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リベリオンズ -Secret Game 2nd stage-【19】

 

・・・。


「司様・・・しっかりして下さい・・・! お願いです・・・! どうか、目を開けて下さい・・・!」


・・・。

 

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誰かの必死な声を聞きながら、三ツ林司はうっすらと目を開けた。

見ると視界一杯に、美しい顔が映っている。


「・・・ひと、み・・・?」
「司様! ああ、良かった!」


そう言って、瞳が目に涙を浮かべて安堵する。

だが司には、事情がよくわからなかった。

全身が妙にダルく、そのせいか頭もボーっとしている。


「・・・ここは・・・?」
「前にも滞在した事がある用具小屋です」
「用具小屋・・・――痛ッ・・・くぅ・・・!」


体を起こそうとした途端、脇腹と肩に激痛が走る。

その痛みの中で思い出したのは、敗北の記憶だった。


「そうか・・・僕は、撃たれたんだったね・・・。 まいったな・・・万全を期したはずだったのに・・・」
「司様、申し訳ございません! 私が至らないばかりに!」
「いや・・・さっきのは僕のせいだよ・・・」


恐らくあの女は、防弾チョッキか何かを着込んでいたのだろう。

誤算だったと言えばそれまでだが、きちんと彼女の死亡を確認しなかったのは、明らかに司のミスだった。


「瞳、礼を言うよ・・・。 お前がいなければ・・・僕は、あそこで死んでいた・・・」
「司様・・・!」
「ところで・・・時間はちゃんと確認している?」
「はい。 このエリアには、あと30分ほど滞在できます。 ギリギリまで、司様のお側にいさせて下さい」
「ああ・・・わかったよ・・・」


司はそこで安堵の息をもらしたが――

もしあのまま自分が目を覚まさなかったとしたら、瞳はどうしていただろうかと考えて、思わず背筋がぞっとした。

だいたいあの川原から、瞳はどうやって自分を連れ出したのだろう?

また瞳を命の危険に晒したのではと思い、口元に苦い笑みが浮かぶ。


「・・・僕は、瞳の主人にふさわしくないのかもしれないな・・・」


そう呟いた途端、弱い自分がどんどん嫌になっていく。


「そんな事はございません! 司様は私にとって、最高の――」
「最高か・・・僕には、とてもそうは思えないな・・・。 だって、僕が瞳を命の危険に晒したのは・・・さっきので2度目じゃないか・・・。 僕が瞳なら・・・こんな使えない主人なんて、とっくに見限ってるんじゃないかな・・・」
「つ、司様・・・?」
「いいんだよ、瞳・・・僕の事を見捨てても・・・。 僕は、瞳の主人が務まる器じゃない・・・今回の事で、それがよくわかったよ・・・」
「いいえ、そんな事おっしゃらないで下さい!」
「いや、でもさ・・・」
「嫌です! 私は絶対に、そんな事は致しません!」
「瞳・・・」
「私は司様のメイドでいたいのです! ですからどうか、そのような気弱な事を言うのはおやめ下さい!」


そう言いながら、瞳は目に涙を浮かべていた。

まるで幼い子どものように――。

その姿は司の好きなシクラメンとは、似ても似つかないものだった。


「・・・わかったよ、瞳。 もう・・・変な事は言わないからさ・・・。 だから・・・そんな、悲しい顔をしないでくれよ・・・。 僕はこんな時、どうしたらいいのかよくわからないんだ・・・。 だからさ・・・ほら・・・」
「はい・・・申し訳ありません・・・」


そしてほんの少しの沈黙が、2人の間に訪れる。

するとある欲求が、司の中に沸き起こる。

それは好奇心というよりも、もっと必然的な何かだった。


「ねぇ、瞳・・・」
「はい?」
「お前にまた1つ・・・聞きたいことがあるんだけど・・・」
「ええ、何でしょうか?」
「教えて欲しいんだ・・・どうして瞳が、今の瞳になったのか・・・」
「・・・?」
「瞳はどうして、メイドになろうと思ったんだ・・・?」
「それは・・・しかし、司様・・・」
「頼むよ、瞳・・・。 僕はお前の主として、もっとお前の事を知っておきたいんだ・・・」
「司様・・・!・・・かしこまりました。 ですが私は過去の記憶が曖昧で、正確にお伝えできるかどうかわからないのですが――それでもよろしいでしょうか?」
「ああ・・・俺は、それで構わない・・・」
「そうですか。 では・・・」


瞳がそう言って、静かに深呼吸をする。

そして遠い目をしながら、過去について語り出す。

 

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「・・・私が初めて仕えさせて頂いた方は、今では顔も覚えていない男の方でした。 その方の家には、私と似たような境遇の人間が何人もいて、私たちはその方から、様々な奉仕を命じられておりました。 私が初めて人を殺したのも、その方の命令でした。 理由は確か『規律を乱した者への制裁』だったかと思います。 泣きながら鉈を振り上げている記憶がありますので、恐らくその頃の私は、殺人に抵抗があったのではないかと思います。 ですがその方に命じられて何人も殺していく内に、私はいつしか人を殺す事に、何の躊躇いも感じなくなっていきました。 そしてそんな日々を過ごしていたある日、私はついにある運命的な本と出会ってしまったのです。 『ジョンブル・ブラッド』。 そのマンガの登場人物の1人に、私がいたのです。 悪の組織と戦うヒーローの傍らで、一振りの巨大なチェーンソーを振るうそのメイドは、他ならぬ私自身だったのです。 それから私は男の命令を、喜んで引き受けるようになりました。 いつの日か本当のご主人様に仕えるために、それまでの全てが必要だったのだと、ようやく理解する事ができたのです。 やがてその男が死を迎えた時、黒服の男が私の前に現れて、私に次のように言いました。 『なにか、キミの望むものはないか』と。 だから私は、彼に本を手渡しました。 そこに描かれている未来を、私は心から望んだのです。 すると彼は、私に何でも与えてくれました。 この服も、チェーンソーも、力も。 そして私は彼の言葉に従って、このゲームの中で理想のご主人様が現れる時を、ずっと待ち望んでいたのです」
「そうか・・・瞳、お前は・・・」


泣きながら鉈を振り上げる少女――。

今朝、司の夢に現れたあの少女は、心の中で、何度も繰り返し『ごめんなさい』と謝っていた。

もちろんあの夢の少女が、瞳だという確証はない。

だが瞳が物語の中の登場人物に自分を投影するようになったのは、人を殺した罪悪感から逃れるためだったに違いない。

きっとそうしなければ死んでしまいたくなるような、想像を絶する状況に、瞳は置かれ続けていたのだろう。


「あの、司様・・・?」
「なに?」
「どうして、泣いていらっしゃるのですか・・・?」
「僕が、泣いている・・・?」
「はい・・・」
「そうか・・・僕は、泣いているのか・・・」
「・・・?」
「僕にも、こんな感情があったなんてね・・・」


涙を流した事なんて、もう何年も無かったというのに――

たぶん、感情のない人間なんてこの世には1人もいないのだろう。

司にも瞳にも例外なく、人には感情がある。


「・・・ねぇ、瞳」
「はい、なんでしょう?」
「もう一度聞くけど・・・本当に、僕がお前の『ご主人様』でいいのかい・・・?」
「はい。 司様以外には考えられません」
「そうか・・・それじゃあ、今、約束するよ・・・。 お前が、僕のメイドでいたいと望む限り・・・僕はずっと、お前のご主人様でありつづけるよ・・・。 瞳は・・・それでいいんだよね・・・?」

