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目撃証言のある中央公園でなら、何か有力な情報を得られるかもしれない。
とにかく聞き込んでみよう。
「ゆうちゃんの正体・・・。 調べれば調べる程、謎めいてますね」
「少しは怖くなってきたか?」
「そ、そんなわけないじゃないですか! ゆうちゃんの一人や二人で!
私は探偵助手ですよ!?」
「フ・・・それは頼もしい事だな」
「うぅ・・・何か馬鹿にされてる」
・・・。
「あら、おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
「もう調査の方は終わったんですか?」
「いや、またすぐ出て行くよ」
「そうですか・・・先生、夜も更けてきた事ですし、なるべく早く調査を済ませてはどうですか?」
「ああ、確かにそうだな」
「先生、私が一緒に行きましょうか?」
「・・・そうだな。洋子君、調査を手伝ってくれ」
「はい、わかりました」
「えー・・・私は留守番ですか?」
「・・・ああ、頼んだぞ。疲れているだろう、休んでくれ。」
「ちぇ・・・わかりましたよ」
「そう、すねるな・・・また連れて行ってやるから」
「へいへい・・・」
やれやれ、すねてしまった。
「先生、中央公園には目撃証言がありますから、いろいろな方にお話を聞いてみる価値はありそうですね」
「ああ。これで実際の目撃者もいてくれれば、助かるんだが」
「地道に聞き込んでいきましょう」
・・・。
俺達は新宿中央公園へやって来た。
ゆうちゃんはこの中央公園の辺りでも目撃されているらしい。
真偽を確かめるためにも、聞き込みをしておいた方がいいだろう。
・・・ゆうちゃん。
昨日の白い影の正体について引き続き調べてみるか。
どうやら、正体はただの枯れススキというわけじゃなさそうだしな・・・。
この時間になると中央公園は人影がなくなる。
ホームレスはいるが、彼らは暗くなるともう眠りに落ちてしまう。
こんな状況では聞き込みは無理かもしれんな。
だがこの静けさこそ『ゆうちゃん』が出るには格好な時間とも言えそうだ。
公園を見回していると、俺はゆっくりと動く影を見つけた。
「・・・ん? あれは・・・」
「誰でしょうか?」
「ホームレスではないようだが・・・」
その影は中央公園へと消えていった。
「確かめましょうか」
「ああ、行くぞ・・・」
「はい」
俺の見つけたその影は、道の途中で止まったり道を外れたりしている。
まるで当て所なくさまよっているかのようだ。
・・・そしてまた中央公園へと消えていった。
「一体・・・何なんだ」
「とにかく、追いましょう」
「ああ・・・」
・・・。
俺は周囲を見渡し、必死に怪しい影を探した。
そして、ようやく俺の目が怪しい影をとらえた。
「あそこだ、洋子君」
「はい」
俺達が歩み寄ろうとすると、その影は再び中央公園へと消えて行った。
「影の向かった先は・・・西側だ。急ぐぞ、洋子君」
「はい」
・・・。
「見つけたぞ・・・」
俺はその影をようやく捕まえた。
「うわぁ!!」
「・・・? 誰だ」
「それはこっちのセリフですよ。あなた達でしたか・・・陰でコソコソ追ってきたのは・・・」
「ええ、まあ・・・」
「一体、何が目的なんです?怖いじゃないですか! 夜は特にここは物騒な所なんですから!」
「・・・すみません」
「・・・それで、あなた達はここで何を?」
「すみませんでした。俺達はここである人を探してまして」
まあ、人とは言えないものだが・・・。
「なるほど、そうでしたか・・・」
「失礼ですが、あなたはこちらで何を?」
「・・・ちょっと見回りをしていたところですよ」
「見回りというと、何を?」
「日課って言うんでしょうかねぇ。 まあこれも仕事の一環でしてね」
「見回りが仕事? 何をなさってるんですか?」
「ああ、申し遅れました・・・私は福祉局の荒川と申します」
「どうも神宮寺です」
