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光輪の町、ラベンダーの少女【1】


・・・。


まずは自己紹介をしようか・・・。

俺は・・・えっと、とりあえず学園生だ。

名前は椿宗介(つばき そうすけ)。

母親と二人暮らし。

趣味はなし。

一人でいることが多い。

友達はいない。

母親も部屋には入ってこない。

でも、引きこもりというわけでもない。

退屈な町で退屈な毎日を過ごしている。

学園はちょっとした坂道を登ったところにある。

私立新山学園。

坂道というのが曲者で、遅刻しそうになった日なんかはちょっとした地獄だ。

全力で坂道をダッシュする。

もう、それだけで一日分の体力は使い果たし、授業なんか聞いてられない。

俺はいわゆる不良だと、自分では思っている。

自称不良。

やばい、カッコ悪い。

なので自称逆境無頼ということにした。

やばい、果てしなくカッコ悪い。

俺はいわゆる人間のクズだと思う。

これがたとえば小説か漫画だったとしたら、俺は間違いなくダメ主人公の部類に入る。

それくらいのクズだ。

いや、クズは言い過ぎか。

ゴミくらいか。

だって、毎日何をやっても楽しくない。

だからって、何かをやる気力も特にない。

テレビから、お涙頂戴のスポ根ドラマなんかが流れてくると、ソッコーでチャンネルを変える。

くだらねぇ、とテレビの出演者をなじって、五秒後には忘れる。

なんの意見も主張もないから、世の中のいろんなことに責任だって感じない。

ほら、つまんないヤツだろう?

どうせどいつもこいつも俺をゴミ扱いするんだ。

俺だって人間の心くらい持ってるんだけどな。

は?

人間の心・・・って?

・・・あ、わかんねえや、バカだし、俺・・・。

やめようやめよう、考えたって無駄だ。

さて、今日も今日とて、とりあえず生きてみるか。

いいや、生かされてみるか。

死んだように、この車輪の下で――。


・・・。


「宗介! 早く起きなさい!」

 

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目覚まし時計が鳴った。

時計を見ると8時10分ジャスト。

毎日、寸分の狂いもなく母は鳴る。

ちょっと前は、目覚ましのアラームに大好きなロックバンドの曲を設定していた。

朝が来ると大好きな曲が鳴る。

だが朝はつらい。

曲が流れる。

だが朝はつらい。

曲が流れる。

キレる俺。

曲が嫌いになる。

という正しい過程を経て、目覚ましは母に変わった。


「宗介。 はるかちゃん来てるわよ」


はるかとは、隣で八百屋を営む鈴木青果店の一人娘だ。

嫌がらせのように俺を起こしに来る、お節介な幼馴染。

学園に入って遅刻が多くなりはじめたころ、突如として現れた。

どうやら、俺の母となんらかの契約をしているらしい。


「おーいバカ息子。 あんたはるかちゃん待たせて悪いとは思わないの? ごめんね」


待ってくれなんて頼んだ覚えはない。


「気にしないでください、おばさん。 私、慣れてますから」

「あんた、こんな美人待たせて罰が当たるんだからね」


はるかは物心ついたときから、近くにいた。

頭がよくて、運動ができて、優しくて、みんなから好かれていて、こんな美人・・・。

美人。

たぶん近くにいすぎてピンとこなかったけど、はるかは美人だ。

商店街一、いや学園一、いやこの街で一番、かわいい。

・・・多分。


「おばさん、私、起こしてきます」

「でも・・・」

「心配しないでください。 とっておきの作戦ありますから」


まさか、はるかのやつ、部屋に入ってくる気じゃないよな・・・。

部屋には鍵がかけてある。

入ってくることは出来ない。

突然、部屋の窓が開いた。

 

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「おはようございます。 朝ですよ」
「わぁっ!」
「おぼっちゃま、残念なお知らせですが、朝なんです!」


窓から、はるかが顔を出す。


「・・・お前、どうなってんだよ! ここ、二階だぞ!」
「どうなってるって、はしごを使ったんだよ」
「はしごって・・・」
「宗介おぼっちゃま、今日はこんなに晴れてますよ」
「まぶしいよ」
「当たり前でしょ。 朝なんだから」
「はしごなんか使ったら、あぶねーだろ」
「平気平気。 私高いところ好きだもん。 ほら、早く準備して」
「・・・俺にかまうなよ」
「だめ。 おばさんと約束してるんだから」
「約束ってなんだよ」
「近所の人にね、鈴木青果店の野菜は他の店とは鮮度が違うって、さりげなく宣伝してもらってるの」
「人の母親を広告塔に使うな」
「おかげで何とかやっていけてます」
「涙ぐましい話だな」
「企業努力っていってほしいなあ。 ほら早く制服に着替えなさいよ」
「・・・とりあえず、はしごから降りろ」
「宗介が学園をサボらないって約束したら降りるよ」
「あのさぁ」
「なに?」
「お前がいると着替えられないんだけど」
「そっかそっか。 じゃあ、目つぶってるから着替えていいよ」


はるかは、はしごに乗ったまま両手で目を覆おうとする。


「危ないって!」
「大丈夫だよ。 私、高いところ好きだから」
「そういう問題じゃねーだろ」
「着替えた?」
「まだだよ」
「着替えた?」
「だからまだだって!」
「こういうのってさ、普通じゃないんだよね。 多分」
「普通じゃねーよ。 はしご使って人を起こす奴なんていねーよ」
「そうじゃなくて、付き合ってもないのにこういう会話することがよ」
「しらねぇーよ」


俺は制服に着替えた。


「うん。 いいと思う」
「なにが」
「顔、悪くない。 スタイル、中肉中背。 足は、まあまあ長い」
「は?」
「これで性格がもう少しピリッとしてたら、いわゆるイケメンって部類に入るんだろうけどね、非常に残念だな」
「うっせーよ。 いいから先に行ってろよ」
「ちゃんと学園に来るんだよ。 遅刻したらダメだからね」
「だしたい、どっから持ってきたんだよ、そのはしご・・・」
「うちのお店にあったの。 明日もう使うかもしれないから、とりあえず、このままでいっか」
「よくねーよ。 泥棒とか入るだろ!」
「その時は、その時よ」
「あー、朝から最悪・・・」
「先に行ってるね!! とう!!」
「おい!!」


はるかは、はしごから飛び降り、地面に無事着地する。


「どんな運動神経してんだよ」

「ちゃんと学園来るんだよ~。 さぼっちゃダメだからね~」


はるかは学園の方に消えていった。


「はぁ・・・、学園なんてくだらねぇよ・・・」


俺はカバンを持ち、しぶしぶ家を出た。


・・・・・・。

 

・・・。

 

学園までは徒歩で10分くらいだ。

ダッシュで5分。

坂道は後半に襲ってくる。

今日はまだ十分に時間があるから徒歩で間に合う。

はるかは父親と二人で暮らしている。

はるかの母親は、はるかがまだ小学生の頃に死んだ。

はるかの母親が死んだ日、いつも明るいはるかが、別人のように暗い顔をしていたのを、今でもはっきり覚えている。

はるかにとってその日は「世界で一番、悲しい日」だったに違いない。

それ以来、はるかは学園が終わると、父親の経営する八百屋を手伝っている。

俺は緑ヶ丘公園の前で立ち止まった。

 

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ちょっと休憩でもするか。

確かこの公園には、さぼるのにぴったりなベンチがあったはず。

頭の中ではるかの言葉がリフレインされる。


「ちゃんと学園来るんだよ~。 さぼっちゃダメだからね~」


・・・知ったこっちゃない。

俺は白いベンチを探す。

あれ?

ベンチはなぜか、真っ赤な色をしている。

おかしいなぁ。

色変わった?

確か、この前までは白かったのに・・・。

まあいいや。

 

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俺はベンチに寝転んだ。


・・・ん!?


体にグニャッとした感覚をおぼえた。

これってもしかして・・・。

俺は慌ててベンチから立ち上がった。


おいおい・・・。


制服が真っ赤に染まっている。

ち、血だ・・・。

ってバカ。

鼻を突く強い臭いがした。

ペンキじゃん・・・。

んだよ、最悪・・・。

ベンチを見たが、どこにも「ペンキ塗りたて」の文字がない。

乾いてないんだったら、ちゃんと書いとけよな。

俺は手にべっとりと付いた赤いペンキをみてため息をついた。

これは本格的に休む方向になりそうだ。

物陰から音がする。

ん?


「ぎゃはははは」


男の笑い声がした。


「ふざけんなよー。 座るやつがいるなんて、ありえねーよ」
「でも、現に座ったじゃん。 俺の勝ちだな」
「分かったよ。 ほら」


男は金を渡している。


「賭けは賭けだからな。 悪く思うなよ」
「たく、バカのせいで大損喰らっちまったよ」
「じゃあ、この金でゲーセンでもいくか」


二人は公園を去ろうとした。


「ちょっと待て」

「あん?」

「このペンキ塗ったのは誰だ?」

「はあ? 誰でもいいだろ」

「お前らか?」

「だったらなんだよ」

「お前らなんだな?」

「ああ、俺らだよ。 それがどうした?」

「わかった」

「わかったじゃねーよ」

「てか、お前のせいで小遣いとんじまったじゃねーかよ」

「・・・殺すぞ」

「やれるもんならやってみろよ、俺らはな、ジャガー・・・ぐは!」


――ッッ


俺は男が喋り終わる前に腹に一発ぶち込んだ。


「がはっ・・・」


男はそのまましゃがみ込む。


「おい! 大丈夫かよ! てめぇ何すんだよ!」

「何すんだだと? そりゃこっちのセリフだよ。 なにペンキ塗りたてにしてんだよ」

「賭けだよ。 賭け。 ペンキ塗って、3分以内に人が座るかどうか賭けてたんだよ」

「んで? そこにまんまと俺が座ったと」

「ああ。 まんまとアホヅラしたお前がな」

「こんな赤くなっちまって、どうすんだよ」


俺は真っ赤に染まった制服をみて言った。


「お前、新山学園生か?」

「みりゃわかんだろ」

「お前、とんでもねーチームに手足してんの分かってんの?」

「チーム? しらねーよそんなの」


俺はファイティングポーズをとった。

瞬間、後ろに無数の殺気を感じた。


「お前、終わったな」


俺が振り返ると、鉄パイプを構えたやつや、風邪でもないのにマスクを付けたやつがざっと数えて20人はいる。


・・・おいおい。


「つかぬことを聞くけどさ、これってお前の仲間?」

「もちろん」

「そっか」


俺は逃げる体制をとる。

が、回りこまれた。


「諦めな。 ちょっとボコられるだけだからさ」


ちょっとって・・・。

死ぬかも、俺。

男たちはジリジリと俺に近づいてくる。

くそ・・・。

さすがにこの人数は無理だよな・・・どうする。

俺はあらゆる方法を考えた。


――ッッ


「うっ・・・」


俺は背後から強い衝撃を受けた。

竹の割れるような音が鼓膜をつんざいた。

意識が少しずつ薄れていく・・・。

おかしい・・・。

後ろはそれなりに警戒していたつもりだった。

なのに、もの凄いスピードで何かが近づき、俺の後頭部を一撃したのだ。


「・・・寝てろ」

「え? 誰?」


俺は薄れていく意識の中で微かに女の声を聞いた。


・・・。


ダメだ。

力が入らない。

お、おやすみなさい・・・。

俺は深い眠りについた・・・。

俺は眠りの中で、夢を見た。

少女がテキサスの荒野で数十人のギャングと戦っている夢。

少女の手には一本の日本刀が握られていた。

テキサスなのに日本刀・・・。

さすが夢だ。

少女はバッタバッタとギャングを斬っていく。

さ、サムライか・・・。

ギャングのひとりがピストルを少女に向ける。

危ない!

ピストルから銃弾が放たれる。

よけろ!!

え?

少女は刀で銃弾を弾き返した。


・・・。


漫画だ。

俺のみる夢はまるで漫画だ。

漫画ばっかり読んでるからだ。

くだらない。

もう寝よう。

いや、すでに寝てるのか。

夢見てるんだもんな。

どっちでもいいや・・・。


・・・。


「おい、大丈夫か?」


耳元で声がした。


「え? うん?」
「意識はあるか?」
「あ、ああ。 朝か?」
「そうだ。 朝だ」
「ギャングは?」
「ギャング? なんのことだ?」
「いや、こっちの話」


俺は意識がもどり、辺りを見渡した・・・。


第一章 退屈な街


・・・。


「おい、これどうなってんだよ!!」

 

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少女の周りには、さっき絡んできた連中が倒れている。


「まさか、これお前がやったのか?」
「なんの話だ?」
「いや、その、え?」


華奢な女が20人の男を相手に出来るはずがない。

一体どうなってんだ?


「私が来た時にはもう倒れていたぞ」
「マジかよ・・・誰がやったんだ?」


ふと、俺は少女の手に握られている物に気付いた。


「それって、竹刀か?」
「ち、違う!」


少女は握っているものを隠した。


「それ、竹刀だろ!」
「だとしたらなんだ?」
「やっぱりお前がやったのか!?」
「・・・・・・」
「お前、もしかしてサムライか?」
「サムライ? どうやら打ちどころが悪かったみたいだな」


俺は後頭部をさすった。

突然、衝撃が走って倒れたんだった。

衝撃・・・。

もしかして、俺を殴ったのって・・・。

俺は少女の隠した竹刀をみた。


「私がたまたま通りかかったら、お前がガラの悪そうな奴に絡まれていた」
「ああ」
「あまりにも可哀想だったんでちょっとだけ力を貸したまでだ」
「力を貸したって・・・」
「人が袋叩きにあっているのを見るのは、気持ちのいいものじゃないだろ。 安心しろみね打ちだ。 本気は出していない」
「竹刀にみね打ちとかあるのかよ・・・」
「何があったかは知らないが、勝てないケンカは買うな」
「勝てないケンカ?」


俺は少しムッとした。


「おまえ・・・」
「なんだ?」
「いや・・・何でもない。 助けて悪かったな」
「どういう意味だよ」


少女は俺から目をそらす。


「・・・弱い奴は戦うな」
「は? 俺が弱いだって? 一応、勝つ予定だったんだけど」
「勝つ予定か・・・物はいいようだな」
「てかさ、お前、俺の頭殴ったろ?」
「ほう、気づいたか。 なかなか鋭いじゃないか」
「なんで殴るんだよ!」
「邪魔だからだ。 ちょろちょとろ動かれたら、足でまといになるからな」


・・・なんだよ、こいつ。


「そんなことより、血が出てるぞ」
「血じゃねーよ、これはペンキだよ」
「ペンキ? なんでそんなものがついてるんだ? 紛らわしい」
「話せば長くなるからさ」
「私はてっきり、こいつらにやられてるのかと思ったんだが」
「わりぃけど、一発も殴られてねーよ。 お前以外にはな」
「そうか。 ところで、その制服、新山学園の生徒か?」
「そうだよ」
「そんな格好じゃ、学園に行けないだろ」


俺の制服はペンキで真っ赤に染まっている。


「どーせ行かないし」
「さぼりは良くないぞ」


そう言うと少女は、倒れている男の服を剥ぎ取った。


「おい! なにやってんだよ!」
「これを着ろ。 何気に制服っぽいぞ」
「山賊かお前は!」
「早くしろ」
「・・・わかったよ」


俺は仕方なく服を着替えた。


・・・。

 

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「しまった!」
「今度は、なんだよ」
「今何時だ?」
「え? えっと8時44分」


俺は携帯の時計をみた。


「まずい、走るぞ!」


少女はそういうとものすごいスピードで走りはじめた。


「ちょ、ちょっと待てよ!」


俺もその後を追いかける。


・・・。


俺は少女のスピードに負けないように必死で食らいつく。


・・・速えぇ。


一応言っておくが、俺は確かにだらしない男だが運動神経が悪いわけじゃない。

昔の話だが、リトルリーグでは、エースで四番。

足だってそこら辺のやつよりは確実に速い自信がある。


・・・くそ。


俺は急な坂道を必死で登る。

少女の綺麗な髪が近づいてくる。

風になびき、彼女の髪の匂いが流れてくる。

あ、いいにおい。

・・・ラベンダーのにおいだ。

ちょっと気持ちがひるんだが、なんとか少女の隣に並んだ。

 

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「おまえ、なかなかやるな」
「え?」
「この坂で私についてこれるなんてな」
「必死だよ」
「名前は?」
「宗介、椿宗介」
「椿宗介。 変な名前だな」
「どこがだよ」
「あと9秒、8、7、6、5・・・」


カウントダウンと共に速度を上げていく。


やっぱり、速えぇ・・・。


俺は体力が完全に無くなり、どんどんと離されていく。

校門が見えてきた。

もう少し、あと少し。

少女は校門をくぐり抜け、一気に校舎の中に消えていった。

どうやら間に合ったようだ。

おめでとう、もうすぐ俺もゴールだぜ。

感動のフィナーレ。

俺は門をくぐり抜けた。


ピィィィィ!!!

