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車輪の国 悠久の少年少女 灯花シナリオ【1】

車輪の国 悠久の少年少女 ―灯花シナリオ―

 

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・・・。



「今日も、自分の好きなことがたくさんできた。
朝起きて料理して、学校に行って友達とお喋りをして、お菓子も食べて、漫画とかも読める。
中でも一番嬉しかったのは、料理ができること。
身内の人や好きな人に、自分の作った料理を食べてもらって喜んでくれるのは最高ッ。
義務が解消されてからこの一年間、充実した日々を送れていたと思う。
こんな生活を送れるようになったのも、全部賢一のおかげ。
そんなことを賢一に言ったら、そりゃないぜって顔してた。
なにがないのか分からないけど、今はもうそんなことを考えてる暇がない。
もう、料理人になるための修行は始まっている。
最近は、一緒に料理作ろうぜー、とかなんとか言ってくるし。
・・・・・・嬉しいといえば嬉しいんだけどね・・・・・・。
賢一はたまにボケたりするけど、ピンチなときには助けてくれる、私のヒーロー的存在。
そんな賢一と今は付き合ってるんだけど、いぢってくるのはホント勘弁してほしい。
いつまでも子供扱いされたくない。
もう、あの頃とは違うんだから・・・・・・」


・・・・・・。



 

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「ふぅ・・・・・・」


学園から帰宅し、ソファーに横になる。

一緒に帰ってきた灯花は、台所で夕食を作っている。

・・・・・・退屈だ。


「風呂でも沸かそう」


食って寝るだけの居候にはなりたくない。


・・・・・・。


適度に風呂場の掃除を済ませ、浴槽に水を張って火をおこす。


「あとは・・・・・・」


特にないか。

今日も自分の役目は終わった。

あとは灯花の夕食に期待しながら、暇を潰すだけ。

いつもなら、灯花と一緒に夕食を作っているはずだった。

しかし灯花は一人だけで作りたいと駄々をこねてきたのだ。

おれは、そんな灯花の意見をおとなしく聞き入れてやった。


「こらあぁ~~っ! 賢一ッ」


灯花の怒りに震える絶叫が、家中に響き渡る。


「なんだなんだ?」


灯花のいるリビングへと足を向けた。


・・・・・・。


「そこに座りなさい」
「は?」
「座れって言ってるのっ」
「いきなりなんだ?」
「説教してあげるから」
「なぜ座る必要がある」
「正座でね」


人の話聞けよ。


しかし、料理については口うるさい灯花だ。

ここは素直に正座・・・・・・と。

 

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「もう言い逃れはできないわよ。 
なぜなら・・・・・・、賢一が犯人だってことは分かってるんだからねッ」
「一つ、質問がある」
「なによ」
「犯人って、なんのことだ?」
「しょうゆ瓶にソースを入れたのって、賢一でしょ?」
「はて、なんのことやら・・・・・・」
「とぼけるなっ」
「灯花が入れといてくれって言うから入れたんだぞ」
「しょうゆを入れて、って言ったはずよ!」
「いや、しょうゆって言っただろ?」
「・・・・・・」


ヒュンッ!


灯花の指が、おれの目めがけて飛んでくる。


「おっと」


軽くいなす。


「よけるな!」
「ムチャ言うなよ」
「よけたら、お仕置きにならないじゃないの」
「説教をするんじゃなかったのか?」
「どっちも同じよっ」
「わかったから、用件を言ってくれ」
「話をそらそうとするなっ」
「そんな暇があるのか?」
「くっ・・・・・・」


なにか言いたそうだったが、ワンテンポ置いて本題に戻る。


「私はね、料理に関してはうっかりすることなんてないのっ」
「そうだっけ?」
「そうなの!」


確かに、灯花は些細なミスも許さない。

真剣に料理に取り組んでいるときは、ただ傍観するしかない。

さちと一緒だ。


「えっと・・・しょうゆの瓶にソースを入れるなって話だったわね。
ったく、味見してみて正解だったわ」
「見た時点で気づけよ」
「区別つくワケないでしょッ」
「いや、普通気づくから。
どろっとしてるから、ソースは。
灯花だから気づかなかったんだよ」
「わ、わたしは、賢一を信頼して、しょうゆを任せたのに・・・・・・」
「え?」
「ひどいよ・・・」


素直に降参しよう。


「すまん・・・灯花の足を引っ張ってしまった」


修行の手助けをするために、おれはここに住んでいるようなものだ。

今回のように、うっかりミスは許されない。


「おれが間違えて入れてしまいました、すみません」


ペコペコと平謝り。


「それはそうと、エプロン姿、似合ってるぞ」
「え?」
「うんうん、似合ってる」


ごますり。

 

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「・・・・・・・・・そ、そぉ?」
「うん、そうそう」
「って、バカにするなッ!」
「してねーよ!」
「とにかく! 今すぐしょうゆ買って来てっ」
「ここはソースで作ってみようじゃないか」
「冷奴にソースかけて食べたいの?」
「灯花に食べさせるから、おれは平気だ」
「食わすなっ!」


ヒュンッ!


「おっと」


ヒョイッ。


「よっ、よけるなあっ」


ヒュンッヒュンッヒュンッ!


ヒョイッヒョイッヒョイッ。


「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・。
もう! 早く買ってこないと、賢一だけ晩ご飯抜きだからねっ」
「別にいいぞ、おれは」
「そんなウソをついても、私には分かるんだからね。
ホントは、私の料理を食べたいんでしょ? そうなんでしょ?
そうだって言いなさいよ!」
「・・・お、怒るなよ」
「とにかくスーパー行って、ついでにお米も買ってきて」
「おいおい、米をここまで買って持って来いってか?」
「なにか問題でもある?」
「重いだろうが」
「当たり前よ」
「何キロ買ってくるんだ、ちなみに」
「たくさん」
「アバウトだな、おい」
「じゃあ、40Kくらい?」
「それ、すげえ重いから。
お前とおんなじくらいだから。
お前を抱いてくるのと同じくらいだから」


・・・。


「わ、わたしを、抱いて・・・・・・?」
「・・・い、いや、テレんなよ。 たとえ話だから」
「とにかく、今日はお米が安かったはずなのよ」
「んなの知るか。 持って来るこちらの身にもなれ」
「頑張んなさいよ」
「ムリだっつってんだろが」
「・・・・・・じゃあ、いいわ」
「わかってくれたか」
「うんっ。 夕食後だったら時間がたっぷりあるでしょ」
「オニめ・・・・・・」
「この家にいる理由、あるんでしょ」
「灯花に尽くすためだ」


・・・。


「なんであんたなんかに、尽くされなきゃいけないのよ。
むしろ、尽くすのは私の方なのに・・・・・・」
「聞こえてるぞ」
「いいから買ってくる」
「しょうゆだけでいいか?」
「お米も、できるだけたくさん」
「だから、どのくらいなんだよ・・・・・・」
「あーっ、もういい! しょうゆだけっ。 ・・・で、お米は夕食後に」


