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車輪の国、悠久の少年少女 さちシナリオ【1】

車輪の国、悠久の少年少女 ―さちシナリオ―

 

 

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・・・。



「四年前・・・になんのかな?
あたしたちの住む田舎町に、一人の転入生がやって来た。
鞄ではなく、ジュラルミンケースを持った、変なヤツで、自己紹介の仕方もメチャメチャとんでたし・・・。
アイツ、絶対に何かをやらかす男だ。
転入生を見て、あたしはそう確信していた。
本当に、アイツは色々な事をやらかした。
それは、被更生人の義務を解消させることも、例外ではなかった。
実際に、アイツはあたしの義務を解消してくれたし、絵を再び描き続ける気にさせてくれた。
後は、そのまま勢いに乗って絵を描き続けてきた。
国内でも名が売れるようになってきたし、仕事は順調。
もしかしたら、個展とかも開けるかもしれない。
絵の業界では、知る人ぞ知る時の人、とか何とか言われてるって言う話だし。
ここまでやってこれたのも、全部アイツ・・・賢一のおかげだった。
ずっと一緒にいてやるって言われたときは、例えではなく、本当に飛び上がって喜んだ。
だって、賢一となら、何でもやれるって思ったから・・・。
今回の受賞だってそうだよ」

 

 

 

 

・・・

「それでは、本展示会における国際文化交流功労賞の受賞者を、発表致します。
受賞者は・・・三ツ廣さちさんです。
おめでとうございます」

 

 

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国際文化交流功労賞。

この展示会における最も名誉ある賞でもある。

この賞を受賞した者は、絵の才能に関して、最も有能であると証明されるという。

つまり、さちの絵の才能が、この国でトップであると証明されたのだ。


「やったな、さち」
「ありがと。
でも、賢一のサポートが無かったらどうなってたことやら」
「絵を描いたのはお前だろが。それより、何回目の受賞だっけ」
「1、2、3、うーん・・・6回目? 7回目だっけ?」

受賞した回数が全てではない。

どれだけ多くの人たちの目に留まるか、それが大切だ。

過去に受けた批判もどこへやら、今ではその問題を追求しようとする者すら出てこない。

才能があれば認められる。

ただ、それだけの事だった。

さちの絵にはそれだけ魅力があり、見る人の心を惹きつける何かがあった。

さちの描いた正義の象徴である向日葵は、どこに行っても力強く咲いている。

 


・・・

さちは学園を卒業後、故郷である田舎町を拠点として、全国各地を回り絵を描き続けた。

様々な風景を描いて更に技術を磨いていき、現在では、国内でも指折りの風景画家として定評を受けている。

義務を負っていた頃とは違い、今では自発的に行動をするようにもなってきた。

おれが何も言わなくても、自らやるべきことを見つけて行動を起こすだろう。

おれはと言えば、学園を卒業したそのときから今に至るまで、ずっとさちの手伝いを続けてきた。

もちろんこれからも、良きサポーターとして、さちと一緒に人生を歩んでいくことも決意した。

 

「ちょっと賢一。なに人の顔をじーっと見てるの?」
「ん?」
「あ・・・もしかして、輝き過ぎた今のあたしにメタ惚れ?」
「それもあるが・・・昔と比べると、なんだか別人に見えるなと思って」
「カッコいいでしょ?」
「ああ。しかもこの歓声、滅多にもらえないぞ」

会場内は、歓声であふれかえっていた。

さちのファンや展示会関係者の人たち、さらにライバル意識を持っていた画家も、みんな今では笑顔でさちのことを祝福してくれていた。

さち自身の描いた絵がここまで評価され、祝福されるに至るまで、さちは様々な苦労を重ねてきた。

言葉どおり、努力の賜物と言ってもいいかもしれない。

幼少の頃に受けた批判を再度浴び、悩み、苦しんできたこともあった。

周りの批判に負けた過去の自分に打ち勝つために、歯を食いしばって絵を描くことだけに全てをかけてきた。

数々の苦難を乗り越え努力を重ねてきたのが、今目の前にいる三ツ廣さちだった。


「次は賢一に負けないくらいに、カッコよくなってあげるよ。
ガンガン飛ばして、マッハで追いついちゃうからねーっ」
「ははは・・・」

いや、もう追い抜いてるって。

おれよりも生き生きとした活躍ぶりだよ、ホント。

「なら、次は期待していいんだろうな」
「あったり前じゃん! 豪華客船に乗ったつもりでいなよ!」
「おっ? 大きく出たな。嘘ついたらサポートから外れるからなっ」
「あははははっ、そりゃ絶対ないって! 賢一は一生あたしと一緒にいるべきなんだからね!
これから先、ずっとあたしの傍にいたいんだー! って言わせてあげるよ!」

 

すでにそう思っているさ。

 

さちのサポートをやって行きたいと思った一番の理由も、さちの前向きな姿勢に惹かれ、そんなさちをずっと見ていきたいと思ったからなんだから・・・。

「期待してるぞ、さち」
「まっかせて!」

さちは絵を描くたびに、様々なドラマを生んできた。

葛藤、喜び、悲しみ、感動・・・一緒にいて、飽きることはなかったくらいだ。

次はどんなドラマを運んできてくれるのか、実に楽しみだ。

「よーしっ。次もジェット機並みに飛ばすぞーっ!」

 

・・・ついていけるよな?

 

 

 

 


・・・

・・・・・・

 

受賞式が終わって数日後、おれとさちは田舎町に戻っていた。

疲れもたまってきてるし、さちと一緒に余暇を楽しもう。

 

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「よーしっ、今日もビリッと頑張るぞー!
いやいや、ジェット機並みに飛ばすって言ったんだから、ここはドカーン! だねっ。
今日も、ドカーンとがんばるぞー!」

近所から苦情が殺到しそうなほどうるさかった。

カラオケ大会でもしてるんじゃねえか・・・ってなくらい。


「お前うるさい。テンション高すぎ・・・」
「しょうがないじゃん! ついに国内のトップランナーになったんだからさっ。
賢一みたいに、おとなしくしてる方がおかしいって!」

スポーツ実況者のようだ。

目を輝かせて興奮している。

「四年間でここまでこれるのって、凄くない?」
「凄いといえば凄いだろうな」
「でも、目指すは世界一だからね。まだまだいくよっ」

今のさちの目標は、世界一の画家になることだ。

おれはその手助けをしている。


「さて・・・いつも通り絵を描きに行きますか」
「今日も向日葵畑か?」
「もちろん! あたしのテリトリーだよ、あの場所は」
「久しぶりの休暇だ。休まなくていいのか?」
「あたしの場合、描くほうが休暇になるって。
それによく言うじゃん。一日休んだらそれを取り戻すのに三週間はかかるって」
「三日ぐらいじゃねえか?」
「細かいことグチグチ言わない。
三日よりも三週間の方が、よっぽど緊張感あるじゃん。
一日描き損ねただけで、三週間もムダにするんだよ」
「それはもっともな意見だが、言葉は間違えて使うな。周りの人間が混乱する」
「あたしの言葉で世界中にパニックが起こる? パニックメイカー?」
「世間様に迷惑をかけるな、トラブルメイカー」
「パニックメイカーだっての」
「いいか、さち・・・」

