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車輪の国、悠久の少年少女 璃々子シナリオ【1】

車輪の国、悠久の少年少女 ―璃々子シナリオ―

 

 

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・・・。

 

 

 

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「私はずっと一人だった。
けれど、独りではなかった。
いつも心に弟がいてくれたから。
弟は私を自由にしてくれた。
少し寂しい気もする。
だって、彼は、弱虫でいつも私の後ろにいたのに、いまは私のはるか前方を歩いている。
強くなったわね、健・・・。
・・・ふう。
帰ってきたわ・・・。
そしてまた、旅立っていく。
道のりは遠く果てしない。
少しだけ、この田舎町を楽しむとしよう。
やがてくる新しい闘いの前に、少しだけ・・・」


・・・。


・・・・・・。

 

田舎町から法月が去って、一ヶ月がたっていた。

おれとお姉ちゃんは、出立の準備をしながら、どうでもいいような毎日を繰り返していた。

いや、お姉ちゃんにとってはどうでもよくはない。

お姉ちゃんは、ずっと一人だった。

だから、遊びたい様子だったのだ。


・・・・・・。

 

 

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「ねえ、健」
「ん? 何?」
「懐かしいと思わない?」
「・・・まあね」
「あら、何・・・まあねなんて。 スカしちゃって」
「・・・別にスカしてる訳じゃないけどさ」

 

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「・・・別にスカしてる訳じゃないけどさ」


・・・。


「何よ」
「何よ」
「もういいから」
「もういいから」
「・・・・・・」
「・・・超懐かしいよ、お姉ちゃん」
「いや、言ってないから」

 

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「うぇーん、おねえぢぁーん」
「やめてよ! もうおれ、そんな歳じゃないんだから」
「なによ、じゃあどんな歳なのよ」
「お姉ちゃん、おれももう子供じゃないんだからさ」
「お姉ちゃんにとっては、いつまでも健は子供なのよ」
「なんだよそれ」
「なんだよって健、あんたいま・・・」
「何?」

 

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「なんだよてめえって、あんたお姉ちゃんに何て言葉の使い方なのよ」
「てめえとはいってないけどね」
「まったくもう、ちょっとお姉ちゃんが都会にいってる間にちっともかわいくなくなって」
「・・・・・・」
「健は覚えてないかもしれないけど、ちっちゃいころの健はホントかわいかったんだから」
「小さい頃はみんなそれなりにかわいいんだよ」
「またそんなこりくつ言う」
「こりくつって」
「もうあの頃が懐かしいな。 健がまだ小指くらいの大きさだったときなんか・・・」
「ちょ、ちょっとまって」
「何?」
「何じゃなくて。 小指くらいの大きさていつの話なのよ」
「いつでもいいの! とにかくすっごいかわいかったんだから」
「わかったよ。 もういいから」
「何がいいのよ!」
「ごめんごめん、ほら、お姉ちゃん行こ」
「何がごめんよ。 無意味に謝ったりしないでよ」
「いちいち言うことにつっかかってこないでよ、ごめんてば」
「かわいくないホント、至極残念」
「ふーん」
「健、この木は覚えてる?」
「え?」

 

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「この木! 覚えてるでしょ?」
「えっと、なんだっけな。 ・・・あ! 思い出した」
「思い出した!?」
「この木の前で告白するとそのカップルは結ばれるっていう・・・」
「違う! なんか違う! それ違う、怒られる」
「怒る? 誰が?」
「いいのよ! 覚えてないの、ホントに? のぼったじゃない」
「お姉ちゃんが?」
「私じゃない。 健、あなたのぼったじゃない」
「のぼってないよ。 無理矢理のぼらせた、の間違いでしょ」
「覚えてるんじゃない。
あの時、わんわん泣いて。 健、弱虫なんだから」
「昔の話でしょ。 だいたいお姉ちゃん無茶ばっかさせるから」
「無茶なんて・・・健があまりになよなよしてて、女々しくて、死んだ方がましってくらい情けなかったから」
「そこまで言わなくても」
「特訓してあげたんでしょ」
「あんなに小さい頃にこんなでっかい木よくのぼらせようと思うよ。
もし落っこちて怪我でもしたらどうするつもりだったの、まったく」


言うと、ひょいひょいと木に登り始める。


「・・・え?」
「あれ、思ったよりも高いな」
「健」
「え? 何?」
「健、いつのぼれるようになったの?」
「え? 何いってんの。
もうあれから何年経ったと思ってるの、お姉ちゃん。 よいしょっと。
あわっ!!」
「!? 健!」
「・・・なんちゃって」
「え?」
「嘘だよ、お姉ちゃん。 わざとだって・・・ハハ」
「・・・・・・」
「よいしょ。 ふう、お姉ちゃん景色綺麗だよ」
「・・・・・・」
「あ、でもあの雲。 明日は雨降るかもな」


ずんっ ずんっ


「おわわわっ、ちょっとお姉ちゃん何すんの!」
「え? 何?」
「何じゃないでしょ? 蹴ってるでしょ!」
「蹴ってない。 地震じゃない?」
地震のわけないじゃない」
地震じゃないんだったら、地震に似た類のそれよ」


ずんっ ずんっ


「ちょ、ちょっと。 うわ、落ちる」
「何よもう。
のぼれるようになったのはお姉ちゃんのおかげでしょ、健」
「わかったから、蹴るのやめてよ! お姉ちゃん」
「なのに、何にも覚えてないし、スカしちゃって」
「ちょ、スカしてないってば」
「生意気な言葉づかいで、もう」


ずんっ ずんっ


「だから、危ないって。 うわっ」

 

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「うわっじゃないわよ。 何がカップルが結ばれるよ」
「じょ、冗談だってば」
「何が小指くらいの頃よ」
「それはお姉ちゃんが言ったんでしょ」
「うるさい! いちいちいち。
もういちいち言うことにつっかかってこないでよ。 私そういう人間が一番嫌いなの!」
「えー!」
「もうお姉ちゃん先帰るからね」
「ちょっとお姉ちゃん。 ちょっと・・・」


・・・。


「忘れるわけないじゃん。
憶えてるに決まってるよ。
・・・お姉ちゃん、おかえり」

 

・・・・・・。

 

・・・。

 


夕方になったので、散歩がてら川辺を歩く。

 

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「え? そうなの、うさぎって一匹二匹って数えるのかと思ってた」
「間違えやすいんだけどね、うさぎは一羽二羽って数えるんだって」
「へぇー」
「まめ知識でしょ」
トリビアだ、トリビア
「まあ、トリビアってほどのものでもないけどね」
「でもさ」
「なに?」
「なんでなの?」
「何が?」
「だから、何でうさぎは一羽二羽なの?」
「なんでってそういう決まりなんじゃない?」
「なんじゃない? ってそんな私が質問したのに質問仕返してこないでよ。
ねえなんでなの? 答えてよ」
「えっと・・・」
「健、あなたが言い出したことなのよ! ちゃんと責任とってよね!」
「そんな言わなくても・・・だから」
「だから何よ」
「えっとね」
「一羽二羽になるには何か理由があるはずでしょ?
例えば・・・まあ私は例えは浮かばない訳なんだけれども」
「えっと、じゃあ例えば・・・うさぎが宇宙だとして」

 

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「ちょ、ちょっと。 宇宙? 規模でかすぎやしないかな?」
「そうかな?」
「きっとそうよ。 だって私うさぎの話してたのよ?」
「うさぎの話聞きたいんじゃないの?」
「聞きたいけどさ。 あと質問に質問で返さないでって言ってるでしょ」
「あ、忘れてた。 ごめんお姉ちゃん」
「で、話続けて」
「そうだね。 で、その宇宙うさぎの話なんだけど」

 

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「ちょっと待って!
何? 宇宙うさぎって。 めちゃめちゃ恐ろしいんだけど!」
「もうじゃあいいよ。 宇宙の例えはやめるよ」
「そうして。 ちょっと聞きたかったけど、やっぱ怖いから」
「まあ一説には、うさぎの耳が鳥に似てるかららしいよ」
「なんだ・・・そうなんだ」
「あとはうさぎの肉が鶏肉に似てるからとか、いろいろ説はあるらしいんだけどね」
「へえ・・・随分リアルな話なのね。
宇宙の話からのギャップにお姉ちゃんちょっと適応しづらいかも」