 

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「・・・はい。 もちろんでございます、ご主人様」


そう言って、瞳が嬉しそうに笑う。

でも司には、もう悲しいくらいにわかっていた。

瞳が本当に望んでいるものは、『ご主人様』などではなかったのだ。

彼女が本当に望んでいるもの、それは――

悪夢のような世界から、彼女を救い出してくれる誰かなのだ。

そしてその人こそが、彼女が求めている『ご主人様』なのだ。

だから司はこの先、どんな事をしてでも彼女の『ご主人様』であり続けようと――

自らの心に、そう誓った。

 

・・・・・・。

 


・・・。

 


――そして陽が高くなり、暖気が溜まり始めた森の中で――


阿刀田初音は、ボロボロになった充と共に、1本の丸い木の根本にへたり込んでいた。

 

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「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「んくっ・・・ぜー、ぜー・・・。 は、初音ちゃん・・・だ、大丈夫かい・・・?」
「は・・・はいです・・・。 でも・・・初音の事より、充の方が・・・!」
「僕の事なら・・・心配ないよ・・・」
「でも・・・でも・・・!」


午前中に春菜と琴美に遭遇してしまってから、いったいどのくらいの間、初音と充は森の中を追い回され続けているのだろう?

あれから何本の矢が放たれ、初音をかばう充の体に、深々と突き刺さったのだろう?

そして――初音はいつから、充の事を演技ではなく、心から案じるようになったのだろう?

わからない事が多すぎて、どうすればいいのかわからなくて、初音の目には涙が浮かんでいた。


「どうして、なのですか・・・? どうして充が、こんなに傷だらけにならなければ・・・いけないのですか・・・?」
「初音、ちゃん・・・?」
「やっぱり、初音がいけなかったのですか・・・? 初音が、大祐と修平を殺したから・・・だから初音は・・・初音と充は、今、こんな怖い目に遭わされているのですか・・・?」
「違うよ、初音ちゃん・・・。 初音ちゃんは・・・何も悪い事なんかしていないんだ・・・。 悪いのは、全部・・・僕らをこのゲームに無理やり参加させた、運営の連中なんだ・・・」
「でも・・・でも初音は・・・っ!」


そのとき初音のPDAが、またあの警告音を響かせる。


「ま・・・また、なのですか・・・?」
「くそっ・・・せっかく撒けたと思ったのに・・・!」


すると森のどこかから、もう聞き慣れた音が鳴り――


「――初音ちゃん、危ないっ!」


――!!


「いぎゃっ!」
「み、充っ!?」


見ると初音をかばった充の背中に、深々と矢が突き刺さっている。

その根本から、じわりと血が滲み出す。


「ぅ・・・うぅ・・・っ!」
「充ぅ・・・充ぅ・・・!」


初音はすぐに矢を引き抜くと、その傷口を手で押さえた。

でも、血は止まらない。

すると背後で、草むらが揺れ――

 

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冷たい目をした、春菜がそこに現れる。


「は・・・春菜・・・っ! あうぅ・・・こっちに来ないで、なのです・・・! 初音たちの事は・・・もう、許して下さいなのです・・・!」

「だめよ、そんなの。 お兄ちゃんを殺したクセに、何を虫のいい事を言ってるの?」

「じゃあ、充だけでも許して下さいなのです・・・! 修平を殺したのは初音で、充は関係ないのです・・・!」

「そうね。 確かに、それはそうだったわね。 それに私のクリア対象にも、彼は今のところ入ってないし」

「じゃ、じゃあ・・・!?」

「ううん。 それでもダメ。 そんなに彼の事が大切なら、彼があなたの目の前で死ぬ事には意味があるもの。 だってあなたにも、私と琴美が感じた悲しみを、少しでも味わわせてあげたいから」


そう言って春菜が笑い、クロスボウに新たな矢を装填する。


――このままでは充が殺されてしまう!


そう思った直後には、初音は走り出していた。

充を1人、その場所に放置して――。


「・・・? 初音、どこへ行くの? 彼が死ぬ瞬間を見なくていいの?」

「――初音は充の事なんて、別に何とも思っていないのですっ! 殺したいのなら、そんなの好きにすればいいのですっ!」

「そう・・・」

「でっ、でもそんな事していたら、初音はその間に遠くへ逃げてしまうのですっ! そして、そんな事になったら・・・そんな事になったら――春菜は、修平と同じお間抜けさんになるのですっ!」

「っ・・・お兄ちゃんが、間抜け・・・」


春菜の顔色に変化が起こる。

初音はそれを見逃さない。


「そっ、そうなのですっ! 初音なんかに殺された修平は、とんだお間抜け野郎だったのですっ!」


そう言って初音は、再び背を向けて走り出す。

挑発に、成功した事を確信しながら――。

 


・・・。

 

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「初音・・・。 ――初音ぇええええぇえええっ!」


お兄ちゃんを侮辱された――!

それだけで細谷春菜は、もう周りが見えなくなっていた。

逃げて行く初音の背中に、全神経が集中する。


――許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せない、許せないッッ!!!!!


「あああああああああああっ!」


手に持ったクロスボウを、大きく前へと伸ばす。

照準なんてどうでもいい。

次に放つ矢で、初音を殺せさえすればそれで良かった。

だが、そのとき背後でガチャリという金属音が鳴り――


――!!!


「ッ――――!?」

 

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「あ、ぅ・・・ごほっ、ごほごほっ・・・!」


――撃たれた? 私が?


背中と胸がひどく熱い。

肺が破け、そこに血が流れ込んできているのがわかる。


「何で・・・こんな・・・?」


すると、その疑問に答えるように――

 

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「ごめん・・・でも僕は、約束したんだ・・・僕が・・・初音ちゃんを、守るって・・・」


「――み、充ぅっ!」


春菜の横を駆け抜けて、初音が充の下へと舞い戻る。

だが春菜はその姿を、目で追う事さえできなかった。

喘ぐように酸素を取り込もうと思うものの、息苦しさがいつまで経っても消えてくれない。

息を吸い込むたび、胸に激痛が走る。


「くっ・・・は、はっ、はっ・・・。 っ・・・あ、ぐ――」


だんだんと、意識が朦朧とし始める。

全身が、寒気と虚脱感に支配されていく。

こんな事で終わりなのだろうか?

こんな終わりを迎えるために、今まで必死にこのゲームを生き延びてきたのだろうか?