おれは腕を組み、さちの目を見て言ってやった。

「お前はな、絵で世界を渡り歩く存在なのだ!」
「うわわっ、ビックリした! 今、賢一がまともなこと言ったよ!」
「ビックリするな! いつも言ってることじゃねえか!」
「・・・くくくっ」
「・・・何がおかしい?」
「わざわざ腕組む辺りがウケるんだってば・・・ぷぷぷっ」
「マジメに言ってやったというのに、お前ってヤツは・・・」
「ごめんごめん。真剣になってる人を見てたら、自然とからかいたくなるんだよね・・・」
「自分のペースに巻き込んで、かまってほしいんだよな?」
「・・・なんでそう、強引な解釈になるかな・・・あたしって、そんなにわがまま?」
「お前のことは分かっているつもりだが、あえて試してみよう」
「試す?」
「分かりやすく、心理テストなんかどうだ?」
「へーっ、おもしろそうじゃん」

さちは身を乗り出してきた。

「今から、さちがどれだけわがままなのかを分析したいと思う」
「・・・賢一って、あたしをそんな風に見てたんだね・・・」


・・・

「さちは自転車に乗っていました。
もちろん、足を使って必死にこいでいます」
「もちろんって何よ、もちろんって」
「目の前で、手をつないで歩いているカップルがいました。
避けようにも、横に避けるスペースはありません。
さあ、あなたはこんなときどうしますか?」
「んーっとね・・・。
カップルの間を突き抜ける! チャリンチャリーンって鈴を鳴らしながら!」
「こら!」
「だって、向こうがどかなかったら衝突するだけじゃん」
「自分が避けるという選択肢はないのか?」
「あれ? どけられないし止まれないっていう設定なんじゃないの?」
「勝手に設定作るなよ」


心理テストの結果は、予想以上だった。


「・・・っていうか・・・なんか真剣な話をしてたと思うんだよね。
何の話だったっけ?」

さちは腕を組み、頭をひねらせた。

おれも同じようにして、話をさかのぼってみた。

「えーっと・・・。
あたしにとって、大事な話だったよね。
だから・・・絵に関することなのは間違いないのよね・・・」
「あー、絵に関することだな、うん・・・」
「はあっ・・・忘れちゃったよ・・・」
「んー・・・絵を描きに出かけるんじゃなかったか?」
「そうだったかも・・・」
「毎日絵を描かないと腕が鈍るから、今日は向日葵畑に絵を描きに行く、って言ってたよな」
「覚えてんじゃん! しかも事細かにっ。
とにかく思い出せたならいいや。行こっ、賢一」
「えっ? おれも行くの?」
「一緒に絵を描くって言わなかったっけ?」
「一緒とは言ってないな」
「賢一に拒否権って、なかったよね?」

 

・・・・・・。

 

「そうだったか?」
「サポーターだし。Mだし」
「Mは関係ねえだろ・・・」
「本格的に描かないで、趣味程度に抑えるからさっ」

趣味程度で絵を描くと言っていたときがあった。

朝から絵を描きに出て、夜には立派な風景画を完成させたのだ。

一度描き出したら、つい本気になってしまったらしい。

「ちょっとやりすぎたって思うことはあるけどね」

・・・全然ちょっとじゃない。

「前もそう言って、近くの絵画展で最優秀賞を取ったよな」
「あれにはちょっとビックリだったよね」
「それだけさちが上手くなったってことなんじゃないか?」
「そお? 昔とあまり変わってないと思うんだけどなあ」


さちは空を眺めた。

昔の懐かしい日々を思い返しているのだろうか。

「昔といえばさ、みんな、今ごろどうしてるのかな?」
「うまくやってるんじゃないか?」

さちが義務を解消されてから、四年が経った。

今ではみんなに直接会うことはまれで、連絡を取り合う機会にはなかなか恵まれなかった。

「灯花は、やっと料理人になれたって言ってたよね」
「ああ、先月あたりだったかな?」
「若いのによくやるよねえ」
「同年代のくせに、よく言う・・・」

灯花は自己流で腕を磨き、たまに都会に出て料理の勉強を繰り返したのだという。

灯花なりに自分で考えて行動し、料理人という目標に向かって頑張っていた。

「夏咲はどうしてるか聞いてる?」
「教職員として働いてるって聞いた」
「へえーっ、凄いね。なにを教えてんのかな」
「義務に関することらしい」
「賢一も夏咲を見習って、教師にでもなったら?」
「おれの仕事は、さちの手となり足となることだ」
「おぉっ! うれしいこと言ってくれんじゃん! ていうかやっぱMじゃん」

さちは嬉しそうに顔をほころばせた。

「磯野くんはどうだろ。賢一知ってる?」
「つい最近電話してみたんだけど、磯野じゃないヤツが出てきてこう言ったんだ。
はい、留守です」
「全く留守じゃないし、電話に出てるじゃん!」
「いや、確かに留守だって言ったんだよ」
「・・・磯野くんについては、分からないってことね」
「だな・・・」

なーんだ、といった調子で、さちはベッドに腰を下ろした。

「えーっと・・・どうしよっか?」
「絵を描きに行こう。おれも手伝うからさ」

おれは出かける準備を始めた。

外は暑いので、冷たい麦茶は必ず持っていく。

「絵で思い出したが、次の絵はどこで描くんだ?」
「そのことなんだけど、明日話すから」
「今日じゃダメか?」
「うんっ、明日でいいっしょ」
「わかった。それなら明日聞こう。
おれはできる限りのことはする。遠慮なくなんでも言ってくれ」
「賢一の仕事量は、パないからね」
「パない?」
「ハンパないってこと。鬼パないとか言うでしょ」

言わない。

「まあ、おれに頼る分、きちんとした絵を描かないとサポートしないぞ」
「分かってるって。任せなさいっ」

さちはおれの期待を、たったの一度も裏切ったことはない。

毎回、満足のいく活躍ぶりを見せてくれた。

絵を再び描き始めたさちは、昔と違って自発的に行動をとれるようになっていた。

次は何をしたい、次はどんな絵を描きたいと、おれを引っ張り回している。

忙しい毎日ではあるが、それに見合った充実感を得ているので不満はない。

「さちって・・・結構変わったよな」
「変われるから、きっと人生って楽しいんだよね。
そんでもって成長することも、人間である証の一つだと思うんだよね」
「おおー、それっぽいこといってる」
「あたしだって、たまにはそれらしいことは言うって! 他人のいいところは素直に褒めなさいよ!」
「頼むっ、あの頃のさちに戻ってくれ!」
「あの頃ってどの頃よっ!?」
「明日からがんばればいいかーって感じの・・・」
「ふざけんなっての!」

 

ギャーギャー騒ぎながら、おれとさちは向日葵畑へと向かった。

予想通りというか、わかりきっていたことというか、この日さちは、見事な向日葵畑を描きあげた。

趣味で絵を描くというのは、絶対に建前だとおれは思っている。

 

 

 


・・・

・・・・・・

 

もう朝が来たのだろうか。

窓から差し込む光がまぶしかった。

「賢一、おっはよー」

さちの優しそうな声が耳元から聞こえてきた。

 

振り向けばキスできるくらいのゼロ距離。

「・・・ん」

身体を起こそうとした、そのときだった。

 

 

 

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「今日もビリッと頑張るぞーっ!」
「おわっ!?」

一瞬で眠気がぶっ飛び、おれは慌てて飛び起きた。

「耳元で声を張り上げんじゃねえ!」
「実は、相談したいことがあるんだよね」
「・・・相談?」

機嫌悪そうに返事をした。

「・・・ああ・・・金ならないぞ」

ペシッ!