 

「え?」

 

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「椿先輩・・・遅刻です!!」
「遅刻じゃねえだろ!」


俺は時計をみた。

8時45分。


「1秒遅かったみたいですね」
「1秒って」
「惜しかったなあ先輩。 あと1秒早かったらセーフだったのに。 ふふっ」


風紀委員の沢村アキナは悪戯っぽく笑った。


「なあ、沢村、お願いがあるんだけどさ」
「なんですか?」
「あのな、俺さ、頑張ったでしょ? ここまで全力で走ってきたわけじゃん。 努力してるよな? だからさ、1秒くらい大目にみてよ」
「それは出来ないですね。 ごめんなさい」
「なんでだよ。 ケチ!」
「先輩だけを特別扱いにはできません。 例外を出してしまうと、この先、面倒だし。 せれに先輩、今月に入ってもう9回目ですよ。 一回くらい増えたってどうって事ないですって」


沢村アキナは融通の利かない女だ。

まだ2年で後輩だが、生徒会の一員で、風紀委員も兼任しており、留学経験もあり、成績優秀。

まあ要するに学園の模範生徒というわけだ。

先生たちからの信頼も厚く、俺とは正反対だ。


「遅刻は3回で欠席1回の扱いだから、椿先輩は今月9回遅刻してるので、3回は学園を休んだって計算になりますね。 ふふっ」
「笑うな」
「あれ? 先輩、学生服おかしくないですか?」
「え? ああ」
「決まった服じゃなきゃ校則違反ですよ」
「違うよ。 新型だよ。 新型」
「新型? 意味がわかりません。 あ、ホームルーム始まっちゃいますよ。 早く教室に行ってください」
「お前、おぼえてろよ」
「すみません、規則ですから」
「あ、沢村、さっき俺の前に校門を全速力で走りぬけていった女いただろ?」
「女の人ですか?」
「そう、髪が長くて、スラっとした、あとラベンダーの香り・・・まあそれはいいや」
「え? 私、見てないです」
「いただろ。 あれ誰だ? お前なら知ってるだろ」
「髪の長くて、スラっとした。 うーん。 誰だろう。 全生徒の名前は把握してるつもりなんですけど」


どうやら、スピードが速すぎて沢村の目では認識不可能だったらしい。

ということは遅刻しても、あのくらいのスピードをだせば、沢村に気付かれないということか。

「あ、先輩! ほら教室に行ってください! あと、髪の毛長すぎ! 耳にピアスしてません? それからその新型の制服のボタンもとめてください!」
「わかったわかった」


沢村の生活指導が始まりそうになったので俺は逃げるように教室へ向かった。


・・・・・・。

 

・・・。


なんとかホームルームに間に合ったな。

 

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「みなさん、おはようございます」


担任の栗林夏美が入ってきた。

どこかミステリアスで教師っぽくない雰囲気をかもしだしている。


「今日は、ホームルームを始める前に、転入生を紹介します」


転入生。

6月という、また中途半端な時期に来たものだ。


「桜木さん、入って」


男か? 女か?

まあどっちにしろ俺には関係ない話だ。

教室の扉が開いて転入生とおぼしき女が入ってきた。

 

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「桜木さん、自己紹介してもらってもいい?」

「はい」


げ! こいつ、さっきの暴力女だ。

よりによってこいつが転入生とは、お決まりのパターンすぎる・・・。


「はじめまして、桜木ヒカルです。 父の仕事の都合で先週この街に引っ越してきました。 みなさん、よろしくお願いします」


ん? さっきと感じがちょっと違うな。


「先生、桜木さんの趣味とか知りたいわ」

「趣味ですか? そうですね、CDを聞いたり、お菓子を作ったり、あ、犬の散歩とか好きです」

「桜木さんは女の子っぽいのね」

「そんなことないです」

「まあいいわ。 じゃあ鈴木はるかさんの隣に座ってもらっていい?」

「はい」

 

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「桜木さん、よろしくね」
「こっちこそ、よろしく」


「この学園のこととか、授業のことで分からないことがあったら鈴木さんに聞いてね。 よろしく頼むわよ、鈴木さん」

「分かりました。 桜木さん! 何でも聞いてね」

「あ、うん。 ありがとう」


おかしい、公園で会った時とはまるで別人だ。 人違いか?


「最近、遅刻する生徒が増えてきています。 このクラスにも頻繁に、遅刻をする生徒が約1名いますね」


・・・。


「誰でしょうか? クラスのみんなは分かる?」


クラスの空気が少し重くなる。


「じゃあクイズ形式にしましょうか? だれが遅刻しているのか分かったら先生に教えてくれるかな? 早押しでいきましょ」


人をクイズにしやがって、このクソ教師・・・


「分かる人いない? じゃあ三択にする?」

「なんすか? 遅刻したら悪いんすかね?」

「正解。 答えは椿宗介、あなたよ!」

「やべー! 正解した」

「あなた、今月に入ってもう9回目よ。 今日で記念すべき10回目。 このままだと出席日数が足りなくて卒業できなくなるわよ」


・・・いちいちうるせぇよ。


「わかってるの?」

「はいはい」


栗林夏美は特に小うるさく、冷血で恐れられる、学園内では有名な女教師だ。

 

「・・・のろま」


ボソッと呟く声が聞こえた。


「あ?」

「・・・・・・」


・・・こいつ、やっぱりさっきの暴力女だ。 間違いない!


・・・・・・。

 

・・・。

 

・・・むにゃむにゃ。



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「宗介」


・・・むにゃむにゃ。


「おーい宗介くん」
「もう、おなかいっぱい」
「そうかそうか。 良かったな」
「うん、良かった」
「おいこら」
「ん?」
「ね~いつまで寝てんの?」
「あ、水嶋? 昼休み?」
「もうとっくに終わったよ。 ったくお前、ホームルームの後からずっと寝てたよ」
「朝からランニングしたから体が疲れはてちゃってさ」
「早朝ランニング? へぇ~、なんで?」


この、いかにもチャラそうな男は、水嶋だ。

残念なことに本当にチャラい。

学園ではなんの因果かずっと同じクラスという腐れ縁の仲である。

親友・・・。

いや、そういった類のものではない。

そもそも親友なんて必要だろうか。

俺にとっては楽で都合のいい遊び相手にすぎない。

水嶋にとっても、俺はそういう位置づけだろう。


「駅前にさ、新しいゲーセン出来たらしいよ~」
「ゲーセンか。 新しいっていうけどさ、中にあるゲームはどこも同じだろ」
「なに? あんまりノル気じゃない系?」
「ノル気じゃない系」
「じゃあカラオケ行く? 俺、歌いたい新曲があんだよね」
「やだよ。 お前、同じ歌を何回も歌うだろ? あれなんで?」
「え? 好きだからに決まってんじゃん」
「あれ、やめたほうがいいよ。 聴かされてる方はたまったもんじゃないから」
「あれあれ? 今日機嫌悪い系?」
「そうそう。 悪い系だよ」


俺の視線の先にはあの転入生、桜木ヒカルがいた。

はるかが、いろいろと学園のことを教えているようだ。


「あれ? もしかして気になっちゃう感じ?」
「なにがだよ」
「噂の転校生だよ」
「別に・・・」
「ヒカルちゃん、結構可愛いと思うんだよね。 お前、もしかしてタイプ?」
「んなわけねーだろ」
「あーゆうタイプは絶対、純粋だと思うんだよね。 俺の経験上」
「なに? 水嶋って、ああいうのがいいのか?」
「うん、俺、好きかも」
「やめとけ」
「なんで? あ、お前、俺がヒカルちゃんに取られるから嫉妬してるんだろ。 かわいいやつ」
「ばーか、ちがうよ」
「じゃあなんだよ」
「あいつと付き合ったら殺されるぞ」

 

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「へぇーヒカルちゃんって一人っ子なんだ」
「うん。 弟が昔いたんだけど、病気で死んじゃった」
「え? 死んだの?」
「そう」
「ごめん」
「うそ」
「なんだ! もうビックリさせないでよ!」
「ごめん、ごめん」
「ヒカルちゃんっておもしろいね。 前の学園でも人気あったでしょ?」
「ないない。 私、前の学園でいじめられてたから」
「え? いじめられてたの?」
「うん」
「ごめん」
「うそ」
「なんだもうビックリするじゃん」
「ごめんごめん」
「ヒカルちゃんやっぱり面白いよ。 芸人になったら?」


はるかはお人よしなところがある。


「ヒカルちゃんって、犬飼ってるんだよね?」
「え?」
「ほら、さっき犬の散歩が趣味だって」
「あ、うん。 飼ってるよ」
「どんな犬?」
「どんな犬?・・・普通の犬だよ」
「そっか」
「うん」
「あ、お菓子が得意だっていってたけど、どんなお菓子作るの?」
「え? ああ。 ケーキとかかな」
「そうなんだぁ!! 私もケーキ作るんだけど、なかなか美味しくできなくて・・・。 ヒカルちゃんはどんなケーキ作るの?」
「えっと、私は・・・スポンジ」
「え? スポンジ?」
「そう。 スポンジケーキを作るかな」
「そうなんだぁ・・・凄いね!」


話がかみ合っていないようだ。


「ねえ鈴木さん、この学園って部活は盛んなの?」
「部活かあ。 運動も文化系も両方ともそれなりじゃないかな」
「・・・ちなみに、剣術部ってある?」
「あったかなあ? え? ヒカルちゃんって剣術やってるの?」
「やってないよ。 どんな部があるのかなあって思って。 鈴木さんは部活に入ってる?」
「私は、色々あって入れないんだよね。 あ、それから、はるかでいいよ」
「あ、うん」


女子というのはどうしてこうも連帯感を持とうとするのか。

下の名前で呼ばれることが一種のステータスっていうか、仲良しの印みたいになっているのか。


「少しだけなら時間あるから、学園を案内しようか?」
「ほんとに? あ、嬉しいんだけど、また今度案内してもらおうかな」
「そっかそっか。 学園のことで分かんないことがあったら、この鈴木はるかに遠慮なく聞いてくださいな」
「ありがとう、鈴木さん」


その会話に無理矢理、水嶋が割り込む。


「チョリッス~」

「あ、水嶋くん」

「2人ともこの後、予定ある?」

「おい! 水嶋やめろよ」

「暇ならどっか遊びいかない? ビリヤードとかどう? ヒカルちゃんの転入祝いにさあ」

「ヒカルちゃん? ・・・お前は誰だ?」

「え? 俺? 俺はこのクラスで、一番かっこいいって言われてる水嶋で~す!! んでこっちがクラスで一番の問題児の椿宗介!」

「一番カッコイイの? これが?」

「え? そうだよ。 どっからどうみてもイケメンでしょ?」

「こういうのがイケメンっていうんだね。 難しいなぁ」

「ヒカルちゃんどうしたの?」

「いや、何でもないよ。 こっちの人はイケメンじゃないの?」


俺を指差した。


「はじめまして、桜木ヒカルさん。 椿宗介です。 趣味はゴルフ、血液型はB型、好きな色は赤、あと嫌いな女は暴力を振るう奴、よろしく」

「はじめまして、椿宗介さん。 桜木ヒカルです」

「・・・はじめましてじゃ、ないよな?」

「え? はじめまして、ですが・・・」

「朝会っただろ?」

「・・・さあ。 何の話ですか?」

「とぼけるなよ。 公園で会ったじゃないかよ」

「おい宗介、そのナンパのやり方、もう古いから」

「ナンパじゃねーよ」

「あ、宗介、なんで遅刻したのよ」

「なんでって・・・その」

「どうしてすぐにサボろうとするかな。 寄り道でもしたんでしょ?」

「し、してねえよ」

「寄り道? そういえば、ちょうど寄り道に最適な公園があるよね」


こいつ・・・。


「あれ? 宗介、制服がおかしいね」

「そうか? これ、新型だぞ」

「新型? いつもと違うような・・・」」

「気のせいだろ」

「2人はなんだか仲がよさそうだね」

「ああ、こいつら幼馴染なんだよ。 将来結婚するんだっけ?」

「馬鹿、誰がこんな奴と」

「こんな奴ってほんと失礼ね。 結婚とかそういう関係じゃないから。 ただのご近所さん」

「またまた。 隠さなくていいって。 ほんとは付き合ってんだろ? 毎朝、はるかちゃんが総介を起こしてるらしいじゃん」

「付き合ってねーよ。 それに部屋には入れたことないし・・・」

「それは、宗介のおばさんに頼まれてるからだよ。 それに小さいころから一緒だからそういう感情じゃなくて兄弟みたいな感じかな」

「てかさあ、はるかちゃんはこいつのどこがいいわけ?」

「だから、お前、話聞いてた?」

「あーあ。 世の中、不公平だよな。 お前みたいなブサイクには、はるかちゃんみたいな可愛い子がいるっていうのに、俺にはいないっておかしくねえ?」

「おまえ、今ブサイクっていったろ?」

「私、帰るね」

「あ、ちょっと待ってよ! ヒカルちゃんは幼馴染っている?」

「いないよ」

「だよね。 普通いないよね」

「あのなあ、言っとくけど、こいつは顔はまあまあかもしれないけどなあ、料理とか全然できないし、掃除もできないし、野菜売るくらいしか取り柄のない女だよ」

「ちょっと、宗介! それどういう意味?」

「ほんとのこと言っただけじゃん」

「おまえ、何てこと言うんだよ、はるかちゃんに謝れ! 土下座しろ!」

「ねえヒカルちゃんどう思う? この態度」

「・・・仲がいいんだね」

「え? どこが?」

「そんなことよりお前、時間大丈夫か?」

「あ、いっけない! こんな時間だ! ヒカルちゃん、水嶋くん、また明日ね。 バイバイ」


はるかは教室を出ていった。


「鈴木さん、この後、何かあるの?」

「ああ、毎日毎日ご苦労なこった」

「はるかちゃん偉いよな。 親父さんの店手伝って」

「店?」

「鈴木青果店、あそこの野菜は新鮮だからぜひ利用してやってくれ」

「ヒカルちゃんは暇でしょ? 遊びに行こうぜー!」

「・・・私、帰る」

「えーいいじゃん。 ダーツいこうぜ」

「・・・馴れ馴れしいぞ」

「え? キャラ変わった?」

「あ、ごめんなさい。 私も色々と用事があるから」

「お前も八百屋の娘かなんかか?」

「椿くんって、面白いこというんですね」

「なあ、教室にはあれ、持ってこないんだな」

「あれって何の事?」

「何の事ってあれだよあれ、凶器」

「凶器? え? ヒカルちゃん凶器持ってるの?」

「言ってる意味がよくわからないんだけど・・・」

「隠さなくていいって、朝、チンピラを一掃してたなんてこと」

「それ、どういうこと?」

「なんで私がチンピラと・・・」

「朝さ、緑ヶ丘公園でこいつがさ、チンピラ相手にケンカしてたんだよ。 相手は20人ぐらいだったかな」

「20人!? 冗談でしょ」

「あの・・・夢でも見てたんじゃない? あなたと会うの初めてだし」

「初めてって、朝、公園で会ったじゃねーかよ」

「公園? 私、そんな所に寄ってないよ」

「うそつけよ。 その制服、覚えてるもん」

「・・・人違いだよ」

「ねぇそんなことよりダーツ行こうよぉ。 クリケットやろうよぉ」

「じゃあね」


桜木はカバンを持ち、立ち去ろうとした。


「なんで隠すんだよ?」

「隠してないよ」

「そんなにダメか? 強い女って?」


「私は普通の女子生徒よ。 チンピラなんか相手に出来るわけがないでしょ? それに、こんなか弱い腕でどうやって戦うっていうの?」

「か弱い?」

「こんな華奢な腕でどうやって戦うの」


桜木はそういって俺に手を差し出した。


・・・確かに細い。


「宗介? お前、人違いしてるんじゃない?」

「誰にだって間違いはあるし、それに私みたいな女の子はたくさんいるし、別に怒ってないから」


・・・やっぱり人違いだったのかな。


「それじゃ」


桜木が俺の前を通った瞬間、髪の毛からいい香りがした。

ラベンダーの香り。


・・・いや、絶対に人違いなんかじゃねえ。


「あーあ。 ヒカルちゃん行っちゃったじゃんかよ! どうするよこれから」
「ダーツ行くんじゃねえの?」
「お前と二人でダーツ行って何が楽しいんだよ。 何に向かって俺はダーツをなげればいいんだよ。 じゃあ、あれやっちゃう? 対戦型クイズゲーム"クエッション×クエッション"!」


クエッション×クエッション、通常クエクエというのは、通信で全国のクイズ好きと戦える早押しゲームだ。


「いいや。 遠慮しとくよ」
「・・・そうだな」


教室の隅から変な声がした。


「おい、今、ニャ~っていったか?」
「いや」
「いま、確かに聞こえたよな?」
「あ、ああ。 まただ」


聞こえた方を見ると1人の生徒が座っている。


「なあ、あっちの方から聞こえたよな」
「ああ」


その生徒に近づいた。

 

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「なあ、猫飼ってるか?」

「え? 猫、ですか?」

「そう、猫」


こいつの名前は佐田リコ。

クラスでは特に目立った存在ではない。

何度席替えをしてもいつも、前の席になるという強運の持ち主だ。

もちろん、ちゃんと話したこともない。


「猫さん飼ってないです」


・・・こいつ動物にさん付けかよ。


「今ここら辺から、猫の鳴き声らしきものが聞こえたんだけどなぁ。 俺の勘違いかな? 水嶋も聞こえたっていってんだけど」

「か、飼ってない・・・ニャー・・・」

「お前、そんなしゃべり方なの?」

「そうニャー、こんなしゃべり方ニャー」


明らかに今の声は本物の猫の声だ。


「ニャー・・・」

「なあ、そのカバン開けてもいい?」

「だ、ダメです。 これだけは、ダメです。 じゃなかった、ダメニャー」


俺はカバンを開けた。

 

