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光輪の町、ラベンダーの少女【8】

 


──アラームが鳴る。

 

 

俺は無意識に目覚まし時計を叩いた。

・・・。

もう少しだけ・・・。

・・・。

俺は眠気を振り払い、ベッドから出た。

まだ外は静かだ。

6時半か。

制服を着て、髪を整えた。

沢村と約束してたもんな・・・。

俺はカバンを持ち、家を出た。





「宗介? こんなに早くにどうしたのよ」
「たまには早く学園に行って、勉強でもしようと思ってさ」


母親はきょとんとした顔をしている。


「いってきます」


俺は家を出た。




 

校門の前についた。

時計を見る。

6時50分か・・・。

あたりは静まり帰っている。

さすがにこの時間だ。

まだ誰も来ていないようだ。

門はあいてるみたいだな・・・。

誰もいない校舎を見た・・・。

静かで綺麗な校舎じゃねーかよ・・・。

俺ははじめてそう思った。

・・・中庭に移動するか。

沢村、ちゃんと来てるかな・・・。

 



 

中庭は広く、人っ子ひとりいない。

・・・沢村はまだ来てないみたいだ。

時計をチェックする。

6時59分・・・。

どうやら間に合ったようだ。

まさか、沢村のやつ寝坊したとかいうオチじゃねーよな。

あまりの静けさに少しだけ不安がよぎる。

もしも沢村がこのまま来なかったら、俺は学園がはじまるまで、この芝生で二度寝をすることになってしまう。

・・・。

・・・・・・。


来ねーな・・・。


俺は芝生に寝転んだ。

おいおい・・・マジで来ないつもりかよ・・・。


「先輩? こんなところで寝ちゃダメですよ」


見上げると沢村が立っていた。

 

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「・・・おせーよ。 今何時だと思ってるんだ? 7時過ぎちゃってるぜ。 遅刻はよくないぞ」
「え? 先輩こそどうしてこんな早くにこんなところにいるんですか?」


・・・?


「あのなぁ・・・。 お前が来いっていったんだろ」
「え? そうなんですか? 私が?」
「昨日の夜に電話してきただろ。 7時に中庭に来い、話したいことがあるって」
「・・・すいません。 まったく記憶にありません」
「・・・マジかよ」


どうやら俺に待ち合わせを持ちかけたのは『裏』の方で、『表』の沢村は分かってないようだ。

 


「・・・話したいことないのかよ?」
「特にありません・・・」
「なんだよ。 わざわざ早起きして、奇跡的に遅刻しなかったっていうのにさ・・・」
「何だかよく分かりませんが、すいません」
「じゃあ、沢村に言っといてくれないか? 約束したんだったら、お前が来いよって」
「え? どういうことですか?」
「・・・分かりにくいよな」


どうやら、メガネをかけると現れる、もう一人の沢村の存在を、理解できていないようだ。

ったく・・・どうなってんだよ。

俺は芝生から立ち上がり、服についた草を払った。


「帰っちゃうんですか?」
「ああ。 てか、なんでお前は、こんな早くに学園に来たんだ? それも風紀委員長の仕事か?」
「そうじゃなくて・・・。 私、なんとなくここに来なきゃいけない気がして・・・」
「へぇ」
「・・・薄らなんですけど、実は私も誰かと待ち合わせしていたような記憶があるんです」


沢村の頭の片隅に俺との約束が少しだけ残っているようだ。


「俺に、何か相談したいこと、あるんじゃないか?」
「・・・椿先輩に?」
「無いなら別にいいんだけどさ・・・」
「実は・・・先輩に話したいことあって。 でも、わざわざ私の話を聞いてもらうのも悪いし・・・なかなか話せずにいたんです」
「だったら話せよ。 いい機会じゃないか?」


裏の沢村は、表が出来なかったことを手助けしたんだと、理解した。

 

「そうですね、先輩。 話、聞いてくれますか?」
「ああ」
「実は、話って言うのは明後日にある生徒会長選挙のことなんです」
「そうか。 選挙は明後日か」
「凄く、言いにくいことなんですが・・・票を・・・票を私に入れてもらえないでしょうか?」
「え? ・・・別にいいけど」
「本当ですか? 良かった・・・」
「話っていうのはその事か?」
「はい。 それから、先輩の周りの人たちにも、言ってもらえませんか?」
「周り?」
「鈴木先輩や、桜木先輩、それから佐田先輩とか水嶋先輩とか・・・なるべく多くの人を説得してもらえないかと思って」
「・・・どうしたんだ?」
「少しでも票を集めたいんです。 お願いします」


沢村は頭を下げた。

俺は少し、肩すかしを喰らった気分になった。

話したい事・・・。

何かと思えば選挙活動かよ・・・。

どこかの汚い政治家と、沢村がダブってみえて、気分が萎えた。


「お願いします。 出来るだけ多くの人を説得してもらいたいんです。 どうしても票が欲しいんです」
「・・・なんか必死だな」
「・・・」


選挙前になった途端に国民に頭を下げ始める大人たちと沢村が更にダブっていくのが、どうしようもなく嫌だった。

 

「・・・このままじゃ私、生徒会長になれないかもしれないから・・・。 対立候補もいますし」
「・・・まぁ、出来るだけのことはしてやるよ」


沢村のことは嫌いじゃない。

いい後輩だと思っている。

票を入れろと誰かに強要することは、好きじゃないが引き受けることにした。


「先輩、私・・・」


沢村が何か言いかけた時、誰かが会話に割り込んできた。



──「あなたたち、こんなところで何をしているの?」

 


鋭い目つきでこちらを睨んでいる。

 

 

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「なんでもないっすよ」

「あら? 珍しいこともあるのね・・・こんな朝早くに、遅刻の王様が現れるなんて」

「たまには早起きも悪くないかなぁって思って」

「・・・早すぎるのも問題です。 何かまた問題でも起こしかねませんからね」

「・・・朝から気分わりーな」

「あら? 沢村さんじゃない?」

「お、おはようございます」

「沢村さん、あなた、椿くんと一緒にいたの?」

「え、あ、はい」

「あなた、明後日が選挙だということは分かっているのよね?」

「も、もちろんです」

「この学園の代表になるかもしれない、あなたが、椿宗介と一緒にいるっていうのはどういうことかしら?」

「はぁ?」

「こんな不良と絡んでしまったら、あなたの評価に傷がつくわよ」


「どういうことでしょうか?」

「不良と仲良くしていたなんてことが分かったら、選挙に響くということよ」

「そんなぁ・・・」


沢村は顔面蒼白になっている。


「あなた・・・生徒会長の座を棒にふるつもりかしら?」

「ちげーよ。 俺が、その沢村に絡んでただけだから。 だから選挙とは関係ねーよ」


とっさに沢村をかばった。


「あなたが? ふ~ん、本当かしらね?」

「栗林先生、失礼します」


沢村は軽く会釈して、逃げるように去っていった。


「生徒会長は不良を排除する存在だわ。 それなのに仲良くするだなんて、沢村さんどういうつもりかしら?」
「・・・だから、俺が絡んだだけだから」
「あなたと関わると、ろくな事がないわ」
「どういう意味だよ」
「鈴木さんにしろ、佐田さんにしろ、神山さんにしろ、あなたとさえ関わらなければ・・・」
「・・・そうだな」
「あなたの運命に他人を巻き込むのはよしなさい」


そう言い放つと、栗林は校舎の方へ消えていった。

・・・俺の運命。

・・・。

 





ふぅ・・・やっと昼休みか。

慣れない早起きをしたせいで、今日は一段と眠い。



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「椿宗介! 待ちなさい!」
「レイカか。 どうした?」
「私、今日はいつにもまして機嫌が悪いわ。 肩を揉んでもらえる?」
「やだ」
「あなたは本当に私の命令を無視するのね。 沢村さんといい、あなたといい、私の恐ろしさをいまいち理解していないようね」
「そんな、カリカリするなよ。 せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」
「か、可愛い? それはどういうつもりよ」
「いや、そのままだけど」
「悪くないわね。 さすが椿宗介。 美的感覚だけは正常のようね」」
「そりゃどうも」
「問題は沢村アキナよね」
「なんかあったのか?」
「あの子、一体、どういうつもりかしら?」
「どうした?」
「あの子、学園中の生徒に裏工作しているみたいなのよ」
「裏工作? どういうことだ?」
「私に一票を入れてください! って色んな生徒に声をかけてるみたいなの」
「それ、本当か?」
「間違いないわ。 生徒Aが言っていたもの。 一票入れてくれってしつこく迫られたって」


沢村のやつ、そんなことしてるのか・・・。


「私にも伝えておいて欲しいって言ったらしいのよ。 どういう御身分かしら」
「まぁ、そう言わずに沢村に清き一票を入れてやってくれよ」
「いやよ。 だってあの子、態度悪いでしょ? もっと私に対する忠誠心があったら、一票でも二票でも入れてあげるんだけど」
「一人、一票しかないだろ」
「バカね。 私クラスになったら、票を水増しすることなんて、造作もないことだわ」
「・・・」
「でも、どうしてそこまでして選挙に当選したいのかしら・・・」
「それは沢村にしか分からないことだよ」
「こんな学園の生徒会長になってどうするのかしら。 小さすぎるわ。 なんの権力も持てないっていうのに」
「別に権力をもつために生徒会長になるわけじゃないだろ」
「だって、ここの生徒会長よりも私の方が上なわけでしょ? 必死になる理由が全く理解できないわ」
「上かどうかは分かんねーけど、沢村なりの考えがあるんだろ」
「生徒会長なんかさっさと諦めて、剣術部に入ればいいのよ」


