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車輪の国、悠久の少年少女 夏咲シナリオ【4】(終)

 

・・・


今日は朝から忙しかった。

なぜならば、宝探しという名目で大掃除をしているからだ。


「くっそーっ、結局こうなんのかよ!」


書斎に積まれているゴミを外へ運んでいた。

 

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「掃除と宝探しが一緒におわるんだから、一石二鳥だよっ」


夏咲は前向きに掃除に取りかかっている。

昨日の夜から少しずつ整理をしていたが、まだまだゴミ山は片付かない。


「やっぱ二人じゃきついか・・・」
「でも、気遣ってくれたみんなの気持ちを無駄にしちゃダメだよっ」
「くっ・・・掃除って楽しいときもあれば、面倒くさいときもあるな。
これもこっち・・・これは、あっち・・・」


何度も書斎と外を往復している。

運動による発熱と夏の暑さが相まって、余計に喉が渇いてきた。


「ケンちゃん、頑張れっ」


書斎の本を廊下に出している夏咲も、おれと同じ状況だった。

室内にこもった熱気のせいで、汗をかいてきている。


なっちゃんっ・・・ちょっと休まない?」
「もう休むの?」
「もう、昼前だよ?」
「でも、宝物も目の前だよ」
「暑すぎないかい?」
「夏だからしょうがないよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「いじっぱりだね」
「ふふっ、ごめんね。
でも、ケンちゃんがそこまで言うなら、ちょっとくらい休もうか?」


・・・・・・。


・・・。

 

そうめんと麦茶が昼飯である。

 

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「体の熱が引いていって気持ちいいなあ・・・」
「すずし~・・・」


口をすぼめて、ちゅるちゅると吸っている。


「三郎さんの部屋もきれいになったね」


大量のほこりと本を処理し、書斎の荷物も半分以上は片付いていた。


「もうそろそろ床とか調べてみない?」


暗号の解読の結果、床を調べるということになったからだ。


「そうだね。 床が見えない部分といったら、あとは机と本棚のある場所くらいだし」
「本棚の下にあったらやだなあ・・・」
「そのときはしょうがないよ。
また本を片付けて、本棚を移動させて・・・」
「もしかして親父は、自分の部屋をおれたちに掃除させることが目的だったのか?」
「そんな子供の夢を壊すようなことはしないと思うよ」
「宝箱の中に『掃除、ご苦労さん』と書かれた紙が入っていたりしてね」
「ケンちゃん、暗いよぉ?」
「ごめんごめん。
・・・とにかく、全ては午後の探索にかかっているんだな」
「頑張ろうね」


おれは残っていたそうめんを全て平らげた。


午後からも、本腰を入れて作業をすることにしよう。


・・・・・・。


・・・。

 

 

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「始めよっか」
「本棚を移動させるんだよね」
「・・・だから、最初は見える部分だけ探すんだよ」
「あっ・・・そだったね」


仲良く床を見つめる二人。


「今更何を言ってるんだ、ってはなしだけど・・・ホントに床にあんのかな?」
「地価倉庫みたいに空間ができてるかもしれないよ」
「畳の下・・・それって家の下ってことだよな?」


家の柱が地中に埋まっている様子が見え、ネズミが徘徊しているような場所に宝を埋めたと?


「いちいち家の下に潜り込んで埋めたとしたら、大変な物好きだな、親父も」
「一応調べてみる?」
「いやだ。 親父と同じ道を辿りたくない」


意地でも、この部屋で宝物を見つけてやる。


「何か仕掛けがあって、それを操作すると地下に下りるための扉が出現したりするとか」

「本棚に並べてある本を押すと開く・・・っていうのは?」
「・・・シュールだね」
「電気スタンドのボタンを押す」
「つけるたびに開いちゃうね・・・」
「ううん。 ダミーっていうものなんだと思うよ、そのボタンは」
「へえ・・・」


試しに、机に置いてある電気スタンドのボタンを押してみる。


「・・・・・・」
「・・・・・・」


反応なし。


「実際、そんなのありえるワケないか」
「・・・そうだね」
「その代わり、庭から戦艦が出てこないかな」
「なんで戦艦なの?」
「さあ?」


おれたち、好き勝手に想像してるなあ・・・。


「・・・真面目に探そうか」
「違うよぉっ、楽しく探すんだよ」
「あ、うん・・・そうだね」

 

・・・・・・。


・・・。

 

見える範囲、全ての床を調べてみた。

しかし、怪しい点は何一つ見つからない。


「ないねえ~・・・」
「あとは机と本棚だけか」
「どっちから調べる?」
「机」


本棚をどかして調べるよりも、早く終わるからだ。

運がよければ、それで終わり。


なっちゃんは下がってて。 机をどかすから」
「わたしも手伝うよ」
「ちゃぶ台と変わらない大きさの机だし、一人で充分だって」


机の上に山積みにされている本を適当に放り投げ、机を空いたスペースへと動かす。


「本は大事にしないとダメだよ・・・」


丁寧に本を片付け、隅に並べて置いた。


「いっしょ、気合入れてやりますか」


畳同士の縫い目まで、目を凝らしながら仕掛けが設置されていないかを調べ回る。


「・・・・・・」
「どう、ケンちゃん?」
「ダメだ。 見つからない」


立ち上がり、凝った首辺りの筋肉をほぐした。


「最後に厄介なものが残ったか」
「頑張ろうねっ」
「まずは、並んでいる本をどかそう」
「どうして?」
「動かすとき少しは軽くなるでしょ?」
「あっ、そうだね。 ケンちゃん頭いい~っ」