あとで、自転車を借りるとしよう。


「はぁっ・・・無駄に疲れちゃったじゃない」
「ちなみに、今日のおかずはなんだ?」
冷やし中華・・・と冷奴」


SF小説から引っ張ってきて再現か・・・・・・なかなかやるな。

そういや、灯花もSF小説とか読めるようになったんだっけ。

灯花との共通話題が増えて何よりだ。


「早く買ってきてよ」
「あっ、いいこと思いついた」
「・・・なに?」
「店に売ってある冷奴。 あれ買って食おうぜ、早いし」
「へえ・・・」


まな板の上に置いてある包丁に、手をかけた。


「え?」
「ふーん」
「ちょっと、包丁むけんな・・・!」
「私の手料理を食べられないって言うの?」
「う、ううん」
「さっさと行ってよッ」
「はい」


仕方なく、おれは商店街まで向かうことにした。


・・・・・・。

・・・。

 

まさか、薄口と濃口を間違えて二往復するハメになるとは・・・

始めに言っとけよ、灯花。


・・・・・・。

・・・。

 

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今日も灯花の手料理が、大音家の食卓に並ぶ。

実に、微笑ましいことだ。


「いただきます」
「いただきます」


合掌してから料理に手をつけた。

香ばしいおかずの数々が、空っぽの胃を刺激する。


「まずは、冷やし中華から」


甘酸っぱいたれがついた麺をすくい、口へと運ぶ。

あっさりとした味付けで、実によろしい。

 

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「夏にちょうどいい、さっぱりした味ね」
「これで灯花は、晴れて料理人になれたわけだ」


「まだだから。 修行中だから」


いまいち納得してない様子だ。


「何か、気に入らないことでもあったの?」
「もっと時間をかけて作らないと、腕なんて上がんないもん」


「今日は学園があったんだから、別にいいじゃないか」
「どんな状況下に置かれても立派な料理を作り上げる・・・。
これが、プロってものでしょ?」
「なんだ。 灯花はプロになりたいのか」
「ワザと言ってるでしょ、それ」


「最近では、口グセになってきてるわよね」
「何万回言ってきたか、自分でも分からないくらいよ」


「そんなことを自慢してどうする」
「目標は大切でしょ」
「プロになりたいという気持ちはわかった。
だから、色々とサポートしてやろう」


「具体的に、森田君はなにをするつもりなの?」
「インフルエンザにかかろうが肺炎起こそうが、ひたすら料理を作らせます」


「死ぬでしょ」


「時間がないんだよ、時間が」


何度も自分の手首を指差す。


「賢一があせってどうするのよ」
「どうせなら、森田君も料理人を目指してみたら?」
「いやおれ、超プロですから」

 

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「むっ・・・私よりも上手く料理が作れるってコト?」
「無論」
「はあっ!?」
「無論ですよ」
「あったまきた! 私のことバカにしてるでしょ!」
「無論ですから」
「なんなのよ、むろんむろんって!」


「あんまりいじめちゃだめよー」
「お母さんは黙ってて!」
「やつあたりはやめてよ」
「・・・・・・むぅ。 お母さんに怒られた」
「すぐキレるのはよくないわよ」
「だって、賢一が変なこと言うから・・・」


「なにも言ってねえよ。
お前の料理がきな臭いだとか、きなこだとか、そういうことではなくてだなあ・・・・・・」
「きなこ? きなこってなによ?」
「餅につけるきなこだよ」
「なによ、甘くて美味しいじゃない」
「そりゃ、あんこだな」
「今はきなこの話をしてるんでしょっ」


「灯花の料理についてよ」
「あ、そっか・・・」


「炭を食べてるみたいだって話だよな」
「きな臭い、でしょ」


「だから、灯花の料理について話をしてるんでしょ?」
「う・・・そ、そうね」


「場の空気を読めよ、周りが見えてない証拠だぞ」
「また子ども扱いするの?」
「だって、子どもじゃん」
「私は人間族・大人科よ、バカにしないで」
「してねえって」


冷奴にしょうゆをかけ、四つに切り分ける。


「ったく、賢一ふざけすぎよ」
「ところで灯花」
「なによっ」
「麺類にご飯ってありなのか?」
「ミートソーススパゲティも、ご飯と一緒に食べるでしょ」
「そうかね? 地方によるんじゃね?」
「だって私はお好み焼きとご飯を一緒に食べるもの」
「食うなあ、お前」
「食いしんぼじゃないよ」
「食いしんぼだろ」
「違うよ、土地柄だよ」
「え? マジで? お前地元どこ?」
「え、あ、に、西のほう・・・」
「西にしては、方言でねえのな」
「な、なんでやねん?」
「てきとーだな・・・・・・」
「いいの! お母さんも、食べるよね? ご飯と麺類」


「どっちでもいいんじゃない?」


灯花の真剣な質問を、京子さんは軽く流した。

 

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「それと灯花、食事中に口論は見苦しいわよ。 できるだけ控えなさい」


家長が場の乱れを正す。


「でもっ・・・・・・」


「料理人には冷静さも必要だぞ。 口を慎め」
「あなたもよ」
「はい」


「やーいやーい。 怒られてるーっ」
「いま言ったことを、もう忘れてるの?」
「あ・・・ごめんなさい」


「やーいやーい。 怒られてるーっ」
「ぶっ殺すぞ!」



「二人とも子供ね・・・」



おれたちの様子を見ていた京子さんが、くすくすと笑みをもらした。

こうして、大音家の夜は過ぎていく。

明日も灯花と一緒に、充実した一日を送りたいものだ。


・・・・・・。

・・・。


 


いつもと同じ朝がやってきた。

リズムよく聞こえてくる、まな板の音。

ほのかに漂う、朝げの香り。

今では、これらが目覚まし代わりとなっていた。


・・・。

 

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「ふあぁ~~っ・・・」


ソファーの上で大きく伸びをした。

充分な睡眠をとったおかげで、体調の方は万全だ。

まずは、洗面所へ・・・。


・・・。


バシャバシャッ、と豪快に顔を洗う。

寝ぼけた思考力が、瞬時に鋭くなった。

「ふうっ・・・すっきりした」


用を足して、リビングへと戻る。


戻ると、灯花がすでに三人分の朝食を用意していた。

 

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「おはよう」
「あっ、賢一。 おはよう」


食卓に並んでいるものを確認してみる。

真っ白に炊けたご飯、竹の子や豆腐の入った味噌汁、こんがりと焼けている魚の塩焼き、その他副
菜が少々・・・。

毎度のことながら、凝っている朝食だった。

ここまでくると、どこかの旅館が出してくる朝食と変わらないボリュームだ。


「朝から魚を焼くとはねぇ・・・」
「普通じゃない」
「相当な手間だと思うのは、おれだけか?」
「だね。 私は楽しいし」


こぽこぽとお茶をいれ、さも当然のように言い放つ。

かっこいいなあ。

 

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「おはよう、灯花」


京子さんも起きてきた。


「おはようございます」
「あら、おはよう」


寝癖一つもなく、優雅に返事を返してくれた。

朝の挨拶には、その人の性格が現れるね。

 

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「灯花、夜更かしなんてしてないでしょうね」
「賢一じゃあるましいし」


「おれがいつ夜更かしなんてした」


「夕べ遅く、リビングの電気がついてたけど・・・・・・」
「はは・・・早速ばれましたね」


「不健康な生活を満喫中って感じね」
「お前だって、似たようなもんじゃねえか」


漫画読んだりテレビ観たり・・・。


「昨日は、早く寝たよ」
「ホントかよ?」
「ホントだって。
ちょっとテレビ観て笑い転げて、雑誌読んでドキドキして、お菓子食べてウキウキしてたら、いつ
の間にか3時になってただけ」
「そういうツッコミ待ちな発言はいい加減やめろよ」
「なにわけわかんないこと言ってるのよ」


