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-ノベルゲーム・タイピング-

光輪の町、ラベンダーの少女【3】

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

ご意見・ご要望がありましたら
─メール─ zippydle.scarlet@gmail.com
または
Twitter─ @Zippydle_s
まで連絡下さい。


--------------------

 

・・・。

 

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「みなさん、おはようございます」


いつにもまして教室に緊張が走る。


「テストは無事終了しましたが、今後も気を引き締めて勉強に力を入れてください。 卒業まであとわずかです。 悔いの残らない学園生活を送ってくださいね」

「はーい」

「元気がいいわね。 椿くん」

「今日は遅刻してないんで堂々としてていいっすよね?」

「そうね。 だけど、残念なお知らせがあるわ」

「なんすか?」

「このクラスでカンニングがあったことは知っていますね?」

「わー感じ悪い。 今の言い方」

「何か言いましたか? 水嶋くん」

「なんでもないっす! ただの独り言っす~」

「独り言は家に帰ってからにしてくださいね」

「あの・・・私たちの処分はどうなるんですか?」

「処分についてですが、あなたたち4人は追試を受けてもらうことになりました」

「追試・・・グハッ」

「良かった・・・停学じゃなくて。 ね、宗介!」

「・・・別に」

「別にって何よ」

「俺が辞めた方が色々と学園的にはいいんだろ?」

「・・・そうね」

「宗介。 そういう悲しいこと、言わないでよ」

「・・・はるか」

「追試、頑張ろう!」

「喜ぶのはまだ、早いわ。 そのテストで90点以上を取れなかったものは、即、退学という条件付きです」

「おいおい・・・」

「あのーぶっちゃけムリっす!」

「ググッ・・・」

「そのぐらいのペナルティーは当然です。 あなたたちはズルイ事をやったのですから」

「私も追試を受けるのか?」

「そうね。 桜木さんも追試を受けてもらうわ。 風邪で休んだ、あなたには悪いんだけど、同じ条件でやってもらえるかしら?」

「私も、90点以上取らなければ退学?」

「そう。 本当に申し訳ないんだけど」

「・・・どうやら、私にも学園を去って欲しいようだな」

「おい! ちょっと待てよ、桜木は風邪で休んだだけなのに、なんで俺らと同じ条件なんだよ」

「仕方ないでしょ。 風邪で休む方にだって問題があります」

「先生、それはあんまりです」

「鈴木さん、大丈夫だ。 その条件、のもう」

「テストの日程は明後日の授業終了後、行います」

「明後日って・・・」

「しっかり勉強して臨んでくださいね。 このクラスから誰も脱落者を出したくないですから」

「ダメです・・・」

「あと、これは皆さんに連絡です。 新山学園は本日より、野球部、サッカー部、水泳部、ならびに文化系の部活以外の活動を当面、中止とします」

「え~マジで!?」

「・・・部活なんか入ってねぇし、どーでもいいだろ」

「俺、実はサッカー部に入ってるんだよね」

「え? お前、部活入ってたの?」

「うん。 でもぜんぜん行ってない~!」

「幽霊部員ってやつか」

「二人とも静かにしなさい。 連絡事項は以上です」


栗林は教室を出た。

 

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「追試か・・・ヒカルちゃん、大丈夫?」

「90点か・・・なかなか無茶な担任だな」

「・・・退学になったっていいさ。 学園だけが全てじゃない」

「椿、何を弱気になってる」

「そういうわけじゃねーけど」

「退学と決まったわけじゃない。 点数と取ればいいだけのことだ」

「それが一番むずかしいよ~」

「退学・・・こわいです。 まるで地獄です」

「私にいい考えがあるわ。 誰も退学せずに済む方法」

「そんな都合のいい方法があるわけないだろ」

「私に付いてきて」


俺たちは、はるかに付いて教室を出た。


・・・。

 

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「私が、ですか?」

「そう、沢村さんしか頼める人、いないの」

「でも、私、まだ2年ですし、先輩達の問題が解けるかどうか」

「沢村さんなら大丈夫! はい、これが教科書と問題集。 追試の科目は外国語・国語・生物の3科目、テストは明後日。 合格ラインはオール90点以上。 それ以下なら私たちは退学」


はるかは次々と本を差し出していく。


「・・・退学ですか」

「そうなの。 酷い話でしょ」

「そんな条件、出してくるなんて栗林先生、何を考えてるんでしょうね」

「うん。 だけど、カンニングしちゃったから、私たちにも非があるし、これは試練とおもって、頑張ることにしたの」

「やる気あるのは、はるかだけだけどな・・・」

 

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「沢村さんはこの学園で一番頭がいいんだよ。 きっと大丈夫」

「そんなことないですよ」

 

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「俺はどっちでもいいんだけど、楽して点数が欲しいな~」

「リコは退学してしまったら、路頭に迷いますし、大家族のみなさんも悲しみます」


沢村は問題集をめくっている。


「どう? 解けそう?」

「・・・外国語はなんとかなりますね。 そんなに難しくないかも。 私、留学した時にある程度、喋れるようになりましたから」

「留学か・・・凄いな」

「え? みなさんは留学したことないんですか?」

「してないと思うぞ。 誰も」

「他の科目はどう?」

「生物に関しては基本的に暗記すればいいと思いますから、とにかく覚えてください」

「生物は大丈夫です!」

「生物だけ良い点数を取っても駄目なんだぞ」

「ありゃ」

 

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「で、どうするんだ?」

「宗介、水嶋くん、リコちゃん、ヒカルちゃんは、私と沢村さんで徹夜で教えます」

「えー! 徹夜はムリだって。 だったら退学でいいって」

「だめ! 退学だけは私がさせないから」

「じゃあ、放課後に図書室で勉強しますか」

「賛成。 じゃあみんな、放課後、集まってね」

「あのさ、俺、パスしてもいいかな?」

「どうしてよ」

「誰かと勉強なんて、ガラじゃねーからさ」

「・・・ガラじゃねーか。 宗介は一匹狼だからね」

「そんなんじゃねーよ」

「・・・待ってるから」

「気が向いたら参加するよ」


・・・・・・。

 

・・・。

 


俺は、少しだけ勉強に参加することにした。

ぶっちゃけ、退学なんてどうでもいい。

ただ、はるかがあまりにも必死だったから・・・。

少しくらいなら大丈夫だろ。

 

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「良かった! 来たんだね」

「椿先輩、頑張りましょうね」

「あ、ああ」

 

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「なんだぁ。 てっきり来ないかと思っちゃったよ~」

「・・・ちょっとだけな」

「はるかさん、沢村さん、リコにどしどし勉強を教えてください!」

「あれ? ヒカルちゃんが来てない」

「帰ったんでしょうか?」


・・・桜木、逃げたな。


「仕方ないか。 じゃあ、いるメンバーだけで勉強しよう」

「そうですね。 私は誰を教えましょうか?」

「宗介は私が教えるから、沢村さんはリコちゃんと水嶋くんをお願い!」

「分かりました」

「沢村さん、よろしくお願いします」

「こちらこそ。 分かりにくかったら言ってくださいね」

「宗介は私がしっかり教えてあげるから。 覚悟してね」

「はいはい」


・・・。


「では、この例文を訳してください」

「はい!」

「I am alive hard.」

「あたしはアライブハードです」

「・・・間違ってはいませんが、もう少し訳してもらえませんか?」

「あたしはアライブハードですか?」

「そうじゃなくて、アライブハードの訳をしてください」

「アライブなハードです」

「だから・・・訳してください」

「NO!」

「分からないっって事ですよね」

「沢村さん、質問いいですか?」

「なんですか?」

「この問題に出てくる、マイクは男ですか?」

「多分、男です」

「そうですか。 男ですか」

「それは問題に関係ないですよ」

「沢村さんは教え方が上手いです! って外国語でなんていいますか?」


「・・・リコちゃん、先に進めようよ」

「YES!」

「・・・鈴木先輩、私、教える自信が無くなりつつあります」

「頑張って、沢村さん。 そのうち慣れるから」

「・・・はい」

「宗介はどの教科が苦手」

「・・・全部」

「だよね~。 徹底的にやるしかないね」


「ちょっと、佐田先輩、寝ないでください!」

「は! 今、リコはドリームにインしてました。 リコ イズ ドリーム イン」

「あのですね、やる気ありますか?」

「YES」

 

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「はぁ・・・いい加減にしいや、自分」

「え?」

「なんでもボケればいいとおもっとるやろ?」

「そ、そんなことないです」


「沢村さん!?」

「え!? あれ? 私、何言ってるんだろ・・・すいません」

「・・・な、なんでやねん・・・」


「あのさぁ・・・」

「何?」

「俺、やっぱいいや」

「え?」

「せっかく教えてくれてるところわりーけどさ、一人で頑張ってみるよ」

「一人で出来るわけないでしょ」

「やれるだけやってみるよ。 んじゃ」

「・・・宗介」


俺は図書室を出た。


・・・・・・。

 

・・・。


やっぱダメだ。

俺が誰かと勉強なんて・・・だりぃよ。


校門をくぐり抜ける。

 

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「おい、どこに行くんだ」
「え?」
「図書室はあっちだぞ」
「あいにく俺は図書室が嫌いでね」
「私と同じだな。 図書室の静か過ぎる感じがどうも性にあわないんだ」
「お前も帰るの?」
「大人数で勉強っていうのも性にあわなくてな」
「奇遇だな。 俺もだよ」
「鈴木さんには悪いが、家で一人でやることにした」
「悪かったな。 俺のせいでお前も巻き添え食らっちまって」
「心配するな。 私はもともと頭は悪くない」
「体は大丈夫なのか?」
「キュウリを食べたおかげで、完全回復だ」
「キュウリのおかげじゃないと思うぞ」
「キュウリのおかげだ」
「・・・そうか。 あ、あのさ、この前沢村がいってただろ? お前が学園で噂になってるって」
「ああ、言ってたな」
「お前さぁ、前の学園でなにかやったのか?」
「・・・なにもない」
「前の学園でも剣術やってたんだろ?」
「もう辞めたって言っただろ?」
「まあそうなんだけどさ」
「私は普通だ。 普通の学園生だ」
「普通のやつはあんまり普通って事を強調しないんだけどな」


