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AIR【26】

 


・・・


四人で山頂を後にした。

 

駆け抜けるというわけにはいかなかった。

俺の傷が、にわかに痛みだした。

泥に身を浸しているような、じくじくとした鈍痛が背を這いまわる。

母君の具合も思わしくない。

俺や裏葉が助けを申し出ても、決して手を借りようとしない。

神奈はなにも喋らなかった。

社殿でひとりだった時より、ずっと心細そうだった。

だが、この地を脱すれば、母君の警戒心も薄らぐだろう。

母子の語らいは、それからでも遅くはない。

俺はそう考えていた。


・・・・・・。


下るにつれて森は深くなり、枝を透して降る月光が衰えていった。

と、母君が木の根に足を取られた。

ふらふらとよろけ、その場に膝をつく。

 

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「ははうえっ」
「近づいてはなりませんっ」


ひとりで立ち上がり、また進もうとする。

唇をぐっと噛みしめ、神奈もその背中に続こうとする。

 

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「おそれながら、申しあげます」


裏葉がその場にひれ伏し、母君の歩みをさえぎった。


「神奈さまと、お手をつないでいただきたく存じます」


貴人に向けてとは思えないほどの、毅然とした声音。

だが、母君は顔色ひとつ変えなかった。

 

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「できないと申したはずです」
「よんどころない事情がおありなのは、承知いたしております。 しかしながら・・・」
「そなたには子がいますか?」
「いえ・・・」
「それなら、わらわの心持ちはわかりますまい」


話は終わりだというように、片袖で顔を覆い隠す。

だが、裏葉は引き下がらない。


「わたくしには、母御の気持ちはわかりません。
しかしながら、神奈さまのお気持ちはよくわかります。
旅の間じゅう、神奈さまはずっと・・・」


「静かに」


めずらしく我を忘れている裏葉を、俺はさえぎった。

なにかが頭上を横切っていく気配がしたからだ。


ひゅるるるるるるる・・・


鋭い笛の音が、夜空に響き渡った。


「・・・鳥か?」


夜空に首をめぐらし、神奈が訊いた。


「ちがう、鏑矢(かぶらや)だ」


ひゅるるるるるるるるる・・・


  ひゅるるるるるるるるるるるる・・・


一の矢に呼応するように、次々と放たれる。

昔、嫌というほど聞かされた音色。

これは、合戦の徴(しるし)だ。



うおおおおおおおおお・・・



地響きのようなうねりが、夜気をびりびりと揺り動かした。

それは、何千という軍勢があげる鬨(とき)の声だった。


「・・・高野に攻め入ろうとしているのか?」
「結界が破れたのなら、おそらく」


立ち上がった裏葉が、いつもの声音で言った。

ごくりと喉が鳴った。

俺の思惑を越えたところで、巨大な何かがうごめくのを感じた。


「急ごう」


踏み出そうとした時。

母君が袖を持ちあげ、反対側の林間を指さした。


「こちらです」


俺が訊き返すのも待たずに、すいと歩き出す。

俺たちもあとに続いた。


・・・・・・。


・・・。

 

母君が選んだ道は、下草が深くひどく歩きづらかった。

心なしか、さっきより足が早まっている。


・・・そうじゃない、俺が遅れているんだ。


「柳也さま、顔色がすぐれないようですが・・・」


裏葉が耳打ちしてきたが、答える余裕もない。

一歩ごとに、身体がみしみしと軋(きし)む。

気がつくと、太刀の鞘に左手を添えていた。


・・・・・・。

 

 

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まったく出し抜けに、目の前がひらけた。

森の中のそこだけが、ちょっとした空き地になっていた。

行く手の斜面に沿って、大小の石が積まれていた。

かなり古い石垣だった。

月は煌々(こうこう)と照り輝いている。

舞台の上に引き出されたかのようだった。

身を隠せるようなものはなにもない。


びんっ。


森のどこかで、楽器めいた弦の音が鳴った。

 

ぎりぎりぎりぎり・・・


次いで、弓を引き絞る音。


冷たい汗が、一瞬で背中に噴き出す。


「散れっ! 身を低くしろっ・・・」


叫びさま抜刀し、三人の前に出る。

神奈を無理矢理引き倒すようにしながら、裏葉がその場に伏せた。

 

ひゅん、ひゅん・・・

  ひゅん、ひゅんっ・・・

 

無数の矢が降り注いだ。

至近に飛んできた一本を払い落とすので、精一杯だった。

 

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「あぐっ・・・」


くぐもった悲鳴を聞いた。

母君の胸元に、二本の矢が深々と突き刺さっていた。


「・・・殺(と)ったりっ!」

「なにをっ、先の矢は我ぞ!」


高らかな声が、自らの手柄を奪い合う。


その刹那。


音がなくなった。


虫の声一片、葉擦れの音すらない。


透明な膜をへだてた、その向こう。


風が、たけり狂っていた。


伏せていた雑兵たちが、木の葉と共に空中に吹きあげられる。


ある者は切り刻まれ、ある者は叩きつけられ・・・。


はぎ取られた武具と肉片と血が、ぐるぐると渦巻いている。


中心には母君がいた。


怒りを力と変え、荒れ狂わせるかのように。


「・・・見るなっ」


目を見張っていた神奈を、裏葉が必死に袖で被った。


これが恐怖の正体なのか。


心のどこかで、『逃げろ』と警鐘を鳴らし続けている。


生き残るために研いてきた勘が、絶え間なく叫んでいる。



――『これは人ではない』と。



・・・・・・。

 

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やがて、音が戻った。

血の匂いが漂っていた。

十数人はいただろう射手の半分が、即死していた。

残った兵たちも、既に戦意を失っていた。


「ひっ・・・」

「ばっ、化け物だあ・・・」


弓や箙(えびら)を放り出し、森の奥に逃げ失せた。


母君は、ただ静かに立ちつくしていた。

衣の袖を夜風に遊ばせ、遠い満月を見つめていた。

やがてその身が揺らぎ、ゆっくりと土に倒れた。

 

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「・・・ははうえっ!」


「抜くなっ」


矢に手を伸ばそうとした神奈を、俺は制止した。


「なにを申すかっ」
「血が・・・吹き出るだけだ」


一本は右の肩に。

もう一本は心臓に。

何の鳥のものとも知れない、雑羽(ざっぱ)の矢羽根。

戦場ではこれが幾千本も飛び交い、名もない雑兵たちが虫けらのように死んでいく。


「くそおっ。 こんな、こんな粗末な矢で・・・」
「そなたが・・・悔いることは、ありません。
もとよりわらわは、この山で朽ちる運命め、だったのです・・・」


その時、俺は悟った。

母君は自ら矢に身体をさらしたのだ、と。

そうなることを、最初から望んでいたかのように。


「ははうえ・・・」
「触れては・・・なりません。 ごふっ、ごふっ・・・」


にごった咳と共に、唇から血がしたたる。


「・・・いやだっ!」


突然、神奈が叫んだ。


「いやだいやだいやだっ!」


駄々っ子のように、激しく首を振る。

そして神奈は、母君の肩をしっかりと抱き起こした。


「ははうえっ、ははうえ!・・・」


頬と頬が触れ合う。


「ああ・・・」


血の気のない唇から、温かな息が漏れた。

それは、哀切とも歓喜とも取れた。


「・・・ひさしく忘れていました。
人肌がこのように温(ぬく)いとは・・・」


左手が弱々しく動き、娘の頬に触れた。


「これが、因果であるのなら・・・」


痩せこけた指が、神奈の髪をぎこちなく撫でる。


「神奈・・・よくお聞きなさい。
わらわと共に朽ちるはずだった、いにしえの詞(のりと)。
今こそ、あなたに授けましょう・・・」


母君の体が風をまとう。


瞳と瞳が向き合い、詠唱がはじまった。


「・・・ちから・・・かぜ・・・われらのそ・・・いまこそ・・・・・・。
・・・ものが・・・うけつぐ・・・ほし・・・」


独特の韻を踏み、高く低く流れる。


「とえ・・・ゆうきゅうの・・・なに・・・ふさわしき・・・。
・・・もの・・・よ・・・はねに・・・たましいに・・・すべを・・・」


だんだんと早くなり、やがて意味は聞き取れなくなった。

失われた言語を幾重にも束ね、淡い光に託して渡す。

森羅万象、すべてを伝えきるかのように。

やがて、母君の詞は終わった。


「母を、ゆるしてくださいね。
これこそが、わらわたちの務めなのです・・・」


神奈はなにも答えなかった。

月光の中でまたたいた瞳が、途方に暮れているように見えた。


「さあ、神奈。 今度は・・・あなたの番ですよ。
あなたは、どのように、旅をして来たのですか?」


ただ穏やかで、澄みきった笑顔。

脈打つ心臓をえぐる鏃(やじり)を、気にもとめていないかのように。


「話して・・・よいのか?」


おそるおそる訪ねた神奈に、にっこりと頷く。


俺にはわかった。


今の母君は、消えかかる灯火だ。


我が子のために、全てを燃やしつくそうとしている・・・。


神奈は喋りはじめた。


最初はおずおずと、そして少しずつ滑らかに。


社殿での暮らし。

出発の夜。

夏山の旅路。

衣替えの騒動。

そして、市場のにぎわい・・・。

母君にもう、言葉は少ない。

短く相づちを打ち、時に微笑むのが精一杯だった。


「・・・あのように不細工な鳥は見たこともなかったぞ。
尾羽のひとつも抜いて、母上にも見せようと思うたのだが・・・」
「鶏(かけ)をいじめては・・・なりませんよ」
「母上がそう申すのなら、二度とせぬ」