沢村が廊下に選挙のポスターを貼りにやってきた。


「噂をすれば、なんとやらね。 沢村さんよ」


沢村は俺たちに気付かずに、真剣にポスターを貼っている。


「あの子、私たちに気付いているのに無視してるのよ。 なんて性格の悪い子かしら。 絶対に一票入れてあげないんだから」
「いや、真剣に働いてるから気付かないだけだろ」
「いいえ、あれは無視してるのよ。 私を無視するなんて、許せないわ。 票をどんどん減らす方法を考えなきゃいけないわ」
「やめろって・・・」

 

「ちょっと、沢村さんどういうつもりかしら? 私を無視するつもり?」

「え? あ、神山先輩」

「白々しいわね。 気付いていたんでしょ?」

「すいません、仕事に夢中で・・・気付きませんでした」

「き、気付かなかったですって! この私のオーラに気付かないなんて、ありえない!」

「ごめんなさい・・・」

「沢村、あんまり頑張りすぎるなよ」

「つ、椿先輩。 ・・・すいません、失礼します」


沢村は俺を見て慌てて、逃げようとする。


「おい、待てって!」


朝、栗林に言われたことを気にしているようだ。


「ごめんなさい・・・」

「ちょっと、まだ話は終わってないわよ」

「さようなら・・・」


沢村は走り去ろうとしたが、つまずいて転んでしまった。


「あっ・・・」


その場にへたり込んで、立ち上がろうとしない。

ポスターが廊下にバラバラと散乱した。


「沢村、大丈夫か?」

「いい様。 私に歯向かった罰が当たったようね。 レイカ様を無視したら廊下で転んじゃうわよ作戦成功ね」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


沢村の息が荒い。


「え? どうしたの?」


沢村は顔が、赤く火照っている。


「おまえ・・・」


俺は沢村のもとに駆け寄った。


「待ちなさい、椿宗介は触れてはダメ」

「え?」

「女の子に額にあなたみたいな男が触れたら不潔だわ」


そう言うとレイカは沢村の額に手をやった。

 

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「ちょっと・・・あなた、熱いわよ。 熱があるんじゃない」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・大丈夫ですから」


沢村の息があがる。


「大丈夫じゃないわよ。 凄い熱。 保健室に連れて行ってあげるわ」

「いいですから! ほっといて下さい」


沢村はレイカの手を払い、走り去っていった。


「ちょっと、・・・なんなのよ!」

「沢村!」


沢村はポスターを放置したままいなくなってしまった。


「あの子・・・私の親切を無下にしたわね・・・許せない・・・」
「落ち着けって」
「あり得ないわ・・・。 あり得ない」


イカの怒りは頂点に達しているようだ。


「あいつ、熱大丈夫かな」
「本人がいいって言ってるんだから、大丈夫なんでしょ。 今の行為、絶対に許せないわ・・・」


イカは我を忘れているようだ。

話を変えないと面倒くさそうだな。


「なぁ? 三田さんのことなんだけどさ・・・」
「三田? それがどうしたの?」
「どうしてるかなって思って」
「三田なら、辞めたわ。 実家で牧場を手伝うらしいわ」
「そうか」
「それがどうしたの?」
「いや、寂しくないのかなぁって思ってさ」
「・・・別に寂しくはないわ。 それが三田の出した答えなら。 私、去る者は追わない主義なの」
「意外にあっさりしてるんだな」
「私、そんなに子供じゃないわ。 三田にだって色々と事情があるんでしょ」
「そうだよね」


・・・俺は思った以上に大人な考えを持っているレイカに驚いた。


「それに、私を守る新しい人間が出来たもの」
「新しい側近が来たのか?」
「何を言ってるの? あなたでしょ? 椿宗介!」
「え!? 俺かよ・・・」
「しっかりと頼むわよ」
「おいおい・・・」
「そんなことより、今、問題なのは、沢村アキナよ。 絶対にこのままじゃ終わらせないんだから」
「だから、あんまり深追いするなって」
「私に指示しないで」


イカはスタスタと去っていった。

・・・俺がレイカの側近?

三田さんにレイカを守ってくれとは言われたけどさ・・・。

先が思いやられるな。




 

授業が終わり、俺は学園を出た。

 

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「宗介、沢村さんのこと聞いた?」
「え? なんのことだ?」
「選挙活動、大変みたいだね」


どうやら、はるかも過剰な沢村の選挙活動を気にしているようだ。


「私はもちろん沢村さんに入れるつもりだけど・・・」
「そうしてやってくれ。 俺も色々と頼まれてさ」
「沢村さん、生徒会長になれたらいいね。 ずっと思い描いてきた夢なんだもんね」
「そうだな」
「沢村さんが生徒会長になったときには、もう私たちは卒業していないけど、沢村さんならきっと新山学園をもっと良く出来ると思うんだよね」
「沢村ならやれるよ。 なぁ、今日はお前の店手伝うよ」
「ほんと? それはそれは助かります。 最近、お客さんも増えてきたから、お父さんも喜ぶと思う」
「おう。 じゃあ、行くか」


俺とはるかは店に向かおうとした。


「ちょっと待ちなさい! 椿宗介!」

「・・・レイカ

「あなたはこれから仕事があります」

「いや、俺、これから、はるかの店の手伝いが・・・」

「鈴木さん、ちょっと椿宗介を借りてもいいかしら?」

「うん、大丈夫だけど。 どうしたの?」

「極秘任務だから言えないわ」

「宗介、私、先に行ってるね。 それじゃ・・・」

「悪いわね」


はるかは店に向かった。


「なんだよ極秘任務って」
「極秘任務を発表します・・・その任務とは・・・」


任務とは?

 

 

 

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「・・・沢村アキナに復讐します!!!!」


イカはどでかい声で発表する。


「極秘のくせに、声がでけーよ!!」
「大事な事だから、大声で言ってみたわ」
「復讐ってなんだよ」
「彼女にギャフンと言わせるのよ。 この神山レイカに歯向かった事を泣いて後悔するようにね」


イカは不敵な笑みを浮かべている。


「・・・どうする気だよ?」
「とりあえず、ここで待ち伏せするのよ。 あの子が現れたら作戦開始よ」
「どんな作戦だよ」
「それを考えるのはあなたの仕事でしょ」
「・・・」


復讐とかやってられねーけど、沢村のことがどこか気になっていた。

沢村と話したいことには変わりねーし、とりあえずレイカに付き合うか。

俺とレイカは校門の前で沢村を待つことにした。


「どうやって復讐しようかしら。 早く考えて」
「・・・なんも思いつかないよ」
「そうね・・・とりあえず、穴を堀りましょうか」
「とりあえずの意味が分からねーよ」
「いいから掘りなさい。 ほら、その辺を掘ればいいのよ。 土が柔らかそうだから手で掘れるでしょ」
「・・・なんでだよ」
「落とし穴作戦に決まってるでしょ。 ほら、早く!」


俺はしぶしぶ穴を掘ることにした。


「さっさとしないと、沢村さんが来てしまうわ。 急いで!」
「なんで俺がこんなことしなきゃいけないんだよ・・・」


下校している生徒が俺を不審な目で見てくる・・・。


・・・・・・。

 

イカの指示通り、穴を掘っていく。

 

「こんくらいでいいか?」
「ダメよ。 体が半分埋まるくらい掘って」
「・・・」


なんでこんなこと・・・。

俺はどんどん掘り進めていく。


・・・・・・。


・・・・・・。

 


なんとか、50センチぐらいの穴が出来た。


「掘ったぞ」
「御苦労さま。 じゃあ、その辺から草を集めてきて」
「わかったよ・・・ったく」


俺は学園内から落ち葉や草を集めてきた。


「穴の上に布を敷いておいたから、その上に草を置きなさい」


俺は言われたとおりにする。


「完璧よ! 素晴らしい落とし穴が誕生したわ」

 

明らかに周りに馴染んでいない落とし穴が完成した。


「こんなのに引っかかる奴、いないと思うけど」
「そうね。 だったら、餌が必要ね」
「バナナでも置いとくか?」
「沢村さんはサルじゃないわ。 バナナじゃ無理ね」
「じゃあ、キュウリなんてどうだ?」
「キュウリ? 何を言ってるの?」


キュウリだと桜木がひっかかりそうだな・・・。


「教科書をだしなさい」
「教科書?」
がり勉の沢村さんは教科書に目がないはず! きっと引っかかるわ」
「・・・そんなんで、引っかかるかよ」
「いいから教科書を出しなさいよ」
「はいはい・・・」


俺はカバンから一冊、教科書を出し、落とし穴の上に置いた。


「あとは獲物がかかるのを待つだけだわ」


・・・何やってるんだろ俺。

 

・・・。


・・・・・・。

 

待てど暮らせど、沢村はやってこない。


「もう、帰ったんじゃないのか?」
「そんなはずないわ。 きっとあの子はくる」
「そうかなぁ?」
「いいから待つのよ」


・・・・・・。


・・・。

 


