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リベリオンズ -Secret Game 2nd stage-【21】

 

Episode C -Secret Game;Code Revise-

 

 

・・・。

 


――彼は、夢を見ていた。


いつの頃なのかわからない、靄がかかるほど遠い記憶――。



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誰かが自分の頭を撫でている。

隣を見れば、同じように頭を撫でられている妹の姿もある。

その手は大きく、温かかった。

妹も心地よさそうに目を細めている。

そして自分も、その手を嫌がってはいなかった。

だが不意に、手の平から熱が消えていく。

氷のように冷たくなる。

不安に思って見上げると、逆光の中で、その男が口元に浮かべていた笑みを消していた。


「・・・人殺しの血か・・・。 お前たちにも、呪われた血が流れていない事を祈っているよ・・・」


その声にはどこか、恐ろしげな響きがあり――


修平は、背筋を震わせた。


――夢はそこで終わる。

どうして今さらになってこんな記憶を・・・?


彼はまどろみの中で、その記憶を再び忘却の彼方へ追いやろうとした。

今の自分には、必要のない記憶だから。

と、そこまで考えた時――


――どこかで、鳥がけたたましく鳴く声が聞こえた。


―1日目―


「ん・・・?」


断末魔じみたその声に、藤田修平は瞼をゆっくり押し上げた。

すぐに気付いたのは、自分が倒れているという事だ。

そして、辺り一面が闇に覆われているという事も。

 

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「あ・・・れ・・・」


頬に当たる感触はやけにザラザラしていて、とても寝具のものとは思えない。

上半身を起こすと、頬からパラパラと砂粒が落ちた。

立ち上がり、その残りを手で払いながら闇に目を凝らしてみると、そこには土と落ち葉が広がっていた。


「どこだ、ここ? 今は・・・夜か?」


暗闇の中に響く、虫の音や鳥の声や草葉のさざめき――。

どこかの森の中らしい。

しかし、どうしてこんなところに・・・。

その思考に思い至ったところで、ずきりと右脇腹が疼く。

そしてそこに当てられたモノの痛みが、徐々に記憶の中に蘇る。


「・・・あ」

 

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――何者かに突如襲われたのはアルバイトを終えた帰り、自転車を取りに駅の駐輪場へ向かった時の事だった。

相手は3人。

後ろから羽交い締めにされ、脇腹にスタンガンを押し当てられ、あげく口元に何かをあてがわれた。

修平の記憶はそこで途切れ――


――気付けば、この森の中にいた。


「拉致・・・されたんだよな、普通に考えて・・・俺を攫うメリットなんて、なにもないはずだけど。 あ、そうだ。 俺の携帯・・・ん? なんだこれ? ひょっとしてこれ、PDAってヤツか・・・?」

 

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携帯の代わりに入れられていたその機会に首を傾げながら、修平はとりあえず、電源スイッチを指で押した。

ディスプレイに表示されているのは、『人』と『旗』と『地図』という3つのアイコンだった。

修平はそれらを一つ一つ開き、おぼろげながら状況を把握する。


「俺が拉致されてきたのも、このゲームに参加させられるため・・・か?・・・とりあえず、現状は分かった。 これからやるべきことは・・・」


誰がこんな事を企画して、何のためにこんなゲームをやらせようとしているのかは、いまいち想像ができない。

明るくなるのを待って、他のプレイヤーを探しに行こう。
まずは情報を増やした方がいいだろう。

修平はそう判断してPDAをポケットに押し込めると、夜が明けるのじっと待つことにした。

今頃彼女はどうしているだろうかと、そんな事を思いながら――。


・・・・・・。

 

・・・。

 


――その頃、彼が想う少女――

 

 

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吹石琴美は、独り呆然と、立ち尽くしていた。


「ここは・・・どこなの? どうして私、こんなところに・・・?」


先ほど目覚めたら、見知らぬ場所にいた。

彼女の問いに、答える声はない。

微かに残る記憶を辿ると、背中に冷たい汗が流れていった。


「そうだ、私、男の人に声をかけられて・・・」


口元に手を当てて、琴美がぶるりと身を震わせる。

彼女の脳裏には、昨日の出来事が浮かんでいた。


――それは、平穏な日常の1ページだった。

 

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「ねぇねぇ修ちゃん。 次のお休みにさ、買い物に付き合ってもらえない?」
「ああ、別にいいけど。 急にどうしたんだ?」
「来週ね、部活の先輩の誕生日なんだけど、それをみんなでお祝いすることになったの。 だけど私、男の人が喜びそうなものってよくわからないから」


学園からの帰り道、修平と琴美が談笑しながら並んで歩く。

同じ学園に通い、幼馴染でもある2人の関係は、クラスメイトの間では半ば公然のものだった。

入学当初は、何人もの男子が琴美にアプローチしたものだが、今となってはそれも遠い話。

2人の関係に入り込む隙間などないと思われているのか、琴美にチャレンジする男はいなくなった。

修平にとっては、それが嬉しいような、申し訳ないような・・・複雑な心境だ。


「わかったよ。 いつにする?」
「今度の土曜日なんてどうかな?」
「あー・・・っと、悪い。 その日はバイトが入ってるんだ。 日曜は?」
「うん、大丈夫。 それじゃ、日曜日ね」


いつも一緒にいる癖に、琴美は初めてのデートに誘われたかのようなご機嫌な笑顔を見せる。

傍から見れば、付き合い始めたばかりの彼氏彼女にでも見えるだろうが、2人は正式に男女として交際しているわけではない。

それには、幾つかの事情があるのだが――

現実的な面として、修平と琴美の間には複雑な事情があった。


「じゃあ、俺はバイトだから」
「うん。 頑張ってね、修ちゃん」
「ああ。 琴美も気をつけて帰れよ」
「うん」
「人気のある道を選んで帰れよ」
「うん、大丈夫」
「知らない奴に声をかけられても迂闊に――」
「修ちゃん、心配しすぎ。 子供じゃないんだから、大丈夫だよ」
「・・・まあ、でもお前、いつも危なっかしいからさ」
「大丈夫。 ちゃんと気をつけて帰るから」
「そうか・・・、わかった」
「それじゃ、また明日ね――」


