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車輪の国、向日葵の少女【17】


・・・。




昨日からの雨は、その勢いを弱めながらもしぶとく降り続けていた。


朝七時、さちがだるそうにベッドから身を起こした。


「おっはよーっ!」



「・・・・・・」


こめかみを押さえて頭を振っている。


「・・・うっ・・・」
「大丈夫か?」

 

 

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「・・・っ・・・だ、大丈夫なわけないじゃん・・・!」



「具合悪いの?」
「見りゃわかるでしょ?」



「昨日は一日止まってたから、ちょっと体の調子がおかしいんだろ」
「・・・っ!」


ちらっと、窓の外を見る。


「また、雨じゃん。 今日も無理だね」
「さち・・・。 頼むから」


折れてみる。


「お願いするなら、いますぐ時間を戻してよ」
「お前、どうしちまったんだよ」
「身体がきついときに、普段と同じ態度が取れるわけないでしょ?」
「昨日は寝たんだから、そこまできつくないだろ?」
「だから、嫌な夢見て精神的に疲れてるのよ」


確かに、寝汗はひどかった。


「とにかく、今日はやすめないぞ」
「・・・・・・。
ねえ、モリケン

 

・・・。


モリケン、ね。

 

「あたし、なんかもう疲れちゃった。
マジ助けてくんない?」


金をおれに払わせようってのか。


なんの努力もしないで。


「お姉ちゃんっ」
「ん・・・?」
「とりあえず、お顔洗ってきたら?」
「・・・・・・」


さちは、しばらくの逡巡の後、ぶすっとした足取りで風呂場に向かった。

「まな、ありがとう」
「なにがぁ?」
「あのままいってたら、また昨日と同じようにケンカになってた」
「賢一は、会話が上手なんじゃないの?」
「そんなことはないよ。さち一人説得できない」
「お姉ちゃんは、大変?」
「体調が悪い人間や眠い人間をどうにかするのは、なかなか難しいよ」


それに、友達でいすぎたせいか、どうにもなめられてる。


「ちょっとぉ、なにあたしの噂話してるのよ」
「だって、渦中の人物だろ?」
「あたしにかまわないでって、さっき言ったでしょ?」


聞いてねえよ。


「それでなに? 二人して絵を描けって?」
「う、うん・・・」
「あのさあ、こういう気持ちわかんない?
勉強しようと自分で思ってたところを、親に勉強しなさいって言われたらムカつかない?」


不機嫌な子供の理屈だ。


「あたし、いまそういう気分なんだよね。
あんたたちはさあ、見てるだけだからいいじゃん?
時間も二十四時間あるし、うなぎだのラーメンだの食べて毎日楽しそうじゃん?
まなも、すっかり賢一になついちゃってさぁ・・・」


寂しがり屋だな、本当に。


時間が合わなくて友達を失っていったんだろうな。


「なに、そのあたしを見る目は?

キモい? わがまま?
いい加減とか思ってるの?」
「落ち着けって・・・」
「まさかあたしがこんなに嫌なヤツだとは思わなかったでしょ?」



「お姉ちゃん・・・」



「あー、あたしもそう。

あたしもまさか自分がこんなにブラックなヤツだとは知らなかったわ。
きっとクスリのせいじゃん?
ホント、気分悪いもん。

毎日嫌な夢見てさあ、眠くてさあ、プレッシャーばっかりでさあ・・・。

なんていうかもう、無理って感じ!」


何度もため息をついていた。


「わかった。

ただ、さちはなんでもするって言ったじゃないか?」


言いつつ、さちの目線をまなに誘導してやった。


「あれは・・・っ!」


また大きくため息。


「だって・・・あのとき、札束をぶちまけたときは、絵を描くだなんて思っても見なかったし・・・」
「それはそうだろうが、一度は絵を描くって決意しただろ?」
「だからそれは・・・。
それはそうなんだけど・・・なんていうか、結果的にウソになっちゃうことって世の中にはたくさんあるわけでさあ・・・」


今度は世の中のせいにするか。


「ちょっとはやる気見せたけどさあ、個人の能力の限界ってのもあるわけで・・・その・・・。
はあっ・・・っ・・・あたしは、けっこうがんばろうとしてたんだよ、あたしなりに・・・だから・・・っ・・・」


・・・・・・。



「さち・・・」


つらいのはもう、十分にわかった。


「向日葵畑で待ってる」
「こ、来なかったらまた時間を減らすっての!?」
「次は、一日六時間だ。

活動時間制限の義務の中じゃ、限界ぎりぎりだな」
「いやだって!」


金切り声。


「そんなの人間じゃない!