数時間たっても沢村は現れない。

下校する生徒も全くいなくなってしまった。

辺りも暗くなっている。

 

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「なぁ? もう帰ろうぜ。 もう誰もいないって」
「・・・どうして現れないのよ。 この作戦は完璧なはずなのに」
「ぜんぜん完璧じゃないと思うけどな」
「くっ・・・。 沢村さん、やるわね・・・」
「なぁ、帰ろうぜ」
「いやよ。 復讐するまで帰らない!」
「だいたい、こんな分かりやすい落とし穴に引っかかる奴なんていないって」


と、その時、落とし穴に誰かが落ちた音がした。

 

──「きゃっ!」


「誰か落ちたわ! きっと沢村さんよ」


俺とレイカは落とし穴に駆け寄った。


「あ・・・」

「なんで、あなたが・・・」


穴に埋まっていたのは栗林だった。


「・・・なっ、なんなのよこれ・・・」


やべ、まずいぞこれは・・・。

俺はとっさに逃げ出した。


「神山さん・・・あなたなの? こんなことをしたのは」


頭の上に葉っぱを乗せたまま栗林がレイカを睨む。


「なんで、あなたが引っかかるのよ! もう、知らない!」


イカはイライラしたまま帰ってしまった。


「ちょっと神山さん! ここから出しなさいよ! ちょっとっ!!」


栗林は落とし穴の中でジタバタもがいている。




 

校門から逃げ出した俺は、はるかの店の片付けを少しだけ手伝った。

 

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「ありがとう。 助かったよ」
「すまんな。 変な事に巻き込まれちまってさ」
「極秘任務でしょ?」
「くだらない遊びだよ」
「最近、神山さんとよく一緒にいるよね」
「そんなんじゃねーよ」
「別に深い意味はないんだけど、なんだか神山さん前より楽しそうだよね」
「そうか?」
「うん。 宗介には心開いてるっていうか」
「いい迷惑だけどな」
「やっぱり宗介にはそういう魅力があるんだと思うよ」
「・・・んなことねーよ」
「じゃあ、おやすみ。 ほんとにありがとう」
「おやすみ」


はるかは店の中に戻って行った。

俺も帰るか・・・。


「あのぅ・・・椿先輩?」


沢村が立っていた。

 

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「お前、体調は大丈夫なのか?」
「はい。 少し熱っぽいだけですから」
「ならいいけどさ」
「朝は、すいませんでした。 それから、廊下で会った時も・・・」
「気にしてないよ」
「栗林先生に言われちゃったから、気になってしまって」
「不良と絡むなってか?」
「私、椿先輩の事、不良なんて思ってないけど、やっぱり学園で一緒にいたりすると選挙に差し支えるかもしれないと思ってしまって・・・すいません」
「いや、いいんだけどさ、・・・でも、どうして・・・そこまでして生徒会長になりたいんだ?」
「・・・そのことなんですが」


沢村は伏し目がちに話し始めた。


「本当は、朝、そのことを話したかったんですけど、栗林先生が来てしまったから」
「そっか」
「少し、聞いてもらえませんか?」
「俺なんかでよければ、聞くけど・・・」
「これからの生徒のためって前は言ったじゃないですか? もっと学園を良くしたいとか・・・。 でも、本当の理由は他にもあって」


沢村は申し訳なさそうに話し始めた。


「私、7つ離れた姉がいるんです」
「7つって随分離れてるんだな」
「小さい頃は良く面倒見てもらいました」
「いい姉ちゃんだな」
「姉は頭が良くて、運動ができて、すっごく可愛くて、誰からも好かれる、自慢の姉なんです」
「すげーな」
「優しくて、強くて、私じゃ到底及ばない、凄い姉で、今は海外で司法関係の仕事をやってるんです」
「司法関係・・・」
「この国に戻るのは二年に一度くらいなんですけどね」


司法関係という言葉に少し動揺した・・・。


「仕事が順調みたいで・・・なかなか戻って来れないんです」
「あんまり会えないんじゃ寂しいな・・・」
「・・・そんな事もないですけど」


沢村は寂しげな顔をした。


「でも、そんな優秀な姉妹がいたら比べられて大変だな~。 あ、でも沢村も優秀だから問題ないか」
「・・・よく比べられました。 母も父も私には言わなかったけど、心の中では私と比べていたと思います」
「なに? それで姉ちゃんに負けたくねーから勉強してるってこと?」
「勉強だって姉には勝てません。 もっともっと凄いから。 どんなに頑張ったって追いつきっこないんです」
「姉妹で競ってどーすんだよ。 俺、一人っ子だからそういうの分かんねーや」
「何か一つでも勝ちたいって思ったんです。 姉に・・・だから生徒会長に・・・」
「生徒会長になったら勝てるのか?」
「はい勝てます。 だから私は生徒会長になりたいんです。 なれるんだったら、どんなことだってするつもりです」
「ちょっと待てよ。 それが理由か? それで司法関係でバリバリのエリートの姉ちゃんと張り合うのは弱い気がするけどな」
「・・・姉、落ちてるんです。 生徒会長に立候補して」
「え?」
「姉、新山学園の生徒だったんです」
「てことは、大先輩だな」
「・・・今でも忘れません。 あの日、お姉ちゃん、生徒会長に推薦されて、落選したんです」


沢村は冷たく言い放った。


「・・・そうか」
「お姉ちゃん、家族には平気、平気って笑ってたけど、私知ってるんです。 お姉ちゃんが、部屋で一人で泣いてたの」
「悔しかったんだろうな・・・」
「だから、生徒会長になって・・・お姉ちゃんを・・・」
「くだらねぇな・・・」
「私って・・・やっぱり酷い人間ですよね。 最低な動機ですよね・・・」
「ああ。 最低だな」
「お姉ちゃんが出来なかったことを、一つでもやりたいから。 そしたら、私、お姉ちゃんに勝ったことになるから・・・」
「それで満足か?」
「・・・」
「そんなんで生徒会長になって、沢村は嬉しいか?」
「・・・嬉しいです。 多分」
「もうひとりのお前が聞いたら悲しむだろうな」
「もうひとりの私?}
「なんでもねーよ」
「・・・こんな私ですが、票を入れてください」


アキナは深々と頭を下げた。

いつも真面目で、優等生の沢村がどこかずる賢く、そして醜く見えた。

 

「お願いします・・・」


──「はい、おしまい、おしまい」


手を叩きながらレイカが現れる。

 

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「神山先輩・・・もしかして、今の話・・・」

「聞いていたわよ。 しっかりとね」

「誰にも言わないでもらえますか?」

「え? 何を? 沢村アキナが生徒会長になりたい理由?」

「そうです」

「言うわけないじゃない。 そんな、みみっちい話」

「みみっちい・・・」

「そうよ。 そんな、小さな話、どうして私が他人に話さなきゃいけないの?」

「小さくありません・・・少なくとも私にとっては」

「姉に負けたくないんだったら、もっと正々堂々と戦ったらどう?」

「でも・・・勝てないから」

「私だったら、堂々と戦うわ。 まぁ、私に勝てる人なんていないんだけど」

「レイカと沢村は違うだろ」

「一緒よ。 あ、そうそう。 沢村さん、あなたに今日はプレゼントがあるわ」

「プレゼントですか? 私、誕生日じゃないですけど」

「これ、CDよ。 ヘンリー・ピーターソン」

「それって、俺にくれたCDと同じだ」

「これを聞けば、あなたの悩みがいかにお粗末かが分かるわよ。 どうぞ」


沢村はCDを受け取った。


「それから、朝はごめんなさいね。 私、少し大人げなかったわ。 選挙がんばって」


イカは小さなリボンで絞められた袋を渡した。


「これはなんですか?」

「クッキーよ。 うちのシェフと一緒に焼いたものよ。 口に合えばいいんだけど」

「・・・ありがとうございます」


なんだかんだ言って、レイカも沢村のことを気にしてたんだな・・・。


「もっと好きなように生きればいいのよ。 自分の為に生きればいいのよ。 私はいつも自分が世界の中心だと思っているわ」

「・・・」

「生徒会長なんてくだらないわ。 少なくとも私にとってはね」


沢村は持っていたCDとクッキーをレイカに突き返した。


「沢村?」

「これ・・・結構ですから」

「あなた・・・私の善意を無駄にするというの? いい度胸ね」

「神山先輩は自由でいいですね・・・。 失礼します」


沢村はムッとした表情で、去っていった。


「・・・」


イカは悲しそうな表情を浮かべた。


「・・・レイカ。 今のは沢村も悪いよな・・・」
「くそっ・・・」
「レイカ?」
「どうして受け取らないのよ・・・沢村アキナ・・・」
「まぁ、仕方ねーよ。 クッキー、代わりに俺が貰おうか?」
「くそっー! CDの中身を抜いておいたのに!」
「え?」


CDケースを開けると何も入ってない。


「もしかしてクッキーも?」
「クッキーには大量の塩を入れておいたのに!」
「塩!?」
「レイカ特製激辛クッキー作戦・・・失敗だわ! もういや!」


イカはCDとクッキーを道端に投げ捨て走り去っていった。


・・・・・・。


・・・レイカを一瞬でも信じた俺がバカだった・・・。

恐ろしくみみっちいのは、レイカじゃんか・・・。

 