やさしい声でさとされ、神妙に頷く。


「それでな、裏葉どのが胡桃を見つけてくれたのだ」


一生懸命に言葉を選び、母君の耳に吹き入れるように喋る。


「胡桃だけではないぞ。 余がほしいと申した物は、必ず手に入れてくる。
裏葉どのほど、よく気を働かす者はおらぬぞ。
時折怒りもするが、それも余を案じてのこと。
裏葉どののおかげで、社でもそう淋しくはなかったぞ」
「それは、ごほっ・・・よかったですね」


血で咽せかえりそうになるのを、どうにかおさえている。


「・・・母上、具合がよくないのか?」
「いえ。 先をお続けなさい」
「そうか、胡桃の話であったな。
殻が割れぬので困っておるとな、柳也どのが太刀で斬ってくれたのだ」
「・・・まあ、太刀で?」
「それもな、胡桃を宙に放り投げ、真っぷたつにしたのだぞ」


大袈裟な身振りをまじえて言う。

見られていたのか。

あの夕闇の森。

ちろちろと光る神奈の響無鈴・・・。


「それほどの達人なのに、柳也どのは決して人を殺めぬのだ。
柳也どのこそ、まことの士(もののふ)、まことの忠臣だぞ・・・」


声を弾ませ、神奈は語り続ける。

そのかたわらでは、裏葉が身じろぎもせずに母子の対話を見つめている。


そうだ。


俺たちは旅を続けてきた。


この日、この時のために。


ただ。


旅路の果てに手にしたものは、あまりにもちっぽけな刻(とき)だった。

 

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「・・・神奈さま、よろしいですか?」
「うむ、なんだ?」
「お母君にお見せしたいものがあるのではございませんか?」
「申すでないっ。 それはとっておきなのだ」
「お母君はお疲れのご様子。 そろそろご披露された方が・・・」


普段と少しも変わらない、落ち着きはらった声音。

裏葉の意図を汲み、母君も微笑みながら言った。


「わらわも、今すぐ見たいものです」
「うむ。 母上がそう申すのなら・・・」


神奈は言いながら、着物のふところからなにかを取り出した。


「母上はこのようなものを見たことがあるか?」
「いしなどりの玉・・・ですね」
「なんと、母上も知っておられたか」
「わらわは、上手にはできませんでしたが・・・」
「そうかっ! なら喜ぶがよいぞ。
決めておったのだ、母上に逢えたおりには、ぜひにもこれを披露しようと」


神奈は言うと、母君の背にそっと手を回し、石垣にもたれかけさせた。

それから母君に見えやすいようにと、森を背にして座りなおした。

かたむいて射す月光が、神奈を明るく照らしている。

最初のお手玉が、宙を舞った。

 

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ひとつ。


ふたつ。


だが三つ目は神奈の手を逸れ、ぽとりと地面に落ちた。


「まことにできるのだぞっ」


お手玉を拾いあげ、もう一度構えなおす。

俺は思い出していた。

神奈がはじめてお手玉に触った日のことを。


「母上、次こそ上手に放るぞ。 それっ・・・」

 


――『・・・余にもできるか?』

――『そりゃ、やってみなきゃわからないだろ』

――『すこしばかり習えば、必ずお上手になりますとも』

――『では、今すぐ余に教えるがよい』

 


また、お手玉が指を逸れる。


「今度こそっ」


すぐに拾いあげ、宙に還そうとする・・・。



――『ひとりではつまらぬ』

――『おもちゃならそこにいくらでもあるだろ』

――『飽きたぞ』

――『お手玉だけは飽きないみたいだな・・・』

 


「あぅ・・・」


二つの玉が空中でぶつかり、神奈の頭に降ってきた。

母君は、にこにこと眺めていた。

愛らしく育った我が子を、まぶしそうに目を細めて。


「次こそ、次こそ上手くゆくぞ。 えいっ・・・」

 


――『・・・もっと、上手になりたいぞ』

――『毎日続ければ、きっと達人になれるさ』

――『・・・余のお手玉、また見てくれるか?』

――『ああ、俺でよければいつでも見てやるよ・・・』

 

 

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「あっ・・・」


何度やっても、お手玉はうまく飛ぼうとしなかった。


「なぜ舞わぬっ! 母上の面前だぞ、なぜ舞わぬかっ!」


拾い集めたお手玉たちに口を寄せ、必死で言い聞かせる。


「ずっと修練したのだぞ。
この日のために、ずっと鍛えておったのだぞ。
なのに・・・なぜ舞わんのだっ」


それでも歯を食いしばり、ひたすらにお手玉を続ける。


「えいっ・・・」


構えも呼吸も、気にする余裕はない。

取り憑かれたように、同じ動作と失敗繰り返す。

神奈ももう、感づいているはずだ。

母君と共に過ごす時が、あとわずかで終わることに。

裏葉がぶるぶると身を震わせている。

助け寄りたくなる自分を、必死で抑えている。

俺たちには、なにもしてやれない。

神奈がひとりで、やりとげるしかない。

神奈はぎこちなくお手玉を放る。

あんなに震える指で、上手にできるはずがない。

あんなに潤んだ瞳で、手元が見えるはずがない。

だから俺は、お手玉に願うしかなかった。


頼む。


頼むから。


一度だけだっていいから。


神奈のために、舞ってやってくれと。


幾度めの挑戦か、わからなくなった頃。


母君の唇が動いた。

 

「上手ですね・・・。

本当に・・・よく・・・頑張りました・・・」


うすれゆく言葉と共に、力なく目蓋が降りる・・・。


「はは・・・うえ?」


娘の呼びかけに、もう一度瞳が開いた。


「お続けなさい」


苦しげな息を整え、本当に、本当に幸せそうにささやく。


「わらわはずっと見ていますよ・・・」
「わかった」


安心したように頷いて、またお手玉に戻る。

そんな神奈の姿を、母君は夢見るように眺めている。

もう痛みさえ、感じていないのかもしれない。

指先だけをそっと動かし、俺と裏葉を側に寄せた。


「裏葉どの。

どうか・・・この母を、薄情だと・・・思わないで、くださいましね」
「はいっ・・・」


ただ一心に、裏葉は頭を下げた。


「柳也どの。

弔(とむら)いは・・・無用です。
我が身には決して触れず、ここに、捨て置きなさい・・・」


俺は、答えることができなかった。

これほどのお方が、こんな野辺で朽ち果てていいはずがなかった。

翼を持つ一族の、誇り高き末裔(まつえい)。

その最期を、俺は看取ろうとしていた。

 

「これでもう、思い残すことは・・・ありません」


月明かりの元で、頬が白く透き通っていくのがわかる。


「ただ・・・分かち合いたかった。
この子と・・・翼を、重ね・・・夏空を・・・心の、まま・・・に・・・」


・・・・・・。


瞳が閉じられた。

母君の旅路は、終わった。


お手玉が三つ、とさっと地面に落ちた。

 

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「・・・?
はは・・・うえ?」


見開かれた瞳が、驚愕に変わる。

それでも神奈は、お手玉に手を伸ばす・・・。

それ以上見ていられず、俺は神奈に駆け寄った。


「神奈、もういい。 もういいんだ・・・」
「離せっ、離さんか!」


俺の手を振りほどき、ただお手玉を拾おうとする。


「母上は嘘を申さぬっ!
母上は、余が上手だと申したのだぞ。
余ができなければ、母上が嘘つきになるであろうが。
できねばならんのだっ。
母上が、母上が見ておるのだぞ!
ずっとずっと、見ておるのだぞ・・・」


お手玉をしている間は、母上が見ていてくれる。

お手玉が上手にできれば、もう一度目を開けてくれる・・・。


「神奈さまっ!」


・・・ぴしゃん!