二人で本を取り、空いているスペースに置いていく。


「・・・・・・」


つんつん、つんつん・・・。


「・・・何で本の背表紙を押してるの?」
「押したら開くのかな・・・って思って」
なっちゃんも、そういうの好きだね」
「宝探しなんだし、ちょっとしたミステリアスでもいいから体験してみたいんだよ」
「同感だよ。 ミステリアスの『ミ』の字も体験してない上に、出てくるのは暗号文ばかりだもんね」
「謎を解いていくのも、なかなか楽しかったよー」
「おれにとっちゃ、退屈そのものだったけど」
「ケンちゃんが賢すぎたんだよ。
そうでないと、こんなにスムーズに宝探しは進んでいなかったと思う」
「どうだろ・・・ガキの頃と、あまり変わっていないような気もするけど」
「そんなことないよ。
前と比べてかっこよくなってるし、たくましくなってる。 わたしは嬉しいよ」
「面を向かって言われると、恥ずかしいな・・・」


ほんの少しだけ、顔が熱くなってきた。


「そう言うなっちゃんだって綺麗になってるし、昔みたいな明るい笑顔も見せてくれるし・・・たまにドキッとさせられるときがあるよ」
「そ、そおなんだ・・・わたしは、普通にしてるだけなんだけどな・・・」


まあ、そんなこんなで、本棚に置いてあったものは全てどかした。


「もう動かせるかな」
「本棚の下が接着剤で貼り付けてあったらどうしよう・・・」
「・・・そんなことをする意味が分からないよ」
「最後の謎、みたいな感じで」
「謎でも何でもなく、ただの嫌がらせに過ぎないよ」


おれと夏咲で本棚の両端に陣取り、掛け声と同時に本棚を持ち上げた。


「あっ、かるーいっ。 ホントに軽いよ、ケンちゃん」


作業通りに事が進んで、喜んでいるようだ。

輝いてる笑顔が、全てを物語っていた。


・・・。

 

「んっしょ・・・んっしょ・・・」


本棚に隠れていた場所が、徐々に見えてきた。


「そろそろ下ろすから、足元に注意してね」
「んん~~・・・っと、ふぅ・・・」


無事に本棚の移動を終了。


「あはっ。 畳がへこんでるよ」


本棚の枠どおりに凹んでいる部分が、長年の重みでうっすらと黒ずんでいた。


「さーて、気になるところは・・・っと」
「おかしなところはないかなぁ・・・」


二人同時に屈み込み・・・。


ゴツンッ。


「あたっ」
「あうっ・・・いたたっ」


ごっつんこ。


「ごめん。 大丈夫?」
「うん、平気だよ」


おでこをさすりながら、笑顔で答えた。


「ケンちゃんって、ドジなところがあるんだね」
なっちゃんだって、同じようなものじゃないか」


互いのしでかしたことがあまりにも滑稽だったので、二人でくすくすと笑い合った。


・・・。


再度、調査開始。


「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・」
「・・・」
「ない、ね」
「やっぱり、本を押さないとだめなのかなあ?」
「本自体に仕掛けはなかったでしょ・・・」
「うーん・・・」


解読の手法が間違っていたのか?

しかし、あれ以外の方法でどうやって解けと・・・。

いや、文の解釈の仕方が違うのかもしれない。


「あっ、ケンちゃん! これっ!」


夏咲が、本棚に隠れていた部分の壁を指差した。

その先に、ぽつんと鍵穴だけが見える。

一発で怪しいと判断。


「いかにも開けて下さいって感じだよね、あれは」
「うん・・・すごく怪しいよ」


床を調べろって言ったのは、つまりこういうことか?

床を調べるために本棚をどかす。

偶然にも壁に鍵穴を見つける。


以上。


・・・・・・ま、見つけたんだからどうでもいい問題か。

壁を探せという内容でも、結果は同じだっただろうし。


「でも、鍵がない・・・」
「これは?」


夏咲がひょいっと鍵を取り出した。


「なんでそんなタイミングよく持ってるの!?」
「ケンちゃんが、わたしに鍵預けたでしょ?」


覚えてる? と首を傾げた。


「・・・・・・いつの話?」
「最初に三郎さんの手紙を見たとき。 この鍵も一緒にあったんだよ」
「・・・・・・?」
「自分が持ってるとなくすかもって言って、わたしに預けたんだよ」
「ああっ、確かそうだった!」


やっとのことで思い出し、手をぽんっと打った。


「良かった良かった。
おれが持ってたら本当に忘れるか失くすところだった」
「もう・・・ケンちゃんはこういうところがあるから、わたしが面倒見てあげないといけないのかな?」
「コホンッ。 とにかく、開けてみようか、なっちゃんやってみる?」


話を無理やり先に進めよう。


「うん、やるやるっ」


はしゃぎながら鍵穴の前へと移動し、鍵を差し込んだ。

緊張した面持ちで鍵を回すと、カチャッと音がして扉らしきものが現れる。

それを開くと、三十センチ四方の空間があった。

そして中から出てきたのは、お土産などでよく見かける、お菓子の入っている鉄製の箱だった。


「やった。 ケンちゃん、二人で食べよっ」
「違う! 絶対に違う!
どう見てもお菓子が入っているように見えないよ、これは!」


そもそも、こんな場所に置いてあるのがおかしい。


「んー・・・ここじゃよく見えないから、居間に戻ろっ」


夏咲は箱を大事そうに抱えて、居間へと向かった。


「ちょっ、待ってってば!」


おれも後を追う。

 

・・・・・・。

 