・・・。


桜木は無言で歩いている。


「なに? 気に障ることでも言ったか?」
「・・・別に」
「じゃあなんで無言なんだよ」
「私はもともとお喋りじゃないからな」


更に桜木は足を速める。

・・・何怒ってんだよ。

 

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「あの・・・」

「え?」

「この辺に新山学園っていうところがあるって聞いたんですけど」

「ああ、新山学園ならこの坂道を登った先だ」


桜木はどうやら道を訪ねたらしい。


「え? この坂道ですか? 傾斜角は45度未満っていったとこでしょうか?」

「それは知らないが」

「あなたは、その制服からして新山学園の生徒ですか?」

「ああそうだよ。 新山になんか用?」

「あ、そうなんですか。 良かった。 道を間違ってしまったのかと思いました。 どうも地図だけは苦手なんですよね、私」

「あんた、星雲学園の生徒だろ?」

「えーなんで分かったんですか? 私、星雲学園2年、桐生小梅と申します」

「だって俺、星雲に知り合い多いからさ。 その制服で、ピーンときたよ」


といってもこの前知り合った、暁セツナと七星樹だけだが。


「洞察力が鋭いんですね。 制服で分かったんでしょ?」

「まあね!」

「バカらしい。 誰が見たって分かるだろ。 星雲の制服は全国でも人気だからな」

「え? そうなの?」

「でも、私は新山学園の制服も可愛いと思います。 あなたは新山の制服じゃないみたいですね」

「・・・転入してきたばかりだからな」

「その制服・・・」

「なんだ?」

「どこかで見たような・・・」

「桐生小梅っていったっけ?」

「はい。 小梅って名前、おばあちゃんみたいで気に入ってないんですけどね」

「確かにな」

「私は先に行く。 じゃあな」

「なんだよ。 何怒ってんの? あー分かったぞ。 俺が他の女の子と仲良くしてるからヤキモチやいてんのか?」

「幸せなやつだな」

「ちょっと待てよ!」

「新山学園って剣術部ってあるんですよね?」

「え? なんで?」

「新山学園に物凄く強い人がいるって聞いたから」

「・・・・・・」

「え? それなんて奴?」

「都築さんっていうんですけど知ってます?」

「知らないな」

「おい、都築って・・・」


あの竹刀の持ち主。

セツナは桜木のことを都築って呼んでいたな・・・。


「知ってるんですか?」

「知らない」


俺は小梅の背中に竹刀があるのが分かった。


「あんた剣術やってるの?」

「はい。 星雲学園剣術部、期待のルーキーです」


星雲学園剣術部・・・。


「わざわざ来てもらって悪いんだが、新山には剣術部すら存在しない。 それどころか、運動部の活動停止命令までだされている有様だ」

「剣術部ないんですか? でも先輩が新山の剣術部の人に会ったって言ってたんだけどな」


先輩ってもしかしてあの二人か・・・。


「剣術部もないのにどうやって部員に会うんだ?」

「先輩に騙されたのかな。 でもあの人たちウソをついてなかったしなあ。 これも反応しなかったし」


そういうと小梅は変てこな機械を取り出した。


「なんだそれ?」

「これ、私が発明したウソ発見器、通称『ミヌク君8号』です」

 

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その機械は筒状でランプが4つ付いている。


「なにそれ、おもしろそう。 どうやんの?」

「あ、試してみます?」

「ああ」

「でも、ちょっとここじゃ危険かも」

「え? 爆発でもするのか?」

「爆発は滅多にしませんけど、煙はたまにでます」

「その機械、大丈夫か?」

「煙の出る確率は0.999999% 爆発する確率は30%です」

「三回に一回爆発してんじゃんかよ!」

「だから、8号なんです」

「要は7回も爆発してるってことだな」

「はい。 基本的にはカエルを使って実験してますから」

「酷いな・・・」

「でも大丈夫です。 今回は色々と改良を加えてますから。 先輩にも試したし」

「じゃあ、あっちに公園あるからそこで試してみるか」

「私は帰るぞ。 こんなところで道草くってるわけにはいかないからな」

「怖いんだ?」

「爆発ごとき私が怖いとおもうか?」

「そうじゃなくて、ウソがばれるのがさ。 おまえ、なにかと秘密が多いもんな」

「・・・秘密なんかない」

「じゃあ、行こうぜ」


俺は桜木を試してみたくなった。


・・・。

 

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「このくらいの広さがあれば爆発に耐えられますね」

「あのな、公園は耐えられても俺らは耐えられるんだろうな?」

「大丈夫です。 私の発明でまだ死人はでてませんから。 じゃあ、この中に手を入れてください」


俺は筒状の物に手を入れた。


「なんかヌルヌルするな」

「このランプはなんだ」


桜木は機械についてある4つのランプをさしていった。


「えっと、この青いランプがつけば、本当のことを言ってます。 それから、この赤いランプがついたらウソをついてるってことになります」

「青が本当で、赤がウソというわけか」

「なるほど。 じゃあ、この緑のランプは?」

「緑のランプがついたら、大気汚染が進んでる地域ということになります」

「ん?」

「緑を大切にしようということを、私たちに警告します」

「このランプいるか?」

「さあ?」

「じゃあ、こっちの黒いランプは?」

「このランプが光ると爆発します」

「じゃあ、これが光ったら、逃げないとな」

「でも、この黒いランプは爆発したあとに光るようにプログラムしてますので、実際に光った時にはこのランプ自体消滅してますね」

「じゃあ意味ねぇじゃん!」

「これも警告の意味があります。 爆発しないようにするために。 でもいまだかつてこのランプが光ったのを見た者はいません。 なぜなら、光る前に爆発してるから」

「だろうな」

「なので、この黒いランプは、別名、幻のランプといわれています」

「だから、そのランプいらねえんじゃないのか?」

「警告の意味があるんだろ」

「警告になってねぇよ」

「グダグダいってないで早くやったらどうだ? 帰って追試の勉強がしたいんだが」

「わかったよ」

「じゃあ、私が質問するので正直に答えてくださいね」

「おっけー。l なんか緊張するな」

「あなたの性別は?」

「俺は、男です」


機械が反応した。


「緑だ・・・」

「どういうことだよ」

「どうやら、この公園も大気汚染が進んでいるようですね」

「おい! 俺の答えはどうなったんだよ!」

「あ、青がついてますね」

「正解だな」

「じゃあ、次の質問。 あなたは将来に不安を感じている」

「なんでそんなダークな質問するかな。 不安なんか感じてねぇーよ」

「あ、赤のランプがついたぞ!」

「あなたは将来に不安を感じてるようですね」

「くだらねぇ・・・」

「あなたは大きな悩みを抱えている・・・」

「・・・大きな悩み? 抱えて・・・ねぇよ」


赤いランプがつく。

俺はミヌク君8号から手を抜いた。


「当たってるんじゃないか?」

「じゃあ、次、お前な」

「ああ、ここに手を突っ込めばいいのか?」

「奥までお願いします」


桜木はミヌク君8号に手を入れる。


「では質問します。 新山学園には剣術部はありますか?」

「剣術部なんてない」


青のランプが光る。


「いっただろ?」

「うーん、やっぱりないのか。 じゃあ、別の質問します」

「もういいだろ」

「あなたは、都築さんを知っていますか」

「そんなやつ、知らない」


赤のランプが光る。


「赤・・・知ってるんですね?」

「機械の故障じゃないか?」

「質問を続けます。 あなたは剣術をやっている」

「剣術? なぜそんなものを私がやらないといけないのだ?」


赤のランプが光る。


「あなた、やってるんですか!」

「完全に壊れてるな」


桜木はそういっているが、小梅の質問は全部当たっている。

桜木は剣術をやっていた。

俺は目の前でみたんだ。

桜木が20人もの不良を一瞬で倒すところを・・・。


「もういいか? 壊れてる玩具で遊んでも楽しくない」

「いいえ、故障なんてしてないし、むしろ絶好調って感じですよ。 煙だって出てないし、爆発する気配すらないんですから」

「おまえは、キュウリが好きだ!」

「もちろん、大好物だ」


青のランプが光る。


「おお凄い! めちゃくちゃ光ってる!」

「これは相当、好きだということになりますね」

「くだらん」


ピピピピピ


「あ、私です。 すいません」


小梅は携帯にでた。

 

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「あの機械すごいな」

「まあな」

「もしもし? いまどこですか? 坂道? なんだ右近先輩も坂道にいるんですか? 結局、私と同じ方向に来たんだ・・・」


どうやら先輩のようだ。


「あんなに、こっちですっていったのに! 私の『ミチスパート4号』を信じないからですよ」


どうやら道がわかる発明品もあるようだ。


「なあ?」

「なんだ?」

「質問していいか?」

「お前もしつこい男だな」

「桜木は・・・もう一度竹刀を握りたいと思っている」

「・・・ふざけるな。 握りたいわけないだろ」

「答えは?」

「・・・いいえ、だ」

「いま新山学園の生徒2名を発見しました。 ええ。 いまから来れますか? その辺に公園あるでしょ? いや、だから公園だって」


俺は機械をみる。


「あれ? 反応しない?」

「椿が変な質問するからだろ」

「おっかしいなぁ? ・・・ん?」


うっすらと煙が出ている。


「おい、これ?」

「わぁ! 煙だ! 桜木、手を抜け!」

「わぁ!」


桜木は慌てて手を抜く。


「だから公園だって! ん? わぁ! 煙! 離れてください! それ、爆発しちゃいます!」

「爆発!? 桜木、投げろ!」

「分かった!」


桜木はミヌク君8号を公園の隅に向かって投げた。


――!!!