「ふべっ」

ぶたれた。

「お、お母さんだってぶったことないのに!」
「なんだそりゃ・・・ていうかぶったお前が言うなよ」
「誰が金の話をするって?」
「どんな相談だ?」
「ん・・・ちょっと・・・」

いつものふざけた様子はなく、真剣な目つきだった。

「込み入った話になるのか?」
「なると思う」
「ちょっと待ってくれ。顔洗ってくるから」

 

・・・

おれは素早く顔を洗い、思考をクリアにさせた。

「さて、話してもらおうか」
「相談っていうのはね、次の絵のことなんだよね・・・」
「ほう・・・」

めずらしく真剣だったのは、そういうことか。

「今度はどんな絵を描いてくれるんだ?」
「その前に、言わなきゃいけない事があるんだけど」
「遠慮なく言え。おれを誰だと思ってる」
「さすが賢一。頼りになるよ」

さちは深呼吸をして、きりっとした目でおれを見つめた。

「外国に行こうと思うの」
「・・・・・・。外国に行くだあ?」
「そっ、外国」
「なんでまた急に外国?」
「あたしさあ、今、絵描いてんじゃん」
「うん」
「国内でも、それなりに有名じゃん」
トップランナーだよな」
「これで、私の言いたいことがわかったでしょ」
「観光なんてしてる暇があるのか?」
「どこをどう考えたら、その結論に行き着くわけ!?
絵を描きに行くに決まってんじゃん」
「すまん、まだ寝ぼけてるみたいだ。
その結論に至った経歴を、パントマイムで説明してくれないかな?」
「・・・賢一、あたし一応真剣なんだけど?」
「普通に説明してくれたら助かります、はい」
「じゃあ、最初から順を追って説明していくから、ちゃんと聞いてなよ」
「はい、どうぞ」

 

俺は正座をして構えた。

一体どんな経歴なのやら・・・。


「外国に、絵を描きに行きたい」
「うん」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


「・・・・・・」
「・・・・・・・・・それだけ?」
「だけど?」
「最初から順を追って説明していくっつーたろうがっ!」
「お、落ち着いて、賢一」
「はあっ・・・はあっ・・・」

 

あー、久しぶりにパイプ吸いてえ・・・。

 

「おれも真剣に聞こうと思ってるんだ。現状と自分の考えを説明しろ」
「さっきはパントマイムがどうのこうの言ってたくせに」
「それに関しては謝る・・・悪かったから」
「じゃあ、説明するからちゃんと聞いてなよ」

さちはコホンッ、と軽く咳払いをした。

「まず現状ね。
国内の活動も四年経つし、いろんなところを回ったと思うんだよね。
だから、もうこの国では描く所は殆ど残っていないと思うの」
「四年で全国各所回ったと言えるのか?」
「一応そのつもりだけど・・・」
「まあいい、次は?」
「次、あたしの考え。
なんていうのかな。外国の人たちが描いてきた絵を見ててね、興味を持っちゃったの。
今までに見たこともないような風景がその絵にはあったから、今度はあたしの手で外国の風土ってヤツを描いてみたいって思ったんだよね」
「新しい風景を描いてみたいと?」
「そゆこと」
「しかし、いきなり外国とはな。びっくりだ」
「ダメ?」
「ダメではないが、準備にどのくらい期間がかかるか知ってるのか?」
「知らない。教えて」
「辞書引け」
「書いてあるわけないじゃん!」
「最近の辞書はすごいぞ。あんなことやこんなことまで書いてあるんだからな」
「だから、準備にどれくらいかかるのかって聞いてんのっ」
「そもそも、どの辺りに行くんだ? 行き先によっては時間がかかる」
「んーっとね・・・」

さちは行き先を述べた。

「なるほど・・・。
さちの行きたがっている場所は、SF小説に出てくる西欧という場所に雰囲気が似ている。
小説の世界と似ているのは、芸術の発祥と呼ばれている地域でもある点だ。
ルネサンスのような文化革命期もあったしな。
以上、設定説明的退屈な手続き」
「あんた、独り言いう癖はなおってないね」
「それで、日程や詳細な計画は立ててるのか?」
「んーん。特に」
「飛行機だよな?」
「戦闘機の方がコンパクトで早いかも」
「コンパクトは関係ねえよ! 普通に飛行機でいいんだよ!」
「だって、小回りが利いてカッコいいじゃん」
「目的地に行くのに小回りはいらん!」
「はあっ・・・そこまで言うならやめとこ・・・ちょっと残念」
「・・・なら次、宿はどうするつもりだ」
「ホテルでいいんじゃない?」
「ホテルねえ・・・」
「賢一金持ちだもんね。高級ホテルに泊まろうよ」
「待て、向こうに知り合いがいたはずだ。連絡を取って紹介してもらう」
「ちぇっ・・・つまんないの」
「・・・てか、外国行くこと前提に話を進めてるよな」
「いいんじゃない?」
「はあ・・・」

 

さちが描きたいと言っているのだ。

全力でお手伝いをしなければ、さちと一緒にいる意味がない。

国内で地道に絵を描いていくより、たまにはビッグなことをしてみるのも、案外いいかもしれない。

 

「全部、賢一に任せるよっ」
「つまりお前、計画なしってことね」
「出来る限りサポートするって言ったじゃん。
賢一なら、あたし外国に連れて行くくらいわけないでしょ?」
「最低限、自己管理するぐらいの能力は持っていてほしいんだが?」
「わかってるって。要するに賢一の言う通りにすれば安全なんでしょ?」
「全然分かってないな・・・」


まあいい。


「出発はいつになりそう?」
「近いうちに何とかしよう。それまでどこかで絵を描いてろ」
「うんっ、ありがと」

さちを連れて外国へ・・・か。

「独断で最善の策を用意していくからな。何かあったら質問するなりしてくれ」
「頼りにしてるよ、賢一」


おれは早速、行動を起こした。

 

 

 

・・・

朝のうちに、おれは空港に予約の電話を入れる。

そして、外国にいる知人に連絡を取る。

「・・・・・・。
あーどもども。おれです。
えっ? 詐欺かですって? 冗談きついなあ、おれの声を忘れちゃったんですか?
森田賢一ですよ。ご無沙汰してます。
・・・あーなるほど。最近引っかかってしまって敏感になっていたと・・・。
はあ、それは失礼しました。
それでちょっとお尋ねしたいことがあってですね・・・はい?
その前に教えてほしいことがあると・・・。
・・・はあはあ・・・詐欺に引っかからないためのコツを教えてほしいと・・・。
はははっ。確かにあなたは人が良すぎるから気苦労が絶えませんねー。
まあ、一方的に話してくる輩はみんなそうですよ。
話し上手、聞き下手ですからね。
・・・あっ、参考になりました? それは良かったです・・・ええ、また機会があれば教えますよ。
え? 鬼パないって?
そ、そうすか、そりゃあ、パないっすね・・・。
それで、こちらの用件なんですが・・・」

