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車輪の国 悠久の少年少女 夏咲シナリオ【3】


・・・

いつもどおりの朝がやってきた。

 

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「ケンちゃん、おっはよーっ!」


しかし、夏咲は違っていた。

いつもより睡眠時間を多めに取ったからか、元気バリバリだ。


「ケンちゃん、昨日はごめんね。 一人で勝手に寝ちゃって・・・」
「寝顔をバッチリ見ちゃったよ」
「は、恥ずかしいよ・・・」
「毎日一緒に寝てるのに恥ずかしいもないじゃない?」
「それでも、恥ずかしいものは恥ずかしいよ・・・」
「へえ・・・」
「むうっ、からかってるのぉっ?」
「ははっ・・・」
「怒った。 今日は、キスしてあげないっ!」


あらら・・・。

今日はお預けらしい。


・・・・・・。


・・・。

 

「今日も元気に宝探しだよねっ」
「それなんだけど・・・」
「ん? どうしたの?」
「実は、こんなものを見つけたんだけど」


夏咲が書き留めていたもの。


「あれ? それって・・・」
なっちゃんが書いて、部屋の隅に置いてたんだよね?」


言いながら、紙が置いてあった場所を指差す。

 

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「あ、見つかったちゃった・・・」
「・・・普通にあんな場所に置いてたら分かるって」
「だよね・・・」
「解けてないのが残念だね」
「それを言われると、ちょっとしょんぼりだよ・・・」
「ははは・・・でもこうやって頑張っていれば、いつかは答えも出てくるさ」
「うん、そうだね。 頑張るよ。
よーし、今日もびりっとがんばっちゃうぞーっ!」
「おお、さちっぽい」
「えへへ、ぶっ殺すぞっ」
「灯花っぽい」
「どもどもですっ!」
「まんま、なっちゃんだ」
「わーい」


おれたちはバカだった。


「じゃあ、早速始めようか」


夏咲が書き残した数十枚のメモをちゃぶ台の上に並べて置いた。


「こうして並べられると、なんだか恥ずかしいね」
「この中から得られるものがあるかもしれないね」
「ええっ、ないよ・・・」
「まあまあ、最初の一枚目」
「・・・・・・」
「『直感で、三郎さんの部屋』」


・・・。


「・・・なにこれ?」
「直感は直感だよ、あまり気にしないで」
「暗号を解いてもいないのに、いきなり直感だなんて・・・」
「・・・ごめんね」
「気を取り直して、二枚目」
「・・・・・・」
「『直感でひまわり畑』って、また直感じゃん!」
「直感は直感だよ、気にしないで」
「暗号を解くときには、もちろん直感は大事だよ。
でもね、これはちょっと違う気がするよ」

 

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「ただの、当てずっぽう?」
「・・・そういうことになるね」
「わたしも、そう思ってたところなんだよ・・・」
「今日はなかなか素直じゃないね・・・」


朝から怒りっぽかったしな。


「えっと・・・他には・・・。
おっ、一回目の暗号のときと同じ方法で解いてみてるね」
「・・・ダメだったけどね」
「次は・・・二回目の暗号で使った解読法か・・・」
「・・・これもダメだったね」
「もう一回、今やっている暗号文を確認してみよう」


『15 10 26 ○6 44 7 25 36 31 ○19 1 43。 ○15 
0 ○6 2 12 41 44 19 2 43 15 25 ○26 12 40 2
2、 27 20 12 44 ○13 16 6 41 26 3 35 44 199 2 43。 16 6 25 34 50 35 18 19 12 19 35 32 18 9 43 10 20 26 ○19 7 ○13、 17 50 26 2 18 8 ○26 43 35 25 22 25 32 16 6 41 26 27 6 42 6 ○6 36 8』


む・・・。


なっちゃんの苦労が、ここで報われたよ」
「どんなことで?」
「紙に書いてある通りの区切り方で、暗号を解いていかなきゃいけないってことがわかったから」
「それじゃあわたし、少しはケンちゃんの役に立ったのかな?」
「大いに役立ってるよ」

 

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「そうかあ・・・やった」


うれしそうに微笑んでいた。


「また暗号文を見てみると、ご丁寧にも『、』や『。』が書いてある。
つまり、『、』や『。』の場所で一区切りということで考えやすくなっているんだと思う」
「へえー」
「それともう一つ気になるのが『○』記号」
「なんだろうね?」
「これはもう、大体分かってるんだけどね」
「えっ? そうなの?」
「二回目の暗号文の解き方に、ちょっと似てるかな」
「二回目? なにかあったっけ?」
「文字に濁音がついてたでしょ」
「ああ・・・『が』とか『だ』とか、そんな感じ?」
「そうそう。
だから『○』記号は、濁音を意味するんじゃないかなって思う」
「『ぱ』とか『ぴ』とか、そんな言葉はないのかな?」
「多分、他の記号で代用するんだと思うよ」
「そっか・・・うーんと、あとは・・・」
「数字の一つ一つがどんな文字を表しているか、だね」


二人で暗号文とにらめっこしてみる。


「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・ねえケンちゃん、ちょっといいかな?」
「何かわかった?」
「気づいたことなんだけど・・・」


紙に書かれている文字を指差しながら、説明を始めた。


「何度も暗号文を見てて思ったんだけどね、一桁だけの数字もあるよね」
「うんうん」
「でね、二桁の数字で一番大きい数字は『50』みたいなんだよ。
区切りがいい数字だよね、『50』って・・・」
「・・・・・・」


夏咲の言葉で、ピンときた。


「これまた単純な作業だな」
「あれれ? もう分かっちゃったの?」
「ちょっと待ってて、解いてみるから」


別の紙に、解読した文を書いていく。


・・・・・・。


・・・。

 

「どうだった?」
「やっぱり、今の考え方で正解だった」
「凄いんだねケンちゃんは・・・なんでもできるんだから」
「いやいや、なっちゃんのお手柄だよこれは」
「そうなんだ・・・ちょっと嬉しいかも」
「また例によって、自分で解いてみる?」
「うん」
「ヒントは?」
「ちょうだいっ」


にこっ。


「・・・わかった」


新しい紙を用意し、それにヒントを書いていく。


「まず一つ。 『○』記号はやっぱり濁点で当ってるよ」
「音がにごるんだね。 わかった」
「そしてもう一つ。 なっちゃんの言う通り、一番大きな数字は『50』であってる。
ここが重要なんだけど、五十通りの文字列があるっていうことに気がつけばOK」
「五十通り・・・」
「そして『0』っていう数字があるよね」
「うん、なんだろ・・・」
「もう答えを教えちゃうけど、これは『ん』っていう文字を表してるんだ」
「へぇ・・・」
「・・・以上でヒントは終わり」
「わかった! 今回は自信があるよ」
「期待していいのかな?」
「もっちろん!」


意気込んで暗号文の答えを紙に書いていく夏咲。

今回は期待できそうだ。


・・・・・・。


・・・。

 

 

