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探偵 神宮寺三郎 白い影の少女【7】


・・・。



「あら、神宮寺さん。 どうしましました?」


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静江に亜希の事について聞いてみよう・・・。

 

「何度もすみません、改めてお聞きしたいのですが・・・。
亜希さんが頑なになる理由について、何か心当たりはありませんか?」
「さ、さあ・・・」
「亜希さんの口から『償い』という言葉が出てきたと聞いたのですが・・・。

心当たりは?」
「・・・。

全く、心当たりはありません・・・」
「そうですか」
「私達は少々強引に哲司を礼子さんと結婚させましたが、それはすべて哲司を想っての事でした・・・。
亜希さんには悪いとは思いますが・・・。
大河原家を継ぐ者にふさわしい女性を選んだつもりです」
「それが、礼子さんだと?」
「ええ・・・。
でも、亜希さんや哲司の事を今、改めて考えると・・・。
・・・少しお喋りが過ぎたようですわね。
すみません・・・。
今更こんな事を言っても、意味のない事でしたわね」
「・・・」
「とにかく、今は哲司の最後の願いをかなえてあげたいと強く思っております。
でも私共が頼れるのは、今や神宮寺さんだけです。
亜希さんに哲司の形見を届けて下さいますよう、よろしくお願いします」


静江は神妙な顔で深々と頭を下げた。


その様子からは静江の真剣な想いがひしひしと伝わってくる。


「お任せ下さい」



「神宮寺様、奥様の強い想いに応えるためにも、調査を続けましょう」
「・・・ああ」


・・・どうも静江には亜希が頑なになる理由について心当たりがありそうだ・・・。


だが、『償い』という言葉に対する反応は鈍かったな・・・、


静江が全てを知っているというわけでは、どうやらなさそうだ・・・。



「神宮寺さん、よろしくお願いします・・・」
「はい」





・・・


「神宮寺さん・・神宮寺さん・・・」


屋敷の廊下に出るなり、春菜が思い出したように俺を呼んだ。


「どうした?」
「私、大変な事を思い出してしまいました」


春菜は芝居がかった真剣な顔で、俺に何かを訴えようとしている。


この春菜の事だから、どうせまた何かの冗談を言うつもりなのだろう。


「実は私・・・神宮寺さんに報告しないといけない事がありました」
「・・・?」
「実は私・・・見てしまったんです」
「何をだ?」
「ああ、でも、これを話したら私は犯人に狙われて、殺されてしまうかも!」
「犯人? 何の犯人だ?」
「それは・・・えーっと、あれ?

なんの犯人でしょう?」
「・・・」


一気に信憑性が薄れたな。


やはり春菜の冗談か・・・?



「冗談に付き合ってる暇はないんだぞ」
「わかってます。大事な事なんですよ!神宮寺さんにとって今、一番知りたい事です!」


俺の知りたい事・・・。


まゆつばではあるが、一応聞いておいた方がいいか。


「それで、何を見たんだ・・・?」
「実は・・・私、見たんです。

奥様と旦那様の夫婦喧嘩を」
「・・・・・・」
「あ、馬鹿にしてますね。
あの二人が喧嘩をするなんて珍しいんですからね!」

 

全く、何を言い出すのかと思えば・・・。


やはり春菜は春菜だ。


期待した俺が愚かだったという事か。

 


「ゴシップに興味はないんでな。 また後にしてくれ」
「あ、違います。

問題はその内容なんです!

今朝の事ですけど、私が廊下の掃除をしていたら・・・。
急に怒鳴り声が聞こえてきたんです。 私がこっそり応接室をのぞくと・・・。

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旦那様と奥様が激しく口論なさってました。

私は廊下の掃除をするフリをして、その話を聞きました。

あ、安心してくださいね、バレるようなヘマはしてませんから。

私だって名探偵に仕える名助手なんですから、細心の注意を払いましたよ」

 


すっかり探偵気取りだな・・・。


まあ今は好きに言わせておこう。

 


「話の内容は?」
「慌てないでください。

それはあとで説明しますから」
「いや・・・それを先に説明してくれ」
「私の華麗な調査方法とかは知りたくないんですか?」


それを聞いていたら、おそらく核心に触れる前に明日の朝になってしまうだろう。


「ああ、それはすべてお前に任せているからな」
「うーん、せっかく臨場感溢れる情報をと思ったのに」
「いいから続けてくれ」
「亜希さんと哲司さんは、昔付き合っていましたよね。
でも二人は不釣り合いを理由に、別れさせられたんですよ」

 

それは俺も知っている事だ。

 