また明日――と手を上げ返して、修平がバイト先へと向かっていく。

そんな彼の後ろ姿を見送りながら、琴美が小さく溜め息をついた。


「修ちゃん・・・」


親が早くに亡くなり、施設で育った彼は、金銭的に苦しい生活を送っている。

学園に入学してからは、さらに金のかかる場面も増え、バイトを掛け持ちしなければやっていけない状態らしい。


――対する琴美の家庭はというと、一般的な水準からすれば相当に裕福といって差し支えない。

敏腕と名高い代議士の父と、一流企業の社長令嬢であった母。

テレビの中でしか名前を聞かない各所の著名人が、頻繁に父を訪ねてくる・・・そんな家で生まれ育った。

金銭的には何一つ不自由のない、恵まれた生活環境。

手に入らないものがない暮らし。

琴美は親が用意したレールを辿り、エリート街道をひた走ってきた。

そんな彼女が一度だけ、両親に反抗したことがある。


『付き合う友人は選べ』


――ある日、父が言い放った一言に、琴美の頭は真っ白になった。

その言葉が誰を指しているのか、あまりにも容易に想像がつく。

いい意味でなく、あまりにも有名だった『藤田』の姓・・・

温室栽培の高嶺の花に、余分な雑草が寄り添っている様は、親としていい気はしないのだろう。


だが、それはあくまで、部外者の事情である。

当の琴美は、さも知ったかのような言葉に生まれて初めて激情を露にし、父親へ食って掛かった。

従順で穏やかな性格だった一人娘が泣きながら激昂する姿に、さすがの父も強くは言えなかったのだろう。

学業も習い事も一切手を抜かないことを条件に、修平との関係を許された。

それから琴美は親の言いつけを守り、一層の努力を重ねた。

結果、都内でも有数の名門進学校だった西扇学園に合格。

彼女の父親にとって誤算があるとすれば、完全に選り分ける予定だった雑草が、この学園にまでついてきたことだ。

私立であり、尋常でない学費がかかるその学園に、貧乏な雑草が紛れ込む隙間などないはずだった。

しかし、修平はその予測を裏切って、西扇学園への進学を決める。

血の滲むような努力を重ね、学費免除の特待生枠を手に入れたのだ。

全ては、琴美と同じ道を歩くために――


「・・・・・・」


そんなことがあってから、父親が修平に関してなにかを言う事はなくなった。

内心では不満もあるのだろうが、一応の理解を得たのだと琴美は思っている。

それは素直に喜ばしいことだったが、現実はやはり厳しかった。

学業とアルバイトの二足の草鞋は、修平に想像以上の負担を強いている。

そのせいで、2人が一緒にいられる時間も、年々短くなっていった。

彼の並々ならぬ努力を知っているだけに、寂しいなどと泣き言は言っていられない。

代わりに口にできるのは、励ましの言葉以外になかった。

今の彼女にできることは、修平を全力で応援することだけだ。


「修ちゃん・・・頑張ってね」


黒い背中が見えなくなる直前に、琴美は祈るように呟く。

修平の姿が見えなくなった時――


「すみません、ちょっとよろしいですか?」
「・・・あ、はいっ」

背後から呼びかけられた声に振り向くと、そこにはスーツ姿の若い男が立っていた。


・・・。

 

――その男を見てから空白となっている記憶は、自身が拉致されてきたのだと思考するには十分だった。

しかし、こんな場所に放置されているというのは、どういう意図なのだろうか。



「何かされたりしてないよね・・・?」


念のため、体のあちこちを触ってみるも、どこにも違和感はない。

他に拉致の可能性を考えるとすれば、身代金目的だったが、それにしては周囲に人がいないのは不自然だ。


「何で、こんな・・・」


考えてみても、一向に答えは出ない。

ただ周囲を取り巻く闇に、不安が湧き上がってくる。


「修ちゃん・・・」


琴美は夜空を見上げ、途方に暮れる事しかできなかった。


・・・・・・。

 


・・・。

 

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「・・・ふん、ふん・・・なるほど・・・。 どうやら前回と、ルールは変わってないみたいね」


――藤堂悠奈が目覚めたのは、つい10分ほど前の事だった。

すでにPDAの電源を入れ、クリア条件と特殊機能を確認し、直後に運営が送って来たメールを見て、基本ルールも把握している。

ゲームの内容は、前回参加させられた時と何ひとつ変わっていない。

先ほど首輪を引っ張ってみたが、その仕組みも同様だった。

そして今、悠奈は武器を求めて森の中を歩いている。

悠奈のクリア条件は『最終日までの生存』――。

それは悠奈がリピーターとしてこのゲームに参加した経緯を考えれば、あまりに簡単過ぎるものだった。


「・・・『どうぞ、ご自由に』ってか。 ったく、舐めてくれちゃって。 絶対にセカンドへの移行を阻止して、連中に吠え面かかせてやるわ」


その声をまるで聞いたいたかのようなタイミングで――

PDAが電子音を、鳴り響かせた。


「ん?」


取り出して確認すると、また1通のメールが届いている。

それを開くと、そこにはこんな文言が記されていた。


〈R:CODE〉

【プレイヤーナンバー4と遭遇し、以後24時間共に行動せよ】
【プレイヤーナンバー4は、現在このエリアにいる】
【なおゲーム終了までに、この条件を達成できなかった場合、首輪を爆破する】


「『プレイヤーナンバー4と遭遇し、以後24時間共に行動せよ』・・・? 前回は、こんなメールなかったのに・・・リピーターは、特別扱いって事かしら」


リピーターは他のプレイヤーに比べ、大幅に有利になる。

その分、ちょっとしたハンデが与えられているという事だろうか。

となると『R:CODE』のRは、『リピーター』のRではないかと推察できたが――


「やれやれ、なんかあんまりいい予感はしないわね・・・」


悠奈はそう毒づきつつ、『プレイヤーナンバー4』を探して歩き出した。


・・・。


そうしてしばらくあてどなく歩き、やがて空が白々と明け始めた頃――


不意に背後で物音がした。

 

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「なっ――!」


振り向けば草むらから飛び出してきた女が、すでに悠奈の間合いに入っていた。

彼女の右足が、しなりを生んで跳ね上がる。


――ッッ


「い――づっ!」


脇腹に、重い一撃――!

だが悠奈の鍛え上げられた肉体は、その程度では屈しない。


「づ・・・こ、このぉ!!」

「っ!?」

「うらぁああっ!!」


――ッッ


女の二の腕を目がけ、お返しの回し蹴りを放つ。

だが狙った場所にヒットしたはずなのに、悠奈の足に生じた感触は、期待外れなほど軽い。

女は悠奈の蹴りの威力に逆らわず、そのまま後ろへ跳んでいた。

そして、次の瞬間――


「えっ!? ちょっと!?」


女は一足飛びに藪の中に飛び込むと、そのまま森の奥へ走り出していた。


「ああもうっ、何なのよアイツ!? ――でも、逃がすかってーのッッ!!」



女を追って森に入る。

彼女がプレイヤーナンバー4であれば、逃げられるわけにはいかない。

それにいきなり攻撃をしかけるような、危険なプレイヤーを野放しにしたくなかった。

ここで逃してしまえば、もう一度遭遇するのは難しくなるだろう。

だから今すぐにでも、彼女を捕まえたいのだが――


「っ・・・ちっくしょう、どこに行ったのよ・・・!」


女は闇に紛れ、どこかに姿を消してしまった。

どこかに潜んでいるのだろうか?