ミヌクくんは木っ端微塵に吹き飛んだ。


「・・・あぶねぇ」


「・・・私の発明が」

「椿が変な質問をするからだ!」

「しらねぇよ!」

「・・・爆発しちゃいました」

「・・・私は帰るぞ」

「ちょっと待って下さいよ~」


俺たちは公園を出た。


・・・・・・。


・・・。

 

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「あ、小梅!」

「右近先輩! 遅いですよ~!」

「小梅、探したわよ。 あなた、私をまこうと思ってたんでしょ?」

「思ってませんよ。 この人、剣術部の先輩の右近シズルさんです」

「星雲学園剣術部、最強の女、右近シズルでございます」

「そして、こちらが新山学園の生徒さん2名です。 あ、名前聞いてなかった」

「椿宗介だ」

「椿宗介さん、あなたは?」

 

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「私は・・・」

「あなた・・・都築ヒカル!」

「え?」

「どういうことですか? この人が都築さん?」

「人違いじゃないか? 私は桜木ヒカルだ」

「小梅、ビンゴよ。 稽古抜け出してきたかい、大有りよ」

「この人がセツナ先輩がいってた、都築ヒカル・・・」

「・・・都築は死んだ。 もういない」

「ちょっとあなた何いってるの? 私の目の前にいるあなたは誰? 忘れないわ、あなたの小憎らしい顔」

「申し訳ないが、私はお前など知らない」

「嘘いうんじゃないわ。 この美しき私の顔を忘れる人なんていやしないわ」

「どこにでもありそうな顔だけどな」

「相変わらず、口が減らないわね。 私は特別よ」

「特別ねぇ。 普通が一番だぞ」

「うるさい。 都築ヒカル、ここで勝負しなさい」


右近シズルは背中に背負っていた、竹刀を構える。


「おいおい、勝負って、こんなところでかよ!?」

「ちょっと右近先輩! 勝手なことしたら怒られちゃいますよ」

「こんなとこでやりあったら、警察くんじゃねぇーの?」

「これは試合です。 喧嘩じゃないわ」

「棒振り回して、喧嘩よりタチが悪いぞ」

「小梅、あなた審判ね」

「・・・私に構うな」

「そうはいかないわ。 誰が最強かはっきりさせてあげる」

「もう私は竹刀は捨てたんだ。 もう二度とな」

「・・・なんですって?」


桜木はそそくさと帰って行った。


「ちょっと待ちなさいよ!」


俺は桜木の後を追った。

 

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「ちょっといいかしら?」

「な、なにかしら?」

「それは何?」

「竹刀よ。 それがどうしたの?」

「ここは通学路ですよ。 しまいなさい」

「す、すいません」

「どいてくださる? 都築が逃げてしまうわ」

「都築? ・・・桜木さんのことね」

「桜木?」

「そう。 彼女、今、桜木って名前なの」

「あなた、誰ですか?」

「誰でもいいでしょ」


・・・・・・。

 

・・・。

 

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「お前はどこまで付いてくるんだ?」

「さっきの右近ってやつは知り合いか?」

「・・・昔、あったような気がするが、忘れた」

「都築ってお前のことみたいだな」

「・・・・・・」

「桜木って色んな奴に狙われてるんだな? あいつも同じ道場のやつか?」

「もう、もう構わないでくれないか?」

「・・・すまん」

「お前だって、構われたくないことぐらいあるだろ」

「・・・そうだな」

「じゃあな」


俺は桜木と別れた。


・・・・・・。


・・・。

 

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俺は部屋に戻ると、メールをチェックする。

・・・マコトからか。


『どうも! マコトだよ~。 最近ね、魔法少女ミルティchanってアニメが流行ってるの知ってる~? 毎週必ず録画してるんだ~。 宗介くんもそういう番組ってあるのかな~? あったら教えて欲しいな~。 あとね、飼っていたインコが窓から逃げちゃいました。 もし見つけたらメールで教えてね。 ではでは、返信待ってまーす! あなたのマコトより~』


マコトもミルティchanにハマってるのか・・・。

インコねぇ・・・。

俺はメールを打つ。


『今日は、先日カンニングをしてしまった罰として、追試を受けることになりました。 その為に、クラスメイトと図書室で・・・』


・・・違うな。


『その為に、一人で勉強に励むことにしました。 これから、徹夜で勉強します。 あと、インコ見つけたらメールするね~。 おやすみ』


メールを送信する。

勉強か・・・。

俺も今回の件で退学かもしれないな・・・。

教科書を開くが、眠気しかしない。

いかん、ネットでもやるか。

パソコンをつけインターネットに接続する。

検索ワード・・・。

俺は不意に『桜木ヒカル』と入力する。

ヒット件数1334件。

適当にクリックする。

桜木ヒカル・・・。

超巨乳グラビアアイドル・・・桜木ヒカルちゃん、衝撃の大胆ヌード・・・。

同姓同名の別人だな。

今度は、『都築ヒカル』と入力してみた。

ヒット件数113件か・・・。

俺は一番上のサイトをクリックしてみる。

これ・・・桜木か?

桜木の顔写真の載った記事が表示された。

間違いない・・・。

俺は記事に目を通す。

『全国女子剣術大会、5連覇、都築ヒカル 前人未到の偉業を成し遂げた、天才剣術少女! 他を寄せ付けない圧倒的な勝利・・・』


やっぱり桜木ってすげー有名だったんだな。

桜木=都築・・・か。

なんで名前まで変えてるんだろ。

・・・俺は紙とペンを取り出しメモした。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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「おはようございます学園長」
「おはよう。 栗林君」
「先日のちょっとした騒ぎはご存知でしょうか?」
「騒ぎ? ああ、そういえばもうすぐ祭りがはじまるらしいな」
「祭りですか?」
「私はいつもあの祭りには参加しているんだが、君も参加するかね?」
「私は遠慮します」
「そうか。 じゃあ、祭りのあとの踊りには参加するかね?」
「踊りですか?」
「なんだね、ヘロヘロ踊りを知らないのか?」
「どんな踊りでしょうか?」
「どんな踊りってヘロヘロするに決まってるだろ。 ヘロヘロ踊りというくらいなんだから」
「そうですか。 その踊りにも参加いたしません」
「君、浴衣など着ると似合うと思うんだがね」
「騒ぎはご存知でしょうか?」
「君はつれないねぇ。 眉間にしわを寄せすぎると体に良くないよ。 もっと私みたいに堂々としていなきゃ、小物のまま終わってしまうよ」
「時間があまりないもので」
「この前、話したタイムマシーンのことはおぼえているかい?」
「ネットオークションで落札されたという」
「先日、妻が勝手に使ったみたいなんだよ」
「奥様が?」
「欲しかったブレスレットを買うためにタイムスリップしたそうだ」
「どういうことでしょう?」
「どうやら三日前に売れてしまったといわれたみたいで、それ以前にさかのぼり、購入してきたようだ」
「面白いお話ですね」
「作り話ではないよ。 タイムマシーン・・・。 いい買い物をしたよ」
「そうですか」
「信じていないようだね。 だったら君自身で試してみるか? 8年前あたりに戻ってみたらどうだい?」
「戻って清算してこい? そうおっしゃるのですか?」
「そんなことは言っていないよ。 騒ぎの話だったね。 聞かせてもらえないか?」
「はい。 先日、学園の近くの公園で新山学園の生徒が他校の生徒と揉め事を起こしたようです」
「ほう。 元気なことだね」
「竹刀を持ち出し、路上で、剣術の試合を始めようとしました」
「他校というのはどこかね」
「私立星雲学園です」
「星雲学園。 あの三流学園か。 で、揉め事を起こした不良は誰だ? 椿宗介か?」
「いいえ。 桜木ヒカルです」
「桜木ヒカルか。 お転婆な子だね」
「揉めた相手は、星雲学園剣術部、右近シズル」
「右近シズル・・・。 ほう、なかなかの好敵手じゃないか。 で、桜木君にケガはないのかね?」
「ありません。 桜木ヒカルは逃走しました」
「逃走・・・彼女らしくないね。 転入早々、不良を一掃した彼女にしては」
「どうなさいますか? 彼女は追試を控えています。 退学させることは容易ですが」
「そうだねぇ。 私は野蛮なスポーツは嫌いなんだよ」


・・・・・・。

 

・・・。

 

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「宗介、ちゃんと追試の勉強したの?」
「も、もちろんだよ」
「ほんとに? 宗介が一人で勉強できるとは思えないんだけどなぁ」
「まぁ、なるようになるだろ」


俺は、はるかから逃げるように中庭に行った。


・・・。



正直、追試なんてどうでもいい。

昨日書いたメモを取り出した。


『全国女子剣術大会、5連覇、都築ヒカル』


なんだか無性にタバコが吸いたい気分になった。

俺はポケットからタバコを取り出し、口に咥えた。

 

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「タバコはだめです!」
「あ、リコ」
「タバコは百害あって一利なしです」
「難しい言葉、知ってるんだな。 心配すんな。 これはダミーだ」
「ダミー?」
「そう。 ほらよく見てみろ」

