*ゲームを読む*

ゲームまるごと文字起こし

車輪の国、向日葵の少女【1】

 

当ブログは、私個人の趣味でゲームを"ほぼ全文"文字起こししています。

いわば、"読む体験版"です。

ローマ字入力・かな入力・親指シフトなど、タイピング練習も兼ねています。

誤字・脱字が多々あるかと思われます、ご了承下さい。

読んでみて、面白いと思ったゲームはぜひ購入し、ご自身でプレイすることを"強く"お勧めします。

ゲームは自分でやってナンボです!

 

 

 

 

車輪の国、向日葵の少女

 

 

 

 

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「まずは自己紹介をしよう。
おれは森田賢一(もりた けんいち)。
SF小説と姉貴が大好きだ。
いつも読んでる本の中で『日本』という国が出てくる。
あんたも知っているかもしれないが、面白おかしくて不思議な島国だ。

なにが面白いかって?

例えば現実じゃあ、
人を殺したら『一生子供を持てない』罪を背負うだろう?
そして『特別高等人』というおっかねぇ連中の保護観察を受けることになる。

でも『日本』は違う。

人殺しは首吊って殺されるんだそうな。
もしくは十年か、二十年か、はたまた一生かわからんが・・・。
とにかく刑務所ってトコに入れられる。
刑務所は牢屋とか監獄ともいうらしくて、おれたちの国には無いものだから面白い。
この刑務所ってのが曲者で、人殺しも盗人も痴漢親父も、みんなココに入る。
犯罪者のテーマパークみたいな感じかな。

もう少し軽い罪・・・車のスピード違反なんかは国に金を払えばいいらしい。

首吊りか、刑務所か、金か・・・。

おれたちの国には罪に応じた罰が多種多様に細かく定められているけれど、日本には大きく分けてこの三つしかないらしい。

そんなんでヒトが更生するのかって、おれたちなんかは思うだろう?

・・・まあ、逆に、人殺しに子供を持てないようにするだけで世の中は大丈夫なのかと、問い詰められたら怪しいもんだ。

利己的な遺伝子がどうとか、犯罪形面上学がどうとか、宗教的と自己の対立とか言ってる頭の偉い人たちが決めた法律に、おれたちはなんとなく従っている。

・・・なんとなく・・・ってのは『日本』にいる人たちも一緒なんだろうな。
だから、もうすでに決まっている法律や制度については、おれもよく語れない。
問題は『日本』にしろ、この『国』にしろ、そんな世の中でどうやって生きていくのかと。

俺みたいなペーペーが、どうやって姉貴と愛を結ぶのかと、そういう話だ。

 

 

 


―近い未来、そう遠くない場所―

 

 

 

 

 

・・・。

 

 

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後ろを振り返らずに歩くこと六時間。

田舎ってのは少なからずバスが通っているもんだ。
ど田舎じゃあ、いい感じの爺さんがトラックの荷台に乗せてくれるかもしれない。
だが、おれの故郷は、田舎というよりむしろ秘境。
一面の黄色は、どう繁茂したのか見当もつかないヒマワリの群れだ。
山風は真夏の熱気を絞っているようで、ついこの前まで肌にまとわりついていた都会のビル風とは爽快感が違う。
おれはギンギンにノっているお天道様を見上げた。

 

「ついたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ! ふぅぅーーーっ」

 

深呼吸。

 

「ふぅっ……」

 

砂利道に座り込んであぐらをかく。

 

「あんたも知っているだろうが、一人でいる時間が長すぎると狂っちまうもんだ。
例えばおれなんかは、七歳のときに近所のアブないお兄ちゃんに監禁されてた。
十歳で北の国へ連れて行かれ、十三で新興宗教に入団。
十五のときにゃSM小屋に入ってハードMとしてたっぷり調教してもらった。
当然の流れで、両親はいない。
母親はおれを産んだ直後に他界。
最後の言葉は、『人参残さず食べるんだよ』『鳥は牛骨粉を食べて育ってるから要注意だよ』などと非常にヘルシー。
おかげでおれの肉体は鋼のように強靭だ。
親父にしても夜はプロレスラー、昼は司法書士というインテリ格闘家だった。
だが、最後のマスクマンだった親父は、車道に飛び出してきた幼女をかばって星になった。享年38歳。

というわけで、数々の逆境、困難、トラウマ、洗脳、調教、最愛の人の死を乗り越えたおれである。
おれはこの若さにして最強で、すでに完成されていて、成長の余地など全くない完全超人である。
それくらいじゃなきゃ『特別高等人』の試験には受からないんだろうな」

 

一通りしゃべってスッキリしたおれは、道中ずっと抱えてきた学生カバンを開ける。

 

「完全超人であるおれは、学生カバンからして普通ではない」

 

銀色のジュラルミンケース。


中からこれまた超高級な象牙のパイプを取り出し、優雅な動作で口にくわえる。

 

「学園生だろうがなんだろうが、タバコを吸ってもばれなきゃ許されるのだ。
まあ、実はタバコじゃなくてクスリなんだかな・・・」

 

すーーーっ・・・ふぅーーーっ・・・
すーーーっ・・・ふぅーーーっ・・・

 

ああ、堕ちてきた。


いい感じにダウンしてきた。

 

「ふ・・・フフフ・・・うへへへへへ
あー、いい感じっいい感じっ」

 

死にたくなってきたぁ・・・。


だんだん意識がぼんやりとしてくる。

 

そのまま雑草を背中で押しつぶして天を仰ぐ。


まぶたが重い。

 

「故郷で最終合格試験をやるってか・・・。

これ以上どんなテストをやるのかね?
まあ、なにがあるかわからんし、休めるときに休んでおくとしよう。
というわけで、おれは寝る。
おれは、寝つきのよさも完成されている。
どんな状況でも寝られるのだ・・・。
たとえ砂漠でも氷河でも・・・ぶつぶつ・・・一瞬にして・・・。
ぶつぶつ・・・おやすみぃ・・・」

 


目が覚めるとき・・・。


そこは『日本』のようなまともな国で・・・。


ベッドでぐーすか寝てるおれを・・・姉貴が起こしに来てくれたらいいなぁ・・・。

 

 

 

・・・。

 

・・・・・・。

 

おれは死ぬほど疲れていた。


ちょっとまどろんだつもりだが、もしかしたら爆睡していたのかもしれない。

 

気がつくと・・・。

 

 

 

「・・・・・・」

 

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 ・・・。

 

見つめられていた。


「・・・つらいんですか?」

 

少女は、そういった。

 

「いや、つらくはない」
「身体、震えてますよ?」
「ああ、いつものことだから」
「病気ですか?」
「そうでもないよ」
「あっ・・・!」

 

気づいたようだ。


気づいて、気づかないフリをする

 

どいつもこいつも、その繰り返しだ

 

「あんたは?」
「あ、えっと・・・わたしは、病気じゃないです」
「そりゃあよかった」

 

そういうことを聞いてるんじゃない。

 

「こんな町はずれで何をしてるんだ?」
「え、えっとぉ・・・」
「町から出ようと? なら、やめたほうがいい」
「い、いいえ、違います」

おどおどとして・・・人と話すのが苦手なのか?

