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-ノベルゲーム・タイピング-

《8bit》Steins;Gate 変移空間のオクテット【1】

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

ご意見・ご要望がありましたら
─メール─ zippydle.scarlet@gmail.com
または
Twitter─ @Zippydle_s
まで連絡下さい。


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Steins;Gate 変移空間のオクテット

 

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・・・。

 

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車窓の外を、見慣れた風景が流れていく。

平凡な日常。

見えない明日。

それがどれだけ意味深く、そして大切なものか。

シュタインズゲート

ここは、未来の俺がそう呼んだ場所。

未知の世界線

誰も見たことのない明日が訪れる世界。

それは当たり前のようで、実は違う。

世界が決定論的であることを、俺は"あの戦い"で思い知った。

だからこそ、このシュタインズゲートに到着したことには、意味があるのだ。


『まもなく、秋葉原~。 秋葉原に到着です』


秋葉原は今日も、混沌としている。

家電量販店と、萌えショップと、駅前の再開発で生まれた近未来的ビル。

これらが特に境界を作るわけでもなく、渾然一体(こんぜんいったい)となっている。

この街で、ほんの1ヶ月前に、タイムマシンが生まれ、そして消えていったことは、誰も知らない。

俺――岡部倫太郎以外には。

いや、違った。

俺の名は狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真なのだった!

フゥーハハハ!

できれば声とフリ付きで叫びたかったが、電車内でそれをやると迷惑になるので自重した。

直後、まるで目眩のような感覚に襲われた。

じわりと、視界が滲む。

世界がモノクロになる。

足許がおぼつかない。

電車が揺れているのかと思ったが、すぐに自分で否定した。

この感覚は、以前にも感じたことがある。


まさか、これは――


目眩はすぐにおさまった。

ほぼ同時に、俺の乗った電車が秋葉原駅のホームに滑り込む。

ズボンの尻ポケットに入れたケータイが、かすかに震動した。

着信音。

このタイミングでのメール。

イヤな予感がした。

 

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電車を降りて、メールを開く。

最初に確かめたのは、メールの送信時刻。


2025/8/21


Dメール・・・・・・!

15年後の未来から届いたメールだった。

もう二度と、受け取ることはないと思っていたのに。

いったい、なぜ。

動揺しながらメールに書かれた内容を読んでみると、かなりの長文だった。


『久しぶりだな、いや、初めましてか? 鳳凰院凶真。 俺が誰かは、お前ならなにも言わずとも分かるはずだから省く。 これは俺が2025年から送る、1度目のDメールだ。 だがお前が2025年からのDメールを受け取るのは2度目になっているはずだ。 なにしろ、お前は俺なのだから。 お前にこうしてまたメールをすることになるとは、人生とはなんて残酷なものなのだ。 神への冒涜であることは、お前以上に認識しているつもりだ。 だから逃げずに読んでほしい。 現在のダイバージェンスは1.048728%だ。 シュタインズゲート世界線から、0.000132%ズレている。 このズレの原因は、神を冒涜する人物が現れたせいだ。 2010年現在、秋葉原には幻のレトロPCであるIBN5100が、1台のみ存在している。 α世界電でラウンダーに回収されたものであり、β世界線でお前が破壊したものと同一のものだ。 渋谷に住むナイトハルトという人物が、オンライン情報網を駆使して、そのIBN5100を手に入れた。 ナイトハルトという男は先天的に超常的な能力を持っており、IBN5100にジョン・タイターをはじめとする人々が付与したシンボルイメージを結合した結果、世界中の基幹産業の全てを"萌え産業"へとすり替えてしまった。 その後の15年で訪れるのは世界恐慌であり、あらゆる国家や宗教が"萌え"の前に敗北し崩壊していくことになる。 これはもはや、ディストピア第三次世界大戦など比ではない悲劇。 まさに"カオス"だ。 というわけで、オペレーション・ラーズグリーズの概要を説明する。 ナイトハルトという男から、IBN5100を奪還せよ。 それできっと世界線のズレは修正できる。 まだIBN5100は秋葉原のどこかにあるはずだ。 ナイトハルトとIBN5100を探せ。 残念ながら、このシュタインズゲート世界線においては、タイムリープやDメールは使えない。 "あのとき"のようなチートプレイはできないから注意しろ。 成功を祈る。 エル・プサイ・コングルゥ

 

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・・・。

 

"未来の俺"から届いたメールによって、俺は確信することができた。

やはりさっきの目眩のような感覚は、世界線が変動した影響なのだ。

オペレーション・ラーズグリーズか。

相変わらずの北欧神話だな。

だがそれがいい

・・・だがいったいどうすればいいんだろう。

ナイトハルトという男と、IBN5100を探せと言われても、なんの手がかりもない。


『まもなく、4番線に、軽浜東北線の電車がまいります』

 

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ふと見ると、俺が小動物と呼ぶ少女――天王寺綯の姿ホームにあった。

我が未来ガジェット研究所が入っているビルの階下に、ブラウン管工房という閑古鳥が鳴いている店がある。

そこの店長の娘だ。

手には、懐中電灯のようなものを持っていて、それをクルクルと振り回していた。

父親の姿は見当たらない。

このガキはこんなところでなにを?

まあいい。

それより、どうするべきか。

「そこの小動物よ。 お前が持っているそのライト、俺に見せてもらおうか」

「え・・・でもこれは・・・うぅ・・・お父さん、助けて・・・」


なぜいきなり泣き出しているのだ!

周囲の人々がザワザワとし始めた。

まずい、この状況は明らかにまずい。

ひとまずこの場から戦略的撤退すべきだ!

階段を降りて改札口のあるフロアへ行こう。


・・・。

 

 

 

 

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コンクリートの太い柱には、今、大人から子供まで、幅広い人気を見せているテレビアニメ『雷ネット翔』のポスターが貼ってあった。

"ご自由にお持ち帰り下さいな"と書いてある。

1枚だけなのに?

剥がせということか?

そんなバカな。

他のポスターがないか調べてみる。

だが、地面においてあるドクターペッパーの空き缶くらいしか見つからなかった。

 

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なぜかこんな所にドクターペッパーの空き缶がある。

空き缶の下になにかが・・・?

 

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空き缶をどかすと、紙片が出てきた。

 

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紙片を拾い上げてみる。

紙には”ロックンローラーな人。 2405”と書いてあった。

なんだこれは?

こんな紙片には興味はないので元にもどしておこう。

 

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周囲の目を気にしつつ、ポスターを柱から剥ぎ取った。

意外にも、キレイに剥がせたぞ。

階段を上がってホームに行こう。


・・・。

 

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ホームには山手線の電車が停まっている。

綯が電車にも乗らず、ホームをちょこまかと歩いている。


『まもなく、4番線に、京浜東北線の電車がまいります』

綯にポスターを渡す。


「わあ、ありがとー、オカリンおじさん!」
「なにを無邪気に喜んでいるのだ、小動物よ。 お前は知るべきだ、世の理は等価交換によって成り立っていると」
「・・・?」
「つまり、こういうことだ。 ポスターの代わりにその懐中電灯をよこすがいい」
「え、でも・・・」
「イヤならポスターを返してもらう」
「うぅ・・・」


綯は泣きそうな顔になって、懐中電灯とポスターとを交互に見比べた。


「・・・あげます」

 

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やがて、嗚咽をこらえて差し出してきたのは、懐中電灯。

俺はニヤリとしながら、それを受け取った。


「これが、世の理というものだ。 いい勉強になっただろう? フゥーハハハ!」


小学生を意のままに操るなど、実に容易いな!