手を血で真っ赤に染めて――

ようやく再会できた兄を、目の前で殺されて――

その仇を討つ事さえ叶わずに――


「お・・・お兄ちゃん・・・酷いよ・・・酷いよ、こんなの・・・」


だが同じ事を、春菜は何人ものプレイヤーに対して行ったのだ。

春菜は何人ものプレイヤーを、その手で殺したのだ。

そして冷たい暗闇が、春菜の意識を包み込んでいく。


お兄ちゃん、ごめんなさい・・・。

ごめんね、琴美・・・。

私ね・・・。

せめて2人には・・・幸せになってほしいと思っていたんだよ・・・。

でも・・・私じゃ、どうする事もできなくて・・・。

ごめんね・・・ごめんね、2人とも・・・。

春菜は死の間際まで、修平と琴美に謝り続けた。


――そして、今まで春菜が殺めてしまった人たちにも――


だが、やがてその時が訪れ――

 

春菜の意識は闇に消えた。

 

・・・。

 


阿刀田初音が見下ろす中で、春菜は静かに息絶えた。


――ごめんなさい――


彼女が声なく口にしたその言葉が、誰に向けられたものなのかはわからない。

だが少なくとも、初音に向けられたものではない事だけは確かだった。

すると初音に支えられながら立つ充が、今にも消え入りそうな声で話しかけてくる。

 

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「・・・行こうか、初音ちゃん」
「・・・はいです」


だがその時、誰かの駆け足の音が聞こえ――

 

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「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


「琴美・・・!」

「初音ちゃん、僕の後ろへ」


充がそう言って、銃を持って前に出る。

だが琴美は前回のように、銃をこちらへ向けたりはしなかった。

琴美の目が見つめているのは、ただ春菜の亡骸だけだった。


「は・・・春菜、ちゃん・・・? そんな・・・どうして・・・。 うっ・・・うぅっ・・・どうして・・・どうして、こんな事に・・・!」


「っ・・・」


春菜の死を悲しむ琴美から、初音は目を逸らしていた。

だが初音のクリア条件が『自分以外のプレイヤー全員の死亡』である以上、琴美をこのままにはできない。


――でも、もう初音は・・・。


「大丈夫。 彼女も僕がやる」

「え・・・?」


驚いてそちらを見ると、充は眉を八の字に曲げていた。

それでも躊躇することなく、銃を手に、琴美の方へ歩いて行く。

当然、琴美は充の接近に気付いてるはずだった。

なのに、何もしようとしない。

ただ春菜を見つめ、涙を流し続けている。

 

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「ねぇ君、いいの? 君だって銃を持ってるはずだよね?」

「・・・・・・」

「別に抵抗して欲しいってわけじゃないけど――このままだと君は、藤田くんの仇も、そこに倒れている彼女の仇も、討てなくなってしまうんだよ?」

「・・・・・・は・・・しない・・・」


「ん・・・?」

「私は・・・修ちゃんと春菜ちゃんの命を奪った、このゲームになんか参加しない・・・。 それに私・・・もう、誰かが死ぬところなんか見たくない・・・」


「・・・!」

「そっか・・・君はそれを選ぶんだね?」

「・・・うん・・・」

「わかった。 じゃあ悪いけど、僕は君を撃たせてもらうよ」

「うん・・・私を修ちゃんと春菜ちゃんの所へ逝かせて・・・。 私は絶対に、あなたの事を恨んだりしないから・・・」

「・・・!」


「こ・・・琴美ぃ・・・」

「ねぇ初音ちゃん・・・あの時、銃を向けたりしてごめんね・・・」

「っ!?」

「・・・・・・それじゃあ、いくよ」


そう言って、充が琴美の眉間に銃口を突き付ける。

刹那、初音の中に様々な感情が渦巻いて――


「や、め――」


――!!

 

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「ッッ!!――――っ・・・!・・・・琴美・・・」


初音は倒れた彼女の亡骸を、それ以上見るのを止めた。

そして充が、初音の下へ戻って来る。

青ざめた顔で。

やはり眉を八の字に曲げたままで。


「行こう、初音ちゃん・・・」


よく見ると、充の膝は震えていた。

その目は眼鏡の下で、情けないくらい揺れ動いていた。


「・・・・・・」


ゲームを否定し、琴美は死んだ――。

そして充はゲームを肯定し、初音のために、その罪の一部を肩代わりしてくれている――。

そんな2人に比べ、殺人者を演じる事で自分を保とうとしていた初音は、あまりに弱すぎる存在だった。

そしてその演技さえ、今ではできなくなってしまっている。


――初音は本当に、今のままでいいのですか?


だがその答えを見つけられぬまま、初音は充と共に、琴美と春菜が折り重なって眠る、その森を後にした。

 

・・・・・・。

 


・・・。

 

 

――黒河正規が新たな武器の捜索を始めてから、すでに5時間が経っていた。

その間に消費したメモリーチップは、5つ――。

だが食料や弾薬は潤沢になったものの、目当ての物は見つかっていない。

 

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今は6つ目のメモリーチップを使った真島と女を先頭に、ほぼ一列になって原っぱを歩いている。

 

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そして最後尾を歩く玲は、相変わらず沈んだ顔のままだった。


「ちっ・・・予定が狂うっつーんだよ」


あのやたら連射が利く拳銃を持った小僧と、例の化け物メイドに対抗するためには、銃器と、それを扱える頭数が必要なのだ。

だが今の玲では、戦いになっても恐らく使い物にならないだろう。

バカ女の軽機関銃を奪うことができれば、もう少し状況も変わるのだろうが、真島がそれを許すとも思えない。


――くそっ、面白くねぇ・・・。


黒河は胸中でそう毒づきながらPDAを取り出し、現状を確認しようと特殊機能を作動させた。


【死亡情報】

3日目。

AM5:59

プレイヤーナンバー『10』伊藤大祐。

8エリアにて死亡。


・・・・・・・・・

 

5日目。

PM0:10。

プレイヤーナンバー『3』細谷春菜。

24エリアにて死亡。


5日目。

PM0:16.

プレイヤーナンバー『6』吹石琴美。

24エリアにて死亡。


死亡者数6名。

生存者数8名。

 

「おいおい、もう残り8人かよ・・・。 このままチンタラやってたんじゃ、マジで真島のクソと仲良くクリアしなきゃいけねーハメになっちまうぜ――おい、女! 次のポイントはまだなのかよ!」

「うひゃっ・・・もー、どうして急にそういう大声を出すんですか? あたし、びっくりするじゃないですか?」

「うるせぇんだよ、このタコ! まだ着かねーのかって聞いてんだ!」

「うぅ・・・だから、怒鳴らないで下さいよぅ・・・」

「荻原、あの男をまともに相手にするな」

「ああ? んだとコラてめぇ、左拳の骨もぐしゃぐしゃにされてぇのかコノ野郎ォ!?」

「ふっ。 一度俺に勝ったぐらいで」

「んだオラァ、ずいぶんむかつく言い方してくれるじゃねーか? てめぇ、俺がいま銃持ってんの忘れてんじゃねーだろうな?」

「お前の方こそ、今は俺を殺せば不利になるという事を忘れているんじゃないのか?」

「――っんだとコノ野郎ォ!」

「ああ、もう2人とも! どうしてすぐそうやって、喧嘩しようとするんですか! 玲ちゃんも、黒河さんを止めて下さいよ? 黒河さんの扱いには慣れてるって言ってたじゃないですか?」


「・・・黒河、静かにしなさい・・・」

「ああ!? んだそのテキトーな止め方はよ!?」

「・・・・・・」

 

