洋子君でさえ滅多に立ち入る事はない。


そのおかげで部屋がひどい惨状となる事もしばしばだが、やはりプライベートな空間は欠かす事ができないだろう。



俺は仕事場に通じるドアを開けた。

 

「おはようございます」
「ああ、おはよう」

 

事務所にはすでに新鮮な空気と、かぐわしいコーヒーの香りが漂っている。


この匂いをかぐ事から俺の朝が始まると言ってもいいだろう。


俺は、洋子君の入れてくれたコーヒーを一口すすったところで、やっとある事に気付いた。

 


「春菜は来てないのか?」
「今朝はまだのようですね。

大河原家の方に顔を出しているのかもしれませんね」
「いや、春菜の事だからただの寝坊だろうな・・・」
「まあ、先生ったら。

先生はお疲れではありませんか?」
「これぐらいでは疲れないさ」
「フフフ、そうですか。

でも、無理はなさらないように・・・」
「ああ、大丈夫だ」

 


・・・

俺は煙草に火を付けた。


体にとっては最悪の組み合わせかもしれないが・・・俺にとっては最高の組み合わせだ。

 


「今日はどうなさいます?」
「まずは静江に亜希が見つかった事を報告に行かなければな」
「大河原家に向かうのでしたら、

春菜さんが来る前に連絡を入れた方がよろしいのでは?
わざわざ無駄足を踏ませる事にならずに済みますから」
「・・・そうだな。
しかし、それほど春菜に気を遣う必要はないとは思うが」
「フフフ・・・そんな事言っては春菜さんがかわいそうですよ」
「そうかな」
「それで、亜希さんの方はどうなさるんです?」
「まだ亜希の気持ちが整理できるまで時間がかかるだろう。
調査終了まで時間がかかる事を静江に了解をもらわないといけない事だし、

亜希のところにも、もう一度行ってみようと思う」

「『ゆうちゃん』にの件はどうなさいます?」
「時間があればまた調査してみる。

まあ、聞き込みくらいしか出来ないが」
「そうですね、わかりました」

 


ピンポーン・・・

 

小気味に良いチャイムの音を聞いて、玄関にやって来たのが誰なのか俺にはすぐにわかった。


どうやら洋子君もわかったのか笑顔がこぼれている。

 

「連絡は間に合いませんでしたね」
「まあ、いいだろう。

・・・しかし、これでのどかな朝も終わりだな」

 

俺は飲みかけのコーヒーを机に置いた。

 


神宮寺さんに洋子さん!

おはようございまーす!」

 

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俺達が想像した通り相変わらず元気な春菜が事務所に飛び込んできた。

 

「フフ、春菜さん、おはよう・・・」


「ああ、おはよう」

 


春菜が来ただけでこの狭い事務所がにぎやかになる事この上ない。


だが、こういうにぎやかさもたまには悪くないかもしれないな。


たまになら、の話だが・・・。




今日も引き続き調査だ。


亜希とゆうちゃん・・・。


二人に関する更なる情報が欲しいところだ。

 

・・・

「よし、早速行くか・・・」
「え? ちょ、ちょっと待ってくださいよ。行くってどこに?調査ですか?

じゃあ私もついて行きます!
あ、それとも私をのけ者にする気ですか?」

 


全く・・・。


この元気がどこから湧いてくるのか教えて欲しいものだ。

 

「・・・わかった。

春菜、今日の調査を手伝ってくれ」
「はーい!」
「・・・洋子君はすまないが、留守番を頼む」
「はい、わかりました」
「やっぱり名探偵には名助手がつきものですよね!
・・・で、どこに行くんです?」
「まずは静江に亜希の事を報告しに行く」
「・・・。

いま屋敷から来たばかりなんですけど・・・」
「連絡を入れる前にお前が来てしまったからな」
「ショック・・・。

こんな事なら大人しく屋敷で待ってればよかった・・・」
「今度からそうしてくれ。

じゃあ春菜、行くぞ」
「はい・・・」



「フフフ、先生、春菜さん。 頑張ってくださいね・・・」
「ああ


「うぃっす・・・。

奥様に会われるんですよね」
「ああ」
「でも、奥様・・・亜希さんの事を聞いたら、どんな顔するんだろう」
「・・・・・・」



「先生に春菜さん。いってらっしゃい・・・」


「ああ・・・」


「まっかせて下さーい!」

 



俺達は事務所を出て、外へと向かった。


正直を言えば、昨日の亜希の言葉を伝えるのは少々気が引けるが・・・。

 

 



・・・


・・・・・・


大河原家へとやって来た。


応接室には静江がいた。

 


「神宮寺さん、お待ちしていました。 春菜、今日はあなたは外で待っていなさい・・・」

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「え・・・?