 

 

 

・・・・・・。

・・・。

 


「はい、そういうことでお願いします」


ガチャッ。


「ふぅっ・・・とりあえず宿は確保、っと」

一時間は話し込んでいた。

・・・それにしても、パないは外国でも通じるのか。


「おっ、もう昼前だな」

 

昼食をとるために、さちが帰ってくる時間だった。

時間がないから、簡単なものを作っておくとするか。

 

 

・・・

 

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「ってこれ、簡単すぎるでしょ」
「結構いけるだろ」
「ん~、まあね」

チャーハンとお茶、調理時間は三十分弱。

手抜きもいいトコだ。

「それで、宿泊先は決まったの?」
「喜べ、中級ホテルに泊まれる」
「中級?」
「読んで時のごとく、高級と低級の間に位置するホテルだ」
「ビミョー!」
「高級ホテルには、バカンスを楽しむときに泊まろうぜ」
「別にバカンスだけでなくてもいいじゃん。別のとこにしよ」
「おれに全部任せるって言ってたろ。あきらめろ」
「少しくらいは、あたしの意見を取り入れてもいいんじゃない?」
「何か希望でもあるのか?」
「高級ホテル」
「却下」

 

さちが睨んでくる。

どこまでわがままなんだ・・・。

 

「なんで高級にこだわるんだ?」
「なんつーかさ、エレガントにいきたいんだよねー。
そういう画家、なんとなくかっこよくない?」
「今回の遠征は、外国に絵を描きに行くことを目的としている。
お遊び気分で行くのなら、遠征の話はなかったことにするぞ」
「じょ、冗談だってば・・・ちょっと言ってみただけだって」

さちがパソコンの方へと目を向けた。

「んん? 何を頼んだのかな?」

そういや、パソコンでいろんな商品を注文していたんだった。

外国に行くときに必要なものをそろえるためだ。

「先に言っておくが、外国の水はそのまま飲むな」
「はあ? いきなりなんなの?」
「今回注文したものの中に浄水器がある。
浄水器を通した水しか飲んだらダメだ。外国の水は硬水だからな」
「香水? 外国の水って匂いが付いてるの?」
「そういうツッコミ待ちはいいんだよ」

蛇口ひねったら香水が出てくるとでも思っていたのか、さちは?

「怒らないでよ、ちょっと間違っただけじゃん」
「硬水ばかり飲んでると体調が悪くなるんだ。
だから軟水として飲めるように、こちらも準備を怠らないようにする」
「体調管理までバッチシじゃん!」
「ありがたく思えよ」
「でもさあ、たかが水で本格的だね・・・向こうの人たちは大丈夫なわけ?」
「だいじょうぶだよ。そこで生まれ育ったわけだし。
良い水に恵まれた土地のみ、文化は栄えるものだ」
「文化と生活はこの際、分けて考えてもいいんでしょ?」
「もちろん」
「そこまで言うんだったら、その好意に甘えないとね。
ちなみに聞くけど、あたしたちの国の水はどうなの?」
「どう、とは?」
「硬水? それとも軟水?」
「軟水に近いが、都会だと消毒のために色々な薬品を使ってあるから、素で飲むのはお勧めしない」
「賢一って物知りだから、向こうに行って何かトラブルが起こっても安心だよ」
「さちに満足に絵を描いてもらいたいからな」
「なんで?」
「・・・好きだから」
「ストレートだねえ・・・」
「す、好きだから・・・」
「どもらないでよ」
「さちの絵が」
「絵? 私はっ?」
「ふははっ、冗談だよ」

さちは、もうっと、口元を膨らまる。

「世界に認められるような絵を描いてみせるよ。
・・・そしたら、どこかで見てもらえるかもしれないし」

今まで明るかったさちが、急に昔を懐かしむような顔になった。

「今回は外国に出て絵を描くわけだが、何かの縁で見てもらえる可能性も出てくる。
そういう意味ではチャンスなんだ。そのつもりで絵を描け」
「うんっ」

さちは凛とした顔つきで頷いた。

 

 

 

 

 

・・・

・・・・・・


準備を始めてから数週間が経った。

その間もさちは絵を描き続け、外国へ発つ日を心待ちにしていた。

「さち、ちょっといいか?」
「ん? なになに?」
「一週間後、飛行機に乗って出発するぞ」
「いよいよなんだねっ?」

さちの瞳が、キラリと輝いた。

「明日から荷物をまとめるから、そのつもりでいること」
「アイアイサー!」
「飛行機に乗る前日に、空港の近くで一泊する。そして次の日は飛行機に乗って出発だ」
「つまり、出発の二日前にここを出るっていうことだよね」
「そうだ。だからそれまでに荷物を、特に画材道具の点検を念入りにやっておけ。
あとでおれがチェックするからな」
「あたしの下着が入ったバッグも?」
「画材道具だけ!」
「賢一にも必要なものが分かるんだ」
「なめるなよ・・・」

おれだって、絵を描くときに何が必要かくらいは知っている。

伊達に四年間、さちの相方をやってきたわけではない。

足りない分の知識は取り入れたし、さちに色々聞いたりもした。

それくらい、さちに付き合うのは楽しいことでもあるのだ。

「楽しみだなあ。どんな世界があたしたちを待ってるんだろうね」

さちは嬉しそうだ。

今すぐにでも絵を描きに飛び出しそうだった。

 

さちはベランダの方へ移動し、夜空に輝く星を眺めている。

「流れ星ないかなー」
「願い事でも叶えたいのか?」
「そうしたい気分はやまやまなんだけど、卑怯かな?」
「・・・いいんじゃないか?」

それが例え、どんなささやかな願いであったとしても・・・。

「なーんてね。
まあ、願い事なんかに頼らなくても自分の手で何とかしてみせるよ」

強気ではなく確信。

自分の腕を信じた上で、強い意志がこもっているセリフだった。

 

 

 

 

 

・・・

おれとさちは昨日、田舎町を出発した。

そして空港の近くにあるホテルに一泊、ここまでは予定通りだった。

 

 


そして次の日・・・。

おれたちは遅刻していた。

 

 

「急げっての!」
「荷物が多いからこれ以上は急げないって」

空港まで走ってあと三十分、間に合うだろうか。

「タクシーは使わないのっ?」
「こんなに渋滞してるんだっ。走った方が早い」
「自転車は・・・」
「あるわけないだろ」
「あっ、鍵かかってないの発見っ。賢一、あれに乗ろう!」
「事も無げに犯罪宣言するな!」
「ちえっ、残念」
「なんで一瞬で鍵がかかってないって分かるんだよ・・・まさかとは思うが、常習犯か?」
「画家の観察眼をなめてもらっちゃ困るね」

