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G線上の魔王【19】

 

 

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・・・。


年が明け、宇佐美との初詣をへて、再び学園に通う毎日だった。



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「しかし、花音がいないと、いまいち盛り上がりませんねえ」
「ひと月もしたら帰ってくるよ」
「椿姫もなにやら家事と学園の行事に追われているようですしね」
「暇なのはおれとお前と栄一くらいだ」

 

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「誰が、暇だって?」


ヒマ人が、顔を出した。


「なんかさー、今日から新しく転入生が来るみたいだよ」
「へー、こんな時期にかよ」


「どんな人ですか?」
「フン・・・」
「あれ?」


なにやら、宇佐美にそっぽを向く栄一。


「宇佐美さん。 ボクはね、怒ってるんだよ?」
「あ・・・」
「きれいなお姉さんを紹介してくれる話はどこにいったの?」
「ま、誠に申し訳ございませぬ」
「形だけの謝罪なんていいんだよ!」
「は、ははあ・・・!」
「お前らはいつもそうだ! 安い頭を下げれば許してもらえると思っている!」
「か、返す言葉もありませんが・・・実はその・・・」
「言いわけは聞かん!」
「音信不通になりまして」


「へえ」
「いまとなってはなぜ、ユキがこの街に来たのかもわかりません」
「じゃあ、しょうがねえな」

 

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「けっ!」
「そんなにむくれるなよ。 おれもその女に会ったが、どうにも一筋縄じゃいかなそうだったぞ?」
「ボクに限ってだいじょうぶだよ」


この自信はどこから来るのか・・・。


「最近、忘れてるみたいだけど、ボクってかわいい系なんだからね」
「すっかり忘れてたわ」
「あーあー、転入生が、そのユキって子だったらなー」


「そんな馬鹿な・・・」


「んなお前の都合のいい展開になるわけねえだろ」
「だよねー」
「まあ、あきらめるんだな」


「ほんとにすいませんでした」
「ふう、ミラクル起きねえかな・・・」

 

・・・・・・。

 

・・・。

 


・・・が!

 



 

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「はじめまして、みなさん。 時田ユキです」

 

「・・・・・・」
「・・・・・・」


おれは宇佐美と顔を見合わせるだけだった。

 

「グレイトだぜぇ♪」


栄一の天下が到来した。


「趣味は、人と話をすることです」


眼光をらんらんと輝かせる栄一。


「どうぞ、よろしくお願いします」


頭を軽く下げたとき、ふわりと、ストレートの髪が揺れた。


「シビレるぜぇ」


栄一の口元が邪悪に歪んだ。

教師が時田の席を探していると当然のように起立して言った。


「ボクの隣がいいと思うな!」


これまた都合のいいことに、栄一の隣は空いていた。

時田はその席へ。



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「こんにちは、ボク、相沢栄一。 栄一でいいよ」
「はじめまして、栄一くん」
「なにかわからないことあったら、なんでもボクに言ってね」
「ありがと、私のこともユキでいいわ」


子供みたいに無邪気な顔に、時田は穏やかな微笑で返す。


「(おいおい、いいじゃねえの、いいじゃねえの? 宇佐美の友達にしては礼儀正しいし、知的なスメルがするぜえ)」


心のなかでヨダレを垂らす栄一。


「・・・どうかしたの? じっと見て」
「んーん、背が高いなーって」
「そう?」
「髪もすごいキレイだなーって」
「ありがと」
「モデルとかやってるんでしょ?」
「やってないけど、うれしいわね」
「(へっへっへ、女は褒め殺してなんぼだぜぇ)
ユキさんって、なんかすごい、いい匂いするね」
「ふふ・・・そう?」
「(へへ、効いてる、効いてるぅ)」


・・・効いてる、のか?


「ねえねえ、動物とか好き?」
「猫は好きね」
「ボクも猫が一番好き。 気が合うね」


栄一が一番好きなのは、爬虫類だったような気がするが・・・。


「あ、ごめんなさい。 犬のほうが好きかしらね」
「あ、じゃあ、ボクも犬が一番好き」


じゃあ、ってなんだよ・・・。


「まあ、でも、一番好きなのは・・・」
「うん?」


じと目を送る栄一。


「ん、ううん、なんでもないっ」


突如、きゃわいい感じで首を振る。


かなりキモイ。


時田は笑顔を崩すことなく言った。


「そうね・・・頼りにしてもいいかしら、栄一くん?」
「うんっ!」


こうして、新年早々栄一の春がやってきた・・・のだろうか?

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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「それでね、そのパティシエがね、すっごい気さくな人でね・・・」


昼になっても栄一の攻勢は続いていた。

時田はそれをうざがらず、ときおり相づちをうって、栄一の話に耳を傾けていた。


「へえ、茶道が趣味なんだー」
「ううん、サドよ。サド」
「いいよね、ボクもお茶大好き」


・・・栄一は幸せなヤツだなあ。


「時田、この前は世話になったな」


いきなり会話に割って入った。


「いいのよ。 楽しかったわ」
「え、なになに、どうしたの?」
「この前少し、京介くんと遊んだのよ、ね?」
「(なんだと、京介ぇ!?)」


「あ、いや、遊んだっつーか・・・宇佐美もいたけどな」
「そういえば、ハルは?」


「お友達なんだよね?」
「ええ、前の学園でいっしょだったの」
「なんでこんな時期に転入してきたの?」
「お父さんのお仕事の関係でね」


転勤か・・・。


「お前って、歳いくつなんだ?」


「京介くん、そんなこと聞いちゃだめでしょ?」


「京介くんは?」
「おれはいちおう、飲酒も喫煙も許される年齢だが?」
「あらそう。 けっこう、留年したのね?」
「まあな。 でも、この学園にはそういうヤツもちょこちょこいるぞ?」
「芸能スクールみたいだものね。 さっきアイドルグループの子を見かけたわ」
「ああ、あいつはそのうち休学するだろ。 そしてダブって卒業。
歳をごまかして芸能界にもまれる、と」
「夢があっていいじゃない」
「そうだな。 とくに裏で活動とかしてないのは、おれの周りじゃ、椿姫と宇佐美と・・・おれ・・・」
「ふふ・・・」


おれに裏があることは、時田も知っている。


「そんなもんかな。 とくに、うちのクラスは、たいがいどっかのタレント事務所に所属してたりするから」


「栄一くんは?」
「ボクは、フリーだよ」


「ただのボンボンだろ?」
「やだなあ、ボクはみなしごだよ」
「まあ、ここに通ってるのはたいがいボンボンか、一芸持ってるやつだな」


・・・って、あれ?

椿姫は、たしか特待だかなんだかで学費免除で通ってるが、宇佐美は?

あのクソ貧乏な宇佐美も、実は、どっかの社長令嬢だったりするのか?

