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車輪の国、悠久の少年少女 さちシナリオ【5】(終)

 

 


・・・。


・・・・・・。

 

 

「どうしてこんな状況になってるんだろうな・・・」

 

 

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「賢一、顔暗いじゃん! こっち来て一緒に盛り上がろーよっ!」
「まなもいるよっ!」

パーティー会場で、さちとまなは無事、再会を果たした。

すぐさまおれたちはホテルに帰った。

帰り道に色々と食材を買いこんで部屋へ突入し、今に至る。

早い話、今日の日程が終わったんで、三人で夜を語り明かそうということになったのだ。

すでにアルコールが入っているせいか、さちとまなはテンション高めだった。


「すんごい偶然だよね。まながこの国に来てたなんてさ」

グラス片手に、まなの頭を撫でていた。

「実はね、まな、お姉ちゃんがこっちに来るってわかってたんだよっ」
「なになに、エスパー? 予言できるの?」
「簡単だよお。お姉ちゃん、一年前に『国際文化交流功労賞』っていう賞をもらってたよね?」

さち曰く、国内のトップランナーと言っていたアレだ。

「よく知ってるね」
「お姉ちゃんのことだから勢いに任せて、そのままこっちに来て絵を描くって思ってたんだあ。
お姉ちゃんのことだったら何でも分かるよ」

さちも当然のように断言する。

「じゃあさ、あたしが今回みたいに、最高国民賞を取ることも分かってたの?」
「最高名誉国民賞!」
「ああ、それそれ。最高国民って、どんな国民だよって感じだよね・・・アハハハハハッ」

一人でボケてウケて・・・めでたいヤツだな。

「もちろん分かってたよ。 だって、お姉ちゃんだからねっ」
「こいつぅー。 うれしいこと言ってくれるじゃない!」

指でまなの頬をぐりぐり・・・。

「当たり前だよ。 賢一も、きっとそう思ってたに違いないよお」
「もちろんだ。 さちならば、きっとやってくれると信じていた」

腕を組んで、うんうんと一人うなずく。

「どーだか・・・たまに絵を描くな、休め! とか言ってたくせに」
「そうなの? 賢一」


「カゼひいてまで描こうとするんだぜ、見てらんないだろ」
「お姉ちゃん、無理しちゃ駄目だよお・・・」


「若気の至りってやつ、だいじょーぶだいじょーぶ」
「さちの場合、ただの暴走だろ。 だから当て身までして止めてやったんだ、ありがたく思え」
「当て身もらってないし! てか、病人にそんなことしちゃ駄目だし!」


「賢一駄目だよお、お姉ちゃんに手をあげちゃ」
「そうだっ、まな。 もっと言ってやれ」


「やっぱり、お前らは仲のいい姉妹だよ」


「あったり前じゃん! まなは自慢の妹だかんね!」
「お姉ちゃんは、まなの自慢のお姉ちゃんだよ!」


姉妹愛って美しいなあ・・・。


「まな、明日も時間あるんだよね?」
「うん・・・明後日にはもう、出ないといけないんだよ」


まなは今回、お忍びで来ていたのだ。

そう長くはここにいることはできない。


「せっかくこうして会えたのに、また一緒に暮らしたいのに・・・」


途端に、沈んだ顔をしていた。


「お姉ちゃんが絵を描いて表彰されれば、また会えるよ」
「それはそうだけど・・・」


さちはまなと一緒に暮らしたいのだ。

そのために、外国に来て絵を描いたのだから。


「それに、まなも立場上、そう簡単に辞められないから・・・。
まなもお姉ちゃんと一緒にいたいんだけど、もう少し待って欲しいなあ・・・」
「・・・・・・」


難しそうな顔をして考えごとをしているようだ。

そして、おもむろに口を開く。


「明日さあ、向日葵畑に行こうよ」
「向日葵畑?」


「国にかえるの? 一日じゃ無理だよお」


確かに無理だが、さちの言っているのは・・・。

「今回受賞した、向日葵の絵を描いたトコ。 そこで、まなを描いてあげたいんだっ。 もちろん、向日葵と一緒にね」
「まなと向日葵を・・・一緒に?」
「そそ、綺麗に描いてあげるよ。
まなもしばらく向こうに行っちゃうんでしょ? だから、あたしの描いた絵を持っていったら、寂しくなくなるんじゃないかって思って・・・」