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中から真っ白い猫が飛び出してくる。


「わぁ!」


白い猫は一目散に教室を飛び出し廊下を駆け抜けていった。


「待って! ミュウちゃん!! 待って!!」


その猫を追う佐田。


「あ!」


佐田はつまずいた。


「ぐ・・・いたいですぅ・・・猫さん・・・」

「佐田、大丈夫か?」

「ミュウちゃん、いなくなりました」

「あれってリコちゃんの猫だったの?」

「そうです。 あたしの猫です。 白猫のミュウちゃん」

「悪かったな。 でも学園に猫なんかもってくるか普通」

「でも、あたししかお世話する人いないから」

「家族に面倒みてもらえばいいじゃねーかよ」

「お母さもお父さんも飼っちゃダメっていうんです」

「じゃあどうやって飼ってんだよ」

「まあ飼ってるっていっても昨日、公園で見つけただけですけど。 それをカバンに無理矢理つめこんで、持って帰ったんです」

「おい」

「そして、お母さんに飼っていい? ってきいたら戻して来なさいっていわれたから、返すフリをしてそのまま学園に持ってきました」

「それって誘拐じゃね?」

「違います。 あの猫さん、ミュウちゃんはあたしにいったんです。 リコちゃんミュウを飼ってって」

「そのわりには、すげースピードで逃げていったけどな」

「いいえ。 ひとりぼっちでずっと寂しかったって、ミュウちゃんいいました」

「なんでわかんだよ。 ほんとは、ほっといて欲しかったんじゃないのか?」

「あたし、動物とお話することが出来るんです」

「へぇ~・・・ってウソつけ」

「本当です。 でも誰も信じてくれないんです」

「普通は信じないよね、そんな話」

「まあなんでもいいけどさ、野良猫でも勝手に拾ったら犯罪だからね」

「そうなんですか?」

「しらねーけど、そうなんじゃないの?」

「まあそうだよね。 俺がコンビニでオニギリみてさ、『このオニギリさん、俺に食って欲しいっていってるぅ~』ってパクッたら即、交番行きだもんな」

「それいい例えだな」

「分かりました。 今度はもっとうまくやります。 もっと素早くカバンにつめます」

「なんもわかってねえだろ」

「あ! ミュウちゃん探しにいかなきゃ! では、さようならです」

「おい!」


・・・。


「なんかうちのクラスって変なヤツ多くね?」


お前を含めてな。


「みなさん、こんにちは。 わたくしが通りますよ」


突然、教室の扉が開くと、とてつもない光景が飛び込んできた。

 

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二人の生徒が、ソファーを抱えている。

そのソファーの上に少女が寝そべっていた。

なんだこれは・・・。


「やべ、レイカ様だ! 俺、先に帰るわ!」


水嶋は逃げるように教室を出ていった。


「おい、待てよ!」


・・・レイカ様?

気付けば教室には俺一人だ。


「あら? あなた一人?」


隣のクラスの神山レイカ

うちの学園ではその名を知らない者はいない。

神山家といえば代々この街の地主であり資産家で、あらゆる事業を展開するKAMIYAMAグループの創始者の一族だ。

近年、この街にやたらとショッピングモールができたり、駅ビルが巨大化したり、急行が止まるようになったりしたのはKAMIYAMAグループの力らしい。

イカはその神山グループの令嬢だ。


「今日はこのクラスの方々にチャンスを与えに来ました」

「チャンス?」

「そうチャンス。 私、今度、ピアノコンサートを開催することになったの」

「あ、そう。 そんなことより、なんでソファーに乗ってんだよ」

「どうしてソファーに乗ってるかですって? 楽だからに決まってるでしょ」

「下の奴らつらそうだけど」


ソファーを抱えている二人の生徒の手がプルプルと震えている。


「そんなことはどうでもいいのよ。 今重要なのは、私がピアノコンサートを開催するってことでしょ?」

「ああ、そうですね」

「そのコンサートのポスター撮りが今週の日曜にあるのよ」

「へえ~」

「ひとりで映ってもいいんだけど、やっぱり引き立て役が必要でしょ?」

「引き立て役?」

「私の引き立て役オーディションを開催しようと思っているの。 この方に、あれをお渡しして」


イカのソファーを支えている生徒がビラのようなものを渡してきた。

イカにはいつも取り巻きの生徒が数名いる。

学園では『レイカ会』と呼ばれ恐れられているのだ。

イカ会の活動内容は不明だが、敵に回すとこの学園ではやっていけないという噂があるのでレイカ会に逆らおうとする者は誰もいない。


「・・・レイカの引き立て役オーディション開催のお知らせ」

「あなた、確か、椿宗介くんよね?」

「そうだけど」

「やっぱり。 あなたの噂は聞いてるわ。 なんでも学園一の遅刻王として君臨してるそうね。 まあ、他にいろいろとあるみたいだけど?」

「遅刻王って・・・まあ光栄だね。 俺みたいな生徒おぼえてくれてて」

「興味があるわ」


イカは寝そべっている体を少しだけ起こした。


「それはどうも。 てか人と話すときに寝て話すかよ、普通」

「あなた、今度のオーディション受けてみない?」

「やだよ」

「あなた、きっといいところまでいけると思うわよ。 いいところまでいって落ちるかもしれないけど、それはあなたの努力次第ね」

「俺はパスするよ」


なにが楽しくてこんな奴の引き立て役にならなきゃいけねーんだよ。


「私の誘いを断る気?」

「オーディションとか興味ないから」

「オーディションは今週の日曜日、10時からよ。 気が向いたらきてちょうだい。 場所はその紙に書いてあるわ」


ビラをみると確かに地図がある。

金持ちのくせに手書きの汚いビラ。

地図もグチャグチャだ。


「俺、絶対にいかないよ」

「優勝賞金も大量に用意するわ。 悪い話じゃないと思うんだけど。 庶民のあなたにとっては手から喉がでるほど欲しい大金でしょ」

「手から喉が出たらこえーよ」

 

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「わ、わざとよ!」


どうやらレイカは国語が苦手らしい。


「金で俺に恥をさらせってか?」

「恥? なにを言ってるの? 意味がわからないわ」

「『レイカ会』だっけ? なんかしょーもないことやってないで、バイトでもしたら?」

「バ、バイト?バイトってあの一時間いくらとかそういう、はした金の為に、汗びっしょりになるっていう行為のこと?」

「かわいそうなヤツ」

「椿宗介、あなたレイカ会を敵に回そうっていうの?」

「いや、そんなつもり全然ないから」

「くっ・・・椿宗介、あなたの名前『レイカ会危険人物リスト』に追加させてもらうわ」

「なんじゃそりゃ」

「ほら! 生徒A、今すぐに追加しなさい! 危険人物リスト003椿宗介よ」


後ろにいた生徒があわててノートとペンをだした。

003?

他に2人いるのか・・・


「何やってるのよ椿宗介よ。 え? 漢字? あなた、つばきってどういう字書くの?」

「木へんに春だよ」

「木へんに春よ! 早く書きなさい!」


イカは漢字もあまり得意じゃないらしい。


「ソウスケはどう書くの!」

「ひらがなでいいよ。 めんどくせぇ」

「ひ、ひらがなよ! ひらがなで書きなさい!」

「書いた?」

「書いたわ。 このリストに名前を書かれたらどうなるかわかっているわね」

「どうなんの?」

「なにか嫌なことがおこるわ。 すごく嫌~なことよ」

「なんだよ嫌なことって」

「靴が無くなったり、お弁当箱がなくなったり、変なあだ名をつけられたり、つまりそういう、ささいな嫌なことがおこるわ」

「小せぇよ」

「このノートにはボールペンで書いたから消せないんだからね! このリストの恐ろしさ思い知るがいいわ」

「わかんねぇよ!」

「それからオーディションには必ず来るのよ。 来なかったらイスに画鋲とか仕掛けることになるんだから!」

「だから、小せぇよ」

「私をここまで馬鹿にした男はあなたがはじめてよ。 さすが、噂になっている男だけあるわね」

「あ、俺、遅刻王だからさ、そのオーディションだっけ? それも多分遅刻すると思うよ」

「ふん、そうやって強がっていられるのも今のうちよ。 今に私の虜にしてみせるんだから」

「虜ねえ・・・」

「行くわよ。 生徒A、生徒B!」


そういうとレイカを乗せたソファーは教室を出ていった。


・・・。


オーディション・・・行くわけねぇじゃん。

ていうか、怖いもの知らずだ。

さすが神山グループの令嬢だ。

・・・どうなったって、知らねえぞ。

やっぱりこの学園は変なヤツが多すぎる。

窓から外を見ると、空も暗くなり始めていた。


「そろそろ帰るか」


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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6月といっても少し肌寒い日が続いている。

俺は自称不良だから、タバコも酒もやる。

・・・というのはウソでタバコは苦くて吸えたもんじゃないし、酒だって苦くて飲めたもんじゃない。

街は相変わらず楽しそうな人たちで溢れかえっている。

手を繋いで必要以上に寄り添っているカップル。

買物袋をたくさんぶら下げた仲のよさそうな家族。

どーでもいい会話ではしゃいでいる学生の群。

俺はというと、なにをするでもなく、ひとりポツンと街にいる。

毎日、この時間は憂鬱になる。

俺はこの先なにになるんだろう。

進学するほど頭もよくないし、かといって特別な才能があるわけでもない。

昔はよく行っていたバッティングセンターがみえてきた。

野球なんてくだらねえよ。


・・・。


「椿くん、なにニャーニャーしてるんですか~?」

「わぁ!」

 

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「こんばんニャー」
「・・・お前は、佐田リコ」
「はい、リコです。 リコと呼んでください。 なにしてるんですか?」
「なんもしてねーよ。 てかお前、猫みつかったか?」
「それがミュウちゃん、みつからないんです」
「だろうな」
「リコは、ミュウちゃんと約束したんです」
「なんて?」
「リコが育ててあげるからねって」
「それはお前が勝手にしただけで、向こうには伝わってないと思うぞ」
「そしたらミュウちゃんが『ありがとう佐田さん』っていったんです」
「佐田さんって呼ぶんだ? あの猫」
「ミュウちゃん意外と礼儀正しい猫です」
「礼儀正しい猫ってどんな猫だよ」
「あたしとミュウちゃんは運命で結ばれてるんだって思って、カバンに詰めました」
「おいおい」
「あたし、小さい頃から動物と話せるんです。 そういう能力があって」
「いや、水を差すようで悪いんだけどさ、それ勘違いだと思うよ」
「違います。 本当なんです。 でも誰も信じてくれないけど」
「そりゃそうだろ」
「椿くんは信じてくれますか?」
「信じるもなにも、そういうことは科学的に不可能だから」
「科学では無理でも、リコには無理じゃないんです」
「じゃあ証拠見せてみろよ。 リコが動物としゃべれるって証拠」


俺はいたずらっぽくいった。


「ぐぅぐぅ・・・わかりました。 あたしが動物たちとしゃべれるってことを証明します」
「じゃあさあ、あそこにカラスがとまってるだろ」


電線にカラスさんが2羽とまっている。


「あ、カラスさんかわいい。 もって帰りたい」
「あのカラスが今なんていってるか教えてくれよ」
「わかりました」


リコはカラスをじっとみている。


「ほら、なんていったんだ?」
「静かにしてください! 集中できません」
「すまん・・・」
「は、腹へった。 なんか食いもんねーかなぁ。 三日も飯食ってねぇもんなぁ。 最近じゃ都会も残飯が減ってきたよなぁ。 これが不景気ってやつか」
「おまえ、適当にいってるだろ。 カラスが不景気とか気にするか」
「お腹すきました」
「お前がいいたいこといっただけかよ・・・」
「でも、あのカラスさんもお腹すいてるみたいです。 本当にそういってます」
「そんなんだったら俺でも出来るわ」
「やっぱり信じてもらえない。 誰にも信じてもらえないならこんな能力なんて最初からなかったらよかったのに」


今にも泣きそうな顔をした。


「わかったよ。 信じるよ」
「ほんとうですか!!」
「信じる信じる。 リコは動物と話せるよ。 これでいいか?」
「うれしいです。 椿くんって壊そうだから、もっといじわるな人だと思ってたけど、いい人だったんですね」


リコと話していると調子が狂ってしまう。


「猫はもういいのか?」
「大丈夫です。 新しい猫さん探します」
「勝手にさらったりするなよ」
「友達、いっぱい欲しいです」
「え?」
「友達いっぱいだと、リコはもっと楽しくなると思います」
「お前、クラスに友達いないのか?」
「います。 飼育小屋のうさぎさんとか、たまにグランドにくる犬さんとか、窓からみえる木の枝にとまってる鳩さんとか、ナメクジさんとか」
「いや、動物とか虫とかじゃなくて、人間の友達はいないのかってこと」
「人間の友達?」
「そうだよ」
「います」
「誰?」
「椿宗介くんです」


いつから俺がお前の友達になったんだよ。


「リコと宗介くんは友達です」
「お前、バカじゃねえの?」


・・・友達なんてくだんねぇよ。


「カラスさん~! あたし~! 今日~! 椿宗介くんと~友達になったよ~! 人間ではじめての友達ができたよ~!」
「おい! 大きな声で変なこというな! 誰かに聞かれたらどうすんだよ!」
「カラスさんバイバイ~!」
「いま、カラスのやつなんていったんだ?」
「人間はあんまり信用するなって」
「そうか」
「人間は怖いです。 おそろしいです」
「なあ、俺なんかよりさ、女子と仲良くなれよ」
「あたし、クラスの女の子と話したことありません」
「誰とも話したことないのか?」
「はい。 飼育小屋のうさぎさんとはよく話します。 うさぎさんはもうニンジンはコリゴリだとよくいいます」
「ニンジンやっとけばオッケーみたいになってるもんな」
「あたし、人間の女の子となにを話せばいいかわかんないんです。 宗介くん、教えてくれませんか?」
「自分の好きな話するのが一番だ。 相手に合わせてると疲れるからな」
「うさぎさんは、寂しくなると死ぬといわれてますが、そんなに簡単には死にません」
「死なないんだ・・・」
「金魚は死んですぐに、塩水につけると生き返ることもありますが、たいてい死にます」
「あ、今度は死ぬんだ」
バーバリーライオンは絶滅しました。 残念です」
「絶滅したんだ・・・あのさ、絶滅とか死んだとかそういう不吉な話じゃなくてもっと明るい話ないの?」
「明るい話・・・あ、あります」
「お、なんだ??」
「夜、口笛を吹くと蛇がでるといいますが、あたしは口笛が吹けません」
「・・・そうなんだ。 で?」
「つまらないですか?」
「つまらないっつうか、なんていっていいか困るな。 てか明るい話しろっていってんじゃん」
「提灯あんこうの光は、いうほど明るくありません」
「だから、明るい話しろっていってんだろ!」
「・・・こわい。 やっぱり友達できません」
「はるかとかどうだ? 鈴木はるか」
「鈴木はるかさん?」
「あいつはまぁ、いい奴だから仲良くなれるとおもうぞ」
「鈴木はるかさん。 わかりました。 明日から挑戦してみます」
「あ、あとな、こいつは友達になるなって奴がいるよ」
「誰ですか?」
「桜木ヒカル」
「桜木ヒカルさんって今日、転入してきた桜木さんですか?」
「絶対に友達になったらダメだぞ。 近づいてもいけないぞ」
「どうしてですか?」
「今からいうこと誰にもしゃべっちゃダメだぞ」
「わかりました。 リコ誰にもいいません」
「あの桜木って女な、とんでもない暴力女なんだよ」
「暴力?」
「あいつな、金属バットで人をボコボコにするんだ」
「ボコボコ・・・」
「朝、公園でみたんだよ。 あいつがチンピラを血が出るまで殴り続けてたのをさ」
「血っ~!!」
「だから、あいつとは絶対に友達になるなよ」
「桜木ヒカルさんは、動物もボコボコにしますか?」
「当たり前じゃん。 人をボコボコにするやつが、動物をボコボコにしないわけねーだろ」
「ひどいです。 許せません」
「金属バットでゴリラとか熊とかを滅多打ちだからね」
「ゴリラを・・・」
「そうだよ」
「ゴリラは抵抗しないんですか?」
「してたよ。 だけどゴリラより強いんだよあの女」
「なんでそんな人がうちの学園にきたんだろう」
「前の学園で生徒を50人くらいボコボコにして居場所がなくなったんだってさ」
「そ、そんなぁ。 50人ってクラス壊滅の危機です」
「だから桜木ヒカルにだけは気をつけろよ」
「近づきません。 あたしボコボコにだけはなりたくないです」
「よしよし」


「だれがゴリラと格闘したんだ?」


「いや、だから桜木ヒカルだって・・・あっ」

 