はい、かしこまりました」

 

静江に命令された春菜は一瞬残念そうな顔を見せたが、素直に部屋の外へ出ていった。


どうもこの屋敷での春菜を見ると、それ以外の場所でのギャップがありすぎて戸惑うな。

 


・・・静江に報告をしなければ。


依頼達成までに少し時間がかかりそうだという事を理解してもらわねばな。


静江は俺の報告を今か今かと待ち構えている・・・。


これだけ期待されると、昨日の事を報告するのは気が引ける。


 

「亜希さんはみつかりましたか?」
「ええ。 今は新宿で働いています」
「そうですか。 さすがは神宮寺さんですね。
こちらも無理を言ってお願いした甲斐がありました。
それで・・・。

お願いしたものはお渡し頂けたでしょうか?」
「その事ですが・・・実は亜希さんが受け取れないと申しまして」
「・・・つまり、彼女は拒否したという事ですか?」
「いえ、そういう訳ではありません。

突然の事でしたから、まだ哲司が死んだ事も信じられない状況なのでしょう」
「そうですか・・・」

 

静江の表情はあまり変わらないが、落胆しているのは良くわかる。


やむを得ない事だが・・・。

 


「亜希さんは他に何かおっしゃっていましたか?」
「いえ。

ただ受け取れないとだけ・・・。

理由はどうしても話してもらえませんでした。 
亜希さんが遺品を受け取らない理由について、何かお心当たりはないでしょうか」
「・・・。

さぁ・・・私にも分かりかねます。
神宮寺さんにはすみませんでしたね」

 

静江はまるで自分が悪いとでも言いたそうに頭を下げた。

 

「いえ、俺の力不足です・・・。

本当に何も心当たりはありませんか?

どんな些細な事でも構わないのですが」
「・・・亜希さんが頑ななのは、私のせいかもしれませんね・・・」
「と、いいますと?」
「いえ、何でもありません。

私は哲司に厳しかったですから、それを伝え聞いて、怖がられているかもしれないと思っただけです」

 


・・・

俺は煙草に火を付けた。


静江と亜希の間には過去にも何かあったと見て良さそうだ。

 

・・・静江に罪悪感を抱かせるような事が。



静江は落ち着きがなくなり、目が伏せがちになっている。


何か気がかりがあるような感じだが・・・。


 

「遺品はまだ神宮寺さんが持っていらっしゃるのですね?」
「はい・・・。

時間をおけば彼女の気持ちも落ち着いてくると思います。
はやるお気持ちもわかりますが、できればもう少しお時間を頂ければと思うのですが」
「・・・わかりました。

今回は神宮寺さんを信頼してお任せしたのです。
もうしばらくお任せします」
「ありがとうございます」
「私も亜希さんの思い悩む気持ちを推し量れない訳ではありません。
ですが、なるべく早くこの依頼を遂行して欲しいというのが今の私の正直な気持ちです。
くれぐれも、よろしくお願いします」
「承知しました」

 


静江は再度頭を下げたあと、静かに部屋を出ていった。


昨日の亜希の様子には何か引っかかりを感じる・・・。


確かに亜希は哲司の死を聞いて動揺しているのだろうが、それだけではないはずだ。

 

亜希はまだ俺の事を信用していないのだろうか・・・。


しばらく様子を見つつ、亜希の元へ通うしかないな。


じっくりやっていこう・・・。


下手に焦れば、逆に亜希を追いつめてしまう恐れもある。


俺は応接室を出て廊下へと向かった。


廊下に出るや、背後に忍び寄る怪しげな影に気付いて振り返った。

 

「グフフ・・・神宮寺さん、待ってましたよ」

 

俺は不敵に笑っている春菜を見て、

良からぬ事を考えているのだろうとすぐに想像できた。

 

「神宮寺さん、奥様と何を話していたんですか?」
「調査の報告をしただけだ」
「報告って?」
「・・・」
「助手にも内緒にする気ですか?」
「いつから助手になった」
「神宮寺さんが自分で選んだんじゃないですか」
「手伝ってくれと言っただけで、助手にするとは言ってない」
「ちぇっ・・・。

で、何て報告したんです?
亜希さんの事ですよね?