よく見ると男の服には名札がついている。
名札には『東京都福祉局 荒川聡』と書かれている。
「福祉局の方でしたか。・・・という事は、ホームレスの見回りにいらしたのですね」
「ええ、そうです」
「少々、お尋ねしてもよろしいでしょうか。 お時間は取らせませんので」
「はあ、それは構いませんが、苦情なら役所にお願いしますね。・・・で、何が聞きたいんです?」
「見回りとは具体的にはどのような事を?」
「えっ・・・何か本格的に聞いてくるんですね」
「ええ、まあ」
「そうですね・・・ホームレスの人達の様子をうかがったり、相談に乗ったり・・・。見回りと言っても様々な事を行っています」
「ホームレスについて、何か思う事ありますか?」
「そうですね・・・皆さんいい人ばかりですよ。こうやってホームレスの方々もここで一生懸命、楽しく生活している訳ですから、僕みたいな人間はここには必要ないのかもしれません。でも、これも仕事のうちですからね・・・」
「『ゆうちゃん』って知ってますか?」
「『ゆうちゃん』・・・? 人気のアイドルとかですか?」
「いえ、違います。今、噂になっている・・・」
「・・・アイドル?」
「い、いえ・・・違います。都市伝説のようなものです。『ゆうちゃん』とは、新宿を徘徊する白い子供で、その子供を見ると幸せになると言われたり、不幸になると言われたり・・・。様々な噂があります」
「なるほど・・・白い子供・・・外国の子供ですかね?」
「いえ、そうではなくて、正確には白い服を着た子供です」
「あー、なるほど・・・」
「人によっては、その子供は幽霊と言う人もいます」
「幽霊・・・ねぇ」
「荒川さんは・・・」
「えっ・・・僕の事ですか?そうですね・・・最近はプラモデルにはまってますね・・・。最近は新しく発売された・・・」
「も、もう結構です」
「そうですか」
「それで・・・その、『ゆうちゃん』を見た事は?」
「うーん、白い服を着た子供なんていくらでもいますしね・・・」
「人によっては白い影のようにも見えるみたいです」
「なるほど、幽霊のセンが強いかもしれませんね」
「そうですか・・・。それと、主に出現場所は新宿のようです。そして、この新宿中央公園でも目撃されているようです」
「えっ・・・ちょっと、怖いじゃないですか」
「現れる時間は遅くなった夜だと聞いています」
「なるほど・・・幽霊が現れる時間ですね」
「え、ええ、そうですね。それで・・・ここで見た事は?」
「たぶん・・・見た事はないと思います」
たぶん?
「たぶん・・・とは?」
「いやー、幽霊は生まれてこのかた見た事はないですが・・・白っぽい影は見た事があるんです」
「それは・・・『ゆうちゃん』では?」
「でも、それはここじゃなくて西新宿8丁目の方ですから、『ゆうちゃん』ではありませんよ・・・」
「荒川さん・・・先ほど、主に新宿に出現すると言ったではありませんか・・・。実際に西新宿8丁目でも目撃されています」
「えっそうなんですか? ・・・!! という事は・・・」
「ええ、おそらく荒川さんが見たのは『ゆうちゃん』でしょう・・・」
「えっ! 僕、初めて見ましたよ! 幽霊なんて・・・」
この人は・・・。
人の話を聞かなくて、思い込みが激しい人だな。
「あっ、そういえば、この前なんてホームレスの人と子供が話をしてましてね・・・。小さな子は変な偏見もなくていいですね。微笑ましく思いましたよ」
「子供・・・その子供と話していたホームレスとは?」
「・・・そうですね。どんなんだったかな・・・すみません、思い出せそうにないです」
「そうですか・・・微笑ましい光景とは?」
「ええ、何か愛を感じましたね・・・。ホームレスの人と子供が仲良く話しているなんて・・・」
「仲良く・・・? それは本当ですか?」
「ええ・・・」
「ホームレスと話していた子供とは?」
「ええ、その子なら覚えてますよ。後ろ姿だけですが・・・小さくて、白い服を着ていて・・・」
・・・!
