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リベリオンズ -Secret Game 2nd stage-【20】

 

・・・。

 

 

 

―6日目―

 


――運営から『終了24時間前のお知らせ』という通知が届いた、30分後――

 

 

「オイオイ・・・さすがに、そりゃやり過ぎだろーが・・・」


黒河正規は今、廃村を一望できるその場所に立ち、眼下に広がるその光景を見つめていた。

轟々と唸り声を上げる炎の渦が、これから黒河たちが向かわなければいけない廃村を、どんどん覆い尽くしていく。

恐らく、あのメイドの仕業だろう。

だが黒河はメイドが火を放った理由について、初めから考えようとも思わなかった。

あの手の頭のネジが何本も抜け落ちたような人間のやる事は、ハナから理解できるわけがないのだ。

理由がわかったところで、あの火が消える事はないし、メイドがまともに戻る事もないだろう。

 

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「本当なら、ああいう壊れた手合いとは関わり合いになりたくねーってのに・・・クソッタレが。 つーか、マジでなんだっつーんだよこのゲームはよぉ? 開始早々、真島のクソにはボコボコに殴られるわ、わけのわかんねぇ女にPDAで爆殺されかけるわ。 充のアホは、俺の事を裏切りやがるしよぉ? 玲のボケは、人のことをポンポンポンポン投げやがるし。 真島のクソをようやく殺せると思ったら、あの女にサブマシンガンで脅されてかぁ? おまけに、あれから銃は一丁も手に入らねーし。 気付けば真島のクソを殺す事だって、もうできなくなっちまってるしよぉ! んでもって極めつけは、あの化け物みてぇなメイドを殺さずに捕獲しろってか!? ハッ! 運営だか何だか知らねーが、この俺を奴隷どころかオモチャにしやがってよぉッ! はー・・・・・・てめぇらマジで、今すぐぶち殺してやりてぇぜぇっ、このちくしょうがあああああ! アアアッッ!!」


ついに怒りが爆発し、感情のままに吠え上げる。


それが負け犬の遠吠えに過ぎない事は、黒河自身にもわかっていた。

だがそれでも黒河は、カメラの向こう側にいるであろう連中に、自分の怒りを見せつけないわけにはいかなかった。

すると背後の森から、玲が顔を顰めながら現れる。

 

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「黒河、うるさいです。 何を1人で騒いでいるのですか?」
「ちっ、俺の勝手だっつ-んだよ。 それより、あいつらはまだ終わんねぇのかよ? いつまでやってんだ、真島とあの女はよぉ?」
「そんな事を言っても、仕方ないではありませんか。 彼らはあなたの銃より、はるかに多くの弾をこめなければなりませんし、着替える必要だってあるのですから」
「だから、急げっつーんだよ。 だいたいてめぇ、なんであいつらの肩ばっか持つんだ? 食料なら俺の方が、いっぱいやってるっつーのによ?」
「黒河・・・私は、その辺のノラ猫ではありません」
「ああ? じゃあ何でなんだよ?」
「それは・・・彼らが私にはない、強さを持っているように見えるからでしょうね」
「んだよオイ、またそういう話かよ? 確かに俺らはあのバカ女がいなければ、あの時メイドにぶっ殺されていたかもしれねぇ。 だがそれは、あのバカが軽機関銃っつー力を持ってたからだろーが。 それは力であって強さじゃねぇ。 てめぇの考えは、そういう事だったはずじゃねーのかよ?」
「・・・これは驚きました。 てっきり黒河には、その区別がつかないものだと思っていたのですが」
「ちっ、うるせぇつーんだよ」
「ですが、惜しいですね」

「あ?」
「黒河はまだ1つ、勘違いしている事があります」
「ああ?」
「人の強さとは1種類ではなく、様々な形があるのです。 そしてある側面をみれば、結衣は非常に強いのです。 私や黒河なんかよりも、たぶんずっと。 そしてあなたが毛嫌いしている真島も、自分の持つ強さに気付きつつあるように思えます。 黒河はどうですか? 自分の強さの形がわかりますか?」
「けっ、知るかボケ」
「そう言うと思いました。 ですがそういう所が、黒河の強さに繋がっているのでしょう。 そして黒河の持っている強さは、私にはないものでした。 だから私は、思い出す事ができたのです」
「あ・・・?」
「メイドに敗れた私に、黒河は『力を持て』と言いました。 でも私はあの時、力と強さは別物だと思い、黒河の言葉を聞き入れる事ができませんでした。 ですが刀を見つけた時、私はようやく思い出したのです。 蒔岡流剣術の真髄は、強くなる事でも、力を得る事でもなく、力を扱うための強さを身に着ける事にあったのです。 そして私の強さとは、刀という力が共になければ、決して成り立たないものだったのです」
「・・・はっ、くだらねぇことゴチャゴチャと。 てめぇは足りねぇくせに、複雑に考えようとするから、すぐにわけわかんなくなるんじゃねーか」
「そうですね。 私は黒河のシンプルさを、もう少し見習わなければなりません。 もっともあまり感化され過ぎると、黒河みたいなただのゴリラに成り果ててしまいますが」
「んだとコラァ!?――ったく、あいかわらず気に食わねぇ女だぜ」
「そうですか? 私は結構、黒河の事を気に入っていますが。 なにせ、ひねりがいがありますし」
「けっ、俺は蛇口かっつーんだよ。 ま、何があろうとてめぇとのクソ面倒臭ぇ関係は、あと24時間でおしまいだ」
「そうですね。 と言っても、黒河の首輪はもっと早くに爆発するかもしれませんが」
「おいてめぇ、まさかあのメイドを殺すつもりじゃねーだろうな?」
「それは――」
「オイ、また十中八九とか言うつもりじゃねーだろうな?」
「うっ、バレましたか」
「ちっ」


その時、背後の森から真島と結衣がやってくる。

黒河はそこで玲との会話を打ち切ると、4人全員で、炎が燃え盛る廃村へと足を向けた。

 

・・・。

 

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燃え盛る廃村に入る前から、熱気で肌を焼かれていた。

そこは空さえも焦がすような灼熱と、乱暴に揺らめき続ける橙色の光と、全てを灰燼(はいじん)に帰す暴力が支配する世界だった。

そしてメイドはその中心に立ち、到着した黒河たちに向けて、優雅に一礼して見せた。

 

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「ようこそおこし下さいました。 皆様を心より歓迎致します」

 