とは言いつつ、人一倍寂しいのはさちの方だろう。

「まだこの絵を完成させたことがない。だから・・・今描いてあげたいのっ」

五年前に、まなと別れたことを言っているのだろう。

まなをテーマとし、向日葵に囲まれたまなの笑顔を描いた一枚の絵画。

確かに未完成だった。

そして今、まなと再会したこの土地で、まなと向日葵をセットにした絵を描いてあげたいのだろう。

「一日で終わるのか?」
「あたしの絵に不可能は無いよ!」

超ビッグになった画家の言うことは違う。

 

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「わかった。まな、お姉ちゃんに付き合うよおっ」


「さて、そうと決まれば今日はもう寝るぞ!」
「じゃあ賢一、これ片付けといて。 あたしとまなはお風呂に入ってくるから」


散らかったテーブルを指差し、まなを風呂場へ連れて行く。


「お姉ちゃんと一緒にお風呂っ、お風呂っ」
「お姉ちゃんが可愛がってあげまちゅからねー」


二人とも楽しそうだった。


「片付けるって言ってもこれ全部・・・だよなあ・・・」


テーブルだけではなく、床にも空き缶や紙袋が散乱していた。


「おれの立場は一生、主夫なのかもな」


愚痴りながら部屋内を掃除した。

風呂場から、きゃっきゃっ、と姉妹のはしゃぐ声が聞こえてくる。

・・・まったく、あいつらは昔から仲が良かったよな。

仲が良すぎて、ヘンなことしてたりしないよな?

・・・って、おれも、らしくもないこと考えるようになったな。

成長したのかね、おれも・・・。

さっさと寝ないと、変な夢でも見そうだな。

さて、部屋の片付けをして、寝ようっと・・・。

 

 

 

 


・・・

 

 

・・・・・・

 

 


「ん?」

時計を見ると、すでに日付が変わっていた。

ベッドに横になっていたら、いつの間にか眠っていたようだ。



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「あっ・・・けんいち・・・」
「さちは・・・まだ風呂か?」
「うん。しばらく上がってこないって」

 

すごい長風呂だな・・・。

 

「ねえ、賢一?」

モジモジと恥ずかしそうに尋ねてきた。

いつもハキハキと喋る、まならしくなかった。

「まなね、明日国に帰らないといけないの」
「そうだったな・・・明日、さちに絵を描いてもらったら帰るんだったな」

頭をなでてやった。

「・・・・・・」
「どうした?」
「うん、あのね・・・実は・・・その・・・」

視線が宙を舞い、たまにおれの方を上目づかいで見たりしている。

顔に赤みが差しているが、風呂上がりのせいだろう。

「まなね・・・明日、国に帰るよね?」
「そうだな」
「賢一に・・・もう会えなくなるよね?」
「しばらくの間は、な」
「・・・・・・」

どうも様子が変だ。

「だからまなね、思い出を作りたいんだあっ」
「思い出か・・・パーティーでもするか?」
「パーティーじゃなくても、ちゃんと思い出は作れるよお」
「そうか?」
「うんうん。 よく考えてみてよ」
「現状整理するか」

夜、おれとまなが部屋にいて、さちは風呂。

思い出を作りたいと言うまなは風呂上がりで、もう後は寝るだけ。

・・・顔がさっきから赤いな。

ついでに股をもじもじとしきりにすり寄せているし、さっきから色っぽい仕草ばっかで、おれを誘っているように見える。

 


・・・・・・。


まさか・・・。

 


「さっきも言ったよね。お姉ちゃん、しばらくお風呂から上がってこないって・・・」
「ま、まあな」

さちの陰謀か? これは。

「賢一とお姉ちゃんは、何度もしてるって言うし・・・。
まなね・・・賢一にもそういうことして欲しいのおっ」
「つまり・・・」
「・・・え・・・えっ・・・」

大きく息を吸い込み、声を大にして言った。

 

「エッチだよお!」
「・・・・・・」

 

マジかよ。

「本気じゃなかったら、こんなこと言ってないよお」
「まな・・・もうちょっと大人な考え方をしような。
まなが今考えていることは、そう簡単にしちゃいけない行為なんだ」
「賢一とお姉ちゃんは、たくさんしてるよね?」

