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Kanon【24】(終)

 

1月27日 水曜日


・・・。


「・・・祐一さん」


・・・微睡みの中で、俺を呼ぶ声が聞こえる・・・。


「・・・朝ですよ、祐一さん」

・・・朝。


「・・・ふぁ」

 

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「おはようございます、祐一さん」
「・・・おはようございます」


目を擦りながら周りを見てみると、そこは自分の部屋ではなかった。


「・・・そっか」


不意に、昨夜の記憶が蘇る・・・。

確か、あゆが真夜中に訪ねてきて・・・。


「・・・・・・」


それで、ベッドをあゆに譲って俺はここで寝ることにしたんだった・・・。


「朝ご飯、もう準備しても構わないですか?」
「・・・え、ええ」


きっと、起きてきた秋子さんがびっくりするだろうという予測は、見事に裏切られた。


(・・・相変わらず冷静な人だ)


そんなことを考えながら、毛布と布団を押し上げる。


(・・・あゆのやつ、まだ寝てるのか・・・?)


・・・。


制服に着替えるという用もあって、階段を駆け上がる。


「・・・あれ?」


しかし、部屋の中には誰の姿もなかった。


「・・・もう帰ったのかな・・・」


とりあえず、当初の予定通り制服に着替えて、部屋を後にした。


・・・。

 

名雪は、朝練ですでに家を出ていたので、今日はひとりで登校ということになる。


「・・・あ、祐一君」

門の横に、あゆの姿があった。


「どうしてこんなところにいるんだ?」
「一緒に行こうと思ったんだよ」
「そうじゃなくて・・・どうして家の中で待ってなかったんだ?」
「・・・えと・・・恥ずかしかったから・・・」


確かに、いきなり真夜中に訪ねてきて、そのまま部屋に居座っているところを見られたら恥ずかしいのかもしれない・・・。


「えっと・・・名雪さんは・・・?」
「今日は部活の朝練。 だから、俺たちだけだな」
「・・・そうだね」
「途中までだけど、一緒に行くか?」
「うんっ」


いつものリュックを背負いなおして、あゆが元気よく歩き出す。


「いつも思うんだけど、そのリュックの中って何が入ってるんだ?」
「普通だよ」
「普通じゃわかんないって」
「教科書とか、ノートとか、筆記用具とか・・・。 他にも、友達に借りたCDとか、雑誌とか・・・」
「何だ、本当に普通だな」
「だから言ったんだよ」


他愛ない会話。

そのひとつひとつが、何より大切な時間だった。


・・・。


「ボク、こっちだから」


通学路の途中で、右の脇道を指さす。


「そっか、あゆの学校ってこっちなんだな・・・」
「うん。 まだずっと奥だけど」
「しかし、いいよな。 私服登校っていうのも」
「そうでもないよ」
「でも、学校帰りに遊んでても分からないだろ?」
「うーん、そうかも」
「制服なんか、堅苦しいだけで何もいいことなんてないぞ」
「でもボク、祐一君の学校の制服、憧れるよ」
「あの変な制服が?」
「変じゃないよ・・・。 ボク、一度でいいからあの制服着てみたいな」
「今度名雪に借りたらどうだ?」
「・・・うぐぅ・・・でも、サイズが・・・」
「確かにそうだな・・・」


パジャマでも合わなかったんだから、制服がぴったりのはずがない。


「俺みたいに転校するとか」
「それこそ無理だよ・・・」
「でも、一度あゆの通ってる学校っていうのを、見てみたいな」
「・・・ボクの学校?」
「あゆがそれだけ大好きだって言う学校を、一度見てみたい」
「それなら、ボク、案内するよ」
「お。 いいのか?」
「それくらい大丈夫だよ」
「じゃあ、いつにする?」
「今日でいいよ」
「だったら、今日の夕方にな」
「うん。 楽しみにしててね」
「それはそうと、ずいぶん歩いてきたけど、学校は大丈夫なのか?」
「え・・・? わっ」


慌てて、来た道を引き返す。


「また後でね、祐一君っ」
「ああ」


振り返って手を振るあゆを見送って、俺も自分の学校に向かう・・・。


・・・・・・。


・・・。

 


チャイムが鳴って、今日の授業が全て終了した。


「祐一、放課後だよ」
「やっと、終わったな」


そそくさと鞄の中に必要な物を詰める。


「祐一、今日はこれからどうするの?」
「学校」
「・・・え?」
「俺はこれから学校だ」
「・・・学校?」
「じゃあな、名雪


鞄を背負って、教室を出る。


「・・・う、うん」


その背中を、名雪が不思議そうに見送っていた。


・・・。

 

駅前に辿り着く頃には、すっかり陽も傾いていた。


「・・・祐一君」


ベンチに座って待っていたあゆが、俺の姿を見つけて駆け寄ってくる。


「こんにちは、祐一君」
「今日は早かっただろ?」
「うん。 そうだね」
「じゃあ、早速行くか」
「うんっ。 案内するよ」


先頭を切って、あゆが歩き始める。


「こっからどれくらいかかるんだ?」
「うーん・・・。 30分くらい」
「結構かかるんだな・・・」


駅前の時計で時間を確認する。

日が落ちるまでは、まだ少し余裕がありそうだった・・・。


・・・・・・。

 

・・・。

 

その場所は、街の外れにあった。

鬱蒼と茂る、森の入り口。

その木と木の間に、子供がひとりやっと通れるような、そんな隙間があった。

その空間に存在する物は、複雑に枝を絡ませた、木々。

そして、その上に降り積もったままの、雪。

そのふたつだけだった。


「・・・・・・」


その前で、あゆが立ちすくんでいた。

背中を向けているあゆの表情は分からない。


「・・・まさか・・・この中に・・・入っていくのか?」
「・・・・・・」
「森のそばって・・・中のことだったのか?」
「・・・うん」


目の前に広がる森の姿に、一番驚いているのは、あゆ自身に思えた。


「・・・この中に学校があるんだよ・・・」
「ずいぶんと不便なところだな・・・」
「・・・うん」
「なぁ、あゆ・・・」
「・・・・・・」
「本当に、こんな所に学校があるのか?」
「・・・・・・」
「どう考えたって・・・」
「・・・ある・・・もん・・・絶対に、あるもんっ」


深い動揺の混じった声・・・。


「・・・・・・」
「おいっ、待てって!」


そのまま無言で、あゆは森の中に足を踏み入れる。


「・・・くそっ」


あゆひとりを行かせるわけにもいかない・・・。

何より、あゆの様子が明らかにおかしかった。

俺も、その小径に一歩を踏み出す。

あゆの姿は、そのずっと先にあった・・・。


・・・・・・。

 

・・・。

 

しばらくは、お互い無言だった。


道なき道・・・。


そんな言葉が一番しっくりとくる。


「・・・・・・」
「・・・・・・」


道はどんどん狭くなっていく。

そして、あゆの表情には、明らかな焦りの色が出ていた。


「何度も訊いてあれだけど、本当にこの先に学校があるのか・・・?」
「・・・あるよっ・・・ボクが通ってた・・・ずっと通っていた学校。 今日だって・・・」
「・・・・・・」


あゆの歩調はどんどん速くなっていく。

しかし、それに比例して道は狭くなり、俺たちの侵入を阻んでいた。


・・・やがて・・・。


その場所は、目の前にあった・・・。

 

・・・。

 

 

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ぽっかりと開いた場所だった。

大きな切り株を中心に、その周りだけ地面が顔を覗かせていた。

さながら、好奇心旺盛な子供たちの遊び場になりそうな、そんな空間だった。


「・・・・・・」


あゆは、その場所・・・特に、大きな切り株をただじっと見つめていた・・・。

大人が3人手を繋いでも1周できないような、そんな巨大な切り株だった。

そして、そんな風景が真っ赤に染まっている。


「・・・・・・」


赤い風景・・・。

何かが、記憶の片隅で動いた・・・。

思い出の奥底・・・。

忘れていた風景・・・。


「・・・嘘・・・だよ・・・」


あゆが、震えるような声で、呟く。


「・・・どうして・・・ボク・・・どうして・・・」


あゆは、明らかに何かに怯えていた。


「・・・ここ・・・知ってる・・・」


嗚咽にも似た、あゆの声・・・。

「・・・ボク・・・ここで・・・学校・・・嘘・・・だよ・・・そんなの・・・嘘・・・だよ・・・だって・・・だって・・・」


涙混じりの、あゆの悲壮な声だった・・・。


「・・・ボク・・・ここにいるよ・・・だったら・・・どうして・・・」
「あゆ・・・」


一体、何が起こっているのかさえ、俺には分からなくて・・・。

あゆに声をかけることさえできなかった。


「・・・ボク・・・ここにいたらいけないの・・・?・・・いたら・・・いけない人間なの・・・?」


それは、誰に対する問いかけなのかさえ、今の俺には分からなかった・・・。


「・・・嘘・・・嘘・・・だよ・・・嘘だよ・・・っ」


・・・。

 

 

