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探偵 神宮寺三郎 白い影の少女【9】


・・・。




3月14日 大河原家



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「礼子様、おはようございます!」
「あら、どうしたの・・・?

ご機嫌ね。
何かいい報告でもあるのかしら?

もっともアナタの事だから、またドラマの話かしら・・・」
「うふふふ。

この私を見くびらないで下さい。
私、今回の事件に関する重大な秘密に気付いたんです」
「あら、どういう事?」
「この間、ゆうちゃんの話をしましたよね」
「・・・またあの幽霊の話?
その話はもういいわよ」
「礼子様、違いますよ。これはそれに関する事なんです」
「・・・?」

「私の名推理によれば・・・あの『ゆうちゃん』は・・・なんです!」
「・・・・・・」

「どうです? びっくりしたでしょう?」

「・・・そんな馬鹿馬鹿しい事を考えてたの?
そんな妄想をする暇があるなら、神宮寺さんから離れないようにしなさい。
・・・ところで、これはお義母様には報告したの?」
「いえ、先ほどから奥様を探しているんですが、見つからなくて・・・。
それに、あくまで私の推理ですからね・・・」
「じゃあ、なぜ私にそんな事を・・・?」
「この名推理を誰かに聞いて欲しくて・・・」
「フフフ、わかったわ。

でも、さっきの話はお義母様にはまだ話さない方がいいわね・・・」
「どうしてです?」
「確証がない事を言ったって、怒られるだけでしょ?」
「うぅ・・・確かに・・・」
「だから、あなたは早速、神宮寺さんのところへ行きなさい」
「はぁーい、すみませーん・・・」

 



3月14日 神宮寺探偵事務所



いつもと変わらぬ同じ朝の情景が窓の外を流れている。


俺はコーヒーを飲みながら外の情景を見つめた。



「先生、おはようございます」
「おはよう、洋子君。 いつも早いな」
「先生は遅くまで起きてらしたようですね」
「なかなか寝付けなくてな」
「ひょっとして先生まで幽霊が怖くなったんですか?」
「ハハハ、そうかもな・・・」
「フフフ・・・」



「おはようございまーす!」



落ち着く暇もなく早速、登場か・・・。



「あ、神宮寺さん、寝ぐせついてますよぉ」
「これは寝ぐせじゃなくて、こういう髪型だ」
「でも後ろの髪がハネてますよ」
「・・・」
「・・・? 神宮寺さん、ハネてますって!」
「さっき、シャワーを浴びたところだ。 そんなはずはない」



「フフフ、先生。 おそらく髪を乾かす時にはねてしまったのですよ」
「何だ・・・本当にはねているのか・・・」




・・・

「これでどうだ?」
「ええ、大丈夫です」



「うぅ、信用されてないって悲しいですね・・・」



プルルルル…




「あ、私が出ますので・・・。

神宮寺探偵事務所でございます。

はい、おります。

ただいま代わります。
先生、佐藤亜希さんからお電話です」



俺は思わずコーヒーを飲む手を休めた。


「ああ、わかった・・・」


亜希から電話をしてくるという事は、哲司の遺品を受け取る気になったのだろうか。


俺はコーヒーをテーブルに置き、受話器を受け取った。



「神宮寺だ。どうした?」
「あの・・・」
「俺が預かっている物の事か?」
「いえ、そうではないんです」


遺品の話ではないのか・・・。


「こんな事を神宮寺さんに頼むのは筋違いだと思うんですが・・・」
「俺に出来る事なら、遠慮なく言ってくれ」
「そう言っていただけると助かります・・・。
では、一緒に大河原家まで行っていただけないでしょうか?
私、一人ではとても・・・」



俺は亜希の心中を思った。


亜希は大河原家という圧力によって、哲司と無理やりに別れさせられた。


その敷居をまたごうというのだから、亜希にとっては勇気を振り絞った末の決断だろう。



「わかった。

これから迎えに行く・・・」
「いえ、屋敷までは一人で行けます」
「じゃあ、屋敷の近くで落ち合う事でいいか?」
「はい、わかりました」



・・・
「すぐお出かけになります?」
「ああ、佐藤亜希と一緒に大河原家に行く事になった」


「ハイハイハイ! 私も行きます!」
「また屋敷に戻る事になるぞ」
「助手としては離れる訳にはいきませんから」


何かいい事でもあったのか・・・。


まあ、いい。


とにかく今日一緒に行動するのをどちらにするか決めておくか・・・。


「・・・今日は洋子君に頼もうか」
「はい、わかりました」



「えぇー、せっかくここまで来たのにぃー」
「・・・そうボヤくな」


・・・
「洋子君、準備はいいか?」
「はい。
でも、亜希さんはなぜ急に大河原家に行く決意をしたのでしょう」
「・・・」


哲司の死を最近になって知ったんだ・・・。


世間一般の礼儀として当然の事をしようとしているのだろう。


亜希の目的は哲司のお参りだろうな・・・。



「おそらく亜希は哲司のお参りをしようとしているのだろう」
「そうですね・・・」


亜希が大河原家に行く事で、何らかの進展はあると思っていいだろう。


果たして亜希は遺品を受け取るのだろうか・・・?