そのときふっと、目の前を何かが飛び過ぎていった。


「うおっ」
「きゃあ何? 宇宙うさぎ?」
「ち、違うよ。 あーびっくりした」
「何?」
「カエルだね」

 

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「ぎゃー!!」
「わー」
「健! ぎゃー、食われるっ! 宇宙ガエルっ!」
「お姉ちゃん落ち着いてよ、ちょっとでかいけど、ただのカエルだから」
「ただのカエルってなによ? 余計怖いじゃない。
こんなでかいのがただのカエルなら、他のカエルはどれだけなのよ。
ましてや宇宙ガエルは・・・」
「宇宙ガエルなんていないから」
「あんたが言ったんでしょ!」
「言ってないし」
「口答えしないの! とにかくなんとかしてよ!」
「なんとかしろって・・・」
「健、早く何とかして! 早くしないとお姉ちゃん、バターになっちゃうわよ」
「・・・わ、わかったよ」


近くに落ちてる木の枝を拾う。


「ほれ、どっかいけ」
「健、目よ。 目が急所なのよ。 目をついてやりなさい」
「なんてこというのさ。 生きてるんだからこいつだって」

 

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「健、あんたがやさしいのはよくわかるわ。
でもね、それが必ずしもやさしいとは限らないのよ」
「だからって目をつくなんてできるわけないでしょ」


そのとき、カエルが勢いよくジャンプして、川に飛び込んだ。


「きゃー」
「わー」
「あぎゃー」


・・・。


「おねえちゃん大丈夫?」
「もうなんなのよ、ホント」
「あ、お姉ちゃん、帽子・・・」
「えっ?」


麦わら帽子は川に浮かんでいる。


「あ、帽子がない! ていうかあれ私の帽子・・・」


おれはすぐさま水に飛び込む。

 

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「健、あんた何してんのよ! もう、泳げないでしょ!
・・・もう、しょうがないな!
・・・あ、え?」
「ふうっ、はあっ・・・。
・・・ふう。 もうお姉ちゃん、頼むよ。 はい」
「あ、ありがと」
「うわっ、もうびしゃびしゃだよ。
お姉ちゃん早く帰ろ。 風邪ひいちゃうよ」
「・・・あ、うん」
「つめてぇ」
「健、あんたいつそんな泳げるようになったのよ」
「え? そんなの随分も前だよ」
「そ、そうなの?」
「そりゃそうだよ。
もう子供じゃないんだからさ。 溺れたりしないよ」
「・・・そ、そうだよね」
「なんで?」
「え? 別になんでもないわよ」
「しかし」
「ん?」
「お姉ちゃんカエル嫌いなんだね」
「え?」
「あんなに取り乱して、バターになっちゃうよーとか言っちゃってさ」
「な、何言ってるのよ!? 怖くなんかないわよ!」
「嘘だぁ」
「嘘なんかつく訳ないでしょ!」
「じゃあさっきのは何だったのさ」
「え? ・・・あんたを試したのよ」
「嘘だぁ」
「健! お姉ちゃんが今まで嘘ついたことなんてあった?」
「お姉ちゃん、そんなこと自信もって言っていいの?」
「・・・もう! 健のバカ!
あと質問に質問で返すなって言ってるでしょ!」
「うわっ!」
「宇宙ガエルに食われちゃえばいいんだ、健なんて」
「ちょ、ちょっとぉ」
「お姉ちゃんの気持ちも知らないで」
「お姉ちゃーん」


・・・。


「はぁ、もうパンツまでぐしょぐしょだよ・・・。 うわあ」


だんだんカエルの声が多く募ってくる。


「え? ・・・集まってきてるのかな・・・。
・・・帰ろ・・・」


後ろでまたゲロゲロ聞こえる。


「・・・お、お姉ちゃん、待ってよ」


・・・・・・。


・・・。

 


そんなこんなでまた数日が過ぎた。

どうやらお姉ちゃんは、おれにかまって欲しい様子だった。

 

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「ねえ」
「何? 健」
「バッグ、重そうだから持とうか」
「健、やさしいのね。
でもお姉ちゃんこれは一人で持てるから気にしなくっていいわ」
「そう。 でさ」
「何?」
「何でそんなでっかい荷物持ってきたの」
「え? ・・・いつもの通りよ」
「ふーん」
「何、ふーんって」
「別に」
「でも健、やっぱり来るんじゃなかったね」
「そう?」
「そうよ、私達は踏み入れてはいけないところに足を踏み入れてしまったんだわ、完全に。 そう、きっとそう」
「そうかな、ただの学校なわけだし」
「その学校だったはずのここは、ともすると地獄の入り口かもしれないのよ・・・」
「ていうか夜の学校って意外と明るいんだね」
「え? 無視? 地獄については無視?
そ、そんなことないじゃない。
暗くって仕方が無いわよ。
ほら、足下なんて真っ暗でなんていうか何だか地獄への入り口みたいよ・・・」
「でもなつかしいなぁ」
「また無視?
・・・でもあれじゃない。
夜の学校って不気味なのはやっぱりそうね。 それはホントにそうじゃない?」
「ホントにってどういう意味?」
「え、え? ホントにって・・・私ホントになんて言ってないわ」
「ふーん」
「ふーんって何よ。 言ってないって言ってるでしょ!
んもう、ホントかわいくない」


おれだってバカじゃない。

今日の昼くらいにお姉ちゃんが夜、学校に行ってみないかと言い出したときにおおよそ察しはついていた。

で、案の定あのでかいバッグ。

そもそも昨日、大量に買ってたこんにゃくは一切晩飯には出て来なかったわけで。

たまにお姉ちゃんが何をしたいのかわからなくなるときがある。


・・・そうだ。


おれもお姉ちゃんにちょっといたずらしてみるか。

 

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「・・・ねえ、お姉ちゃん」
「なに? 怖い?」
「そうじゃなくて。 足元になんか落ちてるよ」
「え? 何もないじゃない」
「あ、そうね。 何もないよね」
「何よ。 ・・・あ! やだ。
な、なんか落ちてるのかも知れないわ。 で、で、でも見えないわ」
「なにが落ちてた?」
「・・・え? えっとだから」
「暗くて見えないから何が落ちてるかわからないか」
「そ、そうよ。 暗くて見えないんだから・・・あ、健、あんたもしかして」
「ど、どうしたの?」
「何も落ちてないのにそんなこと言ったの? いつから人騙すような子になったのよ」
「じゃあ逆に聞くけど、お姉ちゃんは今日はなんで学校に行こうなんて思ったの」
「それは・・・学校に行ってみたいなと思ったのよ」
「何で急に」
「きゅ、急にじゃないわよ。 よく思うのよ。 5分に1回はそんな風に思うのよ」
「多すぎやしないかな」
「いいのよ、うるさいな。 もうこりくつばっかり!
あんたは私の弟なんだから、うん、お姉ちゃんって言ってればいいのよ、もう」


お姉ちゃんはぷりぷり怒りながら先に歩いていった。

そのとき、お姉ちゃんが豪快に転んだ。


・・・。


案の定だ。

お姉ちゃんはまだおれのことを子供だと本気で思っているらしい。

 

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「・・・・・・」
「いったーい!」
「・・・暗いなぁ」
「え!? 無視?」
「なにさ」
「なにさじゃないじゃない! じゃないじゃないじゃない!」
「は?」
「お姉ちゃんが今、転んだの見てなかったの?」
「見てたよ」

「あ、そっか。 見てたのか、良かった、私てっきり見てなかったのかと思っちゃった!