階段を降りて改札口のあるフロアへ行こう。

 ・・・。
 
 
 

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 コンクリートの太い柱には、ポスターを剥がした跡が残っている。
 
 ・・・。
 
 
 

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 改札に来た。
 
 とりあえず外に出てから、オペレーション・ラーズグリーズのことを考えよう。
 
 「あれ?」
 
 ない、ないぞ!?
 
 ポケットに入れておいた財布が、ない!
 
 中には、俺のなけなしの全財産である1200円と、定期が入っているのに!
 
 
 「くっ、ふざけるなぁぁぁ・・・! これも機関の、仕業だというのかぁっ!」
 
 
 これじゃ、外に出られないだろ! どうしてくれる!
 
 咆哮していたら、駅員に白い目で見られた。
 
 ん?
 
 駅員と思ったけど、よく見たら、ブラウン管工房の店長ではないか。
 
 駅員っぽいコスプレをしていて、帽子までかぶっているから、最初は分からなかった。
 
 ヤツのことを、俺はミスターブラウンと呼んでいる。
 
 ブラウン管大好きのマッチョオヤジだ。
 
 仏頂面でうつむいている。
 
 なんか、怖い・・・。
 
 だがちょうどいい。
 
 駅から出る方法について、あのマッチョオヤジに相談してみよう。
 
 
 「ミスターブラウン、奇遇だな。 俺は今、財布を落として困っている」
 
 「あ? うるせーよ。 俺は今、忙しいんだ」
 
 「・・・・・・」
 
 
 すごく、機嫌が悪そうだ・・・。
 
 
 「ククク、読めた。 読めたぞミスターブラウン。 貴方が探しているのは、これだろう?」
 「ぬぉ! なんでおめえが持ってんだ!? さては盗みやがったな!?」
 
 
 喰らうがよい!
 
 エターナルフォースブリザード!!!
 
 と心の中だけで思って実行しない。
 
 返り討ちにされる。
 
 間違いない。
 
 
 「やっぱり盗みやがったな?」
 「ふ、ふざけるな! 人の好意を踏みにじるつもりか! 言っておくがこの懐中電灯は、貴方の娘を騙して手に入れたものだぞ!」
 「あん? 俺の娘を騙して泣かせて奪ってきた、だと・・・?」
 「あ、いや、騙したというのは言葉のあやなんですが・・・」
 
 
 あの小動物が半泣きになっていたのは事実だ。
 
 しかしそれを正直に話したら、この場でジャックハマーを決められそうなので、あえて黙っておいた。
 
 
 「まあいい。 見つけてきたことに免じて、許してやる」
 「これはただの懐中電灯ではない・・・。 そうですね?」
 「はっは。 分かるか? こいつはな、駅員ライトに見せかけた、ブラウン管テレビ型の光学迷彩ライトなんだぜ!」
 「なん・・・だと? 光学迷彩ということは、つまり、カメレオンのように透明人間になれる、ということか!?」
 
 「そういうことだ。 試してみるか?」
 
 
 そんなバカな!
 
 
 マンガの世界じゃあるまいし、そんなもの、あるわけがない!
 
 
 あったとしても、このおっさんが持っているわけがない!
 
 もっとこう偉い大学の学者とかなら、持ってるかもしれないが。
 
 いや待て・・・。
 
 α世界線では、この男には隠された素性があった。
 
 もしやこのライトはSERN製で、本当に光学迷彩が・・・?
 
 
 いやいや、だがもしそうだとして、それをミスターブラウンがおおっぴらに明かすだろうか。
 
 ましてや俺のような一般人に、そんなすごいガジェットを使わせようとするだろうか?
 
 分からない。
 
 分からないが、駅の改札をくぐり抜けるのには使えそうだ。
 
 
 「レディー・・・ゴーッ!」
 
 
 助走を付け、改札へと突進した。
 
 改札をハードルに見立てて・・・
 
 鳳凰院凶真、跳びまーす!
 
 ・・・無理だった。
 
 人が多すぎた。
 
 全力疾走は改札の20メートル前で阻まれた。
 
 社会のルールに逆らうための挑戦すらできないとは・・・。
 
 狂気のマッドサイエンティスト失格だクソッ!
 
 
 「ぜひ試させてもらおう」
 「よし、じっとしてろよ」
 
 
 ミスターブラウンは俺に懐中電灯を向けた。
 
 眩しくて、たまらず目を閉じる。
 
 
 「よし、いいぜ。 完璧だ」
 「お、おおおお!?」
 
 
 本当に、透明人間になっている!
 
 なんだかよく分からないが、SERNの科学力は世界一ィィィィィ!!
 
 
 「ま、1分間しか効果は続かねぇから、女風呂を覗くのは難しいかもな。 はっは」
 
 
 なに!?
 
 そういうことは先に言え!
 
 こうしてはいられない。
 
 急いで改札を抜けるのだ!
 
 
 ・・・。
 
 
 
 

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 駅から脱出した俺は、ラジ館の前で一息ついた。
 
 気が付けば、光学迷彩ライトの効果は切れている。
 
 凄まじい未来ガジェットだった。
 
 この狂気のマッドサイエンティストが嫉妬するレベル。
 
 それを平然と使わせてくれたミスターブラウンは、いったいなにを考えているのか。
 
 
 「あるいは・・・世界線が変動したことが影響しているのか?」
 
 
 
 

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 「こんなところでも厨二病か」
 「おお、助手!」
 「助手じゃないと言っとろーが!」
 
 
 この仏頂面の女子は、牧瀬紅莉栖。
 
 俺の助手だ。
 
 我が未来ガジェット研究所のラボメン――ラボラトリーメンバーの略――ナンバー04。
 
 まだ18歳だと言うのに、飛び級で大学を卒業し、アメリカの有名な学術雑誌に論文が載ったほどの天才だ。
 
 この世界線において、運命石の扉(シュタインズゲート)の選択により俺はこいつと無事再開することができた。
 
 もちろん、世界線をまたいで記憶は継続されない。
 
 俺以外は。
 
 だからラボメンとしてともに過ごしたあの夏の日々のことを、紅莉栖はほとんど覚えていない。
 
 というわけで再会したときには、とてもしおらしかったのだが――
 
 
 「白衣を着た怪しい男が独り言をブツブツつぶやいているから、まさかと思ったら、案の定、岡部だったわね。 ところかまわず厨二病を発症するのはやめたら? イタいから」
 
「ぐっ・・・」


この隠れ@ちゃんねらー娘がぁっ!

上から目線の遠慮のない物言い、挑みかかるような鋭い目付き。

再会したときのしおらしさなど、見る影もない。

まあ、本性をさらけ出してくれるというのは、悪い気分はしないが。

それだけ、信頼されているということだから。


「いや、それより未来が大変なのだ、クリスティーナ!」
「はいはい大変大変」


さらっと流しやがった!

おのれ前言撤回だ!

気分が悪いにもほどがある!

助手はもっとしおらしくするべき!


「聞いてくれ、未来の俺からDメールが届いたのだ!」
「Dメール? なにそれ?」


あ、そうか・・・。

紅莉栖は、電話レンジ(仮)で実験した日々の記憶を失っているんだった。

ならば、教えない方がいいかもしれない。

巻き込んで、もしまた、以前のようなことになったら・・・。

もう、あんなことは二度とゴメンだ。

オペレーション・ラーズグリーズは、俺1人で解決しなければ。

 

「どうしたの? 岡部? ラボ行くんでしょ? しょうがないから一緒に行ってやる」
「いや、なんでもない。 俺は用事があるから、ラボには1人で行くがいい」
「用事って? なんなら付き合うけど」
「フゥーハハハ! 相変わらず好奇心旺盛だなクリスティーナ! だが少しは空気を読め! 俺は世界の運命にかかわる、超極秘作戦を遂行中なのだ! 助手ごときの手には負えん!」
「なによそれ! バカなの? 死ぬの!?」


あ、キレた・・・。


「人がせっかく一緒に行こうと・・・。 フン、もういい。 ええ、勝手にするわよ。 厨二病になんか付き合ってられるか!」

紅莉栖は肩を怒らせながら、中央通りの方へ歩いていってしまった。

後で、機嫌を取っておいた方がいいかも・・・。

だがまずはオペレーション・ラーズグリーズだ。

周囲を見回してみる。

 

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目の前のラジ館は、なぜかシャッターが閉まっていた。

今日はやってないのか?

