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車輪の国、悠久の少年少女 夏咲シナリオ【2】

 

・・・


「うーん・・・」
「くーっ・・・」


夏咲は寝ていた。

おれは暗号とにらめっこしている。


「くぅーっ・・・すぴーっ・・・」


座ったままの姿勢で、こっくりこっくりと頭を上下に振っている。


なっちゃん!」


猫だましをかけてみた。

 

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「はぁうっ!?」


後方によろめきながら手をつく夏咲。


「おはよう」
「あっ、ケンちゃん早いね・・・」
「何が早いの?」
「だから、起きるのが・・・」
なっちゃんが居眠りしてただけだよ」

 

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「そっか・・・ごめんね。 どこまで進んだの?」
「全く進んでない。 ていうか、思い出せない」


解き方が。


「うーん・・・わたし思ったんだけどね・・・寝起きでいきなり思ったんだけどね」
「うんうん」
「あ、なんだっけ。 忘れちゃった」
「おいおい」
「とりあえず、くっついてもいい?」
「とりあえずって・・・」


おれの返事を待たず、近づいてくる。

 

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「えへへ・・・ケンちゃんだ・・・。
目を覚ましたらケンちゃんがいつでもそばにいるよ・・・」
「・・・・・・」

 

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「んっ、ちゅっ・・・」


首筋をついばむようにキスされた。


「な、なっちゃん・・・」


頭がぼんやりとしてくる。

そっと、夏咲の腰に腕を回す。


「あ、思い出した」
「え?」


とろんとした瞳が、急にクリアになる。


「この暗号文ね、全部で十四文字あるでしょ。
だから、二文字ずつ考えてみたらどうかなって思ったんだよね」
「二文字・・・」


夏咲が紙に書きながら説明していく。


『15 94 55 32 85 31 12』


「ここがこんなんなって、全部で七文字かなあって思ったんだけど。
あはっ・・・やっぱ違うよね、変なこと言っちゃったよ。
ケンちゃんも気づいてたんでしょ、実は?」
「いや、気づいてなかったけど・・・」
「えっ? そうなんだ」
「なんか思い出しそうだな・・・」


あごに指先を沿え、夏咲が書いた数字を見つめた。


・・・・・・。


・・・。

 

「あ・・・確かにそんなだった気がする」
「わかったの?」
「ああ」
「すごいなあ・・・ねえ、教えてっ、教えてっ」
「おれだけ解けても楽しくないだろうし・・・なっちゃんもどうせなら解いてみたくない?」
「解いてみたいけど・・・難しいよ。 こういうの苦手だし・・・」
「ヒントを上げるから考えてみてよ」
「ヒントありなら・・・うん、やってみるっ」
「まず一つ。 なっちゃんの今の考え方は間違ってないよ」



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「二つの数字で一つの文字を表してるの?」
「そうそう、んでもう一つのヒントは、分けた二つの数字を片方づつ別々に考えてみたら分かるかも。 五十音順で」
「んー?」
「左側の数字は1から9までで、9の次は0が入って計十通り。
右側の数字は1から5までの五通りまでしか変わらないんだ」
「うーん・・・?」
「時間をあげるから考えてみて」
「・・・うん・・・」


・・・・・・。


・・・。

 

なっちゃん、どう? わかった?」
「え・・・えーっと・・・」
「・・・・・・」


夏咲ならおそらく、こう言うだろう・・・。


「三郎さんの部屋・・・かな?」
「・・・・・・」
「ケン、ちゃん?」
「正解! よくわかったね」
「あっ・・・そうなんだ・・・ほっ」
「ちなみに聞いてみるけど、解き方は分かるかな?」
「それが・・・あんまり・・・」
「じゃあ説明してあげるから、聞いてなよ」
「・・・うん・・・」
「数字の並び方はこんな感じ」


『15 94 55 32 85 31 12』。


「さっき私が並べ替えたとおりだね」
「そう。 まず『15』っていう数字に注目してみよう。
この『1』って数字は、五十音順でいう『あ行』になるんだ」
「『あ行』って、『あいうえお』だよね?」
「そうそう。
ちなみにこの数字が『2』だと『か行』、『3』だと『さ行』になるんだ。
ちなみに『0』は『わ行』。
次に『5』って数字は、母音である『お』になる。
詳細はこんな感じ」


おれは紙に、1から5の数字を示す母音を書いた。


『1=あ』『2=い』『3=う』『4=え』『5=お』。


「じゃあこの『15』は、あ行の5番目の文字だから・・・『お』っていう文字?」
「その通り。 その法則に基づいてこの暗号を解いていくと・・・」


紙に答えを書いていく。


「あ、わかったよ、ケンちゃん」
「わかったかい?」
「『おれのしょさい』でしょ?」
「おおー」
「うんっ、三郎さんの書斎だよねっ」
「しかし、またゴミ捨て場をあされってのか・・・」
「昨日ケンちゃんが引っかかった、びっくり人形さんがお宝かな?」
「だったらマジでつまんない。 それで夏休み終了って気分だよ・・・」
「とにかく、それらしきものを探してみようよ」
「・・・ここまできたら最後までやるか。 少しは暇つぶしができたし」
「お宝を見つけたら、次はいつもどおりの夏休みだよ」
「まったりと過ごしたいね」


おれと夏咲は、再び書斎を訪れることになった。

意外にもあっけない結末だったが、まあいいだろう・・・。

所詮こんなものだったのかもしれないし。


・・・・・・。


・・・。

 