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そこにはクールな表情の桜木がいた。


「あ・・・、あ・・・」

「椿宗介だったよな」

「桜木ヒカル!?」

「あ・・・、あ・・・」


リコは桜木におびえている。


「名前は?」


桜木はリコに尋ねた。


「佐田リコです」

「佐田リコ。 変な名前だな」

「は、はい」

「佐田も同じクラスか?」

「違います」

「じゃあ隣のクラスか?」

「違います」


リコは桜木のいう質問を完全に拒絶している。


「おまえとは話したくないってさ」

「椿、おまえ私に恨みでもあるのか?」

「動物をいじめないでください」

「いじめてない」

「宗介くんがゴリラや熊をいじめたって」

「誤解しないでほしいんだけど、動物をいじめたりしないから」

「それ! その背中にあるのはなんですか!」

「これは、なんでもない」

「いいえ、それは例の血まみれの金属バットでしょ!」

「それでボコボコにしますか?」

「動物にそんなことはしない。 動物は好きだ」

「じゃあ誰をボコボコにしますか?」

「・・・誰もしないよ」

「よくいうよ。 朝、公園でチンピラを殴ってたのは事実だもんな」

「まだそんなこと言ってるのか?」

「お前に間違いねーだろ。 なんで隠してるかしらねーけど、認めろよ」

「しつこい男だな」

「あ! 猫さん」


リコが指差した先には、学園から逃げ出した真っ白な猫がいた。


「あ、まってミュウちゃん!!」


リコは猫を追いかけて去っていった。


「あれは佐田の猫か?」
「野良猫みたいだぞ」
「そうか、野良猫か」
「動物と話せるんだってさ」
「動物と話せるなんて本気でいってるのか?」
「ああ、さっきあのカラスと会話してたぞ」
「カラスと会話か。 頭、大丈夫か?」
「俺はまともだよ」
「鳥は自由でいいな」
「そうだな」
「なあ、ちょっとついてきてくれないか。 一つ頼みがあるんだ」
「さあどうだろうね。 おまえ次第じゃね」
「頼む」


桜木が少し悲しい目をしたのを、見逃さなかった。


「分かったよ、ちょっとだけだからな? 分かってんだろ?」
「分かっているさ」


・・・・・・。

 

・・・。

 

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「頼みってなんだ?」
「もう隠すのも面倒になってしまってな」
「やっと認めたか」
「もう、二度と会うことはないと思っていたんだが、まさか同じクラスになってしまうとは予定外だった」
「最初から、素直に話せばいいんだよ」
「・・・今朝あったこと、誰にも言わないで欲しいんだ」
「チンピラと公園で乱闘したことか?」
「そうだ」
「てかさぁ、なんでしゃべっちゃだめなの? いいじゃん、女が20人のチンピラを倒すなんてニュースになるぜ!」
「やめてくれ!」
「え!?」
「もう、その話をするのはやめてくれないか」
「どうしたんだよ」
「あれはきまぐれだったんだ。 あれは、私の意志じゃない」
「おい、大丈夫か?」
「お前が、あんな連中に絡まれたりしなければ、これを使うことなんて、もう、無かったんだ」
「落ち着けって」
「あの時、私はこれを処分するつもりだったのに・・・」
「処分?」
「私にとってこれは、もってはいけない呪いなんだ」


桜木は袋から竹刀を抜いた。


「どうする気だよ」
「こんなもの!」


――ッッ


桜木は竹刀を真っ二つに折ろうとする、


「おいやめろって!」


俺は桜木を止める。


「離してくれ、こいつの、こいつのせいで・・・」


桜木は竹刀を膝で折ろうとしている。

 

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「守るためだ。 こいつは何かを守るためにあるはずなのに!」
「わけわかんねーこと言ってんじゃねーよ」
「止めないでくれ!!」
「竹刀なんて折るもんじゃねーだろ!」
「お願いだ。 誰にも今日のことは話さないでくれ」
「分かったよ! 話さない! だから落ち着けって」
「・・・・・・」
「何があったんだよ」
「もう私は、竹刀を握ってはいけないんだ。 公園で使ったのが本当に最後だ」
「なんで使っちゃだめなんだよ?」
「それは・・・」
「・・・まあ、理由はわかんねーけど、今日のことは誰にも言わねーから。 約束する」
「本当か?」
「もちろんだ。 俺、不良だけどさ、口は堅いから」
「ありがとう」
「でも、なんでそこまで隠すかね~」
「私は、その、普通でいたいんだ」
「普通? 大丈夫だって。 見た目は普通だから」
「普通の女の子はやっぱり化粧とか、そういうのが好きだろ。 あと占いとか好きじゃないか? 誰が何型で性格がどうだとか、昨日のドラマに出てたあの俳優がカッコイイとか、そういうのが好きだろ」
「まあ、そんな感じだろうな」
「私もそういう風になりたいって思うんだ」
「なろうと思ってなるものじゃないぞ」
「この竹刀、もらってくれないか?」
「え? 俺が?」
「もらってやってくれ。 私の一番大切だったものだ」
「いや、そんな風にいわれると余計にいらねえんだけど」
「・・・もう、見たくないんだ」
「分かったよ。 これは俺が預かっとくよ」
「ありがとう」
「これ振ったら、筋肉つくかな?」
「一日100回振れば、そのふぬけた顔もしまると思うぞ」
「ふぬけってお前なぁ・・・」
「じゃあ、さよなら」


桜木は去って行った。

この竹刀どうすっかな・・・。

ここに捨てるわけにはいかねぇしなぁ。

とりあえず家に持って帰るか。


・・・・・・。

 


・・・。

 

 

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俺にとって今日はいつもより長い一日だった。

桜木ヒカル。

チンピラをぶっとばすスーパー女子学生。

とんでもないヤツが転入してきたものだ。

桜木のいった言葉を思い出した。


『私は、その、普通でいたいんだ』


普通は退屈だ。

それは俺が一番よく知っている。

俺は部屋の隅の姿見をみた。

ふぬけ・・・いやそんなことねぇよな。

それなりにカッコイイと自分では思っている。

鏡の前でキメ顔を作ってみる。

この右斜35度くらいが一番カッコイイ。

だから写メやプリクラをとるときはいつもこの角度を作り出す。

右斜35度の男。

ああ、俺ってナルシスト的な部分があるなあ。

きもちわりぃ。

もう一度鏡をみる。

ふぬけた顔。

どーせ俺はふぬけだよ。

あ~あなんかテンション落ちたからゲームでもやろっと。

俺は超大作RPGの新作をカバンから取りだした。

所詮はゲーム。

この世界でレベルが上がっても、リアルではなんの役にもたたないのだ。

・・・といっても、おれはこれくらいしかやることないしな。

俺はゲーム機の電源をONにした。

最近のゲームはやたらとグラフィックがすごいな。

オープニングムービーが流れる。

『剣と勇気のファンタジー ソード オブ ブレイブⅧ』

通称SOB、ソーブレとも呼ばれている。

ゲームやってるやつなら大概の人間がプレイしてるほどの有名な作品の最新作だ。

もう8作目か・・・これどんどん面白くなくなってるんだよなあ。

剣と勇気。

剣・・・。

ん? メールか。

受信ボックスを開く。

差出人はマコトだ。


『今日も一日、お疲れ様で~す! 宗介くんはどんな一日だったかな?』


相変わらず気楽なメールだな。


『マコトはね、今日、ワイハにいるんだよ~!』


ワイハ?


『スキューバしたり、サンゴ礁とたわむれたりしたのだ! 宗介くんは今日は何かあったかなぁ? マコト、知りたいなぁ。 ハート 返信、待ってます!』


俺はマコトに返信メールを打つ。


『今日は、特に変わったことは無かったよ。 いつもと変わらない平凡な一日ってとこかな ハワイか~。 いいなぁ~。 俺も一度は行ってみたいです』


こんなもんでいいだろ。

俺はマコトにメールを返信する。

ゲーム画面をボーっと見つめた。

・・・今日はやめとくか。

俺はゲームのスイッチをOFFにした。

もう寝よう。


・・・・・・。

 

・・・。

 

第一章 ヒカル編

 

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「宗介~、宗介!」
「ん?」
「いつまで寝てるの~。 ほんとに寝るのが仕事みたいになってるよ~。 起きてくださ~い!」
「あ、ああ」
「もう昼休みだよ」


俺は熟睡していたらしい。

本を読んでいる桜木と目が合いそうになり俺は視線をはずした。


「お弁当は持ってきたの?」
「ああ」
「そっか。 ちゃんと食べないと体に毒だよ」
「わかってるよ」

 

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「ねぇヒカルちゃん! なに読んでるの?」
「・・・小説」
「お昼ご飯、一緒に食べない?」
「別に、構わないが」
「じゃあ、中庭で一緒に食べようよ」
「そうだな。 まだ学園のことも良く分かってないから、助かるな」
「あれ? ヒカルちゃんなんか、ちょっと雰囲気変わった?」
「そ、そう? 私は普通だよ」
「う~ん。 なんか違う気がするんだよね~。 昨日はもっと女の子っぽい感じだったんだけどなぁ~」
「え~やだ~鈴木さん何いってるの~。 勘違いだって~」

「大変だなおまえも」

「え~なにいってるの? 椿くんまで~あはは~」

「疲れないか?」

「少し」

「なんかヒカルちゃん、そっちの方がいいよ」

「そっちって?」

「さっぱりしてるほうが、ヒカルちゃんにあってる。 なんかかっこいいなぁ」

「かっこいいか。 鈴木さんは女の私から見ても可愛いと思うぞ」

「そんな事ないよ。 私、案外ズボラだったりするし」

「そうは見えないけどな」

「はるかは、ズボラだよな~」

「宗介には言われたくないけどな~」


俺は教室を出た。


・・・。

 

学園には噴水があって、その周りには綺麗に整備された中庭がある。

新山学園は無駄に綺麗で、校舎や体育館、ロッカールーム、教室の机やイスに至るまで新品のような美しさを徹底している。

スポーツ施設などは、まるで会員制の高級ジムのようなクオリティだ。

どうやら神山レイカの父が社長を務める、神山グループが学園に多額の寄付をしているらしい。

 

「一緒には食べないんだな?」

「そういうの、苦手なんだよ」

「そうか」


俺は、はるかと桜木から離れて座り弁当を食べる。

 

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「鈴木さん、この学園のこと教えてもらえないか?」
「え? う~ん。 なにが知りたい?」
「そうだな、学問のこととか、部活のこととかかな」
「勉強にはうるさい学園かなぁ。 進学率もいいみたいだし」
編入テストはかなり難しかったからな」
「部活はどうだろう。 野球部とかは凄いみたいだけど、あんまり盛んって感じじゃないかも」
「そうか」
「ヒカルちゃんは休みの日とかは何してるの?」
「休みの日は、普通のことをしている」
「普通?」
「ああ」
「そっかぁ」


相変わらず会話がはずんでない様子だ。


「お腹もいっぱいになったし、そろそろ教室に戻ろっか」
「なあ、あれはなんだ?」


桜木が指差した方向に、近代的なこの学園にしては珍しい建物があった。


「あれ? あれはなんだろう」
「あそこは授業で使ったりしないのか?」
「私は使ったことないけど、使ったことある人いるのかなあ」

「昔使ってた教室とかなんじゃねえの?」


俺は弁当をたいらげ、話に混じる。


「教室というよりは、体育館のようにみえるけどな」

「でも、うちの体育館はあっちだよ。 屋上にはプールがあるんだよね。 雨が降っても大丈夫なように天井が開閉式なの」

「じゃあ体育館でもないのか」

「それにしても不気味じゃね? 幽霊とか出てきそうな感じだしさ」

「・・・行ってみないか」

「やめとけよ。 行ったところでなんもねーよ」

「あそこって誰も近づかないんだよね。 ほら、よくみてよ。 鉄の柵がしてあるでしょ?」

「あ、ほんとだ。 トゲトゲしてるな。 中に入れないようにしてるんだな」


古ぼけた建物は近代的な学園の中で異質の空気を放っていた。

まるで何かを封じ込めたかのように。


「なにか、臭いものにフタをしてるみたいだな」

「考えすぎだよ。 そのうち取り壊すんだと思うよ。 鉄の柵とかしなきゃ不良のたまり場とかになっちゃうんじゃない?」


はるかは俺をチラッとみた。


「ばーか。 最近の不良はあんな汚いとこにはたまんねーんだよ」

「ヒカルちゃん、なんでそんなに気にしてんの?」

「いや、別に」


ピー!!


「そろそろ昼休み終わりますよ!」

 

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笛の音に振り向くと、そこには風紀員の沢村アキナが立っていた。


「沢村さん!」

「もうすぐ授業はじまっちゃいますので、先輩方、教室に戻ってください」

「ごめんなさい。 みんな戻ろう!」

 

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「なあ、沢村? あの建物ってなにか知ってる?」

「あれですか? えっと・・・」

「風紀委員なら知ってると思ってさ」

「詳しくは知りませんが、今はもう使ってなくて、来月に取り壊しが決定したみたいです」

「あれってなんだったの?」

「あそこを壊して別の建物を造るみたいですよ。 なんに使ってたかまでは聞いたことないですが」

「だってよ」


気にしている桜木に俺はいった。


「あの、あなたはうちの学園の生徒ですか?」


アキナは桜木を不思議そうな目でみた。


「ああ、そうだ」

「そうなんですか? 見たことなかったもので」

「無理もない。 私は昨日転入してきたばかりだからな」

「昨日? もしかして、あなたが桜木ヒカルさんですか?」

「私を知ってるのか?」

「ちょっと小耳に挟んだもので」

「どういうことだ?」

「いえ、なんでもないです。 忘れてください」

「え? ヒカルちゃんって有名なの?」

「・・・私は普通だ」

「あ! もう授業はじまりますよ」

「いっけない! もうこんな時間だ!」

「鈴木さん、先に行っててくれないか? 私寄るとこあるから」

「え? でも授業はじまっちゃうよ!」

「悪い、すぐに戻るから」

「ちょっと、ヒカルちゃん!」


そういうと桜木は教室とは逆の方向に向かって走っていった。


「おい、はるか! 先に行っててくれ」

「おい、どうしたんだ?」


水嶋が寄ってくる。

 

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「俺もちょっと寄りたいとこあるからさ」

「ちょっと宗介どこいくのよ! 授業どうするのよ~」

「先生は上手くごまかしといて~。 よろしくな!」

「栗林先生に怒られても知らないからね~」


俺は桜木の後を追った。


・・・。

 

 

桜木はあの怪しい建物の近くに立っていた。

俺は気付かれないように後ろから様子を伺う。

 

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「出てこいよ。 それともコソコソするのが趣味なのか?」
「別に隠れてねーよ」
「あとをつけるならもっと忍者のように気配を消すべきだな」
「いつの時代だよ」
「ふーん」


桜木は俺の全身をくまなく見た。


「なんだよ」
「おまえ、全身スキだらけだな」
「・・・」
「いくぞ」
「いくって、この柵こえんのかよ」


俺は桜木の後からその建物に入る。

柵は3メートル近くあり、上には有刺鉄線のようなトゲが張り巡らされている。


「くそ、この柵、思った以上に高いな。 だからスカートはいやなんだ」


桜木は鉄の柵をみるみるよじ登っていく。


「おい、 ・・・パンツ見えてるぞ」
「え? み、見るな!」


明らかに動揺している。


「ふーん、そんなパンツはいてるんだ・・・意外」
「きさま、殺すぞ」
「・・・すまん」


桜木は鉄の向こうに無事、着地する。

俺は後につづいて柵を登っていく。

運動不足がたたってか、かなりきつい。


「おーい大丈夫か?」


桜木が下で腕組みをして、俺を見上げている。


「大丈夫だよ」


なんとか、柵の上までやって来れたな。


「おまえってどんくさい奴だな。 早く飛び降りろ」
「こんな高さから飛び降りたら骨折するだろ。 ばーか」
「軟弱なやつだな」
「いいよわかったよ。 飛び降りてやるよ」


俺は下を見た。

・・・た、たけぇー。

いや、ここでやらなきゃ一生こいつになめられたままだ。

俺は、南の島でバンジージャンプをした時のことを思い出した。

・・・あのときは余裕だったじゃん。

あれに比べればたいした高さじゃねえ。

目をつぶって俺は空に舞った。

そして後悔する。

・・・バンジーにはロープがあるが、今はないじゃん・・・。

・・・。


――ッッ


俺は尻もちをついた。


「いてぇ・・・」


なんとか、怪我はないようだ。

 

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「やっぱり鈍くさいな」


・・・くそう、いつかこの女をギャフンといわせてやる。

くすんだ茶色の木でできたお城の蔵のような建物。

その空間だけ、まるで過去にタイムスリップしたかのような風格と趣があった。


「あれ、見てみろ」
「え?」


建物の入口付近に違和感を感じた。

 

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「あそこだけ他に比べて色が違うな」
「そうだな。 あの形からして本来は看板かなにかが掛っていたんだろ」
「ああ。 きれいな長方形だもんな」
「入ってみるか」
「マジで?」
「なんだ? びびってるのか? 足が震えてるぞ」
「びびってねーし」
「教師にみつかったらきっと怒られるな」
「教師が怖くて不良やってられっかよ」
「お前は不良なのか?」
「今さら気付いたのかよ。 どっからどうみても不良だろ」
「不良というのはなにをするんだ?」
「え? なにって」
「活動内容だ」


