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リベリオンズ -Secret Game 2nd stage-【15】

 

・・・。


細谷春菜が山小屋で目を覚ましたのは、昨日夜遅くまで見張りに立っていたせいか、気温がずいぶん暖かくなってからの事だった。

そして今は修平たちと遅めの朝食を摂りながら、春菜は目の前で起きている、不可解な現象を見つめていた。


「はむっ! はむっ!」

「っ・・・!」

「はむっ! はむっ!」


「・・・?」

 

春菜が魚の缶詰をつつき、修平がビスケットを頬張る中、なぜか琴美が非常用の炊き込みご飯を、八つ当たりのように食べている。

朝から一度も話しかけて来なかったところを見ると、どうやら琴美は、春菜に対して腹を立てているようなのだが――

その理由がわからずに首を傾げていると、そのうち琴美がのどにご飯を詰まらせる。

 

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「琴美・・・お前、もう少しゆっくり食べたらどうなんだ?」

「んんっ!!」


困惑しながら水を差し出した修平の手から、琴美はそのペットボトルを奪い取ると、勢い良くそれを傾けた。


「んくっ、んくっ、んくっ・・・ぷはっ。 アリガトウ、修ちゃん」

「お、おう」

「・・・・・・琴美、どうしてさっきから怒ってるの?」

春菜はその理由がどうしてもわからず、琴美に問いかけた。

途端に、琴美が春菜から目を逸らす。


「・・・お、怒ってなんかいないもんっ」

「いや、怒ってるだろ。 絶対に」

「もー、修ちゃんまで! だから怒ってないってば! わっ、私は、春菜ちゃんが修ちゃんの隣で寝てた事なんて、全然気にしてないんだから!」

「・・・はぁ? お前、まさかそんな事を気にしてたのか?」

「だ、だって・・・」

「あのなぁ琴美、昨日も話したが春菜は俺の――」

「――そう、修平は私のお兄ちゃん。 だから昨夜は昔が懐かしくなって、お兄ちゃんのベッドに潜り込んだだけ」

「も、潜り込んだって・・・!? 春菜ちゃん! いくら兄妹だからって許されない事があるんだからね!」

「・・・? わからない。 別にやましいことはしていないはずだけど?」

「むーっ」

「おい琴美、お前ちょっと落ち着けよ」

「なによ修ちゃんまで、春菜ちゃんの味方して!」

「いや、味方とか敵とかそういう話でもないだろう?」

「・・・・・・」


困った顔の修平と、怒った顔の琴美――。

そんな2人をじーっと見ていると、ようやく疑問の答えらしきものが、春菜の胸に浮かび上がってくる。


「ねぇ、2人とも?」

「ん?」

「な、なに?」

「2人は恋人同士なの?」

「なっ!?」

「そ、それは・・・っ!」

「いやほら、俺たちは幼馴染っていうかさ」

「う、うんっ」

「・・・じゃあ、違うってこと?」

「それは――なぁ琴美?」

「う、うん」

「そう、なの・・・・? なんだ・・・それなら琴美が怒ってる理由も理解できるし、お兄ちゃんと琴美なら、お似合いの2人だと思ったんだけど・・・」

「っ・・・!?」

「は、春菜ちゃんっ!!」

「・・・なに?」

「えとっ、私の炊き込みご飯少し分けてあげよっか?」

「・・・?」

「ほら、缶詰だけじゃお腹膨れないでしょ?」

「う、うん・・・?」

「あははっ、ごめんね、なんか変な態度取っちゃって。 ――ねえ、修ちゃんっ!!」

「お、おう・・・?」

「春菜ちゃんって、よくできた妹さんだね!!」

「あ、あぁ・・・そ、そうかもな」

「・・・?」


いきなり機嫌が直った琴美と、やはり困惑した顔の修平――。

それを見るにつけ、結局のところ2人がどういう関係なのか理解ができず、春菜が再び首を傾げた――その直後。


「ッ――!?」

「なっ!?」

「え・・・今のって、ノックだよね・・・?」


すると琴美の質問に答えるように、もう一度ドアが叩かれる。


「これって、ここに誰かが訪ねて来たってこと?」

「ああ、みたいだな・・・」

「でも、この小屋の周りには・・・修ちゃんと春菜ちゃんで、罠をたくさん仕掛けたんだったよね・・・?」

「・・・・・・」


春菜は何も答えずに、ただ静かに息を呑んだ。

この異常事態に、冷たい汗が背中を伝う。

だが、それでもノックは止まず――


「・・・春菜、扉は俺が開ける。 琴美はPDAを使って相手のクリア条件を確認してくれ。 春菜は念のため、俺の援護を頼む」

「う、うん」

「わかった・・・」


琴美が横でPDAを操作し、春菜がクロスボウを構え持つ。

 

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「・・・お兄ちゃん、気をつけて」

「ああ、分かってる。 開けるぞ」


春菜がそれにうなずきを返すと、修平は慎重に扉を開けた。


すると戸口の前に立っていたのは――

 

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「・・・はぁ?」

「え? メイドさん?」


現れたメイド姿のその女に、修平と琴美が間の抜けた声を出す。


だが春菜は油断せず、鋭く問いかける。


「・・・あなたは誰?」

「私、粕屋瞳と申します」

「・・・どうやって、ここに来たの?」

「はて? 普通に歩いて参りましたが?」

「嘘。 途中に色々あったはずよ」

「えぇ、確かに色々ありましたが――それがどうかなさいましたか?」

「っ・・・!」


女に強がった様子は微塵もない。

恐らく本当に、それくらい苦もなく、あの警戒網を突破して来たのだろう。

そのとき琴美が、PDAを見て声を上げる。


「あっ! 大丈夫だよ、2人とも! 瞳さんのクリア条件は『12時間以上同じエリアに留まらない』だから、私たちの誰とも競合していないみたい!」

「琴美、プレイヤーナンバーはどうなってる?」

「あっ、『2』ってなってる!」

「そうか・・・素数か・・・」

「お兄ちゃん。 でも、その人は――」


――危険。


だがその言葉を口にするまでもなく、修平からうなずきが返って来る。

そして慎重に、修平が瞳に問いかける。


「・・・それで粕屋さんは、俺たちに何の用なんだ?」

「ご主人様より皆様をご招待するように、仰せつかって参りました」

「ご主人様?」

「はい」

「・・・それは誰のことを言ってるんだ? もしかしてゲームの主催者か?」

「いえ、皆様と同じプレイヤーです」

「そのプレイヤーの名前は教えてもらえないのか?」

「私はその御方のメイドです。 皆様をご招待する以外のご命令を受けておりません」

「つまり聞きたい事があるなら、本人と直接会って話してくれっていうわけか」

「はい」

「お兄ちゃん・・・!」


『ご主人様』という存在に興味を抱きつつあった修平、を春菜は鋭く戒めた。

このゲームにおいて、下手な好奇心がいかに死の危険と直結しているか、春菜は嫌なくらいよく知っていた。

春菜の思いが伝わったのか、修平が表情を引き締める。


「残念だけど、瞳さん――とりあえず一旦退いてくれないか?」

「それは、なぜでしょうか?」

「名前も要件もわからないんじゃ、こっちも判断のしようがない。 戻ってそう、ご主人様に伝えてくれ」


修平の毅然とした言葉を受けて、瞳の動きが一瞬止まる。


だが、次の瞬間――


「――お断り致します」


「ッ――!?」


春菜の目にも、見えたのはその動きの残像だけで――

 

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気付けば修平の腕は瞳に取られ、骨の軋む音が聞こえてきそうなほど捻り上げられてしまっていた。


「ぐっ、うぁっ・・・!」

「修ちゃんっ!?」

「――お兄ちゃんっ!」


――!!


