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リベリオンズ -Secret Game 2nd stage-【27】


・・・。


――『世の中だって敵ばっかりじゃないはずなのに、どうしてすぐそうやって敵ばっかり作ろうとするんですか』――


その声を無視し、黒河正規は独り、森の中を歩いていた。


「ちっ、バカ女が・・・」


内心には苛立ちが募っていた。

結衣の真っ直ぐな問いが、黒河の苛立ちを誘っていた。


「・・・別に好き好んで、敵ばっか作ろうとしてんじゃねぇ。 世の中はハナから、敵ばかりだっつーんだよ」


それを知らないから、あの馬鹿は能天気な事を言っていられるのだ。

黒河はそう思っていた。

そうしてあてどなく歩いているうち、やがて湿った空気が頬に触れた。

どうやら雨雲が近づいているらしい。


そう思った直後、パラパラと雨粒が落ちてきた。

 

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「クソが、また雨かよ・・・」


黒河は雨が嫌いだった。

忘れたい記憶を、思い出してしまうから。


「そういえばあの日も雨だったな・・・」


そう呟く彼の脳裏に、遠い日の情景がよぎる。

それは彼が、親に捨てられた日の記憶だった。


――黒河には初めから、父親がいなかった。

彼の母親はキャバクラで働き、女手ひとつで彼を育てていた。

だが息子の目にも、母親は美人だった。

贔屓の客も多かったようだ。

そんな母親には、息子というコブが邪魔だったのだろう。

黒河自身は母親とは、仲がいいと思っていたのだが――

彼が11歳になったある日、学校から帰ると、母親は消えていた。

『ごめんね』と書かれた書置きと、万札を2枚だけ置いて。

黒河はその2万円で、2カ月過ごした。

母親と共に住んでいたアパートの部屋で、母親の帰りを待った。

だが3ヵ月目に、学校の教師に気付かれた。

そしてよくわからないうちに、彼は施設に放り込まれた。

施設は馴染めなかった。

黒河はあのアパートにいたかった。

母親が帰ってくるかもしれないから。

何度も施設を脱走しては、空き部屋のままになってる自分たちの部屋に行った。

母親の勤務先のキャバクラにも。

やがて母親の元同僚に声をかけられた。

黒服あがりの胡散臭い男だったが、その男は黒河に言った。

『施設が馴染めないなら、俺の下で働かねーか?』と。

さっさと施設を出て、自分の力で金を稼いで、あのアパートの部屋を狩り直したかったのだ。

彼はその男の下で、安い金で運び屋の仕事をやった。

何を運でたのかは黒河も知らないが、一応稼ぎになった。

そしてようやくまとまった金を手に入れて、あのアパートに行くと――

それはもう、取り壊されていた。

にわかに降り始めた雨の中、彼は呆然と佇んでいた・・・。


「・・・ちっ、くだらねぇ事、思い出してんじゃねぇ」


そう言いながらも黒河の胸に、次々と不愉快な記憶がよぎる。


――取り壊されたアパートを見た時は、しばらくショックだった。

だがそれで吹っ切れた。

母親の事は忘れる事にした。

施設に戻る気はもうなかったので、彼はツテを辿って部屋を借り、そこで一人暮らしを始めた。

それからは運び屋以外の仕事にも手を出した。

生きるためにはなんでもやった。

自分の力で生きてくのは、悪い気分ではなかった。

周りの連中にはそれなりに一目置かれ、自負のようなものもできた。

真島に出会ったのは、その頃だ。

確かその日も雨が降っていた。

そうして真島に叩きのめされた時、彼の中にあった芯が揺らいだ。

こんな世の中でも、彼は自分の力だけで生きてきた。

だからこそ誰にも負けるわけにはいかなかったのだ。


「・・・敵だよ、どいつもこいつも。 油断すりゃ騙され、打ちのめされるだけだ」


結衣はその事を知らない。

あんな女に自分の考えを、どうこう言われたくない。

そんな事を考えるうち、体が冷えてきた。

どこか雨宿りする所はないだろうか。

廃村には戻りたくはない。

彼がそう思った時、行く手に山小屋が見えてきた。


・・・。

 

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「・・・ここでいいか」


黒河はそう言って、その小屋に入った。

誰からも離れて、たった1人で。

そこで何が待ち受けているかも知らずに・・・。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 


―8日目―


――黒河が廃村から姿を消した翌朝。

もう雨はやんでいた。

彼の居場所を突き止めたのは、春菜と大祐だった。

黒河は7エリアにある山小屋にこもったきり、外に出ようとしていないという。

その状況を知った皆から、黒河を拘束する意見も出たが、結衣の強い反発を受け――

結局、結衣と悠奈が黒河の動向をチェックし続けることを条件に、黒河の拘束はひとまず見送る流れとなっていた。


――そして今、藤田修平たちは診療所を電波吸収体を作る拠点とし、その場所にフィールド内の各地から、材料を集めていた。

 

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「充、釣り糸についてるこの重りは使えるかな?」

「・・・うん。 これは鉛だからちょうどいいね」

「建物に使われている釘を抜いてきた。 これは鉄だろう」

「食料が入っていた一斗缶って、何かに使えるわよね?」

「ありがとう、2人とも。 釘はこっちに置いといて、一斗缶は薬品を入れる容器にするよ」

 

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「フルイについてた網をはがしておいたよ」

「瞳も、瞳も」

「全部で5つか・・・重ね合わせて強力にしなきゃいけないから、網はもっと必要かな」

「わかった、それは私たちが探してみる。 行くわよ、大祐」

「おう、任せとけ。 網ぐらい、すっげーたくさん見つけてきてやるよ」

「はぁ、全く調子の良い・・・」

 

 

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「それより充、古い体温計を見つけました。 水銀が使われてるみたいですけど・・・」

「水銀か。 うん、それもこっちに置いといて」

「城咲先輩。 薬品棚を調べてみましたけど、金属を腐食させるのに使えそうな薬品はないですね」

「そうか・・・」

「確か農具が保管してあるあの小屋に、農薬用の薬品がいくつか置いてあったはずだけど、それは流用できないのか?」

「あっ・・・農薬なら、酸性のものもアルカリ性のものもあるはずですから、それならきっといけますよ」

「よし、すぐ取りに行こう」

「ええ、ご一緒します」


そうして頷き合い、修平と司が診療所の外に出ると――


第7エリアにいたはずの結衣と悠奈が、慌てふためいた様子で駆けて来た。



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「――修平く~んっ!!」

「どうした、2人とも。 黒河に何かあったのか?」

「それが、何か様子が変なのよ!」

 

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「変って、具体的にはどういう風に?」


すると結衣の声を聞きつけて、診療所の中から他のメンバーも現れる。



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「黒河さんがどうかしたの?」

「げっ、まさか武器でも手に入れたとかかよ!?」

「えっ! それじゃあ、初音たちを襲いに来るですか!?」

「・・・大祐、適当なことを言わないで」

「いや、だってよぉ」

「とにかく、話を聞きましょう。 ねぇ結衣さんに悠奈さん、『様子が変』って聞こえたけど、どういうことなの?」

 

「それが、あたしたちがちょっと小屋から目を離した隙に、黒河さんの姿が見えなくなって――。 それで慌てて探したんですけど、どこにもいなくって」



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「・・・ということは、黒河はいま行方不明なのか?」

「違うのよ。 気付いたら、また山小屋の中に戻っていたの」

「しかも、なんか暗い感じの表情になっていて・・・それから急に山小屋を出て、こっちに向かって歩き出したんです」

 


「つまり今、ここに来ようとしてるのか?」

「うん・・・大事をとって、先回りして戻ってきたわ」


悠奈は単独で黒河に当たるのを避けたらしい。

それだけ危険を感じたのだろう。


「・・・黒河が姿を消していたのは、どのくらいの間だったんだ?」

「えと、たぶん20分くらいだったと思います」

「20分か・・・」


その空白の時間に何があったかはわからないが、武器を手に入れた可能性については、考えなければならないだろう。



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「悠奈、春菜、玲――まずは俺が黒河と話してみるつもりだが、もし俺たちを襲うつもりだった場合は、頼めるか?」

「えぇ、任せて」

「うん・・・」

「あんなタンクトップ男、我々の手に掛かれば一捻りです」

「ああ。 だが、油断はしないでくれ。 昨日の様子を見る限り、黒河はプレイヤー内から死者が出る事について、何とも思っていない節があるからな」


「藤田、俺も加勢しようか?」

「いや、真島はここに待機していてくれ。 真島の足は悠奈と違って、そこまで回復していないはずだろ? それに、できるだけ黒河を刺激したくない」

「・・・わかった」


「結衣さん、黒河はあとどのくらいでここに着く?」

「たぶん、もうそろそろ・・・」

「よし。 みんなは診療所の中に入っていてくれ」

「わかったわ。 さぁ、みんな」

「でも、あたしは――」

「結衣さんもだ。 ここは俺たちに任せてくれ」

「・・・はい、わかりました。 修平くん、黒河さんのこと、お願いします」


結衣がそう言って頭を下げ、他のメンバーと共に診療所へと入っていく。

やがて森の中から、大きな人影が現れ――


待ち構えていた修平たちに気付いたように、黒河がふと顔を上げた。

 

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「・・・なんだ、気付いてやがったのか」

「・・・?」


結衣はさっき黒河の様子を『なんか暗い感じ』と表現していたが、それは確かにその通りのようだった。

表情には深い疲労が見え、その声に張りはなく、何より猛禽のようだった目から、荒々しさが消えている。


「・・・黒河、ここへ何しに来た?」

「何しに、か・・・。 なぁ、オイ・・・てめぇらに、ちょっと手伝ってほしいことがあるんだが、頼めるか?」


「お断りします。 どうせ悪事に決まっています」

「いや、玲・・・。 ここは修平が話すって約束でしょーが?」

「ですが――」

「2人とも、黙って」


その言葉に玲と悠奈が、口をつぐむ。

思い沈黙の中、修平は再び口を開いた。


「・・・黒河、手伝ってほしいことの内容を教えてくれ」

「ああ・・・。 俺は見てねぇが、確か説明会ってのに参加した連中は・・・初日に運営のクソ野郎から、死体を見せられてるんだったよな?」

「そうだが、それが・・・?」

「頼みっつーのは、その死体を埋めるのを手伝ってくれって事だ」

「死体を、埋める・・・?」


その意外な言葉に、修平たちは眉根を寄せた。


「埋めて、どうするんだ?」

「その死体は、そのまま部屋の中に放置されてるんだろ? それじゃあ、あんまりだと思ってな・・・」

「って・・・つまり、弔いたいって事か?」

「あぁ。 でも1人でやったんじゃ時間がかかっちまう。 だからオメーらに、手伝ってほしいんだ。 ・・・頼む」


そう言って黒河は、深々と頭を下げた。


「っ・・・!」


その黒河の態度に、修平たちは息を呑んだ。

結衣たちが見失っていたという20分の間に、いったい何があったというのか?