「・・・・・・二人とも、ほどほどにね」


上品な欠伸をしながら、京子さんが席に着いた。

俺と灯花も、それに続く。


「いただきまーすっ」
「いただきます」
「いただきます」


三者三様、手を合わせた。

こうして手を合わせて食事を取るなんて、一年前には考えられなかったことだ。

おれは早速、味噌汁から手をつけてみることにした。


「カツオのダシが効いていて美味い」


続いて魚の塩焼き。


「ほどほどの塩加減と、少し水気があってふっくらと焼き上がっている。
外はパリッとしていて、中身はふっくら」


なかなかやるじゃないか。

 

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「うん。 なかなかの腕前よ、灯花」
「ありがとう。 今朝は結構、頑張ったよ」


こうしておれたちは、灯花の料理を評価してきた。

良い点は素直に褒め、悪い点があれば遠慮なく指摘する。

その甲斐あってか、灯花の料理はここまで上達した。


「弁当まで作ってしまうとはな・・・」
「味に関しては、結構気をつかってるよ」


灯花の言うとおり、味はしっかりとしている。

クラス内でも人気があり、毎回のようにおかずの交換を提案されるほどだ。


「弁当まで作って、毎日大変じゃないか?」
「楽しければ、大変だなんて感覚がないからね。
よく言うでしょ。 楽しいと、時が過ぎるのは早いって」


「それだけ、料理に打ち込んでいるってことよ」


ぱくぱくとテンポよく、灯花の手料理を消化していく。


「二人の弁当は、台所に置いてあるから」

「サンキュ」

「いつもありがとう」


「中身は空けてのお楽しみだからねっ」
「ふたを開けて『ハズレ』って書いてある紙があったらウケるけどな」
「アタリ・・・じゃダメ?」
「なんでそうなるんだよ」
「寂しいじゃない。 ハズレなんて・・・」
「どのみち、中身が入ってないなら却下だ」


「私と森田くんのとで、弁当の中身がそれぞれ違っていた、というのはどう?」
「私、そこまでうっかりさんじゃないよ」


「京子さんとおれの橋が逆に入っていた。 あれはどう説明する?」
「そんなことはなかった!」


・・・言い切りやがった。


「カレーライスのライスしか入っていなかった。 あれはどう・・・」
「そんなことはなかった!」


「おかずは入っているけど、ご飯が入っていなかった・・・」
「そんなことはなかった!」


「あったんだよ!」
「そんなことより、早くご飯食べ終えないと学園に遅れるでしょ!」
「灯花っ、ご飯お代わり」
「聞いてなかったのっ? 遅れるって言ってるでしょ」


「お茶が美味しいわね、もう一杯頂こうかしら」


「灯花、おれにもお茶」
「ご飯は?」
「お茶漬けでも食おうと思って」


お茶漬けのもとを持ってきて、ご飯にふりかけた。


「私の作った料理を食べれないって言うの!?」
「よく見ろ。 全部食ってるだろが」
「だから、遅れるって言ってるでしょ」


「こんなときに京子さん、あなたがいるんですよ」
「なにかしら?」
「遅刻取り消しにして下さい」
「走れば間に合うでしょ?」
「意表を突いて歩けば間に合いますかね」


「意表突く意味あるの?」
「なら、正々堂々と早歩きで行こうじゃないか」


「無駄話してると、本当に遅れるわよ」


京子さんは、すでに食器を片付け終えていた。


「お母さんは先に行くからね」
「うん」


「ったく・・・遅れたらお前のせいだからな」


ガツガツとお茶漬けをかきこんだ。


「なにお茶漬け食べてんの!」
「走るから大丈夫だよ」
「お腹痛めるじゃない」
「教室行く前に保健室に直行するから、大丈夫だって」
「それじゃ本末転倒でしょ」
「後で追いつくから、先に行ってろ」


お茶漬けを平らげにかかる。


「む~~~・・・」

「・・・・・・」

「っ・・・・・・」

「・・・・・・」

「~~~ッ・・・・・・」

「・・・・・・」

「あ~っ、もう! いつまで食べてるのよッ!」
「先に行けっつってんだろが!」
「気になってしょうがないじゃないっ」
「一緒に行きたいのか?」

 


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「・・・・・・んなワケないでしょ」
「遅刻したいのか?」
「したくない」
「じゃあ、なんなんだよ」
「どうせ遅れるなら、一緒にどうかな・・・って」
「誘うな」
「私だって好きで遅刻したいわけじゃないわよ!
もとはと言えば、賢一のせいでしょーがっ!
ほらっ、早く食べて、歯磨いて」
「お節介だな」


・・・・・・。

・・・。

 

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いつもどおりの学園生活が始まった。

本来、この学園にいる必要は無いのだが・・・。

 

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「おーいっ、賢一ぃ~」
「おっす」


「やっほー、ケンちゃん!」
なっちゃんもおはよ」

 

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「・・・・・・」
「なにか言えよ」
「昨日貸したビデオ、面白かった?」
「借りてねえし」
「後半のクライマックス、最高だったよね」
「なんの話だよ」
「オチがムカつくけど」
「結局どっちなんだよ」

 

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「賢一、ちょっといい?」
「あ、灯花、おはよう」
「おはようって、なによ! さっきまでずっと一緒だったでしょうが!」
「トガるなよ。 トゲ」
「トガってないよ。 普通に呼びなさいよ」
「灯花」
「なっ、なによ・・・」


じいぃ~~っ・・・・・・。

 

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「うっ。 み、見るなーっ」


ブンブンと腕を振り回してきた。



「・・・ふっ・・・」
「なに含み笑いしてやがる」
「いやいや、ちょっとね・・・」
「言いたいことがあれば、今聞くぞ」
「何回ヤッた?」
「ぶっ!? なんてこと聞くんだ!?」
「聞けと言ったではないか」
「質問が悪い。 死なすぞ」
「やれるものなら、やってみるがいい。
さあ、僕を捕まえられるのなら、つかまえてみなよ」


薄気味悪い笑みと共に、磯野は教室から去っていった。

無論、誰も磯野を捕まえない。


「んー。 今日もトんでるねっ」


「ところで灯花」
「なに?」
「何か用事でもあるのか?」
「えっ? うーん・・・」
「待っててやるから、ゆっくり考えてていいぞ」
「賢一のせいで忘れちゃった」
「いや、磯野のせいだろ」

 

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「僕のせいにするな!」
「前触れなしに出てくんな!」


尻を蹴飛ばし、廊下へ追いやる。


「用事って、料理じゃないの?」
「・・・あっ、そうだった」


「ついにスランプ到来か?」
「今日の弁当の中身、なんだと思う?」


うれしそうに聞いてきた。


「正解したら、これをあげるっ」


取り出したのは、普通のチョコ。

何の変哲もない、普通のチョコ。


「弁当の中身を当てて、って言ってるの」
「ふたを開けるまでのお楽しみ、てへっ・・・とか何とか言ってなかったか」
「言ってない!」
「深読みしすぎたか・・・」
「早く答えなさいよ。 このチョコ、新商品なんだからねっ」


チョコを自慢したいだけか。

 

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「人気ありすぎて手に入りにくい、あのチョコじゃない? それ」
「二個だけ手に入ったから、賢一にだけわけてあげようと思ったの」


タダじゃあげたくないから、クイズに答えろってか?