裏葉の平手、神奈の頬を打った。


それで、神奈は正気に戻った。

神奈の瞳を正面から見据え、俺ははっきりと伝えた。


「母君は、お隠れになった」
「隠れてなどおらぬっ」
「ここには・・・もういないんだ」


神奈が母君の顔を覗き込む。

血の気のなくなった頬に、淡い月光がしんしんと積もっていく。

それはもう、土や草と同じ色を宿しはじめていた。

そして、神奈は悟った。

母上がどこに行ってしまったかを。


・・・・・・。


「もう、目を開けぬのか?
もう、笑うてはくれぬのか?
余が命じても、母上はもう起きぬのか?」
「その命は、だれにも果たせない」
「余が願うてもか?
余が願うても、かなわぬのか?」


こう答えるしかなかった。


「届かない願いも、あるんだ・・・」


・・・・・・。

 


月光が、森に満ちている。

神奈が母君の亡骸(なきがら)と、最後の別れをしている。

刺さったままの矢を引き抜く。

着物の袖で、血のついた口元をぬぐう。

そして神奈は、三つのお手玉を母君の胸元に置いた。

手向け(たむけ)がそれだけでいいことは、清らかな死に顔が物語っていた。

そして神奈は腰を上げ、俺に向きなおった。

 

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「柳也どの」


声音を整え、俺に言う。

母君が神奈に伝えたかったもの。

やさしさと強さと、翼を持つ者の誇り・・・。


「守護の労、まことに大儀であった。
つかの間であったが、余は・・・。
余は・・・・・・」


言葉はもう、用をなさなかった。

 

「りゅうや・・・どのぉ・・・。
ぐっ・・・うぁ・・・はは・・・うえっ・・・あっ・・・。
ぐすっ・・・う・・・あぐ・・・うぇ・・・」


神奈が泣いていた。

俺に取りすがり、泣きじゃくっていた。

狩衣の胸元に、温かい涙が染みこむのを感じていた。

 

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「神奈・・・」


右手で、神奈の頭に触れる。

絹のようにしなやかな黒髪を、そっと撫でつける。

そのまま抱きとめた。

きゃしゃな身体をわななかせて、神奈はただ泣き続ける。

俺の衣をつかんだ指に、ぎゅっと力がこもる。

背中に翼のある少女。

どこにでもいる、あたりまえの娘のように。

 

ざわりと、風が動いた。

山を揺るがすように、また鬨の声があがった。



うおおおおおお・・・



野太い木霊が幾重に重なる。

死地の気配に、背中の傷がじりじりと疼(うず)く。

己の不甲斐なさを鞭打つように。

神奈を抱きしめたまま、俺はつぶやいた。


「・・・まだ、終わってないぞ」


そうだ、まだ終わっていない。

ここから神奈を救い出すまでは。

この少女を、あたりまえの幸せに導くまでは。


・・・・・・。


・・・。

 



どこをどう逃げたのか、まったく覚えていない。

篝火(かがりび)と具足の鳴る音に、何度も行く手を阻まれた。


「・・・こっちだ!」


そのたびに方向を変え、山中を闇雲に逃げまどった。

裏葉の表情が硬い。

気配に敏感な裏葉は、俺以上に感じ取っているかもしれない。

既に逃げ場など、どこにもないことを。

だれからともなく、その場に座りこんだ。

もう一歩も逃げられそうになかった。

 

・・・・・・。



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「柳也さま、こちらを」


差し出された竹筒を、俺は断った。


「俺はいいから、神奈にやってくれ・・・」


三人の中でいちばん息があがっているのは、俺だった。

背中の傷口が開きかかっている。

守護役のはずが足手まといになっているのは、耐え難かった。

 

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「余の命であるぞ、飲め」


ぶっきらぼうな声音で、俺に竹筒を突き出してきた。

受け取って振ると、力なくたぷんと鳴った。


「水はこれだけか?」
「はい」
「わかった。 三人で飲もう」


ほんの少しの水を、いつくしむように回し飲む。

気がつくと、三人でぴったりと肩を寄せていた。

その場所は木々が開けていて、見晴らしがよかった。

向こうの山腹に、金剛峰寺の伽藍(がらん)群があった。

月光を浴び、浄土のように煙っていた。


「このように、三人で身を寄せあっておりますと、まるで・・・」
「・・・仲のいい家族みたいだな」


言ったとたんに、裏葉が俺のことを見返してきた。


「・・・なんだよ、その顔は?
『息苦しいほど身を寄せ合うのがまことの家族』って言ったのはおまえだろ?」
「まことに、そうでございますね・・・」


呑気に話をしながらも、俺は周囲に気を配っていた。


今はしんと落ちついた夜気に、松脂と煙の匂いが混じっている。

ここに軍勢がなだれ込むまで、そう時間はなかった。


その時だった。


まったく出し抜けに、神奈が訊いてきた。


「ふたりとも、願いはあるか?」
「願い、か? そうだなあ・・・」


考える振りをしながら、俺の願いは決まっていた。

俺の命に代えても、この周囲を脱すること。

せめて神奈だけでも、生かして逃がすこと・・・。


「わたくしにはございます。
神奈さまと柳也さまと、いつまでも暮らしとうございます」


・・・あいかわらず能天気だな。

そう言うかわりに、別の言葉が口をついていた。


「それもいいかもしれないな」
「どこか静かな土地に、小さな庵(いおり)をかまえましょう」
「食い扶持ぐらいなら、俺がどうにかできるしな。
畑を耕すか、狩りをするか・・・」
「海の近くなら、漁(すなどり)をすることもできましょうね」
「海、か・・・。
どうせなら、西の方の温かい海がいいな」
「それはたいそう居心地よく暮らせましょうねえ・・・」


既に庵の前にいるかのように、うっとりと裏葉が言う。

と、神奈が身を乗り出すように訊いてきた。


「海とは、どのようなものだ?」
「なんだ、知らないのか?」
「途方もなく大きな水たまりと聞いておるが、この目で見たことはないぞ」
「水たまりは水たまりでも、全部塩水だぞ」
「・・・また余をたばかっておるであろ」

 

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「まことでございます」


「それにな、海は空と同じぐらい広い」


「なんと・・・」


「鯛も鮑も食べ放題でございます」

「まことかっ」


「・・・獲る役の奴に訊かれても困るぞ」


「囲炉裏(いろり)を囲んで、塩焼きにしていただきましょう」


「それで冬は軒先の雪を食べるのだな」


「・・・食べてもいいが、腹をこわすなよ」


・・・。


一瞬の間さえも惜しみながら、幸せな会話が続く。

その隙をうかがうように、四方から足音が近づいてくるのを感じていた。

朝廷の軍勢か、高野の僧兵か、それとも吾妻侍か。


裏葉に目で合図を送る。

俺が倒されても、今度こそ絶対に振り返るな。

神奈を連れて逃げられる所まで逃げろ。

決意のかわりに、裏葉は他愛のない夢を返す。


「海辺の村にも夏祭はありましょうね」
「ああ。 どこにだってあるさ」
「今度は三人で踊りましょう」
「そうだな。 見てるだけなんてつまらないからな・・・」


太刀にそっと手をかける。

裏葉も右手でふところの小刀を探る。

俺たちの恐れを、神奈に気取られてはいけない。


だから俺は、心に描いていた。

たぶんそれは、煌々(こうこう)と月が照り映える夏の晩だ。

 

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たくさんの人々と、にぎやかな祭囃子。

天に昇っていく、炎と笑い声。

神奈が一所懸命に踊る。

その姿があまりにぎこちなくて、見かねた裏葉が手ほどきをはじめる。

俺はただ笑いながら、楽の音に身をゆだねる・・・。


・・・・・・。

 

「これは、夢であるな」


神奈の声に、俺は我にかえった。

俺たちから身体を離し、神奈はすっくと立ちあがった。


「余の夢だ・・・」


大きく広げた両袖で、そっと宙を掻き抱く。

この場でかわしたすべての言葉を、自分の中に閉じ込めるかのように。


「夢はつらい夢ばかりではない。 楽しかったぞ」
「神奈?」


様子がおかしい。


「決してここから動くでない」
「・・・動くなって、おい?」


俺が立ちあがると同時に、神奈がするりと近寄ってきた。

 

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「柳也どのと一緒におると、羽を忘れられた」


衣を脱ぎ捨て、地面に落とす。

裸身が微風をまとう。

唇と唇が触れた。

神奈の温かさが、震えと共に伝わってきた。


「・・・これでよかったのか?」


側にひかえた裏葉を見て、自信なさげに訊く。

 

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「いささか不作法ですが・・・」


言いながら、こくりと頷いた。


――『神奈さまと柳也さまと、いつまでも暮らしとうございます』


そう答えた時にはもう、裏葉は気づいていたはずだ。

これから神奈が、どこに行こうとしているかを。

 

・・・。


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「余の最後の命である。

末永く、幸せに、暮らすのだぞ・・・」


光と共に、翼が広がった。

 

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神奈を中心に、風が渦を巻いた。


天の御使い。


その名にふさわしい輝き。


人知を越えた者として君臨するかのような、あでやかな翼。


次第に強くなる風に、目を開けているのさえ辛い。


舞い、荒れ狂い、周囲を圧する。


木々も大地も、耐えきれずに悲鳴をあげている。


雑兵たちが容赦なく中空に巻きあげられる。


風は壁となり、俺と裏葉をすっぽりと囲んでいた。


「神奈っ!」


叫んでも、自分の声すら聞こえない。


俺は呆然と見ているしかなかった。


地上を離れ、ふわりと舞いあがる神奈の姿を。


・・・・・・。

 


山を揺るがすすさまじい突風に、軍勢が逃げまどう。

その上を、神奈は低くゆっくりと飛ぶ。

愚かな人間たちに、翼の威光を見せつけるかのように。

そして、俺は気づいた。

神奈は俺と同じことをしているのだ。

自分の身を囮(おとり)にして、俺たちを逃がすつもりなのだ。


「・・・くそっ」


駆け出そうとした俺の前に、裏葉が立ちはだかった。


「柳也さま、追ってはなりません」
「なっ・・・」
「神奈さまは、心から願っておいでです。
柳也さまに生きながらえてほしいと」


突きつけられたその言葉に、ただうろたえる自分がいた。


「俺は・・・俺は神奈の随身だぞっ」


裏葉は俺から視線を外そうとしなかった。


「もはや違います。
神奈さまにとって、柳也さまは・・・」


そして裏葉は、瞳を空に向けた。

 