自慢そうにニヒヒっと微笑んだ。

「自慢するな! それをもっとマシなことに使えないのか、お前は!」
「さっきのが、まさにそのときじゃんっ」
「人様に迷惑をかけないことに使え!」

それからしばらく走り、空港までの道のりを半ばまで来たときだった。

「しょうがない・・・賢一、パスッ」
「うおぉっ! 投げんじゃねえよ!」

渡されたバッグを何とか脇に抱え、ひたすらダッシュ

「なんでおれがお前の荷物を持たなきゃならんのだっ」
「男だから!」
「お前くらい運動神経のいいやつが言うなっての・・・」
「サポーターでしょっ」

「こんな時だけもっともらしいこと言いやがって」

 

さちに負担がかかるような真似は確かにできない。

妥協案ということにしておこう。

 

「? やけに軽いな、このバッグ」
「下着とか入ってるから、失くさないでね」
「いっ!?」
「賢一っ、スピード落とさない! 間に合わないってっ」
「お、おめーが変なこというからだろがっ」
「それがないとあたし、ノーパンノーブラになっちゃうんだからね、分かってる?」
「ノーパンノーブラ・・・」

さちのノーパンノーブラ・・・。

 

 


・・・・・・。

・・・。

 

はっ、いかんいかん。

 

「さっきよりもスピード落ちてるじゃん。しっかりしなよムッツリスケベ!」
「お前こんなときまでふざけてんのか!? ワザとそんな恥ずかしいことをっ・・・!?
おのれーっ、許さん! 後で恥ずかしい目に遭わせてやるからなっ、覚えてろよ!」
「変なこと言いながら走るなっ!」
「初日からこうじゃ、前途多難な気がしてきた・・・」
「これくらいで音を上げないの!」
「うるせーっ、いまのおれは修羅場なんだ!
なぜならおれは、さっきからトイレを我慢しているからだ!」
「わわっ、きたなッ!」

 

 

 

・・・

 

・・・・・・

 

 

 

 


・・・結局、遅刻してしまった。

自分たちのせいで離陸時間に影響が出たのは当たり前で、機内に入ってからの乗客の皆さんの視線がとても痛かった。

「貴重な体験だよね・・・」
「こんな形で貴重な体験なんてしたくねえよ」
「今日のことは、あたしの絵画人生における汚点だよね」
「自ら汚点宣言するな」

ぺこぺこと謝りながら、席に着く。

安心したらどっと疲れが出てきた。

「・・・睡眠不足ではないが、寝るか」

さちもおれの肩に頭を乗せ、すやすやと寝入っている。

初日から災難だったなあ・・・。

 


・・・・・・。

・・・。

 

 

 

 

 

 

 

・・・。

・・・・・・。

 

着陸のアナウンスを目覚ましに、おれとさちは起床した。

すぐに荷物をまとめ、空港の外へ出る。


そして・・・。

 

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「やっと着いたーーっ!」

待ってましたと言わんばかりに、喜びを全身で表していた。

田舎町との雰囲気が違うと、改めて実感させられる。

故郷とは違う街並み。

都会と同じ雰囲気をかもし出すような喧騒。

街特有のレンガの匂い。

新しい土地の空気の味。

踏みしめる石畳の感触。

どれをとっても新鮮味のある風景だった。

「んーっ! やっぱ故郷とちがうねっ」

さちと一緒に、しばらく風景を楽しみながら歩いてみる。

「一戸建ての店とかばっかり・・・おっ、お城があんじゃん!」
「この辺りには、たくさんの城が建っている。
もう少し歩けば、また見つかるかもしれない」
「ホントだ、またあったよ」
「古い時代の建築物が多く見られる街だ、ここは」
「城はあるけど、高層ビルが一つも無いよ」
「城と高層ビルが一緒に建てば、街の風景が損なわれるだろ」
「なるほどね。街自体がアンバランスに見えちゃうよ。
古きよき建物を守り続ける・・・か。ロマンチックだよね、そういうの。
ごみごみした都会だったらどうしようって思っちゃったよ」

街を歩いてもゴミらしいものは何一つ見つからない。

街路樹も植えてあり、街の外観をより美しく見せているようだった。

「シンプルなトコだね。気に入ったかも」

さちはこの街を中心とし、絵を描いていくことになる。

「外国なんておとぎ話の中の出来事だと思ってたのに、実際に来てみると大したことないね」

・・・いきなり甘く見だしたぞ。

「ここからはおれの指示に従ってもらうぞ」
「わかってるって。田舎町を出るたびに同じこと聞かされてるからね」
「危険だからこそ、常に注意しておくべきなんだ」
「全部、賢一に従うよ。じゃあ、ここのガイドよろしくねっ」
「さて、着いたらまず、するべきことがあるよな」
「荷物の確認」
「それは終わっている」
「なら、次は観光に直行!
行こっ、賢一。オススメの店とか、早速案内してよ」
「まてまて先に宿だ」
「そっか。荷物置かないとね」

肩を並べ、ホテルを目指す。

「さすが外国って気がするね。緊張してきたよ」
「どの辺りが外国らしいんだ?」
「みんなが外国語しか喋っていないトコとか」
「まんまだな」
「それに、あたしたちの国と違って、活気があるような気がするよ。
なんかこう、みんなオープンな性格をしてるからなんだと思う」
「それは言えてるな」

街を行き交う人たちは、みんな生き生きとしているようにも見えた。

それは多分、好奇心旺盛な目を持つ人が多いからだろう。

常に新しいものを見つけていこうと、関心の目を光らせながら物事を見ているように感じられた。

「路上でギター演奏かぁ・・・」

ギターを演奏している若者のところへ、別の人物が現れた。

同じくギターを持っている。

「趣味が合う者同士、いろんな場所で活動でもしてるんだろ」
「若者はそうでなくっちゃね」
「お前もそのうちの一人だがな」
「おおーっ! 絵を描いてる人がいる!」

さすがに興味津々なご様子。

「さちも人物画を描いてみないか?」
「いい。あたしは風景専門だから」
「下手ってわけじゃないだろうに・・・」

人物画もそれなりに描ける腕前だが、風景画を描かせた方が一番だ。

「うわわっ! 銅像が動いた!?」

街角に立っていた銅像が、堂々と歩道を歩いていた。

「着ぐるみっ? 着ぐるみかな?」
「・・・行事かなにかだろうな」
「コスプレ趣味の人かな? 自ら銅像になるなんてさ」
「たぶん、仕事だろ」

街の外観が美しいことから、よその国よりも芸術や文化に熱が入っているとおれは考えている。

この街に住む人たちも街の外観に倣い、美術面に関する知識、物を見る目が肥えているのではないだろうか、と思ってしまう。

「ハードルの高い地域を選んだな、さち」

「この国のことを聞いたことがあったから、一度は来てみたかったんだよね」

「同じ土俵でもハイレベルなものがあるとわかったから、自分も参加して腕を競い合いたいって思ったんだろ?」
「そそ。あたしのチャレンジ精神パないからね」

さちの強気な発言は、絵を描くときと同じくらい頼もしく感じられた。

 

 

 

 


・・・

・・・・・・

 