もっと人間らしい生活がしたいよ!
だって、そんなの誰にもかまってもらえないよ。
一人で遊ぶしかないじゃん。

たまに起きてもご飯食べて寝たら終わりでしょ?
そんなのは・・・そんなのはやめてよ・・・。
あたしが、なにしたっていうのよ」


ついにさちが、弱さを見せたか。


限界が近いようだ。


「いいから来いよ。

絵を描けば義務の解消も考えてやると言っているのに、なぜそれを実行に移そうとしない?」
「だから、絵は無理なんだってば! 何度も同じこと言わせないでよ!」
「・・・・・・。 じゃあな・・・」


背を向ける。


「馬鹿! 人でなし! あんたなんかだいっきらい!
あたし、もうどうなってもいいから! もうクスリ飲まないから!
収容所でもなんでも連れていけばいいじゃない!?」


おれへの恨みの言葉が廊下まで響いた。

少し待ってもまなが出てこないので、一人で外に出ることにした。

 

・・・・・・


・・・



・・・一服して、気分を整える。

後ろを振り返っても、まなの姿はない。

もちろん、さちもいない。

 

 

・・・・・・


・・・



ゆっくりと歩いてきたが、やはりさちたちが追ってくる気配はなかった。


「正直、まずいかもな。
さちのヤツ、完全にふてくされちまったんだろうか?
かといって、優しい言葉をかけても無駄だったろうな。
このままだと、さちの監督失敗だ。
・・・うーむ。独り言もシリアスだぜ・・・」


首を回すと、ぼきぼき鳴った。


まなは、なにしてるんだろうな。さちにお願いしているのかな?

さちも、まなが大切なのはわかる。
けれど、それ以上に絵を描くのがつらいようだ。
怠惰の一番の原因は、体調かな。
やっぱり、毎朝の機嫌の悪さは異常だ。
具合が悪いときには、親だって気に入らない瞬間があるもんだ。
でも、さちのヤツ・・・。
おれが最後には金を出してくれるとか、甘い考えを抱いているのか。
ったく、あんたも知っての通り、おれはそんないいヤツじゃねえぞ・・・。
ここでさちが結果を出せなきゃ、あの姉妹はもうダメさ。
まなだって、あれだけ賢いんだから、さちのもとを離れて勉強させたほうがいいだろう。
・・・残酷かな、おれは」

 

 ・・・・・・。



しばらくブツブツと語りながら、さちを待ち続けた。

 

 

 

 

・・・。


・・・・・・。

 


時計を確認すると、すでに正午を過ぎていた。


「アホか、おれは」


無駄に、雨の中にたたずむ男を演じてしまった。


さちは来ない。


どれだけ待ちわびても、さちは来ない。

 

・・・。


ふと、丘の向こうに人影が見えた。


さちかと思ったが、視力2.0のおれにはわかる。

 

 

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まなが、一人だった。


傘も差さずに、とぼとぼと歩いていた。

 

駆け寄る。

 

「どうしたんだ?」


傘の中に入れてやる。


ちょっとぎゅうぎゅう詰めになった。


まなの顔が濡れているのは、雨のせいだけじゃなかった。


「・・・お姉ちゃんね、頭が痛いから行かないって」


・・・今度は仮病かよ。


「まなが行こうって言ってもね、全然聞いてくれないの」
「いま、寝てるんだな?」
「うん・・・」
「それでね、起こそうとしたんだけどね・・・。
そしたらね・・・」


しゃくりあげるような声で言う。


「れ・・・たの・・・」


肩が震えていた。


「・・・まなね、本当はねっ」


必要以上に赤くなった頬をさすってやりながら、話を聞いてやった。


「絵のことをね、言いたくないんだよ・・・。
だって、お姉ちゃんに嫌われちゃうもん。
いっつも優しいお姉ちゃんが、なんか、まなのこと怖い目で見るのっ・・・」


下唇を噛んで、涙をこらえていた。


「でもね、決めてたから。
まなは、絶対にやめないんだよ。
お姉ちゃんに、絵を描いて欲しいから、何度でもお姉ちゃんの嫌がることをするんだよ。
・・・ぶたれてもっ・・・!」


・・・。


おそらく、手を上げられたのは初めてなんだろう。


「だって、絵を描くのが、お姉ちゃんの幸せなんだから」


小さな体に、大きな意志がつまっている。


「帰ろう。一緒にお姉ちゃんを起こしに行こうっ」

 

一緒に、か。


一人じゃどうしようもなくなって、おれに頼みに来たんじゃないのだろうか。


さちにぶたれたショックで、傘を差すのも忘れてここまで歩いてきたんじゃないのか。


それでも、あくまで、自分でさちを救いたいんだな。

 

「濡れないように、もっとくっついてろ」


そう言って、道を引き返した。


途中、顔をくしゃくしゃにしていたまなだったが、それでも泣き声をあげることはなかった。

 



・・・・・・


・・・

 


部屋に入ると、すぐにさちの寝息が聞こえてきた。


寝相は悪く、うつぶせになって枕を腹に抱いていた。


ベッド脇に立って、さちの肩をゆさぶる。


「さち、起きてくれ」


「お姉ちゃん、起きて」


まなもさちの手をつかんだ。


「さち、頼むから」
「・・・っ・・・なによぉ?」


だらしのない声。


「ちょっと起きて、おれたちの話を聞いてくれ」
「後にしてよ・・・ねむぃ・・・」


「お願いっ」
「・・・・・・」


まなの顔を見て壁の方を向いた。


気まずいんだろう。


「まなから、お願いがあるらしいぞ」
「・・・・・・」



「お姉ちゃん・・・」
「・・・・・・」

「お姉ちゃんっ」
「・・・って」
「あのね・・・」
「・・・ほっといてよ」



まなの雨に濡れた背中を軽く押してやった。

 


「まな、ここを出てくね」

「・・・え?」

 



 え・・・?