昨日の事は話したんですか?
あ、ゆうちゃんの事は?」
「・・・やれやれ」
「もー、わかってますよ。

調査内容は秘密って事でしょ?
大丈夫です。私にもわかってますから!守秘義務ってヤツですよね。
私はその辺に詳しいんですよ。

それに私、こう見えても口は堅いんですからね」

 


自分で口が堅いという奴ほど、信用出来ない奴はいない。


まあ、春菜の場合はそれ以前の問題ではあるが・・・。

 


「屋敷の中でそんなに騒いだら怒られるんじゃないか?」
「大丈夫です。

バレなければ問題なし!」
「・・・ったく。

あっ、静江さん・・・」
「げぇっ!!」



・・・。



「フッ・・・」
「もう! 驚かさないで下さいよぉ!」
「仕方ない。

今日、静江さんに報告した事は・・・」
「あ、待って下さい。

やっぱり何も言わないで下さい。
今から私が当ててみせます!

むぅぅ・・・神宮寺さんが奥様に報告した事は・・・。
私が天才メイドだと・・・。

なるほど・・・なるほど・・・あっ!

・・・なんと。
ふむふむ・・・んー、わかった!お任せください!

私が必ずやお役に立ちます!」
「いったい何の話だ?」
「隠したって無駄ですよ。私には全てわかるんです。
神宮寺さんは優秀な探偵ですが、今回の事件には手を焼いている!

・・・そして、こう考えたんです。
『今までの方法ではダメだ。新しい助手がいてくれれば!うむむ・・・』
そして神宮寺さんは思い出した!

あの美人のメイドは頭がキレる!
しかも彼女は探偵の才能がある。

彼女ならきっと信頼出来る!
どうですこの名推理!」
「・・・・・・・・・」

 


呆れて物も言えないとは、まさにこの事だな・・・。

 


「その想像力には敬意を表したいが、当然のごとく、はずれだ。
事件など起きていない。

それに俺は助手を必要ともしていない」
「事件は起きています。私たちの知らないところで・・・。
神宮寺さん、あなたはまだ気付いていないんですか?」

 

急に真剣な眼差しになった春菜に、俺は思わず口を閉ざした。


 

「・・・どういう意味だ?」
「あ、今のは『メイドさんは見た』に出てきたセリフなんですよ。
一度、言って見たかったんです」
「・・・・・・」
「あれ、神宮寺さん。

まさか『メイドさんは見た』を知らないんですか?」
「最近、テレビは見ていないんでな・・・」
「すごい!

よくテレビドラマってわかりましたね!」
「・・・ただの勘だ」
「どうせ、さりげなく見てるんでしょ?なんたって、人気急上昇中ですからね!
神宮寺さんも、本物の探偵になるために勉強しているんですね!」
「・・・何でもそうやって決めつけないでくれないか」
「またぁ、そんな事言って・・・。

いいんです、いいんです。
神宮寺さんも努力家なんですね」

 

やれやれ・・・。

 

「・・・ここにはもう用はない。

行くぞ」
「はーい、行きましょう!」
「・・・・・・」
「・・・って、どこに行くんです!」
「とにかく、付いて来い」
「はーい」

 

 


・・・


・・・・・・



大河原家を出たところで、ちょうど駐車場から出てきた車が俺達の目に飛び込んできた。


滅多に見る事のない、鮮やかな紫色のスポーツカーだ。

 

「こんにちは。神宮寺さんでしたわね?」

 

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礼子・・・。


哲司の妻か。


亜希とは正反対のタイプだな・・・。


親の勧めでなければ、まず哲司は彼女と結婚しなかっただろう。


女性に限らない事だが、哲司は昔から皆の目を引くような美しさや、ひっそりとした美しさにひかれるタチだった。

 


「この前はお話もできず、失礼致しました」
「少しは落ち着かれましたか?」
「ええ、おかげ様で・・・。
ところで・・・ 春菜はよくやっていますか?」
「と、言いますと?」
「この子はやる気はありますが、とぼけたところもありますから。
ご迷惑をかけていないかと心配で・・・」
「そうですね・・・」