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「そんなの嘘だよっ!」


「おい、あゆっ!」


あゆが、糸の切れた人形のように、その場に崩れ落ちる。


「・・・そうだ・・・」


ぽつり・・・と、あゆがかすれた声で呟く。


「・・・鞄・・・」


何かを思い出したように、あゆが背負っていた鞄をおろす。


「・・・今日も・・・学校あったもん・・・だから・・・だから・・・」


鞄のホックを外して、中身を開ける。


「・・・え・・・どう・・・して・・・」


しかし、鞄の中は空っぽだった・・・。


「あゆ・・・一体何があったんだ・・・?」
「・・・・・・」


鞄を置いたまま、あゆが立ち上がる。


「・・・大したことじゃないよ・・・」


その声は、聞き取れないくらい、涙が混じって・・・


「・・・昔のこと・・・思い出しただけだから・・・」
「昔のこと・・・?」
「・・・ボク・・・探さないと・・・」
「おいっ! あゆっ!」


鞄を置いたまま、あゆが走り出す。

俺は、慌てて鞄を拾い上げる。


そして・・・。


俺は、鞄を持ったまま、すぐにあゆの後を追いかけた。


・・・。

 

森の中を、来た時とは逆の方向に走る。

すでに、陽はほとんど隠れて、鬱蒼とした森の中は闇に等しかった。

そんな中で、あゆの小さな背中を追って、ひたすら走る。

薄暗い道と、突き出した枝が行く手を遮る。

それでも、あゆの背中を見失わないように、ただ必死で走った。

今、あゆを見失ってしまうと、二度と会えないような・・・そんな気がしたからだ。


「・・・・・・」


どれくらい走ったかも分からない・・・。

やがて、明かりのある場所に出た。

 

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そこは、遊歩道のような場所だった。

まばらな街灯に照らされて、両端の木々が闇の中に浮かび上がっていた。

ただ、闇雲に走り出した、あゆの背中を追ってきた末に辿り着いた場所。

気がつけば、俺はここに立っていた。

見上げると、いつの間に降り出したのか、闇に霞んだ雪がゆらゆらと舞い落ちていた。

風はない。

穏やかで、そして静かな夜だった。


「・・・あゆ」


突然せきを切ったように泣き出した少女の名前を呼びながら、闇の向こうに目を凝らす。

木々の隙間。

かろうじて街灯の明かりが届くか届かないかの空間に、人影があった。


「あゆっ!」


その声が届いたのかどうかは分からない。

俺は、雪を踏みしめながら、その人影に近づいていった・・・。


・・・。

 

そこは、さらに闇の中だった。

光はほとんどない。

あるはずの月明かりも、分厚い雪雲に囲まれて、その光は届かない。

雪が強くなっていた。

空を見上げると、白い粒が螺旋に流れている。


「あゆっ!」


何も見えない闇に向かって、その少女の名前を叫ぶ。

あの時のあゆの表情・・・。

まるで、どうしようもない悪夢を目の当たりにしたような、そんな絶望的な涙だった。


「あゆっ!」


もう一度、その名前を呼んでみる。


静まり返った空間に、俺の声だけが響く。


「・・・くそっ」


ここにあゆが来ていることは間違いない。


まるで何かにすがるような・・・。


俺が最後に見たあゆの表情は、そんな絶望に捕らわれていた。


いつも元気で、


そして無邪気で、


からかうと、拗ねて、起こって、


でも、すぐに笑顔で、


そう、最後にはいつも笑顔だった。

 

「・・・・・・」


だけど、最初は違っていた。


7年前、あの商店街で出会ったときのあゆは、深い悲しみの中で泣いていた。

今のあゆは、その時に似ていた。


探さないといけない・・・。


今、あゆを見失うと、もう二度とあゆの笑顔を見ることはできない・・・。


そんな気がした。


まとわりつく雪を払い除けながら、奥へ奥へと入っていく。

少しずつ目が闇に慣れてきたとはいえ、それでも手探りでないと進めない。


ザ・・・。


雪の降る音さえ聞こえそうな静寂の中で、土を掘るような音が鼓膜を振動させた。

 

ザ・・・ザ・・・。


間違いない。

 

「・・・あゆ?」


手探りで音のする方に歩いていく。


ザッ・・・ザッ・・・。


木々に囲まれた空間。

少しずつ、音が大きくなる。


そして、その先に・・・。

 

 

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「・・・・・・」


濡れた地面に膝をついて、土をかきだしていた。


「あゆっ!」
「・・・・・・」


無言で、土をかき出す。


「何やってんだ!」
「・・・・・・」


再び、土をかき出す。


「・・・・・・」


淡々と同じ作業を繰り返す。

やがて、あゆの手がとまる。

泥をかき出した手は、痛々しいくらいすり切れていた。

僅かに、赤いものが滲んでいる。

 

 

「・・・探し物・・・だよ」


今やっと俺の存在に気づいたかのように、あゆが顔を上げる・・・。

泣き笑いのような表情だった。

危うい均衡で保たれた表情。

ほんの少しのきっかけで、そのまま泣き崩れてしまいそうな・・・。


「探し物って、ここに埋まってるのか?」
「・・・うん」
「だったら、明日、夜が明けてから探せばいいだろ?」
「・・・ダメ、だよ」
「・・・・・・」
「・・・だって」


俺の方を向いて、悲しげに笑う。


「・・・夜は、明けないかもしれないよ」


悲しみを通り越したような表情で、消え入りそうな声で・・・。


「・・・・・・分かった」


コートを脱いで、あゆの体にかける。

そして、あゆの隣に座り込む。


「・・・祐一・・・君?」


雪の冷たい感触、そして、溶けた水がズボンの膝に染み込んでくる。


「どうしても探し出さないといけないんだろ?」
「・・・うん」
「だったら、さっさと見つけるぞ」
「・・・・・・」
「探し物、見つけだすんだろ?」
「・・・う、うん」
「ここのどこかにあるのか?」
「・・・うん」


地面に膝をついて、真下の雪と泥をかき分ける。

ひたすら、そんな作業が続いた。

場所も分からない・・・。

どんな物なのかさえ分からない・・・。

それでも、俺たちは指が痛くなるまで掘り続けた。


しかし・・・。


何かが出てくることは、最後までなかった。


・・・。

 

 

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「ひどい姿だな、お互い・・・」
「・・・うん」
「あゆ、お前、コートはどうしたんだ?」
「・・・そこ」


1本の木を、指さす。

その木の枝に、あゆのダッフルコートがかかっていた。


「ちょっと待ってろ、取ってきてやるから」
「・・・ごめんね、祐一君」
「いいって、これくらい」


あゆに背中を向けて、コートのかかっている木に向かって歩く。


「もう、会えないと思うんだ・・・」


コートを手にした俺の背中に、淡々としたあゆの言葉が投げかけられる。


「せっかく、再会できたのに・・・。 本当に・・・ごめんね・・・」
「おいっ! 何を言って・・・」


振り返った先・・・。

そこにはもう、あゆの姿はなかった・・・。

 

――『もう、会えないと思うんだ・・・。 ごめんね、祐一君・・・』


――『せっかく、再会できたのに・・・』

 

――『本当に・・・ごめんね・・・』


あゆの、言葉のひとつひとつが、俺の心に重くのしかかっていた・・・。


だから・・・。


今の俺には、その場所でただ、立っていることしかできなかった・・・。


まるで・・・。


あの、冬の日のように・・・。

 


・・・。

 

 


その日の夜、俺は夢を見た・・・。


夢の中の俺の手は小さくて、そして無力だった・・・

 

・・・。

 

「・・・・・・」


女の子がいた。


「・・・・・・」


オレンジに浮かび上がる場所で、木のベンチにちょこんと座って・・・。


「・・・・・・」


たったひとりのことを、ずっと待っていた・・・。


「・・・あ」


その人影に気づいて、少女は顔を上げる。

悲しげな表情から、笑顔へ・・・。

 

「・・・こんにちは」


まるで、氷が溶けるように・・・。


「祐一君っ」

 

 

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「遅いよ、祐一君」
「ごめん、今日はちょっと準備があったんだ」
「・・・準備?」
「荷物の整理とか、色々な・・・」
「・・・・・・」
「ほら、そんな顔すんなって」
「祐一君・・・もうすぐ帰っちゃうんだね・・・」
「前から言ってたことだろ?」
「・・・そう・・・だけど」
「あゆには、俺のとっておきの物をやっただろ?」
「願いの叶うお人形・・・?」
「そうだ」
「・・・このお人形にお願いしたら、祐一君、帰らない?」
「言っただろ、叶えられるのは俺にできることだけだって」
「・・・そう・・・だよね・・・」
「それにだ、まだ今日と明日があるだろ?」
「・・・・・・」
「2日もあれば、何だってできるぞ。 たい焼きだって食べられるし、木にだって登れる・・・」
「・・・・・・」
「今日は、あゆの行きたいところに連れていってやるぞ」
「あの場所がいい・・・」
「また、街を見るのか?」
「うん・・・」


力なく頷くあゆが、立ち上がる。


「・・・あゆ」


あゆに顔を見られないように後ろを向く。


「俺だって、帰りたくないんだから・・・」
「・・・祐一君」
「ほら、行くぞっ。 ゆっくりしてると、日が暮れるぞっ」
「・・・う、うん」


・・・。

 

ほとんど溶けることのない雪に囲まれた小さな道を、俺を先頭に走り抜ける。

小径を塞ぐ枝を払い落としながら、すぐ後ろについてくる少女のために道を造る。

やがて、その場所が見えてきた・・・。


・・・。

 