・・・はぁ。

疲れた。

明後日は生徒会長選挙か・・・。

どうなることやら。

俺は塩入クッキーと空のCDケースを片づけ、家に戻った。




 

明日の生徒会長選挙に備えて、学園は準備に追われていた。

ポスターも学園中に張り巡らされており、選挙ムード一色だ。


「なんか、今年はいつにも増して大げさだな」
「そうだね。 学園の方針も変わったみたいだし、凄く力が入ってる感じするよね」


俺はポスターを見た。

対立候補は男子のようだ。

俺とは正反対の真面目で物分りの良さそうな顔をしている。


「沢村になってもらいたいよね」
「なぁ? この対立候補の男子ってどうなの?」
「人気あるみたいだよ。 特に女子には凄い人気みたい」
「女子に? この顔で?」
「男は顔じゃないんだよ。 この男子、頭もよくて、ボランティア活動に熱心で誰にでも優しいから、人気あるみたい」
「誰にでも優しい奴とか、一番信用できないな」
「僻まない、僻まない。 宗介だって優しいから負けてないって」
「別に俺は生徒会長になんて興味ないし」
「沢村さんも人気あるみたいだけど、今のところ五分五分って感じみたい」
「そういうことよく知ってるな」
「学園中、その話で持ちきりだよ。 周りの女子もその話ばっかりしてるし」


ポスターには沢村の顔がプリントされている。

少し緊張しているせいか、いつもの沢村よりも硬い表情をしている。


「もっと明るい顔して写真に映ればよかったのにな。 ピースとかしてさ」
「そんなことしたら、ふざけてると思われるでしょ」


ポスターには沢村のマニフェストが書かれていた。


『秩序と品格のある生徒の育成』
『生徒の自主性を重んじた教育方針』
『平和でイジメのない学園生活』
『学食のメニューを増やします』
『花壇に綺麗な花をたくさん咲かせます』
『校舎にエレベーターを設置します』


「なんだか、政治家みたいだな・・・」
「もう、私たち大人なんだよね。 こういう事も考えていかないといけない年なんだよね」
「・・・大人か」


はるかの一言は案外、重くのしかかった。

いつまでも子供でいたいなんて思わないが、大人になることに大して希望を持てないでいるからだ。


─「ちょっと入りますわよ」


イカが息を巻いて教室に入ってきた。


「違うクラスの生徒が堂々と入ってくるなよ」

「私にクラスなんて概念は存在しないわ。 好きなところに行くだけ」

「どうした? 何か用か?」

「凄い事を思いついたわ!」


凄い事・・・。

イカの凄い事はろくな事じゃない。


「凄い事って、何?」

「沢村アキナを選挙で落選させるのよ!」

「・・・まだそんなこと言ってるのかよ」

「神山さん、ちょっと落ち着こう」

「あなた達にはその作戦に参加してもらうから、そのつもりでいてね」

「・・・落選させてどうすんだよ」

「だから、落選したら沢村さん、やる事が無くなって、だら~ってして、そのうち何かやりたくなって剣術部に入部するのよ」

「そんなに簡単にはいかないと思うけど・・・。 それに、例え落選しても、剣術はやらないんじゃないかなぁ? スポーツは嫌いみたいだし」

「鈴木さん? あなたそれでも剣術部の代表なの? 強引にでも入れて右近シズルを叩きのめすのが代表であるあなたの仕事でしょ?」

「・・・代表なわけじゃないけど」

「もういいわ。 とにかく、二人には手伝ってもらいますから」

「・・・あんまり沢村の邪魔はしたくないんだけどな・・・」

「またそうやって、沢村さんの肩をもつのね。 一体どういう関係なのよ!」

「・・・ただの後輩だけど」

「鈴木さん! あなたマジック持ってるかしら?」

「え? あるけど・・・。 なんに使うの?」

「決まってるじゃない・・・おっと、これ以上は極秘よ。 持ってるなら貸してもらえる?」

「・・・いいけど。 不安だなぁ・・・」


はるかは筆箱からマジックを取り出し、レイカに渡した。


「水性マジック!? 油性ぐらい持ちなさいよ!」

「そこでキレるのかよ・・・」

「では、廊下にまいりましょう。 レイカ会の方々」


イカは教室を出ていく。


「もう、ほっとこうぜ。 疲れるし」
「でも、あれ、絶対に沢村さんのポスターに落書きするよね? 止めた方がいいよ」
「はぁ・・・。 そうだな。 行くか」


俺とはるかはレイカの後を追って、廊下に出た。




 

イカは沢村のポスターの前に立っている。


「早くこっちに来なさい」

「変な事はするなよ」

「私はしないわ。 はい、鈴木さん、出番よ」

「え!? 私?」


「そうよ。 沢村さんの顔にマジックで髭を書くのよ!」

「・・・やめろ」

「ちょろっとやればいいのよ。 そしたら、必ず落選するわ。 なぜなら、髭のはえた候補者なんかに投票したくないからよ!」

「・・・できないよ」

「はやくやって! 額に変な文字を書いてもいいわよ」

「だから、やめろって」

「あなた達がやらないんだったら、私がやるからもういいわ!」


イカはマジックのキャップを外し、書こうとした。


──「なにやってるんですか!」


「げっ! 沢村アキナ」

「マジック!? 神山先輩、それで何をしようとしてたんです!」

「・・・な、なんでもないわよ・・・ねぇ?」

「もしかして、それで私のポスターに落書きしようとしてたんじゃないでしょうね?」

「ちっ、鋭いわね! さすが学年一の優等生だわ。 でも、あなたは私にターゲッティングされたのよ。 何があっても落選してもらいますから!」

「・・・そこまでして、私に落選してほしいんですね。 どうしてですか?」

「だって落選したら、剣術部に入るでしょ?」
「入りませんから。 落選したとしても、剣術はやりません! 神山先輩、私の邪魔するのはもう止めてください!」


沢村は強く言い放ち去っていった。


「ちょっと待ちなさいよ! 椿、追うのよ!」

「沢村さん、すっごく怒ってたよね。 大丈夫かな?」

「レイカとはるかはここにいろ。 俺、ちょっと沢村と話してくるから」


俺は立ち去った沢村を追いかけた。





沢村を追って中庭にきた。


「沢村、待ってくれ」
「椿先輩・・・。 みなさんはそんなに私に落選してほしいんですね」
「そういうつもりじゃねーよ。 ただレイカはお前に剣術部に入って欲しいっていう気持ちが間違った方向に向いてるだけで・・・」
「今は剣術部とか、正直どうでもいいんです。 頑張っている先輩達には悪いけど、私は明日のことで頭がいっぱいですから」
「もちろん、それは分かってるよ。 でも、レイカのやってることは酷いけど、悪気はそんなにないんだ。 許してやってくれ」
「私、神山先輩みたいな人、苦手です」
「そうだよな・・・」
「自由で我がままで、自分の思った事を何も考えずに直進するようなタイプの人は理解できないっていうか・・・」


沢村にしては珍しく、強い口調で言った。


「なんの努力もしないで、いつも目立って、みんなからチヤホヤされて・・・私、苦手です」
「なんの努力もしないで? 確かにレイカはあんまり努力してないように見えるかもしれないけど、あいつはあいつなりに色々悩んでたりするわけで・・・」
「神山先輩は元々、華があるし、才能があるんだと思います。 家にも恵まれてるし、私みたいに、元々そういう才能が無い人は努力するしかないから」
「そんなに自分で自分を決めつけるなよ。 お前にだって才能はあるはずだって」
「才能なんて・・・ありませんから」
「そんなことねーよ。 才能なかったら学年で一番になったり出来ないし、生徒会長にだって推薦されたりしないはずだろ?」
「神山先輩って・・・お姉ちゃんにそっくり」
「え!?」
「先輩、私、どうしても生徒会長になりたいんです。 だから、明日の選挙で私に投票してください」
「もちろんだよ・・・」
「先輩みたいないつも投票しない人の票ってもの凄く大事なんです」
「あぁ」
「遅刻はしないでくださいね。 投票に遅れたら、無効になってしまいますから」
「分かってるよ・・・」
「それから、ちゃんと間違えないように私の名前書いてくださいね? お願いします。 先輩って適当なところあるから」
「だから、大丈夫だって」
「先輩の一票が私の今後を左右するかもしれないんです。 たかが一票、されど一票です」
「・・・」


沢村が一方的に話してくるため、俺は閉口した。

なんだよ・・・結局、当選したいだけなのかよ・・・。

俺は沢村の態度に不快感を覚えた。

まるでどっかの汚い政治家と同じじゃねーかよ。


「沢村くん、元気かな?」


どこかで聞いた事のある、忌々しい声が聞こえた。

 