それを言われるとどうしようもないが、何か違う。

「まなも、抱いてぇ・・・」
「・・・・・・」

さちめ、また妙な知識を教え込んだな。

「まなね、賢一のこと、だぁいすきなんだよっ」
「おれもまなのことは大好きだ」
「ほんと? 一人の女性として?」
「それは、まな次第だ」
「なんか、逃げてない?」
「答えに窮していると言ってくれ」
「賢一の言いたいことも分かるよお」
「・・・ホントかよ」
「お姉ちゃんも、いいんじゃないかって。ハーレムでもいいんじゃないかって」

あいつめ・・・。

「だから、本当のこと言ってほしいなあ。
賢一は、まなのことが好き?」

まさかこういう展開になろうとは、夢にも思わなかった。

「まなのことは好きだが、一人の女性としてはムリだな。
どこかで、さちを裏切っているような気がして・・・」
「・・・・・・」

無垢な笑顔が一瞬消えたが・・・。

「お姉ちゃんのこと大事に思ってくれて、まな嬉しいよ。
ごめんね。変なこと言って」

太陽のように明るい笑みを覗かせた。

「まなはそれだけでも充分。 すごく嬉しいよお」
「さちだけ受け入れてるようで申し訳ない」
「賢一は優しいから、深く考えすぎなんだと思うな。
だから、その・・・心配そうな顔をしないでほしいなあ」
「ああ。悪かった」
「じゃあまな、寝るね・・・」

まなは肩を落とし、寂しそうにベッドへと向かった。

そのとき、風呂場から声が聞こえた。

「ちょっとちょっと、ちゃんとしてやんなよ!」
「おおっ!?」
「まながかわいそうじゃん!」
「い、いや、でもよ・・・」
「なにさ?」
「お前、それでいいんか?」
「まなとあたしは、一心同体。 あたしを抱くのもまなを抱くのも同じことよ。
まなね、賢一のこと昔からずっと好きだったんだよ? あんたそれ、わかってんの!?」
「・・・し、しかしな」
「お願いよっ、あたしもあとで参加するからっ!」
「・・・ま、まじかよ・・・」

必死で頭を回転させる。

「ま、まな・・・」
「なぁに?」

心を決めよう。

「いいお姉ちゃんを持ったな」
「賢一・・・」
「まなの頼みだからな。今回は特別だ」
「賢一・・・ありがとう」

大きな瞳をふるふると震わせ、今にも泣きそうだった。

 

「・・・・・・」


「・・・・・・」

 

 

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「けんいち・・・キス・・・」

目を閉じ、おれに身を委ねてきた。

その仕草が初々しくて可愛い。

「・・・・・・」

まなも恥ずかしいんだ、おれがリードしてやらないと。

肩に手を置き、顔を寄せた。

すぐ目の前に、まなの顔がある。

小さい息遣いが、おれの唇をくすぐる。

そして次の瞬間、自然に口を重ねていた。

「んんっ・・・」

まなの体が、びくっと震えた。

「ん・・・んっ・・・」

小さくて柔らかい、まなの唇の感触。

ぷにぷにとしていて、とても愛しい。

 


おれたちはお互いを求め合った・・・。

 

 


・・・。


・・・・・・。

 

 

 

 

――


――――

 

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「お疲れ~ッ、二人とも!」


「オマエな・・・」
「エンジョイした? したよねっ!」
「まなに聞いてくれ」


「ま~な~っ!」


まなは、先ほどより呼吸が落ち着いているようだった。


余韻を噛みしめているのか、ほっとした表情をしている。


「賢一。 よかったよ・・・」


「満足したみたいだねっ」


ニカーッと爽やかな笑顔を、おれとまなに向けて放った。


「あたしが人肌脱いで正解だったわ」
「・・・ったく」
「じゃあ、今度はあたしの番だよっ!」


さちがパパッ、と服を脱いだ。


「ジャーン! どお? 賢一っ」
「・・・さっき、買ったやつか?」
「やらしーでしょ?」

さちは黒のブラと下着を身につけていた。

張りのある胸を強調するかのようにぴっちりと締まった黒のブラが、さちの扇情的なプロポーションをよりエロく見せていた。


「お、お前・・・」
「興奮してる? もちろんしてるよね!」

 

さちの合図を号令に、三人でもつれ合った。

 


「たっぷり可愛がってあげるからね~・・・」

 

 

 

 

 

 

 


・・・。


・・・・・・。

 

 

 

 

――

 

――――

 


・・・あ、あれ?