編み目のように張った枝。

その上に降り積もった雪。

そして、オレンジの陽光。

その場所は、いつもとまったく同じ佇まいを見せていた。

 

 

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「やっぱり、綺麗な場所だね・・・」
「もう少し簡単に辿り着ける場所にあったらいいんだけどな」
「それだったら、秘密の場所にならないよ」
「それもそうか・・・」


開けた場所の中央に立つ大きな木・・・。

その先端は、赤く霞んでよく分からない・・・。

ずっと見上げていると、首が痛くなりそうだった。


「しかし、よくこんなの登れるな・・・」
「木登り、得意だもん。 それに、途中までだよ」
「俺は、途中までだって無理だ・・・」
「というわけだから、後ろ向いててね」
「また後ろ向くのか?」
「もちろんだよ」
「最後なんだから、見ててもいいとか・・・」
「ダメだよ」


きっぱりと言い切る。


「・・・それに、まだ最後じゃないもん・・・明日だって、あるもん・・・」
「そうだったな・・・」
「だから、後ろ向いてて」
「分かったよ」


あゆに背中を向ける。


「ありがとう、祐一君」


俺は、後ろを向いてゆっくりと目を閉じる。


木々のざわめきが、風の歌が、雪の降り積もる音がすぐ近くに聞こえる。


「・・・・・・」


この瞬間が好きだった。


目を閉じても、これだけのものを感じ取ることのできる、今の一瞬が好きだった。


「・・・もういいよ」


あゆの声が天井から聞こえる。

俺はゆっくりと振り返った。


眩しい逆光の中、空を見上げると、あゆの姿が小さく霞んでいた。

 

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「いい風・・・」


太い木の枝に両手をついて、通り過ぎる風に体を委ねる。


「夕焼けもいいけど、違う風景も見たかったよ・・・」


小さな声。


どこか憂いを含んだ声。


「祐一君・・・」


不意に、俺の名前を呼ぶ。


「あと、ふたつ残ってるよね。 お願い」


ポケットに入れていた天使の人形を取り出す。


「祐一君にできることだったら、どんな願いでも叶えてくれるんだよね・・・?」
「約束しただろ」
「本当にどんなお願いでもいいの?」
「ああ、もちろんだ」
「本当にほんと?」
「本当にほんとだ」
「本当に本当にほんと?」
「本当に本当にほんとだ」
「・・・・・・だったら・・・ボクの・・・お願いは・・・」


人形を抱きしめて、あゆが言葉を紡ぐ。


「今日だけ、一緒の学校に通いたい・・・。 この場所を、ふたりだけの学校にして・・・祐一君と一緒に学校に行って・・・。 祐一君と一緒にお勉強して・・・。 祐一君と一緒に給食を食べて・・・。 祐一君と一緒に掃除をして・・・。 そして、祐一君と一緒に帰りたい・・・」


一気に言葉を続けて、そして呼吸を整える。


「こんなお願い・・・ダメ・・・かな・・・?」
「・・・約束しただろ・・・俺にできることだったら何でも叶えるって」
「・・・・・・」
「今から、ここは学校だ」
「・・・・・・」
「厳しい校則も、決められた制服もない、自由な学校だ」
「宿題は?」
「もちろん、なし」
「テストは?」
「テストもなし」
「嬉しいよ」
「休みたい時に休んでいいし、遊びたい時に遊んでもいい」
「いい学校だね」
「俺たちの学校だからな。 それくらい自由でもいいはずだろ?」
「それなら、ボクも・・・。 給食は、たい焼きが出るんだよ」
「・・・まさか、毎日たい焼きか?」
「うん。 毎日たい焼き」
「毎日はちょっと・・・」
「ダメだよ、毎日できるもん」
「だったら俺は、冷暖房完備で机には全部テレビつきだ」
「あはは・・・そんなの学校じゃないよ」
「いいんだって、自由なんだから」
「そうだよね・・・ボクたちの学校だもんね・・・。 ボクたち、ふたりっきりの・・・」


そう言って笑ったあゆの表情は、まだ少し寂しそうだった。


「また、この学校で会おうな」
「ここで・・・?」
「いつか約束しただろ? ここで再会しようって」
「・・・うん」
「だから、今度俺がこの街に来たときは・・・」
「待ち合わせ場所は、学校」
「そういうことだ」
「うんっ・・・約束、だよ」


その瞬間から・・・。

この場所は、俺たちふたりだけの学校になった・・・。


他愛ない、学校ごっこ・・・。


本当に他愛ない、子供の遊び・・・。


ただ、それだけだった・・・。

 

・・・。


それだけの・・・はずだった・・・。

 

・・・。

 


1月28日 木曜日


気がつくと、窓からは眩しいくらいの光が射し込んでいた。


朝。

朝と呼ばれる時刻。


「・・・・・・」


頭がずきずきと痛んだ。

嫌な痛みだった。


「・・・・・・」


それでも、懸命に体を動かして起きあがる。

指先に、痛みがあった。


「・・・・・・」


鋭い痛み。

見ると、まだ僅かに血が滲んでいる。

そして、蘇る昨日の記憶。

あいつ、手は大丈夫だろうか・・・。

風邪、ひいてないだろうか・・・。


制服に着替えて、そしてカーテンを開ける。


昨日の雪が嘘のように、真っ青な空がどこまでも広がっていた。

 

 

青い空と、白い街。

そして、流れる雲。


どこか、寂しい風景に思えた。


――『もう、会えないと思うんだ・・・』


あゆの言葉。

あゆが残した言葉。


「もちろん、たちの悪い冗談だよな?」


出た言葉も白く染まって・・・。

まるで雲のようだと、場違いなことを考えていた。


・・・。


「おはようございます、祐一さん」


秋子さんが微笑む。


「まだ寝ていてもよかったんですよ」


そんな、優しい声をかける。

まるで、俺の心の内を知っているかのような表情だった。


「でも、学校がありますから」
「あまり、寝ていないのではないですか?」


コーヒーをテーブルに置く。


「体調が優れないのでしたら、学校、お休みしても構わないですよ」
「いえ、大丈夫です」


熱いコーヒーを飲みながら、大丈夫でないことは、俺自身が一番よく知っていた。

 

「・・・おはようございます」


瞼を擦りながら、名雪が起きてくる。


「・・・お母さん、わたしにもコーヒー・・・」
「ちゃんと、入れていますよ」
「・・・ありがとう・・・」


本当に、いつも通りの朝の風景だった。

だから当然、この家の住人ではない、あゆの姿を見ることはなかった。

 

・・・。

 

「いいお天気」


真新しい雪を踏みしめながら、名雪が呟く。

昨夜の雪には、まだ誰の足跡もついてはいなかった。


「確かに、いい天気だ」


まだ痛む頭を抱えながら、空を見上げる。


「今日も、綺麗な夕焼けが見られそうだ」
「祐一、夕焼け好きなの?」
「別に、好きじゃないけど・・・」
「綺麗だよね」
「それよりも、時間」
「うん。 今日は走らなくても大丈夫」
「それは、何よりだ」


正直、今の体調で走るのは辛かった。


「いこ、祐一」

 

嬉しそうに足跡を残しながら、名雪が先に歩く。


「ああ」


その後ろに続くように、ふたりで歩く。

他に、人はいない。

俺と名雪、ふたりだけ・・・。

 

・・・。

 

授業が終わると、俺はすぐに席を立った。


6時間の授業が、今日ほど辛く感じたことはなかった。

まだ、頭が痛い。

 

「・・・大丈夫、祐一?」


同じように帰り支度を始めていた名雪が、心配そうに声をかける。

 

「俺は、大丈夫だ」
「・・・それなら、いいけど」


複雑な表情だった。


「じゃあ、俺、先に帰るから」
「うん」


鞄を持って、教室を出る。

そして、いつものようにあの場所へ向かう。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

オレンジ色の光に包まれた街。

ガラスに反射した光が、より一層、赤を引き立てていた。


――『あ・・・。 祐一君っ』

 

パタパタと羽を揺らしながら、笑顔で駆け寄ってくる少女の姿は、そこにはなかった。

 

――『もう、会えないと思うんだ・・・』

 

その言葉の意味が、目の前にあった。

誰もいないベンチ。


人通りは多かった。


だけど、その中に、探し求めている人の姿はなかった。

 

「・・・・・・」

 

雪の積もったベンチに座って、ただ夕焼け空を眺める。


あゆも、こんな気持ちだったのだろうか・・・。


いつ来るかも、本当に来てくれるのかも分からない人を、ただじっと待っている・・・。


夕焼けの赤が姿を潜めて、代わりに夜のとばりが降りる。

あれだけあった人通りも、今はほとんどなかった。

そして、俺はあゆのことを何も知らなかったのだという事実に気づく。

あゆの住んでいる場所も、電話番号も・・・。


いくつもの偶然だけで、あゆとは出会ってきた。

だから、あゆとはいつでも会えると思っていた。

毎日会えると思っていた。


だけど・・・。


今、目の前にある風景が、現実だった。

 

・・・。

 

夕飯を断って、俺はひとり部屋に戻っていた。


指の痛みは消えても、頭痛はまだおさまらない。

ふと、部屋の片隅に目をやる。


あゆの忘れ物。


何も入っていない、リュックサック・・・。


泥で汚れた羽が、寂しげに見えた。


「・・・お気に入りじゃなかったのか」


空っぽだった中身を見たときの、あゆの表情。


そして、ただ懸命に土を掘っていた、今にも泣き崩れそうな表情。

あの場所に埋まっている物・・・。

それが何かさえ、今の俺には分からなかった。


・・・。

 