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「明日の選挙、楽しみだねぇ」

「学園長・・・」


俺たちの前に、新山大九郎と栗林が立っていた。


「ん? 君は確か・・・」

「椿宗介です」

「そうだ、そうだ。 椿宗介くんだ。 久しぶりだね」


大九郎は俺を見て、ニヤリと笑った。


「・・・どうも」


俺は身の毛がよだった。


「沢村くんともあろうものが、椿くんのような生徒となにをしている?」


・・・。


「まさか、二人は仲良しなんじゃないだろうね?」

「・・・」

「どうなんだい? 仲良しなのかい? お友達なのかな?」

「・・・そんなんじゃないです」

「沢村アキナと椿宗介はそれなりに交流があるようですよ」

「なに? それは本当の事かい?」

「・・・」

「そんなんじゃとても生徒会長にさせるわけにはいかないねぇ・・・」

「・・・違います。 友達とかそういう関係ではありません」

「どうだろうね? 私が何も知らないとでも思っているのかい?」

「どういう意味だよ」

「言葉を慎みなさい。 学園長になんて口の聞き方なの?」

「まぁ、栗林くん、気にする必要はないよ。 彼はそういう生徒だ。 沢村くん、明日の選挙、楽しみだねぇ。 行こうか。 栗林くん」


そう言うと大九郎は去ろうとした。


「ま、待って下さい! 学園長!」


大九郎は足を止めた。


「私、学園の為に頑張りたいんです。 だから、生徒会長にしてください。 きっと役に立てるはずです」


沢村は大九郎の背中にすがった。


「学園長は先にお戻りください。 あとは私が処理しますから。 一学園生の意見を聞いているほど、お暇ではないでしょう?」


大九郎は無言で去っていった。


一学園生の意見だと・・・。

俺はその言葉が引っかかった。

学園は俺たち生徒のものじゃないってことか・・・。

沢村も沢村だ。

こんな学園の生徒会長になんの価値があるんだよ・・・。

なのにこんなに必死になって・・・。

俺には理解できねーよ。


「沢村さん? 学園長の今の言葉は聞いていたわね? ・・・もうあなたは落ちたも同然よ」

「そんな・・・」

「あなたは学園長に盾突いたのよ? 自分が何をしたか、反省することね」

「私は別にそんなつもりは・・・」

「不良と仲良くしているような生徒に、この学園の未来は任せられないわ。 諦めなさい」


沢村は体中の気力が抜け、愕然としている。

馬鹿げている。

・・・沢村がこれまでどれだけ努力してきたか知らないが、大人の都合でこんなに簡単に落とされるなんて・・・。

俺と関わったからか?

学園長に歯向かったからか?

どちらでもいい。

ただ、この学園は間違っている。

それだけは確かだ。


「・・・結局、この学園は腐ってたんだな」

「・・・そうかもしれないわね。 でも、これが現実よ。 これが、あなたの通う、私立新山学園よ」

「・・・」

「・・・沢村さん、あなたのお姉さんが生徒会長に立候補した頃は、もっと風通しのいい学園だったわ・・・」


栗林はポツリとつぶやき、去って言った。

沢村は茫然としたまま、その場に立ち尽くしていた。


「・・・ごめん」


沢村は何もかえしてこない。

そればかりか、その場に倒れこんでしまった。


「沢村?」


俺は沢村に駆け寄るが、ぐったりしている。

まさか・・・。

俺は沢村の額に手をやった。

額から、熱が瞬間的に伝わる。

おまえ・・・。

凄い熱だ・・・。

 

・・・。

 

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「お姉ちゃん、外国に行くの?」
「そうだね、仕事だもん」
「なんでよ。 寂しくないの?」
「寂しくなんてないよ。 だってこれは、私の選んだ道だから」
「お姉ちゃんはいつもそうだよね。 勝手に自分で決めて、いつもそう」
「アキナ? 寂しいの?」
「そりゃ、そうだよ。 それに・・・」
「それに?」
「お姉ちゃんが近くにいなきゃ、私、お姉ちゃんに勝てないでしょ」
「あなたは、私に勝てない。 そもそも、誰かと自分をくらべるなんて、くだらないことだわ」
「そんなこというけど、お父さんやお母さんはいつも比べてたんじゃない!」
「それは、アキナが勝手にそう思ってただけ、誰かと自分をくらべて、なんになるっていうの?」
「嫌だ。 私はお姉ちゃんに勝ちたいの・・・」
「甘えないでよ。 あなたはもう、子供じゃないのよ」
「行かないで! じゃないと私・・・。 これ以上、惨めな思い、したくない」
「アキナ、もっと強くなりなさい。 ・・・さよなら」
「行かないでっていってるでしょ。 ・・・私を一人ぼっちにしないでよ」
「あなたの敵は私じゃない。 あなたの敵はあなた自身よ」
「待ってよ・・・。寂しいよ・・・悲しいよ・・・」

 

・・・。

 

 

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「どうやら目が覚めたようね。 長い眠りだこと」

「・・・ここは?」

「レイカの家だよ」

 

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「神山先輩の? すみません、私・・・」

「中庭で急に倒れちゃったからさ、ここに運んだんだ。 まぁ、運んだのは俺じゃなくて、レイカなんだけどな」

「神山先輩が? ありがとうございます・・・うっ」


沢村は頭を押さえている。


「まだ頭が痛いのか?」

「はい。 少し・・・。 でも、大丈夫ですから」

「無理するな。 もう少し寝てろ。 いいよな、レイカ?」

「ざまぁないわね。 勝手にしたらいいわ。 部屋は腐るほどあるから、良くなるまでいたらいいわ」

「お前が倒れたとき、俺、慌てちゃってさ。 そしたらレイカが神山グループの人間をすぐに呼んでくれて・・・」

「余計な事は言わないでいいわ」

「迷惑かけてすいませんでした」

「ゆっくりしてから帰れよ。 明日の選挙に響いたら大変だからな」

「選挙・・・。 そうだった」


沢村の表情がどんよりと曇った。


「選挙・・・ダメかもしれませんね。 私、生徒会長になれないと思います」

「諦めるなって。 栗林はああ言ってたけど、最後に決めるのは俺たち生徒なんだから」

「簡単にそういう期待をもたせるようなこと言わないでください・・・。 もとはと言えば椿先輩が・・・」

「俺が・・・どうした?」

「先輩と仲良くしたから・・・」

「悪かったな」


俺は居心地の悪さを感じた。


「だから、学園長や栗林先生に目を付けられてしまって・・・」

「・・・ケーキ食べようかしら。 あなたたちもいるかしら? いらないわね・・・」


イカは用意していたケーキを食べ始めた。


「俺が、悪いんだよな。 俺のせいで生徒会長になれなかったんだよな」

「そうは言ってません。 そうじゃなくて、票を入れて欲しいって頼んだのは私だし。 私にも責任はあるし・・・」

「・・・なんだよそれ」

「私、何してるんだろ・・・。 フフッ。 やっぱり最低ですね私」


沢村は引きつったように笑った。

場は一段と居心地の悪さを増していく。


「美味しいわ! このミラブルのケーキはどうしてこんなに美味しいんでしょ!」

「・・・」

「毎日食べても全然飽きないわ。 ここのパティシエは最高の仕事をしてるわね。 お父様に言って、店ごと買い取ろうかしら」

「・・・この空気の中でよく食えるな」

「何が? ケーキを食べたらいけない法律でもあったかしら?」


イカは俺たちを気にも留めてない様子だ。


「沢村アキナって、趣味はないのかしら?」

「趣味? ・・・ありませんけど」

「じゃあ、普段は何をして退屈をしのいでいるの?」

「・・・勉強だけの毎日だったから、趣味とか持つ時間はありません」

「でも、生徒会長になれないんでしょう?」

「おい、レイカ・・・」

「私も毎日ピアノの練習していたわ。 でも、この前のコンクールで右近シズルという女に政治力で負けたのよ。 ・・・そんなものじゃない?」


イカはケーキを美味しそうに食べている。


「神山先輩になにがわかるんですか?」

「はぁ?」

「神山先輩と私は違います。 神山先輩には私の気持ちなんて分からないですよ」


沢村はレイカに突っかかった。


「はいはい、やめやめ。 ケーキが不味くなるわ」

「・・・」

「なにもわからないし、わかりたくもないわ」


・・・・・・。


・・・・・・。


「・・・あんまり喋ると熱がまた上がるぞ」

「体調がよくなるまでここで眠っていなさい」

「悪いですから・・・」

「連れて帰ったのは私よ。 あなたが良くならないと私の立場がないわ。 心配することはないわ。 最高の医者をつけてあげるから」


沢村は困惑している。


「どうせ戻っても病院に行かなきゃいけないだろ。 だったらここで看てもらった方がいいんじゃないか?」

「もうすぐしたら、お医者様が来るから、それまでは寝てなさい」

「分かりました」

「あまり難しいことばかり考えていたら、頭がショートするわよ。 今は何も考えずに、ただ寝るのよ。 そうすれば、少しは落ち着くから」
「・・・はい」

 

沢村はそういうと、体を横にした。

小さくため息をつき、そのまま瞳を閉じた。


・・・・・・。


「沢村さんが眠るまで、近くにいてあげたら?」
「え? 俺が?」
「誰かが近くにいた方が、良く眠れるもの」


・・・だけどさぁ。

俺は寝ている沢村を見た。

熱のせいか、沢村はわずかに寝息を立てている。

そうか・・・。

よっぽど張りつめていたんだな・・・。

俺はそう思った。


・・・。


・・・・・・。


沢村が眠りについてから、10分くらいしてから誰かが扉をノックする。


「どうやら、お医者様が到着したようね」
「そっか。 これで安心だな」
「どうぞ、入ってちょうだい」


「失礼します」


イカの部屋に小さな女の子が入ってきた。

 