「もー、だから仲良くしましょうってば!――あっ、ほら! もうポイントに着きましたよ!」

「ちっ、それを早く言えっつーんだよ!」


見ると女が指差したその先に、何の変哲もない草むらがある。


黒河はすぐにその場にしゃがみ込み、手早く地面を掘り返した。

すると土の中から、食料や水が入ったアルミ缶の他に――

やけに細長い木箱も現れる。


「んだこりゃ? どー考えても、銃じゃねーな?」

「だろうな」

「・・・みたいですね」

「くそっ、ここも外れかよ――オイ、次だ次っ!」

「うぅ、そろそろメモリーチップが心配になってきましたね」

「黒河、こちらから提供するのはあと2枚だ」

「ああ? なにケチ臭ぇこと言ってやがんだ、てめぇは?」


そう言って真島を睨みつけながら、黒河が率先してその場から離れようとした――その時。


墨色の影が、黒河の横を駆け抜けた。

 

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「あ?」

「玲ちゃん?」

「なんだ? どうしたというんだ?」


すると玲は、掘り返した地面の前にしゃがみ込み――


「こ、この箱の形状は・・・!・・・お、おおっ!」


「・・・?」


不思議に思って玲の頭の上から覗き込むと、彼女が蓋を開けた箱の中に、一振りの日本刀が収まっている。


「けっ、ただのポン刀じゃねーか。 俺たちに必要なのは、銃だっつーんだよ」

「・・・ふっ、ふふふふ」

「あ? なにいきなりわらってんだ、てめぇ?」

「黒河、これが私の力です」

「ああ?」

「黒河が言ったのですよ。 私に力を持てと。 そして私は、蒔岡流剣術の後継者です。 私が扱える刀の中で、これ以上のモノはありません」

「なっ・・・この、バカ野郎がっ! 俺があのとき言った力っつーのは、銃の事だっつーんだよ! 今さらそんなダンビラありがたがってどーするよ!? 向こうも銃を持ってるっつーのに、なに考えてんだてめぇはよォ!?」

「・・・勝てます」

「ああぁあ!?」

「勝てると言ったのです。 3メートル以内なら確実です」

「3メートルだぁっ!? んな近くから銃持つバカが、どこにいるっ!? 最低10メートルは、必要だっつーんだよっ!」

「では、8メートルならどうですか?」

「なんで5メートルも急に伸びるんだよ!? てめぇの距離感は、四次元かコラァ!? だいたい、2メートル足りてねぇっつーんだ!」

「むっ・・・」

「そういうトコだぞ、てめぇはよォ!」

 

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「っ・・・!! せいやっ――ハッ!!!」


「んなっ!? ぐはっ――ぅぐぉおおっ・・・て、てめぇ・・・いきなり何してくれてんだコラァアアッ!」

「私より弱いクセに、生意気な事を言うからです」

「くっ、この野郎ぉ・・・!」


黒河はすぐに起き上がり、玲を拳銃で黙らせようとした。

だが、その刹那――

 

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「なっ・・・!?」


気付けば冷たい刀身が、黒河の首筋に当てられている。


「っ!?」

「・・・!」


「どうします黒河? これでもまだ不服ですか?」

「っ・・・!」


黒河の全身から、血がサァっと引いていく。

初めて出会ったあの時と同じ、1匹の凶暴な獣がそこにいる。


「てめぇ・・・ダンビラ持った途端に、それかよ・・・!」

「何がですか? 言っている意味がわかりませんね?」

「っざけんな! てめぇはさっきまで、ふ抜けていやがっただろーがよ!」

「それは当然です。 さっきまでの私は、刀を持っていませんでしたから」

「んだそりゃてめぇ!? じゃあメイドに負けた事は、もういいっつーのかよ!?」

「あんなもの、敗北して当然です。 なぜならあの時の私は、刀を持っていませんでしたから」


「刀々うるせぇーんだよ! てめぇどんだけ単純だコラ!」

「単純なのではありません。 私は根が素直なだけです。 だいたい黒河に、アレコレ言われる筋合いはありません。 だから誰が何と言おうと、私はこの刀を手放しません」


そう言って玲が、黒河の目を見つめてくる。

遮るもののない頭上からの陽光を受け、さっきまで淀んでいた玲の目が、やけに強く輝いている。


「てめぇ・・・!」


いくら剣術にこだわっていたからと言って、刀を手にした途端に、果たしてここまで人間が変わるものだろうか?


だが――他人の心根を探ろうなどというガラにもない事をしている自分に気付き、黒河はすぐに玲を見るのをやめた。


「ちっ・・・勝手にしろ、このクソガキが」

「もちろんです。 私は別に、黒河の奴隷ではありませんので」


そう言って、玲が刀を鞘に納める。

黒河がその小気味の良い音を聞きながら、なぜか腹の底におかしみのようなモノを感じていた。

 

・・・・・・。

 


・・・。

 

 

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夕日を浴びて燃えるように輝く麦穂を、初秋に吹く優しい風が何度も何度も撫でている。

それは信じられないほどの、静けさに満ちた光景だった。


城咲充は眼鏡のレンズを通してその光景を眺めながら、ゆるやかに、自らに死期が近づいている事を実感した。

さっきまであんなに疼いていた背中の矢傷が、今では嘘みたいに気にならなくなっている。

充が今はっきりと感じ取れるのは、自分の体を支えて歩く初音の体温だけだった。

 

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ふと気付くと彼女の目が、じっと自分を見つめている。


「・・・どうしたの、初音ちゃん?」
「充・・・本当に治療しなくていいのですか?」
「・・・ああ、大丈夫だよ」
「でもでも、廃村まで行けば昔診療所だった建物があるですよ? そこなら薬とか包帯とか、色々そろっているのですよ?」
「ありがとう初音ちゃん・・・でも、いいんだ」


きっとそんな所まで、自分の体は持たないだろう。

そんな事よりも、充が今心配しなければいけないのは、昨日からずっと元気がない初音の事だった。

たぶん、彼女が殺してしまった2人のプレイヤーや、充が殺したプレイヤーたちの事で、胸を痛め始めているのだろう。

こんなゲームにさえ参加させられていなければ、本当は心優しい女の子だという事を、充はよく知っていた。

ファンに対する態度が丁寧な事も、どんな仕事にも一生懸命な事も、プリンが大好きで蜘蛛が大嫌いな事も――


「・・・なんか、こうしていると夢みたいだよ」
「え?」
「だって僕んちって、小さな町工場でさ・・・外見や性格もそうだけど、僕って人生そのものが、本当に地味なものだったんだ・・・。 だから、こんな風にアイドルの初音ちゃんと歩けるなんて、普通じゃ考えられない事だと思うんだ・・・」
「充・・・こんな時に何を言っているのですか?」


そう言って初音が、少しだけ恥ずかしそうに笑う。

でもそれも、いつもの彼女の笑顔じゃない。


「・・・ねぇ、初音ちゃん? 初音ちゃんはさ、どうしてアイドルになろうと思ったの?」
「え・・・?」
「もちろんファンサイトとかで見て知ってるんだけど、せっかくだから初音ちゃんから直接聞いてみたくてさ。 ダメ、だったかな?」
「・・・もちろん、ダメではないのです。 初音がアイドルになりたいと思ったのは、初音のママが、初音の生まれる前に芸能界にいたからなのです。 初音のママはそんなに有名ではなかったですが、それでも当時の映像や写真を見たりすると、すごく幸せそうにしていたのです。 それは初音のママだけじゃなくて、ファンの人たちもそうだったのです。 今でも時々、ママにファンレターが届くのです」
「へぇ、すごいね」
「はいです。 だから初音も、ママみたいにファンに愛されるアイドルになりたかったのです。 それより充こそ、どうして今も『安藤初音』のファンなのですか? 『安藤初音』は、もう落ち目のアイドルだったですのに」
「そんなの、僕には関係ないんだ。 だって僕がファンなのは、アイドルの初音ちゃんじゃなく、初音ちゃん自身なんだから」
「初音自身、ですか・・・?」
「うん。 実はさ、僕――」


そう言いかけた時、充は麦畑の向こうに彼の姿を据えていた。


「っ!?  ――危ない初音ちゃんッッ!!」


――!!!