そう思って視線を巡らせると――


――見つけた!


視界の端に据えたその人影の下へ、悠奈は全速力で駆けた。

そして、間に鬱蒼と生い茂る草むらを一気に飛び越える。


だが、そこに立っていたのは――

 

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「っ!?」

「あ、あれ!? 人違い!?」

「・・・なんだ、お前は?」


長身の男がそう言って、悠奈から適度に距離を取る。

どうやらこの男も、素人ではないらしい。

悠奈は何となく運営の底意地の悪さを感じながら、追っていた女の事はいったん忘れ、目の前の男に集中した。


「なんだ、と聞いている」
「あぁ、私は藤堂悠奈よ。 君は?」
「・・・・・・」
「あら、ダンマリ? 人に名乗らせといて、それはないんじゃない?」
「・・・別に頼んでない。 それより『人違い』とはなんの事だ」
「いや、それは別に・・・単にさっき、何者かに襲われてね。 追いかけてきたら、君がいたから驚いただけよ」
「・・・?」


悠奈の言葉に、男は警戒の表情を浮かべた。


「・・・妙な事を言うな。 何者かに襲われた、だと?」
「それはもういいのよ。 それより君、名前は?」
「・・・怪しい者に名乗る名はない」
「ご、強情ねぇ・・・どーしても教えてもらいたいんだけど、駄目かな?」


悠奈が詰め寄ると、男が顔をしかめた。


「・・・つきあってられんな」


男はそう言うと、いきなり真横へ向きを変え、歩き出した。


「えっ? ちょ、ちょっと待ってよ」
「・・・!」


悠奈が追いかけると、男が足を速める。


「ちょっと待ってったら!」


悠奈が足を速めると、男も足を速める。

よほど警戒されてしまったらしい。

彼がプレイヤーナンバー4だったら、非常にまずい事になる。

やがて2人の歩調は速まり、ついには追いかけっこのような形になってしまった。


「くっ、くそ! 足速ッ!」


悠奈も脚力には自信があるのだが、男はそれを上回るようだ。

徐々に遠ざかっていく男を、必死に追いかける。

そして森を抜けた、次の瞬間――

 

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「っ!?」


唐突に、視界が開けていた。

体を襲う猛烈な浮遊感――!

気付けば山道を通り過ぎ、体が崖の向こうへ放り出されていた。


「うわっ!」


――落ちる!?


と思ったが、地面までは3m――。


大した高さじゃない。


「はっ!」


足のバネを活かし、ダメージなく着地を決める。

 

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「・・・はー、びっくりしたぁ。 もう少し高さがあったら、さすがに危なかったわねー・・・ん?」


見ると立ち上がった悠奈の真正面に、こちらを見て目を丸くしている少年がいた。



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「・・・あんた、今どこから?」
「・・・まぁ、それは当然の疑問よね。 私が忍者だって言ったら、あんた信じる?」
「まさか、冗談で言ってるんだろ?」
「あちゃー、バレたか」
「まぁ、そりゃバレるさ」


――つかみはオッケーって感じかしらね?


そんな事を思いながら、その少年を観察する。

見た感じ、先に遭遇した2人のプレイヤーと違い、身のこなしも素人くさい。

先ほど会った男にいきなり逃げられてしまった教訓を活かし、悠奈はなるべく自然に会話を運ぶ事にした。


「ね、君。 このゲームに参加させられたプレイヤーよね?」
「ああ。 ってことは、君もか」
「そう、名前は藤堂悠奈」
「俺は藤田修平だ」
「じゃあ『修平』って呼んでいい? 私も『悠奈』って呼び捨てにしてくれていいから」
「いいよ。 俺も堅苦しいのは好きじゃない」
「それは奇遇ね。 ところで修平、あんた今のこの状況ってどのくらいまで把握してる?」
「あんまりだな。 良ければ情報交換しないか? 誰か他の参加者を見たとかでもいいし、気になるものを見つけたとかでもいい。 と言っても、俺の方は交換できる情報なんてほとんどないんだけどさ」
「そうね・・・キミのプレイヤーナンバーを教えてくれるなら、その情報を提供してもいいわよ」
「・・・プレイヤーナンバー?」
「あれ? どうしたの?」
「・・・いや、悠奈の情報に、そこまでの価値があるのかと思ってさ」
「プレイヤーナンバーとの交換じゃ、見合わないってこと?」
「まだ全容をつかんでるわけじゃないけど、このゲームにとって、パーソナルデータは重要なモノのはずなんだ」
「ふぅん・・・」


確かにこのゲームにおいて、自分のパーソナルデータに関する情報の扱いは、慎重になった方がいい。

誰がどんなクリア条件で、何を対象としているのか、知れたものではないからだ。

そして修平は、何故プレイヤー1人1人にナンバーが割り振られているのか、その意味をすでに理解しているようだった。

だが修平のような用心深いプレイヤーの信用を得られないようでは、セカンドへの移行を阻止する事など不可能に違いない。


「・・・オッケー、わかったわ」


悠奈はそう呟いて腹をくくると、ポケットからPDAを取り出し、修平に手渡した。


「はい、これ」
「え・・・?」
「私のPDAよ。 これを見れば私が危険なプレイヤーじゃないってわかるはずだから。 そして私がナンバーを聞いた理由もね」
「っ・・・本当にいいのか? 逆にこっちが危険なプレイヤーだったら、悠奈はどうするつもりだ?」
「ふふっ、忠告ありがとう。 でも相手に信用してもらいたければ、まずこっちが先に信用しなきゃ。 じゃないと話が前に進まないでしょ?」
「そこまでして、俺のプレイヤーナンバーを知りたいのか?」
「まぁね」
「・・・わかった。 じゃあ遠慮なく見させてもらうぞ」
「どうぞ。 気になるものがあれば、全部見てくれてかまわないわよ。 変に疑われるくらいなら、そっちの方がマシだから」