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「けっ。 イタい目ぇしやがって」

「あなた、どうしてこのような真似を?」

 

「これは、司様への送り火です」



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送り火だと・・・?」


「オイオイ、てめぇら聞くなよバカ。 あのメイド様はなぁ、頭が大変な事になっていらっしゃるんだよ」


一目見て、黒河はそこに死の臭いを感じていた。

アイツはヤバいと素直に思う。


と、その時――


真島の背中に隠れていた女が、意を決した顔で前に出る。


「あ、あの・・・あたしたち、PDAとメモリーチップを貰いに来たんですけど・・・」

「はい。 もしあなた方が私に勝つ事ができたら、その時はご自由にお持ち帰り下さい」

「あの、あなたのクリア条件って何なんですか? もしあたしたちと競合していないんだったら、戦うのはやめにしませんか?」

「お断り致します」

「どうしてですか? こっちは4人なんですよ? あなたの方が絶対に不利じゃないですか?」

「いいえ、私は1人ではありません。 司様と共におります」

「何言ってるんですか? どこからどう見ても1人じゃないですか?」


「おい女、だからやめとけっつってんだろーが!」

「でもぉ・・・」

「うっせーぞ、このタコ! あのメイドは、ハナから俺らを殺す事しか考えてねーんだよ!」

「結衣、あのメイドに対話を持ちかけた、あなたの純粋さは素晴らしいと思います。 ですがここは、力を持つ者だけの世界なのです。 力を持たない人間は、結局何もできません」

「っ・・・」

「クククッ、おい玲、てめぇずいぶんわかってきたみてぇじゃねぇか? ええオイ!?」

「黒河、人を野蛮人みたいに言うのは止めて下さい。 私自身は清廉潔白で、なおかつ品行方正な人間です」

「嘘こけコノ! それがダンビラ手にした途端に、目の色を変えやがった人間の言う事かっつーんだよ!」

「むっ・・・」


「・・・真島さぁん、みんなのこと止めて下さいよ」

「荻原・・・悪いがそれは、俺には無理だ。 俺にそこまでの力はない」


「そうだぜ、真島。 素手のてめぇは、俺らの中じゃ一番弱ぇんだ。 その事を忘れんな」


「っ・・・わかっている」

「そんなぁ・・・!」


「だから、てめぇはうっせぇっつってんだろーが。 情けねぇ声出してねーで、てめぇは後ろに引っ込んでろよ。 間違っても、あん時みてぇに乱射すんじゃねーぞ。 あのメイドを殺しちまったら、元も子もねーからな」


「う、うぅ・・・」


「それでは時間も限られておりますので、そろそろ鎮魂歌といきましょうか? あなた方の断末魔を、司様に捧げて頂きます」


そう言って、メイドがすっと姿勢を正す。

その仕草の1つ1つが、いちいち芝居がかって見える。


「ちっ、浸りやがってよぉ。 オイてめぇら、間違っても死ぬんじゃねぇぞ?」

「ほう。 黒河にしては、ずいぶんと心遣いのある言葉ですね?」

「バーカ。 俺のクリアのためだっつーんだ――行くぞオラッッ!!」


そして廃村に銃声が鳴り響き、戦いの火蓋が切って落とされた。


――!!!


――黒河が引き金を引いたコルト・パイソンから、メイドの足を狙って2発の弾丸が放たれる。

真島章則はその音を合図に、玲と共に、メイドに向かって突進した。


「ふふっ」


メイドが怪しく笑いながら、スカートの裾をひるがえす。

直後、彼女の直下にあった地面がむき出しになり、小さな土煙が2つ上がる。

 

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「おおおおおおおおおおおっ!」


いとも容易く弾道を見きったメイドに迫りながら、真島はたまらず雄叫びを上げた。

その横を、玲がピッタリとついて来る。

メイドは今、なぜか例のチェーンソーを手にしていない。

それがなぜなのか、真島に考えている余裕はなかった。


「それでは司様、私と共に戦いましょう」


微笑みを浮かべながら、メイドが輪舞を踊る。

 

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そうして振り向いた時――彼女の手には、1丁の拳銃が握られていた。

それは彼女が付き従っていた男が、手にしていた銃だろう。


「なっ!?」

「っ!?」


想定していなかった事態に、全身の血が凍り付く。


「――てめぇら、散れッッ!!」


「ちぃっ!」

「くっ!」

後方の黒河からの声を聞き、真島と玲が左右へ飛ぶ。

だが、その直後――


――!!!!


銃声と共に弾丸がばら撒かれ、回避が遅れた真島の右足首に、焼きつくような痛みが走る。


「――ぐあっ!」

「ふふっ、まずは1人目ですね」


嬉しそうに笑い、動きを止めた真島に、メイドが銃を向けてくる。

すると、後方から怒号が聞こえ――

 

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「――このクソッタレがぁああああっ!」


――!!!


「おっと」


メイドがそう言って軽く、斜め後ろへ3mほど跳躍する。

黒河の放った弾丸が、虚しく空を切る。

 

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「真島さん! 玲ちゃん! 早く物陰に隠れて!」


今度は結衣が、スコーピオンを腰溜めで構え持つ。

だがその時には、メイドは建物の陰へ消えていた。

そして悦に入った声だけが、その向こうから響いてくる。


「もっとです! 皆様、もっと激しく燃え上がるのです! 足掻いて、足掻いて、足掻ききって下さいませ! ああっ、ご覧になられておりますか司様! すぐに彼らの血と肉と魂を、赤く輝かせてみせましょう!」


「っ・・・!」


恐怖で全身の関節が軋んだ。

やはりメイドは真島にとって、理解不能な何かだった。


「――真島、何を止まっているのです!」


その叱咤を受けて我に返れば、玲はすでに建物の陰に隠れている。

真島は全身に冷たい汗を掻きながら、玲とは反対方向にある建物の陰へと逃げ込んだ。


すると、背後から足音が聞こえ――

隣にスコーピオンを首から下げた結衣がやってくる。


「荻原、お前・・・」

「はぁ、はぁ・・・黒河さんが、玲ちゃんの方に行ったんで・・・あたしは、こっちに来ちゃいました・・・」

「ッ――!? お前は何を考えているんだ!? 俺はお前を守れるような武器を、何ひとつ持っていないんだぞ!?」


「で、でも・・・真島さんに、銃を渡さないって決めたのはあたしだし・・・それにあたしたち・・・ずっと、パートナーだったじゃないですか・・・」

「馬鹿な、そんな理由で・・・!」


他にも言いたい事が、頭の中にいくつも浮かぶ。


だが、その思考を遮って――


「――おい真島っ、そっち行ったぞッッ!!」


黒河の警告を聞き、真島は物陰の向こうを覗き見た。

だがそこに、メイドの姿はない。


「真島、違います! 建物の中です!」


――建物の中?