「わかったよ、弁当の中身だな」


しばし思案。


「生焼けのシャケ」
「ぶーっ! しかもなんで生焼けなのよ」
「生焼けの卵」
「半熟卵? たしかにそれも入ってるよ」
「それもってなんだよ。 何品あるんだよ?」
「え? おかずは八品あるよ」


「超豪華じゃん」


「それ全部当てるの無理じゃねえか?」
「あ、そっか。 難しいか。 ちょっと作りすぎちゃったね。
でもね、たくさん食べて欲しかったんだよ。 ごめんね」
「・・・・・・チョコは灯花が二つとも食っていいぞ」
「特別に分けてあげるんだから、もらっときなさいよ」


どっちだよ。


「じゃあ、もらっとこうか」


灯花からチョコを受け取った。

包装紙を解き、中身のチョコをほおばる。


「なかなか美味しいじゃないか」
「おいしーいっ!」


・・・。



「二人して幸せそうな顔して・・・ねえ夏咲」

 

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「・・・すやすや・・・」
「・・・・・・」

 

・・・・・・。

・・・。

 


全ての授業が終わり、太陽も西に傾いている。

 

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「賢一っ」


笑顔を携えながら、灯花はすぐにおれのもとへと寄ってきた。


「帰るか?」
「うんっ」


灯花と一緒に帰宅するという流れは、もう当たり前になっていた。


・・・・・・。

・・・。

 

「ただいま・・・っと」


帰るべき家があるのはいいね、としみじみ思う。

 

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「始めよ」


休む間もなく、夕食の準備を始める灯花。


「今日はおれも手伝ってやろう」
「なら、家周辺の草むしりをしててちょうだい」
「へいへい・・・ったく、人使いの荒いやつめ」


・・・・・・。


「はーあ・・・草むしりたるー。
久しぶりに一服でもするかね・・・。
ふーっ、ククク。 けっけっけ。 わはは、わはは」


「・・・なにしてんのよ」
「いや、ケムリを吸おうと・・・それより、手伝うことないか?」
「今日も一人で作りたいの」
「一人で? なんで?」
「賢一にはわからない感覚なのよ」
「教えてくれ」
「説明しづらいんだよ」
「もっと灯花のことを知りたい」


・・・。

 

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「えっとね・・・食べてもらいたい人の顔を思い浮かべながら作りたいから、集中したいって言う
か・・・」
「説明できてるじゃねえか」
「いちいちうるさいなぁ・・・」


たまにこう言って、一人で料理を作りたがるときがある。

灯花の意見だから、それなりに尊重してはいるが。


「じゃあ、明日は一緒に作らせてくれ」
「そこまで作りたいなら、別にいいけど・・・」


よしっ。

明日は目に物見せてやる。


「じゃあ、郵便受けに入ってるものを取ってきて」
「家入る前に見とけよ」


・・・。

 

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「夕刊、チラシ、勧誘、その他もろもろ・・・。
・・・・・・ん? これは・・・」


・・・。



「灯花ーッ! ビッグニュースだ!」
「なに?」
「玉子一パック、五十円だってよ!」
「ええっ!? 嘘!?」
「うん。 嘘」
「ぶっ殺すぞ!」
「少しは元気が出たか」
「誰も落ち込んでないわよ!」


・・・・・・。

・・・。



あれから灯花をなだめて、何とか夕食の準備に取りかからせることができた。


「うーん・・・あれとこれを使って・・・」


数々の材料を前にして、エプロン姿の灯花は悩んでいた。

見慣れた光景だが、真剣さだけはいつもと変わらない。

灯花が一人で作ると言った以上、余計な手出しはしないことにしている。


「ねえ賢一、ちょっといい?」


こうして呼び出しがかかる以外は。


「またしょうゆをビンに分けるのか?」
「ちがう」
「なんだよ」
「玉子を二パック買ってきてくれない?」
「さっき言ってた、一パック五十円のやつか?」
「嘘なんでしょ、それは。
普通のでいいから、大急ぎでお願い」
「任せとけっ」


すぐさま大音家を飛び出し、買い物に出かける。


「あっ、ちょっと・・・」


・・・・・・。

・・・。



玉子を割らず、全速力で駆けて来た。


「・・・・・・」
「ほらっ、買ってきてやったぞ」
「ありがと・・・」


灯花の役に立てて嬉しいぞ。


「それと悪いんだけど、ケチャップも買ってきてくれない?」
「・・・・・・はあ?」
「だから、ケチャップを・・・」
「はあ!?」
「なっ・・・なにキレてんの?」
「ついでに言えっての! また行くのかよっ?」
「もう一つ頼む前に、賢一が勝手に飛び出したんじゃないっ」
「・・・そうだったか?」


今までの記憶をたどってみた。


「こんな感じだったよな」

 

・・・・・・・・・。

 

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「ねえ賢一、ちょっといい?」
「またしょうゆをビンに分けるのか?」
「ちがう」
「なんだよ」
「玉子を二パック買ってきてくれない?」
「さっき言ってた、一パック五十円のやつか?」
「嘘なんでしょ、それは」
「普通のでいいから、大急ぎでお願い」
「他に何もいらないか?」
「ううん、いらない」
「ホントに?」
「ふふっ、気を使ってくれてありがとう」
「いや・・・」
「だから、賢一、好きだよ・・・」
「お、おう・・・じゃあ、行ってくるな」


・・・・・・・・・。

 



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「違う! なんか違う! 絶対に違う!」


憤慨していた。


「しょうがねえな。 ケチャップ買ってくるよ」


再び買出しに行くことになった。


・・・・・・。

・・・。

 


今日はオムライスだった。


「おれの苦労と努力の結晶でできた、貴重な夕食だぞ」

 

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「作ったのは私よ」
「毎日こんなに美味しい料理を食べられるなんて、私たちは幸せ物ね」
「お母さんったら褒めすぎだってば」


ニコニコしながらオムライスをほおばる。


「賢一はどう? 結構、美味しくできたと思うよ」


スプーンですくって食べてみる。

くやしいが、文句なしに美味しかった。


「くっ・・・」
「ん? なになに?」


灯花は勝ち誇った態度をとっている。

対抗したくなったおれは、やおらスプーンを置いて言ってやった。


「ふっ、まだまだ甘いな」
「・・・えっ?」
「まず、中身のチキンライス。
ケチャップの量が適切で、美味いと思うぞ。
それと周りの玉子焼き、内面のとろけ具合がなかなかいいな。
味も中身のチキンライスとマッチしている」
「つまり、結論は?」
「美味しいです。 はい」
「賢一もやっと私の腕を認めたようね」
「いや、このスプーンがいい味出してると思うぞ」
「味しないから!」


「全くよね・・・。
それとお昼の弁当、なかなか良かったわよ」
「そう? 悪い所とかなかった?」
「私からは特になにも・・・森田君なら、的を射た意見を出してくれると思うわ」


二人の期待しているような視線が、一心におれへと向けられる。


「・・・・・・」
「・・・・・・」


・・・。


「なに見てんだよ」
「答えなさいよッ」
「そうだな・・・」


今日の弁当の中身を思い返してみる。


「のり弁は良かったな」
「おかずの方っ」


おかずは・・・鶏のから揚げ、野菜サラダ、ほうれん草のお浸し、その他もろもろだったな。

味だけではなく、肉や野菜のバランスを考えているところもポイントだ。

凝りすぎちゃいないか?