リピーターは、リピーター及びセカンドステージに関する情報を、他プレイヤーに伝えてはならない。

だがリピーターに関する情報は、このゲームに参加させられる前に聞かされており、PDAには何の情報も入っていない。

先ほどのメールが『リピーターズコード』ではなく『R:CODE』となっていて助かった。

そして修平の信用を得られるなら、クリア条件だろうと特殊機能だろうと、他の情報は何ひとつ隠すつもりなどなかった。

修平がPDAを受け取って、悠奈のパーソナルデータをチェックし、やがて例のメールに反応する。


「『プレイヤーナンバー4と遭遇し、以後24時間共に行動せよ』・・・? そうか・・・だから悠奈は、俺のプレイヤーナンバーが知りたかったのか」
「ええ。 そういうこと」
「・・・でも、どうしてなんだ?」
「なにが?」
「俺にはこんなメールは来ていない。 それに悠奈のクリア条件は『最終日までの生存』のはずだろ? なのになぜ悠奈にだけ、クリア条件と全く関係ない、こんな指令が送られて来ているんだ? それに、『R:CODE』って・・・?」
「さぁ、その辺は私にもわからないんだけど・・・。 怖すぎるじゃない。 ゲーム終了までに達成できなきゃ、首輪を爆破されるなんてさ」
「そりゃまぁな・・・」
「・・・それともやっぱり、私にプレイヤーナンバーは教えられない?」
「いや、ここまで情報を見せてもらっておいて、さすがにそれはないよ。 それに、このまま悠奈にナンバーを告げずに去ったりしたら、悠奈の身に何が起こるかわからないからな」
「え? ってことは・・・?」
「ああ、俺が悠奈の探していたナンバー4のプレイヤーだ」
「本当に?」
「この期に及んで、嘘なんかつかないよ」


修平がそう言って、苦笑いを浮かべた――その時。


ピー

ピー


「え? なに?」
「・・・主催者からの連絡みたいだ」
「なんて書いてあるの?」
「・・・ああ、これを見てくれ」


修平の手から戻ってきた、自分のPDAに視線を落とす。

そこに送られて来たのは、どうやら説明会の案内のようだった。

文面は、前回と何ら変わっていない。


「俺はこれに参加しようと思う。 新しい情報は必要だし、何より他の参加者との顔合わせもできるだろうし」
「そうね・・・」


本当は、危険なプレイヤーを制するための武器を手に入れておきたいところなのだが――

ここでそんな事を主張すれば、また修平を警戒させてしまう事になるだろう。


「・・・どうした? 何か用事でもあるのか?」
「ううん、まさか。 どっちにしろ私は修平と24時間一緒に行動しなきゃなんないし、それまでは修平の行動に従うわ」
「・・・わかった。 それじゃあ、行こうか」
「了解」


頷いて悠奈が歩き出すと、修平もその少し後ろをついてくる。

はたから見れば信用してくれたように見えるかもしれないが、実際はその逆だ。

たぶん、悠奈にだけ運営から直接指示が来ているという事に、違和感を覚えているのだろう。

だから修平は、悠奈を視界から外そうとしないのだ。


――そういやあの人は、セカンドステージに入っても、平気で私の前を歩いていたっけ・・・。


悠奈は口元に寂しい笑みが浮かぶのを感じながら、上着の内ポケットに入れてある、ある物の重みを意識した。

それは運営が唯一、悠奈に個人所持を許した物だった。

それさえも、連中にとってみればゲームを盛り上げるための、小道具の一つなのかもしれない。

だが悠奈にとってそれは、悠奈の意志そのものだった。


――今度こそ、あんな事は繰り返させない。


銀の弾丸を胸に、悠奈は修平の前を歩きながら、忌まわしいゲームフィールドを踏みしめた。


・・・。

 

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やがて森を抜け、人里らしきところに出ると、太陽はすっかり昇っていた。

 

 

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修平と共に、中央管理施設に向かい――

 

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廊下を抜けて、会議室に辿り着く。

 

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するとそこには、他の参加者たちが集まっていた。

その中の1人が、修平を見るなり声を上げる。


「修ちゃん!?」

「え!? こ、琴美!?」


修平も彼女を見て、驚きの表情を浮かべる。

 

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「あれ? 修平、この子と知り合いなの?」

「あ、ああ・・・琴美は俺の、幼馴染で・・・」


聞けば修平と琴美は、仲のいい幼馴染らしかった。


そして他にも、同年代の少年少女がいる。

 

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委員長キャラの『まり子』。

現役アイドルの『初音』。

軟派男の『大祐』。

そして腹に一物ありそうな美少年、『司』――。

 

それらのプレイヤーと自己紹介を交わしているうち、説明会が始まった。


そのようにして悠奈の2回目のゲームは、幕を開けたのだった・・・。


・・・。

 

―― 一方、その頃。

悠奈から逃れて1人で行動していた真島章則は――


黒河と名乗る男に因縁を付けられ、戦いへと発展していた。

 

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「だらッ! ボケがっ!! 当たれやゴラアアアッ!!!」


だがそれも、もうそろそろ終わりだろう。


「ひらひら避けてんじゃねぇクソったれがッッ!!」


しょせん素人の拳など、自分が食らうはずがないのだ。


「――舐めてんじゃねぇぞコラァアアァッッッ!!!」


――ッッ

 

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「ハァッ!」


全身で殴りかかってきた黒河の顔面に、真正面から拳を叩き込む。


――!!


「ぶっ――がぁっ!!」


黒河の巨体が吹き飛び、後方の藪の中へと転がり込む。

嫌気がさすほどのしつこさだったが、さすがにもう起き上がっては来ないだろう。

そう思い、真島が藪に背を向けた――その時。


――『うわぁああぁっっ!!』

 

「・・・?」


とても黒河のものとは思えない、情けないほど甲高い悲鳴――。

 

 

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振り向くと、黒河が草を掻き分けて姿を現す。

その右手には、襟首を掴まれた眼鏡の男。

そして左手には、リボルバーを持っている。


「くっくっく・・・いいもの持ってるじゃねぇかよ、コイツはよぉ」


「っ・・・!」


「おい先に言っといてやるが、コイツはオモチャなんかじゃねぇぞ? なんせズッシリしてやがるからなぁ。 嘘だと思うか? ならかかってこいよ。 カハハハハッ、すーぐぶっ殺してやるからよぉ」

「貴様・・・」

「・・・ま、てめぇはどっちにしろぶっ殺すけどな。 じゃあな真島。 てめぇはここであっさり死ねや。 今度は俺が、てめぇの事を忘れてやるよ」

「くっ・・・!」


ここまで1人で行動していた真島を、守ってくれるモノは何もない。


――このまま殺されるくらいなら!


真島は一か八か行動しようと、爪先に力を込める。

 

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「バーカ、無理だっつーんだよ」


黒河の猛禽を思わせる目と、黒々とした銃口が、真島の胸をピタリと据え続けている。


――ダメなのか?


真島の諦めを読み取ったかのように、黒河が口元に笑みを浮かべ、引き金に力を込める。

そして今にも、銃弾が放たれようとした――その時。


――!!


1本の矢が、黒河の足元に突き刺さった。


「なっ――んだぁっ!?」


黒河の人差し指から力が抜け、視線が矢の飛来した方向に向けられる。


「っ!?」


その隙に、真島は動いた。

多くの遮蔽物がある森の中へ――!