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「できたーっ!」
「じゃあ、説明してくれるかな?」
「うんっ」


自分の解答内容を、おれの方に向けて説明を始めた。


「もう一度、暗号の内容を確認するねっ」


『15 10 26 ○6 44 7 25 36 31 ○19 1 43。 ○15 
0 ○6 2 12 41 44 19 2 43 15 25 ○26 12 40 2
2、 27 20 12 44 ○13 16 6 41 26 3 35 44 199 2 43。 16 6 25 34 50 35 18 19 12 19 35 32 18 9 43 10 20 26 ○19 7 ○13、 17 50 26 2 18 8 ○26 43 35 25 22 25 32 16 6 41 26 27 6 42 6 ○6 36 8』


「最初の『15』っていう数字だけど、これは五十音順で15番目の数字ってことなんだよね。 だから『15』は、『そ』っていう文字になるんだっ」


夏咲は説明をした後、おれの顔をうかがった。


「うん。 続けて」
「えっと・・・次に『6』っていう数字に丸記号がついてるよね?
これは六番目の数字に濁音がつくから、答えは『が』。
あとは、ケンちゃんが言ってたとおりに『0』を『ん』に置き換えて考えていくと・・・こうなるんだよっ」


夏咲が紙に書いた暗号文の解答は、こんな感じだ。


『そこはガレキの山である。 存外知られているその場所に、人知れず宝は埋もれている。
鷹の目を以てしても見つけることはできず、地を這いつくばる者のみに宝は光り輝く』。

 

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「大正解! なっちゃんやるじゃないか!」
「ヒントもらってなんだけどね・・・」
「でも、なんとなく気づいてたんじゃないの?」
「まあ、その・・・そんな気がしただけだから、確信が持てなかったんだけどね」
「とりあえず、解けたことは解けた」


もう一度、解読された文を読んでみた。


「この問題ってさあ、おれたちがガキの頃に解くことを前提として親父が出した問題だよね?」
「多分・・・」
「・・・ガキ相手にこの文面はないよ・・・」
「うーん・・・三郎さんって、こういうのは結構ノリノリだったりするのかもね」


本当におれらが解けると思ってたのか、親父は・・・。


「暗号を解いて、また暗号が出てきたね」
「それでも、解くしかないか、なんだけど」


二人で、謎解きに挑戦してみる。


「そこはガレキの山である・・・だって」
なっちゃんはこの文をどう思う?」
「ガレキの山って言うくらいだから、多分ゴミ捨て場のことかな?」
「ゴミ捨て場ね」
「ゴミ箱かな?」
「毎日捨ててるから、多分ないと思うよ」
「じゃあ、町にあるゴミ捨て場?」
「もっとありえないと思う・・・ていうかゴミ捨て場と宝って関係あるのかな?」
「でもでも、『存外知られているその場所に、人知れず宝は埋もれている』って書いてあるよ?
見慣れているゴミ捨て場に、案外お宝があるのかもしれないよ」
「うーん・・・」
「掘り出し物が見つかる、とか?」
「もしそれがお宝だとしたら、なんと悲しいことか・・・」
「お宝探しは、お宝にたどり着くまでの過程が大切なんじゃないかな」
「・・・というと?」
「過程こそが、お宝なんだよ」
「ああ、そういうアレ?」
「うんうん、過程で芽生えた努力とか友情とか。
・・・愛情とか」
「・・・・・・えーと・・・次に行こうか」

照れ隠しのために、話題をそらす。


「二つ目の文だけど・・・」
「さっきの文よりも、宝の場所が丁寧に書かれているような気がする」
「やっぱりそう思う?」
「ちょっと言葉が乱暴だけどね」


確かに『地を這いつくばる者』って、あまりいいイメージは浮かばないし。


「鷹の目だって。 鳥さんだよ」
「鳥かあ・・・」


空を飛んでいるイメージだな。


「鳥さんには見えないのかな?」
「鳥目だから・・・とか?」
「だとしたら、夜には見つけることができないってことかな?」
「かもね、いいセンいってるんじゃない?」
「地を這いつくばるって、ほふく前進する人のことかなあ?」
「低いところにあるってことかな?」
「全部、整理してみるよ」


メモった内容を見つめながら考える。

そして、自信ありげに答えた。


「ゴミ捨て場をあさる鳥さんだから、カラスだよっ」
「カラスが今回お目当てのもの?」
「カラスさんってね、きれいなものを集めるのが好きなんだよ」
なっちゃんの推理だと、カラスが集めたきれいなものが宝だってこと?」
「違うかな?」
「なぞなぞみたいだなあ。 解釈の仕方が違うんじゃないかな」
「ケンちゃんはどう思う?」
「ちょっと待ってね。 今整理するから」


・・・・・・。


・・・。

 

「うーむ・・・」


十分ほど考察。

 

 

「どう? わかった?」
「大体はね。 でも、確信が持てない」
「もう解けちゃったんだ。 ケンちゃん、探偵になれるよ」
「いや・・・」
「ちょっぴり悔しいなぁ・・・ケンちゃん賢いから、こういう問題は楽勝なのかもね」
なっちゃんも解いてみる?」
「えっと・・・できれば自分の力で解いてみたいかな」
「ヒントなしに?」
「できればだからね。
どうしようもなくなったときには、ケンちゃんに助けを求めるかもしれないけど・・・。
今まで頼ってきたぶん、自分でも少しはやれるんだぞ、ってところを見せつけたいんだよね」
「そんなに難しく考えることないのに・・・甘えてもらった方がおれ的には嬉しいんだけど」
「んー・・・」


けれど夏咲は首を振った。


「早く暗号を解いて、ケンちゃんを驚かせてあげるっ」
「まあまあ、おれも完全に解いたわけじゃないからさ・・・」
「そうなの? ケンちゃんはわかってると思うんだけどな」
「そうかな」


・・・。


「さて、と・・・」
「ん?」
「ケンちゃん、お散歩に行こっ」
「どこに?」
「ちょっと、やりたいことあるの」
「なになに?」
「内緒だよ・・・えへへっ」
「えー」
「夜までのお楽しみだよ」

 

・・・・・・。


・・・。

 

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「早くやろっ、花火」
「花火か・・・」


商店街で花火を買った。

待ちきれない様子で、花火の袋を開けた。


「こういうときって、どれからしようか迷うよね。
んー、やっぱり十六連発の打ち上げ花火からかな」
「それは最後がいいんじゃないかな?」
「じゃあ、ロケット花火だよ。
くふふっ、ケンちゃんに向かって投げてやるぅっ」
「花火を人に向けちゃいけません」


適当に花火を選び、火をつける。


パラパラ、ジューッ・・・。


「おぉぉっ・・・」


目を丸くしている。

 

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「くおぉぉぉっ・・・」
「こ、興奮してる?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「な、なっちゃんなっちゃん! 帰ってきて!」
「え、あ、ごめんごめん。 つい興奮しちゃって」