目の前にいる黒河は、まるで別人のようだった。

何かを企んでいるのだろうか?

だが黒河は、演技ができるような人間ではないようにも思えた。


玲が小声で、修平に耳打ちする。


「修平・・・今の黒河は、様子がおかしすぎます。 このまま監禁した方が良いのではありませんか?」

「いや――黒河の協力要請に応じよう」

「・・・大丈夫なの?」

「わからない。 だが俺は、結衣さんに黒河のことを頼まれたんだ。 できるだけ、彼女の意は汲んでやりたい」


「・・・オッケー、わかったわ。 黒河、あんたが武器を持ってないかどうか、ボディーチェックをさせてもらうわよ」

「ああ、好きにしてくれ」


黒河がそう言って、すぐにバンザイの姿勢を取る。

そして悠奈にボディーチェックを受けている間も、黒河が敵意を見せることはなく、武器も何ひとつ所持していなかった。


・・・。

 

 

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――それから修平たちは総出で、黒河と共に、前回のゲームで死亡したプレイヤーたちを埋葬した。

その間、黒河は、一言も口を開かなかった。

誰もが彼の変貌に、ただ戸惑っていた。

彼を想う少女、結衣を含めて・・・。

 

・・・・・・。


・・・。


――そして、時が過ぎ――


ゲームのフィールドには、8度目の夜が訪れていた。

森には暗い闇が立ちこめ、周囲には人の気配はない。

そんな中を、荻原結衣はたった1人で歩いていた。

 

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「うぅ・・・暗いし、怖いなぁ・・・。 もし今、誰かに襲われたら・・・あたし、一瞬でやられちゃうんだろうなぁ・・・」

でも、だからって引き返そうとは思わない。

暗闇や、いもしない敵に対する恐怖より、『あの場所』に行かなくちゃという思いの方が勝っていた。


「だって、せっかく戻って来てくれたのに・・・皆、黒河さんのこと気味悪がってばかりだから・・・」


埋葬作業を終えた後も、黒河はそのまま廃村に留まり続けていた。

あれだけ敵視していた真島に突っかかることもなく、言われたとおりに電波吸収体に必要な材料を集め――

みんなで集まっての夕食の時も、特に会話に加わるでもなく、ただ黙々と琴美が作ったすいとんを食べていた。

結衣の目から見れば、黒河は憔悴し切っているように見えた。

なのに他の人たちから見れば、黒河のその態度は奇異に見えるだけなのか、それを気遣おうとするものはいない。

唯一、結衣だけが黒河に話しかけていたのだが、返ってくる言葉と言えば『うるせぇ、黙ってろ』の決まり文句だけだった。


・・・。

 

 

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やがて宵闇の中に、その小屋が見えてくる。

黒河が単独行動を取っていた時に、滞在していたあの小屋だ。

彼の変貌の理由が、あの小屋にあるのではないか――結衣はそう思い、その理由を探りに来たのだ。


小屋の中に足を踏み入れて、月明かりを頼りに室内を探る。

だが何も見つからない。

そもそも何を探せばいいのか、それさえもわからない。

それでもしばらく、闇雲に小屋の中をうろうろしてみたが、めぼしいものは何も見つからなかった。



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「・・・この小屋に秘密があるわけじゃ、ないのかな・・・」


黒河の変貌には、別の理由があるのだろうか。

結衣がそう思い、小屋を出ようとした時――


「ん・・・?」


ふと、違和感に気がついた。

先ほどから室内を歩いていると、時折自分の足音が変わる気がしたのだ。

懐中電灯を取り出し、床に向けてみると、床板が四角く区切られているところがある。

そして、その四角く区切られた床板の端に、小さな取っ手がついているのが見えた。

その取っ手を引っ張ってみると――


「わっ」

そこに、縦穴が現れた。


「・・・地下室・・・!?」


縦穴の内壁には、古びたハシゴが取り付けられている。

恐らく、備蓄食料などを貯蔵するための地下室へと続くハシゴだろう。


「・・・・・・」


思わず喉がごくりと鳴った。

ずっと監視していたのに、不意に黒河が消えた理由はわかった。

恐らくこの地下室に入っていたのだ。

ではあの空白の20分間に、ここで何があったのか――?


「・・・黒河さんに、何が・・・?」


高まる鼓動を抑えながら、結衣は月明かりも射さないその入り口を見続ける。


そうして意を決し、懐中電灯を落とさないように注意しながら、ハシゴを下へと降り始めた。

 

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――懐中電灯の明かりに照らされ、朧に地下室の中が照らされる。

備蓄されていた食料などは運営に破棄されたのか、そこには何もなく、がらんとしていた。


「・・・黒河さんは、ここで一体何を・・・?」


結衣は仔細に、地下室を調べた。

梯子を、天井を、床を。

そしてやがて壁の隅に、何か文字が書かれている事に気付いた。


「っ・・・?」


結衣は壁に歩みより、その文字に目をやった。

どうやら硬い壁に、刃物で傷をつけて書いたものらしい。

と、その時――


「えっ!?」


ある文字が、結衣の目に飛び込んできた。

そこには確かに、『黒河』という文字が書かれていたのだ。

 

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〈遺書:黒河沙希〉

もし、だれか、これをよんだやつがいたら
正規に、つたえてほしい。

あたしを殺したやつでも、べつにいい。
上新市新町4-4のアパート、
102号室に住んでいる黒河正規という子供に、
母親が死んだことをつたえてくれ。

正規、ごめん。
お母さん、ここで死ぬみたいだ。

お母さんさ、よくわからない奴らに拉致られて、
今日まで殺し合いさせられてたんだ。

このゲームが始まってから、もう5日になる。
のこりはあたしのほか、6人。

でも、お母さんはもう、生きのこれそうにないよ。
とうとう、クイーンだってことがバレた。
どいつもこいつも、あたしをねらってる。

さっきうたれた、うでの血が止まらない。
動みゃくが切れたのか・・・。

ちくしょう、帰りたかった。
帰って、お前に会いたかった・・・。

だめだ、てがふるえてきた。
せめてさいごに一目でもいいから、正規に――……


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「こ、これって・・・!?」


声が震え、途端に動悸が強くなる。

ここに書かれている『黒河正規』というのが、結衣の知る黒河だとするならば――


「ま、まさか・・・! これ、黒河さんのお母さんの・・・!」

その残酷な事実に気付き、結衣が震え上がった時。

背後で、物音がした。


「ッ!」


結衣ははっとして振り返った。

するとハシゴを降りてくる、大きな人影がある。

懐中電灯の明かりに照らされ、浮かび上がったその人影は――

 

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「く、黒河さん・・・!」

「てめぇ、見たのかよ・・・!?」

「・・・!」


結衣が思わず黙り込むと、黒河は結衣の襟首を掴み、壁に押し付けた。


「きゃっ!」
「てめぇ・・・なんでこの場所に来やがった!? 興味半分か、あぁ!?」
「そ、そんな事はっ・・・。 た、ただあたしは、黒河さんが気になって・・・」
「『気になって』じゃねぇよ! ぶっ殺されてぇかコラ! お袋の死に場所に、土足で踏み込んで来やがって!」
「で、でも・・・あたし、知らなかったから・・・」
「知らなかっただぁ!? それを言ったらなぁ、俺だって知らなかったっつーんだよッッ!!」


その声は怒りに満ちていた。

だが目には哀しみが滲んでいるように見えた。


「く、黒河さん・・・!」
「・・・お袋はな、俺が11の時に、俺を置いてどっかへ消えた。 それから俺は、ずっと1人で生きてきた。 誰にも舐められねぇように、何もかんも力に頼って生きてきたんだ。 いつかお袋に会ったとしても、俺はお袋のことを、鼻で笑ってやろうって思ってた。 てめぇがいなくても、俺の人生には何の関係もなかったって感じでよ。 だから俺はこのゲームだって、他の連中を全員ぶっ殺してでも、生き残ってやるつもりだったんだ。 なのによぉ・・・。 なのに・・・何なんだよ、このクソみてぇなオチはよぉ・・・? ふざけんなよ、運営の連中・・・俺の、俺のお袋は、こんな薄暗ぇ場所で・・・! 『帰って、お前に会いたかった』って・・・なんなんだよ、そりゃあよぉ・・・!?」


黒河は苦しそうに顔を歪めながら、今にも泣きそうになりながら、それでも涙を流していなかった。

歯を食いしばり、全ての感情を噛み殺そうとしていた。

だから結衣は、その苦しみを和らげようと――

自分よりも遥かに大きな、黒河の体を抱きしめていた。

 

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「・・・あ? 何してんだコラ、離せや」
「嫌、です・・・!」
「離せつってんだ!」

