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リベリオンズ -Secret Game 2nd stage-【26】

 

―6日目―


・・・。


――そして時刻は午前0時を回り――


ついにゲームは、6日目を迎えた。

 

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だが、PDAに変化は訪れない。

『終了24時間前のお知らせ』が、送られてこないのだ。

 

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「・・・どう、して・・・? ゲームは、6日で終了のはずじゃ・・・?」


細谷春菜は呆然と、沈黙したままのPDAを見つめた。

このゲームはいつも、6日目で終了していた。

これまで一度もその時を違えたことがなかったのに、今回に限ってその兆候がない。

運営の方で、何かトラブルでもあったのだろうか?

そんな疑問が脳裏を過る。


だがそこで春菜は、あることを思い出した。

それはゲームの初日に、決まって全プレイヤーに対して送られる基本ルールの中にある、1つの文言だった。


1、プレイヤーには各自固有のPDAが与えられる。 PDAに表示された『クリア条件』をゲーム終了までに達成せよ。 ゲーム終了については後日通知される。


――ゲーム終了については後日通知される。


そう。

ゲームの最終日については、『後日通知される』としか記されていない。

どこにも『6日目で終わる』という記載はないのだ。

経験則として、春菜がそれを知っていたというだけで――。


「う・・・う、そ・・・? それじゃあ・・・今、お兄ちゃんがしようとしていることって・・・?」


全て無意味だというのだろうか?

今日まで保たれてきた平穏は、いたずらにゲームを長引かせるものでしかなかったというのだろうか?

春菜は、急激な眩暈を覚えた。

いま自分が立っている地面の感触さえも、どんどんあやふやになっていく。

と、そこへ事態に気付いたもう1人のリピーター、悠奈が血相を変えてやってきた。

 

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「――春菜っ! これはどういう事なの!? このゲームは6日で終わるはずじゃなかったの!?」
「わか、らない・・・。 私にも、何が起こっているのか・・・わからないの・・・」
「っ・・・!」


悠奈が、ひどく強張った表情を浮かべる。

だが、今回でゲーム参加が9度目となる春菜にも、今何が起きているのか、説明することは不可能だった。


「・・・とにかく、すぐに修平の所へ行きましょう」
「え・・・?」
「何かあったら相談する。 私は修平と、そう約束しているのよ」


そう言って悠奈が、修平たちが寝床にしている診療所へと駆けて行く。

春菜は激しい混乱の中、彼女の背中を追いかけることしかできなかった。


・・・。

 

――このままじゃ、このゲームは終わらないかもしれない。


真夜中に訪ねてきた悠奈からそう告げられた瞬間、藤田修平は、すぐに彼女の危惧を理解した。

リピーターである悠奈がそう判断したというのなら、この問題を看過できるわけはない。

修平はすぐに悠奈と、そして近くで自分たちの会話を聞いていた春菜と共に、中央管理施設へ走った。

運営の思惑を確認するために――。


春菜と悠奈を引き連れて、中央管理施設へ辿り着く。

ロビーに『説明会会場はこの先、階段を上って右側の突き当たりにある会議室です』という看板が、そのまま残されている。

まるで嘲笑われているような気がして、思わず悪態がついて出る。

 

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「くそっ・・・!」

「・・・修平、落ち着いて」

「そうよ、春菜の言う通り。 私たちの予感が正しいかどうかは、運営と話してみないとハッキリしないわ。 もしかすると、運営側で何かトラブルがあったのかもしれないし・・・」

「・・・ああ、わかっている」


修平は頷いて、一先ず荒い息を整えた。


そして階段を上り、右側の突き当たりにあるドアを開けると――

 

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無機質な空気に満ちた、会議室の光景が目に飛び込んできた。

修平はその場所に足を踏み入れるや、すぐに天井近くのスピーカーへ向けて話しかける。


「聞こえるか、運営。 返事をしてくれ、ゲームの内容に関して確認したいことがあるんだ」


すると、まるで待ち構えていたかのように――


『・・・はい、何でしょう?』


スピーカーから流れ出したその声には、真夜中だというのにもかかわらず、相変わらずの余裕が感じられた。

つまり、運営側でトラブルが起こったなんてことはあり得ない。

修平はそのことに気付いて歯噛みしつつ、それでも冷静に運営の男に問いかけた。


「アンタは確か、このゲームの終了時間は『24時間前に通知する』と言っていたよな?」

『はい、そうですが』

「だったらどうして、今日の午前0時に何の通知も来なかったんだ? ゲームの開催期間は、いつも6日間だったはずなんじゃないのか?」


するとスピーカーの向こう側に、一瞬の間が生まれた。

恐らく運営の男が、口元に笑みを浮かべたのだろう。

スピーカーを睨みつけた修平に対し、返ってきたのは微かな微笑を含んだ声だった。


『いいえ。 初日にもご説明しましたが、ゲーム開催期間については、プレイヤーに伝えることはいたしておりません』

「だが――」

『もしあなたがそのことに確証を得ているのでしたら、特定のプレイヤーが重大なルール違反を犯したことになりますが?』

「くっ・・・!」


確かに運営の男が言う通り、修平は悠奈から、話を直接聞いたわけではない。

ゲーム開催期間が6日という情報は、あくまで全て悠奈の言動から『推測』したものに過ぎないのだ。



「・・・じゃあ、質問を変えていいかしら?」

『どうぞ』

「このゲームは『全員の生存』が可能なのよね?」

『それは、ご想像に――』

「だめよ。 この質問には答える義務があるはずよ」

『・・・と、言いますと?』

「だって、初音のクリア条件は『プレイヤー全員の生存』だもの。 それが不可能だっていうんじゃ、ルールに齟齬があるわ」

『なるほど・・・では実際、齟齬があるのかもしれませんよ』

「はぁ?」

『説明会に参加した皆様にはすでに申し上げておりますが、推測することもこのゲームの一部なのです。 隠されたルールを読み解き、他のプレイヤーに先んじてそれに対処する。 これはただのゲームではなく、そうしたことを踏まえた上で行われる、殺し合いのゲームなのです』

「なっ・・・!?」



「つまり『全員の生存』は、ありえないというんだな? 誰かがトリガを引き、全員のクリア条件が変更されるまで、このゲームに終焉は訪れないというんだな?」

『それは、ご想像にお任せします』

「このっ・・・!」

 

 

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「修平、怒るだけ無駄よ。 これは初めから、仕組まれていたこと・・・だから、彼らには何を言っても通じない」

『・・・いえ、そうとも限りませんがね』

「え・・・?」


それまで平淡だった運営の男の声に、急に人間臭さが混じり、春菜が驚きの声を上げた。

すると運営の男が、そのままの口調で続ける。


『確かにルールに保険をかけてありましたが、このような事態が起こるなど、我々は予想もしておりませんでした。 いわば今の状況は、あなた方が自力でつかんだ、エクストラゲームのようなものなのですよ。 だから我々は、密かに期待しているのです。 例えルールでがんじがらめにされていようと、あなた方が不可能を可能にすることを、我々は見たいのです。 どうです? それこそが、最高のエンターテインメントだと思いませんか?』

「・・・ほんっと、アンタたちって悪趣味な連中ね。 じゃあそのがんじがらめのルールってヤツを、少しは緩めようって気はないわけ?」

『何故ですか? それではゲームのエンターテインメント性が、著しく損なわれてしまうではありませんか』

「っ・・・!・・・わかったよ、運営。 お前たちはせいぜい、そこから俺たちを見ていればいい。 ゲームの進行は、俺たちが勝手に行う!」

『はい、ご健闘を期待しております』


その笑みを含んだ声に背を向け、修平は悠奈と春菜を引き連れ、会議室を後にした。

 

・・・。

 

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「ったく、本当にムカつく連中だわ。 このゲームが終わったら、絶対にぶっ潰してやるんだから」