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中天には満月があった。

神奈の銀翼が、月の光を浴びて宝玉のように輝く。

ゆるゆると、神奈は昇っていく。

向かいの山陵から、呪詛のうねりが響いてきた。

何百人もの僧侶が声を合わせ、調伏の呪文をとなえている。

解き放たれてしまった悪鬼を、ふたたび封じ込めるために。

風が衰え、翼の輝きが苦しげにまたたく。

巣立ったばかりの小鳥のように、それでも神奈は飛び続ける。

地に這いつくばっていた兵たちが、弓矢を手に体勢を整える。


「・・・今だ、射かけよ!」

「・・・おのれ妖物めっ」


地上から空へ向けて、夕立のように次々と矢が放たれる。

光と共に羽が散り、神奈の身体がぐらりと傾いた。


「・・・やった!」

「・・・きゃつは手負いぞ。 早う射て、射てっ」

 

「神奈っ!」



我を忘れ、俺は叫んでいた。


「もっと高く飛べっ! もっと高くっ!」


神奈は昇っていく。


かなわぬ願いを、天に届けるために。

追いすがる鎖のように、呪詛の声も高まっていく。


そして・・・



――光がはじけた。


 

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羽が飛び散った。

それきり、神奈は動かなくなった。

何もない虚空で、凍りついたように。

翼の光が衰えていく。


・・・・・・。


やがて、なにも見えなくなった。


・・・・・・。

 

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高野が燃えていた。

立ち並ぶ伽藍も尖塔も、ごうごうと炎を吹き上げていた。

攻め入った軍勢が火を放ったのだろう。

それでも呪詛は止まなかった。

自らの死を賭してさえ、僧たちは御修法(みしほ)を続けている。

翼人の厄災から、人の世を守るために。

俺の叫びはもう、言葉にならなかった。

なにが間違っていてなにが正しいのか、俺にはわかるはずがなかった。

 

護るべき少女を失った。

 

俺にとって、それがすべてだった。


・・・・・・。


・・・。

 

 

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山中に立ち尽くしているうちに、朝が訪れた。

木漏れ日の向こう、あたりまえのように夏空が広がっていた。


・・・・・・。


・・・。

 

 

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母君が望んだ空。

神奈を奪いさった空。

その青さに耐えられず、俺は地面に両膝をついた。

蝉が高く鳴きはじめた。

耳の奥には、まだ言葉が残っている。


――『柳也どのこそ、まことの士(もののふ)』

――『まことの忠臣だぞ・・・』


拳を土に叩きつけた。


「俺のどこが忠臣だよ・・・」


昨夜のうちに、金剛峰寺は陥落したらしい。

廃材の焦げる匂いに乗って、どこからか刀で切り結ぶ音が聞こえてくる。

残兵同士の小競り合いは今も続いているようだった。


・・・・・・。


俺は立ち上がり、太刀を鞘から抜いた。

敵中に斬りこみ、神奈の臣下として果てる。

神奈をあんな目に遭わせた奴らを、できるだけ多く道連れにする。

理由など何でもいい。

ただ、俺を滅ぼしてくれる者を探していた。

 

・・・。



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「・・・柳也さま」


ずっと無言だった裏葉が、不意に俺を呼んだ。

なにもかもを見透かした声音が、今はたまらなく重荷だった。


「おまえとはここで別れる。
俺や神奈のことは忘れろ・・・。 達者で暮らせ」


裏葉はなにも答えなかった。

衣の袖を鳥のように広げ、俺の行く手をふさいだ。


「邪魔立てするなら、斬る」


だが、裏葉は一歩も退こうとしなかった。


「お斬りくださいませ」


俺は太刀の切っ先を返し、裏葉の喉元に突きつけた。

社殿でやった脅しとは違う。

どかないのなら、本当に突き殺す。

だが、裏葉は考えてもいなかった手段に出た。

 

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突きつけられた刃を、裏葉は両手でおおった。

研ぎすました刀身を、布でも絞るように握りこむ。

俺が少しでも身動きすれば、裏葉の指は落ちる。


「どうぞお斬りくださいませ」
「脅しではないぞ」
「わたくしも脅しではございません。
悪鬼と変じた柳也さまを見て、なぜ神奈さまがお喜びになりましょうか」
「神奈はもういない」
「柳也さまはここにおられます。
神奈さまの願いどおり、柳也さまはたしかに生きておられます」


たしかに俺は生きている。

神奈を失った今となっては、その事実は身を裂くような後悔しか残さなかった。

頼むから、わかってくれ。


俺はこれ以上、生き恥を晒したくないんだ・・・。


そんな俺に、裏葉は微笑んだ。


「まだ終わっておりません」


蝉の声と葉擦れの向こうに、裏葉は一心に耳を澄ます。


「神奈さまのお声が聞こえます。
神奈さまはお泣きになっています。
かすかにですが、わたくしには聞こえます」
「裏葉、おまえ・・・」


正気を失ったのではと思った。


・・・。

 

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瞳を覗くと、たしかに光が宿っていた。

あの夜に散った最後の羽の輝きが、裏葉の中にあった。

俺の怒りは退いていた。


「・・・あきらめが悪いんだな」
「あらあら、柳也さま。
元より女とは、あきらめが悪いものでございます」
「それはそれとしてだ。 手を離してくれないと、太刀がおさめられない」
「いやでございます」


刀身をきゅっと握ったまま、涼しい顔で言う。


「お誓いくださいませ。

そのお生命、決して無駄には散らさぬと。
お生命の最後の最後まで、神奈さまのためにつくす、と」


これでは、どちらが脅されているのかわからない。

そして今度も、負けたのは俺だった。


「・・・わかった。

俺の生命、おまえに預ける」


・・・。

 

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刀を鞘に収めたとたんに、裏葉の瞳から涙があふれだした。


「ありがとう・・・ございますっ・・・」


笑いながら、ぽろぽろとこぼれる涙。

気丈な裏葉が俺にはじめて見せた、とめられない感情。


「なぜ、泣くんだよ?」
「嬉しいからで・・・ございます。
この裏葉も・・・神奈さまと同じでございます。
柳也さまなしでは、この先生きてなど・・・ゆけません」
「大げさだな」
「大げさで、ございますとも・・・」
「裏葉」
「はいっ・・・」
「行こう」
「はい。 お供いたします」


・・・・・・。


・・・。

 



そして・・・。


俺たちは高野を離れた。

俺の受けた刀傷は一向に治らず、裏葉の肩を借りての逃避行だった。

あの夜の出来事を、人々は声をひそめて語りあっていた。


『翼のある悪鬼が高野に降りたち、雷(いかづち)で伽藍を焼きはらった』


『朝廷の軍勢が悪鬼を退治しようとしたが、まったく歯が立たなかった』


『名のある陰陽師が方術を用い、悪鬼を空に追い返した』

 


『翼のある悪鬼』がどこに消えてしまったのか、知る者はいなかった。

 

・・・・・・。


・・・。

 

 

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半年が過ぎた。

 

俺たちは都にいた。

行商人の夫婦と身分をいつわり、あの夜になにが起こっていたのかを探った。

噂を集めるのはもっぱら裏葉の役目だった。

そして俺たちは、はじめて裏の事情を聞いた。

発端は、朝廷の勢力争いだったらしい。

宮廷陰陽師の一派と藤家が手を結び、権力を意のままにしようと謀った。

そのためには、花山法皇の信奉する翼人の存在が邪魔だった。

だが、汚れ役に雇った東国の傭兵団が、翼人の力ほしさに裏切った・・・。




俺にはもう、どうでもいいことだった。

神奈の行方は知れず、徒労だけがつのっていった。

ときおり裏葉が聞くという神奈の『声』

それだけが、俺の生きる糧だった。


・・・・・・。


・・・。



そして、一年が過ぎた。


都に流れたささいな噂が、俺たちをふたたび旅に駆り立てた。

西国のどこかに、高野山や朝廷陰陽師に匹敵する方術師の一団がある。

方術で翼人を封じることができるのなら、解くことも可能ではないか?