「いってらっしゃーい!」



俺と洋子君は事務所を出て外へ向かった。


・・・

「先生、では早速・・・」
「ああ、大河原家に向かうとするか」
「亜希さん・・・静江さん達と会って大丈夫でしょうか?」
「亜希は合う覚悟を決めているんだ。 きっと大丈夫だろう」
「そうですね・・・」

 



・・・


・・・・・・


俺達が屋敷の前に到着すると、亜希はすでにそこで待っていた。


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「待たせたか・・・」
「いえ、私もさっき着いたところですから・・・」
「・・・しかし、急にどうしたんだ?
大河原家に行くなんて言い出して・・・」
「・・・・・・」
「哲司の、お参りか?」
「ええ、それもありますけど・・・。
改めて大河原家の人に会っておきたくて・・・」
「過去の清算って事か・・・」
「・・・! ええ・・・」
「まあ、いい・・・納得のいくまで付き合ってやるさ」
「ありがとうございます・・・。

そう言えば昨夜、神宮寺さんの事を思い出しました。
よく哲司さんと学生食堂で食事をなさっていましたよね」
「第二食堂の飯は安くて美味かったからな」
「二人とも、食事の値段なんて気にしなくても良かったのに」
「・・・高くて不味い飯より、安くて美味い飯の方がいいのは、誰でも一緒だろう。
飯を食った後も、よく時間を忘れて話したよ」
「哲司さんはそれが理由で、私との待ち合わせに遅れてきた事があるんですよ。
初めての喧嘩の理由だそれだったんです・・・」
「それは済まなかったな。

話が込んでくると熱くなってしまったからな」
「フフフ・・・でも、その代わりに哲司さんがプレゼントをくれました」
「何をもらったんだ?」
「これがあればもう遅刻はしないと、お揃いの懐中時計をくれました」
「なるほど。

その時計は今も持ってるのか?」
「いえ、私のは・・・無くしてしまいました。
私はおっちょこちょいで、よく大事な物をなくしてしまうんです・・・。

昨日も大騒ぎをして神宮寺さんに迷惑をかけてしまいましたよね」
「そんな事を気にする必要はないさ」
「いえ、でも・・・自分がしっかりしていないせいで、悪い事が起きてしまう・・・駄目ですよね」
「哲司の事は仕方がない事だ。

亜希が責任を感じる事ではない」
「いえ、そういう意味では・・・」
「・・・?」
「いえ・・・何でもありません。

そろそろ行かないと・・・」
「ああ、そうだな」



亜希は神妙にうなずき、自ら門をくぐっていった。

 



・・・
「・・・・・・」
「大丈夫か・・・?」
「ええ・・・」
「・・・・・・」
「洋子君、ここで待っていてくれないか?」
「はい、わかりました」
「じゃあ、入るぞ・・・」
「はい・・・」

 



「・・・・・・」


亜希はまだ萎縮していて、落ち着きなく視線を漂わせている。


「この屋敷に来るのは初めてではないんだよな」
「ええ、以前に一度だけ・・・」


それきり亜希は黙ってしまった。


恐らく今まで忘れようとしていた何か辛い出来事を思い出してしまったのだろう。


やがて哲三と静江の夫婦が揃って部屋に入ってきた。


部屋に緊迫した空気が張り詰める。



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「お待たせして申し訳ありません。
亜希さん・・・随分とお久しぶりになります。
こうやって、ちゃんとお話するのは初めてですな・・・。
改めて挨拶させていただきましょう。
私が当主の哲三です。

それと、こちらが妻の静江です」


哲三の挨拶で、こわばっていた空気がわずかに緩んだようだ。


亜希・・・。


不安そうにしているな・・・。


いや、怯えていると言った方が正しいかもしれない。


震わせた手を強く握りしめている。


哲三も静江も固い表情をしている。


こうして再び会う事になるとは、6年前にはお互い思ってもいなかっただろう・・・。


哲三と静江の夫婦は亜希の前で深く頭を下げた。



「亜希さん、哲司のためにお越しいただいてありがとうございます。
以前はあなたに辛く当たって、今さら謝ったところで許しては頂けないでしょうが・・・。
申し訳なかったと今では深く反省しています」
「わしからもお詫びする。本当に申し訳なかった」



亜希は怒鳴り散らされるとでも思っていたのだろう。


相当に驚いているようだった。


「い、いえ、気になさらないで下さい・・・」
「・・・わ、わしらを、許してくれるというのか」
「許すも、許さないも、もう過去の事ですから。
許されないのは、むしろ私の方です・・・」



「何を言うんですか、あなたにひどい仕打ちをしたのは私達の方ですよ・・・。
神宮寺さん、最初にお話ししたとは思いますが・・・。
6年前に二人が別れたのは私達が強要した事でした。
でもその時、亜希さんのお腹には哲司の子がいました。
私はそれを知っていながら、二人を引き離したのです。
人の親とも思えぬ所業だと神宮寺さんも思われるでしょう・・・。
全ては大河原家の為に良かれと思ってやった事ですが・・・今にして思えば・・・。
亜希さん・・・本当に申し訳ありませんでした。
・・・それで亜希さん、実はお聞きしたい事が・・・。
あの時の子は・・・哲司の子はどうなりましたか?」


「哲司の子は元気かね?」



「・・・・・・」




・・・?


どういう事だ・・・?


静江達の目的は、哲司の遺品ではなかったのか?