よし! じゃ帰ろうか、健!」

 


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「っていうとでも思ったのかぁ! 痛ぇだろうが、お姉ちゃん転んだんだから足腰痛ぇに決
まってんだろうがぁ!」
「ちょ、ちょっと、お姉ちゃんキャラ変り過ぎだから」

 

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「うううURYYYYYYYYYYYY!!!!!!」
「お姉ちゃん、落ち着いて!
わかった、わかったから。
お、お姉ちゃん怪我したの。 大丈夫?」
「お、お、お姉ちゃん足くじいちゃったみたいなのよ」
「そ、そうなんだ。 じゃ、じゃあおぶってあげるから帰ろうよ、お姉ちゃん」
「うおおおおおお、そうじゃねーだろうがぁ!」
「わ、わかったよ。 どうすればいいの?」
「あのね、この学校の一番奥に何の教室があるかは知ってるでしょ?」
「お、音楽室でしょ」

 

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「そう! 正解! 音楽室に行ってこの紙に書いてあるとおりにしてみて!」
「・・・・・・」
「わかった? 健」
「・・・・・・」
「健? 聞いてる?」
「・・・お姉ちゃん、人騙すようなことしてるのはどっちなのさ」
「え?」
「お姉ちゃんの方がよっぽどタチが悪いよ。
あのさ、言っとくけどおれ、もうそんなガキじゃないんだよ」
「言ったでしょ、お姉ちゃんにとってはいつまでも子供なのよ、健は」
「だからそれももういいってば」
「いいってなによ」
「お姉ちゃんの考えてることなんて全部わかるんだって、昔みたいに驚かそうとでも思っ
てるんでしょ」
「な、なにがよ」
「なにがじゃないよ。 お見通しなんだよ。 昨日からなんだか様子がおかしいし。
しかも昔に比べて、なんだかちょっと仕掛けも雑になったんじゃない?
URYYYYYYYとかわけわかんないこと言っちゃってさ。
ウリィィィィって」
「え、お、雄叫びよ」
「誰の?」
「え、そ、それは。 あ、兄弟子よ」
「何それ」
「いいのよ別に」
「とにかくおれはもういい歳なんだから。
子供じゃないんだから、よっぽどのことじゃないと驚かないよ」
「・・・・・・」
「何黙ってんのさ」
「・・・・・・。
もう健にはお姉ちゃんはいらないか・・・」
「え?」
「・・・ううん、なんでもない。
ちぇ、健ったらせっかくお姉ちゃんがいっぱい遊んでやろうと思ったのに」
「え? え? さっきなんて言ったの?」
「いいの。 ほら健、もう帰るよ」
「あ、うん」
「ようし、今夜はこんにゃく鍋にしようかな」
「・・・え!? あのこんにゃく食べるの?」
「そうよ、なんで? 昨日いっぱい買ったでしょ?」
「そ、そりゃそうだけど。 それは」


そのとき、お姉ちゃんの持ってるバッグがガサガサと動いた。


「うえ! え? 何か動かなかった?」
「え!? ・・・う、動いてないわよ」
「でもいま・・・」
「動いてないよ。 ほら帰るよー」
「あ、お姉ちゃん!」


お姉ちゃんはバッグに何やらぼそぼそと話しかけながら、先に行ってしまう。


「・・・え?
こんにゃくじゃないってことは・・・。
あれ、なんだったんだろ・・・」


果たしてお姉ちゃんは何でおれを驚かそうとしたんだろう・・・。


生き物?


考えてきただけで、恐ろしくなってきたおれはダッシュで家に帰った。

 

・・・・・・。


・・・。

 


・・・お姉ちゃんとのトリッキーな夏休みは始まったばかりだった。

 

 

それから数日後。

お姉ちゃんの横暴は止まらなかった。

 

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「ねえ、お姉ちゃん」
「なぁに?」
「二人で洞窟に行くのは分かるんだけどさ・・・」
「デートだもんねっ」
「違うでしょ」

 

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「そのデートに、なんで私が入るの?」
「3Pよ。3P」


「冗談はやめてよ・・・」

 

・・・。

 

 

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お姉ちゃんの命により、灯花を連れて来いとのことだった。

だから、ここにるハズのない灯花がいる。


「なんで灯花も呼ぶの?」
精神安定剤よ」
「誰の?」
「お姉ちゃんの」


「だとよ」
「なんで私に振るのよ」
「反対意見はないのか? 今のうちに聞いておくぞ」


「私がいると、落ち着くの?」
「テンションが常にマックス状態になるわ」


精神安定剤じゃないの?」

 

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「力になってあげられるなら、ついていってもいいけど・・・」
「さすが灯花ちゃん、話しが分かるぅ~」


「どうせくだらない内容だ。 帰った方がいい」
「ちょっと健、嘘はよくないわよ」
「必殺技を開眼する・・・とか言ってたじゃん」


「開眼? 眼を開いてどうするの?」


「・・・・・・」

「・・・・・・」


「な、なにっ? 私をジロジロ見たりして」
「かわいいなぁ~と思って」
「なにか間違ったこと言いました?」
「ううん。 そのままでいいわよ」
「はあ・・・」
「そろそろ行きましょうか」


「ちょっと待ってよ」
「怖いの? お姉ちゃんの胸の中で、ブルブル震えたい?」
「装備がライトだけしかないよ」
「充分じゃない」
「不十分だよ」
「心配なら、ロウソクと縄も用意する?」
「なんでロウソク・・・」


「あの・・・できれば急いでもらえませんか? 料理の特訓があるので」

「食材選びも立派な修行だ」


「洞窟産のコウモリとネズミなんか、当たりじゃない?」
「洞窟産と地上産には、違いがあるんですか?」
「どうだったかしらね~・・・」
「・・・どちらにしろ、いらないです」


「洞窟産のたこ焼きはいるか?」
「いらない! 出かけるんなら早くしてよねっ」


「ということらしいから、行こうかお姉ちゃん」
「そうね。 そろそろ行きましょうか」


おれたちはライトを片手に、洞窟の中へと足を踏み入れた。


「ったく、なんで私まで・・・」


洞窟に入る直前までグチっていた。


・・・・・・。


・・・。

 


ひんやりとした空気が、体中を包み込む。

真夏だというのに、洞窟の中は涼しい。



「一つ聞いてもいい?」
「パントマイムで答えていいのなら」
「普通に答えてよっ」
「なんだ?」
「さっき必殺技開眼って言ってたじゃない?」
「ああ。 言っていなかったような気がせんでもないが、やっぱり言ってた」
「・・・で、どんな必殺技なの?」
「デコデコデコリーンッ! ・・・だっけ?」
「このっ・・・」

 

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「あ、それなつかしーなー」


おれたちの様子を見て、『コントみたい』と最後に付け加えた。


「お姉ちゃんも、灯花に変なことを吹き込んでくれたよな」
「初めて見たとき、ウケたでしょ」
「外してたけど」


「外してないっ」


「それじゃあ、新ネタの一つでも教えてあげる」
「も、もういいです」
「私のネタ・・・そんなに面白くなかったのかしら?」
「面白かったですけど・・・きっと、私のやり方が悪かったんです」


いくら灯花がやったとしても、滑稽なだけだ。


「必殺技開眼のため、灯花を鍛えるか」
「・・・ちょっといい?」
「トイレなら、恥じらいをもって言え」
「なんてこと言うのよ、この変態ッ!」

「それと、シスコン♪」

 

「・・・で、言いたいことってなんだよ」
「必殺技は私じゃなくて、賢一が覚えるはずじゃないの?」
「予定変更して、灯花に新ネタを教え込むとしよう」
「こんな場所でっ?」


「なに勝手に決めてんのよ、健は」
「え? だってさっき、お姉ちゃんがそう言って・・・」
「今日のターゲットは健なのっ」
「はあ・・・」


さいですか。


・・・・・・。

 

・・・。

 

「ところで、健」
「なに?」
「なんで一番後ろにいるのよ」


先頭からお姉ちゃん、灯花、おれの順番で並んでいる。

 

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「お姉ちゃんたちをストーキングしたいの?」
「気持ち悪い。 磯野みたい」


「いいから進め。
この道を進んで行けばお前の将来にとってプラスになることが待ってるぞ」
「ホントに? 私を使ってだまそうと思ってない?」
「なんでそんなに用心深いんだよ」


「健・・・私の灯花ちゃんになにをしたのよ?」
「いつからお姉ちゃんのものに・・・」
「私が目をつけたときからよ。 ねぇ、灯花ちゃんっ」
「そこで灯花に同意を求めないでよ」