一本取り出して、リコに渡した。


「これは・・・いい匂いがします」
「だろ? それ、中身チョコレートだから」
「おお! まさにです」
「食っていいぞ」


リコは不思議そうにタバコ型チョコを口に頬張った。


「あ、甘い。 この甘さは、アメンボと同じくらいです」
「アメンボ? アメンボって甘いのか?」
「はい。 アメンボは甘い匂いがします。 I am alive hard.」
「どうした急に」
「外国語の勉強です。 だいぶ喋れるようになりました。 これも沢村アキナさんのおかげです」
「そうか。 沢村に追試の家庭教師してもらってるんだっけか」
「はい。 沢村さんもリコの友達になってくれました。 これで5人目」
「そこに、俺を含めるなよ。 まあ、友達増えたのはいいけどさ」
「だから、学園を辞めたりしたくないです」
「そうか」
「だから追試頑張らないと」
「・・・・・・」
「宗介くんも頑張りましょう。 為せば成るです」
「為せば成るか・・・あ、さっきの外国語、あれなんて意味なんだ?」
「I am alive hard. ・・・私は一生懸命に生きています」
「・・・誰もが一生懸命になんか・・・生きられねぇよ・・・教室に戻るか」
「はい」


・・・。

 

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「あら、椿宗介、奇遇ね」
「げ、面倒くさいヤツが来た」
「あなた今暇?」
「暇じゃねーよ」
「そう、暇なの?」
「おまえ、人の話を聞いてるか?」
「ポスター、ちゃんと桜木ヒカルに渡してくれた?」
「ああ。 しっかりとな」
「彼女喜んでいたかしら?」
「ああ。 レイカ様と一緒にポスターに写れるなんて夢のようだって、泣いて喜んでたぞ」
「当然ね。 正しい反応だわ」
「感無量だってさ」
「かんむりょう? よくわからない言葉だけど、無料って言葉はあまり好きじゃないわ」
「あっそう」

 

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「三田、例のものを」

「かしこまりました」

「三田さん、いたんだ」

「ああ。 私はレイカ様のそばにいつもいる」

「まさか、授業中はいないよな?」

「どうだろうね」


・・・こいつと同じクラスじゃなくて良かった。


「この前は手荒なまねをしてすまなかったね」

「別にいいっすけど」

「そのお詫びと言ってはなんだが、レイカ様からプレゼントがある」

「プレゼント?」

「受け取りなさい。 ヘンリー・ピーターソンのCDよ。 これを聴いて心を豊かにすることね」

「ああ、この前いってたジャズのCDか」

「受け取りなさい」

「どうも。 で、いつ返せばいい?」

「返す? なにを言ってるの? 支給するのよ。 返さなくていいわ」

「支給・・・」

「ポスターを届けるという任務を無事にこなしたご褒美よ」


よし、速攻で中古のCD屋に売りに行くか。


「三田、これからの予定は?」

「はい。 17時よりピアノのお稽古、19時よりファッションショーの打ち合わせ、15分休憩した後、22時よりお父様との食事です」

「ああ。 多忙」

「いちいち俺に予定を報告しなくていいから」

「あー暇になりたい。 それじゃ、椿宗介、さらばよ」

「あ、椿くん・・・」

「なんですか?」

「あまり派手なことは、やめておきなさい」

「え?」

「ただでさえ目立つ存在なんだから」

「俺はなにもしてないっすよ」

「個人的な忠告だと思ってくれ」


イカと三田さんは去っていった。

 

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「あ、椿先輩」
「今度は沢村か」
「先輩、追試の勉強大丈夫ですか?」
「あ、悪いな」
「それはいいんですけど、鈴木先輩と、佐田先輩しか参加してないから心配で」
「水嶋は?」
「水嶋先輩は、もっと楽な方法があるとかいって参加してません」
「楽な方法ねぇ・・・」
「先輩は大丈夫ですか?」
「心配するな。 俺はなんとかするよ」
「でも、90点なんてそんなに簡単にとれないし」
「そうだ! 替え玉ってどうだ?」
「替え玉ですか?」
「そう。 お前が男装して俺のかわりに追試を受ける」
「先輩、本気で言ってます?」
「・・・冗談だよ。 沢村はもう少しお笑い番組とか観たほうがいいな」
「お笑いですか。 苦手かな。 だって芸人? っていうんですか? あの人たちふざけた事ばかりするでしょ?」
「ふざけるのが仕事なんだけどな」
「私が先輩の代わりにテストを受けてあげれたらいいけど、無理な話ですよね」
「俺が学園辞めるのそんなに寂しいの?」
「はい」
「意外と素直だな」
「あ、先輩、あんまり目立つ行動はやめてくださいね」
「なんで?」
「本当に辞めなきゃいけなくなったら、私、悲しいですから」
「・・・ありがとな」


沢村は良く出来た後輩だ。


「先輩は先生たちがいうみたいに、悪い人だと思わないし」
「・・・俺は最低最悪の不良だよ」
「不良は自分のこと不良なんていわないですよ」
「かもな」


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

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「先日も話しましたが、運動部は例外の部を除いて活動中止になっています。 ですが、放課後にこそこそと部活動を続けている生徒がいます。 女子バレーボール部、数名です。 立ちなさい」


クラスのバレー部の女子がパラパラと立つ。


「学園の規則が守れないのですか?」

「あの、私たち夏の大会で引退なんです。 それなのに急に活動中止って言われても・・・」

「それがどうしたの?」

「私たち今まで大会に向けて一生懸命やってきたんです」

「一生懸命? そんなことは問題ではありません。 学園の会議で決まったことです」

「でも、急に理由もなく辞めろと言われても、諦めがつきません」

「諦めがつかないのなら、バレーボールが出来る学園に編入することをお勧めします」

「そんな・・・」

「いいですか? 私立新山学園は名門校としてのプライドと誇りを失ってはならないのです。 勉学に励むことがこの学園のモットーであり、部活は二の次です」

「でも、野球部や水泳部、サッカー部はどうして活動停止にならないんですか?」

「野球部は昨年、地区大会準優勝、水泳部は自由形で全国記録保持者が在籍、サッカー部はプロリーグから数名に声がかかっています。 バレー部の成績はどうだったかしら?」

「地区大会2回戦、敗退です」

「もう、言わなくてもわかりますね。 座りなさい」


バレー部員は力なく席に座った。


「バレー部だけではありません。 隠れて部活動を続ける生徒は厳しい処分がまっています。 ルールは守るためにあるんですからね」

 

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「あの、栗林先生いいですか?」

「なんですか? 鈴木さん」

「私は、部活には所属してませんが今回のやり方は、状況説明もないまま、一方的に押し切っていると思います」

「あなたは部活に所属していないんですから関係ないことでしょ?」

「私はたまに、バレー部の助っ人を頼まれてやることがあるから知ってるけど、バレー部のみんなは必死に練習してるんです」

「それで?」

「それなのにこんなやり方、大人がすることじゃないと思います」

「はるか・・・」

「そうだそうだ! 強引だよこんなやり方」


水嶋が援護した。


「水嶋くん、サッカー部には行ってるの?」

「行ってません!」

「話にならないわ」

「成績が良ければ続けられるんですか?」

「そうね。 学園にとって有益ならば。 だったら鈴木さんがバレー部に入部していい成績をとるっていうの? あなたが入部すれば、地区大会くらいまでいけるんじゃない?」

「私は・・・」

「お店、忙しいんでしょ?」

「・・・・・・」

「はるか、もういいよ。 ありがとう」

 

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「くだらんな」

「なんですか、桜木さん」

「部活などくだらない。 やってどうするんだ? その先になにかあるのか?」

「ヒカルちゃん・・・」

「ただの自己満足にすぎない」

「桜木さんの言う通りよ。 成績を出せない部は、ただのお遊びにすぎないわ」

「部活など、ろくなことはない」

「いいですか。 規則を守って秩序ある学園生活を送りましょう。 それから、明日、追試を受けるものは放課後、第三視聴覚教室にて行いますので遅刻しないように。 以上。 ホームルームを終わります」


栗林は教室を出て行った。


・・・。

 

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「ヒカルちゃん・・・」
「別に私は、鈴木さんをその、否定したつもりじゃない。 自分の思ったことを言っただけだ」
「うん・・・」
「鈴木さん、すまない。 私は少なくともそう思うんだ」
「あの、鈴木さん、じゃなくて、はるかでいいよ」
「そういうことを強制的に決められるのは、あまり好きじゃないんだ。 すまない」
「ヒカルちゃん、すまない、ばっかりだね」


桜木は無言で教室を出た。


「どうしちゃったんだろ・・・ヒカルちゃん」

 

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「でも、はるかちゃんのいう通りだよ。 栗林のやつ酷いよな。 俺、幽霊部員だけど、はるかちゃんの気持ち分かるもん。 なぁ宗介」

「ん? ああ・・・」

 

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「部活はくだらないですか?」

「・・・そんなことないよ。 みんな一生懸命にやってるんだし」

「I am alive hard. ですね」

「なんか空気重くない? みんなカリカリしちゃって~。 もーシリアスとか一番嫌いだよ。 あ、昨日俺が考えた、すげーネタを披露してやるよ。 そしたら空気変わるよ」

「あ、それはまた今度で」

「今日のヒカルちゃん、絶対変だよ」

「実はさ・・・」

「なに?」

「桜木って前の学園で、剣術やってたんだよ」


俺はつい、口が滑ってしまった。


「剣術?」

「ああ。 それで、昨日、ちょっとインターネットで調べたんだけど、実は凄い実力でさ」

「どういうこと?」


俺はメモを取り出して、はるかに渡した。


「全国女子剣術大会、5連覇!? 前人未到の偉業を成し遂げた、天才剣術少女! 他を寄せ付けない圧倒的な勝利・・・って」

「おい、それ本当かよ!?」

「ほんとうだ。 ネットには桜木の顔写真も載ってた」

「す、すごいです」

「5連覇って、凄すぎ・・・」

「今はやってないみたいなんだけどさ」

「そんなに強いのにどうしてやってないの?」

「それは分かんねぇーけどさ」

「うちって、剣術部ないもんね」


「・・・おしゃべりな奴だな」

「桜木!? 帰ったんじゃなかったの!?」

「忘れ物を取りに戻っただけだ」

「そ、そっか」

「剣術のことは言わない約束だったはずだ」

「いや、その・・・」

「人は信じるものではないな」

「ヒカルちゃん、5連覇ってほんとなの?」

「・・・昔のことだ」

「凄い!」

「凄くなどない!」

「凄いよ! 全国で5連覇だよ! そんなの普通の人には絶対できないよ!」

「・・・普通?」

「私、ちょっとテンション上がっちゃった! おかしいと思ったんだよ。 ヒカルちゃんって普通の子とちょっと雰囲気違うな~って思ってたんだけど、そういう事だったんだね」