俺たちは都を離れ、西に向かった。

俺は身体の自由がきかず、杖をつくようになっていた。

不自由な身体での道行きは、裏葉にばかり負担をかけた。

しかし、裏葉は弱音ひとつ吐かなかった。


・・・・・・。

 

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海沿いのけわしい道を進んでいる時だった。

俺たちは、雲水らしいひとりの僧に呼びとめられた。


神奈備命のご随身、柳也どのとお見受けしますが」


柳也と呼ばれるのも、神奈の名を聞くのも、本当に久しぶりだった。


「そちらの名は?」


警戒を解かずに問うと、僧は声をひそめて言った。


「さる方がお待ちでございます」
「さる方とは?」


僧はなにも答えず、ただ付いてくるようにとうながした。


・・・・・・。


・・・。



案内されたのは、深い山中にある朽ちた山寺だった。

ぼろぼろの山門をくぐる時、裏葉がしきりに辺りを気にしているのがわかった。


「・・・結界がございますね」
「やはり、おわかりになりますか。
こちらは隠し寺でありますれば、招かれざる客には参道そのものが見えません」


旅装のまま、本堂に通された。

何もない広間の中央に、小柄な老人が石仏のように座っていた。

その人物がこの山寺の主であることは、闇のように黒い墨染の法衣が物語っていた。


「お連れいたしました」
「稜栄(りょうえい)どの、ご苦労であった」


一礼し、道案内の僧は本堂を出ていった。

そして老僧は、ゆっくりと俺たちに向き直った。


俺は息を飲んだ。


何かでえぐられたかのように、老僧の双眸(そうぼう)にはまったく眼光がなかった。


「拙僧は知徳(ちとく)と申します」


この広間そのものが話をしているような、不思議に通る声音だった。

請われるままに俺たちも名乗った。

知徳法師は裏葉に興味を持ったようだった。


「あなたが裏葉どのですか。
御身(おんみ)ひとつで高野の結界を看破するとは・・・」


「知って・・・おられるのですか?」

 


神奈備命の一件については、あらかた聞き及んでおります」
「・・・では、神奈さまは今どちらにっ?」


にじり寄った裏葉に、法師はゆっくりと首を振った。


「もはやこの世にはおりますまい・・・」

 

神奈がもうこの世にはいない。

あたりまえの事実を、まだ受け入れようとしない自分がいた。

裏葉もただ無言のまま、法師の話を聞いていた。


「・・・ところで、八百比丘尼(やおびくに)どのには会われましたか」


そう問われて、俺はやっと思い出した。

高野の僧たちが、神奈の母君のことをそう呼んでいた。

そこで俺は事情を語った。

山を降りる途中で矢を受け、俺たちが最期を看取ったと・・・。


「やはり、そうでしたか・・・。
あのお方を、高野の僧たちは不老不死と信じておりました。
高野秘伝の封術(ふうじゅつ)によって無理に生き長らえさせていたものを、不老不死とは・・・。
愚かなことです」


神奈の母君のことを、知徳法師はまるで知古であるように語った。


「あれほどの呪いを身に受け、比丘尼どのはさぞ無念でしたでしょうな・・・」
「呪い・・・でございますか?」
「本来、翼人とは無垢な魂を持つもの。
それがいつからか、戦の道具として人に囲われてきたのです。
不本意に為したこととはいえ、殺めた亡霊はすべて比丘尼どのに群がります。
人の身であればたやすく朽ちる呪いも、翼人にはただ蓄えられるばかりとなりましょう」


母君の言葉が思い出された。


――『この身はすでに穢(けが)れています』

――『我が身には決して触れず、ここに、捨て置きなさい・・・』

 

「・・・翼人とは、なんなのでしょう?」


知らず、そんな問いが口をついていた。


「たしかなところは、拙僧にもわかりませぬが・・・。
翼人は夢を継ぐと伝えられております。
それゆえに、無垢なものなのだと」


法師の答えは謎かけのようで、俺にはよくわからなかった。

無垢な魂を持つもの。

そして、夢を受け継ぐもの・・・。


「知徳さま、わたくしもお訊ねしとうございます」
「なんなりと」
「知徳さまはなにゆえ、翼人のことをお気にかけていらしたのでしょう?」


答えは返ってこない。

だが、俺と裏葉を呼び寄せた理由もそこにあるはずだ。

やがて、法師は音もなく立ちあがった。


「お見せしたいものがあります」


・・・・・・。


・・・。

 

本堂の裏手に、荒れた山道があった。

盲目の老人とは思えない身のこなしで、法師は急坂を登っていく。

裏葉の助けを借り、俺もあとに続いた。

樹齢の高い杉がすっくと立ち並び、とがった梢で天を突いている。

いつの間にか蝉の声が絶え、山鳥のさえずりに変わっていた。


「こちらです」


山道がなだらかになった先に、その場所はあった。

 

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「ここは・・・」


それは、巨大な岩をうがった洞穴だった。

苔むした石の中央に埋めこまれた、頑丈な樫材の扉。

それはもう長い間、開いたことがないように見えた。

 

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「ああ・・・」


裏葉は駆け寄ると、扉にそっとてのひらを当てた。


「神奈さまやお母君と、同じものを感じます・・・」


裏葉ほどはっきりとはわからなかったけれど、心のどこかで俺も感じていた。


ここは空に近い、と。


「かつてこの洞穴にも、翼ある者が暮らしていたと伝えられております。
もう数百年も昔のことですが」
「囚われていたのですか? ここに・・・」
「いいえ、翼人は決して悪鬼などではありません。
この洞穴の翼人は、空真理(くまり)とよばれる一族でした。
古(いにしえ)には、人に幾多の知恵を授けたといわれます。
そのひとつこそが、我らが方術の起源とされております」


そこで言葉を切り、知徳法師はふと空に顔を向けた。


「おそらく神奈備命は、今の世に残る最後の翼人でありました」


「な・・・」


伝えられた言葉の重みに、一瞬目が眩みそうになった。

空の高みで、なにかが音を立てた。

澄んだ青色を切りとるように、鳶(とび)が輪を描いていた。


「朝廷の手勢が高野に攻め入ったのは、八百比丘尼どのを屠(ほふ)るためだけではありますまい。
翼人という信仰(しんごう)そのものを葬る腹づもりだったのでしょう」
「しかし、なぜそんなことを・・・」
「神をひとつに束ねるため、でありましょうな」

 

「神を・・・ひとつに?」


聞きかけたまま、裏葉が絶句した。


「国を治める者にとっては、神に届く翼などあってはならぬもの。
これより先、あらゆる文書(もんじょ)には筆が加えられるでしょう。
空は海と、鳥は魚と、炎は水と書き換えられるでしょう・・・」


法師の言わんとしていることはわかった。

最後の翼人は既にこの世にはいない。

だからこそ朝廷は、翼人が伝説として残ることを恐れているのだ。

翼人に関わったすべての人、すべての事物は巧妙に隠されるだろう。

書物は焼かれ、また書き換えられ、俺たちはいなかったことになるだろう。

そしていつしか、この世から消えてなくなっていくのだ。

翼人という存在そのものが。

拳をにぎりしめている自分に気づいた。

煮えたぎる怒りをどこにぶつければいいのか、わからなかった。

だがその時、裏葉が言った。


「決してそのようにはなりません。
こうしていると、神奈さまのお声が聞こえます。
神奈さまは今も泣いておられます」
「なんと・・・」


法師の顔色が変わった。

見えるはずのない目が、裏葉を凝視する。


「あなたにも聞こえるというのか、あの声が・・・」


『あの声』という法師の言葉を聞いたとたん、裏葉がその場に正座した。


「知徳さま、お願いがございます」


地面にぴったりと顔をつける。


「どうかわたくしに方術をお授けくださいませ」
「御身に並ならぬ素養がおありなのはわかりますが、しかし・・・」

 

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「もしもわたくしになにがしかの力があるのでしたら。
わたくしはそれを、残らず神奈さまのために使いとうございます。
なにとぞ・・・なにとぞお願いもうしあげますっ」


身を振り絞るような懇願。

裏葉に一歩も退く気がないのは明らかだった。


長い沈黙のあと、知徳法師はつぶやいた。


「あなたなら、あるいは・・・。

わかりました、お教えしましょう」


・・・・・・。


・・・。

 


そして。


俺たちはこの寺で暮らすことになった。


あてがわれた僧坊を断り、裏葉とふたりで洞穴に住むことにした。

この場所は神奈に近い気がしたし、岩戸の奥は不思議と心が落ち着いた。

裏葉の修行は昼夜を問わず続けられた。

一口に方術といっても、その種類はさまざまだ。


人の心を読む。


幻を見せる。


触れることなく物を動かす。


手をかざすだけで病を癒す。


見聞きしたはずのことを忘れさせる。


果ては、死者の魂を呼ぶことまでできるという。


僧たちにいわせると、裏葉は百年に一度の逸材らしい。

知徳法師がさずける秘技の数々を、裏葉は砂が水を吸うような早さで覚えていった。

それでも裏葉はおごることがなかった。

男ものの水干(すいかん)を着こなし、僧坊の力仕事もよく手伝った。

そんな裏葉を、寺の僧たちは親しみをこめて『御母堂さま』と呼ぶようになった。

俺はただ、毎日を洞穴で過ごしていた。

身体を動かすことさえ、今は苦痛だった。

それが高野で負った傷のせいだとしても、後悔はなかった。

ただ、無為に過ごすことは死よりもつらく、苦しかった。

行脚僧(あんぎゃそう)たちに頼み、翼人に関する文書や伝承をできるかぎり集めた。

すべての文に目を通し、俺なりにまとめあげることにした。

緩慢に俺たちを消していくものへの、それが精一杯の抵抗だった。


・・・・・・。


・・・。




そして・・・


ふたたび巡ってきた、夏。


石室の中央に、護摩(ごま)が焚かれている。

炎のまわりには、俺と裏葉しかいない。


「・・・では、はじめますわ」


裏葉が詠唱をはじめる。

独特の高い声が、岩壁に響く。

玉寄せ(たまよせ)の術。

己の魂を寄りましにして、他者の魂を引き寄せる術。

裏葉の二年間の修行は、すべてこの術の会得のためだった。


「・・・あっ・・・く・・・」


裏葉の額を、玉の汗が濡らす。

裏葉は今、虚空にただよう霊魂のかけらを一身に受けている。

少しでも気を抜けば、魂を乗っ取られる危険すらある。


「・・・うっ・・・あああ・・・」


うめき声が大きくなる。


「・・・いやっ」
「裏葉?」
「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!」


魂そのものを引きちぎられるような絶叫。

護摩壇の炎がかき消えた。


「裏葉っ! 裏葉っ! しっかりしろ!」


暗闇の中、手探りで抱き起こす。

滝のように流れる汗を指先に感じた。


「・・・うっ」


吐息と共に、裏葉が身じろぎした。

どうやら正気に戻ったらしい。


「・・・裏葉?」
「・・・柳也さまが・・・柳也さまが・・・」


裏葉はそのまま気を失った。


・・・・・・。


・・・。

 