・・・静江が亜希を探していた目的は別にあったという事か・・・。


亜希の子供・・・。


そうだ。


それなら筋が通る・・・。



静江に子の事を尋ねられると、亜希は沈黙してうつむいてしまった。


静江達の目的が亜希の子供だったとは・・・。



知らなかったとはいえ、亜希には悪い事をした・・・。


・・・しかし、静江達も必死なのだろう。


そう・・・跡取りが必要だからだ。



「礼子さんに、子供はいない。
このままでは大河原家の血が途絶えてしまうのだ・・・」


・・・


やはりそうか・・・。



「お願いです亜希さん・・・。

私達はその子を引き取って育てたいと思っています」
「・・・・・・」
「決して悪いようにはしません。必ず幸せに育てると約束します。
私達にはその子が必要なのです。
今さらだとは、承知の上です。
どうかお願いします亜希さん。その子が最後の望みなんです」

「・・・・・・」



・・・亜希はただ沈黙を守っている。


さすがの俺にも・・・。


我慢の限界、というものがある・・・。


俺はうつむく亜希を見ながら、心の奥で憤りを感じた。


「亜希さん、お願いします」



「・・・お話のところすまないが、いくらなんでも、それはひどい話だ・・・。

あなた達は何も反省していないようだ・・・」


「・・・・・・」



「どういう事です?」
「あなた達は哲司と亜希を引き離したように、また再び亜希と哲司の子供を引き離そうとしている。
あなたたち自身の勝手な都合で・・・」
「うっ、それは・・・」



「・・・ません」



「・・・?」



亜希はまるで絞り出すような声で言った。


その声は震えていて、隣りにいた俺にさえよく聞き取れなかった。



「え、なんじゃと。その子は今どこに?」
「子供は・・・いません」



それきり亜希は黙り込んでしまった。


子供はいない・・・。


・・・どういう事だ?


ことの成り行きを察したのか、静江も哲三も落胆しながら黙り込んでしまった。


だが、まだ判断は出来ないな。


重要なところだけに、下手に答えを出すのはやめておくか・・・。


そうだな、わかるはずがない・・・。


亜希に一体、何があったのか。


子供はいない、か・・・。


亜希が哲司の子をどうしたのかはわからんが・・・今の亜希の苦しみがそれから来ている事は察する事ができる。


室内に漂う空気に、息が詰まりそうになる。


だが、それは俺などよりも亜希達の方がよっぽど感じている事だろう。



「じ、神宮寺さん、あれはもう亜希さんにはお渡し頂けたでしょうか?」
「いえ、まだです・・・」
「神宮寺さん、では亜希さんにあの子の遺品を渡してもらえないですか」
「はい、わかりました・・・」


哲司の遺品を亜希に渡そう・・・。


きっと今なら亜希も受け取ってくれるはずだ。


俺は哲司の遺品を取り出し、亜希の目の前に置いた。



「それがどんな物かは知りませんが、あなたに渡すようにあの子が言っていたものです。
せめて、お受け取りください」
「・・・・・・」


ずっとこの遺品の中身が気になっていたが・・・。


中身が何なのか、今なら想像がつく。


哲司の事だ・・・おそらく、懐中時計だろう。


亜希はしばしそれを眺めると、うやうやしくその箱のフタを開いた。



「こ、これは・・・」

 

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それは金色の小さな懐中時計だった。


哲司の性格を表したかのような、品のある落ち着いたものだ。


大切に身につけていたらしく、ずいぶん使い込まれてはいるが、汚れもなく美しい光沢を放っている。


だが、その時計の針はピクリとも動いてはいない。


「哲司さん・・・うっ、ううう・・・」


一度涙を溢れさせると亜希はとうとう耐えきれずに激しく泣き出した。


「うっ、うっ・・・・・・」


号泣する亜希に俺は声もかけられず、ただ時を止めた時計を見る事しかできなかった。


おそらくこの時計はさっき話で聞いた時計・・・。


哲司が未だにこの時計を持っていた事からも、亜希に対する愛情を感じる事が出来る。


亜希も同様にそれを感じ取ったのだろう。



「すみません、私、これで・・・」



「あっ、亜希さん・・・」
「むぅ・・・」



「亜希・・・すみません、すぐ戻ります」



俺は応接室から逃げるように出て行く亜希を追いかけた。

 



俺は大河原家から出て行く亜希にようやく追いついた。


亜希はしゃくり上げながら哲司の形見をしっかりとその手に握りしめている。



「すみません・・・」
「大丈夫か」
「ええ・・・」
「・・・・・・」
「神宮寺さん、自分勝手で申し訳ないとは思いますが、私、もう帰ります・・・」
「そうか・・・わかった。

送っていこうか」
「いえ、大丈夫です。

哲司さんのご両親にお伝え下さい」
「ああ、わかった」


亜希は目を泣きはらしながらも、辛うじて笑顔になった。


だがようやく作ったその笑顔では亜希の哀しみは隠しきれず、それが余計に痛々しい。


「何かあればまた連絡してくれ。

遠慮はしなくていいからな」
「はい、ありがとうございます」


亜希は丁寧に辞儀をするとタクシーに乗って屋敷を去っていった。



・・・

「先生、どうしたんです? いきなり出て来たと思ったら・・・」
「いや、何でもない・・・大丈夫だ」
「一体、何が?」
「ああ、遺品を亜希に渡す事が出来たんだが、それで亜希が感情的になってしまってな・・・」
「そうですか・・・ずっと気になっていた事ですが・・・哲司さんの遺品とは何だったのです?」

「ああ、ここに来た時に話していた懐中時計だった」
「まあ、それは・・・」
「ああ、彼女と哲司にとって、思い出の時計だ」
「・・・・・・」
「これで依頼は完了な訳だが・・・。
とりあえず、応接室へ戻るか」
「はい・・・」




子供はいない、か・・・。


充分に考えられた可能性ではあるが・・・。


改めて亜希の口から聞かされると、やはりショックだな・・・。



「さっきの神宮寺さんの言葉。
わしは打ちのめされた思いだったよ・・・」
「・・・・・・」
「お前はどう思った・・・?」
「確かに神宮寺さんの言う事も一理あります、でも・・・」
「・・・何だ?