 

「ぼ、ぼーっとしてるんです。日向ぼっこです」
「・・・・・・」

 

嘘はないようだ。

 

「そうか、邪魔して悪かったな」
「あ、いえ・・・」
「お休み」

 

もう一度目を閉じた。

 

「あ、でも・・・」

 

慌てだした。

 

「ちょっと、ちょっとですね・・・。
人を・・・人を待ってるんです」
「人・・・?」
「帰ってこないかなぁって・・・」
「・・・・・・」
「帰ってきても、しょうがないんですけど・・・。

それでも、帰ってきて欲しいなぁって」
「待ち続けてるの?」

 

沈黙があった。

 

「・・・そう、かもしれません」
「誰? 恋人とか?」
「・・・っ」

 

図星らしい。

 

「え、えっとぉ・・・。

か・・・帰って、来ますかね?」
「おれに聞くなよ」
「あ、ご、ごめんなさい。

病気でつらいのに、こんなに話しかけてしまって」
「いや・・・」

 

面倒だな・・・。

 

「あんたの恋人は帰って来ないかもしれない。
少なくともこの町に戻ってくることはないと思う」
「そ、そうですか・・・ここは田舎ですからね」
「そう。僻地だからな」
「あなたは・・・。
あなたは、大人な人ですね」
「どうして?」
「だって、みんなはきっと帰ってくるって言ってくれるんです」
「彼は、その、し・・・死んでしまったかもしれないのに、帰ってくるって言うんです」
「いい友達を持ってるな。おれなんかより友達を信じろ」
「・・・はい」

 

力のない声。

 

「あのな・・・一つ、どうでもいいことを言うぞ」
「・・・・・・」
「あんたがそいつのことをずっと想っているのなら、いつか会えるかもしれない」

 

もちろん、奇跡の話じゃない。

 

「ありがとうございます」
「じゃあ、もう寝るから」
「あ、え、えっと、つらいなら、町まで案内しますよ?」
「いい・・・」
「で、でも・・・」

 

少女の声は、どこか懐かしく、心地いいものだった。


薄れていく意識の中、

 

 

―――ケンちゃん。

 


そう呼ばれたような気がする。

 

 

 

・・・


「・・・ん」

 

唇に湿った感じが・・・。

 

「けっこう寝たな」

 

気分がいい。

 

「さて、そろそろ試験の集合時間だと思うんですがね」

 

大きく伸びをしたそのときだった。

 

「おい!」

 

足元に先ほどの少女が倒れていた。

 

「う、うーん・・・」

 

ぐったりとしている。

 

「ん・・・?」

 

よく見れば、細い指に水筒を紐でくくりつけていた。


そして、おれの喉の渇きも潤っている。

 

「・・・要するに、この子が、おれを・・・」

 

抱きかかえようと腰を下ろした直後。

 

「・・・ちっ!」

 

 

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胸元のバッジ。

 

それは『義務』を表す証だ。

 

「異性間接触の禁止ってヤツか・・・」

 

通称、恋愛ができない義務。


ということは、おれはこの少女に触れることはできない。

 

この義務は異性との身体的接触を禁じる。


自分から触れることはもちろん、触れた野郎も同罪で、強制収容所に送られる。


唯一、この少女に触れられるのは・・・。

 

 

 

 ・・・。

 

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「森田」
「法月将臣(ほうづき まさおみ)先生。 どうも、ご無沙汰しております」

 

このとっつぁんみたいな特別高等人だけだ。

 

「先生、この子を・・・」
「点呼が先だ」

 

真夏の熱気をたっぷりと吸った地べたの上で、辛そうに息を吐いている少女を見向きもしない。

 

「時間通り来ている候補生は、森田だけだな」
「先生、お願いします。
この少女は日射病にかかっている恐れも・・・」

 

彫りの深い顔立ちの奥で薄暗い輝きを放つ瞳が、一瞬だけおれを睨んだ。

 

・・・聞く耳持たずかよ。

 

「では、これより特別高等人の最終試験を執り行う」

 

思わず姿勢を正す。

 

「実地はこの町。

四方を山脈が包む盆地であり、土地面積は600平方メートルほど、その70%ほどを山林が占め、15%が畑地だ。
人工は約一万人・・・」

 

要するに、田舎ってことだ

 

「土地柄的、かつ歴史的意味合いから『義務』を負う非更生人が多く在住している。試験期間は無期限とする。以上。
なにか質問は?」
「試験といっても、何をすればよろしいのですか?」
「学園へ編入し、現地住民と生活しろ」
「それだけで?」
「他に質問は?」

 

・・・詳しくは教えてくれないのか。


まあ、いい。

 

「わかりました。

それでは、この少女を助け・・・」
「わかっている」

 

この人はおれのことはなんでもわかっていると、いつでも言う。

 

 

 

・・・

「知り合いだな?」
「さきほど会いました」
「関係は?」
「恋人です」
「嘘をつくのが上手くなったな」
「おかげさまで」
「しかし・・・本当に、恋人なんだろう?」

「違います」

 

一歩詰め寄ってくる。

 

「名前を知っているな?」
「さあ・・・」

 

忘れるわけがない。

 

「正直になれ。こうやって無駄話をしている暇があるのか?」
「・・・うぅ・・・」

 

・・・確かにな。

 

日向夏咲。関係は幼馴染、本当です」
「よかろう」

 

それ以上追求はしてこなかった。

 

そんなとき、見覚えのある女の人が到着した。

 

・・・。

 

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 ・・・

「ただいま到着しました!」

 

候補生の一人だ。


一度だけ試験で顔をあわせたことがある。


名前は南雲えり(なぐも えり)さん・・・だったな。


今回の特別高等人試験の中でも、最高の有力株だ。


確か、法理学の分野で名が知られている人だった。


若いのに・・・といってもおれのほうが若いが・・・。


とにかく法律の天才と呼ばれているらしい。


おれも実技はともかく、学科試験じゃこの人より良い点数を取ったことがない。

 

 

「昼夜を問わず歩いてきたのですが、途中、水害で氾濫していた川に出くわしてしまいまして・・・」

 

そうか・・・。

 

最終試験まで残ったのは、おれとこの人だけか・・・。


二人で力を合わせて、がんばっていきたいものだね。

 

 

 

―――――ッ!!