 

出てく・・・?

 

 

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「まなのこと気にしないで、精一杯がんばってね」

 

絵が完成しなければ、自分が連れて行かれてしまうことを知っててそう言うのか?


「お姉ちゃんが一生懸命がんばって絵を描いてくれれば、それが一番だよ。
だから、まなのことより、絵のことだけを考えてね」
「ちょ、ちょっと・・・。 どういうこと?」


さすがにベッドから身を起こす。


「まな、ひょっとして知ってるの? お金が要るってことが」
「聞こえてたの。 お姉ちゃんと賢一がしゃべってるのが」
「・・・っ・・・そ、そう・・・。

そうなんだ・・・」
「でも気にしないでね。 お姉ちゃんはお姉ちゃんのためにがんばるべきだよ」
「・・・っ!」
「すごい絵を描いて、また賞をもらえるまでがんばるべきだよ。
だって、お姉ちゃん、向日葵畑で初めて出会ったとき、すごい残念そうだったよ。
口ではふざけてたけど、目はずっと向日葵を見つめてたよ。
本当は、ずっと絵を描きたいんじゃないの?
描きたいけど、まながうるさくいいそうだから怖いんでしょ?
つまんない絵だったら自分で許せないから、描けないんだよね?」

「・・・・・・な・・・」

 

・・・。


顔面蒼白のさち。


真実の前にひれ伏した、子供の顔。

 

「全部知ってるから。
お姉ちゃんが眠くてつらいのも、感覚がつかめないのも・・・」


絵に対してプライドが高いのも、わがままなのも、だらしがないのも・・・。


「一から、がんばってみようよ。
お姉ちゃんが、がんばって描いた絵なら、まな、なんでもうれしいよぉ。
たとえ、まながその絵を見れなくても、お姉ちゃんがどこかでがんばってくれているなら、それでもいいよ。
・・・見れなくてもっ!
・・・だから、まなのことは気にしないで、ねっ」


お姉ちゃんが成功して欲しい。


なんの裏表も打算もない、真摯な想いがそこにある。


「ま、待ってよ・・・出ていくなんて、意味わかんないよ・・・」
「それが一番だよ」
「だって、ずっと一緒に暮らしてきたでしょ?」
「まなが、お姉ちゃんの足を引っ張ってるんだよ」
「そんなことないって・・・」
「まなに絵を見られると思うと、緊張するんでしょ?」
「・・・っ・・・だ、だから・・・。

それは・・・」
「だから、まな、お姉ちゃんの絵は見れなくてもいいって、思うことにしたの。
いつかどこかで、テレビをつけたら、お姉ちゃんが立派に表彰されている・・・。
そういうのでもいいかなぁって・・・。
ごめんねっ・・・いままでわがまましてて・・・」
「ち、違う・・・。
ちょ、ちょっと待って。待ってよ・・・。
まなっ・・・まなぁっ!」


まなは、にっこりと笑うだけだった。


「い、いま、まなに出て行かれたら、あたしどうすればいいのよ?
ほ、本当に一人ぼっちになっちゃうよ。
お願いだから出て行くだなんて言わないで。 ねっ?
ホント、悪かったから。

ぶったりして悪かったから。
あんたが好きなんだって。
あたしにはまなが必要なんだよ。
お願い、お願いっ・・・!

・・・なんでもす――――っ!」

 

その言葉。

 

「なんでも・・・・・・」


その言葉を呑み込んだ。


「・・・・・・」


二度も、嘘はつけないのだ。

 

「いままでありがとうねっ!」
「あ・・・」
「ばーいばいっ!」


着の身着のまま、戸口に向かう。


「うぅ・・・」



「まなのお姉ちゃんは、すごいんだよ」


ぼそりと言って、ドアの向こうに消えていった。


これから一人ぼっちになるというのに。


行く当てもないくせに。


・・・さちが大好きなくせに。

 

最後まで、泣き顔を見せることはなかった。


「・・・っく」


さちの挙動がとたんに忙しくなった。


「あっ・・・っ・・・はあっ・・・」


頭を抱えたり、舌打ちをしたり、呆然と手のひらを眺めたり・・・。


「ああ・・・っと・・・。
なんていうか・・・いや、あたし・・・こんな・・・。
ダサッ・・・あたし・・・ああっ・・・マジかぁ・・・。
ホント、なんていうか・・・」


まなの去っていった扉を見つめていた。


「・・・ごめんっ・・・!」


眉間に強いしわを作ったまま言った。


「ごめん」


わがままで口達者なさちが、ごめんとしか言わない。


「ごめんっ」


どんないいわけも出ない。


後悔に顔を歪ませて、自責の念に身を憤らせている。

 

