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ゲームまるごと文字起こし

Kanon【4】

 

・・・。


1月10日 日曜日


====================


夢。

夢には終わりがある。

どんなに楽しい夢も・・・。

どんなに怖い夢も・・・。

暖かい布団の中で、

お母さんに揺り起こされて夢は途切れる。

ずっとずっと・・・。

変わらない朝の風景。

だけど今は・・・。

夢に終わりがなくなったのは、いつからだっただろう・・・。


====================


『朝~、朝だよ~』


・・・。


『朝ご飯食べて学校行くよ~』


・・・。


『朝~、朝だよ~』


・・・。


「・・・朝・・・か?」


目をこすりながら、布団から這い出る。

カーテンから差し込む光が眩しかった。


『朝ご飯食べて学校行くよ~』

「今日は日曜日だ・・・」


カチッ!

 

目覚ましのスイッチを切ってから、文字盤をのぞき込む。

・・・7時半。

うっかり昨日の夜も目覚ましをセットしてしまったらしい。


「何も予定はないんだけどな・・・」


起きてしまったものは仕方ない・・・。


(昨日の子のことも気になるしな・・・)


服を着替えると、俺は部屋を後にした。


・・・。


名雪はまだ寝てるだろうな・・・)


昨夜の騒ぎも考えると、起こしたってまず起きないだろう。

名雪の部屋を素通りして、そのまま階段を降りる。


・・・。


「おはようございます」


食卓には、案の定名雪の姿はなかった。

それに、昨日の少女の姿も見あたらない。


「朝ご飯、食べますか?」
「・・・いえ、もう少し寝てきます」


さすがに昨夜の騒動がこたえたのか、冷たい水で顔を洗ってもまだ頭がぼうっとしている。


「おやすみなさい、祐一さん」


・・・。


そのまま部屋に引き返して、結局昼まで寝ることにした。

もう一度目覚ましをセットして、ベッドで横になる。

ふとあの少女のことが気にかかったが、すぐに眠りにつくことができた。

 

・・・。


そして、次に目が覚めたとき、時計はちょうど12時を指していた。


・・・。


がちゃりと食卓のドアを開けると、そこには相変わらずの少女の姿があった。

そのテーブルの向かいにはすでに名雪も座っていて、昼食の準備が整うのを待っていた。

もっとも、名雪にとってはこれが朝食のようなものだろう。

やがて、3人とも無言(もっとも名雪は眠いだけだろうが)の内に、昼食の準備が整った。

 

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「・・・・・・おまえな、これ食ったら、ちゃんと帰れよ」
「・・・・・・」


少女は相変わらず黙ったままで、熱心にご飯にかける生卵をかき混ぜていた。

何かのショックで、言葉を忘れてしまったのではないか。

そんな危惧にも思い至るが、実際夕べはきゃーきゃー喚いていたことを思い出す。

そうなるとその黙りが、何やら計略めいて見えて、俺はたちどころに腹の虫の居所の悪さを覚える。


「親御さん心配してるぞ」
「・・・・・・」
「返事はどうした」
「・・・・・・仕方ないから」


少女はそうぽつりと返した。


「仕方ない?」
「うん、仕方ないの」


「あのね、この子ね、自分のことが思い出せないらしいの」


名雪が言葉少ない少女のフォローに回った。


「はぁ? そりゃなんだ、記憶喪失ってやつか?」
「ちょっと格好いいでしょ」
「あほかっ」


ぽかっ。


俺はその頭を拳で小突いてやる。


「イターーイッ! どーして殴られなくちゃいけないのよぅっ」
「そんなもの嘘だってバレバレなんだよ。 悲劇の少女気取りやがって、大方家出中で帰るに帰れないんだろう」
「ほんとーだもん」
「俺に因縁吹っかけて、気絶した振りしてここに連れてこられたのも、最初から筋書き通りだったってわけだ」


それは俺が抱いていた危惧だ。

目の前の少女は、体よくこの家に居着こうとしている。

それが今、少女の記憶喪失という嘘により、現実味を帯びてきていた。

不安的中、というわけだ。


「憎かったのは本当だもん」
「おまえ、言ってることが支離滅裂だぞ。 記憶喪失なんだろ? それで、どうして俺が憎いんだよっ」
「あぅーっ・・・」


その嘘から生じた綻びを突いてやると、案の定、少女は言葉を失った。


「困ってみせたって誰もかばわないぞ」


「祐一さん、ちょっと言い過ぎよ」
「って、言ってるそばからかばわないでくださいよ! 秋子さん!」


「祐一が悪い」
「こら、名雪までっ、俺の立つ瀬を少しは考えてくれっ」


「ごちそうさま・・・」


俺たちが言い合いをしている中、ご飯を半分残したままで、少女が席を立っていた。


「もういいの?」
「うん・・・」


そのまま部屋を後にすると、2階にあがってゆく様子がガラス越しに見て取れた。


「あーあ・・・」
「俺が悪いのかっ!?」


「言い過ぎ」
「待ってくださいよっ! どう考えたって、あいつは家出少女で、嘘をついてここに居座ろうとしてるんじゃないですかっ。 それに優しい言葉なんてかけた日には、つけ上がって我がもの顔でこの家に居着きかねませんよ」
「そうだとしても、相手は年下の女の子じゃない」
「そりゃそうですけど・・・」


家主自身にそう説得されては、俺の危惧も形無しである。

秋子さんにしてみれば、そうなったところで少しも構わないのかもしれない。


「じゃあさ、名雪・・・」
「なに?」
「悪いけど、後で付き合ってくれ。 俺ひとりじゃ、また険悪な雰囲気になるだろうからさ」
「うん」


・・・。


名雪が後片付けを手伝い終えるのを待ってから、2階の少女の部屋へと向かった。

ドアを開けて、中を覗く。


「よぅ、入るぞ」

「なによぅーっ」


中で拗ねたように膝を抱えて座っていた少女が、俺の顔を見るなり不機嫌な声をあげる。


「そんな、突き放した言い方するな。 話し合いに来たんだよ。 中に入れてくれ」

「ね」


俺の脇から名雪が顔を出して、笑いかけていた。


俺と名雪とその少女の3人で、輪を描くようにして座る。

記憶喪失の少女と名雪は黙って、俺が話を切り出すのを待っていた。


「で、まずは・・・記憶喪失だということだが、それは本当か? 正直に答えろ」
「ほんとうだもん」
「おまえ、正直に答えろって言っただろ?」
「ほんとうだから、ほんとーって言ったのよっ!」
「まあ、いい。 仮に本当だとしておこう」
「仮じゃなくて、本当なのっ!」
「うるさい奴だな、落ち着け」
「あぅーっ・・・」
「記憶はなくても、身分証明できれば家に帰れるわけだ。 おまえ、何か持ってないのか、財布とか」
「お財布はあるけど・・・」