・・・。


危ない子なのかな・・・。


「・・・綺麗だね」


うっとりとした表情で花火を眺めていた。

花火遊びには、眺める者もいれば振り回す者もいる。

夏咲は前者のようだ。

男であるおれは、情緒関係なく振り回すのみ。


「ほらなっちゃん、見てみっ」


ぐるんぐるんと花火を円形に振り回す。


「花火はそうして遊ぶものじゃないよ」
「はは・・・でもさ、よーく見てみ」


ぐるんぐるんぐるんぐるん・・・。


「うっ・・・」
「え?」


・・・。

 

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「ぼーっ・・・」
「い、いかん」


花火の回転を止める。


「あ、もう終わっちゃった。 もう一回」
「花火は振り回して遊ぶものじゃないんだよ?」
「・・・むぅ」
「・・・それじゃ、もう一回だよ。
あんまり回しすぎると、なっちゃん帰ってこないから」
「帰ってくるからっ」


ホントかな・・・。


「わくわく・・・ドキドキ・・・」
「そらっ!」


ぐるんぐるんぐるんぐるん・・・。


「・・・ぼおおおおぉぉぉーーーっ・・・」


しばらくそんな感じで遊んでいた。


・・・・・・。


・・・。

 

「あれ? いつの間にか花火無くなってるよ」
「むっ、ホントだ・・・」
「あと残っているのは、おっきな花火が一つと・・・線香花火」


最後に残しておいた線香花火。


「あ、なっちゃん、昨日言ってたヤツしよっか?」
「ヨガ?」
「言ってない」
「ああ、線香花火ね」
「そうそう」
「先に火の玉が落ちたほうが脱ぐんだっけ?」
「違う違う」

 

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「ケンちゃんのエッチ」
「違うっての」


夏咲は、くふふと笑う。


「はいっ、これがケンちゃんのね」


線香花火を手渡される。


「火の玉が落ちなかったほうの願い事がかなうんだよね?」
「そうだよ、おれが勝つんだよ」
「それはどうかなぁー」


おれたちは同時に火をつける。


・・・。


「願い事はもう決めた?」
「うん、もちろん」
「線香花火はなんだか趣があるよね」
「わびさびだね」
「質素だけど、静かでいい雰囲気・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


それから、互いに無言になってしまった。

おれも夏咲も、自分の手に持っている花火をじっと見つめていた。


「がんばれ~、がんばれ~っ」


エールを送っている。


「あ、あんまり揺らすと落ちちゃうよ?」
「で、でもっ、成せば成るよっ!」


ポトッ。


「・・・あっ・・・」
「あ・・・」
「・・・ガーン・・・」
「ごめん、言っておけばよかったね。
線香花火は四十五度の角度で持っていると長持ちするらしいんだよ・・・」
「あー、願い事がかなわなくて残念だよ」
「どんな願い事だったの?」
「ケンちゃんが、幸せでありますように・・・って」
「・・・・・・」


そうして、おれの火の玉も地面に落下した。


「じゃあ、次はケンちゃんの番だよね」
「えっ? 何が?」
「とぼけちゃダメだよ。 願い事」
なっちゃんと似たようなものなんだけど・・・」
「うんうん」


深呼吸をして、間を置いた。


なっちゃんが、いつまでも末永く元気でありますようにって。
なっちゃんがいつも笑顔でありますようにって、なっちゃんが・・・」
「・・・いっぱいだね」
「いっぱい幸せになって欲しいんだよ」
「嬉しいけど、欲張りだよ」
なっちゃんの欲が足りないだけだよ」
「願い事は一つだけしか叶えられないから、情緒があっていいんだよ」
「実現できる夢があるのなら、できるだけ多く頼むべきだ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「ケンちゃん、強情だよ」
なっちゃんも相変わらず、自分の主張を譲らないね」


お互い、似たもの同士なのかもしれない。


「線香花火・・・まだたくさんあるね」
「また勝負しようよ」
「受けて立つよっ」


花火がなくなるまで、ずっとこんな勝負を続けていた。

いい夏休みを過ごしたい、宝を見つけたい、ケンちゃんと一緒に過ごしたい、クラスのみんなといい想い出を作りたい・・・。

夏咲の願い事は、尽きることがなかった。


・・・。

 

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「もう、終わっちゃったね・・・」
「最後に、残しておいた一本で終わらせようか」


このために残しておいた、打ち上げ用の花火。


「私が火をつけてもいい?」
「いいけど、つけたらすぐに離れないと危ないからね」


花火を設置して、夏咲が導火線に火を灯す。

シューッと音を立てながら、打ち上げのときがやってくる。


「・・・・・・」


二人で緊張して見守っていた。

しばらく経ってバァンッと火薬が弾ける音がした。

直後、空高くへ舞い上がった火の玉が勢いよく散り、夜空に大きな花を咲かせた。


「これで、本当に終わっちゃったね」
「またやりたいな」
「今度は、みんなで一緒にね」


花火の余韻を噛み締めながら、火の始末やゴミの処理をして自宅へ帰った。

まだ夏は長い。

想い出作りは、まだまだこれからだ。


・・・・・・。


・・・。

 

 

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「はぁむっ、ちゅっ・・・あぁ」
「んっ・・・」
「んあ、ちゅっ、はあぁっ、あっ、はあっ・・・」
「な、なっちゃん・・・」
「ん? あっ、はぁっ、ちゅっ、ちゅぷっ・・・」
「きょ、今日はまた、一段と激しいね・・・」
「あっ、そ、そうかなっ・・・んちゅっ、ちゅぱっ・・・」


艶かしい吐息。


「あぁん、んっ、あふっ、ちゅっ・・・」
「そ、そんなに体おしつけて・・・」
「はあっ、あぁ・・・あ、頭がぼーっとしてきたよ・・・。
け、ケンちゃん、あ、あのね・・・。
んっ、ちゅっ・・・はあ、あの、あのね・・・」
「なに?」
「お願いがあるの・・・」


消え入りそうな声。


「んちゅっ、も、もし、い、いやじゃなかったら・・・。
うぅ・・・、きょ、今日の夜・・・あ、ん・・・。 し・・・」


ごくりと唾を飲み込んだ。


「して、欲しいの・・・」
「・・・・・・」
「ご、ごめんっ! わたし・・・え、エッチなこと言ってる・・・!」


あたふたしだす。


「は、恥ずかしい・・・ごめん、ごめんっ・・・」


おれはそっと頭を撫でる。

 

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「わかったよ・・・」
「え?」
「夜、ね」
「う、うん・・・ありがとう・・・。
んちゅっ、ちゅっ・・・。
よ、夜まで、我慢するねっ・・・ほんとにごめん、ヘンなこと言って・・・」


そそくさと、体を離す夏咲だった。


・・・・・・。


・・・。

 


暗号解読再び。

宝探しと聞いたから、普通は体を動かしてあちこちに行きそうなものを想像してたのに・・・。

これはもう、オヤジの嫌がらせとしか思えない。

 