ほら、灯花もどう答えていいか困ってるじゃないか。


「そういうことだから、ドシドシ先に進むわよ」


気にした様子もなく、お姉ちゃんはどんどん先へと進んでいく。

 

・・・・・・。

 

・・・。



「璃々子さんっ。 ちょっと早いよぉ」
「ああ、ごめんなさいね」


歩幅を縮める。


「しかし灯花ちゃん、可愛いわね~・・・」
「えっ?」
「後ろをひょこひょこついて来て、まるでヒヨコみたい」


「ん? ギャグ? 今、つまんないギャク言った?」
「ちょっと健、さっきからうるさいわよ」


「璃々子さんについていかないと、不安でしょうがなくて・・・」
「これが母鳥の心境ってヤツね。
放っておけないって言うか、なんて言うのか・・・」


「おれにはついてこないのか?」
「ふざけるでしょ、賢一は」


「そうよねー、頼りないわよねー」
「ねえ璃々子さん、大丈夫? 迷わない?」
「私に任せておきなさい。
・・・それと、健も少しは当てにしてるからね」


「ん?」


しゃがみ込んでいたおれは、面を上げた。


「なにしてるの?」
「靴紐がほどけたから結んでる」


「今日は靴紐なんて、つけてなかったじゃない。
あ・・・もしかして、灯花ちゃんのパンツでものぞいてたんじゃないの?」

「痴漢! 変態! バカッ! 死んじゃえ!」

「うおっ!? あぶねッ!」


振り回されるライトをかわす。


「そもそも、暗くて見えないって」
「残念ね」
「お姉ちゃんは黙っててよ」


「こんな変態の前なんて歩いてらんないっ」


「あ~あ。 健、嫌われちゃったね」
「お姉ちゃんのせいだよ」


「賢一が前を歩いてよ」
「そうね。 健のせいでこうなった以上、責任を取ってもらわないと」


「お姉ちゃんが変なこと言うから、こんなことになったんじゃないの?」
「ブーブー文句を言わない。 この豚ッ、豚まんッ、ぶー太郎」
「うっ・・・」
「さあ、前に来てお姉ちゃんたちをガイドしなさい」
「別にいいけど、今までの道はちゃんと覚えてるんだよね」
「なに言ってるの。 それは健の仕事でしょ」
「いや、お姉ちゃんでしょ」
「そんなもの覚えてないわよ」


「灯花」
「覚えてない」

 

一瞬、場が固まった。

 

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・ドンマイ、私っ」


てへっと笑う我が姉。


「じょ、冗談じゃないですっ・・・迷子ですよっ?」
「犬のおまわりさんに、道を聞いてみましょう」


「おまわりさーん、助けてー」
「棒読み厳禁! はいっ、もう一回」
「犬のおまわりさーんッ! 助けてくれえぇーッ!」

 

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「バッカじゃないの!?」
「ぶっ殺すわよ!」


「えぇっ? な、なんでだよ・・・」


「もっと真剣に考えなさいっ」
「そうよっ、誰も来るワケないでしょ」


「言い出したのはお姉ちゃんたちなのに・・・」


・・・。



「そんなことより、かなりヤバイ状況なんじゃないの? これ・・・」
「レスキュー隊に連絡すれば、きっと大丈夫」
「でもっ・・・電話持ってないよ?」


「持ってたとしても、つながらない」


「しょうがないわね・・・地道に帰りましょ」
「どうしよどうしよどうしよおぉ~」


「パニくるなっての」


「ねえねえ、どうするのっ? このままじゃ、私たち迷子になっちゃうよおぉ~・・・」


もうなってるって。


・・・・・・。


・・・。

 


迷ってから、しばらく歩き続けていた。


「ねえ、ちょっと休憩しない?」
「疲れた?」


お姉ちゃんは、黙ってうなずいた。

 

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「私も、なんだか寒い・・・」


確かに、洞窟に入ったときと比べ、さらに体温が下がっているような気がした。

かといって無闇に動けば体力は消耗するし、じっとしてても体温は下がる一方。


「あ~あ、健のせいでえらい目に遭っちゃった」
「入る前にちゃんと役割分担しといてよ」


「お姉ちゃんが全部把握してると思って・・・」


「健に気づかせようと思ってわざと黙ってたのに、これじゃ本末転倒じゃない」
「全部、賢一のせいよ」


なんだろう、この二対一の構図。


「グチ言ってもしょうがないから、どうするか考えよう」
「出口を探してきなさいよ」
「分からないから、こうして迷ってんだよ・・・」


「役に立たないわね」


おれに聞こえないように、お姉ちゃんが小さな舌打ちをする。


「まだ、お姉ちゃんが面倒みてあげないといけないの?」
「その結果が、これでしょ?」
「お黙りなさい」


「これなら、料理の修行をしてた方がまだマシだったよ」
「なら、帰ってもいいぞ」
「帰れないから、こうして迷ってるんじゃないっ」
「ごめんな、灯花」


合掌。


「謝る前に外に出せ!」


そのときお姉ちゃんが、ずいっとおれたちの前に立ちはだかった。


「テレポート」


デュワッ!!!


「・・・って、できないから」
「こんなときに隠し技を覚えるんでしょ」
「こんなときって?」
「味方のピンチじゃない」
「おれもピンチなんだけど」
「だったら効果抜群ね」


いや、もうなにを言ってるのか分からない。


「早く外に出してよっ」


「しょうがないわ、修行しましょう」
「なにがしょうがないんですか!?」
「特訓よ、灯花ちゃん」
「えぇっ? や、やですよ・・・」
「なんで?」
「だ、だって、璃々子さんに教えてもらったことって、けっきょくスベってばっかりで・・・」
「いいから復習」
「はい?」
「なんかムカついたことがあったらどうするんだっけ?」

 

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「え、えっと・・・腕を組む?」
「そうよ、そして?」

 

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「ギラっとにらみつける?」
「ギラ、じゃなくてギロよ」
「あ、あんまり変わらないじゃないですか」
「まあいいわ。 それから?」

 

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「ぶ、ぶっ殺すぞって」
「うんうん。 やればできるじゃない」


ご満悦。


「じゃあ、気分がいいから、とっておきの一発ギャグを教えてあげるわ」
「えぇっ?」
「あのね、メガネをこう、ぐいっとおでこの上に上げて叫ぶの・・・」
「それ知ってますよ!」
「どっかんどっかんだったでしょ?」
「どっかんどっかんじゃなかったです!」
「じゃあもう一個教えてあげるわ」
「えぇ・・・」
「あのね、メガネをこうぐいっとおでこの上に・・・」
「それはもういいですから!」
「灯花ちゃんはかわいいなあ・・・」


「くー、なんでこんな急にピンチにならなきゃいけないのよ!」
「まあ落ち着け」
「だって、このまま干からびて死体になってミイラになるんでしょっ? そんなのイヤよ!」
「人間パニックになると、いい案も思い浮かばなくなる」


「落ち着いてそうな健は、なにかいい案でも思い浮かんだの?」
「今から考えるところ」


「早くしてよね」


おまえも考えろ。

 

「はい。 一つ提案」
「はい、どうぞ」
「お腹すいたわ」
「だから?」
「食べ物ちょうだい」


気づけば、もうおやつを食べてる時間だ。



「お前はいつも、食べ物を使って時間を計っているのか」
「これも料理人としての訓練の成果よ。 どう、見直した?」
「ただの腹時計じゃねえか」


「ねえ、健~。 お姉ちゃん、お腹減っちゃったぁ・・・」
「甘えた声を出しても無理。 ないものはないんだ」
「コウモリでも捕まえて食べましょうよ」


「そうするしかないのかなぁ?」
「いっそのこと、灯花を食べようぜ」
「はあっ!?」
「塩味としょうゆ味、好きな方を選べ」
「味付けするなっ!」


「あ~・・・お姉ちゃんは、健を食べたいんだけどな」
「なに味?」
「グッとくるような、濃厚な味付けで」


「え? えっ? 本当に食べちゃうの?」


キョロキョロと首を振り、おれとお姉ちゃんを交互に見ている。

 

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「わ、私、美味しくないっ・・・自分で作った料理の方が、まだ美味しいんだからっ」