「から揚げはジューシー。 サラダに関しては塩分も適量と思われる。
お浸しもカツオの味付けが最高だった。
どこにケチつけろってんだよ」
「なんでキレ口調なのよ。
とりあえず、良かったってことでいいのね?」
「その通りだ!」
「なんで怒ってんの?」

 

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「灯花の料理が、おいしすぎて嬉しいからに決まってるでしょ」


灯花を褒めるとき、嬉しすぎる態度とりすぎ・・・。

親バカ?


「森田君、心の声が聞こえてくるわよ?」


切り替えが早いなあ。


「味の上達を望むのもいいが、料理のレパートリーを増やしてみたらどうだ?」
「結構な数を作ってると思うけど?」
「今の灯花は、誰でも作れるような料理を身につけたにすぎないじゃないか」
「む・・・確かにそうよね」
「アレンジした料理を作ってみる、オリジナル料理を作ってみる・・・。
いろいろあるだろ?」


灯花は、へぇ・・・と感心しながら頷いた。


「うん。参考にしてみる」
「他に、お菓子に挑戦してみたりとか」
「お菓子の方は、休日に作ってるからいいよ」


ケーキだけな。


「アレンジやオリジナルを作ってみるのもいいけど、みんなのリクエストを聞いて作ってみる・・
・っていうのもいいよね」
「明日から期待してもいいのかしら?」
「任せといてよ」


「どこからそんな自信がわいてくるのやら・・・」
「いちいちうるさいのよ!」
「一応、灯花の心配はしてるんだぞ」
「そんな風には見えない」
「見せてないからな」
「見せなさいよ」
「どうすりゃいいんだよ」
「肩がこったら揉んであげたりとか」
「それは要求か? こうしなさいという・・・」
「た、例えの話よ、今のはっ」
「だよな~。 どおりで年寄りくさいと思ったんだよ」
「賢一だって、肩こりくらいするでしょ」
「どうだろ。 よくわかんね」
「お母さんも」


「まあねぇ・・・」


「ほらっ!」
「ほらってなんだよ、ほらって」
「私の言ったとおりでしょ」
「なにを言ったんだよ」
「若くても肩はこるって」


・・・言ったか?


「とにかく、そういうことよ」
「まとめに入ってるし」


とりあえず、色々とチャレンジさせてみるが吉かもな。

そんなこんなで一日が終わっていく。


・・・・・・。

・・・。

 

 

・・・・・・。

トントントントントン。


ジュージュージューッ。


いつもの目覚まし音が聞こえてくる。

しかも、食欲を促進してくれるというオプションつき。

寝ぼけた脳細胞も、一瞬にして覚醒してくれる。

 

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「・・・おはよう」
「おはよー」


台所から灯花の声と、まな板を叩く音が聞こえてくる。


トントントントントン・・・・・・。


「・・・この単調な音が、再び睡魔を誘発する・・・」


二度寝はよくない。

顔を洗ってこよう。


・・・・・・。


リビングに戻ってくると、すでに朝食の準備が終わっていた。

 

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「相変わらず準備が早いな」
「賢一がボーッとしてるだけでしょ。
まっ、寝起きすぐならしょうがないんだけどね」


灯花はポットを取りに台所へ戻った。


「・・・・・・」


悪戯したくなった。


「・・・・・・何してんの?」


早速ばれた。


「いやあ、灯花が気づくかと思って」
「何してたの?」
「おれと灯花の箸を入れ替えてみた」
「・・・バカ・・・。
暇があったら、準備手伝ってよね」
「ほとんど終わってるじゃないか」
「声をかけるくらいしなさいよ」
「灯花、手伝うことはあるか?」
「ない」
「だったら、声かけさせるんじゃねえよ」
「明日からすればいいでしょ」
「あー、ムカつくムカつく」
「それは私のセリフよ・・・」


・・・。

 

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「おはよう、二人とも」


いいタイミングで、京子さんがリビングにやって来た。


「お母さん、賢一が朝からムカつくんだけど」
「あらそう?」
「あらそうって・・・だいたいなんで、賢一はうちに住み着いてるの?」
「なんでって。 灯花が許したんじゃない」
「覚えがないよ」
「賢一と一緒がいいっ、なんでもするよぉって、かわいい声でお願いしてきたじゃない」
「そんなことはなかった!」
「森田君は遠慮してたじゃない。
でもあなたが、お願いだよぉ、賢一が大好きなんだよぉって、猫なで声で言ってたじゃない?」
「そんなことはなかった!」


「お前さ・・・」


なんで、普段はこんなにトゲトゲしいのかね。

 

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「うぅ・・・・・・け、賢一・・・」
「なんだよ?」
「勘違いしないでよね、勘違いしないでよねったら、勘違いするなってのよ」
「はあ・・・・・」


「ふふっ、早く食べて学園に行きましょう」


昨日と同じように、凝ったおかずばかりだった。

灯花のやつ、がんばってるんだな。


・・・・・・。

・・・。

 


昼休みになった。

各々の生徒は弁当を広げ、互いの中身を見せ合っている。


「おーいっ、灯花」


灯花の席まで移動。

 

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「なに?」
「呼んでみただけ」


引き返した。


「お弁当でしょ!」


ズンズンと足音を立てながら、こちらへやって来る。

あまりの豪快さに、床が抜けるのではないかと心配した。


「今日のおかずは何かな?」
「当ててみて。 賢一なら分かるでしょ」
「三色飯」
「えぇっ!? 何で分かるのよ?」
「朝に三十度の角度で、チラッと見たから」
「見るなって言ったのにーっ!」
「こう・・・チラッ、チラッとな」
「再現するなッ!」


カンニングされたせいで、ムカついているようだ。


「熱くなりすぎ。

プールにダイビングして、頭冷やして来い」

「なんでそんなことしなきゃいけないのよ」

 

 

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「また愛妻弁当? ホント仲いいね」
「そ、そんなんじゃないわよ・・・・・・・」


「さあ、無色ご飯をくれ」
「無色じゃないから! 無色だったらただの白飯だから!」
「つっこんでくるなあ・・・」


冷えかけたエンジンに、再び熱がこもりだした。


「灯花、そろそろおれの四色飯を・・・」
「そんなのないから!」


荒々しくおれの弁当を取り出し、机の上に置いた。

ふたを開けてみれば、中身は普通の三色飯。


「おいしそうだな」
「・・・・・・ふん」


一人パクパクと食べだす灯花。

中身はもちろん、おれとお揃いの三色飯だ。


「さちの弁当は?」
「これ」


ビニール袋を手にぶら下げていた。


「灯花。 さちの分も作ってきたらどうだ?」
「いいっていいって。 あたしこれだけで充分だからさ」

「ウソつけ」
「飢え死にしそうなときは、灯花に頼るから」


「しょうがないなあ」


料理に関することならば、まず灯花に頼る。

暗黙の了解みたいなものだ。


「灯花さあ、田舎町を出て都会で自分の料理を披露したーいっ! とか思わないの?」
「まだ学園があるし・・・お母さんもいるし・・・」


料理の評価は、基本的におれたちがやっている。

しかし、それだけでは足りない。

かたよった人の評価だけではなく、世間一般の意見を取り入れることも大事だろうな。


「そういうイベントでもあったら教えてやる」
「うん。お願い・・・」

 