真夜中。

 

さちとまなは、隣のベッドですやすやと寝息を立てている。

 

おれとナニをしていた形跡なんてこれっぽっちもない。

 

 

 


・・・なんだ、夢か。

 

最近の夢オチはリアルだぜ。

 

でも、現実にあってもおかしくなさそうな夢だったような・・・。

 

まあいいや、今度こそ眠るとしよう・・・。

 

 

 

 

 

・・・


・・・・・・

 

 

 

早朝、おれとさちとまなの三人で向日葵畑へと向かっていた。

昨晩さちが約束したとおり、まなと向日葵をセットにした絵を描くためだ。

 

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「よーしっ! 今日もビビッと頑張るぞーっ!」
「うんうん。頑張るよお!」

このコンビは朝から元気だった。

「ところで、おれは今日一日、何を頑張ればいいんだ?」

さちがまなを描くので、必然的におれは一人ぼっちだ。

「本でも読んでれば?」


「まなを描いてーっ!」

 

「本を読みながらまなを描いて・・・なんて贅沢な行動だ」
「賢一にできるの?」
「本しか読めません」

きっぱり。

「あたしは、絵だけしか描けないからねー」

あっさり。

「まなは両方できるもんねーっ」
「すごっ!」
「絵を描いて文を書けば絵本になるよお」


なるほどね・・・。

「さち、絵本を書いてみろ、結構ウケるかもしれないぞ」
「あたし文字書くの苦手だから」
「三ツ廣さち・画、森田賢一・文・・・これでどうだ?」


「まな、モデルやるーっ!」


「・・・だそうだ」


「まなはこれから描いてあげるから、それでいい?」
「わーいっ!」


「おれの提案はことごとく無視かよ」


「ふふん・・・あとでまなと一緒に構ってあげるよ」
「お姉ちゃん、今日だけで本当に終わるの?」
「絶対終わらせる。 約束ねっ」
「楽しみにしてるよお」


五年前のさちであれば期待されると落ち込むところだが・・・。


「全部お姉ちゃんに任せなっ!」


いまはむしろ張り切っていた。


「まなは適当に向日葵と遊んでてくれるかな? 構ってあげられなくて悪いんだけど」
「いいよお。まな、お姉ちゃんのために頑張るよっ」
「さあ、時間がなくならないうちに描き上げるよっ!」
「あっ、お姉ちゃん待ってーっ!」


「・・・・・・」


歩く速度を上げたさちに、まながとてとてと歩きながらついて行く。

その光景を微笑ましく見守る。

今日も暑い日になりそうだ。

 

 

・・・


・・・・・・


ここに来るのも久しぶりだ。

向日葵たちはといえば、相変わらず太陽に向かって背を伸ばしている。

思わず、『よおっ、久しぶり!』と声をかけたくなってしまった。

それくらい、ここの向日葵に愛着が湧いてしまった。



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「よおっ、ひっさしぶり! 元気してた!?」

・・・ここに同類が一人いた。

「ひさしぶりー!」

ここにも一人。

「まなもこの場所に来たことがあるのか?」
「向日葵の咲いてる場所には行ったことあるって、昨日言ったはずだよ」
「ああ、そうだったっけ」

確かに、そんなことを言っていたような気がする。

「ねえ、賢一」
「ん?」
「絵を描くポイントを決めたいからさ、ちょっと待っててくんない?」
「時間の方は大丈夫なんだろうな」
「十分くらいで終わるからさ。 それまでまなの相手しててよ」

さちはそれだけ言うと、向日葵畑の周りを歩き始めた。


「ねえねえ賢一、この中に入ってみようよ」


おれの服を引っ張り、向日葵畑の方を指差す。

「いいぜ。 かくれんぼか?」
「違う違う。 普通に散歩だよお」

普通に考えたら、今からさちが絵を描くわけだし、かくれんぼはないよな。

おれはまなに連れられて、向日葵畑の中へと移動した。

 