日が暮れる頃、おれたちはホテルに到着した。

フロントで受付を済ませ、部屋の鍵をもらって自室へと赴く。

長い旅路を経て、ようやく部屋にたどり着いた。

「んーっ、やっと着いたー!」

荷物を床に放置し、ベッドに寝転がった。

「長距離の移動は、さすがにこたえる」

おれも床に荷物を置き、ベッドに腰掛けた。

設備は、ユニットバスにツインベッド、冷暖房完備といった感じ。

さらにネット環境も整っており、メールのやり取りにも困らないだろう。

 

 

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「あぁーッ!」
「どっ、どうした?」

なにかトラブルでもあっただろうか。

「ダブルで頼んでって言ったのにー」
「・・・これしかなかったんだよ」

あらかじめ用意していた返答を告げた。

「もう他は空いてなかったんだ、我慢しろ」
「賢一と一緒のベッドで寝てみたかったのにぃ~」
「今まで何度も寝たろうが」
「外国に来ても寝たいんだって」

はあっと短いため息をついて、ベッドから立ち上がった。

「小さいことにこだわるな」
「だよねーっ。賢一のベッドで一緒に寝ればいいんだし」
「・・・むぅ」

話題を変えて、気を逸らそう。

「今回も、風景画を描いていくのか?」
「どちらかと言えばそうだね。
けど、街並みを描くっていうのもいいよねっ」
「今回の題材は?」
「自然の風景。早く描いてみたいよ」
「適切と思われる場所を、候補に挙げておいた」

この街は、自然の風景がきれいなことでも有名だ。

観光案内の地図にチェックを入れたものを、さちに渡す。

「やるじゃんっ! 見事な働きぶりだねっ」
「サポートは任せろと言ったろ。思いっきり描いてこい」
「ガンガン飛ばしていくから、ちゃんとついてきなよ!」

それから二人で、活動内容について話し合った。

「最初の活動拠点を教えてくれ」
「んん~~っ・・・・・・」

風景写真を見比べながら、慎重に選ぼうとしている。

「ココ!」
「そこか・・・。
朝一でホテルを出て、目的地へ徒歩で移動。
昼前に到着して、それから昼食。
食べたら絵を描き始めて、ホテルに帰る時間も考慮すると、タイムリミットは夕方」
「ふーん・・・」
「短いか?」
「新しい土地の絵を描くんだから、もう少し欲しいかなってトコだけど、まずはそんなもんかな」
「そうか」
「風土の違いとかも感じたいんだよね。
風の流れ方とか、生えている草の性質とか、見ている風景全体の雰囲気を感じたりとか・・・。
あたしはね、描いている風景と同じ気持ちになって初めて、本当の風景画っていうのが産まれると思ってるんだよね。
なんて言うのかな・・・自分も風景の一部になって、絵を描くってことかな?
あはは・・・説明が下手でごめんね。とにかく、そゆこと」
「つまり、描こうと思ってる風景と一体化できたときに、本当の風景画が描けるようになる、ということか?」
「おーっ! さすが賢一、分かってんじゃん!」
「お前も、もうちょっと国語を勉強しような」
「あたしは絵で語るからいいんだよ」

絵で語る・・・。

それは、言葉で表現できないことを、絵を使って表現するということ。

確かにさちの絵には、見ているだけで惹きつけられる、何かしらの魅力があった。

さち自身、絵を通して何かを伝えたがっているのだろうか。

それをさち本人に聞いても、自分にもよく分からないと言っていた。

・・・奥が深い芸術だ。

「賢一ってさあ、あたしが絵を描いてる間どうするの?」
「いつものヤツ。それとさちのサポート」
「いつものヤツって・・・あれしかないよね」

昔のことを懐かしむ哀愁の表情が、さちの笑顔を覆っていく。

「お願いね。大変だろうけど」
「任せとけ、ってか元気出せっての」
「あははっ、ごめごめ。
確かに、あたしもいい絵を描いて取り戻すって言ったからね。
張り切っていくよーっ!」
「それでこそさちだ。実に頼もしい」

今後の予定とメドは立った。

「よし! 一区切りついたし、飯食いに行くかっ」
「どんな料理が出てくるのかな? 楽しみーっ」

おれたちはホテル内にある食堂へと足を向けた。

 

 

 

 


・・・

「激ウマだったんだけど!」
「喜んでもらえて何より・・・」

料理は確かに美味しかった。

そして酒は飲んだはいいが、アルコールが強かった。

とても飲めたものではない。

グラス一杯でおれは結構キたし、さちはいい具合に出来上がっている。

「あー、いい気分。これなら明日から頑張れそうだねっ」
「二日酔いすんじゃねえぞ」
「グラス一杯でなるわけないって」
「度数が高いんだ。水を大量に飲んでおけ」
「ああっ、これね・・・んっ、んっ、んっ・・・ぷはあぁ~っ!」
「って、おれの蜂蜜ジュース!」
「結構美味しいんだね、これ」
「半分近く飲みやがった・・・」
「いい気持ちいぃ~・・・酔っちゃったよ」
「おい、しっかり歩け。自分のベッドまで」

とりあえず横にしないと、ふらふらしていて危なっかしい。

 

「こらっ、言うこと聞けってのっ」
「やーだっ、あははははっ!」

 

さちは勢いをつけておれをベッドに押し倒した。

「・・・ッ、テェな!」
「ごめんごめん。これ、お詫び」

静かに唇を重ねてきた。

先ほど飲んだ酒のにおいが、さちの甘い息と重なっておれの鼻腔をくすぐる。

「ふぅ、んっ・・・」

さちのぷにぷにした唇が、優しく押し当てられる。

「キス・・・」
「わかってるって」
「だから、キスだって」
「わかってるっての!」

さちを引き寄せて、唇を重ねる。

「ぁっ、んっ・・・」

さちの甘い吐息がおれの理性を麻痺させ、さちの赤く染まった頬と潤んだ瞳が、おれ自身を求めていた。

「賢一の口ってさ、なんでか柔らかいよね。
胸板とかほかんとこは固いのに、なんでかな・・・んっ」

何度も、ついばむように唇を重ねてきた。

さちの唇は魅力的だと思った。

アルコールではなく、さちの甘い吐息で酔ってしまうのではないかと思ってしまうほどだ。

おれたちは、互いの唇を貪りあった。

 

 

・・・


明日から、さちの新たな挑戦が始まる、


おれはさちを優しく抱いてやった。

 

 

 

 

 


・・・・・・。


・・・。

 

 

 

 

 

「よーしっ、今日もビリッと頑張るぞー!」

朝っぱらから元気なのは変わっていない。


「空気がいつもと違うし、異次元の世界に来たって感じだねっ」
「体調は万全か?」
「もっちろん! 体調万全、忘れ物無し! 幸先のいいスタートだよ!」
「時差ボケの方は、問題ないようだな」
「あったりまえじゃん!」

周囲の人たちの視線が、おれとさちに集中する。


『見かけない人だな・・・』

『画家ねえ・・・人物画? それとも風景画?』

『どんな絵を描くんだろ。 ちょっと興味が湧くよな』


・・・そんな声が聞こえてきた。

興味あふれる視線を、どこに行っても受けてしまっていた。

「まさにっ、壁に目あり、障子に耳ありだね!」
「・・・いや、言葉も違えば、使い方も違う」
「注目の的だよ、あたしたち」
「ここで一枚描いてくか?」
「それはダメ。最初に描くのは風景画だかんね」
「よしっ。目的地に急ぐか」
「また、今日からヨロシクね、賢一っ」
「今日もビリッと行こうぜ」
「おおーっ!」