「おい、はるか!」

「ヒカルちゃん、もう剣術やらないの?」

「やらない」

「え? どうして? 強いんでしょ? だったらやった方がいいよ! 私、ヒカルちゃんが試合してるところ観てみたい!」

 

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「・・・ふざけるな」

「え? どうしたの?」

「・・・・・・」


桜木は教室を出た。


「ヒカルちゃん?」

「桜木さん、なんだか怒ってました・・・」

「私、変なこと言ったかな?」

「そういうんじゃないんだけどさ、あいつ、もう剣術はやりたくないみたいでさ」

「そうなの?」

「良く分かんないけど、色々あったみたいなんだ」

「そうなんだ・・・もしかして、私、悪いこと言っちゃったかな?」

「わかんね。 俺も桜木に口止めされてたのに、喋っちゃったしな」

「・・・謝った方がいいかな」

「そうだな」

「ヒカルちゃんの家、知ってる?」

「知ってるよ」

「じゃあ、謝りに行こう」

「その方がいいかもな」


俺とはるかは桜木のアパートに向かった。


・・・・・・。

 

・・・。

 

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「ヒカルちゃん、怒ってるかな」
「多分な。 あ、お前、店は?」
「そうだった・・・ちょっと電話するね」
「ああ」


はるかは携帯から八百屋に電話する。


「もしもし、お父さん? 私。 今日、ちょっと帰りが遅くなるから・・・ごめんね。 お店、なんとかなりそう? そっか。 うん。 辛かったら無理しなくていいから。 じゃあね」
「大丈夫か?」
「うん」
「桜木の家は2階なんだ」
「行こう」
「あ、この階段気をつけろよ」
「わぁ! 古い・・・」


俺たちは桜木の部屋の前まで来た。


「インターホンないんだね」
「ありそうに見えるか?」
「ノックするね」


コンコン・・・


「誰だ」

「鈴木です。 鈴木はるかです」

「鈴木さんか」


桜木はドアを開けた。

 

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「俺もいるぞ」

「椿・・・何の用だ」

「さっきはごめんなさい。 怒らせたみたいで」

「気にしなくていい」

「私、ヒカルちゃんが剣術が凄いって聞いて嬉しくなっちゃって、つい」

「嬉しい? なぜ私が強いと鈴木さんが嬉しいんだ?」

「嬉しいよ。 だって友達だもん」

「友達・・・」

「もう、剣術はやらないの?」

「やらない。 剣術などくだらない」

「そうかなぁ? 強いってカッコいいと思うけどなぁ」

「カッコいいか・・・」

「はるかたちにお前のこと話して悪かったな」

「口の軽い男は嫌いだ」

「・・・すまん」

「用が済んだなら帰ってくれ」

「うん・・・」

「なぁ? なんでそんなに剣術を嫌うんだ?」

「・・・話したら、帰ってくれるのか?」

「何か嫌なことでもあったの?」

「・・・そうだな」

「あ、分かった! 剣術のせいで腕が太くなったとか!」

「・・・違う」

「じゃあ足が太くなったんだ」

「別に太くなってはいない」

「じゃあ、どうしたの?」


桜木はため息をついた。


「しつこいぞ」


うんざりしたように言った。

嫌悪感がひしひしと伝わってくる。


「いい加減しつこいから、一つだけ教えておいてやる」


息を呑んだ。


「私は、剣術が原因で、いま一人で暮らしているんだ」

「だから、なにがあったんだよ」


空気を読まない俺だった。


「もう、帰れ。 これ以上つきまとうなら、国家権力を呼ぶぞ」

「・・・なんだよ、それ」

「宗介、行こう・・・」


桜木は、一方的に会話を打ち切ってドアを締めた。

ドアの向こうから、なんの音も伝わってこない。

気配すら殺して、俺たちを拒絶していた。

 

「ヒカルちゃん、本気だね・・・」

「ああ・・・」


お互い無言になって、桜木の部屋をあとにした。


・・・・・・。


・・・。

 


商店街には、もう夜が訪れていた。

 

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「店、閉まってるな」
「お父さん、大丈夫だったかな」
「大変だな・・・お前も」
「そんなことないよ。 このお店は、お母さんが残してくれたものだから」
「そうだな」
「でもね、たまに潰れちゃえばいいのにって思うこともあるんだよ」
「冗談でもそういうこというなよ」
「分かってるよ。 もしうちが八百屋じゃなかったら、もっと好きなことできるのになぁって」
「好きなこと?」
「うん。 学校帰りに喫茶店とかでおしゃべりしたり、みんなでアイスクリーム食べて昨日見たドラマの話したり、そういう些細なことができるかなって」
「些細なことか」
「ねぇ、ヒカルちゃん、大丈夫かな?」
「あいつ、かなり思いつめてるよな」
「私、ヒカルちゃんは剣術やったほうがいいと思うんだ」
「どうして?」
「好きなことはやったほうがいいよ。 出来るだけで幸せなことなんだから」
「でもなあ・・・」
「私ね、ほら忙しいじゃない? だからせめてヒカルちゃんには好きなことやって欲しいんだよね。 せっかく才能があるんだし、もったいないよ」
「才能か」
「ヒカルちゃんのために、私に出来ることないかな」
「はるかに出来ること?」
「そう。 ヒカルちゃんがもう一回、剣術をやりたくなるようにしてあげたいんだ」
「なんで他人のことなのに、そういう風に思えるんだ?」
「他人じゃないよ。 友達だもん」

「友達?」

「友達が幸せになったら、一緒に涙流して喜べる人間に私はなりたいんだ」


目を輝かせて言った。

 

「一緒にか・・・」
「ヒカルちゃんが、もし剣術始めて優勝したら、多分、嬉しくて泣いちゃうと思うから」
「はるか」
「なに?」
「おまえは世界で一番いいやつだな」
「なによそれ」
「まあ、俺の知ってる世界は相当、狭いんだけどさ」


俺は、少しうつむいた。


「あ、そうだ! これ、使って!」


はるかは俺にノートを渡した。


「これなんだ?」
「はるか流、追試必勝ノート」
「おお!」
「追試に出ると思う問題と答えをノートに書いておいたから、それを明日の朝までに必死で暗記すること」
「暗記か」
「時間がないから、内容までは考えなくていいよ。 とにかく覚える。 覚えるのみ」
「・・・わかったよ。 やってみる」
「退学とか、いやだよ」
「・・・ありがとな」
「感謝してよね。 出来のいい幼馴染に!」
「ありがとう。 俺、徹夜で暗記してみるよ」
「うん」


俺は家に入った。

 

・・・・・・。

 

・・・。

 

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俺は遅い夕食をすませ、机にむかった。

はるか流、追試必勝ノートねぇ。

ペラペラとめくる。

結構、量あるな。


「宗介? いるのね?」

「なんだよ」


母さんが部屋のドアごしに話しかけてきた。


「あら? あんたまさか勉強してるの?」
「わりぃーかよ」
「アイスコーヒーもってきたんだけど、このグラス、ちょっと落としてもいい?」
「どーいうことだよ」
「いや、衝撃を出すために」
「くだらねぇーよ。 邪魔するな」
「まさか、我が息子が勉強をするなんて奇跡だわ」
「なあ、母さん。 俺の父さんってどんな人だった?」
「どうしたの? 急に?」
「いや、小さかったからあんまり記憶がなくってさ」
「今でいうところのイケメンって感じね」
「ふーん」
「珍しいわね。 宗介がお父さんのこときくなんて」
「まわりのやつの親父にろくなやつがいないからさ、俺の親父はどうだったんだろって思ってさ」
「お父さんは芯の強い人だったわ」
「いい親父だった?」
「子供思いの、優しい父親よ」
「・・・子供思いか」
「でもね、どんなにろくでもない親でも、子供のことを考えてない親はいないと思うわよ」
「そうかな」
「親っていうのは、そういうものよ。 コーヒーここに置いとくね。 じゃ、勉強頑張って」


母さんは部屋を出ていった。

子供のことを考えてない親はいない・・・そうでもないよな。


俺はノートの暗記を始めた。


う、さっそく眠い・・・。


だめだ・・・眠い。


コーヒーを飲む。


ゴク、ゴク・・・。


カフェイン効果、俺にこい!


ゴク、ゴク・・・。


ダメだ。


眠い・・・。


とりあえず、ノートを見つめ、ページをめくった。


ん?