・・・


「向日葵って、背が高いよね」
「ああ、おれよりも高いな」
「賢一も結構大きい方なのにね」
「こいつらは一日中、太陽の光を浴びてるからなあ」
「まなも一日中太陽の光を浴びてたら、大きくなれるかな?」
「保証はできないけど、多分大きくなると思う。
しかも、健康に育つこと間違いなし」
「健康な体を作るのはいいことだよ」
「まなはもっと大きくなりたいのか?」
「うん! できれば賢一と同じくらい大きくなりたいなあ」

ふと、まなを見てみた。

おれの肩当たりに、まなの頭がある。

女の子であれば、このくらいで十分だとおれは思う。

五年前と比べ、確かに成長していた。


「・・・あまり大きくなられると、男としての威厳がおびやかされるんだ」
「背の高さで威厳が決まるんだね」


その意見については、人によりまちまちなんだけど。


「それより、どこまで連れていくんだ?」
「もうちょっとで着くよ」


まながそう言った直後に、小さな広場にたどり着いた。


「まなね、この辺で落し物をしたと思うの」
「もしそれが本当だとしたら、よく覚えてるな・・・で、どんなものだ?」
「鍾乳石」
「鍾乳石?」

この場に合わない、突飛な単語が出てきたな。

「また五年前の話になるんだけど・・・。
洞窟から帰ってきたお姉ちゃんが、お土産としてくれたものなんだあ」
「あー・・・そんなことがあったな・・・」
「糸を通して大事に持ってたはずなんだけど、多分この辺で落としちゃったんだと思うの」
「糸を通した鍾乳石ねえ・・・」

一つだけ思い当たった。

「もしかして、これか?」

ポケットから石を取り出し、まなに見せた。

この辺りで拾ったことのある、珍しい石だった。


「おーっ! 賢一すごーい。 エスパー?」
「さちがここで絵を描いているときに、偶然見つけたんだ」
「ありがとーっ」

まなが抱きついてくる。

「まあまあ。 とりあえずこれを返そう。
落し物が見つかって何よりだが、おれをここに連れてきたのは散歩じゃなくて、鍾乳石を探すためだったのか?」
「それもあるけど、ここに来るまでは散歩だったよ」
「そろそろ戻ろうか。 さちが戻ってくるかもしれないから」
「うんっ!」

まなも・・・この場所に来てたんだな。

さちがこの場所に来たとき、ビビビッと何かを感じたと言っていた。


「ははっ、やっぱさちの直感はすげえや」
「笑ってないで、早く行こうよ」

まなは、おれの服をつかんだ。

 

・・・


「おっ、戻ってきたね」

おれたちが向日葵畑の中から出てくると、さちが目の前にいた。

「絵を描くポイントはもう決まったのか?」
「今、賢一とまなが出てきたあたりかな」
「・・・場を乱したりしちゃあいないよな?」
「問題ないよ。その辺で適当にくつろいでてよ」

おれとまながいる場所は向日葵の陰に覆われていた。

確かにくつろげるのだが・・・。

「さちはいいのか? 暑いだろ」
「一日くらい軽いって。 心配しなさんな」


「お姉ちゃん・・・無理しちゃ駄目だよ」
「はいはい。 分かってますよー」


さちはまなに笑顔を返し、作業を始めた。

鉛筆を握った瞬間、さちの顔は真剣になった。

いわゆる、マジモード。

このとき、無駄に音を立てないのが賢明な判断だ。


「・・・・・・」
「・・・・・・」


「・・・あのさあ」


イーゼルの横から顔をひょいっと出し、おれとまなに話しかけてきた。


「二人とも、何で黙ってるわけ?」
「さちが集中してるから、静かにしていた方がいいかなって思って・・・」
「写真取るならそれでいいけど、あたしは楽しそうな風景を描きたいの。
だから、二人には楽しく会話とかしていて欲しいんだけどな・・・」

わかった? と目で同時に訴えられた。

「普通に賢一とお話をしてていいの?」
「あったりまえじゃん! 楽~にしててよ」

それだけ言うと、さちは作業に戻った。

カリカリと鉛筆をキャンバスに走らせる音が聞こえてくる。

「楽しく会話をしろと言われてもな・・・そんな急に話題が出てくるわけないだろ」
「賢一は知ってるかな?」
「んっ? なになに?」

まなが話題を持ってきてくれた。

 

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「日射病で死者が出るんだって」

メチャクチャ暗い話題だった!