 

 

・・・・・・!!!

 

 

・・・

 

・・・・・・

 

 

女性の身体が一度大きく脈打ち、次の瞬間には糸が切れた人形のように、崩れ落ちた。

 

ビクッ、ビクッ、と二回ほどけいれんし・・・やがて、うんともすんともいわなくなるのが奇妙だった。

 

頭からあふれ出る赤黒い液体が、青々と茂る向日葵の根に、吸い寄せられるように流れていく。

 

 

 

・・・・・・。

 


・・・。

 

おい。

 

死んだぞ

 

人が。

 

目の前で。

 

喉がカラッカラになってしまった。

 

・・・。

 

 

「法月先生・・・」
「すぐ無駄口を叩くのがお前の欠点だ」

 

無駄口じゃない。

 

「私は、あなたがどれだけ厳しい人か、よく知っているつもりです」

 

規律を破れば、殺害も辞さない。

 

冷徹な指導者。

 

 

「ですが、一つだけよろしいでしょうか?」

 

足元に視線を落とした。


相変わらず、黄色いリボンがよく似合っていた。

 

「この少女にもしものことがあったら、あんたを殺す。
はったりじゃない。
覚えておいたほうがいい」

 

 

そうして、振り返らずにその場を後にした。

 

 

・・・。

 

 

 

 

 

―――初夏。

 

七年ぶりに帰ってきた。

 

向日葵が囲う、無邪気な夢跡を残す故郷に。

 

 

 

 


・・・。

 

・・・・・・。

 

「はあはあ・・・ドキドキ」

 

 

おれは転入生。


もうちょっとで、おれは教室に呼ばれるだろう。

 

田舎。

 

木造の校舎

 

新築らしく、リノリウムの匂いがぷんぷんする。


そして、ホームルーム中のクラスがおれを今か今かと待ち受ける。

 

「転校したことがあるかい?おれはない。
だが、おれの好きなSF小説に出てくる転入生は、いつでも物語に波乱の予感を与える。
実は超能力を持っていたり、サイボーグだったり、殺し屋だったりする。
んで、たいていは美少女。
残念ながら、おれはサイコパワーを持っていないし、実は女なんてこともない。
というわけで、あくまで自然に、コソコソと、目立たないように、毎日教室の壁のしみでも数えてるような、そんな可憐な少年を演出していこう」

 

・・・

軽く咳払い。


教室から担任の先生らしき女性の声がした。

 

「森田くん、入って来なさい」

 

ドキドキ・・・。

 

覚悟を決めて、おれは教室の戸をそーっと引いた。

 

 

・・・

「うわっ! あんま見てんじゃねえよ! そんなに珍しいか田舎モンどもがっ!」

 

あまりの視線の量に思わず叫んでしまった。

 

 

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「も、森田くん・・・?」
「あ、いやいや、なんでもないです」

 

いかんいかん、はっきり言い過ぎるのがおれの欠点だ。

 

「えっと、じゃあ、こっちに来て」

 

そろりそろりとアメンボ歩きで壇上に上る。

 

「はい、みなさん。転入生の森田賢一くんです」

 

ドキドキ・・・。

 

頭の中、真っ白。

 

「本来ならここで自己紹介・・・」

 

自己紹介・・・だな。

 

「してもらうところなんですが、時間の都合で・・・」

 

やだなぁ、苦手なんだよなぁ・・・。

 

「森田くんの席は一番後ろ・・・」
「えー。ただいま、ご紹介に預かりました。
森田賢一でございます」
「も、森田くん!?」
「えー。ワタクシの、両親は、元来、農家の生まれでございまして、ワタクシも幼少のころより、庭造りにおいて、カメムシの御手洗と格闘しておりました。
御手洗は、カメムシの分際で、大好物であるスギの実を出せとか、刺激臭を武器に、ワタクシを脅迫しておりました。
その、腐った納豆のような匂いに啓蒙されたワタクシは、クラスのガキンチョたちから、ジャンクフードと呼ばれていました」

「い、いじめられてたのね・・・」
「そんな、コンビニ野郎のワタクシですが、普段はコンタクトをしております。
先日、1DAYを一週間つけたまま放っておいて、いざ外してみたところ、
レンズの内側に血がついておりました。
怖い! 本当の私、デビュー!
というわけで、暗い過去を忘れ、転校デビューを目指すワタクシですが、何卒、よろしくお願いいたします」

 

 


・・・
授業が開始された。


さっきのおれの演説でクラスのみんながクスリともしなかったあたり、学園生活の未来は暗そうだ。


みんな引いてたしな・・・。

 

 

「あーあー、これだから田舎者はよぉ。
横文字に慣れていないんだろうなぁ・・・」

 

悪態をついた、その時だった。

 

「ねぇねぇ・・・」

 

声は、隣の席からだった。

 

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「キミさあ、頭悪いでしょ?」

 

胸元のバッジを確認する。

 

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「わかるんだよねぇ・・・あたしとおんなじ匂いがするよ」

 

こりゃあ、どぎつい『義務』を背負ってるな。

 

カメムシ系の匂い?」
「そそ。初めて会った気がしないよ」
「やあ、御手洗。久しぶりだな。十年ぶりかな?」
「ふふふっ

馴れ馴れしいのもあたしそっくり。

嫌われてるでしょ?」
「御手洗さあ、そんなに自分を卑下するなよ。
おれはお前みたいな元気系が大好きだぞ」
「あたしも、あんたみたいなつまんない人は好きだよ」
「うるさい。おれは絶対にスベらない。
笑えないのは教養の差があるからだ」
「あはははっ! ホントにつまんない人だぁっ!」

 

ケタケタ・・・。


授業中なんてお構いなしの大笑い。

 

「なあ、御手洗」
「さち、でいいよ」
「賢一でいいよ」
「何が?」
「何がって、おれの呼び方」
モリケンでいいじゃん」

 

すでに決まっていたことのように言う。

 

「呼び方はどうでもいいけどさ・・・」

 

胸に目をやる。

 

「ぎょっ!」
「ぎょ? 魚? どしたの?」
「何時から何時なんだ?」
「あー・・・七時から十九時だよ」
「おおおおおっ!?」

 

椅子から転げ落ちそうになる。

 

「あはははっ! あたし、すごくない?」
「すごくないよ、バカ!