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「こうして昼前まで頭を悩ませてるのって、夏休みの宿題をしてるのとなんら変わらないよ」
「二人で一緒にお勉強してるって思えばいいんだよ」
「外に行って遊びたいなあ」
「わたしも行きたいけど、もうちょっと頑張ってからにしようよ」
「健全な男女が家の中に閉じこもっていても、いいことなんてあまりないのに・・・」
「健全な男女・・・」


じっと見つめてくる。


「うん?」
「あ、なんでもないよ。 ごめん、朝から調子おかしくて・・・」
「み、水浴びでもしようか?」
「そ、それいいねっ。 夏はやっぱり川で泳ぐに限るよね」


ぎこちない。


「どれだけ遠くまで泳げるか勝負だね」
「川で遠泳なんて聞いたことないよ・・・」
「川は浅いって言うけど、膝辺りまでつかる所もあるし、足が川底に着かない場所だってあるんだから」
「それ、危険地帯だよ。 溺れちゃうよ?」
「海にいけないから、川で楽しみたいんだよ」
なっちゃんは、海に行ったことがなかったんだっけ?」
「一回もないよ」
「それはかわいそうに・・・よし、学園を卒業したら、ちょっと旅行でもしようか?」
「海の水って、塩辛いんだよね」
「うん。 飲んでみたら辛かった」
「えぇっ!? 飲めるんだ?」
「・・・間違って飲んじゃっただけだよ。 間違えても、なっちゃんは飲んじゃダメだよ」
「お魚さんも一緒に飲んじゃったらどうしよう・・・」
「多分、そんなことはないと思うよ」
「お腹の中で騒がれたら、きっとくすぐったいんだろうなあ・・・。
あっ・・・なんか、想像しただけでくすぐったくなってきちゃったよっ・・・くっ、くくっ、あははっ・・・」


お腹を押さえて笑いをこらえていた。


なっちゃん? 大丈夫?」
「うっ、うん・・・ぷっ・・・くくっ・・・」


一人でウケてる。


「あははっ・・・ケンちゃん、どうにかして・・・笑いすぎて、お腹が痛いの・・・」
「そ、そう? そんなに面白かった?」
「ふふっ、子供欲しいなって・・・」
「え?」
「ううん、ケンちゃんとケンちゃんの赤ちゃんと一緒に遊んでるとこ想像したら楽しくなっちゃって」
「子供、か」


考えたこともなかったな。


「ケンちゃん大変だね」
「なにが?」
「赤ちゃんができたら、家に子供が二人になっちゃうよ?」


自分を指差している。


なっちゃんはお子様?」
「お子様だよ・・・ふふっ」
「とにかく、遊びに行こうかっ」


川辺へ。


・・・・・・。


・・・。

 

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「えぇーいっ!」


バッシャーンッ!


こんな天気には泳がなきゃ損だ。

しかし、田舎町の川では満足に遊べるほどの深さはないので、仕方なく・・・。


「うわっ!」


こうして水のかけ合いしかできない。


「倍返しだ!」


水底まで手を下ろし、夏咲めがけて一気に水をかき上げた。


バッシャーンッ!

 

「きゃっ、つ、冷たいぞー!」
「はははっ・・・」


ムキになって倍返ししてくる。


「くーっ!
ケンちゃんは手の平が大きいから、こういうの有利なんだよね」
「はっはっは。
だったらなっちゃんも頭を使って対抗するんだね」
「ケンちゃんが量で勝負するなら、こっちは数だよっ」


バシャッ、バシャッ、バシャーンッ。


「うおおっ・・・こ、これは・・・」


意外ときつい・・・。

休む間もなく水が襲ってくるため、なかなか反撃することができない。


「このっ、このっ、このっ!」
「うわっ? わわわっ、わわっ!」


夏の暑さが吹き飛ぶ。


「おりゃおりゃおりゃっ!」


手の回転数を上げ、先ほどよりも多くの水を夏咲にかけ続けた。


「あうっ・・・っと、わわっ!」


おれの攻めに屈したのか、川底にしりもちをついていた。


「ありゃ、やりすぎちまったかな・・・なっちゃん、大丈夫?」


水をかけるのをやめ、そばに近寄った。


「ケンちゃんったら、張り切りすぎだよお~・・・」
「ああ、ごめっ・・・」


生地の薄い服が水に濡れて、夏咲のきれいな肌が透けて見えてしまっていた。

しなやかな曲線を描いた夏咲の体に、思わず見とれてしまう。


「うっ・・・」


一瞬たじろいだ。


「すきアリっ!」
「おわっ!」


不意打ちをくらってしまい、今度はおれがしりもちをつく羽目になってしまった。

 

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「仕返しだよおっ!」


怒涛の勢いで水をかけまくる夏咲。


「わっ、ちょ・・・タンマタンマッ!」
「ダーメッ! えいっ、えいっ!」


体勢が悪いため、うまく反撃することができない。


「に、逃げろー」
「逃げちゃダメだって、ケンちゃんっ」
「だあーっ! そんなに水をかけられたら、誰でも逃げるって!」


手で必死にガードをするが、襲いかかってくる大量の水を防ぐことができない。

叫んで口を開けたとき、ここぞといわんばかりのタイミングで水が押し寄せてくる。


「ごぼっ・・・けほっ、けほっ・・・」
「まだまだだよおっ」


勢いに乗って夏咲が追い討ちをかける。


「がっ!? 鼻の中にっ!?」


情けなくパニくっているおれ。


「あははっ。 ケンちゃん、大丈夫?」
「だいじょうぶといいながら、水をかけないでくれっ!」
「えへへへっ、えいえいっ!」
「こうなったら、最後の手段!」


ひたすら逃走!


「逃げるが勝ち、ってね!」
「あーっ、ずるーいっ!」


夏咲がすぐさま追いかけてくる。

水と川底にある石の抵抗で、前に進むことが困難だった。

それは夏咲にもいえることで、おれとの間合いがなかなか縮まらないでいた。


「おーにさーんこーちらっ」
「くぅっ! 逃がさないよーっ!」


おれと夏咲の鬼ごっこが始まった。


・・・つもりだったが、石につまずく!


「うわっぷ!?」


顔面から着水。

手をついて起き上がろうとした矢先・・・。


ケーンちゃんっ」


おれの背中に抱きついてくる夏咲。


ドンッ!


「ぐわっ!?」


バッシャーンッ!


二人一緒に川の中へダイビングしてしまった。


・・・・・・。


・・・。

 

「はあっ・・・けっこう疲れたね」
なっちゃんの元気のよさには恐れ入ったよ」


さっきの鬼ごっこでいつの間にか背後にいたもんなあ・・・あれにはビックリだ。


「涼しくて気持ちいいねっ」
「毎日こんなことしていたら、夏の暑さなんて気にならないよ」


水のかけ合いで疲れたおれたちは、しばし休憩を挟んでいた。


「何か面白いもの、ないかなー・・・」


川底を見つめながら歩き回る夏咲。


「おっさかーなさーんっ・・・。
・・・んー・・・いないなあ・・・」


水深の浅い場所へ移動した。


「あっ、カニだっ。 ケンちゃん、カニがいるよ!」


早く早く、と手招きしてはしゃいでいた。

そばによって見てみると、そこには手の平に納まるほどの小さなカニがいた。


「えいっ」


夏咲はカニ素手でつかみ、おれの目の前に持ってきた。


「えへへっ・・・ほらっ」
「ちっちゃくて可愛いね」
「いかにも、かにかにって感じで動いてるよね」


かにかに?