・・・・・・。

 


「・・・祐一君」


すぐ隣に、不安げな表情の少女が立っていた。


「・・・真っ暗だよ」


怯えたような表情で、体を寄せる。

 


「・・・ボク、怖いよ」


小さな手で、涙を拭う。

俺は、その女の子の頭を撫でる。

 

「・・・ありがとう」


その手も、小さかった。

 

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「すっかり暗くなったな・・・」
「・・・うぐぅ・・・」


それでなくても薄暗い森の中は、夜になると当然のように真っ暗だった。


「・・・怖いよ・・・」
「大丈夫だって、俺がついてるだろ?」
「・・・うん・・・」
「大丈夫だって、森の外に出たら街灯だってあるんだから」


そうは言ったものの、俺だって怖くないわけではなかった。

ついさっきまでは赤い光に照らされていたその場所は、本当にあっという間に夜の風景に変わっていた。

闇に覆われた森は、まるで帰り道を閉ざしているようだった。


「とにかく、この森から出るぞ」
「・・・うん・・・」


力なく頷く。


「・・・でも、森じゃないよ・・・学校だよ・・・」
「そうだったな」
「・・・うん・・・」
「歩けるか?」
「・・・うん・・・大丈夫だと思う・・・」
「よし」
「・・・あ」


あゆの手を握って、そして、闇の中を歩き始める。


・・・。


本当の闇の中を、俺たちはまっすぐ歩いた。


道は分からないけど、来た方向に真っ直ぐ歩けばいつか森を抜けるはずだ。


そう思っていた。


「・・・・・・」


あゆの手は、不安に震えていた。


「・・・手、放さないでね・・・」
「ちゃんと握ってるから大丈夫だ」
「・・・うん・・・」


泣きそうな声だったが、それでも健気についてきていた。


・・・。


・・・・・・。


どれだけ歩いたのか分からない。

本当に真っ直ぐ歩いているのかさえ分からない。


「・・・・・・」
「きっと大丈夫だ」


あゆにも、自分にもそう言い聞かせて、道かどうかも分からない道を歩く。

 

・・・・・・。

 

やがて、木々の合間に、うっすらと光のようなものが見えた。


「あゆ、もうすぐだ」
「・・・うん・・・」

 

その光に向かってしばらく進むと、舗装された道に出ることができた。


・・・。

 

そこは、両端を木々に囲まれた、遊歩道のような場所だった。

 

 

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「・・・祐一君・・・ここ、どこ?」
「とりあえず、森の外だな」
「ボク・・・こんな場所知らないよ」
「俺だって知らない」
「・・・・・・」
「大丈夫だって、森から出さえすれば、こっちのものだ」
「・・・うん・・・」

 

頷くあゆを促して、舗装された道を歩く。


「こんな場所もあったんだな・・・」


散歩するには良さそうな場所だった。

もちろん、昼間に限るけど。


「・・・あ」


あゆが声を上げて、立ち止まる。


「今、何か光ったよ?」


あゆは、茂みを見ていた。


「何か落ちてるのか?」
「うん」


その場所に、あゆが近づく。


「・・・ガラスの瓶」


あゆが手に持ったそれは、口の大きな、少し変わった形の瓶だった。

たまに、お菓子がこんな瓶に入って売られているのを見たことがある。

たぶん、これも同じだろう。

 

「・・・そうだ」


あゆが何かを思いついたように、頷く。


「祐一君、タイムカプセルって知ってる?」
「聞いたことはあるけど・・・」
「思い出の品とか、未来の自分への手紙なんかを中に入れて、土に埋めるんだよ」
「何のために?」
「数年後の自分に送るために」
「つまり、埋めてから何年か経ったら、自分で掘り起こすわけだ」
「うん。 そういうこと」
「で、そのタイムカプセルがどうしたんだ?」
「これ、使えないかな?」


そう言って、拾った瓶を取り出す。


「瓶はいいとして、何を入れるんだ?」
「これだよ」


それは、天使の人形だった。


「ダメかな?」
「でも、まだ願いがひとつ残ってるだろ?」
「ボクは、ふたつ叶えてもらったから、充分だよ。 残りのひとつは、未来の自分・・・。 もしかしたら、他の誰かのために・・・送ってあげたいんだよ」
「でも、願いを叶えるのは俺なんだろ?」
「がんばってね、祐一君」


闇の中で、あゆが穏やかに笑う。


「分かった。 俺は構わない」
「・・・うん。 ありがとう、祐一君」


そして俺たちは、落ちていた枝などを使って、地面を掘った。

 

「本当はもっと深く掘らないとダメなんだけど・・・」


そう言って、その穴に瓶を置いた。

中には、少し窮屈そうにしている、天使の姿があった。


「しかし、目印もないのに見つかるかな・・・」


上に土を被せながら、あゆの方を見る。


「大丈夫。 きっと、見つかるよ。 この人形を必要とする人がいれば、必ず・・・」

 

・・・。

 

結局、見知った商店街に出るには、もうしばらく時間がかかった。

思っていたより時間が遅くなかったことが、救いだった。

 

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「・・・ボク、ここでいいよ」
「本当にひとりで大丈夫か?」
「・・・うん」
「じゃあ、ここでお別れだ」
「明日・・・まだ、会えるよね?」
「そうだな、午前中だったら大丈夫だ」
「・・・それなら、明日の朝は、学校で待ってるよ」
「学校?」
「うん。 学校。 転校していく祐一君のために、お別れ会だよ」
「そうだな。 だったら、明日の朝は俺たちの学校で会おうな」
「うん。 指切り」
「学校に行くのに、わざわざ指切りなんてしないぞ、普通は」
「でも、指切り」
「そうだな・・・」


小さな指に、もっと小さな指が絡む。


それは温かくて・・・柔らかくて・・・。

指が離れたあとも、ずっと・・・。


思い出の中に、刻み込まれていた・・・。

 

・・・。

 


1月29日 金曜日

 

・・・。


・・・・・・。


目が覚めると、俺はそのまま天井を眺めていた。


何かが記憶の隅に残っていた。


まるで、消えゆく夢のかけらのように・・・。


手を伸ばしても、同じだけ遠ざかって・・・。

すぐそこにあるのに、それは遠くて・・・。


「・・・・・・」


俺は、そのまま部屋をあとにした。


・・・・・・。

 

・・・。

 


チャイムが鳴って、全ての授業が終了した。


「祐一、放課後だよ」
「そうだな」
「やっぱり、元気ない・・・」
「俺は、いつだって元気がないんだ」
「うーん、そんなことないと思うけど・・・」
名雪、今日も部活か?」
「今日はお休み」
「お。 珍しいな」
「だから、一緒に帰ろうよ」
「・・・・・・」
「今日も、用事?」
名雪、悪いんだけど、ちょっとつき合ってもらえるか?」
「商店街?」
「そうだな、少しだけは商店街だ」
「・・・よく分からないけど」
「どうしても、人手が必要なんだ」
「うん。 わたしは構わないけど・・・ふたりで大丈夫なの?」
「できれば、人数は多いに越したことはない」
「だったら・・・」

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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「実は、探して欲しい物があるんだ」
「ここにあるの?」
「ああ」


「それで、あたしたちは何を探せばいいの?


香里が当然の疑問を口にする。


「小さな瓶だ。 中に人形が入ってる。 この場所の、どこかに埋まっているんだ」


「・・・埋まってるの?」
「たぶん、どれかの木の根本だと思う」

 

「・・・どれか、って」


北川が、呆然と辺りを見渡す。


「木が何本あると思ってるんだ」


「それは、絶対にどこかにあるの?」
「間違いない」
「・・・分かったわ。 やれるだけやってみる」


「ふぅ・・・仕方ないな・・・」
「あたしはこっちから探すから。 北川君、反対側お願い」
「OK」


「・・・ありがとう」


「大切な物なんでしょ? あなたの表情を見ていたら分かるわよ」


「どうせ暇だったしな」


商店街で買った道具を持って、香里と北川が作業に取りかかる。


「わたしたちも」
「そうだな」


4人いても、それは気の遠くなるような作業だった。

木の根本に、針金を差し込んで、手応えがあれば掘り起こす。

ひたすらそ繰り返しだった。

 

・・・。

 

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夕方を通り越して、辺りはすでに闇の中だった。


それでもまだ、目的の物は見つからなかった。


「こっちにもなかったぞ」


「こっちも同じ」


「わたし、眠い」

 

「どうして見つからないんだ・・・」


闇に後押しされるように、気ばかりが焦る。


「もう一度探して見ようよ」

「そうね、見落としがあったって可能性もあるわね」

「なぁ、相沢。 本当にあるのか?」
「あるはずなんだ」


「誰かが掘り起こしたって可能性は?」
「それは、あり得るけど・・・」
「でも、まだある可能性も残ってるのよね?」


香里の問いに、頷いて答える。


「だったら、探しましょうか」

「そうだな、話をしてても見つかるわけないもんな」


「ふぁいとっ、だよ」

 

「・・・ありがとう」

 

そして、作業が再開される。

 