「さちーっ! 具合大丈夫か!?」

さちのもとへと駆け寄る。

「大丈夫だって言ってんでしょ! 騒がしいと叩き出すわよ!」
「ごめんなさい」


「賢一はお姉ちゃんのことを大切にしてくれてるんだね」
「まな・・・おれをためしたのか?」
「話題を出しただけだよお」

恐ろしい子だ・・・。

「賢一は、お姉ちゃんとどこまでいってるの?」
「な、なんですって!?」
「エッチなことしたの?」
「どっ、どうしてそんなことを聞くんですか、この子はっ!?」
「まなが出ていって、そのあとどうなったのか気になったから

うーむ・・・。

「結婚はした?」
「してない」

 

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「ええーっ!?」

なんでそこで『ええーっ!?』なんだろ・・・。

「けど、子供はいる」
「おおーっ。 賢一やるじゃん」
「頑張ったからな」
「どう頑張ったの?」
「う・・・それは言えんが、とにかく子供はいるんだ」
「ほっほー。
・・・って言うのは嘘で、本当はいないんだよね?」

あっさりとバレてしまった。

「なっ、何で分かるんだ?」
「だって、結婚してないと子供生んじゃいけないんだよ」
「なるほどね・・・確かにそうだ」

そんなことはないのだが。

「嘘をついたら泥棒の始まりなんだよ」
「今のはわざとなんだ。 まながどれほど賢くなっていたかを確かめたくてだなあ・・・」
「それも嘘だよお」
「ぐはっ!?」
「一回嘘をついたら、後は泥沼なんだよ。 嘘を隠すためにまた嘘をついてくの」

うむむ・・・なかなかに賢いな。

「賢一は昔から感情が表に出るから分かりやすいよ」
「やっぱり露骨に出ちまうか・・・」
「だって、賢一は優しいもんね」

・・・そうなのか?

「お姉ちゃんも優しいよお。
だって、今日はまなのために絵を描いてくれるんだよ」
「額に入れて飾っておくんだぞ。 貴重な一枚だからな」
「うんうん。 お姉ちゃんが描いてくれた絵だからね」

世界一の画家という肩書きのもとで描かれた絵ではなく、お姉ちゃんの描いた絵。

さちが描いてくれる絵だからこそ、まなはその絵を大切にするのだ。

「お姉ちゃん、どこまでいったのかな? 早く見てみたいなー。
お姉ちゃんも楽しそうに絵を描いてるから安心だね」

さちの方を見てみる。

いつものようにマジモードに入っているようだが、自然と笑みがこぼれている。

「お姉ちゃん、頑張れー」

まなの声援に応えるかのように、周りの向日葵がやさしくなびいた。

さちは休むことなく、ひたすら絵を描いている。

全ては、まなのために。

 

・・・・・・。


・・・。

 

 

 


・・・。


・・・・・・。


まなと話し込んでいたら、すっかり夕暮れ時になってしまった。


「完成だよ!」


さちが声を上げた。

直後、まなはとてとてーっとさちのもとへ駆け寄った。

「見せて見せてー」

さちが椅子を引き、まなを引き寄せた。


「おおおーっ!」

「すげえ・・・」

一日で描き上げたとは思えないほどの出来だった。

向日葵畑をバックに、おれとまなが楽しそうに談笑している。

向日葵は太陽に輝いて黄色く光り、おれたちの顔は笑顔で輝いていた。

細かい表情は分からなくても、見ているだけで楽しそうな雰囲気だということは掴める。

その場に優しい空気が流れ込むような色彩が印象的で、向日葵がおれとまなを見守ってくれているかのような風景だ。

 

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「すごいすごいすごーいっ!」

まなは大はしゃぎだ。

「まなを可愛く描けたね。 あたしゃ満足だよ」
「おれは? おれはっ? かっこよく描けたかッ?」
「子供か? あんたは・・・」


「こんなにいい絵を、まながもらってもいいの?」
「あったりまえじゃん! まなへのプレゼントだもんね」
「わーいっ! プレゼントもらっちゃったあ!」


「なあさち。この絵を写しておれにもくれないか?」
「ヤダ。 この絵は、世界に一つだけしか存在しちゃ駄目なの。
しかも、所有者はまな限定。他人の手に渡ったら即消滅」
「すんごいお宝だな」
時価、数億円?」
「値段をつけるな」