春菜がとっさに引き金を引いたクロスボウから、矢が中空を貫いて飛ぶ。


だが、瞳の肩を狙った一撃は――

その切っ先が突き刺さる直前に、瞳につかみ取られてしまっていた。


「っ!?」


「・・・おや、これはいけませんね」


涼しい顔でそう言って、瞳が矢を放る。

矢じりがかすめていたのか、彼女は手のひらから数滴の血を滴らせたが、それを気にとめた様子はない。

直後、室内に電子音が鳴り響く。


【クリア条件が達成されました。 おめでとうございます】


春菜のクリア条件は『他のプレイヤーに対して3回以上危害を加える』――。

どうやら今のが、3回目としてカウントされたようだった。

だが今の春菜にとって、そんなアナウンスは、ただの雑音に過ぎなかった。

信じられない行為を容易く行った瞳から、一瞬たりとも目が離せない。

すると瞳が、物騒な微笑みを浮かべながら――


「そちらの方、そのクロスボウをお捨て下さい」

「くっ・・・!」

「はて? もしや逆らうおつもりですか? ならば、この方の腕をへし折りますよ?」

「がっ、あ、ぐぅ・・・っ!」

「――わっ、わかったわ」


恐らく彼女ならば、容易く修平の腕を折ってみせるだろう。

そう判断し、春菜は嫌々ながらクロスボウを捨てた。

すると瞳が一礼し、さも当然のように春菜たちに言う。


「では皆様、私と一緒に参りましょう。 私のご主人様がお待ちです」


そして瞳が、修平を連れだって歩き出す。

だが春菜達にはそれに抗う術が、もう残されてはいなかった。


・・・・・・。

 


・・・。

 

 

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「・・・さて、どうなるかな?」


三ツ林司は罠が張り巡らされているというその手前に立ち、昨日突如として自分の従者となった、瞳の帰りを待っていた。

瞳のPDAの特殊機能は『半径100m以内にあるPDAにメールを送信する』――。

その特殊機能に『藤田修平』『吹石琴美』『細谷春菜』という3名の名前が表示されたのは、今から20分前の事だ。

そして司は瞳というプレイヤーの利便性を確認するために、彼女にある命令を下していた。


――交渉したい事があるから、3人をここに連れて来てよ。


瞳の能力を考えれば、恐らく3人を連れて来ること自体は簡単だろう。

だが問題は、彼女が『どんな手段を用いるか』という事だった。


そのとき山の上から、複数の人間が下りて来る音が聞こえ――


目を向けるとそこには、司にとって好ましくない光景があった。


「はぁ・・・やっぱりね」


すると修平の腕をひねる事で、残り2人のプレイヤーも連れて来た瞳が、司に恭しく頭を下げる。

 

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「お待たせしました、ご主人様。 仰せの通り皆様を連れて参りました」

「あー、はい。 ご苦労様」

「――司っ!?」

「ええっ!? ご主人様って、もしかして司くんの事だったの!?」

「という事は・・・これは全部、あなたの差し金?」

 

「うーん、予想通りの展開だね。 確かにご主人様は僕で、命令したのも僕だけど――瞳。 今すぐその人の手を放して」

「え? ですが――」

「僕は彼らと『交渉したい』と言ったよね? それなのにどうして、彼らに不信感を持たれるような方法を選んだの? もしかして、そこまで考えが及ばなかったとか?」

「っ・・・も、申し訳ありません!」

「わかったなら、すぐに行動を」

「はっ、はい」


司の言葉に恐縮しつつ、瞳が慌てて修平の腕を解放する。


「っ・・・」

「――お兄ちゃんっ!」

「修ちゃん、大丈夫!?」

「・・・ああ、大丈夫だ」


そう言いつつも修平が、非難がましい目を司に向けてくる。

司は溜め息をつきたい気分を堪え、相手の感情を考慮して、お詫びの言葉を口にした。


「ご迷惑をおかけしました。 こちらの指示が甘かったようで」

「甘かったでは済まないわ。 もう少しでお兄ちゃんは、腕を折られるところだったのよ?」

「うん・・・だから今、謝りましたよね?」

「謝って済む問題じゃ――」

「春菜、落ち着け。 俺の事はもういいから」

「っ・・・」

「・・・・・・へぇ」

「なんだ?」

「いえ。 かなり酷い事された割には、意外に冷静なんだなと思いまして」

「感情的になってたら、話が1つも前に進まないだろ? それにお前が、俺たちと『交渉したい』と言ったんだ。 その内容も聞かずに争うなんて、そんなのは不毛な事だ」

「えぇ、その通りです。 ・・・説明会を途中で抜けたくらいだから、もっと感情的な人かと思ってましたけど――なんか、誤解だったみたいですね? そうなってしかるべき理由が、彼女との間にあったのではと勘ぐりますが?」

「ノーコメントだ」

「でしょうね。 まあ『お兄ちゃん』と呼ばれている時点で、想像はできますけど」

「っ・・・それで? お前が俺たちに交渉したい事っていうのは何なんだ?」

「そうですね・・・できればそちらの3人の、ゲームの進捗率を教えて頂けるとありがたいのですが?」

「進捗率?」

「ああ、だいたいのパーセンテージを言っていただければ結構ですよ。 別にクリア条件を聞こうって言うんじゃありませんから」

「見返りは?」

「メモリーチップ5枚でどうですか?」

「っ・・・・・・ずいぶん、こっちに有利な条件だな?」

「ええ、ご迷惑をおかけしたお詫びもかねていますので」

「さしずめ俺たちがクリア条件を達成するかどうかが、お前のクリア条件に絡んでいるといったところか?」

「どうでしょう? それは想像にお任せします。 どうです? 悪い条件ではないと思うのですが?」

「・・・・・・いや、悪いが止めておこう」

「ちなみに、その理由を聞いても良いですか?」

「お前に、こっちの情報をできるだけ渡したくないからだ」


そう言って、修平が瞳に視線を向ける。

やはり瞳を1人で行かせるべきではなかったと、司は多少なりと後悔した。


「・・・わかりました。 では、ここを去る前に1つだけ忠告を。 このゲームはルール上、何をしても構わない事になっていますが、殺人という手段だけは安易に取らないようにして下さい。 全プレイヤーにとって、好ましくない状況が発生する可能性がありますので」