書斎の外に出て気がついたが、もう夕暮れ時だった。

 

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「キャンディっ、キャンディっ、ペロペロキャンディっ!」

「だから、キャンディじゃないって!」
「そうかなあ? こういう大事なものは普通、隠したりするものだよね」
「親父がそんなにお菓子好きだったなんて、聞いたことないよ・・・」
「ケンちゃんが知らなかっただけだよ」
「とにかく! これはお宝なんだと思う」
「ペロペロキャンディがお宝なの?」
「だーかーらー、どうしてそうなるの?」


夏咲の頭を軽く叩いた。


「うぅ~ん・・・だって、お菓子の箱に入ってるのはお菓子だよ?
ビックリ箱のことがトラウマになってるから、そうやって疑っちゃうんだよ」
「ビックリ箱くらいじゃ、トラウマにならないから」


手を横に振って、やんわりと否定。


「開けてみれば分かるよね」


難なくふたを開け、中身を見てみる。

箱の中には、数枚の写真と手紙が入っていた。


「ってこれは、おれのガキの頃の写真!?」

 

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「見たい見たいっ!」
「ダメだ! これだけは、なっちゃんでもダメだ!」
「そんなに恥ずかしがることないよ。
昔のケンちゃんとは、もう何万回って顔を合わせてるんだし」
「それでも今見ると恥ずかしいんだって、分かってよっ。
なっちゃんだって、昔の写真を他人に見せたら恥ずかしいでしょっ?」
「ううん。 全然」


即答。


「だからって見せてあげることは・・・」
「それがお宝だったら、今、ケンちゃんは独り占めしてるんだよ?」


上目遣いでおれの目を捉えていた。



「じーっ」
「ぐっ・・・そんな可愛いものを見るような目で見ないでくれ!」
「ケンちゃん・・・」


近づいてきた。


「ケンちゃぁん・・・」


甘えた声で瞳を震わせていた。

 

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「見せて」
「くっ・・・」
「みせてぇ・・・」
「わかりました」

 

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「えへへっ、やったぁ。 ケンちゃんの写真ゲット~。
夏咲、ケンちゃんの写真ゲットだぞっ!」


Vである。


両手で大事そうに持ちながら、一枚一枚じっくりと鑑賞していった。


「あはっ、見てこれ。
ケンちゃんって、昔からこんなに凛々しい顔してたんだよ。 ほらっ、ほらっ」


顔をほころばせながら、写真を見せつけてきた。

写真の中にいるおれは、緊張した面持ちで『気を付け』の姿勢をとっている。


「これって、わたしと知り合いになる前だよね?
顔が真っ赤だよぉ・・・そんなに恥ずかしかったの?」
「そーなんじゃない?」
「あははっ、今も恥ずかしがってるねっ」


可笑しくてたまらないといった様子で、懸命に笑っていた。


「あー、可愛いよ・・・今も昔もホンットに可愛いよ、ケンちゃんはっ」
「わかったからさ、もう次のステップに・・・」
「あーっ! これもいいねっ」


なぜかは分からないが、おれが泣いている写真だ。


「・・・どこがいいの?」
「大きく口を開けて泣いてるでしょ? そこがね、とーっても可愛いのっ」
「泣いてる姿が可愛いの?」
「うんっ。 ぎゅっと抱きしめてあげたいくらい」


夏咲の物の見方がよく分からない・・・。


「これは・・・ケンちゃんと一緒のやつだねっ」


確か、夏咲がうちに遊びに来たときに撮ったものだ。

写真の中の夏咲はおれの腕を掴んで寄り添っており、それからできるだけ離れようとしているおれがいる。


「こんなに近い距離から写されてたんだね。
後ろにある向日葵畑があまり見えてないよ」
「・・・ズーム機能を使って撮ったんだよ、きっと」


親父め、変な構図のものばかり用意してるんじゃねえよ・・・。


「これ、ケンちゃんちの家宝にしようよ」
「だめだって、そんなものっ」
「じゃあ、わたしがもらってもいい?」
「・・・どうぞ、好きなだけ」

 

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「やったっ」


あれだけ喜ばれたら、渡さないわけにはいかない。


「写真も堪能したし、最後に残ってる手紙を読んでしまおうよっ」
「そうそう。 それが一番だと思うよ」


写真の話題から遠のいてくれればなんでも大歓迎。


「『ケンと夏咲ちゃんへ。 おめでとう、これがお宝だよ。 よく頑張ったね』・・・だ
って。 やっぱりあれがお宝だったんだよっ」


・・・どう考えても、夏咲のためだけのお宝だ。


「『始めから夏咲ちゃんだけにお宝をあげようと思ってたからな、ケン坊のものは無しだ。 悲しいからって泣いてんじゃないぞ。 その代わり、大好きな夏咲ちゃんと一緒にいることができたんだ、お父さんに少なからず感謝しろ』」
「ずいぶん偉そうだな」

 

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「ケンちゃんって、この頃からわたしのことが大好きだったの?」
「親父が勝手に決めてただけ」
「・・・そっかあ・・・」


夏咲には分かっていたらしい。


「でも、ケンちゃんもわたしのこと気にかけてくれてたんだね。
昔のことだけどほっとしたよ」
「あの頃のおれは、なっちゃんと釣り合わないって思ってたし、告白する勇気もないほど情けないガキだったし・・・」
「そんなことないよ。 ケンちゃんにはケンちゃんの良さがあったよ」
「けど八年前、おれはみんなを見捨てたんだ・・・最低だよ」
「子供だったからだよ」
「子供の約束っていうのは、純粋なものなんだ。
破っただけで、信頼関係が崩れ落ちそうなくらいにね」