「あっ、くそっ! 待てやコラ真島ぁあああっ!」


――!!


黒河が放った銃弾が、真島の耳元を行き過ぎる。


――!!


真島はできるだけ狙いを定められないように、フットワークを活かし、何本もの木々の間をすり抜けた。

背後で黒河が何かを叫んでいたが、それを聞いている余裕はない。


――しかし、いったい誰が俺を助けてくれたんだ・・・?


真島の脳裏にそんな疑問が過ったが、といって確認しに戻るわけにもいかず、そのまま森の奥へと走って行った。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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――細谷春菜は、森の中からクロスボウの矢を放ち終えると、茂みの中に身を潜めた。


すると川原の方から、殺意に満ちた怒声が聞こえてくる。

 

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『て、テメー誰だコラァ! 出て来いやこの野郎ォ! せっかく真島のクソを殺せると思ったのに、邪魔してくれやがってよォ!』

 

「・・・馬鹿ね、出ていくわけないのに」


春菜はそう嘆息し、静かにその場から離脱した。


・・・。

 

「それにしても危なかったわ・・・まだ1つもノルマをこなせてないって言うのに・・・」


ファーストステージのクリア条件は、通常セカンド移行時にキャンセルされるが、リピーターはその限りではない。

セカンド移行時にそのクリア条件を満たせてなければ、首輪が爆破されるのだ。

そして春菜のクリア条件は、『他のプレイヤーに対して3回以上危害を加える』。

つまり金髪の男の殺人を阻止していなければ、春菜はクリア未達成となり、死んでしまうところだった。

本当はセカンドステージの事も考えて、もう少し慎重に行動するつもりだったのだが――


「あんな短絡的な男がいたんじゃ、なるべく急いだ方が良さそうね」


春菜がこのゲームに参加するのは、今回で最後になる。

無事に生き残る事ができれば、義父が作ってしまった借金は完済され、運営との関係もようやく切る事ができるのだ。


「だから、何としても私は・・・!」


たとえ両手を血と罪に染めようと、家族の幸せを守りたい。

そしてできるなら、春菜自身も、以前のような日常に戻りたい。


――そのために、私はこれまで人を殺して来たのだから・・・。


春菜は自分の望みを叶えるためだけに、リピーターとしての行動を開始する。

そうして気配を殺しつつ歩き回っているうち――


春菜は、次なるターゲットを発見した。


・・・。

 

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「うぅ・・・もう、何がなんだか・・・」


弱々しい声が、荻原結衣の口から漏れた。

彼女は目覚めてから今までずっと、1人で森の中をさまよい続けていた。

自分の置かれた状況が、まるでわからない。

学校帰りのバスの中で、うたた寝していただけのはずなのに、どうして目覚めたらこんな森にいたのか?

起きない自分に腹を立てた運転手さんに、置き去りにされたのかと思ったが、さすがにそれはないだろう。

それに首にはめられている、首輪の存在も謎だった。


「たぶん、これが使えれば色々わかるんだろうけど・・・あたし、なんか壊しちゃったみたいだし・・・。 こんなのポケットに入ってるなんて、ちゃんと言っておいてくれないと・・・」


とは言えPDAを地面に落してしまったのは、結衣が不注意だったからに他ならない。


――あんたって、いつもそうだよね?


そう言ってたしなめてくれる母親も、友達も、いつも笑って許してくれる人たちが、今は結衣の傍に誰もいない。

途端に1人が嫌になり、結衣は声を出してみる事にした。


「あのぉー、近くに誰かいませんかぁー? もしもーし、誰かいたら返事して下さーい!」


・・・。


「・・・はぁ、やっぱり誰もいないんだ。 もしかして、今この世界に生きているのってあたしだけだったりして・・・って、そんなわけないよね? うん、ないない。 だよね?あははははっ・・・はぁ・・・」


心細すぎて、自分でも情緒不安定になっているのがわかる。


と、その時――


――!!


気が付けば、足元に何かが突き刺さっていた。


「へ?」


見るとそれは、細い棒のようなものだった。

でも普通、棒は宙を飛んできたりしない。


「っていう事は、これってもしかして・・・? ――う、うわっ!」


数拍遅れの驚きに、思わず尻餅を付いてしまう。

そしてすぐ、頭がパニック状態になる。


矢で狙われてる?

私が!?

な、なんで!?


彼女がそう思った直後――!


――!!


再び飛来した矢が、ついさっきまで結衣の足があった場所に突き刺さった。


「う、ひぐっ・・・な、なにこれ・・・?」


頭から血の気がサーっと引いていく。


全身をガタガタ震わせながら、矢が来た方向に目を向けると――

 

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クロスボウを構えた女が、そこにいた。

殺し屋のように冷たい目で、結衣の事を見つめている。


「あ、あの・・・誰、なんですか・・・?」

「・・・」

「なんであたしを・・・ね、狙ってるんですか・・・?」


殺し屋女は、何も答えない。

ただ無言のまま、クロスボウに次の矢を装填する。


「だから・・・何で、なんですか・・・? あ、あたし・・・何も悪いこと、してないじゃないですか・・・?」


わけがわからず、目に涙が溢れてくる。

まるでホラー映画の、オープニングで殺される人の心境だった。


――ってことは、あたし、ここで死んじゃうの?

――うそでしょ? そ、そんなの嫌だよ!


女がクロスボウを構え、こちらに矢を向ける。


「・・・動かないで。 動くと余計危ないわよ」


女はわけのわからない事を言った。

それで結衣は余計パニックになる。


「うっ・・・ひ、うぅ・・・! だ、誰か・・・――誰か助けて下さいよぅッッ!!」


結衣が心から、そう願った時――


背後の草むらから、金髪の男が飛び出してきた。

 

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「このクソがっ、見つけたぞオラァッッ!!」


――!!!!


男はそう言うや、殺し屋女に向けて、銃を乱射した。


「っ!?」


――!!!!