 

 

・・・

道中、街並みを楽しみながら目的地へと向かった。

当初の予定通り、昼前には到着。

おれは昼食の準備を、さちは絵を描く準備を始めた。



 

 

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「あたしの準備は終わったよ。賢一は?」
「今すぐ食べられるぞ」
「おっ、サンドイッチじゃん。凝ってるねえ」
「普通だと思うが・・・さちが喜んでるなら別にいいか」
「いただきまーすっ」

地面に敷いたシートに座るなり、すぐさまサンドイッチを食べだした。

「はぐっ・・・ふむふむ・・・うん! イケるじゃん!」
「ほれっ」

おれは飲み物を渡した。

「ありがとっ・・・んっ、んっ・・・ぐえぇっ! 何、これ・・・甘ったるい」
「蜂蜜ジュース。 昨日は美味しそうに飲んでいたじゃないか」
「四年前にも、同じ事があったような気がする・・・」
「黙って飲んでみろ、元気が出る」
「そんなことない! 今の感覚で全部思い出しちゃったよ」
「糖分は大事だぞ」
「・・・過剰摂取はよくないっしょ?
それより、他の飲み物はないの? 普通の水でもいいから」
「そう言うと思って、ちゃんとした飲み物も用意してきたぞ」
「先にそっちを出しなよ!」

おれからコップを受け取り、一気にそれを飲み干した。

「・・・ぷはーっ! 蜂蜜ジュースよりも美味しいねっ」
「あっ・・・おれのセンチメンタルなハートにヒビが・・・」
「ごちそーさま! そいじゃ、いっちょやるかね」
「って、おれの分まで食ってんじゃねえよ!」
「蜂蜜ジュースを飲んでりゃいいじゃん」
「そういう問題じゃねえよ・・・」
「よーしっ。ガンガン走りまくって燃え尽きるぞーっ!」
「余力を残せってのッ」

 

 

 


・・・

ビニールシートの上に腰かけ、さちを観察すること小一時間。

さちは未だにイーゼルの前に立ち、景色を見渡していた。

構図を決めている最中なのだろう。

いや、その前の段階、風景との一体感とやらを降臨させているのかもしれない。

さちの場合、風景と一体化することにより、構図がその時点でできあがるのではなかろうか・・・。

「んんっ! なんかビビッと来たよー!」

来たらしい。

自然の道なるエネルギーか、はたまた宇宙からの電波か、おれには分からないが・・・。

 

 

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さちは椅子に座り、下書きを始めた。

鉛筆を走らせる爽快な音が、風に乗っておれの耳まで届いた。

サッサッサッ・・・。

例えではなく、本当に流れるような音だった。

おれはこうして、さちが描いている姿をずっと見てきた。

腕前も数を重ねるたびに上達し、昔に比べて表現力が豊かになった気もする。

外界から得た刺激がもとで技術が上がったとすれば、今回の海外遠征によって身につけられるものは、さちにとっても大きな財産になるのではないだろうか。


「・・・静かでいいなあ」

さちには聞こえないように、ぼそっと呟いた。

「・・・うん、そうだね」
「すまん、聞こえたか?」

さちの邪魔をしないようにと、おれはできるだけ話しけないにように気をつけてたはずだが、どうやら今回は邪魔をしてしまったらしい。

「なんとなく聞こえてきただけだから、気にしないでいいよ。今吹いてる風と一緒」

おれの内心を察したのか、気にするなと言ってくれた。

「なんかここ、故郷と同じ匂いがするよ」
「ほお・・・」
「藍色と紺色くらいの違いで。
意味は同じだけど、実は何かが違う・・・みたいな」
「今回の例えは難しいな・・・」
「だね。あたしにもよく分かんないよ」
「邪魔して悪かった。続けてくれ」
「別に気にしてないってのに」

嬉しそうに微笑み、再び鉛筆を走らせた。

「絵以外の厄介ごとは、全部おれに任せておけ」

周りのい風景が落ち着いた雰囲気に変わり、時間の感覚がゆっくりとしたものに変わっていく。

大地を撫でる風が、おれとさちを包み込んでくれた気がした・・・。

 

 

 

 

・・・

・・・・・・

 

日が徐々に傾いてきている。

「そろそろホテルに戻る時間だな」

おれはビニールシートを片づけ、さちの方を見た。

さちは未だ真剣な表情で、イーゼルと向き合っていた。

 

 

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「さち、そろそろ戻ろう」
「・・・・・・」
「・・・さち?」
「うん、分かってる・・・」

そうして数分ほど鉛筆を走らせていたが、ようやくその手を止めた。

「始めは、こんなものかな」
「どうだ、外国に来て初めての絵画活動は?」
「メチャクチャ楽しいって! 別次元の異世界にワープしまくった感じ!」
「イマイチよくわからんが、新鮮な気分がしたってことでいいのか?」
「全然オッケー!」
「やたらと楽しそうだな」
「あったりまえじゃん! 新しい刺激を受けてハッスルハッスルだよ!
まだ一時間かな~と思ってたら、もう夕方なんだもんっ。超絶ビックリもんだよ!
ホテルに帰ってからも描こっかなぁー・・・」
「風景を見ないで描けるのか?」
「もちろん!」
「すごい記憶力だな・・・」
「勘違いしてるみたいだけど、記憶力はそれほど関係ないよ」
「えっ? けど、見ながらじゃないと描けないだろ」
「賢一は、あたしが景色を見ながら描くと思ってるんだろうけど、それは間違い」
「いや、見ながら描いてるだろ」
「そういう意味じゃなくて、書き写すだけならその絵は写し絵でしかないよ。
誰にでも真似できるし、賢一にだってできるし・・・」
「むむ・・・」
「写し絵はただの作業。あたしは作業をしているんじゃなくて、自分の描きたい絵を描いてるんだよ。
風景とまったく同じ絵を描くくらいなら、そんなのカメラに任せとけばいいじゃん」
「お前は超人か?」
「ん? なにが?」
「イマジネーションのみで絵を描くんだろ」
「風景を見たあと、自宅に戻って絵を描いてた人もいるくらいだからねっ。
・・・とまあ、こんな描き方もあるってこと。勉強なった?」
「大変参考になりました」
「あたしはね・・・絵を描き始めた頃から、ずっと真似なんてしたことはなかったよ。
だって、絵は楽しく描くものなんだよ?
他人が描いたものをマネても、達成感なんてないし、何よりつまんないし・・・」
「さち・・・」

昔のことを言っているのだろう。

自分にしか描けない絵を楽しく描いただけなのに、真似事だといわれたことを。

「でもね、ようやく自分らしい絵が描けるような気がしてきた。
だから、これからは超特急並みに飛ばしていくよ!」
「お、おう・・・頑張ってくれ」

 

絵は、楽しく描く。

さちの絵には毎度、躍動感あふれるような魅力を感じていた。

 