 ・・・。


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「ごめんなさいっ――――!!」

 

 

ひときわ大きな声で叫んだ。


さちは、ようやく知ったのだ。

 


――恥を。

 


直後の行動は早かった。


「・・・っく!」


カバンをつかむ。


中身はまなのプレゼント。


駆け足で部屋を出る。


おれのことなど眼中になかった。


まなを追うのではない。


三時まであと三十分しかないというのに、さちは自発的に絵を描きに向かった。


絵を描かなければ、まなは戻ってこない。


身をもって知ったようだ。


・・・。



「さて・・・」

 


・・・ここからが、本番だ。

 


 

・・・・・・


・・・



向日葵畑についたときには、すでに三時五分前だった。


少女が一人、雨に打たれながら道端にたたずんでいた。


冷静に景色を観察している。


首を左右に振り、足を動かし、適切なスケッチを模索していた。


「ここ・・・」


ぼそりとつぶやいた。


「さち・・・」


その鬼気迫る姿に近寄るのは、勇気が必要だった。


「もう、三時だ」
「知ってる」


さちは、おれを見据えた。


クスリを手渡す。


「一日八時間だろうが、六時間だろうが・・・」

 


・・・残り四日。

 

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「必ず、完成させてあげるんだから。
必ずっ――!」

 

さちはクスリを飲み、十六時間の活動停止に入った。


雨に濡れた身体を背負い、家路に着く。


クスリを飲んで筋肉が弛緩するはずの手が、未だに鉛筆を握り締めているのに気づいた。


筆を離すまいと、綺麗な寝顔が意を決していた。

 


・・・もう、大丈夫だろう。



おれの手助けなんかなくても、さちは必ず絵を完成させる。


だから、おれもようやく、やる事ができた。
さちの最高の作品を、おれみたいな素人が見たって興が冷めるというものだ。


絵の完成を誰よりも待ち望んでいる少女を見つけ出すのだ。


西の空が、うっすらと明るくなっていた。

 

 

・・・・・・。


・・・。

 

 

 


目が覚めるとき、一瞬だけ気分悪そうに眉をひそめたのが気になった。

 

 ・・・。

 

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「よーし、今日からびりっとがんばるぞーっ!」

 

けれど、気合が違っていた。


「メシとお茶!」
「はい、はい!」


てきぱきと渡す。


すでに、イーゼルと椅子は昨日と同じ場所に配置しておいた。


さちは速やかに栄養食品を平らげると、お茶をがぶ飲みした。


「今日で終わらせる勢いでやるよーっ!」
「元気だなぁ・・・」
「んっ・・・」
「どうした?」
「な、なんでもない。

ちょっと頭がふらついただけ」
「・・・・・・」
「ま、あたしはもともと頭おかしいしねっ」


うはははと笑って、椅子に腰掛けた。

 

 

 

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・・・。


「・・・がんばれよ」
「まかせて」
「おれはまなを探してくる」
「うん」
「昼になったら、一度様子を見に来るから」
「ありがと」


すでに集中しだしたのか、さちの返事は淡白だった。


「じゃあな・・・」
「・・・・・・」

 

 


・・・・・・


・・・




「さて・・・」


まなは金も持たずに出て行った。


行くあてがあるとは思えない。


すると、やっぱり野宿だろうか。


この町は無駄に土地面積が大きいから、闇雲に探しても見つからないだろう。


警察に届けるか・・・?

 

・・・。


いや、公僕が戸籍もない異民のために真剣になって動くとは思えない。


すると、自力で探すことになるわけだが・・・。


まなは、昔この向日葵畑をねぐらにしていたんだっけか。


かといって、この広大な向日葵畑をしらみつぶしに探すのも時間的に不可能だ。


まなの交友関係はどうか。


スーパーに行けば、何かわかるかもしれないな。


行ってみよう。

 

 

 

・・・・・・


・・・


店員を捕まえて、いろいろと聞き出してみた。


どうやら、まなには頼れそうな人はいないようだ。


誰かの家に厄介になっている線は薄い。


・・・どこか、雨をしのげるような場所から探していくか。


まなは、目立つ外見をしているだけに、道すがらいろいろな人に聞いていけば、きっと手がかりは見つかるはずだ。


気長に探せば見つかるはずだ。


この町から、そう簡単に出ることはできないんだから。

 

 

 

・・・・・・


・・・



農家の家々を回って、いろいろと尋ねてみる。


異民と聞くだけで、みんな眉をひそめた。


この辺りで異民の路上生活者は見かけないと、口をそろえて言う。


・・・。



「森田くんじゃない?」

 