そりゃそうだ。


「・・・ん?」


お姉ちゃんが顔をしかめる。


「ちょっと待って」
「え?」
「なんで私たち、人を食べるって話になっちゃってたの?」
「お姉ちゃんが、おれを食べたいだなんて言い出すから」

「賢一が、私を食べようだなんてふざけたこと言ったからでしょっ」


「お腹が減ったから、灯花ちゃんを食べようって話になっちゃったんだっけ?」
「共食いなんてありえないですよっ」


「SF小説の中にも書かれてあったが、人を食う人種もいるらしいぞ」
「しょせん本の中での出来事でしょ」


「健、その辺にしておきなさい。 今はなにをすべきなの?」
「・・・あ、そうだった」


「早く出ないと、ホントにやばいんじゃないの?」


涙声で、不安そうな表情を覗かせていた。


「そうね。 こんなところで笑ってる場合じゃないのよ」


自然と顔が引き締まる。


「あぁ、ホントにどうしよ。
健は当てにならないし、灯花ちゃんも道を覚えていないって言うし・・・」
「ちょっとお姉ちゃん。 おれが当てにならないって、いつ誰が決めたの?」
「ずっと昔から、お姉ちゃんが」
「やれやれ・・・」


おれは地面に落ちていた銀色の石を拾った。

正確には、アルミホイルに包まれた石。


「それは?」
「お姉ちゃんたちが進んでいくとき、後ろの方で所々マーキングしてたんだ」


ガサガサとアルミホイルを取り外す。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


「なんで二人とも、そんなに睨むわけ?」

 

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「そんなことは早く言いなさいよ! マジで泣きそうだったんだから!」
「そうよ! 健はお姉ちゃんなしじゃ、そこまで成長できないのよ!」


「いつまでも子供じゃないんだし、そういう考えはもう捨てようよ」
「そこのアナタ。 昔の可愛かった健に戻りなさいっ」
「いや、本人だから」


「昔の賢一って、そんなに可愛かったんですか?」
「そうなのよっ。
目に入れても痛くないほどで、プリプリのピチピチだったのよ」
「へ、へぇ・・・」


「変な説明はやめてよ。 あの灯花が引いてるじゃん」
「『あの』ってなによ!? 私が変人みたいに聞こえるじゃないっ」
「あぁ、つい・・・」


口が滑ってしまった。


「ちょっと二人をからかってみただけなんだよ」
「ま。 健のクセに生意気を言っちゃって」
「いい加減さあ、おれを認めてよ」
「認めるってなによ、いきなり偉ぶっちゃって」
「ぶっちゃってって・・・」
「しかもどこがプリプリのピチピチなのよ。 ガリガリのブチブチじゃない」
「お姉ちゃん、なにを言ってるのか分からないよ」
「ああもうっ、ムカつくわねっ!」


キレた態度が、なんとなく灯花と似ていた。


「と、とりあえず、外に出よう。 ついてきて」


二人ともブスッとした態度で、おれについてくる。

出口へと向かう間、背中に二人分の冷たい視線が感じられた。


・・・・・・。


・・・。

 


灯花は洞窟を出た後、プンスカと怒りながら帰宅した。

この借りは必ず返す、とかワケの分からない捨て台詞を残して・・・。

 

・・・・・・。



・・・。





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「さぁ、お風呂に入りましょう」


妙に機嫌がよろしそうだった。

洞窟内で、頬をぷーっと膨らませて腹を立てていたお姉ちゃんは、一体どこへいったのか。


「ちょ・・・背中押さないでよ」
「さちちゃんのときも、こんな感じだったんでしょ。
お姉ちゃん、ちゃ~んと知ってるんだから」
「・・・・・・」
「ふふっ。 さあ、いきましょっ」


お姉ちゃんに押されるがままに、おれは風呂場へと連れて行かれた。


・・・・・・。

 

「健ったら、すっかり大人になっちゃって・・・」
「・・・・・・」


お姉ちゃんの含み笑いが、背後から聞こえてくる。


「ほらぁ・・・前のほうも、洗ってあげる」
「え? ・・・いや、いいって・・・」


タオルを持ったまま、前の方へと移動してくる。


「お姉ちゃんの裸を見て、こんなになっちゃってるの?

今はお預けよ。 後で楽しみましょ」


口元をクッと上げて、不気味な笑みをもらした。

この後、一体どんなことをしてくれるのやら。


・・・・・・。

 

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入浴を済ませた後、部屋でお姉ちゃんが来るのを待っていた。

心臓の音がバクバクと鳴っている。

今か今かと、そのときを待ち望んでいた。


「お・ま・た・せっ」


姿を現したお姉ちゃんの下着姿は、誘っているものとしか思えなかった。

全身黒なのはもちろん、網タイツにガーターベルトまでつけており、本格的だ。


「ウブな健には、刺激が強かったかな?」


ウブでなくとも、誰でもググッとくるものがあるほど魅力的だった。

おれは催眠術にかかったかのように、ふらふらと近づいていく。


「ぁんっ。 ヤダ・・・そんな怖い目つきで迫られると、お姉ちゃん余計に燃えちゃうじゃない」


お姉ちゃんはクスクスと笑い、おれの反応を楽しむかのように観察している。

そばまで行くと、おれは当たり前のような動作で、お姉ちゃんにキスを求めていた。


「んもう・・・がっつきすぎよ」


ふふっと笑みをもらしながら、口を交わした。


「んっ・・・む、ちゅっ・・・」


ぷにぷにとした感触が唇に当たった。

温かくて、気持ちいい。


「はぁ、ん・・・健・・・」


膝立ちは疲れる。

お姉ちゃんを優しく布団に押し倒した。

 

・・・。

 

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「んん・・・健っ・・・はぁ、はぁ・・・」


小ぎれいなお姉ちゃんの口から、熱い息が漏れてくる。

おれは唇を重ね、お姉ちゃんの吐く息を受け取る。


「ホントに、もう・・・しょうのない子ね。
ちゅ、ちゅっ・・・ん、んん・・・ふふっ」


唇を使い、お姉ちゃんの唇を甘噛みした。


「ぁ・・・ん、ぅうん、ちゅぷ・・・」


仕返しとばかりに、おれにも同じことをしてくる。


おれはその後、お姉ちゃんを優しく愛撫した。


・・・・・・。


・・・。


「・・・っ」
「・・・お姉ちゃ~ん?」
「・・・うるさいわねぇ・・・」


なぜかキレていた。


「・・・お姉ちゃん、大丈夫?」


気づかう。


「さあ? どうかしら?」


怪しい笑み。


「次、いってもいいかな?」
「ダメよ。 ここまでにしときなさい」
「・・・え?」
「最後までするつもり?」
「そのつもりだけど・・・」
「ダ・メ・よっ」


鼻先をちょんっ、とつつかれた。


「おあずけ」
「・・・マジで?」
「最後までさせてあげない」


いたずらっぽく微笑んだ。


「そりゃないよ、お姉ちゃん・・・」


思わず肩を落としてしまう。


「お仕置きよ。
それと・・・お姉ちゃんをイカせるなんて、弟にあるまじき行為ね」
「そんなこと言われても・・・」
「特別に、こんなことしてあげる・・・」


妖艶な笑みをもらしながら、身体を起こした。


「横になりなさい」
「う、うん・・・」


先ほどの責めの態度とは打って変わって、すぐさま従順な態度を取るおれ。


そして・・・。

 

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お姉ちゃんにいぢられ続けた・・・。


・・・・・・。

 

・・・。

 


「ねえ、健・・・」
「え?」
「お姉ちゃんのこと好き?」
「ああ・・・」
「ああってなによ、またスカしちゃって・・・。
でも許してあげる、健がお姉ちゃんとずっと一緒にいてくれるならね」


ふっと、耳元に吐息がかかる。

体の小さなお姉ちゃんに抱きすくめられながら、おれは静かに眠りに落ちていった。


「明日も、かまってね」


・・・・・・。


・・・。

 

 