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「あれ? お前・・・」

「あなた、どこかでお会いしましたよね?」

「星雲学園の・・・」

「なに? 二人は知り合いなの?」

「確か、名前は・・・」

「星雲学園の桐生小梅です」

「そうだそうだ! 変な機械を発明してた。 俺は、椿・・・」

「あ、待って下さい。 今、思い出しますから」

「え?」


小梅はこめかみに人差し指を当てた。


「あなたは・・・新山学園・・・椿宗介さん。 出会ったのは2週間くらい前、桜木ヒカルさんと一緒にいましたよね?」

「良く覚えてるな」

「こうやって、指を頭に当てると、記憶が蘇るんです」

「すげー記憶力。 てか、医者ってお前か?」

「え? 私は発明家であって、医者ではありませんけど」

「この方を呼んだのは私よ。 あなた、例のものは用意できたんでしょうね?」

「あ、もちろんです! 人体実験もできて、さらにお金までもらえて、こんな美味しい話ありませんから」

「人体実験? どういうこと?」

「椿宗介は知らなくていいことよ。 桐生さん、さっさとやってもらえるかしら?」

 

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「了解です。 これが、私の発明した睡眠学習洗脳装置『ユメデアエル君3号』です!」

「洗脳装置?」


小梅はカバンからヘッドフォンのようなものを取りだした。


「被験者はこの子ですか?」

「そう。 沢村アキナよ。 よろしく頼むわね」

「おい! どうする気だよ」

「別にたいしたことじゃないわよ」

「大丈夫です。 体にはなんの影響もありませんから」

「そういうことじゃなくて・・・洗脳って・・・」

「ちょっと彼女の思考をいじるだけよ」

「思考をいじる?」

「そうよ、彼女、目が覚めたらきっと剣術がやりたくなってるはずよ・・・」

「おまえなぁ・・・」

「これで私の右近シズル討伐計画がまた一歩進むことになりそうね」

「右近シズル? あのぉ・・・知り合いなんですか?」

「あなたには関係ないことよ。 さっさとやりなさい」


小梅は『ユメデアエル君3号』を沢村の耳に当てる。


「もう、付き合ってらんねーよ」

「熱のことは心配しないで。 最高級の薬をすでに飲ませてあるわ。 目が覚めたころには元気になっているはずよ」

「じゃあな」


俺はレイカの部屋を出た。





洗脳か・・・。

もしかしたら、そっちのほうが沢村にとって幸せなのかもしれないな。

生徒会長なんて・・・。


俺は沢村が元気になって欲しいと、ただ願った。





俺は家の前まで戻ってきた。

 

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「宗介!」


水嶋が立っていた。


「どうしたんだ? 珍しいな、おまえがこの辺を通りかかるなんて」
「ちょっと図書館で勉強してたんだ。 その帰りだよ」


図書館で勉強・・・。

あの水嶋が・・・。

でも、もう学園も最後の年だ。

勉強をしていても不思議ではない。


「あんまり勉強ばっかりしてたら、バカになるぞ」
「俺、こうみえて、なかなか頭いいからさ! 顔もいいし、頭もいいし、嫉妬しないでね」
「バーカ。 お前に嫉妬するわけねーだろ」
「ならいいんだけどさ」
「待ってたのか?」
「・・・そういうわけじゃないよ。 たまたま通りかかっただけ」
「そうか」
「・・・なぁ宗介」
「なんだ?」
「最近どうかなって思って」
「どうって?」
「最近、ちょっと冷たくないか?」
「そんなつもりはないけど」
「色々と忙しいみたいだしさ。 どうなんだよ、その辺?」
「別に・・・」
「そっか。 ならいいんだ。 ごめん、じゃあな」
「・・・」


俺は家に戻った。




 

ついに生徒会長選挙当日がやってきた。

学園内には、じんわりとした緊張感が漂っている。

今日は授業はなく、投票のみが行われるようだ。

 

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「投票は中庭でやるみたいだよ」

「俺が立候補してるわけじゃないのに、なんか浮ついてくるな」

「宗介も立候補すればよかったのに」

「不良の生徒会長か。 今より確実に楽しくなるな」

「みなさん、誰に投票しますか?」

「そりゃ、もちろん沢村だよ」

 

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「ヒカルちゃんは誰に入れるの?」

「そういうのは、人に言うもんじゃない」


相変わらず、無愛想なやつだな・・・。


「心配しなくてもみんなアキナちゃんに入れるって」

「どうして?」

「だって相手は男だろ? 男に入れるやつなんてこの学園にはいない!」

「全員、お前みたいなやつだったら楽勝なのにな・・・」

「相手の男子もなかなか人気あるんだよね・・・」

「そうだな・・・」

「椿? なにか気になる事でもあるのか?」

「いや、なんでもない」


俺は栗林の話を思い出した。

学園側が何らかの力を加え、沢村を落としはしないか。

俺と仲良くしたせいで生徒会長になれなかったら・・・。


「そろそろ投票が開始されるみたいですよ」

「じゃあ、中庭に行こう!」


俺たちは投票場へ向かった。




 

中庭には選挙会場が設置されている。

中央には投票箱があり、手前には記入するスペースがある。

ひとつひとつ仕切りが設けられており、周りからは見えないようになっている。

公正を期すためだろうが、かなり本格的なものだ。

生徒が記入待ちの列をなしており、最後尾に並んだ。


「あたしは沢村さんの名前を2回書きます」

「2回? なんで?」

「そうすれば2票入ります。 みなさんもそうしませんか?」

「そんなことをしたら、無効になって、かえって票が入らなくなるぞ」

「そんな・・・。 選挙、恐るべし」

「清き一票を入れてやってくれ。 それが今の俺たちに出来るすべてだ」

「ねぇ? 宗介はそんなにアキナちゃんが生徒会長になって欲しいの?」

「そりゃ・・・まぁ」

「宗介ってなんか変ったよね。 前は誰かのために何かするとか、そういうの嫌がってたし、避けてたじゃん」

「・・・」


水嶋はまるで俺を探るような目をしている。


「ほら、私たちの順番だよ」


それぞれのブースに分かれ、記入する。

投票用紙を見た。

沢村と、対立候補の名前の上にマルをつけるスペースがある。

俺は強い筆圧で沢村の上にマルをした。

こんな学園の生徒会長になることに、意味があるとは思えない。

でも、今回ばかりは当選してほしいと心から思った。

少なくともそれが、沢村の夢ならば、理由がなんであれ叶えて欲しい。

俺には出来ない事だから・・・せめて、沢村には・・・。

記入をすませ、俺は投票箱に入れた。


「あとは結果を待つだけだね」

「俺たちに出来ることは、ここまでだもんね」

「ヒカルさん、ちゃんと沢村さんに入れましたか?」

「だから、そういうのは人には言えない。 ・・・だが、あいにく対立候補の事を良く知らない。 投票は簡単だったよ」


なんだかんだで桜木も力を貸してくれてるようだ。

 

「投票結果っていつわかるんだ?」

「開票するのはこれからで、夕方には発表されるみたい。 校門の前に立て看板が出るんだって」


結果は夕方。

それまでの時間は、長く感じるだろう・・・。

 

──「みなさん、ごきげんよう


イカが近づいてきた。

 

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「投票、終わったのか?」

「ええ。 しっかりと一票いれさせてもらったわ」

「誰に入れたんですか?」

「なんだか良く分からない男子よ」

「え!? どうして!?」

「当たり前でしょ。 彼女が落選すれば剣術部に入るって約束なんだから」

「そんな約束したの?」

「レイカが一方的にしただけだろ」

「私の恐ろしさを夕方に知ることになりそうね」

「でも、沢村さんが剣術部に入ってくれるとうれしいです」

「そうだけど・・・」

「私は先に教室に戻る。 じゃあな」


剣術部の話になったせいか、桜木はさっさと消えていった。


「ところで、沢村の姿が見当たらないんだけど・・・」

「そうだね。 ほら、対立候補の男子はあそこにいるよ」


投票箱付近で、男子が投票者に頭を下げている。


「沢村さんなら、うちでまだ寝てるわ」

「寝てるって、まだ具合が悪いのか?」

「なかなか治らないみたいなの。 最高の薬を与えたというのに、どんな体してるのかしら」

「その薬、大丈夫なんだろうな?」

「薬に間違いはないわ。 神山グループが誇る医療チームが開発したものよ」

「こんな大事な日に熱出しちまうなんて、沢村も運がないよな」

「どちらにせよ、夕方には結果がでるわ」


そう言うと、レイカは去っていった。


「沢村さん、心配です」

「そろそろ私たちも教室にもどろう」

「そうだな」


俺たちは教室に戻った。    

 



 