その宇佐美は、昼休みになると速攻で逃げ出した。


「ボンボンといえば、京介くんと白鳥さんが二大巨塔だね」
「白鳥はこの学園の支配者だからな」


つい先日、警察の捜査が入ったが、けっきょく無罪放免となったようだしな。


「そいつは、学園の理事の娘なんだよ。 だが、ひどい突っ張った性格でな」
「へえ・・・今日は来てるの?」

 

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「来てるよ。 いつも一人でいるみたい。 でも、あの子はさー・・・」
「かわいそうね」
「そ、そうだね。 かわいそうだよ、うん」


栄一は、手なづけられつつあった。


「それにしても、ハルは?」
「知らないが、宇佐美は、なんでお前から逃げるんだ?」
「わからないわ。 嫌われる理由は見当たらないのに」
「お前に胸を揉まれるのが嫌だとか・・・」


その瞬間、時田の目に鋭い光が宿った。


「そんなはずないわ。 ちゃんと感じてたもの・・・!!!」


「・・・・・・」
「・・・・・・」


「あれ? わたしなにか変?」
「ん、んーん、ぜんぜん」


・・・また変なのがおれの周りにやってきたな。


・・・・・・。

 

・・・。

 


さすがの宇佐美も、授業中は逃げられない。

 

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「ねえ、ハル・・・」
「な、なにかな?」


ビクっと肩が震える。


「そんなに、あのときのこと怒ってるの?」
「あのときというと・・・?」
「ほら、わたしが、こうやって腕を回して・・・」
「や、やめろぉっ!」

 

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「おーおー、相変わらずロングすぎる髪ねえ」
「さ、触るなー!」
「なに、嫌なの?」

「嫌に決まってるだろー!」
「なら、おっぱいならいいの?」
「それが一番ダメだ!」
「ひどいじゃないの。 なにがあったの? 前は私のこと大好きだったじゃない?」
「・・・うぅ、だってぇ・・・」
「あなたはわたしよりいい胸を持っているのに、なにが不満なの?」
「・・・不満はない、けど」
「あなたが言ったんじゃない? 『わたしは勇者だ。 お前を仲間にしてやろう』って」
「あ、うん・・・で、でもこんなセクハラしてくるなんて・・・」
「私のこと嫌い?」
「き、嫌いじゃないよ・・・」
「そうよね。 お誕生日プレゼントくれたもんね」
「うん・・・いっしょに、水族館も行った・・・」
「そうでしょう」
「ご飯も、たくさんおごってくれた・・・」
「そうでしょうそうでしょう。 じゃあ、言ってみて」
「わ、わたしは、ユキが大好き。 うん、間違いない」


・・・なんだ、洗脳されてんのか?


「うれしいわね。 なら、仲良くしましょう?」
「くぅぅ・・・」


なにやら、じゃれあっていた。


・・・。


やがて、授業が終わって宇佐美が席を立った。

 

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「ユキ、なにしに来たんだ?」
「え?」
「なぜ、引っ越してきたんだ?」
「ハルに会うためよ」
「それなら連絡くらいしてよ。 こっちからかけてもつながらないし」
「ごめんね。 引越しの準備で忙しかったの」
「まったくもう・・・」


すねるように頬をふくらませる宇佐美が、初めて普通の女の子に見えた。

 

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「改めてよろしくね」
「うん・・・ただ、わたしは・・・」
「知ってるわ。 "魔王"、まだ追ってるんでしょう? この前の事件もその一環?」


二人は、なにやらわけ知り顔で話を進めていた。


「それじゃあ、わたしは帰る」
「ええ、バイトがんばってね」
「・・・・・・」


友達にだけ見せるような安心した笑みを浮かべて、宇佐美は去っていった。


「ねえねえ、ユキさん」


栄一がすかさずゴマをすりに来た。


「あの子が白鳥さんだよ」


いまにも教室から出ようとする白鳥が、栄一の声に反応してこちらを振り返った。

 

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「・・・・・・」

時田は白鳥を見て、軽く会釈した。


「・・・・・・」


白鳥は冷たく見返していた。


「ねえ、白鳥さん、ちょっとおいでよ」


白鳥はおれを一瞥し、険しい顔でこちらに足を向けた。

 

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「なに?」
「こんにちは、あなたが白鳥さん?」
「だったら、なに?」


「(相変わらずトゲトゲしいな)」
「(まったくだ)」


なんのホラーかわからないが、おれと栄一はたまに心で会話することができる。


「ごめんなさい。 忙しかった?」


白鳥は黙って首を振った。


「浅井くんには近づかないほうがいいと思う」


「(おいおい、お前なんかしたのかよ?)」
「(ぜんぜんノータッチな。 頭がおかしいんだよ、こいつは)」


「それは、どうして?」
「裏表がある人だから」
「そう。 怖いわね」
「相沢くんもそう」

 

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「え? ボク?」
「かわい子ぶってるけど、本当は違うの」
「ちょ、ちょっとちょっと、なにさ、やめてよ!」
「本当のことでしょう? この前だって、職員室に忍び込んでテストの答案書き直したじゃない?」
「そ、そんなことはなかった!」
「施設で育ったとか女の子に言ってるけど、お父さんはホテルのオーナーでしょう?」


白鳥も知っていたか。


「くぅぅ・・・!」


時田は、驚いたような顔をしていた。


「あら、そうなの? 栄一くん?」
「ち、違うよ、違うよ! ボクを信じて!」


「とにかく、そういうことだから」
「なるほど、あなたは裏表がある人が大嫌いなのね」
「好きな人なんている?」
「でも、あなただって、いつもそうやってしかめ面してるわけじゃないんでしょう?」
「・・・・・・」
「ふふ・・・ごめんなさい。 用があるから、今日は帰るわ。 またお話しましょう」


「あ、ユキさん・・・これからスウィーツでも食べに・・・!」


追いすがる栄一。


「じゃあね、栄一くん」


時田は、さっそうと去っていった。

その後姿を、うらめしそうに見つめる白鳥。


「・・・いつも、よ」


ぼそりと言って、時田のあとを追うように、教室を出て行った。

取り残された栄一は、わなわなと震えだした。


「あ、あと一歩・・・あと一歩のところで・・・!」


・・・あと一歩だったらしい。


「・・・ちくしょう・・・ちくしょおおおお!」


直後、おれは栄一に腕を引かれた。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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「で、またこの展開なわけだな?」
「マジ、許せねえっすよ、神、マジで!」
「わかったわかった。 白鳥水羽だな?」
「死を与えましょう。 なんかもうすごい死を。
エロ本買った帰りに事故死みたいな」
「うーむ・・・たしかになー、白鳥は神にたてつく愚か者ではあるが・・・」
「ですよねー」
「ぶっちゃけ、どうでもいいっちゃ、どうでもいい」
「どうでもよかねーんすよ!」
「ちょ、ちょっと近い、顔ちかいっての」
「なんか策をくださいよ!」
「えー」
「えー、じゃない!」
「あー」
「あー、じゃない! なにかわい子ぶってんだ!」
「つーか、どんだけ完璧な策を立てても、どうせお前がやらかしてくれるじゃん」
「今度はだいじょぶだって! これほど激しい怒りを見せたオレを見たことがあるか!?」
「けっこうあるね」
「ぜったい、だいじょぶだと何回言わせるんだ!」
「いやそれ、ぜったいフリだから。 やらかしますよーっていう、前フリだから」
「もういい、神は死んだ!」