次の日の朝、おれはお姉ちゃんと朝食を取っていた。



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「昨夜ね、色々と考えてたのよ」
「うん」


自分で作った味噌汁を、ずずずっと音を立てて飲んでいた。

うん、美味い。


「健のお○んちんって、あんなにデカくなってたんだなぁ・・・って」
「ぶはっ!?」


前方にいるお姉ちゃんに、散弾汁を飛ばしてしまった。


「きゃっ!? きったな~い・・・見苦しいわよ、健っ」
「朝っぱらから、下ネタを披露するお姉ちゃんに言われたくないねっ」
「あら、やけに反抗的じゃない」
「正論を言ったと思うんだよ。 おれは」
「その、上からものを見る態度。 どうにかならないかしら?」
「今のお姉ちゃんも、似たようなものじゃん」
「・・・ああ言えばこう言う」
「お姉ちゃんだって・・・」


どうして朝から、こんな暗い話題に発展してしまうんだろ。


「あーあ、朝から鬱になっちゃったじゃない」
「じゃあさ、商店街に行ってストレス発散とかしない?」
「商店街? なにがあるのよ」
「買い物したり、ゲーセン行ったり、食事したり・・・」
「定番すぎてつまんないわよ、零点」
「夜に花火とか」
「夏の風物詩ってヤツ?」
「そうそうっ」
「スイカの種飛ばし大会の方が、よっぽど楽しいわよ」
「やっぱり花火もしたいな」
「買ってきたらいいじゃない」
「というわけで、一緒に商店街に行こう」
「一人で行かないの?」
「退屈じゃんか。 お姉ちゃんだってそうでしょ?」
「私はゲーセンに行くからいいのよ」
「零点評価だったんじゃないのっ?」
「暇だったら行くわよ」
「なにするの?」
「ゲームについては疎いから、よく分からないわ」
「じゃあさ、パチンコとかどう?」
「・・・なんて目つきでお姉ちゃんを見てんのよ」
「どんな目つき?」
「たくさんやってそう、熟練者、達人・・・みたいな」
「違うの?」
「当たり前でしょ」
「なーんだ」
「お姉ちゃんをなんだと思ってるのよ」
「遊び人の類かと」
「子供じゃないんだから、もっとマシなこと考えなさいよ」
「なにがあるのさ?」
「そうね・・・食材を探してきましょうか」
「商店街に行って・・・結局、買い物になるのか」
「違う! 健、そうじゃないのよっ」
「えっ? なにが?」
「商店街に行く必要なんて、全くないわ」
「いや・・・食材を探すんでしょ」
「それは固定概念よ、健」


久しぶりにいやーな台詞を聞いてしまった


「周りを自然に囲まれておきながら、流通に頼ってちゃダメでしょ」
「・・・え?」
「お金なんか払わなくても、すぐ近くでツクシとかゼンマイとかワラビとか、たくさん採れるでしょ」
「ということは・・・」
「イノシシ狩りに行くわよっ!」
「山菜狩りでしょ!」
「今夜は、クマ鍋にしましょう」
「イノシシを狩るんじゃなかったの?」
「代わりにクマが出てきた、という設定で」
「物語作っちゃってるよ・・・」
「健が剣を持って戦って・・・。
ぷっ、なにそれ? ダジャレのつもり?」
「いや・・・言ったのはお姉ちゃんでしょ」
「とにかく、そういうことなのよ」
「山菜狩りに行くってことでいいの?」
「シャベルと一輪車の準備を怠らないように」
「カゴだけあれば充分でしょ」


どうやら、食材探しの旅へ出かけることになったっぽい。


「一つ、聞いてもいいかな?」
「ん? なぁに? お姉ちゃんに口答え?」


やけに嬉しそうだった。


「今は、見ての通り夏だよね」
「夏真っ盛りね」
「ツクシ、ゼンマイ、ワラビってさ、春に採れる食用植物だから、今の時期は採れないと
思う」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

 

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「流通に頼ってちゃダメよっ!」
「流通、関係ない!」
「人の話聞いてなかったの?
ツクシとかゼンマイとかワラビとか・・・ってお姉ちゃん言ってたでしょっ」
「確かに言ってたけど、どうかしたの?」
「たかが言葉だからといって、舐めてかかっちゃダメよ。
舐めて、しゃぶって、しゃぶりつくして、変なアレが出てきて、最後にはピーーー!
ってなっちゃうじゃない」
「だから、やめなってそういうの」
「なになに『とか』って。
この『とか』って言葉が、どういう意味か分かってんのっ?」
「わ、わかるけど・・・」
「だったら、文句言わずについてくるのよっ」
「じゃあ、朝めし食ってからね」
「そんなんじゃ間に合わないでしょ。 今すぐ」
「間に合わない?」
「夕方のタイムサービスによっ」
「商店街には行かないって・・・」
「ママチャリをこいで行くからいいのよ」
「なんだよ、それ」
「商店街の話はおいといて・・・」


物を抱えて、床に下ろす仕草をする。


「山登りについてだけど」
「山菜狩りでしょ!」
「似たようなもんよ。
あ、そうだ・・・スコップと軍手も用意しなきゃね」
「カゴだけあれば、とりあえずなんとかなるでしょ」
「カゴだったら昨日、焚き木として使っちゃったからもうないわ」
「なんで燃やすの!?」
「薪のストックが切れてたからよ」
「拾ってくればいいじゃんか」
「めんどくさかったから、仕方ないじゃない」
「それ、仕方ないって言わないよ」
「不運の事故によりカゴがなくなった以上、買いに行くしかないのかなぁ・・・」
「お姉ちゃんが行ってよ、責任もって」
「一人で行けっていうの?」
「燃やしたの、お姉ちゃんでしょ」
「健が燃やせって・・・」
「言ってない言ってない」
「一人じゃ寂しいわよ」
「自業自得だよ」

 

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「ねぇ、健~・・・」
「甘っぽい声を出してもダメ」

 

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「健・・・お願いっ」
「悲しそうな表情をしてもダメ」

 

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「おーっほっほっほっほっほ!」
「意味分かんないよ!」


・・・。


「はあっ・・・カゴなしで、直接胃の中に納めて来いって?」
「そこまでしなくていいよ・・・」
「毒が入ってたら、許さないからっ」
「じゃあ、しなきゃいいじゃん・・・」
「食中毒に当選しないためにも、カゴは必須ね」
「結局、商店街に行くんだ」
「健がどうしても行きたいって言うから、仕方なくね」
「朝ご飯が終わるまで、ちょっと待ってて」
「今すぐ買ってきなさい」
「なんで?」
「時間がないから」
「たっぷりあるじゃんか。 今日も明日も明後日も・・・」
「食料が尽きかけているのに、そんな悠長に構えていられないわよ」
「んな大げさな・・・」
「ということで、山菜狩りに出かけましょ」
「朝ご飯たべないと、力が出ない」
「さっきから朝ご飯朝ご飯って・・・今が美味しければ、後はどうだっていいの?」
「食料なら、当分なくならない」
「イヤ。 今すぐ山菜狩りに行きたいの。 健と」
「・・・わかったよ」


この場は、おれが折れるしかない。

かなり強引だけど、山に出かけることになった。


・・・・・・。


・・・。

 


食べかけの朝食を片づけて、そのまま外へ。

二人ともカゴを背負っている。

 

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「一体誰よ、かごを燃やしたなんて言ったの」
「お姉ちゃんだよっ」
「忘れ物はない?」
「特になし」
「迷子にならないよう、お姉ちゃんにしっかりついて来るのよ」
「洞窟じゃあるまいし、迷うことなんてないよ」
「むっ・・・過去のことをほじくり返すなんて・・・」
「多分、大丈夫だよね」
「多分じゃなくて、絶対よ」


その自信は、どこから沸いてくるのか。


「億万分の一の確率で迷ったら、一日だけお姉ちゃんの座を譲ってあげる」
「いらないから・・・」
「もし迷わなかったら、お姉ちゃんの言うことをちゃんと聞くのよ」
「今でも聞いてるじゃん」
「その反抗的な口を閉じなさい、と言ってるの。 わかった?」
「うん」
「それじゃあ出発。 一攫千金を狙うのよっ」
「どうやって狙うの?」
マツタケとか」
「今は夏だよ」
「はいはい、秋にしか採れないって言うんでしょ」
「分かってるじゃん」
マツタケハンターだからね」
「なにそれ」