活動内容・・・。


「ひ、秘密だよ」
守秘義務ってやつか? そういうのは不良の世界にもあるんだな」
「そうだな。 一般人には教えられないな」
「じゃあ、私も仲間に入れてくれないか?」
「え? なんだって?」
「いや、やってみると案外楽しそうかなあと思ってな」
「ふふふ。 仲間になるか? じゃあ桜木はスケバンだな」
「スケバン。 今も存在してるのか?」
「まずはその黒髪を金髪に染めちゃおうぜ」
「じゃあ、明日、金髪にしてくるよ。 椿もパンチパーマのほうがいいんじゃないか?」
「リーゼントのほうがいいかな。 おまえ、話わかんじゃん」
「ふ。 疲れるな、おまえに合わせるのも」
「は?」
「何が楽しくて不良なんかにならなければ行けないんだ? そんな間抜けな顔にはなりたくない」
「おまえ、騙したな!」
「不良っていうのは暇な生き物だな」
「暇じゃねーよ」
「週何回くらいそういう活動してるんだ?」
「数えてねーよ。 部活じゃないんだし」
「会費とかはあるのか?」
「会費? 現場で徴収だよ」
「やっぱり暇そうだな」
「なに? おまえケンカ売ってんの?」
「いや、そういうつもりじゃない。 気にするな」
「どうすんだよ。 入んのか? 入らないのか?」
「入ろう」
「ああ」


俺たちは入口の扉の方へ入った。


「入るぞ」
「ちょっと待て」
「なんだよ」
「鍵が開いてる」
「なんだラッキーじゃん」
「どうやら先客がいるらしい」
「先客?」


入口の鍵は南京錠だった。

その南京錠は、今まさに開けられたといった感じだ。


「裏口に回るか」
「ああ」


裏口を探すため、建物のうしろに回った。

そこには小さな窓があった。

俺たちはその窓から中を覗いた。

 

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「あれ・・・?」
「女がいるな。 背が高く、髪が綺麗な、歳でいうと26くらいだな。 誰だろう」
「おまえ、それ本気で言ってる?」
「本気だが」
「うちの担任だろ」
「担任って、栗林先生か?」
「そうだよ栗林。 ・・・あいつこんなところで、何やってんだろ」


栗林はなにをするでもなく、その場に正座していた。


「・・・やはりな」
「どうした?」
「いや、そうだと思ったんだが、ここは剣術場だな」
「剣術場?」
「ああ。 あそこ見てみろ。 あの棚は剣術の防具を入れる棚だ。 それから神棚がある。 道場には必ずあるものだ」
「柔道場かもしれないぜ」
「下を見てみろ。 畳じゃない柔道場があるか?」
「あるかもしれないだろ」
一本背負いとかされたら、痛いだろうな」
「そうだな」
「この学園に剣術部はあるのか?」
「剣術も柔道もないぞ。 スポーツには力入れてねーみたい」
「その割に野球部は全国大会、手前までいったらしいじゃないか」
「よく知ってるな」
「ニュースで見たことあるぞ」
「メジャーなスポーツは特別だよ。 うちの学園長、ミーハーなんだよ」
「剣術なんてマイナーなスポーツだもんな」
「おまえ、前の学園で剣術やってたのか?」
「・・・やってない」
「へぇー。 竹刀持ってたのにやってないって言われてもねぇ」
「あれは護身用だ。 剣術はちゃんと習ったことない」
「護身用で20人も倒せるのか?」
「・・・それは言わない約束だったはずだろ?」
「すまん」
「剣術部はいつなくなったんだ?」
「知らねぇ。 俺がここに入学したときには、もうなかったかな」
「これだけ厳重に柵を張り巡らせるってことは、何かあるのかな」
「もう行こうぜ。 栗林に見つかったらめんどくせぇーからさ」
「先生はここで何をしてるんだろうな」
「知らねぇーよ。 気になるなら自分で聞いてこいよ」
「分かった。 聞いてくる」
「バカ! 見つかったら説教くらうだろ!」
「説教が恐くて不良やってられるか、だろ?」
「不良だって説教はできるだけ避けてぇーんだよ」
「大丈夫だ。 ちょっと授業サボったくらい」
「おまえなぁ!」


俺は行こうとする桜木の手を取った。


「触るな!」
「なんだよ」
「手を離せといってるだろ!」
「バカ! 声がでかいぞ!」

 

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「誰? 誰かいるの?」


「やばい見つかった」
「逃げるぞ!」


俺たちは道場から出る。

桜木は光のスピードで柵を飛び越えていった。


なんて身の軽い女だ・・・。


俺も慌てて柵にしがみつく。

くそっ、こんなことならもっと運動しておけばよかったな。


「あ・・・」


俺のポケットからタバコが落ちた。

いっておくが、俺はタバコは吸わない。

これはダミーだ。

不良っぽさを出すために、常に忍ばせている。

・・・くそ、今、タバコを拾っている時間ねーよ。

俺は柵のてっぺんからタバコを見捨て、飛び降りた。

今度はなんとか着地成功だ。

俺は教室へ戻った。


・・・・・・。


・・・。

 

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「ホームルームを始めます」


俺は少し焦っていた。

授業をサボったことがバレやしないか、内心ハラハラしている。

ふと、桜木を見ると、平然な顔をしていた。

図太い女だな。


「連絡事項を伝えます。 来週からテスト期間に入りますので、各自しっかりと準備をするようにしてください。 今年は学園生活最後の年です。 進学を考えてる人もたくさんいると思うけど、このまなの成績では、誰も進学できませんよ」


栗林はいつもそうだ。

いちいち言うことが大げさだ。

はるかは一流大学に余裕で合格できるほど頭がいいのに。


「日々なにも考えないでいたら卒業式の日、泣くことになりますよ。 そんな悲しいことにならないように、しっかりと勉強に励んでください。 以上です」


こいつの話は本当につまらない。

カンペでもあるかのように、決まったことを繰り返す。


「それでは、ホームルーム終わります」


どうやら俺と桜木のことは気づかなかったようだ。


「・・・あ、椿くん、この後残ってくれる?」
「え!?」
「少し話したいことがあるから、ほら、進路のこととか、色々とね」
「・・・課外授業ってやつですか?」


俺は内心焦ったが、あえて冷静をよそおった。


「そうね、課外授業。 先生、椿くんにはとっても期待しているから」
「それはそれは」
「今日はゆっくりお話しましょうね」


「先生! それはひいきだと思います」


俺に助け舟を出したのははるかだった。

 

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「ずるいなぁ~。 椿くんだけ進路指導って」

「だから、椿くんだけ個別っていいんですか? みんな色々進路に悩んだりしているのに、椿くんだけって。 私も先生に色々指導されたいのに」

「鈴木さんは大丈夫よ。 私がいわなくてもちゃんとやれる生徒ですもの」

「え? じゃあ、私には先生がいらないってことですか?」


はるかはお人よしだが、変に強情なところがある。


「どうしたの鈴木さん? あなたらしくない」

「私らしくないってどういうことですか?」

「分かったわ。 鈴木さんとは来週ゆっくりとお話します。 あと、他の人も一人ずつ個人面談をやります。 今日は椿くんの日、これで納得できる?」

「先生、椿くんは確かにダメな生徒だけど、ちゃんとやればできるし、ダメって決めつけて、そうやってレッテルをはるのは、良くないと思います」

「それは、友情かしら?」

「・・・どういうことですか」

「それとも個人的な感情かしら?」

「・・・違います」

「あなたみたいに素晴らしい生徒が、感情的に取り乱すなんて珍しいわね」


クラスに沈黙が走った。


「私は教師なの。 あなたたちを一人の大人として、立派にすることが私の仕事なの。 わかるでしょ」

 

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「・・・くだらない」


ぼそりと呟くようにいったのは桜木だった。


「誰? 今くだらないっていったのは」


またクラスに沈黙が走る。


「誰よ、今くだらないっていったのは。 手を挙げなさい!」


誰も手を挙げない。

桜木はあたかも自分じゃないという顔をしている。


「手を挙げなさい。 挙げないとホームルーム終わりませんからね」


クラスがどよめく。


「そうね。 みんなの前では挙げられないのよね。 分かった。 クラス全員、目をつぶりなさい。 はやく、めをつぶって。 ・・・つぶったわね。 もう一度聞きます。 今、私にくだらないといったのは誰? 手を挙げて」


俺は薄めを開けていた。

クラス中を見渡す。

桜木は全く、手を挙げるそぶりを見せない。


「手を挙げなさい。 挙げないとあなたたち、1時間でも2時間でもこのままよ 嫌でしょ? このまま深夜になったら。 先生は何時間でも待ちますからね」


・・・俺は手を挙げようとした。


「あなたなの!?」


ひと足早く誰かが手を挙げたようだ。

 

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「あ、あたしです」


手を挙げた主は、佐田リコだった。


「佐田さん、本当にあなたなの?」

「あ、あたしです」

「誰かをかばったって、しょうがないんだからね」

「くだらないニャ~」

「なんですって!」

「くだらないニャ~」

「ニャーってなによ。 ふざけてるの?」

「ふざけてないニャ~」

「ニャーニャーいうのやめなさい!」

「ニャー。 ニャー」

「なんなの。 あなた、どういうつもりよ」

「早く帰らないと、猫さん、お腹すかしてるから」

「・・・だからなに?」

「猫さんはキャットフードが好きです」

「だからなによ」

「でもドッグフードも食べます」

「だからなんなのよ」


完全にリコのペースに飲まれている。


「猫さんはなんでも食べます。 あたしはハンバーグが好きです」

「意味の分からないことばかりいってんじゃないわよ!」

「先生はハンバーグ好きですか?」

「答えません」

「そうですか」

「も、もういいわ。 とにかく、先生に『くだらない』なんてもう二度といわないこと、いい? 佐田さん」

「すみませんです」

「いいですか、来週からひとりひとり個人面談をします。 どうやらこのクラスには徹底した指導が必要のようですからね」

「あのさぁ、俺が残ればいいんすよね? 他の奴らは関係ないっすよ。 個別に面談する必要ないっすよ」

「いいえ、ひいきはよくないですからね」

「ちっ」

「今日は終わりにします。 椿くんはこの後、残ってね」


そう言い放ち、栗林は教室を出て行った。

はるかが寄ってくる。


「ごめんね宗介」

「おまえが謝ることねぇよ」

「でも、私が余計なこといったから、みんなにも迷惑かかっちゃって」

「気にすんな。 もとはといえば俺が悪いんだからさ」


桜木をみると、さっさと帰り支度をして、教室を出て行こうとしている。


「おい」

「なんだ」

「おまえ、なんで手挙げねぇんだよ」

「なんのことだ?」

「くだらねぇっていったの、おまえだろ?」

「・・・」

「俺は聞こえてたんだぞ。 おまえがくだらねぇっていったの」

「くだらないから、くだらないっていったまでだ」

「ヒカルちゃんだったの?」

「ああ。 私だ」

「おまえ、案外、卑怯なんだな」

「・・・」

「宗介、やめなって。 ヒカルちゃん、宗介かばおうとしたんでしょ」

「かばってなんて頼んだおぼえないし」


桜木はリコの方へ行った。



「すまない」

「え? どうしたんですか」

「いや、悪かったな」

「ああ、大丈夫です。 友達です」

「友達?」

「そう、桜木さんとリコ、友達になりたいです」

 

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「私と、佐田が友達か・・・」


桜木はリコに笑みを浮かべ、教室を出て行った。


「ヒカルちゃんって、笑うんだ」

「え?」

「いや、笑うんだなぁって。 笑ってる方が可愛いよね」

「そうだな」


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

俺はケータイをいじりながら栗林が来るのを待った。

話ってなんだろう。

ただの遅刻に対する文句か、それとも本当に進路についてか、はたまた、今日の昼にあの建物に入ったことがばれたか、もしくは、本当に課外授業か。

栗林は、性格さえよければ魅力的な大人の女性だ。

変な妄想が頭の中を駆け巡る。

いかん。

教師と生徒の間にそんな関係があっては。

ドラマじゃない、これは現実の世界だ。

 

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「ごめんなさいね。 待たせてしまって」
「いいっすよ別に」


俺はあらゆる妄想を打ち払った。

栗林は手で体を仰いでいる。

着込んだスーツをパタパタと揺らす。

その隙間から、チラチラと胸の膨らみが確認できた。


「思ったより、今日、暑かったじゃない?」
「そ、そうっすね・・・」


つい、ブラウスの下を想像してしまう・・・。

・・・教師にしておくにはもったいない。


「あの、話ってなんですか?」
「あなたにみせたいものがあるのよ」
「みせたいもの?」
「そう」
「なんですか?」


ドキドキ・・・。


「みたい? みたいの?」
「み、みたいです」


ドキドキ・・・。


「じゃあ、みせてあげるわ」


栗林が上着のポケットから取り出したのは、見覚えのある銘柄のタバコだった。


「これに見覚えはないかしら?」
「さ、さあ?」
「あら、そう?」
「それは先生のですか?」

 

俺は悟られないようにとぼけてみせた。


「私、タバコは吸わないのよ」
「意外ですね」
「タバコの似合う女って感じかしら?」
「ええ」
「教師をからかうと卒業させないわよ」
「またまた」
「で、これ、あなたのじゃないの?」
「違います」
「ウソついたってすぐにばれるわよ」
「ウソとかついてないっすよ。 俺タバコ吸いませんもん」
「もしタバコを吸っていたら、どうなると思う?」
「停学ですか?」
「退学よ」
「ああ・・・」
「この学園は一応進学校なのよ。 将来のこの国を支える立派な人材を育成することが、この学園の目的であり、私たち教師の使命だと思っているの」
「ご立派ですね」
「どうしてあなたみたいな落ちこぼれ、いや失礼、ゴミくず、いや失礼、素行の悪い生徒がうちにいるのか、私は疑問でならないわ」
「試験に合格したからじゃないですか?」
「ミスね。 なんらかのミスが生じたのよ。 試験番号のミス、採点のミス、もしくはカンニング、替え玉、あらゆる偶然が重なって、あなたのようなろくでもない生徒が入学してしまったの」
「いってくれますね」
「私としては、あなたにはもっとい学園があるんじゃないかって思うのよ」


・・・どうやら俺をこの学園から追い出したいらしい。


「それに、 ・・・他にも色々と問題があるみたいだし」
「どういう意味ですか?」
編入届は私が用意してあげたわ」


栗林は俺の前に書類を出した。


「ここにね、サインをすればいいの。 ああ、ハンコ持ってないわよね。 じゃあ、拇印でいいから」
「・・・嫌です」


この学園に愛着など一切ない。

だが、こういう強引なやり方に応じる気も一切ない。

俺は書類を突き返した。


「悪いですけど、俺、この学園辞める気ありませんから」
「あなたの気持ちは分かったわ。 どうやら自分から辞める気はないようね」
「ええ。 ありません」
「そう。 せっかく人が善意で編入ということにしてあげようと思ったのに、こうなったら強制退学という形を取るしかなさそうね」
「そんなことできるんですか? 学園が俺を強制的に辞めさせることなんて」
「その為の、これなんでしょ」


栗林はニヤニヤしながらタバコをいじっている。


「俺のじゃないですって」
「あなた以外にこんな物を学園に持ってくる生徒いないわ」
「それって憶測っすよね? これっていう証拠みせてくださいよ」
「あなた以外、考えられないわ」


どうやら栗林には決定的な証拠がないらしい。

俺はタバコを手に取った。


「あなた昼休みの後、授業に遅刻したそうね。 なにをしてたの?」
「ああ、中庭で昼寝してたら、起きれなくて」


俺は平然と嘘をついた。


「昼寝? それは本当なの?」
「てか、これってどこに落ちてたんですか?」
「それはいえないわ」
「どうしてですか?」
「もし、これがどこに落ちてたかをいったら、あなた、そこには行ってないっていうでしょ? だからよ」
「このタバコ、まだ一本も吸ってないっすね」
「そうね」
「もし、これが俺のだったとしても、吸ってないわけだから、喫煙にはなりませんよね?」
「所持しているだけで十分、退学にできるわ」
「仮の話ですけど、俺の家族に頼まれたものを、渡しそびれて持っていたっていう可能性もありますしね」
「嫌なやり方かもしれないけど、警察に連絡して、指紋をとることだってできるのよ」
「あ、すいません。 触っちゃいました。 これ、俺の指紋べったりっすね」
「くっ・・・」


なんとか俺ペースで進んでいる。


「あなたが授業に遅れたとき、もう一人遅れた生徒がいるのよ」
「誰ですか?」
「桜木ヒカルよ。 一緒にいたんじゃない?」
「桜木ヒカル・・・。 ああ、転入生の」


俺はわざとらしく言った。


「桜木さんと一緒にいたんじゃないの?」
「いいえ。 俺、一人で寝てたんで。 それに桜木でしたっけ? 話したこともないし、ぶっちゃけタイプじゃないんすよね」
「これ以上話しても無駄のようね」


そういうと栗林は俺に顔を近づけてきた。


「うわ! なにするんですか?」


俺は動揺した。


「目をつぶって。 ほら、いいから目をつぶって」


栗林にいわれるままに俺はゆっくりと目をつぶる。


「目を開けちゃだめよ」


栗林の顔が俺のすぐ前にあるのを吐息で感じた。


「ゆっくり息を吐いて」


俺は言われるがままに息を吐く。


「なるほど。 わかったわ」
「え?」

 

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「タバコを吸っていないのは本当のようね」
「なんでわかるんですか」
「タバコのニオイは強いから、そう簡単に消えないわ。 だけど椿くんの息からはタバコのニオイが全然しないもの」
「詳しいんですね」
「そうね。 タバコのニオイには嫌な思い出があるのよ」
「へぇー」
「まあいいわ。 今回は見逃してあげる。 でも、次からは容赦しないから。 ちょっとしたことでも退学になるということを肝に銘じておくことね。 今日は遅いからもう帰りなさい」


俺は教室を出た。


・・・。

 



もうすっかり日が暮れている。

タバコの件はいいとして、栗林の態度が気になった。

栗林は昼休みにあの建物の中にいた。

俺と桜木があそこにいたと感づいたのか。

栗林は自分をみられたかどうかを確かめたかったのか。

なんにせよ、どこか腑に落ちない。

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「宗介!」
「・・・水嶋」
「お勤めご苦労様です」
「うるせぇよ。 てかお前、まだいたの?」
「あ、その、ナンパしてたんだけどさ、全然うまくいかなくて、んで、ここ通りかかったら、ちょうどおまえが出てきたからさ。 まあ、偶然だよ偶然」
「たまたまってことにしといてやるよ」
「栗林、なんだって?」
「いや、それがさぁ」


俺は水嶋にさっきの出来事を話した。


「なに? あいつ退学とかいってきたわけ?」
「ああ」
「めちゃくちゃだな。 栗林のやつ」
「まあ、何とかなったから、いいよ別に」


水嶋はどうやら怒っているようだが、なんでこいつが怒っているのか俺にはわからない。


「俺さ、おまえが学園辞めたら楽しさ4分の1カットって感じだと思うんだよね」
「おまえ、女がいればそれでいいタイプだろ」
「まあそうなんだけどさ、おまえがいて、女がいて、完璧って感じなんだよ」
「やめろよ。 そういうの」
「ダチは大事ってこと。 こんな俺でもさ。 そう思うわけ」
「気持ち悪り~こというなって」
「なんだよ。 どうした?」
「ダチとか親友とか、そういうのいいから・・・。 じゃあな」


俺は水嶋と別れ、家に戻った。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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携帯をチェックする。

・・・受信、二件か。

一件はレンタルショップTUKIYAの割引クーポンのお知らせだった。

こういうメールは、がっかりする。

誰だ誰だと期待して見ると、大概、こういう広告メールだ。

もう一件はと・・・。

マコトだ。

 

「こんばんは。 今日も一日天気が良かったですね。 マコトで~す!! ワイハからも無事帰国しましたのだ! 昨日はメール、サンキューです。 でもちょっぴり寂しいかも・・・。 なぜかって? それはね、宗介くんの日常があんまり伝わってこないからなのです! 私はもっと宗介くんのこと知りたいのに。 シクシク。 今日は色々ありましたか? いっぱい、いっぱい知りたいなぁ~。 ラブリーマコトより~! ハート」


いっぱい知りたいって言われてもな・・・。

俺は返信メールを打つ。


「今日も特に変わったことはありませんでしたよ。  あるとすれば、学園にある、古い建物に侵入してしまったことです。 それから、担任の教師に呼び出しをくらったことくらいだね」


・・・こんなもんだろ。

メールを送信した瞬間、携帯が鳴った。


・・・誰だ?