声をかけられる。

 

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「どうも、京子さん。

相変わらずお美しい」
「ありがと。 夏休みは満喫してる?」
「毎日が日曜日みたいなもんですから。京子さんは?」
「私は、学生さんのご家庭を回っているの」
「家庭訪問ってやつですか?」
「そんなところね」
「僕の家には来ないんですか?」
「手がかかりそうな子は、後回しにしているの」


くすりと笑う。


「ところで、まな、という少女を知っていますか?」
「・・・三ツ廣さんのところに住んでる、外国人の子よね?」
「知ってるなら話は早い。
探しています。とっとと見つけ出してください。殴りますよ」


・・・。



「・・・人にモノを頼む態度じゃないわね」
「見たことはありますか?」
「何回か、スーパーで見かけたわね」
「昨日の夕方から、どこかにいなくなってしまったんですよ」
「家出?」
「というか、帰ってこない気ですね」
「それは大変ね。

あんなに小さい子が野宿なんて・・・。
この町は穏やかだけど、夜になっても治安がいいとは言えないわ」
「田舎はゾクがすごいですからね」
「この町にはいないわ。
いてもちょっとマフラー外しただけのバイクとか、ノーヘルでぶん回していい気になってるチキンね」
「・・・・・・」
「どうしたの?」
「い、いや・・・」


なんだか、京子さんを見てレディースとかいう言葉が浮かんだぞ。


「見つけたら、連絡するわね」
「ありがとうございます」

 

 

・・・・・・


・・・



正午。


さちの様子を見に来た。


「・・・・・・」


おれが近づいて、さちの集中力が乱されることはないようだ。


ちらりと覗き見ると、朝の時点でただの白紙だった絵が、すでに下書き段階まで終わっているようだった。


青い絵の具で、うっすらと影をつけている。


向日葵が、ゆっくりと立体感を出し始めている。


「昼だけど、なにか食べるか?」
「・・・っ」
「ん?」
「はあっ・・・そうだね。 食べなきゃダメ」

 

・・・・・・。

 

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「体調、悪いのか?」
「軽くね」


額に玉のような汗が浮かんでいた。


「あっついねーっ」


空は昨日とはうって変わっての快晴だ。


気温も、真夏なんじゃないかと思うほど高い。


おれは、ミスを犯したことに気づいた。


さちの体調を考えて、三時までは見守っていてやるべきだったのだ。


「とにかく、たくさん水を飲んだ方がいいな」
「そうするよ・・・っ・・・」


ふらついた。


手を取って、ささえてやる。


「おい・・・」
「平気・・・ごめんね・・・」
「昨日からか?」


頷いた。


「なんか洞窟行ったときから、ちょっと疲れ気味だなとか思ってたんだけどね」


熱い吐息。


精神的な疲労と重なったんだろう。


仮病かと思っていた自分が恥ずかしい。


「まあでも、やるしかないっしょーっ!」


さちの一声に、後ろの向日葵がそよいだように見えた。


「さち・・・」


休めとは言えなかった。


「お水もらうね」


腰に手を当てて、水を一気に飲み干す。


「いい飲みっぷりだ

必要なものがあったらなんでも言えよ」

「賢一が欲しいかな」
「・・・へ?」
「えへへっ、後ろで見ていてくれるとうれしいってことだよ」


ドキリとするじゃねえか。


「最初はいると邪魔かなあと思ってたけど、誰もいないとやっぱ寂しくなっちゃうんだね。
お父さんとお母さんもいなくなっちゃったとき、あたし一人でもやっていけるだろとか思ってたんだけど、そのうちまなが部屋に住むようになって、いつの間にか寂しさを紛らわしてさ・・・。
二人暮しに慣れてくるとなんとも思わないんだけど、まなに愛想つかされて出ていかれて、また寂しいって強く思うの。
失って、初めて気づくモノがあるってことね。
・・・あ、今のセリフ超いい! 絶対これから流行りそう」


すげえベタなセリフのような気がするんだが・・・まあいい。


「あ、ヤバ! とっとと描かなきゃ。
いま何分くらいしゃべってた?」
「五分もたってないだろ?」
「あわわわ、あわわわわ・・・」


あわあわしながら、再びキャンバスへ向かう。


「後ろにいるから・・・」
「うんっ!」


おれはさちから少し離れたところに座り込んだ。


一陣の風が土の匂いを運んでくる。


夏空は以前より青色を濃くしていた。


けれど、広大な田舎の空よりも、さちの後ろ姿とその向こうに広がる向日葵たちに目を奪われた。


日差しが強く照りつく中、さちは爽快に筆を走らせ始めた。


まるで、さちの周りにだけ健やかな風でも吹いているかのような快活で涼しげな動作で、遠目に見ても次々と紙に色がついていくのがわかる。


足を組み替えたり、腰を浮かしたりするたびに、ポニーテールの後ろ髪が弾むように揺れる。


全身を使って絵を描いているかのような躍動感。


おれにとってはそれが、向日葵の少女と名づけたくなるような、一枚の絵だった。

 