銃声が鳴り響き、無数の銃弾が、麦穂を散らして殺到する。


――!!!


初音の前に出て、充はそれを全身に浴びた。

失われつつあった体の感覚が、激しい痛みで無理やり起こされ、筋肉と神経が、電流を浴びたように硬直する。

膝から力が抜け、地面が迫る。

でも今倒れれば、もう2度と起き上がれはしないだろう。


「ふぅ・・・、くぅ・・・っ!」


歯を食いしばり、何とか膝をつくに留める。

気を抜けば、意識なんてすぐに消し飛んでしまいそうだった。

だがそんな時、温かいものが充に触れた。

見ると初音が充の体を支え、胸や腹からあふれる血を、手で押さえようとしてくれている。

 

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「充ぅ! 充ぅ!」
「うぅ・・・は、初音ちゃん・・・無事、かい・・・?」
「はい、初音は大丈夫だったのですぅ! 充がかばってくれたから、初音は大丈夫だったのですぅ! でも充がぁっ! 血が、こんなにぃっ!」
「いいんだよ、初音ちゃん・・・僕は初音ちゃんが無事なら、それでいいんだ・・・」


充は、泣きじゃくる初音の頭をそっと撫でようとした。

 

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そのとき麦穂の向こうから、メイドと司のやり取りが聞こえてくる。


「司様、それではとどめは私が」

「待て瞳、これ以上は彼らに近づかない方がいい」


「・・・!」


――なぜ?


そう思った次の瞬間には、その答えは頭に浮かんでいた。

――そうか!


そして充は一気に行動した。

痛みで焼け付きそうになる意識の中で、『JOKER』のPDAを取り出し、特殊機能を起動する。

そしてこれまでずっと禁忌にしてきた、ある行為を行った。

銃を撃っても、あのメイドには通用しない。

下手に逃げようとすれば、銃の的にされてしまうだろう。


だったら――


彼らが、それを恐れているというのなら――


どっちにしろ僕の命は、もう燃え尽きてしまうのだから――


「充・・・そんな事をして、何をするつもりなのですか・・・? 充はまさか・・・死ぬ、つもりなのですか・・・?」

「ああ、ごめんね初音ちゃん・・・本当は、最後まで一緒にいたかったんだけど・・・」

「イヤなのです! 初音は、充と離れたくないのです!」

「もう泣かないでくれよ、初音ちゃん・・・初音ちゃんのチャームポイントは、『笑顔』だったはずじゃないか・・・」

「充ぅ・・・充ぅ、違うのですよぉ・・・! 今の初音は、ただの人殺しなのですよぉ・・・! だから充が今の初音のために、こんなにまでなる事はなかったですよぉ・・・!」

「初音ちゃん・・・」


――ああ僕は、最後まで初音ちゃんを笑顔にできなかったな――


「・・・初音ちゃん、バイバイ」


充はその場に立ち上がり、麦畑の中を走った。


PDAを握り締め――


予想外の出来事に目を見開いている、司とメイドの方へ向かって――

 

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「おおおおおおおおおおおおおおーっ!」


そして、司が手にした銃の引き金を引いた。

銃口からはじき出された銃弾が、次々と充の体を貫いていく。

だがその時には、充の世界から音も痛みも消えていた。

 

 

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ねぇ、初音ちゃん。


さっきは言えなかった事だけど――。


僕は昔、初音ちゃんに、命を救われた事があるんだよ。


初音ちゃんがついに歌手デビューを果たした、あの年なんだ。


僕がどうしようもなく、この世界にとって、自分は不必要な人間なんじゃないかって、そう思い詰めた事があったのは。


弱い自分が嫌で、情けない自分が嫌で、この世から消えてしまおうかと、僕は本気で、そう思った事があったんだ。


でもそんな時、僕はたまたまテレビに映っている、初音ちゃんを見たんだよ。


そこにはさ、自分と一つしか歳が離れていないのに、必死に歌っている初音ちゃんの姿があったんだ。


正直、歌はそんな上手くはなかったけど――


でも初音ちゃんの笑顔と歌声は、確かに僕の心に届いたんだ。


もう少しだけ、僕も初音ちゃんみたいに頑張ってみよう。


僕にそう思わせる力が、確かにそこにはあったんだ。


それから僕は必死に勉強して、好きな物だってたくさん見つけて、眼鏡とかオタクとか言われながら、それでも今まで生きて来たんだ。


だから僕は、ずっと初音ちゃんを応援していたんだよ。


だって僕が好きなのは、アイドルの『安藤初音』なんかじゃなく、いつもいつも、一生懸命にがんばっている君だから。


だからさ――


――だから僕は、初音ちゃんのためなら死ねるんだ。


「ッッ――!!

 

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14m、13m、12m、11m――。


三ツ林司はすでに、人ひとりの命を奪うのに必要な数の銃弾で、充の体を撃ち抜いているはずだった。


そのはずなのに――


――!!!


充が身体中を血塗れにしながら、猛然とこちらへ突き進んでくる。


段数がゼロになり、M93Rから反動が不意に消え失せる。


それほどの銃弾を撃ったのに――


それでも充の足は止まらない。


「――おおおおおおおおおおおっ!」


――どうして!?


司は初め、充が自棄を起こして破れかぶれの行動に出たのかと思った。

次に初音を逃がすための捨て身の陽動なのかと思った。

だがどちらにしろ、銃を使おうともしない意味がわからない。


――まさか!?


そこでようやく思いつき、司はM93Rを放り投げながら、自分のPDAを取り出した。


万が一に備え、その特殊機能はすでに起動させてある。


8m、7m、6m――。


そのときPDAのディスプレイ上に、傍らにいる瞳の特殊機能とは別に、使用可能な特殊機能が表示された。

 

 

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『半径2m以内にいるプレイヤーの首輪を指定して爆発させる』
『プレイヤー同士の接触情報を閲覧出来る』
『半径10m以内にあるPDAの特殊機能を無効化する』
『半径10m以内にいるプレイヤーのナンバー、クリア条件を表示する』
『半径1m以内にいるプレイヤーが死亡した時、このPDAのプレイヤーを除く半径5m以内のプレイヤーの首輪を爆発させる』
『半径1m以内にあるPDAを操作不能にする』


――「っ!?」


これは、初音のPDAの――?


だとすれば、今、城咲先輩が使っている特殊機能は――!

背筋が震えた。


充の雄叫びは、いつの間にか止んでいた。


なのに、彼の足は止まっていない。


4m、3m、2m――!