授業はないため、すぐに帰りのホームルームが行われる。

結果は夕方。

このまま、ここに残るか、どこかで時間を潰すか・・・。


「椿くん、この後、残ってもらえるかしら?」

「なんすか?」

「大事なお話よ」

「分かりました」

「他の生徒は速やかに下校しなさい。 それから生徒会長選挙の発表は夕方、校門に看板がでます。 知りたい生徒は各自、確認しておくように」


俺を残し、他の生徒は教室を出ていった。


「話ってなんですか?」
「剣術部はどうなったのかしら?」
「順調ですよ」
「順調? ウソをつくのが随分と上手くなったわね。 佐田さんの影響かしら?」
「・・・」
「まだ3人しか集まってないじゃない。 あと2人どうするつもり?」
「そのうち見つけるよ」
「道場の取り壊しは、もうすぐよ。 諦めて潔くこの学園から出ていったらどうかしら?」
「・・・いやだね。 最後まであきらめないって決めたんだ」
「あきらめない? あなたらしくないわね。 何もかも中途半端なあなたがいうセリフじゃないわ」
「・・・あんたに俺の何が分かるんだよ」
「分かるわよ」


栗林はいやらしい目で俺を見てくる。


「必ず、部にしてみせますから」
「だったら沢村さんに関わってる場合じゃなかったわね」
「え?」
「あの子も可哀想よね。 あなたと関わったばっかりに・・・。 もっと剣術部に入りそうな生徒を勧誘すればいいものを」
「なんだよ」
「彼女、今回の選挙に落選することになったわ」


・・・なんだって。

沢村が落選・・・。


「会議を重ねた結果よ。 もう何があっても覆らない」
「・・・公正な判断なんだろうな」
「もちろんよ。 あなたみたいな人間と関わる生徒をこの学園の代表になんてできないわ」
「・・・ふざけやがって」
「あなたさえ、沢村さんに関わらなければ、夢が実ったっていうのに。 椿くん、あなたって残酷な人間ね」


俺は返す言葉が見つからなかった。


「これ以上、誰かを不幸にする前に、この学園を去りなさい」
「・・・失礼します」


俺は教室を出た。





言いようのない苛立ちをおぼえた。

沢村の夢が儚く消えていく音がした。

・・・俺のせいで。

くそっ・・・。

俺は廊下の壁を力いっぱい殴った。

手にじんわりと痛みが走る。

皮がむけ、じんわりと血がにじむ。

俺は一人、廊下に立ちつくしていた。





日の落ちはじめ、選挙の結果が出る時間が近づいている。

校門の前には生徒会らしき人間が徐々に増えていく。

 

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「あなたも結果が気になるようね」


校門の前にレイカが立っていた。


「その手、どうしたの?」
「なんでもないよ」


俺は手を後ろにやる。


「なんでもないって、血が出てるじゃない」
「マジで平気だから」


イカはハンカチを取り出し、俺の手に当てた。


「痛てっ」
「貸してあげるわ。 みっともないから血をふきなさい」
「すまん・・・」
「あなたのことだから、喧嘩でもしたんじゃない? 何があったか知らないけど、野蛮よ」
「それがさぁ・・・」


俺は胸が苦しくなった。


「そんな顔、しないでよ。 レイカ会の人間はもっと堂々としなきゃだめよ」

「そうだな」

「そろそろ結果が出る時間ね」

「俺は帰るよ」

「見ていかないの?」


結果は見なくても分かっている。

栗林が言った通り、沢村は落選だ。

それを見ることは、今の俺には酷すぎる。


「あなたは見なくてもいいわ。 本当に見なきゃいけないのは沢村アキナよ」
「・・・」
「あなたに指令を出します。 沢村アキナを今すぐここに連れて来なさい」
「・・・出来ねぇーよ」
「これは命令よ。 結果が何であれ、立候補した以上、沢村さんは見る義務があるわ」


真剣な顔つきで俺に言った。


「・・・分かったよ」
「彼女、俺の部屋でまだ寝てると思うわ。 よろしく頼むわね」
「あぁ」




 

俺はレイカの部屋に入った。

アキナの隣には小梅が付き添っている。

 

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「沢村の調子はどうだ?」
「熱はもう下がったみたいですが、まだ外に出られる状態じゃないみたいです」
「沢村? 気分悪いのか?」


顔は白く、力がない。

 

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「先輩・・・すいません。 心配かけてしまって」

「気にすんな。 立てるか?」

「まだ頭がフラフラします」

「・・・今日、何の日か知ってるよな」

「もちろん・・・知っていますよ」

「もうすぐ結果発表だ。 一緒に見に行かないか?」

「・・・無理です。 そんな気力、ありませんから」

「薬は効いてると思うんですけどね」

「・・・お前が見ないと始まらないだろ」

「昨日、変な夢を見たんです。 そしたら、急に気分が悪くなって。 大事な日だったのに・・・。 私・・・」

「変な夢?」


俺は小梅をチラリと見た。


「もしかしたら・・・また失敗作だったのかも・・・ははは・・・」

「お前なぁ・・・。 そんな未完成な機械を沢村に付けたりするからこんなことになったんだろ」

「機械? なんのことですか?」

「な、なんでもないですよ!」

「はぁ・・・。 大事な日だったのに。 この日の為に、今までいっぱい勉強して遊ぶのも我慢してきたのに・・・。 こんなことになってしまって・・・」

「大事な日っていうけど、やれることはやったんだろ?」

「一生懸命にやったつもりです・・・」

「だったらいいじゃないかよ」

「・・・怖いんです。 もし、落選してたらと思うと・・・。 怖くて・・・」

「怖いよな。 俺も怖いよ。 でもな、どんな結果であれ、逃げてばかりじゃいられないだろ」

「でも・・・私、もし、落ちていたら、これからどうしていいか分からなくて・・・」

「グジグジ言ってても始まらねぇよ。 行くぞ」


俺は半ば強引に沢村の腕を取った。

 

「ダメです。 まだ体調が良くないから・・・」

「熱は下がってるんだよな?」

「ええ。 平熱ですね。 さっき体温計で計りましたから。 どうやら問題は心の方みたいですね」

「行くぞ!」


俺は沢村の腕を引っ張る。

沢村はその手を払った。


「本当にごめんなさい・・・」


沢村は下を向き、泣きそうな顔をした。


「どうせ落選してるに決まってるんです。 そんな結果を見に行くことなんて今の私には出来ません」

「じゃあどうするんだよ。 ずっとここにいるつもりか?」

「もう、放っておいて下さい。 今まで親しくしてくれてありがとうございました」

「なんだよそれ」

「もう、私のことは嫌いになってください。 すいません」


沢村は完全に塞ぎ込んでしまった。

 

「嫌いになっていいんだな?」

「・・・はい。 もう、誰からも好かれたいと思いません・・・」

「これ、変なんですよね~」

「え?」


小梅は沢村のメガネをまじまじと見ている。


「このメガネ自体に特に仕掛けがあるわけじゃないんだけどなぁ・・・」

「そのメガネ・・・」

「すみません。 ちょっと失礼しますよ」


小梅はメガネを沢村に掛けさせた。


「ちょっと! いやっ・・・。 うぐっ・・・。 ぐぅあ・・・」


表情がみるみる変わっていく。

顔色も少し良くなったようだが、喋らずにうつむいたままである。


「沢村?」


返事が無い。

ただ、下を向いているだけだ。


「ユメデアエル君が失敗したのはやっぱり、この人格の影響なんだと思いますね」

「お前、裏アキナを知ってるのか?」

「はい。 昨日の夜も掛けてましたから。 急にキャラクターが変ったんでビックリしましたけど・・・」

「そうか・・・」

「でも、どうなってるんだろ・・・。 科学では解明できない事が人間には、まだまだ多く隠されているんですね」

「感心してる場合かよ」

「出来れば、沢村さんを持って帰って分析したいぐらいですよ」

「ったく・・・」



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「・・・すんませんなぁ」

「気がついたか!?」

「ごっつ頭痛いわ・・・」

「立てるか?」

「立てるには立てるんやけど・・・」

「結果、見に行こうぜ」

「それは出来んわ・・・」

「なんで?」

「アキナが嫌がっとることを、うちがやるわけにはいかんし・・・」

「何言ってんだよ。 落選したとしてっも、それを受け止めるのが沢村のためじゃないのかよ」

「椿はんの言ってる事は正しいわ。 うちもそう思う。 そやけど、それをアキナ自身が気づかな、うちは動けん・・・」

「なんだよ・・・二人して。 じゃあずっとここにいるつもりかよ?」

「すんません・・・」

「・・・勝手にしろよ」


なんだよこいつら・・・。


「・・・助けてやってくれへんか?」

「え?」

「アキナを・・・。 助けてやってほしいんよ」

「・・・」


そういったまま、沢村は口を開くことなく時間は過ぎていった。


・・・・・・。

 

・・・。

 