「ケンちゃんに攻撃っ」


カニにおれの鼻を挟ませようとしていた。


「あぶねっ!」
「怖いの?」
「そういうことじゃないでしょ」
「えへへ・・・」


わきわきとはさみを動かすカニの向こうで、不敵に笑う。


「ちょ、ちょっと、やめてよ」
「ごめんね、ちょっとした冗談だよ」


ザクッ!


・・・が、指を刺された。


「イテェッ!」
「あわわっ! おいたしちゃダメだよ」


夏咲は再び指を挟ませて、カニとじゃれていた。


「ばいばい、カニさん。 また遊ぼうね」


そそくさと退場するカニ


「あんなに小さいのにシャキシャキ動かれると、あまりの可愛さにペットにしたくなっちゃうよ」


カニをペットにして楽しいのかな?


「もう一回、お魚さんを探すよっ」


再び川の中へ。


「あっ、よく見たら、ちっちゃいのがたくさんいるっ」


夏咲が指差した方向に目を凝らしてみた。

川底にある石の色と似ていて分かりにくかったが、何とか見える。

小指ほどの大きさの魚が、一定の場所に留まっていた。


「お魚さんは素早いからね・・・慎重に、慎重に・・・」


気づかれないように、ゆっくりとした足取りで近づいていく。

そして、素早く川底を手ですくった。

水が跳ね、視界が水で覆われる。


「あんっ・・・逃げられちゃったよぉ~」


夏咲の手の平には、何もなかった。


素手で捕まえられたら、多分達人の域だよ」
「・・・わたし、魚取りの名人じゃなくてもいいよ」


ちょっと拗ねていた。


「あーあ、今ので全部逃げちゃったんだろうなあ、苦労して見つけたのに・・・。
他に面白いものはないかなー?」


再三、川底を見ながら歩き回っている。

夏咲とは対照的に、おれは空を見てみた。

青空が際限なく広がっており、眺めが大変よろしい。

青々とした空を見ていると、涼しくも爽やかな気分で心が満たされる。


「ケンちゃん。 これ見てっ」


夏咲の方に視線を戻す。


「この石、丸くてきれいだね」


凹凸が全く見られない、丸みを帯びた直径数センチの石をおれに見せてきた。


下流でよく見られる石だね。
探してみたら、もっと見つかるかもしれないよ」
「もっと探してみようよ。 もちろん、ケンちゃんも一緒にねっ」


しばらく、石を探し回ることになった。


・・・・・・。


・・・。

 


しばらく経ってから、二人で取った石を見せ合った。


「ほらほら。 こんなに可愛い石が、一杯あったよっ」


小さい石やら光沢のある石などが、夏咲の手の平にたくさん納まっていた。


「おれのは、こんな感じ」


小指の爪サイズの黒曜石ばかり取ってきた。


「うわぁ・・・黒くてきれいだね。 つやつやってしてるよ」
「まあ、こんなものかな」
「これは、全部おみやげとして持ち帰ろうね」


集めた石をまとめて、河原にある自分たちの靴のそばに置いた。


「まだまだ遊べるよねっ」


お天道様は、川辺に遊びに来たときと比べてわずかしか傾いていない。

時間はたっぷりと残っているようだ。


「えいっ」


また水をかけられた。


「うわっぷ!? ・・・やったな、そらっ!」
「きゃっ、つめたーいっ」


遊ぶ内容がループしていた。

それでも、夏咲と遊べるだけで楽しい一時を過ごせた。


・・・・・・。


・・・。

 

気づいた頃には夕方になっていた。


「もうそろそろ帰らない?」

 

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「そうだね・・・っくしゅん!」
「大丈夫? 体とか冷えてない?」
「んんーっ・・・ちょっと風が冷たいかな」
「水に長い間つかっていたからね・・・」
「早くお風呂に入らないと風邪引いちゃうよ」
「一緒に入る?」

 

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「うん・・・ケンちゃんとなら、いくらでも入ってあげるよ」


ちょっと恥ずかしいけど・・・。

 

・・・・・・。


・・・。

 

「今日も一日お疲れさ~ん、っと」


風呂場に入って身体を洗っていた。


「やっぱり風呂はいいなあ」


今日はたくさん汗をかいたから、念入りに洗っておく必要がある。


なっちゃんは、まだ夕食の片付けをしてるのか・・・」


あとで一緒にお風呂に入ろうと話をしていた。


「ゆっくり身体を洗うか・・・」


首筋から肩、腕、胸、腹、そして下半身へ・・・と。


「ケンちゃん・・・来たよ」


ドア越しに夏咲の声が聞こえてきた。


「待ってたよ。 どうぞ」
「・・・お邪魔するね・・・」


恥ずかしがっているのか、ドアをそろそろと開けていった。

おれは振り向いて言ってやった。


「そんなに恥ずかしがることもない、の・・・に?」


夏咲の姿を見て驚いた。

裸だったからではない・・・それは予想の範囲内だ、いや、むしろ裸だと思っていた。



しかし、目の前にいるのは水着姿の夏咲だった。


「なぜだぁっ!?」


思わず絶叫。


「えっとぉ・・・まだ夏になって一回も着てないから・・・」
「言いたいことは分かるけど、何で水着があるの?」
「着替えを探そうと思ってタンスを探してたら、あったんだよぅ・・・」
「あらかじめ買ってたとか?」
「ううん。 知らないうちに入ってたの」
「その水着、新しいわけ?」
「うん。 今日買って持ってきたみたい」
「誰が?」
「磯野くんが」
「磯野ォッ!」


感謝すべきところなのか、怒るところなのか微妙だった。


「どうして磯野なんだっ!」
「今日、わたしの水着を送ったって、電話で直接聞いたよ」


全くもって意味が分からん。


「着たらケンちゃんが喜ぶって言ってたから、着てみたんだけど・・・」
「まあ、可愛いし似合ってるから、嬉しいといえば嬉しいんだけど・・・」
「ホント? よかったぁ・・・」
「でも、恥ずかしくないの? 風呂場にその、水着姿って・・・」
「なにが?」
「・・・・・・」