 

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「――司様に近づくなぁああぁッッ!!」


瞳がチェーンソーを振り上げ、充を切り払おうとする。


それは一瞬で、充の命を奪うだろう。


その時、充がかすかに笑った。


『半径1m以内にいるプレイヤーが死亡した時、このPDAのプレイヤーを除く半径5m以内のプレイヤーの首輪を爆発させる』


充が起動させているのは、その機能に他ならない。


「――ダメだ、瞳! 彼を殺すな!」

「えっ!?」


主人の命令を受け、従順なメイドが動きを止める。


直後、司の脳内に対抗策が思い浮かぶ。


それは現在司が使用可能な、特殊機能の中にあった。


『半径10m以内にあるPDAの特殊機能を無効化する』


それさえ起動させてしまえば――!


だがその思考を遮って、充の絶え絶えの声が、司の鼓膜を震わせた。


充が体を預けるように、司の体に抱き付いた。


「初音、ちゃんは・・・僕が、護るんだ・・・」


そのまま倒れ込みながら、司に体を預けてくる。

充は同時に、司が手にしていたPDAを払い落とした。


「ッ――!」


「司様ッ!」

「――瞳、こっちへ来るなッ!」


とっさにそう叫び、司は充を引きずって瞳の反対側へ体を動かした。

そうさせまいと、充が体重をかけてくる。


「くッッ!」


傷口が開いたのか、脇腹に激しい痛みが起こる。

だが今は、そんなことはどうでもいい。

PDAを拾っている暇はない。

その前に、充の命は尽きるだろう。


――だから、離れるんだ!


―― 一刻も早く瞳から!


2m、、、

3m、、、

4m――。


そのとき司にしがみついていた、充の腕から力が抜けた。

 

 

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「ぼく、の・・・かち、だ・・・」

「くっ――――うっ、うああああああああああっ!」


――させない――


――こんな所で――


――かわいそうな瞳は、死なせない――


司は声を上げ、力を振り絞りながら、また数歩、大股で地面を踏みしめた。


そして永遠とも思える、その一瞬を越えた時――


司にしがみついていた、充の体がずるりと落ちた。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


充が死んだ。


司のすぐ側で。


そして死の宣告が、司の耳元で鳴り響き――


赤い点滅が、司の首輪で始まった。


「・・・瞳は!?」


呟き、慌てて瞳に目を向ける。

見ると、瞳の首輪は――点滅していない。


「良かった・・・間に合っていたんだね・・・良かったよ・・・本当に・・・」


そのとき麦畑に、秋風が吹き抜けた。



「つ・・・司、さ、ま・・・? 司様・・・そんな・・・!」

「ごめんね、瞳・・・。 ずっと瞳のご主人様でいるって・・・ついさっき、約束したばっかりだったのに・・・。 僕は、瞳のご主人様として・・・やっぱり相応しくなかったみたいだよ・・・」

「いいえ・・・いいえ、そんな事はございません! だから・・・だから、どうか・・・!」

「無理だよ、瞳・・・さすがにこうなっちゃったら、もうどうする事もできないよ・・・」

「いやです・・・いやです司様!」

「あはは・・・ほんと、瞳って意外とわがままだよね・・・。 まあ、それは僕もそうだけど・・・。 だからさ、瞳・・・最後に1つだけ、命令させてもらうよ・・・。 瞳・・・お前は、このゲームで勝ち続けるんだ・・・。 そして、お前を救ってくれる本当のご主人様が現れるまで・・・お前は、最後まで行き続けるんだ・・・」

「いやです! 私は司様のメイドです! 司様は私のご主人様なのです! だからどうか、どうか私を置いて行かないで下さい!」

「ごめんね、瞳・・・本当に、ごめん・・・」


謝る以外に、司にはどうしていいかわからなかった。

この残酷な世界で行き続けろという命令は、もしかすると彼女が一番望んでいないものなのかもしれない。

それでも司は、瞳に死んでほしくなかった。

だからもう1度、司は瞳に念を押した。


「いいね、瞳・・・僕の命令を、絶対に守り通すんだよ・・・」


その時タイムリミットを告げる、警告音が鳴り――


――!!!!


耳をつんざく音と共に、司の首輪は爆発した。


・・・・・・。

 

・・・。

 


阿刀田初音がその場所に向かうと、倒れて動かなくなった司の傍らに、チェーンソーを手にしたそのメイドが立っていた。

そして充も、彼女の足元に倒れている。

もともとボロボロだった体を、さらに無数の銃弾で撃ち抜かれ、司と共に、地面に血溜まりを作って死んでいる。


「今度こそ・・・今度こそは、理想のご主人様に出会えたと思いましたのに・・・。 司様も・・・私を置いて逝ってしまうとは・・・。 私は・・・いったい、いつになったら・・・」


そのときメイドが、ふと初音に視線を向けてくる。


そして何か合点がいったように、彼女はか細い声で呟いた。


「ああ・・・あなたは、確かキラークイーンでしたね・・・。 そうですか・・・だから、彼は・・・」

「・・・・・・?」


メイドの目がふらふらと、今度は足元の充の遺体へと落ちる。


そして口元に正体不明の怪しげな笑みを浮かべながら、また独り言を呟いた。


「彼は・・・クイーンの従者だったのですね・・・。 だから・・・彼も、あんなに必死に・・・」
「・・・・・・」
「ねぇ、クイーン・・・もし可能ならば、もう戦いは止めに致しませんか・・・?」
「え・・・?」
「私は、司様から最後の命令として・・・生き続けるように仰せつかったのです・・・・・・ですから・・・」


まるで懇願するように、瞳がそっと目を伏せる。

その時また風が吹き、麦畑の上に朱を帯びたさざ波が立つ。

初音はその光景に目を奪われ、素直に『綺麗だな』と思った。


――そして頭の中で、悲しいカチンコの音が鳴った。


「・・・いいですよ」
「・・・本当でしょうか・・・?」
「はい、なのです・・・。 初音ももう、殺し合いはうんざりだったのです・・・。 本当は初音だって、もう誰とも戦いたくはなかったのです・・・充だって、死なせたくはなかったのです・・・」


すると不意に、初音の頬を涙が伝った。

せめてその涙だけは本物であってほしいと願いながら、初音はPDAを取り出すと、その画面をメイドへ向けた。


「これが初音のクリア条件なのです。 たぶん、あなたとは競合していないはずなのですが」
「それは・・・申し訳ありませんが、光に反射してよく見えないのですが・・・?」
「え? そうですか? ではもう少し、初音の方に近づいて欲しいのです」
「そうですね。 わかりました」


頷いて、メイドがゆっくりと初音の方へ歩み出す。


――あと少し。


初音はそっと指を、PDAの操作ボタンに触れさせた。

もちろんディスプレイに映っているのは、クリア条件などではない。

そこに表示されているのは、『半径2m以内にいるプレイヤーの首輪を指定して爆発させる』という、まり子の特殊機能だった。

まり子がいつどこで、誰に殺されたのか、初音は知らない。

でも初音は充の想いを無駄にしないため、それを使う事に躊躇いはなかった。

彼女を殺せば、あと4人――。

手に入れた特殊機能の数から、初音にはそれがわかっていた。

そしてメイドのスカートに覆われた足が、初音の2m以内に踏み込もうとした――その時。


「・・・?」


怪訝そうに首を傾げながら、瞳の足が停止する。

だが初音は冷静に、自ら足を一歩前に踏み出しながら、PDAを操作した。

ディスプレイに現れたメイドのプレイヤーナンバーの『2』にカーソルを合わせ、操作ボタンを押す指先に力をこめる。

だが、メイドはそれより早く地面を蹴り――


「・・・え・・・?」


気が付けば初音の視界から、メイドの姿が消えていた。

ディスプレイ上からも、ナンバー『2』が消えている。

そして初音の視野の外で、不吉な駆動音が鳴り響き――


「残念です・・・さきほどの涙は、本物かと思いましたのに・・・」


「っ・・・!?」

 

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その音と声のする方向へ初音が目を向けた時、メイドはすでにチェーンソーを真横に構え、スロットルレバーを握り締めていた。

そして回転を始めた刃を引っさげて、2m外からゼロ距離まで、一気に飛び込んでくる。

そのとき初音にできたのは、驚き声を上げる事だけだった。


――!!!