一日、十二時間だぞ!?」
「なんとかなるもんだよ」
「なにやらかしたんだ!?」
「てか、モリケンさあ、ひょっとしてお金持ちなの?」
「おいおい、お前がいくら元気系だからって、質問に質問で答えちゃダメだろ?」
ジュラルミンケース」
「あ?」
「なに入ってるの? ねずみ講用のサプリメントとか?」
「普通に・・・教科書とか、あと野宿道具一式」
「野宿? 引っ越ししてきたんじゃないの?」
「まあ、しばらくはここで暮らすと思う」
「だったらあたしの部屋に来なよ」
「あのなぁ・・・。
お前がいくら元気系だからって、そんな唐突に男を部屋に誘っちゃダメだろう?」
「いいじゃん。

モリケンなら安心だって。
あたしさあ、鼻が利くのよ。モリケンって絶対変なことしない人だと思う。
・・・ていうかできない人だと思う。

部屋、けっこう広いし。

あたしが『止まってる』ときは、部屋を自由に使っていいしさ。

流行のルームシェアっていうやつ?」

 

・・・流行ってるか?

 

「おいでよ」

 

にやーっと、嫌な笑みを浮かべた。


・・・なんか企んでるな。


しかし、屋根のあるところで寝られるのはうれしいぞ。

 

「ふふふっ。決まりだねっ」

「うーん・・・」
「やっぱり押しに弱いね。思ったとおり。
ちょっと安心っ」

 

くそ・・・ハードMとして調教を受けたせいだな。

 

「ご厄介になります」

 

俺は机に頭をこすりつけた。

 

「んじゃ、あたし、寝るから。
積もる話は今夜二人っきりでね」
「・・・ちなみに、授業は? 元気系だけに、やる気なし?」
「時間の無駄だから」

 

さちはすぐに寝息を立て始めた。


切り替えが早すぎるな、コイツは・・・。

 

「あんただけにこっそり教えるが、さちとおれは実は初対面ではないのだ。
ここは俺の故郷であるからして、さちはいわゆる幼馴染というやつなのだ。
鼻が利くというわりには、さちはおれに気づかなかったようだな。
こいつのフルネームは三ツ廣さち(みつひろ さち)という。
三ツ廣さち・・・。
昔から強引で、人の意見を聞かなくて、わがままで、イタズラ好きで・・・・・・。

あれ?
あんまり、いいとこ思い出せねえなあ。
なんかに熱心に打ち込んでたような気もするんだが。
・・・うーん。
まあ、元気系なのは、よかったよかった。
ただ、あんたも知っての通り、元気系ってのは、あっさりとして嫌味のない正確をしているのが普通だ。
たいていはショートカットか、ポニーテールで、胸がでかくて、スポーツをやっている。
だが、このさちという少女に関しては・・・。
安易な元気系という枠にはめてはいけないのだった」
「あのさあっ!」
「んっ!?」
「うるさいんだけど・・・!?」
「へ? なんだよ、そんなに迷惑そうな顔するなよ。
お前を紹介してやってるんじゃないか」
「紹介? 誰に?」
「・・・いや、まあ、それは言えん」

 

口ごもる。

 

「・・・・・・。
とにかく静かにしてね」

 

そして、さちはまた机に突っ伏した。

 

「・・・・・・三ツ廣さち、国語が大の苦手で、東京都を”ひがし京都”と読んでいたのだった」

「ねえっ!」
「んっ!?」
「うるさいって!」

 

 

 

・・・

再び授業。


さっきの担任にして、美人の女教師が教壇に立っている。


難しい質問を出しまくって、教室の雰囲気をピリピリさせていた。


だが、おれにとっては簡単すぎる内容だった。

 

「それでは、特別高等法の第五原則について解説できる人?」

 

しーん・・・。

 

「それじゃあ、転入生の森田くん」

 

ピッと、にらまれた。

 

「森田くん、返事を」
「はいはい」
「返事は一回で」
「回答の前に、先生のお名前は?」
「私? 私は大音です」
「下の名前は?」
「どうしてそんなことを聞くのかしら?」
「知りたいからです。

そして、お近づきになりたいからです」
「答える義務はないわ」
「そう、第五原則は、被構成人の最低限のプライバシーを保証するもの。
答えたくないことには、答えなくていい権利ね」

 

被更生人だからって、なんでもかんでもずかずか踏み込んでいいわけじゃない。


といっても、胸にバッジをつけてるから・・・。


そしてその形から、ソイツがどんな『義務』を負っているのかは一目瞭然なんだがな。

 

おれがどうでもいいことを考えていると、美人教師大音は頬を緩めた。

 

「なかなか面白い子ね」
「褒めないでください。

おれは叩かれて伸びる子です」
「私は京子よ。

大音京子(おおね きょうこ)」
「森田賢一です。 生物は苦手です」
「じゃあ、問題ね」

 

直感した。


この人はSだ。

 

「ファージ、動植物ウィルス、プラスミドに代表される遺伝子を組み込む相手として用いられるDNAのことを、なんといいますか?」

 

・・・生物っつうか、遺伝子工学の話だな。
だが、おれにとっては簡単すぎる問題だった。

 

「その質問に答えることは、至極簡単です。
知識を披露すればいいのですから。
でも、京子さん、そもそも大事なのは知識ではなく、知識を知恵に変えることではないでしょうか?
そんなネットから引っ張ってきてコピペしたような設問を出すくらいなら、僕らを取り巻く社会環境について、何を考えるべきか?
それについて考えましょう。
ねえ、そのほうが素敵ですよ。

僕は常々考えています。
社会なんてのは存在しないとね。

ああ、コレも偉い人のセリフなのですが、とにかく僕と京子さんには重要な話です」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・要するに、わからないということね?」
「違います。安易に答えを教えるのが真の教育とは言えないのだと、そういうことを言っているのです」
「わからないのよね?」
「違います。

そんな目で見ないでください。
ハードMの血が騒ぎます」
「・・・変な子ね。
まあいいわ・・・授業に戻るとしましょう」

 

やっぱりただの意地悪だったか。

 

「大音さん、教科書の十五ページを読んで」

 

 

大音?