そんなはずはないのだが。

閉鎖しているラジ館のシャッター前には、広告用の大きな"うーぱ"の人形が鎮座している。

その横には、非常口らしきドアが見える。

巨大うーぱ人形は、FRP製のしっかりしたものだった。

ちなみに"うーぱ"とは、今、巷で大人気のテレビアニメ『雷ネット翔』に登場するマスコット的キャラクターだ。

この"うーぱ"の存在こそが、第三次世界大戦が起きる未来を回避した原因という事実を知っている人間は、おそらく世界中でこの俺ただ1人だろう。

そうか、ということはシュタインズゲート世界線へ戻るためには、改めて"メタルうーぱ"を手に入れておいた方がいいかもしれない。

"メタルうーぱ"をかつてまゆりがゲットしたのは、ラジ館7階にあるカプセルトイコーナーだったな。

だが、残念ながら今はラジ館の中に入れない。

俺は携帯電話を取り出した。


「俺だ。 ラジ館非常口の解錠コードを至急、衛生から俺のケータイに転送してくれ。 なに!? 衛生が反応しないだと!? くっ、機関の手がもう回っているのか。 これじゃ手詰まりだ。 ・・・バックアップを期待できないとなると、派手にやらかすしかないぞ。 ・・・なに? 回せば開く? フッ、なるほど、大したセキュリティだ。 どうやら俺たちは、機関にナメられているらしい。 それが運命石の扉の選択か。 ミッションを継続する。 エル・プサイ・コングルゥ


俺はうーぱに近付いた。


「とりあえず困ったときは回してみよう」


巨大うーぱを回してみた。

意外にもすんなりと回った。

しばらく回すと、どこかで"カチッ"とスイッチが入ったような音が聞こえて――

 

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直後、重々しい轟音とともに、非常扉が開いた。


「え、なにこのRPGのダンジョン的展開」


細かいことを気にしてはいけないんだろうか。


・・・。


エレベータは止まっていたので、薄暗い階段を7階まで上ってきた。


「はあ、ひぃ、ひぃふ、ふひぃ、ぜい、はぁ、ふぅ・・・」

 

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死ぬ思いで7階まで到着してみると、そのフロアだけ証明が点いていた。

それに人の気配がある。

誰かが7階の階段踊り場にいる。

まさか、機関の刺客か!?

それとも、例のナイトハルトなのか!?

そっと様子を窺ってみると、そいつは見知った顔だった。


「・・・・・・・・・」


桐生萌郁。

またの名を"閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)"。

なぜこいつがここにいる・・・?

萌郁はラボメンナンバー005であり、現在はラボの階下にあるブラウン管工房のバイトでもある。

そして、別の世界線では俺と萌郁は敵同士だった。

この閉鎖されたラジ館と、なぜかそこにいる萌郁の存在が、俺に1つの疑念をもたらす。

やはり世界線が変動したのは、SERNとラウンダーがかかわっているのではないか、ということ。

IBN5100を手に入れたナイトハルトという男も、ラウンダーの一員である可能性がある。

となると、ここで萌郁に見つかるのはまずいぞ。

そもそも、この世界線では萌郁がラウンダーなのかそうでないのか、俺は確認できていない。

くっ、すぐそこに、目的のカプセルトイがあると言うのに・・・。


正面には100円玉を入れてレバーをガチャっと回す例の装置がある。

正式名称は大人の都合上、なかなか言えない。

そして左には上にも下にも行ける階段がある。

二つの消化器が並んでいるが、使う必要はないだろう。


・・・。


萌郁はとても眠そうだ。

目がトロンとしている。

萌郁は記録的に眠そうだ。

萌郁に話しかけるか・・・?

駄目だ!そもそもの目的を忘れたのか!

今回は潜入ミッションのはずだ。

いかなる者にも気づかれてはならない。


・・・。


・・・萌郁はもう寝てるんじゃないか?


・・・。

 

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萌郁は完全に眠ってしまった。

ケータイを握りしめたまま、というのは大したものだ。

萌郁はスヤスヤと眠っている。


・・・。


抜き足差し足で、萌郁を起こさないようにカプセルトイに近付いていった。

すると――

 

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「ハッピーメリークリスウーーーパっ?」
「ひょっ!?」


なんだこれはー!

いきなり大音量でカプセルトイの装置が喋り出したぞ!

思わず変な声を出してしまったではないか!

萌郁の様子を窺う。

幸いにも目を覚ましてはいなかった。

おのれ機関め。

こんなところにも罠を仕掛けているとは、ふざけたマネを・・・!

くっ、まだ心臓がドキドキしている。

この俺としたことが・・・。

よく見てみると、そこに並んでいるのはカプセルトイではなかった。

うーぱのボール型の身体を完全再現したその筐体は、数字のボタンで回答する、クイズゲームのようだ。

電光掲示板には、問題が出題されている。

筐体に話しかけた。

へんじがない ただの機械のようだ。

大きなうーぱがこっちを見ている。

電光掲示板には問題が映し出されている。

ロックンローラーな人といえば」と書かれているが・・・ロックンローラーな人・・・だと?

 

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クイズゲームのボタンを押そうとして躊躇した。

とにかく落ち着いて押すのだ。

『2405』

む?

あれ?

なんの反応もない。

どうしたんだ?

正解を入力したと思ったんだが・・・。

機械の調子が悪いのか?

仕方ない、少し時間を置いて再挑戦するとして、どこかで時間を稼ごう。

屋上にでもいくとするか。


・・・。

 

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屋上に出た俺は、そこにあった"あるモノ"を発見し、愕然となった。


「そんな、バカな・・・! なぜ、これがこの世界線にあるんだ・・!?」


外見は、まるで人工衛星

高さは5メートルほど。

屋上に静かに置かれているこれを、俺はかつて見たことがある。

そう、これは、2036年からやってきたタイムマシンだ!

そして俺の予想では、これに乗ってきたのは、ジョン・タイター

この世界線においても、あのタイムトラベラーが来ているとは・・・!

未来の俺からのDメールで語られていた内容に、ますます信憑性が出てきた。

だが周囲を見回してみても、肝心のジョン・タイターの姿は見当たらない。

 

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とりあえずシャベルを持って行くことにした。

使う機会は・・・なさそうだが。

人工衛星の直下あたりに、バッジのようなものが落ちている。

 

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バッジを拾い上げてみた。

これって、ラボメンバッジか?

だが、なにかが違う・・・。

このバッジには『O××××××× 2010』と刻まれていた。

これはなにを意味するんだろう。

タイムマシンを調べてみたが、入り口らしきものは見当たらない。

表面には継ぎ目すら見つけることはできなかった。

確かこれは、指紋認証で入り口が開くタイプだったはず。

ということは、ジョン・タイターがいなければ乗るのは絶対に不可能、ということか。


・・・まあいい、そろそろもう一度うーぱのところに戻ってみるか。


・・・。


7階の様子を探ってみる。

まだ萌郁は階段に座り、眠っているようだ。

萌郁はまだ眠っている。

よし、うーぱのクイズゲームに再挑戦だ。

『2045』

 

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「うぅぅぅぅぅぱぁぁぁぁぁっっっっっ!」


ちょ、おい、黙れっ!