――ッッ


「っ!」


黒河の拳が、結衣の脇腹を小突く。

だが結衣は離さない。

一層腕に力を込め、黒河にしがみつく。

この手を離せば、黒河と2度と触れ合えないような気がしたから。


「ご・・・ごめんなさい、黒河さん・・・! 勝手にここに来ちゃって、お母さんの死に場所汚して、本当にごめんなさい・・・! でも、あたし・・・黒河さんのことが知りたかったんです・・・」
「何・・・?」
「だって、黒河さんは・・・あたしと全然違うから・・・。 黒河さんに変わってもらうには、どうしたらいいんだろうって・・・そんなことばかり考えていたから・・・。 でも・・・そんな事、どうでもよくなっちゃいました。 あたし、黒河さんのこと・・・もう、わかっちゃいましたから・・・」
「て、てめぇ・・・! 何がわかったってんだよ!?」
「黒河さんがもう、このゲームには参加したくないって事です・・・! だって、お母さんを殺した連中を楽しませるなんて、そんなの嫌だと思ったから・・・! ね・・・? そうですよね、黒河さん?」
「っ・・・!」


結衣の言葉に黒河は、一瞬身を強張らせた。

そして、長い沈黙の末に――


諦めたように、答えた。


「・・・ああ、その通りだよ・・・。 くそ・・・なんで、てめぇみたいなヤツに・・・! 冗談じゃねぇぞ、くそ・・・! この俺が、なんで・・・てめぇみたいな、ユルそうな女に・・・」


結衣はその言葉に、泣きそうになりながら頷いた。

彼の身に回した腕から、彼の体温が伝わってくる。

だから結衣は、心まで触れ合いさせたくなって――


いっそう強く、彼の体を抱き締めた。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

―9日目―

 

――そして、一夜明けた朝。


藤田修平を始めとする12人のプレイヤーは、朝食のその席で信じられない光景を目の当たりにした。

 

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「ねぇ黒河さん、これ美味しいですよ?」
「別に美味くねーよ。 ただの山菜じゃねぇか」
「いいからいいから。 ほら、あ~ん」
「あ~んじゃねぇ、ぶん殴るぞテメェ」
「もー、なに恥ずかしがってるんですか?」
「ちっ・・・うぜぇんだよ」


黒河は相変わらずぶっきらぼうな様子だが、やけにべたべたする結衣を、追い払おうとまではしていない。

 

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「あ、あれは・・・一体なにがあったんだ!?」

「結衣ちゃんが、黒河さんの心を溶かしたってことなのかな・・・?」

「とけた? 黒河、どろどろ?」

「黒河がドロドロっていうか、結衣がデレデレっていうか・・・いずれにせよ意外な展開ね」

 

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「きっと、奇跡が起きたのです!」

「いや、でも・・・あんな黒河くん、ちょっと見たくなかったかも・・・」

「なんだよクソ! 俺は怖いヤツに、ベッタリ張り付かれてるっつーのによ!」

「大祐、黙って」



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「やれやれ、世の中なにが起こるかわからないもんだね」

「黒河が結衣を遠ざけていたのは、『嫌よ嫌よも好きのうち』だったということでしょうか?」

「・・・それは、極端な意見のような気もするが」

「そうね。 でも、幸せそうでいいんじゃない?」


そんな事を話す修平たちを、黒河がギロリと睨む。


「・・・オイ、てめぇらなにチラチラ見てやがんだ? ああ?」

「黒河さん、仲間を睨んじゃダメじゃないですか!」

「うるせぇな、バカ。 ここを出るまで、協力してやるだけだっつーんだよ」

「はい、わかってます。 だから、ここを出るまではみんな仲間なんですよ」


なんだかよくわからないが、とにかく黒河は『仲間』になったらしい。

結衣の態度を見る限り、そして黒河の言動を信じる限り、それは確からしかった。


「と、とにかく・・・黒河、改めて歓迎するよ。 正直言って、俺はアンタのことだけが気がかりだったんだ」

「そうね。 瞳は例外としても、力じゃ誰もアンタに勝てないだろうしね」

「けっ、よく言うぜ。 そのメイド以外にも危ねぇ連中が、ゴロゴロしてやがるくせによ。 いいからさっさとメシを済ませて、例の電波吸収体っつーのを仕上げちまおうぜ。 なぁ、充」

「あ、うん・・・お互い頑張ろうね、黒河くん」

「ああ!? てめぇ、誰にそういう口のきき方してんだコノ野郎ォ!?」

「うわっ、なんで僕だけ態度が変わらないんだよ?」

「結衣! 黒河を止めるです!」

「無理ですよ。 だって相手は、充さんなんですから」

「な、なにその乱暴な理由――ッッ!?」


――ッッ


悲鳴じみた声を上げた充の頭を、黒河が拳で殴る。

でもそれは黒河にしては、だいぶ手加減をした殴り方だった。


「ふぅ・・・とにかくこれでようやく14人全員が、本当の意味でまとまったって感じね」

「ああ。 後は電波吸収体を完成させて、このフィールドから脱出するだけだ」


・・・。

 

それから修平たちは充の指示の下、再び材料集めに奔走した。

やがて懸念として残っていた、金属を腐食させるために必要だった酸も、農薬からの精製に成功し――ー


・・・・・・。

 

・・・。

 


――そうして夜も更けた頃。

フルイの網の他に、新たに見つかった金ザルもグリッドパネルの素体として使い、ついに電波吸収体が完成した。

5枚重ねにしたグリッドパネルには、それぞれに別の重金属を使ったメッキが施されている。

とは言っても、できたのはまだ2人分――。

それに効果のほども、試してみるまでわからない。

 

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「・・・修ちゃん、いくよ」

「ああ、頼む」


瞳から借りたPDAを使い、琴美が修平のPDAにメールを送る。

対する修平のPDAは、電波吸収体で覆われていた。

その様子を、他の12人が固唾を呑んで見守っている。

やがて、充分すぎるほどの時間が流れ――


修平のPDAに、瞳のPDAからのメールは届かなかった。


「っ・・・!」

「修ちゃん・・・?」

「・・・成功だ――やったぞ、みんな成功だ!!」


振り向いてそう叫ぶと、みんな歓喜の笑顔を浮かべていた。

完成した電波吸収体を首輪に巻きつければ、運営から送られてくる爆破用の電波信号も、恐らく遮断できるだろう。

 

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「まだ実際に試してみないとわからないけど、とにかくこれで一歩前進ね」

「ええ、しかも大きな一歩だわ」

「・・・そうだな」

 

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「充、とりあえずお疲れ様だったです」

「いや、みんなの協力があったからだよ」

 

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「だが、2人分しかねーんだろ? まだ全然足りてねーじゃねぇかよ?」

「いいんですよ、黒河さん。 今日のところは一先ずこれで」

「そうそう。 とにかく今日はお祝いといこーぜ?」

「お調子もの・・・」

 

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「ま、でも今日くらいは」

「それでは、パーッとやりますか!」

「お祝い? パーティーするの?」

「うん。 と言っても、別に大した食事が用意できるわけじゃないけどね」

 

「いや、こういうのは気分の問題だろ? なぁみんな?」


修平がそう問いかけると、ほぼ全員から笑顔の頷きが返ってくる。


すると、隣で琴日が嬉しそうに笑った。

 

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――修ちゃん、なんか変わったね?


視線だけで、そんな問いを投げかけてくる。

確かに、自分は変わったと思う。

だがそれだけでは、きっとここまで辿り着けなかっただろう。

これまでの9日間を通じて、多くの仲間たちの中で様々な変化が起こり、それが今この時に繋がったのだ。

だから今日だけは、素直にそれを祝いたい。

そして明日から、また動き出そう。

修平はその決意を込めて、心からの笑顔を浮かべた。

 

・・・。

 

 

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――だがそれが、14人が皆で一緒に過ごせた――


最後の1日となった。

 

・・・。

 


―10日目―


―明くる朝、修平は、奇妙な音に目覚めさせられた。


「んっ・・・」


目を擦りながら体を起こすと、懐のPDAがアラームを鳴らしている。

音は3つあった。

琴美や瞳のPDAも、同じ音を立てていたらしい。

すぐに傍らの2人も目を覚ます。

 

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「ん・・・」

「・・・なに、なんの音・・・?」

「いや、なんだろう。 なんかPDAがアラームを・・・」


修平は懐からPDAを取り出し、ディスプレイを見る。


その瞬間、どくんと心臓が跳ねた。


「なっ!!!」

「ど、どうしたの修ちゃん!?」

「ふ、2人ともPDAを見てみろ!!」

「えっ・・・?」


琴美も瞳も、戸惑いながら自分のPDAを取り出して見る。

すると2人の身が、電流が走ったようにぴくんと震えた。


「あ、あぁ・・・!」

「こ、これ・・・どういう事・・・!?」


彼女たちがかすれた声を上げる。


PDAの画面には、こんな文字が表示されていたのだ。

 

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【参加者の死亡により、ステージがランクアップしました。 ただいまより、ゲームはセカンドステージに突入します。 クリア条件が更新されています。 各自パーソナルデータを確認してください。 なおゲーム終了まで、あと24時間です。 プレイヤーの皆様、最後までご健闘下さいませ】


それはたった数行ながら、あまりに衝撃的な通知だった。

だが修平たちの目を最も引いたのは、その1行目――


「さ、『参加者の死亡』って! 誰かが死んだって事!?」

「わ、わからない、けど・・・とにかく皆を起こそう!」


修平はそう言うや、診療所を飛び出した。

琴美と瞳もそれに続く。


診療所の外には、修平が起こすまでもなく、他のプレイヤーたちがいた。

皆それぞれPDAを持ち、狼狽した様子で次々とい家から出てくる。

 

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「だ、誰かが死んだのですか!? いつ、どうして!?」

「やはりクリア条件変更のトリガは、プレイヤーの死亡だった・・・でも、誰が死んだ・・・?」

「真島くん!? 真島くんはどこ!?」

「落ち着けまり子、俺はここだ!」


玲、司、まり子、真島がそれぞれ声を上げた。


さらに残りのプレイヤーも姿を現す。

その中にいた悠奈と春菜が、修平に気づき、駆け寄ってきた。

 

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「修平! セカンドステージに突入したって!」

「つい今しがた、誰かが死んだ・・・あるいは、殺されたという事?」

「わからないけど、死んだとしたら誰が!?」

「ねぇ、皆揃ってる!? この場にいない人は誰!?」


その声に皆ははっとして、悠奈の方を見る。

修平がその場にいる皆の顔を確認しようとした時、黒河が怒声を上げた。

 

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「んだそりゃ・・・! どういう事だコラァ!!」


その刹那、皆の視線が黒河に集中した。

見れば彼は自分のPDAを、強張った表情で凝視している。


「ど、どうした黒河!?」


修平がそう呼びかけるのも聞かず、


「クソッタレがッ・・・!」

黒河はそう呟き、どこへともなく駆け出した。


「あっ! ちょ、ちょっと待ってくれ黒河!」


修平がそう呼び掛けても、黒河は止まらない。


「ど、どうしたんだあいつ!?」

「いいから追いましょう!」


そう言う悠奈の声に従い、修平たちも駆け出した。


・・・。



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前を走る黒河の背を見失わないように、朝の森を駆け抜ける。


修平は走りながら考えていた。

なぜ先ほど黒河が、自分のPDAを見て、怒声を上げていたのかと。

彼の特殊機能は、『死亡したプレイヤーの名前とナンバーと死亡地点を閲覧できる』。

彼はそれを見て、死んだプレイヤーの居場所を確認したのではないか?