ノートの端に女の子の絵が書いてある。

よくみると女の子からフキダシが出ていた。


「がんばれ、そーすけ!! 睡魔は敵だ!!」


女の子の隣に『睡魔』とかかれたモンスターが槍をもっていた。

・・・はるかのやつ落書きしてんじゃねーよ。

俺は、眠い目をこすり、ノートの暗記をはじめた。


がんばれ、俺。


負けるな、俺。


夜は徐々に、更けていく。

 

・・・・・・。

 


・・・。

 


授業が終わり追試場所である、第三視聴覚教室に集まった。

 

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「いよいよ追試だね」
「やるだけのことはやった。 これでダメだったとしても悔いはねーよ」
「秘伝の書は役立ちましたかな?」
「ばっちりだよ・・・絵は余計だったけどな」

 

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「秘伝の書ってなに?」

「なんでもねぇーよ。 それより水嶋、ちゃんと勉強したか?」

「ふふふ。 俺、本当は天才だからさ」

「やけに自信ありげだな」

「とっておきの秘策を考え付いたのだよ」

「おまえってさ、頭がいいのか悪いのか分からない時あるよな」

「能ある鷹は、爪を隠すってな」

 

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「タカさんの爪は必要以上に鋭いです。 そして、リコは爪が必要以上に短いです。 そして、緊張します」

「大丈夫だよ。 リコちゃんならきっとできる」

「沢村さんに教えてもらったことを存分に生かします」

「ヒカルちゃんはなんとかなりそう?」

 

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「・・・・・・」

「ヒカルちゃん?」

「あ、ああ。 私はもともと頭は悪くない」


桜木のやつ、ボーっとしてるな。


「じゃあ、みなさん、気合入れていきますか!」


・・・。

 

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「間もなく始まりますよ。 席について」


栗林が教室に入ってくる。


「あのぉ、席は?」

「席に名前が書いてあるわ。 自分の名前を探して着席しなさい」

「名前・・・これか。 ここには、水嶋って書いてあるぞ」

「そこが俺の席か~。 って一番前・・・」

「私に一番近い席よ」

「わぁ、うれしいなぁ・・・」

「リコはここです。 窓際、鳥さんがいっぱいみれます」

「佐田さん? バードウォッチングではないですからね」

「はい」

「宗介、席あった?」

「・・・一番後ろだ」

「私はここか」


それぞれ名前の書かれた通りに、着席する。

広い教室に、計算されたようにバラバラに座らされた。


「外国語、国語、生物、3教科をまとめたテストを行ないます。 合計点数は100点、時間は50分です。 ここまでで質問のある人はいる?」


みんな、黙っている。

栗林は一人一人にテスト用紙を配りながら、続けた。


「合格ラインは90点。 もしそれ以下の場合は退学となります。 もちろん問題は標準的なものを用意したわ。 わざと難しい問題を用意することもできたけど、せめてもの情けよ」

「わかったから、さっさとやろーぜ。 覚えたこと忘れちゃうからさ」

「またカンニングする人はいないと思うけど、もし見付けた場合は即刻退学ですから、気をつけるように」


・・・これだけ離れててどうやってカンニングするんだよ。


「あ、鳥さんだぁ」

「それでは、始め!」


ざっと問題をみる。

見たことのある問題がたくさんあった。

昨日、はるかのノートに書いてあったやつだ。

すげぇ・・・。

・・・分かる!

俺は忘れる前に暗記した答えを、急いで記入していく。

ふと、周りの様子を見た。

はるかは冷静に問題を解いているようだ。

桜木は黙々とペンを走らせている。

この二人は大丈夫か。

リコはどうだろう。

・・・問題も解かずに、窓の外の鳥を眺めている。

リコのやつ、やる気あんのかな。

水嶋はペンをカチカチやっている。

なにやってんだ、あいつ。

俺はテストに戻った。


・・・。

 

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(鳥さん、リコ、この問題、分からない。 ・・・そっかぁ~。 この外国語は、こう訳せばいいのか、鳥さん、ありがとう。 じゃあ、この字はなんて読むの? ・・・『蠶』で、かいこって読むの? 鳥さんすごいです!)


「さっきから、鳥がうるさいわね」


栗林は窓を閉めた。


「あ!」

「佐田さん、なんですか?」

「なんでもないです」


・・・。

 

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(ふふふ。 このペンすげーな。 小遣い全部使い果たしてネットオークションで落札したかい、大有りだよ)


水嶋はまたペンをカチカチしている。


・・・。


栗林はゆっくりと教室の後ろから俺たちを監視する。


・・・隙がないな。


・・・ん?


虫が飛んできて、リコの肩にとまった。


(てんとう虫さん、この問題、○と×どっちですか?)


虫はリコの肩から離れ、テスト用紙にとまった。


(なるほど。 ×ですね。 ありがとうです)

 

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(みんな、ちゃんとできてるかなぁ)

 

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(・・・このくらいの問題なら、なんとかなりそうだな)

 

そうこうしているうちに、時計は回る。

 

・・・。


「そこまで! ペンを置きなさい」


俺はペンを置いた。


「テスト用紙を回収します。 結果は、明後日に伝えます。 結果が楽しみね」


栗林は出て行った。

緊張の糸が解けた。


・・・。

 

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「ふ~テストどうだった?」

「うん。 私は大丈夫」

「私も問題ない」

「リコもできました。 鳥さんと虫さんのおかげです」


リコは手のひらにのってる、てんとう虫をみた。


「それ、せこいよな。 ・・・水嶋は?」

「じゃーん。 このペンのおかげでばっちり!」

「なんだそれは」


水嶋は自慢げにペンを振りかざした。

 

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「名付けて、ヌスミミペン2号」

「盗み見?」

「このペンの先に、センサーがついてるんだ」

「センサー?」

「そう。 で、このペンで問題をなぞると、そのセンサーが問題を感知して、この液晶に答えを写してくれるんだ」

「ペンにあるこれは、液晶か?」

「実際、やってみる? はるかちゃん問題持ってる?」

「うん。 さっきのだけど」

「例えばこの問題とか。 すべての細胞は1個の核を含んでいる。 この文章は正解か誤りか」


水嶋は問題をペンでなぞった。

液晶には『誤りです』と表示される。


「凄い! 正解! こんな便利な道具どこで買ったの?」

「ネットオークションでゲットしたんだよね」

「ネットオークション?」

「そう。 マジでいい買い物したよ」

「なあ、このランプはなんだ?」

「あ、ほんとだ。 黒いランプがある」

「ん? 説明書には書いてなかったけど」

「おい、桜木? このランプどっかで見たことないか?」

「・・・あるな」

「え? これ知ってるの? 有名?」

 

――ッッ


ペンから音がして、黒いランプが点灯した。


「おい、黒いランプがついてるぞ」

「みんな、水嶋から離れろ!」

「え? なになに」

「鈴木さん、リコ、離れるぞ」

「どういうこと!?」

「離れるです!」

 

俺たちは水嶋から離れる。


「なんだよ。 どーしたの?」


――!!


「わぁ!」


ペンは小さく爆発した。

 

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「なんだよこれー!」

「おーい! 無事か?」

「無事じゃねーよ。 ゲホ、ゲホ」


「なんで爆発したの?」

「前に似たような機械を見たことがあってな、それも爆発した」

「爆発、怖いです」

「ゲホ、ゲホ・・・なんでこうなるかな」

「そんな機械に頼るからだよ。 自業自得だな」


・・・でも水嶋ってこう見えて、意外に頭よかったはずだよな。

 

・・・。

 

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「水嶋? 具合はどうだ?」

「最悪~。 見てよここ火傷しちゃってんじゃん」

「そんくらいですんで良かったな」

「ほんとだよ。 これが顔だったら終わってたよ」

「なんで?」

「こんなカッコいい顔に傷でもついたら、お婿にいけなくなるだろ」

「リコはお嫁にいきたいです」

「あ、そう。 いけばいいんじゃない?」

 

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「はるか、時間、平気なのか?」

「うん。 平気」

「そろそろ、八百屋のピークだろ?」

「今日はいいんだ。 私、みんなに話したいことがあって」

「話したいことですか?」

「うん。 もう学園生活も今年1年でしょ? みんなで何かやりたいと思って」

「・・・何するんだよ」

「剣術部を作りたいと思って!」

「・・・剣術部?」

「そう。 それも女子剣術部」

「いきなり何言い出すんだよ」

「昨日、考えたんだよね」


はるかは桜木を見た。

 

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「・・・・・・」

「・・・素人がいきなり始めるには敷居が高すぎるだろ」

 

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「たしかにねぇ~。 汗臭いし、女の子はやりたがらなそうだよね」