焦る俺を嘲るように、うーぱの目がカッと怪しく光った。

口の部分がガコっと開き、カプセルが落ちてきた。

カプセルをあけると、中には銀色のうーぱが入っていた。

 

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シュタインズゲート世界線へ戻るカギ、メタルうーぱ!!

なんという引きの良さだ。

我ながらほれぼれしてしまう。


「うぅぱ・・・?」


この音と光では、さすがの萌郁も起きてしまう!

それをつかむと、俺は全速力で階段を駆け下りた。

薄暗い階段を下りていく途中、自分が着ている白衣のポケットが発光したような気がした。


・・・。

 

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「はあ、ぜえ、ぜえ、ふう、ひい・・・」


中央通りまで全速力で逃げてきたところで、俺はついに力尽きた。

これ以上走れない。

膝に手を突いて、息を整える。

背後を振り返ってみるが、萌郁が追ってくる気配はなかった。

どうやら逃げ切れたようだ。

今日も秋葉原に降り立った勇者たちを見守るLAOXがまぶしい。

む・・・?

あのLAOXの看板の「X」の文字・・・曲がっているぞ。

手を伸ばして、LAOXの看板の、曲がっている「X」をつかんでみた。

と、手応えがあった。

つかんでみる。

 

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「と、取れた!?」


あんなに大きな看板が、いまや手の中に収まる程度の大きさと化してしまっている。

まさか、この世界は遠近法など存在しないとでも言うのかーっ!?

周囲を眺めてみる。

中央通りはなかなかの人だかりだ。

なのに、今の俺の行動を見て驚きの表情を浮かべた通行人は、1人もいない。

細かいことは気にするな、ということかッ!?


「こ、こここ、これぞ、『スターダスト・シェイクハンド』の亜流技、『ハンズ・オブ・グローリー』だっ、フゥーハハハ!」


混乱しているのを周囲に悟られないために、とりあえず高笑いをしておいた。

それにしてもこの『X』の文字・・・、まるで十字架みたいだな。


・・・。

 

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むっ!? まずい!


正面から歩いてくるのは、およそ秋葉原に似つかわしくない"ガイアにもっと輝けと囁かれているっぽい男たち"ではないかッ!

ヴァイラルアタッカーズ

この世界線でも存在していたか。

ヤツらを殲滅するぐらい簡単だが、ここで余計なトラブルに巻き込まれて時間をロスしたくはない。

俺は急いで来た道を引き返した。


・・・。


中央通りは、買い物客などで賑わっている。


・・・。

 

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万世橋へ来ると、カツサンドが食べたくなる。

この橋を渡った先は、オフィスビル街になる。

電器店や萌えショップは微塵も見られなくなる。

ちなみにルカ子の実家である柳林神社も、橋の向こうだ。

その橋の真ん中に、なぜか大きな棺桶を携えた、黒衣の男が立っていた。

男のせいで橋は通行止めになっており、車も通ろうとしない。

なんだ・・・あの男・・・・・・。

くっ、あまりの威圧感に、この俺でさえ目を合わせられない。

ヤツからは・・・異質なオーラを感じる・・・。

そーっと、男の様子を窺ってみた。

橋の真ん中に仁王立ちしている様はさながら武蔵坊弁慶であり、あまりにも現実離れしていた。

しかも、棺桶って・・・。

秋葉原に火葬場なんてあったっけ?


「いや待て。 そうか、ククク、そういうことか・・・! 他の連中は騙せても、この俺の目はごまかせんぞ! ヤツは、コスプレイヤーだッ!」


現実を突き付けてやったが、男は微動だにしなかった。


あれ・・・、もしかして、違った?

ガチで真性のヤバい人だったりする?

くっ、に、逃げるべきかもしれんっ・・・!

漆黒の棺桶には、洋風の装飾が施されていた。

蓋の部分には、十字の傷痕のようなものがある。

中には・・・さすがに誰も入ってないよな?

この十字、何かはめられるのか?


助手に電話してみた。


「助手よ! 今どこだ!」

「なによ、そんな焦った声出しても、騙されないからな」

「今すぐ万世橋まで来てくれ! 頼む、一生のお願いだ!」

「・・・・・・分かったわよ」


――数分後。

 

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「お待たせ」
「早いな。 さすが我が助手」
「助手じゃない。 で、いったいなんなの?」
「見て分からないか? ヤツだ・・・『黒騎士』だ」
「オーマイ・・・・・・、あれ、あんたの知り合い?」
「なんでだっ! 俺にはあんな珍妙な知り合いはいない! 俺をなんだと思っている!」
「珍妙な自称マッドサイエンティスト厨二病
「フッ。 それで、俺は橋を渡りたいのだが、どうすればいいと思う?」
「あ、図星を突かれてスルーした」
「どうすればいいと思う?」
「お願いして、どいてもらえばいいでしょ」
「ヤツが、話が通じるような相手だと思うのか!?」
「話してもいないうちから決めつけるのは偏見よ」
「今日のお前が言うなスレはここか」
「なんだったら、私が聞いてきてあげるけど」
「よせっ」


本当に黒衣の男に歩み寄っていこうとする紅莉栖の腕を、慌ててつかんだ。

 

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「ちょっ、きゅ、急に触らないでよっ・・・・・・」


なぜか顔を赤くしている。


「不用意に近付くな、バカが! ヤツの射程内に入れば、誰だろうとアレの餌食になる・・・・・・!」
「アレってなんだ?」
「『黒き地獄の門――ブラッディヘルズゲート』・・・。 棺桶の蓋が開いたとき、地獄への門が開く・・・。 そこに吸い寄せられたら二度と戻ってこられない」
「ブラッディは血だらけって意味よ。 黒はブラック。 中学生レベルの間違いだな」
「意訳だ!」
「とにかく、なんとかしてヤツを浄化させたい。 方法を教えてくれ」
「・・・はあ、まったく。 こんなのちっとも論理的じゃないわ」


紅莉栖はため息をつきつつ、遠めから黒衣の男を観察した。


「あの棺桶の傷痕。 元々はめられていた十字架の飾りが、取れたように見える」
「む? いいところに気が付いたな、さすが我が助手だ。 そこが、突破点になる」

「おのれは最初からすべて知っていて、私を試してるのか?」
「あ、いや、違います本当に困ってたんですすみません・・・・・・」
「分かればいいのよ」


ククク・・・。

これ以上、助手を怒らせても俺にとってはデメリットしかないからな。

飴と鞭をうまく使い分け、これからも大いに利用させてもらうぞ、助手よ! フゥーハハハ!


「で、橋を渡ってどこに行きたいの? なんなら付き合うけど」
「お前はよほど暇と見えるな」
「な、なによっ! 人が親切で言ってやってるのに! もう電話されたって、二度と駆けつけてやらないからな!」


紅莉栖はプンプンしながら駅の方へ歩いていってしまった。

それじゃデゼニもクリアできないと、以前、ラジオセンターに買い物に来ていたおっさんに言われた気がする。

言葉の意味は、今も分からない。

さっき手に入れた『X』の十字架を棺桶の傷痕にはめ込んでみた。

 

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その瞬間、周囲がまばゆい光に包まれ、俺はたまらず目を閉じた。

気が付いたときには、棺桶も黒衣の男も目の前から消えていた。

まるで蒸発でもしてしまったかのようだった。

 

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「ク、ククク・・・どうやら俺は、本当に厨二ワールドに迷い込んでしまったらしい・・・」


オラワクワクして・・・こねーよ!

一刻も早くこの異常な世界から抜け出さなければ!