俺の隣で名雪が首を横に振っていた。

調べてみたけど、何もなかった、と言いたいのだろう。

だが、念には念を押しておこう。


「どれ、貸してみろ」
「あっ・・・」


俺は少女の手からそれを奪い取ると、中身を取り出して床に並べてゆく。

徹底的に調べてやるのだ。


「・・・・・・ロクなものがないな」
「放っておいてよぅっ」
「千円札が3枚に、期限の切れたCD割引券が4枚、レシートが3枚、テレホンカードが1枚に・・・。 後は紙くずばかり・・・みごとに関係のないものばかりだな」


大体財布にしてみても、おかしい。

女の子が持つような小綺麗なものではなく、まるで落とし物をそのまま流用しているかのような無粋な代物だった。


「あ、写真」


ぽろりとお札の間から、ゲームセンターのプリント機で撮れる小さな12枚綴りの写真が床に落ちた。

友達ぐらい写っているだろう。

数少ない手がかりとなりそうだった。

俺は手にとり、のぞき込んでみる。

すると写真には、本人がひとりで写っていた。


「ぐあ・・・おまえ、友達はいないのかっ!」
「それ、記憶を失った後に撮ったやつだもの」
「何が悲しくて、こんなものひとりで撮る気になったんだよ・・・」
「だって、同じ歳ぐらいの女の子がみんな撮ってたから・・・」
「はぁ・・・」


俺は髪をがさがさと掻きむしる。

手がかりナシ、というわけだ。

無性に腹が立ってきたので、そのシールの1枚を剥がしてやる。


「ていっ」


そしてそれを持ち主の額に貼ってやった。


「わぁ、なにするのぉっ!」
「おまえだっていう証拠だ。 それ貼って町を歩いてこい」


「同じ顔がふたつ並んでるだけだよ・・・」
「そうだったな、悪い悪い」
「あーあ、可哀想に・・・」


名雪がそれを剥がしてやり、少女に手渡した。


「あぅーっ・・・」


少女は、それを再びシールのシートに戻そうと必死になる。

だが一度剥がしたシールなんて、くっついたとしても、すぐ剥がれるに決まっていた。

それでもどうにか小さな枠に納め直すと、ほっとしたように、シートごと財布の中にしまい直した。

何がそんなに大事なのか、俺にはさっぱり理解できなかった。


「で、どうするつもりなんだ、これから」
「・・・記憶が戻るまで、ここに居る」
名雪、警察を呼べ」
「わぁ、なんでよーっ!」
「当然だろう。 行くあてのない身元不明の女の子を引き取るのは警察の仕事だ」
「待ってよぉ・・・そんなのヤだよぅ。 ・・・何があってあんなところに居たのかわかんないし・・・」
「だから尚更じゃないか」
「記憶が戻るまでそっとしておいてほしい・・・。 だって恐いんだもん・・・」
「俺はおまえが恐いぞ」
「・・・そんなことないもん」
「だって、そうじゃないか。 覚悟!とか宣告しておいて」
「だって、それは・・・」
「なんだよ」
「唯一のあたしの道しるべだから・・・」
「道しるべ?」
「たくさんのことを忘れちゃってるけど、ただひとつだけ覚えていたことがあった。 それをあなたの顔を見たとき思い出したの。 コイツが憎い、って」
「・・・ものすごく迷惑な道しるべだ」
「うん・・・」
「ってことはなんだ、おまえは俺を知っている、ということなんだな?」
「たぶん・・・」
「でも俺はおまえを知らないぜ」
「・・・・・・」
「人違いだろう。 記憶喪失だというなら、尚更信憑性がない」
「でも、合ってるよ」
「どこに根拠があるんだよ」
「話していてますますそうだと思った。 絶対、あなたで合ってる」
「話したことまであるのか? 本当かよ・・・」
「ほんとう」
「いつだよ? そりゃ幼稚園の頃とかだったら、忘れてることもあるだろうけど・・・」
「うーっ・・・」


少女がジッと俺の顔を睨んでいる。


「どうした?」


ぼかっ!


少女の拳が俺の頬を捉えていた。


「いでッ、こらっ! いきなり殴るなっ!」
「やっぱり見てたら、ムカツくもの。 合ってる」
「どちらにしろ、こんな危ない奴とは一緒にいれないぜ。 却下だ、却下」
「あぅーっ・・・」


「な、名雪
「じゃあ、この家の最年長者であるお母さんに訊いてみる?」
「こらっ、あのひとに訊いたら、了承するのが目に見えてるぞっ」


・・・。


「了承」


・・・。


「見ろ、一秒で了承されてしまったじゃないかぁ・・・」
「良かったね」


俺たちは台所からとんぼ返りのようにして戻ってくると、再び部屋に集まっていた。


「はぁ・・・後々ややこしくならなければいいけどな・・・」

「・・・・・・」

「これでまた同居人が増えてしまったわけだな・・・」


少女はほっとしたのか、緊張しきっていた顔が和らいでいた。


「なんて呼べばいいのかなぁ。 名前ぐらいは思い出せない?」
「名前・・・。 ・・・あぅ~、思い出せない・・・」


「便宜的にでも決めておかないと、不便だからなぁ・・・殺村凶子ってのはどうだ?」
「さつむらきょうこ?」


俺は漢字を書いた紙を見せてやる。


ばちっ!


返事より先に平手打ちが飛んできた。


「いってぇなぁ・・・その物騒な性格にぴったりじゃないか」
「はぁ・・・思い出すまで待つ」
「じゃあ仕方ないな、思い出すまで殺村凶子と呼ぶからな」
「うーっ・・・そんなのヤだぁ」
「だったら早く思い出すことだな」
「見てなさいよぅっ。 頑張って、とッても可愛い名前、思い出してみせるから」


よほど癪だったのか、少女は立ち上がると、俺を見下してそんなふうに言い放った。


「頑張って、名前が可愛くなるか」
「あぅーっ」


そしてそのまま背中を向けて、ぱたぱたと部屋を出ていった。


「あいつ・・・どこにいったんだ・・・?」
「さぁ・・・ここが、あの子の部屋なのに」


・・・。


昼食の時間が終わると、各自が思い思いに散っていた。

洗い物を手伝っていた名雪は、リビングでテレビを眺めている。

秋子さんはまだ台所のようだった。

そして、あの少女も宛われた部屋に強引に引きこもっている。

 

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「・・・ふぁ」


俺と一緒にテレビを見ていた名雪だが、いつにも増して眠そうだった。


「大丈夫か・・・?」


さっきから、ふらふらと揺れながらあくびばかりしている。


「わたし・・・眠いよぉ・・・」


昨夜の出来事が原因であることは、間違いないようだった。


「そんなに眠いんだったら、少し横になってきたらどうだ?」
「テレビ・・・」
「そんなに見たいんだったら、ビデオに録画しておいてやるぞ」
「うん・・・お願い・・・」


そう言い残して、名雪が部屋を出ていく。


(俺も部屋に戻るか・・・)