 

・・・・・・。

 

 

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「さあて、CD買いに行こうかな」
「くそ、なにほくほく顔ぶっこいてんだ!?」
「だって、今日がなんの日かわかるか? 待ちに待ったワーグナーだぞ?
お前も花音の演技を見て、ワーグナーの良さはわかっただろ?」
「うるせえキモオタだなあ」
「じゃあな。 復讐はいかんよ、復讐は」
「くそう・・・」


栄一をおいて、おれはプライベートタイムを楽しむことにした。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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「よう、宇佐美じゃないか。 バイト終わりか?」
「浅井さんこそ、なにやらうれしそうですね?」
「いやいや、わかるだろ? 今日はワーグナーが手に入ったんだ」
「は、はあ・・・」
「しかし、おれとしたことがよー、一枚しか予約してなかったんだなー。
だから、ほかの店探し回ってようやく二枚目ゲットよ」
「浅井さんはクラシックのことになると、まるで人が変わりますよね」
「まあ、これから帰って仕事を片付けて、一日寝かして、ようやく聞けるわけだが」
「そんなに好きなんすか?」
「クラシックと出会わなかったら、犯罪者になってたよ」
「むしろデス信者っぽいこと言ってますが?」
「最近は忙しくて、ぜんぜん生で聞きに行けないからなー」
「やっぱ、生派すか?」
「とくにヴァイオリンなんかはな、如実に出るじゃん。 違いが」
「・・・です、ね」
「なんだよ、お前も聞くのか?」
「いえいえ」
「まあいい、じゃあ、明日な」
「あ、浅井さん、明日もそのCDは学園に持ってくるんすか?」
「当然だろ、一日寝かしてなんぼなんだよ」
「・・・・・・」
「じゃあなー、時田と仲良くしろよー」


手を振って、別れた。

 

「・・・・・・これは、壮絶な前フリでは・・・?」

 

・・・・・・。

 

・・・。

 


次の日、学園にて。

悲劇は唐突に起こった。


「ぐぅあああああああああああああっ!」


廊下で叫ぶおれ。

注目するクラスメイトたち。

 

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「ごめんなさい」


おざなりに言う白鳥。


「き、き、貴様ああああっ!」


吠えるおれ。


「どうしたの。 ちょっと肩がぶつかったぐらいで」


けげんそうに眉をひそめる白鳥。

そして、廊下の床に落ちたワーグナーの新譜。

妙な落ち方をしたらしい。

ケースの角が、欠けていた。

床に崩れ落ちるおれ。


「そんなに大事なものなら、なぜ鞄に入れて持ち歩かないの?」


カチンと来たおれ。

いままで大目に見てやったのが間違いだったと知るおれ。


「おかしな人」


おかしな人よばわりされたおれ。

おれは、ついに神となる。

神が叫ぶ。

ヘリの上から。

機銃を持って。

ワーグナーだ、ワーグナーをかけろ・・・!

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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「我々は生きている! 復讐するは我にあり
おれが天下に背こうとも、天下がおれに背くことはゆるさん!」
「サー、イエッサー!」
「おい、新兵! いまのおれの気持ちを言ってみろ!」
「サー、まったくわかりません!」
「たとえばよー、オメーのかわいがってるペットを傷物にされたら、オメーどうよ!?」
「でもぶっちゃけ、肩ぶつかっただけらしいじゃないすか」
「F○CKYOU!」
「な、なんすか・・・?」
「ヤツはそのあとなんて言ったと思う?」
「え?」
「おかしな人、だぞ!? おい、悲しみに暮れるおれに向かってそれはねえだろうが!」
「い、いや・・・ごめんなさいって、謝ったとか・・・」
「オメーはバカか! 謝られておれのワーグナーが返ってくるのか!?」
「ま、また買えばいいじゃないすか」
「黙れ! とっとと白鳥をぶち殺してサーフィン行くぞ!」
「あ、じゃあ、とりあえずこの曲は止めますね」


大音量で流れていたワーグナーが鳴り止んだ。


・・・・・・。

 

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「・・・・・・」
「なんだ、栄一?」
「いや、神が立ち上がってくれてうれしいっす」
「おうよ。 次こそは、華麗なる犯罪を見せつけてやる」
「具体的にどうするんですか?」
「くくく、慌てるな」
「さすが、神すね。 おうかがいしましょう」
「おれは、自分が最も楽しみにしているものを奪われた」
「はい」
「ヤツの最も楽しみにしているものとはなんだ?」
「・・・はて?」
「うん?」
「いや、わかりません」
「そうなんだよ。 おれもわかんねえんだよ、これが」
「ちょっとちょっと!」
「花音と違って、あいつは妹でも友達でもないからな」
「じゃあ、どうすんすか!?」
「彼を知り、己を知れば百戦あやうからずという」
「それ、知ってるよ。 百回も戦えばいろいろわかるから、とりあえずいっとけーって話だろ?」
「お前はもう少し己を知った方がいい」
「あ?」
「ひとまず、白鳥に探りを入れようと思う」
「探り?」
「ヤツは、なにが好きで、なにに興味を持っていて、どんなことを大切にしているか・・・それが知りたい」
「でもどうやって?」
「簡単だ」


ふっと、笑う。


「友達になるんだ」
「ええーっ!?」
「お前の言いたいことはわかる。 おれだってにっくき敵と寝食をともにするなんてまっぴらだ」
「寝食をともにする?」
「そうだ。 あいつをおれの女にしてやる」
「げえっ! なんて大胆な!」
「そして、結婚指輪を渡して式場まで押さえた瞬間に音信不通になってやるのだ」
「さすがにそれは嘘だろ!」
「くっくっく」
「卑劣にもほどがあるよ」
「卑劣だと?」
「いや鬼じゃん」
「お前らはいつもそうだ。 そうやってすぐ悪に優劣をつけたがる。
逆に聞きたいが、卑劣でない悪などあるのかね?」
「ほ、本気なのか?」
「くっくっく」
「いや、笑うところじゃねえから」


・・・まあ、ぶっちゃけ飽きたらやめるだろうな。


「ひとまずお前は、女子連中に聞いて、白鳥についての情報を集めるんだ」
「ええ・・・」
「どんな噂が立っているのか。 男はいるのか。 友達はいるのか。
習い事をしているのか。 テレビは見るのか、見るとしてどんな番組を・・・」
「わ、わかったよ・・・わかったって・・・」