「それは・・・『ゆうちゃん』では?」
「いえ、違いますよ。 普通の子供でしたよ・・・」
「その子供の特徴は?」
「後ろ姿だけでしたからね・・・白い服くらいしか・・・」
「そうですか・・・その光景を見た場所は?」
「ええ、この中央公園を見回っている時です」
「なるほど、その光景を見た時間は?」
「そうですね・・・結構、夜遅くで・・・11時とかですかね」
「なるほど・・・荒川さんの話を聞く限りでは、どう考えても、その子供は・・・。
『ゆうちゃん』のように感じるのですが」
「えっ・・・ 違いますよ。
あの子は普通の子供ですよ」
「では、それほどまでに否定する理由を聞かせて下さい」
「ええ・・・。
まず『ゆうちゃん』は子供で白い服を着ている・・・」
「ええ、そうですね」
「『ゆうちゃん』は幽霊とも言われている・・・」
「ええ、そうですね・・」
「僕が見た子供は確かに神宮寺さんの言う通り、『ゆうちゃん』に特徴が似ている・・・」
「ええ、そうですね・・・」
「しかし、その子供はホームレスの人と話していたんです。幽霊が人と話す訳がない。しかも、ホームレスの人と子供はとても楽しそうでした。
幽霊と話す事すら出来ないのに、楽しむなんて・・・。有り得ない事です」
「いえ、違います・・・」
「えっ・・・何で、何で・・・?」
――『幽霊が人と話す訳がない・・・』
これは一概に間違っているとも、正しいともいえない・・・。
しかし。
―――『幽霊と話す事すら出来ないのに、楽しむなんて・・・有り得ない事です』
この意見はある事が前提で話している・・・。
・・・そう。
『ゆうちゃん』は幽霊だという事だ。
「荒川さん・・・『ゆうちゃん』が幽霊だと誰が言ったのですか?」
「えっ・・・? それは神宮寺さんですよ?」
「いえ、俺は『ゆうちゃん』を幽霊と言っている人もいると言っただけです」
「えっ・・・! じゃあ、幽霊じゃないんですか?」
「ええ・・・もしかしたら、ホームレスと仲良く話す白い服を着た子供が『ゆうちゃん』かもしれないのです」
「なるほど・・・」
「そこでもう一度、思い出してもらいたいんですが・・・」
「はい、何でしょう?」
「西新宿8丁目で白い影らしきものに出会ったとか?」
「あー、はい、はい・・・」
「その白い影と比べて、その子供に違いはありますか?」
「・・・うーん。確かに似ていますね・・・」
「そうですか・・・わかりました」
「でも、これって僕が『ゆうちゃん』に二度も会っていると言う事ですよね」
「ええ、そうなりますね・・・」
「そうか、そうか。早速、同僚に自慢してきます。では・・・」
「はい・・・どうもありがとうございました。すみませんでした。お仕事の邪魔をしてしまって」
「いえいえ、もう帰るところでしたのでね。それでは・・・」
荒川は再び怪しい影を作り、新宿駅の方に向かって歩いて行った。
「荒川さんの影、やはり怪しい影に見えますね・・・」
「ああ、確かに・・・」
・・・。
「あれ、荒川さんは帰っちゃったのかい?」
突然、俺達の目の前に中年の女性が現れた。
どこから出てきたのかと思ったが、どうやら近くで休んでいたホームレスのようだ。
「あらら、きれいな人だねぇ。アタシの若い頃にそっくりだ。いい女になるよぉ」
女性は洋子君の方を見て軽やかに笑った。
「きれいなだけじゃなくて、優しくて思慮深い、なかなか良い人じゃないか。ああ、すまなかったね。邪魔なんてするつもりはさらさらないよ。じゃあね、がんばんな」
女性は軽やかに笑うとさっさと行ってしまった。
何を頑張れというのか・・・。
「彼女はここで寝泊まりしている訳ではないのですね」
「そのようだな。荒川も言っていたが、ホームレスはあちこちで寝場所を持っているらしい。彼女も多分、どこかに自分の寝場所を決めているんだろうな」
「これからどうなさいます? ゆうちゃんの調査をもう少し続けますか?」
「昨日の小学校に行ってみよう。何かあるかもしれん」
「わかりました。小学校の辺りに行けば、またあの白い影と会えるかもしれませんね・・・」
「ああ」
「もしかしたら今日こそ、あの影の正体が分かるかもしれません」
「それは期待しすぎじゃないか? だが、可能性なら確かにあるな」
「ええ。頑張って探しましょう」
俺は新宿西小学校へ向かう事にした。
・・・。
学校まで来たが、またこの辺りで例の白い影を発見できるだろうか・・・。
「夜の学校の雰囲気って独特ですよね・・・」
「ああ、怪談の舞台になるのもよくわかる」
「そうですね・・・昼と夜の姿の落差が余計に想像力に訴えるのかもしれませんね」
俺達は小学校の中へと足を踏み入れた。
・・・。
・・・ん?