「でも・・・具体的には、これからどうするの?」

「それは、うーん・・・」


そう言って悠奈が、困ったように修平に視線を向けてくる。

修平は少し考えてから答えた。


「・・・運営の狙いは、あくまで俺たちを殺し合わせる事だ。 とにかく俺たちは、それを防がなければならない。 そのためにはこれまでと同じく、そのきっかけとなるであろう最初の殺人を、起こさせないことが肝心だ」

「それは今のところ問題はなさそうね。 みんな、よくまとまっているし」

「でもそれは、あと数日でゲームが終わるという安心感があるからだろう。 その前提が覆されたら、何が起こるかわからないぞ?」

「ということは、この話は私たちだけの間で、留めておいたほうがよさそうね」

「ああ。 それとみんなが起きてきたら、すぐに麦の刈り入れを提案しよう」

「え? どうして?」

「みんなで共同作業をした方が、連帯感が出るからでしょ? それに目先の作業があれば、余計なことを考えなくて済むし」

「その通りだ。 それに今の状況がいつまで続くかわからない以上、先に食料の問題は解決しておいた方がいい。 そして俺たちはその裏で・・・ここからの、脱出方法を探す」


――『脱出方法』。

それまでまともに考えてこなかった事を、修平は初めてはっきりと口にした。

その言葉に悠奈たちの表情が強張る。


「脱出方法ね・・・! 確かに、それを探せればいいけど・・・」

「でも、そんなことをしても運営に筒抜けじゃ? フィールド上に監視カメラがあるし、恐らく盗聴器なんかも設置されてると思う。 そんな中で脱出方法を探しても、運営が邪魔してくるかもしれないわよ?」

「いや、それでもだ! じゃなければ俺たちは、ここで殺し合いをさせられるハメになる。 俺はそんなこと、絶対に望まない。 なんとしても、それを探さなければならないんだ・・・!」


その決意の声に、わずかな沈黙が降りる。

だがやがて悠奈が、意を決したように言った。


「・・・オーケー、わかったわ。 春菜もそれでいいわね? 正直アンタのことは少し疑っていたけど、もうそれを止めにする。 だからアンタも・・・」

「・・・ええ、わかってる」


春菜はそう答え、それから修平を見つめた。


「ねぇ、修平」

「ん?」

「修平も、私のことを信じてくれるんだよね?」

「なに言ってるんだ、当たり前だろ? お前は俺のたった1人の妹じゃないか」

「・・・うん。 だったら私も、お兄ちゃんを裏切らない」


『お兄ちゃん』――それは修平にとって、10年ぶりに聞く言葉だった。

このゲームが終わったら、春菜が過ごした10年の出来事をちゃんと聞いてやりたい。

このゲームを皆で生き残る理由が、修平の中に、また1つ増えた。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

――そして、6度目の太陽が昇り――


――修平が麦の刈り入れを提案したのは、また12人で集まって昨日のキノコ汁を食べた、その後だった。

麦については昨日のうちに話していたこともあり、すぐに全員の同意を得ることができた。

だが、その議題も終わろうかという時――まり子が皆を呼び止めた。

 

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「ねぇ皆。 麦の刈り入れに行く前に、私からもう1つ議題があるの」

「え? なんだ、まり子さん?」

「私、昨日あの後に、真島くんと話し合ってみたんだけど・・・。 そろそろ黒河くんを、解放してあげてもいいんじゃないかと思うの」

「えっ・・・」

 

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「ま、まり子さん、それ本気ですか!? ずっと反対してたのに・・・」

「うん・・・結衣さんが前に言っていたように、危険な武器はもうここにはないし――それにみんなのお陰で、真島くんと黒河くんの間にあった問題が何だったのか、少しは理解できたと思うのよ」

「あぁ・・・俺も黒河に対する態度を、改めていくつもりだ」

「いや、でもねぇ・・・」


悠奈がそこまで言って、困ったような視線を修平に向けてくる。

黒河の解放については、修平も悠奈も、昨夜の段階では考慮していたことだが――


今はあの時と、状況が違う。


「・・・みんなは、まり子さんの提案についてどう思う?」

「あたしは、もちろん賛成です!」

 

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「うん、私も賛成だよ」

「あのね、瞳はね・・・よくわかんない」

「初音も賛成なのです。 結衣のために協力するのです」

「僕は・・・誰かがちゃんと、黒河くんを見ていてくれるなら賛成かな」

 

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「僕は変わらず反対ですが・・・でもまぁ、みんなが賛成するというなら、そこまで強く言うつもりはありません」

「前にも言ったように、私はかまいませんよ。 あんな筋肉しか取り柄のなさそうな男に、負ける気はしませんし」

「・・・じゃあ、えっと、春菜さんは? 確か前に、どっちでもかまわないって言ってたけど」

 

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「私は・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


「・・・もしかして、修ちゃんたちは反対なの?」


琴美が怪訝そうに尋ね、他のメンバーも同様の目を向けてくる。

昨日までの自分たちの言動を鑑みえれば、今の自分たちが彼らの目に奇異に映るのは当然だろう。


「藤田くん・・・?」

「・・・すまない、心配し過ぎるのは俺の悪いクセなんだ。 俺も黒河の解放に同意しよう。 悠奈と春菜も、それでいいよな?」

「え、ええ」

「まぁ、修平が言うなら・・・」


修平がそう言うと、2人は戸惑いつつも頷いた。


・・・・・・。

 

・・・。

 


そして、全員で黒河の解放に向かっていると――


悠奈と春菜がそっと近づいて来る。

 

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「・・・ねぇ修平、いま黒河を解放するのは危険すぎない?」

「私も、そう思う」

「わかってる。 だがあそこで俺たちが反対するのは、不自然だったんだ。 何かあったと勘ぐられかねない」

「確かに・・・それは、そうだけど」

「俺はタイミングを見て、改めて黒河の監禁を提案するつもりだ。 だから悠奈は、それまで黒河の抑えを頼む」

「・・・そうね。 わかったわ」


――やがて一軒の廃屋の前に辿り着き、玲が中へと入って行く。


それから程なくして、縄を解いた黒河を連れて現れた。

 

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「ほら、キリキリ歩きなさい!」

「痛っ! てめぇ、意味もなく蹴ってんじゃねーぞクソガキ!・・・ん?」


黒河は胡乱な目で、修平たちを見回した。


「なんだてめぇら、雁首そろえやがって? こりゃあどういう風の吹き回しだ?」

「・・・」

 

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「・・・あの、黒河くん」

「ああ?」

「結衣さんから少し事情を聞いてると思うけど、これから麦の刈り入れがあるの。 それで、どうしても人手が必要なのよ。 だから」

「けっ、何が麦の刈り入れだよ? 俺らは殺し合い、奪い合いの真っ最中じゃねーのかよ?」

 

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「黒河・・・」

「おぉ、なんだよ真島ぁ? 俺とやろうってのか? 来いよ、オラ? 傷はふさがったみてぇだが、その足で俺に勝てるとでも思っ――」

「頼む、俺たちに協力してくれ。 この通りだ」


真島がそう言って、頭を下げる。

それにはさすがに驚いたのか、黒河が目を見開いた。


「お・・・オイオイてめぇ、そりゃ何の冗談だ? 真島オメー、平和ボケでもしちまったんじゃねーだろうな?」


だが黒河の挑発的な言葉を受けても、真島は頭を上げなかった。


「・・・ちっ、ンだよ気持ち悪ィ」

 

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「く、黒河さん。 あの――」

「うっせぇバカ! てめぇは話しかけてくんじゃねぇ、このタコ!」

「あ、あうぅ・・・」

 

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「黒河っ! 結衣にひどいこと言うのはよくないのですっ!」