ビデオの録画ボタンを押してから、俺もリビングを後にする。


・・・。


「祐一さん」


自分の部屋に戻ろうと階段を登りかけたとき、台所から秋子さんに呼び止められた。


名雪、知りませんか?」
名雪なら、たぶん部屋で寝ていると思いますよ」
「そう・・・困ったわね・・・」


頬に手を当てたポーズが、秋子さんらしかった。

ちなみに、全然困ったようには見えない。


「どうしたんですか?」
「ちょっと、用事を頼みたかったんだけど・・・」
「それなら、代わりに俺が頼まれますよ」


俺としては、客として変に気を使われるより、気軽に用事を任せてもらえる方が家族として認められているようで嬉しかった。


「それなら、祐一さんにお願いしようかしら」


その辺りのことは、秋子さんも分かっているようだった。


「今から晩ご飯の買い物に行こうと思うのだけど、祐一さんも一緒に来てもらえる?」
「それは構わないですけど。 別に秋子さんまで来なくても、俺がひとりで行ってきますよ」
「ひとりは大変だと思いますよ」
「そうですか?」
「ちょっと重たいですよ」
「・・・何を買うんですか?」
「お米よ」


確かに、それは重いかもしれない。


「まだ残ってると思っていたんだけど、今見たら全部なくなってたから。 ついでですから、まとめて買っておこうと思って」
「分かりました、手伝います」
「助かるわ」
「あ・・・でも」


よく考えると、俺と秋子さんが家をあけると言うことは、あの正体不明の女の子ひとりを残すことになる。


「あの女の子ひとりを家に残すのは、危険じゃないですか?」
「大丈夫よ」


言うと思ったが、さすがに根拠はないと思う。


「でも・・・、何となく嫌な予感がするんですけど・・・」
「大丈夫よ。 それに、家には名雪がいますから」
名雪は、たとえ家が火事になってもおきないと思いますけど・・・」
「それもそうね」


困ったわね、と頬に手を当てる。

やっぱり全然困っているように見えないところは、さすが名雪の母親だった。


「でも、大丈夫ですよ」


相変わらず根拠はないと思うが・・・。


「・・・分かりました。 行きましょうか」


家主である秋子さんがそこまで言うのなら、俺がこれ以上主張しても仕方ない。


「ごめんなさいね」


名雪、俺たちの留守はお前に任せたぞ・・・)


微かな希望にすがるように、2階の部屋を見上げる。


「行きましょうか」


買い物鞄を持った秋子さんと一緒に、多大な不安を残しながら、俺たちは商店街に向かった。


・・・・・・。


・・・。


天気はよかったが、それでも冷たい風が吹く度に体が震えていた。

これで曇り空だったら、と想像するだけで嫌になる。

 

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「ごめんなさいね、折角のお休みなのに」


申し訳なさそうに、秋子さんが謝る。

 

「いいですよ、俺は」


しかしこの寒空の下、秋子さんはほとんど顔色ひとつ変えない。

落ち着いているというか、マイペースというか・・・。


・・・。


まだ時間は早かったが、日曜日ということもあって、商店街はそこそこの賑わいを見せていた。

結局、3袋の米を買って、2袋を俺が両手に持つことになった。


「本当、祐一さんがいてくれて助かるわ」


商店街の雑踏の中を、米袋をぶら下げながら歩いていると・・・。

雑踏のその向こう側に、見知った顔があった。

正確に言うと、見知ったリュックを背負った女の子がいた。

 

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「あ、祐一君っ!」


パタパタと羽を揺らしながら、腐れ縁の食い逃げ少女が駆け寄ってくる。


「やっぱり会えたねっ」


無邪気に笑顔を覗かせながら・・・。


ベチッ!


思いっきり、顔面から地面に突っ込む。

何もない地面で、見事なまでに転んでいた。


うぐぅ・・・またぶつけたぁ・・・」
「今度こそ間違いなく俺は悪くないだろ・・・」
うぐぅ・・・」


「祐一さんのお友達ですか?」
「全然知らない女の子です」


うぐぅ・・・ひどいよっ!」
「冗談だ」
「・・・もしかして、祐一君ボクのこと嫌い?」
「全然そんなことはないぞ」


からかうと面白いだけだ。


うぐぅ・・・鼻が痛いよぅ」
「それで、今度は何を盗ってきたんだ?」
「何も盗ってないよぉっ」
「逃げてたんじゃないのか?」
「祐一君の姿が見えたから、嬉しくて走って来ただけだよっ」
「別に逃げたりしないから、普通に歩いてこい・・・」
「うぐ・・・今度からそうする・・・」


「元気な女の子ですね」


俺たちのやりとりを聞いていた秋子さんが、のんびりと感想を言う。


「・・・えっと」


あゆが俺の顔を窺う。

秋子さんと俺の関係を訊ねているのだろう。


「この人は、水瀬秋子さん。 俺が居候させてもらっている家の家主さんだ」
「やぬしってなに?」


真顔で問い返す。


「・・・家の中で一番偉い人のことだ」
「あ、そうなんだ・・・少し勉強になったよっ」


本当に分からなかったらしい。


「それから、こいつは月宮あゆ

「よろしくお願いしますっ」


月宮あゆちゃん・・・?」


秋子さんが微かに首を傾げる。


「どうしたんですか?」
「・・・・・・」


秋子さんの様子が少しおかしかった。

ちなみに、普通の人にとっては少しだが、秋子さんの場合はかなりの変化だと言っても差し支えない。


「ボクの顔、何かついてる?」


じっと自分の顔を見つめる秋子さんに、あゆが不思議そうに首を傾げる。


「泥がついてるぞ」
「えっ!」


ごしごしと服の裾で顔を擦る。

その仕草が、妙に子供っぽく見えた。


「とれた?」
「大丈夫、元からついてないから」
うぐぅ・・・祐一君、やっぱりボクのこと嫌い?」
「全然そんなことないぞ」


「・・・月宮あゆちゃん?」


なおもあゆの顔を見ていた秋子さんが、真剣な表情で名前を呼ぶ。


「・・・はい?」
「ごめんなさい、やっぱりわたしの気のせいですね」
「・・・?」


あゆがもう一度首を傾げる。

俺も同じ心境だった。


「そんなはずないですものね・・・」


秋子さんはひとりで納得したようだった。


「祐一君、今日はこれからどうするの?」
「見ての通り、帰るところだ」


まさか、米袋持ってゲーセンに行くわけにもいかない。


「そっか、残念だね・・・」
「じゃあ、またな」
「うんっ。 またね、祐一君」


来たときと同じように、元気よく走っていく。


「本当に元気な女の子ですね」


穏やかに呟く秋子さんに、俺は無言で頷いていた。


・・・・・・。


・・・。


「ご苦労様」
「これ、どこに運んだらいいんですか?」
「玄関でいいですよ」
「それじゃあ、あとはお願いします」


・・・。


時間があいたので、ベッドに寝転がって持ってきていた雑誌を開く。

適当にページをめくりながら、夕方まで時間を潰した。


・・・。


(さて、風呂でも入るか・・・)


午後10時を回り、湯を張りに風呂場に向かう。

すると・・・


どたどたどた・・・!


廊下の向こうから記憶喪失の少女が走ってくる。


「よぉ・・・・・・って、おいっ!」


どしーーーんっ!