 ・・・・・・。

 

・・・。



三時が近い。


おれは罪悪感を覚えながら、向日葵と向かい合うさちに近づいた。



「三時っ!?」
「あ、ああ・・・」
「よーし、わかったーっ!」
「しかし、よくわかったな?」
「今ね、あたしね、超敏感だからっ。
賢一のお腹が鳴った音も、風で向日葵が動いた瞬間も、日の光で微妙にずれた色彩も、全部キャッチしちゃうよ!」
「すごいな・・・」


見習いたいものだ。


「今日は、どれくらい進んだんだ?」


と、絵を見てみる。


「うわっ、ほとんど塗り終わってるじゃないか!?」


けれどさちは、苦そうな表情で頭をかくのだった。


「えーっとぉ、まだぜんぜん・・・」


とはいえ、おれにはすでに素晴らしい絵に見える。


夏の力強さに歓喜するように大きく背伸びをする向日葵たちが、水彩の柔らかな色合いで巧みに表現されていた。


「ここからが細かいんだよ、マジで。
紙そのものを濡らしたり、水気をふき取ったり、こすったり、削ったり・・・
あーっと、マスキングもしなきゃ・・・」


ぶつぶつと、おれにはわからないことを口にしている。


「よくわからんが、足りない道具とかはないのか?」
「ぜんぜん大丈夫。

さすがまなってところ」


愚問だったようだ。


「明日からが、山場だわ」
「そうか・・・」
「ぱっと見て、ぜんぜん進んでないように見えるだろうけど、怒らないでね。
画面が大きいから、ミスをしないように、慎重に描く必要があるの」
「よくわからんが、お前に任せる」


金を出すだけの人間が、口出しできる領域ではなさそうだ。


「さち、集中しているところを呼び止めてすまなかったんだが・・・」


絵を描くことの充実感に満ち溢れた、さちの瞳を見て告げた。


「今日から、七時まで描いていいぞ」
「えっ・・・?
ほ、ホントに!?」
「ああ・・・いまのお前なら、文句はない」
「あ、ありがとうっ!」
「あ、でもやっぱり夕暮れになったりすると、色合いが変わってしっかり描けなくなるものなのか?」


さちは一瞬だけ考えるように瞳を閉じた。


「あたしの絵ってね、ちょっとだけ抽象画よりらしいの。
パースはきっちりと描くんだけど、色塗りはけっこう大胆に派手に抽象的に、それでいて線画も細かったりと、とにかく独特らしいの。
もともと絵を習ってたわけじゃないから、あたしとしてはテキトーにやってたつもりなんだけどね。
賞を取ったときなんかは、あたしが子供ってこともあって、けっこうそれがウケたのよ」
「さすが天才」
「運が良かっただけだろうね・・・。
まあ、とにかく、影はつけ終わったし、これからやってく細かな色塗りは頭の中に強烈なイメージが残ってるから、その通り描くだけ」
「・・・ひょっとして、お前がいま描いている絵って」


さちは苦々しい顔で頷いた。


「ホント、察しがいいね。
そうだよ。 昔、賞を取ったときとまったく同じ風景を描いてるの。
リベンジってヤツ?
だから、たとえ夜に描いたって、昼間の風景を描くことができるよ・・・。
って、そりゃ言いすぎかな・・・いや、あたしならできるっしょ。
あはははっ!」
「そうか・・・それは良かった」

 

本当に、危ないところだった。


「じゃあ、あと四時間がんばるぞーっと!」


胸を張ると、さちの健康的な汗が日差しに輝いた。

 

 


・・・。


・・・・・・。


 

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夕陽が山の稜線に消えつつある。


向日葵畑の景色はすっかり赤く染まっていた。


けれど、さちの筆は止まらない。


さちの絵を見ていると、確かに青空の下にたくさんの向日葵が咲いているのがわかるのだけれど、自然な景色をそのまま描いているのではなさそうだった。


特に、カラフルな色の塊が画面を分断しているのが気になる。


けれどそれは、よくよく見ると地平線を表現しているようにも見える。


青空にしても、向日葵の黄色に侵食されているかのように、やや緑がかってぼやけている箇所がいくつもある。


向日葵の威勢が、天にも届いている・・・そんなイメージなんだろうか。


いろいろ想像ができて面白いものだな。

 

・・・。


「だいたいそんな感じだよ」
「え?」
「ぶつぶつ聞こえてるよ。 なかなか感性豊かじゃん」

「邪魔してすまん」
「いや、おかげで、だいたい方向性は間違えてなさそうだってことがわかったから」
「というわけで、そろそろ七時だ」
「うんっ・・・と――――っ!」