でも・・・何だ?」
「・・・・・・」
「やはり反省なんて出来んようだな。
お前は特に・・・」
「何を・・・失礼ですね」
「どうせ、今も亜希さんの事よりも、亜希さんの子供の事しか考えておらんのだろ?」
「何をおっしゃいます・・・」
「今、思えば亜希さんと哲司を別れさせる必要はなかった」
「今さら、やめて下さい。
あなたもなんだかんだいって、私の意見に同意したのではありませんか・・・。
それで後になって、私のせいにするおつもりで?」
「・・・・・・」
「フン・・・」



「・・・あの」
「あ、神宮寺さん。いつからそこに?」
「今、来たところです・・・」
「・・・そうですか」

「先ほどは、どうもすみませんでした。
何か余計な事を言ってしまったようで・・・」
「いや、いいんだよ。

わしも目が覚めた・・・。
それで、亜希さんは?」
「帰りました・・・」
「そうですか・・・」



調査を終了するに当たって静江にいろいろと確認を取っておこう。


これも後々でトラブルを引き起こさせないために重要な事だ。


「まず、確認をしたいのですが・・・。
依頼では亜希を探して、哲司の遺品を渡して欲しいという事でした。
そして、その依頼は今日で完了したという事になります」
「えぇ、もっと長期になる事も覚悟していたのですが・・・。
よくこの短期間で亜希さんを説得して下さいました」
「それで・・・これにて調査は終了になりますが・・・」
「その点については私の方からお願いがございます。
亜希さんの子供についてもっとはっきりとした調査をして頂きたいのです。
私達はまだ諦めきれないのです」



「『私達』?『私』の間違いじゃないのか?」



「・・・・・・。
神宮寺さん、すみません。
主人は気が立っていて・・・」
「・・・」
「・・・で、亜希さんの子供が本当にもういないのか・・・いないとしたら子供はどうなったのか・・・。
きちんとした答えを頂くまではどうしても納得ができません」



「おい・・・!
また亜希さんを苦しめるつもりか!」
「・・・だから、神宮寺さんに頼むんです。
私達から問い詰めても、また亜希さんを苦しめるだけですから・・・」
「フン・・・」



「それで・・・。
もし、よろしければ神宮寺さんにこのままお願い出来ないものかと・・・」
「・・・・・・」



確かに、静江の言っている事はもっともな事だ。


亜希の子供はどうなったのか気になるところだ。


亜希にとってはつらい事実と向き合う事になるかもしれない。


しかし、そこははっきりさせておきたい。


「・・・わかりました。

では調査を続行するという事で・・・」
「ええ、お願いします」



「・・・ったく」



「あなた・・・・・・」
「では、お願いします。失礼します」
「はい・・・」



亜希にとっては、されたくない詮索だろう。


それに関する調査を行う以上は亜希の様子を、今まで以上に見ていく必要があるだろう。



・・・
「哲三さん・・・かなりお怒りのようでしたね」
「亜希をまた傷つけてしまわないか恐れてもいるんだろう。
恐らく内心では静江と同じくらい、子供の事を気にしているんだろうが・・・」
「ええ・・・。
無事に亜希さんに遺品をお渡しできたのは良かったですが、亜希さんの様子が心配ですね・・・」
「ああ・・・だが、今は亜希をそっとしておくしかない」
「そうですね




・・・

「さて、どうするか・・・」
「また『ゆうちゃん』の調査に移りますか?」
「そうだな、亜希は今日の事もある訳だし、少しの間そっとしておこう。
託児所にはまた夜にでも行こうか・・・」



そうなると残るは・・・。


『ゆうちゃん』の手掛かりを持っているであろう人物に会いにいくか・・・。


そろそろ授業が終る頃だろうしな。



「新宿西小学校へ行こう

昨日、貴之が拾ったものを早めに確認しておきたい」
「はい、わかりました」



貴之が昨日拾った物は一体何だったんだろうな・・・。


ゆうちゃんの正体に繋がるようなものだといいんだが。


「貴之君が拾った物・・・私も気になります。
白い影の子は、一体何を落としたんでしょうね」
「ああ・・・ただ、手で隠せる程度のサイズである事は確かなようだ。
今も貴之が持ち歩いている可能性は高いだろう」
「そうですね・・・貴之君に見せてもらえるといいんですけれど」




・・・


・・・・・・


俺達は貴之達に会うために、小学校の近くまでやってきた。


すると他の児童達に混じって、聞き覚えのある三人の声が聞こえてきた。


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「あいかわらずバカねぇ、あんた達って」
「うるせぇよ、バカバカ言うなよ」
「バカだからバカって言ってるんでしょバカ」