「それに、部活は禁止だと栗林先生が言っていました」

「全国で活躍できる部なら続けてもいいはずだよ」

「全国で優勝なんて無理でしょ」

「それが、無理じゃないんだよね。 ね、ヒカルちゃん」

「・・・どういう意味だ?」

「ヒカルちゃん、作ってみない?」

「断る」

「もったいないよ。 ヒカルちゃんなら出来るって」

「どういうことですか?」

「・・・やろうよ。 ヒカルちゃん。 部にするには顧問の先生と、最低5人の部員が集まればいいんだって!」

「・・・私は、帰る」


桜木は教室を出た。


「桜木、怒って帰っちゃったぞ」

「・・・ヒカルちゃんには好きなことやって欲しいんだ。 私、諦めないから」

「なぁ、もう店に帰ったほうがいいんじゃないか?」

「実は、昨日、お父さんと喧嘩しちゃった」

「マジで?」

「うん。 だから今日はボイコットって感じかな」

「親父さん、困ってんじゃないか?」

「・・・たまには困ればいいのよ」

「帰ったほうがいいです。 お父さん心配してます」

「はるか、戻れよ」

「・・・いいって」

「電話、鳴ってます」


はるかは、電源を切った。


「明日、剣術部のチラシ作ってくるね。 かわいいイラスト付きで女の子が入りたくなるように工夫してみる」

「おい、はるか」

「リコちゃん!」

「なんですか?」

「剣術に興味はある?」

「剣術ですか・・・?」

「そう。 やってみない?」

「興味があるかなしかでいったら、なしです」

「だろうな」

「やってみようよ。 部にするには5人必要だから」

「・・・剣術は、人を棒で叩きます。 リコは叩くのは嫌です」

「叩くけど、それはスポーツだから」

「しかも、リコは多分、弱いので、逆にめっためたに叩かれると思います。 怖いです」

「叩かれても、そんなに痛くないとは思うけどな。 防具つけてるし」

「痛いのはムリです! さようなら」


リコは走り去っていった。


「おい! リコ!」

「行っちゃった」

「そりゃそうだよな。 リコが出来るわけないよな」

「部、作りたいな」

「どうしたんだよ」

「・・・部が出来たら、ヒカルちゃんはもう一回、剣術やるでしょ? 私、見てみたいんだ。 ヒカルちゃんが戦うところ」

「だけどさ」

「まだ、諦めたわけじゃないから。 宗介も手伝ってくれない?」

「・・・俺は、できねぇよ」

「ちょっとだけでいいからさ」

「・・・・・・」

「さっきの電話いいの?」

「・・・そうだね。 やっぱり店に戻るね。 バイバイ」


はるかは教室を出た。


「ねぇ? なんで、はるかちゃんはヒカルちゃんに剣術やらせたいの?」

「桜木ってさ、むちゃくちゃ強いんだよ」


水嶋は、一度うなずき、それからすぐにちょっと怪訝そうな顔をした。

俺は取り繕うように言った。


「でも、色々あって、今は竹刀が握れないんだ」

「そうなんだ」

「だから、部を作れば、桜木がもう一回、竹刀を握ると踏んだんだろ。 安直だよな」

「はるかちゃんらしいね」

「自分のことより、人のことだもんな。 はるかは・・・」


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

剣術部か・・・。

まさかそうくるとは思わなかった・・・。

俺はひとり公園のベンチに座っていた。

野良犬か。


ん?

 

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「犬さん、牛乳です」


よく見ると、リコが犬に牛乳を与えている。


「犬さん、どっからきたですか? え? 北国ですか? わざわざ遠くからご苦労様です。 これはなんですか?」


犬は咥えていた花をリコに渡している。


「リコにくれるですか? この綺麗な花はなんていう名前ですか? ラベンダー? いい匂いです」


犬は牛乳をペロペロと美味しそうに飲んでいる。


「犬さんは、一人でここまで来ましたか? リコはいつも一人です。 今日は一緒にご飯食べますか?」


リコはカバンからパンを取り出した。


「誰かと食べるパンは、一人のパンよりおいしいです」


リコはパンを食べはじめる。

俺はリコに近づいた。


「よぉ。 こんなところで何やってんだ?」
「あ、宗介くん」
「公園で晩飯か?」


俺を見て、リコは逃げようとした。


「待てって」
「リコは剣術はしませんよ」


リコは少しおびえている。


「俺にもなんかくれよ」
「あ、はい。 何がいいですか?」
「なにがあんの?」
「プリンと柿と栄養ドリンクと、おふがあります」
「ふ?」
「はい。 味噌汁に入れるとおいしいです」
「ふを単体でもってるヤツなんているんだ」
「はい。 ふです」
「じゃあ、プリン貰おうかな」
「どうぞ」
「これは美味そうだ。 あ、でもスプーンがないな」
「スプーンあります」
「お前、なんでもカバンに入れてるんだな」
「はい。 リコのカバンは魔法の袋です」
「そっか」
「どうですか? おいしいですか?」
「ああ。 うまい。 俺、実はプリン嫌いだったんだけど、これは美味いよ」
「このプリンは特別です」
「特別?」
「はい。 じっくりと寝かせたプリンです」
「寝かせたって・・・」


俺はプリンのラベルを見る。


「げ、賞味期限3日も過ぎてんじゃん!」
「大丈夫です。 犬さんは喜んで食べます」
「ぺっぺっ。 おえっおえっ」


俺はプリンを吐き出した。


「もったいないです」


ワンッ


犬は俺の吐き出したプリンを美味しそうに食べている。


「犬さんは好き嫌いなくて偉いですね」
「好き嫌いとかの問題じゃねぇーよ」
「犬さん、今日はみんなで食事で楽しいですよ」


ワンッ


「いま、なんて言ったんだ?」
「食事はみんなでした方が楽しいって」
「リコは、いつも一人で飯食ってんのか?」
「・・・そんなことないですよ」
「大家族と食わねえのか?」
「今日はたまたま、お父さんもお母さんも仕事で帰ってくるのが遅いから、お弁当を買ってきて、一人で食べます」
「兄弟や、じいちゃん、ばあちゃんは?」
「そ、その、旅行に行ったんです」
「リコだけおいて旅行?」
「宗介くんは、誰とご飯を食べますか?」
「俺は母親とかな」
「一人では食べないですか?」
「うちの母親、よく喋るから、いつもは一人で食ってるよ。 一緒に食ってるとうるさくてしょうがなくてさ」
「・・・うらやましいです」
「おまえだって普段はみんなで食ってるんだろ?」
「・・・もちろんです。 今日はたまたまです」
「親が帰ってくんの待ってから食えばいいじゃん」
「そうですね。 でも今日は遅いから・・・」
「そういえば、前も公園で会ったな」
「はて?」
「まぁいいや。 さっきのはるかが言ってた話なんだけどさ、剣術部ってどう思う?」
「剣術のこと、リコ、あまり詳しくないですけど、叩いたり、叩かれたりはいやです」
「だよな」
「・・・リコは多分できないです」
「俺、ここで桜木と会ったんだ」
「ここでですか?」
「そう。 俺、桜木に助けてもらったんだよ。 あいつスゲー強くてさ。 不良を竹刀でやっつけてくれたんだ」
「ヒカルさん、剣術強いですか?」


リコは俺に確認を求めるように言った。


「強いよ。 でも、本人に言っちゃダメだぞ? 約束してるから」
「ヒカルさんは剣術が好きですか?」
「好きだと思うぞ。 だから、はるかは桜木に剣術をやらせたくて部を作るなんて言い出したんだと思うんだ」
「そうですか・・・でも、リコは力になれません」


ワンッ


「そうか。 やっぱり、剣術は無理だよな・・・」
「はい」


ワンッ


「犬さん、どうしたですか?」


犬が何かの気配を感じたように吠え始めた。

強い風が吹く。


「なんだ?」


風が竜巻のように立ち昇る。


「うぁ、目に砂が入ります!」
「リコ、目をつぶれ!」


風は次第におさまっていく。


「ムニュー!」


俺は目に入った砂をとりながら、視界を取り戻す。


「お前・・・誰だ?」


変な物体が目の前に現れた。

 

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「サシミ!」

「・・・刺身?」


星雲学園の制服?


「アタシ、サシミ!」

「刺身? お前、そんな名前なの?」


「ムニュー!」

「お前、どっから来たんだよ」

「カゼ、キタ」

「どーなってんだ?」

 

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「宗介くんの友達ですか?」

「友達じゃねぇーよ」

「ムニュー、ポケット、ポケット」


サシミはポケットから携帯電話を取り出した。


「ケータイ! ケータイ!」

「はて?」

「・・・その携帯!」

「ケータイ! ケータイ!」

「どうしたんですか?」

「俺の携帯じゃん!」

「ピコピコ・・・ソースケケータイ!」

「返せよ!」

「ホイ!」


サシミは携帯を俺に投げつけた。


「わぁ!」


俺は慌ててキャッチする。


「おまえなぁ、人の携帯を投げるな」

「ギーニュウ」


サシミはポケットからまた何かを取り出した。


「あ、牛乳です」

「ムニュー」

「なんで牛乳持ってんだよ」


俺はリコの手元にある牛乳を見た。


「リコの持ってるやつを盗んだわけじゃないんだな」

「ヌスミ、カッコワルイ」

「さっき盗んだだろ? 俺の携帯」

「ゾンジナイ」

「あたしはリコです。 あなたはサシミさんですか?」

「ムニュ?」

「友達になりますか?」

「ム、ム、ム」

「え?」

「リコ、こいつはうまく喋れないみたいだ」

「はあ」

「イヌ、ギーニュウ、スキか?」

「はい、大好きです」

「あげるです」

 

サシミはコップを取り出し、それに牛乳を注ぎ犬に与えはじめた。


ワンッ


犬はリコの元を離れ、サシミの牛乳の方へ寄っていく。


「あ、待って犬さん!」


犬はリコの言葉を無視する。


「イヌ、ノム」


犬はサシミの牛乳を飲んでいる。


「くふ・・・」

「イヌ、ノム、タイリョウニ」

「犬さん、リコの牛乳の方が美味しいです。 熟成してます」

「牛乳も賞味期限切れてるのかよ・・・」


「犬さん、戻ってくるです」

「サシミ、ギュウニュウ、イチバン」

「あーあ。 完全にサシミになついちゃった」

「犬さん・・・」


ワンッ


「なんていったんだ?」

「リコの牛乳はちょっと臭いけど、サシミの牛乳は新鮮といってます」

「犬は正直だな」

「負けた・・・」


リコは愕然としている。


「リコ、クヤシイ、サシミ、ウレシイ。 ソースケ、フメイ」


ワンッ


「なんて?」

「サシミの牛乳は、コーヒーの味がして、すごく美味しいって」

「あ、ほんとだ。 色が茶色だもんな」

「完敗です・・・」

「ムニュー!」


サシミはリコに近づいてくる。


「なんですか?」

「サシミ、リコ、キライ」

「え?」

「ムニュー」


二人は対峙する。


「ムニュー!」

「ムムム!」

「モモモ!!」

「ムムムーソ!!」

「モモモーロ!!!!」

「ピポレポットパパポッピ」

ノロルピロヘロポペパット」


「なんだこれ」


「ムニュー!!」


サシミは犬を抱えた。


「あ、犬さん!」

「ムムムムムム、ムニュー!!!」


サシミは高速回転をはじめる。

また風が大きく巻き上がった。


「グフッ!!」


次の瞬間、サシミの姿が無くなる。


「あ、消えた」
「あたしの犬さんが・・・」
「あれ、お前の犬じゃないだろ」
「ノラ犬です」
「連れて行かれちゃったな」


リコは落ち込んでいる。


「あいつ、一体、何者だ? もしかして宇宙人だったりして」
「宇宙人? なに星人ですか?」
「それはしらねぇ」


リコはショックで立ち上がれそうにない。


「なぁ、もう遅いし、帰ったほうがいいんじゃないか?」
「あ、はい・・・でも」
「暗いし、家まで送ってやるよ」


・・・なに言ってんだ俺。


「・・・うちのマンションは、あっちです」
「・・・じゃあ行こうぜ」


・・・・・・。

 