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「・・・なかなか見つからないね」


小一時間ほど調べまわっているが、それらしきものは今のところ見当たらない。


「あの暗号文といい、宝の地図といい・・・。
ただのいたずらで書いたものなんじゃないかな?」
「わたしは、そう思わないけどなぁ・・・」
「どうして?」
「字が生き生きしてて、楽しそうだったから」
「おれたちを困らせようとしてたから、そんな字が書けるんじゃないかな?」
「三郎さんの手紙を読んでたら、なんだか楽しい気分になってきちゃったんだよ」


そんなとき、足に何かが引っかかった。


「何だろ?」


足元を見てみると、金物の箱があった。


「・・・開けてみる?」


おれは頷き、箱のふたに手を伸ばした。

ゆっくりと開かれる金属製のふた、そして箱の中には・・・。

 

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「やったねケンちゃんっ、また紙が入ってるよ」
「・・・そんなに嬉しいの?」
「こんなお宝もアリかなー、ってこと」
「とりあえず見てみよう」


・・・。


「『暗号を解けたみたいだな、おめでとう』・・・三郎さん?」
「・・・みたいだね」
「『冒険はまだまだこれからだ。 もう一度暗号文を渡しておく。 ここまでたどり着いた二人ならば、きっと楽に解けるだろう』」
「まだ何かやらせるつもりかよ」
「『暗号の指し示す場所に、幸福の黄色い布切れを結んでおいた。 その辺りを掘れば、なにかいいもん見つかるぞっと。 二人で知恵を絞って頑張ってくれ。 楽しい時間が過ごせるよう草葉の陰から見守っているぞ』」


草葉の陰、ね。

死んじまったくせに。


「また暗号文だって・・・ふんふん」


夏咲と一緒に、暗号文らしき文字列を見てみた。


『524111225117194』。


「また数字だけかよ・・・」
「さっきと同じ方法で解けるかもね。 居間に戻って考えてみようよっ」


・・・・・・。


・・・。

 

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「私が解いてみてもいいかな?」
「うん。 いいよ」


夏咲が紙と鉛筆を持ち出し、解読を試みた。


・・・。

 

 

「・・・・・・。
いきなり分かんないよう・・・」


早っ!


「二文字づつ区切ってみたんだけど・・・」


『52 41 11 22 51 17 19 4』。


「こうして、最後に一文字残っちゃうの・・・。
しかも、最初の暗号と同じ解き方をしても変になっちゃうの」


『にたあきな17194』。


「・・・こんな感じ」
「前の解き方と考え方は似てるんだろうが・・・」
「あっ、もしかしたら『にたあきな』っていう場所の17194っていうところにあるんじゃないかな?」
「それ、どこ?」
「住所知らない?」
「いや、おれに聞かれても」
「ごめんね」
「いや、謝られても・・・」


しかし、言葉は五十個の文字だけでできているわけではない。

濁る音もあれば、そうでないものもあるわけだ。


「逆かな?」


再び紙に書き出す。


『49 17 11 52 21 14 15 2』


「・・・最初でダメになっちゃったね」
「逆ねえ・・・」


確か、そんなのもあった。


「単純な方法だよ」
「もう分かっちゃったの?」


黙って頷く。


「ケンちゃんはや~いっ、どうして? どうして?」
「始めの暗号と解き方が似てるし、それにアレンジが加わっただけだから」
「わたしにも解けるかな?」
「前回の暗号をベースに考えればね」


おれは紙にヒントを書きながら、夏咲に解き方を説明していった。


「今回は逆の視点から考えるんだ」
「・・・逆?」
「五十音順の表を見てみれば分かりやすいよ」


紙に五十音図を書いて、説明していった。


「前回は『や』という文字を『81』で表してたけど、今回は『31』で表すんだ」
「そうなると、今回『わ』は『11』として考えるってこと?」
「うん。 考え方は間違ってないよ」
「でもこの暗号は、二文字ずつ区切っていったら最後に一文字余っちゃうよ?」
「ある文字にもう一つ数字を加えることによって、別の文字を表しているんだ。
今回の暗号に用意された、引っかけ問題みたいなものかな。
二文字の数字の後に『0』がついていれば半濁音、『1』がついていれば濁音になる」
「じゃあ、『510』だったら『ぱ』、『511』だったら『ば』になるの?」
「そういうこと」
「分かってきたかも・・・わたし、頑張ってみるねっ」


新しいメモ用紙に解読をしていく夏咲。


「・・・ケンちゃん・・・わかったよ」


不安そうに見つめてくる。


きっと夏咲は・・・。


「向日葵畑、とか?」
「おおっ! そのとおりだよ、正解!」
「今回は頭を使ったよ・・・」
「また、解説しよっか?」
「うんっ」
「『524111225117194』だね。
『わ』は『11』、『ら』は『21』・・・。
この法則で考えた場合の『52』は『ひ』」
「最初は『ひ』だね」
「次は『41』。 これは『ま』だけど、その後に『1』という文字がついてる。
これはどういう意味だったっけ?」
「濁音・・・だよね?」
「正解。 けど『ま』っていう文字に濁音はつかないから、この際、無視しよう」
「・・・となると、次は『11』っていう数字を考えて・・・『わ』?」
「だいぶ分かってきたね」
「次から、わたしが解いてみてもいいかな?」
「うん、いいよ」
「えーっと・・・次は『22』で『り』・・・『51』で『は』、でも次に『1』があるか
ら『ば』だよね・・・。
『71』で『た』・・・『94』で『け』・・・」