やがて・・。


「おいっ! これじゃないのか!」


北川が、声を張り上げる。


「ほら、一応瓶に入ってるし」


「でも・・・ひどいわね」

 

北川に渡されたそれは、瓶の蓋が割れていた。

そして、泥にまみれた瓶の中からは、小さな人形が出てきた。

 

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それは、手のひらにのるような、小さな天使の人形だった。


しかし、泥まみれのそれは、羽が片方もげて、頭にのっていたはずの輪っかも、なくなっていた。


「これでいいの?」
「ああ、間違いない」


7年前に、俺がゲーセンで4000円くらいつぎ込んで手に入れた人形だった。


どんな願いでも叶う人形・・・。

少女の願いを、ふたつ叶えた人形・・・。

しかし、その姿は無残なものだった。


「・・・祐一、わたしが直そうか?」
「できるのか?」
「うん。 ほとんど作り直しってことになると思うけど・・・」
「だったら、頼む」
「うん。 頼まれたよ」


「じゃ、あたしはそろそろ帰るね」


「俺も帰るぞ」

 

「本当にありがとうな、ふたりとも」


「いつかこの埋め合わせはしてもらうけど」
「そうだな、約束する」
「じゃあね」

 

「またね、香里」


軽く手を挙げて、香里が歩いていく。

 

「じゃ、俺も帰る」
「ああ、またな」

 

北川が消えて、名雪とふたりで取り残される。


「俺たちも帰るか」
「うんっ」


頷く名雪と一緒に、家路についた。


・・・。

 

布団に潜って、目を閉じる。

あゆの探し物は見つかった・・・。

しかし、それで何かが変わるのだろう・・・。

・・・。

 

やがて、吸い込まれるように夢の中に落ちていった。

 

・・・。

 

夢・・・。

 

・・・。

 

夢を見ていた。

 

・・・。

 

それは、昔の夢・・・。


7年前の夢・・・。


あゆと出会って・・・。


そして、思い出に深い悲しみを刻み込んだ日の夢・・・。


閉ざしていた記憶・・・。


忘れていた風景が、今、そこにあった・・・。

 

「・・・あゆのやつ、きっと怒ってるだろうな」


ため息をつきながら、それでも全速力で街の中を走る。

家を出るときに時間を確認したが、すでに走って間に合うような時刻でもなかった。


「・・・遅刻、ってことになるのかな」


あゆとの約束の場所。


――『それなら、明日の朝は、学校で待ってるよ』


ふたりだけの場所。

そこは、ふたりだけの学校でもあった。


偶然、この街で出会った。

そして、些細なきっかけで、毎日あの夕焼けのベンチで会うことになった。

あゆと会うことが、話をすることが、俺にとって本当にかけがえのない時間だった。


そして、あゆの笑顔が、何より嬉しかった。


でも・・・。


そんな時間も、今日で終わる。


俺にとってこの街は、雪の舞う間だけの、つかの間の思い出でしかないから。

俺の住む街は、遠くにあるから。


だから、少しでもたくさんの思い出を、残しておきたかった。


あゆとの思い出。


あゆの笑顔。


少しでも、長い時間・・・。

 

・・・。

 

 

目の前に、細い道があった。

周りを木々に囲まれた、寂しい場所。


雪を積もらせた木々が、森を形作る。


「・・・・・・」


約束の場所・・・。


この奥に、あゆがいる・・・。


きっと、頬を膨らませて、拗ねた表情で待っている。

そして、俺の姿を見つけると、非難するように、それでも笑顔を覗かせながら・・・


「祐一君、遅刻だよっ」

 

・・・と。


そして、いつもの他愛ない、そして、かけがえのない時間が流れる。

 

「・・・これも、渡さないと」


今日の日のために、小遣いを貯めて買った、あゆへのプレゼント。

その赤いリボンの包みを確認する。

商店街で、何時間もかけて選んだ・・・。


あゆだったらきっと似合うと思って最後に決めたプレゼントが、綺麗に包装されて、俺の手元にあった。

あゆは喜んでくれるだろうか?


いつもの笑顔を覗かせてくれるだろうか?


そんな不安と期待の中で、俺は森の中に一歩を踏み出す。


靴底に、雪の感触を感じながら・・・。


最後まで、あゆの笑顔を見ていられると・・・。


その時の俺は、ずっと信じていた。


すぐ目の前に、深い悲しみが待っているなんて、考えもしなかった。


真っ赤に染まった、雪を見るまでは・・・。

 

 

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「祐一君、遅刻だよっ」


あゆの拗ねたような声は、空から聞こえてきた。


森の開けた場所の、その中心にある、大きな木。


その枝の上に、あゆの姿があった。

いつものように、ちょこんと枝に座って、街の風景を眺めていた。


だけど・・・。


その時、風が吹いた。


木々を揺らす、強い風だった。

ただ、それだけだった。


「祐一く・・・」


その瞬間、全ての時間が凍りついていた。


風の音は聞こえなくなり、耳鳴りのするような静寂が辺りを包み込む。


風景は全てモノクロに変わって、白い雪がより一層白く見えた。


コマ送りのビデオのように、あゆの小さな体が舞っていた。

まるで、地面に向かって降り注ぐ、一粒の雪のように・・・。


そして、雪が地面に辿り着く。


ごとっ・・・。


音がした。


まるで、重たい石を地面に落とした時のような、低くて鈍い音。


それは、雪ではなかった。


地面に横たわるのは、少女の体。


枝に積もっていた雪が、ぱらぱらと少女の上に舞い落ちる。


少女は動かない。


少女は眠っていた。

雪を枕にするように、仰向けに、手足を投げ出して眠っていた。

ついさっきまであれだけ元気だったのに、今は穏やかに眠っている。


木霊のように響いていた少女の声も、今は聞こえない。

耳鳴りのするような静寂の中で、あゆが雪のベッドで眠っている。


ただ、それだけ。


赤い、雪の上で。


夕焼けに染まる雲のように、

真っ白だった雪が、赤に変わる・・・。

 

赤。


白黒だったはずの風景が、赤一色に染まっていく・・・。


その時。


俺は、耳鳴りの中で、微かな声を聞いた。


少女の声。


苦しそうな声。


俺を呼ぶ声。


その瞬間、凍った時間が動き出した。

 

「あゆっ!」


雪を蹴って、横たわる少女の元に駆け寄る。


足にまとわりつく不快な雪を払いのけて、少しでも早く、あゆの元へ。


「・・・祐一・・・くん・・・」


今度ははっきりと、その声を聞くことができた。

赤い雪の上で、微動だにしない少女。

その体を、抱き起こす。

 

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「・・・祐一・・・君・・・」


涙まじりのような、聞き取りにくい声。

それこそ、まるで安らかな寝言のように・・・。

あゆの体が、微かに動く。


「喋るな! 今、病院に連れていってやるから!」
「痛いよ・・・すごく・・・」
「分かったから、だから喋るな!」
「あはは・・・落ちちゃったよ・・・」


苦しそうに呟いたあゆの表情は、笑顔だった。

 

「ボク・・・木登り得意だったのに・・・」


少女の閉じた瞳に、うっすらと涙が浮かんでいた。


「でもね、今は全然痛くないよ・・・」


白から赤へ。

雪の絨毯が染まっていく・・・。


「ボク・・・どうなるのかな・・・」
「痛くないんだったら、絶対に大丈夫だ!」
「・・・うん・・・」


頷くように、まつげが微かに揺れる。


「・・・あれ・・・あはは・・・体・・・動かないよ・・・」
「俺が、連れていってやるから! だから、動かなくたっていいから!」
「・・・でも・・・動けないと・・・遊べないね・・・」

 

湧き出る水のように、伏せたまつげの先から透明な涙がにじみ出ていた。

 

「・・・祐一君・・・また・・・ボクと遊んでくれる・・・?」
「・・・・・・」


返事をしたいのに、頷きたいのに、どうしても言葉が出てこない。

喉の奥に何かが詰まったように・・・。

たった一言が、どうしても出てこなかった。


だから、俺はあゆの小さな手を握った。


昨日と同じ、柔らかくて温かな手は、力なく垂れ下がっていた。

 

「・・・嬉しいよ・・・」


また、まつげが微かに揺れる。

 

「・・・約束・・・してくれる・・・?」


握った手に、力を込める。

 

「・・・だったら、指切り・・・」


そう言って、いつものように笑っていた。


「・・・えっと・・・」


その笑顔が、微かに歪む。

 

「あはは・・・手が動かないよ・・・。 動かないと、指切りできないね・・・。 ボク・・・馬鹿だよね・・・」


滲んだ涙が、ゆっくりと頬を伝う。


俺は、強引なくらい、あゆの手を握りしめて、


そして、小さな小指に自分の指を絡ませる。


「ほら、これで指切りだ・・・。 ちゃんと・・・指切りしたぞ、あゆ・・・約束だから・・・」
「うん・・・約束、だよ」

 

それが精一杯のように、あゆが笑顔を覗かせる。


「あとは、一緒に指を切るだけだ・・・」
「・・・・・・」
「ほら、どうしたんだ・・・」
「・・・・・・」
「指切らないと、指切りにならないだろ・・・」
「・・・・・・」
「切るんだよ、指を・・・」
「・・・・・・」
「一緒に・・・切らないと・・・」
「・・・・・・」
「・・・指切りに・・・ならない・・・」
「・・・・・・」
「・・・あゆ・・・?」