意味がわからないながら、真島が後ろを振り向いた――その時。


――ッッ


身を潜めていた建物の壁が、突如、内から外へと吹き飛んだ。

そして瓦礫と火の粉が飛び散る中に、脆くなった壁を蹴破ったメイドが出現する。


「ふふふっ、あはははははっ!」

「きゃあああっ!」

「ッッ――うおおおおおおおおおおおっ!」


メイドが結衣に銃口を向けた直後――


真島は両腕で頭部をガードしながら、メイドに向けて突進した。

すると真島の狙い通り、メイドが嬉しそうに笑う。


「おや、お腹ががら空きですよ?」


――!!


「ッ――!」


腹部に銃弾を受け、激痛とともに内臓が痙攣を起こしかける。

だが銃弾は、結衣から譲り受けた防弾チョッキで止まっていた。

そうして真島は、メイドの銃撃に踏みこたえ――

 

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「はああああああああっ!」


――ッッ


渾身の右ストレートを、メイドの右頬に叩き込む。

砕けた拳に激痛が走ったが、それでも右腕を振り抜いていた。

拳の骨がグシャリとひしゃげた感触が、肩まで伝わって来る。

だが、その捨て身の攻撃にもかかわらず――


メイドはその場で、一歩二歩とたたらを踏んだだけだった。


「な、に・・・っ!」

 

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「ふふっ、今のはなかなか効きましたよ?」


そう言ってメイドが笑ったかと思うと――


――ッッ


お返しとばかりにメイドの強烈なミドルキックが、真島の脇腹に炸裂した。

先ほどの銃撃よりも遥かに重い衝撃に、真島の体が宙に浮く。


「がっ・・・!」


一瞬視界が白み、成す術もなく地面に膝をつく。


見上げると、そこにはメイドの冷たい目があった。

その時、玲が背後から斬り掛かる。

 

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「はぁっ!」

 

――!!


だがその斬撃を、メイドは服の裾を切らしただけで避けていた。

まるで玲の攻撃を、完全に予測していたというように。


「なっ!?」


――!!!!


メイドが微笑みを浮かべて引き金を引いた瞬間、玲は、とっさに横へ飛んでいた。

だがばら撒かれた弾丸の数発が、彼女の小さな体に着弾する。


「ぎっ・・・、くぅ・・・ッッ!」


「おやおや、もっと頑張っていただきませんと」

 

「――てんめえええぇッッ!!」

「ああ、もうお一方いたのでしたね?」


――!!!


メイドが振り向き様に引き金を引き――

物陰から飛び出して来た黒河の脇腹に穴を開け、さらにはその手からコルト・パイソンを弾き飛ばす。


「いっ・・・ぐおぉああぁ・・・! ま・・・マジかよ、くそ・・・ッッ!!」

 

玲が、黒河が、そして真島が、地面に膝をついている。

立っているのは、もはや結衣だけになっていた。

するとメイドが微笑みながら、顔を青ざめさせる結衣に銃口をつきつけようとして――


「おや? これは・・・弾切れのようですね」


スライドが下がったままになっている銃に気付き、メイドがぴたりと動きを止める。

そしてその銃を大切そうに懐に仕舞い、慈しむように笑う。


「お疲れ様でした、司様・・・ここからは私1人で十分です。 どうぞ、ごゆるりとお休み下さい」


「・・・?」


真島には、メイドの言葉の意味がわからなかった。


するとメイドが、真島たちに一礼し――


「それでは皆様、しばしの間ご歓談を」


そう告げて、何処かへゆっくりと歩み去って行く。

真島は今の内にと思い、すぐに立ち上がろうとした。

だが肋骨が数本折れているらしく、痛みで足に力が入らない。

見ると玲も、自分と似たような状態だった。

 

「いっ・・・んぐ・・・!」

「真島さん! それに玲ちゃんも!」

 

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「ちっ・・・どいつもこいつも、ザマァねーなぁオイ・・・」


そう言って黒河も、よたよたと歩み寄ってくる。

玲がそれを見て、力ない笑みを浮かべる。


「腹を撃たれて動けるなんて・・・黒河は、本当にゴリラですね・・・」

「っせーな、この・・・! にしてもあの野郎ォ・・・どこに行きやがったんだ・・・?」

「くっ・・・恐らくだが――」


と、真島がその予測を口にしようとした時――


――ッッ


轟々と燃え盛る炎の音に、例のエンジン音が加わる。


「ちっ・・・本命のおでましってわけかよ・・・! 最初っからアレで来てくれりゃあ・・・もうちょっと、何とかなったかも知れねぇっつーのによ・・・」


それは、黒河にしては珍しく弱気な声だった。

 

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「黒河、どうする・・・いったん退くか・・・?」

「けっ、バカ言うな・・・退いてどうすっつーんだよ・・・。 アイツはPDAもメモリーチップもぶっ壊すっつってんだぞ・・・4人全員で、ゲームオーバーになりてぇのかよ・・・?」

「・・・いや、2人だ」

「ああ・・・?」

「玲のクリア条件は『JOKERのPDAの破壊』だ・・・つまり彼女は、放っていてもクリアできるだろう・・・。 そして、荻原の条件は『メモリーチップを16個以上破棄する』・・・必要なメモリーチップは、もう彼女に渡してある・・・」

「なっ!? てめぇら、いつの間に!?」


「・・・・・・」


「悪いが俺は・・・お前を信じていたわけではない・・・」


真島は武器を捜索する傍らで、密かに結衣にメモリーチップを探させておいたのだ。


「ちっ・・・このフェミニスト野郎が・・・。 わかってたんなら・・・先に言っとけっつーんだよ・・・」

「ふっ、こんな状況にでもならなければ・・・お前が納得しそうになかったんでな・・・」

「くそっ・・・あいかわらずスカした野郎だぜ、てめえは・・・」

 