なにやら、怖気づいている様子の栄一。


「おいおい、忘れたのか? お前は、白鳥のせいで時田との関係を壊されたんだぞ?」
「あ、そうだった。 マジ殺す」


すばらしく単純。

 

「よーし、オレ、やるよ。 やってやんよ」
「頼んだぞ。 じゃあ、解散だ」


栄一はおれに敬礼し、去っていった。

さて、おれも・・・。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 


教室では、時田の周りに人が集まっていた。

 

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「へえ、お父さんが警察官なんだ」
「栄転して、この街に赴任したの。 それで私もくっついてきたってわけ」
「じゃあ、お父さんと一緒に事件を解決してたりしたの?」
「ふふ、まさか。 一度、感謝状をもらったくらいよ」


かっこいい、だの取り巻きの黄色い声があがった。


「父は、いまはけっこうな偉い地位についたのだけれど、昔はいわゆる交渉人っていう、犯人と会話で駆け引きするような仕事をしていたわ」


白鳥を探していたのに、思わず立ち聞きしてしまう。


「そんな父を毎日顔を合わせていたものだから、私もおしゃべりが好きになってしまってね」


時田の話は、内容も刺激的だが、話し方もうまい。

一人一人に視線を合わせてしゃべり、微笑を浮かべながら、たまに冗談を言う。

時田は容姿も抜群だし、友達に不自由することはないだろうな。


「でも、私は、養女なの」


人だかりの気配が変わる。


それを察してから、時田は話を続ける。


「子供のころ、いろいろあってね。 施設にも入ったわ。
でも、私はそのことで惨めな思いをしたり、引け目を感じることはないわ。
それくらい、いまの父が素晴らしい人だから」


おれは時田を尊敬し、同時に嫉妬した。

そんな話を、よく人前で明るくできるものだ。


「あら、やだ。 引いちゃった?
ごめんね。 私は、みんなと仲良くなりたいから。
仲良くなる前に、必ずこういう話はしておくって決めてるの」


たしかに、一歩間違えばただの痛いヤツ。

しかし、時田の容姿と、穏やかな笑みと、切実そうな視線が、クラスの連中の心をつかんだようだ。

それが証拠に、あの白鳥すら遠巻きに、時田を囲む輪に加わっていた。


「白鳥、ちょっといいか?」


時田の話に聞き入っていたのか、ほうけているような顔をしていた。

 

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「なに?」
「いや、昼間は、取り乱してすまなかったな、と」
「・・・・・・」


頭を下げたおれに、値踏みするような目を向けてくる。


「なあ、悪かったって」
「あなたは、私が白鳥建設の令嬢だから声をかけてくるんでしょう?」


いいや、もはやワーグナーの恨みを晴らすためだ。


「単純に、お前と仲良くしたいと思ってるだけだ」
「なぜ?」
「なぜもあるかよ。 同じクラスだからだ」
「・・・理由になってないわ」

 

「どうしたの?」


不意に、時田がおれたちに声をかけてきた。

いつの間にか、時田の取り巻きはいなくなっていた。

 

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「白鳥さん、あなたも私の話を聞いてくれたの?」
「悪い?」


時田は白鳥の目を真っ直ぐに見た。


「私に興味を持ってくれてうれしいわ」


白鳥はよそよそしく、視線を逸らす。


「ねえ、良かったら、これから遊びに行かない?」
「え?」
「驚いた?」
「・・・なぜ、私と?」
「可愛い子大好きだから」


間髪いれず、時田は言い返した。

完全に意表を突かれたのか、白鳥は頬を赤く染めてうつむいていた。


「こっちに越して来たばかりだから、お店とか教えて欲しいのよ」
「事情通の浅井くんと行けば?」
「その前にあなたにお願いしたいの」
「なにそれ・・・」


おれは思案した。

これはこれでいいかもしれんな。

時田は白鳥を知るための、いい緩衝材になりそうだ。


「お願い」
「しつこいな・・・」


戸惑うように視線を床に落とした。


「ほかの人に頼んで」
「私は、白鳥さんがいいのよ」


妙に気持ちが入った言い方だった。


「わかったわ・・・」
「ありがとう。 優しいのね」
「こうやってぐだぐだ話してる時間がもったいないだけ」
「なんでもいいわ。 行きましょう」


「あ、おい、おれもいっしょに行っていいか?」
「嫌よ」
「だと思ったよ」


「ごめんね、京介くん」
「・・・ああ、またな」

 

・・・と、言いつつ、おれはあきらめていなかった。

今日は、浅井興行に顔を出す必要もないしな。

 

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「おい、京介、いま白鳥について聞きまわってるんだけどな」
「話はあとだ。 行くぞ」
「え?」
「ヤツらを、つけるんだ」

 

・・・・・・。

 

・・・。

 


白鳥と時田はセントラル街の喫茶店に入った。

おれは電柱の影に隠れ、店内の出入り口を注視していた。

 

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「警部、あんぱんと牛乳買って来ました!」
「おう、ご苦労さん」
「しかし、こんなところで立ち食いしてたらよけい目立ちませんかね?」
「黙ってろ、新米」


おれはスポーツ新聞を読むふりをしながら、店の窓ガラスの向こうを探る。

窓際の席に座る二人。

時田のややおおげさなジェスチャーが目についた。


「しかし、あれですよ」
「なんだ?」
「収穫ゼロでしたわ」
「なにぃっ!? てめえ、ちゃんとたたいたんだろうな!?」
「だって、白鳥って、一人も友達いないみたいっすよ?」
「んなことはわかってんだ。
それでも学園生活を営む以上、まるで会話しないってこともないだろ?」
「うーん、スポーツは得意みたいすよ。
成績もほら、椿姫と同じくらい良いみたいっす」
「いわゆるデキスギくんか」
「学園のクラブに入ってる様子はないっすね。 速攻で帰るし」
「そうだ思い出したぞ。 ヤツは毎朝、花に水をやっていたな」
「まさか、その花を・・・!?」
「そのまさかだ。 毎朝ヤツより先に来て、花に水をやってやるのさ」
「それ、手伝ってあげてませんか?」
「クク・・・人間というものは、たとえ親切で手を貸してもらっても、てめえの仕事を奪われると居心地が悪くなるものだ」
「は、はあ・・・」
「でも、やっぱやめた。
毎朝早起きするとかめんどいし、なにより美しくない」
「あ、ほら、なんか噂になった事件があったじゃないすか」
「ああ、理事長の贈収賄疑惑な」
「そこをガツンをついてやりましょうよ。
なんか社会派の匂いがします。 これでオレたちの悪にも正当性が認められます」
「バカやろう、悪に正当性なんて求めんな。
悪は常にシンプルイズベストだ。 サーフィンしたいからベトコンの基地を焼く。 これで十分だ」
「それにしても、白鳥がどんなヤツなのかまったくわからないんじゃ手の打ちようが・・・」
「おい、待て。 ヤツら出てくるぞ」


おれたちは、さっと身をかがめた。


「これから、どこ行くんすかね?」


たしかに、そろそろ日も暮れようって時間だが・・・。


「よし、追うぞ」


心なしか、白鳥の足取りが軽くなっているように見えるな。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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「うーむ、白鳥の家の近くまでやってきたぞ」
「いいかげん、真っ暗で寒くないすか?」
「だな。 もう、たるいし帰るか」
「明日からじっくり、追い込みをかけてやろうぜ」
「おう・・・・・・」


そのとき、白鳥家の門の前で、尾行対象が立ち止まった。

なにやら声を荒げて・・・。

いや、すすり無き・・・?