お姉ちゃんは、張り切った様子で山へと入って行く。

おれも遅れないように、後をついて行った。


・・・・・・。


・・・。

 

歩くこと三十分、深い森の中へと進入していく。

むわっとした熱気が、あたり一面を覆っていた。

 

 

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セミがやかましいったらありゃしないわ」


手でパタパタと扇ぎながら、グチをこぼした。


「健。 今すぐ黙らせて」
「ムリだって」
「やる前から無理って言うから無理なのよ」
「別にできなくてもいいよ」
「消極的ねえ・・・」
「これだけのセミの数を、どうやって黙らせようっていうの?」


人間ならともかく。


「自分で考えることに意味があるのよ」
「もっともらしいこと言ってるし・・・」
「お姉ちゃん待っててあげるから、考えてみなさい」
「でも、さっき時間がないって・・・」
「山菜狩りだったら、明日でも明後日でも行けるじゃない」
「それ、おれが今朝言ったセリフなんだけど・・・」
「いいから答えなさい」


言われて、仕方なく真面目に考えてみる。


・・・。


「やっぱり、どう考えても無理だよ」
「殺虫剤をばら撒いても?」
「彼らだって生きてるんだし・・・」
「彼女たちもいるわよ」
「そんな細かいことはどうでもいいの」
「お姉ちゃん、真面目に聞いてるのよ」
「うん」
セミの鳴き声が苦痛で苦痛でしょうがないって言う人が来て、今すぐなんとかして下さいって頼まれたら、健は助けたいって思うでしょ」
「思う思わない以前に、ホントにムリでしょ。
あれだけのセミをどうやって黙らせるの?」
「まだ頭が足りてないわね・・・嘆かわしい」
「ほっといてよ」
「いいわ。 そこまで言うなら教えてあげる」
「なにも言ってないよ・・・」
「殺虫剤をばら撒きなさい。 簡単でしょ」
「だからダメだって!」
「一番手っ取り早い方法じゃない」
「かわいそうだよ。
一週間限りの命だとしても、生きてることに変わりはないんだから」
「ガチャガチャ騒がないの。
健もミジンコくらいは、お姉ちゃんの大胆さを見習ってほしいものだわ」
「今言ったような蛮行は、とてもできないけど」
「お姉ちゃんの選択肢が間違っているとでも言うの?」
「道徳的に間違ってるというか、強引すぎる」

 

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「立派なおちん○んつけてるのに、いつまで小心者を気取ってるの?」
「気取るて・・・」
「いい、健。
私たちは社会の変革を目指す、いわば野心家なのよ。
これくらいのことでイヤイヤ言ってたら、ガキ大将すらなれやしないわよ」
「ならなくていい・・・」
「そういうことだから、今から健を試してあげる」
「・・・また?」
「不満でもあるの?」
「今、山菜狩りしてるんだけど・・・」
「じゃ、それで行きましょ」
「なにするの?」
「キノコ探して食べる」
「それだけ?」
「? それだけよ」


悪意なき眼差しで、きょとんとしていた。


・・・なにはともあれ、無事に今日が終わることを祈る。


・・・・・・。


・・・。

 


キノコを中心に狩り始めて、数時間が経った。

正午を目前に、日光が真上から大地に降り注ぐ。

作業の進捗状況を語るかのように、背負っているカゴに少しずつ重みが加わっていく気がした。


「さーってと、健はどんな感じかしらね・・・」
「っとと・・・」


お姉ちゃんは素早く背後に回ると、おれの背負っているカゴをぐいっと引っ張り、中を覗く。

突然の出来事に、おれはその場で尻餅をついた。



「・・・まあまあ、かな」
「お姉ちゃんの方はどう?」
「すごいの見ちゃう?」


背負っていたカゴを地面に置き、得意げな表情でおれを見る。

中を覗いてみると、大量の山菜やらキノコが入っていた。

カゴの四分の一しか獲物が入っていないおれに対し、お姉ちゃんのカゴは半分ほど埋まっている。


「へえ・・・凄いんだね、お姉ちゃん」
「当然」


機嫌よさげ。


「食べられるかどうかは別としてね」
「・・・食べられるものを選ぼうよ」
「鍋にしてしまえば、なんでも食べられるなじゃない?」
「なんでも?」
「例えば・・・そうっ、竹。
元々は竹の子なんだから、長時間煮たら食べられるようになるわ」
「どこをどう考えたら、その結論に行き着くわけ?」
「とにかくっ、鍋が偉大っていうことは証明されたわ」
「されてないし、竹を煮ても食べられないよ・・・」
「根性ないわね~。
ホンットにミジンコなんだから、ミジンコっ! このミジンコ!」
「え? ミジンコなんだ?」
「ミジンコな健には、ちょうどいい冒険よ」
「冒険?」
「お姉ちゃんが採ってきた得体の知れない食材を、健が食べるのよ」
「自分で、得体の知れない・・・なんて言わないでよっ」
「大丈夫よ・・・たぶん」
「ものすごく心配だ・・・」
「日が暮れるまでに、カゴいっぱいの食材を集めましょ。
この勢いだと・・・そうね、健は一人残業になるかもね」
「まともな食材しか探してないから」
「むっ・・・お姉ちゃんの採った食材が、そんなに信用できない?」
「大いに、ね」
「鍋は偉大なのよ」
「だから、なんでよ?」
「健は知らないだろうけど、これ格言だから」
「だから、鍋奉行だなんて言葉が生まれたんでしょ?」

 

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「よく分かってるじゃない。 少しは成長したようね・・・お姉ちゃんのお陰だけど」


適当に結論をこじつけたお姉ちゃんは、それはもう、満面の笑みだった。


「一回自宅に戻るわよ。 お腹すいたし」
「そういうことだったら・・・」


持ってきた手提げを、お姉ちゃんの目の前に掲げて見せた。


「昼食を持ってきたから、一緒に食べよう」
「お姉ちゃんとピクニック気分でも味わいたいの?」
「まあ、そんなところかな」
「ふふっ・・・じゃあ、一緒にランチしましょっか」


おれとお姉ちゃんはカゴを下ろし、向かい合う形で地面に座る。

そして、二人の間におにぎりの入った手提げを置いた。


「おにぎりかぁ・・・今朝出てくるときに作ったの?」
「うん。 ふと思いついたから、勢いでね」
「よくもまあ、あんな短時間でこれだけのもの作れるわね」
「ご飯を握るだけだからね。 簡単だよ」


お姉ちゃんは感心しながら、ラップに包まれたおにぎりに手を伸ばす。

ペリペリとラップをはがし、中身のおにぎりにパクつく。


「あら、おいしい。 ちとビックリ感」
「よほどお腹減ってたんだね」
「高菜、おから、鮭・・・あ、梅はいらないからあげる」


見ていて嬉しくなるくらいに、いい食べっぷりだった。


「お姉ちゃんも、おにぎりくらい作ってみたら?」


受け取った梅入りおにぎりをほおばりながら、料理を勧めてみた。


「んーーーーー・・・・・・健が作れるんだから、お姉ちゃんは必要ないでふ」
「でふって・・・。
きっと楽しいからさ、一緒に作ろうよ」
「楽しむのは、健だけでしょ」
「お姉ちゃんは楽しくないの?」
「ご飯を握るだけじゃない」
「微笑ましくない?」
「あのね、二人でご飯をニギニギするのよ」
「肩を並べてね」
「なんか、ムナしくない?
気をつけ姿勢で、手だけ動かしてるのよっ」
「なら、体全体動かせばいいじゃん」
「ヤ! ヤダ! イヤダ!」
「なに、その三段構え」
「その点、やっぱり鍋は最強武器なワケよ。
お湯張って食材ぶち込めば・・・ほら、もう終わりじゃない」
「便利だね」
「ついでに食器も入れれば、洗う手間も省けるわ」
「入れちゃダメでしょ」
「あ、洗剤もいれないと」
「食べ物を入れようよ!」
「食べ物を入れようって、あんた・・・。
お姉ちゃんの採った山の幸が、食べられないですって?」
「話、飛びすぎ・・・」

 