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そう言って黒河が、玲と結衣に目を向ける。

被弾した玲の息は荒く、結衣は恐怖のためか全身を震わせている。


「いいぜ・・・行けよ、玲・・・」

「ああ・・・荻原も行ってくれ・・・」

「黒河・・・」

「真島さん・・・!」


――「いいえ、行かせるわけには参りません。 私がそのお二方を、行かせるとでもお思いですか?」


「っ・・・!」

「ちっ・・・地獄耳が・・・」

「行け、2人とも・・・時間は俺と黒河で稼ぐ・・・!」


歯を食いしばり、痛みをこらえて立ち上がる。


頑丈な黒河と2人なら――。


そう思っていると、それを見透かしたように黒河が言う。


「オイオイ、真島サンよ・・・まさかてめぇ、死ぬつもりじゃねーだろうな・・・?」

「・・・!」

「だったら・・・俺は、付き合わねーぜ・・・」

「な、に・・・?」

「バカが・・・俺が、簡単に諦めるかっつーんだよ・・・。 だから真島ァ、てめぇそのつもりでやりやがれ・・・じゃねーと、てめぇから先にぶっ殺すぞ・・・!」


黒河がそう言って、ギラギラとした目で睨んでくる。

その生命力の高さに、真島は素直に感心した。


エンジン音と共に、メイドが徐々に近づいてくる。

勝てる見込みは、正直皆無と言っていいだろう。

だが真島は、それについて考えない事にした。


「ふっ・・・行くぞ、黒河」

「うるせぇ! 俺に指図すんなっつーんだ、このクソが!」

 

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「まったく、無駄だと申し上げてますのに・・・。 ですが――それでこそですっ!」


――ッッ


メイドが嬉しそうに笑い、チェーンソーを手にこちらへ向けて、すさまじい突進を開始する。

足を撃たれたせいで、フットワークは使えない。

右拳が壊れている以上、頼りになるのは右拳だけだ。


――果たして、どこまで通用するか・・・。


恐らく自分と同じ事を思ったのだろう、黒河の口元には苦笑が浮かんでいた。

黒河とて、今は銃すら手にしていないのだ。

そして真島の口元にも、苦笑が浮かびかけた――その時。

 

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「あたしだって・・・あたしだってぇええええええーっ!」


「っ!?」


――!!!!


結衣が乱射したスコーピオンの弾丸が、真島らとメイドの間に砂塵を舞い上げる。


そして、メイドが動きを止めたその隙に――

 

玲が刀を手に、その砂塵の中を突っ切った。



「ハァアアアアアアアアッ!」


――ッッ


「ちぃっ」

 

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「――黒河っ! 弱いあなたが私を守ろうなどと、百年早いですよっ!」


――!!!!

 


「っ・・・!」

「おい真島ァ、ボケっとすんな!」

「ああっ!」


黒河の言葉に頷いて、真島は改めて拳を握り締めた。


そして傷ついた足で、黒河と並んで走り出す。


「うおおおおおおおおおおおおおおっ!」

「オッラァアアアアアアアアッ!」


――行ける!

そのとき真島の目には、四人でメイドを組み伏す、勝利の絵図が見えていた。

だが、メイドがそれを拒絶するかのように絶叫し――


「うああああああああああああッ!!!」


――!!!


「ッ――!?」


――凄まじい斬撃で、玲の刀を弾き飛ばし――


――ッッ


「――ぐおぁっ!」


――チェーンソーを放り投げて、黒河に激突させ――

 

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「なっ――!? ッッ!!!」


――気付けば真島の腹部に、瞬時に距離を詰めてきたメイドの膝が、深々と突き刺さっていた。

肺から全ての空気が漏れ出し、真島の両足から力が抜ける。


「がっ・・・は・・・!」


全ては一瞬の出来事だった。

たった数秒で3人の人間が、再び戦闘不能に陥っていた。

そしてメイドの手が、地面に転がったチェーンソーへと伸びる。


――や、やられる!?


苦痛の中で、真島は塗り替えられてしまったその未来に絶望した。


だが、その時――

 

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「――もう止めて下さいっ!」


「っ・・・!」

「ぐっ・・・あ、あぁ・・・?」

「お、荻原・・・!」


銃を構えることなくメイドの前に立ちふさがった結衣に、全員の視線が集中する。


そしてメイドもまた、不思議そうな目を彼女に向ける。

 

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「あなたは・・・いったい、どういうつもりですか?」

「・・・!」

「あなたはなぜ、銃を構えようとしないのですか?」

「だって・・・だって、こんなの間違ってるじゃないですか!」

「は・・・?」

「やっぱり、こんなの間違ってますよ! どうしてあたしたちが、殺し合いなんかしなくちゃいけないんですか?」

「それは、これがそういうゲームだからです」

「だから、それが間違ってるんですってば! 誰だって殴られたら痛いはずなのに・・・! 誰だって、殺されたくなんかないはずなのに・・・!」

「・・・あなたは、何を言っているのですか?」


「バカ、てめぇ何やってんだ・・・ぶっ殺されんぞ・・・!?」

「荻原・・・やめろ、下がるんだ・・・!」


「嫌です! あたし、嫌なんです! どんな理由があっても、誰かが傷つくところなんて見たくないんですよ! だから――お願いですから、もう戦うのは止めて下さいッッ!!!」


結衣の涙ながらの訴えが、燃え盛る廃村に響く。


そして――彼女と対峙するメイドに、急激な変化が起こる。


メイドの目にあった、全ての光が消え失せる。


「そうですか・・・。 あなたは、この戦いを否定するというのですね・・・?」

「はい・・・あたしはもう、戦いたくありません・・・」

「なるほど・・・」

「わかって、もらえますか・・・?」


結衣の問い掛けに、瞳の肩がぴくりと震える。

感情を失っていた目に、どんどん光がみなぎっていく。

だがそれは――周囲で燃え盛る炎と同じ、凶暴な光だった。


「・・・ゆるせない」

「え・・・?」

「許せませんね、あなたは・・・! あなたのその言葉、その態度は――戦いの中で散った、司様への冒涜です!」


憤怒の言葉を吐きながら、メイドが手に取ったチェーンソーを振り上げる。

そうしてチェーンソーの刃が、揺らめく炎の光を映しながら、凶悪な回転を開始する。


「な、何でなんですか・・・!? どうして、わかってくれないんですか!?」

「問答無用です!」


「――荻原、危ない!」


刹那、真島の体はそれまでの鈍さが嘘のように動いていた。


――!!!