・・・。


「それでも、ケンちゃんは戻ってきてくれた」
なっちゃんは待っててくれた」
「いろいろあったけど、戻ってきてくれた」
「いろいろあったけど、待っててくれた」
「・・・・・・」
「・・・・・・」


ごく自然に見つめ合っていた。


「もう過去の話は終わり。 次に進もっ」
「うん」


続けて夏咲が手紙を読み進めていく。


「『その代わり、大好きな夏咲ちゃんと一緒に・・・』」
「そこ、読んだよね」
「もう一回言わせてくれたっていいのに・・・」


拗ねていた。


「えーっと・・・『しかし、悲しいかな、これで宝探しは終わりだ。 存分に楽しんだか?』」


ひたすらめんどくさかった、けど・・・。


「『たまには暗号が解けなくてムシャクシャしたときもいあったろう。 そんなときは、
もしかしたらどっか外に出て遊びにでも行ってたんじゃないか? 子供だったらそんなもんさ。 退屈になったら遊ぶ。 遊んで疲れたら寝る。 寝て起きた後はまた考える。 
それでたいていのことは解決するもんだ』」


もしかして宝を探している間、おれたちって子供っぽかったってことか?


「『だが、大人になったときには忘れてしまうんだ。 今回の宝探しみたいに、あちこちを駆け回ることに楽しさを感じるという感覚を・・・』」
「まあ、楽しかったと言えば楽しかったけどな」
「うん。久しぶりに騒いじゃったりしたもんね」


夏咲も、今までにないくらいにははしゃいでいた。


「『人生を楽しく生きるために必要なもの、それは遊びだ。 遊んで感性を磨けば、いろんなものが見えてきて楽しいぞ。 おっと、お父さんのように遊んでばかりの人間にはなるなよ』」
「ならねえよ」
「三郎さんは、どんなことをしてたの?」
「それは・・・まあ、言えないよ。 おれにもよく分からなかったし」
「ふーん・・・そうなんだ」


ため息一つをついて、再び手紙に視線を落とした。


「『今回の舞台は、宝を探すということを楽しんでもらうために用意しただけで、その過程で互いのいい所も見えてきただろう。 最後になるが、これを機に二人とも仲良くやっていくように。 PS・・・みんなの樋口三郎より』」
「・・・PSのところに名前を書くなよ」


しかし、想い出作りの舞台を用意してくれたことについては感謝。


「もう宝探しは終わっちゃったけど、とっても楽しかったよ」
「久しぶりに童心に戻ったって感じかな?
ガキっぽいことやってたようで恥ずかしいよ」
「別にいいんじゃないかな。 それに・・・」
「それに?」
「昔のケンちゃんと遊んでいたみたいで嬉しかったよ」
「昔のねえ・・・」


あまりいい想い出はないが、夏咲との想い出だけはこれからも大切にしていこう。

そして、心のアルバムを埋めていきたい。


・・・・・・。


・・・。

 

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やはり昼間は暑い。

特に、二時辺りが一番暑い。

それでも、おれたち二人は来ていた。

この向日葵畑へ・・・。

 

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「もうすぐ夏休みが終わるね」
「うん、あと一週間だったかな?」


そう・・・もうすぐで学園最後の夏が終わる。


「散歩っていうのも、たまにはいいよなあ」
「ゆっくり景色を見て回れるもんね」
「この暑い中、向日葵もよく咲いていられるよな」
「芯が強いからだよ、きっと」
「太陽の光を浴びてるからじゃないの?」
「他の植物も浴びてるよ」
「うーん・・・・・・」
「それとも、太陽のある方向に伸びていく元気があるからかな。
力強さを感じるよね」


自分たちが向日葵に囲まれているからか、自然と向日葵の話題が出てくる。


「あと一年は見れなくなっちゃうんだ・・・ちょっと寂しいよね」


一年後というと、すでに学園は卒業している。

その後は一体どうするのだろうか?


なっちゃんは、ずっと田舎町にいるの?」
「んー、どうしよっかな・・・ケンちゃんは?」
なっちゃんについて行こうかな」

 

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「ずるいよぅ。 わたしもケンちゃんについて行こうと思ってたのに・・・」
「でも正直な話、外に出たいと思ってない?」
「思ってるよ。
でも、この町に住み続けていきたいような気もするし・・・」
「そんなに迷わなくても、何度か田舎町と都会を行き来して決めればいいことじゃないか」
「じゃあ・・・外に出てみようかな」
エスコートは任せてよ」
「どんなところかなあ・・・」
「とりあえず、車と高層ビルが立ち並んで、空気が悪いし、夜も星が見えない」
「聞いてると、いい場所って感じがしないよ」
「ははっ・・・都会には都会のいいところもあるって。
一緒に観光スポットとか見て回ろうよ」
「綺麗なところがいいかな・・・向日葵畑とかはある?」
「田舎町ほどじゃないけど、あるにはあるかもしれないね。 他の花畑もあるし」
「川はあるのかな? また二人で遊びたいなあ・・・」
「川よりも海がいいよ。
広いし泳げるし、魚釣りも普通にできる」
「海は初めてだから、楽しみだな」


ずいぶん先のことなのに、嬉しそうに目を輝かせていた。

歩いていると、向日葵たちに囲まれながら絵を描いている、さちの姿が見えてくる。

見慣れた光景だ。


「おっ、さちじゃねーか」
「毎日こうして、絵を描いてるんだよね」


おれたちの会話に気がついたさちは、絵を描く作業を中断した。

 