「それで・・・ここからが本題なんですが・・・。
二人を別れさせたのは奥様なんですよ」



その話は静江から依頼を受ける前に聞いた話だな・・・。


その事は当主の哲三も知っていたに違いない。


しかし、そうなると・・・。

口論になるような理由が他にもあったという事か・・・。



「口論になったのは、それだけが理由なのか?」
「さすが鋭いところを。

この話には続きがあるんですよ。
実は亜希さん・・・妊娠していたそうです」

「・・・!!」



・・・
俺は驚きのあまり、口を閉ざした。


亜希が妊娠していた・・・。


それは俺も初めて聞く事だ。


「奥様はそれを知っていて、二人を別れさせたんだそうです。
で、哲司さんが死んだ今になって後悔しているんだそうですよ。
なぜだかわかります?」


亜希が哲司の子を妊娠していた・・・。


その事で大河原家が今になって後悔しているのは、なぜだろうか。


・・・。



「跡取りがいなくなった・・・か」
「さすが神宮寺さん。

そうなんですよ・・・。
哲司様と礼子様のあいだには、子供が産まれなかったんです。
哲司様がお亡くなりになった事で、この家には跡取りがいなくなってしまったんです。
でも、もしも亜希さんの子がいたら・・・。
旦那様は今さら悔やんでも仕方ないっておっしゃってましたけど、ちょっと寂しそうでした。
・・・どうです?
私が命をかけて仕入れてきた、スペシャルな情報ですよ」
「ああ、参考になった」
「え、本当ですか?

私、役に立ちました?」
「ああ、今回はな・・・」
「えぇー、それじゃあいつもは役に立ってないみたいじゃないですか」
「ハハハ・・・」
「で、これからどうします?
やっぱりまた亜希さんのところですか?」
「いや、託児所が開くまでまだ時間がある・・・。
『ゆうちゃん』について聞き込みをしておくか」
「今日はどこにします?」
「そうだな・・・。
『ゆうちゃん』の聞き込みをしていて感じた事だが、やはり都市伝説という事もあってたくさんの人が『ゆうちゃん』を知っているようだ」
「そうです! 今や注目の的です!」
「今日は人通りの多い歌舞伎町周辺で聞き込んでみるか・・・」
「はーい、わかりました。
じゃあ、『ゆうちゃん』の調査に向かいましょう!」


人の多い繁華街で聞き込めば、ゆうちゃんについて何か知っている人間もいるかもしれないな。





・・・


・・・・・・



俺達は歌舞伎町へやって来た。


夜にもなれば、さらなる盛り上がりを見せる歌舞伎町だが、昼間でも十分活気がある。


早速、『ゆうちゃん』について聞き込みをしてみるか。


 

・・・


・・・・・・

 

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「さあ! 頑張って聞き込んでいきましょう!」
「ああ、これだけの人がいれば何かしらの情報は得られるだろう」
「さてさて、誰に聞きましょうか?」


俺は道に座り込んでいる男性に声を掛けてみた。


「すみませんが・・・」
「お、ニーチャン。 ちょっと金貸してくんねぇか?
ちと飲み過ぎちまってよぉ、もう金がねぇんだよなぁ・・・」


やれやれ・・・。


昼間から酔っ払っているのか。



「『ゆうちゃん』という、子供の幽霊ってご存知ですか?」
「ん? ゆうちゃん? もちろん知ってるぞぉ・・・。
ほら、あれじゃろ? ほら、えーっと、なんだ・・・。
・・・そうだ!

昨日行った店のかわいい姉ちゃんか?
ああ、そりゃユカちゃんか・・・」

 

駄目だな・・・。

 

「どうもありがとうございました」
「何だよ、もう終りか?

・・・じゃあな」


男性はふらつきながらも、人ごみの中へと歩いて行った。


「ホント、昼間からだらしない人ですね・・・」
「フ・・・そうだな」



俺達は一番街へ向かった。

 

 


・・・


・・・・・・


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アーケードの辺りは人通りが多く、ここを通る人々も様々だ。


ここでなら様々な人から話を聞けるだろう・・・。


早速、『ゆうちゃん』について聞き込みをしてみるか。



「ゆうちゃんを知らない人も結構、存在するんですねぇ・・・。
今時、そんな人は神宮寺さんだけかと思っていたのに」
「・・・当たり前だろう。
とにかく話を聞き込んでいくぞ」
「はいはい。
・・・やっぱりここを通らなきゃ歌舞伎町に来たって実感が湧きませんよねぇ」
「そうか?」
「ええ。

ここは絶対外せないポイントです。フフ・・・」


俺は街を歩く中年女性に声をかけた。


「すみません・・・」
「あら、何?」
「『ゆうちゃん』ってご存知ですか?」
「・・・? 知らないけど・・・その子が何なの?」
「いえ、知らないなら結構です」
「フン、何よ・・・」