 

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「・・・水羽、会いたかったわ・・・」
「嘘、だよね・・・」
「嘘じゃないわ・・・だって、それは、そのマフラーは・・・」


涙に声を濡らしていたのは、あの冷静な時田だった。

おれと栄一は声を潜めて様子をうかがう。


「ど、どど、どういうことだ?」
「わからんが、あいつら、顔見知りだったのか?」


白鳥の声まで震えだした。


「そんな・・・な、なんで・・・どうして・・・」
「ひと目見たときから、そうなんじゃないかなって思ったの」
「こんな、偶然・・・」
「偶然じゃないわ。 私はずっとあなたに会いたかったの。
だから父に頼んで、この学園にしてもらったの」
「あ・・・あ・・・」


・・・なんだ、なんだ!?


「おい、京介。 なんか部外者は空気読んだほうがいい展開になってね?」
「待て、慌てるな。 ここでひくわけにはいかん」


時田が腕を伸ばす。

白鳥の首元、そのマフラーに向かって。


「私があげたマフラー、まだ大事に持っていてくれたのね」
「・・・あ、や、やっぱり・・・」
「いっしょに雪だるま作ったわね?」
「私も、もしかしたら、もしかしたらって・・・思ってたの・・・」
「ええ、そうよ、水羽」


その瞬間、おれと栄一はほぼ同時に喉を鳴らした。

 

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「姉さん・・・!」

 

「なっ!」
「なっ!」

 

なんだってえええええっ!?

 

事情はさっぱりわからんが、時田と白鳥は姉妹!?

何年も会っていないような口ぶりだった。

いわゆる感動の再開に、おれはいてもたってもいられなくなった。


「ひ、ひけ、ひけえっ!」


おれたちは、脱兎のごとく逃げ出した。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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「くそっ、なんてことだ!」
「つーか、なんで全力疾走で逃げたんすか?」
「あんな暖かいシーン見せられたら、溶けるだろうが」
「日陰もんですもんね」
「それより、困ったことになったぞ」
「え? なにがです?」
「時田がおれたちの敵になった」
「敵に?」
「ああ、あの様子じゃ、白鳥になにかしたら時田がすっ飛んでくる」
「なんか、まずいんすか?」
「まずい。 ヤツは頭がキレる。 その上、べしゃりも立つ」
「べしゃり、すか」
「くそ、宇佐美だけでも手がかかりそうだというのに」
「え? また宇佐美の野郎が邪魔してくるってんすか?」
「よく考えろ。 おれたちには前科(マエ)がある」
「しかも、動機が前とまったく同じですもんね」
「まずいな。 宇佐美に時田がついたら、手がつけられん」
「神にもボクという軍師がついてるじゃないすか?」
「なるほど実に頼もしい・・・って、死ねえええ!」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「京介・・・どうやら、本当にまずいみたいだな」
「わかってくれたか」
「オレはお前のツッコミだけはそこそこ評価していた。
しかし、そんなぬるいノリツッコミをする京介なんて見たくもない」
「・・・とにかく、ハードルが上がったんだ。 どうするかな・・・せめて、宇佐美だけでも・・・」

 

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「え、呼びました?」


「げえっ! お、お前、いつからそこに!?」
「いや、お二人こそ、自分のバイト先の前で、なんですか?」


・・・気づけば、宇佐美の勤めるドラッグストアの看板があった。


「おい、宇佐美。 ここで会ったが幸いだ」


おれは一計を案じた。


「お前が義理堅いヤツだな?」
「なんすかいきなり?」
「おれはお前につきあって、クソ忙しいなか、初詣に行ってやったな?」


「え? そうなの?」
「ああ、そうだ。 こいつが誘ってきたんだ」


「その節はどうもありがとうございました」
「そこで、だ!」
「はい?」
「おれに力を貸せ、宇佐美」
「なんでしょう? 邪悪なお誘いはお断りしますよ?」
「世界の半分はくれてやる!」
「めちゃめちゃ邪悪な誘いじゃないですか」
「ひとまず話を聞けよ」
「おおかた、CDを傷モノにされた腹いせに、水羽に復讐しようってんでしょう?」
「・・・さすがに気づいたか」
「それで、いまは、復讐のネタを集めているってところですか?」
「そこまで見抜かれていては仕方ないな」
「いやもう、あきらめてください。
水羽になにかあったら、真っ先に浅井さんを追求しますよ?」
「しかし、証拠がなければどうにもなるまい」

 

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「それは、宣戦布告ですか?」
「クク・・・お前の首は柱に吊るされるのがお似合いだ」
「なるほど、では、また明日・・・」


宇佐美はちょこんと頭を下げて、歩き去った。


「おいおい京介、なにしてんだ?」
「うーん、まずったな。 交易しようとしたら、つい、宣戦しちまった」
洋ゲーのよくある話はいいんだよ。 どうすんだ?」
「どうするもこうするも、もう少し様子を見るさ」
「頼むぜ?」
「ああ、ひとまず解散しよう」
「お前、いきなり飽きてやーめーた、とか言うなよ?」


栄一は疑うような目でおれをたっぷり眺めてから、去っていった。

ぶっちゃけ、もう飽きつつあるのだが、時田と白鳥の関係は気になるな。

明日から、どうなることやら・・・。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 


翌日の学園にて。

朝から雰囲気の違う二人がいた。

 

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「京介くん、紹介するわ。 私の妹の水羽」
「ちょっと、姉さん」
「いいのよ、こういうことは黙っていても広まるものよ」


白鳥が、時田に手をひかれ、おれの席に現れた。


「姉妹?」


おれはいま知ったように驚いた顔を作った。


「意外?」
「そう言われると、少し、目鼻立ちが似ているような気もするが?」
「母親が違うのよ。 ねえ、水羽?」


白鳥は、居心地悪そうに、こくりとうなずいた。


「私はね、白鳥家に居座っていた愛人の娘なの。
捨てられて母子ともども、家を出て行く羽目になったんだけどね」
「おいおい、昼ドラにはまだ早い時間だぞ?」
「昼ドラなら、もっともったいつけた演出が入るはずよ」


さらりと言う時田には、何も気にしてないという、悟ったような明るさがあった。

 