 

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 ・・・

「特別高等人は、法治国家の快挙である特別高等法を支える重要な職務である」

 

いい声だ。


エコーをかけたい。

 

「『義務』を追う被更生人を監督、保護観察する責任があり――」

 

このへん、あれだよな、SF小説でいう保護司って人たちに活動が似てるんだよな。

 

「被更生人に対する監督方法は、全て、特別高等人の能力と良識にゆだねられる。
特別高等人は被構成人の基本的人権を握っており、プライバシーを侵すことはおろか、生殺与奪まで自由である」

 

つまり、更生教育のためなら手段を選ばなくていいんだ。


だから、性格のやばいヤツは特別高等人にはなれない。


人格矯正トレーニングもあるしな・・・。

 

って、思い出したら死にたくなってきた。

 

 

――特別高等人は、被更生人の『義務』の解消まで決定権を保持する。

 

要するに、特別高等人が『お前、もうOKねっ』って言ったら、そいつは『義務』から解放される。


逆に、特別高等人に認められない限り、そいつは一生『義務』を背負って生きる羽目になる。


最悪の場合・・・更生の期待が持てないと判断された日には、ぶっ殺されるか強制収容所に送られる。


どうしようもない奴にずっとかまっていられるほど高等人は暇じゃないし、人手も足りないからだ。

 

「以上、設定説明的な退屈な手続きであるからして――」

 

あの少女は・・・。
胸元を確認する。

 

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・・・膨らんでるのかな?


・・・って、なに恥ずかしいこと考えてるんだろ、おれ。


それにしても、こりゃまた面倒な『義務』だな・・・。

 

「はい。結構」

 

授業も終わりらしく、京子さんはパタンと小気味のいい音を立てて教科書を閉じた。

「・・・そうそう。新しくこの町に特別高等人の方がいらっしゃいましたから・・・」

 

法月将臣のとっつぁんだな。

 

「出会ったらご挨拶を忘れないように」

 

はーい、気だるそうな声が上がる。

 

「あ、それと、灯花」
「・・・はい?」

 

灯花・・・?


大音灯花と大音京子。


姉妹かね・・・。

 

「せっかくの昼休みだけど、ちょっとお話があるの」

 

手招きしている。

 

「友達とご飯食べる約束してるんだけど?」
「お話があると言ってるの。
これは母としての命令よ」

 

母!?

 

「・・・っ!
わ、わかったわよ」

 

しぶしぶ京子さんについていく少女。


それにしても、あの若さで親か!?

 

親子ね。

 

大変だろうな・・・

 

親権者に絶対服従の『義務』を追っている子供がいる家庭は。

 

 

 


・・・。


昼休みに入ったようだ

 

さちは、ずーっと寝てる。

 

「気になる親子のあとをつけるとしよう」

 

んで、ついでに一服してこよう。


教室の木戸を勢いよく開けて、おれは廊下に飛び出た。

 

田舎だからかわからんが、あまりこの学園は活気があるってわけじゃなさそうだな。


廊下を走るやつもいないし、階段の踊り場でイチャついてるやつもいない。

 

「そんなの嫌だよ!」

 

おっ、いたいた。

 

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「嫌だとは、言えないはずだけれど?」
「で、でも・・・私、もっと遊びたい!」
「駄目よ。もっと勉強しなさい」

 

・・・

「なんの話ですかね?」

 

首を突っ込む。

 

「森田くん・・・」
「もっと、勉強しろとは?」
「そうね。そろそろ夏休みに入るでしょう?」
「え? そうなの? おれ、転校してきたばっかりなのに!?
魅惑のスクールライフは!?」

 


「・・・・・・」

 

冷ややかな視線を感じる。

 

「灯花に、夕方六時までには家に帰るよう言いつけたの」

 

京子さんは一瞬、灯花のバッジを見た。


・・・要するに、命令したわけだな。

 

「今時の女の子に向かって、門限六時ってのはちょっときつくないですかね」

「・・・森田賢一には関係ないでしょ」

 

援護してやったのに怒られてしまったぞ。

 

「いきなり呼び捨てとは・・・。
今時の女の子はみんなこうなんですかね、先生?」
「私の娘よ」

 

やっぱり親子なのか

 

おれは少女に言った。

 

「おれは森田賢一だ。
将来、人をアゴで使う身分になる男だ」
「はぁっ?」
「自己紹介をしろ」
「ぶっ殺すぞ!」

 

トゲトゲしいヤツだなぁ。

 

「とにかくお前は、京子さんには逆らえんのだ」
「そんなことわかってる」

 


「森田くんからも、この子によく言ってあげて」

 

 

頷いて、少女に迫る。

 

「とにかく、お前は京子さんには逆らえんのだ」
「・・・なによ」
「とにかく、お前は京子さんには逆らえんのだ」
「・・・くっ」
「とにかく、お前は京子さんには逆らえんのだ」

 

暗示をかける。

 

「も、森田賢一って・・・!」

 

少女は肩をいからせて教室に入っていった。

 

「・・・あの子、なんなんですかね?」

 

呟きを京子さんが拾った。

 

「いきなり嫌われてたみたいね?」
「おれのこと好きなんじゃないんですかね?」
「・・・当人の親の前で、よくそんな軽口たたけるわね?」
「自身過剰ですから」
「・・・そのようね。
でも、あの子と仲良くしてくれると嬉しいわ」
「じゃあ、今日この町の案内でもさせてくださいよ」
「灯花に?」
「そう。 仲良くなりたい」
「いいでしょう。あとで言っておくわ」
「『命令』しちゃ、ダメですよ?