「全プレイヤーにとって、好ましくない状況・・・? つまり殺人が起きたら、このゲームのルールに変化が起こるというのか・・・?」

「・・・・・・へぇ、どうしてそう思ったんですか?」

「俺はこのゲームに、ずっと違和感を覚えていたんだ。 このゲームを運営している連中が、どんな背景を持っているのかはわからない。 だが14人もの人間を拉致し、これだけのフィールドを用意しているという事は――連中が俺たちに望むのは、たぶん殺し合いだろう。 恐らくこのゲームは、俺たちの想像も及ばないような金持ちたちが楽しむための、エンターテインメントなんだろう」

「そうですね。 僕も、概ねそれに同意です。 暇と金を持て余した人間の欲求には、際限なんてないでしょうからね」

「ああ。 だがそうなると、1つおかしな事があるんだ」

「おかしな事?」

「俺たちに与えられているクリア条件さ。 プレイヤーの殺し合いを見たがっている割に、なぜか俺たちのクリア条件には他プレイヤーの殺害が入っていない」

「それは・・・まるで全てのプレイヤーのクリア条件を、把握しているかのような発言ですね。 そちらが把握しているのは、3人分のクリア条件だけのはずでは?」

「いや。 全員のクリア条件を見なくたって、その点についての推測は可能だ」

「と言いますと?」

「説明会が始まる前の雰囲気だよ。 少なくともあの時までは、俺もお前も含めて全員が、殺し合いを前提としていなかったはずだ。 じゃなかったらあんな悠長に、自己紹介なんてしていなかったはずだろ? つまりあそこに集まっていた中に『他プレイヤーの殺害』が条件に含まれていたプレイヤーは、1人もいなかったはずなんだ。 でも、このままでは運営の連中が求めている展開にはならないだろ? だから俺は、全員のクリア条件が『より殺し合いを助長する内容』にシフトする時が、いつか来るだろうと睨んでいるんだ」

「・・・・・・驚きました」

「なに・・・?」

「いえ、本当に関心しているんです。 このゲームの趣旨を理解し、そこまで論理的に考察する力を持った人間が、僕以外にもいるとは思っていませんでしたから。 もし可能なら、今からでも手を組みたいぐらいなんですが?」

「・・・悪いが、それはできない相談だ」


修平がそう答えるのに合わせ、春菜と琴美まで、警戒の眼差しを向けてくる。


「・・・そのようですね。 では藤田先輩、大変お騒がせしました――瞳、行くよ」


今回の状況を作り出してしまった瞳に対し、司の口調が自然と冷淡なものになる。

それを敏感に察し、瞳が全身で反省を示す。

 

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「・・・申し訳ありませんでした、司様・・・。 私の軽率な行動のせいで・・・大切な交渉事を、ダメにしてしまいました・・・。 ですが・・・この失態は、すぐに挽回いたします・・・」

「ああ、そうだね。 でもそれは、またの機会にお願いするよ」

「いえ――今すぐに挽回してみせますっ!」


そう言って、瞳が側にあった木陰に手を伸ばす。


――!!

 

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そして次の瞬間には、そこに忍ばせてあった物に、一挙動で火を入れていた。


「なっ・・・!?」

「司様の交渉に応じなかった以上、彼らは司様に害を成す存在です。 彼らをこのまま、生きて帰すわけには参りません」


「あ、あれって・・・チェーンソーだよね?」

「そんな、どうしてあんな物を!?」

「それは、もちろん――メイドと言えば、チェーンソーですから」


微笑み、瞳がスロットルレバーを握り込む。

途端に凶暴な駆動音が、周囲の空気を震わせた。


「や、やばいっ!?――2人とも逃げろっ!」


2人が逃げる時間を稼ぐつもりなのか、修平が瞳の前に立ちはだかる。

そこへ瞳が、容赦なくチェーンソーを振りかぶる。


「修ちゃんっ!」

「お兄ちゃんっ!」


「まずは、あなたからですっ!

「ッッ!!」


だが瞳が修平を袈裟懸けにする前に、司は叫んでいた。


「瞳ッ! 今すぐ攻撃をやめろッ!」

「っ・・・! で、ですが・・・!」


不満そうな瞳の顔――。

それでも司は、厳しい態度を崩さない。


「まさか、僕の命令が聞けないって言うの? 僕は君のご主人様なんだよね?」

「っ・・・・・・も、申し訳ありません・・・」


瞳は見る間に青ざめながら、チェーンソーのスロットルレバーから手を離す。

喧しい駆動音が止み、山が前以上に静まり返る。

司は胸中に噴き上がる思いを抑え込み、瞳から冷たく視線を逸らした。


「・・・お騒がせしました、藤田先輩。 それでは失礼します」


そう言って、今度こそ3人に背を向ける。

司はもう、瞳に言葉をかけてやろうとは思わなかった。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

真島章則が向かう先にあるのは、何の変哲もない森だった。

当然ながら、そこには境界線など引かれていない。

ただひたすら同じような景色が続き、真島を拒む物は何もない。

だが、ある程度のところまで進んだ時――


【この先はエリア外です。 ただちに引き返して下さい】

 

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「っ・・・ここもダメか」


PDAから聞こえて来た警告を聞き、真島はその場で足を止めた。

注意深く周囲を見回すと、小さな赤いLEDが至る所に点っているのがわかる。


「カメラ越しに遠隔操作しているのか、それとも首輪に反応するような装置がどこかにあるのか・・・どちらにしろ厄介な事だ」


【この先はエリア外です。 ただちに引き返して下さい】


「っ・・・」


2度目の警告が鳴り響き、真島は仕方なくエリアの内側へ戻る。

すると今度は、別の女の声が聞こえてきた。

 

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「もー真島さん、いい加減にしましょうよ。 だいたいメモリーチップを探さなくてもいいんですか? それにあたし、お腹が空きました」
「はぁ・・・まったく、うるさい女だ。 誰もついて来いなんて言っていないだろう? メモリーチップを探すのも、食料を探すのも、お前の好きにすればいい」
「でもそんなこと言ったってぇ、どこを探せばいいのかわかんないんですよぅ! それにメモリーチップを見つけたとしても、あたしのPDAは壊れてるし!」
「知らん。 自分で何とかしろ」
「もー、どうしてそんな酷い言い方するんですか? あたし昨日、あの黒河さんって人が真島さんに拳銃を向けた時に、真島さんを助けてあげたじゃないですか?」
「あれは・・・別に助けてくれと頼んだ覚えはない」
「覚えはなくたって、それが事実じゃないですか?」
「っ・・・!」
「うぅ、自分に不都合な事があると、すぐそうやって睨むんだから・・・――もういいですよっ! わかりました! 真島さんはちっともあたしの事考えてくれないし、だからあたし、ここから1人で行動する事にしますっ!」
「・・・ああ、好きにすればいい」
「うぅー、本当にいいんですか? あたしは本気なんですよ?」
「だから好きにしろと言っている」
「もー、後で寂しくなっても知りませんからねっ! 真島さんの冷血漢っ!」