声をかけようと手をあげた格好のまま、体当たりを喰らわされる。


「イタタタァーッ・・・」


廊下に重なって倒れるふたり。

 

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「おまえ・・・普通、家の廊下で正面衝突なんてするか!?」
「祐一が悪いのよ・・・こんなところで突っ立ってるからっ」
「家の廊下を走るおまえのほうが絶対悪いと思うぞ、今の場合」
「言うことがムチャクチャね、祐一は」
「どっちがだよっ」
「そんなことより、みんな集めて」


俺の手を引っ張って、立ち上がろうとする。

まったく忙しない奴だ。


「何事だよ・・・」


渋々立ち上がり、少女に伴って、リビングへと向かう。


・・・。


「あのね、名前、思い出したの」
「もっと殴れば、色々なこと思い出すかもしれないなぁ」


俺は拳に、はぁーっと息を吹きかける。


「違う、違うっ・・・さっきの衝突は関係ないのっ」
「そうか、そりゃ残念だ」


「それで、名前は?」
「うん。 真琴。 沢渡真琴(さわたり まこと)、よろしくね」
「真琴ね。 じゃあ、その名前で呼ばせてもらうわ」


「よろしくね、真琴」


女性陣は案外、呑気なものである。

明日にも記憶が戻って、ここから出てゆくような奴に、よろしくもなにもないだろう。

俺はひとり、挨拶をしなかった。


「悔しいでしょ、祐一」


真琴が、したり顔で勝ち誇っていた。


「なにがだ?」
「可愛い名前で」
「そうか?」
「『祐一』、なんて名前じゃなくて良かったぁ」
「俺も真琴じゃなくて良かったよ」
「負け惜しみ」
「名前に買ったも、負けたもあるか。 一体どこで判断するんだよ」
「自分がその名前を好きかどうか。 真琴は、真琴の名前、大好きだもん」


確かにそう言われると、自分の名前をそこまで大見得きって好きだとは言えない。


「負けた・・・」


「・・・?」


名雪が首を傾げている。


「さて、そろそろお風呂入らないと、遅くなっちゃうわよ」
「はい、いちばーんっ!」


秋子さんの言葉を受け、両手バンザイをする真琴。


「ハイは片手だろ、ばか」
「祐一はうるさいのっ。 お風呂~」


ドタバタとリビングを出ていった。


「あいつのことだから、湯を張る前に裸になってそうだな・・・」


案の定、その後、バスタオル1枚でうろつく真琴が発見されたのだった。


・・・。


湯上がりのままで、リビングでテレビに見入っていると、最後だった秋子さんが寝巻姿になって戻ってきた。


「髪、乾かしてから寝なさいね」


それだけを言って、台所へと入っていった。

まだ仕事が残っているのだろうか。

秋子さんに就寝の挨拶をして、俺は先に失礼することにした。


・・・。


「・・・・・・」


寝ついたはずなのに、いつの間にか薄暗い天井を見上げていた。

近頃は冷え込むためか、夜中によく目を覚ます。

俺は寝返りを打ち、そのまま目を閉じる。


ギ・・・ギ・・・


(ん・・・?)


ギ・・・ギ・・・


音がする。

それは廊下の床板が軋む音。

となると、誰かがこの真夜中に忍び足で2階の廊下を歩いているのだ。

そんな怪しいことをしそうな奴はこの家にはひとりしかいない。


ガチャ・・・


案の定というか、俺の部屋のドアノブが回された。


・・・。


ぎぃ・・・とドアが開き、ひとつの影が室内に潜り込む。


・・・。


「あはは・・・」


そいつは含み笑いを漏らした。

そして俺の布団の脇に立つと、何かをごそごそと取り出す。

ぺりっ!と何かを開封するような音がした。

暗くてよくわからないが、なにやら俺の頭上にぷるぷると揺れる物体が浮いていた。

・・・コンニャクだ。

夕べのお返しというわけだろうか?


「3、2・・・」


律儀にカウントダウンまでしている。


「1・・・」

「ゼローーーーーーッッ!!」


俺は飛び起きると同時に、最後のカウントを大声で張り上げてやった。


「わああああぁぁぁーーっ!」


どすんっ!


電気を点けてみると、コンニャクを握ったまま尻餅をつく真琴の無様な姿があった。

 

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「あぅーっ・・・びっくりしたよぉ・・・」
「なにやってんだ、おまえは」
「え? なにって・・・そのっ・・・」
「ああ? 夕べの仕返しに失敗して、また大恥さらしたってところか?」
「そ、そんなことないわよぅっ・・・」
「じゃあ、何か。 そのコンニャクは夜食か?」
「こ、これ? そ・・・そうっ・・・」
「じゃあ、食べろ」
「え? いまっ?」
「今食べようと思って、開封したんだろ。 食う気もないのに開封なんてしないよな」
「あぅーっ・・・」
「ほら、遠慮しないで食べろって」
「・・・・・・」


ぱくっ。


もぐもぐ・・・。


かぶりついて、味わう。


「うまいか?」
「味がない・・・」


泣きそうな顔で、小さな舌を出す。


「ほら、1枚ぺろっといけ」
「そんなぁ・・・もぅお腹いっぱい・・・」
「こらこら、直にかぶりついておいて残すな。 行儀悪いだろ」
「あぅーっ・・・イジメだぁ・・・」


ぱくっ・・・ぱくっ・・・。


もぐ・・・もぐ・・・。


ぱくっ・・・ぱくっ・・・。


もぐ・・・もぐ・・・。


「う~っ・・・」


「どうしたの?」


三分の二ほど食べたところで、半分開いたままのドアから秋子さんが顔を覗かせていた。


「またこんな夜中に・・・」
「いや、真琴がコンニャク食ってるだけだけど・・・」
「え?」


「あぅーっ・・・」


泣きそうな顔で真琴が秋子さんを見上げる。


「そのままでっ? そんなにお腹すいてたの?」
「うーっ・・・」
「ほら、来なさい。 お夜食作ってあげるから」
「えっと・・・お腹は・・・すいてないんだけど・・・」
「ほら、いいから。 もう、今度からは起こして。 怒ったりしないから」


言いくるめられるようにして、秋子さんに手を引かれ連れられてゆく真琴。


「おやすみ」


俺はそのふたりを見送った後、静かになった室内を見渡してから電灯を消した。


「ったく、安眠妨害もいいところだな・・・」


布団に潜り込み、再び微睡みの中に身を置いた。


・・・・・・。


・・・。

 

1月11日 月曜日


====================


夢。

誰かを待ってる夢。

遠くに聞こえる雑踏の中で・・・、

小さなベンチに座って、

たったひとりで、

来るはずのない人を・・・。

何時間も・・・、

何日も・・・、

そして、何年も・・・。


====================


・・・。


『朝~、朝だよ~』


・・・。


カチッ!