素で分かっていないらしい。


「いいんじゃないかな・・・。
これで裸を見られずにケンちゃんの身体を洗ってあげられるし」


裸を見られないって・・・。


なっちゃん、今日は一緒にお風呂に入ろうって言ってたじゃないか。
それって、裸を見せ合うってことなんだよ」


自分で言ってて恥ずかしかった。

裸を見せ合うって・・・夜の運動じゃあるまいし。


「この水着があったからだよぅ・・・だって、裸ってやっぱり恥ずかしいんだもん」


このシチュエーション自体が恥ずかしいと思っていないようだ。


「というわけでケンちゃん。 身体洗った?」
「今、洗ってる最中なんだけど・・・」
「じゃあ、始めから洗ってあげるねっ」


有無を言わさず、おれの手から泡だらけのタオルを奪っていく夏咲。


「あっ・・・」
「首から洗うよっ」


おれの背後に回り、タオルを身体にこすりつけた。

 

 

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ゴシゴシ・・・。


ちょうどいい力加減で、首筋から肩にかけて身体を洗ってくれていた。


まあ・・・いっか。


「ゴシゴシ・・・ゴシゴシ・・・っと」


肩の辺りをタオルでゴシゴシとされている。

肩叩きみたいで気持ち良かった。


「次は腕だねっ」


右腕から左腕・・・指先から指の付け根まで丹念にタオルでこすってくれた。


「次は胸とお腹。 ケンちゃん、ばんざいして」
「ば・・・ばんざーい・・・」


両手を上げて万歳のポーズを取る。

わき腹から腕を回され、胸、腹、と丁寧に洗ってくれた。


「ケンちゃんの身体って、固いよね。 さすが男の子って感じだよ・・・」


胸、腹、と丁寧に洗ってくれた。


「カッコいいよ・・・」


丁寧に洗ってくれた。


なっちゃん。 さっきから同じところを洗ってるよ?」
「ああっ、ごめん。 ついケンちゃんの身体に見とれてて・・・」


わたわたと慌てていた。

その反動で、おれの背中に柔らかい感触が押し付けられた。


むにゅっ。


「・・・っ!」


その正体がなんなのか分かってしまった。


「次は背中だねっ。 ケンちゃんも、もう腕を下ろしてもいいよ」
「う、うん・・・」


びっくりしたあ・・・。


今度は背中をゴシゴシとされる。


「ケンちゃんの背中って、おっきいよねぇ~・・・」


上下にタオルをこすり、洗い残しがないように隅々まで洗ってくれる。


ゴシゴシ・・・ゴシゴシ・・・。


ゴシゴシゴシ・・・ゴシゴシゴシ・・・。


「・・・・・・」
「・・・なっちゃん?」


さっきから同じところばかり洗っている。

・・・ああ、これから先は洗いづらいよな。


「ありがと、なっちゃん。 後はもう自分でできるから・・・」


ぴとっ。


「・・・・・・」


夏咲がおんぶされるような体勢になり、おれの首に腕を回した。


「ケンちゃん・・・」


切なそうにおれの名前を呼んだ。


「ケンちゃんだあ・・・」


きゅっと腕を締めてきた。

中越しに、夏咲の心臓の鼓動が伝わってくる。

ドキドキと早く脈打っているということに気づき、おれもそれにつられて心臓が高鳴ってきた。


「・・・なっちゃん・・・」


背中に押し付けられる柔らかい感触が、おれの興奮を昂ぶらせる。


「あっ、ごめんね・・・またぼーっとしてたみたい」


てへっと笑いながら、おれの下半身にタオルを持っていった。


「あっ、ちょっと待って・・・」


止める暇なく、おれの股間に夏咲の手が添えられた。


「あれ? これって・・・」


硬い肉棒に手が触れて、戸惑っているようだ。


「ケンちゃん・・・」
「・・・ごめん。 さっき背中洗ってたときに、その・・・」
「わたしも・・・ケンちゃんの背中を見たときに・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


再び沈黙。


「ケンちゃん・・・わたし・・・。
え、えっと・・・朝、お願いしたよね・・・。
ご、ごめんね、朝、ヘンなこと言って・・・。
わ、わたし、ほ、ホントに、どうかしてたよ・・・。
で、でも、なんだか、ドキドキして・・・我慢できなくなってきてて・・・。
今日もね、水をかけて遊んでるときから、ずっと我慢してて、でも我慢できなくなってきて・・・。
は、早く、ぎゅってして欲しいって、思っちゃって・・・」


背後から、きゅっと抱きしめられる。

言いたいことが自然と伝わってきた。


「・・・ん・・・」


おれは振り向いて、夏咲を優しく押し倒した。


「ケンちゃ・・・んっ・・・ぅんっ・・・」


静かに、唇を重ね合う。


「あっ・・・ケンちゃんの・・・当たってるよ。
ケンちゃん、欲しいなあ・・・」
なっちゃん・・・」


おれたちはお互いを求め合った・・・。

 

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・・・・・・。


・・・。

 

 


「ケンちゃんっ」


優しく微笑んだ。


「ずっと・・・一緒だねっ・・・」


手にぐっと力が入る。

おれも握り返した。

夏咲の体温を身近に感じる。

もう二度と、この少女を手放すことはしない。


絶対に・・・。


・・・・・・。


・・・。

 



「うぅ~ん・・・」


布団の中でごろごろしていた。

顔を横に向けるとそこには・・・。


「・・・く~っ・・・」


夏咲の優しい寝顔があった。

枕元に置いてある時計を確認してみる。


午前十一時。


・・・今日は夏咲もねぼすけさんのようだ。


「んん~・・・ケンちゃん?」


起きたようだ。


「おはよう」
「ん・・・おはよう~・・・」


コテッ。


「くー・・・くー・・・」


寝た。


「よく寝れるなあ・・・」
「・・・って、今何時!?」


夏咲が急に飛び起きた。


「十一時」
「ああうっ・・・」


布団から飛び起きて、私服に着替える。


・・・。

 

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「えぇっと・・・おはようっ」
「おはよう。 それと、何を慌ててるの?」
「ご飯、作らなきゃ」


ピューッと台所へ急ぐ夏咲。


「そんなに慌てて走ると転んじゃ・・・」


「きゃっ・・・」


ズッテーンッ!


「うぅ・・・いたい・・・」


健気に立ち上がり、再び走り出した。


「朝から頑張るなあ・・・」


ゆっくりと起きて、服に着替えた。


・・・・・・。


・・・。

 

寝起きで頭がボーっとしている状態で、居間に入った。


「んんっ!?」


昼食の準備がされているのかと思いきや、ちゃぶ台の前に夏咲がぽつーんと座っていた。

ちなみに、食事は何も用意されていない。

 

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「おはよ~、けんちゃぁん・・・にゃむにゃむ」
「・・・なっちゃん、起きてる?」
「うん。 サンドイッチ」


・・・サンドイッチ・・・?