・・・。


「やれやれ・・・だが、ようやくこれで静かになるな」


結衣が今後どうするつもりかは知らないが、それこそ真島の知った事ではない。

食料の問題にしても、ボクサーとして減量経験のある真島にとって、2日くらいの断食などさほどの問題ではなかった。


「さて、ペースを上げるとするか」


真島はそう呟いてPDAの地図を開くと、これから進むべき方角を確認した。

エリアの外縁を全てなぞり終えるには、ロードワークで鍛えた真島の足をもってしても、恐らくあと2日はかかるだろう。


「できればその間に、首輪が反応しない場所を見つけられればいいのだがな」


もっとも、その穴があるという保証は何処にもない。

だが真島は一度始めた事を途中でやめられるほど、器用な人間ではなかった。

もしダメだった場合は、その時にまた別の方法を考えればいい。

そう思い、真島が再び移動を始めようとした――その時。


「きゃああああああああっ!」


「っ!?――あのバカ!」


今のが結衣の悲鳴だとわかった直後には、真島はその方角へ走り出していた。

無造作に伸びる草木が真島の手足を打ち、時折頬が痛むほどに引っかかれる。

だが真島は無心で地面を蹴り続けた。


「ほらー、だから大人しくしなってば」
「やめて下さいっ! なんでこんな事するんですかっ!?」


「む? どっちからだ?」


木々に声が反響し、方角がよくわからない。


真島が慌てて立ち止まると――


森の右手にある山道から、また男の下卑た声が聞こえてくる。


「結衣ちゃんはさ、俺の持ってるドライバーがほしいんだろ? なのに、タダでってのはどうかと思うなー。 なんつーか、ちゃんとお礼をしてほしいっていうかさー」
「いっ、いやですよこのド変態っ! はっ、放して下さいってばっ!」


「ッッ!!」


真島は完全に位置を特定し、森から山道に飛び出した。

 

 

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見ると1人の男が、結衣を木の幹に押し付けている。


「やめろっ! 何をしているんだ!」

「あ? 誰だよアンタ?」

「真島さん、助けて下さいよぅっ! なんかこの人がぁっ!」

「っんだよ、結衣ちゃん男連れだったのかよ? でもま、俺ってこういうシチュエーションも、そんなに嫌いじゃないけどね。 というわけで・・・そこのアンタ、怪我したくなかったらそこで大人しく見ててくんない?」

「何をバカな事を」

「あっそぉ――じゃあ、邪魔できねーようにしてやるよっ!」

「っ!?」

 

 

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男がその手に何かを握り、いきなり体ごと突っ込んでくる。

だがそれは真島の目から見れば、無防備極まりない姿だった。

自然と男の顔面に、真島の右ストレートが伸びる。


「シッ!」


――ッッ



「ぐおっ・・・お、おぅ・・・――」


「・・・・・・なんだこの男は? これで終わりなのか?」


一応警戒しながら近づいて見たが、男は完全に失神しているようだった。

おまけに男の手元には、1本のドライバーが落ちている。


――こんなもので、俺に挑みかかってきたのか?


そのあまりのしょぼさに、真島が呆気に取られていると――


結衣がいきなり、真島の胸に飛び込んでくる。

 

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「ふぇええん、真島さーん! ありがとう真島さーん!」
「なっ――おい、やめろ。 抱きつくな」
「ふぇええん! あたし、すごい怖かったよー!」
「だから離せと言ってるだろ?」
「真島さんっ、真島さんっ、真島さんっ」
「おい、鼻水をつけるな!」
「真島さんっ、真島さんっ、真島さんっ、真島さんっ」
「っ・・・わかった。 わかったから・・・まったく」


真島は泣きじゃくる結衣に困惑しつつも、さっさと安心させて体から引き剥がそうと、その背中をぽんぽん叩いてやった。


・・・。

 

 

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――steyr gb。


確か、そんな名前の銃だったと思う。

三ツ林司は廃村の診療所の中で、しばらく前に見つけた、その鉄と機構の集合物を眺めていた。

司がこれまでの人生の中で、拳銃という物に対して特別な関心を寄せた事は一度もなかった。

だが今は、その利便性と必然性に興味がある。

銃は――それを持つ者が引き金を引かない限り、弾が発射される事はない。

そして銃口を向けない限り、誰かを殺す事もない。

 

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「・・・彼女も、このくらいシンプルだったら良かったんだけど」


瞳にはしばらく前から、廃村を巡回するように命じていた。

司が意図しない時に、意図しないプレイヤーを殺そうとした以上、彼女は司にとって、ただ暴れたがっているだけの猛獣だった。


「・・・でも、どうしようかな? 彼女を切り捨てると言っても、僕の実力じゃ絶対に敵わないし・・・。 やっぱり彼女を、上手くコントロールしていくしかないのかな? 今のところは、その糸口も見えていない感じだけど」


そのとき壁の向こうから、例のエンジン音が聞こえてくる。


「・・・やれやれ、今度はどんな理由かな?」


司はそれを想像して心底うんざりしながらも――

銃弾が詰まった拳銃を手に、彼女がいるであろう、その場所へと向かった。

 

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「・・・瞳、どうしたの?」
「侵入者です」
「侵入者?」


司はそう聞き返しながら、瞳が睨みつけている先に、自分の視線を差し向けた。

すると茂みの中から、小さな人影がふらりと現れる。

 

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「うぅ・・・お腹が、空きました・・・」

「・・・?」


一見すると、空腹に耐えかねて山を下りてきた迂闊なプレイヤーに思えるが――

少女はその手に、大ぶりの柳葉刀の柄を握り締めていた。


「そこのあなた、止まりなさい」

「・・・?」


瞳の鋭い警告を受け、少女が力ない視線をこちらに向ける。

そして瞳の格好に気付き、たちまち目を丸くした。


「っ・・・メイド・・・? なぜこのような所に、メイドがいるのですか・・・? もしかして私は空腹のあまり、幻覚を見ているのでしょうか?・・? ですが、それにしても・・・チェーンソーを持ったメイドさんとは、面妖な・・・」