「あ・・・」
「・・・貴之、お前はまたこんな時間に一人で・・・」
「けっ、なんだよ。またお前かよ・・・。でも今日は一人じゃないぜ!」
「そういうのはヘリクツって言うんだ」
「大人って都合が悪くなると、すぐヘリクツって言うよな」
「貴之君と一緒にいるのは塾の友達でしょうか」
「洋子君・・・。貴之の塾の友達というよりかは、この学校で会っている事から同級生と考えた方が自然だろう」
「確かにそうですね」
・・・ん?
「そこのメガネの子・・・?」
「た、貴之・・・!こ、この人は・・・先生だ!」
やれやれ・・・。
「何だ、知也、こいつを知っているのかよ。それに、先生って何だ・・・?」
「なるほど、知也というのか・・・。この前は何かわからんが、すまなかったな」
「・・・いえ、いいんです」
「てめぇ、知也になんかしやがったのか!」
「まあ、落ち着け・・・ちょっと話をしただけだ」
「フン・・・信用出来ねえな」
・・・今日もまた会ったか。
しかも、昨日よりメンバーが増えているとは。
「俺は神宮寺三郎だ。貴之と、君は知也だったな・・・」
「はい、杉野知也です」
「・・・で」
「あたしは宮内美鈴。 二人の面倒を見てるの」
「面倒ってなんだよ。 俺をガキ扱いすんなよな」
「あら、あんたがクラスで一番ガキじゃないの」
「てめぇ・・・」
「二人共やめなよ。こんなところで喧嘩しないでよ」
「今日も幽霊を・・・『ゆうちゃん』を探してるのか?」
「当たり前だろ。 俺が捕まえてやるんだよ」
「何よカッコつけちゃって。幽霊が怖いとか言ってたくせに」
「なっ! あれは別の話だろ!」
「へぇー、そうだったかしら。無理して幽霊なんか探さなくても、誰も今さらあんたを弱虫なんて笑ったりしないわよ。だって、あんたが幽霊が怖くて夜も眠れないようなガキだって、みんなもう知ってるもの」
「てめぇ美鈴!嘘ばっか言ってんじゃねーよ! 俺は幽霊なんか怖くない。この手で捕まえてやるよ! 」
「あんたに捕まえられるなら、あたしは幽霊と友達になるわ」
「へー、そっちこそできるもんならやってみろよ!」
「二人共やめてってば!」
俺は三人のやりとりを見つめ、ため息をついた。
「ねぇ貴之。この人達・・・」
「俺は知らねぇけど・・・」
「でも貴之の知り合いだって・・・」
「この間ちょっと会っただけだよ」
「じゃあ、全然知らない人なの?」
「なんだ、悪いか!」
「・・・」
「どうしたのよ、急に黙り込んじゃって」
「・・・そう言えば、知也。さっきこいつを先生って言ってたよな? どういう事だよ」
「この前会った時、一緒にいる女性の人が先生って言ったんだ」
「げっ、まさか・・・」
「確かにまずいわね・・・」
「やっぱりまずいよね・・・」
「とりあえず、どこの学校の先生なのか、聞いておく必要があるな・・・」
「そうね。じゃあ、知也が聞きなさいよ」
「な、何で僕が・・・」
「だって、前に話した事あるんでしょ!」
「・・・でもぉ」
「わかった、俺が聞くよ」
「おいおい、いつまで話しているんだ」
「おい、神宮寺・・・」
・・・!!