そうして浮かび上がってきた文字列は『ひまわりばたけ』。


「だから正解は、『向日葵畑』になるんだよね」
「正解だね」
「ケンちゃんのおかげだよ」
「場所はわかった。 向日葵畑だね」
「うんっ」
「って、広すぎるから」

 

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「広すぎるねっ、あははっ」
「・・・暗号の解読が間違っているのかな・・・」
「いいから、探してみよっ」
「夏休みが終わっちゃうよ」
「それでもいいよっ」
「いいのかよ・・・」


ぐうぅぅーっ・・・。


「ごめん。 腹減った」
「そういえば、もうお昼だよね」
「久しぶりに外食でもする?」
「んー? わたし作るよ?」
「でも、ちょっと遅い時間じゃない?」
「そっかー、残念だな・・・。
じゃあ、手つないでねっ」


とことこ寄ってくる。


「ついでに、買い物してこようね」


・・・・・・。


・・・。

 

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「あら、森田君に日向さんじゃない」
「こんにちはー」


「奇遇ですね。 買い物ですか?」
「ええ、そうよ」


「日向さんも、元気そうで何よりね」
「どもどもです」


「灯花は、相変わらずヒマしてるんですか?」
「そうね。 料理の本とかたくさん買い込んでたわ」
「また食べさせてもらえるように頼んで下さいよ。
あっ、しまった。 外食しないで灯花の家に押しかければよかった」


「ちょっと急すぎじゃないかなぁ?」



「電話をかければ、きっと用意してくれると思うわ」
「予約制のレストランみたいだ・・・」


「日向さんも、お料理するんでしょ?」
「おれが保障しますよ。 なかなかいい感じです」

 

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「そんなことないよぉ」


恥ずかしそうに、けれど、ぎゅっと手を握ってくる。


「日向さんは何かしたいことでもあるの?」
「えと・・・とくに決めてないです」
「そう、自分の進みたい道を選びなさいね」
「うーん・・・」


「そういえば、なっちゃん、将来どうするの?」
「将来は、ケンちゃんのお嫁さんだよっ」
「うお・・・」


「ノータイムで言ったわね」


咳払い。


「それじゃあね、デートの最中に邪魔してもしょうがないし」


言いながら、おれの肩に手を置く。

 

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「・・・彼女、明るくなったわね」


耳打ちしてくる。


「しっかり、支えてあげるのよ」


去っていった。


・・・。

 

「なんだか、先生とは久しぶりに会った気がするね」
「そう?」
「宝探しに熱中してたからかなあ・・・時間の感覚がおかしくなっちゃったのかも。
いや、ケンちゃんと一緒にいるからかなっ」


また、笑っていた。


おれたちは手をつなぎ、歩き出す。


「甘えてばっかりで、ごめんねっ」


夏咲は、七年間の空白を埋めるように、肌を沿わせてくるのだった。


平和な夏休みはまだまだ続く。


・・・・・・。


・・・。

 



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「あむっ、ちゅっ・・・ちゅっ」
「っ・・・」
「朝だよっ、ちゅっ、ちゅぱっ・・・」


目覚めのキス。

頭がもうろうとする。


「んっ、好きっ、ケンちゃん、だぁいすきぃ・・・ちゅっ」
「お、おきようか?」
「もういいの?」
「う、うん・・・」
「ほんとにぃ? ほんとにもういい? あむっ、ちゅっ」
「・・・あ、あんまりそういうことしてると・・・」
「なぁにぃ?」
「おれだって男なわけで・・・」


・・・。

 

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「あ、ごはん炊けたぁっ」


「・・・・・・」


そんなこんなで一日が始まった。


・・・・・・。


・・・。



 

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「なんだかんだで、来ちゃったね」


向日葵畑にやって来た。


「広いねっ。 どこをどう探せばいいんだろうねっ?」


ぶっちゃけ探しようがない。


「ケンちゃんだけが頼りだよっ、頑張って!」
「うーん・・・」


・・・目印は幸せの黄色い布切れ、か。


 

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「おっ、賢一と夏咲じゃん! 珍しいね、こんなとこで」
「さちか・・・お疲れさん」


いつもながら、絵の練習をしているようだ。


「お宝どうなったの? 見つかった?」
「あのね、あのね、また暗号が出てきてわからなくなっちゃったの」


「向日葵畑にあるらしいから、探しに来たんだ」
「で、あたしに助けてほしいと、こういうわけね」
「いや、無理しないでいいぞ。 こっちは遊び半分だから」
「いいよいいよ。 いまちょっと絵を乾かしてるところだから」
「そうか・・・じゃあ聞くけど・・・。
お前って、いつもこの辺にいるだろ?
幸せの黄色い布切れを見かけたりしなかったか?」
「え? 幸せ? 黄色い布切れ? ハンカチじゃなくて?」
「違う、ぽいけど違う」
「うーん・・・ずっと前に見かけたような気もする」

 

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「ほんとっ?」
「場所は覚えているか?」


「えっとね・・・あの辺りだったかな?」
「右のほう?」


「そんなアバウトな」


「じゃあ、あっち」
「左?」


「どっちなんだよ」


「うははっ! 連れてってあげよっか?」
「いいのっ?」
「任せときっ」


さちのあとを追った。


・・・・・・。



「この辺りだったと思うんだけど・・・」
「お前、てきとーなこと言ってるんじゃないだろうな?」
「失礼なっ。
あたしは一度見た風景は忘れないというレア特技を持ってんのよ?」