「ッッ――!!!」


受け止めた真島の肩の上で、チェーンソーが容赦無く回転する。

服が破け、皮膚が弾け、肉が抉れ、骨が削られる。

あまりの激痛に神経回路がショートしたように、目の中でパチパチと白い火花が散る。


だが――それでも真島は倒れなかった。


「う、ぐぉおおおおおおおおーっ!」


倒れれば、結衣が襲われる。


倒れないで耐えてさえいれば、黒河か玲が動いてくれる。

こんな時になって初めて、真島はこれまでの人生の中で一度として考えた事のなかった、『仲間』という存在を意識した。


そして、その期待に応えるように――


「はああああああああああっ!」


――!!!


「くっ!」


刀を拾い上げた玲の斬撃を受けるため、メイドがチェーンソーをひるがえす。


――!!


「はあっ!」

「っ!」

――!!!!


玲の連続攻撃が、メイドの体を後方へと下がらせる。

真島はそれを見つめながら、ゆっくりと崩れ落ちていった。


だがその体が、地面に倒れる前に止まる。

 

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見ると結衣が泣きながら、自分の体を抱きしめていた。


「真島さぁん・・・真島さぁん・・・!」

「荻、原・・・」


チェーンソーで抉られた肩から血があふれ出し、ぼたぼたと地面に落ちていく。

その度に失われてゆく体温に、真島は死を意識した。


「真島さぁん・・・しっかりして下さいよぅ、真島さぁん・・・! 真島さんが・・・真島さんが・・・あたしのせいで・・・あたしのせいでぇ・・・!」

「いいんだ、荻原・・・いいんだよ・・・」

「何がいいんですかぁ・・・? こんなの、全然よくないじゃないですかぁ・・・? あたしが、あんな事しなければぁ・・・! あたしが、余計な事したせいでぇ・・・!」

「いいんだ、荻原・・・お前は、何も間違ったことはしていない・・・だから・・・お前が泣くことは、ないんだ・・・」

「でもぉ・・・でもぉ・・・」

「荻原、俺は思い出したんだ・・・俺がどうして、強くなろうと思ったのか・・・」

「え・・・?」

「俺は・・・守りたかったんだ・・・。 自分だって、弱いクセに・・・俺の事を、いつも必死に守ってくれた、姉さんを・・・。 だから、俺は・・・」

「あたし・・・わかってましたよ、そんなこと・・・! 真島さんは、本当は優しい人だって・・・! あたしぃ・・・そんなの、わかってたんですよぉ・・・! だからぁ・・・だから死なないで下さいよぉ・・・! 真島さぁん・・・だからぁ、死んじゃ嫌ですよぉ・・・!」


結衣の言う『だから』の意味がわからない。

出会った時から、結衣は真島にとって不可解な女だった。

初めは、ただ鬱陶しいだけの女だった。

愚かだと呆れていた事もある。

勝手な事ばかり言われ、腹を立てた事もある。

わかったような事をよく口にしていたが、彼女がどこまで真島を理解しているのかは、実のところよくわからない。

やはり結衣は最後まで、真島にとって不可解な女だった。


だが、それでも――


彼女を守れてよかったと、真島は素直にそう思った。


だが一方で、こうも思う。

また、ボクシングを始めたい――と。


『誰かが傷つく姿は見たくない』


結衣の言った言葉が、今なら理解できるから。

だから真島は、また強くなりたいと思った。


最後の最後に。


死の直前に。

 

終了のゴングが鳴り止む、その瞬間まで――。

 

・・・。

 

「う、うぇ・・・真島さぁん・・・うぅ・・・真島さぁん・・・! 真島さぁあああぁああぁぁぁんっっ!!」


「あ・・・」


――真島が死んだ。


慟哭(どうこく)する女に抱かれながら死んでいる真島を見た瞬間――


黒河正規が胸に抱いたのは悲しみではなく、もっと煮えたぎるような感情だった。


「真島ァ・・・! クソが・・・てめぇ、あれほど死ぬなっつったじゃねーかよ・・・! 真島ァアアアァァッ、オイ起きろコラァアアァッ!」

「きゃ!?」


怒号しながら歩み寄り、女を押しのけ、真島の胸倉をつかんで引き起こす。

 

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「てんめぇえええええッッ! 起きろつってんだろーがっ、この野郎ォオオオオォォッッ!」

「な、なに言ってるんですかぁ、黒河さぁん・・・? うぅ、ひぐっ・・・真島さんはぁ、もう死んじゃってるんですよぉ・・・?」

「ああぁああァっ! うっせーんだよっ、このクソアマがぁああぁっ! てめぇのせいだろうがよぉおおっ!? てめぇが何もしねぇから、このクソがくたばっちまったんじゃねぇかよぉおおっ!?」

「う、うぐっ、うぅ・・・そうですけどぉ・・・ひぐっ、ひっ・・・じゃあ、あたしぃどうすればいいんですか・・・?」

「んなこと俺が、知るかっつーんだこの野郎ォオオオッッ!! だっから嫌なんだよっ! だからてめぇみてぇな、クソ弱ぇくせに口ばっかの野郎はムカつくんだよォオオオォォッッ! 真島っ、てめぇもだッッ!! こんなところでくたばって、なに満足そうに笑ってんだこの野郎ォオオオオオッッ!!」


真島が死んだ以上、黒河のクリアはもはやあり得ない。

だが黒河の怒りの源泉は、そんなところにはない。

黒河は、ただただ真島が死んだという事実にムカついていた。

なぜそんなにムカつくのか、自身でもわからないほどに――。


そのとき横で続いていた玲とメイドの剣戟に、大きな変化が訪れる。

「あぁああぁぁっっ!!!」


――!!!


メイドが渾身の力で振るったチェーンソーの威力に負け、それを防ごうとした玲の刀が、大きく上にカチあがる。


「くっ、しまっ――」

「――これで、終わりですっっ!!」

 

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とっさに後ろへ跳び退ろうとした玲に目がけ、メイドがチェーンソーを振り下ろす。


――!!!


「がっ!!!」


胸を斜めに切り裂かれた玲が、その場に倒れ伏す。


「なっ――こんのヤロォォオオオォォォォオオオォッッ!!」


気が付けば結衣からスコーピオンをむしり取り、黒河は引き金を引きながら、メイドに向かって突進していた。

脇目もふらず、ただガムシャラに。


――!!!!


「くっ!」


メイドがチェーンソーを盾にする。

だが、それでも覆い切れない部位に、弾が次々に命中していく。


――!!!!!!