その名前もPDAに表示されていたのではないか?

そう考えるにつけ、急速に不安が膨らんでいく。

だいたいなぜ、彼は先ほど独りでいたのか。

邪険にされつつも、彼に付き従っていた彼女はどこにいったのか。


その問いを修平が発しようとした時――


黒河が、不意に立ち止まった。

 

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「黒河!」


彼の名を呼びながら、修平たちはそこに駆け寄る。


彼の眼前に広がっていた光景は――


黒河も、そして修平も他の皆も、信じたくないものだった。

 

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「・・・そんな・・・」


琴美が消え入るような声を上げた。

そこには柔らかな朝日を浴び、木にもたれ掛かっている彼女がいた。

その胸は、赤く染まっている。

その頬からは、すでに血の気が失せている。

黒河が彼女を見つめ、そっと呼びかけた。


「・・・おい」


だが彼女からの返事はない。


「・・・聞こえねーのか、起きろや」


黒河は再度呼びかける。


「起きろって言ってんだろうがコラ・・・!」


3度目の声は、震えていた。


黒河は虚ろな足取りで、結衣に歩みより、その体を抱き起す。



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「・・・勝手にどっか行きやがって。 俺がそんな事、許したかよ? なにこんなとこで寝てんだ・・・なぁ起きろよ、おいって」


その背中に浴びせられる声があった。


「・・・無理よ。 もう死んでる」


「っ・・・」

「・・・セカンドステージに移行したメッセージを、あなたも見たんでしょう? そのルールは絶対なの・・・誰かが死なない限り、ファーストステージが終わる事はない。 彼女が、ここで死んだから・・・セカンドステージが始まったの」


そんな事は、黒河も理解していたはずだ。

だけどそれを認めたくなくて、彼女が目を覚まさないことを、信じないようにしていたのだろう。

それでも春菜の一言が、残酷な現実を突きつける。

やがて黒河の喉から、声が溢れた。

 

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「う、あ・・・ぁああ・・・ああああああああああああッ!!!」


それは魂を吐き出すような、悲しい慟哭――。

やがてその声に交じり、別の声が上げられる。

 

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「・・・誰よ・・・誰が、結衣を殺したのよ!?」


彼女の悲痛な問いに、答える者はない。

ただ森の中に、黒河の叫びばかりが、虚しく木霊していた。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

――黒河の慟哭が止んだ頃――ー


森には再び、静寂が訪れた。


誰も何も言えなかった。

重苦しい沈黙が、その場に立ち込める。

やがて黒河が、結衣の亡骸を地面に横たえ、ゆらりと立ち上がった。


「・・・おい、全員揃ってるか・・・?」


地獄の底から響くようなその声に、女の子たちが身を震わせる。


「あ、ああ・・・」


辛うじて修平がそう答えると、黒河はゆっくりと振り返り、皆を見据えた。



「・・・こん中に、結衣を殺した犯人がいるんだよな・・・? 出て来いよ、なぁ。 別に殺したりはしねーからよ」


奇妙に静かな声だった。

頬には笑みすら浮かんでいた。

だがその眼には、ドス黒い殺意が渦巻いている。

全身を憤怒が包んでいる。


「・・・おい、どいつもこいつもなに黙ってんだよ。 俺は質問してるだけだぜ・・・? 今さらこのクソゲームに乗ったバカが誰なのか、知りてぇだけなんだよ」


そう尋ねられ、修平の喉がごくりと鳴る。

その質問に答える事はおろか、声を発する事さえできない。

声を発した瞬間、黒河が襲い掛かってくる予感がしたのだ。


――だがそれでも、声を上げる者がいた。

 

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「黒河・・・落ち着け、この中に犯人がいるとは限らない」


そう言ったのは真島だった。

黒河は胡乱な目で、真島を見据える。


「あぁん・・・? バカかテメェ、この中にいなきゃ誰が犯人だってんだよ?」

「運営だ。 奴らがゲームを動かすために、手を下したかもしれないだろう。 この場にいる誰にも、今朝のタイミングで結衣を殺す理由があるとは思えない」

「ほーう・・・? オメーがそんなにお仲間想いだとは思わなかったけどよォ。 こいつらがそんなに信じられる面子か、あ?」


黒河がそう言って、その場にいる全員を見定めるように、視線を走らせる。

真島から始まり、端までじっくりと。

だがそこで彼が何かに気づいたように、視線を止めた。


「ん・・・?」


その唇が歪み、笑い声が漏れる。


「くっ、かはははは・・・! なるほどなァ、さすがだよ真島サン。 オメーの言う事は間違っちゃいねぇみてぇだ」

「何?」

「『この場にいる誰にも、結衣を殺す理由があるとは思えない』ってか。 確かにそうかもしれねぇな。 しかし気づかなかったぜ。 この場にいねぇ奴がいるなんてよ」


「えっ!?」


真島も、そして修平たちも、弾かれたように互いの顔を見た。

その場にいたのは、修平、琴美、悠奈、春菜、真島、まり子、司、玲、黒河――。


それだけだ。

確かに抜けている者がいる。

そこには初音と充、そして大祐の姿がなかったのだ!


「ど、どういう事だ!? あいつら、いつからいなかった!?」

「わ、わからないよ! 今朝、皆が顔を合わせた時には、もういなかったかも・・・」

「じゃああの騒ぎの中、3人とも家に隠れてたって事か!? どうしてそんな事を!?」


思わず声を上げる修平に、黒河が荒い声で言う。


「決まってんだろボケ! あいつらが結衣を殺しやがったからだ!」

「何!?」

「結衣が死んだと同時にセカンドステージに移行するんだったら、さっきまで村にいた奴には結衣を殺せねぇ。 だったらこの場にいねぇ3人が、犯人って事になるだろうが」

「さ、3人がかりで結衣さんを殺したっていうのか!? なぜそんな事をする必要がある!?」

「さぁな。 結衣の持ってた食糧が欲しかったんじゃねぇのか? それか3人のうちの誰かが犯人で、他の2人は別の理由で消えたのかもしれねぇ。 ・・・まぁ、俺にはどっちでも同じ事だけどよ」


黒河の眼に、禍々しい光が宿る。

溢れんばかりの殺意を漲らせつつ、黒河は踵を返した。


「ちょっと待って黒河! どこに行くの!?」

「あぁ? うるせぇな、どこでもいいじゃねぇか」

「まさかあの3人を殺しにいくつもり!? だったら止めなさい!」


悠奈がそう言って、黒河の腕を掴もうとしたが――


「うるせぇっつってんだろうがクソアマッ!」


黒河はそう叫び、悠奈に拳を振るった。


――!!


「ぐッ!」


悠奈はとっさにガードしたが、衝撃にたたらを踏んだ。

その隙に黒河はまた駆け出し、森の奥に消えていった。


「まずい・・・! あいつを放置してたら、また殺し合いが始まるわ! 私、止めてくる!」

「だったら俺も――」

「ダメ! 修平たちはここにいて! この状況でもし散り散りになったら、それこそ収拾が付かなくなる! 行くなら私だけでいい!」


「あ! 待て悠奈!」


悠奈は修平の止める声も聞かず、黒河を追って森の奥に消えた。

 

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「独りでなんて、無茶だろう・・・! 悠奈に黒河を止められるのか!?」

「ああ、今の黒河は危険すぎる!」

「私たちも行くべきです!」

「だったら俺と真島と玲だけでも、悠奈を追おう! 他の皆はここにいてくれ! 俺たちは黒河を捕まえて、それから残りの3人を――」


修平がそう言いかけた時、それを遮る声が上がった。


「待って。 3人とも動かないで」

「っ!?」


弾かれたように振り向くと、そこに春菜が立っていた。

そしてその手には、血塗れの刃が――


先ほどまで結衣の胸に刺さっていたナイフが握られていた。



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「は、春菜・・・!? なんだそれ、なんのつもりだ!?」

「まさかお前が結衣を殺したのか!?」

「違うわ。 私じゃない。 だけど悠奈の言っていた事は正論よ。 この状況で散り散りになるわけにはいかない。 今はとにかくこの場にいる全員を、力づくでも拘束する必要がある」

「何!?」

「忘れたの? セカンドステージに移行した時に、PDAに表示されていた文言があるでしょう。 『ただいまより、ゲームはセカンドステージに突入します。 クリア条件が更新されています。 各自パーソナルデータを確認してください』・・・全員のクリア条件が、今朝の時点で変わったのよ。 恐らく殺し合いを誘発する内容に」

 

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「そ、そんな・・・!」

「いい、皆? 状況は変わったの。 仮に結衣殺しの犯人がこの場にいなくても、書き換わった条件次第で、人殺しに化ける可能性がある。 それを防ぐための拘束よ・・・だから全員、今は私に従って」


そう告げる春菜は、ぞっとするほど冷たい眼をしている。

それを見た修平たちは、彼女に従うしかなかった。


・・・・・・。

 

・・・。

 

――その頃、城咲充は独り、山道を駆けていた。

 