・・・ホントかね。

 

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「んー、でもやっぱ忘れたかも」
「ええぇっ?」


「おいおい、そりゃねえだろうが」
「ちょっと待ってよ・・・思い出すからさ。
んーっ・・・・あー・・・。 ぐーっ・・・」


「寝ちゃダメだよ!」
「あははっ、忘れたもんはしょうがないじゃん」


「お前なあ・・・」
「いいじゃん、明日探せばいいじゃん。 明日からがんばればいいじゃん」
「ダメ人間だなぁ・・・」
「あ、思い出した!」


「おおお?」


「忙しいやつだな」


「なんか棒、木の棒が立ってんのよ。 卒塔婆みたいに。 それに結びつけてあったのよ」
「棒? 向日葵畑に?」
「そそ。 あのあの、ほら、かかし? かかしの服を着せる前の棒みたいな・・・」
「なに言ってるのか、ぜんぜんわからん」


「とにかく、探してみようよ。 けっこう目立ってるんじゃないかな?」
「自然物のなかに人工物が混じっているわけだから、目についたんだよ」


「で、方角的にこっちの方で間違いないんだな?」
「間違いないよ」


信じるしかなさそうだった。

おれたちはさちの案内で道を進んだ。


・・・・・・。

 

「あ、あった!」
「おおっ、ホントだ」


さちの言うとおり、木の棒が地面からひょろりと伸びていた。


「・・・でも、ハンカチは結ばれてないね」
「そりゃそうだよ、だってあたしが見たのは十年前くらいだもん」
「ええっ? 十年前?」

 

「ウソだろ? いくらなんでもそんな昔のこと覚えてるはずがない」
「だからレア特技だって」


「じゃあ、ケンちゃん。 ここ掘れ、わんわんっ」
「わんわんって・・・ホントにここを掘ればいいのかな?」
「じゃあ、にゃんにゃんっ」
「・・・わ、わかったよ、掘ればいいんでしょ」


木の棒の真下の土を手で漁ってみる。


・・・。


「む・・・」


なかなかに骨が折れそうだ。


「・・・やっぱ道具を持ってきた方がいいかな」
「近くの家の人に借りてくれば?」
「そうしよう。 ここで待っててくれる?」


「わたしのぶんもお願いしていい?」
「わかった・・・」

 

・・・・・・。


・・・。

 

最終試験での出来事によって、田舎町でおれたちを知らない人間はいないくらいだった。

樋口三郎の息子。

ほとんどの人は好意的に接してくれていた。


・・・・・・。

 

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スコップを二つ持ってきて、元の場所へと戻ってきた。


「おかえりっ、早かったね」


スコップを一つ持ち、もう一つを夏咲に手渡す。

 

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「あれ? あたしの分は?」
「さちも掘るつもりだったのか?」
「なんであたしだけハブられるのよ?」
「ハブるつもりはなかったけど、三人で掘るにはせますぎると思ってさ」
「・・・それもそっか」
「絵を描きに戻ってもいいぞ。 見てても退屈だろ」
「いやいや、お宝発掘の瞬間を見たいし」


「じゃあ、掘るよー、掘っちゃうよー」
「元気いっぱいだねっ」


さちの目に昔を懐かしむような光が宿っていた。

 

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「変わったね、夏咲も・・・」


・・・。



「おらおらぁーっ、お宝カモーンっ」
「・・・・・・」

 

 

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スコップを持つと人が変わるようだ。


ザック、ザック・・・。


「地中深く埋められてるんだろうな」


・・・と、思っていた矢先、カツンと何かにぶつかった。


「も、もしかして・・・?」

「ついに・・・」

「お宝? 出ちゃった?」


「ちょ、ちょっと待って! ここからはっ、ここからはわたしが掘るよっ!
慎重にっ! 慎重にっ! 花を愛でるように静かに冷静にっ!」


ちく、ちく、ちく・・・。


「そーっと・・・そーっとぉ・・・」


ちく、ちく、ちく・・・。


なっちゃんなっちゃん、それ、つついてるだけだよ」
「はあっ、はあっ、はあっ・・・」


汗だくだった。

少しずつ、地中から金属製の箱が姿を現していく。


そしてついに・・・。


「おぉぉっ! 夏咲、一番乗りっ! 夏咲、一番乗りだぞっ」


Vである。


・・・でも、夏咲は周りの向日葵の根を傷つけないように慎重に掘ってたんじゃないだろうか。


「早速開けてみよーよっ」


「開けてみてもいいかな?」
「うんうん、なっちゃんが発見したんだからね」
「それじゃ・・・えいっ」


力を込めて箱のふたを開く。


「くっ・・・」


つかむ。


「・・・ぬんんん~~~・・・!」


引っ張る。


「ぬうぅぅぅーっ・・・!」


引っ張る。


「ヌウゥゥゥーーン・・・」


脱力。


「だ、ダメだった。 ダメだったよ、ケンちゃん・・・」


「どれどれ、あたしに貸してみ」


夏咲にかわって箱の前に腰を下ろす。


「ぬっ・・・、無理っ」


「あきらめるの早すぎ」


仕方ない、おれが・・・。


「・・・・・・」


何となく箱を揺さぶってみる。


ユサユサユサ・・・。


「・・・・・・」
「ケンちゃん、どうしたの? 箱に耳を当てたりして」
「・・・箱の中には、何も入ってないんじゃないかな・・・」


「えぇーっ! そんなオチやだよ」


「やだよ、やだよ」


じたばたしだす。


「また開けてないから、何とも言えん」


ふたに手をかけ、力をこめる。


「ふんっ!」


ググググググググッ!