「ちっ――当たれや、この野郎ぉおおおっ!」


そう叫びながら、闇雲に男が発砲する。


「っ・・・!」


すぐに男の銃が弾切れを起こした。

その隙に殺し屋女が、身を翻してどこかへ逃げて行く。


「クソッタレが! なんであれだけ撃って、1発も当たりやがらねぇんだよっ!? おい充、さっさと弾を――」


そう言って後ろを振り向いた男が、地面にへたり込んでいる結衣を見つけて動きを止める。

 

「・・・あ? 誰だ、てめぇ?」

「あっ、あの、あたし――」


命の恩人にそう問われて、結衣はあたふたと名乗ろうとした。

その時、また背後の草むらが揺れ――


今度は眼鏡をかけた、もやしっ子然とした男が、肩で息をしながら現れた。

 

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「はぁ、はぁ・・・」

「んだとコラ、充てめぇ! てめぇがチンタラやってるから、またあの女に逃げられちまっただろーがよ!」

「そっ、そんなこと言われても・・・僕は、体を動かすのは苦手だから・・・」


そこで眼鏡のもやしっ子も、結衣に気付いて動きを止める。


「・・・?」

「あ、えーと・・・お、おはようございまーす・・・」

「お、おはよう・・・って黒河くん、この人は?」

「ああ? 俺が知るかっつーんだよ?」

「いや、でもさ」

「あっ、あの、あたし――荻原結衣って言います」

「荻原さん・・・?」

「はい・・・えと、あたしはそのっ、危ないところを助けてもらっちゃいまして・・・」

「助けたって、黒河くんが?」

「は、はい。 ですよね、黒河さん?」


同意がほしくて、結衣が黒河と呼ばれた男を見ると――


「はあ? 何言ってんだ、てめぇ?」

「え・・・?」

「なんで俺がてめぇみたいな、ユルそうな女を助けなきゃなんねぇんだよ?」

「えっ、でも・・・あたしが矢で撃たれそうになってるところに、黒河さんがバーンって現れて、あの女の人を追い払ってくれて・・・これって全部、事実ですよね?」


でも冷静に考えてみると、状況は確かに非現実的だった。

――じゃあ、これは夢?

――でも、それにしてはリアル過ぎるような・・・?

 

そう思っていると、男2人が痛々しげな表情を浮かべ、顔を見合わせる。


「黒河くん、この人って・・・」

「・・・ちっ、面倒臭ぇ。 おい女、てめぇPDA見てねぇのかよ? オメーも配られてんだろ?」

「あっ、いやそれが・・・あたし、これを壊しちゃったみたいで・・・」

「壊しただぁっ!? オイてめぇ、それちょっと見せろオラ!」

「は、はいぃ・・・」

「ちっ、トロトロしてんじゃねぇっつーんだよ」


結衣が恐る恐る差し出したPDAが、黒河にひったくられる。

 

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だが黒河が電源を入れても、画面に光が灯る事はなかった。


「オメーどーすんだコレ?」

「あは、あははっ・・・どうしましょう?」

「笑いごとじゃねーんだよ!」

「ご、ごめんなさいっ」

「ちっ・・・たくよぉ。 おい充、てめぇコレなんとかしろ」

「え? なんで僕が?」

「んだコラァ、文句あんのか!? てめぇ、こういうの得意そうな面してんじゃねーかよ!」

「わ、わかったよぉ・・・」

「オラよ」

「うわっ――とと」


黒河が放り投げたPDAを、充と呼ばれたもやしっ子が、慌ててキャッチする。

そしてすぐに、ある事に気付いて声を上げた。


「・・・あれ? 電源は入ってるんだね?」

「え? どうしてわかるんですか?」

「いやほら、電源ランプの色が変わってるでしょ?」

「あっ、本当だ。 そう言えば音も鳴ってました。 何回かピーピーって」

「ん? という事は、死んでるのは画面だけってことか・・・」

「・・・あの、直りそうですか?」

「いや、さすがにそれは工具がないと無理だけど。 僕のPDAの特殊機能を使えば、パーソナルデータはわかるかもしれない」

「特殊機能・・・?」

「説明は長くなるから後でするよ。 今はとりあえず――」


充はそう言って、ポケットから別のPDAを取り出すと、素早くそれを操作した。


「――うん、やっぱりだ」

「おい、もしかしてコピーできたのかよ?」

「うん。 荻原さんのプレイヤーナンバーは『5』。 クリア条件は『メモリーチップを使用して食料を8つ以上確保する』。 そして特殊機能は・・・すごい。 『半径10m以内にある未発見のキューブを表示する』だって」

「おいおいマジかよ? ってことはだ。 てめぇのPDAを組み合わせれば、食料も武器も取り放題って事じゃねーか?」

「・・・あのー、あたしには全然意味がわかんないんですけど。 メモリーチップとか、キューブとか、武器とか、あと食料とか、何のこと言ってるんですか?」

「っ・・・充、てめぇ10分やるからコイツに全部説明しろ」

「え? また僕が?」

「あぁあん!?」

「わ、わかったって。 そんなに凄まないでくれよ」

「・・・・・・」


さっきから見ていると、どうやら黒河が兄貴分で、充が弟分のような関係らしい。


――兄貴かぁ・・・。


1度そう思ってしまえば、態度も言葉も乱暴な黒河が、何となく微笑ましく見えてくる。


「おいてめぇ、なにいきなりニヤついてやがんだコラ?」

「あっ、何でもないです兄貴」

「はあ?」

「あっ、いや何でもないです。 えとそのっ、それじゃあもやしさん、教えてもらってもいいですか?」

「もっ、もやし・・・!?」

「ああっ、こっちも間違えちゃいました。 えーと、確か『充』さんでしたよね?」

「・・・いや、別にいいけどさ。 じゃあ、このゲームについて説明するよ」

「はい。 よろしくお願いします」


――そして、10分後――

 

「――というわけなんだけど、どう? わかった?」

「はい、大体は」

「それじゃ黒河くん、荻原さんへの説明は終わったけど?」

「よーし。 つーわけで女、今からてめぇは俺の奴隷だ」

「奴隷・・・ですか?」

「そうだ。 てめぇのPDAはクリア条件も特殊機能も、なかなか都合がいいからな。 奴隷として俺に従うっつーんなら、俺のクリアのついでにてめぇもクリアさせてやる。 だが逆らいやがったら、そん時は――」


そう言って黒河が、まるでギャング映画の登場人物みたいに、銃口を結衣の額に向けた。

 

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「――そのカルそーな頭、ブチ抜くぞ」

「・・・・・・」


結衣はそのままの体勢で、命の恩人をじっと観察した。

もう夏も終わって久しいというのに、肌が妙に浅黒い。

そういうポリシーなのか、上にはタンクトップしか着ていない。

こちらを睨みつけているその顔は、そこそこ男前と言って良さそうだ。

そして性格は――わりと面倒見が良さそうなのに、いちいち悪ぶっているところを見ると、どうやらかなりシャイらしい。


「・・・オイてめぇ、だからなにさっきから人のこと見てニヤついてやがんだ? マジで弾くぞコラ?」

「・・・大丈夫ですよ、黒河さんは撃ちません」

「あ?」

「あたし、そういうのわかっちゃうんですよ。 黒河さんは絶対に、そういうことする人じゃないですもん」

「はあぁあっ?」

「あたし、黒河さんのこと気に入っちゃいました! だからあたしも奴隷じゃなくて、黒河さんの弟分にして下さい」

 