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「なんかいいなあ。灯花専門のサポーターみたい」
「お前もしてやろうか?」
「んー、気持ちは嬉しいけど、賢一は灯花を選んだわけだし、あたしが割って入っちゃダメっしょ
?」
「手伝うくらい、どうってことない」


「賢一は頼りになるよ。 手伝ってもらったら、さちももっと思い切ったことができると思うよ」
「いやー、ここまであたしのことを想ってくれるなんて・・・いい友達に恵まれたね、こりゃ」


てへへっ、と爽やかな笑顔を見せるさち。


「でも、ホントにいいよ。 今は灯花につきっきりで手伝ってやんなよ。
んでもって、灯花が料理人になった暁には、毎日無料であたしに料理を振る舞ってくれるの」


まぁ・・・さちらしい意見だな。


「料理人かあ・・・」


一人呟きを残し、弁当を食べ終えた。


「今日もなかなかのものだったぞ。 さすがは灯花だな」
「ん・・・・・・ありがと」
「どうした?」
「・・・・・・」


それから一日中、灯花は考え事をしているようだった。


・・・・・・。

・・・。

 


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「今日は一日中、ぼーっとしてたな」
「夏バテってヤツだと思う」
「ふーん」
「ねえ、賢一」
「なんだ?」


真剣な面持ちに対し、真面目な体勢を取る。


「あのね・・・・・・」
「ああ・・・」
「冬バテってないの?」
「あるかっ!」
「へえ~・・・」
「じゃあお前、あれか? 冬になったら寒さに負けて食欲な~い・・・だなんて言うのか?」
「そんなこと、あるわけないじゃない」
「・・・もしかして、そんなことで悩んでいたのか?」
「そんなことってなによ・・・とにかく、帰ろ」


・・・。



「ちょっと待ちたまえ」


磯野が両腕を伸ばし、通せんぼを図る。


「1番、前髪を結んで見る。 2番、前髪を燃やしてみる。 3番、前髪を捨てる・・・さあ、ど
れ?」
「全部」
「結んで燃やして捨てる、ということになったぞ」

 

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「君たち、僕のことが嫌いなのか? そうなのか?」


絶望しているようだ。


「何か用か?」
「当然だ。

用もなく立ちはだかる理由が思いつかない。
今日、君たちの家に小包が届くだろう。
いや、届いていないかもしれない。
が、しかし、明日になるかもしれない。
と思っていたら、今日の夕方ごろには届いていると思うんだが、どうだい?」
「要するに、今日の夕方に何かが届くってか?」
「そうそう」
「予言か?」


「時計の針の音がしたら、すぐに捨てるからね」
「突飛な話に持っていくな」


「安心しろ、爆弾ではない」
「そう言われると、余計に不安なんだよ」
「ふっ・・・ケンよ。 お前の好みは分かっているぞ」
「はぁ?」
「なかなかにマニアックじゃないか」


意味が分からん。


「それではみなの衆、また明日っ」



「明日は休みだ」



・・・・・・。


「私たちも帰りましょ」
「そうだな」


磯野の言葉は当てにせず、さっさと帰宅することにする。


・・・・・・。

・・・。




学園から帰宅し、玄関に入るが・・・。


「・・・・・・マジか?」


小包が届いていた。

 

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「針の音は?」
「しねーよ」


宛名を見てみる。


「灯花、磯野からお前宛だぞ」
「うげっ!? なっ、なんでよ・・・」
「部屋に持ってけ」
「いやよ! なんか嫌な予感がするよ!」


灯花は小包を無視し、台所へと向かった。

学園から帰ったら、すぐに夕食の準備。

もう習慣というか、当たり前になっている。


・・・・・・が、今日はある約束をしていたはずだ。


「待て。 昨日の約束を忘れちゃいないか?」
「昨日?」
「今日はおれが一人で作るって、そう言っただろう?」


灯花は視線を中空へと移し、んーっとうなっていた。


「『一人』じゃなくて『一緒に作る』・・・じゃなかった?」


細かいトコまで覚えていやがる。


「たまにはいいじゃないか。 灯花は料理の本と睨めっこしてろ」
「う~ん・・・じゃあ、今日は任せたわよ」


言いながら台所を出て、自分の部屋へと戻る。

やけにあっさりだな。


「体調でも悪いのか?」
「ちょっと考え事」


リビングから出て行ってしまった。


「ふむ・・・」


まあ、いい。

あとでわけを聞くとして、今は夕食の準備だ。


「さて、何を作ろうかな・・・」


大音家の冷蔵庫を漁り始めた。


「さすが灯花。

食材の並び方がきちんとしている」


野菜から肉、玉子や調味料など全て、綺麗に冷蔵庫の中に納まっていた。


「料理に関してはもう一人前・・・いや、まだかな?」


力になってやりたいな。


「チョコレートが入ってるのも灯花らしいな」


アルミホイルに包まれた食べかけのチョコレートをひとかけら失敬し、今日のメニューを考える。

ふと、海老が目についた。


「よしっ、これ使おう」


昨日買って来たケチャップや、豆板醤も置いてあった。


「海老、ケチャップと来たら、これしかないだろ」


今日の夕食はエビチリに決定。

灯花をぎゃふんと言わせるべく、久方ぶりの料理に力を入れることにした。


その頃、灯花の部屋では・・・・・・。

 

 



「ぎゃふんっ!」

 

・・・。

 

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「・・・? 変なくしゃみだなあ。
・・・それにしても料理人か・・・。

私、本当になれるのかな? あまり自信がないよ。
賢一たちは遠慮なく悪い所を言ってくれてるけど、それでも足りないような気がするし・・・うーん。
他の人たちと、料理の腕を競う機会でもあればいいんだけどなあ。
賢一に相談したら、考えてくれるかな・・・。
ううん。自分でも何か考えなきゃ、子供じゃないもんね。
うーん・・・どうしよ・・・」



・・・・・・。


「そういえば、磯野から私宛に荷物が届いてたんだっけ。
気分転換に、ちょっと見てみようかな。
・・・・・・」


タタタタタ・・・。



・・・。


 

タタタタタ・・・。


「針の音は・・・しないわね、よしっ」


ガサゴソガサゴソ・・・・・・。

 

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「って・・・なにコレぇ!?
メッセージがある、えーっと・・・。
・・・・・・余計なお世話よ!
ったく・・・磯野って変態だったのね、こんなもの送ってくるなんて・・・。
・・・・・・で、でも・・・」


ドキドキ。

 

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「でも賢一は、コレで喜んでくれるのかな?
う~ん・・・恥ずかしい、けど・・・。
うぅ・・・ドキドキしてきちゃったよ・・・」


・・・・・・。

・・・。



「さあ、食いやがれッ」


無事、夕食を作り終えた。

今日のメニューは自慢の一品、エビチリ。

女性陣が多いため、少し甘めに仕上げてみました。


「ソースも一から作ってみたぞ」

 