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「おーいっ! なにやってんの、こんなところでっ」


手をぶんぶんと振り回しながら、こちらにやって来た。


「二人とも制服じゃん。 どしたの?」
「学園に行ってきて、その帰り」
「学園? 何しに行ってたの?」


「例の退寮の件だ」
「あー・・・夏咲、やっぱ出てくんだ」


「今日からはケンちゃんの家が、わたしの家にもなるの」
「うん、二人の家」

 

「ラブラブだねっ。 いい感じだよ」


親指を立てて、おれたちを祝福した。


「はっ、まさか・・・今、学園帰りのデート中?」
「確かに、軽いデートに見えないこともないな」
「デートに軽いも重いもないって。 ボクシングじゃあるまいし」


「ケンちゃんと一緒にいることに変わりはないよ」

 

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「うっわ~・・・平然と熱いこと言っちゃってるよ・・・」
「すみません。 それ多分、おれのせいです」
「あっははははっ! 出たよ、自意識過剰者!」


「ケンちゃんは、いつだって自信満々だもんね」
「完全超人ですから」


三人で笑い合う。


「んで、デート中にあたしのところに来てなんの用?」
「特に用はない」
「なにそれ」


「散歩してたら、偶然さっちゃんを見かけたんだよ」
「せっかく来たんだからさ、あたしの絵、見てく?」


「描いてる最中だろ。 今見たら楽しみがなくなる」


「完成品を楽しみにしてるから、また見せてね」
「あーいっ。 そういうことだったら、数日内に完成させて見せてあげるよ」


「もう夏も終わるし、今年最後の向日葵ってやつか?」
「そういうことになるね。
あと数日で向日葵も見れなくなっちゃうから、今のうちにたくさん描いておきたいんだよ」


「さっちゃんの描いた絵を見てると元気になるから、これからも、もっと描いていってほしいな」
「頼まれなくてもそのつもりだから、心配しなさんなって」


言いながら、明るい笑顔を見せてくれた。


「さて、あたし戻るわ。 今からいいトコだし」
「邪魔しちゃった?」
「今は小休憩みたいなものだし、これで気合入れていけるってもんだよ」

 

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「そっか、なら宇宙一を目指して頑張れ」
「オッケーッ、任して!」


「またね」
「うん。 あたしなんか気にしてないで、二人っきりのデートを楽しんできなよ」


からかうように言うと、さちは定位置に戻っていった。


「よーしっ、今日もビリッと頑張るぞーっ!」


さちの元気な声が、向日葵畑に響き渡る。

さちは、まなを探している。

夏咲との幸せも大事だが、おれもできる限り助力するつもりだった。


「散歩の続きでもしようか」
「そだね」


再び歩き続ける。


・・・・・・。


・・・。

 

さちと別れてから小一時間ほど歩いたときだった。

 

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「目の前にいる料理番長は、灯花じゃないか」
「本人の目の前で、よくもそんな悪口を言えるわね・・・」


いきなり睨んできやがった。


「眉間にしわを寄せてると、近い将来、眉がつながっちまうぞ」
「んなワケあるか!」


「ケンちゃぁん、からかっちゃだめだよ・・・」
「条件反射で、つい・・・」

 

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「夏咲ちゃん、こいつをどうにかしてちょーだいっ」
「ケンちゃん、めっ」


子供に叱る母親のようだった。


「わたしたちは散歩してるんだけど、灯花ちゃんも一緒にどうかな?」
「ごめん・・・今の街の入り口まで行かないといけないんだ。 また、今度ね」

 

 

「街を出るのか?」

 

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「お父さんとお母さんが来る日だから、お出迎えするんだ」
「・・・そうか、やっと会えるんだな」
「うんっ! 私の作った料理をたっくさん食べてもらうんだからっ」


「自宅の方では、もう準備ができてるの?」
「まあね。 あとは家に案内するだけ」
「いいなあ。 お父さんとお母さんかぁ・・・」


「緊張しすぎて失敗なんかするなよ、恥ずかしいから」
「け、賢一には関係ないじゃないっ」


「心配してるんだよ。
灯花ちゃんってわたしと同じくらいおっちょこちょいさんだから、なんとなく分かるんだ」
「夏咲ちゃんは、自覚してるんだ・・・」


なっちゃんの場合は自覚してないと思う。
多分、周囲からそういうふうに聞かされてるだけ」
「・・・・・・」
「要するに、今日も向日葵が綺麗に咲いてるねってことだよ」

 

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「え? そうなの?」


「賢一って、いつもそんな感じで日向さんをからかってるの?」
「一種のスキンシップ。 ね、なっちゃん?」


「あ・・・えっと、うん・・・」


「まぁいっか。
二人とも付き合ってるんだし、私が口出しすることじゃないよね」
「それより、ご両親と会う時間は大丈夫なのか?」
「余裕だよっ。 到着の一時間前から待ってる予定なんだから」
「その間に、挨拶の練習でもしておけよ」
「だからそっちの方は問題ないって言ってるでしょっ。
それと、この町についても色々と教えてあげるんだっ。
特にこの向日葵畑とかね。
もう少しで旬が終わりそうだから、その前に一目見せて説明してあげたいんだ」
「おいおい、食べられもしないのに旬って言うのはどうよ。
これだから根っからの料理人は・・・」
「うっ、うるさいわねっ。
向日葵だって食べようと思えば食べられるんだから・・・種とか」
「ご両親に種を食わせる気かよ・・・」
「だからそんな意味で言ったんじゃないって。
夏で一番見所がある花って言いたかったのよ」