あゆの手を握ったまま・・・。

俺の、あゆを呼ぶ声だけが、何度も何度も木霊のように響いていた・・・。


だけど、少女は動かなくて・・・。


もう、俺の名前を呼んでくれることもなくて・・・。


ずっと、ずっと・・・。


俺は、あゆの指を離すことができなかった。


雪の上に、ぽつんと取り残されたプレゼントの包み。


渡せなかったプレゼント・・・。


そして、それが俺の初恋だったことに気づく。


だけど、気づいたときには、もう、決して叶えられることのない思いだった。


俺は、ただ・・・。


赤い雪の上で、泣くことしかできなかった・・・。


・・・。

 

 

 

 

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「なぁ、あゆ」
「うん?」
「ほら、これ見てみろ」
「・・・なにこれ? プレゼントみたいな包みだね」
「みたい、じゃない。 間違いなくプレゼントだ」
「あ、そうなんだ。 誰のプレゼント?」
「別に・・・誰のってわけでもないけど」
「ふーん・・・」
「でも、もしよかったらお前にやる」
「え? ボクが貰っていいの? ホントに?」
「どうせ女物だから、俺が持ってても仕方ないしな」
「ホントにホントにボクが貰ってもいいんだよね?」
「要らないのなら、捨てる」
「全然要らなくないよ。 すっごく嬉しいよ」
「だったら、大人しく受け取れ」
「ね? 開けてもいいの?」
「お前にあげたんだから、好きにしてくれ」
「うんっ」
「・・・・・・」
「あっ・・・これってカチューシャだよね?」
「まあな」
「わっ、ありがとう祐一君っ」
「これでも高かったんだからな」
「うんっ、そうだよねっ。 あとで返せって言われても返さないからねっ」
「俺だって、返すって言われても受け取らないからな」
「そうだっ! 今度祐一君に会うときは、これつけて行くね」
「ああ、約束だぞ」
「うんっ、約束」


・・・。

 


それは、幻だった・・・。


ひとりの男の子が、初恋の女の子にプレゼントを渡して・・・。


女の子が満面の笑みで受け取るという・・・。


そんな、悲しい幻・・・。


だけど、その時の俺は、現実より幻を選んだ。


悲しい現実を心の奥に押し込めて、安らいでいることのできる幻を受け入れた。


弱い心が潰れないように・・・。


思い出を、傷つけないために・・・。

 

・・・。

 

1月30日 土曜日

 

・・・。

 

・・・・・・。


目が、覚めていた・・・。


そこは、雪の森ではなく、自分のベッドの上だった・・・。


・・・。


心臓が、早鐘を打つように高まっていた。


今、自分が見た記憶の意味・・・。


空想の夢と現実の記憶・・・。

朝靄の微睡みの中で、そのふたつが混在することはある・・・。

しかし、今見た記憶は、間違いなく俺の中の思い出だった・・・。

 

今まで・・・。


今の今まで、忘れていた記憶・・・。


だがそれは、微かに開いた扉からとめどなくあふれ出て・・・。


今まで忘れていたことが嘘のように・・・。


現実に起こった出来事として、間違いなく俺の中に存在していた。


「・・・・・・」


胸をかきむしりたくなるような焦燥感・・・。


俺はただ、安らかな日々を過ごしたかった・・・。

いつまでも、思い出は安らかな場所であり続けて欲しかった・・・。

思い出は、誰にとっても安心できる場所だったから・・・。

だけど、俺はその幻を手放した。


ずっと閉ざしてきた記憶の扉を開いた。


扉の向こう側にあったものは、真実だけ。


目の前の現実。

俺の好きだった人は・・・。

月宮あゆは・・・。


もう、この世には存在しない。

 

コン、コン・・・。


張り詰めた空気を揺らすように、ドアがノックされる。


「・・・祐一、起きてる?」


いとこの声。


「ああ、起きてる」
「開けていい?」
「ああ」


カチャッ、とドアノブが回って、扉がゆっくりと開く。


「祐一、おはよう」
「どうしたんだ? 今日はずいぶんと早いな」
「祐一が遅すぎるんだよ。 もう、学校もとっくに終わったよ」


名雪の言葉に驚いて、時計を見る。

時刻は、すでに夕方に近かった。


「朝も起こしたんだけど、祐一、起きなかったから」
「いや、別にいい」


今、学校で授業を受けていられる自信もなかった。


「それで、何の用だ?」
「これ、修理できたから持ってきたんだよ」


それは、昨日、名雪に渡した思い出の人形だった。


「結構、苦労だったよ」


そう言って、人形を手渡す。


「どうかな?」


その人形は、見違えるように綺麗になっていた。

まるで、7年前に時間が戻ったかのように・・・。


「ほとんどが、代用品になっちゃったけど、いいよね?」
「上出来だ」
「うんっ」


願いの叶う人形・・・。

残された願い、あとひとつ・・・。


「悪いけど、今から出かけるから」
「今から?」
「今日は、戻らないかもしれない」
「え? 泊まり?」
「約束があるんだ」


大切な約束。


「うん、分かったよ。 お母さんにはわたしから言っておくね」
「ありがとう、名雪
「イチゴサンデー」
「分かったよ。 人形のお礼も兼ねて、な」
「うんっ」

 

俺は、服を着替えて部屋を出た。


手には、あいつの忘れ物のリュックを持って。


そして、そのリュックのホルダーには、天使の人形が揺れていた。

 

・・・。

 

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森を抜けて、この場所に来たとき、すでに辺りは夕焼けに包まれていた。

ここは、あゆとの思い出の場所。

楽しいことも、悲しいこともあった場所。

雪の感触を感じながら、広場の中央に向かう。


そこには、大きな木があった。


だけど今は、その名残を切り株として残しているのみだった。


切り株に積もった雪が、真っ赤に染まっていた。

すべてが赤に覆われる世界で、俺はひとりで立っていた。


7年前の約束を守るために。

俺は今、学校にいた。

再会するときは、学校で・・・。

そんな遠い日の言葉が蘇る。

俺は切り株の雪を払いのけて、その上に座った。


真っ赤な空を見上げて、ただじっと待つ。

たったふたりの生徒。

その、もうひとりの姿を、俺は待っていた。


・・・。


夕焼けの赤が通り過ぎて、やがて夜が来る。

風に揺れる木々のざわめきを遠くに聞きながら、時間の流れる音を近くに感じながら・・・。


すでに、この世には存在しない人を、待ち続ける。


これ以上、滑稽なことはなかった。


自分の行動を、馬鹿らしく思いながらも、それでもこの場所を離れることはできなかった。

片隅には、白い羽の生えたリュックがあった。


あゆは、確かに存在していた。

たとえそれが、どんな奇跡の上にあったとしても、俺はこの街であゆと再会した。


それは、朝露の通学路。


偶然出会った少女と一緒に、学校への道をただ笑顔で歩いていた。


それは、夕陽のさす駅前。


赤く染まる場所で、ベンチに座る少女が顔を上げて、遅いと言って微笑んでいた。


それは、夕暮れの商店街。

たい焼きを頬張る少女と共に、他愛ない話に花を咲かせていた。


それは、真夜中の遊歩道。

未来に託された希望を求めて、少女が最後にすがった場所。


どれも、失ってみて初めて気づく、かけがえのない瞬間だった。

 

「・・・・・・」


もう一度、夜空を見上げる。


「・・・指切り、したよな?」


だけど・・・。

やがて、一日が過ぎようとしていた。


今日という日もまた、思い出の中に還っていく・・・


・・・・・・。

 


・・・。

 

 

 

 

『朝~、朝だよ~』

『朝ご飯食べて学校行くよ~』

 


「学校じゃないだろ、今日は・・・」


目覚ましを止めて、カーテンを開け放つ。

窓から射し込む白い光が、部屋の中に暖かな日溜まりを作っていた。


「いい天気だ」

日曜日には、最高の天気だった。

心なしか、今日はいつもより暖かいような気がする。

俺は、服を着替えて部屋を出た。

 

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「わっ」


廊下に出ると、驚いたような表情のあゆと顔を合わせた。


「急に出てくるからびっくりだよ」


胸に手をあてて、驚いたような表情で俺の方を見ている。


「驚いたのはこっちだ。 大体、なんでこんなところにあゆがいるんだ?」
「偶然だね」
「家の中で会って、偶然も何もないと思うが・・・」
「気にしたらダメだよ」
「・・・それで、本当に何やってるんだ?」
「祐一君、おかしなこと言ってるよ」


あゆが首を傾げる。


「ボクだって、この家の家族なんだから、いるのは当たり前だよ」
「そっか・・・それもそうだな」
「うんっ」


そう。


あゆがこの家に住むようになってから、もうひと月になる。


「今日はね、実は秋子さんにクッキーの作り方を教わるんだよ」
「秋子さんもムダなことを・・・」
うぐぅ・・・そんなことないもんっ」
「だいたい、あゆの作るクッキーはどうせまた碁石だろ?」
「あれは、7年も前のことだよ」
「今だって、何も変わってないじゃないか」
「それは、作り方を知らなかったからだよ。 今日は、ちゃんと秋子さんに教わるもん」
「秋子さんに迷惑だけはかけるなよ」
「大丈夫だもん」