 

春菜をつけるというのは、元々は礼子の入れ知恵だった訳だが、今や依頼主の静江の要望でもある。


単に邪魔だと切って捨てる訳にはいかないな。

 


「今のところは調査を進めるには若干、足手まといです」



「ギクッ・・・」



「そうですか・・・。

真にすみません」



「・・・しかし、調査の要領を掴んでくれば助かる人材になるでしょう」

「そうですか・・・はっきり言ってもらえてとても参考になりました」
「いえ・・・」
「もし春菜がそちらのルールを破るような事がありましたら、

遠慮なさらずに叱ってやって下さい」
「はい、わかりました」



「うぅ・・・」



「うちの春菜はきっとお役に立てると思いますので・・・。

出来る限り春菜を同行させてやっ下さい。
是非、よろしくお願いします」
「・・・わかりました」
「あ、お呼び止めして申し訳なかったですね」
「いえ」
「では失礼します・・・」

 





・・・

「神宮寺さん! 何ですか! 礼子様の前で!足手まといだなんて!」
「事実を言ったまでだ・・・でもちゃんとフォローしてやったじゃないか」
「プンプン!」

 

やれやれ・・・

 

「まあ、それはさておいて・・・。

ああ見えても礼子様、複雑な気持ちなんですよぉ」
「まあ、亜希に遺品を渡すという事を頼んだ哲司の気持ちを考えると、礼子の心境としては複雑だろうな」

「そうですよ!

私はよく礼子様と話しますけど・・・。

『哲司さんの望みなのだから叶えてあげたい』って・・・。
強くて優しい女性ですよぉ」
「ああ、そうだな・・・。
ところで、今、礼子とよく話すと言っていたが」
「ええ、最近は礼子様の気持ちを察して、毎日のように話していますよ!
私のおかげで礼子様も毎日元気です!」
「まさか俺の調査の事は話していないだろうな・・・?」
「・・・ふぇ?」
「・・・?」
「そ、そんな・・・話してませんよ! き、機密事項ですからね!」
「そうか・・・」
「・・・さぁ、どんどん行きましょう!」

 


やれやれ・・・。

 


「・・・ともあれ、亜希さんの件、なかなか難しいですねぇ・・・。
見つけ出したらすぐに事件解決と思っていたのに・・・」
「うむ、そうだな・・・。

それに関しては俺も読みが甘かったのかもしれない。

これからはもっと慎重に亜希に接しなくてはな・・・」
「ですね。

では、早速亜希さんの様子を見に行きましょうか?」
「今からか?」
「話をするなら、営業時間外の方がいいじゃないですか」
「・・・それもそうだな」
「では、けってーい! 神宮寺さん、託児所に行きましょう!」
「ああ」

 

 


・・・


・・・・・・


俺達は亜希に会うために託児所を訪れた。

 

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亜希はもう来ているんだろうか・・・。


託児所の様子を見てみよう。


ビルの隙間から垣間見える、歌舞伎町の狭い空はまだ明るい。


託児所は閉まっている時間だ。

 


「営業時間外は、寂しいところですね・・・」
「ああ・・・人気が全くないな」

 


もう少し、ここで粘ってみようか。

 

 

・・・


・・・・・・



「やはり、亜希はいないようだな・・・」
「そうみたいですね」

 

変わる事無く流れる静かな情景。


やはり営業時間である夜に来た方がよさそうだな・・・。


しかし、ここが駄目となるとどうするか・・・。

 


・・・ん?

俺の視界に一人の女性が飛び込んできた。


その女性は託児所の前を入念に掃き掃除しているようだ。

 


「神宮寺さん、亜希さんの母親じゃないですか?」
「・・・春菜、何を根拠に佐藤亜希の母親だと言うんだ?」
「目元がよく似ています!」
「俺は十中八九、託児所の関係者と見ている・・・まあ、俺も確実な根拠はないが」

「結局は運頼みって事ですね?」
「そうなるな」
「神宮寺さん、声を掛けてみて下さいよ」
「おい、春菜、その期待はなんだ?」
「ぐふふふ・・・神宮寺さんが間違えるところを見れるかもしれないじゃないですか」
「フ・・・じゃあ、早速声を掛けてみる」
「ぐふふふ・・・

 