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「く、くそっ! 初音ちゃん、どこに行ったんだ!?」


彼は他の皆同様、PDAのアラームで目を覚ました。

そしてPDAに表示された文言を見て、目を疑った。

14人の中の誰かが死に、セカンドステージなるものに移行したという。

誰が死んだのか確かめようと、ねぐらにしていた小屋を出ると、修平たちが何か話しているのが見えた。

 

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そこに駆け寄ろうとした時、隣の家から、ふらりと初音が出て来たのだ。

彼女は虚脱したような表情で、PDAを見つめていた。

そこに充が『初音ちゃん、無事でよかった!』と声をかけたのだが――

その刹那、初音はびくっと身を震わせ、踵を返して逃げ出した。


充はわけもわからず、彼女を追った。

すぐに捕まえられると思ったが、山道を走っているうち、彼女を見失ってしまったのだ。


――やがて走り疲れた充は、立ち止まった。


大きく息をつき、それから声を張り上げる。


「初音ちゃーん! 逃げないでくれー! 独りになると危ないよー! 誰かが死んだって事は、人殺しがいるかもしれないんだー!」


その声に返答はなかった。

だがその代わりに、左手に広がる茂みが、がさっと音を鳴らす。


振り向くとそこから初音が飛び出し、また逃げていくのが見えた。


「初音ちゃん!」


充は今度こそ逃がすまいと、全力で初音を追う。


――ッッ


「あたっ!」


だが少し走ったところで、初音が木の根につまづいて、転んだ。



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「初音ちゃん、大丈夫!?」


充は慌てて彼女に駆け寄り、助け起こしたが――


「あきゃあっ!」


初音は奇声を上げ、充の手を振り払おうとした。

その目には色濃い怯えがある。

明らかにいつもの初音と違っていた。

充はその手を離さず、ぎゅっと握りながら問う。


「ど、どうしたんだい初音ちゃん!? 何にそんなに怯えてるんだ!?」
「あ、あぅ・・・!」
「お、落ち着いてくれ初音ちゃん。 僕は君の味方だ、何かあったのかい? 僕に話していい事なら、話してくれ」


充はできるだけ優しくそう尋ねた。

初音はその問いに答えなかったが、視線が彼女自身の手元に移る。

そこには彼女のPDAがあった。


「PDA・・・? そう言えばさっきも、PDAを見つめてたね。 まさかPDAに何か表示されていたの? 初音ちゃんをそんなに怯えさせるような事が?」
「う、う・・・!」


さらに重ねられた問いに、初音はうめき声を上げた。

だがやがて、感情の堰が壊れたように――


「み、充・・・! 初音は、もうだめです・・!」


そう、弱々しい声を上げた。


「も、もうだめってどういう事?」
「セカンドステージに移行すると同時に、初音の条件が書き換わったんです・・・」
「え!? その、書き換わった条件は!?」
「こ・・・これです・・・」


初音が充に、恐る恐るPDAを見せる。

そこに表示されていた文字は――『自分以外のプレイヤー全員の死亡』というものだった。


「そ、そんな・・・!」
「初音にそんな事、できるわけないです・・・だから、もうだめなんです・・・」


初音が泣きそうな表情で俯く。

充は何も言えなかった。

だが黙り込む彼の頭に、ふと不吉な予感が浮かぶ。

そう言えば自分のPDAにも、セカンドステージ移行の文言と共に、『条件が書き換わった』と表示されていた。


初音の条件がこれなら、自分の条件は?

彼はそう思い、PDAを取り出した。

パーソナルデータ画面を開き、条件を確認する。

その瞬間、背筋に電流が走った。


「ま、まずい・・・! だとしたら、僕は・・・!」
「ど、どうしたのですか、充!?」
「いや、その・・・僕の条件も書き換わってたんだ。 新たに与えられた条件は、『変化したことがあるPDAの持ち主全員の死亡』というもので・・・。 そして僕が変化させたPDAは、藤田くん、吹石さん、伊藤くん、荻原さん、黒河くん、上野さんのもの・・・!」
「え!? じゃ、じゃあ充は――」
「ああ・・・僕はこの6人を、殺さなければならないんだ・・・」


充はがくりと肩を落とした。

初音の条件に比べれば簡単だが、それでも望ましい事ではなかった。

そもそもこの武器もない状態で、修平や黒皮に勝てるだろうか?

とても自信がないし、もちろん率先して殺したいわけでもない。


「ち、ちくしょう・・・どうしてこんな事に・・・!」


充の口から、情けない声が漏れる。

そんな彼を、初音は気遣うような声で言った。


「で、でも! 充は誰も殺さず、自分も生き残る道があります!」
「えっ?」
「玲の特殊機能ですよ! 確かあの子の特殊機能は、『JOKERのPDAを初期化する』事・・・。 それで充のPDAを初期化すれば、条件も元に戻ると思います」


一瞬、それは魅力的な提案に思えた。

だが充はすぐに首を振る。


「・・・いや、駄目だ。 確かにそれが上手くいけば僕は助かるけど、初音ちゃんの問題が解決するわけじゃない。 どのみち初音ちゃんが生き残るためには、黒河くんや・・・他の皆も、全員殺さなきゃならない・・・」
「そ、それはそうですけど・・・でも、だったら、どうするんですか・・・?」
「・・・わからない・・・どうすればいいのか、僕には・・・」


充の弱々しい声が、山道に響いた。


・・・・・・。

 

・・・。

 


――その頃、伊藤大祐もまた、独り川沿いの道を逃げていた。

 

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「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・!」


荒い息が口から漏れる。

いつも彼が滲ませていた余裕の態度は、今は見る影もない。

幾度も背後を振り返っては、誰かが追いかけてきてないか確かめる。


「はぁっ、はぁっ・・・く、くそっ! なんで俺がこんなに必死に逃げなきゃなんねーんだよ!」


彼は走りながら悪態をつく。


脳裏には先ほど見たPDAの表示がよぎっていた。

彼に与えられた新たな条件は、『半径2m以内に同時に3人以上のプレイヤーを侵入させない』というもの。

そのせいで彼は、皆と一緒にいられなくなってしまったのだ。

皆の仲がバラバラであれば、こんな条件は全く驚異ではない。

だが修平を中心に、皆がひとまとまりになった今、そのクリア条件は極めて危険なものとなっている。

例えば修平・琴美・悠奈の3人が近づいてきただけで、大祐の首輪は爆発する。

相手に悪気がなくても関係ない。

皆のうちの3人が、たまたま2m以内に近づいただけで、あっさりと大祐の人生は終わってしまう。

だから彼は、今朝誰かが死んでセカンドステージに移行した時・・・新たな条件が与えられたのを見るや、皆の下をこっそり去ったのだ。


――そうして走り始めて、もう20分にもなる。


さすがに走り疲れた大祐は、足を止めて呟いた。


「畜生・・・誰かが勝手におっ死んだせいで、こんな事になっちまった・・・! 今ごろ皆、俺探してんだろうな・・・」


とにかく皆の下を離れなければと思って逃げ出したが、考えてみれば早計だったかもしれない。

今ごろ廃村では、誰が死んだか検証が行われているだろう。

黒河の特殊機能を使えば、誰が死んだかはもちろん、死体の位置も一目瞭然だ。

もしその誰かの死因が、他殺によるものだったとしたら、犯人探しが始まっている可能性もある。

 

「・・・あれっ? だとすると・・・ひょっとして俺、ヤベーんじゃない? 皆のもとを勝手に去ったって事は、犯人だと疑われてもしょうがねーんじゃ・・・? いやいやいや、それヤベーよマジで! 12人VS俺1人!? 勝てるわけねーじゃん!」


遅まきながら大祐の胸に、真正の危機感が沸き上がってきた。

この状況で最も疑わしいのは自分だ。

まして自分は、皆に嫌われている。

誤解だとしても、皆はそうと信じてくれるだろうか?

 

「今からでも皆のところへ行って、弁明するか・・・? ってダメだ! 皆に近づかれたら、その時点で俺死ぬんだった! じゃあやっぱりこのまま逃げるか? 武器もなしに、12人相手に、ゲーム終了まで? ってそれもできるわけねーじゃん1 あーちくしょう! どうすりゃいいんだ!?」


思わずそう叫んだ時、頭上で声が聞こえた。

 

「いたぜぇ・・・!」

「っ!?」

 

 

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はっとして見上げると、すぐ傍の崖の上に、黒河の姿があった。

逆光になっていて表情は見えないが、何か得体の知れない迫力が伝わってくる。

1人で騒ぎ過ぎたせいで、見つかってしまったらしい。

黒河は大祐を見下ろし、猫撫で声で言う。

 

「ちょっとよぉ、オメーに聞きてぇ事があんだよ。 そこで待っててくんねーか? すぐそっちに下りてくからよ」


黒河はそれだけ言って、崖の上に姿を消した。


「ちょっ、ヤベぇ・・・なんかヤベぇ、逃げなきゃ!」


大祐は本能的に危険を察し、再び駆け出した。

黒河が下りてくる前に、少しでも遠くに逃げなければならない。

しかし逃げると言っても、どこに逃げればいいのか?

モニタールームに逃げ込むというのも考えたが、あそこは春菜に知られている。

むしろ隠れ場所にするのは危険かもしれない。

それよりも正直に全てを話し、誤解を解く方が先決なのではないか?

だが黒河が話を聞いてくれるだろうか?

話を聞いてくれそうなのは琴美だけだ。

ならば彼女と連絡を取るべきではないだろうか?