「はあっ、はあっ・・・くっそー、開かねえ!」


何度も試してみるが、それでも開かない。


「あ、わかった!」
「え?」
「ケンちゃんが箱を引っ張って、ケンちゃんをわたしが引っ張って、わたしをさっちゃんが引っ張れば開くんじゃない?」
「そういうカブの話はあったけどさ・・・」


「それで開いたら苦労しないよねー」
「どうなってやがる・・・錆びてるのか?」
「それとも、箱自体に仕掛けがあって、変わった開け方をしなきゃいけないとか」
「野生の勘?」
「箱を調べてみようよ」



「あ、鍵穴発見!」
「んなあっさり・・・ってマジすか!?」


「よかったじゃん。 鍵があれば開くんでしょ?」
「鍵?」

 

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「えっ? もしかして、もってないの?」


「これは違うのかな?」


夏咲が、さびかけている鍵をおれたちに見せた。


「その鍵は、どこにあったの?」
「箱の下にくっついてたよ」
「鍵の意味ねえよ・・・」


「とりあえず、開けてみようよっ」
「うんっ、わたしに任せて」


鍵を差し込んで、ゆっくりと回す。


ボキッ!


「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・折れちゃった・・・」


「折れた、ね・・・」

「いやあ、まいったまいったぁっ!」

「まいった、まいったぁっ!」


・・・。

 

「お前ら最高だな・・・」


「いっそのこと、箱をぶっ壊しちゃえば?」
「その方法しかないのか・・・」


「ごめんね、ケンちゃん・・・わたしのせいで」「鍵がボロかったんだから、しょうがないって」


箱を再度調べる。

長年、土の中に入っていたせいか全体的に錆びついている。


「でもでも、乱暴なことをすると、中身が壊れちゃうよ」
「中身は、そういう割れ物じゃないと思う。
入ってたにしても、恐らく紙か何かだろう」


自分でそんなことを言ってから気づいた。


「また暗号じゃねえだろうな」
「もう暗号はこりごりだよ・・・」


「こりごりって・・・あんたたち何回解いたの?」
「二回」
「難しかった?」


「難しかったけど、ケンちゃんが解いてくれたよ」
「さっすが賢一じゃん」


「時間はあるから暗号なんか何回でも解いてやれるが・・・だんだんメンドくさくなってきた」
「とりあえず、壊す?」
「そうだね。 どこか、固い地面を探そう」


向日葵畑を歩き回り、それらしいところを見つける。


・・・・・・。


・・・。

 

「土ばっかだな」


「当たり前じゃん。 コンクリートから向日葵が生えるかっての」

「小さな草とか生えてるのは見かけるけどね」


「とにかく、ここじゃどうにもならない。 自宅に持って帰って何とかしよう」
「中身が気になるなあ・・・」
「一緒に来るか?」
「ううん。 もう絵を描きに戻らないといけないから、ここでお別れ」
「そりゃ、残念だな」


「でも、さっちゃんのおかげで助かったよ」
「ホントだな。
さちの記憶力がなかったら、あてもなく向日葵畑を放浪するところだった」

 

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「金目のもんだったら山分けなんだからね」
「はいはい、わかってるって」


おれたちはさちと別れ、家路に着いた。


・・・・・・。


・・・。

 

山道を登り、自宅へと向かっていた。

 

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「でもケンちゃん、この箱どうやって開けるの?」
「力任せに地面に叩きつける。 あるいは、斧か何かで叩き切る」
「強引だね」
「オヤジが錆びた鍵なんか渡すからいけないんだ」


「それは違うな」


・・・!


「磯野か? どこだ?」


どこからともなく、磯野の声が聞こえてきた。


「磯野くん、なにやってるの?」
「木の上で瞑想をしてたんだ」


頭上の枝から飛び降りた磯野は、おれたちの目の前に華麗に着地した。

さちの宝探しのときと同じだ。

 

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ごきげんよう。 二人とも、宝探しは順調かな?」
「順調なんだけど、困ってるの」


「こいつを見やがれ」


先ほど手に入れた箱を磯野に手渡す。

もちろん鍵穴には、折れた鍵が詰まったままだ。


「誰だ、鍵を折ったボケは?」
「ご、ごめん、わたし・・・」
「じゃあ許してやろう」


「けっきょく、自宅に帰って箱を壊すことにしたんだ」
「そういうことなら僕に任せろ」
「なんで?」
「僕、黒帯、空手」
「嘘つけよ」


「ほんとに?」
「ホントホント」


「ケンちゃん、疑うのは良くないよ」
「こいつは爽やかな笑顔で嘘をつけるヤツなんだよ」


「いいから黙って見てろや」
「・・・・・・」
「おら、箱持て」
「・・・・・・」
「僕の前に突き出す」
「・・・わかったよ、こうか」


蹴るのか殴るのかわからんが、箱を両手で持って差し出す格好になる。

 

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「・・・はあぁぁっ・・・」


怪しげな動き。


「思い知るがいい・・・我が究極奥義・・・奥義・・・奥義・・・」


一人エコー。


「はああああぁぁぁあっぁああっぁっ!
ぬああああぁぁあぁああああっっ!
くうぅぅああああああああああああああっ!」


・・・。


「じゃ、いきまーす」
「なんだよ! いまのタメは!?」
「心の準備」
「心の中でやれ!」
「あたぁっ!」
「いでえっ! てめえ、どこ蹴ってんだ!」
「すまん、足が逸れた」
「ふざけんな!」
「あたぁっ!」
「い、いだっ! バカっ!
や、やめっ・・・! お、おいっ、やめっ、やめろって・・・!」