「目が覚めたか?」


数刻後。

裏葉の目蓋が開いた。

暗がりの中でさえ、顔が蒼白なのがわかる。

手ぬぐいで額の汗を拭ってやった。

 

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「柳也、さま・・・」


安心したように、俺の名を呼んだ。

ゆっくりと上体を起こす。

俺になにかを伝えようとするが、言葉にならない。


「なにを見た?」
「・・・・・・」
「神奈に逢えたか?」
「・・・はい」
「神奈はどこにいたんだ?」
「神奈さまは・・・」


言葉を切り、視線を上向ける。


「神奈さまは、まだ空におられます」
「空・・・に?」
「神奈さまは、今も悲しんでおられますっ・・・」


吐き出すように言うと、唇を固く噛みしめた。

神奈の魂を虚空に捕らえたものの正体を、裏葉は『観て』きたはずだ。

思い出すことさえ、苦しいのかもしれない。

それでもあえて、俺はこう問わずにはいられなかった。


「それを、俺に見せることができるか?」


間髪を入れずに、答えは返ってきた。


「できません」


いつもと変わらない口調。

だが、たやすく嘘と見破ることができた。


「できないんじゃなくて、俺には見せたくないんだな」
「・・・・・・」
「見せてくれないか?
どんなことがあっても、もう俺は逃げたくない」
「ですが・・・」
「頼む」


ただじっと、裏葉の目を見つめる。

やがて、裏葉は言った。


「わかりました」


そして、そっと溜息を吐いた。

裏葉の瞳から感情が退いていき、意志だけが宿った。


「お気持ちを、おしずめください・・・」


言われた通りに、俺は心を平静に保つ。

裏葉が呪文を口ずさみはじめる。

これも方術のひとつだ。

裏葉が想い描いたままの残像が、俺の心に映し出される。

心を綿毛で撫でられるような、不思議な感覚に包まれていく・・・。


・・・・・・。

 


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――夏だった。



青々とした林の間を、なだらかに続く峠道。

見上げれば、どこまでも飛んでゆけそうな空。

道端に男が転がっている。

背に受けた太刀の一撃が、致命傷になったらしい。

だれかが泣きわめいている。

二度とは目覚めない屍(かばね)に取りすがり、髪を取り乱して。

泣いているのは、神奈だった。

矢を受けてぼろぼろになった翼が、陽炎(かげろう)のようにゆらめいていた。


「・・・余の命であるぞっ・・・。 起きよ・・・起きよっ!
なぜ・・・動かぬ・・・なぜ、目を開けぬっ・・・。
・・・ゆるさぬぞ・・・余を、残してゆくなど・・・ゆるさぬ、ぞ・・・。
なぜ・・・なぜにみな、余だけを・・・残して・・・」


屍を揺り動かす。

蒼白な顔が、がくりとこちらを向いた。

それは、俺の顔だった。


「・・・柳也どのっ、柳也どのっ・・・」


神奈は呼びかける。


「・・・りゅうやどのっ・・・りゅうや・・・どのお・・・」


狂ったように、幾度も呼びかける。


・・・違うっ!


・・・神奈、俺は無事だ!


・・・俺はここにいるっ! ここにいるんだ!


俺の叫びは、蝉の声にかき消されて届かない。


「うっ・・・うあっ・・・あああっ・・・あっ・・・」


神奈は泣きじゃくっている。

ひとりぼっちで、ただ泣きじゃくっている・・・。


・・・・・・。


・・・。

 


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「神奈っ!・・・」


洞穴の中で、己の叫びがわんわんと響いていた。

 

裏葉が俺を見つめていた。

さまざまな想いを込めた両眼を、色濃い後悔がおおっていた。


「神奈は・・・これを見続けているのか?」
「はい」
「だから、神奈は泣き続けているのか?」
「はいっ・・・」


かすかな嗚咽が混じり、言葉がかすれる。


「あの夜、神奈さまに向けられた呪法は比類なく強力なものでした。
神奈さまのお心を砕いてしまうほどに」


俺が見たのはきっと、神奈が大切にしたかったもののかけらだ。

三人でたどった旅路の思い出。

俺が聞かせた、いちばん悲しい日の思い出。

やさしくて強かった、母君の思い出。

すべてを抱えて神奈は飛び立ち・・・そして、力尽きたのだ。


「見えたのは、これだけなのか?」
「はい。
翼人の心の深さは、人とはまったく異なります。
わたくしの術では、ほんのうわべを垣間見るのが精一杯でございました。
ただ・・・呪いは今も、神奈さまを責めさいなんでおります」



呪い。


今思えば、その言葉は最初から翼人にまとわりついていた。

 

――『母親は人心と交わり、悪鬼と成り果てた・・・』

 

「母君さまにかけられた呪(しゅ)もまた、時を経た強固なものでございました」

 

――『比丘尼どのはさぞ無念でしたでしょうな・・・』

 

「それは翼人に心を寄せる者を弱らせ、やがては死に至らしめます」

 

――『ぬしらも、無事ではすまぬのだぞ』

 

「母君さまとの別れの折、呪いもまた神奈さまに引き継がれました」

 

――『母を、ゆるしてくださいね・・・』

 

「柳也さまはお生命を奪われましょう」

 

――『柳也どの、死なないでほしい・・・』

 

「神奈さまの、想いの深さゆえに・・・」


・・・。


「そうか」



俺はただ頷いた。

きっかけは、高野でのあの夜なのだろう。

あれ以来、得体の知れないなにかが俺の生命を蝕(むしば)んでいくのを感じていた。

それが神奈と関わりがあることも、うすうす感づいていた。


「俺は、いつ死ぬのだ?」
「今より一年(ひととせ)は保つまいと・・・」
「死ぬのは、俺だけか?」


その問いに、裏葉はかすかに顎を動かした。


「はい。 柳也さまは、神奈さまの想いを常に受けとめておられます。
わたくし自身は方術で受け流しもできますが、柳也さまは・・・」
「そうか・・・よかった」
「よくなどございませんっ」


衣の膝を、両手でぎりりと絞る。

 

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「なにゆえ柳也さまが死なねばならないのですかっ。
なにゆえ神奈さまが苦しまねばならないのですかっ。
なにゆえ、わたくしだけが・・・。
生き残らねば・・・ならないのですか・・・」


押し殺した慟哭(どうこく)が、裏葉の喉から漏れる。

だが俺は、あきらめるわけにはいかない。


「どうしたら、神奈を救える?」
「・・・・・・」
「答えてくれ。 どんなささいなことでもいい」
「神奈さまをお救いする術(すべ)はございません」
「ないのか? ひとつもないのか?」


そして裏葉は、はっきりと頷いた。


「神奈さまを空に捕らえている封術は、いつか朽ちる日も来ます。
神奈さまの魂は地上に戻り、輪廻(りんね)を繰り返すことになりましょう。
しかしながら、呪いは消えることはございません」
「なぜだ?」
「翼人は夢を継ぐものでございます」


法師から得た知識と伝承をつき合わせ、わかってきたことがある。

翼人は夢を継ぐ。

おそらく、夢とは記憶のことを指す。

つまり、翼人はなんらかの手段によって、子孫に記憶を引き継がせてきたのだ。

蓄えられた記憶は膨大なはずだ。

その中には人知を越えた知識や経験も含まれるだろう。

そしてそれこそが、翼人が人に智を授けたとされる理由。

同時に、翼人が不老不死と誤解されてきた理由でもある。

あの夜、母君が矢に倒れたあと。

神奈は母君から、翼人という種族の歴史すべてを渡されていたのだ。

そしてそれには、母君の記憶も含まれていたはずだ。

同時に、母君から引き継いだ呪いも・・・。


「覚えておいででしょうか、以前知徳さまがお話しになったことを。
先ほどの魂寄せの折、この裏葉にもはっきりとわかりました。
神奈さまは最後の翼人でございます。
神奈さまのお心を受け継げる者は、もはやこの世にはおりません」