「面妖ではありません。 メイドの基本装備と言えばチェーンソーが定番です」

「基本装備・・・? じゃあ隣にいる、軟弱そうな男も・・・?」

「軟弱そうな男ね。 まあ、表現としては間違ってはいないと思うけど。 でも僕はメイドの基本装備でも、まして幻覚でもないよ。 ちゃんとした人間さ」

「人間・・・? では、そのメイドも・・・?」

「そう。 君が目にしているのは全部現実だよ」

「・・・?」


司の言葉を理解しきれないのか、少女が呆けたような顔をする。

どうも様子が変だった。

もともとそういう人間なのか、それとも疲れ切っているせいなのか、どうも理解のスピードが遅過ぎる。


「・・・ねぇ君、いったいここに何しに来たの?」

「何しに・・・?」

「っ・・・君もプレイヤーなんだよね?」


少女の反応の鈍さに、多少イラつきながら司が尋ねると――


――ッ


壮絶な腹の音が、廃村の寂れた空気に鳴り響いた。


「・・・もしかして君って、本当にお腹が空いててそんな感じになってるの?」

「ッ――――はいっ、私はお腹が空いています! だから考えても上手くまとまりません!」

「うーん、なんか急に素直になったね。 で? 君がここに来た目的は?」

「お腹が空いているので、何か食べ物を分けて下さい! お願いします!」

「・・・なるほどね。 それだけ?」

「あと、日本刀があったら欲しいです! 今持っている刀は、扱いづらくてなりません!」

「あはは、本当に素直な子だね」


食料と日本刀――。


要求がその2つだけなのだとしたら、交渉次第で彼女を味方にする事は可能だろう。

そう判断し、司がそのための言葉を口にしようとした――その時。


「――司様、おさがり下さい!」

「っ!?」


唐突に、瞳が少女を目がけて疾駆する。

そして、チェーンソーのスロットルレバーを握り込みながら――

 

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少女の身体を横薙ぎにした。

とっさにそれを受けた少女の手から、柳葉刀が弾かれる。

「な、何をするのですか!? 私はただ、食料を分けてもらいたくて――」

「――問答無用です! 司様の食料を奪おうなどと、そんな不敬な真似は私が許しません!」


――!!


「ッッ!!」


瞳の攻撃を避けきれず、少女の黒髪が何mmか宙に散る。

すると少女は、そのまま大きく後方へ飛び退り――

そして身をひるがえし、森の方へ駆け出した。


「――逃しませんよッ!」


瞳が血走った目で少女の背中を睨み、そのまま駆け出そうとする。

だが司は苛立ちと共に、そんな彼女を呼び止めた。


「待った。 瞳、どこへ行くつもり?」
「それはもちろん、あの侵入者を殺害にですが・・・?」
「っ・・・そのために僕の許可は必要ないと?」


そこでようやく司の怒りに気付き、瞳の顔に動揺が走る。


「しかし、この機を逃しては――」
「そう思っているのは誰? 僕? それとも瞳?」
「そ、それは・・・」
「なに? どっちかハッキリしてよ」
「わ、私です・・・ですが・・・」
「『ですが』ね。 つまり瞳は、呼び止められた事が不満なんだね?」
「っ・・・」
「わかった。 いいよ」
「え?」
「さっきの少女を追いたければ、好きにすればいい。 でもその後は、もう僕のところに戻って来なくて構わない」
「ッ・・・!?」
「ふーん、意外だった? でも当然だと思うけどな? 主人の言う事を聞かないメイドなんて、側に置いておく意味がないからね」
「そっ、そんな・・・私は、司様のためを思って・・・」
「違うね。 お前は常に僕の命令よりも、自分が戦う事を優先しているじゃないか? 僕が一度だって、お前に戦えと命じた事があるかい? 無いはずだよね?」
「あ・・・あぁ・・・そ、そんな・・・違います、私は・・・」
「ほら、どうしたの? 早く行きなよ? メイドなんかさっさと辞めて、獣みたいに戦いを追い求めればいいじゃないか?」
「い、いやです・・・どうか、どうかそれだけは・・・! お願いです、司様。 私はメイドなのです。 メイドでなければいけないのです。 だからどうか、どうか私を、司様のお側にっ!」
「・・・・・・・・・はぁ、そこまで言うなら仕方ないね」
「では!?」
「ああ、いいよ。 お前をメイドとして、僕の側に置いてあげる。 でも2度と、今日みたいな勝手な真似は許さない。 だからルールを決めさせてもらうよ」
「はいっ! なんなりとお申しつけ下さいご主人様っ!」
「そうだね・・・。 1つ、許可無く、人を殺してはならない。 2つ、僕の生命保持を第一とし、僕の命令には絶対服従でなければならない。 3つ、前の2つに反する恐れのない限り、お前は自己を守らなければならない。 ・・・ま、こんな所かな」


司がその3カ条の参考にしたのは、とあるSF作家が提唱した、人工知能を持ったロボットを制御するための3原則だった。


「もし今の3つのルールが守れないようなら、お前は僕のメイドでも何でもない。 1つでも破ったら、お前はただの獣だ。 わかったね?」
「かっ、かしこまりましたご主人様っ! この粕屋瞳、命に代えましても破らないとお約束致しますっ!」
「ああ、そう願うよ」


瞳の過去に何があったかはわからない。

だが瞳のメイドに対する執着は、明らかに異常だった。

そして、獣という言葉に対する恐怖心も――。


「やれやれ、一時はどうなる事かと思ったけど――これでようやく、落ち着いてクリアを目指すことができそうだ」


口の中でそう呟くと、傍らにかしこまる従者の姿を一瞥する。

彼女の首に繋がれている透明な鎖が、司には、今では見えるようになっていた。

 

・・・・・・。

 


・・・。

 

 

――ゲーム2日目の夜が、深々と闇の堆積(たいせき)を増していく。

細谷春菜は山小屋のベランダに立ち、暗闇を内包する森をじっと睨んでいた。

夜風が森を抜け、そこかしこで草むらが揺れる。

そのいずれかにあのメイドが潜んでいるような気がして、春菜は拳を握り締めた。

昼間の出来事を思い出すと、心臓に氷を当てられたようになる。

下手をすればあの時、修平はあのメイドに殺されていた。

そしてゲームを運営している連中が、そうした悲劇を望んでいるのは間違いない。



「・・・させない・・・お兄ちゃんは、誰にも殺させない・・・」


また夜風が吹き抜け、その呟きを葉擦れの中に紛れ込ませる。

そのとき小屋の中から、誰かが出てくる気配がした。

正確なリズムを刻みながら、最短距離を着実に踏みしめる音――

春菜は昔と変わらない彼の足音を聞き、胸に湧いた感情を、静かに奥へと押し込めた。

ドアが開く音を聞いてから振り向くと、そこに修平がいた。

そして春菜の記憶にあるものと変わらない、少し硬さを残した笑顔で、そっと微笑みかけてくる。



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「・・・春菜、寒くはないか?」
「うん、平気」
「そうか、ならいいんだが・・・」
「どうしたの? 見張りの交代まで、まだ時間はあるはずだけど?」
「ああ、なんか落ち着かなくってな」
「琴美は?」
「奥でちょっと休んでるってさ」
「そう・・・難しいかもしれないけど、お兄ちゃんも休める時に休んだ方がいいわ。 このゲームは、これからどんどんキツくなるから」
「それは、ルール的にんって事か?」
「っ・・・」
「・・・ごめん。 今のはなんか、探るような言い方だったな」
「ううん、いいの。 それは仕方のない事だから」
「いや、妹のお前を疑うなんて最低だ・・・」
「気にしないで。 じゃないと私も、変に意識しちゃうから」
「わかった。 お前が言うなら、そうするよ。 ところで春菜、隣いいか?」
「う、うん・・・」