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「あ・・・!」


脇腹から肩にかけて、凄まじい摩擦が駆け抜ける。

それだけで、全身から力が抜けた。


そして倒れた初音の耳に、メイドの声が聞こえてくる。


「・・・少々、危ないところでしたね。 さすがはキラークイーン、と言ったところでしょうか? よもやこの私が、殺されかけてしまうとは・・・申し訳ありません、司様。 ですが私は、もう油断は致しません。 お詫びに私1人で、残り4人のプレイヤーを全員殺してご覧にいれましょう。 ふふっ、お喜び下さいますか・・・?」


メイドは、死んだはずの司に話しかけているようだった。

死に向かう初音のことなど、もう眼中にないらしい。


「ああ、そう言えば・・・確かあの方たちの中に、クリア条件のPDAが関係している方がいたのでしたね? では、全て集めていきましょう。 ついでにメモリーチップも。 武器は、破壊した方がよさそうですね」


そう言って、メイドが初音の手からPDAを奪っていく。

メイドが口にした『あの方たち』というのが誰のことなのか?

おそらくメイドには、彼らのクリア条件を耳にする機会があったのだろうが――

だが初音は、その先を考えようとは思わなかった。

考えたところで、何の意味もないことに気づいたから・・・。

やがて、幾つかの物音が聞こえ――


「ふふっ、司様は私と一緒に参りましょう。 それではクイーン、御機嫌よう」


そう言い残し、メイドがどこかへ去って行く。

 

・・・。

 

――命が消える。


だが初音は、ただその時を待つだけなんて嫌だった。

 

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「う・・・、うぅ・・・みつ、る・・・みつる・・・充・・・充ぅぅぅっ!」


1人でなんか死にたくない。

その一心で、一足先に逝ってしまった充の下へ這って行く。

そして初音の手が、充まであと少しのところまで迫った時――

 

 

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初音の脳裏に鮮やかに蘇ったのは、在りし日の記憶だった。

歌手デビューを果たし、初めて握手会をしたあの日――。

列の先頭に立っていた少年は、慌てて手の平の汗を拭い、すっかり興奮し、感涙さえしながらも、手を差し出してくれたのだ。

あの温かい手を、初音は今でも覚えている。

仕事でどんなに辛い事があっても、その時の事を思い出して、初音は芸能界で一生懸命がんばってきたのだ。

そして自分とほぼ同年代だったあの少年が誰だったのか、今ならハッキリと思い出せる。


『がんばってね、初音ちゃん! これからどんな事があっても、僕は一生、初音ちゃんのファンでいるからね!』

 


「思い・・・出したのです・・・あの時のファンは・・・充、だったのですね・・・!」


やがてまばゆい光が、初音の上に降り注ぎ――


そこはライブ会場だろうか?


たくさんのスポットライトが、初音1人に向けられていた。


観客席を見ると、そこには笑顔があふれている。


初音はその中に、彼の姿を探した。


すると観客席の最前列から、一際大きな声で、初音を呼ぶ声が聞こえてくる。


「初音ちゃーんっ! 初音ちゃん、頑張れーっ! 初音ちゃーんっ!」


――見るとそこには初音公式ファンクラブのハッピを着た、眼鏡をかけた彼がいた。

 


・・・・・・。

 

 

・・・。

 

 

 

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――空では月が、煌々と青白い光を放っていた。

夜だと言うのに木の陰影がくっきりしており、それが風で度に人影に見えるのか、結衣が腕をつかんでくる。

だが真島章則は、それについて文句を言おうとは思わなかった。


黒河がPDAで死亡情報を確認した限り――


今日だけで、もう5人のプレイヤーが命を落としている。


――生き残っているのは、あと5人――


その時、玲と共に先頭を歩いていた黒河が、前方を見て足を止めた。

 

「お? 着いたか?」


見ると森が急に開け、その先が麦畑になっている。

真島はざっと周囲の様子をうかがった。

見たところ、人の気配はないようだが――

 

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「おい玲、どうだ?」

「・・・いませんね、恐らく」

「恐らくだぁ?」

「はい。 十中八九、大丈夫です」

「何が『十中八九』だよ? イエスかノーで答えやがれっつーんだ、この野郎。 気に入ってんのか、その言葉?」

「むっ・・・世の中に、100パーセントなどという事はありえません。 私は嘘が嫌いです」

「ちっ、面倒臭ェ野郎だな」

「野郎ではありません。 私はれっきとしたレディです。 黒河こそ、何でも語尾に『野郎』をつければ良いというものではありません」

「このヤっ・・・うるせぇんだよ、てめぇはよ」

 

「・・・・・・」


どうして今の状況でそんな軽口を叩き合えるのか、真島は少し2人の神経の太さが羨ましかった。

すると隣の結衣が、心配そうに見つめてくる。

 

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「真島さん・・・?」

「・・・ああ、大丈夫だ」


そう答えはしたものの、自分でも何が大丈夫なのかはわからない。

この場所で3人の人間が死んでいるという事は、すでに黒河の特殊機能で確認済みなのだ。


「――おい、行くぞてめぇら」

「ああ・・・」

 

黒河の号令に頷いて、全員でその場所へ足を踏み入れる。


そして――彼らの遺体は、すぐに見つかった。

首輪が爆発して死亡した男の遺体と、手を取り合って死んでいる男女の遺体――


「・・・!」

「っ・・・」


ここで壮絶な戦いが行われたであろう事は、状況を見れば一目瞭然だった。

結衣が震える手で腕をつかんできたが、真島自身の体が震えていないという保証は何もない。


「・・・黒河、『JOKER』のPDAの持ち主は?」

「ああ? おお、そこで女と一緒にくたばってる眼鏡だ」

「そうですか・・・」


そう言って玲は、その遺体に手を合わせると、すぐに男の遺体を調べ始めた。


「しっかし、まさか充の野郎が女と一緒に死んでるとはな? 何があったか知らねぇが、仲良さそうで結構なこったぜぇ」

「・・・どい・・・」

「ああ?」

 

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「――ひどいって言ったんですよ! 仲間だった人が死んだのに、どうしてそんな風に笑ってられるんですか!?」