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「森田君もやるじゃない」
「・・・・・・」


「どうした?」
「べっつにぃ」


先ほどから、ため息ばかりだ。


「疲れてるなら、無理して食べなくてもいいぞ」
「いい。 食べれる」


いただきますをしてから食べ始めた。


「普通に美味しいじゃない」


よしっ、ボーダーラインは突破。

あとは灯花の評価を待つのみだ。


「・・・・・・」


・・・灯花はただ黙々と食べ続けている。


「あのー、灯花さん?」
「なに? 普通に美味しいけど」


親子そろって『普通においしい』かよ、そりゃないぜ。


「もう少し突っ込んだ意見をくれないか? 相手の料理を評価するのも勉強の一環だ」
「それもそうね・・・。

じゃあ遠慮なく言うけど、覚悟はいい?」


いつもよりも強気な灯花だった。

思わず身構えてしまう。


「ソースが海老になじんでるのはいいけど、味付けが辛すぎない?」
「そうか?」


自分の分を食べてみる。

 

 

「普通に甘いぞ。 灯花と京子さんの分は、甘く作ったつもりだが・・・。
っておれ、出すもの間違えた!?」

 

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「これ、賢一の分!?」


おれの分のエビチリを、間違えて灯花に渡してしまったらしい。


「これはあれだ、自信作である辛めにできたやつを渡して、評価をもらおうとだな・・・・・・」
「自分で間違えたって言ってたじゃないッ」
「そんな過去のことを引っ張り出すな、見苦しいぞ」


「それほど昔のことではないと思うけど・・・」


「ボーっとしてたんだ。 寝ながら料理してたから」
「なおさら台所に置いておけないわ。 危なっかしいっ」


大音家の台所を支配している王様が、国外追放を下す。


「冗談に決まってるだろ。 うっかりだ、うっかり。
誰にでもあるってこういうの。 灯花は別だけど」
「取ってつけたみたいに言うなっ!」


騒がしい夕食は、こうして幕を閉じた。

毎日こんな雰囲気が流れている食卓は、やっぱり心地いいものだ。


・・・・・・。

・・・。

 

 

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食後だらだらと時間を潰していたら、いつの間にか日付が変わっていた。

次の日の学園が休みだとしても、規則正しい生活をするのが長生きの秘訣ってもんだ。


「年寄思考の頭してんな、今のおれ。
灯花はどうせ夜更かしでもしてんだろ。 ちょっと脅かしてやるか」


・・・・・・。


灯花の部屋の前に来た。


「はっ、待てよ・・・。
これは、パジャマ着替えている最中にうっかり入ってしまうという、ベッタベタなシチュエーショ
ンでは?」



――――

『よう、灯花』
『・・・あっ・・・』
『・・・着替え中か。 こりゃ失礼・・・』
『でっ、出てけーっ!』

――――



前にもそんなことがあったような、ないような。


「・・・よーし・・・」


ドアノブに手をかけ、意を決し灯花の部屋へ・・・。


「見ないでよっ!!!」

 

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「はわわわっ!?」


灯花はまだ私服で、着替えている様子も無い。

ただ、ベッドに横になっているだけだった。

あれ、違った?


「なら・・・出てけーっ!!!」

 

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「あんたが出てけーっ!!!」


色んなものを投げられた。


「うわととっ! いてッ! ちょっと待て! 着替え中じゃなかったのか!?」
「はあっ!?」
「・・・何でもない・・・」


早とちりみたいだ。


「着替えって・・・変態」
「いやっ、違うッ。
昼辺りから元気がなさそうだったから、ハッスルさせようと思ってきたんだ。


・・・。

 

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「・・・なかなかに気が利くじゃない」
「いつも灯花のことを見ているからな」
「・・・・・・」
「顕微鏡で」
「どれだけ小さいのよッ!」
「じゃあ双眼鏡で」
「やっぱ覗いてるんじゃないの!」
「別に灯花を怒らせるために、部屋を訪れたりしたわけじゃないんだ」
「着替えを覗きにでしょ。 やっぱり変態だったのね、賢一って」
「変態で結構。 それより、悩みがあるのなら言え。 遠慮はするな」
「・・・・・・」


俺に促された灯花は、ぽつぽつと話し始めた。


「私、このままで料理人になれるのかなあ・・・って思って」


今日の昼休み、そんなことを話していたような気がする。


「お前の悪いクセだぞ。 弱気にならずに自信を持って色々と挑戦してみろ」
「うん・・・」


何度かこんな相談を受けたことがあるな。

料理人になれるのか、って自信なさそうにしていた。


・・・・・・義務を負ったことによる後遺症か。


自ら行動を起こすことができなかったため、見えない未来が引き起こす結果が怖いのだ。


「賢一たちから色んな意見をもらって、これ以上はないってくらいに感謝してる。
でもやっぱり、なにかが足りないような気がするんだよね。
こう・・・なんて言うのかな。 新しい刺激が欲しいって感じで・・・」
「毎日が退屈か?」
「うん、そんな気がする。 だから、自分で考えてみたよ」
「・・・・・・何を?」
「新しい刺激ってやつ。 賢一が夕食の準備をしているときに、自分なりに考えたんだよね。
他の人たちと料理の腕を競えるような機会があれば、自分の実力とかも分かるし、なにより刺激に
なるし・・・」
「他人と腕を競い合うね・・・」
「料理を作るのは楽しいんだけど、今私がやっているようなことは、誰にでもできるじゃない?
料理人になるんだったら、別になにかをした方がいいと思うんだ」


いままでの灯花からは、考えられないほどの行動力だった。


「お前がそこまで思いつめているなら、おれが一肌脱いでやるか」
「えっ?」
「新しい刺激が欲しいんだろ? だったら、何か良い案を考えてやる」
「・・・ありがとう」


少しだけ、表情が柔らかくなった。


「何だか悪いね。 勝手に悩んでたのに頼みこんじゃってさ」
「・・・なんか不気味だな。 いつもの灯花らしくない」
「?」
「この辺で『賢一のくせに威張りすぎ』とか言ってくるのかと思った」
「いや・・・言わないって・・・」
「何にせよ、任せろ」
「賢一の『任せろ』より頼りになるものはないよね」


昔を懐かしむような目をしていた。


「もう寝ろ。 夜更かしすると肌が荒れるぞ」
「いちいち賢一に言われなくても分かってるわよっ」
「ははっ、やっと元気になったな。 んじゃ」


手を振り、部屋を出ていこうとした。


「ちょっと・・・賢一」
「あん?」
「私の部屋に来た理由はそれだけ?」
「そうだけど?」
「・・・・・・」


沈黙したが、何か言いたそうだ。

じっと待ってみる。


「・・・・・・」
「・・・・・・こんな時間に私の部屋に来たってことは、もう一つ用事があるはずよね」
「え?」
「あ、の・・・」


両手を体の前に持ってきて、太ももをすり寄せている。


「え、えっと・・・・・・」
「あー・・・。

灯花がいいんなら、別にいいぞ」

 

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「・・・・・・そ、そっか・・・」
「じゃあ・・・・・・」


灯花に近づいた。

 

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「わわっ。 ちょ、ちょっと待って!」
「どうした。 やっぱり嫌か?」
「そ、そうじゃなくて・・・うーんと・・・」


灯花は顔を真っ赤にさせて、指先をモジモジとさせていた。

 

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「賢一は・・・・・・その・・・ね?」
「ね? と言われてもなぁ」
「賢一は・・・・・・あ、と・・・そのぉ・・・た、体操服って、好き?」
「・・・・・・は?」
「何度も言わせないでよ・・・。

それで、好きなの? 嫌いなの?」


いきなりなんなんだ?