女性はそう言い捨てると、アーケードをくぐり街の中へと消えていった。


「フン、何よ・・・だって」
「・・・」


俺は煙草に火を付けた。


車も人も途切れなく行き交っている。


こんなところで立ち止まって、煙草をくゆらしている俺はいかにも暇人だな。


俺達はアルタ前へと向かった。

 



・・・


・・・・・・


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新宿駅の近くにある事もあって、多くの人が待ち合わせの場所として使っている。


早速、『ゆうちゃん』について聞き込みをしてみるか・・・。



「あぁ・・・今日もCMがエンドレスに流れてる」
「・・・あまり物欲しそうな顔をするな。 こっちが恥ずかしくなる」

「だって、欲しい物がいっぱいあるんですもん!
文句を言うなら、神宮寺さんが買ってプレゼントして下さい!」
「・・・どうして、そうなる」


人でにぎわうアルタ前には、いつもとなんら変わりない情景が流れている。


通りがかる人も車も同じものは一つとしてないが、街の顔は何一つ変る事なくそこにあり続けている。


誰に訪ねようかと探していると、楽しそうに歩いていた三人組の女子高生と目が合った。


彼女達のような世代の方がこういう事には詳しいかもしれないな・・・。


「・・・・・・すまないが」
「えー、なになに、オジサン、何か怖いよ。
行こ、行こ・・・」
「・・・・・・」


少女達は逃げるように俺の前を去っていった。


「神宮寺さんは怖いんだって」
「まあ、仕方ない・・・場所を変えるか」



俺達はコマ劇場前へ向かった。

 


・・・


・・・・・・


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人通りの絶える事のないここでなら『ゆうちゃん』について何かしら情報を得られるだろう。


劇場前では中年の女性達が甲高い笑い声を上げている。


・・・その光景に何となく所在ないものを感じてしまうのは、男の性だろうか。



「劇場前にいる人達、何だか楽しそうですね」
「ああ、うらやましい限りだ」
「でも、探偵やってる方がずっと刺激的で楽しいと思いますよ?」
「変わった奴だな、本当に」


俺は暇そうに街をさまよう中年男性に声を掛けた。


「すみません」
「私に何か?」
「いきなりですみませんが、新宿で『ゆうちゃん』という子供の幽霊の話を聞いた事はありますか?」
「・・・ほー、子供の幽霊ねぇ・・・。
知らんねぇ・・・幽霊なんている訳ないし。 はっはっは」


男性はそう言うと、笑いながら去って行った。


「はっはっはっ」
「・・・ムッ」
「なかなか集まりませんねぇ・・・ゆうちゃんの情報」
「ああ・・・とにかく今はなるべく多くの人を当たっていこう」
「ふぁい・・・」




・・・


・・・・・・


俺達はもう一度アルタ前にやってきた。


・・・これだけの人がいても、なかなか思うように情報が集まらんな・・・。


だが、諦めるのは早い。


もっと人を当たってみよう。


今度はスーツ姿の男に声をかけた。


「すみません、この辺はよく来られるので?」
「ああ、この辺はよく来るけど・・・」
「『ゆうちゃん』ってご存知ですか?」
「ああ、知ってるよ。
何でもその子を見つけると一週間後に死ぬんだろ?
そんな事は有り得ないと思っても、ちょっと怖いよね」
「よく出る場所とかは?」
「うーん、新宿に出るって話は聞いた事があるけどねぇ・・・すまないね。
もっと若い子にでも聞いてくれよ。
じゃあ」


男性は申し訳なさそうにそう言うと、街の中へと歩いて行った。


「神宮寺さん、見つけたら一週間後に死ぬんですって!」
「ああ、色んな噂があるようだな」
「私、死にたくないよぉ」

 

ここでの聞き込みは十分だろう。


他の場所で聞き込んでみるか・・・。


 


・・・


・・・・・・


俺達は歌舞伎町へやって来た。


ここは一度聞き込んだ場所だが・・・。


まあ、いい。


聞き込んでみるか。


俺は街を歩く若い女性に声を掛けた。


「すみません・・・ 『ゆうちゃん』という子供の幽霊ってご存知ですか?」
「ゆうちゃん? 知ってる知ってる。天使様の事だよね?」

「ええ」
「それって常識だよねぇ。

お兄さん、その子を探してるの?」
「ええ、まあ・・・」
「あたしの友達が西新宿の8丁目の方で見たって言ってたのよ。
そのおかげで彼氏も出来ちゃったしぃー、いいなぁ・・・。
私もゆうちゃんを見つけて幸せを分けて欲しいよぉ」