バシッ!!
「何だよ、美鈴! 痛てーじゃねーか」
「バカ、先生を呼び捨てにしてどうするのよ!」
「いいじゃねーかよ。そんな細かい事」
「もう、私が聞くわ・・・神宮寺先生。先生はどこの学校に勤めていらっしゃるんですか?」
「・・・ん? 何の事だ?」
「ほらみろ、丁寧な言葉を使うとあいつには通じないんだよ!」
「バカね、そんな訳ないじゃない!」
「もしかして・・・」
「・・・?」
「神宮寺さん。 神宮寺さんの職業は先生じゃないんですか?」
「・・・先生? そんな職業についた覚えはないが・・・」
・・・!!
「ったく、何だよ、知也! 違うじゃねーかよ!」
「ホント、恥ずかしいわ!」
「じゃあ、神宮寺、仕事は何だ?」
「どこにでもあるような仕事だ」
「でも、なんで幽霊なんか探してるんだよ」
「え、この人達も幽霊を探してるの?」
「そうだよ。だから昨日会ったんだよ」
子供達は好奇の目を、何の遠慮もなく俺達に向けている。
やれやれ・・・。
だから、子供は苦手なんだ。
「大人が探すようなモンじゃないだろ? 何が目的だよ。本当の事を言えよ」
「ちょっと人から頼まれてな」
「それでこんな場所で幽霊探しかよ。 ご苦労なこった」
・・・!!
「ねぇ、貴之!」
「白い・・・影だ!」
俺は慌てて貴之達の目線を見た。
白い影は校庭を横切り、そのまま路地へと向かっていく。
「知也!美鈴! 追いかけるぞ!」
「え、で、でも・・・」
「洋子君、追うぞ」
「あ、はい・・・」
・・・。
「こっちだ、早く!」
「ま、待ってよ貴之、大人がいるんだから任せようよ」
「バカ言うなよ。あんな連中なんかに負けるか。俺達が捕まえるんだよ!」
「ま、待ちなさいよ・・・。あたしかけっこは・・・はぁはぁ、もう息が・・・」
「そんなチャラチャラした格好してくるからだろ? あ、あっちに曲がった! 行くぞ!!」
「ファッションって言ってよ・・・もう、これだから男って!」
「洋子君、ついて来れるか?」
「大丈夫です」
貴之達を追いかける俺の後を、洋子君は懸命についてきている。
普段ヒールの高い靴を履かない事が功を奏したようだ。
しばらく走ったところで俺は白い影を追うのを止め、横の細い道へと入った。
このまま後を追っても仕方ない・・・。
ここは・・・。
「今から追っても間に合わない。 ・・・こっちだ」
「えっ、でも先生・・・そっちは・・・」
この道なら上手く行けば貴之達より先に、あの白い影に追いつけるはずだ。
俺達は細く曲がった路地を全力で走り抜けた。
・・・。
「・・・あっ!」
「えっ・・・!」
「どうして神宮寺さん達が?」
狭い路地で出会った俺達は互いを見てそこに立ち尽くした。
「どういう事だ・・・。あの影が消えた・・・」
これで捕まえたと思った俺達を嘲笑うかのように、白い影は忽然と姿を消した。
「ほ、本物だ・・・。本物の幽霊なんだ・・・」
「う、うそでしょ・・・」
俺達は周りの誰もいない、そして逃げ場すらない路地で呆然と立ち尽くした。
「や、やっぱり幽霊だったんだ!」
「ほ、本当に幽霊だったんだよ。で、でも、どうしよう。僕達呪われるかも!」
「フン、バカ言わないでよ。そんな事ある訳ないでしょ?」
「でもいなくなったじゃないか、ねぇ貴之」
「お、俺だってわかんねぇよ・・・。で、でもよぉ」
「でも・・・どうしたの?」
「何か拾ったんだよ・・・。これって・・・」
「貴之、見せてみろ・・・」
「ヤダよ。これは俺が拾ったんだ」
「俺が見れば何かわかるかもしれないだろ」
「そう言って取り上げる気だろ! 大人っていっつもそうだもんな」
「貴之、そうだよ。信用しちゃ駄目だからね」