「そうだよ。 彼女はずっと、黒河くんのことを――」

「あぁ!?」

「ひっ」

「うわわっ」


黒河の恫喝を受け、初音と充が慌てて後ろに下がる。


――思ったより早く、監禁を提案するタイミングが来そうだな・・・。


修平はそう思ったが、黒河は自ら気炎を呑んで言う。


「まぁいい、とにかくまずはメシだ。 おい真島、何か食わせろや」

「・・・わかった。 お前の分は取っておいてある。 ついて来い」

「くくくっ、お前よぉマジで何があったんだよ? そっち系のキノコでも食って、おかしくなったんじゃねーだろうな?」


――ッッ


「調子に乗るんじゃありません!」

「痛っ! だから蹴んなっつってんだろーが!」


玲と真島に付き添われながら、黒河がふてぶてしい態度で、広場の方へ歩き出す。

どうやら今のところ黒河は、暴れるつもりはないらしい。


「修平、じゃあ私もついて行くわね」

「・・・ああ、頼んだ」


その言葉に頷いて、悠奈が黒河たちの後を追う。

修平たちも、遅れて移動を始めようとした――その時。

廃屋の中で、誰もが存在を忘れていた男が声を上げた。


「みんな待ってくれよ~! 俺はどうなるんだよ、俺は~! 俺も麦の刈り取り、手伝うからさ~!」

 

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「・・・そう言えば、大祐もいたんでしたっけ? 先輩、どうします?」

「そうだな・・・」


正直なところ、トラブルの種をこれ以上外へは出したくない。

だが黒河を解放してしまった今、大祐だけをそこに閉じ込めておくのは不公平だ。

 

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「修ちゃん、大祐くんも出してあげようよ」

「・・・ああ、わかってる。 春菜、頼めるか?」

「・・・いいわよ」


春菜が頷いて、すぐに大祐の縄を解きに行く。

これで悠奈は黒河を、春菜は大祐を、それぞれ監視しなければならなくなった。


――脱出方法は、俺が1人で探すしかないか・・・。


修平は次に、自分が麦の刈り取りに参加しなくて済むような理由を、考えなければならなかった。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 


――ともあれそうして、大祐を解放し、皆で麦畑に行く事になった。


悠奈はその道すがら、黒河と大祐にも各プレイヤーのクリア条件と特殊機能、そして武器を廃棄した事を教えた。

それはクリアのために他社を傷つける必要はないという事を、黒河と大祐に信じさせるためだ。

無論もはやこれは一種の詭弁に過ぎないのだが、彼らもひとまずはその説明を受け入れた。


・・・。

 

――細谷春菜の周りでは、修平を除く12人のプレイヤーが、一斉に麦の刈り取りを行っていた。


皆が口々に声を上げる。

 

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「みんなー、刈り取った麦の束は乾燥させるからこっちに置いてねー!」

「は~い! 初音は了解したのです!」

「瞳もっ、は~い!」

「ふふっ、頑張ろうね瞳」

 

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「黒河、きりきり働くのですよ!」

「おい充、てめぇこいつを何とかしやがれ!」

「な、なんで僕が・・・?」

「玲、それじゃあさぼってるのと同じだよ」

 

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「はぁ・・・」

「ほら結衣、くよくよしないの」

「まり子、ここでいいのか?」

「うん。 こっちにこんな感じで広げてほしいの」

「ああ、わかった」

 

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「・・・・・・」


その様子を見ながら、春菜は黙り込んでいた。

刈り取りと言っても刃物は全て処分してしまっているため、麦穂を手で摘んでいるような状態だ。

黒河は今のところ黙って従っているが、胸の内で何を考えているかはわからない。

だが彼のことは、悠奈に任せておけばいい。

彼女は結衣を気遣いながらも、時折黒河に鋭い視線を向けていた。

修平がこの場にいないのは、1人でフィールドからの脱出方法を探しているためだが――

表向きはキューブの取りこぼしがないか確認しながら、フィールド内を巡っていることになっている。

やや苦しい言い訳だが、今のところ修平は信頼されており、大きな疑問を感じている者はいないようだった。

と、そうして春菜が現状を静かに分析していると――

 

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「・・・・・・」


さっそく春菜の監視対象者が、みんなの目を盗んで森の中へ入って行くのが見えた。


「・・・勝手な真似はさせない」


春菜はそう呟くと、気配を消し、すぐに大祐の後を追った。


・・・。


「あー、やってらんねー。 こっちは3日間も縛られっぱなしだったっつーのに、いきなりあんな労働できるかっつーの」


大祐が独り言を呟きながら、森の中を歩く。

そこに春菜は歩み寄り、後ろから話しかけた。

 

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「・・・こんなところで、何をしているの?」

「うわっ、びっくりした! やめてくれよ、脅かすのは。 今の俺、すっげー弱ってんだからさ。 えっと、ところで君はナニちゃんだっけ?」

「・・・細谷春菜。 訳あって名字は違うけど、修平の妹よ」

「げっ、マジで~!? 修平のやつ、こんな可愛い妹がいたのかよ~!?」

「そんな話はどうでもいい。 それよりアンタ、どうしてあの場所から抜け出したの?」

「あれ? さっきの声、聞こえてたんじゃねーの? サボりだよサボり、ただのサボタージュ。 だからさー、そんな目で俺のこと睨むなよ」

「だってアンタ、信用できないもの」

「うわー、そういうこと言われたら傷ついちゃうなー。 これでも俺、縛られてる間に反省したんだぜ? 初音にも結衣にも、悪いことしたなーって。 俺ってさ、ついついその場のノリに流されちまうんだよ。 黒河たちを襲ったのだって、なんか盛り上がっちまっただけだし」

「盛り上がっただけ・・・?」


ヘラヘラ笑う大祐を、春菜は鋭く睨む。

その顔を見ていると、そこはかとない怒りが胸に湧き上がってきた。


「・・・アンタ、人としての何かが壊れてると思うわよ」

「え、そう? 黒河とかの方がぶっちぎれてんじゃね?」

「あの男の事はよく知らないけど、私にはアンタの方が壊れてるように見えるわ」

「心外だなー、まぁ自分じゃよくわかんねーけど」


大祐はそう言うが、春奈にはこのわずかな会話だけで、大祐という男の本質が見えた気がした。


彼は確かに壊れているのだ。

『倫理観』と『想像力』というものが。

だから他人の痛みも、平然と無視できる。

ただ刹那の快楽のため生きている。

ただ暴力性を全開にしているわけではなく、ある程度の社会性も持っているので、その得意性が表面化しにくいのだ。


その事に気付いた時、春菜の背に悪寒が走った。

大祐に対しての不快感も、もちろんある。

だが本当にゾッとしたのは――

春菜自身もまた、このゲームに参加し続けているうち、己の倫理観が壊れつつあった事を自覚していたからだ。


「・・・同族嫌悪ってやつかしら」

「え? なんか言った?」

「なんでもないわよ。 アンタには関係ない」

「あ、そう? まぁいいけど。 ところで春名ちゃんだっけ。 どうせなら俺と一緒に、どっかいかねぇ?」

「は? なんで私がアンタと一緒にサボるのよ」

「いやゲーム終了までヒマだし、親睦を深めようかと思ってね」

「親睦ね・・・まさかどこかに連れ込んで、私も襲うとか?」

「襲うなんて人聞き悪いな~。 さすがにもう、そんな事しねーって。 でもこうホラ? 俺と君の気が合ったらさ、その時はそういう事もありなのかな~って」

「っ・・・!」


その能天気な言葉が、春菜の堪忍袋の緒を切った。

この上なく嫌悪感を覚えている相手に、そんな事を言われたら――


「・・・面白い事を言うわね」

「な、面白いだろ?」

「でも、残念ながら――期待には添えられないわ」


春菜はそう言うや、するりと大祐の懐に飛び込んだ。

 

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「っ!」


そして指を鉤爪状に曲げ、大祐の眼の寸前にぴたりと当てる。


「なっ、なにすんだ!?」


慌てて飛び下がる大祐に、春菜は冷たく言い放った。


「わからない? これは警告よ。 その気になれば、寸止めせずに突く事もできたの。 私は眉一つ動かさず、アンタから光を奪える。 多分このゲームに参加してる14人の中で、私が一番、命のやりとりには慣れてるから」

「っ・・・!」

「悠奈に叩きのめされて、懲りてるんじゃないの? 女をあまり舐めないで。 ともかく私があんたを監視している以上、アンタに勝手なことはさせないわ」

「あ、ああ・・・わかったよ、わかりましたよ」

 