・・・西新宿8丁目か。


「・・・そうですか、ありがとう」
「いいのよ、じゃあねー」


女性は上機嫌に手を振ると、街の中へと消えて行った。


「天使様だって!」
「ああ、相変わらずいろんな噂があるな」
「私も幸せになりたいよぉ・・・」


ここでの聞き込みはもう十分だろう。


他の場所で聞き込んでみるか。



・・・

「ちょっとずつですけど、有力な情報が集まってきていますね」
「ああ。 この調子で聞き込んでいこう」
「はーい」

 



・・・


・・・・・・


俺達は一番街に再びやって来た。


もう一度聞き込みをしよう。


・・・空振りも多いとは言え、この調子で地道に聞き込んでいこう。

 




・・・


・・・・・・


ここでは大した情報は得られなかった。



「つまんないですね・・・」
「まあ、そんな時もあるって事だ」
「場所を変えましょうよ!」
「ああ・・・」

 




・・・


・・・・・・


コマ劇場前に再びやって来た。


俺は街を歩く若者に声を掛けた。


「すまないが、『ゆうちゃん』という子供の幽霊の話を聞いた事は?」
「子供の幽霊? ああ、その子供の顔を見たら不幸になるってヤツだろ?
うーん、この辺よりももっと向こうの方に出るって聞いた事があるけど。
中央公園とか、その辺だよ。俺は会った事なんてないし、嘘っぱちだと思うけどね」


・・・新宿中央公園か。


「そうか、ありがとう」
「うぃっす・・・」


そう言うと、若者は歌舞伎町の中へと歩いて行った。


「いいですね、着々と情報が集まって来てますよ!」
「ああ、しかし、見つけない事には意味がない・・・」
「確かに・・・」

 




・・・


・・・・・・


他にもいくらか聞き込みを行ったが、大した情報は得られなかった。


今日、聞き込んで得た情報を今までの調査から考えて・・・。


『ゆうちゃん』は西新宿8丁目と新宿中央公園に現れるという事だ。


西新宿8丁目は熊さんが『ゆうちゃん』を目撃したところだ。


そして、新宿西小学校でも目撃証言があった・・・。


そう考えると、西新宿8丁目周辺に出没する事が多いようだ。


新宿中央公園も8丁目には比較的近い。


本当かどうかはわからないが、探す手掛かりにはなるだろう。


・・・

本当に『ゆうちゃん』が幽霊なのか。


未だにその疑問が頭から離れないのも事実だが、調べてみる価値はありそうだ。



・・・
そろそろ託児所が開く時間だな。


「神宮時さん、何、ボーっとしているんですか」
「・・・あ、ああ、すまない。

そろそろ託児所へ行こうか」
「はーい」


俺は次第に闇が広がり始める空を見上げると、託児所へと向かった。

 





・・・


・・・・・・


もう亜希が託児所に来ている時間だろう。


早速、中に入ろう。



・・・託児所に入るなり、半ばパニックになっている女性の声が聞こえてきた。


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「どうしよう・・・どうしよう!
一体、どこへ行ったの・・・? どこに・・・・・・?」


亜希はオロオロとするばかりで、託児所の中をあちらこちらへと歩き回っている。


その様子を子供達が遠巻きに不安げな顔で見つめている。


『どこに行ったの?』という亜希の言葉・・・。


そして、ここは託児所という事から考えて・・・。



「これは誘拐事件ですね!」
「春菜・・・誘拐事件とは随分大袈裟じゃないか?」
「いえ、むしろ大袈裟な方がちょうどいいくらいです!」
「何を根拠に・・・。
亜希の様子や言葉から子供がいなくなってしまったのだと思うのだが・・・」
「だから・・・誘拐ですね!」
「まだ誘拐と決まった訳じゃない。
とにかく、詳しい話を聞いてみるか」
「そうですね・・・」



・・・

「亜希、どうかしたのか?」
「ああ、神宮寺さん!大変なんです。 私が目を離した隙に・・・ああ、どうしたら・・・神宮寺さん、助けてください!
お、お願いします。 助けてください・・・」
「何があったんだ?」
「はい、実は・・・子供が・・・。

子供がいなくなったんです」
「本当か?」
「ちょっと用事があって、目を離した隙に・・・いつも外には出ないようにって言ってるのに・・・。
ど、どうしよう・・・どうしよう・・・」


亜希はだいぶ混乱しているようだな・・・。


「これは事件ね!」
「じ、事件・・・」
「私の推理によれば、これは・・・誘拐よ!」
「誘拐・・・そ、そんな・・・」
「誘拐でなければ・・・さらに深刻な問題に・・・」
「・・・・・・!!」