「はあ? 充が俺の仲間だぁ? オイオイ、冗談じゃねぇぞコラァ? コイツはな、俺の『奴隷』だったんだよ。 なのにコイツは俺の所から逃げ出して、んで、こんな所で女とくたばってやがったんだぜ? コメディかっつーんだよ」

「どこがコメディなんですか!? みんな無理やりこのゲームに参加させられて、必死に生きて来たんじゃないですか!? 黒河さんだって、その被害者の1人じゃないですか!?」

「ああ!? 俺が被害者だ、てめぇ!?」

「ち、違うっていうんですか!?」

「あのなぁ女、こんなもんで被害者がどうの、加害者がどうのっつってたら、キリがねぇっつーんだ。 てめぇが普段ノウノウと生きてる『日常』とか言う世界だってな、一皮むきゃあこのゲームと大差ねぇド汚ねぇ世界なんだよ。 んなもんに文句言ったからって、何が変わるっつーんだよ!? ああ!?」


「・・・・・・ではお前は、このゲームを認めると言うのか?」

「んだぁ、てめぇまで真島コラ? 認めるもクソもあるかっつーんだ。 現にこのゲームは、こうして存在してんじゃねーか? いいか真島? 俺たちがこのゲームに参加させられたのはな、俺らに力がなかったからだ。 んで、このゲームを運営している連中には力があった。 つまりはそういう事じゃねぇか」

「・・・・・・」

「このゲームが気に入らねぇっつーんなら、このゲームで生き残って、運営の連中を皆殺しにしてやればいいんだよ」

「・・・!」

「けっ、なに驚いた顔してやがんだ? んなこったから、てめぇはダメだっつーんだよ。 銃を女に預けっぱなしの腰抜けが」

「なん、だと・・・!」


言いたい放題言われ、思わず肩に力がこもる。

だが現に、真島は銃を結衣に持たせている。

そして最も頼りにしていた右拳も、すでに砕けてしまっている。


「っ・・・」


――やはり俺は、銃を持った方がいいのか・・・?


真島の頭に、一瞬そんな考えがよぎった時――


「――ダメですよ、真島さん!」

「・・・?」

「今、あたしが持ってるこの銃を見てましたよね? でもあたし、この銃を真島さんに渡すつもりなんてないですからね!」

「荻原・・・」

「あたし、わかってますから。 真島さんは、こんな武器なんて必要ない人だって」

「・・・!」


結衣の発言には、いつも論理というものがない。

そして、正直言って意味もよくわからないことがほとんどだった。

だが結衣の言葉にはいつも、真島の心を原点は導く力があった。


「・・・ああ、そうだな。 荻原、お前の言う通りだ」

「はい! だと思いました!」

 

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「んだてめぇらは? けっ、一生やってろボケが」

「なんですか黒河? 彼らが羨ましいのですか?」

「ああ? うっせーぞバカ つーか――んなことより、てめぇ『JOKER』のPDAは手に入ったのかよ?」

「いえ、まだです」

「じゃあ、さっさと探せコラ!」

「私はちゃんと探しました。 ですが、どこにもなかったのです」

「ああ?」

「他の2人についても調べて見ましたが、PDAはおろかメモリーチップも所持していませんでした」


「なに・・・?」

「玲ちゃん、本当に?」

「てめぇ、また十中八九とか言わねぇだろな?」

「むっ・・・今度は十中9.9は確実です」

「オイオイ、1パーセント残ってんじゃねーかよ!?」

「そう言うのならば、黒河が探せば良いのです。 私は1パーセントの可能性に、かけるつもりはありません」

「ああ!? てめぇのクリア条件じゃねーかよ!?」

「私のクリア条件は、黒河のクリア条件でもあります!」


「まぁまぁ、2人とも・・・。 でも真島さん、どう思いますか?」

「そうだな・・・。 すでに9人のプレイヤーが死亡し、残っているプレイヤーは5人だ。 つまり俺たち以外に、もう1人プレイヤーがいる事になる」

「じゃあ、そのプレイヤーさんが持ってっちゃったんですかね?」

「ああ、その可能性が高いだろうな」

「となると――もしや黒河のクリア条件の達成は、すでに不可能なのではありませんか?」

「ああ!? なんでそうなるんだよ!?」

「だって、考えてもみて下さい。 そのプレイヤーのクリア条件が、我々の内のいずれかと競合していた場合、4人が同時にクリア達成するなど不可能です。 というわけで、黒河はもう詰んでいるのです」

「っ・・・アホか! だったらゲームオーバーで、とっくの昔に首輪が爆発してるっつーんだよ!」

「それは、確かに・・・」

「・・・だが、どちらにしろあまり良い予感はしないな」

「まあな」

「ですね」

「え? どうしてですか?」


真島の呟きに、結衣だけが疑問を口にした――その時。


ピー

ピー

ピー

ピー


「――うわっ、びっくりした!」

「ああ?」

「なんの音ですか?」

「これは・・・PDAの音か?」


真島たちが所持しているPDAが、4台同時に鳴っていた。

すぐにPDAを取り出して、ディスプレイを確認する。

するとそこに、一通のメールが届いている。


「メール・・・?」

「運営からの、ですかね?」

「かもしれんな・・・」


そして全員が、それぞれのPDAでメールの内容を確認した。

 

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【今夜午前1時に、村の広場でお待ちしております。 PDA6台、メモリーチップ10枚をご用意しておりますので、ぜひ】

 

「これは・・・?」

「うわあっ、良かったじゃないですか! ほら、なんかPDAもメモリーチップも貰えそうじゃないですか!」

「・・・そう読み取って、良いのでしょうか?」

「バーカ、んなわけあるかよ? この文面見てわかんねぇのか? こいつはあのメイドからだぜ?」


黒河がそう言った時――


まるで、それに応じるかのようなタイミングで――


ピー

ピー
  
ピー
  
ピー
   
「え? また?」

「っ・・・」
   
   
悪い予感が強くなる。

だが、そのメールを確認せずにはいられない。


【追伸:もしいらっしゃらないようでしたら、PDAもメモリーチップも破壊致しますので、よろしくお願い致します】
   
   
「・・・!」

「ちっ、ほら見やがれ。 どう考えたって、俺らを招き寄せるための餌じゃねーかよ」

「で、でも・・・あたしたちのクリア条件って、競合してないはずなんですよね?」

「俺が知るかよ。 あのメイドの考える事なんて」

「私も、黒河の意見に同意ですね。 あのメイドは明らかに異常な精神構造をしているに違いありません」

「それより、2人とも」

「ええ」

「わかってるっつーんだ」



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真島の声を受け、3人で同時に3方向に視線を送る。

すると森の何処かから、何者かが遠ざかる、かすかな音が聞こえてくる。


「・・・行ったか?」

「はい。 そのようですね」

「ちっ、だからてめぇの十中八九は当てにならねぇっつーんだよ」

「え!? もしかして、今近くにいたんですか!?」

「ああ・・・しかし、なぜ・・・?」


――なぜ、今攻撃してこなかったのか?


その理由を考えてみてもよくわからず、真島はメイドの意図不明の行動に当惑し、全身に嫌な汗を掻いていた。

 

やがて、時刻が午前0時を回り――


生き残っている全プレイヤーに、『終了24時間前のお知らせ』が通知された。


――そしてその1分後――


赤々とした業火が、ゲームフィールドの中央に灯された。

 


・・・。