 

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「アタタタタタタタタ!」
「い、い、いい加減にしろっての・・・おれはサンドバックか!」
「は?」
「サンドバックか!」
「え? なんだって?」
「まるでサンドバックかっての! サンドバックですかっての!」
「そんなはしゃがれても・・・」

 

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「け、ケンちゃん・・・?」
「・・・・・・え、なんで? なんでおれが寒いヤツみたいになってんの?」


「まあ、箱は割れたんだから別にいいじゃないか」
「んなわけねー・・・って、あれっ!?」


割れてる!


「ふははっ、僕のゴールデンエクスペリエンスはどうだったかな?」


よくわからないが、とりあえず目的は達成されたようだ。


「何が入ってたのかな?」


箱の残骸に紛れて・・・一枚の紙。


「また暗号かよ!」


いい加減、飽きてきた。


「読んでみないと分からないよ」


声に出して読んだ。


「『ケンへ』・・・わたしが読んでもいいのかな?」
「読みたいなら読んでもいいよ」
「うんっ。 えーっと・・・『この手紙を読んだ者は、一週間以内に他の人に手紙を送らないと不幸になる』」
「・・・・・・」


「・・・・・・」


「ケンちゃぁん・・・どうしよお・・・」


涙目でおれに頼ってきた。


なっちゃん、これはただの冗談だから、気にしないでいいよ」
「そんなこと言われても、やっぱり心配だよぉ・・・」
「大丈夫。 おれが必ずなっちゃんを幸せにしてみせるから、心配しないで」
「ケンちゃん・・・」

 

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「うわっ、キモサブ」
「ほっとけ」
「それでも、君たちの幸福を願っているよ」


「ありがとう」


おれが続きを読む。


「『・・・というのは冗談だ。 決して夏咲ちゃんに、この内容を読ませてはいけない。 
信じてしまいそうだからね』」


あの野郎・・・。


「『さて・・・もう暗号はこりごりだと思っているケン坊は、なかなかに飽き症みたいだな』」
「うるせえよ」

「おれのセリフだ・・・磯野は黙ってろ。

『次が最後の暗号となる。 頑張って探してみるといい』」


「やっと最後なんだね・・・」
「疲れるな・・・」


手紙を読み進めていき、最後の方に書いてある暗号文に目をつけた。


・・・またもや、数字だらけの暗号文だった。


『15 10 26 ○6 44 7 25 36 31 ○19 1 43。 ○15 
0 ○6 2 12 41 44 19 2 43 15 25 ○26 12 40 2
2、 27 20 12 44 ○13 16 6 41 26 3 35 44 199 2 43。 16 6 25 34 50 35 18 19 12 19 35 32 18 9 43 10 20 26 ○19 7 ○13、 17 50 26 2 18 8 ○26 43 35 25 22 25 32 16 6 41 26 27 6 42 6 ○6 36 8』


・・・・・・。


・・・。


「急にハードル、高くなってないか?」
「・・・今までのと比べると、全然違うね・・・」

「僕は帰るぞ。 あとは君らでがんばりな」
「なんだよ、逃げんなよ」
「いやいや、お役に立ててなにより」


「ありがとうね、磯野くん」
「・・・・・・」


急に、夏咲をじっと見つめた。



「フッ・・・」
「なんだよ、気味悪いな」
「しっかりしろよ、ケン坊」
「は?」


去っていった。


「なんだ、アイツ・・・」
「とりあえず、家に戻って暗号を考えてみようよ」
「そうだね。 まずは帰って一息つこう・・・」


・・・・・・。


・・・。

 


夕方になるまで悩んだが、暗号が解ける兆しもない。

 

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「いままでのやり方とは全然違うね。 もうなにがなんだかわからないよ」
「そう凝ったものじゃないと思うんだけどなあ・・・」
「数字だけじゃなくて、記号もあるんだよ。 難しいよ」
「あーっ、もー疲れた。 今日はこれまで」


畳に仰向けに倒れる。

繰り返される暗号の数々に、嫌気が差してきた。

今日はこれ以上考えられそうにない。


「わたしも頭が働かないよ・・・」


思わずため息。

ふたりして寄り添って、見つめ合う。

 

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「ねえ、ケンちゃん・・・」
「うん?」
「いっぱい思い出作ろうねっ。
わたし、ケンちゃんに会えない間、ずっと、寂しくて・・・。
わたしの時間は、子供のころからずっと止まったままなんだよ。
ケンちゃんじゃなきゃ、ヤなんだよ・・・」


吐息が感じられるほどの距離。

夏咲は小さく震えていた。


なっちゃん・・・」


おれたちは口づけを交わす。


「ケンちゃん、あったかいよ・・・とても、あったかいよ・・・」


もう寒いのは嫌なんだろう。


「んっ、ちゅっ、はむっ・・・」


手と手を合わせながら、いつまでも唇を重ねあった。


・・・・・・。


・・・。

 


強い陽射しを感じる。


「・・・んっ」


「あっ」


目を覚ますと夏咲の顔がすぐ近くにあった。

 

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「起きちゃった?」
「うん・・・」
「じゃあ、今日は、いい?」