「絶対渡しちゃ駄目よ」
「当たり前だろ。絶対に渡すもんか!」
貴之は拾ったそれを両手でくるみ、俺からは一切見えないようにして後ろ手に隠した。
これは厄介な事になった・・・。
下手に言い寄るのは逆効果になりそうだな。
今の貴之は興奮しているせいか、ムキになっている。
ここは少し時間を置いた方が良さそうだな。
「・・・わかった。じゃあ、なくすなよ」
「え・・・な、なんだよ、気味悪いな。どうせ何か企んでるんだろう?」
「それは貴重なモノなのかもしれない。わかったな」
「フン、何だよ・・・行こうぜ」
「あっ、貴之・・・」
「もう、自分勝手なんだから!」
貴之達は俺達から逃げるように、足早に去って行った。
一体、あの影はどこに・・・。
本当に煙のように消えてしまったというのか?
まさか・・・。
「あの影がここにいたというのは確かなように思いますが・・・」
「ああ・・・問題はどこに消えたのか。そしてどうやって消えたのか、だ」
さっきの白い影・・・。
消えた理由が何かしらあるはずだ。
「早速捜索してみましょうか」
「ああ、そうだな・・・」
一体、あの子はどこに消えたんだろうか・・・?
塀と家の壁の間がずいぶんと狭いな。
仮にこの塀をよじ登れたとしても、体を入れられる場所がなさそうだ。
道路にはさすがにもう落とし物はしていないようだな。
人家の塀のすぐ近くに電柱があるか・・・。
まさか、ここを伝ってこの家の中に・・・?
いや・・・特に足がかりもないし、子供では難しいだろう。
奥の左側の方の道に行ってみる。
この道は行き止まりになっているな。
だが、とりあえず調べてみよう。
アパートの塀だ、結構な高さがある。
ここは俺でもよじ登るのは辛いな。
子供では例え近くのゴミ箱を台にしてもよじ登る事は難しいだろう。
電柱には『ちかん・ひったくり注意』と書かれている。
最近ではこの手の看板がないところの方が珍しくなってしまったな・・・。
ゴミ箱か、まさか、この中に潜んでいるという事は・・・。
俺は念のため、ゴミ箱の蓋を開けてみた。
しかし、そこにあるのはただの空き缶だけだった。
粗大ゴミが捨ててあり、壊れた自転車や家具などがある。
子供が隠れられそうなスペースは・・・ないようだな。
この金網の向こうには公園があるようだ。
よじ登る事はそうは難しくないだろう。
しかし、あんなわずかな時間でここを登るきる事ができるだろうか・・・。
その辺りが疑問だな。
もう一つの道の方に行ってみよう。
民家の木戸だ・・・裏側からカンヌキか何かで閉められているようだな。
よじ登るにしても子供では辛い高さだ。
道路には特に何も落ちていないな。
金網の向こうには空き地が広がっている。
障害物が特にないのと、街灯のおかげで比較的遠くまで見晴せるが・・・。
人影は全く見当たらない。
これで大体この付近を一周した事になるな・・・。
左側の道へ行ってみるか。
何か見つかるだろうか。
廃墟の塀だ。
最近では珍しいトタン塀だな。
あまり強度がない分、ここをよじ登る事は難しいだろう。
アパートの塀はコンクリートで作られている。
近くに電柱はあるが・・・子供ではここをよじ登る事は難しいだろう。
ごみ箱か、まさか、この中に潜んでいるという事は・・・。
俺は念のため、ゴミ箱のフタを開けてみた。
しかし、そこにあったものは生ゴミだけだった。
道路には・・・特に何も落ちてないな。
金網の向こうには空き地が広がっている。
障害物が特にないのと、街灯のおかげで比較的遠くまで見晴せるが・・・。
人影は全く見当たらないな。
張り紙には『犬を探しています』と書かれている。
「あら・・・この方、犬を探されているんですね」