「そうだよねっ。 きれいだよね」


うんうんと賛同していた。


「すると灯花は、州境の検問所に行くのか・・・」
「それがどうかした?」
「親子水入らずでの会話を楽しんでもらおうと思ってな」
「あ・・・」


「今日はどこに行くという当てもないし、たまには違うところにでも行ってみようよ」
「そうだね」


「・・・なんか、気を遣わせちゃったみたいで悪いな」
「そのぶん、ちゃんとおもてなしをして、楽しんで来い」


「灯花ちゃんの料理は美味しいから、ご両親も喜んで食べてくれるよ」
「うん、ありがとっ。 じゃあねっ」

 

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「おいおい、髪のリボンがほつれてるぞ」
「あ、わ、わかってるわよ!」


・・・。


おれたちは、街の入り口と反対側に歩き始めた。


「・・・灯花ちゃんって、天然さんなのかな?」
「・・・なっちゃんもね」


散歩を再開した。

相変わらず、太陽は眩しく輝いている。


・・・・・・。


・・・。

 

 

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「本日はお日柄もよく・・・」
「・・・次は磯野か・・・」


今日は、友人たちによく会う日だ。

 

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「磯野くんも散歩かな?」
「向日葵に棲んでいる妖精さんたちと、交信中さ」


「電波でも使ってんのかよ」


「今日の天気は晴れ」
「うんっ。 快晴だよ」
「湿度、ゼロパーセント」
「・・・まるで砂漠だね」


確かにこの地域は湿度が低いが、ありえない。


「気温、三十・・・は暑いから、十度くらいでいいや」
「適当だな。 しかも寒いし」
「ところで、僕に何か用かな?」


「散歩の途中で、偶然、磯野くんに会っただけだから、特に用というものはないんだけど・・・」
「そうか・・・ただの冷やかしだったのか」
「だから、普通にお話でもできればいいかなぁーって」
「僕に普通を求められてもね」
「さっきは交信中って言ってたけど、具体的にはどんな内容を話してたの?」
「日向ぼっこは気持ちいいねえ、とか」
「うんうん、いいよね日向ぼっこ」


「こんな暑い日にやっても、つらいだけなのに・・・」
「君に、日向ぼっこの何が分かるって言うんだ?」
「普通に日に当たっているだけだろ?」
光合成もするんだぞ」
「できねえだろッ」
「ちなみにいま、僕も酸素を吸って二酸化炭素を出していたところなんだ」


「普通だね・・・」
「たまに鼻血も出す」

 

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「なぜだ!?」
「のぼせてるからさ」


磯野が体全体をふらふらと動かし始めた。


「ああ、目の前がくらくらする・・・足元もおぼつかないし、体中に力が入らない」
「ただの眩暈じゃねえか」


「向日葵の影で休む?」
「いや、僕は家に帰る。 かれこれ六時間はここにいたからね」


「どれだけヒマ人なんだよ」
「夏休みの宿題をやっていたんだ」


「わかった! 朝顔の観察日記だよねっ」
「惜しいっ。 ここには向日葵しかないよ」
「向日葵の観察日記かあ・・・見せて見せてっ」
「登校日に見せてあげるよ。 まだ途中だし」


そんな宿題なんてなかったはずだが・・・。


「確か来週だったね。 登校日は」
「うん・・・もうすぐ夏休みも終わっちゃうよ」
「充実した夏休みは過ごせたかな?」
「もちろんだよ。 ねえケンちゃん!」


「ああ。 最高の夏休みだった」


「宝探しも、うまくいったみたいだしね」


宝が見つかった後は一応みんなに報告し、それから磯野たちも含め五人で充実した夏を過ごしていた。

さちの絵、灯花の料理、磯野が用意した変なイベントの数々・・・。

色んなことがあって、気がついたらもう夏が終わる時期にさしかかっていた。


「仲良くやっていくんだよ。
僕は草葉の陰から君たちのことを見守っているよ・・・」


聞いたことのあるセリフを言った後、磯野はふらふらと歩きながらこの場を去った。


「・・・もうちょっと歩いて回る?」
「うんっ。 まだまだ時間はあるからね」


しばらく歩くことにする。


・・・・・・。


・・・。

 

「・・・・・・」
「・・・・・・」


沈黙が続いていた。

 

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「・・・黙ってると退屈だね」
「熱い。 脱皮したくなるほどに熱い」
「無理だから、頑張って耐えてみようよ」


陽光がさんさんと大地に降り注いでいた。

地域特性の湿度の低さも相まって、地面もからからに乾いている。

そんな場所に根付いている黄色い花は、太陽の光に反射し、明るく輝いていた。


「・・・こんな場所で遊んだりしたら、迷子になっちゃうかもね」
「確かに・・・」
「それでも、ケンちゃんなら見つけられるよね」
「え?」

 

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『何を?』と聞く前に、肩に手を置かれた。


「タッチ。 ケンちゃんの鬼ね」


すぐさま、向日葵畑の中へと入っていった。


「ちょっ・・・なっちゃんっ」


慌てて後を追いかける。


「ケンちゃんのさっきの顔、ぽかーん、ってしてて面白かったよ。
昔のケンちゃんみたいっ」
「そりゃあないだろっ!」
「早く見つけないと、どこかに行っちゃうよーっ!」
「だったらすぐに見つけるまでだっ!」
「待ってるよぉーっ!」