「とにかくご苦労さん。あとはゆっくり休めよ」
「おつかれさーんっ」

おれたちはホテルへ向かって歩き出した。

「ねえねえ賢一、ホテルに帰って絵を描いちゃダメ?」
「自由にしてくれ。
その辺の感覚は、素人のおれにはよく分からん」
「なんか今、ハイな気分なんだよね。じっとしてらんない。
筆を十本くらい持って、絵を描きたいって感じだよ!」
「・・・何者だよ、お前は・・・」

 

 

 


・・・

・・・・・・


日が暮れる前に、街までたどり着くことができた。

「結構、時間がかかるんだねー」

確かに、片道歩いて数時間はかかった。

「この数時間がムダだよ。何とかならないの、賢一?」
「・・・わかった。さちはフロントに着いたら鍵をもらって、先に部屋に戻っておいてくれ」
「何かあるの?」
「ホテルの従業員に、バスとか電車とか交通手段を聞いておく」
「じゃあさ、部屋に付いてるインターネットを使いたいんだけどさ」
「何かの調べものか?」
「メールの確認とかしたいし」
「なるほど」

おれも後でメールの確認をしておこう。

例の件について、新しい情報が入っているかもしれない。

「普通にパソコン立ち上げれば使えるはずだろ」
「それがさあ、ケーブルが繋がってなかったんだよね」
「フロントで借りないと使えないのか・・・」
「そうみたい。だから賢一、お願いっ」
「わかった。鍵と一緒に借りよう」


そのとき、見知らぬ人に声をかけられた。

「・・・・・・」


「賢一、何て言ってるの?」
「おれたちは画家か? ・・・だと」
「新婚旅行に来た夫婦だって言っておいて」
イーゼル持った新婦さんがいるか」
「いるかもしんないじゃん」

さちを無視し、画家だと相手に伝えた。

「・・・・・・」


「今度は何?」
「描いた絵があるのなら見せて欲しいらしい」
「いいよーっ、はいっ」

さちは下書きの完成していない絵を、サラリーマンらしき市民に見せた。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

「・・・なんて言ってんのか分かんないよ・・・」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 

「だってよ、どうする?」
「わかんないって!」
「お前の描いてるところを見たいんだそうだ」
「ええーっ! まさかのスカウト!?」
「普通に見物だっての!」
「じゃ、オッケー」
「やけにあっさりだな・・・邪魔にならないか?」
「後ろから見る分には問題無い、って伝えてちょーだい」

おれはさちの意見を、相手に伝えた。


「・・・・・・」


「絵に興味のある友人が他にもあと数人いるが、大丈夫か? だと」
「静かにしてるんなら、何人でもいいよー」

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」


去っていった。


「最後・・・なんて言ってたの?」
「近いうちに見に来るらしい・・・しかし、大丈夫か?」
「何も問題ないけど?」
「影響が出るかもしれないぞ」

別れるときに注意はしたが、それでも心配だ。

「日常会話くらいなら問題ないって。
それに、いざとなったら賢一がいるしね」
「できる限り、厄介ごとは回避したいんだ」
「腕の見せどころっしょ。明日からその腕を振るって見せてよ」
「なんだ、その仕事をあげました的な発言は? 全然嬉しくないぞ。
おれ、けっこう役に立ってないか? 機能してないか?」
「確かにサポーターとして機能してるよね。大助かりだよっ」
「今後、無駄な仕事は増やさないようにっ」
「あーいっ」

何かやらかしそうなんだよなあ・・・というのは、おれの思い込みか。

 

 


・・・

・・・・・・

夕食を外で済ませ、ホテルへと戻ってきた。

部屋の鍵とネットケーブルを借り、さちを先に部屋へ返す。

おれはというと、フロントの係員と話をしていた。

「すみませんが、この辺の交通手段なんですがね・・・」

地図を見せながら、詳細を説明した。

フロントの係員は、丁寧に交通の便を教えてくれた。

そして、この街のことについても解説してくれた。

この街は古くから芸術が盛んで、後に有名となるアーティストたちを輩出していた。

そしてそれが話題となり、様々な人がやって来ては芸術の奥行きを説いていったという・・・。

建築物、彫刻、絵画、思想、書物など、数多くの芸術が発達してきた地域であるらしく、その特性は現在でも引き継がれているということだった。

最後に、市民の目は肥えているので心してかかれ、という丁重なアドバイスまで頂いた。

 

 

・・・

部屋に戻ると、さちがパソコンを操作していた。

「あれ? 遅かったね」
「交通手段以外に、街の歴史について色々と聞いてきた」
「へーっ、どんなこと?」

フロントの係員から聞いた話を、そのままさちに伝えた。

「うええーっ。すごいとこなんだね、ここ」
「お前さあ、こういうこと知った上で来たんじゃなかったのか?」
「前にも言ったと思うけど、一度来てみたかったから来ただけ」
「ハードル高すぎるっつーの・・・」
「あたしのレベル知ってるでしょ? ちょっと本気出せば大丈夫だって」
「考えが甘い! 甘すぎる! 井の中の蛙め!」
「・・・へっ?」
「それはだな、カレーを作っていた最終に誤って砂糖を大量に入れてしまい、それをごまかそうとして急きょ肉じゃが作りに変更するくらいに甘いーーいっ!
グルメの目はごまかせても、舌はごまかせんのだっ!」
「・・・はあ・・・」
「今のは大げさだったが、とにかくここはハイレベルな所だ。
なめてかかると足蹴にされるぞ」
「言いたいことはわかった。全力で絵を描いてくよっ」
「わかってくれればいいんだ。それより、ネットは使えたのか?」
「うん。今メールのやり取りが終わったとこ」
なっちゃんたちと?」
「あ・・・うん、そそ。
賢一も使うなら使っていいよ。あたし今日はもう使わないし」
「そうか。なら、借りるな」
「あたし、ちょっと外に出てくるね」
「こんな時間にか? 危ないぞ」
「三十分で戻るよ・・・今日は星がきれいだな」

物憂げな表情を残し、さちは部屋を出て行った。

「・・・・・・」

メールの確認をしよう。

彼女に関する情報が来ているだろうと信じ、メールを一通ずつ開いていく。

 

 

 

・・・・・・。


・・・。


「ダメか」

結局、この日は収穫なしだった。

「明日には成果があるといいが・・・。
・・・・・・さちは、まだ帰ってこないな」

心配になったおれは、さちを探しに部屋を出て行こうと、ドアノブに手をかけた。


ガンッ!


「オォウッ!」

額にドアが直撃する。

さちが軽い足取りで部屋の中へ入ってきた。

 

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「賢一っ、一緒にお風呂に入ろう!」
「その前に謝れ!」
「一緒に入ってくれたら、お風呂の中で慰めてあげるよ」
「いや、この場で普通に謝っていただければ・・・」
「ちゅうわけで、今日一日の疲れを共に癒そっ」


さちに腕をむんずと捕まれ、そのまま風呂場へと強制連行された。

 

確かにさちは風呂場でおれを癒やしてくれた。

 

しかし、やりすぎはよくないと思う・・・。

 

 

 

・・・

・・・・・・