話を聞こうにも亜希は随分取り乱しているようだ。


ここは、まずどうしたらいいだろうか・・・。


「警察に連絡しましょう!」
「春菜・・・警察に連絡するのはまだ早い・・・。
まず、亜希を落ち着かせて、詳しい話を聞いてみた方がいいだろう」
「何でですか! 誘拐ですよ!」
「だから・・・誘拐と決まった訳ではない」



「亜希、落ち着いてくれ。

こいつの言っている事は全く気にしなくていい。
俺がすぐに見つけてやる」
「神宮寺さん・・・」



「何を言うんですか! 私の推理は完璧です!」
「ああ、完璧に・・・完全に・・・。

話をややこしくしている」
「そ、そんな事ありません!」



・・・春菜の事は放っておこう。


付き合うだけこっちが疲れる。



「も、もしあの子に何かあったら私はどうしたら・・・」
「心配するな。

子供はきっと無事だ。
まずは話を聞かせてくれ。

本当にいなくなったんだな?」
「え、ええ・・・私が目を離している間に・・・ああ、どうしよう・・・」
「子供がいない事にはすぐ気付いたのか?」
「いえ・・・しばらく経ってからです。
あっ、そう言えば・・・。
午後8時になる直前だったから、15分前ぐらいじゃないかと」
「8時になると何かあるのか?」
「ええ、午後8時からは追加料金を取る事になってまして、その前後は慌ただしくなるからつい目を離してしまって・・・」
「目を離していたのはどのぐらいの時間だった?」
「・・・5分・・・たぶんそのぐらいだったと思います」
「子供がいなくなってから、どのぐらい経つ?」
「詳しくはわかりませんが、それほど時間は経っていないはずです」
「よし、子供の特徴を教えてくれ」
「え、えーっと・・・」
「年齢、身長、着ていた服は?」
「年齢は5歳の男の子で、背は小さくて・・・それから黄色いトレーナーを着ていました。
その黄色いトレーナーが好きで、いつも同じ物を着ていたんです」
「写真はないか?」
「すみません、手元には・・・」
「そうか・・・。

何か荷物は持っていなかったか?」
「あ、そう言えば今日はカバンを持っていました」
「それは確かか?」
「はい。
しっかり持ってなさいとお母さんが言い含めていました」
「そのカバンはあるか?」
「え・・・ちょっと見てみます」


亜希は慌てて辺りを探した。


「ないようですね・・・」
上着は持ってなかったのか?」
「いつもお気に入りの上着を・・・
・・・あれ? そう言えばありませんね」
「最後に、その子供の名前は?」
「長瀬拓郎君です。

私は拓郎くんと呼んでいます」
「・・・なるほど。 わかった」



「それだけわかれば、もう見つかったも同然ね!」
「ほ、本当ですか?」


また、適当な事を・・・。


「メイド探偵、春菜の手にかかればこんな捜査は夕ご飯前よ!」
「メ、メイド探偵・・・?」



「亜希は託児所の中をもう一度探してくれ。俺達は外を探す。
とにかく落ち着いて、子供の行きそうな場所や隠れそうな場所を探すんだ」
「は、はい」



亜希の周りをどこか不安そうな目をした子供達が取り巻いている。


子供達は亜希の動揺にすっかり影響されてしまっているようだ。


「神宮寺さん! 早く拓郎君を探しに行きましょう!」
「ああ。ここは亜希に任せよう」



「神宮寺さん、お願いします・・・」
「ああ、任せてくれ」



俺達は託児所から消えた子供を探すべく、託児所を出て来た。


・・・

「さぁ、神宮寺さん。探しましょう!
どこから行きます?」
「そうだな・・・」


探すとしたら、託児所の周辺になるが・・・。


さて、どうするかな。


「託児所から忽然と消えた少年・・・。これは犯罪の匂いがプンプンとしますよ。
神宮寺さん! 大変な事にならないうちに、私達の手で助け出しましょう!」
「・・・」


・・・この辺りは亜希が随分探し回っただろうし、これからも探すだろう。


亜希に任せて、俺達は街を探しに行った方がいいな。

 


・・・


・・・・・・


俺達は託児所からいなくなった子供を探すため、新宿駅西口へやって来た。



「黄色いトレーナーを着た拓郎君という男の子を探すんでしたよね」
「ああ。 こんな時間に歩いている子供はそうはいないはずだ。
特徴に合う子がいたら、すぐにわかるだろう」
「ですね。頑張って探しましょう!」


夜にも関わらず、光に包まれた新宿駅西口。


その光に惹かれるように人々が集まっている。


この人ごみの中から子供一人を見つける事が出来るだろうか・・・。



・・・
周囲を探したが、やはり亜希から聞いた特徴に似た子供は発見できなかった。



「春菜、行くぞ」
「ちょっと、待って下さいよ。

あの奥とか気になるんですけど」
「・・・じゃあ、俺は先に行ってる」
「・・・ちょっと、待ってくださいよぉ!」

 