「二人共恥ずかしいからもう喧嘩はやめようよ」



「楽しそうだな」
「あ・・・何だよ、またアンタかよ。
今度は何の用だ?」



このままでは一向に話が進まない。


ここは貴之に素直な態度で接した方がよさそうだ。



「何の用かはわかってるだろう?」
「フン、わかんねぇなぁ」
「頼む・・・協力してくれないか?」
「フン・・・」


さて・・・どうすれば貴之達に拾った物を見せてもらえるんだろうな。


「ちゃんと無くさずに持ってるだろうな?」
「さぁね。もう落としちまったかもな」



「貴之って忘れ物に関してはダントツで一番だからね」
「今日も先生に叱られてたもんなぁ」


「うるさい。お前らはベラベラ喋るなよ」



「それを取り上げるつもりはない。ちょっと見せて欲しいだけだ」
「大人は信用できねぇ」
「大人全てを信用しろと言うつもりはないが・・・」
「アンタはもっと信用できねぇ」


やれやれ、困ったものだ。


どうしても見せる気はないようだ。


「ねぇ貴之、ちょっとぐらいなら見せてもいいんじゃない?
だってその方が何かわかるかもしれないじゃない」
「だとしても簡単に見せるのは何か嫌だ・・・。
勘違いするなよ。コイツはライバルなんだぞ!
そんな奴にわざわざ見せるなんて、そんな事は・・・えーっとほら、アレだよ・・・」



「敵に塩を送る?」
「そうそう、それ。そういう事だろ?」
「じゃあさ、それなりの対価をもらうってのはどう?」
「金なんか要求したら卑怯な大人と一緒だろ」
「違う、そうじゃないよ。
つまり同じくらいの重要な情報と交換って事だよ」
「なるほど。
さすが知也は頭いいな」


「まったく二人共ガキねぇ。
ごめんなさいね、神宮寺さん」


「お前は口をだすなよ美鈴。
・・・という訳だから、何かいい情報でもあるのか?」


どうやら厄介な事になってしまったみたいだ。


「今のところ、お前達が喜ぶような情報はないな」
「じゃあ見せられねぇな」
「やれやれ・・・」
「どうしても欲しいなら力ずくで奪えばいいだろ?」
「それは俺のやり方ではないんでな・・・」
「じゃあどうするんだ?」



・・・
今日は特に急ぎの用もない訳だし、下手に離れるよりかは貴之の様子を常にうかがっておきたいところだ。



「貴之・・・お前の気が変わるまで後をつけさせてもらうぞ」
「勝手にしろよ。おい、行こうぜ」



「フフフ・・・先生、何か厄介な事になってしまいましたね」
「ああ、まあな」



・・・その割には洋子君はやけに嬉しそうだが・・・。




 

・・・


・・・・・・


俺達は西新宿8丁目へやって来た。


そこには貴之の姿があった。



「ねぇ、貴之。
ここは前に探したわよ」
「わ、わかっているやい!」


「そうだよ! もっと違う場所でゆうちゃんを探そうよ!」



「・・・何してるんだ?」
「げっ、神宮寺。何だよ、ついて来るなよ!」


やれやれ・・・。


今度はどこへ行くつもりだ・・・。



「さぁ、先生!追いかけましょう!」
「ああ・・・」


洋子君、やけに楽しそうだな。


さっき貴之達はゆうちゃんの事を話していたが・・・。


一体、どこに行くつもりだ?




・・・


・・・・・・


俺達は新宿淀橋署へやって来た。


貴之達の姿は見つからない。


まあ、当然の事だが・・・。


「おう、神宮寺君。どうしたんだ?」
「ああ、熊さん。 昨日はすまなかった」

「ああ、あの子供の件か・・・いいんじゃよ。
・・・で、今日はどうしたんだ?」
「実は今日も子供を探しているんだ」
「何! また行方不明か?」
「いや、ちょっと聞きたい事があるんだが・・・逃げられてしまってな」
「ふぉふぉふぉ、神宮寺君にも遊び相手が出来たって事か?」
「冗談はよしてくれ」
「おお、すまん、すまん」
「ところで熊さん、子供がよくいる場所とか知らないか?」
「うーむ、そんな事は神宮寺君も知っとるはずだが・・・まあいい。
新宿中央公園とかはいつも子供を見かけるのう。
それに西新宿8丁目も学校が近くにあるせいか、子供を見かけるのう。
しかし、子供のいる場所なんざどこでもあるからのう・・・」
「ありがとう、参考になったよ」
「うむ・・・そうか。じゃあ・・・」
「ああ・・・」