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「・・・ダメだ、こいつが何言ってんのか全然わからねぇ」

「黒河くん、たぶん荻原さんって、何か勘違いしてんじゃないのかな? だってほら、黒河くんは結果的に彼女のこと――」


そう言って、充が黒革に何か耳打ちする。


勘違いとは失礼な、と思って2人のやり取りを見ていると、黒河が舌打ちしながら銃を下ろす。


「ちっ・・・」

「ほら、やっぱり」

「っ! 何がやっぱりだコラ!」

「黒河くん、だから落ち着いて」

「うっせーんだよ、ボケ! 充てめぇ、俺に指図してんじゃねぇぞコラ!」

「そうだぞ、コラ!」

「なっ、なんで荻原さんまで!?」

「えへへっ、つい」

「っ・・・もういい、何もかもが面倒臭ぇ。 おい充、てめぇはさっさとコイツの特殊機能を使って、メモリーチップを探せ。 じゃねーと、わかってんな?」

「わかってんな?」

「て、てめぇコノ・・・っ!」

「ちょっと荻原さん、黒河くんの物真似はもうやめてってば。 じゃないと結局、僕の方に全部くるんだから」

「はぁい」


充はたぶん、黒河の事をよくわかっていないのだろう。

結衣はもう1度、黒河の顔を見た。

命の恩人の兄貴。

そしてその弟分と、あたし――。


ちょっと前まで感じていた心細さは、もうどこかへ消えていた。


・・・・・・。

 


・・・。

 

――そうして結衣が黒河たちと出逢い、メモリーチップの捜索に専念し始めた頃――


藤田修平を含む7名のプレイヤーは、中央管理施設にて、説明会を終えていた。

7名とは、修平・琴美・司・初音・大祐・まり子、そして――悠奈だ。

 

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前回のゲームのプレイヤーの死体もすでに見た。

悠奈と司は比較的平然としていたが、他のプレイヤーたちは震え上がった。

修平は怯える琴美を見て、『彼女を護らねば』と誓った。


そして、説明会が終わった後――


修平は会議室に1人で戻り、運営の男に追加の確認をしていた。

 

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「つまりゲームを盛り上げるための演出として、参加者にあえて伏せらているルールがあるってことだな?」

『・・・はい。 先ほどの説明が、このゲームにおける全てのルールではありません。 秘められたルールをプレイヤーが考察するのも、ゲームの醍醐味と考えています』

「・・・なるほどな。 あんたのお陰でいくつかの疑問に確証が得られた。 質問は以上だ」


そう言って修平は、会議室の出口へ向かう。

報酬目当てで自らゲームに参加しているプレイヤーがいる可能性と、クリア条件が途中で変更される可能性について考えながら。

すると天井側のスピーカーが、運営者の声を伝播する。


『今後の活躍に期待しています、どうかご健闘を』


修平は何か含みのあるその声に背筋をぞっとさせながら、会議室を後にした。


すると、廊下に出た途端――

 

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「お疲れさまでした。 藤田先輩」


団体行動を拒否して出て行ったはずの司が、壁に寄りかかって拍手を送ってくる。

修平は内心で驚きつつ、それを表情に出さないようにしながら、司に問いかけた。


「何の用だ?」
「僕も、藤田先輩と同じことを考えていたんですよ。 だから、誰もいなくなったところで、こうして戻ってきたというわけです」
「そうしたら、俺がいた、と。 ・・・都合の悪いところを見られたな」

「あはは、へたすれば、立場が逆になったかもしれませんね」

司が心底楽しそうに、無邪気な笑みを浮かべる。

修平のことを『藤田先輩』と呼んでいるのに加え、この態度を見るに、他の人間と修平の扱いには明らかな差が見て取れた。

 

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「まあいい・・・で、何か用か?」
「単刀直入に言います。 僕と手を組みませんか?」
「お前と・・・? 大祐の誘いは断ったのに、俺には誘いを持ちかけるのか?」
「あの人と組むなんて論外ですよ。 まず、信用できない。 どうしてあの集団の中に藤田先輩が留まっているのか、全く理解できません」


司はそう言って、修平を見つめた。


「僕はね、藤田先輩。 あなたのような人がいることに心底驚いているんですよ。 このゲームについて僕並みに理解している人なんて、まずいないと思っていた。 説明会が始まる前に、僕が上野って女に話したことを覚えていますか?」
「これが組織的な犯罪行為で、主催者の連中はそれを実行するだけの資金や力を持ち合わせている・・・って話だったな」
「そうです。 このゲームの主催者は、おそらく財界や宗教、裏社会の重鎮、もしかしたら政界にまで力が及ぶ連中かもしれない。 そんな連中が組み上げたゲームなんです。 だからこそ僕らは、慎重に行動をしなければならない」
「・・・・・・」


確かに司の言う通り、このゲームでは慎重に行動しなければ命を落とすことになるだろう。

そして仲間選びは、特に重要な要素だった。

団体としての行動を選ぶのか、それとも自分と共通認識を持つ仲間を選ぶのか?

琴美の望みは明らかに前者だろうが、修平の望みはむしろ――

そこまで考えた時、不意に背後から声をかけられた。

 

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「ちょっと修平? アンタまさか、私を置いていくつもりじゃないでしょうね?

「っ!? 悠奈、いつからそこに!?」

「ずっとよ。 あんたが不自然な行動を取るから、後を尾けてきたのよ。 そうしたらもう1人いるから驚いたわ」

「へぇ、尾けてきたですって・・・? 僕はちゃんと、気をつけていたはずなんですがね」

「自信過剰はよくないわね。 他人のことを安く見積もってばかりいると、そのうち痛い目を見るわよ?」

「・・・なるほど、確かに『藤堂先輩』の言う通りみたいですね。 反省しました」

「うん、素直でよろしい」

「で、あなたは何者なんですか?」

「何者って、私はただのプレイヤーよ」

「まぁ、そう言うと思いましたけど・・・でも僕は間違っても、あなたみたいな得体の知れない人とは、手を組みたくありませんね。 藤田先輩も、その本心は僕と近いんじゃありませんか?」