・・・


・・・・・・


俺達は淀橋署へやって来た。


しかし、『ゆうちゃん』と言い、ここ数日、ずいぶんと子供づいているな。


まあ、いい。


とにかく今は拓郎という子を探そう。


こんなところに子供はいるのか・・・。


念の為、探してみよう。

 



・・・


・・・・・・


やはり亜希から聞いた特徴に似た子供は発見出来なかった。


・・・熊さんはいるだろうか。


もしかしたら警察に保護をされているかもしれない。


それに協力を頼んでみるのも一つの手だな・・・。


・・・

警察署の中に入った。


果たしてここに子供はいるだろうか・・・。


保護されていればいいんだが。


周囲を探したが、やはり亜希から聞いた特徴に似た子供は発見出来なかった。


ここもいないか・・・。



「こんな広い街で子供を見つけるなんて無理ですよぉ」
「そんな事はない・・・諦めずに探すぞ」
「へい・・・。
でも、いなくなってからもう15分以上経ってますから、結構遠くまで行っちゃってるかもしれませんよ?」



「・・・ん?」


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「おお、神宮寺君じゃないか」
「熊さん・・・」



「熊野さん、またお会いしましたね」
「おお、君は・・・」
「春菜です!」
「おお、そうじゃった。春菜くんだったな・・・ところで、二人してどうしたんじゃ?」



「実は子供を探してるんだ」
「なぬ・・・!

もしかしてその子供は『ゆうちゃん』とか言うんじゃないだろうな!」
「いや、違う・・・託児所から消えた子供だ」
「何じゃ・・・びっくりさせるではないわ。

・・・・・・!!
・・・それは大変だな!」
「ああ、それでここで迷子の子供とか預かっていないかな?」
「・・・うむ。

確か今日、ここでは迷子の子供は保護していないはずじゃが・・・」
「・・・そうか。

わかった、ありがとう」
「・・・神宮寺君、ワシも協力するわい」
「いや、まだ完全に行方不明になったのかもわからない訳だし・・・」
「行方不明になったとわかった時にはもう遅いんじゃよ!

こういったのは早い対処が必要なんじゃ!」
「・・・そうだな。ありがとう」
「なに、かまわんよ」
「しかし、あまり大掛かりな事は・・・」
「ああ、わかっておる。

それで、子供の特徴を聞かせてもらおうか」
「ああ・・・。

五歳の男の子で、黄色いトレーナーを着ている。名前は長瀬拓郎君だ。」
「・・・うむ。わかった。

じゃあ早速・・・」
「すまないな・・・」
「ああ」


熊さんはそう言うと中へと戻って行った。


「熊野さん、カッコイイですね!」
「フ・・・俺たちも引き続き探すとしよう」
「はい!」

 




・・・


・・・・・・


新宿中央公園にやって来た


すっかり闇が支配しているせいか、子供を探すのは困難なように感じる・・・。


しかし、こういった所で遊んでいる可能性がある。


注意して探してみるか・・・。




・・・


・・・・・・


時々、ホームレスを見かけるくらいだ。


彼らに話を聞いてみたが、手掛かりはつかめなかった。


「神宮寺さん、何か嫌な予感がしますね・・・」
「急いだ方がよさそうだな・・・」
「はい」




・・・


・・・・・・


公園の南側にやって来た。


「ハァ・・・疲れてきた・・・」
「・・・」
「じょ、冗談ですよ!?

さあ、元気良く拓郎君を探しましょう!」



全く・・・。



・・・
俺は周囲を探したが、発見出来なかった。


人気が少ないせいで沈黙だけが漂っている。



「神宮寺さん? どうしたんですか?」
「いや、何でもない・・・もう少し粘ってみるか」
「はいよ・・・」



・・・


・・・・・・・


俺達は託児所からいなくなった子供を探すため、新宿西小学校へやって来た。


校庭には遊具もあり、子供がいてもおかしくはないが、こんな夜に遊びに来るだろうか。


・・・とりあえず探してみるか。

 


・・・


・・・・・・


やはり見つからない。


人の姿もない、他を探すか・・・。


「・・・あー、ダメ。

もう動けない・・・」
「このまま闇雲に探し回っても時間が過ぎるばかりだな・・・考え方を変えてみるか」
「・・・?・・・!!

まさか、子供など存在しなかった!?」
「・・・それはない」
「新宿の外を探してみましょう!」
「春菜・・・新宿を出て探すよりも託児所に戻ろうか」
「コラ! 神宮寺さん!