・・・。

 

柳林神社の鳥居をくぐると、数匹の猫が寄ってきた。

この神社には、人懐っこい猫が多く集まってくる。

そしてそんな猫たちがくつろぐ境内は、猫の額並みの狭さだ。

 

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「あ、岡部さん。 こんにちは」


巫女服を着た漆原るか、神事でよく使うフサフサ――正式名称は忘れた――を持って、立っていた。


「ここにいたのか。 猫の守護者よ」
「え、あの、最近は、エサを上げてないんですよ? 以前は、こっそりあげてたんですけど・・・」


猫どもが人懐っこいのは、これが原因か。


「お姉ちゃんに、怒られたんです・・・。 餌付けしたらダメだって・・・。 だから・・・」


いきなり泣きそうになっている。

唇をキュッと噛み、瞳をウルウルさせている様は、どう見ても可憐な少女。

だが男だ。


「ルカ子よ。 五月雨の素振りはどうした?」

「今日は20回やりました」
「なっ・・・・・・!?」


すでに済ませていた、だと!?

 

「成長したな。 良い心がけだぞ」
「はい。 ありがとうございます」
「ここに来た理由は他でもない。 IBN5100という古いPCについて、聞き覚えはないか?」


かつて、別の世界線において、俺がずっと探し続けたIBN5100は、この柳林神社に奉納されていたのだ。


「そう言えば最近、フェイリスさんからも、古いPCの話を聞きましたよ」
「なに!? フェイリス・ニャンニャンだと!?」


別の世界線で、この柳林神社にIBN5100を奉納したのは、そのフェイリスだった。

そうだ、あの猫娘は亡き父親がレトロPCマニアであり、しかも秋葉原再開発計画にも参加している、この街の有力者だったりするのだ。


「すごく高い、幻のPCだったんですが、なんとか手に入れたとか、なんとか・・・・・・」
「そうか。 情報提供に感謝する」


こうなったら、フェイリスに会うしかないな。


「最近、この神社に猫がよく来るようになったんですよ。 でも、みんな一ヵ所に集まって地面を引っ掻いているんです。 頼んでも頼んでもやめてくれないんです」


猫に頼み事をしているのか、ルカ子よ・・・。


「ここになにかあるんでしょうか・・・?」


このあたりは景色がいい。

神社という空間と、巫女という存在が雰囲気を盛り上げてくれているんだろう。

とくに巫女の持っている儀式具『フサフサ』はいい雰囲気を醸し出してくれている。

 

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「ルカ子よ。 そのフサフサだが」
「あ、これですか? 大幣(おおぬさ)です」
「そうだ、このフサフサ・・・俺に少し貸してくれないか?」
「で、でもこれは、ボクのじゃないので・・・」
「頼む・・・。 これには、世界の未来の運命がかかっているのだ・・・!」
「せ、世界の、未来の、運命・・・」
「防人としての義務を果たせ、ルカ子。 そのフサフサを、俺に貸すのだ・・・!」
「じゃあ、えっと、ちょっとだけでしたら・・・」


ルカ子は躊躇いながらも、フサフサを俺に渡してくれた。

 

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「あ、あの、大事に、扱ってくださいね? それと、後で、返してくださいね? でないと、ボクが、怒られちゃいます・・・」
「案ずるな。 八百万の神は、どこにでもいる。 つまり、そういうことだ」
「・・・?」


ルカ子と猫たちに見守られつつ、シャベルで土を掘り返してみると、お菓子の缶のようなものが出てきた。

 

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「あ、それ・・・ボクが、小さい時に埋めた、タイムカプセルです。 どのあたりに埋めたのか、分からなくなっちゃって・・・諦めていたんですよ」
「待て、近寄るなっ」


俺は爆弾処理班になったつもりで、ルカ子を手で制した。


「え? え?」
「罠かもしれん。 中身がすり替えられている可能性が」
「え、あの、だ、誰が・・・」
「機関だ。 他に誰がいる」
「機関・・・?」
「それでルカ子よ。 タイムカプセルの中身は?」
「あの・・・、幼い頃、父さんからもらった、男の子用と女の子用の、おもちゃです・・・。 男でも女でもどちらでもイイんだよっていう意味だと、父さんが、話していたのを・・・覚えています・・・。 お、岡部さん、中身は・・・すり替えられちゃっているんですか?」


俺は慎重にカプセルの中身を確かめた。

 

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お手玉と、メンコ・・・だと・・・」
「よかった・・・。 すり変えられて、いませんでしたね・・・」


な、なんというアナクロなオモチャなのだ・・・。

いや、これはオモチャですらない。

むしろ、伝統工芸品だ!


「岡部さん、見つけてくださって、ありがとうございました。 あの・・・よかったら、メンコで、遊んでみませんか?」
「わ、悪いなルカ子よ・・・。 俺には、やらなければならない使命があるのだ。 その使命が片付いたら、きっとお前に付き合うと約束しよう」
「はい。 待ってます」

 

微笑みながらそんな言葉を告げられたら、胸がキュンとしてしまうではないかアッー!

 

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お?

ポケットの中でまた淡い発光が。


「岡部さん、い、今の光は、なんですか・・・?」
「・・・それを知りたいと言うのか? いや、やめておけ。 知れば、お前はきっと後悔することになる」
「え・・・」 
「今見たことは、忘れるんだ。 それがお前のためだ。 分かったな?」
「は、はぃ・・・」


それと、ナイトハルトに関することで情報収集をしておいた方がいいかもな。


「ルカ子、お前はナイトハルトという男についてなにか知らないか?」
「え? ナイトハルトさん・・・ですか? ドイツの方でしょうか?」
「いや、俺も見たことはないが、おそらく日本人だろう。 かなりの危険人物だ」


なにしろ、世界を"萌え"によって支配するという、世にも恐ろしいことを成し遂げてしまう予定の男だからな。

そんなHENTAIは日本人ぐらいのものだろう。

そう、ナイトハルトはおそらく、ダルをもしのぐほどのHENTAI男だと思われる。


「今日、アキバで怪しげな男を見かけなかったか?」
「そう言えば・・・今日駅前を通ったときに、変なことを言われたんです。 "これはけしからん巫女だ"って・・・。 見た目は普通の男子高校生だったんですけど、すごく大きなダンボールを抱えていたのが、印象的でした」
「大きなダンボール・・・だと・・・!?」


その中にIBN5100を入れて、持ち歩いているということか?

だがあれは重さ25キロ近くある。

それを持ったままアキバをうろつくなど、常識的に考えて無理そうだが。


「それと、胸ポケットに、ええと、なんて言うんでしたっけ・・・、アニメの女の子の、お人形さんが入っていました・・・」
「なんというアニメだ?」
「わ、分かりません、ボク、アニメは見ないので・・・。 まゆりちゃんなら詳しいかもしれません。 ピンク色の髪をしていて、白っぽい服を着ていました」


世界を萌えで染め上げた男にはふさわしい特徴と言える。

そいつがナイトハルトである可能性は、非常に高い。


「どこへ行ったかは分からないか?」
「はい・・・。 そこまでは・・・」
「そいつに声をかけられたのはいつだ?」
「1時間ぐらい前です」


だとしたらもう駅前にはいないか・・・。


「貴重な情報感謝する、ルカ子」
「いえ、岡部さんのお役に立てたならうれしいです」
「お前の家に上がらせてもらっていいか?」
「ええっ? あ、はい、もちろんですっ。 岡部さんにはいつもお世話になっていますし、母さんも、会いたがっていました。 あんまり、大したおもてなしは、できませんけど、それでもよければ・・・」


母親を紹介される、だと?

これではまるで、カノジョの家に結婚を前提に挨拶に行くカレシのようではないかアッー!


「いや、済まない。 用事を思い出した。 あまり長居はできないから、今日は遠慮しておく」


ルカ子は俺がそう言うと、明らかにシュンとしてしまった。

だが男だ!