「ああ、そのようだ」
「先生。よろしければですけど・・・」
「ああ・・・今の仕事が終わったら、ここに連絡をしてみようか」
「はい! ・・・先生。これだけ探していないという事は、まさか・・・」
「いや・・・まだ、そう決めつけるのは早いだろう。ざっとしか見回っていないんだ。何か見逃している点があるのかもしれない」
「そうですね・・・。では、今度はもっと念入りに調べてみた方がいいですね」
「ああ。最初の所に戻ろう」
「はい」
俺達は再び最初の地点まで戻ってきた。
俺はかがみこんで道路をよく調べてみた。
すると・・・。
これは・・・ほんの少量だが、地面に血がついている。
まだ新しい・・・あの白い影のものか?
ここで転ぶなりしてすりむいたのかもしれんな。
しかし、血となると・・・やはり正体は人間か?
何にしても、確実にこの道を通ったという事がわかったな。
この先にある左側の方の道を調べてみよう。
・・・。
俺達は行き止まりになっている地点まで再びやってきた。
ゴミ箱の中はさっき調べたが・・・。
ん・・・?
俺はゴミ箱近くの壁に落書きがある事に気付いた。
どうやら熊のようだ。
いかにも子供が描いたといった感じだが・・・。
この辺りに住む子供が描いたんだろうか。
もしかしたら、さっきの白い影が・・・。
可能性はあるな。
塀をよじ登って、アパートの敷地内に入ったという事は考えなくていいだろう。
恐らく不可能に近いはずだ。
俺はかがみこんで粗大ゴミを一つ一つ調べていった。
すると・・・。
これは・・・どこかで見たようなデザインのキーホルダーだな。
正直、非常に趣味が悪い感じがするが・・・。
せっかくだ、一応拾っていくか。
金網に、特に抜けられそうな穴などはないな。
となると、ここをよじ登るしかないわけだが、あんなわずかな時間で小さな子供がここを登りきる事はできないだろう。
やはり、ここで身を隠したと考えるのは難しいな。
もう一つの道の方を調べてみよう。
・・・。
俺達は一旦道を引き返してから、再び左に曲がった。
木戸の下の方に少し隙間があるが・・・。
どんな小さな人間でもまず通り抜けられないサイズだな。
プレートだ。
ここの住所が書かれている。
今は特に必要はないが・・・道に迷った時にはありがたいものだな。
道路には・・・特に何も落ちてないな。
こちらは人家の木戸だ。
・・・開かないな、裏側からカンヌキか何かで閉められているようだ。
少し滑りやすい材質でできている。
ここをよじ登るのは、難しいだろうな・・・。
・・・俺は道路にかがみこんで、地面に目をこらした。
すると・・・わずかだが、ぬれている所があった。
そして、その付近にだけ足跡がついていた。
小さな足跡だな・・・まだ子供のものだ。
まだ跡が乾いていないという事は、ごく最近ここを通ったという事だろう。
例の白い影がこの足跡をつけた可能性は高いな・・・。
よし・・・この先の道に行ってみよう。
これでこの付近をまた一周した事になるな。
さて・・・廃墟の塀だ。
隙間があるな、この塀の中にあるのは廃墟だ。
中を通っても誰にもとがめられないだろう。
もしかしたら・・・。
「先生、何か見つかりましたか?」
「ああ、ここに小さな抜け道がある」
「・・・確かに、ありますね。でもちょっと小さすぎて子供でも無理かもしれませんね」
「まあな・・・でも、どちらにせよ証拠はない」
「そうですね・・・」
「これ以上、ここにいても仕方ない。今日はもう戻る事にしよう」
「はい」
・・・事務所に戻るか。
しかし、あの白い影の存在がなかなか頭から離れん。
まいったな・・・。
・・・ん?