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「両親は終始ごたごたしてたけど、私と水羽は毎日遊んでたわ」
「だから、そんなこと浅井くんに話さなくても・・・」
「そんなに彼のこと嫌い?」
「・・・ええ」
「じゃあ、好きにならなきゃ」
「・・・え?」
「彼も、きっといろいろ事情がある人よ」


ねえ、と目を流す。


「おれは時田みたいに、自分のことをぽんぽん語るつもりはないがな」
「京介くん、水羽をよろしくね」


「は?」
「昨日、ひと晩一緒だったんだけどね、なにかとあなたのことが気に入らないみたい」
「姉さん、やめてよ」


「おれはかまわんよ。
おれだって、いつまでも嫌われてるってのは、気分のいいものじゃない」
「・・・・・・」


「水羽、ほら。 いいかげん、仲直りしなさい」
「・・・・・・」


白鳥は、なにが不満なのか、けっして首を縦には振らなかった。


「困ったものね」


肩をすくめた。


「でも、良かったじゃないか」


白鳥に言った。


「やっと、お前の味方ができたな?」
「・・・ふん」


白鳥は鼻を鳴らして、自分の席についた。

 

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「ごめんね。 根はいい子なんだけどね」
「根より実のほうが問題だ」
「私の前では、おいしそうな果実が成るんだけどね」
「ぜひ食いたいもんだ」
「いまの言葉本気?」
「さあな」


時田は薄く笑う。


「あの子、男を・・・いえ、人を知らないから。 かわいがってあげてね」


ああ、ワーグナーの復讐のためにな。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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昼休み。

いつもの面子に、今日は時田と白鳥まで加わっていた。


「これで花音がいれば、勇者パーティが一堂に会してましたね」
「なに、勇者パーティって・・・?」
「はい、ならえ!」


宇佐美がおれたちを整列させた。


「番号!」
「は?」
「花音のぶんは浅井さんにお願いします」
「え?」
「はい、番号!」


「あ、いち!」
「に、二!」
「三!」
「四」
「・・・・・・」


「こぉら、そこぉっ!」


宇佐美が怒鳴りつけた。

 

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「ぼ、ボク!?」


栄一に。


「ひ、ひどいよ宇佐美さん」
「すいません。 スライムも仲間になるんでした」



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「ねえ、私って、役職は賢者でいいのよね?」
「うん、文句なし」
「水羽は?」
「む・・・」


一同の視線が白鳥に集まる。


「なにか、希望は?」
「・・・くだらない・・・」
「先日、海外の花音から電話が来た。
花音は、みんなのあだ名をつけた。 それを紹介する。
『宇佐美オンデマンド』
『椿姫騎馬隊』
浅井長政
『白鳥ウヨクサヨク』、以上!」


「え、ボクは・・・!?」

 

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「もう一度聞く。 なにか希望は?」
「・・・ないってば」
「じゃあ、右翼で」


「勇者、戦士、僧侶、賢者、スライム、右翼ね」
「スキがないね」


・・・栄一はスライムを受け入れたらしい。


「いつも、こんなくだらないことしてるの?」
「いや、今日は新入生歓迎会みたいな感じ」
「それって、私のこと?」
「他に誰が?」


「白鳥さんとお話できて、うれしいよ」
「・・・・・」


椿姫の真っ直ぐな目に射すくめられたのか、白鳥は気まずそうに顔を逸らした。

椿姫には裏表なんてない。

相手にしにくいことだろう。


「うーん、仲間も充実してきたな。 晩餐会でも開くかな」
「そこで、この中に裏切り者がいるって話だろ?」
「ええ、浅井さんは要チェックです」


昨日、宣戦布告してしまったからな。


「・・・・・・」
「水羽ちゃん、水羽ちゃんでいい?」
「・・・いいけど」


「水羽ちゃん」


おれが言うと、キッとした視線が返ってくる。


「あなたはダメ」


「水羽、よろしくな。 なにかあったらすぐわたしに言うんだぞ?」


宇佐美はなぜか、でかい態度。


「ハルは、私より頼りになるわよ」
「・・・姉さんがそう言うなら・・・」


そして、置いていかれるおれと栄一。


「(おいおい、なんかフレンドリーぶっこいてんなあ)」
「(ふん、いまのうちに楽しんでいるがいいさ)」
「(頼んだぞ、京介)」


お互いに黒い笑いを漏らし、昼休みをやり過ごした。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 


次の休み時間、時田がクラスメイトと談笑している姿が目についた。

もう、学園になじんだらしい。

その時田が、ふとおれに声をかけてきた。

 

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「京介くん、なにか悩み事?」
「・・・いや、白鳥ってさ、趣味とかねえのか?」
「あれ? どうして急に水羽のことを?」
「いや、ふと、気になってさ。
あいつって、いつも一人でいたし、どんな生活してるのかなって」
「・・・・・・」
「なんだ?」
「ううん。 水羽の趣味は、そうねえ・・・かわいらしいわよ?」
「もったいつけず、教えてくれよ」
「お菓子よ。 食べるのも作るのも好き。 よく、クッキー焼いてもらったわね」
「そりゃ、意外すぎるな」
「ま、あくまで昔の話だから」
「他には?」
「全体的にかわいらしい物が好きね。 雪だるまとか」


雪だるまといえば、今年は雪が少ないな。

もう積もり始めていてもおかしくないのに。


「なにたくらんでるの?」
「え?」


不意をついたように、時田は言った。


「なんの話だ?」
「・・・ふふ」


怪しげな笑み。

・・・そういえば、こいつは西条とかいう異常者を手球に取ったんだったな。

しかし、人の心なんて読めるものか。


「おいおい、おれを尋問にかけようってのか? 勘弁してくれよ」
「あなたはどうも、嘘をつくときに攻撃的になるみたいね」
「なに分析してるのか知らんが、おれはただ、白鳥に興味をもっただけだ」
「ただ、興味を持った・・・"ただ"、ね」
「よせよ、なに観察してんだ?」
「いいえ。 あなたがどういう人かなんとなくわかってきたわ」
「ふん、なめたこと言うなよ。 なにがわかったって?」
「からかうようなこと言ってごめんなさい」


と、前置きしてから、切り出してきた。


「じゃあ、ちょっとゲームをしない?」
「・・・ゲーム?」
「1、2、3、4」
「なんだその数字は?」
「いま言った数字のなかから、好きなのを選んでもらえる?」
「・・・・・・」
「私には、あなたがどれを選ぶか、予想がついているわ」
「なるほど、見事言い当てられたら、お前は、おれのことを少しは理解しているということか?」
「そんなに固くならなくてもいいのよ。 ただのゲームなんだから」
「そうだな・・・当てずっぽうだって、四分の一の確率でお前の勝ちだからな」