メイドが死のうが何だろうが、もはや黒河には関係ない。

撃たれた腹の痛みも、もう一切気にならない。


「――オオオオォォオオオオォォォオオオッッ!!」


弾が尽き、途中でスコーピオンを放り出す。

それでも突進を止めない黒河に、メイドがついに驚愕する。


「なっ!? ――こんのぉおおっ!」


メイドが力まかせに、チェーンソーを横薙ぎに振るおうとする。

だが、それが遠心力を得る前に――


黒河はその懐に入り、チェーンソーを握るメイドの手を掴んでいた。


「っ、くっ・・・!」


メリメリと、黒河の両腕の筋肉が肥大する。

大腿から血が噴出したが、気にならない。

対するメイドも、スロットルレバーを目一杯握り締めながら、回転する刃を黒河に押し当てようとする。

 

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「力比べなら、負けませんよぉおおおおっ!」

「ちっ、くっ、っのやろーーッッッ!!!」


一回り以上も小さいというのに、メイドの力は互角以上だった。

徐々にチェーンソーの刃が、黒河の背中に迫る。


「ちっくしょ・・・ッッッ!!!」


――このまま終わりなのか?


――このまま俺は、このメイドに切り殺されちまうのかよ?


――っんなわけがねぇ!


――っんな事は絶対にありえねぇっっ!!


その時、黒河の目にそれが映った。


地面に切り伏せられた墨色の髪の女――。

その肩が、ぴくりとわずかに動いたのだ。

 

「起きろよ玲っっ!! てめぇいつまで寝てやがるんだっっ!! てめぇまで、真島と同じだっつーのかよっっ!! てめぇも、クソ弱ぇ人間だっつーのかよっっ!!」

「無駄ですっ! あの傷では、彼女は――」

 

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そのとき玲が、ぱちりと目を開ける。

そして刀の切っ先を地面に突き立て、よろよろと起き上がる。


「そんな、馬鹿なっ――させません。 させてたまるものですかぁあああっ!」


そう言ってメイドが、さらにチェーンソーを近づけてくる。

回転する刃が背中に触れ、ヂリヂリとした痛みが背筋を伝ってくる。


「ぐっ、おぉ――玲、てんめぇ早くしやがれっっっ!!! 精神力とやらは、どーしたんだよこのクソボケがぁぁぁっ!!!」

「くっ・・・うるさいですよ、黒河・・・!」

「ヘラず口はいいからさっさとしやがれっつーんだよ、てめぇっっっ!!!」


そのとき玲が立ち上がり――

刀の切っ先を、メイドの背中に向ける。


「ふー・・・黒河、お待たせしました・・・」


そして玲は、驚くほど静かにスッと刀を突き出した。

白く輝く切っ先が、メイドの胸まで突き抜ける。

そして一瞬にして、それは玲の手元に引き戻されていた。


「いっ・・・あ、あぁ・・・!」


メイドの口から空気が漏れ、チェーンソーを押し込もうとしていた腕から力が抜ける。

黒河は、そのとき勝利を確信した。

だがその瞬間、メイドの両腕に信じられない膂力(りょりょく)がこめられ――

 

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「くっ、あぁあああああああああああーっ!」

「う、おっ――」


黒河の体を押し退けて、チェーンソーが旋回する。

だが――結局、それだけだった。


――ッッ


握力すら失ったメイドの手からチェーンソーがすっぽ抜け、燃え盛る家屋の壁を突き破って、炎の向こう側へ消える。


そして、メイドは――


「か、はっ――」


口から血を吐いて、前のめりに倒れていた。

そして生気を失いつつある目を、虚空へ向け――

 

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「あ・・・そこにいらっしゃるのは・・・ご主人様ですか・・・? よかった・・・ようやく、会う事ができました・・・私は・・・どれほど、この日を・・・はい・・・私も、ご主人様と共に参ります・・・いつも・・・あなたのお側に・・・」


微笑みながら涙を流し――


そうして、メイドは絶命した。


・・・。

 

 

「やり、ましたね・・・黒河・・・」

「はっ、何言ってやがる。 やったのは俺じゃねぇ、てめぇだろ?」

「いえ・・・私たちが、倒したのです・・・。 私1人では・・・とても、敵いませんでした・・・」

「まぁな。 しっかし、さすがに疲れたぜ。 つーか、これで俺は生き残れねぇっつーんだから、マジで嫌になるぜ」

「え・・・?」

「仕方ねーだろ。 真島がくたばっちまったせぇで、俺のクリア条件は、もう達成不可能なんだからよ」

「そう、でしたね・・・真島は、もう・・・」

「ああ。 ったくよぉ、あの世で真島の野郎をぶっ殺さねぇ事には、俺の気が収まらねぇっつーんだよ」

「ふっ・・・黒河らしい、言葉ですね・・・」

「だな」


そう言って、黒河は口元に笑みを浮かべた。

何だかわからないが、妙にスカっとした気分だった。

――そう言えば俺は、いつの間にこのガキのことを、『玲』と名前で呼ぶようになってたんだっけか?

いつもなら忌々しいとさえ思うはずのそんな疑問も、なぜか相手が玲なら受け入れられる気がしてきてしまう。


「ちっ・・・俺もヤキがまわったもんだぜ」

「何が、ですか・・・?」

「うっせーな。 てめぇには関係ねぇよ。 しっかし、俺の首輪はいつになったら爆発すんだ? まさかゲーム終了まで時間潰せっつーのか? まぁ、別にいいけどよ。 さて――そんじゃあ、てめぇはボロボロみたいだから、代わりに充のPDAでも探してやるか? なんせ、俺は暇だからな」


いつになくペラペラと余計な事まで喋っている自分に気持ち悪さを覚えながら、黒河はメイドの遺体を調べに行った。

炎が周囲でパチパチと音を立て、それがやけに耳につく。


6台のPDAと、10個のメモリーチップは、メイド服やエプロンの中からすぐに見つかった。

幸いそれらは、あの戦いの中でも奇跡的に壊れていなかった。

 

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「真島の野郎にもう少し根性がありゃあ、これでクリアできたっつーのによ」

 

 

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そんな事を呟きながらふと見ると、バカ女が、まだ真島にすがりついて泣いている。