・・・。

 

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「家はどっちだ?」
「あっちです・・・いや、こっちです。 あっちこっちです」
「どっちだよ」


「あ、椿」


「桜木」

 

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「こんばんは」

「二人揃ってなにしてるんだ?」

「デートだよ」


俺は適当に答えた。


「デート? リコ、本気か?」

「ち、違います」

「椿、リコを不良にでもするつもりか?」

「ちげぇーよ。 そんなことよりお前なにやってんだ?」

「買い物ついでの、ランニングだ」

「あ、リコ、こいつもちょうど一人で飯食ってんだぜ」

「え? ヒカルさんも一人ですか?」

「ああ」

「あの・・・ヒカルさんの家にお邪魔してはいけませんか?」

「え?」

「行ってみたいです」

「構わないが・・・」

「嬉しいです!」


リコのお腹が鳴る。


「はふっ。 パンじゃ足りません」

「来るのはいいが、ろくなものはふるまえないぞ。 それでいいなら」


リコは桜木の家に行くのか・・・。


「じゃあ、俺は帰るよ」

「・・・椿も家にこい」

「いいよ」

「・・・お前に話があるんだ」

「・・・・・・」

「少しだけだから」

「みんなでヒカルさんの家にゴーです」

「・・・わかったよ」

「じゃあ、走るぞ」

「え?」

「ランニング中と言っただろう? ついて来い」


桜木は走り出す。


「おい、ちょっと待てよ。 行くぞ、リコ」

「あ、はい」


俺たちは桜木を追いかけた。


・・・・・・。

 

・・・。

 

桜木はどんどんスピードをあげる。


「おい、リコ、大丈夫か?」

「はい、もう、ダメです・・・」

「バカ、頑張れ」

「はい、頑張れません」

「仕様がねぇな~」


俺はしぶしぶ、リコをおぶる。


「はっ」

「しっかり捕まってろよ」

「はい」


桜木のやつ・・・。


・・・。

 

「ゼェゼェゼェ・・・やっと着いた・・・」

 

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「遅かったじゃないか」

「お前なぁ・・・」

「宗介くん、ありがとうです」

 

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「なんだリコ、椿におぶってもらったのか?」

「はい」

「せっかく足があるのにもったいないな」

「でも運動は苦手です」

「リコが速く走れるわけないだろ」

「なぁ、リコ、お前の好きな動物のシカは、走るのが速いか?」

「シカさんは時速50kmで走ります」

「生まれたばかりの子鹿は母親から離れ、必死で立とうとする。 子鹿だって、母ジカに遅れまいと必死で走るぞ」

「はい」

「椿、やるじゃないか。 人ひとり背負って出せるスピードじゃないぞ」

「うっせーよ」

「ここがヒカルさんの家ですか?」

「ああ。 古くて悪いな」

「人が住んでるとは思えません」

「住んでてすまんな」

「リコの家はもっと近代的です。 20階建てで、分譲です」

「新しいんだな」

「20階って景色がいいんだろうな」

「はい。 タワーが見えます。 あ、このキノコ、食べれますか?」

「それは毒キノコだ。 食べるなよ」

「はい」


リコはキノコを取ろうとする。


「取るなって!」

「ウサギさんにあげます」

「お前、ウサギを殺す気か?」

「階段、気をつけろよ」

「ふ、古い・・・」

 

慎重に階段を上る。


・・・。

 

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「汚いところだが、適当に座ってくれ」

「は、狭い。 そして、古い」

「すまんな」


俺は躊躇しながら桜木の部屋に上がる。


「あ、あれ、ポスターじゃん」


桜木はレイカと映ったポスターを部屋の壁に貼っていた。


「し、しまった」


桜木は慌ててポスターを剥がす。


「そのままでいいのに」

「ち、違う。 これは、たまたまであって、その・・・」

「なに照れてんの?」

「かわいくなどない」

 

桜木はポスターを丸めて捨て屑籠へ投げ入れた。


「なんで捨てたんですか」

「あーあ。 もったいない。 せっかくいい顔してたのにな」

「今、食事を作るから待ってろ」

「お手洗いはどこですか?」

「そこの手前の扉だ」

「借ります」


リコはトイレに行った。

桜木は袋から食材を出し、冷蔵庫に入れている。

・・・へぇー、女の子らしいところもあるんだな。


「椿は嫌いなものあるか?」

「・・・メシはいいよ。 お腹いっぱいだからさ」

「そうか」

「なぁ、桜木、話ってなんだ?」

「鈴木さんのことなんだが」

「はるかのこと?」

「剣術はもうやらないと言ったはずだ」

「分かってるよ」

「それなのに鈴木さんはなぜ剣術部を作ろうなどと言うんだ」

「それは・・・」

「正直、困るんだ。 ああいうことをされると」

「分かるけどさ」

「鈴木さんのことは嫌いじゃない。 でも、ああいうことはやめて欲しいんだ」

「でもな・・・」

「お前から、鈴木さんに言ってくれないか?」

「なんて?」

「剣術部など作ろうとするな、私を巻き込むなと・・・」

「俺に言われてもなぁ」

「幼馴染なんだろ? 頼む、鈴木さんをどうにかしてくれ」

「・・・考えとくよ」


・・・。


「夕飯できたぞ」


桜木はちゃぶ台に料理を運んだ。

飾り気のない料理だが、いい匂いがした。


「うまそうだな」

「見た目は悪いが、味は確かだ」

「・・・でも、この大量のキュウリはどうにかなんねーのかよ」

「それは、はずせないな」


リコがトイレから出てくる。


「あのトイレはなんですか?」

「え?」

「うちのトイレと違います。 すごく低いところに便器がありました」

「ああ。 古いからな」

「ふ、古い・・・」

「すまんな」

「トイレの話はいいよ。 リコ、メシ、食えよ」


リコは桜木の作った料理に手をつけた。


「まずく、ないよな?」


リコはご飯を頬張りながら、うんうんと頷いている。


「よかった」

「う、うっ、うっ・・・」

「リコ、口に合わなかったか?」

「うっ、う、ぐすん、ぐすん」

「どうした?」

「そんなに不味かったか?」

「違います。 ぐすん」

「おまえ、泣いてるのか?」

「目から、汁が出ます」

「なんで泣いてるんだ?」

「ぐすん。 なんだか、とても美味しくて泣けてきます」

「だからって泣くことないだろ」

「これは、なんですか?」

「それは、キュウリだ」

「このキュウリ美味しいです。 こっちはなんですか?」

「それも、キュウリだ」

「はっ! これもですか? 美味しい」

「このハンバーグみたいなのも、もしかして・・・」

「キュウリだ」

「マジで!?」

「キュウリをふり潰し、固形状に丸めてフライパンで焼き、特性キュウリソースをかけたものだ」

「ソースもキュウリかよ。 すげーな」

「どのキュウリも美味しいです。 ぐすん」

「だから、泣くなって」

「みんなで食べるご飯は美味しいです。 ぐすん」


リコは泣いている。


「みんなで食べるご飯か。 懐かしいな」

「リコ、いつもみんなでメシ食ってんだろ?」

「あ、・・・はい」

「そんなに珍しくないだろ」

「あの、・・・今日、泊まってもいいですか?」

「別に構わないが」

「家の人が心配するじゃないか?」


「えっと、今日は大丈夫です」

「じゃあ、俺は帰るよ」

「椿は泊まらないのか?」

「その冗談、面白くないぞ」

「・・・あ、鈴木さんの件、頼んだぞ」

「・・・あいつ、一度、言い出したら聞かないくらい頑固だからな」


俺は桜木の家を出た。

 

・・・・。

 

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少し、長居しすぎたかな・・・。


――!


俺はその音にビクッとした。


・・・マコトか。


『ボンジュール! マコトだよ~。 宗介くん、元気? マコトはちょっとヘコミ気味なの。 どうしてかっていうとね、飼っていたインコが、まだ見つからないの。 もし発見したら連絡してね! よろしく~。 さてさて宗介くんは今日、なにか変った事とかあったかな?』


変った事か・・・。


『マコトへ 今日は、追試でした。 なんとか自力で勉強したんで、これで退学になっても悔いはないよ。 それから、サシミという変なヤツにあったんだ。 竜巻の中から現れて、消えた。 あれは夢だったのかな。 他には・・・』


リコと公園であったこと、桜木の家に行ったこと・・・。


俺はメールをためらった。


『他には、特に変わったことはないよ。 追試が終わったら、すぐに家に帰って、母親が準備していたハンバーグを食べて、適当にテレビを観て、これから寝るところ。 明日も学園だから、もう寝るよ。 インコ、見つかるといいね。 おやすみ・・・』


俺は携帯を閉じた。

 

・・・。