あなたの、親の指示には逆らえない『義務』なんだから」
「・・・本当に、偉そうな子ね」

 

そんなことおれに言われるまでもなく、百も承知だという顔。

 

「ただ、親子の関係には口を挟まないでもらえるかしら?」

 

神経質そうだな、この人。

 

「それじゃあ」

 

おれは京子さんの背中を見送った。


・・・教室に戻るか。

 

・・・っと、その前にトイレで一服してこよう。

 

 

・・・。 


・・・・・・。

 


まだ昼休みは終わってないようだ。


いまさら気づいたんだが、この学園って、一つのクラスにいろんな学年の子がいるんだな。


席に着こうとしたとき、背後に誰か立っているような違和感を感じた。


危険は無いだろうが、反射的に振り向いた。

 

「・・・・・・」

 

近かった。


背は俺と同じくらいだろうか。


胸の筋肉はありそうなくせに、なで肩なのがアンバランスだった。

 

つーか、とんでもない美形だな。

 

「・・・こんにちは」

 

からんできやがった。

 

「なんか用か?」
「くすっ」

 

微笑んだ。

 

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「卯月セピア(うづき せぴあ)だ」
「セピア?」
「僕の名前」
「頭おかしいんじゃねぇのか?

何がセピアだ!」
「卯月は四月という意味だよ」
「聞いてねえよ」
「あはっ」
「なに悶えてるんだ!?」

 

気持ち悪くなってあとずさる。

 

「どしたの?」
「お、さち。

こいつはなんなんだ!?」

 

確かにこの町は歴史的にいわくある土地でもあるが、こんな番外地野郎がいるなんて聞いてないぞ。

 

「ん?磯野くん?」
「・・・磯野?」
「本名ね。童話が好きだから」

 

・・・つまり、セピアってのはペンネームか?

 

「作家さんなの?」
「まあね・・・」

 

こんな若い童話作家がいるとは知らなかった。


しばらく世間にふれられない生活をしていたから、当然か。

 

「森田くんは、ミサイルとか好き?」
「み、ミサイル?」
「核はどう? 大量破壊兵器とか好きだろ?
ウラニウムはいいよね?」
「お前、本当に童話好きなのか!?」

 


「あーっと、磯野くんってちょっとキマってる系の人なんだよね」
「言われんでもわかる」
「でも、三年前から、ずっとあたしの子分なんだよねっ!」

 

と、磯野の背中を叩く。

 

「はい。いまは足軽組頭といったところですね」

 

・・・雑兵じゃねえか。


・・・ん?

 

「おい・・・。

いま、足軽組頭とか言ったな?」

「ああ・・・知らないかな? あのSF小説

 

思わず指を鳴らした。

 

「おおおーっ! あれ、おれも好き。

全巻読んでる、特に日本編が好き」
「僕はアメリカ編が好きだな。

敵の兵士をホモに変える兵器とか、真面目に作ってるのが素敵」
「バカ、日本編が一番だって。
わっしょい! わっしょい! だぜ?」
「それ、違う。

ハッスル! ハッスル! だろ」
「まだ、完結してないよな?」
「全部で千巻予定だろう?」
「いま何巻まで出てるっけ?」
「いまは・・・」

 

 

 

・・・・・・。


・・・。

 

なんか意気投合してるし・・・。

変人同士、ウマが合うのかな?

 

 


・・・
授業が終わり、放課後になった。

 

「森田くん、一緒に帰ろう」

 

出会って五分で親友になったおれたち。

 

「寮部屋は、もう決まっているのかな?」

「まだ・・・というか、お前らみんな寮ぐらし?」
「お前らというと?

僕はいつでも孤独な童話作家だが?」
「・・・友達いないんだな」
「このクラスじゃ、さちさんが寮暮らしだぞ。

ああ、夏咲ちゃんもか」
「夏咲ちゃん・・・」
「知っているのか?」
「朝に会った、黄色いリボンの女の子だろ。

なんでも倒れたらしいな。

大事なければいいんだが・・・」

 

 

「ねえ・・・」

 

 

急に不機嫌そうな顔が湧いてきた。

 

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「あのね・・・」
「んっ・・・」
「・・・まったく、なんで私が・・・」

 

なにブツブツ言ってんだ?

 

「僕に何か用か?」

 


「磯野くん。

どう見てもお前じゃなくておれに何か言いたいようだぞ」

「さっさと行きましょう?」
「行く?」
「森田賢一がお母さんに頼んだんでしょう?」
「ああ、町の案内ね」
「・・・なんで案内役は私なの?」
「嫌なのか?」
「嫌というか・・・お母さんを通して私に命令するのが気に入らないの」
「直接言えってこと?」
「そうよ」
「じゃあ、改めてお願いする。
大音、おれを案内しろ」
「イヤ!」
「けっきょく、ダメなんじゃねぇか!」
「だから、なんで私なの!?

さちに頼めばいいじゃない?」

 

 

「まあ落ち着け。森田くんはユニセックスだから二人きりでも安全だぞ」
「意味わかんねえし、ユニセックスじゃねえし」

 

 

「ちょっと、私の前でバカな会話やめてくれない!?」

 

心底不機嫌そうだ。

 

「・・・わかったよ。もうお前には頼まねえよ」
「あ・・・。
ちょ、ちょっと待ってよ」
「なんだ?」
「お母さんに命令されてるんだから、しょうがないのよ」
「ふーん・・・『義務』ってわけね」
「わかったら、さっさと行きましょう」

 

大音は後ろを振り返ることなく教室から出ていった。

 

「くす・・・好かれているな」
「どこをどう見たらそんな発言が出るんだ!?」
「気にするな。そんなことより・・・。

森田くんは、これからずっとここで暮らすのか?」
「・・・いや。

どうだろう、しばらくはいると思うが・・・」
「そうか。

なんだか森田くんとは初めて会った気がしないな」
「お、おう・・・」
「ではな・・・」

 

磯野は口元に微笑を携えながら去っていった。

 

・・・。


俺も大音の後を追った。

 

 

 


・・・

 

・・・・・・


外に出ると力強い光に目を奪われた。


それは山の稜線に溶け落ちる赤黒い夕陽だった。

 

「なあなあ、ちょっと待てよ」
「なに? 六時までに家に帰るようにお母さんに命令されてるんだけど?」
「そんなにトゲトゲするなって。

素晴らしい景色じゃないか?」

 

山を指した。

 