はぐはぐ・・・」
「それで朝食は? ・・・いや、昼食かな?」
「はんばーぐかれー」
「用意されてないみたいだけど?」
「おいしー」
「うん、そりゃ美味しいだろうけど・・・。
なっちゃん、とりあえず目を覚まして。 しっかりしてもらわないと話が進まないよ」
「う~ん・・・てんこもり」


さっきから意味不明な発言だ・・・しかも食べ物関連ばかり。


なっちゃん! 起きて!」


猫だましをかけた。


「はぁうっ!?」


バッチリ目が覚めているようだ。

・・・いつもこれで起きるよな。


「今、寝てたよね?」
「えっ? 寝てたって・・・わたしが?」
「そう」
「そっ、そんなことないよう・・・」
「じゃあ、何してたの?」
「ケンちゃんと一緒にご飯食べてたんだよっ」
「でも、何も用意してないよね」


夏咲がちゃぶ台を眺めた。


「・・・・・・」
「ねっ?」
「ケンちゃんが片付けてくれたの? ありがとう」
「違うって!」


・・・・・・。


・・・。

 

とりあえず昼食をすませ、一服中・・・。

 

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「ご、ごめんね・・・寝ぼけてたみたい・・・」
「そんなに申し訳なさそうにしなくていいよ。
見ているこっちとしては、なかなか面白かったし」
「はあ・・・寝起きはあまり騒ぐものじゃないって教訓になったよ」
「慌てて準備しなくても、今日くらいはゆっくりしてればよかったのに」
「ケンちゃんのためにご飯を作ることが日課だから、これだけは譲れないよ」
日課ねえ・・・」
「他にも家事はもちろんだけど、シャツのアイロンがけとか、その日の体調に気を遣ったりとか、どんなことをしたらケンちゃんが喜んでくれるかなとか、いろいろ・・・」
「気を遣いすぎじゃないかな?」
「もしかして、迷惑だった?」
「全然。 嬉しいくらいだけど、なっちゃんは毎日そんなことやって疲れないの?」
「疲れないし、苦にもならないよ。
逆に、やらないと落ち着かなくなっちゃうし」
「そこまで言うなら無理して止めないけど、きつくなったら遠慮なく言ってね」

「そうやってわたしのことを気遣ってくれる優しいケンちゃんだから、なんでもしてあげられるんだよ」


ここまで想ってくれているとは・・・。


「えへへっ・・・」


照れながら、ほんわかした笑みをこぼしていた。


なっちゃんの気持ちはわかったよ」


視線をそらし、別の話題を持ち出した。


「宝探しの件なんだけど・・・なっちゃんの方はどんな感じ?」
「全く分からないよ・・・でも、解いてみせるね」
「じゃ、準備でもしよっか」


テーブルの上をテキパキと片付け、メモ用の紙と鉛筆と暗号文を用意。


「やる気満々だね」
なっちゃんだってそうだろ?」
「もちろんっ。 ケンちゃんをあっと驚かせてあげるよ」


再び暗号文と睨めっこ。


『そこはガレキの山である。 存外知られているその場所に、人知れず宝は埋もれている。 鷹の目を以てしても見つけることはできず、地を這いつくばる者にのみ宝は光り輝く』。


「おれはもう一回、この内容を確認してみよう」
「わたしは自分の力で解いてみるね」

 

ピンポーンッ!

 

「あっ、お客さんだ」


夏咲が玄関へと歩いていった。


「この家に来るやつなんて、始めから分かってるんだがな」


・・・ウチに呼び鈴ってあったっけ?

 

 

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「やっほー」

 


さちだ。

 

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「元気?」



灯花だ。

 

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「おはようぐると」


アホか。

 

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「おはようぐると!」


・・・。

 

「ちなみに、呼び鈴の真似したのも磯野くんだから」


「相変わらず、すごい特技でしょ?」
「なにしにきたんだ?」
「僕がみんなを誘ってきたんだ。 協力してやろうと思ってね」
「協力?」
「みんな、友達想いなんだぞ」

 

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「お宝」

「ジュースとアイス」


「友達想いだろう?」
「てめえら・・・」


「夏咲、今ってどんな感じなの?」
「また暗号が出てきちゃってね、それを解いてるの。
ケンちゃんは解けたみたいなんだけど、わたしはまだ一人で解いてるよ」

 

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「おら森田! 夏咲ちゃんに手ぇ貸してやらんか!」
「自分の力だけで解いてみたいなあと思ったの。 最後の謎みたいだし」
鎖国?」
「うん、ごめんね」


「じゃあ、あたしらはあたしらでやってみようよ。
夏咲は一人でやりたいって言ってるし」
「三人寄れば文殊の知恵、か」
「あたしには期待しないでね」


「わたしは磯野が一緒だと、いい考えが浮かばない気がする」


各自、作業開始。


・・・・・・。


・・・。

 

半日ほど経過し、いつの間にか夕方になっていた。


「・・・・・・」
「・・・・・・」


おれと夏咲は、静かに作業をこなしている。

 

 

「おおーっ! よく見れば、二つとも同じ文字数じゃん!」
「それくらい、誰でも分かるって」


「さすがさちさん。 僕でも分からなかったというのに・・・」
「うそばっか・・・他に気づいたことないの?」
「三郎さんは賢いということだ」
「いや・・・どうでもいいじゃない」


「灯花はなにか気づいた?」
「えっ・・・うーん・・・。
なんだかこの文章、暗号みたいだなあって・・・」


「・・・・・・」
「・・・・・・」


「ご、ごめん・・・」


そのときだった。


「地上にいる人・・・」


夏咲が小声で呟く。


「しかし、ガレキの山って言うのは、さちさんの部屋みたいなものかな・・・」
「ああ、あんな感じか・・・って普通に散らかってるだけじゃないっ」


「散らかってる部屋・・・。 うぅ~ん・・・」


夏咲が考え始めた。

これだけのキーワードがそろえば解けるはずだが・・・。


「でもさあ、鷹と宝って関係あんの?」
「ら、違いだろう」


「だから?」
「さあ」


こいつらホントなにしに来たんだ?


対する夏咲は。


「・・・できたかも」


解読を終了させたようだ。


「えっ? ・・・もう?」

「ほお、早いな」

「私、まだ半分も解けてないのに・・・」


灯花、お前は全く解けてないの間違いだろ。


なっちゃんから説明してほしいな」
「ケンちゃんと一緒の答えだったらいいのかな?」
「たぶんね。 おれの答えが正解なら」
「じゃあ、暗号内容の確認からするね」


『そこはガレキの山である。 存外知られているその場所に、人知れず宝は埋もれている。 鷹の目を以てしても見つけることはできず、地を這いつくばる者にのみ宝は光り輝く』。


「最初から解いていくけど、まずは『ガレキの山』。
これって、散らかってる場所のことだと思うんだ」
「やっぱりあたしの部屋のことじゃん!
って、もしかしたら、前に見つけた宝のこと言ってんのかもね。 まだ部屋に置いてあるし」


んなワケないって・・・。


「でもね、さっちゃん。 もっと散らかってる場所があるんだよ。
しかも、意外と知られている場所に宝はあるって書いてあるし。
ここかなあって思うところが一ヶ所だけあるんだ」
「えっ、マジ!? もっと汚いトコあるんだ」