時田は一度おれに背を向けて、メモを取った。

どうやら、あらかじめ自分が言い当てる数字を書き残しておいているようだ。

時田はノートの切れ端らしきメモ紙を、スカートのポケットにしまうと再びおれに向き合った。


「準備万端よ」
「よし、じゃあいいか?」
「どうぞ?」
「3・・・」
「・・・・・・」
「と、言いたいところだが」


おれは腹の底で笑った。


「1、だ」


これは、知っている。

1から4までの数字を前にすると、控えめな日本人の大半は3を選ぶのだという。

次に多いのは2。

1は、一番というイメージが強く、偉そうな感じもあってなかなか選ばれない。

反対に、4は、卑屈すぎるし、日本には『死』というイメージもあって無意識に選択から外すという。

だから、時田は無難に3を選んできたに違いない。


「フフ・・・」
「どうした?」
「本当に、1、でいいの?」
「そうやって揺さぶりをかけようとしても無駄だ」
「確認しただけよ」
「このゲームはあらかじめ答えが決まっているうえで、その答えを強制的に選ばせるといったものだろう?」
「フォース、ね。
手品ではマジシャンズセレクトっていうんだっけ? このゲームにそこまでの強制力はないわよ?」
「そんな話はどうでもいい。 さっさと、お前の予想を、そのメモを見せろ」
「慌てないで」


時田は、ポケットの数字の書かれたメモを取り出し、おれの目の前に掲げた。


「・・・む」
「残念。 1、でした」


返す言葉がなかった。

紙切れには、たしかに、1と書かれている。


「予想通りでしょう?」
「・・・まったくだな」
「京介くん、あなたは複雑な人よ。
あなたの本質は1なんかより、4のほうが近いんじゃないの?」
「どうせ日陰もんだよ、おれは」
「でも、あなたは、きっと数字の意味を考えて裏を読んでくると思ったの。
そういう知性も備えているわ。
だとしたら、まずあなたの本来の性格とはかけはなれた1を選ぶだろうと思ったの」
「ひねくれ者で悪かったな」


言いながら、おれは時田に歩み寄った。

そして、いきなり、スカートをつかむ。


「どうしたの?」
「黙って、ポケットのなかを見せろ」
「フフフ」


時田は、観念したように笑った。


「よく見破ったわね?」


案の定、ポケットから、四つ折りになった三枚の紙切れが出てきた。

 

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「そうよ、京介くん。
あなたの言うとおり、これはどれを選んでも、私が勝つように強制されるゲームよ」


おれもうなずいた。


「たしかに、おれもペテンはなしだとは言わなかったからな」
「どうしてわかったの?」
「さあな、お前から声をかけてきただろ。
お前にはもともとペテンを準備する時間があった。 だから、疑ってみたんだ」
「ますます予想通りの人ね、あなたは」
「負け惜しみはよせ。
お前は、あらかじめ全部の数字が書かれた紙を用意しておいただけだろう?
おれの性格なんてなにも関係ない」
「いまのところ、ハルとあなただけよ。 ここまで見破ったのは」
「そうかい、そいつはありがとう。
いままでは、よほどたいしたことないヤツを相手にしてきたんだな」
「そうね」


時田は目を輝かせた。


「でも、これはどう?」


三枚の紙切れが開かれた。


「な、に・・・?」


てっきり、2、3、4とそれぞれ書かれているのだと思っていた。


「全部、いち・・・?」


三枚とも、1、と書かれていた。


「どういうことだ?」


時田は妖艶に笑うだけだった。


「だから、聞いたじゃない。 本当に、1、でいいのって」
「それが、なんだ?」
「強いて言えば、私には、あなたがどの数字を選ぼうと、改めて1を選ばせる自信があった、ということね」


・・・答えになっていない。

ただ、やられた、という感情だけが残る。

まさか、宇佐美も、こんな感じで餌付けされていったのだろうか。


「それじゃ、妹に優しくしてあげてね」


見透かしたような顔で、席を離れた。


・・・むう。


時田と直接対決するのは避けよう。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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最近は毎日のように部活である。


「か、神!」
「どうした、なにをうろたえている?」
「け、警察が来ました!」
「はあっ?」
「なんかいま、職員室のほうでごたごたしてます!」
「・・・マジで?」
「きっと、オレたちを捕まえに・・・」
「いや、慌てるな。 おれたちはまだなにもしてない」
「じゃあ、なんでマッポが突然乗り込んでくるんすか!?」
「・・・あれじゃねえの? 理事長の、白鳥の親父さんの件」
「あ、そっか。 なーんだ」
「で、誰かパクられたのか?」
「なんでもよー、教頭のハゲいるじゃないすか?」
「ああ、おれたちが体育倉庫の鍵を盗んだときに、お説教くれたヤツな?」
「そいつを探してたみたい」
「へえ、じゃあ、そいつが黒幕だったのかねえ」
「どうでもよさそうっすね?」
「いや、どうでもよくねえよ。
学園帰りにマスコミが来るだろ? カメラとか向けられたらどうするよ?」
「ホント、神は目立つの嫌いっすね」
「しっかし、けっこう、長引いた事件だけど、ようやく静かになるな」
「そっすね、去年の十月くらいからゴタゴタしてましたからね。
なんでこんなに時間がかかったんすかね?」
「どうでもよくね?」
「まあ、そっすけど、いちおう、白鳥に関わることじゃないすか?」
「ふむ・・・」


おれは、ちょっと新聞などで読んだ記事を思い起こしてみた。


「要するに、この学園の、どっかの施設を拡張するんだろ?
そのときに、理事長が特定の業者から金受け取ったって話だろ?」
「だったら、とっとと白鳥の親父をムショにぶち込めって話じゃないすか?」
「まあ、なんつーの、収賄ってよー、基本、公務員にしか適用されないんだわ。
今回の件なら、市の土木課かどっかの職員か?
白鳥の親父さんは、別に、公務員じゃねえだろ?」
「え? あ、うん。 建設会社の社長だろ?」
「だからよー、別に白鳥の親父さんがいくら業者から金もらったってパクられはしねえんだよ。
まあ、詐欺とかになる場合もあるかもしんねえけど」
「じゃあ、なんで事件になってんだよ?」
「それでも収賄でパクられそうになるってことはよ、市の職員と共犯だったってことになるんだわ。 口裏合わせて、悪いことしてたってことだ」
「うん」
「警察は、どうにも、その辺を立証するのに手間取ってたみたいだな」
「手間どんじゃねえっての。 こっちは税金払ってんだからよ」
「お前は払ってないでしょ」
「はい」
「ほら、詐欺を立証すんのはむずいっていうだろ?
同じようにさ、理事長もたしかに金はもらってたわけだな。
でも、市の職員なんて知らねえってばっくれられたら、その嘘を見破るのに手間がかかると思わねえか?」
「まあ、よくわからんが、理事長が捕まらないで、なんで教頭が捕まるんだ?」
「さあ・・・そいつもグルだったんじゃねえの?」
「あれじゃねえ? トカゲのシッポ切り」
「さすがに爬虫類に関するたとえは知ってるんだな」
「ワニの子育て」
「は? そういう意味もあるの?」
「ない」
「うーん・・・ここでお前に一度泳がされる意味がまったくわかりません」
「じゃあ、けっきょく、白鳥の親父はお咎めなしかね?」
「いや、きっと理事長は解雇だろ?
こんだけ世間を騒がせといて、まだ学園に居座ってたらすげえよ」
「白鳥ってよー、さすがに、ちょっとはイジメられてたみたいよ?」
「ふーん。 しょうがなくね?」
「それで、友達がいないんじゃね?」
「いや、あいつとは去年も同じクラスだったけど、もともとヤツは孤独キャラだよ」
「よく知ってるな?」
「おう・・・おれにしては、よく覚えてたな」
「お前、なんか嫌われてるけど、なにかしたんじゃね?」
「ははあ、忘れてるってことか?」
「レイプして、記憶が飛んで、おれ無罪」
「なにその一句?」
「お前ならそんぐらい、やりかねんってことだよ」
「なんにしても、おれのワーグナーを叩き割っていいということにはならん」
「叩き割られたわけではないと思うが?」
「なんだてめえ、まさか白鳥に同情してるのか?」
「え? いや、ちょっとだけな」
「おいおい、鬼畜モンの風上にもおけねえな?」
「だってよー、親父が悪人だったらさすがにトガるって」
「そうかねえ」
「いままで信頼してたパパがよー、裏で不正な金もらってたとか知ったらどうよ?」
「・・・さてね」
「オレらみたいに裏表のあるヤツが嫌いになるっつーのも、まあわからんでもなくね?」
「ふーん」