うなずくと、修平がようやく隣に寄り添ってくれる。

あの頃の修平なら、きっとそんな事は聞かずとも、側に来て頭を撫でてくれただろう。

離れて過ごした時間の長さを感じ、春菜は冷たい夜気を胸に吸い込んだ。


「・・・ねぇお兄ちゃん、聞いてもいい?」
「ん?」
「お兄ちゃんは、これまでどんな風に生きてきたの?」
「どんな風って・・・?」
「だって私、あれからお兄ちゃんがどうしてたか、全然知らないから」
「そっか、そうだよな。 でも・・・割と普通だったよ」
「普通?」
「ああ。 今じゃ考えられない事だけど――俺は春菜と離れ離れになった後、いつも誰かを殺す事ばかり考えていたんだ。 もしもこの手に銃を握っていたら、目に映るやつらをみんな撃ち殺してやるのにって。 いつもそんな風に、世界を恨みながら生きていたんだ」
「・・・・・・」
「そしてある日、俺はそれを実行に移そうとした。 公園でちょうどいい女の子を見つけて、特に理由なく
、そいつを殺してやろうと思ったんだ。 そうする事が、俺にできる唯一の復讐だと思っていた。 でも、そんな事はできなかった。 俺が目をつけた女の子は、信じられないくらい明るくて、お人好しで、俺の魂胆になんかまったく気付いていなくて――その内に、俺は毒気を抜かれてしまったんだ」
「・・・もしかして、それが琴美?」
「ああ、そうだ。 琴美と出会ってから、俺は変わった。 琴美が生きている世界を、俺も愛せるようになったんだ。 それからは、本当に普通の生活だったよ。 そりゃあ、人よりは苦労も多かったけど――普通に勉強して、普通にバイトして、たまに琴美と街に出かけたりして、俺はそうやって今まで生きて来たんだ」
「そっか。 確かにそれは、普通かもね」
「春菜は? お前の方はどうだったんだ?」
「私? 私も、普通だったかな。 新しいお父さんとお母さんは優しかったし、そりゃ最初は全然言うことを聞かない不良娘だったけど――そのうち弟と妹もできて、そんな事も言ってられなっくなって。 それからは私も、普通に勉強して、普通にバイトして、普通に弟妹たちの面倒を見てやって――」

 

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――なのにいつからか、春菜の日常は灰色に変わっていた。

かけがえのない家族と過ごしている時も、学校で同級生たちと話している時も――。

春菜が日常の中で感じられるのは、白と黒の、味気ないコントラストだけだった。

そして失われたはずの彩りを、春菜はいつしかゲームの中に見るようになっていた。

でも春菜は日常の中にこそ、その彩りを取り戻したいと願っていた。

そのために運営者たちの言いなりになって、何人ものプレイヤーの命を奪ってきた。

でもそんな彼らにだって、かけがえのない日常はあっただろう。

今の修平が、それを大切にしているのと同じように――。

春菜はふと、自分の両手を見下ろした。

 

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その手はこれまでに殺してきた人たちの血で、臭い立つほど赤く染まっていた。


「っ・・・!」
「おっ、おい、春菜・・・?」


唐突に息を呑んだ春菜の顔を、修平が心配そうに見つめてくる。

その背後に、無数の亡霊が見えた気がした。

途端に全身が震え出す。

その震えをどうする事もできず、とっさに修平の身体にしがみつく。


「春菜っ!? お前、急にどうしたんだ!?」
「お、お兄ちゃん・・・。 私、怖い・・・怖いよ・・・怖いよ、お兄ちゃん・・・!」


目の前が急に霞んでいく。

意識の輪郭があやふやになっていく。

だが修平の腕が、灰色の世界に堕ちかけた春菜を、必死に抱きとめてくれた。

 

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「春菜、大丈夫だ。 お前には俺がついている。 俺がこの悪夢のようなゲームから、必ずお前を救い出してやる」


――失いたくない。


たとえそれが、ゲームの中に意図的に加えられた彩りの1つに過ぎなくても――。

春菜は修平の温もりを感じながら、心からそう思った。

 

・・・・・・。

 


・・・。

 


――そして、夜がさらに深まった頃――


阿刀田初音はその薄暗い家屋の中で、気まぐれな大祐の思うがままに扱われていた。

 

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「ほら初音ちゃんってば、ちゃんとご主人様の言うこと聞きなって」
「や・・・も、もうやめて、下さい・・・。 初音は、もう・・・こんなの、嫌なのです・・・」
「なーに言ってんの。 ほら、アーンってしなよアーンって」


そう言って大祐が初音の顎をつかみ、土臭いそれを、無理やり指で押し込んでくる。


「うっ――ぅ、うぇっ、うぅ・・・っ・・・――かはっ! ごほごほごほっ! あうっ・・・あうぅぅぅ・・・」
「あはははっ、食べた食べた! ねぇ初音ちゃん、お味はどうだった? 美味しかっただろ?」


そう言って大祐が楽しそうに笑う。

だが大祐が森の中から採ってきた大量の茸が、本当に食用かどうかはわからない。

中には明らかに体に害のありそうな、毒々しい色のモノまで交じっている。


「うっ・・・・ひっく、うぅう・・・」
「ん? あれ? 初音ちゃん、なんで泣いてんの?」
「だって・・・ひっく、うぅ・・・こんなの酷い、です・・・」
「おいおい、別に酷かねーだろ? 俺なんて初音ちゃんのために食料を探しに行って、わけのわかんねー男に殴られちまったんだぜ? だったらもうちょっと、俺に優しくしてくれてもいいんじゃねーの? だからさ初音ちゃん、美味しいって言ってみなよ?」
「・・・・・・い、嫌なのです」
「あっそ。 じゃあ、俺も初音ちゃんに酷いことしちゃおっかなー?」
「なっ・・・なに、するですか・・・!?」
「実は俺がさっき食った食料を見つけた時にさ、一緒にこんなモンも入ってたんだよねー」

 

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大祐が腰の後ろから取り出したのは、刃渡り20cmほどのシースナイフだった。

その冷たい刀身でひたひたと頬を叩かれ、初音の全身が凍り付く。


「ッ――!?」
「ほら、どうする? 言うこと聞かないと、その綺麗な肌をナイフですーってやっちまうぜ? 芸能人は顔が命なんだろ? いいのかよ、キズモノになってもさ?」
「っ・・・」
「つーわけで、もう1回聞くぜ? 初音ちゃん、美味しかっただろ?」
「お・・・美味し、かった、です・・・」
「んー、よしよしよしよし、よくできました! つーか、落ち目とはいえ、アイドルを飼ってるなんて――俺ってマジですごくね? ねぇ、すごくね?」
「・・・・・・」
「しっかしまあ、最初はどうなる事かと思ったけど、武器も手に入ったし、なんつーかマジで楽しくなってきちゃったな? あ、そーだ。 せっかくだから、もっとペットを増やすって手もあるな。 昼間会った結衣ちゃんとか、琴美ちゃんとか、まり子はうるせぇからいらねぇけど、攫って来れたりしねーかな? あははっ、やっぱ俺って天才かもな。 いやー、こうやって色々考えてると、マジで希望が一杯だよねぇ初音ちゃん?」
「・・・・・・」
「おいおい、つれねーなぁ。 初音ちゃんに喋ってんだから、反応してくれよ。 ・・・ま、鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギスか。 ってなわけでー、次は本命のこの茸をいってみよっか?」