小さな音と共に目覚ましが止まって、そして同時に目が覚める。


「・・・・・・」


まだ眠い。

しかし、この目覚ましで起きることができる自分が凄いと思う。

寒さを感じる前に素早く着替えて、部屋を出る。

この辺りの要領も、少しずつわきまえてきた。

こういうのを慣れと言うんだろうか・・・。


・・・。


「・・・・・・」


向こうからあまり顔色がいいとは言えない真琴が姿を現す。


「おはよう、真琴」
「げぷっ・・・」
「おまえの星の朝の挨拶はげっぷなのか」
「あぅ・・・おはよぅ・・・」
「どうした、調子悪いみたいだな」
「胸焼けがずっと治まらないの」
「そういやおまえ、夜中に食い物、ねだってたもんなあ」
「ねだってなんかないわよぅっ・・・あれは祐一にっ・・・」
「俺になんだ?」
「あぅ・・・なんでもない・・・」
「そうか。 あんまり食い意地張って秋子さんに迷惑かけるなよ」
「うぅっ・・・見てなさいよぅっ・・・げぷっ」


げっぷを繰り返しながら、通り過ぎていった。


・・・。


部屋に入ると、いつものように秋子さんが朝食の準備を整えてくれていた。


「おはようございます、祐一さん」


そして、いつものように朝の挨拶を交わす。

そんないつも通りの風景に、ひとりだけいつも通りではない人物が混じっていた。


「・・・・・・」


相変わらず、秋子さんの前では大人しくしているようだ。

大人しくしているのにこっちから突っかかっていくわけにもいかないので、とりあえず見なかったことにする。

やがて、半分以上眠っている名雪がふらふらと姿を見せて、いつも通りの朝食が始まった。


・・・。


「寒いぞ・・・」


誰に対しての文句でもないが、言わずにはいられなかった。

いつもと同じように外に飛び出すと、そこには銀世界が広がっている。

 

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「待ってっ、待ってっ・・・」


体を屈めて、靴のつま先をトントンと鳴らしながら玄関先でまごついていた。


「何やってんだ?」
「靴が、靴が・・・」


慌てているためか、靴がうまく履けないらしい。

片足を後ろに折り曲げて、ぴょんぴょんと飛び跳ねながらもがいている。


「わっ、わっ・・・」


見ていると、飛び跳ねながらその場で一周回っている。


「犬だな・・・」
「わたし、犬さんじゃないよ」
「分かったから、早くしろ」
「わっ、わっ・・・」
「早くなくていいから、とりあえず落ち着け」
「・・・んしょっ」


さんざん回転したあげく、やっと靴を履き終わる。


「終わったよ」
「今の時間は?」
「えっと、8時16分」


なんか日に日に残り時間が短くなっていくような予感がする。


「走るぞ名雪
「あ、待って!」
「どうした?」
「植木に水あげないと」
「何も今じゃなくていいだろっ!」
「植木だって、お腹すかしてると思うよ・・・」
「秋子さんがやってくれるだろっ」
「そうだね・・・」
「じゃあ、走るぞ」
「あっ!」
「今度はどうした?」
「回覧板まわさないと」
「帰ってきてからでいいだろっ」
「でも、燃えないゴミの日が変わったんだよ」
「分かったから、放課後に思う存分好きなだけまわしてくれ」
「うん・・・」
「じゃあ、今度こそ走るぞ」
「うんっ」


・・・。


さすがに3日目ともなると、何となく道は覚えている。

俺はまごまごする名雪よりも早く、鞄を担いで走り出していた。


「走るよ~」


宣言してから、名雪も走り出す。

さすがに陸上部だけあって、名雪の足は速い。

というより、普段のスローペースを見ているだけに余計速く感じるのかもしれない。


「・・・間に合うかな?」
「間に合わなかったら名雪のせいだからな」
「わぁ、祐一ひどいよ・・・」
「だったら、近道とかないのか?」
「近道?」
「このあたりって、結構道が複雑だからな」


真っ白な雪に覆われた住宅街を吹き抜ける冷たい風が、屋根の上の粉雪を舞い散らせていた。


「地元の人間しか知らないような、ナイスな近道があるんじゃないか?」
「知ってたら、とっくに使ってると思うよ」
「それもそうだな・・・」


もっともな意見だった。

ため息と一緒に吐き出した空気は白くて、ここがこの間まで住んでいた場所とは遠く離れていることを、いやがうえにも思い知らされた。


「試しに、そのあたりの脇道に入ってみるか?」
「・・・やめた方がいいと思うよ」
「・・・やめとくか」
「絶対にその方がいいよ」
「仕方ない、まじめに走るか・・・」
「走るよ~」


息をついて、ふたり揃って走り出す。


「・・・やっぱ、近道探した方がよかったんじゃないか?」
「そんなことないよ」


しばらく走っていると、やがて覚えのある建物が見えてきた。


・・・。


「到着」


校門をくぐったところで腕時計を見る。


「まだ予鈴前だよ」
「助かったな」
「うんっ」


名雪といると、1日1日がスリリングだ。


「おはよっ、ふたりとも」

「あ、香里おはよう~」


「相変わらず元気そうだな、香里・・・」
「どうしたの相沢君? 息が切れてるけど」
名雪と一緒に登校してみろ・・・すぐに理由が分かる・・・」
「あたしは遠慮しとくわ」
「賢明な判断だ・・・」


「・・・意味はよく分からなかったけど、もしかしてふたりでわたしの悪口言ってる?」


「あ、もうこんな時間! 早く行かないと石橋に先越されるわよ」

「本当だ、急がないと!」


「・・・もしかして、ごまかしてる?」

「ぜんぜんそんなことないぞ」

「ええ。 ぜんぜんそんなことないわよ」


「すっごく怪しいよ・・・」


「あたし先に行くからっ」

「俺もっ」


「あ、待ってよ~」


走り出すと共に予鈴が鳴って、慌ただしく1日が始まった。


・・・・・・。


・・・。

 

チャイムが鳴って、2時間目の授業が終了した。


「今日の国語、宿題多かったわね」
「うん・・・どうしよう」


休み時間になると、クラスの中にいくつかのグループができる。

名雪の机を中心にした俺たち数人のグループもその内のひとつだった。

休み時間になる度に、前の授業の話題を中心に他愛ない話に花を咲かせている。


「よかった」
「何がよかったの?」


香里が不思議そうに訊き返す。


「今日の宿題が、多い方でよかったよ。 あの先生がいつもこれくらい宿題を出す先生だとしたら、いきなり国語が嫌いになるところだった」
「あはは・・・確かにそうね」


「・・・美坂っ」
「え? どうしたの?」
「今日、お前日直だぞ」
「あ・・・すっかり忘れてた・・・」
「やっぱりな・・・おかげで、もうひとりの日直が大迷惑だぞ」
「後で謝るわ・・・」
「そうしろ」
「それで、今日のもうひとりの日直って誰だっけ?」
「オレ」
「あ・・・ごめん~」
「黒板は俺が消すから、日誌は美坂が書いてくれな」
「分かりました。 ちゃんと書いておきます」


「・・・あ、チャイム」


そして、その音を合図にグループは解散する。


「えー、この部分はテストに出るので覚えておくように」


同じようなことを言う先生はどこにでもいるんだな・・・と感心していると、昼休みの到来を告げるチャイムが鳴った。


「祐一っ」


昼休みに入った途端、名雪が俺の席に現れる。


「祐一は、お昼ご飯どうするの?」
「・・・そうか、今日から午後も授業があるんだよな」


考えると憂鬱になる。


名雪はいつもどうしてるんだ?」
「わたしはお弁当持ってきて教室で食べる日もあれば、学食で済ませる時もあるよ」
「今日は?」
「学食でランチセットだよ」
「だったら俺も学食だな」