なんとなく興ざめして、おれは部活の終わりを宣言した。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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「勘違いすんなよ。 復讐は復讐だからな」
「なんか土壇場で改心して、お前だけいいとこ持っていきそうだな」
「だ、だいじょぶだって」
「ひとまず、解散しよう」
「え? まだ策が出来上がっていないんですか?」
「いまひとつな・・・」


お菓子が好き・・・だから、どうしたという感じだ。


「まあ、明日には動こうと思っている」
「頼みましたよ、神」
「じゃあな・・・」


手を振って別れた。


・・・まったく、白鳥に同情するとは栄一も存外ふがいない。

おれは白鳥の親父じゃない。

おれを嫌うのは筋違いというもの。


「とはいえ・・・」


やたら、おれにつっかかってくるのはなぜだ?

栄一の言うように、おれがあいつになにかして、忘れてるとか?

そんなはずは・・・。


・・・。


どっちにしろ、覚えてないものは覚えていない。

だいたい、なにかあれば言ってくればいいじゃないか。

さて、帰ってミキちゃんと電話したら、復讐の計画でも練ろうかね。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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その夜、おれは浅井興行からの電話を受けていた。


「そうですか。 ここのところ、ごたごたしてましたからね。
明日にでも、顔を出させていただきます。
は? ガキども? ええ、あのドラッグ回してた連中ですか?
父にしめられて、さすがにヤバい商売からは手をひいたと思っていましたが・・・。
へえ・・・でも、まだ、目立った動きもないんでしょう?」


わりとどうでもいい話をして、ようやく仕事の電話を打ち切った。

また、いつもの頭痛を覚えたので、少しベッドに横になる。

 

・・・それにしても。

白鳥を、どうしてくれようかな。

お菓子好きというが、ヤツが学園でそんなもん食ってたような記憶はない。

なんとなくテレビをつける。

ニュースが、いきなりうちの学園のことを報じていた。


なになに・・・。


捕まったのは、やっぱり教頭か。

教頭が、業者との取引の窓口役だったらしい。

驚いたのは、教頭は容疑を認めているが、理事長は無実を貫いているということだ。

たしかに、理事長と市職員との関係を裏づける有力な証拠はないようだ。

でも、金を受け取ったのは事実みたいだから、容疑者さながらの扱いを受けるのも無理はないな。

白鳥も、マスコミの目を避けるような毎日を送っているのだろうか。


おれも・・・そうだった・・・。


そこまで考えると、ふと、頭痛が襲ってきた。


「寝よう」


ひとりごちて、布団にくるまった。

一瞬にして眠りに落ちたと思う。

もう、目が覚めなくなるのではないかと危惧するくらい意識が飛んだ。

闇に落ちる間際、玄関で物音がしたような気がする。

いや、おれが自ら、ドアの鍵を開けて外に・・・?

 

・・・・・・。

 

・・・。

 


―――――

 


・・・。

 

・・・・・・。

 

 

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「ふ・・・」


理事長の収賄か。

学園は、それなりに騒がしくなりそうだな。

おれも、うかうかしていられんな。

来るべき、復讐のときに備えなければ。


・・・・・・。

 

・・・。

 



相変わらず底冷えするような寒さが続いているが、雪が降るほどではない。

闇に紛れ、ひと目を忍ぶように目的の場所に向かう。

予期せぬ人物に出会ったのは、通りの角を曲がったときだった。



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「あら、こんばんは」
「・・・・・・」
「ん? どうしたの?」
「・・・いや、偶然だな」


おれは自然に振舞う。


「どうしたんだ、こんな時間に?」
「いままで妹に会ってたのよ」
「ほう・・・」
「やっぱり、なんだかんだで落ち込んでるみたい」
「というと?」
「父親が犯人扱いされてるから」


・・・気持ちはわかるが。



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「実際、収賄の事実はあったのか?」
「どうやら本当みたいよ。
水羽にもマスコミによけいな口を利かないようきつく言ってたみたい」
「だが、証拠は挙がっていないのだろう?」
「いいえ、水羽を含め、家族が証人よ。
逮捕された市の職員が、以前、水羽の自宅に何度か訪れていたって」
「それで、収賄を示唆するような密談があったと?」
「ええ、水羽はつい、聞いてしまったって」
「なるほど。 検察が優秀なら、家族が証言台に立つことで、まず有罪に持ち込まれるな」


それにしても、家族のいる場で犯罪の話をするなど間抜けな話ではないか。

家族だから、裏切らないとでも思っていたのだろうか。

ふと、時田の視線に気づいた。


「あなたも、家族が恋しくなったりしないの?」
「いつも恋しいさ」


時田はじっと見据えてくる。

 

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「・・・なにか、違わない?」
「違う?」
「あなたよ。
目つきにしろ、仕草にしろ・・・気のせいかしら?」
「フフ・・・かまをかけるのはよせ」
「別に、詮索するつもりはないけれどね」
「お前は物分りがよくて助かる」
「知らなければ幸せということもあるから」


薄く笑った。

おれも笑みを返し、時田に別れを告げた。


「では、気をつけてな・・・」
「ええ・・・お互いにね」


時田の脇を通り抜けた。

背後に視線を感じる。

時田がおれを怪しむような目を向けるのは当然だ。

しかし、なにもわかるまい。

とはいえ、時田もそれなりに鋭い。

宇佐美と同じように、始末しておかねばな・・・。

 

 

・・・。