立ち上がろうとして、膝がふらついた。


「――っ!」


とっさに、抱きかかえてやる。


「あ、あああっ・・・た、たちくらみっぽい・・・」
「お前・・・」


呼吸は荒々しく、動悸も激しい。


上気した頬も熱をもっていた。


「はあっ・・・うむむむ・・・」


明らかな体調不良。


「いやあ、知恵熱ってヤツかなぁ・・・。

こんなにマジになったのも久しぶりだから・・・」
「・・・・・・」
「じゃあ、また明日、ここで起こしてね」
「今夜は、暖かくして寝かせておくから」
「ありがとっ」


寝るといっても、眠気は取れないし、おそらく体力も回復しないんだがな。


「おやすみ」


さちは、クスリを飲んだ。


ゆっくりと全身の力が抜けていく。

 

・・・・・・。


時間がないんだ。


どれだけつらくても、さちにはやってもらわなきゃならない。


「・・・あと三日なんだから」

 


・・・・・・


・・・




さちをベッドに寝かせて、布団を首までかけてやった。


寝汗がひどい。


タオルでふき取っても、すぐに額から吹き出してくる。


熱があるらしく、ときおり腕が小刻みに震えていた。


「さち・・・」


膝を落として、細い手を握ってやる。


この手が、指が、最高の作品を生み出すのだ。


「がんばれ・・・」


念を込めて、立ち上がる。


まなを探しに行かなければならない。

 

 

・・・・・・


・・・



とりあえず、町の中心にまでやってきた。


田舎町の中でも、ここが一番人通りがある。


さっそくナンパのようなスパイ的聞き込みを開始する。

 

 

「最近暑いですねー」
「そうですねー」


・・・。



「おい!」

 

 

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やけに長い前髪だと思ったら、磯野だった。


「どうしたんだ? まなさんが家出でもしたのか?」
「なんて、ピンポイントな・・・」
「ほお・・・予想通り、あの子は天才だったな」
「なにを言ってるんだ?」
「あの子みたいな天才は、君らみたいな凡人とは一緒に暮らせないものだよ」
「家出するって予想してたのか?」
「遅かれ早かれね・・・」
「本当だったらすごい洞察力だな。特別高等人になれるぜ」
「なりたくもないよ・・・」


表情に影が差した。


「発信機でも取り付けておけばよかったのに」
「発信機だって?」
「どうせ持ってるんだろ? 被更生人を管理するために、必要なアイテムだと思うがね」
「・・・・・・」


確かに、ジュラルミンケースの中には高精度の小型電波発信機と、電波を受信するための探知機が入っている。


「スパイ映画の見すぎじゃないのか?」


軍事機密を明かすわけにはいかない。


「ふふっ、そうかもね。
と、クールに笑う磯野だった。
まったく、こいつはどうして無駄にミステリを残すんだろうな・・・」
「うるせえよ!

お前一度、拷問にかけるぞ!」
「髪を抜くのだけは勘弁してーっ!」


震えだした。


「とにかく、まなを見つけたら連絡してくれよ」
「森田くんのケータイにかければいいのかな?」
「おい・・・」


さすがに問い詰めずにはいられない。


「どうして、おれがケータイを持っていることを知ってるんだ?」


緊急連絡用の携帯電話だ。


「おれが使用しているところを、磯野に見られたことはないはずだぜ?」
「いやぁだなぁ、いまどきの若者がケータイを持ってないはずがないじゃないか」
「・・・・・・」
「いやいや、気にしないでよ。いつもの軽口さ。
そんな怖い顔をしないでくれよ」
「・・・・・・」
「いや、この間ね。

夢の中でさ、生意気な妖精が僕のケータイをいぶかしげに眺めてたんだよ。
妖精は言った。そのケータイどこよ?
僕は言った。

ドコも・・・って、あははははははははははははははっ!」


狂いやがった。


「まあいい。

なにかわかったら、さちの部屋に来てくれ」
「了解したよ。

伝書鳩シューマッハを使いに飛ばすとしよう」


鳩飼ってるのかよ・・・。


「じゃあな・・・」


磯野に背を向けた。

 


・・・・・・


・・・



「ん・・・?」


ふらふらと当てもなく歩いていると、学園に普段と違う様子を見つけて立ち寄ることにした。


「・・・工事中?」


校門に業者の看板が垂れ下がっていた。

校内にもトラックが入り込んでいるようだ。


作業員らしき人が、帰り支度をしている姿がちらついた。


「ちょっとすみませんが」


日焼けしたイカついおっさんに声をかける。


「何の工事ですか?」
「あんた、学生さん?」
「ええ・・・ぴかぴかの新入生です」


おっさんは値踏みするような眼差しでおれを見つめた。


「内装工事かなにかですかね?」
「すまんが、詳しいことは言えないんだ」
「つまり、当分は立ち入り禁止ってことですかね?」


先読みする。


「あ、ああ・・・お上の指示でね。
夏休みが終わるまでは、用件のない学生さんはここに来ちゃダメだそうだ」


直感だと、とっつぁんの指示だな。


「今日の朝も、ここで寝てた女の子を追っ払ったところなんだよ」
「その少女は、外国人で、なかなかに賢そうで、自分をまなとか言ってませんでしたかね?」
「・・・知り合いかい?」