これから先も学食のお世話になることは多いだろうから、今の内に場所を知っておきたかった。


「うん、案内するよ」


「学食なら、あたしもつき合うわよ」

「じゃ、オレも学食でいいや」


他にも数人学食組が名乗りをあげて、いつの間にかすっかり大所帯になっていた。


・・・。


「ここが、学食」


ここまで来れば言われなくても分かる。

校舎に比例して大きなホールには、今までどこに隠れていたんだというくらい大勢の生徒で溢れていた。

名雪や香里と同じ赤のリボンの他に、青や緑のリボンも見える。

 

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「この人数だと、全員でひとつの場所は無理ね」


空いている席はいくつかあるが、どれも2つか3つの空席が繋がっているだけで、これだけの人数が丸々割り込める場所はなかった。

 

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「スタートダッシュが遅れたのが致命的だったな」
「仕方ないわね、ここからはバラバラにしましょうか」


全員頷く。


名雪と相沢君は一緒に行動するとして・・・」


なぜ断言?


「あたしも名雪たちと一緒でいいわ」

「だったらオレも美坂チームでいいぞ」


なぜチーム?


結局、美坂チーム(4人)と、もうひとつのチーム(3人)に別れて座ることになった。


「・・・あ、ここ4人分空いてるよ」

「よし、オレが場所とっておくからオレの分も買ってきてくれな」
「了解。 何がいい?」
「親子丼」


「もうひとりくらい場所とりに残っててもいいんじゃないか?」

「だったら、名雪お願いね」
「わたしも取りに行くよ・・・」
「ダメよ。 あんたは要領悪いから、普通の人の7倍は時間がかかるんだから」
「うー・・・いいよ、留守番してるもん」


反論しないところをみると、事実らしい。


名雪は注文なんにする?」
「わたしAランチ」
「・・・また?」


名雪の注文を聞いて、香里が眉をひそめる。


「あんた、学食来るといっつもAランチね」
「うん、好きだから」
「たまには違うの頼みなさいって」
「学食はたまにしか来ないから大丈夫だよ」


「まぁ、いいけどね・・・。 それじゃ、行きましょうか相沢君」
「ここってどうやって買うんだ?」
「大丈夫よ。 これからあたしがこの学食での戦い方を教えてあげるから」


頼もしいを通り越して物騒だった。


・・・。


やがて全員に注文したメニューが行き渡り、そして雑踏の中、昼食を終えた。

ちなみに、俺が注文したカツカレーは、なかなかの味だった。

そして、名雪がAランチにこだわるのは、他のメニューにはついてこないデザートのイチゴのムースが目当てだということが分かった。


・・・。


「お腹いっぱい・・・」


名雪は満足そうだった。


「あたし、Aランチのメニューは全部暗記してる自信があるわ・・・」


俺と名雪、そして香里は廊下に出てきていた。

もう1チームはまだ食堂で食べている。

さすがにずっと食堂を占拠しているのは悪いので俺たちだけ先に出てきたのだが、北川は他のクラスの知り合いと話し込んでいるようだった。


「あたしは、ちょっと部室に寄ってから戻るわ」
「わたし、待ってるよ・・・」
「別に待ってなくていいわよ」


「俺も待ってるぞ」

「うんっ」


「わかったわ、すぐに戻ってくるから・・・」


やれやれと言った感じで、向かいの教室に入っていく。

そこが部室なのだろう。


「そういえば、香里ってなんの部活に入ってるんだ?」
「あれ? 祐一知らなかったの?」
「部活やってるのは知ってたけど」
「香里はね・・・」


「お待たせっ」


すでに用事を済ませたらしい香里が、教室から出てくる。


「早かったね、全然待ってないよ」
「さ、行きましょうか」


・・・。


残りの時間を昨日見たテレビの話題で使い切って、そして午後の授業が始まった。


・・・。


午後の退屈な授業が続いていた。

何か楽しいことを探そうと横を見ても、名雪は真面目に黒板を書き写している。

ノートはあとで名雪に借りてコピーすれば充分だろう。

そう考えると一安心だ。

そして、一安心すると授業に集中なんてできなくなる。


(・・・いつまで積もってるんだろうな)


頬杖をついて、何気なく窓の外を眺めながら、時間は過ぎていった。


・・・。


6時間目の担当が石橋だったので、授業が終わると同時にHRが始まった。

そして、それもすぐに終わる。


「・・・やっと終わった」


座ったまま、ぐぅっと体を伸ばす。

横の席では、名雪が帰り支度を始めている。


名雪、今日も部活か?」
「えっと・・・うん、そうだよ」
「そうか、じゃあいいや」
「どうしたの?」
「探してるCDがあってな。 帰りにでも買っていこうと思って」
「うん。 CDだったら、商店街の中にお店があるよ」
「それで案内して欲しかったんだけど、部活なら仕方ないな」
「ちょっと説明しづらい場所にあるんだよ・・・」


名雪が申し訳なさそうに声を落とす。


「自分で探してみるか・・・」
「うーん・・・地図、描こうか?」
「いや、大丈夫だと思う」
「うん、ごめんね」


・・・・・・。

 

・・・。


放課後の商店街をひとりで歩きながら、どこにあるのかも分からないCD屋を探す。

歩道には、寄せ集められた雪の山が赤く色づいていた。


「しまったな・・・店の名前くらい訊いておけばよかった・・・」


何の手がかりもないまま、時間だけが過ぎていく。

ちなみに、俺が場所を覚えている店は喫茶店と米屋くらいだ。


(昔は、もっと色々な店をしってたんだろうな・・・)


もしかすると、CD屋にも行ったことがあったのかもしれない。


(思い出せない・・・)


今ほど、子供の頃の記憶が戻って欲しいと願ったことはなかった。


「祐一君っ!」

「ぐあっ!」


突然、背中に何か重い物がおぶさってくる。


「やっぱり祐一君だぁ!」


首だけ振り返ると、あゆが背中からしがみついているのが見えた。


「えへへ・・・嬉しいよぉ」
「えへへ・・・じゃない、離れろっ!」
「わっ!」


勢いよく後ろを振り返って、遠心力であゆを引き剥がす。


うぐぅ・・・祐一君が捨てたぁ」
「・・・あゆ」
「ひどいよぉ・・・ちょっと抱きついただけなのに・・・」
「頼むから、普通に登場してくれ」
「普通だよぉ」
「大体さっき、やっぱり俺だ・・・とか言わなかったか?」
「うん、言ったよ」
「もしかして、俺かどうかも確認できなかったのに攻撃をしかけたのか?」
「攻撃じゃないもんっ。 抱きついただけだもんっ」
「一緒だ」
うぐぅ
うぐぅ
うぐぅ・・・真似しないで~」
うぐぅ
うぐぅ・・・祐一君いじわるだよぉっ!」
うぐぅ

 