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「・・・すみません。

この託児所の関係者の方ですね」
「ええ、そうですけど・・・」
「あの・・・」
「申し訳ありませんが、夜間のみの営業となっておりますので・・・」

 

どうやら俺達を客と勘違いしているようだ。

 

「いえ、子供を預けにきた訳ではありません」
「あら・・・ ではどういったご用件で?」
「初めまして、神宮寺と申します。

今日は佐藤亜希さんはまだいらっしゃらないのですか?」
「・・・亜希さんとは、どういったご関係で?」
「大学時代の友人でして・・・」
「そうですか・・・。

でも亜希さんは夕方からの出勤なんですよ。
あ、申し遅れましたが、私はここの経営者の林由香子と申します」

 


歳は40代の後半ぐらいだろうか。


外見通り、人当たりが柔らかく、和やかな性格の持ち主のようだ。


・・・ちょっと彼女に話を聞いてみよう。



「わざわざいらして下さったのに、申し訳ありませんね」
「いえ、こちらも突然訪ねて来ましたから」
「亜希さんにどういったご用件で?」
「こういうものですが・・・」

 

俺はそう言うと、林に名刺を差し出した。

 

「探偵・・・?
でもあなた先ほど亜希さんの友人だと・・・」
「ええ、成り行きで彼女に渡さないといけない物を届けに来ただけです」
「そうですか・・・。

そういえば昨日亜希さんが気が動転していてムゲに追い返してしまったと、申し訳なさそうに言っていましたよ・・・」
「そうですか・・・。

ちょっとお話をうかがってもよろしいでしょうか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
「ここにはどのくらいのお子さんが預けられるんですか?」
「そうねぇ・・・。

毎日まばらだけど、大人が一人二人で面倒見れるくらいかしら」
「そうですか・・・」
「人数はそれほど多くはありませんが、その分、子供達一人ひとりと向き合う事が出来ますからね。 かわいい子供達ばっかりですよ・・・」
「この託児所はいつ頃から・・・?」
「うーん、そうねぇ・・・。

もう10年くらいになるかしら・・・」
「そうですか・・・」
「もうこの託児所を始めて随分経つのね・・・最初は大変だったわ」
「ところで亜希は・・・」
「あっ、そうだ。

ちょっといいかしら?」
「・・・? はい」
「神宮寺さんは亜希さんとは友人と聞いていますが・・・。
それが本当かどうか確認させてもらってもよろしいですか?」
「ええ、もちろんです」
「では・・・亜希さんのフルネームは?」
「佐藤亜希です」
「亜希さんの年齢は?」
「28歳です」
「亜希さんの誕生日は?」
「・・・・・・確か、6月2日だったかな・・・」
「亜希さんの血液型は?」
「・・・たぶん、B型だったかと・・・」
「亜希さんの事・・・随分詳しいんですね」
「ええ・・・」
「・・・怪しいくらいに」
「・・・?」
「全部正解するなんて・・・怪しいです」
「ちょっと、待って下さい・・・」
「お引取り願います・・・」

 

しまった・・・まぐれとはいうものの、運が悪かった。

 


「・・・それには事情がありまして」
「事情、ですか・・・では、話してもらいましょうか・・・。
まず、名前を知っているのは当然でしょうが、年齢はなぜ知っていたのです?」
「昨日、木下智美さんからこの場所で亜希さんが働いていると聞いたんです」
「木下さん?」
「ええ、今は結婚して新島ですが・・・」
「あー、はい、はい・・・新島さんね」
「昨日彼女に会った時に改めて年齢について思い出したんですよ・・・。

亜希は智美とは同じ年齢ですし」
「そうね、それなら納得出来るわ・・・。

では誕生日を知っていた理由は?」
「亜希の誕生日は覚えやすかったんですよ」
「どういう事ですか?」
「ええ、俺の誕生日は2月6日なんです」
「・・・?」
「亜希の誕生日は6月2日・・・」
「あら、なるほど・・・」
「ええ、俺の誕生日の2月6日の、月と日にちの数字を逆にすると亜希の誕生日になる訳です。
そのため学生時代、彼女の誕生日を知った時に印象に残ってまして」
「そうねぇ、面白いわねぇ・・・。