ディスプレイには「鈴木はるか」の文字。


「もしもし、どうした?」
「今、大丈夫?」
「ああ、ちょうど暇なところだ」
「栗林先生の件、大丈夫だった?」
「なんとか乗り切ったよ」
「栗林先生ってちょっと私、好きになれないな。 少しやり方が酷いと思う」
「俺も同感だな」
「ごめんね。 私が余計なこといって」
「いいよ。 用件ってそれか?」
「うん。 ちょっと心配だったから」
「・・・ありがと」
「ううん。 こっちこそ、ごめんね」
「んじゃ、そろそろ寝るから」
「あ、そうだよね。 うん。 おやすみ」


俺は携帯を切った。


・・・・・・。

 

・・・。

 

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「私と、勝負しろ」


桜木が竹刀を構えている。


「え?」
「私と勝負しろ。 さっさと刀を抜くんだ」
「いや、刀なんて持ってないし」
「お前の背中にかかっている、そのたいそうな大剣は飾りだというのか?」
「え?」


俺は背中に大剣があるのに気がついた。


「さあ、はやく刀を抜け。 おまえとはここで決着をつけなければならない」
「なんの決着だよ」
「貴様が私と戦う気がないということなら、こっちから行かせてもらう」


――ッッ


桜木の持っていた刀が閃光をあげた。


「この刀は桜木家に代々伝わる名刀、電光石火。 光のスピードで敵を切り、その太刀筋は雷のごとく美しい」
「そんな物騒なもん振り回してんじゃねぇーよ!」
「秘儀、電光剣!」


桜木は竹刀を振った。


――ッッ


「うわっ!」


俺は間一髪のところでかわした。


「ふ、さすが椿宗介。 椿流伝承者の肩書きは伊達じゃないな」
「椿流? いや、俺のおふくろ、親父の保険金で生活してるし、そんなご立派な家柄じゃないんだけど」
「ここまで追い詰められてもまだ刀を抜かないというのか?」
「はいはい抜きますよ。 だからちょっとタンマな。 今攻撃してくるのナシな」


俺は大剣に手をかけた。


「私はそんな卑怯者ではない」


・・・ぐっ、これ、案外重てぇな。

俺は剣を抜いて構えた。


「ほぉ・・・・それが椿流に伝わるという『珍剣なまくら』か。 おそろしいほどの脱力感だな」
「なんじゃこれ!」


剣先がこんにゃくみたいにフニャフニャだ。


「珍剣なまくらに切られたものは、どんなにやる気があっても、一気にやる気をなくす真の剣」
「最低の剣だな」
「次の一発で勝負が決まる」


俺は仕方なく構えた。


「いざ、参る!」
「ど、どっからでもかかってきやがれ!」


こうなったら、やけくそだ。


「椿宗介、敗れたり!」


――ッッ


桜木の竹刀が俺の頭に突き刺さった。

ふっ、どうやら俺の負けのようだ。

そもそもなんで俺が桜木と戦わなきゃならんのだ・・・。

分からん。

分からんが、俺は自分の手にある珍剣を呪った。

なんだよ珍剣なまくらって。


――ッッ


・・・痛てっ!


――ッッ


・・・だから、痛てぇよ


――ッッ


もう死んでるんだから、何度も殴るなよ・・・。


・・・ん?

 

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なんだ・・・夢か・・・。

俺の顔には竹刀が乗っかっている。

・・・こいつかよ。

桜木からもらった竹刀を顔からどけた。

てか、この竹刀どうすっかな・・・。

・・・九時か。

今日は学園休みなんだよな・・・。

せっかくの休みだというのに、最悪の目覚めだ。

予定もないが、少し散歩でもするか。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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「宗介! おはよう!」


はるかが、八百屋から出てくる。

鈴木青果店は俺の家の向かいにある。


「今日は休みなのに早起きなんだね」
「嫌な夢、見ちゃってさ」
「へぇ~。 そうなんだ。 どんな夢?」
「俺の刀がフニャフニャで・・・いや、なんでもない」
「どこかに出かけるの?」
「散歩だよ」
「いいなぁ。 私も行きたいけど、無理なんだよね」
「店か?」
「鈴木青果店は年中無休で営業しておりますから」
「大変だな」
「お散歩、いってらっしゃい!」
「おう」


・・・さて、どこに行くかな。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

俺はでかい屋敷の前にたどり着いた。

芸能人でも住んでんのかな・・・。


「間もなく、開始されますのでお屋敷の方へお入りください」


俺の後方から声がした。

 

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「ささ、中へどうぞ」
「え? 俺?」


振り向くと黒いスーツを着た若い男がいた。


「傘下の締め切りは間もなくですので、お急ぎください」
「参加?」
「参りましょう!」


そういうと男は俺の手をとった。


「ちょっと何すんだよ!」


俺は手を振り払った。


「おとなしくしていただけませんか? 手荒なまねはしたくない」
「・・・おまえ面白いこというね?」


俺は素早くファイティングポーズをとった。


「なかなかいい構えですね」
「へぇ分かるんだ? じゃあなんで俺とケンカしようなんて思うわけ?」
「いえ、ケンカなどする気はありません」


はやけに冷静だ。


「誰だよお前」
「あなたを会場にお連れするのが、私の仕事ですから」
「は? 会場? 意味わかんねーよ」


男は俺の手を引っ張る。


「やめろって!」


俺は、反射的にストレートをくりだした。


――ッッ


・・・なにっ!


俺のストレートは男の手でしっかりとガードされている。


「いいストレートです。 身体能力が非常に高い。 まともにあたっていれば危ないところだった」
「おまえ・・・」
「ただ、スタミナがあまりないようだ」
「ああ、不良なもんでね。 体力には自信がねーんだよ!」


俺は男から一歩下がり、回し蹴りをする。


――ッッ


男は上体を反らし綺麗にかわす。


「椿宗介くんで間違いありまえんよね?」
「・・・なんで俺の名前知ってんだよ」
「写真を拝見させてもらいましたから」
「どういうことだよ」
「それにしても写真より随分とイケメンなもので、間違えたのかと思いましたよ」
「イケメンねぇ。 光栄なこった」
「人違いでもないみたいですし、では心おきなく、眠ってもらいます」
「あ?」


――!!


・・・え?


ぐっ・・・。


視界が揺れた。

男が放ったなにかをくらい、俺はゆっくりとその場にへたりこむ。


・・・こいつ、強えぇ。


「彼を中へ。 丁重に扱うんだ」


屋敷からスーツの男達が出てくる。


・・・なんなんだよこれ。


だんだんと意識が薄れていく中で、俺は数名の男たちに抱えられ屋敷の中へと連れていかれた。


・・・。


「お嬢様、エントリーした者、全て揃いました」

「ごくろうさま。 では、電気を点けて」

「かしこまりました」


男は部屋のスイッチを点けた。

 

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「いつまで寝てるの?」
「・・・おまえは、神山レイカ!」


電気がつくと、そこには神山グループの令嬢、神山レイカがいた。


「あなたは確か椿宗介でしたわね。 覚えているわ」


俺はイスに座らされ、体はロープでグルグル巻きにされている。


「なんだよこれ」
「やっぱり来たのね。 遅刻もしなかったなんて褒めてあげるわ」
「来たんじゃなくて、連れて来られたんだろ」
「写真を用意しておいて良かったわ」
「ここどこだよ」
「三田、今何時かしら」


イカは黒服の男を三田と呼び捨てにした。

 

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「はい、10時ちょうどでございます」

「おまえ、さっきの!」

「よかったよ。 ちゃんと目を覚ましてくれて。 少し強くやってしまったからな」

「くそ・・・」

「ではそろそろ始めましょうか、三田!! マイクを用意して」


始める? なにが始まるんだよ。

三田はレイカにマイクを渡す。


「ただいまより、『神山レイカコンサート』宣伝用ポスターの引き立て役オーディションを開催いたします」


オーディション!?


「三田、太鼓を鳴らしてちょうだい」

「かしこまりました」


三田は狂ったように太鼓を叩き出す。


「エントリーナンバー1番、椿宗介。 ・・・返事がないわね。 私がエントリーナンバー1といったら、ハイッといって手を挙げるの。 いい?」

「は? なんでだよ」

「ハイっていえばいいのよ。 段取りがあるんだから」

「ロープで縛られてるから、手、挙げられねーんだけど」

「知らないわそんな事。 あと、これはアドバイスなんだけど、オーディションはもう始まっているのよ」

「いや、そんなこといわれても俺、オーディションなんて受ける気ないし。 このロープ、ほどいてくれないかな」

「三田、彼の体を調べなさい」

「かしこまりました」


三田が近づいてくる。


「おい、なにすんだよ」

「悪く思うなよ」


見たは俺の体をさぐる。


「ちょ、やめろって。 くすぐったい・・・」

「レイカ様、椿宗介の体内からこんなものが出てまいりました」

「体内じゃなくて、ポケットな!」

 

「これは、オーディションの案内チラシじゃない! どういうことかしら?」

「どういうこともなにも、おまえがこの前、俺にくれた紙クズだろ」

「あなた、オーディションに対して、やる気まんまんじゃない!」

「やる気ねぇーよ」


くそ、おふくろのやつ、制服洗うとき、捨てりゃーいいものを、わざわざ私服なんかに入れ替えやがって・・・。


「その心意気、悪くないわ」
「あのなぁ、それただの案内のチラシだろ? そんなもの持ってるからって俺がやる気あると思うなよ」
「それは、どうかしら? このチラシにはオーディション参加券が付いていたのよ! この角の部分の三角形がその参加券にほかならないわ!」


よく見ると、汚い字で、『オーディションに参加できるよ!』と書いてある。


「三田、椿宗介の参加券をミシン目に沿って切り取りなさい」

「かしこまりました」


三田はチラシの参加券の部分を丁寧にハサミで切り抜く。


「これで君も晴れて、オーディションの参加資格を得たのだよ。 おめでとう」

「おめでとうじゃねぇーよ」

「さあ、参加券だ。 早く受け取りなさい。 光栄なことだろ?」

「手が使えねーって言ってるだろ」

「レイカ様、ロープを外しますか?」

「だめよ。 そんなことをしたら逃げられてしまうわ。 そうねぇ、手が使えないなら、口を使えばいいんじゃない?」

「ふざけろよ」

「レイカ様の命令だ。 さぁ、口を開けて」

「やだよ」

「早く、口を開けて、この参加券をくわえるんだ」

「だからいやだって」

「歯医者に来たと思えばいいじゃないか。 でなければ、次に進めないからね」

「あんたさぁ、レイカのいいなりでいいの?」

「仕事だ。 しょうがないだろ。 私にも色々立場というものがあるんだよ」


俺の携帯が鳴った。


「レイカ様、彼の携帯が鳴っております。 どういたしますか」

「誰からか調べなさい」

「・・・ディスプレイには、鈴木はるかと出ております」

「勝手に人の携帯、見てんじゃねーよ」

「鈴木はるか・・・三田、それは本当なの?」

「間違いありません」

「私が出るわ。 携帯を貸しなさい」

「おい、やめろよ」


三田はレイカに携帯を渡した。


「椿宗介、あなたに質問です。 この鈴木はるかとはどういう関係?」

「は? 腐れ縁ってとこだよ」

「くされえん? くされ? 三田、くされえんっていうのはなに?」

「腐れ縁というのは、たいして好きでも嫌いでもないが、なんとなく流れ上、付き合いが続いている、中途半端に切れない関係といったところでしょうか」

「中途半端な関係・・・。 不思議ね。 なぜそんな関係が存在するの? 人は利害関係なしに付き合わない生き物だと、お父様はいつも言っているわ」

「はい。 その中途半端が心地良いと申しますか、なあなあな関係の中に癒しを求めているといいますか・・・」

「わかったわ。 ありがとう三田。 あなたはなんでも知っているわね。 まるで辞書だわ。 三田は今、良い働きをしたので、臨時ボーナスとして、口座の方に多額のお金を振り込んでおきます」

「ありがとうございます。 レイカ様」


・・・なんだこいつら。


「腐れ縁の鈴木はるか・・・もしもし」

「出るなっていってるだろ。 はやく切れ」

「静かに、いまレイカ様がお話し中だ」


電話の向こうから微かにはるかの声がした。


「あ、出た。 宗介? 今どこにいるの?」

「こんにちは」

「え? あれ? 間違ったかな? あの、椿さんのケータイですよね?」

「いかにも椿宗介の携帯ですけれど。 なにかご用ですか?」

「あ、そうですか。 えっと、あなたは誰ですか?」

「私、誰でしょうね」

「あの宗介に代わってもらえますか?」

「それは無理ですわ。 今、椿宗介は取り込み中ですから、代わることを拒否します」

「取り込み中?」

「鈴木はるかさんに椿宗介から伝言を預かっているわ」

「伝言? なんですか?」

「じゃあ、伝言を伝えるわね。 俺、椿宗介は、本日付けで『レイカ会』に入会することを決意した。 ですってよ」

「レイカ会? レイカ会ってあの、新山学園にある変な組織に宗介が入るっていってるんですか?」

「変じゃないわよ! レイカ会は気高いのよ。 そして椿宗介を新メンバーに加えることにしたそうよ」

「あの、 ・・・もしかして神山さん?」

「ち、違うわ。 な、なにをいってるの!」


イカは明らかに動揺し始めた。


「あの、声が似てるなぁって。 神山さんでしょ?」

「ち、違うわよ。 私が神山レイカなわけないじゃない。 なんでレイカ様があんたなんかと電話で話すのよ」

「あの神山さん、私、宗介に用があって・・・代わってもらえませんか?」

「ダメよ。 それに、神山でもないわ。 違うって本人がいってるんだから素直に信じればいいのよ!」

「じゃあ、誰ですか?」

「え? 私は、その、か、亀田よ。 そう、亀田みゆきよ」

「亀田みゆき? え? 誰ですか?」

「隣のクラスの亀田みゆきよ。 わるいの?」

「私、会ったことありますか?」

「とにかく、レイカ会に歯向かったらどんどん嫌なことになっていくんだから! 挙句の果てには、学園に来ることが、嫌になって、そのとにかく嫌になって家でごろごろして、太ればいいのよ。 バカ。 もうかけてこないで」


・・・。


「い、いってやったわ。 いい様ね鈴木はるか」

「おまえなにがやりたいわけ?」

「鈴木はるか、 ・・・恐ろしい女だわ。 でも、そうやっていい気になっていられるのも今のうち。 きっと私の前にひざまずくことになるんだから」

「おまえ、はるかのこと知ってるんだ?」

「知っているもなにも鈴木はるかは危険人物ファイル002ですもの」

「なんで、はるかが危険人物ファイルに入ってるんだよ。 あいつお前になにかしたのか?」

「ふん。 三田、説明してあげて」

「鈴木はるかは学園でも屈指の美少女として有名なんだ。 2カ月ほど前、道で倒れていた老婦人を助け、病院まで運んだという事件が起こったのだ」

「ああ、そういやそんなこといってたな」

「彼女のおかげで老婦人は一命をとりとめた。 その助けたという老婦人が学園にお礼の電話をいれたらしく、学園長から表彰されたんだ」


「学園町って新山大九郎のことか?」

「学園長を知っているとは意外だな。 あまり表に出てこない方なんでな」


・・・三田のやつ、なんで学園生でもないのに学園長のこと知ってんだろ?