大祐が引きつった笑みを浮かべる。

脅しは成功したようだ。

それを確認し、春菜は言葉を継ぐ。


「わかればいいわ。 ところで・・・アンタに聞きたいことがあったんだけど」

「き、聞きたいこと?」

「修平の話を聞いた限りじゃ、3日前にアンタが皆に合流した時、アンタはまるでタイミングを見計らったように現れたそうね。 しかも初対面だったはずなのに、玲のことを知っているかのような素振りを見せた。 それって、どうしてだったのかしら?」

「いや、それは・・・たまたま、玲ちゃんのことを見かけたことがあってだな・・・」

「嘘ね。 私のPDAの特殊機能は『プレイヤー同士の接触情報を閲覧出来る』よ。 それを見る限り、アンタが玲に近づいたことは一度もなかったはず。 ねぇ、正直に答えた方がいいわよ? 私、次に下手な嘘をつかれたら、そのたびにアンタの指を1本ずつ折るつもりだから」

「は、はは・・・わかったよ、教えるよ。 俺は・・・モニタールームを見つけたんだよ」

「え?」

「中央管理施設の地下に、全エリアの監視カメラの映像を確認できる、モニターが並んだ部屋があったんだよ。 監視カメラだけじゃない。 そこでは首輪に仕込まれたCCDカメラの映像や、盗聴器が拾う音声も、全部傍受できるんだ。 俺は2日目から、そこで他の奴らの動きを全部確認しながら、行動してたんだよ」

「モニタールーム・・・」


それは春菜にとっても、初めて知る情報だった。

彼女はこの会場で行われるゲームに参加するのは初めてではないが、その施設の存在は知らなかった。


「・・・そんな部屋があったのね。 ちなみに、どうやってそんな部屋を見つけたの?」

「なんか床で小さいライトが点滅してて・・・でも、初日にあそこを通った時には何もなかったはずだから――。 たぶん、2度目にあの建物を調べた人間への、ボーナス的な感じじゃねーかって思ってるけど・・・。 そのライトも、すぐ消えちまったし・・・」

「そう・・・」


多くのプレイヤーにとってスタート地点となるあの場所に、2度も訪れるプレイヤーは多くないだろう。

そう考えると大祐が言うように、そのモニタールームにはボーナス的な側面がありそうだった。

ともすれば運営側が意図的に、ゲームを盛り上げるための仕掛けの1つとして、そのライトを操っている可能性さえあるだろう。


「・・・・まぁいいわ。 それよりそろそろ皆の所へ戻りなさい。 じゃないと今度は、本当に――」


春菜はそう言って、再び指を鉤爪状に曲げた。


「わ、わかったって・・・」


大祐が顔を青ざめさせながら、そう呟く。

そして麦畑へ向けて歩き出しながら、ポツリと言った。


「・・・やれやれ、怖ぇ女だね」

「・・・・・・」


――また、『怖い』と言われた。


その事にさらなる忌々しさを感じつつ、春菜は大祐と共に歩き出した。


・・・。

 

――そうして、春菜たちは、麦の刈り入れ作業に戻った。


・・・・・・。

 

・・・。

 


その間に時は流れ、日が沈む。

 

やがて独り脱出方法を探していた修平も、夜遅くに戻ってきたが――

彼から色よい返事を聞くことは、できなかった。

村の片隅で、春菜は悠奈と共に、修平と話す。

 

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「・・・すまない、今日はなんの収穫もなかった。 脱出方法の手がかりも見つからない・・・」

「そう・・・。 ま、仕方ないわよね・・・そう簡単に見つかるはずないもの」


悠奈はそう言って、修平を元気付けるように笑う。

修平はそれに応えるように、かすかに笑って答えた。


「ま、根気強くやるしかないな・・・でもなるべく早く、手がかりを見つけてみせるよ」

「そうね。 じゃあ明日も引き続き、お願いするわよ」

「わかった・・・私も大祐の見張りは、厳重にやっておくわ」


3人はそう密談し、そしてそれぞれの家に帰る。

他の人々が、事態の深刻さに気づく前に、状況を打破しなければならない。

その責任の重さを、それぞれ感じながら・・・。


・・・・・・。

 

・・・。

 


―7日目―

 

・・・。


――そしてまた一夜明け、ゲーム7日目がスタートした。

その日、プレイヤーたちは3班に分かれて行動していた。

まり子、真島、琴美、瞳は、昨日1日乾燥させた麦を、石臼で砕いて製粉作業を行っている。

それ以外のほとんどのメンバーは、一昨日と同様に山へキノコや山菜を採りに出かけ――


一方の城咲充は、ゲーム2日目からずっと行動を共にしている憧れの人と共に、川に鮎を獲りにやってきていた。


午前中は川に釣り糸を垂らしていたのだが、思ったような釣果が得られず、今は網籠を使った仕掛け漁を試している。

そして初音は充の隣で、網籠にずっと念を送り続けていた。

 

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「うぅ~、いっぱい獲れろなのです~。 いっぱい獲れたら、今夜はうどんとキノコ汁と鮎で、豪華なパーティになるのです~」

「ははっ、初音ちゃんは本当に頑張り屋さんだね」

「はいです。 だってその方が、みんな喜ぶに決まってるです」


充は改めて元気な彼女に関心しつつ、これまでの日々に思いをはせた。

ゲーム初日から3日目にかけては、恐ろしい出来事の連続で、正直生きた心地がしなかった。

だが14人のプレイヤーが廃村に集まってからの日々は、充にとって夢のようだったと言えるだろう。

もう何度、かつて自分の命を救ってくれた初音と、笑い合ったかわからない。

初音が信頼を寄せてくれる度に、充は未だかつてない生を実感することができるのだ。

それは、本当に幸せな日々――。


だが充はその胸のうちに、この幸福が長く続くことに対する、強い危惧も抱えていた。


「・・・・・・」
「・・・充、急にどうしたのですか? もしかして、お腹でも痛くなったのですか?」
「ああ、いや――別にそういうわけじゃないんだ」
「・・・?」
「ちょっとだけ、不安に思ってることがあってさ・・・」
「不安、なのですか? でももう、食料を心配する必要はなさそうですし、黒河や大祐だって、今のところは大人しくしてるですよ?」
「うん、それはそうなんだけどさ・・・」


昨日の様子を見る限り、黒河には悠奈が、大祐には春菜が、それぞれ監視についているようだった。


――たぶん、藤田くんの指示なんだろうけど・・・。


もちろん充はそれについてとやかく言うつもりはないし、あの2人の性格を考えれば、正しい判断だと思っていた。

だから、充の危惧はそこにはない。

いま充が気になっているのは、ゲームが7日目に突入したにもかかわらず、終わる気配が全くないということについてだった。

それともう1つ――修平の言っていた言葉が、脳裏をよぎる。


――『誰かが殺人を犯せば・・・クリア条件がより殺人を助長する内容に、変わる可能性があるって事さ』


それはゲーム2日目に、修平が黒河に対して言った言葉だった。

この2つの事柄から導き出される答えとは――?

もし『現状のままではゲームの最終日が訪れない』のだとすれば――!?