だが黒河はそれを見ても、特に感想は持たなかった。

ただ『ああ、アイツは生き残んのか』と思うだけで――。


「で? この中のどれが『JOKER』だ?」

そう言って黒河は、玲のためにそれを探した。


すると――その内1台のPDAが、なぜかピカピカと赤いLEDを灯している。


「ん? なんだこりゃ?」


そう呟いて、念のためそのPDAを確認する。

どうせ関係ないだろうが、死ぬまでの暇つぶしのつもりだった。

だが、ディスプレイを覗いた途端――

そこに映し出されている文字に、黒河は思わず目を見張った。


「こ、こいつは・・・!?」

 

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ナンバー:『A』
クリア条件:『一番長く一緒にいたパートナーの死亡』
『クリア条件が達成されました。 おめでとうございます』


「あ・・・なんだ、こりゃ・・・? 『A』fのプレイヤーって言えば、もうとっくに死んでるはずじゃねーか・・・なのに、なんで・・・?」


そして、その答えがすぐに思い浮かぶ。

それはなぜ黒河の首輪がなかなか爆発しないのか、その問いの答えでもあった。


「そうかよ・・・つまりプレイヤーがくたばってても、クリア条件さえ満たしていればいいっつーことなのかよ・・・! つーことは・・・玲とあの女のクリアは、もう確定してるわけだから・・・。 あとは真島に、メイドが持ってたメモリーチップを持たせでもすりゃあ・・・!」


これでクリア条件を満たせるPDAは、4台になる。

だから黒河の首輪は爆発していないのだろう。

まだ、クリアの可能性が残されていたから――!


「クハハハハッ、なんだよオイ! どうりで俺の首輪が、爆発しねーわけだぜ! おい、やったぜ玲! どうやら俺も――あ?」

振り向くと、玲は地面に倒れていた。

その小さな体の下に、おびただしい量の血が流れ出している。


「――玲、てめぇっ!? 馬鹿野郎、なに倒れてやがんだよ?」


駆け寄って、笑いながらだらしない玲を抱き上げる。

すると玲が口元に、力無い微笑みを浮かべて言う。

 

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「よかったですね、黒河・・・。 これで私が死んでも・・・あなたは生き残る事ができますね・・・」
「バカかてめぇ、こんな時になに笑えねぇ冗談言ってんだ。 てめぇが死ぬわけねーだろうが。 こんな傷なんでもねーよ」
「無理ですね・・・私は十中八九助かりません・・・」
「はっ。 てめぇの十中八九なら、当てになんねーから大丈夫だよ」
「だと、いいのですが・・・」
「はっ。 ぜってー大丈夫だって。 俺たちはあのメイドを倒したんだぜ? なんでそれで、てめぇが死ななきゃならねーんだよ?」
「その理屈は・・・よく、わかりませんが・・・」
「うっせーな。 いいんだよ、そういう事で。 それより玲。 てめぇ、このゲームが終わったらどうするつもりよ?」
「どうする、とは・・・?」
「バーカ。 あのメイドがてめぇの仇だったかどうかは知らねーが、もう俺ら以外には誰も生き残っちゃいねーんだ。 つーことは、てめぇの仇は死んでるっつーことだろ? じゃあ、てめぇの目的は達成じゃねーか」
「なるほど・・・確かに、言われてみれば、そうですね・・・」
「なぁオイ、てめぇはこのゲームが終わったら俺と一緒に来いよ」
「なんですか、それは・・・こんな時に、愛の告白ですか・・・?」
「やめろよ、バカ。 だから、てめぇのまな板には興味ねぇっつってんだろーが」
「そう、ですね・・・私も金髪ゴリラには、興味ありません・・・」
「ちっ、この減らず口が。 オイ、いいだろ? てめぇとなら、俺も何かやっていけそーな気がすんだよ。 それにダンビラ振り回すしか能がねぇてめぇは、どう考えたって、こっちの世界の住人だろ? 俺と一緒にくりゃあ、思う存分振り回せるぜ?」
「黒河・・・」
「あ・・・?」
「申しわけ、ありませんが・・・その申し出は・・・どうやら、受けられ、そうに、ありません・・・」
「ちっ、そうかよ」
「黒河・・・」
「あ? なんだよ?」
「私は、強かった、ですか・・・?」
「ああ? んなもん当たり前だろーが? なんせ俺は、てめぇにだけは一度も勝ってねーんだからな」
「ふふっ・・・確かに、そう、でしたね・・・」
「なぁ玲、やっぱ俺たち組もうぜ? 普通の世界に戻ったって、てめぇがダンビラを振る場所なんかねーんだからよ。 それに、俺たち2人が組めばよ・・・っておい玲、てめぇ聞いてんのか? あ? 玲・・・?・・・おい、てめぇ、何だまってんだ? 何か言えよ?」


だが彼女は何も答えない。

 

黒河に何の断りもなく、彼女は静かに息を引き取っていた。

 

・・・。

 

 

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「玲・・・て、てめぇ・・・くっそ・・・なんでだよ・・・なんで・・・俺より強いはずの、てめぇが・・・!」


そのとき背後で、PDAの電子音が鳴った。

恐らくバカ女が、真島に渡されていた16個のメモリーチップを破棄したのだろう。

 

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その音を聞きながら、黒河は空を見上げた。

だがそこに、生き残れるという喜びはなく――


黒河は自分を見下ろす月を、怒りを込めて、ただ呪った。


――【ゲーム終了時刻前ですが、勝利プレイヤー確定につき、只今を以ちましてゲームを終了させて頂きます。 参加者の皆様は、大変お疲れ様でした。 今回のゲームの勝者を発表いたします。 ナンバー5 荻原結衣。 ナンバー8 黒河正規。 以上、2名の方となります。 壮絶な死闘を戦い抜いた勇敢なるプレイヤーたちに盛大な拍手を。 この6日間の経験が、プレイヤーの皆様の人生の糧になりますことを、切にお祈り申し上げます】


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

 

 

あの悪夢のようなゲームから1年――。

 

荻原結衣はあらゆる手を尽くして、あのゲームを告発しようとし続けた。

マスコミに情報を持ち込んだり、ネット上に情報を流したり、街頭でのビラまきなどもやった。

しかし多くの人にとって、それは信じられない出来事らしく、結衣の活動に興味を持ってくれる人などほとんどいない。

だが、結衣は諦めたくなかった。

あのとき真島が言ってくれた『お前は何も間違ったことはしていない』という優しい言葉を、今も彼女は忘れていない。

そして『彼』が言った、『てめぇが何もしねぇから、このクソがくたばっちまったんじゃねぇか』という厳しい言葉も覚えている。


・・・『彼』の噂を聞くようになったのは、最近になってからの事だった。


彼は今、世間ではテロリストのように呼ばれている。

マスコミ曰く、『罪もない人を襲撃したり、善良な企業のビルを爆破したりする、極めて凶暴な犯罪者』であると。

だが結衣には、そうではないとわかっていた。

なぜなら彼が潰して回っている企業は、ゲームを運営している例の組織と、関係がありそうな所ばかりだったから。

そしてやがて結衣の所に、一通の手紙が届き――


彼女は一大決心をして、手紙に指定された場所に向かう事にした。


・・・。

 