無邪気な笑顔が、何故か悲しかった。

どうして悲しいと感じたのか、俺には分からなかった。


「もちろん、食べてくれるよね?」
「絶対に嫌だ」
うぐぅ・・・そんなにはっきり言わないでよ・・・」
「俺はまだ死にたくないからな」
「どういう意味だよっ」
「あれは食い物じゃない」
「今日のは、ひと味違うよ」


あれがひと味だけ変わったところで、どうなるとも思えないが・・・。


「そうだな、とりあえず見た目がうまそうにできたら、考えてやってもいい」
「ホント?」
「ああ、ホントだ」
「うんっ、ボクがんばるよ。 だから・・・ボクのクッキー、楽しみにしててね」

 


真っ白に染まる風景・・・。

あゆの元気な声も、遠くに聞こえて、やがて届かなくなる・・・。

暖かな日溜まりが、冷たい雪の感触に変わって・・・

 

 

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そして、目が冷めた。


「・・・・・・」


頭が重い。

それこそ、頭に鉛でも入っているかのように・・・。


ぼやけていた昨日の記憶が蘇る。

「・・・あのまま、眠ってたのか」


空は青かった。

そして、眩しかった。

どれだけの時間が経ったのかは分からない。

太陽が斜めにあるので、まだ朝の早い時間なのかもしれない。


ふと見ると、コートにはうっすらと雪が積もっていた。

寝ている間に降ったのか、それとも枝に積もった雪が風で運ばれたのか・・・。


「・・・俺は、まだこの場所にいるんだな」


自問するように、呟く。

何度問いかけても、答えはひとつしか返ってこなかった。


また、時間だけが流れる。


・・・。


一度登った太陽が、また傾いていた。


地面についた手が、じゃりっと土を擦る。


雪の感触。

土の感触。

そして、枯れた木の葉の感触。

泥にまみれた手でコートに積もった雪を払いのける。


「・・・この街に引っ越してきたときも、同じような目にあったよな」


ひとりで吐き出した言葉は、どこまでも白く世界を覆う。


「もっとも、あの時はベンチだったけどな・・・」


雪解けの水を吸い込み、湿った切り株に座りながら、夕焼け空を眺める。


コートの奥まで染み込んだ雪の冷たさに顔をしかめながら、俺はまだこの場所にいた。


来るのかどうかすら分からない、たったひとりの人を待ち続ける。


心の奥の、自分でも気づかない場所に存在する景色があった。

思い出の奥底から涙腺を刺激する赤い風景。


女の子が立っていた。

深い悲しみを背負った女の子が立っていた。


夕暮れの街で、

いつもの場所で、

ずっとずっと・・・。

 

 

――『やっぱり待ってた人が来てくれることが一番嬉しいよ』

 

――『それだけで、今まで待ってて本当に良かったって思えるもん』

 

本当に、そうだな・・・。


あいつは、たったひとりで7年間も待っていたんだから・・・。

 

――『祐一君がボクのことを好きでいてくれるのなら、ボクはずっと祐一君のことを好きでいられるんだと思う』

 


「・・・俺は、今でもお前のこと好きだぞ」

「ボクもだよ、祐一君」

「・・・だったら・・・どうして、もう会えないなんて・・・言ったんだ・・・」

「もう・・・時間がないから・・・。 今日は、お別れを言いに来たんだよ・・・」

「俺は、忘れ物を届けに来たんだ」

「・・・見つけて、くれたんだね」

「苦労したぞ・・・本当に」

「・・・ありがとう・・・」

 

 

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「・・・祐一君」


ただどこまでも広がる夕焼けの中で、あゆが静かに微笑んでいた。

 

「遅刻だぞ、あゆ」
「今日は、日曜日だよ」


赤く染まったあゆが、微笑む。


「それもそうだな」
「うん」
「でも、また会えたな」
「うん・・・だって、腐れ縁だもん」


あゆの髪が、風になびいていた。

その表情はおだやかで・・・。

悲しいくらい穏やかで・・・。

 

「本当に、これでお別れなのか・・・」
「・・・うん」
「ずっと、この街にいることはできないのか?」
「・・・うん」
「そうか・・・」
「・・・うん」
「だったら、せめて、最後の願いを言ってからにしてくれ」
「・・・・・・」
「約束したからな。 3つだけ願いを叶えるって・・・。 だから、せめて・・・。 俺に、最後の願いを叶えさせてくれ・・・」
「そう・・・だね・・・」

 

あゆが、人形を抱きしめて、僅かに悲しそうな表情を見せる。


だけど、それも一瞬のことだった。


「お待たせしましたっ」


あゆの表情が、いつも通りの、本当にいつも通りの笑顔にかわる。


「それでは、ボクの最後のお願いですっ・・・祐一君・・・ボクのこと・・・」

 

 

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「・・・ボクのこと、忘れてください・・・。 ボクなんて、最初からいなかったんだって・・・そう・・・思ってください・・・」

 

悲痛な笑顔が崩れていた。

溢れる涙が、頬を伝って流れ落ちる。


「ボクのこと・・・うぐぅ・・・忘・・・れて・・・」
「本当に・・・それでいいのか? 本当にあゆの願いは俺に忘れてもらうことなのか?」
「だって・・・ボク・・・もうお願いなんてないもんっ・・・本当は、もう二度と食べられないはずだった、たい焼き・・・いっぱい食べられたもん・・・だから・・・だか・・・ら・・・ボクのこと、忘れてください」

 

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「・・・祐一・・・君・・・?」


あゆの持っていたリュックが、雪の上に落ちる。


「・・・・・・」


俺は、あゆの小さな体を抱きしめていた。

悲しい思い出を背負って・・・。

自分の運命を真正面から見据えて・・・。

そして、もっとも辛い選択を選んだ少女・・・。


「・・・祐一君・・・」


髪を撫でるように、頭に手を置く。


「・・・ボク・・・もう子供じゃないよ・・・」
「お前は子供だ」
「・・・そんなこと・・・ないもん・・・」
「ひとりで先走って、周りに迷惑ばっかりかけてるだろ」
「・・・うぐぅ・・・」
「そのくせ、自分で全部抱え込もうとする・・・その、小さな体に、全部・・・」


あゆの体を、一際強く抱き寄せる。


「・・・祐一・・・君・・・」
「お前は、ひとりぼっちなんかじゃないんだ」
「・・・祐一君・・・ボク・・・」


すぐ近くで聞こえるあゆの声。

涙混じりの小さな声。


「ホントは・・・ボク、ホントは・・・。 もう1回・・・祐一君と、たい焼き食べたいよ・・・」


声が、嗚咽に変わっていた・・・。


「もっと、祐一君と一緒にいたいよ・・・。 こんなお願い・・・いじわる、かな? ボク、いじわる、かな・・・」


俺は、返事の代わりに、あゆの体をぎゅっと抱きしめた。

それこそ、小さな体が、壊れるくらいに・・・。


「・・・祐一君・・・ボクの体、まだあったかいかな・・・」
「当たり前だ」

 

 

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「・・・よかった」

 

ふっと、体から温もりが消える。


まるで、最初から何も存在していなかったかのように・・・。


その場所には、誰の姿もなかった・・・。


リュックも・・・。


人形も・・・。


そして、最後に残った温もりさえも、冷たい風に流されていく・・・。


でも・・・。


これだけは言える。


最後のあゆは、間違いなく笑顔だった。


「そうだよな・・・あゆ」

 

 

 

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夢。


夢を見ている。


また同じ毎日の繰り返し。


終わりのない夢の中で、


来るはずのない朝を望んで、


そして、同じ夢の中に還って来る・・・。


赤くて、


白くて、


冷たくて、


暖かくて、


悲しくて、


嬉しくて、


そして・・・。


また同じ毎日の繰り返し。


ずっと前から、何年も前から気づいてた。


終わらない夢を漂いながら・・・


来るはずのない夜明けを望みながら・・・


ボクは、ずっと同じ場所にいる。

 

 

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声の消えた雑踏。


顔のない人が、目の前を行き交う。


誰も、たったひとりでベンチに座っている子供の姿なんか気にもとめない。


人を待っている。


来ないと分かっている人。


もう会えないと分かっている人を・・・。


何年も何年も・・・。


繰り返される夢の中で、


ボクは、ずっと待っていた。


来るはずのない夜明け。


だけど・・・。

 


・・・・・・。


・・・。

 


留まることなく、季節は流れていた。

街を覆っていた雪はその姿を隠し、淀んだ雲からは銀色の雨が落ちていた。

木の枝は新緑の葉を湛え、虹の空にゆらゆらと浮かんでいた。

冬の寒さを、雪の冷たさを忘れそうになるくらい、あの日々は遠い思い出の彼方だった。

もう、たい焼きって季節でもなくなったな・・・。

 

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ぎしっとベッドを軋ませながら、ゆっくりと体を起こす。

いつからだろう、この部屋に違和感を感じなくなったのは・・・。

この部屋の自分の存在が、当たり前に思えてきたのは・・・。

簡単に上着を羽織って、廊下に出る。

 

「あ・・・おはよう、祐一」


はう~、とあくびを右手で隠しながら、まだパジャマ姿の名雪が廊下に立っていた。

 

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「もうとっくに昼過ぎてるぞ」
「うん。 ちょっと寝坊したよ」
「昨日何時に寝たんだ?」
「9時、かな?」
「よくそんなに寝られるな・・・」
「寝るのは、好きだから」