そこまで考えたとき、ふとすぐ傍から声がかけられた。

 

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「・・・充、さっきから本当にどうしたのですか? 具合が悪いようだったら、先にお休みしていていいのですよ?」
「え・・・」


その声にふと顔を上げれば、また初音が心配そうにこちらを見つめていた。

充はこれ以上初音を不安がらせてはいけないと、慌てて口元に笑みを浮かべる。


「大丈夫だよ、初音ちゃん。 この先なにが起こっても、絶対に君は僕が守ってみせるから」
「え・・・?」
「だから初音ちゃんは、なにも心配しなくていいんだよ」
「みつ、る・・・?」


初音はしばらくキョトンとした顔をしていたが――

それでもやがて笑顔になって、『はいです』と充の言葉に頷いた。


・・・・・・。

 

・・・。

 


――三ツ林司は、周囲に視線を巡らせながら森の奥へと向かっていた。

探してるのは、キノコや山菜ではない。

司はその目を地面には落とさず、ずっと一定の高さを保ちながら、木々の合間に、その人物の姿を探していた。

恐らくプレイヤーの中から死者が出て、次の状況に移行しない限り、このゲームに終わりは訪れない。

今の段階でゲーム終了24時間前の知らせが来ていないことから考え、司はすでにその答えに辿り着いていた。

もっともそれを確信できたのは、昨日から彼が不可解な行動を取り始めたからなのだが――

と、そのとき背後で草むらが揺れた。


「・・・司、どこに行くつもりですか?」

「っ・・・!?」


ぎくりとして足を止めて振り向くと――

そこにいたのは、墨色の少女だった。

 

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「・・・なんだ、玲か」
「『なんだ』とはなんですか? せっかく私が、後をつけて来てあげたというのに」
「いや、頼んでないし・・・。 それで、僕に何か用?」
「いえ。 昨日から私が黒河ばかりをかまっているので、そろそろ司がすねている頃かと思っただけです」
「いや、すねる意味がわからないんだけど・・・?」
「そうですか。 それは残念です。 ところで、司は食料調達をサボって何をしているのですか?」
「ああ、藤田先輩を探しているんだよ」
「修平を? まさか逢引が目的で?」
「・・・はぁ、想像力が豊かで楽しそうだね」
「むっ、違うのですか? では、何が目的だというのですか?」
「僕はただ、昨日から先輩の行動が変だから、その理由を確認しようと思っているだけだよ」
「修平の行動が変? 私は別に、そんな風には思いませんが?」
「いや、考えてもみなよ。 先輩は昨日、キューブの取り残しがないか探して来ると言って出て行ったんだよ? それも1人で」
「それのどこがおかしいのですか? 確かに我々は総出でキューブを探しましたが、取り残しがないとは言い切れないはずです」
「違う。 問題はそこじゃない。 確かにキューブの取り残しはあるかもしれない。 僕たちはかなり急いで探したからね。 でもだったら先輩は、結衣さんも一緒に連れて行くべきだったんだ。 彼女のPDAには、キューブを探す機能があるからね。 なのに、先輩はそうしなかった。 というか、それ以前にどうして今さらキューブなんか気にかけるのかがわからない。 食料問題は解決に向かっているし、武器は必要ないし、クリア条件も問題ないっていうのにさ」
「・・・確かに、そう聞くと妙な気がしますね」
「でしょ? 今日だって山に入ってから、僕らは一度も先輩の姿を見ていない」
「しかしそれは、司の考え過ぎということはありませんか?」
「かもしれない。 でも、そうじゃないかもしれない」
「なるほど、司は怖がりなのですね」
「まぁね。 その意見を否定するつもりはないよ」


事実として司はだいぶ前から、不足の事態に備えて『保険』をかけてあるのだ。

それが怖がりの表れだと言われれば、恐らくそうだろう。


「・・・司、今なにかやましいことを考えていませんか?」
「えーと、どうしてそう思うの?」
「何となくです」
「だったら玲こそ、考え過ぎなんじゃないのかな?」
「・・・だと、いいのですが」

そう言って玲が、じっと顔を見つめてくる。

だから司は己の思考を、ひとまず胸の奥へ沈めることにした。

その時が来たら、自分はどう動くのか――?

司はどういうわけか、それをまだ、決めることができずにいた。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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――そして司が探していた『彼』――


即ち藤田修平は、昨日から今日にかけて、様々な事を試していた。


村から遠く離れた、ゲームフィールド外縁部の森の中で、修平は独り呟く。



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「よし、もう1度・・・」


彼は自分の首輪に指をかけ、強く引っ張った。

するとややあって、PDAがけたたましい警報を鳴らし始める。


【首輪に衝撃が加えられています。 直ちに首輪から手を離して下さい。 警告を無視し続けた場合、首輪を爆破します】


「っと・・・!」


修平は慌てて、首輪を引っ張っていた指の力を緩めた。

するとPDAの警報も、すぐに止む。

彼は首輪をさすりながら、内心で思った。


――なるほど、どうやらこれは自動的に発せられる警報らしいな・・・。


修平は『首輪の爆破』というのが、どういう仕組みによって行われるのか、探ろうとしていたのだ。

『警告を無視し続けた場合、首輪を爆破します』――『します』という言葉には、どういう意味が隠されているのだろう。

警告そのものは自動的なものだが、首輪の爆破は『任意に』行われるという事だろうか。

だがそれは推察に過ぎない。

そう思いつつ修平は、今度はエリア外に向けてそっと歩き出す。

そしてエリアから出ようとした時、またしてもPDAが警報を鳴らした。


【この先はエリア外です。 ただちに引き返して下さい】


「っ・・・」


修平はそれを聞き、後ずさった。

するとまた警報が止まる。

恐らくこの首輪には、プレイヤーの位置を信号化し、運営側に送るGPSのような物が仕込まれているのだろう。

それによってエリア外に出ようとするプレイヤーを発見し、警告を送ってくるらしい。

その事を確認し、わかった事を頭の中でまとめた。


――まずこの首輪に負荷がかかると、首輪は警告を発する。

それでも負荷をかけ続けると、首輪は爆破するらしい。

そしてエリア外に出ようとした時も同様、首輪は警告を発する。

それを無視してエリア外に出ると首輪は爆発する。

だがそれらの事実についてよく考えると、ある疑問が浮かび上がってくる。

首輪が爆破される時は、運営はどうやって首輪を爆破するのだろうか?

首輪を爆破するための信号電波を送ってきて、それにより首輪を爆破するのではないだろうか・・・?

そう考えると色々と、辻褄が合う点があるのだ。

たとえば琴美のクリア条件の事だ。

彼女のクリア条件は、『自分を中心とした5つ並びのナンバーの他プレイヤーに危害を加えない』。

つまりナンバー4・5・7・8のプレイヤーを傷つけてしまったら、琴美の首輪は爆破される。

しかしその判定は、どうやって行うのだろうか?

『琴美が誰かを傷つけたか否か』を機械的に判定する方法は恐らくない。

運営が監視カメラの映像か何かを確認し、手動でその判定を行うとしか考えられないのだ。

――間違いない。


警報は自動的なものだが、首輪の爆破そのものは十中八九『手動』で行われる。


――恐らく運営がゲームの状況を見ながら、必要とあれば電波信号を送ってきて、ルール違反をした者の首輪を爆破するんだ・・・!


修平はそこに、隙があるような気がした。

首輪の解体は、危険すぎてできない。

だがもしも首輪を爆破するための信号電波を遮断する事ができれば、エリア外に出ても死なずに済むかもしれない。

むろん、全ては推察に過ぎないが――


「・・・それでも、やるしかないんじゃないか?」


そうしなければ運営は、いつでもこっちの首輪を爆破できるのだ。

だがそもそも可能性として、運営がプレイヤーの首輪を、任意に爆破することはあるのだろうか。

修平がこれ以上、ルールの抜け道を探すような事を繰り返した場合――

それが運営の目に留まったら、いきなり首輪を爆破されたりはしないのだろうか。

それを確認するまでは、どんな博打も打てない。


「・・・先にその事を、運営に確認してみるか」


あの運営の男と話すのは不快だし、危険なような気もしたが、これは純然たる『ルールに関する質問』だ。


ならば臆する事はない。

修平はそう思い、もう1度中央管理施設に向かった。


だがそこに足を踏み入れた時、薄闇の中に、人影が見えた。


「ッ・・・春菜か」


そこにいたのは春菜だった。

修平は意外に思いつつ、彼女に尋ねる。

 

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「お前も運営に、何か質問に来たのか?」
「そうね・・・運営の思惑を探りに来たの。 いつまでこんな不自然な状況を続けるつもりなのか」
「わかった、それじゃちょっと一緒に行ってみよう」
「待って。 その前に」
「え?」
「修平が何を話すつもりか知らないけど、あまり運営を刺激しない方がいいわ。 私たちの命は、運営に握られている。 それを忘れないように」
「・・・わかった。 肝に銘じておこう」