・・・


・・・・・・



俺達は新宿中央公園西側へやって来た。


そこには貴之達の姿があった。


「ここで何をするんだ?」
「な、何だよ、神宮寺。

関係ねーだろ!ついて来るなよ!」


やれやれ・・・。



「これじゃあ、まるでかくれんぼだな」
「おにごっごでもありますね」
「ああ、そうだな・・・」



まだ貴之達は遠くに行っていないはずだ・・・。


探すとしたら、公園の中だな。


俺達は新宿中央公園入口へと移動し、貴之達の姿を見つけた。



「いい加減にしてくれないか? 俺もそんなに暇じゃないんだ」


「げっ、神宮寺だ。逃げろ!!」


「うわぁ・・・」

「また、走るのぉ・・・」


随分と嫌われたものだ・・・。


しかし、もう逃がしはしない。



「洋子君、行くぞ!」
「フフフ・・・はい」



俺達は逃げる貴之達の後を追った。




・・・


・・・・・・



貴之達は中央公園から都庁前を通り、新宿駅西口にやって来た。


「どこに向かってるんだ?」
「さーてね・・・」


貴之達は何かを話しながら歩き続けている。


大人しくこっちの言う事を聞いてくれるという事はまずないだろう。


とにかく話をするしかないな。


「ねえ、せっかくだから買い物していかない?」
「バカ美鈴、TPOを考えろよ」
「バカはどっちよ。 ちょっと耳を貸しなさい。
知也もほら!」


三人は顔を寄せ集めて、何事かを相談し始めた。


「これは長くなりそうだな・・・」


俺は長期戦を覚悟し、ため息をついた。


「まあ散歩だと思えばいいだろう。
たまにはこんな風に、のんびりと散歩をするのもいいものだ」
「そうですね。たまには・・・。

この街で暮らしていると普段からそういう気持ちをわすれてしまいますから」


洋子君は暮れゆく空を見上げ、どこか懐かしそうにしている。



「そう言えば神宮寺さんて、なぜ幽霊を探してるんですか?」
「一応、仕事・・・だな」
「え、まさか心霊関係者ですか!?」
「フッ、そう見えるか?」
「じゃあ、どうして幽霊なんか?」
「頼まれて調べているだけだ」
「頼まれた・・・っていう事は、まさか神宮寺さんって・・・警察官!?」



「バカかおまえ。警察が幽霊なんか探すかよ!」
「えぇぇ、じゃあ、まさか・・・」


「ズバリ、売れない探偵ね!」
「まあ、そんなところだな」


「た、た、た、探偵ーーっ!?」


「えぇーーーっ!

うそだろー! マジで探偵?」


「うわー、本当にいたんだぁー」
「わー、僕、なんか緊張してきちゃったよ・・・
ど、ど、どうしようサインもらっちゃおうかな」



「なぁ、探偵って本当なのか?」
「ああ。この近くに事務所を開いている」
「え、じゃあそこに行けば探偵がたくさんいるんですか?」
「いや、俺の個人的な事務所だ」
「今までどのぐらいの依頼を解決したんだ?」
「さぁな、数えていないからな」
「じゃあ重大事件なんかも調査した事があるんですか?」
「いくつかはな・・・」
「年収ってどのぐらいだ? 儲かってるの?」



「バッカじゃないの? 探偵なんて厚生年金も失業保険もないのよ」


興味津々の貴之と知也に比べて、美鈴は最初こそ驚いたものの、どちらかというと淡々としている。


「所詮は自営業だもの、おまけに依頼がなきゃ、なーんにも出来ないのよ。
同じ自営業なら毎日せっせと働いてる人の方が立派よ」
「そ、そんな事ないよ! 探偵は夢がある仕事じゃないか!
いいなぁ、僕も将来探偵になりたいなぁ」
「知也・・・あんたって勉強は出来るくせに貴之よりバカっぽいわね」
「えぇぇー、何でそんな事いうんだよぉ」


・・・悲しい事だが、すっかりなめられているようだな・・・。


さて、どうしたもんか・・・。



「・・・それで、これからどこに行くんだ?」
「えーと、ですね・・・それは・・・」


「おい、知也! 余計な事は喋るなよ!」
「えっ? 何でだよ・・・ 神宮寺さんは探偵なんだよ!」
「・・・うっ、探偵でもこいつにはダメだ・・・」
「何でだよ・・・」



「じゃあ・・・神宮寺さん、探偵なら私達がどこに行くかわかるんじゃない?」


「あっ、そうそう・・。
探偵なんだから、わかるはずだよな!」


「そんな無茶な・・・」



「探偵だからといって、何でも分かるって事はない」



「フン、何だよ・・・」
「そりゃ、そうだよ・・・」



「貴之達の目的は『ゆうちゃん』なんだよな?」



「すっごい、聞き込みだ」


「ほぇ・・・」


「・・・もう!

バカね・・・そ、そうよ」



「いつもは西新宿8丁目や新宿西小学校で『ゆうちゃん』を探していた。

しかし、今日はいつもとは違った場所を探しに行こうと考えている・・・」



「さすが探偵だ!」


「すげぇ・・・」


「・・・むっ。
じ、じゃあ、もうわかるはずだからこの話は終わりよ!・・・何かムカつく!」
「まあ、いい。
どうせ付いて行くからな」
「あら、そう・・・」



俺は強情な貴之達に呆れながら、闇が広がり始めた新宿の街を歩いて行った。


・・・


・・・・・・


俺達は駅の周辺をさんざん歩き周り、淀橋署の前までやってきた。


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「そろそろ疲れてきたか?」
「バカ言うなよ。

これぐらいで疲れる訳ないだろ」



「先生、この子達もだいぶ疲れているのでは・・・」
「ああ、そうだな・・・。

これくらいで終りにしようか」
「そうですね。

ちゃんと話せば分かってくれるでしょうし」



相変わらず、俺達に対する警戒は解けていないようだ。


さて、どうするか・・・。


「そうだ神宮寺さん、ちょっと聞いてもいいですか?」
「なんだ?」
「探偵と警察って仲が悪いんですか?」
「馴れ合ってる訳ではないが、敵対関係にある訳でもない」
「じゃあ、探偵と警察が一緒に調査をする事もあるんですか?」
「まあ、時々な・・・」
「すっごい!」