ビンゴ。


「どこに行くって言ってました?」
「いや、そういうのは聞いてないなあ」
「朝というのは具体的に何時ごろ? 服装や持ち物は?
どうしてここで寝てたんですかね?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。 よく覚えてないよ」
「お願いします。大切な友人なんです」


頭を下げる。


「えっと・・・アルバイトさせてくれとか言われたよ。
大変だろうね、外国人遺留児は・・・」
「力仕事だけに、雇うわけにもいかなかった、というわけですね?」
「利発そうな子で、洗濯や料理が得意だと言ってたけど、ウチじゃあちょっとなあ・・・」


職を求めてうろついてるのかな。


とすると、やはり商店街が怪しいな。


「一応、いきつけの食堂を紹介しておいたよ」


なんていい人なんだ。


「ありがとうございます。 親方と呼ばせてもらいます」


おっさんは笑った。


「食堂はスーパーのすぐ近くにあるよ。 まあ、雇ってもらえてるかどうかはわからんがね」
「恩に着ます」


もう一度礼を言って、その場を立ち去った。

 


・・・・・・


・・・


日が暮れて、ぽつぽつと街灯がともる。

おっさんが言ってた食堂は割と簡単に見つかった。


閉まっていたので、シャッターを叩いた。


「すみません、ちょっとお尋ねしますが・・・」


しばらくすると、不機嫌そうなおばちゃんがのっそりとシャッターをくぐって現れた。


「夜分すみません、ここに、まなっていう名の外国人は来ませんでしたか?」
「あんた、誰?」
「・・・私は特別高等人候補生の森田といいます」


国家権力をふりかざす。


「と、特別・・・っ・・・えっと、ごめんなさいね」


たいていの人が素直になる、魔法の自己紹介だ。


「来ましたか?」
「昼ごろに、いきなり店に来て、働かせて欲しいと・・・」
「断ったんですね?」
「まあ、見ての通りしがない食堂でして、夫婦でやっていけてますから」
「どこかに行くとか言ってませんでしたか?」
「いえ・・・ちょうどそのときに・・・その・・・」


口ごもった。


「あなたと同じ、特別高等人の方が見えられましてね」
「とっつぁんが!?」


思わず叫んでしまう


「その方が、少女を引き連れていってしまいましたよ」
「わかりました。 どうもありがとう!」


・・・・・・。


早々に立ち去る。


面食らったおばちゃんの声が、おれの背後で尾を引いた。

 

 

 ・・・・・・


・・・


舞い戻ってきた


作業員の人たちはすでに撤収したようだ。

 


・・・・・・


・・・



「入ってよし」

 

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「・・・法月先生、まなという少女ですが・・・」
「こちらで預かっている」
「理由は・・・まなが、外国行きを控えた大切な身だからですか?」


法月は目を閉じて小さく頷いた。


「けれど、どうして商店街にいることがわかったんですか?」
「簡単な予測だ。

身寄りのない少女は、職を求めて商店街をうろつく」
「どうして家出をしたことが?」
「大音京子氏から、学園あてにそのような連絡を受けた」


なるほど・・・。


ひと足遅かったか


まなに会わせてくれるよう頼んでも、無駄だろうな。


「残り三日でしたね?」
「正確には四日後の午前九時までに入金がない場合は、当初の予定通り、少女を大使に引き渡す」


なら絵を描く期限は、やはり三日間だ。

おれも電話一本で送金できるように準備を整えておこう。


指定の口座を訪ねて、退室した。

 


・・・・・・


・・・



「んくっ・・・!」


部屋に帰り、さちの傍らに寄り添う。


「は・・・あ・・・ああ・・・」


見事なまでに綺麗な寝顔が、ときおり苦痛に歪んでいる。


悪夢にうなされているのだろうか。


「・・・・・・」


何度かシャツを取り替えて、水を絞ったタオルを額にあてた。



「はあっ・・・うぅっ・・・」



いままで、こんなに苦しそうに止まっていたことはない。



「うあっ・・・ま、まなぁ」


・・・・・・。



「ご、ごめん、へ、下手なもん見せて・・・あぁっ、お、怒らないでぇっ!」
「さちっ・・・」
「まなぁ、あ、あたしっ・・・。

うぁっ・・・ま、また描きに行くから・・・ねっ・・・。

ご、ごめんっ・・・っく・・・。

さぼってたからっ、い、いや・・・。

そんなこと言わないでぇっ!」


震えながら、がちがちと上下の歯をぶつけていた。


「・・・っ」


手を握ってやることしかできない。


「・・・っく、行かないで、まな・・・」


瞳にうっすらと涙が見えた。

 

「一人は、寂しいよ・・・寂しいんだよぉ・・・」

 



・・・。