修平はそう言って、会議室の扉を開いた。

昨日も訪れた会議室は、当然のように何も変わりはない。

天井近くのスピーカーに、修平は呼びかける。



「・・・聞こえるか、運営」

 


だが、返事はなかった。

訝しく思いつつ、修平はもう一度尋ねる。


「聞こえないのか? それとももう俺たちの呼びかけには、答えないつもりか?」


するとややあって、ようやくスピーカーから声が聞こえてきた。


『――あぁ、失礼しました。 少しまどろんでいたもので』


どうやら運営の男も、機械か何かではないらしい。

修平は鼻を鳴らして続ける。


「・・・そりゃ眠くもなるだろうさ。 見てる側も退屈だろうしな、今回のゲームは」

『そうでもありませんよ』

「本当か? こんなゲーム、俺が客ならとうに飽きてる。 なぁ、いつまで続けるつもりなんだ? こんな泥仕合を」

『いずれ然るべき時に。 終了24時間前に通知します』


前回と同じ、通り一遍の答えだった。

修平は再び鼻を鳴らし、それから本題に入る。


「まぁそれはいい。 それより何度もすまないが、ルールに関する質問をしたい」

『はい、どうぞ』

「6つのルールに明文化されているルールに抵触した場合、俺たちの首輪は爆破されるんだよな。 だがそれ以外の状況で、運営側が俺たちの首輪を、任意に爆破するような事はあり得るのか?」

『我々が『殺したい』と思ったプレイヤーを、能動的に首輪を爆破して殺害する事はあり得るかという事ですか?』

「そうだ」

『いえ、それはよほどの事がない限り、あり得ません。 首輪の爆破は最初にご説明した通り、あくまで基本的には――"プレイヤーがルール違反を犯した場合"、"首輪を爆破する特殊機能を使われた場合"、"クリアが不可能になった場合"。 この3つの状況に限られます。 なのでご安心ください』

「そうか・・・」


修平はその答えに安堵する一方、懐疑を抱いていた。

男は修平に、何かのヒントを与えているような感じにも聞こえたし、修平たちが右往左往するさまを楽しんでいるようにも聞こえた。

だが『よほどの事があれば』爆破するらしい。

という事は、やはり修平が察したとおり、運営は首輪の遠隔爆破が可能なのだ。


それを脇で聞いていた春菜が、ふぅと息をついて答える。

 

 

「・・・という事は、運営が任意に誰かを殺し、強制的に状況を動かすという事はないみたいね。 でもそれじゃ、きっとこのゲームは途方もなく長引くわよ。 もう今回のゲームは止めて、リセットしてしまった方がいいんじゃない?」

『お気遣いありがとうございます。 しかし心配せずとも、停滞しているように見えたこのゲームも、そのうち盛り上がるはずですよ』

「なぜ?」

『どのような過程を辿ろうと、最後にはそうなるように、我々が"設定"しましたから』


その言葉を聞いた修平は、眉をひそめる。


「まるで未来を見通しているかのような言い草だな」

『はい』


修平の問いに、運営は事も無げに答えた。

ぽかんとする修平たちに、運営の男が続ける。


『あなたたちの行動など、しょせん我々の掌の上の出来事です。 あなたたちは我々の与えたルールから、外れる事はできませんからね』

「バカ言うな。 俺たちは決められたルールの中でも、自分の意思で行動している。 お前たちは自分の思い通りにプレイヤーが動いてくれなかった事を認められず、ムキになっているだけじゃないのか?」

『自分の意思で行動を決めた? どうやらあなたは、世の中というものをよくご存知ないようですね・・・』


その言葉にわずかに、恐いものが混じった。

はっとする修平に、運営の男が続ける。


『・・・人間の行動原理というものは、自らの力では、そう変えられません。 変えられるのはむしろ他人。 己より大きな力を持つ者ですよ。 たとえば我々のようにね。 人は自分の預かり知らぬ所で、己を縛るルールを与えられ、それに従って生きている。 それがこの世の本当の姿です。 実際、あなたたちに与えられたクリア条件は、あなたたちの行動原理を大いに左右したでしょう? 与えられたクリア条件次第で、あなたたちの行動原理もあっさりと変わるはずです。 たとえばあなたに与えられたクリア条件が、今と違っていたら、今と同じように行動できたでしょうか。 想像してみて下さい。 仮にあなたのクリア条件が、プレイヤーナンバーJの殺害だったとしたら・・・?』

「ッ・・・」


そこで修平もようやく、運営の男の言っている意味がわかった。

もし修平に与えられたクリア条件が、『プレイヤーナンバーJ=悠奈の殺害』だったなら、悠奈と一緒には行動してなかっただろう。

そうでなくとも修平は、悠奈に対して心を開くまで、ずいぶん時間がかかったのだ。

まして修平の殺害対象が悠奈だったとしたら、彼女と今の関係を構築できたとは、到底思えない。

そう思って黙りこむ修平に、運営の男は続ける。


『・・・あなたの言っている"自分の意思"とやらは、その程度のものです。 自らの考えで行動を決めたなど、おこがましい。 あなたたちはあくまで我々の見世物だという事を、どうかお忘れなきよう』


運営の男の言葉が、じわじわと迫ってくる。

今まで無視していた閉塞感が、修平を包み込んだ。


「・・・だが見世物にも意地がある。 お前たちの思惑を跳ね除ける事だってできる。 その結果がこの、『ゲーム開始から7日目にしてまだ誰も死んでいない』という現状だろう」

『ふっ、お忘れですか? このゲームの序盤、プレイヤーナンバーJがあなたと共に行動したのも、私が与えた条件によるものだったという事を』

「あっ・・・!」


考えてみれば、そうだった。

悠奈はこのゲームの開始時、なぜか運営に命じられ、自分と24時間行動を共にしたのだった。

あの時はさほど深く考えていなかったが、なぜ運営はそんな事を命じたのだろうか。

結果として修平と悠奈が協力し、全プレイヤーの確保に繋がったが――それさえも運営の望み通りだったのだろうか?

不意に焦燥感が湧き上がってくる。

もしかしたら最悪のシナリオが進行しつつあるのではないか?


「・・・おい、お前の狙いはなんだ?」


そう尋ねると、運営の男は取り澄ました声で答える。


『ゲームを盛り上げること。 それが私の行動原理です』

「じゃあこのゲームの現状も、初めからお前が望んでいた事だったのか?」

『それにはお答えできません』

「なぜだ!? お前には、本当の狙いが何かあるんじゃないのか!?」

『お答えできません』

「だったら――」


そう言いかけた時、春菜が修平の袖を引いた。


「落ち着いて、修平。 忘れたの? さっき私が言った事を。 これ以上躍起になっては駄目」

「っ・・・」

 

確かに彼女の言う通りだった。

そもそも自分たち命は、運営側の胸先三寸。

怒らせたら危険なのは間違いない。

奥歯を噛む修平に、運営の男が続ける。


『――質問は以上でしょうか。 ではそろそろお引取り下さい』


有無を言わさない口調だった。

修平は半ば悔し紛れに、言い返す。


「・・・あぁ、これ以上話しても無駄そうだしな。 だが覚えておけよ。 お前たちが与えるクリア条件がどうあれ、行動原理が変わらない奴もいるんだ」

『あなたですか?』

「いいや、違う。 悠奈だよ。 あいつの意志がいずれ、お前らが与える小ざかしい行動原理とやらを破壊する・・・そんな気がしないか?」

『そういう展開も、盛り上がるかもしれませんね』


運営の男は動じなかった。

春菜がいさめるように、修平の背を叩く。


「・・・もう行こう、修平」

「・・・あぁ」


修平たちがそう話し、会議室を出て行こうとした時。

その背に、声がかけられた。


『・・・そうそう。 せっかくですから1つだけ、私が考えている、ゲームを盛り上げるための方法をお教えしましょう』

「何?」

『プレイヤーナンバー8、黒河正規。 彼が今後、面白い動きをしてくれるのではないかと思うのですよ』

「っ・・・!」


それは修平も懸念していた事だった。

ゲームが動くとしたら、黒河が暴走する時ではないかと――。


「・・・肝に銘じておくよ」


修平はそう言って、春菜と共に会議室を出た。


・・・。

 