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「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」


追われている事に気付いたのは、ついさっきの事だった。

絶対に気のせいなどではない。

この感覚は、あのゲームに参加させられていた時の、あの肌がビリビリするような感覚に似ていたのだ。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・!」


彼と合流する前に、敵に見つかってしまったようだ。

振り向くと、3人の黒服の男が追いかけて来ているのがわかる。

きっと運営の関係者に間違いないだろう。

あの手紙にもそう書いてあった。

そして――黒服の1人が、懐から何かを取り出す。

それを見た瞬間、結衣の身は強張った。

暗くてよく見えないが、きっと銃に違いない。


――撃たれる!?


彼女がそう思い、悲鳴を上げかけた時――


――!!!!


「うっ・・・がは・・・!」


銃を手に持った黒服が、3発の弾丸を食らって地面に倒れた。

それを見て、残りの2人が緊迫した表情で足を止める。


「よぉ・・・おとり役、ご苦労だったな・・・」


その懐かしい声を聞き、結衣は声のした方に振り返った。

するとそこに、彼の姿が・・・。


「もー、遅いじゃないですか!? あたし、もうちょっとでやられちゃうところだったじゃないですか!?」
「ああ? うっせーんだよ、このタコ。 獲物が餌に食いつく前に、竿を上げるバカがどこにいるっつーんだよ。 チンタラやってるてめぇを、誘ってやっただけでもありがたいと思いやがれコノ野郎」
「チンタラなんてやってないですよ! あたしは、あたしなりに必死に――」

 

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「バーカ。 てめぇ如きに運営が倒せるかよ。 あの連中を倒すの必要なのは、言葉や行動じゃねぇ。 ――圧倒的な暴力だ」


その言葉に結衣は、恐れを逡巡を覚えながらも――


やがて意を決し、うなずきを返した。


――そうして結衣は、硝煙の臭いが立ち込める暗い路地で、黒河正規と再会した。


それから彼女は彼と共に、戦いの日々を送っている。


真島や玲や、その他にも多くの人々の命を奪った、運営組織を倒すための戦い――。


・・・。

 


――その結末から遡ること、数日。


あのゲームが行われていたエリアの外。

とある場所にて――

 

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男が独り、薄暗い部屋で、朗々と語っていた。


「――さぁ! いかがでしたか皆さん、今回のゲームは? 意外に次ぐ意外な展開に、皆様もさぞ驚かれたのではと思います」


男の周りには、エリア内で行われていたゲームを監視するための無数のモニターと、彼自身を映すカメラがある。

彼はそのカメラの向こう、どこかでゲームを見ていた者たちに向け、明るく口上を述べる。


「それにしても今回のゲームは、人間関係に焦点が当たりましたね。 見知らぬ他人同士が不可思議な絆を結び、またあらかじめ繋がりのある者たちが、失われた絆を取り戻したりと。 しかし結果としては、わずか2名しか残らなかった・・・果たしてこの結末を回避することはできたのでしょうか? ほんのちょっとの歯車のズレで、ゲームの展開は大きく変わっていたのかもしれません」


彼がそう言った時――


不意に、部屋に備えられていたスピーカーから、声が漏れ出た。

『ほう。 では君はどのような要素を加えたら、ゲームの展開が変わっていたと思うね?』

「はっ・・・?」


それはモニターの向こうに無数に存在する、普通の『客』の声ではなかった。

このゲームに出資し、ゲームそのものの運営にも発言権を持つ、有力者の1人の声だった。


『聞かせてくれたまえ、君の考えを。 どうすればこのゲームは、さらに盛り上がっただろうか』

「ふーむ・・・ではこんなのはいかがでしょう?」


男は少し考え、問いに答えた。


「たとえば妹と恋人を大事にする廉価な彼と、唯一セカンドステージへの移行を止めようとしているリピーターの彼女・・・。 その2人が、ゲーム開始時点から、一緒に行動していたとしたら、いかがでしょう? 彼らが互いに力を合わせ、ゲームそのものの方向性を変えようとしていたら――。 過去のゲームよりも、大いに盛り上がっていたかもしれませんよ」

『なるほど。 それは我々としても望むところだな。 そうしてこそ、我々が仕込んだ要素の全てが、最大限に機能したというものだ』


運営者が愉快そうな笑い声を上げる。

男は苦笑を返して続けた。


「まぁ全ては過ぎ去ってしまった事ですから、別の展開を望むなど無理なことですが――。 あるいは別の世界では、全く別の展開と、美しい結末が待っていたのかもしれませんね」


それを聞く『客』たちのいったい何人が、そんな結末を望んでいるだろう。

さらなる血を欲する物ばかりである事を重々承知しつつも、男は微笑んで続ける。


「・・・もしそのような展開をお望みの方がいらっしゃいましたら、お気軽にご意見をお寄せください。 私共はユーザーの皆様が望む展開を実現するよう、最大限の努力を惜しまないものであります。 それではまた、次のゲームで!」


・・・。

 


――繰り返される惨劇と、築かれる亡骸の山。


――私たちは、そんな世界にずっと身を置いてきた。


――いつか、この血塗られた道が終わる事を、心の隅で願いながら。


――とは言え、それが叶わない望みである事も私にはわかっていた。


――プレイヤーたちは所詮、ゲームの駒に過ぎない。 ルールの枠組みからは外れる事は出来ない。


――自分の行動原理も、運命さえも、変えることなんて出来やしない。


――それが現実というもののはずだった。


――だけど、それでも諦めず信念を貫き続ければ・・・。


――いつか全てを変えられる日が来るかもしれない。


――私はそう信じ、戦場に戻ってきた。


――この手で、一人でも多くの人を救うために。


――それが私が、生かされた意味だから・・・。


【Secret Game;Code Revise】


――私たちは駒じゃない、生きている人間なのよ!


――To Next Rebellion――