キスのことか。


「・・・・・・」
「いい?」


寂しそうだった。

そっと、抱き寄せる。


「えへへっ・・・」


頭を撫でてやる。

 

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「くすぐったいよ・・・ごろごろしたくなるよ・・・」


・・・。


「・・・はむっ、ちゅっ、ちゅるっ・・・」
「んっ、なっちゃんは、キスが好きだね・・・」
「ダメぇっ?」


ダメなわけもなく・・・。


「こうしてると、優しい気持ちになれるんだよ・・・」
「ていうことは、普段は優しくないの?」
「んっ?
くふふっ、そうだよっ、ちゅっ・・・。
はむっ、ちゅっ、ちゅぷっ・・・ん、は、あっ・・・んちゅうぅっ」


ムキになって唇を這わせてくるのだった。


・・・・・・。


・・・。

 


正午、おれと夏咲は商店街へ来ていた。

 

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「暗号、ほったらかしてきちゃったね」
「まあ、いいんじゃない? 夏休みはまだまだ長いし」
「そうだね、のんびり、ゆったりでいいねっ。
焦らなくても、急がなくても、楽しいことはたくさんあるもんねっ」


底なしに明るかった。


「今日は、人がたくさんいるね」
「迷子にならないようにね。
なっちゃんはぼーっとしてるから、ちょっと心配だよ」
「手・・・つないでるからだいじょぶだよっ」


ほんのりと暖かい夏咲の体温が、手を通して伝わってくる。


「落ち着くなあ、ケンちゃんと一緒にいると・・・」
「おれだって・・・」


自分の心臓が、トクントクンと優しく動いているのが分かる。


「普通に、デートみたいになっちゃったね」
「よく考えてみれば、デートって久しぶりだね」


最終試験が終わり、法月先生が去ってから一年がたった。


ドンッ。


「あっ・・・」


夏咲の体が揺れ、こちらに寄りかかってきた。

 

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「あ、ごめん」
「いえ、わたしも不注意でした」


おっさんは去っていく。

夏咲に異変はない。

以前だったら、震え上がっていただろう。


なっちゃん?」
「どおしたのぉっ?」
「いや、なんでもないよ・・・」
「ふふっ・・・ケーンちゃんっ」
「ん?」
「大好きだよ」


腕を絡ませてきた。


「心配してくれたんだよね?」
「・・・・・・」
「でも、もう平気だよ。 ケンちゃんがそばにいてくれるから」


腕を組んで、商店街を歩くことになった。


・・・・・・。

 

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「あっ、賢一・・・」
「灯花じゃねえか、ようっ」


片手を上げて、軽く挨拶をする。


「買い物?」
「そんなところかな・・・本当は、宝探しに疲れたから気分転換してるんだけど」
「宝探しって、まだ見つけてないの?」


「いくつも暗号が出てきたかと思えば、今度は難しくて混乱しちゃって・・・」
「もう最後なんだ。 あと一押し」

 

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「私に手伝えっての?」
「手伝いたいなら手伝ってもいいぞ」
「人に物を頼む態度じゃないね」


「あ、いいよいいよ。 ごめんね、お料理の練習で忙しいんでしょ?」
「・・・む、夏咲ちゃんに言われると・・・」


「手伝いたくなるだろ?」
「・・・・・・」


すっとポケットから何かを出した。


「いま、ちょっと手が放せないからあれだけど・・・。
かわりといっちゃなんだけど・・・。
ペロペロキャンディ、あげる」


しぶしぶ、といった様子で差し出した。



「えっ?」
「好きでしょ?」
「う、うんっ、見てるだけで幸せっ!」


「ま、待て、灯花!」
「なに?」
「バカやろう、お前、なっちゃんに渦巻きを見せちゃダメだろ!」
「え? そうだっけ?」
「一時間は帰ってこなくなるんだぞ!」
「うそっ? なにその裏設定!」
「裏じゃない!」


はっ、としたときには遅かった。

 

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「・・・ぼおぉー」


「やばっ!」
「どうすればいいのっ!?」
「と、とにかく、なっちゃんとキャンディを引き離すんだ!」
「わ、わかった、えいっ!」


振りかぶった。


「・・・くっ」
「投げろよ!」
「お菓子を粗末にするなんて、私にはできない」


「はあっ、はあっ、渦巻き・・・渦巻き・・・」
「ちょ、ちょっと! にじり寄ってくるんだけど!」


「か、貸せ!」


キャンディをひったくる。


「ちょっと! 投げ捨てたりしたらダメなんだからねっ!」
「わーってる!」


包装のビニール袋を破く。

渦巻きを破壊すべく、キャンディにがぶりついた。


「がりっ!」

 

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「あ・・・」


ゾンビのような足取りがぴたりと止まった。


「正気に戻った?」
「ワタシ、キオク、ソウシツ」
「悪化してる!」


がりがりっと、ぜんぶ食う。


・・・。

 

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「あれ? わたし・・・」
「ふー、一時はどうなるかと・・・ってか、思いっきり噛んだから歯いてぇわ」


「なんて危ない裏設定なのよ」
「だから裏じゃねえっての」


・・・・・・。


・・・。

 

灯花と別れ、おれたちは川辺に遊びに来ていた。

水辺が近いせいか、夏の暑さをあまり感じなかった。

川も澄み切っていて、底にある石の数まではっきりとわかる。

 