わけの分からないまま始まった鬼ごっこ・・・。

突然の出来事だったけど、なぜか楽しかった。

正義の象徴である向日葵・・・。

その色を受け継いだかのような黄色いリボンで髪を結っている一人の少女。

その少女が、おれに優しく微笑みかけてくれているからだ。


「ケンちゃんはまだかなぁ?」
「もう少しだよっ!」


目の前にいた。

あと数歩前に出れば抱きしめられる距離に・・・。


「・・・っと」


急に進行方向を変えられた。


「わっとと!」


つかもうと手を伸ばしたが、体勢を崩し向日葵の茎を掴んでいた。


「それは、わたしじゃないよーっ」


再び駆け出す。

おれも追いかける。


「相変わらず元気がいいよねっ、なっちゃんは!」


走りながら声を張り上げた。


「こっちだよっ」


すばしっこく動き回る夏咲を見失いそうになる。

向日葵がおれの走行を邪魔している。


「・・・くっ・・・」


視界を確保しつつ、夏咲の姿を確認する。

またもや方向を変え、向日葵畑から出たようだ。

おれもそれに倣い、外に出た。


「よしっ・・・ここならっ」


夏咲の姿を確認したが、そこには誰もいなかった。


「あれ?」


「ふふっ・・・」


背後にある向日葵畑から、微かに笑い声が聞こえてきた。

後ろを振り向く。


「ケンちゃーんっ!」


太陽にも負けないほどの輝きを見せながら・・・。

 

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「わたしはぁっ・・・ケンちゃんのことがぁ・・・」


夏咲がこちらへと走ってきた。


そして・・・。

 

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「だぁいすきっ!!!」


力一杯におれの胸に飛び込んできた。


「おれもだよ、なっちゃん!」


おれはそれを抱きしめる。

二度と離れることがないように、しっかりと・・・。


ケーンちゃんっ」
「ん?」
「えへへっ・・・ケンちゃんだぁ・・・」


すりすりと頬を寄せてきた。

お返しに、夏咲の小さい頭を撫でてやる。


「もっともっと・・・」
「甘えん坊だな、なっちゃんは・・・」


そのまま撫で続ける。


「もう離れたくないよ・・・。
これからも、ずっと・・・ずーっと一緒にいたい。
だから、ケンちゃんについて行くよっ」
なっちゃん・・・」


愛しいと感じた。


この少女だけは、おれが守っていかなきゃと思った。


「なーんか、難しい顔してるよ?」
「・・・今までのことを振り返ってたんだよ」
「わたしのリボンを褒めてくれたときから?」
「うん、まあね・・・」
「ケンちゃんが似合うって言ってくれなかったら、今ごろわたしたちはどうなっていたかな?」
「今と変わらなかったと思うよ。 だって・・・」
「好きだし」
「・・・うん、そう」


言おうと思っていたことを先に言われると、どうも恥ずかしい。


「ケンちゃんも言うんだよっ」
「なんて?」
「大好きだって」
「おれは・・・」
「うんうん」
なっちゃんのことが・・・」
「うんうんっ!」
「だぁいすきだあっ!!!」


空に向かって、吠えるように叫んだ。


エコーがかかり、自分の耳に同じ言葉が返ってくる。


「凄いボリュームだねっ。 さすがケンちゃんだよ」
「なんでも褒められているような気がする・・・」
「完全超人なんでしょっ」
「まあね。 んでもって、なっちゃんを幸せにしてみせるんだ」
「ふふっ・・・嬉しいなあ、楽しみだなあ・・・」


にこにこと、尽きることのない笑顔を輝かせていた。


「・・・・・・」
「どうしたの? わたしの顔に何かついてるの?」
「うん・・・おれの大好きな笑顔がついてる」
「あはっ・・・ケンちゃんかわいいーっ」
「はあっ?」
「顔を真っ赤にしてそんなこというんだもんっ、かわいいよぉっ」
「それを言うなら、なっちゃんの方が・・・」
「ん? わたしがなに?」
「・・・かわいい・・・」


顔がより熱くなるのがわかった。


「ケンちゃん、おもしろーい」


かわかわれていた。


やりとりが昔と同じような気がする。


・・・・・・。


・・・。

 


「はあっ、疲れた・・・。
もう夏休みは終わりか・・・」


久々に外で騒いだからか、疲労がたまっていた。

布団に横になって体を休める。


なっちゃんは、いつまでもなっちゃんのままでいてくれる・・・」


もう、つらい目には合わせない。

そのとき、ふすまが静かに開いた。

 

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「ケンちゃん、起きてる?」
「うん」


風呂上りの夏咲が寝室にやってきた。

離れていても、シャンプーの香りがこちらまで漂ってくる。


「んー・・・ちょっと暑いよね」


手でパタパタと扇いでいた。

その仕草、かすかに上気した頬、さらりと流れる髪のライン。

どうして風呂上りの女性は、こんなにも色っぽく変わってしまうのだろう。


「♪~~・・・♪~~・・・」


鼻歌を歌いながら、髪の手入れをしていた。

その姿に心臓が高鳴る。


「髪、なかなか乾かないなー・・・」


長い髪を手ですくった。


「ちょっとは落ち着いてきたかな」


おれは夏咲に近づき、後ろから抱きしめた。

 

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「えっ? け、ケンちゃん?」
「・・・・・・」
「ど、どうしたのっ?」
「い、いや・・・」


シャンプーの甘い香りが、おれの思考を奪っていた。

興奮が高まってくる・・・抑えることができない。


「あ・・・」
「うん・・・」
「いいよ・・・お願い・・・」


その言葉を合図に夏咲の後ろに座り、衣服をずらした。


・・・・・・。


・・・。

 