諦めるんですか!」
「いや・・・」
「全く、探偵の極意を私が教えてあげます!
ひとーつ!! 探偵はいかなる時も諦めるな!」


やれやれ・・・。


「ふたーつ!!

・・・あっ、待ちなさい!」

 



・・・


・・・・・・


俺達は託児所に戻って来た。


託児所に着くなり、亜希が歩み寄って来た。


「神宮寺さん、どうでした?」
「いや、見つからなかった」
「・・・そうですか」
「・・・実は聞きたい事があって戻って来たんだが・・・」
「・・・なんでしょう」
「母親は何か言ってなかったか?」
「いえ、特には・・・」
「全く関係ない事でもいい。

何か思い出せないか?」
「今日は早めに迎えに来るから、いい子で待ってるのよ・・・と。
本当にそれだけでした。
変なところはなかったんです。

いつも通りだったんですよ」
「その男の子はよく預けられるのか?」
「時々ですね。

時間もバラバラですし・・・」
「今日はいつまで預かっている予定だったんだ?」
「いえ、もうお母さんが迎えに来られる時間なんです。
時間は過ぎてるんですが、まだお母さんが迎えにいらっしゃらなくて・・・」
「母親はよく遅れてくるのか?」
「ええ・・・元々、ちょっといい加減なところがある方でして・・・。
ギャンブルが好きなようでつい熱中して時間を忘れてしまうと・・・
以前、話を聞いた事があります。
あっ、そうです・・・・」
「・・・?」
「『チャンスマン』によく行っていると・・・以前、そう話しているのを聞きました」
「店の名前か?」
「おそらく・・・」
「なるほど」


子供はその母親と一緒の可能性があるな。


『チャンスマン』・・・。
こんな名前の店は大体限られてくる。



「カジノですね!」
「春菜・・・カジノよりも身近な所があるだろう」
「・・・?」
「パチンコ店だ・・・。
女性でも気軽に入る事が出来るし、この新宿には多いからな」
「なるほど、さすが!
それに『チャンスマン』なんて名前の店はパチンコ店くらいですよね」
「春菜、行くぞ」
「はい!」



「・・・あの、どこへ?」
「確信はないが、とりあえずパチンコ店へ行ってみる」
「・・・?」
「すぐ戻る・・・」
「・・・あ、はい」

 



・・・


・・・・・・


俺達は託児所の近くにあるパチンコ店『チャンスマン』へやって来た。


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今日はこの店で大放出の感謝デーが開催中のようだ。


俺はさっそく店内を回った。


店内はそう広くはなく、所狭しとパチンコ台が並び盛大な音楽が流れている。


俺は席の間をぬうようにして子供の姿を探した。


いとも簡単に黄色いトレーナーを着た子供が退屈そうにしているのを見つけた。


この子は・・・。



「あ、三郎君ですよ!」
「三郎だと・・・? それは俺の名前だ」

「あっ!! ・・・テヘ」


何が『テヘ』だ・・・。


「確か拓郎君という名前だったはずだ」
「そう、そう、そうです!」




・・・
「ちょっといいかな」
「・・・・・・? なーにー?」
「拓郎君だね?」
「うん。 おじちゃんだれ?」
「君とお母さんを探しに来たんだ。 お母さんはどこなか?」
「んーとね、きょうはしょうぐんさまはだめだから、おさかなさんするって」
「そうか・・・」



将軍様? 魚?

「これだ・・・」
「なるほど・・・」
「あまり人のやっている台をジロジロ見るんじゃない」
「なるほど、なるほど・・・」


全く・・・。


「拓郎君、お母さんを呼んできてもらえないかな?」
「うん、いいよ」


男の子はパチンコのホールの中へと駆けて行き、一人の女性を引っ張るように連れて来た。


「どうしたの? 拓ちゃん・・・」
「申し訳ありませんが、ちょっといいですか?」
「な、な、何?」
「この子のお母さんで?」
「ええ、それが何か?
・・・・・・!!
まさか、この子が何か?」
「この近くの『ゆりかご』という託児所を利用なさってますね?」
「え、えぇ・・・」
「ひょっとして・・・。
託児所の方には黙って子供を引き取られませんでした?」
「あ・・・!