・・・。

 

 

 

 

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ガード下は、真夏の暑い時期はここだけ少し涼しい気がする。

そう言えば以前、ダルがおもむろに"ガード下って萌えるよな。 線路を支える柱の無骨さとか"と、のたまっていたな。

奴はスーパーハカーとしての腕は確かだが、人としては終わっている。

ここは昼でもライトがついている。

安全でいいことだが、組織に見つかる前になんとかしたほうがいいだろう。

・・・というか、よく見ると黄色い懐中電灯が街灯からぶら下がっているぞ?

この形、前にも見た覚えがあるな・・・。

ライトまでは、手が届かない。

どうやらここは、本気を出すしかないようだな。

リミッター解除!


「手を伸ばせば、きっと届く。 それが運命石の扉の選択だ・・・。 今! 掟破りの! 『星屑との握手――スターダスト・シェイクハンド!』 とうっ!」


手を掲げてジャンプしてみた。

届くわけがなかった。

うーん、暇そうなあの女を呼んでみるか?

助手に電話してみた。


「助手よ、今どこだ?」
ソフマップの前」
「今すぐガード下まで来てくれ。 頼みたいことがある」
「どうせまた、ふざけた頼みでしょ? お断りします」
「頼む・・・。 どうしても、お前でなければならんのだ・・・」
「・・・分かったわよ」


―――数分後。

 

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「来ましたけど? いったい私になにをやらせるつもりだ?」
「あれを見ろ」


俺は柱にぶら下がっている懐中電灯を指さした。


「なにあれ?」
「今すぐにあれを手に入れたい」
「岡部が届かないのに、私が届くわけないだろ」
「だからこそ助手よ! これよりオペレーション・アンドレを敢行するのだ! お前は! 俺に! 肩車されるがいい!」

 

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「はあ!? か、肩車って、なに言ってんのよ! このHENTAI!」
「なんだ? それとも俺を肩車してくれるのか?」
「できるわけなかろうがっ!」
「ふー・・・。 助手よ、クリスティーナよ、あまり俺を失望させるな」
「な、なによ・・・」
「肩車するだけでなぜHENTAI呼ばわりされなければならないのだ。 それをHENTAI行為と感じるお前の方がよほどHENTAIだぞ!」
うぐぅ・・・」
「分かってくれ。 これは冗談などで言っているわけではない。 本当に未来の運命がかかっているのだ」
「わ、分かったわよ・・・」
「ありがとう。 理解が早くて助かる。 では改めて――オペレーション・アンドレを敢行する! 助手よ、股を開け!」
「死ね! 腹を切って死ねぇ!」


――紅莉栖をなだめるのにさらに10分弱の時間を要した。


「いいか? 絶対にHENTAI妄想するなよ?」
「分かった分かった」


紅莉栖が遠慮がちに開いた足の間に頭を突っ込む。

そのまま一気に立ち上がった。


「ちょっ、急に立ち上がらないでよっ」
「助手よ、ライトは手に届くか?」
「というか、太ももを触るな!」
「届くのか、届かないのか!?」
「後頭部でスリスリしてくるなっ!」


紅莉栖が俺の髪をつかんで、引っ張ってくる。

あまりの痛みによろけそうになった。


「きゃあ! 私を殺す気!?」
「いいから早くしろ! どうなっても知らんぞーっ!」


――数分後。


「・・・・・・」
「ご、ご苦労。 無事、懐中電灯は手に入れた。 協力に感謝する」
「も、もう二度と、こんなのゴメンだからな」


なぜこんなに気まずくなっているのか。

それは紅莉栖が、恥じらっているかのように顔を赤くして、俺と目を合わせないせいだ!


「私以外の女の子には、こ、こんなバカなこと、するんじゃないわよ・・・」
「なに? つまり、お前にならば今後もやってもいいということか?」
「おのれのHENTAポジティブシンキング脳をミキサーでかき混ぜて液状にしてやるぞ」


ひぃ、こ、怖い・・・。

紅莉栖はすっかりいつものクールさを取り戻し、俺を置いて去っていった。

 

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まあいい、懐中電灯は手に入れた。

表面に"スモール♪"と書かれてある。

ミスターブラウンが持っていた透明化ライトのことを考えれば、この懐中電灯も特殊な機能を持っているのは間違いない。

・・・。


む? 見慣れたマウンテンバイクが今、目の前を横切っていったような・・・。

いや、まさかな・・・。

秋葉原駅には用事がない。


・・・。

 

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中央通りと並行する裏通り。

ここは小さな十字路になっている場所だ。

道路には、いくつかの怪しげな露天が出ている。

 

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PCのパーツやら、パッケージのない怪しげなソフトなどが売られている。

秋葉原ではおなじみの風景だ。


「風のように現れ、風のように消えていく。 それが、彼らの生き様というわけか」


ちょっとアンニュイな気分になってみた。


「ハイ、ミスタ。 ルィトル、寄ってッテー」


碧眼の、モデルのような容姿をした外国人店主が、爽やかな笑みを浮かべつつ手招きしてきた。

どれどれ、と覗いてみる。

と、怪しげなパーツに隠れて、見覚えのある懐中時計が売られていた。


「これは・・・まさか、まゆりの懐中時計では? いや、見間違いか?」


よくあるデザインではあるし、名前が書いてあるわけではないので、なんとも言えないが。


「マスター、これをどこで手に入れた?」
「これはタカイタカーイ、ジョウモノだよぜ」
「俺を甘く見ない方がいい・・・。 はぐらかすならば、右腕の封印を解くまで・・・」
「今ならイチ万エンくらーいスロバキア


1万円・・・。

こんなボロっちい懐中時計が?

アンティークなんだろうか。


「トッケーはイチ万エンすることヨロシ?」
「そんな金はない」


財布を落としたせいで、今の俺は無一文だ。


「ソレカ、ワタシ古いゲーム好きダカら、何かレアなハードがあれば交換でもイイヨ」


物々交換か・・・それなら何か探してきてもいいか・・・。


・・・。

 

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メイクイーン+ニャン2は、ネコ耳メイド喫茶だ。

働いている女子は全員、メイドのくせにネコ耳をしている。

それをオリジナリティと見るか、邪道と見るかは、この店がオープンして以来数年、いまだ結論が出てない。

まあそんなことはどうでもいいといて、問題は――


「なんだこのカエルはーっ!」


一時期、渋谷の女子高生の間で流行した"ゲロカエルん"の超巨大ぬいぐるみ。

それが、店の入口を完全に塞いでしまっていた。

メイクイーン+ニャン2に巨大なカエル・・・。

とにかくなんとかせねば店内に入れない。

しかしあの質量のカエルとなると、未来の科学がない限りどうにもならない。

そう、ブラウンが持っていたあのライトのようなものが・・・。

「そのための懐中電灯だ」


ガード下で苦労して手に入れた、"スモール♪"と書かれた懐中電灯。

それを、巨大ゲロカエルんぬいぐるみへと向け、スイッチを入れた。


「お、お、おおおお・・・」

 

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目の前で起きている、あまりにも現実離れした光景に、俺はたまらずうめき声を上げた。

ゲロカエルんの身体が、文字通り縮んでいく。

ついには小指サイズにまで縮小されてしまった。

直後、炸裂音とともに懐中電灯のライト部分が割れた。


「なっ!? 壊れたのか!? まさか、一度きりしか使えなかったとは・・・」


遊びで使わなくて正解だったぜ、ふぃ~・・・。


・・・。

 

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メイクイーン+ニャン2の客入りは、6割ほどといったところだ。

あんな巨大なゲロカエルんぬいぐるみが入り口を塞いでいたというのに、こいつらはいったいどうやって入ったんだ?