「質問の意図が分からんが・・・動きやすいし、運動するときにはもってこいだから、好きと言え
ば好きなのかな?」
「賢一自身の考えはどうだっていいのよ」
「・・・何が言いたいのかよく分からん」
「つまりぃ・・・私が・・・た、たた体操服をね・・・・・・その、き着た姿を・・・・・・見てみたいかなぁ~、なんて・・・・・・」


灯花の体操服姿?


「正直、見てみたいと思う」
「へぇ・・・・・・賢一って、体操服が好きなんだぁ・・・・・・」
「? 好きと言えば好きだぞ」
「・・・・・・」


俺の目をじっと見据え、やがて口を開いた。


「十分くらい、廊下で待ってて。 準備するから」
「準備って、何の準備だ?」
「いいから出るの! 私にこれ以上恥をかかせる気!?」
「わかったよ・・・」


仕方なく外に出ることにした。


・・・・・・。

 

「一体なんだってんだ?」


ワケがわからず外に追い出され、鍵まで閉められた。


「何の準備だろ・・・・・・」


好奇心から、つい中の様子を探ってしまう。

ビニール袋を開く音がした後、服がこすれる音がする。

着替えてるのかな?

まあいい、どうせ勝負下着とかいうものでも仕込んでいるのだろう。

相変わらずおれに対してだけは、殊勝な心がけだ。


・・・・・・・・・。


・・・・・・。


・・・。



「十分の倍は経ってるぞ」


中からも音が聞こえなくなっている。


「灯花?」
「・・・・・・なに?」
「お前にとっての十分って、おれたちの感覚でいうところの二十分か?」
「う、うるさいわね! もう準備できたから、入りたかったら入ればいいじゃない!」
「そうしたいのはやまやまなんだが、鍵を開けてくれ」
「・・・開けても、すぐに入ってこないでよ」
「わかったよ」


しばらく経ってから、鍵の開く音が聞こえてくる。


そして、タッタッタッと部屋内を走る音が聞こえ・・・。


・・・転ぶ音がした。


「・・・おい、大丈夫か?」
「大丈夫だから、入ってくるな!」


ベッドに駆け込む音が聞こえる。


「はっ、入りたいなら入れ!」


何なんだろう?


ゆっくりとドアノブを回し、部屋へと入る。

 

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・・・。

 

布団は掛け布団にくるまり、ベッドの上で丸まっていた。

ついでに、頬を赤く染めながらおれを睨んでいる・・・・・・が。


「メガネ?」
「・・・・・・・・・」
「お前、目が悪かったっけ?」
「伊達メガネってヤツよ!」


なぜキレる?


「なかなか似合うじゃないか」
「そう・・・・・よかった」


ほっと安堵の息を漏らしていた。


「ん?」
「ったく、なんで私がこんなことを・・・ううん・・・これも賢一に喜んでもらうためなんだから、ガマンガマン」


ブツブツと何かを言っているようだが、おれには聞き取れなかった。


「さっきはどうしたんだ?」
「うるさい、バカ賢一!」


おれ、怒られるようなことしたか?


「私も頑張ったんだから、笑わないでよね」
「笑うって、何を?」
「・・・・・・・・・」


灯花は掛け布団を、ゆっくりと外していった。


そして、目の前にいたのは・・・・・・。


体操服姿の灯花、オマケで、伊達メガネ。


「・・・・・・お前、何してんの?」
「笑うなら笑え!」


さっきは笑うなって言ってたくせに・・・。


「しかし、何でまたそんな格好を?」
「・・・・・・磯野が送ってきた荷物の中に、こんなものが入ってたからよ」


・・・。


アイツめ・・・何がしたいんだ?


「それでメッセージが入ってて、『ケンはこういうのが好きだから、着れば喜ぶ』って書いてあっ
たから・・・」


おれのために、恥ずかしながらも来てくれたってわけか。


「ど・・・どう? 似合ってる?」


口では説明できないほどの衝撃だが、言葉にしなければ何も伝わらない。


「似合ってるし、可愛いと思うぞ・・・」


おれの答えを聞いた瞬間、灯花の顔が真っ赤に染まる。


「そ、そそ、そうなんだねっ・・・・・・よ、よかったよ、あ、あははっ・・・」


ガチガチに固まっていた。

・・・・・・そんな調子じゃ、何もできねえぞ。


「緊張してんじゃねえよ・・・」
「う、うるさいわねっ・・・誰だって、緊張するじゃないっ」


細くて白い首、すらっと細く伸びた腕、ピチッと締まったヒップに、そこから伸びているふっくら
とした足。

灯花の今の姿を見たおれは、心臓がバクバク言っている。


「どど、どうしたのよ? 来るなら来なさいよっ!」


緊張しているのはお互い様。

 

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電気を消し、ついでに鍵も閉める。


「・・・・・・」


灯花の視線は、近づいてくるおれの足元しか見ていない。


「・・・っ・・・」


両手で自分の身体を抱え込むようにして座っていた。

緊張で身体が震えているように見える。


「灯花・・・」


肩に手を置き、顔を上げるように促す。

顔を上げた灯花の瞳はうるうると潤んでいた。


「・・・・・・」


おれは灯花の小さい唇に、そっと口付けをした。


「んっ・・・・・・」


ぷにぷにとした柔らかい唇の感触が、おれの唇を優しく押し返す。


「けんいちぃ・・・」


甘えた声で、おれの名前を呼んだ。


「あ、や、優しくしてぇ・・・」
「やれやれ・・・」


更にキスを重ねた。


「んん・・・んっ」


灯花も積極的におれの唇を求めてきた。


「はあっ・・・けんいちぃ・・・」


熱っぽい吐息が、灯花の昂ぶりを思わせる。

おれも灯花の興奮につられ、自分の吐息を灯花の唇にぶつけた。


「はっ・・・・・・んんっ・・・」


灯花の切ない目が、おれを捉えた。

表情はぽーっとしていて、どこか艶めかしい。

いや、灯花の場合は可愛かった。

勢いに身を任せ、灯花をベッドに優しく押し倒す。

 

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「・・・・・・」


おれの視線と、灯花の震え続ける大きな瞳が重なった。


「・・・灯花・・・」


引き寄せられるように、自然と顔を近づける。

灯花はまぶたを閉じ、おれのキスを受け止めた。


おれたちは、互いを求めあった・・・。


・・・・・・・・・。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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「・・・・・・」


しっかし、これが朝になると・・・・・・。

いや、あまり考えるのはよそう。


「んっ、ちゅっ・・・」


キスをしてくる。


「うれしぃなぁ・・・・・・けんいちが、そばにいてくれるよぉ」
「このまま一緒に寝ようか」
「うんっ。 抱き合って寝ようね」


そのまま二人で、朝を向かえた。

灯花の体温が、おれを優しく包み込んでいた。


・・・・・・。

・・・。