そう言って大祐が取り出したのは、今までで最も毒々しい色と形をした茸だった。


「い、いや・・・大祐、お願いです・・・。 初音は・・・初音は、もう・・・嫌なのです・・・。 そんなの食べたら・・・ほ、本当に・・・死んでしまうかもしれないのです・・・」
「だーいじょうぶだって、初音ちゃん。 人間って、そんなに簡単に死なないもんだからさ」
「っ――!」


大祐が、また初音の上に圧しかかってくる。

その顔に初音を気遣ってくれていた頃の面影はなく、ただ歪な欲望がドロドロと渦巻き続けていた。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

―3日目―

 

「あ・・・」


阿刀田初音が小さな声を漏らしたのは、自身を濡らす液体から温かさが消えたのを感じたからだった。

 

 

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そして目の前に、苦痛に顔を歪めた大祐が転がっている。


「え、と・・・」


こういう時に何を言えばいいのか、初音は知らなかった。

演技の稽古でこれまで様々なシチュエーションを演じてきたが、こんな役は未だかつてやった事がなかった。


「死ぬ・・・ですか?」


湧き上がるようにして出てきた台詞は、痛みに震えていた。

手に握ったナイフの感触が、やけに遠く感じられる。


「初音が・・・初音が・・・やった・・・?」


特殊な技術も、力も、何も必要なかった。

大祐がまた初音をオモチャにしようとした時に、ふと手に触れたナイフを奪い、それを喉元へ押し込むだけで良かった。

その後はもう、あっという間だった。

血があんなに熱いものだなんて、初音はその時まで知りもしなかった。

人が死に際に見せる苦悶の表情が、呻き声が、体を痙攣させる様が、あんなに不快なものだったなんて、思ってもみなかった。

でもその記憶さえ、波が引くように冷めていく。


「もう・・・終わりなのですか・・・? これで、終わり・・・?」


あまりにも、呆気なかった。

全然、苦労などなかった。

本当に、一押しして、それを横に引いただけ。

他には何もない。

それだけ。


「は・・・はは、あはは、は・・・。 なーんだ・・・って、感じです・・・。 こんな・・・こんなに、簡単に・・・終わるんですね・・・。 こんなに簡単なら・・・どうして、最初からやらなかったのか、不思議です・・・。 本当に、どうして・・・どうして、こんな、簡単に・・・。 どうして、簡単に・・・やってしまったんでしょうか、初音は・・・」


疑問を口にした途端、目から涙が溢れ出す。

堰を切ったように、次々に。


「あ、あはは、何で、涙が出てくるですか・・・? もう、嫌なのは、なくなったのに・・・。 嬉しいのに、どうして・・・。 ねぇ、大祐・・・教えてなのです。 初音は、頭悪いから、分からないのです・・・。 初音は・・・」


ピー


ピー


「・・・?・・・あっ」


PDAから鳴り響いたその音を聞く内に、初音はようやくその事を思い出していた。

初音のクリア条件が『プレイヤー全員の生存』だったという事を。


「そっか・・・忘れていたのです・・・なのに初音は・・・大祐を・・・ということは・・・ルールをやぶった初音も死ぬですか・・・」


もしそうだとしても初音は、怖くも、哀しくもなかった。
するとPDAから、途端にメッセージが流れ出す。


【参加者の死亡により、ステージがランクアップしました。 ただいまより、ゲームはセカンドステージに突入します。 クリア条件が更新されています。 各自パーソナルデータを確認してください】


「・・・? セカンド、ステージ・・・? クリア条件が更新って、なんのことを、言っているのですか・・・?」

初音はわけもわからぬままPDAを手にとって、指示された通りにパーソナルデータの画面を開いた。


「これ、は・・・? じゃあ初音は、死ななくても済む、ですか・・・? でも・・・なんで、こんな・・・初音にはこんなこと・・・無理に決まってるのです・・・。 だって、初音にはナイフしか・・・それに、特殊機能だって・・・・・・? あ、れ・・・? これは、何のアイコンなのですか・・・?」


初音の冷たくなった指が、PDAを操作する。

そして大祐の血臭が漂う家屋の中で、それを確認した。


・・・。

 

 

 

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「・・・はっ・・・は、ははっ・・・ははは、ははははははははっ・・・そうですか・・・そう言う事だったのですか・・・初音は初めから、こういう役目だったのですね・・・そう・・・そう言えば、大祐が言っていたのです。 このゲームは、そういうゲームだって。 このゲームの中では、何をしても許されるって。 だから初音は、流れて来た板に、しがみついただけなのです。 そして初音が生き残るためには――他の船員を、1人残らず溺死させなきゃいけないのです。 そうですよね、大祐? それが『カルネアデスの板』の話だったですよね?」


『自分以外のプレイヤー全員の死亡』――。


それが初音に与えられた、新たなクリア条件だった。

そして特殊機能の欄には、まるで初音の行為を肯定するかのように、大祐の特殊機能が追加されていた。


『死亡したプレイヤーの特殊機能が、順次追加される』――。


それが初音に与えられた、新たな力だったのだ。


初音の頬を、一筋の涙が伝う。

だがそれは頬を濡らす血と混じり、やがてただの水分となって蒸発した。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

 

それは思いつく限り、最悪の起こされ方だった。


セカンドステージへの突入――。

PDAに送られてきたその通知を目にした瞬間に、細谷春菜の体は一気に冷たくなっていた。



「私・・・わかっていた、はずなのに・・・」

 


そこへすでに行動していたらしい2人が、血相を変えて山小屋に駆け込んでくる。



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「――春菜、大変だ!」

「春菜ちゃんっ!」

「・・・・・・」


いったい何時の間に、自分は夢を見てしまっていたのだろう?

春菜は夢の終わりを感じながら、まだ少しぼんやりとする目で2人を見つめた。


「は、春菜・・・?」

「・・・2人とも、もうセカンドステージのクリア条件は確認した?」

「っ・・・・・・ああ」

「うん。 私も」

「そう・・・内容を聞いてもいい? もちろん、私も話すから」

「・・・わかった。 俺の新しいクリア条件は、『素数ナンバーのプレイヤーの全員の死亡』だ」

素数ナンバーか・・・」


春菜のプレイヤーナンバーは『3』――。

3は素数に他ならない


「琴美は?」

「私のは『自分を中心とした5つ並びのナンバーの他プレイヤーが死亡し、かつそれらのPDAを自分のPDAに読み込ませる』って内容に変わってたよ・・・」

「そうか・・・。 でもこれで、琴美のPDAにだけ、コネクタケーブルがついていた理由がわかったな・・・」

「うん・・・この時のためのものだったんだね・・・」


そう。

全プレイヤーに同じPDAが配られているはずなのに、琴美のPDAにだけ、一部おかしなところがあったのだ。

それに通常なら、対象プレイヤーが死亡した時点でクリアが確定するはずなのに、なぜか琴美のクリア条件だけ手間が多くなっている。


――運営には、何か狙いがあるの・・・?