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うぐぅ・・・もう知らないもんっ!」


ふくれた顔で、ぷいっと横を向いてしまった。


「いや、冗談だ」
「いじわる~」


さすがにからかい過ぎたらしく、横を向いたままだった。


「分かった、俺の負けだ」
「えっ?」
「俺では使いこなせなかった」
「・・・・・・」
うぐぅ、はお前だけのものだ」
「・・・・・・」


無言だった。

そして、小さく肩が震えている。


「もう、ホントに知らないもんっ!」


どうやら、完璧に怒らせてしまったようだ。


「もしかして、怒ってるか?」
「当たり前だよっ!」
「悪い、本当に冗談だ」


さすがにちょっとやりすぎた。


「・・・・・・」


ぶすっと横を向いたまま口を閉ざしている。


「・・・もう言わない?」
「約束する」
「・・・・・・」


しばらくの間。


「・・・うん、わかった」


ゆっくりと表情を和らげる。


「許してあげるよ」


いつもの屈託のない笑顔で頷く。


「・・・だけど、俺たちよく会うよな」
「うん、ホントに偶然だね」


あゆと再会したことも、今日出会ったことも・・・。


「もしかして、毎日商店街うろついてるのか?」
「うーん・・・どうかなぁ・・・」
「もしかして、暇なのか?」
うぐぅ・・・違うよっ」
「だったら、商店街で何やってるんだ?」
「ちゃんと大切な目的があるんだよっ」
「分かった! 次の犯行を重ねることだな?」
「違うよっ!」
「だったらなんだ?」
「えっと・・・探し物・・・」
「・・・探し物?」
「そう・・・探し物があるんだよ・・・」
「分かった! ガードの甘い店を探してるんだな?」
うぐぅ~違うよっ!」
「だったら何を探してるんだ?」
「えっと・・・落とし物・・・」
「落とし物を探してるんだよ」
「なんか、今急に思いつかなかったか?」
「ううん、全然そんなことないよ」
「・・・落とし物って、財布でも探してるのか?」
「違うよ」
「だったら何を落としたんだ?」
「大切な物・・・。 すっごく大切な物・・・」
「大切な物・・・?」
「うん。 ボクが落としたのは・・・あれ?」


あゆが困ったように首を傾げる。


「思い出せない・・・」
「は?」
「どうしたんだろう・・・何を落としたのか思い出せないよ・・・」


戸惑ったような表情で、不安げに羽がぱたぱたと揺れていた。


「大切な物なのに・・・大切な物だったはずなのに・・・。 早く見つけないとダメなのに・・・。 思い出せないよ・・・」


泣き笑いのような表情で、自分自身に戸惑っているようだった。


「どうして・・・」
「ただのど忘れじゃないのか?」
「・・・ボク、探してみる」
「探すって言ったって、何を探すのかも分からないんだろ?」
「でも、見たら思い出すもん!」
「確かに、その可能性はあるだろうな」
「だから、ボク、探してみるよ」
「・・・がんばれよ、あゆ」


とりあえず、応援だけはする。


「うんっ。 ボクがんばるよ!」
「もし、それらしい物を見つけたら連絡してやろうか?」
「どうやって?」
「あゆ、携帯とか持ってないのか?」


ちなみに俺も持っていないが、こっちから連絡くらいはできる。


「けいたいって何?」


無邪気に訊き返す。


「・・・本気で訊いてるのか?」
「うんっ!」
「携帯電話のことだ」
「けいたいでんわって何?」
「・・・・・・」
「やっぱり、電話の親戚?」
「・・・もしかして、この街では普及してないのか・・・」


そう言えば、名雪も持っていなかった。


(さすがに知ってはいたが・・・)


「携帯電話の友達?」
「そうだ、親友だ」
「そっか・・・ひとつ勉強になったよっ」
「じゃあ、がんばって探せよ」
「うんっ、がんばって探すよっ」


元気に手を振って、あゆがぱたぱたと走り出す。


「俺もがんばらないと日が暮れるな・・・」


新しい街で、CD1枚買うのも一苦労だ。


「それにしても・・・」


あゆの落とし物・・・。

一体何だったんだろう・・・?


・・・・・・。


・・・。

 

「あ・・・祐一、遅かったね」


日が落ちてから家に帰り着くと、名雪はすでに帰宅していた。


「探してるCD、見つかった?」
「CDどころか、店が見つからなかった・・・」
「今週の木曜日だったら部活お休みだから、一緒に行く?」
「そうしてくれると助かる」
「お安いご用だよ」


・・・。


「祐一ーっ!」


部屋に戻ってきて鞄を置くなり、真琴の声がして、ドアが開いた。


「おまえな、ノックぐらいしろ」


俺は着替えようと制服のボタンをはずしかけていた手をとめて、真琴の顔を見た。


「祐一、こんなところに隠れてたのっ?」
「どこが隠れてるんだ。 それに今戻ってきたばかりだぞ」
「じゃあ、中に入っていい?」
「おまえって意外に律儀だよな。 俺をつけ狙っているくせにさ」
「陽の高いうちは遊ぶの」
「悠長な奴だな」
「いいのいいの」


とことこと入ってきて部屋の中央に立つと、ぐるりと一周見回す。


「なにこれ・・・」


机の上に置いてあった物に反応して、声をあげる。


「あん?」


真琴が手に取って見ている物は、漫画本だった。


「マンガだよ。 それがどうした」
「・・・・・・」


なんだか知らないが、ページをめくって見入っている。


「読みたいんだったら、そこにあるの全部貸してやるから、自分の部屋で読めよ」
「・・・・・・」
「おい、真琴っ」
「・・・・・・」


・・・。

 

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「・・・ねぇ、祐一」
「なんだよ」
「これ、貸して」
「だから貸してやるって今、言っただろっ」
「あれ? そだっけ?」
「そうだよ」
「真琴の部屋、持っていっていい?」
「それも言った」
「あ、いいの? すぐ返すからね」
「ああ」
「・・・・・・うーん・・・」
「・・・どうした」
「全部、いい?」
「それも言った!」
「あはは、ラッキー」


計五冊の漫画本を嬉々として抱え、部屋を出てゆく真琴の後ろ姿を見て、俺は首を傾げずにはいられない。


「一体何をしにきたんだ、アイツは・・・」


・・・。


「祐一ーっ」


また真琴の声がして、ノックもなしにドアが開いた。


「おまえなぁ、ノックをしろって言ってるだろ」


俺はベッドから上体だけを起こして、真琴の顔を見た。


「祐一、祐一、もう漫画の本ないの?」
「ないよ。 名雪の奴も持ってないだろうし、この家にはもうないんじゃないかな」
「あぅーっ・・・」


行き場を失ったように、ジタバタする。

が、その目が俺の手に持っているものを見て、急に色めき立つ。


「なにそれ?」
「これか? 見てわからないのか」
「うん。 白くて柔らかそう・・・」
「肉まんだよ」
「肉まん?」
「よし、匂いだけ嗅がせてやろう」
「うんっ」


頷いて、ぱたぱたとベッドの脇まで寄ってくる真琴。

その鼻もとに、まだ湯気をあげる肉まんの、肉がこぼれ落ちそうな断面部分を近づけてやる。


くんくん・・・


「はぅーっ・・・」


ガチンッ!!