大祐の心は千々に乱れ、考えがまとまらない。

 

それでも必死で走っているうち――

ふと行く手に妙なものが落ちているのが見えた。

 

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「え・・・これって・・・!?」


そんなものが、こんなところに落ちているのが信じられなかった。

だがその降って湧いた奇跡に、彼は飛びつき、無我夢中で拾い上げた。


・・・・・・。

 

・・・。

 


――同時刻。

結衣の殺害現場では――


藤田修平が、他の仲間たちと共に、春菜の前に立ち尽くしていた。

春菜は右手にナイフを、左手に己のPDAを持って、その画面をじっと見つめている。

修平、琴美、瞳、司、玲、真島、まり子の7人は、固唾を呑んでその様子を見守っていた。

やがて重苦しい沈黙を破り、春菜が口を開く。

 

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「・・・ダメね。 やっぱり私の特殊機能じゃ、結衣殺しの犯人はわからないわ」

「ど、どうして? 春菜ちゃんの特殊機能は、『プレイヤーの接触情報を表示する』だったはずでしょう? それを見れば犯人がわかるんじゃ?」

「私もそう思ったんだけど、残念ながらダメみたいなのよ」


春菜はそう言って、PDAを皆に見せる。

その状態で操作をしつつ、彼女は続けた。


「この特殊機能でわかる事は、『プレイヤーの誰と誰が接触したか』という事。 だからゲーム開始から4日が過ぎた時点で、情報の更新は止まっていた。 『A・2・3・4・5・6・7・8・9・10・J・Q・K・JOKERが仲間となり、共に行動する』という内容でね」

 

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「その後の細かい内容は、記されていないのか?」

「記されてないわ。 恐らくは、わざとだろうけどね」

「わざと?」

「前から気になってたんだけど、どうやらこの接触情報は、運営が私たちの動きをモニターして、手動入力しているものみたい。 運営は意図的に、私の特殊機能を使っても、結衣を殺した犯人がわからないようにしているのよ。 私たちを疑心暗鬼に陥らせ、殺し合いをさせるために」


春菜は苦々しくそう呟いた。


するとそれまで黙っていた司が、固い声を上げる。

 

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「・・・今はその特殊機能を使うと、何が表示されるんですか?」

「今朝、私たちが目覚めた時点から、更新は再開したわ。 やけにそっけない内容だけどね。 『5――共に行動していたプレイヤーに殺害される』『Q――他プレイヤーの下を去る』『JOKER――他プレイヤーの下を去る』『10――他プレイヤーの下を去る』『8――他プレイヤーの下を去る』『J――他プレイヤーの下を去る』・・・。 わかるのは結衣が殺され、初音、充、大祐、黒河、悠奈が去っていったという事だけね」

 

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「なんだか象徴的ね・・・私たちがバラバラになっていく様を表しているみたいな・・・」

「その先は? 初音ちゃんや黒河さんたちはどうなったの?」

「3行だけ記されてるわ。 『Q・JOKER――森の中で再会する』『8――10を発見する』『J――8に追いつく』という行が」

「充と初音が再開したって事か? それと黒河が、大祐を発見したって?」

 

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「まずいだろうそれは・・・伊藤の奴、黒河に殺されるんじゃないのか!?」

「悠奈が黒河を止めてくれる事を、祈るしかないわね。 それより先にこっちはこっちで、確かめなきゃならない事がある」

「何をだ?」

「この場にいる全員の、新たなクリア条件よ。 さっきも言ったけど、恐らく皆のクリア条件は、殺し合いを誘発するものに変わっているはず」

「なぜそれがあなたにわかるんです?」

「私に与えられた新たなクリア条件が、『プレイヤーを殺害した他プレイヤー全員の死亡』というものだからよ。 ファーストステージとは比較にならないほど、危険な条件でしょう?」

「っ・・・確かに、そうですね。 つまり結衣さん殺しの犯人は、春菜さんの殺害対象になった。 殺しが新たな殺しを呼ぶという事ですか・・・」


そこまで聞いて修平は、ふとある可能性に思い当たった。


「い、いやちょっと待て春菜。 お前のPDAには、お前の殺害対象になったプレイヤーの名前が表示されたりはしないのか? そこに誰かの名前が表示されていたら、それが結衣さんを殺した犯人って事になるんだが・・・」

「残念ながら、それは表示されないみたいよ」

「何? じゃあどうやってお前は、自分の殺害対象を把握するんだ?」

「恐らく特殊機能を使えって事だと思う。 それで他のプレイヤーの行動を調べて、自分の殺害対象を把握しろというわけね」

「運営は、結衣さん殺しの犯人は隠しておくくせに、お前にそんな事を強いるのか・・・!」


それはあまりに春菜に対して、厳しい気もした。

それに運営は、無理やりなまでに、修平たちの疑心暗鬼を煽っている気もする。

だが運営が理不尽な事を強いてくるのは、今に始まったことではない。

悔しさを覚える修平に、春菜は続ける。


「・・・とにかく私の殺害対象は、これからさらに増える恐れもある・・・。 これから誰かが新たに他人を殺したら、その人も私の殺害対象になる。 それをまず理解して」

「あ、ああ・・・」

「それじゃ皆、正直に、新たなクリア条件を開示して。 拒否した人は、危険な条件が与えられたと見なすわ」


有無を言わさぬ口調だった。

皆はためらいがちにPDAを取り出し、己のクリア条件を確認する。

だがそうするや否や、修平と琴美が、同時に悲痛な表情を浮かべた。

 

「・・・くそ、なんだよこれ、なんの冗談だ・・・!?」

「そんな、どうして・・・!?」

「ッ? 2人とも、どんな条件だったの?」

「俺のクリア条件は、『素数ナンバーのプレイヤー全員の死亡』・・・! 要は瞳と春菜と真島と悠奈と司を殺せってことらしい・・・!」

「わ、私は・・・。 『自分を中心とした5つ並びのナンバーの他プレイヤーが死亡し、かつそれらのPDAを自分のPDAに読み込ませる』・・・!」

「何ッ!?」


そのクリア条件を聞き、琴美のPDAにだけ妙なケーブルが備え付けられている理由がわかった。

どうやらこのケーブルを用いて、死者のPDAを読み込むのだろう。

しかし、それが意味するところは――


「修ちゃんと真島さんと黒河さんが死ななきゃならないなんて・・・そんな条件、満たせるわけないよ!」


琴美の言葉に、皆が表情を強張らせた。


「・・・なるほど。 春菜さんの言う通り、殺し合いを誘発する内容になってますね」

 

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「つまり俺はこの2人の両方の、殺害対象になったって事か・・・?」

「お、お父さん・・・瞳を、殺すの・・・?」

「ば、バカ言え! 殺すわけないだろう!」

「そうだよ、私たちは誰1人殺したくなんかない! もし殺したら、春菜ちゃんの殺害対象になっちゃうし・・・」

「で、でも、だったらどうするの・・・?」

「っ・・・」


修平も琴美も、瞳の問いに答えられなかった。

春菜がため息混じりに口を挟む。


「・・・しょっぱなから酷い条件だけど、確認を続けましょう。 他の人たちはどういう条件になったの?」


その問いに他の皆が、口々に答える。

 

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「・・・俺の条件は、ほぼ変わってない。 『未使用のメモリーチップを10個以上所持し、ゲーム終了まで他のプレイヤーには同数以上所持させない』だ」

「わ、私は・・・『一番長く一緒にいたパートナーの死亡』・・・」

「何っ!? じゃあまり子の殺害対象も、俺なのか!?」

「わ、私、真島くんを殺す事なんてできないよ!」


泣きそうな声を上げるまり子の傍らで、司がぼそりと呟く。

 

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「・・・上野先輩の条件も酷いですが、僕の条件も負けてませんよ。 『ゲーム終了時点でクリア条件を満たしたプレイヤーが3人未満。 ただし本人は含まない』ですって。 早い話が、僕以外に2人しか生き残れないって事ですよ。 ほとんど皆殺しにしろって言ってるのと同じじゃないですか?」

「・・・私のは皆には遥かに劣りますが、そこそこ攻撃的ですね。 『JOKERのPDAの破壊』・・・充が直に応じてくれるとは思えません。 殺してでも破壊しろという事でしょうか?」


次々と皆の口から、絶望的な条件が語られる。

それを聞いて修平は、奥歯を噛んだ。


――どうやらこのゲームを作った人間は、相当根性が腐っているらしい。

ファーストステージでは、プレイヤーたちがある程度仲良くなるように仕向けておいて、セカンドステージでそれをひっくり返す。

皆の絆が強くなればなるほど、その時の落差は大きい。

まして今回のようにファーストステージが長く続き、皆が一塊になった時こそ、その効果は最悪の形で現れるのだ・・・!


「ど、どうしよう皆・・・どうすればいいの!?」


琴美が怯えた声を上げ、修平の袖を掴む。

修平は内心のパニックを抑え、その声に答えた。


「・・・とにかくこんなふざけた条件に従うわけにはいかない。 殺し合いなんか始めたら、運営の思う壺だ。 もう一度、皆を集めるんだ。 そして今後どうすべきか話し合って――」

修平がそう言いかけた時、

遠くで乾いた音が響き、その声を遮った。


「・・・え?」


修平も他の皆も、その音に目を見開く。

真島が呆然とした声で呟いた。


「おい・・・今の、銃声じゃないのか?」


信じたくない話だった。

だが修平にもそう聞こえた。


「そ、そんな・・・! どうして破棄したはずの銃があるの!?」

「くそっ、どうなってるんだ!? 一体何が起きてるんだ!?」


修平はそう叫び、銃声のした方を睨みつけた。


・・・・・・。

 

・・・。

 

――その時、修平の視線の遥かな先では――

 

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藤堂悠奈が黒河正規と、足を止めて、その場に立ち尽くしていた。

彼女らの足元には弾痕があり、小さな土煙を上げている。


「だ、大祐、アンタ・・・!」

「ンだそりゃ、そんなもんどこで手に入れた?」


そう言う2人の眼前には、大祐がいる。

そして大祐の手には――

 

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黒く光る拳銃が、握られていた。


「へ、へへ・・・どこでだっていいだろ?」


大祐は怯えと優位性が入り混じった、複雑な表情を浮かべていた。

黒河がそれを見据え、薄い笑みを浮かべる。


「・・・あぁ、確かにどこでだっていいな。 そんな事より重要な事があるもんなァ」

「なに?」

「これではっきりした・・・結衣を殺したのは、オメーだな?」


凄まじい眼光が、大祐を射抜く。


大祐は表情を強張らせながらも、言葉を返した。

 

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「お、おっとそれ以上近づくな! 動いたらズドンといくぜ!」

「おぅ、やってみろや」

「脅しだと思ってんのか? 本当に撃つぜ?」

「いいから撃ってみろっつってんだコラアアアッ!」


そうして黒河が駈け出そうとした時、


「黒河危ない!」

 

悠奈は黒河に飛びつき、自分もろとも、近くの茂みに倒れこんだ。


――!!!