5つ並びという事は、恐らくポーカーの役にある『ストレート』を模しているのだろうが・・・。

だが春菜の中に思い浮かんだ、その疑問は長続きしなかった。

それよりも重要な問題は、琴美のクリア対象に、プレイヤーナンバー『4』の修平が含まれている事なのだ。

そして、春菜のクリア条件には――


「・・・私のクリア条件は『プレイヤーを殺害した他プレイヤー全員の死亡』よ。 つまりお兄ちゃんは私を、琴美はお兄ちゃんを――そして、もし2人がクリアを目指そうとして誰かを殺した場合には、私が2人を殺さなきゃクリアはあり得ないって事ね・・・」


恐らく春菜たちの関係を見越して、運営は予めセカンド条件が競合するように組んでいたのだろう。

そうした方が、セカンド移行後のドラマが増すと考えて――。


「っ・・・そん、な・・・くっ・・・。 ――くっそぉおおおおっ!」

「し、修ちゃん・・・!?」

「お兄ちゃん、落ち着いて」

「落ち着け、だって? ――どうしてこれが落ち着いていられる!? 俺たちは見も知らない連中に、殺し合いをしろと言われているんだぞ!?」

「わかってる。 でも、お願いだから落ち着いて」

「春菜・・・お前、どうしてそんなに冷静でいられるんだ? どうして今この状況で、そんな冷たい眼をしていられるんだ!?」

「・・・・・・」

「修ちゃん、それは言いすぎだよ! 春菜ちゃんだって、きっと――」

「いいの、琴美。 お兄ちゃんの言ってることは、事実だから」

「え・・・?」

「お兄ちゃん、私が今どうして落ち着いていられるのか、その秘密を教えてあげる」

「・・・・・・」


修平の目が、春菜の視線から逃れるように伏せられる。

だが修平のその意思を、春菜は言葉で追いかけた。


「お兄ちゃん、聞いて。 私は最初から、こうなるって知っていたのよ。 このゲームがセカンドステージに移行するのは、毎回の事だから」

「ま、毎回って・・・?」

「っ・・・」

「お兄ちゃんはもう気付いていたと思うけど、私がこのゲームに参加するのは、今回が初めてってわけじゃないの。 私がこのゲームに参加するのは、今回で9度目よ」

「・・・どうしてだ?」

「?」

「どうして今になって、そんな事を話す気になったんだ?」

「それはセカンドステージに移行して、ルール的に話せるようになったからよ。 運営は私のようなプレイヤーのことを、『リピーター』って呼んでいるわ。 リピーターはファーストステージの間、リピーターとセカンドステージの存在を、誰にも話せないルールになっているの。 だから私は、今までこの事を話せなかった」

「でも・・・どうして春菜ちゃんが、リピーターに・・・?」

「・・・お金のためよ。 父が作ってしまった借金を返すために、私にはどうしてもお金が必要だったの。 このゲームの勝利者にはね、運営から報酬が与えられる事になっているの。 それはお金だったり、物だったり、地位だったり、プレイヤーによって色々なんだけど。 運営が支払ってくれる報酬は、私が一生働いても稼げないような金額だったの。 でも父の借金は、それでも返しきれないほどに膨大だった。 だから私はリピーターになったのよ。 そして今回の報酬があれば、父の借金はようやく完済されるはずだった」


もちろん春菜には、他の選択肢もあっただろう。

でも春菜は、自らの意思でリピーターになる事を選んだのだ。

たとえ手を血に染めてでも、家族と自分の幸せを、守りたいと思ったから――。


「そんな・・・それじゃあ、春菜ちゃんは・・・!」

「ええ、そう。 私はもう、何度も人を殺している」

「っ・・・」

「ほ、本当なの?」

「本当よ。 このゲームで生き残るっていう事は、つまりそういう事だもの。 現に誰かが人を殺したから、このゲームはセカンドステージに移行した。 そしてセカンドステージは、それまで協力し合っていたプレイヤーたちが、敵対するようにできているの。 今の私たちが、そうであるようにね」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「ね、お兄ちゃん? これでわかったでしょ? 私がなぜ、このゲームについて詳しかったのか。 どうして私が、リピーターとしてこのゲームに参加しているのか。 だから私は、ここで死ぬわけにはいかない。 もう、家族が離れ離れになるのは嫌だから・・・。 じゃないと何のために、人殺しをしてきたのかわからなくなってしまうから・・・だから・・・私はもう、お兄ちゃんとは一緒にいられない・・・」


そう。

やっぱりあの時に、修平とは別れておくべきだったんだ。

こうなることは初めから分かっていたのに。

でも、修平が呼び止めてくれた事が嬉しくて――

お兄ちゃんと、もっと一緒にいたくって――

だけど、もう・・・


「・・・ダメだ、春菜」

「え?」

「お前はずっと、俺たちと一緒にいるんだ」

「でも・・・私たちのクリア条件は・・・」

「クリア条件なんて関係ない。 運営の思惑なんて糞喰らえだ。 ようやく兄妹が出会う事ができたのに、どうして俺たちがまた、離れ離れにならなきゃいけないんだ」

「お兄ちゃん・・・」

「・・・・・・うん。 そうだよ、春菜ちゃん。 探そうよ、何か良い方法を。 諦めないで行動すれば、きっと何か見つかるはずだよ。 だから探そう。 私たち3人で」

「琴美・・・」


3人で生き残る――

このゲームに限って、そんな事はきっと不可能に違いない。

春菜はこれまでにも、このゲームを否定しようとして、でも結局は殺し合いに巻き込まれていった者たちを、何人も目にしてきた。

だから琴美の言う『良い方法』なんて、きっと存在しないに違いない。


なのに――


「っ・・・」

「春菜、俺は昨日お前に約束したよな? お前をこのゲームから必ず救い出してやるって。 だから、あの言葉を信じてくれ。 俺は今度こそ、お前をこの手で守るって決めたんだ。 だから――」

「・・・・・・うん。 わかったよ、お兄ちゃん。 私もお兄ちゃんと一緒にいたい。 だから最後まで、私はお兄ちゃんと一緒にいるよ。 それに、琴美ともね」

「春菜・・・!」

「うん。 私たちは、最後までずっと一緒だよ」

「ええ・・・」


でもきっと、2人にも気付く時が来るだろう。

このゲームがいかに残酷で、冷徹な意思によって縛られているのかを。


――でもせめて、その時が来るまでは一緒にいたい。

春菜はいずれ決別の時が来ることを知りながら、そうする事を自ら望んだ。

 

・・・。