・・・。
それは幽霊や白い影と言うより、白い幻のような子供だった。
たたずんだ子供は俺をじっと見つめていた。
その子供は俺の視線に気付くと、ゆっくりと姿を消した。
どこか悲しそうに感じたのは、俺の気のせいだろうか・・・。
「先生・・・子供でしたよね?」
「ああ・・・どうやら戻って来たようだ。しかし、なぜ・・・戻ってきたのか?」
まさか貴之が拾った物に関係があるのか・・・?
「おそらく何らかの理由があるはずだ」
「・・・それは?」
「考えられる事は一つ・・・落し物をしたのではないか?」
「まさか・・・」
「ああ。貴之が拾ったものを探しに来たのだろう。よほど大切なものらしいな。しかし、なぜ逃げるのか・・・。これはまだわからんが、何かしら理由があるはずだ。・・・また消えてしまった訳だし、今日はおとなしく帰ろうか」
「はい、わかりました」
・・・。
「ふぁい、お帰りなさい」
「何だ、寝てたのか?」
「目を閉じて考え事をしていただけです・・・」
「・・・フ、まあ、いい。今日の調査は終りだ」
「お疲れ様です」
俺は今日、一日の調査を洋子君と春菜と共にまとめてみた。
「・・・私は亜希さんが過去に妊娠していたなんて驚きました」
「ああ、その事も含めて亜希にはまだ聞かねばいけない事がたくさんある」
「でも亜希さん・・・話してくれるでしょうか?」
「しかし、それを聞き出さないと先には進めない気がする」
「そうですね・・・」
「そして今日は意外にも『ゆうちゃん』についての調査が大きな進展をみせた・・・」
「そうですね、でも本当に『ゆうちゃん』は子供だったのでしょうか?」
「子供の幽霊だったのかもしれない・・・」
「・・・やめて下さいよ」
「ハハハ、冗談だ。今日出会った白い影は人間の子供だろう。しかし・・・『ゆうちゃん』についてはまだわからない事は多い。貴之が拾った物も気になるしな」
「先生、いつの間にか『ゆうちゃん』の調査も必死になってますね」
「ああ、まあな・・・。思った以上に進展してしまったし、何か気になってな・・・」
「フフフ、そうですか・・・」
「いい事です!」
「・・・しかし、今後のゆうちゃんの調査は、ゆうちゃんが人間であると分かった訳だから下手に聞き込みをして、噂に惑わされる事は避けたい」
「・・・という事は?」
「ああ、とりあえず、ゆうちゃんの調査は貴之の拾った物を確認するまで保留にしておこう・・・。ゆうちゃんがわざわざ戻ってくるほど大切な物のようだからな・・・。何なのか確認しておきたい」
「・・・なるほど」
「じゃあ、今日は二人ともお疲れさん。ゆっくり休んでくれ」
「はーい!」
「はい、お疲れ様でした」
「遅くまで、すまなかったな」
「いえ」
「じゃあ、洋子さん。 途中まで一緒に帰りましょ!」
「フフフ、そうね。では、先生、失礼します」
「神宮寺さん、バイバーイ!」
「・・・ああ」
洋子君と春菜が帰った後の事務所には、歌舞伎町の遠い喧騒がやけに大きく聞こえた。
俺はその音を子守唄にしながら、ゆっくりと眠りに落ちた。
・・・。