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「しかも、ゲテモノですって?」
「いや、言ってない言ってない」
「健はいつからグルメ出身になっちゃったのかしら?」
「うーん・・・」
「困ったものねぇ」
「はは・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

「答えなさいよ」

「えっ? 答えるの?」

「投げてるんだから、返しなさいよ。
それともなに? お姉ちゃんに、一人で壁とキャッチボールしてろって?」
「ゴメン、気づかなかった」
「・・・もういいわ、続きをしましょ」


立ち上がり、お尻をパンパンとはたく。


「りょーかい」


おれもゴミを片付け、立ち上がる。


「今度は、自宅に帰りながら狩りましょ」
「もう充分だと思うんだけどな・・・」
「兵糧は溜めておけば安心でしょ」
「まあね・・・んっしょ」


カゴを背負い、来た道を戻る。

セミの鳴き声が、更にやかましくなっていた。


・・・・・・。


・・・。

 

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「これだけあれば、数ヶ月はもつわ」
「ムリムリ」


今日の収穫は、二人合わせてカゴ一つが満タンになる程度。


「さっ、帰ってこれを調理するのよ」
「・・・おれだけで?」
「当たり前よ」


さも、当然のように言い放つ。


「手伝って欲しいの?」
「できれば・・・」
「こだわるわねぇ」
「一人でやっててもつまんないんだもん」
「お姉ちゃんには、やることがあるのよ」
「なに?」
「夏休みの宿題」
「・・・・・・」
「絵日記よっ」
「聞いてないから」
「毎日のように日記をつけてるの、偉いでしょ」
「毎日つけるから、日記でしょ」
「健もつけてみなさいよ」
「え~っ?」
「露骨に嬉しそうな顔しないでよ」
「・・・嫌がってるんだけどなぁ」
「日が暮れる前に帰りましょ」
「ういーっす・・・」
「一服盛ろう、とか考えてないでしょうね」
「お姉ちゃんが採ってきたものを使えば、盛る必要もないよ」
「あははっ・・・そうかも!」


ケタケタと笑いながら、お姉ちゃんは帰路に着く。

おれもその後に続いた。

慎重にご飯の準備をしないと・・・。


・・・・・・。


・・・。

 

 

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「ねえ、健見て見て」


樋口家の食卓に、美味しそうな匂いが立ち込めていた。

収穫された大量の山の幸が、鍋の中でぐつぐつと音を立てている。


「いただきま~すっ」
「いただきます」


お姉ちゃんの号令で、おれも鍋に手をつける。


「んん~、グッドテイスト」
「だね」

 

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「じゃなくて見てってば!」
「なにを?」
「なにをじゃないでしょ! スーツでしょ! お姉ちゃんスーツでしょうが!」
「スーツだね」
「なんか感想ないの!?」
「なんでスーツなの?」
「なんでって、これから都会に行くわけじゃない?」
「ああ、新調したんだね」
「そうよ。 お姉ちゃん仕事できそうでしょ?」
「じゃあ、お茶汲んできて」
「お姉ちゃんにOLまがいのことさせようだなんて、いい度胸してるわね」
「怒んないでよ。
ていうか、家の中でスーツ着る必要ないでしょ?」
「いいの! お姉ちゃんこのかっこが気に入ったの!」


まあ、なんでもいいか。


「ところで、お肉が入ってないわよ」
「山菜だけで鍋してるからね」
「作るとき、入れなかったの?」
「切れてた」
「なんで今日のうちに買ってこなかったのよ」
「山菜狩りに連れて行かれたから」
「キノコ狩りでしょ」
「・・・とにかく、肉はない」
「鍋といったら肉、肉といったら鍋でしょ」
「そうなのかなぁ」
「テストに出るから、覚えておきなさいっ」


なんのテストだろ。


「それと・・・私の採ってきたものが入ってないんだけど」
「ヤバそうだったから、野に返した」
「はあっ!? なんでよ?」
「明らかに、毒が入ってる食べ物だったから」
「そっ、そんなことない!」
「そんなことあるんだよ」
「ないったら、ないんだもん!」
「・・・とにかく危なかったよ」
「加熱すれば毒は抜けるわ」
「万が一できたとしても、食べる気は起きないでしょ」

 

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「食べるのは健だから、私には関係ないもーん」
「もーん、じゃないよ。 もーん、じゃ・・・」


お姉ちゃんは軽くため息をつき、少しだけ肩を落とした。


「お姉ちゃん、頑張ったのに・・・」
「食べられるものもあったから、そう落ち込まないで」
「どのくらいあったの?」
「一割くらいかな?」
「じゃあ、この中に入ってる食材の残り九割は・・・」
「おれのっていうことになるかな」
「お姉ちゃんのは、必要なかったわけだ」


今度は、重いため息を漏らした。


「寂しいな」
「次っ、次から気をつけようよ」
「また狩りに行くの?」
「お姉ちゃんが行くならね」
「ん~・・・」


鍋の中を凝視し、なにやら考え込んでいた。


「美味しいから全部たべちゃいましょ」


箸を手早く動かし、今日の獲物を次々と消化していく。

おれも鍋の中身に手をつけ、本日の収穫の手応えを感じることにした。


・・・結構なお手前。

 

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「健、食べさせてあげようか?」
「え? どしたの急に?」
「新婚さんみたいでいいじゃないの。
アツアツの夫婦みたいじゃないの」
「家の中でスーツ着られてるわけで・・・接待みたいだよ」
「いいからいいから」


箸をつかむお姉ちゃん。

 

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「ほら、あーん」
「あーん、て・・・お姉ちゃん、橋の先に何もないよ?」
「あらそうね、お姉ちゃん箸使いがなってないみたいね」


ひょいひょいと鍋のなかに箸を突っ込む。


「くっ、ふっ!」


テンパってる。


「こ、このっ、ちょこまかと!」


かきまぜられ、ぐちゃぐちゃにされていく野菜の群れ。


「うわー、鍋のなかが、なんか惨劇に満ち溢れてきたよ」


そしてようやく・・・。


「はい、健・・・あーんして」
「あーん、て・・・シイタケの房がないんだけど? 茎の部分だけなんだけど?」
「いいのっ! お姉ちゃんがあーんて言ったらあーんするの!」
「わかったよ・・・あーん」
「あーん・・・」
「もぐもぐ・・・ごっくん」
「どう? おいしい?」
「おいしいっす。
すっげおいしいっす。
お姉ちゃんのシイタケおいしいっす」

 

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「三回も棒読みしやがって、てめえ!」


お姉ちゃんが怒った。


「なによ、なんなのよ! わたしなんかずっと孤独だったんだからね!
箸使いくらいわかんなくて当然じゃないの!
食事中にスーツ着たっていいじゃないの!」
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん、暴れないで。
わかった、わかったから。 おれもスーツ着るから」
「うおおおわけわかんねえだろうが!
二人して食事中にスーツ着たらお見合いみたいになっちゃうだろうが!」
「わわっ、汁っ! 鍋の汁がかかるって!」
「くうっ・・・ホントにかわいくないっ!」
「どうしたら怒りを鎮めてくれるのさ」


するとお姉ちゃんはしばらく黙り込んで言った。


「目、閉じなさい」
「目?」
「いいから早く。 そしてあーんしなさい」
「・・・・・・」


言われたとおりにする。


「・・・しょうがないわね」


なにがしょうがないのか聞き返そうとしたときだった。


「むっ・・・!?」
「んっ、ちゅっ・・・」

 

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「わわっ!」
「ふふふっ、どう?
口移し・・・どう?」


目の前で、お姉ちゃんの唇が艶やかに濡れていた。

頭が沸騰して、なにを食べさせられたのかもわからなかった。


「かわいいわねっ・・・気持ち、良かった?」
「よかったっす。
気持ち、よかったっす。
お姉ちゃんの唇、きもちよかったっす」


放心していたのか、また三回くらい棒読みになってしまった。


「健をしつけるくらい、わけないわね」


お姉ちゃんはご満悦だった。


「じゃあ、もう寝ようか」
「う、うん」
「お姉ちゃんのスーツ似合ってる?」
「う、うん、似合ってる・・・」


けっきょく、その日は夜が明けるまで、お姉ちゃんに逆らえなかった。


・・・・・・。


・・・。