「痛い・・・」


食べようとしたところを、俺がサッと手を引いたため、真琴の歯が空振りしたのだ。


「油断ならない奴だな、おまえ。 匂いだけって言っただろ」
「そんなぁ・・・」
「涎っ!」
「えっ? わぁっ・・・」


垂れかけていた涎を慌てて上着の袖で拭う。


「もう出ていけ。 これ以上居座られると、手首ごと食われてしまいそうだ」
「ねぇ、それ秋子さんに作ってもらったの?」
「違うよ。 自分で買ってきたんだ」
「買えるかなぁ、真琴でも・・・」
「金あるんだろ? 商店街まで出れば、買えるよ」
「漫画は? 漫画の本も買える?」
「ああ、買えるよ」
「・・・・・・」


真琴は上着のポケットから財布を取り出すと、中身と睨めっこし始める。


「あぅーっ・・・」
「おい、だからこんなところで、あぅあぅ悩むな。 自分の部屋に戻ってやってくれ」
「・・・いってくる、商店街」
「ああ、いってこい」


それだけ言うと、真琴は一目散に駆けて、部屋を出ていった。


・・・。


読みかけだった本を読み切ってしまったところで、時間を見る。


「・・・・・・」


夕飯まではもうしばらくありそうだけど、何をするにも足りない、というような中途半端な時間だった。

このままぼ~っとして過ごすのもいいが・・・。


ぼ~っ・・・


ぼけ~っ・・・


キシャ~ッ・・・


待て、キシャ~ッてなんだよ?

ぼ~っと、ぼけ~っはわかるが。

なんて馬鹿なことを考えて過ごした。


・・・。


夕飯を食べ終え、部屋に戻ることにする。

ドアノブに触れたところで、とんとんと階段を上がってくる足音。

そのほうへ顔を向けると、名雪が俺の姿を見つけ、急いでやってくるところだった。


「祐一」
「食後のマッサージか。 悪いな」
「そんなのしないよっ。 それに、食後にマッサージなんてしたら、気持ち悪くなるよ、たぶん」
「そうか。そうだな。 じゃ、風呂上がりに頼む」


俺はそれだけを言って、部屋に入ろうとしたが、名雪が待って、と呼び止めていた。


「なんだよ」
「まだ、用言ってないよ、わたし」
「風呂上がりにゆっくり話そうな」
「だから、マッサージなんてしないよっ」
「じゃ、なんだよ」
「ノート返してもらいにきたの」
「ノートぉ?」


俺はハニワ顔になる。


「貸してあったよ、わたしのノート」
「あ、そうか、そうだったな」


先週のうちに、学校の勉強内容を把握するために名雪からノートを借りていたことを思い出した。

といっても、借りているだけで、まだ目さえ通していなかったが。


「今から予習復習するの。 だから今夜は返して」
「ああ、待ってろよ」


・・・。


部屋に入り、教科書とノートをまとめて放り込んである机の引き出しを開く。

といっても、そのほとんどが学校の机の中に置きっぱなしだったから、滅多に使わないような教科書や新品のノートぐらいしか入ってなかった。


「・・・・・・」


床に投げ出してあったままの鞄を手に取り、中身を調べる。


「・・・・・・」


名雪のノートなんて、どこにもない。


・・・。

 

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「というわけで、学校だ」
「嘘だよね」
「悪い悪い。 明日学校で言ってくれたら、その場で返すから。 じゃ」
「じゃ、じゃないってば」
「じょ」
「じょ、でもないよ~っ!」
「じゃあ、なんだよ」
「それはこっちが聞きたいよ・・・どうしたらいいんだよ~」
「おまえ、疲れてるんだよ。 とっとと寝てしまえ」
「誤魔化さないでよ~」


どうやら名雪は、教科書とノートは毎日家に持ち帰り、予習復習を行っているらしい。

俺みたいに掃除当番泣かせの重たい机にはしていないのだ。


「じゃあ、どうしたいんだよ、おまえは」
「わたしは、予習復習をしたいだけだよ・・・」
「じゃ、俺に今から・・・。 風呂入って湯冷めしないうちに寝ろ、と言うんだな?」
「言わない」
「あ、そう。 で今夜は冷えるからな、言われなくてもそうするぞ、俺は」
「昔から変わってないよね、そういうところ」
冷え性なところか?」
「違うよっ。 自分の都合でわたしを困らせても平気なところ」
「困ってたのか?」
「なんだと思ってたの~」
「まあ、一日ぐらい予習復習ができなくたって、そのぶん授業中に頑張ればいいじゃないか」
「そうなんだけどね・・・」
「ノートは明日、学校で言ってくれ。 じゃあな」


・・・。


夕べと同じように、リビングで、テレビのニュースを一通り見た後、寝ることにする。

また明日も、朝から寒い一日となるのだそうだ。

温かくして寝よう。

そういえば、と思い当たる。

真琴の部屋の前を通りかかって。

悪戯に対して一言でも釘を差して寝たほうがいいだろうか。

それでも中から物音は聞こえなかったから、もう寝入っているのかもしれない。

起こすのもはばかれる。

俺は素通りして、部屋へと戻った。


・・・・・・。


・・・。


ギ・・・ギ・・・


(ん・・・?)


ギ・・・ギ・・・


また音がする。


(真琴の奴か・・・。 わざわざ起き出して・・・今度は何をしようっていうんだ・・・?)


ガチャ・・・ぎぃ・・・


俺の部屋のドアが開く。


「あはは・・・」


(ばれてるんだよ、馬鹿)


俺はまた、飛び出す頃合いを見計らって息を潜める。


「・・・・・・」


シュッ。


何かを擦る音が聞こえた。

実際は小さい音なのだろうが、この静けさの中、それは一際大きく聞こえた。


ぎぃ・・・ばたんっ。


ドアが閉められ、人の気配がしなくなる。


「ありゃ?」


・・・何をしていったのだろう。

俺は暗闇の中、目を凝らしてみる。

が、それよりも早く鼻が異様な臭気を察知した。


「なんだぁっ!?」


さっと、壁の端に寄り、電灯をつける。

部屋の中心からモクモクと煙幕が立ち上っていた。


「ぶわぁっ!」


この寒い中、俺は窓を全開にし、室内の煙を逃がしてやる。


「なにがあるんだ、一体!?」


煙を避けて床を這うようにして部屋の中心に辿り着くと、そこに小さな円筒物を発見した。

煙はそこからモクモクと上がっている。

手にとってみると、発煙式の殺虫剤だった。


「あいつ・・・うおりゃっ」


分厚い辞書で、その発煙筒に蓋をする。

それでぴたりと煙が止んだ。

しかしこんな悪戯をして、一体どういうつもりなんだろう。

わけもなく憎いという理由で、こんなことをされ続けていたら堪ったものではない。

ぶるっと体に寒気を覚える。

気がつくと室内には風が通っていた。


・・・。


開けっ放しだった窓を閉め、再び布団に体を潜り込ませる。

これを最後に、落ち着いてくれればいいのだが。

そう願って、目を閉じた。


・・・。