「・・・じゃあ、最初は山に行く?」
「森田山っていうんだよな? 暗くなったらまずいから登山は十合目くらいまでにしようぜ」
「山の名前違うし、十合も登ったら真っ暗になるし」
「ま、とにかく、さくさく行こうぜ」
「なんだか妙に元気ね」

 

・・・

舗装されてない道を歩くこと数分。


田舎丸出しの田んぼに出た。


青い苗が、夕陽を浴びて背筋を伸ばしている。

 

「あんたがどう思うか知らんが、田舎の学園ってのはキャベツを盗むと停学になり、メロンを盗むと退学になる。

じゃあ、稲はセーフだ。
そう言ったのはさちだった。

おれはよく収穫の季節になると、あいつの命令で田んぼに忍び込んだもんだ」
「なに言ってるの?」
「いや・・・過去を回想」
「ブツブツと・・・危ないクスリでもやってるんじゃないの?」
「大音も少しカルシウム系のサプリメントを飲んだほうがいいな」
「飲んでるよ。

お母さんの命令でね、十種類も」
アメリカ人みたいだな」
アメリカ・・・」
「あ・・・お前は知らんか、あの小説」
「う、うん?」
「面白いぞ。 貸してやろうじゃないか」

 

ジュラルミンケースを開ける。

 

「い、いいって、いいって!

私、本とか嫌いだから」
「えぇっ!? すげえウケるって! 人として読んどけって」
「いいって!

お母さんからそういう娯楽系の本読むの禁止されてるから」
「むぅ・・・」

 

仕方ないか。

 

「ほらっ、早くしないと日が暮れちゃう・・・」

 

大音に急かされるままに田んぼ道を進んだ。

 

 

 


・・・

 

・・・・・・


夕空が日中は圧倒的な緑を誇っている山景色に、赤を破裂させていた。


傾斜の緩い道に、木々の影が長く伸びている。

 

「いい景色だな。

山頂に行けばもっと凄いんだよなあ」

「・・・・・・」
「昔は毎日のように山登りしたもんだよ」
「・・・・・・」
「ちょっと歩くと見晴らしのいい崖に出るんだよ。
そこが思い出の・・・。

いや、ほろ苦な場所ね」
「・・・ねえ」
「ん?」
「もうちょっと早く歩けないかな?」
「無理無理。疲れてるから」
「元気そうじゃない? 

・・・ブツブツ盛り上がって」
「とにかく、無理」
「その・・・」
「・・・あん?」
「・・・っ!
あ、いや・・・なんでもない」
「・・・・・・」
「えっと・・・森田賢一は・・・」
「賢一でいいよ。

なんでフルネームで呼ぶの?」
「・・・別に」
「別に? ならおれもお前をフルネームで呼んでいいんだな?」
「・・・いいけど?」
「大音・トゲ・灯花」
「トゲってなによ!?」
「ミドルネーム」
「やめてよ!」
「じゃあ、トゲでいいや」
「・・・っ!」

 

なんだか知らんが絶句してしまったぞ。

 

「私、そういうくだらない話に乗らないから。

危うくペースに飲まれるところだったけど、森田賢一なんて嫌いだから」

「なぜ!? おれがなにかしたか!?」
「だいたい・・・。

なにしにこんな辺ぴな町に来たのよ?」

 

おれは少し理由を説明するのをためらった。

 

「・・・特別高等人になるためだよ」
「と、特別高等人を目指してるの!?」
「あと一歩だね。この町で最後の試験をやるらしい」
「す・・・すごいのね。

あれって、年間に十人出るか出ないかでしょ?」
「らしいね」
「森田賢一って、実は頭いいのね・・・」
「あ、なんか恋の予感!」
「はあっ!?」
「やっぱり、学歴は好ステータスだよなぁ」
「ふざけないで! 嫌いだって言ってるでしょう!?」
「振り子の法則でいうと、嫌われてたほうが好きになったときが激しいんだよねー」
「そうやって知識をひけらかす人は大嫌いだから」
「む・・・教養の差が出たか・・・」

 

庶民のレベルに合わせるとしよう。

 

「この町の歴史知ってる?」
「なんだ? 庶民の分際で知識をひけらかす気か?」
「むかっ・・・! 知ってるの? 知らないの?」
「知らない」
「えっとね、特別に教えておいてあげるけど」

 

お、無知を楽しむ顔になったぞ・・・。

 

子供っぽいとこあるんだな。

 

「もともとが罪人の流刑地だったのよね」
「この山で金が取れたからだろ?」
「知ってるんじゃないの!」
「あ、すまん。
真の知識人は、知っていることでも知らないと答える習慣がついているもので」
「っく・・・じゃあ、これは知ってる?」
「知らない」
「まだ何も言ってないでしょ!」

「昔、戦争があったときのどさくさで、
異民や社会的弱者も多く流れてきたんだろ?
変わった名前が多いわけだよ。
だから、さちの『生活時間制限』やお前の『親権者に絶対服従』みたいな、
都心部じゃあまり見かけないキツくて古い義務がいまだに残ってる」
「・・・そうね」

 

なんだか面白くなさそうな顔だな。


大音って、人にいぢられるより、いぢりたいタイプなんだろうな。


下手に出ておくか。

 

「次、どこ行く?」
「大音の好きなところでいいぞ」
「え? そう? そうね・・・」
「帰りたいなら帰ってもいいし」
「あー、帰ろうかな、でも六時までまだ時間あるし・・・。
・・・商店街、はぁ・・・ああ、森田賢一と一緒じゃつまんないし・・・。
どうしようかな・・・。

なんか好きな景色とかある?」
「・・・・・・」

 

主体性はあるが、責任は他人に押し付けたいタイプかな。


要するに、わがままってことだが。

 

「帰るのと、商店街に行くのどっちがいい?」
「うーん・・・帰っても勉強するだけだし・・・。
かといって買い物するほどお金もあんまりないし・・・」

 

二択を迫っても決められないってことは、論理思考より感情思考なんだろうな。


こういう子を動かすなら・・・。

 

「六時までに帰らないと『義務』違反になるぞ。
途中で思わぬ事故にあうかもしれないし、今日は帰ったほうがいいかもな?」

 

驚異を示して、マイナス感情に誘導してやる・・・か。

 

「そうね。いいつけ破ったら収容所に入れられるし・・・」

 

もしくは・・・。

 

「やっぱ町中ぶらぶらしようぜ!