「おお、神宮寺君じゃないか」
「ああ、熊さんか。

これから出かけるのか?」
「ああ、ちょっと野暮用でな。
それより、さっき探していた子供は見つかったのかい?」
「ああ、なんとか見つけた。
それでこうやって今はおもりをしている訳だが・・・・」
「ふぉふぉふぉ、そうか。
では、君はおもり失格じゃな」
「・・・ん? なぜだ?」
「また、逃げられたようじゃぞ」


やられた・・・。


「ワシが来るのと入れ違いに子供達が走っていったぞ」
「どっちへ向かった?」
「向こうの方に走っていったぞ。
まさか神宮寺君が子供に振り回されているとはな。
こりゃあ、おかしいわい。

ふぉっふぉっふぉっ」
「笑い事じゃない。全く困った連中だ」
「ふぉっふぉ。

まあ、せいぜい頑張れ。
子供相手にムキになるなよ」


熊さんはそう笑いながら姿を消した。


「先生、すみません。 うっかりしてました」

「いや、俺も同罪だ・・・とにかく貴之達を探さないとな」



貴之達は確か西新宿8丁目と新宿西小学校以外の場所を探しに行ったはずだ。


そうなると、ここから近くて『ゆうちゃん』の目撃証言があった場所で・・・。


さっき探した時に貴之達がいた場所から考えると・・・。


新宿中央公園だろう、貴之の目的は『ゆうちゃん』だ。
そして、俺がさっき貴之達から聞いた話から新宿西小学校と西新宿8丁目以外の場所で『ゆうちゃん』を探すと考えていいだろう。
そうなると残る場所は・・・」
「なるほど、新宿中央公園ですね」
「ああ、そうなるな」
「でも、逃げられてしまうなんて・・・困りましたね」
「ああ・・・全くうかつだった。

とにかく後を追おう。 行き先は中央公園だ」
「はい!」




・・・


・・・・・・


俺達はいなくなった貴之達を追いかけ、新宿中央公園の入り口までやって来た。


だが暗い公園の中を見通しても、貴之達の姿は見えない。



「いませんね・・・」
「だが、逃げた方向からいっても貴之達がここに向かったのは間違いないだろう。
とにかく、この公園内を探してみよう」
「はい、わかりました」


貴之達はこの公園にいるはずだ。


うまく見つけ出せるといいが・・・。




・・・
俺達は公園内を探し回った。



「やっぱり、いないんですかね・・・」
「いや、近くにいるはずだ。
おそらく向こうも俺たちをまこうと逃げているはず。
もう少し、粘ってみよう」
「はい・・・」

 




・・・


・・・・・・


「ねぇ、孝之。
神宮寺さん達が来ないよ?」
「まいたんだから、当たり前だろ」



「でも、探偵なんだよ。
一緒に探してもらった方たいいんじゃない?」
「バカか。

敵に味方してどうするんだよ。
お前はどっちの味方なんだ。

俺達か?それともあの探偵か?」
「そりゃあ・・・」
「大人なんかに任せたっていい事なんてないだろ。
『ゆうちゃん』は俺達だけの手で見つけるんだからな。
それとも、怖いのか?」
「こ、怖くなんかないよ。でも・・・」




・・・
「やっぱり・・・いたな」
「ちっ・・・来やがったか。
こんなとこまで追いかけて来るなんて、いい大人がご苦労なこった」
「お前達にやられっぱなしって訳にもいかないだろう?」


貴之達・・・やっぱりここにいたか。


貴之達は油断のない目で俺達を見ているが、そこには疲労も見て取れる。


これ以上、逃げる気力は今までと比べるとかなり削がれているようだ。



・・・

「やっぱり探偵をまこうってのが無理だったんじゃない?」


「あんた達のまき方が下手だったんじゃないの?」


「美鈴が途中でフラフラ遊んでたから、追いつかれたんじゃないのか?」


「違うよ。
最初から僕らがここに来る事がわかってたんじゃない?」
「ヘボ探偵にそんな事がわかるかよ」



「ねえ、神宮寺さん、どうして僕らがここにいるってわかったんですか?」
「・・・お前達もゆうちゃんを探してるんだろう?
ならば答えは簡単だ」



「ほら、やっぱり逃げても無駄だったんだよ」
「うるさいな知也。
お前はどっちの味方なんだよ。

・・・ったく、知也、お前のせいだぞ。
お前がビビッてるから見つかっちまったじゃないか」
「ビビッてなんかないよ。
でもさ、この辺って・・・ほら・・・。よく出るじゃない」
「だから、そのゆうちゃんを探しに来てるんだろ?」
「違うよ。

幽霊じゃなくて・・・ほら・・・あの人達」



・・・?


新宿中央公園によく出る人達?



「この辺でよく見かけるといえば、ホームレスの人達だな」
「そうですね・・・。
でも、怖がるような人達ではないとは思いますけど・・・」
「まあな」



「知也、ホームレスの人達がなぜ怖いんだ?」
「・・・うーん、なんか・・・」


「そうだよ、バーカ。ホームレスなんかが怖いのか?
あんな連中なんて怖くも何ともないだろ?
美鈴。お前も怖いのかよ?」


「え・・・べ、別に怖くなんかないわよ。
そういうあんたこそ、ビビッてるんじゃないの?」
「バーカ、なんで俺がホームレスなんかにビビらなくちゃいけないんだよ」



「・・・それより貴之。 このままでは効率が悪いと思わないか?
俺達の目的は同じはずだ。

協力した方がいいと思わないか」
「ふん、大人の考えそうな事だな。
だから俺の持ってるアレを見せろって言うんだろ?」
「貴之・・・俺はどんなに調査で必要な物でも、力ずくで取り上げたりはしない。
それが大人だろうが子供だろうが関係ない」
「・・・・・・」