客たちはいたって呑気なもので、中には雷ネットABで対戦している者もいた。

 

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「凶真ぁ~、凶真凶真凶真ぁ~」


と、ネコ耳にメイド服にツインテールという、萌え要素のテンプレを詰め合わせた小柄な少女が駆け寄ってきた。


「フェイリス・ニャンニャン。 このメイクイーン+ニャン2の人気ナンバーワンメイド・・・と同時に、『雷ネットAB』の現・日本チャンピオンであり、現役女子高生。 しかしてその正体は、秋葉原の元大地主にしてリアルお嬢様、秋葉留未穂――」
「なにさらっとフェイリスの秘密をカミングアウトしてるニャー!」


頬を両手の爪で引っかかれた・・・。


「フェイリスは、フェイリスニャ。 他に名前なんかないニャ」
「そ、そういうことにしておこう・・・」


ネコ耳を取ろうとした。

フェイリスが青くなってしまったら責任がとれない。

ネコ耳はいじらないでおく。


「そんなことより凶真・・・、今、フェイリスは大変なことに巻き込まれているのニャ・・・。 助けて・・・」


泣きそうな顔で、しなだれかかってくる。

他の客の殺意の波動がハンパないわけだが。


「いいだろう。 まずはお前のそのトラウマをぶち殺す」
「ニャフン・・・頼りにしてるニャン、鳳凰院凶真」
「だが交換条件があるぞ」
「ま、まさか凶真・・・。 "アレ"を求めるつもりかニャ!?」
「いかにも・・・。 幻のレトロPCをお前が持っているという情報は、すでにつかんでいる」
「ダメニャ! あれはフェイリス家の家宝であり、この秋葉原守護天使。 いくら凶真でも、渡せないニャ・・・」
「ならば、この話はなかったことにしよう。 お前は一生、"大変なこと"に巻き込まれ続けるがいい」
「凶真・・・卑劣な人ッ!」
「ククク、なんとでも言え。 だが忘れるな。 お前のトラウマをぶち殺せるのは俺だけだということを。 これも、運命石の扉の選――」
「分かったニャ。 フェイリスを助けてくれたら、差し出すニャ」
「なん、だと・・・?」


こいつ、本気で言っているのか?

IBN5100って今、手に入れようと思ったらすごく高くて、何十万もするらしいが。

そんなものを、譲ってくれるというのか?


「フェイリス、お前・・・いったいどんな"大変なこと"に巻き込まれていると言うんだ・・・?」


フェイリスの目から、一筋の涙がこぼれた。

こいつ、泣いている・・・。

厨二病の演技とは思えない。

まさか・・・本当に・・・?


「フェイリスは・・・呪われてしまったのニャ。 ゲロカエルんの呪いニャー!」
「それはひょっとしてギャクで言っているのか・・・?」
「今日は"ゲロカエルん追悼Day"をやったんニャけど・・・そのせいで呪いにかかっちゃったのニャ。 入り口のゲロカエルん見たかニャ?」
「ヤツならすでに排除した」
「あれも、元々はあんなに大きくなかったニャ。 巨大化は、呪いの影響ニャン」


もうその程度の超常現象では驚かないぞ。


「それで、お前がかかった呪いとは、具体的になんだ? 少なくとも、背は伸びていないようだが」
「それは・・・」
「それは?」
「雷ネットABに勝てなくなっちゃったニャー!」
「貴様・・・ァッ! これ以上ふざけるようなら、俺にも考えがあるぞ・・・!」
「今日1日、10人以上のご主人さまと対戦してるけど、全敗しちゃったのニャ~。 ありのまま、今起こったことを話すニャ。 "フェイリスは雷ネットABで勝っていると思っていたらいつの間にか負けていた"。 なにを言っているか分からないが以下略」
「お前、説明する気がないだろう?」
「とにかく凶真、なんとかしてほしいニャ~」


俺の腕にしがみついて、フェイリスが訴えるような視線を向けてくる。


「そもそも呪いを解くって、いったいどうすれば・・・」
「方法が1つあるニャ。 "アレ"さえあれば・・・」
「まさか、"アレ"を使えと言うのか・・・。 だが、果たして俺に使いこなせるかどうか・・・」
「信じるニャ。 凶真のことを」
「ところでフェイリス・・・"アレ"ってなんだ?」
「古来より神道に伝わる、あの神器ニャ」


神道、か・・・。

お祓いに使うようななにかか?


フサっ! フサっ! フサっ!


大幣(通称フサフサ)をフェイリスの頭の上で振ってみた。

使い方がこれで正しいのかどうかとか、俺はそもそも神職ではないが意味があるのかとか。

そういうツッコミどころはあえて目をつむった。


「・・・・・・」


瞑想するように目を閉じて頭を垂れていたフェイリスが、ゆっくりを顔を上げ――


嬉しそうに俺に抱きついてきた。


「なんだか、すっきりしたような気がするニャ! というわけで凶真! 早速だけど雷ネットで勝負ニャ」
「なん・・・だと?」


5分後。


「参りました」


コテンパンにされたのは、フェイリスの呪いが解けたからなのか、単に俺が雷ネットのルールをろくに知らないせいなのか。


「雷ネッター、フェイリス・ニャンニャン、ここに完全復活ニャ! 全部凶真のおかげニャ~!」


まあ、"フェイリスさえ満足していれば"本当に解決していようがいまいが、どうでもいい。

俺はただ、"満足したフェイリスから交換条件として幻のレアPC"を手に入れるだけだからな!


「凶真凶真、なにか飲むかニャ?」
「ではドクターペッパーを頼む」
「それはないから、いつものアイスコーヒーでいいかニャ?」
「ならばブラックで」


――数分後、フェイリスが軽い足取りでアイスコーヒーを運んできた。


フェイリスが出してくれたアイスコーヒーを、ストローを使わずにぐびりと飲む。

苦い。


「あまりはしゃぐなよ、フェイリス・ニャンニャン。 俺たちの取引は、まだ終わっていない。 忘れたとは言わせんぞ。 俺は最初にこう言った。 お祓いをする代わりに、幻のレトロPCをもらう、と。 さあ、用意してもらおう!」

「もちろんニャ! 約束通り、プレゼントするニャン」


・・・。

 

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「じゃーん! これニャ! タミー製『ぴゅう丸』ニャ!」


フェイリスが出してきたのは、やたらとでかいキーボードのような"なにか"だった。


「なんだこれは!?」
「どうニャ? このゴム製キーボードがたまらないと思わないかニャ? もちろんコントローラーだって付いてるのニャ!」


なぜかキーボードにコントローラーが繋がっていた。

なにがなんだか分からなかった。


「これぞ、画期的な日本語ベーシックが動く唯一のマシンなんだニャーん!」
「ふざけるなー! 俺が欲しいのはIBN5100であって、ぽん丸ではない!」
「ぽん丸じゃなくてぴゅう丸ニャ!」
「どっちでもいい! よくも俺を騙したな!」


怒りにまかせて、一気にアイスコーヒーを飲み干す。


「でも凶真、IBN5100なんて一言も言ってないニャ。 逆ギレされても困るニャ」


え、そうだっけ・・・。

くそ、仕方ない、作戦を練り直す為にラボに戻るとしよう。


『ぴゅう丸』は正直なところいらなかったが、フェイリスがどうしてもとしつこいので、仕方なくもらっておくことにする。


「ところでフェイリスは同人CDを出したニャ。 凶真はフェイリスの命の恩人だから、特別に、1000円のところを500円にしてあげるニャ♪」


金を取るのは変わらないらしい・・・。


「ククク、残念だったな猫娘よ! 俺は! ついさっき! 財布を落とした! 故に、お前のおふざけニャンニャンCDを買う金などない。 これも運命石の扉の選択だな」
「フニャー!? ということは凶真、無銭飲食するつもりなのかニャ!?」