神奈以外には、翼人は存在しない。

それは、俺があえて思い出すまいとしていた事柄だった。

昔、幾度となく経験した感覚に、背中の古傷が疼く。

それは敗戦の予兆だった。


「しかし、神奈はいつか地上に降りてくる。
人として輪廻転生すれば、呪いもそこで終わるはずだ」
「翼人と人は、異なるものでございます。
神奈さまの魂を人が宿すことは、小さな器に海の水を移すようなもの。
注ぎおわるより早く、器は割れてしまいましょう。
神奈さまの魂は、癒される間さえなく輪廻に戻りましょう。
それに・・・。
この先神奈さまが地上に降りられることがあるとしても・・・。
早くともそれは、百年ものちのことでございます」


それきり、裏葉は口をつぐんだ。

俺は声も出せなかった。

神奈は今も空にいる。

それなのに、俺に翼はない。

俺に時は残されていない。

未来永劫、神奈は苦しみ続ける。

終わらない夏の中で、神奈は大切な者を失い続けるのだ。

 

天井を仰いだ。


百年という時の重みが、音もなくのしかかるのを感じた。

神奈を救うこともできず、行く手にはただ死だけが待っている・・・。

それでも俺は、絶望に沈むわけにはいかなかった。

泥をはらった裏葉の瞳が、俺をまっすぐに見つめていたからだ。


「ひとつだけ、手だてがございましたわ」


声音の奥に、揺るぎない確信があった。


「なにか手が・・・あるというのか?」
「はい」
「どうすればいい?」
「簡単なことでございます。 子をお作りくださいませ」

「・・・は?」


聞きまちがえたのかと思った。


「ですから、子をお作りくださいませ。
子をお残しになれば、柳也さまのご意志も残せましょう?」


それでやっと、裏葉の言わんとしているところがわかった。


「しかもでございます、その子が孫に、孫が曾孫にと伝えれば、ご意志はいつまでも朽ちることは
ありませんわ。
そうすればいつの日にか、神奈さまをお救いすることもできましょう」


名案とばかりに、両手をぱんっと合わせる。

俺はただ呆れ返っていた。


「子供と言っても、どうするんだ?
孤児を捜すとしても、そう簡単じゃないぞ?」
「あらあら、そんなこと。
自前でこしらえればよろしいのですわ」


いとも簡単に言う。


「・・・ひとりでそんなもの作れるほど、俺は器用じゃないぞ」
「わたくしがお手伝いしますわ」
「なるほど。
・・・じゃないっ、ちょっと待てっ!」


納得しかけてから、あわてて首を振った。


「どういう意味かわかってるのか?」
「わたくしも女童ではございません。

閨(ねや)の作法は心得ております」
「そういうことじゃなくてだな・・・」
「ほかに術(すべ)がございますか?」


ぴしゃりとそう言われた。

俺は黙りこむしかない。


「残された時は、あまりにも短うございます。
この上お生命を無駄にされては、神奈さまがお可哀想でございます。
それに、わたくしは嬉しいのです。
柳也さまのお役に立てることが。
神奈さまをお救いするお手伝いができることが・・・」


俺の目を正面から見据え、裏葉は切々と言葉を紡ぐ。

裏葉の無私の心には、これまで幾度となく助けられてきた。

しかし、今度ばかりはそう簡単にすがるわけにはいかない。

考えあぐねる俺に、裏葉がぽつりと言った。


「もうひとつ、理由がございます」
「・・・なんだ?」
「柳也さまがお亡くなりになれば、わたくしはひとり残されます。
あとを追うことは、柳也さまは決してお赦しにならないでしょう」
「あたりまえだろ」


俺が死んだとしても、裏葉には生きていてほしい。

たとえ俺の独善だとしても、それだけは譲る気はなかった。


「柳也さまが耐えろとお命じになれば、いかようにも耐えてみせましょう」


俺の想いを受けとめるように、裏葉は言った。


「ただ・・・どうかお考えになってください。
神奈さまも柳也さまもお側になく、この身ひとつで余生が果てるのを待つ・・・。
あまりにも、酷な仕打ちでございます」


自分の言葉から身を隠すように、そっと目を伏せる。

そして裏葉は、俺にすいと身を寄せてきた。

 

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「せめて忘れ形見を、わたくしにお授けくださいませ・・・」


俺の胸に顔を埋める。

水干の衿元から、たきしめた香の匂いがした。

裏葉と知り合って、もう二年になる。

美しいと思うことはあっても、可愛いと思ったことはなかったかもしれない。


「おまえは本当に、卑怯なやつだよな」


裏葉の頭をそっと撫でてやる。

手入れをする暇もなかったのだろう、その髪に以前ほどの艶はない。


「己に正直なだけでございます」


上目づかいに俺を見て、いつもの澄まし顔をつくる。

断ることなどできそうになかった。


「わかった。 裏葉・・・」
「はい」
「俺の子を産んでくれるか?」
「仰せのままに」
「ただし、ひとつだけ条件がある」


裏葉の両肩に、そっと手を添えた。


「裏葉。
俺は残りの時のすべてを、おまえのために使う。 それでいいな?」


裏葉は頷き、そして笑った。

 

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「はいっ」


ここ数年来で見せた、いちばんの笑顔だった。


・・・・・・。



ためらうような喘ぎが、闇夜に溶けていく。

指先のひとつひとつに、裏葉のやわらかさを感じる。

裏葉の匂いが鼻をくすぐる。

ふと、雲が風に散った。

 

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月が煌々と照らし、裏葉の白い肌を浮きあがらせた。

俺が考えていたよりずっと、裏葉は受け身だった。

顔を真っ赤にしたまま、『はじめてのことですので』と打ち明けた。

俺は呆れてしまった。

そしていっそう、強く裏葉を求めた。

睦(むつ)びあう間、考えを巡らせる余裕はなかった。

この先に、何がまっているのか。

俺は知ることも、見届けることもないだろう。


・・・・・・。



また、月が隠れた。

裏葉の髪が、汗に濡れている。

互いの息が昂(たかぶ)るのがわかる。

ただこの闇に、ふたり身を委ねる。

終わりない道行きの、それが導(しるべ)だった。


・・・。



そして・・・。


俺と裏葉は、生命を重ね合った・・・。

 

・・・・・・。


・・・。

 

 

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二月後。


裏葉は子を授かっていた。

俺はただ、心から喜んだ。

 


時はゆっくりと流れていった。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

 

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秋。


「・・・あまり根をお詰めにならずに」


裏葉の言葉に、俺はふと筆を置いた。

灯心のまわりを、羽虫がさかんに舞っていた。

おだやかな生活。

なんのかわりばえもない毎日。

水瓶で顔を洗い、髪を整え、一日が始まる。

裏葉が作った膳を食べる。

裏葉が縫った絹に袖を通す。

墨を磨(す)り、書をしたため、一日が終わる。


「今年の秋は穏やかですわね」
「そうだな」
「これなら稲もよく実りましょうね」
「案山子(かがし)は大変だろうけどな・・・」


どうということはない世間話。

人の暮らし。

大切な人の温もり。

裏葉がそっと、肩を寄せてくる。

俺たちの営みを、月だけが見ている。


・・・・・・。


・・・。

 

 

冬。


「寒くはございませんか?」


衣にくるまった俺に寄り添いながら、裏葉が訊ねる。


「ああ」


今朝は火鉢も役に立たない。

氷水に漬けたように、古傷が悲鳴をあげてきしむ。


「おまえこそ、温かくしていろ。
身体を冷やすと、お腹の子に悪いだろ。
僧坊の手伝いもほどほどにしておけよ。
それでなくても、おまえは働きすぎるんだからな」
「うふふっ」
「・・・なぜ笑うんだよ?」
「嬉しいからでございます」


痩せ細った俺の手と、自分の手を重ね合わせる。

裏葉の温かさが伝わってくる。

裏葉のてのひらが、ざらざらに荒れていることも。


「・・・綿入れを借りてきますので」


立ち上がった裏葉が、岩戸を開けたとたんに、声をあげた。

 

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「あらあらまあまあ・・・」
「雪、か・・・」
「道理で冷えるはずですわね」
「こんな土地でも降るんだな・・・。
もう少し戸を開けてくれるか、よく見えるように」
「はい」


次々と舞い降りるのは、純白の結晶だった。

それはまるで、空に清められた焔(ほのお)のかけらのようで。

冴え冴えとした寒気の中、俺たちはいつまでも見つめていた・・・。


・・・・・・。


・・・。

 

 

 

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春。

 

「暖かくなってきましたわね」


針仕事の手を休めずに、裏葉が言う。

岩戸の隙間から、やさしげな光が漏れてくる。

かすかな沈丁花(じんちょうげ)の香りに、不意に心がはやる。


「今朝は土筆(つくし)をどっさりと採ってきました」
「そうか・・・」
「まるで山じゅうが笑っているようですわ」


俺の枕元には、汚れた布が重ねられている。

夜ごとにと喀血する俺の口元をぬぐったものだ。

芽吹きを待ちかねた少女のように、裏葉は春のことを話す。

他のものは目に入らないとでも言うように。


「・・・ほら、できた」


裏葉が縫っていたのは、綿の入った小さな人形だった。


「不細工だな」


俺が言うと、裏葉は意味ありげに微笑んだ。

人形を床に置き、そっと念を込める。

布と絹でできた人形がひとりでに立ち上がり、ひょこひょこと動き出した。

ついでに、俺の胸元に飛び乗る。

俺が手を伸ばそうとするより早く、ころりと転んでただの人形に戻った。


「大したもんだな」
「やや子が産まれたら、これであやしましょう」


言いながら、そろそろ膨らみが目立ってきた腹に手を置く。


「そりゃ、いいな・・・」


俺は答え、絶え間ない鈍痛との戦いに戻った・・・。


・・・・・・。


・・・。

 