なっ!?」

 

大音の腕をぐっとつかんで歩き出す。

 

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「なっ、ちょっと、離してよ!」

 

少し強引に引っ張ってでも、気持ちを沸かせてやるのが良さそうだ。

 

「お前、腕ほっそいなあ・・・。

そしてスベスベじゃん・・・」
「・・・はぁっ!?
は、離してよっ!」

 

振りほどかれる。

 

「もう、あんたなんか置いて行くっ! バカ! 変態!」

 

真っ赤になって山道を下りていく大音。


当然、本気で怒ったわけじゃなくて、大音にとって日常の枠外の行動をとられて、極度に緊張しただけだ。


恋愛に免疫もなさそうだから、これがきっかけでおれに恋心を抱く可能性も考えられる。


自惚れじゃない。


おれは容姿がいい。


それがどれだけ社会生活を送る上で有利に働くかを知っている。


そして、あの手の子供は、よく外見で男を判断する。

 

「ふぅ・・・。
あんたがどう思うか知らんが、おれは嘘つきだし、お世辞も言うし、これから仲良くなろうって子を分析するようなゲス野郎だぜ。
隠しごとも多いしな・・・」

 

大音を送るとしよう。

 

 

 

・・・

 

・・・・・・

 

「なあなあ、さっきは急に腕つかんだりして悪かったよ」

 

苛立ちが収まらない様子の大音だった。

 

 

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「ここ、田んぼだから」
「は?」
「はい、案内終わり。次・・・」

 

 

 

・・・

 

・・・・・・


「ちょ、ちょっと待てよ!」

 

なにが田んぼだ、さっき通った道じゃねえかよ。


大音の後に続く。

 

 


・・・

 

・・・・・・

 

 

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「ここ、川だから」
「見ればわかるって!」
「はい、次・・・」
「お、おいっ!」

 

景色を楽しむ暇もない。

 

 


・・・

 

・・・・・・

 

 

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「ここ、学園だから」
「なめてんのか貴様!」

 

いい加減カチンときた。

 

「あのなあ、ちゃんとおれをガイドしろ! お母さんに言いつけるぞ!」
「お母さんからは、森田賢一を連れて町を歩けって言われただけ。
歩いてるからいいじゃない?」
「なんだ、その理屈は!?
お前、アレだろう・・・バナナはおやつに入らないんです、とかムキになって主張するタイプだろ?」

 

だが大音は鼻を鳴らすだけだった。

 

「それじゃあ、次は寮ね」

 

・・・。


「どう思うよ、この態度・・・?」

 

 

 


・・・


・・・・・・

 

 

 

懐かしの学園寮。


相変わらずぼろい。

 

 

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「私、もう帰るから・・・」
「ちょっと待てって」
「なに?」
「お前の家を案内しろ」
「なんで?」
「イタズラする。

ポストに麦飯とか入れる」
「私の前でふざけないでって言ってるでしょう!?」
「とにかく、送るって」
「いい!」
「いいから行くぞ。 時間ないんだろ?」

 

促すように歩みだす。

 

「・・・っ・・・!」
「ほらほら、おいでおいで」
「・・・こっちよ!」

 

すたすたと行ってしまう。

 

「・・・なんなんだろ?
まあ、あんたも知っての通り、目の前で嫌いって言われてるうちはそんなに嫌われてない・・・よな?」

 

 

 

 


・・・


・・・・・・

 


「質素な家だな」
「悪かったわね」
「いや、こういうのは好きだぞ。
お婆ちゃんの家って感じだな」
「・・・あっそ」

 

 

「あら、森田くん・・・?」

 

 

背後から声がした。

 

 

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「うちに何か用?」
「いや、町を案内してもらってるところです」

 


「・・・送ってもらったのよ」
「あらそう・・・。
灯花もちゃんと森田くんをご案内したんでしょうね?」
「・・・・・・えっと」
「どうしたの? きちんと言っておいたはずよね?」
「・・・えっと・・・まあ、一応・・・」

 


「山とか川とか田んぼとか、おれの見たい景色をナビしてくれましたよ」

「ぁ・・・!」

 

 

「良かったわ。珍しく私の言うことを聞いてくれたのね?」
「・・・・・・」
「どうしてだんまりなのかしら?」
「・・・・・・」
「まあいいわ。

いつも通り夕飯まで勉強してなさい」
「・・・・・・はい。」

 


「どした?

おれの顔になにかついてるか?」
「・・・なんでもないっ」

 

・・・

灯花は玄関に消えていった。

 

「それじゃあ、おれも帰りますわ」
「ちょっと待って」
「はいはい?」
「森田くん・・・いや、森田さんと呼ぶべきかしら?」
「森田様で」
「・・・あなた、特別高等人の国家試験をほとんどパスしてるらしいじゃないの?」
「法月のとっつぁんから聞いたの?」
「ええ・・・史上最年少だって。

どうしてうちの学園に通うの? 基礎課程は終了しているはずでしょう?」
「確かに、基礎学力課程は昔に飛び飛びで合格してる。

この学園に来たのは、おれも良く知らないけど、法月のとっつぁんにそうしろと言われたから」
「じゃあ、試験の一環なのかしら?」
「だと思う」
「じゃあひょっとしたら、近い未来に、灯花の監督を任せられたりする?」
「おれが特別高等人になれば、そういうこともあるだろうね」
「若いのに、すごいわね・・・」

 

すごいことなんて、一つもないさ・・・。

 

「灯花は、親権者に絶対服従の『義務』だよね?」
「ええ、通称大人になれない義務」
「親権者は京子さんだけ?」
「そうよ・・・」

 

父親はいないのか・・・。


まあ、深く踏み込むのはよそう。

 

「灯花が『義務』に違反したことはある?」
「そうね、私のいいつけに逆らったことは何回かあるけど、特別高等人の方にお咎めを受けたことはないわ」
「いまの監督人は、法月のとっつぁんでしょ?」
「そうね。 本日付でそうなったわ」
「気をつけてね」
「なにが?」
「あの人、ギャグが通じないから」
「うちの子もそうよ」
「とにかく気をつけてね。
『義務』をしっかり守らせるよう教育してね」
「・・・わかったわ」
「それではさようなら」
「はい・・・また明日。学園で」

 

手を振って、その場を後にした。

 

 

・・・。