「まだまだあるわ。 鈴木はるかは、テニス部員が怪我で入院し、困っていたところ、突然の助っ人要請のオファーを心よく引き受け、あろうことか、優勝したのよ」

「ああ、あの試合か。 俺、見に行ったよ。 あいつテニスやったことないのによくやるなぁって思ってたけど、あれ優勝してたんだ」

「その他、近所の小学生に無料で勉強を教えたり、公園のゴミ拾い運動に無料で参加したりと、学園内外での評判もすこぶる良い生徒だ」

「無料でそんなことをしでかすなんて、危険だわ」

「それのどこが危険なんだよ」

「まあ、要するに嫉妬だな。 もしくは逆恨みだ。 つまり自分より目立つ人間がしゃくに障ると。 そういう理論だ」

「ただのいいがかりじゃん!」

「危険すぎるわ、鈴木はるか。 この神山レイカおよび、その精鋭が結集した『レイカ会』がギャフンといわせてあげるんだから。 あなたも協力してちょうだいね」

「断る」

「レイカ会に入ったらいろいろと特典があるというのに。 今なら特製のレイカ巾着袋がもらえるわ。 どう? 欲しいでしょ? 巾着袋になんでも詰めるがいいわ」

「俺、グループに入るとか、できねーから」

「・・・そうだったわね。 でも、私、自分の思い通りにならない人は気に入らないわ。 あなたはそのうち私に服従することになるのよ」

「するかよ」

「危険ファイル003、椿宗介、しっかりと私の頭の中に記憶したわ」

「そのファイルに俺のこと書いてあるんだよな?」

「こと細かく記載しているよ」

「そっか。 じゃあ、俺のところに追加しといて、優しくていい男だって」

「・・・しょうがない。 追加しといてやろう」

「サンキュー。 あんた、結構、いい人じゃん。 ねえ、ついでにこのロープもほどいてよ」

「それはダメだ」

「ちっ」

「鈴木はるかは、さっきの電話で怖気づいているはずよ。 謎の亀田みゆきという女に『レイカ会』の恐ろしさを嫌というほど忠告されたんですもの」

「お前ばれてたじゃん」


「ば、ばれてないわ! 鈴木はるかは私のことを亀田だと思い込んでたもの。 そして今頃必死になってインターネットを使って亀田みゆきを検索しているはずよ。 でも、亀田みゆきはいくら探しても、出てこない。 誰? 誰なの亀田みゆき! 気になる。 気になるわ。 そしてノイローゼになって、引きこもりがちになり、お菓子ばっかり食べて、どんどん太るのよ」

「亀田みゆきだっけ? もうそんな名前、忘れていると思うぞ」

「いいえ、亀田みゆきを探しまくっているはずよ。 なのに出てこない。 どうしてかしら、教えてあげるわ。 なぜなら亀田みゆきなど存在しないからよ!」

「いや、そんな自信たっぷりにいわれても」

「これが私が考えだした『謎の亀田みゆきちゃん、いないいない作戦』よ!」

「今考えただろ?」

「お菓子ばかり食べて、どんどん太るがいいわ」

「レイカ様、さすがです。 卑怯という言葉が、これほどまでに似合う女性に私はかつて出会ったことがありません」

「三田、私、さらに凄いアイデアが浮かびましたわ。 明日の朝までにパイを用意しなさい」

「パイですか? パテスリーミラブルのパイを用意できますが」

「ミラブルはだめよ。 もっと不味くて、安いものでいいわ。 クリームがたくさんのった安いパイを用意するのよ」

「では、さっそく注文いたします・・・あ、もしもし三田だ。 明日の朝までにパイを用意しろ。 そうだ。 不味くて、クリームいっぱいのものを頼んだぞ」

「パイなんか用意してどうすんだ?」

「教えてあげるわ。 そのパイを家庭科の授業中に、事故と見せかけて、鈴木はるかに投げつけるのよ」

「おまえ、クラスが違うからその作戦できないじゃん」

「レイカ会の人間が、あなたのクラスにいないとでも思ってるのかしら」

「パイなんか持ち込んだらばれると思うぞ」

「うるさいわね。 私の『パイで顔がクリームまみれになるぞ作戦』の邪魔をしないで!」

「レイカ会の人間とかいってるけど、今日はいないのか? 取り巻きの姿が見えないけど」

「今日はオフなのよ」

「へぇー。 バイトみたいなんだなレイカ会って」

「バイト? そんなものとは違うけど、一応、時給でやってもらっているの」

「なに? あいつら金もらってやってるんだ」

「当然でしょ? お金をもらわないで動く人間なんていやしないわ」

「なあ、おまえ、友達いないだろ?」

「友達? それはどういう意味? レイカ会の人間がいるじゃない」

「いや、そういうのじゃなくてさ、お金払わなくても、自然に集まってくる仲間みたいなやつらだよ」

「仲間? そんなものがなぜ必要なの? だって利害関係があるから人は寄り合うのでしょ? お父様はいつもそう言うわ」

「・・・そうだよな。 仲間なんて」

「レイカ様、オーディションを進めましょう。 時間があまりありませんので」

「三田、この後のスケジュールはどうなっているの?」

「はい。 このあと12時15分からスポーツジムでのエクササイズ。 15時30分から新作コスメの発表会に出席。 18時20分よりピアノのお稽古。 20時より神山社長とのディナーとなっております」

「多忙だわ。 なんで私ってこんなにスケジュールに追われているのかしら。 お暇なあなたが羨ましいわ。 あ、今日のピアノのお稽古はキャンセルしといてちょうだい」

「またですか? 今月に入ってもう10回目ですよ」

「今日は弾く気になれないの。 気分が乗らないのにお稽古するなんて、先生にも悪いでしょ」

「・・・わかりました。 先生の方に連絡を入れておきます」


三田は連絡を取っている。


「もうすぐ、コンサートなんだろ? 練習しなくていいのかよ」

「お稽古なんてしなくても問題ないわ。 ピアノなんて簡単よ。 黒と白の鍵盤があるでしょ? それを適当に叩けば音が鳴るもの」

「へぇー。 そんなもんなのか。 曲とか弾けたらモテそうだな」

「あなたもやってみたら? 2、3日もやればヘンリー・ピーターソンみたいに弾けるようになるんじゃないかしら?」


俺はレイカに質問した。


「え? あのヘンリー・ピーターソンだって?」

「あなた、知ってるの?」

「知ってるよ。 有名なピアニストだろ? 2,3日でヘンリー・ピーターソンみたいになれたら幸せだよな」


俺は適当に言った。


「そうね。 ピーターソンの演奏を聴いてるとハッピーな気持ちになれるわ。 あなたもそうかしら?」

「そうだね。 楽しくなっちゃうよな。 マジ最高だよ。 ピーター」


俺は調子に乗った。


「あなたみたいな庶民にも、あの感覚は伝わるのね、音楽だけは平等だと思うわ。 素敵なことよね」

「うん、なんかバカにされてる気分」

「レイカ様、先生の方には今日はお休みすると伝えておきました」

「三田、悪いんだけど、今日は少しだけお稽古するわ」

「分かりました。 先生にもう一度、お電話いたします」


三田は心なしか、嬉しそうにみえる。


「あなた、運がいいわね」

「なにがだよ」

「会場を見渡して、なにか気付かないかしら?」

「え?」


俺は会場を見渡した。

そこにいるのは2、3人の黒い服を着た男、神山レイカ、三田と呼ばれている側近の男、そして、椅子に縛り付けられた俺だけだった。


「あれ? 他にオーディション受けにきたやつはいないのか?」

「だから運がいいっていってるじゃない、オーディション参加者は、あなた一人よ」

「は? 俺だけ?」

「そう。 どうやら皆さん、あまりに私のオーラが強すぎるせいで、オーディションに来ることさえ、怖気づいてしまったようだわ」


・・・単に誰も行きたくなかっただけだろ。


「カメラテストをするから、そこに立ってもらってもいいかしら。 三田、彼のロープを外してあげて」


・・・やべぇーラッキー、これで開放される。

三田は俺のロープを外し始めた。

外れた瞬間がチャンスだ。

出口はあそこか。

一気にダッシュしてやる・・・。


「逃げるなんて気は起こすなよ。 また眠ってしまうことになるからね」


・・・。


三田は俺のロープをほどく。


「大人しくカメラに撮られていればいい。 すぐに終わるから」

「カメラチェックが終われば、すぐに印刷の手配に入るわ。 来週には、私のポスターが学園中に貼られることになるの。 しっかり私を引き立ててちょうだい」


学園中に貼られるのかよ!

こんな屈辱、味わったこと無い・・・。


「あの・・・」

「誰だ?」

 

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「オーディションはまだやっているか?」

「桜木・・・」

「オーディションは絶賛開催中ですわ」

「そうか。 あの、私も受けてもいいだろうか?」

「あなたは誰? 新山学園の生徒かしら?」

「転入して、まだ日が浅いんだが、オーディションを受ける権利はあるか?」

「ふーん。 転入生なのね。 見たことない顔だと思ったわ。 今、ちょうど椿宗介に決まりかけたところだったんだけど」

「なんだ椿じゃないか。 こんなところで会うなんて奇遇だな」

「あら、お二人はお知り合い?」

「知り合いというほどではないが、クラスメイトだ」

「私のことは当然知っているんでしょ?」

「ああ、なんでも学園一の金持ちのお嬢様らしいな」

「さすが、私。 聞きました三田? 昨日今日、転入してきた生徒まで知っているんですって」

「さすがです、レイカ様の存在感は群を抜いている」

「なんでオーディションなんて受けにきてんの?」

「いや、廊下で、このチラシを拾ってな。 今日だって書いてあったもんだから、試しに来てみたんだ。 地図が汚すぎて無事にたどり着けるか不安だったんだがな。 そのせいで少し遅れてしまった」

「ばっかじゃねぇの。 せっかくの休みをこんなくだらん茶番に使ってさ」

「なあ、ここに書いてある、多額の賞金っていうのは本当か?」

「本当よ。 引き立て役に選ばれた者には、賞金を後日、進呈するわ。 三田、財布から賞金を桜木ヒカルにみせてあげなさい」


三田は財布から札束を取り出し、桜木にみせつけた。


「椿、私は絶対に負けない」

「は? おまえ金目当て? 案外えげつない性格してんだな」

「椿と私のどちらか一方を選ぶということか?」

「そうね。 引き立て役は2人もいらないでしょ。 今からカメラテストをやるの。 じゃあ、あなたも一緒にやってみる?」

「カメラテスト? 写真を撮られればいいのか? わかった。 ただちゃんと笑えるかわからないぞ」

「笑わなくていいわ。 笑うのは私の仕事。 引き立て役は、ボーっとしてたらいいのよ。 ポスターではピントを私に合わせるから、あなたたち引き立て役はボケてよく見えないかもしれないしね」

「ならば安心だ。 無愛想とよくいわれるからな」

「三田、彼女もエントリーしといてちょうだい」

「すみません、一言よろしいですか・・・美しい」

「え?」

 

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「失礼ですが、あなた、お名前は?」

「桜木ヒカルだ」

「私はレイカ様の側近の三田と申します。 レイカ様、私から提案があるのですが、今回のオーディション、この桜木ヒカルさんに決めてはいかがでしょうか?」

「どうして? 椿宗介はダメなの?」

「もちろん、椿宗介も悪くないのですが、桜木ヒカルさんは素晴らしいものを持っている。 きっとレイカ様の良い引き立て役になると私は思います」

「本当か?」

「はい。 あなたはいい目をしている。 そして・・・美しい」

「まあ三田がそこまでいうのなら、桜木ヒカル? あなたでいいわ。 第1回神山レイカ引き立て役オーディション、合格者は・・・エントリーナンバー2、桜木ヒカル! おめでとう!」

「これで賞金が貰えるんだな・・・」

「じゃあ、そこの椿宗介はもう用なしだから、つまみ出してちょうだい。 悪く思わないでね。 オーディションは過酷なものなの。 まあ、これに懲りず、また受けてちょうだい」


・・・二度と受けるかよ。

オーディションとかどうでもいいが、すげーむかつくのは気のせいか。


「椿宗介くん、不合格者の出口はあちらです」

「おまえら、覚えとけよ!」

「あ、椿宗介、鈴木はるかにいっておいてちょうだい。 パイには気をつけろって」

「はいはい」

「椿すまないな。 後から来た私のせいでオーディションに落ちてしまって」

「うっせーよ。 だいたいオーディションなんて受けたくもねぇーし、無理矢理連れてこられただけだっつーの」

「負け惜しみか。 潔い男になれよ」


こいつ・・・。


「ささ、桜木ヒカルさん、衣装を用意していますので、試着室へどうぞ」

「なあ、三田っていったかな?」

「はい。 三田でございます。 なにがご質問でもございますか?」

「その、派手な服は来たことがないんだ、だから、赤とかピンクとかそういうのはあんまり似合わないと思う」

「そんなことですか。 心配なさらずに。 あなたは何でも似合うと思いますよ。 あまり自分を自分で決めつけない方がいい」

「わかった。 出来るだけ普通の女の子みたいな感じが好ましい」

「十分、普通の女の子ですが・・・」

「そうか。 あ、それともうひとつ・・・」

「なんでしょう?」

「あんた・・・強いだろ?」

「何のことでしょう?」

「長年培った殺気はなかなか消せないもんだ」

「・・・殺気など出ていますか?」

「スキをみせるのが怖いくらいにな」

「全く、好きなどないくせによくいいますよ。 あなたとは・・・そういう関係になりたくありませんね」

「そうだな・・・私はただの女の子になると決めたんだ」

「なにをブツブツいっているの。 はやくしないとお父様との食事に間に合わなくなるわよ!」


三田は桜木を衣装部屋へ連れていった。


・・・・・・。


・・・。

 

そこは学園の中でも最も目立たないところにある。

生徒の中でその部屋に入った者は数えるほどしかいない。

いったいその部屋は校舎のどこにあるのか、何階に存在するのか。

新山学園長、新山大九郎の部屋。

10畳ほどの部屋には爬虫類の剥製や、海外の民族衣装など悪趣味なオブジェがたくさん飾られている。

壁には賞状が張り詰められており、棚の上には、数々のトロフィーが置かれている。

 

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「日曜日に呼び出して、悪いね」

「いえ。 教師というものは、プライベートなどありません。 常に教師という仮面を被って生活しておりますので」

「君は相変わらず固い人間だね。私のようにもっと柔軟に物事を考えなければ疲れてしまうぞ。 そうそう、最近、ネットオークションというものに夢中になってしまってな。 先日、タイムマシーンが出品されていて、つい落札してしまったよ。 これがまた面白い代物でな・・・」

「お話というのはなんでしょう」

「タイムマシーンの話には興味ないのか? 非常に興味深い話だと思うんがだね」

「その話は、また今度ゆっくり聞かせてもらいます」

「学園の様子で変わったことなどはないか?」

「特にございません。 新山学園はいたって平和です。 ただ・・・」

「ただ・・・なんだね?」

「気になる生徒がおりまして」

「ほう。 それは桜木ヒカルのことかね?」

「いえ、桜木は今のところ目立った行動はとっていませんので」

「じゃあ、椿宗介かな」

「彼が先日、例の場所にいたという情報を耳にしたもので」

「例の場所か。 早く取り壊してしまわねばならんな」

「そうですね、間もなく工事に入るとのことですので心配はないのですが」

「あれがあるうちは君も色々と大変だろ」

「私は・・・別に」

「椿宗介はなぜあそこにいたんだ?」

「それは分かりませんが、何か良からぬことを考えてはいないかと思いまして」

「風紀委員の方にも私が直々に話しているから、そう心配することもないだろ」

「だといいのですが」

「学園としてはこの先、教育方針を変えようと思っているんだ」

進学校としての側面を強化していくということでしょうか?」

「そういうことだね。 もうスポーツなどは学園のウリにはならんのだよ。 少子化に伴い、学園の経営も決して良くないのでね。 この状況下において一番大切なのは学力だ。 世間はゆとり教育などといって、やたらと個性を伸ばす教育に着手しているようだが、我が学園はその逆を目指す」

「逆? といいますと」

「『無個性教育』だ。 徹底した管理の元、将来、国を動かす有能な人間を育てるプロジェクトだ」

「それは学園のためですか? それとも、学園長の今後のためでしょうか?」

「まるで私利私欲のためにやっているようにいうんだね。 いち学園長などに興味なはいのだよ。 教育といのはね、簡単に変わるものではない。 もっと大きな力が必要なのだ。 そのための足場なんだよこの学園は」