すみません。連絡を忘れてました。
追加料金になるので、その前にと思ったんですが・・・。
あまりにギリギリになった上、ちょうど託児所の方もいらっしゃらなくて・・・。
それで後で連絡すればいいと思って連れて来たんですけど、ついこのパチンコ屋に入ってしまって・・・」


・・・やれやれ。


「あの・・・あなたも託児所の方ですか?」
「いえ、俺は頼まれただけです」
「頼まれたって・・・ってまさかオオゴトに?」
「託児所の方が心配されておりますので、もう一度お越し頂けますか?」
「は、はい」



俺達は母親と男の子を連れて、亜希の待つ託児所へと戻った。

 


・・・


・・・・・・


「良かった・・・。

本当に良かった・・・。
見つからなかったらどうしようって・・・」


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「すみません。ご心配をおかけしてしまって。
後で連絡すればいいって思ってはいたんですけど」
「いえ、いいんです。

こうして無事だってわかったんですから・・・。
無事でいてくれるなら、それでもう・・・」



「亜希せんせー、どうしたのぉ?」




・・・
「今度からは私がいない時は、書き置きなどを残して行って下さい」
「はい・・・本当にすみませんでした。
ほら、拓ちゃん、帰るよ。 挨拶して」



「亜希せんせー、ばいばい。おじさんもばいばい」
「ばいばい、拓郎君。 またね・・・」



母親は男の子を連れて託児所を出ていった。



「神宮寺さん、ご迷惑をおかけしました」
「いや、いいんだ。 気にしないでくれ・・・」



「おお、神宮寺君」
「・・・あ、熊さん。 実は・・・」
「ああ、知っておるよ。 ここに来る時にすれ違ったからのう」



「・・・あの」
「ああ、すまない。

この人は淀橋署の熊野警部だ」
「・・・えっ!」
「子供を探している時、淀橋署に立ち寄ったんだ。
その時に事情を話したら協力してくれてな・・・」



「そ、そうだったんですか・・・ どうもすみませんでした」
「いいんじゃよ・・・それにしても無事でよかったのう」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、ワシはこの辺で・・・」



「ああ、ありがとう、熊さん」
「そのうち、飲みに行くよ。 手ぶらでな・・・」
「ああ、もちろんだ」



「ご迷惑をおかけしました」



「うわぁ、大きなクマさんだぁ!」
「ほんとだぁ、ほんとだぁ」



「ふぉふぉ・・・ 元気な子達じゃな」
「フフ・・・ ミナちゃんもタカシ君も失礼ですよ」
「ふぉふぉ、いいんじゃよ」



そう言うと、熊さんは子供達の視線を浴びながら託児所を出て行った。


託児所は先ほどまでの慌しさは姿を消して、落ち着いた空間に変わっていった。



「本当にありがとうございました。 神宮寺さんには、何とお礼を言ったらいいか・・・」
「大した事ではなくてよかったな・・・」
「はい・・・」
「子供の事を大事に思っているんだな」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「子供はとても好きなんです。でも・・・でも、私には・・・本当は子供の面倒を見る資格なんてないのかもしれません・・・」


・・・・・・資格か。


やけにこの言葉にこだわっているように思えるが・・・。


そうだ、今なら渡せるかもな。



・・・
「神宮寺さん! いまがチャンスです! 亜希さんに遺品を!」
「・・・わかっている、そうせかすな」


「これを・・・」


俺は哲司の遺品を差し出した


亜希はゆっくりと視線を落とした。


「無理にとは言わないが・・・哲司も受け取って欲しいと思っているはずだ」
「・・・。 すみません・・・」


やれやれ・・・参ったな。


しかし、今日は亜希も随分疲れただろうし、一日や二日で気持ちの整理がついたとは思えない・・・。



「貰ってくれるまで、ここで待ちましょう!」
「春菜・・・。
ここで待ち続けたところで、亜希の気持ちは変わらないだろう。
詳しい事情はわからないが、亜希の気持ちの整理がつくまで待ってみようと思う」
「ふぇ・・・? 何言っているんですか?
要するに、ここで待つって事ですよね!」
「違う、引き返すという事だ」
「何だ・・・もっとわかりやすく言って下さいよぉ」


やれやれ。


「無理強いをするつもりはない。

気が変わったらいつでも連絡をしてくれ」
「はい・・・。
今日はありがとうございました」


そう言って亜希は深々と頭を下げた。




「行きましょうか、神宮寺さん」
「ああ・・・」


俺は複雑な想いで託児所を出てきた。



「・・・・・・」
「どうした、元気がないな」
「ちょっと眠くなってきたし、そろそろ帰ろっかな・・・お腹も空いてきたし・・・」
「そうしてくれ。 俺はもう少し調査を続ける」
「え! まだ調べる事が!?」
「ゆうちゃんの事を調べないとな」
「なんだ、その事か・・・」
「興味がないなら、来なくてもいいぞ」
「行きますよ・・・」
「無理するな。俺も一人の方がやりやすい」
「行きますって!

・・・で、どこへ行くんです?」
新宿中央公園だ」
「また・・・そんなマニアックな所・・・」

 

マニアック・・・?


意味がわからんな。


・・・。