廊下を歩きながら、大きく息をつく。

そして傍らを歩く春菜に尋ねた。



「・・・春菜、どう思う? さっきの話」
「運営に言われるまでもない事ね。 黒河に警戒しましょう。 ここまで来て、ゲームを『面白く』するわけにはいかないもの」
「そうだな・・・」


修平はそう言って、夜空を見上げる。

7日目の夜は、まだ静かだ。

だが近々この闇が、血に染まる。

修平にはそんな予感が、うっすらとし始めていた・・・。


・・・・・・。

 

・・・。

 

――上野まり子は、ここまで全てが上手くいっていると思っていた。


全プレイヤーのクリア達成の目処も立ち、危険な武器はフィールド外に破棄され、食料の心配も当分しなくていい。

まだ2名ほどメンバーに馴染めていない者もいるが、今は大きなトラブルもなく、あとはゲーム最終日を待つだけだと思っていた。

だが、麦の製粉が上手くいった記念にと、材料が少ないながら豪勢な食事が用意された夕食の時――

平穏そのものだったまり子の心は、1人の男が口にした言葉を聞いた瞬間に、いとも容易くかき乱されていた。

 

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「――なぁオメーらよ、このゲームはいつ終わると思ってんだ?」


そう言う黒河に、まり子は虚ろな目を向ける。

 

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「え・・・? いつ終わるのかって・・・」

「だから、このゲームは本当にこのまま終わるのかって聞いてんだよ? まさかてめぇ、冬までこんな辛気臭ぇところで原始人の真似事してるつもりか? めでてー女だな、オイ」


その言葉に皆が、はっと息を呑む。

 

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「・・・そう言えば、修平が言っていた2、3日っていうのは、今日でもう終わりなのです」

「・・・・・・」

 

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「・・・・・・」

「・・・確かに、このゲームはいつになったら終わるのでしょうね?」

「そう、ですね・・・」

 

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「藤田は、この状況をどう思ってるんだ?」

「どうって・・・それは・・・」

「・・・・・・」


口ごもる修平に、まり子だけじゃなく全員が黙り込んだ。

ゲーム終了日までみんなが争わないように、ここまで牽引してくれたのは、紛れもない修平だったのだ。

 

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「お母さん・・・おうどん、のびちゃうよ?」

「うん、瞳は先に食べてていいよ」

「でも・・・みんなと一緒の方が、きっとおいしいと思うし・・・」


この場の雰囲気を何とかしようとしているのか、瞳がそう言って、全員の顔を見回す。

と、その時――メンバーの中で、最も空気を読まない男が声を上げた。



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「つーかさー、もしかしてこのゲームって、このまんまじゃ永遠に終わんねーんじゃねーの?」


その言葉に修平と悠奈と春菜が、ぴくりと身を震わせる。

まり子は眉根を寄せ、大祐に問いを返した。


「・・・伊藤くん、それはどういうこと?」

「ああ? わかんねーのかよ? まり子だって見たはずだろ? 説明会場の隣に、死体がごちゃっとあるのをさ。 つまりこのゲームを主催している連中は、プレイヤーの殺し合いをご所望してるわけよ。 なのに俺たちは、まだこうして全員生きている。 つーわけで――」

 

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「やめろ、大祐。 それ以上、口にするな」

「あ・・・?」

「・・・藤田先輩、ここまで言われてしまっては、もう遅いんじゃありませんか?」

「っ・・・!」


司の問いかけに、修平の顔が大きく強張る。

それが、決定打だった。


「も、もしかして・・・誰かが死なない限り、このゲームは終わらないということ、なのですか・・・?」

「う・・・嘘、ですよね・・・?」

「本当、なの・・・? 藤田くん・・・?」

「っ・・・」


「修ちゃん・・・私たちに、本当のことを教えてよ」

「・・・わかった」


修平は観念したように、息をついてから言った。


「・・・俺は昨日と今日、説明会があったあの場所で、運営の男と話をしてみたんだ。 向こうもはっきりと明言したわけじゃないが・・・今の状態を保っていても、恐らくこのゲームは終わらない」

「つまり、伊藤の言葉は正しいということなのか?」

「・・・ああ」

「けっ、んなこったろーと思ったぜ。 だったらさっさと、1人ぶっ殺した方が早ぇーんじゃねーのか?」


黒河がそう言って、その場にいる全員をギロリと睨む。

そしてその視線が、まり子の隣にいる真島に止まりかけた時――

 

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「待ちなさい黒河。 アンタ、それがどういう事態を引き起こすか、ちゃんとわかってるんでしょうね?」

「確か『クリア条件がより殺人を助長する内容に、変わる可能性がある』・・・とか、言ってたっけか?」

「そうだ。 だから、馬鹿なことを考えるのはやめてくれ」

「でもよ~、そうしないとこのゲームは終わんねーんだろ? 一生ここで暮らすなんて、俺は嫌だぜ?」

「黙りなさい。 じゃないとその口を縫い付けるわよ」

「うわぁ~、相変わらず怖いネェちゃんだこと」

「このっ・・・!」

「春菜、落ち着いて」


「・・・それで先輩は、何か対策は考えているんですか? 昨日からずっと、1人で行動していたようですけど?」

「ああ・・・俺はずっと、このフィールドからの脱出方法を探していたんだ」


その言葉に皆が、目を見開いた。


「脱出方法だァ!?」

「っておいおい、そんな真似したら首輪を爆破されちまうんじゃねーのか? 確か基本ルールに、『プレイヤーは制限されたフィールドから外へ出てはならない』ってのがあったはずだぜ?」

「・・・それは、わかっている。 だから俺は、まず先に首輪を何とかしようと思っている」

「まぁ、それ以外に方法はないでしょうね。 でもこの会話って、たぶん運営の人にも聞かれていますね? この首輪に、盗聴器が仕掛けられていないわけないですし」

「・・・おそらくな」

「じゃあ、ここで運営の反感を買うような真似をすれば、運営に首輪を爆破されてしまうのではありませんか?」

「いや・・・運営の男は、俺たちが基本ルールを犯さない限り、首輪を爆破させることはないと言っていた」

「はぁ? そんな口約束、信用しろっていうのかよ? 俺らをいきなり拉致するような連中だぜ? 仮にそれが本当だったとしてもよぉ、じゃあ具体的に首輪をどうするつもりだよ? 解体するのはたぶん無理だぜ? これ、経験者としての意見だからな?」

「っ・・・」


修平が押し黙り、大祐が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。


だがまり子は成す術もなく、それをみているしかなかった。

このままでは大祐と黒河、それに司も、ゲームを終わらせるために動き出してしまうかもしれない。

そうなれば、運営が仕組んでいるというルールに従い、14人全員で殺し合いをすることになるだろう。


――そんなの、許せない・・・!


――私たちは、ちゃんと運営のルールに則って、ここまで来たっていうのに・・・!


――でも・・・いったい、どうすれば・・・!?

 

――ッッ


そこまで考えた時、天啓のように、まり子の脳裏にある記憶が蘇った。

 

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「あっ・・・!」

「ん? どうしたまり子?」


真島が不思議そうに尋ねてきたが、まり子はそれに答えるのも忘れて、必死に記憶の糸を手繰り寄せた。


そう。


あれは、ゲーム2日目――。


真島が黒河に足を撃たれる直前に、まり子は『エリア外への脱出の道』と読み取れる文章を、目にしたことがあったのだ。

そしてあの時のメモ帳を、まり子はほとんど無意識のうちに、上着のポケットの中へ入れていたのだ――!