「死ね、筋肉野郎!」


一瞬遅く、大祐の裏返った声と共に、銃声が連続した。

それらは木々に跳ね返り、悠奈たちには届かない。

その隙に悠奈は、黒河に向けて叫んだ。


「なに丸腰で突っ込もうとしてるのよ! 死ぬつもり!?」

「っせーなボケ、あんな腰抜けの弾当たるかよ」

「近づきゃ当たるわよ! ここはいったん退きましょう!」

「退けだァ!? あの野郎を前にしてか!?」

「こっちは武器ひとつ無いのよ! 向こうに接近されたら終わりなの! だから早く!」

「――」


黒河は答えない。

やむを得ず悠奈が黒河の腕を引き、無理やり逃がそうとした時――


「・・・あ?」


黒河が何かに気づいたように、声を上げた。


「・・・いいもんがあるじゃねぇか」

「え? あ!」


黒河が悠奈の腕を振り払い、地面に落ちていた『それ』を拾い上げる。

 

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そしてゆったりとした仕草で、それを大祐に向けた。


「なっ!」


大祐の表情が、またしても怯えに歪む。

黒河の手にも、拳銃が握られていたからだ。


「くたばれやクソッタレが」


――!!


黒河はそう言うなり、無造作に引き金を引いた。

放たれた銃弾が、大祐の肩を掠める。


「うわッ! わっ、ああああッ!」


――!!!


慌てて逃げ出す大祐の背目掛けて、黒河は闇雲に撃ちまくった。

だが黒河の銃弾も木々に阻まれ、大祐には届かない。

そのまま大祐は、森の奥に消えた。


「ちッ、逃げ足の速ェ野郎だ」


黒河は忌々し気に、大祐の逃げていった方向を睨む。

彼の手で硝煙を上げる銃を見て、悠奈は呟いた。


「ど、どうして銃が落ちてんのよ・・・!? まさか大祐も、こうして落ちてた銃を拾ったの?」
「だろうな。 おおかた運営がゲームを動かすために、エリア内に新たに銃を配置したんだろうよ。 要はこの銃を使って、殺し合えっつってんだ。 おあつらえ向きじゃねぇか」


その言葉に悠奈は、愕然として声を上げる。


「ダメよ黒河! 運営の思惑に乗っちゃダメ!」
「運営の思惑なんざ関係ねぇよ。 俺ァあいつを殺してぇだけだ」
「落ち着いて黒河! 大祐が銃を持ってたからって、結衣殺しの犯人だって事にはならないわ! 結衣はナイフで殺されてたじゃない! だったら――」
「うっせぇな、知るかよそんな細けぇ事は。 オメーは知らねぇだろうけどな、あの野郎は前に結衣を襲おうとしたんだ。 さっきだって丸腰の俺たちに、遠慮なく撃ってきやがった。 あんな野郎を生かしといても、ロクなことにならねーだろ。 違うかよ、あ?」
「でも、だからって!」


そう言いかけた時、黒河が彼女に銃を向けた。

言葉を呑み込む悠奈に、彼は続ける。


「・・・おい赤毛。 あんまウゼェことほざいてっと、テメーからハジくぞ。 別にあの野郎が死のうが生きようが、テメーにゃ関係ねぇだろ?」
「あるわよ・・・! これ以上、死者を出すわけにはいかない! あんただって大祐と戦えば、殺されるかも知れないでしょう!? 私はあんたも救いたいのよ!」
「そうかよ、ご苦労なこった」


――!!


黒河はそう言って、引き金を引いた。


「ッ!」


至近距離で響いた轟音に、悠奈は思わず後ずさる。

だが弾丸は逸れ、彼女の横を掠め飛んでいった。


「は、外したの・・・?」
「・・・結衣に免じて、一発だきゃ外してやった。 だが次邪魔しやがったら、そん時はオメーからあの世に送る」
「・・・黒河・・・」


黙り込む悠奈を前に、黒河は踵を返す。

そして背中越しに彼女に告げた。


「オメーは他の奴らのところに帰れや。 そんで仲良しの連中と、生き残る方法でも探っとけ。 だが俺は関係ねぇ。 殺すだの救いてぇだの、ンなものは余計なお世話だ。 ・・・どうせもう、全員生き残る事なんかできねーんだからよ」


そう言い残し、黒河は大祐を追って駆け出す。

悠奈は『待って!』と叫んだが、彼は止まってはくれなかった。


・・・・・・。

 

・・・。

 

――そうして黒河が大祐を追い始めた、その時――


藤田修平は、春奈のPDAがアラーム音を鳴らしたのを聞いた。


「え・・・? メールの着信音?」


このゲームが始まった初日に聞いた、運営からのメールの着信音だった。

皆の視線が春菜に集中する。


「なんだ・・・? どうして、春菜のだけ・・・?」


春菜は訝しげな声を上げ、そっとPDAの画面に目をやる。

するとその表情が、すぐに凍りついた。


「なっ・・・なによこれ・・・!?」


それはいつもの彼女ならまず発する事のない、狼狽の声だった。

それに修平たちも、怪訝な表情を浮かべる。


「どうした春菜!?」


修平は思わず彼女に駆け寄り、PDAを見ようとした。

だがそのとたん春菜は、

 

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「ッ!! 見ないで!」


そう叫んで、PDAを隠そうとした。

その様子に異様さを感じ、修平はとっさに彼女の腕を掴む。


「なんだ、何が映ってるんだ!? 見せてみろ!」

「やだ、見ないでってば!」


春菜が修平の腕を振りほどこうとする。

だがその揉み合いの中、修平の視界に春菜のPDAのディスプレイが一瞬入った。

そこに表示されていた文字は――


<リピーターズコード>

12時間以内に、ここまでのゲームで接触時間が短かったプレイヤーを、下位から5名殺害せよ。 この条件を達成できな――・・・


辛うじて、それだけが読めた。


「な、なんだこれ!?」


――ッッ


修平が声を上げた時、春菜が彼を突き飛ばした。


「あッ!!」


修平がよろけた拍子に、春菜が跳び下がる。

目に混乱と困惑を滲ませた彼女を、修平は見据えた。


「ど、どういう事だ春菜・・・今の『リピーターズコード』ってなんの事だ?」


その声に、周囲にいた皆も目を見開いた。

 

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「リピーター!? ってまさか、あなたもリピーターだったのですか!?」


玲に問われ、春菜は表情を強張らせた。

そんな事は考えてもいなかった修平も、言葉を失った。

だがそれがまずかった。

春菜の反応を肯定と受け取った皆が、口々に動揺の声を上げる。

 

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「じゃ、じゃあリピーターズコードっていうのは・・・リピーターにのみ送られてきたメールって事?」

「運営から? 今さら何のために?」

 

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「まさか・・・状況を動かすために、新たな条件を与えたんじゃ!?」

「藤田先輩! 何が書いてあったんですか!?」


そう問われ、修平は一瞬迷った。

春菜が『言わないで』と懇願するような視線を送ってくる。

だが、言わないわけにはいかない。

それは胸に留めておくには、あまりに危険すぎる内容だった。


「・・・いいか皆、パニックになるなよ・・・。 詳しい事はわからないが、『12時間以内に、接触時間が短いプレイヤーを、下位から5名殺害せよ』という文言が見えた」


前置きを入れておいたのに、その言葉を聞いた皆は、びくっと身を震わせた。


「な、なんなのそれ・・・! 接触時間が短いプレイヤー? 誰がそれにあたるの?」

「藤田先輩たちは、恐らくそれに含まれないでしょう。 だけど僕と玲はボーダーですね。 そして、真島先輩たちも・・・」


司はそう言って、真島とまり子を見た。

その瞬間、まり子がうっと呻き、後ずさる。

真島の視線は、春菜の手元のナイフに向けられていた。


「・・・・・・」


真島は黙ったまま、そっとまり子を背中にかばう。

春菜も真島から視線を外さない。

2人の剣呑な視線が絡み、重苦しい沈黙が立ち込めた。

 

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「っ・・・」


司はちらちらと春菜を見ながら、逃げる隙を窺っているようだ。

だが無理もない。

ただでさえ危険が急速に増えているこの状況で、彼らをこの場に留まらせる事などできはしない。

まして、自分たちを『12時間以内に殺せ』という条件を与えられたプレイヤーと、一緒にいる事など誰にもできないだろう。


「くそッ・・・! どこまで根性が腐ってるんだ、運営の奴らは!」


修平たちがいくらひとまとまりになろうとしても、運営は次々と手を打ち、互いの繋がりを絶っていく。


そしてその触媒にさせられた春菜は、ため息混じりに呟いた。


「・・・どうやらもう、一緒にはいられないみたいね」

「春菜!?」

「こんな条件を与えられた私がここにいれば、まとまるものもまとまらなくなるわ・・・いや、もはやそういうレベルの話じゃないわね。 とにかく私は、この条件をクリアするしかない。 そのために行動させてもらうわ」