「さちの部屋より汚いとこって・・・一体どこにあるのかしら、そんなもの」
「三郎さんの部屋」


・・・・・・。


「ああ、納得」


「そんなに散らかっているのか?」
「廃棄処理場みたいな感じだった」


「ケンちゃん、前はゴミ捨て場って言ってたのに・・・」


「えーっと、三郎さんの部屋に宝が置いてあるってことでいいの?」
「多分だけどね」


「次の文章はどうなるのかな?
『地上に這いつくばって』っていうところ」
「うん。 これって、ほふく前進してる人みたいじゃない?」


「ちと言い方があれだけど、確かにそうだよね。
ほふく前進って地面を眺めながら進んでるって感じだし」
「さっちゃん、それだよ」
「へっ? なにが?」


きょとん、とした表情で夏咲を見つめ返していた。


「地面に注意しなさいって言いたいんだよ、この文は。
つまり、空にいる人には難しいことでも、地上にいる人なら簡単にできるってことなんだよ」
「いままでの話をまとめると・・・三郎さんの部屋にある床を調べろ、ってことになるの?」
「うんっ」


夏咲が自信ありげに頷いた。


「ケンちゃん、どうかな? 今のは結構自信があるんだよ」


みんなの視線がおれに集まった。


「ん? どした?」
「だから、判定だって。 これであってるのかって聞いてるのっ」
「・・・ああ、確かにおれと一緒の解き方だよ」

 

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「じゃあ、正解なんだね」
「うん。 おめでとう」
「やったやった! やっと解けたよ!」

 

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「あーあ・・・先を越されちゃったね」

「三人寄ればもんじゃの知恵って言ってたのに・・・」

「ふむ・・・知恵が働いたのは夏咲ちゃんの方だったか」


「・・・灯花、勝手に食い物にするなよ」


・・・。

 

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「・・・ふうっ・・・」
なっちゃんもよく頑張ったよ。 疲れたでしょ」
「あ、うん・・・疲れたね・・・」
「? せっかく暗号が解けたのに、何だか浮かない顔してるね」
「けっきょくみんなの力を借りちゃった気がするよ・・・。
わたしって、自分一人じゃ何もできないのかな?」
なっちゃん、自分の力だけで物事を考えて行動するということは確かに大事だよ。
だけど、一人でやっててどうしようもなくなったときくらい、助けを借りてもいいんじゃないかな?」
「・・・うん・・・」


「うんうん、森田も僕もいいこと言った」

「言ってないよ、磯野は」


なっちゃんも言ってたよね。
宝を見つけることが目的でも、そこにたどり着くまでの過程が一番大切なんだって」


「まあまあ、一人は寂しいじゃん!」
「さっちゃん・・・」


「ごはんはみんなで食べた方がおいしいんだよ」
「灯花ちゃん・・・」


・・・。


「そうだよねっ。 みんなと一緒にいれば、楽しいことばっかりだもん!」


ぱあっと顔を輝かせていた。


「さっちゃんがいれば、自然と元気になれるし・・・。
磯野くんがいれば、面白い話で場を和ませてくれるし・・・。
灯花ちゃんがいれば、優しい笑顔を振りまいてくれるし・・・」


夏咲がおれの方を向いた。


「ケンちゃんがいれば・・・何だって楽しいしねっ!」


一言づつ、かみ締めるように宣言した。


みんな、大切な仲間だ・・・親友だと。


「元気ねえ・・・別にあたしは普通にしてるだけなんだけどね」

「僕もだよ」

「そんな面と向かって言われると・・・なんだか照れるね・・・」


「よーしっ、じゃあオジサンの部屋に直行しよっ。
最後のお宝を見つけるために!」


さちの呼びかけに、この場にいるおれ以外の全員が歓声を上げた。


「・・・・・・」
「賢一、さっきからやる気なさそうなんだけど、どしたの?」
「あの部屋を片付けなきゃいけないと考えただけで、めんどくさくなってきた」


「最後なんでしょ。
ここまで来たらめんどくさいなんて言っちゃいけないと思うのよね」
「もちろん。 やるといえばやるんだけど・・・」


「だったら、今すぐ行こうじゃないか」

 

「えっ? でもみんなは早く帰らないと、夜遅くなっちゃうかもしれないよ」


今は夕方だ。

オヤジの部屋を片付けてから床を調べてたら、夜が明けてしまいそうだ。


「片付けなんてしないでそのまま探そうよ。 時間の無駄だし」
「さちの考えも一理あるが、まだ部屋を見たことないだろ?」


「僕も見たことないぞ」
「じゃあ二人にも見せてやる。 とても今日だけじゃ終わりそうもないぞ」


磯野とさちを、親父の部屋へ案内した。


・・・・・・。

 

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「ううむ・・・あれではちょっと無理があるか?」
「だろ?」


「あたしの方が、まだ几帳面じゃん!」
「どっちもどっちだ。
これでわかったろ。 片付けるのは明日にしよう」


「それがいいと思う。
今日はゆっくり休んで、明日からみんなで探そうよ」


「・・・・・・」

「さんせーっ」

「私もそれで構わないよ」


三人からOKをもらった。


「・・・ケン」
「何だ?」
「話がある、ちょっとついて来てくれ」


「なになに? 密談?」
「男同士のね」


「気持ち悪いこと言うなよ・・・」


おれと磯野は外に出た。


・・・・・・。

 

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「ふう・・・いい夕焼けだな」
「何の話だ?」
「もちろん。 宝探しのことについてだよ」
「分け前が欲しいのか?」
「分け前なんてどうでもいい。
今回のお宝はそんなものじゃない、と僕は思う」
「宝をみんなと一緒に探そうとは言ってるけど、財宝と名のつくものじゃないことは確かだぞ」
「そこでだ」


磯野が、真剣な表情でおれの顔を見た。


「大変だろうが、明日から二人だけで頑張って宝を探してみたらどうだ」
「なぜ?」
「恐らく三郎さんは、ケンと夏咲ちゃんの二人だけに、特別な何かを用意していると思うんだ。
そんな雰囲気の中で、僕たち三人がお邪魔するわけにはいかないだろう?」
「最初の手紙にもそういうニュアンスがあったが、別にみんなと一緒でも・・・」
「ケン・・・ここまで誰と一緒に宝を探してきたんだ」
なっちゃんを含めて、みんなとだよ」
「その中で、誰の顔を最初に思い浮かべる?」
なっちゃん
「・・・どんな物語でも、ハッピーエンドは二人だけで静かに暮らすものさ」
「そうか?」
「間違いない」


断言された。


「最後くらい、二人だけで楽しむといいよ。
あの二人には僕から言っておくから」
「うぅむ・・・。
最後くらいは二人きりで、か・・・」
「じゃあな、ケン。 これは友情だ。
けっしてあの部屋を片付けるなんてごめんだ、なんて思ったわけじゃない」
「・・・・・・」


磯野は去っていった。

何となく、夕焼けを見てみた。

つまり、みんな、おれと夏咲の仲を祝福してくれているわけか。

その期待に、応えなければな。


・・・・・・。


・・・。