 

 

そして・・・。

 

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山道にもどった時は、日没が近かった。

林の中は嫌にがらんと感じられた。

斜光が木々を橙色に染め、闇を迎え入れていく。

野営の場所をさだめ、背から荷を降ろした。


「すぐに水を汲んでまいります」


竹筒を取り出した裏葉に、めずらしく神奈が言った。


「余も手伝おうぞ」
「じっとしてろ。 怪我でもされたらかなわん」
「・・・・・・わかった」


いつになく神奈は神妙な様子だった。

俺からすこし離れたところで、言いつけられた通りにしている。

その様子が、どこか儚(はかな)げに見えた。


「・・・神奈?」
「ここにいるぞ」
「そうか・・・」


意味のない会話が、どこか照れ臭かった。


「遊ばせとくのも惜しいから、薪でもひろってきてくれ」


神奈が意外そうに俺のことを見た。


「・・・よいのか?」
「ああ。

ただし、俺から見えないところには行くな。
蝮(まむし)にも気をつけろよ」
「わかっておるわっ」


快活に答え、ぱっと走り出す。

思うところあって、その背中に声をかけた。


「ちょっと待て」
「なんだ?」
「胡桃を置いていけ。 割っといてやるから」


神奈はふところから胡桃を取りだし、俺のてのひらにぽとりと置いた。


「割るのはまかすが、食うでないぞ」
「だれが食うかっ!」


神奈が林の奥に走っていった。

薄闇の向こうで、髪に飾った響無鈴(こなれ)だけが西日にちろちろと光る。

離れるなと言ったのに、ずいぶん遠くにいる・・・。


・・・・・・。


・・・。

 


自分がどこにいるのか、わからなかった。

握りしめた手を、ゆっくりと開いてみた。

たしかに受け取ったはずの胡桃は、消えてしまっていた。

 

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「・・・お目覚めになりましたか」


目の前に、裏葉がいた。


「おはよう」


挨拶を返すと、裏葉は驚いたようだった。


「今日は具合がよろしいのですか?」


裏葉の目元が赤い。

徹夜で看病をしていたらしい。

俺が前に目を閉じたのは、いつだっただろう?

仰向けになったまま、動こうとしない首をめぐらした。

半開きになった戸口。

日射しが真っ白に滲んでいる。

それで、俺は思い出した。

夏はもう、すぐそこまで来ていた。


「・・・ひさしぶりに、空でも見たくなった」
「それはたいそう風雅なお考えでございますね」


旅にでも出かけるように、裏葉が目を輝かせる。


「ご用意いたしますので、しばしお待ちを・・・」


言いながら、そっと袖で目元を押さえたのがわかった。

たぶん、裏葉も悟っていた。

俺が空を見上げるのは、今日で最後なのだ、と。


・・・・・・。


・・・。

 


裏葉が俺の襟首を掴み、洞穴の外にじりじりと動かした。

骨と皮だけになった病体は、今はきっと木乃伊(みいら)のように軽いのだろう。

とはいえ、そろそろ臨月を迎える裏葉にはつらい仕事のはずだ。

日向に入ると、身体全体が光に包まれる。

戸口から少し離れた木立の下に、二人でもたれかかるように座った。


「柳也さま、ほら・・・。
あんなに高くを、鳥が舞っておりますわ」


青々と光る中天を、真っ直ぐに指で示す。

俺にはよく見えない。

俺の目にはもう、空は眩しすぎる。

裏葉がぴったりと寄り添ってくる。

俺の横顔を見て、幸せそうに笑っている。


「・・・あら。 ふふっ」
「どうした?」


かすかに首を動かして訊いた。


「やや子が、わたくしのお腹を蹴っておりますわ」


もう一度、うふふと笑う。


「・・・悪いが、膝枕をしてくれるか?」
「甘えん坊でございますわね」


悪戯っぽく言いながら、裏葉は俺の頭を膝に乗せてくれた。

膨らんだ腹に、耳を寄せてみた。

ゆるく結んだ帯の向こうから、扉を叩くような音がする。

もうすぐ現れる生命の萌(きざ)しに、俺は聞き入っていた。


「俺たちの子、なんだよな・・・」
「わたくしたちの子、でございます・・・。
無事に生まれるとよいのですが」
「案ずることは、ないさ。 きっと・・・丈夫に育つ」

「大きくなったら、一緒に夏祭に行って・・・。
都や市にも連れていきましょう。
もしも女の子なら、お手玉を教えましょう。
もちろん、男の子でも教えますけれど。
きっと柳也さまに似て、利発で、器用で、かしこくて・・・。
やさしくて、よい子に育ちましょうね」
「褒めすぎ、だろ」
「あらあら、柳也さま。 褒めなければ、子は育ちませんわ」
「なるほど、そうかもな・・・」


いつかのように、二人して笑う。


「・・・さっき、夢を見ていた。 神奈の夢だった」


契りを結んで以来、俺から神奈の話をするのはそれが初めてだった。


「わたくしも、夢を見ました」
「どんな・・・夢だった?」


答える代わりに、裏葉は空を仰いだ。

 

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「夏はもうすぐそこでございますね・・・」


その言い方が今も初々しくて、思わず俺は笑ってしまう。


「なにか?」
「いや・・・何となくだよ・・・」


ゆっくりと過ぎる時。


おだやかな陽差しと、心地よく吹き通る風。


俺たちが暮らした洞穴。


岩戸の奥には、俺が編纂(へんさん)した『翼人伝』がある。


生まれてくる俺たちの子が神奈の魂を探すなら、かならず力になるはずだ。


そして裏葉は、子に方術を教える。


裏葉の血を受け継ぐ者なら、きっと達人になる。


俺たちが見つけられなかった道さえ、辿れるのかもしれない。


鼓動が高鳴るのを感じた。


この丘の向こうには、何があるんだろう?


子供のころ、旅空の下で感じたあの気持ちが、入道雲のように沸きあがってくる。


時を越えてさえ、俺は旅を続けることができる。


かけがえのない翼に、ふたたび巡り会うための旅を。


これ以上、望むものはない。


思い残すことは、もうなにもない。


例えば・・・。


これが、ただの夢だったとしても。


「ひとつだけ、聞いてくれないか?」
「はい」


小首をかしげるようにして、裏葉が俺のことを見た。

その顔を、俺はただ見つめ返す。

この刻(とき)に宿る光と風のすべてを、心に焼きつけるために。


「忘れても、いいんだ。
子を産んで、育てて、慎ましい幸せを求めても。
おまえだけの幸せを・・・追いかけても。
神奈はきっと、許してくれる。
神奈には、俺が謝っておくから。
その時は・・・俺の書は、焼き捨ててくれ・・・」


普段なら、言っても聞くような奴じゃない。

神奈が関わると、どうしようもないくらい融通がきかなくなる。

何度も何度も、そんな裏葉を見てきた。

だから今、俺は言う。


「すべてを忘れて・・・幸せになっても、いいんだ。
神奈のことは、忘れていいんだ。
俺のことも、忘れて、いいんだ・・・」


裏葉はただ黙って、俺の言葉を聞いていた。

 

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にっこりと笑う。


そして、こう答えた。


「いやでございます」


もう力の入らない俺の手を、裏葉が強く握り返す。


「わたくしは、ひとりではございません。
神奈さまと柳也さまが、これからもおそばで導いてくださいます。
産まれてくる子もおります。
わたくしは幸せでございます。
これからも末永く、幸せに暮らしとうございます」


指先から伝わってくるもの。


溢れるほどの想い。


だから、俺は己に問う。


俺は頑張れただろうか?


俺は幸せに暮らせただろうか?


そして、気づいた。


その答えは初めから、ここにあったのだ、と。


「・・・そう・・・か・・・」
「はい」
「それでこそ・・・俺の・・・連れ添い・・・だ・・・」
「はいっ・・・」

 

・・・・・・。

 

 

もう一度、空を見上げる。


高く、晴れ渡った空。


光に満ちた空。


それなのに、大粒の雨がぽとぽとと頬に降ってくる。


「りゅうやさま・・・」


温かい夏の雨。


「りゅうやさま・・・りゅうやさま・・・」


だれかの涙のような雨・・・。


「・・・あり・・・がとう・・・。

・・・う・・・ら・・・は・・・・・・」
「りゅうや・・・さま・・・」


・・・・・・。

 

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空を見ていた。


吹き抜ける風を感じた。


舞い降りてきた真っ白な羽を、俺はつかまえようとした・・・。


・・・・・・。

 


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「・・・はは」
「・・・ふふふ、どうなさいました?」
「いや、何でもないよ。
そろそろ、行こうか。 あの空の向こうで、神奈が待っている」
「ええ。
お供いたしますわ。
ずっと、どこまでも・・・」


・・・・・・。


・・・。

 

 

SUMMER編 END