あ、しまった・・・。

たった今、出されたアイスコーヒーを飲み干したばかりだった。


「命の恩人に、ドリンク代をおごる気はないか、フェイリス」
「凶真・・・残念だけど、ちょっと店長呼んでくるニャ・・・」
「よ、よせっ! 今すぐなんとかするからちょっと待て!」


助手に電話してみた。


「岡部倫太郎ですけど、牧瀬紅莉栖さんにお願いがあるんです・・・」
「言ってみろ」
「かくかくしかじかで、足止め食らってまして。 大変申し訳ないんですが、1000円ほど、貸してくれませんか?」
「ふーん、それで私に頼ってきたわけか。 なんで私なの? 橋田やまゆりだっていたのに」
「それは、お前が俺の助手だからだ」
「ん? なんですって?」
「あ、いや、その・・・。 俺が頼れるのは・・・いつだって、お前だけなんだよ、紅莉栖・・・」
「・・・え、あ。 そ、そう。 それは、こ、光栄というか、悪い気は、しないけど」
「というわけで、来てくれ、紅莉栖・・・。 俺を、助けてくれ・・・」
「分かった、すぐ行く」


――数分後。


本当にすぐに来て、紅莉栖は気前よく1000円を貸してくれた。

飲食代の500円をフェイリスに支払い、おつりをきちんと貰った。

 

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「ありがとうございましたニャン。 いってらっしゃいませ、ご主人さま♪」

「この猫娘が・・・いつか、奥歯をガタガタ言わせてやる・・・」

「負け犬の遠吠えにしか聞こえないわよ。 まったく・・・。 というわけで、1000円貸してあげた代わりに、ちょっと私に付き合ってよ。 ちょうどお腹がすいてて――」

「フゥーハハハ! たかが1000円で俺を買収したつもりかクリスティーナ! 俺は狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真! 誰にも縛られたりはせんのだ!」

「ほう・・・」


紅莉栖の目がスッと細められた。

あ、やばい、また怒らせたかも・・・。


「貸した1000円、倍返しな」


笑顔のままそう告げると、紅莉栖は俺のことを振り返ることなく店を出て行った。

笑顔が逆に怖かった・・・。

あ、そういえばフェイリスにナイトハルトという男について聞いておくんだった。


「フェイリスよ。 ナイトハルトという男を知っているか?」
「・・・っ!?」


フェイリスの表情がピキリと凍り付いた。


「なぜ、凶真がその名を知ってるのニャ・・・」
「知っているんだな? ならば答えろ。 ヤツはいったい何者だ?」
「どうしても、聞きたいのかニャ・・・?」
「お前に選択の余地はない。 答えられないなら、答えたくなるようにしてやるのみだ。 そうだな、例えば・・・お前の猫耳を引きちぎってでも――ハッ!? なにぃぃぃぃぃ!? フェイリスの猫耳を引きちぎろうとしていたはずが、俺が代わりに猫耳を装着させられていたーっ!?」


おのれフェイリス。

俺が話している最中にふざけた小細工をしおって。

俺は咳払いをして、怒りを必死で抑えつけた。


「真面目に答えてもらおう。 この店に、大きなダンボールを抱えた男子高校生が来なかったか?」
「あっ! 来たニャ!」
「本当か? どうも信じられんな。 今度は"フェイリスのお兄ちゃんだニャ"とか言い出す気か?」
「フェイリスの弟ニャン」
「お前とはもう二度と話さん! 帰らせてもらう!」


回れ右して出ていこうとしたが、フェイリスに腕をつかまれ引き留められた。


「ニャハハ、弟っていうのは冗談ニャ。 でも、ホントに見たニャ。 1時間ぐらい前だったかニャ。 大きなダンボール持ってて、服の胸ポケットに星来ニャンのフィギュアが入ってたニャ」
「・・・!?」


そのフィギュアの情報は、ルカ子の証言と一致する。

ということはフェイリスの話は間違いなく真実・・・!

わずかなタイミングで入れ違いになってしまったか・・・。


「ちなみに、その星来ニャンとは?」
「『ブラチュー』のメインヒロインだニャン。 星来オルジェルっていう、ツンデレ変身魔法少女なのニャ」


フェイリスの口ぶりだと、有名なキャラらしい。

あるいは、俺もこれまで中央通りを歩いているときに偶然見かけたことがあるかもしれない。


「それでそのダンボール男について、他に情報はないか?」
「フェイリスが何度か話しかけてみたんニャけど、会話してくれなかったニャ。 で、ずっと"ふひひ"って笑ってたニャ。 オムライス食べてすぐ帰っちゃったのニャン。 ダンボールが重そうニャったけど、それ以外には変なところはなかったニャ」


目新しい情報はなしか。

いずれにせよ、ナイトハルトと思われる男が秋葉原のあちこちをうろついているのは間違いない。


「フェイリス、ナイトハルトの件は絶対に口外するな。 いいな? もし喋れば、お前のその猫耳を引きちぎる――って思ったら猫耳を引きちぎられていたのは俺だったァッーーー!」


さっき付けられた猫耳をフェイリスの手で外されてしまった俺は、頭部を警戒しつつ慌てて店から飛び出した。


・・・。

 

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メイクイーン+ニャン2は俺も行きつけのメイド喫茶だ。

もっとも、それは純粋に食事をしに来ているからであって、メイドと話すためではない。

ダルのような動機でここに通うほど、俺は、純粋でもなければ、偏執的でもないのだ。

そう、俺は、穢れてしまっているのだよ・・・。


・・・。

 

ビュンビュンと車が行き交っている。

轢かれて死んでしまうような軽はずみな行動は自重しよう。

死は、いつでもそこにある。

いつでも手に入る。

だから、もう少しだけ、生の無駄遣いを、してみよう。

なあ、そうだろ・・・? 未来の俺よ。

たまらず俺は、半眼状態でふぁさぁっと前髪をかき上げた。


・・・。

 

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中央通りと並行する裏通り。

ここは小さな十字路になっている場所だ。

道端には、いくつかの怪しげな露店が出ている。

 

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「トッケーはイチ万エンすることヨロシ?」
「そんな金はない」


財布を落としたせいで、今の俺は無一文だ。


「ソレカ、ワタシ古いゲーム好きダカら、ナニかレアなハードがあれば交換でもイイヨ」


物々交換か・・・それなら・・・。

俺は黙って、"ぴゅう丸"を差し出した。

途端にマスターの目の色が変わる。


「Oh! ディスイズピューマルでしょでしょ!? サムライベシク動けでしょでしょ? ゴムキーもまだまーだイケてるがな! シランがな! ホッシーなー。 コレホッシーな!」
「ほう、マスター、どうやら"ぴゅう丸"に興味があるようだな。 だが知っているか? 世界はすべて、等価交換によって成り立っているということを」
「トッカンコウジ?」
「等価交換! 俺の"ぴゅう丸"と、そこにある懐中時計、物々交換と行こうではないか」
「???」
「損はさせないぞ。 いいか、この場だけだ。 ククク、分かるだろう? このチャンスを逃せば次はない。 さあ、決断しろ。 "ぴゅう丸"か、"カイちゅ~"か」


マスターがちっとも俺の言葉を理解しようとしないので、やむなく身振り手振りで説明した。


「OK! このポーケっクロックアゲマショーソーマショ。 ブツブツのチェンジマンでハイどぞどぞ~」
「え? あ、そう? そんな簡単に? いいの?」


戸惑う俺に懐中時計を押し付けたマスターは、代わりに"ぴゅう丸"を奪っていった。

なぜだろう、すごく、損した気分になってきた。

やはりとんでもないプレミア価格が付いていたりしたのかも。


「いいか、このことは他言無用だ。 もし誰かに喋れば、裏切りと見なす。 後は、分かるな?」
「サンキュー、ごくろーさんネ!」


マスターは白い歯を見せてまた爽やかに笑った。


・・・。