「・・・・・・どうかな?」

「・・・へぇ、意外な返答ですね」

「だろうな」


悠奈が、運営が何らかの意図を持ってゲームに送り込んできたプレイヤーである可能性は、はっきり言ってかなり高い。

その証拠に彼女のPDAには、修平には来ていない『行動を直接指示する内容』のメールが送られて来ていたのだ。

だが仮にそうだとすると、初めて出会ったあの時点で、PDAの全情報を公開する意味がわからなかった。

いくらナンバー4のプレイヤーを見つける事が急務だったとは言え、他にやりようはいくらでもあったはずなのだ。


悠奈は確かに、怪しい。


しかし、修平の中にある彼女に対する評価は、まだ司ほどには定まっていなかった。


「・・・まぁ、今のところはとりあえず、悠奈と行動するつもりだ」

「・・・理解できませんね。 これでも人を見る目はあるつもりなんですけど。 となれば残念ですが、藤田先輩と組むのは諦めるしかなさそうですね」


そう言って、司が立ち去ろうとする。

だがその背を悠奈が呼び止める。


「待って。 司、別れる前に1つ確認させて」

「・・・なんでしょう?」

「アンタ、このゲームに勝つつもりよね?」

「ええ、当然です。 こんな所で死にたくありませんからね」

「じゃあアンタ、クリアするためなら人を殺しても構わないと思ってる?」

「そうですね、それ以外に方法がなければ」

「っ・・・」

「ああ、誤解しないで下さいね。 あくまで『それ以外に方法がなければ』ですから。 藤田先輩と運営の方とのやり取りを聞く限りは、殺人を犯す事には大きなデメリットがありそうですからね」

「それじゃあアンタはよっぽどの事がなきゃ、人殺しはしないって考えてもいいのよね?」

「そうですね、今のところは」

「・・・信じるわよ、その言葉?」

「どうぞ、ご自由に。 一応、僕は嘘をつくこともいとわない人間だという事だけは、先に言っておきますけど」

「・・・いいわ。 それでも信じてあげる。 だから、もし助けが必要な時は遠慮なく言って来て。 少なくとも私は絶対に、アンタを助けに行ってあげるから」

「それはどうも。 でも、そんな状況にならない事を祈っていますよ。 では藤田先輩、気が変わったら僕のところに来て下さい。 藤田先輩と大祐が一緒じゃなければ、いつでも歓迎しますから」

「ああ、考えておくよ」

「それじゃ、僕はこれで」


司はそう言って片手を上げ、静かに廊下を去って行った。


すると悠奈が、修平に笑みを向けてくる。


「・・・修平、ありがとね。 私の事を信じてくれて」
「やめてくれ。 心境的には、俺も司と大差はないんだ」
「あちゃ~、やっぱり? でも、だったらどうして司と一緒に行かなかったの? 私の事なんて、放っておけばよかったのに」
「単に、このゲームを生き残りたいだけなら、迷わず司と手を組んでいたさ。 だが、俺には他にやらなければいけないことがある。 司の誘いを断ったのは、そのためだ」
「やらなければいけないこと?」


悠奈が探るような目を向けてくる。

だが、そこまで胸の内を明かしたくないと、修平が告げようとした――その時。

司が去った方向とは反対側の廊下から、琴美が息を切らしながら駆けて来た。

 

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「し、修ちゃん大変だよ! 大祐くんが!」

「大祐が・・・どうかしたのか?」

「それが、玄関を出たところで――」

「・・・修平、とにかく行きましょう」

「ああ」


修平は頷いて、2人と一緒に走り出した。


やがて、たどり着いたその場所で見た光景は――


「なっ・・・!」

 

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「ど、どうにかなりそうですか?」

「ああ、大丈夫大丈夫。 上手くいきそうな気がしてきた」

「そうなのですか? 外れそうなのですか?」

「大丈夫、いい感じいい感じ」


大祐が生返事をしながら、初音の首輪にドライバーを突き立て、その尖端が震えるほどの力をこめている。

あまりに軽率なその行動を、修平が咎めようとした――その時。

 

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「アンタ、なに馬鹿な事やってんのッッ!!」

「ぐえっ」


悠奈が素早く大祐の襟首をつかみ、そのまま後ろへ引き倒した。

 

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「あ、いっつー・・・――おい! いきなり、何すんだよ!」

「それはこっちの台詞よ! アンタの方こそ、何やってるのよ! 頭どうかしてるんじゃないの!」

「・・・はあ? んなこと言ったって、ちょっと首輪をバラそうとしただけじゃねーか?」

「あのね、これはただの遊びじゃないのよ! 命がかかってるゲームなのよ!」


悠奈はぴしゃりと言い放つ。

さらにそれを遠巻きに見ていたまり子にも、鋭い視線を向けた。

 

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「まり子、アンタもよ」

「え・・・? わっ、私はちゃんと止めたわよ? それなのに伊藤くんが勝手に――」

「あのね、それは止めたって言わないの。 琴美は私たちを呼びに来たけど、結局アンタは何もしてないじゃない?」

「そ、それは・・・」

 

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「悠奈さん・・・!」

「悠奈、それは少し言いすぎなんじゃないのか?」


まり子に非があるとは思えず、修平も琴美に続いて口を挟む。

だが悠奈から返って来たのは、呆れたような嘆息だった。


「はぁ・・・ったく、修平までなにそんな甘いこと言ってるの。 いい? もう一度言うけど、このゲームには人の命がかかっているのよ? それに、これから何が起こるかもわからない。 私たしは、協力してクリアを目指すって決めたんでしょう? だったら、誰かが危険に晒されている時は助けなきゃ。 そうじゃなきゃ、私たちは何のためにこうしてチームを組んだのよ?」


そう言って、悠奈が修平を見つめてくる。

まるで何かを期待しているかのような目で――。


それをうけて修平は、クリア条件が、何かのきっかけで変わってしまう可能性がある事を思い出し、悠奈の言葉に頷いた。


「・・・そうだな。 確かに、悠奈の言う通りだ」

「うん。 私も、悠奈さんの考えに賛成します」

「そう。 大祐やまり子は反論ある?」

「・・・別に、ないわ」

 

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「ああ、わかったよ。 初音ちゃん、さっきは変なコトして悪かったな?」

「そんな、さっきのは初音も悪かったのです。 初音も考えが足りなかったのです」

「初音。 大祐を甘やかすと、後で痛い目を見ることになるかもしれないわよ?」

「おいおい、だからもうさっきみたいな事はしないっつーの」

「そうね。 そうしてくれると助かるわ。 さてと、それじゃあそろそろお腹も空いたし、皆で手分けしてキューブ探しを始めよっか?」


悠奈がそう音頭を取ると、修平を含む全員がそれに頷いた。


――少々強引なところはあるけど、このチームのリーダーは、しばらく悠奈に任せても良さそうだな・・・。

修平が胸中でそう独り言を呟いていると、琴美が嬉しそうに笑いながら傍に寄ってくる。



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「ねぇ修ちゃん。 悠奈さんって厳しいけど、なんか頼りになりそうな人だね?」
「・・・ああ、そうだな」


琴美の笑顔を見る限り、どうやら悠奈の事が気に入ったらしい。

おそらく修平もこのゲーム以外で出会っていたならば、琴美と同じ印象を抱いていただろう。

だが修平は口では同意しつつも、悠奈に対する疑問が晴れるまでは、信用するのはよそうと心に決めていた。


全ては、琴美を守るために――。


・・・。