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背後から抱いたまま、夏咲の体に触れる。

風呂上がりのせいか、とても熱かった。


「んん・・・恥ずかしいな・・・」


服を乱され、背後からさわられて興奮しているようだった。


おれたちはお互いを求め合った・・・。


・・・・・・。


・・・。

 

おれたちは、いつまでもじゃれあった。

悠久に、人と人との営みを続ける。

いつか、子供を作ろう。

夏咲が、そう、笑った。


・・・・・・。


・・・。

 

 

 

 

 

 

ずいぶんと長い年月が経っていた。

今では幸せとも呼べる段階にきている。

学園を卒業し、職について、結婚して、子供ができて、学園に通わせて・・・。

色んな出来事が重なったせいで、時間が矢のように過ぎていった気分だ。

周りの親友たちもそれぞれの道を進んでいった。

さちは、世界規模の絵画展にてもっとも権威ある賞を受賞し、まなとの再会を果たしたという。

灯花は、念願の料理人になることができてからというもの、故郷である田舎町で料理講座を開いて色んな人たちに料理を教えているそうだ。

磯野に至っては、田舎町に残って何かをやっているらしいが、詳しい話は聞いていない・・・相変わらず行動が読めないヤツだ。

おれと夏咲はといえば・・・人を教える立場についていた。

教員とでも言えばいいのか?

他にも義務に関する仕事をしているから、はたから見ればちょっと変わった存在に見えないこともないだろう。

当然、毎日のように忙しい。

全国各地から相談を受け、対応しているからだ。

その忙しい合間を縫って、今日は娘の授業参観日に行くということになっている。


季節は春。


またあの暑い季節が、あと数ヶ月もすればやってくる。

 

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「ケンちゃん。 またブツブツ言ってるよ」
「クセだから、もう治らない」
「今、わたしたちのそばを通った人に、変な目で見られちゃったよ」
「過去のことは、気にしない気にしない」
「過去・・・かあ」


軽いため息を一つついた。


「ん? どしたの?」
「・・・前に言ってたよね。
他人と過去は変えることができないけど、自分と未来は変えることができる・・・って。
その言葉で、自分に自信が持てたような気がするんだよ。
変わろうという意思があれば、自分の弱点を克服することもできるっていうことに気がついたんだよ。 だから、今の私があるんだ」
「そっか。 なら良かった」


昔と変わらないことと言えば・・・。


「相変わらずそのリボンつけてるね」
「言葉では説明できないくらい、大切なものなんだよ」
「そこまで大切にしてくれると、褒めたこっちも嬉しくなってくるな」
「・・・また、褒めてもいいんだよ」
「あー・・・またの機会に、ということで。 今は恥ずかしい」
「私だって恥ずかしいよ」


笑い合った後に、しばしの沈黙。


「今日の授業参観、興味ある?」


唐突に、今日のことを聞いてきた。


「どんなことを教えているのかは興味あるし、娘の授業態度も気になる」
「チェックが厳しいね」
「あの娘はなっちゃんに似て真面目だから、心配はしてないけどね」
「違うよ。 ケンちゃんみたいに利発な子だから大丈夫なんだよ」


確かに昔のおれに似ている。

しかし、芯の強さは昔の夏咲並みに強い。


「家ではきちんと教育しているつもりだけど、学園ではどうなのかな?」
「しっかりしているらしいよ。
この前、連絡簿を受け取ったときに色々と書いてあったよ」
「どんな?」
「えーっと・・・クラスをまとめるみんなの中心的存在で、いつも仲良く友達と遊んでるって」
「へえ・・・」


夏咲に似て明るい子だから、自然と友達もできているらしかった。

とりあえずは安心。


「もう一つあった。
ちょっとクラスから身を引いている子がいるんだけど、その子を引っ張り出してきてクラスに馴染ませようとしてるみたい」
「・・・それって、昔のなっちゃんみたい」
「そうかなぁっ?」


ふふふっ、と頬を緩ませながら笑っていた。

母親としてのその笑顔には、常に優しさが伴い、消えることはないだろう。


「おれたちが、守っていってやらないとな」
「うん・・・あんな辛い思いをするのは、わたしだけでいいよ・・・」
「・・・・・・」


昔の感傷に浸っていた。


あまりネガティブな雰囲気でいるのはよろしくない。


今日一日は、娘のために笑顔で振る舞わなければ・・・。


「後ろを振り向かずに、常に前を向いて歩こう」
「・・・うんっ!」


短く、はきはきとした力強い返事。


それを聞いて、こちらの方も一安心。


「ねえねえケンちゃん」
「ん?」
「・・・私たちの目標、覚えてる?」
「教育を徹底し、義務を負う人をできる限り出さない」
「そんな堅いことじゃなくて、わたしたちのことだよぉ・・・」
「幸せな家庭を築く」
「そうそう」
「いきなりどうしたの?」
「頑張ろうね、って言いたかったの」
「ああ、もちろんだっ」


おれたちを照らす春の暖かい日差しが、今日も穏やかに降り注いでいる。


田舎町で過ごしてきた頃の想い出が、自然と蘇ってきた。


しかし、後ろを振り向くのはたまにでいい。


今は・・・新たな未来へと突き進むのみだ。


「ケンちゃんっ」
「なに?」


顔を向ける。


そこには、いつもの少女がいた。


黄色いリボンを太陽の光に反射させ、向日葵のように明るく輝いていた。


少女が口を開く。


そして、昔と変わらぬあどけない表情を携え、告白するのだった。

 

「私、幸せだよっ」

 

・・・・・・。


・・・。

 


END