「プレゼントッ! プレゼントッ!」


まなは、さちに描いてもらった絵を掲げてはしゃいでいた。


「もう帰るか」
「途中で額とか買ってあげようよ。 あったよね、そういうとこ」
「そうだな」
「まなっ! もう帰るよーっ!」


「わーいっ!」


まだ、絵と戯れていた。


「よほど嬉しいんだろうな」
「五年間も待たせちゃたからね・・・。
これで、まなの想い出が一つ作れたわけだね」
「想い出って・・・一生会えないみたいな発言だな」
「そんなんじゃないって。 想い出イコールもう会えない、なんて方程式はどこにも落ちてないよ」
「・・・そうだな」


荷物を片付け、まなに帰るように促した。

ふと、向日葵畑を振り返る。


「・・・・・・」


夕日に染まった向日葵も、どこか趣がある。

この土地の向日葵を脳裏に焼きつけ、この場を後にする。

三人分の影は、長くどこまでも続いていくように伸びていた。

 


・・・。


・・・・・・。

 

 

 

 

 

 




・・・・・・。

 

・・・。

 

あれからまなは一度帰国し、南方の国でしばらく秘書官の仕事を続けていた。

 

その間もさちは絵を描き続け、別の地域にて開かれた世界規模の絵画展で、これまた最優秀賞を受賞。

 

それを機に、まなはさちに会うことができ、再会を果たす。

 

再会と別れを幾度となく繰り返した数年後・・・。

 

まなは、帰ってきた。

 

たくさんの向日葵たちが出迎えてくれる田舎町へ。

 

自分の大好きな姉のもとへ。

 

 

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「お姉ちゃん!」


向日葵畑の中を駆けてきたまなは、そのままさちの胸元へと飛び込んできた。


「うおっとと。元気そうじゃん、まな! 久しぶりっ!」


まなは王室主席秘書官という重役ゆえ、簡単に役職を離れることは許されなかった。

けれど、全ては、さちの活躍のおかげだった。

全世界的に有名な画家となったさちは、各国のニュースに取り上げられ、まなを取り戻すために活動を続けていることを告白。

その声が反響を呼び、ついには南方の国まで行き届く。

事の真相を知った南方の王はさちに謁見を交わし、周囲の了承を得た上でまなの退職願を受理し、役職を離れることができたのだ。


「とうとう帰ってきたよ」
「お帰り、まなっ」
「ただいまーっ」


まなの元気のいい声が、向日葵畑に響き渡る。


「やっぱりここの雰囲気、サイコーだよおっ!
お姉ちゃんがいて、賢一がいて、向日葵が咲いてて・・・。
まなの家にはもってこいだよお!」
「うんうん。 よく帰ってきてくれたね」
「お姉ちゃんのおかげだよおっ」

 

さちにすりすりと体を寄せて、愛情表現をしている。

 

さちは、そんなまなの頭を軽く撫でた。

 

まなは確かにさちの元へと戻ってきた。

 

だからと言って、絵をやめるわけではない。

 

当たり前のことだが、さちはまだ絵を描き続けているのだ。

 

更に絵画の先人として各地に赴くことましばしばで、各国から年に数回は依頼が来ている。

 


・・・今回はまなとの再会で時期が重なってしまったので断ったが、事情を話すと快く承諾してくれた。

 

それくらい、さちの人望は友好的な印象として世に広まっていた。


「久しぶりに、向日葵畑に囲まれながら散歩したいなあ」
「だったらさ、またお姉ちゃんが描いてあげようか?」
「えっ? いいの?」
「描いてあげるよ。 最近まなの絵を描きたくて描きたくてしょうがなかったからさ」
「うわーい、やったーっ!」

子供のように飛び跳ねる。

 


「だからまなね、お姉ちゃんが大好きなんだよっ」
「あたしも大好きだよ、まなっ」

 

 

 

・・・


二人は共に、この田舎町で一生を過ごした。

 

時には外国に赴き、時には国内を渡り歩き、各地を転々とした絵画活動を続け、その活躍ぶりを称えられることになる。


これからも車輪の国は回り続ける。

 

その間、向日葵の少女からこぼれる笑顔は、決して絶えることはないだろう。

 

有り余る元気を持つ、さちがいる限り・・・。

 

今日も向日葵は、太陽に向かって力強く咲き誇っていた。

 

・・・

 

 

 

END