では、血液型を知っていた理由は?」
「・・・俺が探偵だという事は、ご存知ですよね・・・?」
「え・・・?
あっ・・・そうだったわ。

神宮寺さんは探偵でしたね。
わかりました・・・神宮寺さんのいう事もごもっともです。
では、亜希さんについて話しましょう」
「ありがとうございます」
「亜希が働き始めたのは?」
「いつごろだと思います?」
「ちょっとわかりませんが・・・7、8年前では?」
「そこまでいかないわね・・・5、6年前くらいね」
「亜希について、どう思います?」
「神宮寺さんはどう思います?」
「彼女は真面目で、周りに迷惑を掛けるような人間ではないとは思いますが・・・」
「ええ、そうです。

とても真面目でいい人ですよ。
でも・・・」
「でも?」
「ちょっと暗いってイメージがあるわね・・・」
「それは・・・?」
「いえ、ただ・・・。

思い詰めた表情をする事が多くてね。
何かあったのだとは思うんだけど、何か知ってます?」
「いえ・・・」
「そう・・・」
「託児所の保育士としての働き具合はどうですか?」
「神宮寺さんはどう思います?」
「そうですね・・・。

過去の彼女から考えると、間違いなく真面目に働いているように思いますが」
「ええ、そうです。

子供の面倒見もいいですし、問題は全くありません」
「最近の様子はどうですか?」
「神宮寺さんはどう思います?」
「昨日の彼女を見る限りでは・・・。

明るく元気に過ごしているようには見えませんでしたが・・・」
「そうなのよねぇ・・・まだ若いんだから、元気があってもいいとは思うんだけど・・・」
「・・・あの、一つ聞いてもよろしいですか?」
「はい、何でしょう?」
「さっきから、こっちの質問を質問で返す事が多いんですが・・・。

何か意図はあるのですか?」
「あら、ごめんなさい・・・。

悪気はなかったのよ。
どうやら、癖になっているみたいで・・・」

 


・・・癖?

 


「癖、とは・・・?」
「ええ、子供と接する事が多いので・・・」
「・・・?

まだ、わからないのですが・・・」
「・・・そう?

小さい子供はわからない事は何でも聞いてくるでしょ?」
「ええ・・・」
「ですから、教える度にさらに質問してくるのよ・・・。
だから、質問されたら聞き返して、子供達はその質問の答えをどう思うのかを聞いてから、ちゃんとした答えを教えているのよ。

そうすれば想像力も高まっていいのではないかと・・・」
「なるほど、そうでしたか・・・。
最近、亜希さんについて気付いた事とかありますか?」
「そうね・・・そういえば昨日、亜希さん随分辛そうだったから『しばらく休んだら?』って言ったの。

でも、それは出来ないって言うのよ・・・。
毎日、子供達を出迎え、存分に愛してあげる事がせめてもの償いと・・・。
そう言っていたわ・・・。

亜希さんが珍しく意見を強く主張したので私・・・頷く事しか出来なくてね・・・」
「・・・償いとは?」
「・・・そこまではわかりません」
「そうですか・・・」
「・・・あら、もうこんな時間だわ」
「お忙しいところをすみませんでした・・・」
「いえいえ。またいらしてくださいね。では・・・」
「はい」

 

 

償い・・・か。


林の話を聞く限りでは・・・

 


・・・

「神宮寺さんへの償い・・・でしょうか?」
「春菜・・・俺に対しての償い?」
「間違いありませんね・・・」
「その自信がどこから来るのかわからないが、林の話を聞く限りでは子供が関係しているように思えるのだが・・・」
「・・・なるほど。

そっちの方が筋が通りますね」
「まあ、詳しい事まではわからないがな」
「うーん・・・」
「とりあえず、また静江に報告をしておくか」
「えぇー。また戻るんですか?」

「亜希の償いという言葉について、静江なら何か知っているかもしれない」
「でも『ゆうちゃん』の調査もあるじゃないですか!」
「そんな事は報告してからでも出来る・・・」
「うーん、確かに」
「そんなに大河原家に行きたくないのか?」
「そんな事ないですよ。

はい、はい、行きましょ、行きましょ。
フゥ・・・私、今日は何回お屋敷に行ってるんだろ・・・」

 


亜希の過去に関して調べる必要がありそうだな・・・。


それが哲司の遺品を受け取ろうとしない理由かもしれないのだから。


俺達はこれまでの経緯を報告するため、再び静江に会う事にした。


・・・。