ぐぅっ、と背伸びをして、もう一度あくび。


「ちょっとお腹空いたかな」
「昨日、夕飯食ったっきりだろ?」


さすがに腹だって減る。

 

「うん。 ぐぅ~っていってるよ」


パジャマの上からお腹に手を当てて、小さく笑う。


「ちょうど12時過ぎだから、秋子さんが昼食を用意してるんじゃないか?」
「うんっ」


パジャマ姿のまま嬉しそうに階段を降りる名雪に続いて、俺も階段を降りる。

 

「ごはん、ごはん・・・」


あの頃と、何も変わらない日常。

この広い家に、俺と、名雪と、秋子さんの3人だけ。


「なぁ、名雪・・・」
「うん?」
「・・・いや、何でもない」
「?」
「何でもないって」
「何でもなくないよ」


真正面から、俺の方を見つめ返す。


「祐一、最近ちょっと変だよ?」
「いや俺が変なのは昔からだ」
「うー、誤魔化してる」
「誤魔化してないって」


廊下で立ち止まる名雪を追い越して、先に食堂に向かう。


「早く来ないと、名雪の分まで食うぞ」
「それは、やだよ」
「だったら早く来い」
「うんっ」

 

コトコト・・・。


背中を向けた秋子さんが、湯気の立ちこめる鍋を慣れた手つきでかき混ぜている。


コトコト・・・。


「おはようございます・・・」


パジャマ姿の名雪が、食卓の椅子に座る。


「あら? 名雪?」
「ふぁ・・・わたしだよ・・・」


あくびと一緒に返事をしながら、眠そうな瞳を擦る。


すっかりいつもの名雪だった。


コトコト・・・。


湯気にのって、カレーの香りが部屋の中を流れている。


「お腹空いたよ・・・」


切なそうに声を漏らす。


「ごめんね、もうすぐだから。 あ、そうだ・・・お皿出してもらえる?」


どちらにともなく声をかける。

おそらく、俺たちふたりに言った言葉なのだろう。


名雪がふらふらとおぼつかない足取りで、サラダ用白い皿を食器棚から取り出す。

その間に、俺が棚の引き出しから人数分のスプーンとフォークを取り出して、テーブルに並べる。

いつの間にか、そんな風景が当たり前になっていた。


「できたよ、お母さん」


その声を合図に、秋子さんが皿に昼食を盛りつける。

暖かそうな湯気と、鼻腔をくすぐる香ばしい香りが食欲をかき立てる。

すべての皿に均等に料理が盛られて、いつものように、いつもの食事が始まる。


そう思っていた・・・。


「祐一さん、今朝のニュースで言っていたんですけど、知ってますか?」


世間話を始めるように、いつもの口調で秋子さんが俺に話しかける。


「なんですか?」


これもいつものように、俺が問い返す。


「昔、この街に立っていた大きな木のこと」
「・・・え?」


季節が流れていた。

雪解けの水のように、ゆっくりと、ゆっくりと・・・


「昔・・・その木に登って遊んでいた子供が落ちて・・・同じような事故が起きるといけないからって、切られたんですけど・・・その時に、木の上から落ちた女の子・・・」


凍った思い出、溶けるように・・・。

 

「7年間戻らなかった意識が、今朝戻ったって・・・」

 

新しい季節が、動き出すように・・・。


「その女の子の名前が、たしか・・・」

 

 

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本当にどんなお願いでもいいの?


ああ、もちろんだ


本当にほんと?


本当にほんとだ。


本当に本当にほんと?


本当に本当にほんとだ。


だったら・・・ボクの・・・お願いは・・・

 

 

・・・。

 


流れる風景が好きだった。


冬。


雪の舞う街。


新しい足跡を残しながら、商店街を駆け抜けることが好きだった。


春。


雪解けの街。


木々の幹に残る、小さな雪の固まりを手ですくいとることが好きだった。


夏。


雪の冷たさを忘れた街。


傾けた傘の隙間から、霞む街並みを眺めることが好きだった。


秋。


雪の到来を告げる街。


見上げた雲から舞い落ちる、小さな白い結晶を手のひらで受け止めることが好きだった。

 

そして、季節は冬・・・。


雪の季節。


街が、白一色に覆われる季節。


流れる風景が好きだった。


だけど、雪に凍りつく水たまりのように、ボクの時間は止まっていた。


この四角い部屋の中で、


季節のない時間の中で、


ボクは、ずっとひとりぼっちだった。


繰り返し、繰り返し、


夢の中で同じ風景を眺めながら、


明けない夜に身を委ねながら・・・。

 

だけど・・・。


ゆっくりと、夜が白み始めていた。

 

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「・・・・・・ふぅ」


そわそわと体を揺すりながら、気持ちを落ち着かせるように、ゆっくりと深呼吸をする。

行き交う人の流れを上目遣いに見つめながら、慣れない帽子を目深にかぶる。


「う~・・・遅いよ」


ぽつりと呟いた息は、すでに白くはなかった。

遅い春が、もうそこまでやって来ていた。

雪を払った街並みが、新しい顔を覗かせる瞬間。

流れる空気が暖かかったという事実を、今まで忘れていたことが不思議なくらい鮮明に思い出すことのできる季節。


「・・・ふぅ」


もう一度、ゆっくりと深呼吸。

肺の中を満たす、暖かな空気。

屋根の上に微かに残る白い雪も、この数日間の晴天でほとんどが流れ落ちていた。

いいお天気だった。

出かけに見た天気予報でも、この晴天はしばらく続くらしかった。

上を向くと、眩しいくらいの太陽が降り注ぐ青空が広がり、

下を見ると、影法師がくっきりと床に落ちていた。


「・・・やっぱり、気になる」


かぶり慣れていないせいか、それともサイズを間違ったのか、頭を動かすと帽子がずれてくる。


うしょ、うしょ・・・と、帽子をなでつけながら、もとの位置に戻した。

でも、すぐにずれてくる。


「・・・うぐぅ


なんだか悲しくなってきた。


「よぉ、不審人物」


不意に、ぽんっと背中をたたかれる。

見上げると、いつからいたのか、あの人が目の前に立っていた。


「遅いよっ、遅すぎるよっ」
「悪い、ちょっと遅れた」
「それに、ボクは不審人物じゃないよっ」


本当は真っ先に言いたかった言葉が出てこない。


「どっから見ても不審な人だぞ」


帽子の上に手を置きながら、あの人がいつもの表情で笑っていた。


「どこが・・・?」
「全部」
うぐぅ・・・そんなことないもん」
「で、どうしたんだ? 新手のイメチェンか?」
「・・・違うもん」
「だったらどうしたんだ?」


ぽんぽんと帽子の上から頭をたたく。


「・・・笑わない?」
「絶対に笑わない」
「・・・ホントに笑わない?」
「どんなことがあっても決して笑わないと約束する」
「・・・すごく嘘っぽいけど・・・でも、うん、約束だよ」
「俺は、こう見えても約束は守る方だ」
「うん・・・実は・・・」
「・・・・・・」
「・・・床屋さんで、髪の毛切って貰ったら・・・」


うぐぅ、と視線を地面向ける。


「・・・いっぱい切られた」
「わはははっ・・・」


まったく遠慮なしに、あの人が大笑いしていた。


うぐぅ・・・絶対に笑うと思ったけど、いじわるだよっ」
「というか、その歳で床屋なんか行くからだ」
「だって・・・床屋さんしか行ったことないもん・・・」
「今度、名雪にどっか連れていってもらえ」
「・・・うん・・・そうする」
「しかし、ますます男の子みたいだな」
「違うもん、ボクは女の子だもん」
「悔しかったらあたしって言ってみろ」
うぐぅ・・・。 やっぱり、いじわるだよっ」


他愛ないやりとり。

いつもと同じ日常。

大切な時間。

来るはずなんてないと思っていた瞬間。


「・・・それはそうと」


さんざん笑っていたあの人が、改めてボクの顔を覗き込む。


「帽子取ったところを見てみたい」
「絶対に、嫌っ!」
「笑わないから」
「もう信じないもんっ!」
「大丈夫、俺は口が堅いから」
「口が堅くても関係ないよっ!」
「さらに俺は好き嫌いがないから」
「もっと関係ないよっ!」
「というわけで、帽子取ってくれ」
「ぜんっぜん、どういうわけか分からないよっ」

 

昔と変わらないやりとりが、今のボクには一番嬉しかった。

 

「・・・さて、そろそろ行こうか」
うぐぅ・・・どこに?」
「たい焼き食べに行かないとな」
「もう、あったかくなったから、たい焼きなんて売ってないよ」
「大丈夫、秋子さんが作ってくれるらしいから」
「秋子さん、たい焼き作れるの? だったらボクも作ってみたい!」
「やめとけ、たい焼き以外のものになるのがオチだ」
「そんなことないよっ」


これから練習すれば、きっと料理だって上手になる。


どれくらい時間がかかるかは分からないけど、


でも、時間はたくさんあるのだから。


「行くぞ、あゆっ」
「うんっ」


とまっていた思い出が、ゆっくりと流れ始める・・・

 

 

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たったひとつの奇跡のかけらを抱きしめながら・・・

 

・・・。

 


月宮あゆ編 END