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「思ったとおりだよ。 涼しくて気持ちいいなあ」


夏咲は両手を大きく広げた。

気持ちよさそうに目を閉じ、吹きすさぶ風を一身に受けている。


「ケンちゃんも、同じようにやってみて」


夏咲と同じように、両手を大きく広げて目を閉じた。

田舎町独特のにおいが、風に乗ってここまでやってきているようだ。

隣にいる夏咲の髪が風になびき、さらりと流れる。


「気持ちいいね・・・」
「ねえケンちゃん。 そこに一緒に座らない?」


夏咲が、背丈の低い草むらを指差していた。


「そうしよっか」


夏咲に促され、腰を下ろした。


「一年前、ここで恩赦際をやったよね。 覚えてる?」
「あれか・・・」


あのときは、夏咲を無理に誘ってしまった記憶がある。


「またみんなで集まって、わいわい騒いで、料理を作って食べたいなあ・・・」
「夏休みは始まったばかりだし、予定を立てれば近いうちにできるんじゃないかな」
「花火とかもいいよね」
「線香花火とか?」
「線香花火かあ・・・ケンちゃんは知ってるかな?」
「なにを?」
「二人で線香花火を同時に灯して、先端についてる火が先に落ちた方の負け」
「なんか普通だね」
「でもこの勝負をする前にね、お互い願い事をかけるの。
そして、勝った方の願いは実現するとかなんとか・・・」
「なんとかって・・・自信なさそうに言われてもなぁ」
「今度やってみようよ。 叶えたい願い事があるから」
「願い事? 聞かせてよ」
「ダメに決まってるよぉ・・・恥ずかしいし、聞かれたら意味ないもん」
「うーん、手厳しいなあ」
「そういうケンちゃんだって、聞いても教えてくれないだろうし」
「あ、やっぱり分かる?」


それからしばらく、談笑を楽しむ。


「ふあーっ・・・あふぅ・・・」
「眠いの? そんな大きなあくびをして」
「ちょっとね、うとうとしてきちゃった。 ぼーっとしてていい?」
「ぼーっとするの?」
「ケンちゃんも一緒にやってみる?」
「適度にやってみようかな・・・」


ただジーっとしてるだけなんだろうけど。

 

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「・・・・・・」


夏咲は川の流れを見ている。

おれも同じように、川を眺める。


「・・・・・・」


ふむ・・・確かにぼーっとするな、これは。


「・・・・・・」
「あれ? なっちゃん?」
「・・・くーっ・・・」
「・・・寝ちゃってるよ」


夏咲の頭が、こっくりこっくりと上下に動いた。

そんなに眠いのなら、我慢しなくてもいいのに。

おれは夏咲の肩に手をかけ、静かに抱き寄せた。


なっちゃんの寝顔か・・・かわいいな」
「んー・・・むにゅむにゅ・・・」


見ているこちらも幸せになりそうだった。


「んん~・・・ケンちゃん・・・」


ぼーっとするのも悪くはないな。


「ケンちゃん・・・お手・・・おかわり・・・」


・・・聞いてはいけないことも、聞けちゃうし。


・・・。


「それはそうと、もう帰らないと夜になっちゃうじゃないか」
「・・・すーっ・・・すーっ・・・」


しかし、起こそうと思っても起こせないのが現状。

おんぶすればいいか。


「よし・・・よっこらしょっと」


簡単におれの背中に乗る夏咲の体は、とても軽かった。

寝息も定期的に聞こえてくる。


「熟睡してるのかな。
じゃ、じゃあ、こっそりいたずらを・・・。
って、あんたも知っての通り、おれにそんなことをする度胸もなく・・・。
・・・誰に言ってるんだ、おれ」


そういえばケムリをやめてしばらくになるな。

味に飽きてやめたんだよな。


帰ろう。

 

・・・・・・。


・・・。

 

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日も完全に暮れた夜ごろ、ようやく自宅にたどり着いた。

夏咲はというと、未だに熟睡中。


「よくそんなに眠れるなあ」


タオルケットをかけてあげた。

ちょっくら風呂にでも入ってくるとしよう。


・・・・・・。


・・・。


 

「ふぅ・・・長風呂しちまったぜ」


蜂蜜ジュースを一気飲みし、ほっと一息。


「ん? なんだ、あの紙の束は」


居間の隅に、見覚えのない白い紙の束が置いてあった。

なにやらたくさんの文字が書かれているようだ。


「数字ばかり・・・って、これは」


よく見れば、暗号文を解いていく過程が、きれいな文字で書かれていた。


なっちゃんめ・・・さては手柄を独り占めにしようとしてたな」


いやいや、絶対そんなことはない。

一人で解いてみせようと頑張ってみたのだろう。


なっちゃんは、こっそり隠れて努力するタイプなのかな。
たかが宝探しだなんて思ってたけど、ちょっくら真剣にやるかね・・・」


夏咲は童心に戻って、この宝探しを楽しんでいるのかもしれない。

七年間の空白を埋めるように・・・。


「なら、おれも童心に戻るか」


夏咲が残したメモを見る。


「ふむ・・・頑張ったのはいいけど・・・答えには結びついてないな。
参考にはなるかもしれないから、起きたら聞いてみよう」


・・・。


「・・・むにゅむにゅ・・・ケンちゃん・・・。
たくさん、遊ぼうねっ・・・ずっと、いっしょだよ・・・もう、どこにもいかないでね・・・」


そっと手を握る。

幾度となく握った手のひら。


・・・。

 

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あの牢獄で、おれをかばってくれた手のひら。

おれは夏咲の体に寄り添うようにして、眠りについた。


・・・・・・。


・・・。