「分かっています。 有害な生徒は徹底的に排除しろ、そういうことですよね」

「エリートだけが存在すれば、それでいい。 少なくともうちの学園はね。 それが嫌ならよそに行けばいいだけだ。 学園はうちだけではないからね」

「分かりました。 私も学園長に同意します。 学園は楽園ではないですからね」

「そこでだ。 早い話で悪いんだが、野球部、サッカー部、水泳部、及び文化系の部活以外の活動を全面的に禁止しようと思う」

「ですが反発するものが現れるのでは?」

「出たら出たときだ。 切れば良い」

「分かりました」

「スポーツなどろくなことにならない。 君が一番わかっているはずだが」

「・・・」

「君は優秀な教師だ。 期待しているよ」

「ありがとうございます」

「椿宗介・・・。 ただでさえ、やっかいな生徒を受け入れてしまったんだ。 その上、桜木ヒカルまでとなると・・・」

「私が・・・排除します」

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

くそ、せっかくの休みを無駄にしちまった・・・。

 

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「あ、宗介!」
「はるか! さっき電話悪かったな」
「ううん。 神山さんといたんだね」
「拉致られちゃってさ。 それより、なんか用か?」
「それが、どうしても買わなきゃいけないものがあったから店番を宗介に頼みたかったんだよね」
「親父さんは?」
「・・・お父さんは、色々と疲れてるみたいだから」
「店、お前一人でやってるのか?」
「うん。 でも、平気だよ。 もう慣れたから」
「一人でやること、最近多くないか?」
「大丈夫。 何とかなってるから」
「お前、体もつのかよ?」
「あの店を守るのは、私の仕事だから」
「でもさ・・・」
「私が頑張ればなんとかなるからいいの! ごめんね、電話して。 店、戻らないと行けないから」
「あ、パイには気をつけろよ!」
「パイ?」
「じゃあな」


はるかは店に戻って行った。

はるかのやつ、大丈夫かよ・・・。

なんか腹減ったな。

ハンバーガーでも食うか。


・・・。


ここの絶賛バーガーはマジで美味いんだよなぁ。

 

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「あの~、この辺でコンタクトレンズ見ませんでした?」
「え? コンタクト?」
「さっき、ここの席に座ってたんですけど、コンタクト落としちゃったみたいで」
「沢村!」
「え? 誰ですか?」


どうやら沢村はものすごく目が悪いらしい。


「俺だよ。 椿宗介」
「椿先輩ですか?」
「どうしたの?」
「コンタクトを落としたみたいで。 すいません、探してもらってもいいですか?」
「わかった」


コンタクトを踏み潰さないように慎重にテーブルの下を探す。


「すいません、食事中に迷惑かけてしまって」
「・・・別にいいけど」
「ずっと探してるんですけど、見つからなくて・・・」
「おまえは探さなくていいから、座ってろ」
「はい」


ーーッッ


その嫌な音に俺は動揺した。


「今、パリンって音しませんでした?」
「もしかして・・・」


俺は恐る恐るスニーカーの裏を見た。

ビンゴ。

バラバラになったコンタクトが、スニーカーの裏にぴったりと張り付いていた。


「どうしたんですか?」
「いや、その・・・踏んじゃった」
「・・・そうですか」
「ごめんな。 悪気はなかったんだよ」
「先輩。 私、怒ってませんから。 一緒に探してくれて、ありがとうございました」
「いや、ほんとにすまん。 弁償するよ」
「大丈夫ですよ。 そのコンタクト、そんなに高いものじゃないから」


沢村は俺の方ではなく、別の客に向かってしゃべっている。


「俺は、こっちだよ」
「あ、すいません。 私、超ド近眼なんです。 コンタクトがなかったらすごく近づかないと見えないんです」
「いや、俺はこっちだって」


沢村は、ファーストフード店のマスコット人形、ケロリンパにしゃべりかけている。


「こっちこっち」
「すいません」
「おまえ、そんなんで家まで帰れるか?」
「はい。 携帯のGPS機能使えば、家まで帰れます・・・あ、見えない」
「お前、ひとりでいたのか?」
「こんなこと言うとマジメみたいに思われそうで嫌なんですけど明日からはじまる、定期テストの勉強をしてたんです」


・・・やべ、そういや来週からテストって栗林も言ってたな。

 

「私、成績落ちちゃって。 こっそり勉強してたんです」
「え? 沢村って頭いいんじゃないの?」
「それが、ここのところ思うように勉強がはかどらなくって」
「成績が落ちたっていうけどさ、どのくらい落ちたんだよ」
「今まで、ずっと学年で1番だったんですけど、この前のテストで・・・2番になったんです」


嫌味か!


「はぁ、何がいけなかったんだろ。 一日15時間も勉強してるのに」
「15時間って一日の半分以上勉強してんの?」
「え? はい。 勉強してるか、寝てるかのどっちかですけど」
「成績なんてそんなに気にすることないって。 俺なんて下から数えた方が早いしな」
「椿先輩にはすごく悪いんですけど、下の人と比べても意味ないんです。 それに、私、ずっといい成績キープしなきゃだめだし。 風紀委員として学園の模範にならなきゃ」
「なあ沢村、そんなに肩ひじはって息苦しくならないか?」
「え?」
「いや、なんか沢村みてるとさ、こっちまで勉強しなきゃって気になって、だりーんだけど」
「生徒会長を決める選挙があること知ってますよね?」
「やってるような、やってないような」


新山学園では毎年夏に、次の年度の生徒会長を決める選挙を大々的に開催している。

『学園は学生の為に』をスローガンに生徒が一人一票をもち、投票するシステムらしい。

候補者は推薦人を集めなければいけなかったり、しっかりとしたマニフェストを掲げなければならなかったり、なにやら本格的なものだ。


「私、それに立候補しようと思ってるんです。 だから、その選挙で勝つためにも今から勉強して一番を取り続けなければいけないんです」
「沢村が立候補するときには、言ってくれ。 俺が清き一票を入れてやるから」
「ありがとうございます。 私の政策に賛同してもらえたら、そのときは私に投票してください」
「沢村はほんとに真面目だな。 まあ俺も遅刻大歓迎みたいな候補者がいたら絶対に入れるんだけどな」
「生徒会長になって、この学園のために役立ちたいんです。 これからの後輩たちのためにも」
「それも大事だけどさ、今は目をどうにかしないといけないんじゃね?」


沢村はさっきから全然違う方向に向かってしゃべりかけている。


・・・。

 

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「実は、メガネあるんです」


赤いフレームのいかにも度の強そうなメガネを取り出した。


「そんないいもんあるんだったら、さっさとかけろよ」
「でも、これかけたくないんですよね」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ。 まあコンタクト踏んづけた俺がいえたことじゃねーけどさ」
「でも、ちょっと問題がありまして」
「問題ってなんだよ」


沢村はメガネを持ったままかけることをためらっている。


「私、メガネ苦手なんです」
「苦手とか言ってる場合じゃねーだろ」


俺は強引に沢村の手からメガネを奪い取りかけさせる。


「椿先輩! ちょっと、ぐ、ぐああ、ぐぬうっ・・・」
「変な声だしてんじゃねーよ」
「ぐっ・・・うぐ・・・」
「ん? どうした?」


沢村はうつむいたままモゴモゴしている。


「気分でも悪いのか?」

 

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「・・・なんやの」
「え?」
「あんた、なんやの?」


沢村の様子が明らかにおかしい。


「お前しゃべり方、変だぞ」
「うちのコンタクトどないしてん?」
「どないしてん? っていやだから・・・沢村?」
「沢村? 沢村って誰のこと? うちは沢村やけど」
「うん。 じゃあ、あってんじゃん」
「おもろないわ」
「は?」
「これやから、笑いの偏差値が低いやつは嫌いやねん」
「お前、大丈夫か?」
「うちが、『沢村さんって誰のこと? うちは沢村やけど』ゆーたら、『一緒やん』ゆーて突っ込むのが当然やろーもん!」
「なにいってんだおまえ?」
「なんや、笑いのいろはから話さなあかんの?」
「なあ、沢村、なんの冗談?」
「冗談やないわ。 椿先輩、コンタクト代、学園で次あった時にきっちり清算させてもらいますわ」
「さっき弁償しなくていいっていったじゃん!」
「そーはいきまへん。 こういうのはちゃんと生産しとかな、あとあと癖になりますねん」
「癖ってなんだよ」
「それに、払わんでえーゆうたのはアキナやろ? うちはアキナほどお人よしやないしな」
「なんだよアキナってお前じゃん。 いいよ、わかったよ! 今払ってやるよ!」
「今はええよ。 うちだってそんなアコギな商売してませんがな。 それやったらまるえでうちが当たり屋みたいになりまっしゃろ?」
「なあ、そのニセの方言っていうの? なんなの?」
「ニセ? ニセちゃいますがな。 コテコテやっちゅーねん!」
「これって、多重人格障害ってやつ?」
「自分、感じ悪いな」
「俺、用事あるからそろそろ行くな」
「なんや、貧乏暇なしちゅーことやな。 うちもそうや。 これから勉強せなあかんねん。 2位なんてみっとものーて、学園堂々と歩けまへんやろ?」


沢村はどんどんコテコテのニセ方言になっていく。


「コンタクト代はちゃんと返すからさ。 じゃあな」
「ちょっと待ち」
「まだなんかあんのかよ」
「椿先輩、遅刻はもーせんほうがええよ」
「うん。 しない」
「あんたんとこの担任の栗林先生、あんたを目の敵にしとるみたいやな。 どーやら裏でなんらかの動きがあるみたいやで」
「どーいうことだよ?」
「まあ、詳しくは、よー知らんけど、椿先輩と、先日転入してきはった、桜木ヒカルっちゅー生徒がどうやら目をつけられとるみたいなんや」
「桜木がなんで?」
「だから、詳しくは知らんて。 うちら風紀委員は定期的に集まりがあるんよ。 今月は誰が遅刻したーとか、女子の誰々の髪が長いとかそーゆう報告会ちゅーんかね。 そういうのや。 その報告会に、新山学園理事長がじきじきに来はったんや」
「新山学園理事長?」
「そうや。 新山学園長、新山大九郎。 泣く子も黙る、学園のボスやな。 そのボスがたかだか風紀委員のどーでもいい報告会にお出まししたんや」
「新山学園長・・・」
「新山大九郎はめったに学生の前にはあらわれん。 まあボスキャラでもありながら、レアキャラでもあるんよ」
「へーその学園長様がなんだって?」
「学園の風紀とそれを乱す者の取り締まりを強化しろ、落ちこぼれは排除していけ、ガンは取り除けゆーてな」
「まるで警察だな」
「そのときに、気をつける生徒をいうてはって、桜木ヒカルっちゅー名前が入っとってビックリしたんよ。 転入してきたばっかりやのになんでやろって」
「まあ、俺の名前があるのはわかるけど、桜木はなんでだろ」
「あんたの名前があるのは・・・当然よね」
「・・・そうだな」
「でも桜木ちゅー先輩、前の学園でなんか問題でもおこしたんやろか?」


あいつ、何やったんだよ・・・。


「まあ、栗林先生と、新山大九郎には十分気をつけることやな」
「ああ。 沢村、わざわざサンキューな」
「ちゃうよ。 椿先輩がおらんことなったら取り締まる相手がおらんことなって、その、うちの仕事が減るのが、いやなだけやん」
「へーそうかそうか」
「あー。 うち、なにこんなことベラベラしゃべっとんのやろ。 お喋りやと思われたらかなわんわー」
「あ!!!!!」


俺は大声を出した。


「なんやの!? どないしはったん!」
「メガネにナメクジついてるぞ!」
「ナ、ナメクジ!? どこ? どこなん!」


アキナはあわててメガネを外した。

 

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「うぐっ・・・ぐあ・・・」
「沢村? 大丈夫か?」


沢村の顔色が徐々に戻っていく。


「・・・あ、椿先輩、私、あれ? どうしたんだろ?」


アキナは自分の手にあるメガネをみた。


「あの、もしかして、私、変なこといってませんでしたか?」
「いや、別にいってなかったぞ」
「私、メガネもってぼーっとしてること多いんですよ。 だから、メガネに苦手意識もっちゃって」


・・・こういう面倒くさいことは、本人には言わない方がよさそうだな。


「・・・このメガネかけて帰ります」


沢村はメガネを再びかけようとした。


「ちょっと待った!」
「え? なんですか?」
「あの、俺が、この店を出て、見えなくなったらメガネをかけてくれないかな?」
「え? 何でですか?」
「じゃあな! って言ってから10秒数えてからかける。 いいな?」
「わかりました。 なにかのおまじないなんですね? 私、あんまりそういう非科学的なことに興味ないけど、今日はそうします」
「そうそう。 おまじないだからさ。 ・・・じゃあな!」
「あ、十秒数えなきゃ。 10、9、8、7・・・」


俺は逃げるようにしてファーストフード店を出た。


・・・・・・。

 

・・・。

 

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まさか沢村があんな性格だったなんて。

・・・日が暮れちまったな。

まだ、家に戻りたくない。

日が暮れると、なぜだか寂しさがこみ上げてくる。

公園にでも行くか。


・・・。


ん?

あれはリコか・・・。

 

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「おい、リコ!」
「あ、椿宗介くん」
「フルネームで呼ぶな」
「友達の宗介くんじゃないですか」
「・・・友達じゃねーって言ってるだろ。 何やってるんだ?」
「鳥を集めていたんです」
「こんな夜にか?」
「でも、鳥さんたち、誰も集まってくれませんでした」
「なんで?」
「巣に帰ったみたいです」
「もう、夜だしな。 お前は帰らないのか?」
「・・・帰りますん」
「どっちだよ!」
「・・・もうすぐ帰ります」
「リコは、家族は?」
「お父さんと、お母さんと、妹と、弟と、おじいさんと、おばあさんが、います」
「大家族だな」
「そうですね。 賑やかな家族です」
「うらやましいな。 俺なんて母親と二人暮らしだぜ」
「お父さんはいないですか?」
「俺が小さい頃に海に消えた」
「海に? 魚ですか?」
「いや、船に乗ってたんだけど、遭難しちゃって」
「そうなんですか」
「お前って悩みなさそうでいいよな」
「宗介くんは悩みあるですか?」
「・・・お前だって、わかるだろ」
「良く分かりません」
「そうか」
「あ、そろそろ戻らないと、大家族のみんながリコを捜索しはじめますので、この辺で」
「おう。 じゃあな」
「・・・さようならです」


リコは動こうとしない。


「どうした?」
「な、なんでもないです。 ・・・では、また」


リコは公園を出て行った。

・・・変なやつ。

俺も帰るか。


・・・・・・。


・・・。

 

 

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「ふぅ~。 やっと終わった」
「はるか、まだ店やてたのか?」
「今、片づけが終わったところ」
「こんな遅くまで、大変だな」
「うん。 でも、今日はすっごくお客さんが来てくれたんだ」
「・・・親父さんは?」
「今日は、お父さん、お休みなの」
「寝てるのか?」
「調子、悪いみたいだから」
「病気なのか?」
「・・・そういうわけじゃないけど」
「そっか」
「あ~。 たまには、お休みの日に映画でも観に行きたいなぁ~」
「映画か」
「うん。 今、魔法少女ミルティーchanの劇場版やってんだよね」
「なんだそれ?」
「え? ミルティーchan知らないの? すっごく流行ってんだよ」
「子供向け?」
「大人向けだよ。 テレビシリーズが人気あるの」
「へぇ~」
「でも、魔法少女ミルティーchanってタイトルなのに、ミルティーchan、魔法を一切使わないんだよね」
「使わないの!?」
「ミルティーchan、魔物と戦うときも、崖から飛び降りるシーンでも、絶対に魔法は使わないの」
「てか、魔法使えないんじゃなくて?」
「それは分からないけど、ミルティーchan、魔法の代わりにお金使うの。 なんか、色々買収したりするんだよ」
「買収!?」
「うん、魔物にこっそり現金つかませて、魔界に帰ってもらったりするの」
「ある意味、魔法より効果あるかもな」
「決めゼリフとかすごいんだよ! 『お金を払ってんだからさっさと魔界にかえりなさいよ!』だもん」
「ミルティーchan、おそるべしだな」
「うん、大人向けなの」
魔法少女ミルティーchan、気になるな。 暇だったらテレビシリーズ見てみるよ」
「店させ休めたら、劇場版、観にいけるんだけどな~」
「休めばいいじゃん」
「・・・簡単に休めるもんじゃないよ。 死んだお母さんにも悪いし」
「お前だけが頑張ることないって」
「私がこの店守らないで、誰が守るのよ」
「・・・・・・」
「でも、いつか・・・映画行きたいな・・・おやすみ」


はるかは、店に入っていった。


・・・。

 

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・・・マコトからか。


「はーい! 今日も一日、ご苦労様でございました!」


テンション高いな。


「マコトは日曜日だったんで、ジェットコースターに乗ったよ! でも、相手がいないから一人で乗りました」


・・・遊園地にいったのかな。


「でもね、でもね、ジェットコースターよりも、一人で遊園地に行くことの方が、ずっと怖いんだよね~。 一人でコーヒーカップに乗ったのが、一番怖かったかも! だけど・・・一緒に行く相手いないんだもん! グスン! いつか、宗介くんと一緒に遊園地デートできたらいいなぁ~なんちゃって! さてさて、今日は宗介くん、何してたの?」


俺はメールを返す。


「今日は、よく分からないオーディションで不合格になりました。 それから、多重人格のニセ方言の女に絡まれたという一日だったよ。 特別変わったことは無かったです!」


メールを送る。

明日からテストか・・・。

どうせまた、赤点なんだろうなぁ・・・。

やっても変わらないよな・・・。

本棚から漫画雑誌を取り出す。

なるようにしか、なんねーよ。

俺は漫画を持ったまま、布団に潜った。


・・・。