春菜はそう言って、踵を返した。

琴美がその背に向けて叫ぶ。


「ちょっと待って春菜ちゃん! まさか、運営の言いなりになるつもりなの!?」

「ごめんなさい、そうしなければならないの」

「ま、待て春菜! 行くんじゃない! そんなメールに踊らされるな! せめて悠奈が戻ってくるまで待て!」


修平は今度こそ止めようと声を張り上げたが、春菜は静かに首を振った。


「止めないで修平。 止めるなら刺すわよ」

「なっ!?」

「私には時間がないの。 少しでも早く行動しなければまずいのよ」

「ど、どうしてそこまで・・・!?」


重ねられた問いに、春菜は答えなかった。

ただその表情には、何か修平たちを案ずるような、優しい色が滲んでいる。


「・・・今回こそは、もしかしたら全てうまくいくかもと思ってたけど・・・結局、いつも通りね。 でも、もし生きてまた会えたら・・・」

春菜はそう言いかけ、口をつぐむ。

そしてその言葉の続きを言わないまま――

地面を蹴って駆け出し、森の奥に消えた。


「あ・・・」


修平は、またも止められなかった。

春菜がなぜリピーターになったのか、それさえも聞く事ができなかった。

戸惑いとやり切れない想いを抱えつつ、修平たちは互いに顔を見合わせる。


「な、何か変だったね・・・? 何か言いたそうにしてたし・・・」

「しかしそれがなんであろうと、彼女があのクリア条件を満たそうとしている事は確かなようですよ」

「ど、どうしよう皆! 状況はほとんど悪化するばかりみたいだけど」

「ええ。 これじゃほとんど、『全員で殺し合え』って言われてるのと同じです」

「俺たちに与えられた条件が、それぞれ殺し合いを加速する内容の上に――さらにリピーターには、それとは別の条件が与えられているという事か」

「じゃあ春菜の他に、リピーターと言えば・・・!?」

むろん悠奈はそうだろうが、他に誰かいるだろうか。

ほとんどのプレイヤーは違うだろう。

だがもし春菜と悠奈以外にも、リピーターがいるとしたら――


その可能性に思い当たった瞬間、修平は思わず瞳を見てしまった。



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「っ・・・」


瞳はびくっと、身を震わせた。

他の皆もその視線に気づき、瞳の方に目をやる。


「ふ、藤田くん、なぜいま瞳さんを見たの・・・?」

「つまり瞳も、リピーターという事か?」

「い、いや・・・そんな事は・・・」


修平はとっさに否定したが、司がそれを遮るように言う。


「いえ、その可能性はあるかもしれませんよ。 思えばこの人は、妙にゲームに慣れていた節がありました。 黒河を瞬時に制圧したりと、明らかに一般人とは一線を画する存在だった。 その理由が、ゲームに参加したのが初めてではないとしたら・・・?」

「っ・・・!」


確かにその推察も、十二分にありえる話だった。

そして瞳に、リピーターズコードについて尋ねようとした時――


「皆!」


悠奈の声が聞こえ、修平たちは振り返った。


見れば彼女が慌てた様子で、こちらに駆け寄ってくるのが見える。

 

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「悠奈!? 戻ってきたのか!?」

「黒河さんはどうしたんですか!? それとさっきの銃声は!?」

「黒河には逃げられてしまったわ。 銃声は、大祐と黒河が撃った音。 運営がエリア内に、新たに武器を配置したらしくてね・・・」

「そういう事でしたか・・・なにしろ無事で良かったですが・・・」

「無事とは言い難いわ。 状況はどんどん悪化してる。 アンタらもこれ、どういう事? なんで春菜がいなくなってるの?」


そう問う悠奈に、修平は答えた。


「こっちもマズい状況なんだ・・・春菜のPDAに、運営から『リピーターズコード』とかいうメールが送られてきた。 『12時間以内に、接触時間が短いプレイヤーを、下位から5名殺せ』って内容だった」

「えっ・・・!?」

「そのせいで恐らくこの中の誰かが、春菜の殺害対象になっちまった。 それで春菜は、俺たちと一緒にいられないと言って、どこかに行っちまった・・・!」

「リピーターズコード・・・それは予想しなかったわね」


苦々しい表情を浮かべる悠奈に、司がさらに声をかける。


「・・・春菜さんがリピーターだった事も驚きですが、僕は他にも瞳さんがリピーターではないかと思っています。 で、藤堂先輩。 確かあなたもリピーターでしたね? あなたのPDAにも、新たな条件が送られてきていませんか?」

「いや、私のには――」


悠奈がそう言いかけた時、


まるでタイミングを計っていたかのように、彼女のPDAがアラーム音を響かせた。


「・・・っと、どうやら私のところにも来たみたいね」


悠奈は自分のPDAを取り出し、メールを確認する。

すると春菜同様、その表情が凍りついた。


「・・・なるほどね。 春菜が姿を消すわけだわ」

「な、何て書いてあったんだ!?」


そう問うと、悠奈はPDAを修平たちに見せた。

そこに表示されていたメールの文言は――


<リピーターズコード>

12時間以内に、ここまでのゲームで接触時間の長かったプレイヤーを、上位から5名殺害せよ。

この条件を達成できなかった場合、プレイヤー全員が首輪を爆破される。 なおこのPDAの持ち主が死亡した場合は、その限りではない。

※この条件を満たすための武器は、21エリアに用意してある。 詳細はマップを参照の事。

 

「なっ・・・! なんだこれは!?」


修平は愕然として声を上げた。

悠奈に与えられた新条件に驚いたわけではない。

それもおよそ考え得る中で最悪の条件だが、真に恐ろしいのはそこではない。


「『この条件を達成できなかった場合、プレイヤー全員が首輪を爆破される』だって!?」

「だから春菜ちゃんは、あんなに・・・!」


琴美が悲痛な声を上げた。

修平にも先ほどの春菜の態度の意味がわかった。

12時間以内に5名のプレイヤーを殺さなければ、全員が死亡する。

だから春菜は、すぐにでも動こうとしたのだ。

少しでも多くのプレイヤーを救うために。


「・・・ホントやってくれるわね、運営の連中。 スローな展開に飽き飽きしたあいつらは、その埋め合わせのために、いつもよりスピーディな展開をお望みってわけね」

「じゃ、じゃあ瞳は・・・?」


悠奈の登場で棚上げにしていた疑問を、修平はもう一度口にした。


瞳に目をやると、彼女は明らかに動揺しながらも言う。


「ひ、瞳には・・・送られてきてない・・・」

「本当ですか?」

「だ、だって瞳のPDA、アラーム鳴らしてなかったでしょ? そうだよね、お母さん?」

「う、うん。 つまり瞳は、リピーターじゃないって事――」

「あるいはリピーターズコードが送られてくるのには、時間差があるって事でしょうかね」


司がそう言った時、悠奈がぽつりと呟いた。


「・・・確かに、時間差はあるようね。 春菜と私の例を見ても、それは確かよ。 でも、だからって『送られてきていない』とは言い切れないんじゃない? もし瞳がリピーターだとしたら、とっくに送られてきてる可能性は?」

「えっ?」


その言葉に修平たちは、目を見開いた。


瞳は息を呑み、黙り込んでいる。

そんな彼女を見据え、悠奈は続けた。

 

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「・・・私はずっと気になっていたのよ。 結衣を殺した犯人の動機はなんなのかって事が。 私ら14人の中で、誰がなぜ結衣を殺したのか。 わざわざ今朝のタイミングで、そうする必要があったのは誰なのか。 でもどう考えても、動機がある者は、私らプレイヤーの中にはいなかった。 いるとしたら運営だけよ。 だから運営はこのゲームに介入し、状況を動かした・・・そう考えれば説明がつくわよね。 違う、瞳? あんたが運営に命じられて、結衣を殺したんじゃない?」

「な、何だって!?」


修平は愕然として、瞳を見た。

瞳は叱られる前の子供のように、萎縮した表情を浮かべている。


「そうなのか、瞳!? 悠奈が言っている事は事実か!?」

「あ、あ・・・」

「瞳、怒らないから答えて! リピーターズコードが送られてきたの!?」


修平と琴美に詰め寄られ、人見はますます萎縮する。

だがやがて観念したように、泣きそうな声を上げた。


「お・・・送られてきた・・・! ゆうべ、瞳のPDAに、こんなメールが・・・!」


彼女はそう言って、自分のPDAを取り出した。

そこには例によって、このような文言が――


<リピーターズコード>

6時間以内にプレイヤーナンバー5『荻原結衣』を殺害せよ。

なおこの条件を達成できなかった場合、全員が首輪を爆破されて死亡する。

※この条件を満たすための武器は、4エリアに用意してある。 詳細はマップを参照の事。


「なんてこった・・・!」


その文章を見た時、修平は全てを悟った。

瞳は確かにリピーターだった。

そして運営はこのメールを送る事で、瞳を操り、強制的にセカンドステージを開始したのだ。

瞳がPDAを握り締め、泣きながら呟く。



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「ご、ごめんなさい・・・! 従うしかなかったの・・・!」

「ああ、わかってる・・・そうしなきゃ、皆が死んでいたんだもんな・・・」


瞳は自分を含む全てのプレイヤーを人質に取られ、決断を迫られたのだ。

皆で首輪を爆破され、死亡するか。

結衣の命と引き換えに、他の皆を生かすか。

止む無く彼女は後者を選び、結衣を殺した。

もっとも生き残ったところで、待ち受けているのはこのセカンドステージだ。

そうなる事がわかっていても、瞳はそうせざるを得なかったのだ・・・。


「・・・泣かないで、瞳・・・。 誰も瞳を責めたりはしないよ」

「き、緊急避難って言葉もあるわ。 法的にも罪には問われないはずよ」

「でも・・・」


瞳は辛そうに、涙をこぼす。


だがそこに険しい声がかけられた。


「・・・そうね、誰もあなたを責められやしない。 でも、『仕方ない』で済ませられる事ではないわね。 腹の底から怒りが湧いてくるわ・・・!」

「何!? 悠奈お前、瞳をどうするつもりだ!?」

「勘違いしないで。 私が怒ってるのは、瞳に対してじゃない。 こんなクソッタレな命令を送ってくる、運営に対してよ!」

「って悠奈さん、まさか――」

「そうよ、こんな命令に従う必要はない。 こうなったら例の『電波吸収体』を使って、エリア外に脱出し・・・助けを呼んでくるわ」


悠奈はそう言って、皆を見回した。


「いい、皆!? こんな連中に屈しちゃダメよ! 必ずこのゲームをぶち壊し、皆を救ってあげるからね!」


その言葉に、修平たちは一瞬躊躇し――

だが次の瞬間に、一斉に頷いた。

 

・・・。