「じゃあ神宮寺さん。 協力って言ってますけど、僕らに何をさせるつもりなんですか?」
「追いかけっこを終わりにしようと言ってるだけだ。
お互い、ゆうちゃんを探す事に集中した方がいいだろう」



「貴之、どうする・・・?」
「・・・・・・」


「別に考えるまでもないんじゃない?」



・・・せっかく追いついたんだ。


もうこの追いかけっこを終わりにさせてもらおう。




・・・
俺達が話をしていると、物陰から一人のホームレスがのそりと起き上がった。


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「ホームレス、ホームレスってさっきからなんだよ!
・・・ったく人が気分良く寝てたっていうのに・・・。
騒ぐならよそでやってくれよ」



「うわっ、で、出たっ」
「バカ知也。
なんで俺の後ろに隠れるんだよ」
「だ、だって・・・」



「あぁ・・・? なんだ子供か・・・。
子供の起きてるような時間じゃないぞ」
「う、うるさいな。 俺らの勝手だろ?」



「なんだ女の子まで一緒かい。
この辺は人も少ないから、まったく安全って訳じゃあないんだがなぁ。
ほら、とっとと帰りな」
「何よ!」



「おい、おっさん、触るなよっ!」
「んだよ、オレぁ別になんもしてねぇだろうが」
「近寄るなっつってんだよ!
汚い手で俺らに触るな。臭ぇんだよ!」
「そいつぁ悪かったな。
へっ、ったく最近のガキと来たら・・・」



ここは黙って見ている訳にはいかないな・・・。



「貴之、いい加減にしないか」



「・・・あんたも心の中じゃあ、あの子らとおんなじ事を考えてんじゃないのかい?
大人の対応って奴かい?
へっ、ご立派な大人のようだねぇ」
「・・・・・・。
なんと言われようが、俺は礼儀をわきまえているつもりだ」
「フン・・・」
「・・・すまなかった。
こいつらには後からきつく言っておく」
「別にいいさぁ。
言われて出来る事でもねーよ・・・。
コレばっかりは・・・。
それに、どうせオレ達ぁいてもいなくても同じ。
いや・・・いない方が世の中のためってかぁ・・・」
「・・・・・・」



そう言って男は再び物陰に隠れるようにして寝床に戻っていった。



「貴之・・・」
「なんだよ。何か文句でもあんのか?」
「俺がいちいち言う事でもないとは思うが・・・」
「だって本当の事だろ?
俺は本当の事を言っただけだ。

本当の事を言うのが悪いのか?」
「本当の事?」
「あいつらこそ、社会の悪って奴だろ?
ろくに働きもしないで、こんな場所で好き勝手に暮らしてるじゃないか。

臭いし汚いし、あいつらのせいで新宿がどれだけイメージ悪くなると思うんだよ」
「・・・やれやれ。
お前がそこまで腐っていたとは思わなかった」
「けっ、何だよ!
大人だってみんなそう言ってるじゃないか」



やれやれ・・・。


貴之が小学生だろうが関係ない。


ここはきつく言っておくべきだろう。



「大人なんか綺麗事ばかり言ってるけど・・・。
心の中じゃ、俺と同じ事を考えているに決まっているんだ!」
「・・・・・・」


・・・

俺が貴之の暴言ぶりに呆れていると、洋子君がゆっくりと貴之の前に歩み出た。


 

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「貴之君、ホームレスの人達だって好きでこんな生活をしている人達ばかりではないのよ。
人それぞれに事情があって、こんな生活をせざるを得ない人がほとんど・・・。
貴之君はそんな悲しい偏見の言葉を誰から聞いたか、どこから学んだかは知りませんが・・・。
誰も彼らを否定する事は出来ないと思います」
「・・・・・・」



「知也君や美鈴ちゃんの態度も失礼です。
まず、相手の気持ちを考えて下さい」
「・・・・・・」
「・・・・・・」



「・・・大人はそうやって・・・」
「口先だけとでも?
確かに貴之君の言うような大人もいます。
しかし、貴之君自身もそういった大人のように人をうわべだけで判断し、見下し、罵っているのではありませんか・・・」
「・・・・・・」
「あなた達の方がよっぽど汚くて、この社会のイメージを悪くしている人だと思います。
・・・今日はもう帰って、よく考えてみて下さい。
こういった事の解決に本当に必要なのは何なのか・・・」



「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」



洋子君の説教が終わると、貴之達は肩を落として家路について行った。



「やれやれ・・・」
「・・・・・・」



・・・
貴之の拾った物については、また明日にするか・・・。


こんな夜は帰ってカミュでも一息に飲み干したいところだが・・・。


亜希に会いに行かないとな・・・。


朝の事もあったせいで心配だ。


「朝の事もあるし、亜希の事が気になるな・・・。
託児所へ行こうか」
「そうですね」



・・・静江から頼まれた亜希の子供に関する調査の事もそうだが、亜希があれから立ち直れたのかどうかが心配だ。



「亜希さん・・・あれから大丈夫でしょうか」
「俺もそれは気がかりだ」
「大変辛い思いをされたようですから、きちんと立ち直れたか心配ですね・・・」
「とにかく様子を見に行ってみよう」
「ええ」

 


・・・。