「みんな、ちょっとコレを見て!」


まり子は全員に向かって叫び、その古びたメモ帳をポケットから取り出した。


「それは?」

「以前このゲームに参加していたプレイヤーの、遺留品から見つかったものよ。 その人も、脱出の方法を探っていたみたいなの。 皆、ここを見て。 この文章の意味わかる人いる?」


まり子の言葉に従って、その場にいる黒河を除く全員が、そのメモ帳を見るために頭を寄せる。

PDAの明かりでそれを照らすと、そこにはこんな文章が記されていた。

==============================

〈エ…ア外への脱出の道―…―
―輪の爆破は、
運営の…――…る電波によって…―れる。
…―く電…の種類は、矩形短…―
…常の素材―…この電波を遮―…―――…―…―
…波吸―……―る必要がある。

〈電……収体―
…要なもの:鉛…―ルミ――…鉄…―ッドパネル
…銅:十円玉?
―…の四つの素材を、鋳―…―…る。
グリッ―…ネルは手製―…―――…可能になる。

===========================


文字はかすれていて、ところどころ読めなかった。

すると修平が、眉を顰めて言う。

 

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「俺には、わからない・・・誰かわかる人はいるか?」

「いや、僕にもわかりませんね。 藤堂先輩は?」

「・・・わからないわね」

「私も・・・」

「十円玉とかアルミホイルとか、どう脱出に繋がるんだろう・・・」

 

 

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「・・・?」


せっかく役に立ちそうな物があったのに、無意味だというのだろうか?

まり子の思考が、ネガティブな方向へと落ちかけた――その時。

 

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「あ、ひょっとして・・・このメモを書いた人は、『電波吸収体』を作ろうとしてたんじゃないかな?」


充がふと気づいたかのように、そう呟いた。


「え!? わかるの、城咲くん!?」

「うん。 たぶん、間違いないと思う」

「充、電波吸収体っていうのはなんだ?」

「その名の通り、電波を吸収する素材だよ」


充はそう言って、メモ帳を指差す。


「ほら、メモのこの部分。 『―輪の爆破は、運営の…――…る電波によって…―れる』って書いてあるだろ。 これはきっと、運営が首輪を爆破する時に、爆破用の信号電波を送っているって意味だと思うんだ。 つまりその電波を遮れば、首輪が爆破されることははい。 だからこのプレイヤーさんはそう思って、この場で電波吸収体を作って、脱出しようと思ってたんじゃないかな?」


「なるほど・・・その発想はありませんでした。 しかしなぜこれだけの文面で、そう思ったんですか?」

「メモの中にある『鉛』『アルミ』『銅』。 これは全部、電波吸収体の材料なんだ。 それからここに書いてある『グリッ―…ネル』っていうのは、正確には『グリッドパネル』。 網目状の鉄のことさ。 それにほら、ここに『電……収体』って文字があるでしょ。 だから、電波吸収体で間違いないと思うよ」


「す、凄いのです充! まるで名探偵みたいなのです!」


すらすらと説明する充に、初音も皆も感嘆の声を上げた。


「ああ、大したもんだ。 でもどうしてそんなに詳しいんだ?」

「いやぁ・・・僕の家、小さな町工場なんだよ。 以前、電波吸収体の発注を受けた事があってね、それを手伝ったことがあったんだ。 電波吸収体の仕組みは簡単だよ。 グリッドパネルに、複数の金属でコーティングすればいい」

「ちょっと待って下さい。 金属でコーティングって言いましたけど、それはどうやってやるんですか? 金属の融点は、鉛以外は1000度以上。 焚き火ぐらいじゃ融けたりしないはずですが」

「いや、金属を融かす以外にもコーティングの方法はある。 電極と、酸と、そしてコーティング用の元となる金属があれば『電気メッキ』ができるんだ」

「めっき?」

「それって金メッキとか、そういうメッキのこと?」


次々と意外な言葉が、充の口から出てくる。

彼はそれについても説明してくれた。


「そう。 金属とかの表面に、別の金属で表面処理した物のことや、その処理方法を『メッキ』って言うのさ。 細かい原理は省いて説明するけど、簡単に言うと酸で腐食させた金属を、電気を使って別の金属に付着させる方法なんだ。 電極はPDAのバッテリーがあるし、酸は診療所とかにあればいいんだけど・・・あとはさっきも言ったけど、重金属だね。 メッキ処理をするグリッドパネルは、たぶん首輪を上から覆うことになるだろうから、やわらかい金属の網がいいんだけど」

「それなら、麦の製粉に使ったフルイの網が使えるかも」

「・・・ってことは、試してみる価値はありそうだな!」

「うん。 私も力いっぱいサポートするよ」

「瞳も、瞳も」

「はい! あたしもお手伝いします!」

「初音も頑張れるのです! ねっ、充!」

「ああ。 僕だって、このまま運営の思惑通りに、みんなと殺し合いなんかしたくない。 だから、全力で協力するよ」

「私も、難しいことは全く理解できませんでしたが、言ってもらえれば何でもします。 ちなみに、司はどうするのですか?」

「まぁ、これだけ話している時点で運営が何もしてこないところを見ると、今のところは協力しても問題なさそうかな」

「大祐は、どうするの・・・?」

「いや、あははは・・・嫌だなー、春菜ちゃんってば。 みんながこれだけまとまってるのに、俺だけ反対するわけねーだろう?」

「ったく、調子がいいんだから・・・。 それじゃ、運営が何考えてるのかはひとまず置いといて、やるだけやってみるってことで。 充、いい情報をありがとう。 あんたの知識がなきゃ、このメモも無駄になってたわ」

「いや、そんな・・・たまたま知ってただけだよ」

「謙遜しないの。 それとまり子、よくこのメモのことを思い出してくれたわ。 本当に、お手柄だったわね」


その言葉をきっかけに、皆がまり子へと明るい眼差しを向けてくる。

自分も少しは成長することができたのだろうか?

皆と絆を結ぶ事ができたのだろうか・・・。


まり子がついそんなことを考えた時、真島がその心情を見抜いたかのように微笑みかけてくる。

 

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「まり子、良かったな」

「・・・うん、ありがとう」

 

だが、ゲームは終わっていない。

まり子は気を引き締めながら、みんなの顔を見回した。

――運営が仕組んだルールなんて、絶対に負けたくない!


そんな想いが、沸々と胸にわいてくる。


「さてと、あと返事をしてないのは黒河だけ――って、あれ? アイツ、どこに行ったの?」

「えっ!?」


慌てて黒河がいた方へ目を向けると、ついさっきまでそこにいたはずの、大きな体が消えている。

と、その直後――結衣が森の方を指差し、声を上げた。


「あっ、黒河さん! 皆さん、あそこです!」

 

見ると黒河が、すでに森の際に立っている。

 

 

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「ちっ、気付きやがったか・・・」

 

「待ってくださいよ、黒河さん!? どこに行くつもりなんですか!?」

「・・・けっ、てめぇらみたいな甘い連中に、いつまでも付き合ってられるかよ。 このゲームは、運営のクソどもに完全に支配された場所なんだぜ!? んな中で、ジタバタあがいてどーするよ!? ヒューマニズムで力に対抗できるっつーんならなァ、そもそも今の世の中は、こんな風になってねぇっつーんだよ! 連中のやり方が気に入らねぇっつーならよォ、このゲームで何がなんでも生き残って――その上で、連中が持っている以上の力を手に入れて、思い切りぶっ潰してやるしかねぇーんだよ!」


そう言って黒河が踵を返し、森の中へと分け入って行く。


「待って下さいよ、黒河さん!? どうしてそっちに行っちゃうんですか!? あたしたちは、敵じゃないはずなのに――世の中だって敵ばっかりじゃないはずなのに、どうしてすぐそうやって敵ばっかり作ろうとするんですか!? そんなの変ですよ、黒河さん! ねぇ、待って下さいってば!」


だが黒河は、結衣の言葉に微塵も反応することなく、暗闇の中へと姿を消した。

後には、結衣のすすり泣く声だけが残る。


「あーあ、ありゃ死亡フラグってやつだね。 アイツ明日になったら死んでるぜ?」

「バカな事言ってんじゃないの!」

「くそ、それにしても・・・どうして黒河の奴、あんなにも頑ななんだ・・・?」


それはまり子にも、そして他の誰にも、答えることのできない問いだった。


・・・。