辺りはもう、完全に夜になっていた。

何もしゃべらず、俺はただ、沢村の傍らに座っていた。

メガネも外し、沢村は静かにそこにいた。


「私、そろそろ帰ります」

「あ、うん。 色々とありがとな」

「いえ、私は何もしていませんから。 逆に勉強になりました」

「・・・そうか」

「椿さん、剣術部を作っているって本当ですか?」

「誰から聞いたんだ?」

「右近先輩からです。 新山に女子剣術部が発足するって。 噂ですけど」

「作ってるよ」

「そうですか・・・」

「もし、剣術部が出来たら、星雲はライバルになるな」

「それは無いと思いますよ」

「え?」

「だって、素人を集めた新山学園が星雲に勝てるわけがありませんから」

「・・・言ってくれるな」

「いえ、これは挑発とか、そういう類のものではなく忠告です。 星雲とは試合をしない方がいい」

「・・・なんで?」

「絶対に勝てませんから。 私たち、最強なんです。 もし、優勝とかを目指しているのなら他の部を作った方がいいですよ」

「そんなのやってみないと分からないだろ?」

「いいえ。 分かります。 今からでも止めた方が身のためです」

「・・・やだね。 剣術部じゃないとダメなんだ。 他の部じゃ意味が無い」

「どうしてですか?」


・・・それは、桜木がいるから。

桜木の剣術が見たいから・・・。


「いや、理由は言えない」

「そうですか。 ・・・戦うことにならなきゃいいですね」

「そうだな」

「それでは、失礼します。 神山さんにも、よろしくお伝えください」

「分かった」


小梅は部屋を出ていった。

星雲学園・・・。

近くにとんでもない学園がある。

だからって俺は剣術部を作るのを止めたりはしない・・・。

あと2人の部員を集めて・・・。


「あのぅ・・・椿先輩?」
「なんだ? 起きてたのか?」
「はい。 なんだか眠れなくて」
「体は大丈夫か?」
「ええ。 随分良くなりました」
「眠れないのは、結果が気になるからじゃないのか?」
「そんなこと・・・ないです」
「気になって気になって、たまらないんじゃないか?」
「・・・先輩? 先輩はどうして剣術部を作ろうとしてるんですか?」
「・・・理由なんてねぇーよ。 部を作りたいだけだ。 約束したからな」
「部なんて出来っこないですよ。 栗林先生が約束を守るなんて思えません・・・」
「そうかもしれないな。 でも、やれるだけのことをやって、部が出来なくて、退学になったら、その時は辞めるつもりだ」
「諦める? そんなに一生懸命やったのに諦められるんですか? 辛くないんですか?」
「そりゃ辛いさ。 だけど、悔いが残らないようにやったんだから結果なんて関係ねーよ」
「結果なんて関係ない・・・ですか?」
「少なくとも、俺はそう思うんだ」
「・・・もし、私が落選していたとしても・・・」
「お前が一生懸命にやってきたんだったら、結果なんて気にするな」
「・・・もう、選挙の結果、片づけられてますかね?」
「行ってみるか?」
「・・・はい。 先輩、ついてきてくれますか? もし、落ちてたらそばにいてもらえますか? 私、涙が止まらないと思うから」
「わかったよ」


沢村に少しだけ元気が戻ったように見えた。


「んじゃ、行くぞ」
「ちょっと待って下さい。 着替えないと」
「着替えるって制服にか?」
「はい。 学園に行くんですよ。 制服じゃなきゃ校則違反です」
「沢村は真面目だなぁ・・・」
「外で待っていて下さい」
「わかったよ」


俺は部屋を出て沢村が着替えるのを待った。

数分後、沢村はきっちりと学生服に着替えて出てきた。

俺たちは学園に向かった。




 

俺たちは校門についた。

辺りは完全に暗闇の状態だ。

生徒など誰一人としていない。

 

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「さすがに、もう片づけちまったかな?」
「そうですね。 やっぱり帰りましょうか?」
「ここまで来たんだ。 もう少し探してからでもいいだろ」


やはり、沢村は結果を知るのが怖くて仕方ないようだ。

俺は暗闇の中で目を凝らし、看板を探した。


「ん? あれ、そうじゃないか?」


校門の脇に看板が残っている。


「見てこいよ」
「・・・ダメです。 先輩、見てきてください」


お互い、見るのが怖かった。

どうせ、落選しているんだろうという気持ちが強いからだ。


「ダメだ。 これは沢村のことだろ。 自分で見てこいよ」


俺はあえて沢村を突き放した。

それを察したのか、沢村は覚悟を決めたようだ。


「分かりました。 行ってきます」


恐る恐る沢村は看板に近づき、確認している。

こういうとき、どういう顔をすればいいのだろう。

落ち込むな! なんて軽い言葉をかけたくはなかった。

俺には想像が出来ないような、苦労をしてきた人間に気易く掛ける言葉などないと感じた。

・・・沢村はゆっくりと俺の方へと戻ってきた。


「・・・どうだったんだ?」
「・・・私・・・私」


沢村は口に何かが詰まったように話し始めた。


「私・・・当選していました」
「え?」
「私、生徒会長になれたみたいです・・・」


俺は不意をつかれ、ぽかんとしてしまった。


「よ、良かったな・・・」


気が抜けた声が口から洩れる。


「はい・・・」


沢村も狐につままれたようになっていた。

自分の目で当選を確認するために、看板を見た。

そこには、『沢村アキナ 当選』の文字がしっかりとある。


「ほんとだ! 当選って書いてあるぞ!」


俺は嬉しくなって、夜の校門で大声を上げた。


「沢村! おめでとう!」
「・・・ありがとうございます」


沢村はいまだ、ぼんやりとしている。


「どうした?」
「わたし、なにしてたんだろ・・・」
「え? 嬉しくないのか?」
「嬉しいはずなのに・・・なぜか・・・なぜか喜べなくって」
「どうしたんだよ? お前の夢が叶ったんだぞ? もっと喜べよ」
「私・・・なにもうれしくないんです」


アキナの表情は暗いままだ。


「椿先輩たちにたくさん、迷惑をかけて、私、なにをしてたんだろう・・・」
「そんなことは気にしなくていいんだよ・・・せっかく生徒会長になれたんだぞ。 もっと嬉しそうな顔しろよ」
「すいません・・・。 でもこれで、お姉ちゃんに勝った・・・のかな・・・」


予想とは裏腹に沢村は当選してた。

予想とは裏腹に沢村はうかない顔をしている。


「・・・姉ちゃんを超えたかったんだろ? 勝ったんだよ。 沢村は」
「・・・お姉ちゃんに・・・勝った」


──「よかったわね。 これで満足?」


暗闇の中から声がした。


「え? お姉ちゃん?」

 

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「・・・なにを言っているの? あなたのお姉ちゃんは外国にいるんじゃないのかしら?」


声の主はレイカだった。


「す、すいません・・・。 神山先輩だったんですね」


イカはずっとここで沢村が来るのを待っていたのか・・・。


「どうやら生徒会長になれたようね。 おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

「それじゃあ、私は帰ります」

「もう帰るのか?」

「・・・生徒会選挙なんて私にはなんの関係もないことですもの」


イカは俺たちに背を向けた。


「ちょっと待って下さい」

「なに? まだ何かあるのかしら? お祝いの言葉ならさっき言ったはずだけど?」

「この看板・・・神山先輩が立てたんですね」

「・・・どういう事かしら?」

「え? レイカが立てたって?」

「『沢村アキナ、当選』って書いてありますが、本当の選挙の看板なら、きちんと何票入ってるかが書いてあるし、当選の代わりに花が名前の上に貼りつけられているはずです」


そう言われてみれば、不自然でハリボテな看板であることに気づいた。


「よく気がついたわね」

「レイカ? どういうつもりだ?」

「こんなくだらないことをしたのは初めてよ」

「じゃあ、やっぱりこれは神山先輩のイタズラですか?」

「今、そこに立っているのはレイカ特製看板よ。 本当の看板は、生徒Aたちに片づけさせたわ」


どういうことだ?

じゃあこの看板は偽物・・・。

立ち去ろうとするレイカに声をかけた。


「おい、どういうつもりだ? イタズラだとしたら悪質すぎるぞ」


いくらレイカとはいえ、沢村にとって生徒会長になることが、どれだけ強いものかは分かってるはず。

なのにこんな事をするなんて・・・。

次の瞬間、レイカが険しい顔で振り返った。

 



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「憑き物が落ちると思ったからよ」

「憑き物?」

「どう? 束の間だけど、当選したと思って満足したでしょ?」

「・・・レイカ。 いい加減にしろよ」

「嬉しかったでしょ? 一瞬だったけど、夢が叶ったんですものね?」

「・・・」

「どうしたの? あまり嬉しそうじゃなさそうね?」


沢村は、はっとした表情を浮かべた。


「あなたが欲しがっていたモノは結局その程度のものだったってことじゃない?」

「それは・・・」

「本当に欲しいものは、自分の力で手に入れるものよ。 私は我がままだといわれるけれど、選挙のために椿を利用したり裏切ったりしたあなただって同じじゃない?」

「・・・」


イカが冷静に話しているのを見て、ただのイタズラではないと察した。


「私、あなたみたいな人を見てるとイライラするのよね」

「・・・どういうことですか?」

「お姉ちゃんがどうだから、誰かと比べられたから。 そんなことは関係ないわ。 生徒会長になれなかったのは、あなたに実力が無かっただけ」

「そうかもしれませんね・・・」

「あなたは、お姉さんに一生勝てないわ。 そもそも、誰かと自分を比べるなんて、くだらないことだわ」


誰かと比べること・・・。

沢村の頭にはいつも、出来のいい姉がいた。

姉の存在が沢村を苦しめていた。


「あなたとあなたのお姉さんは別人よ。 比べてなんになるっていうのよ」

「神山先輩・・・お姉ちゃんと同じことを言うんですね」

「誰だってそう思うわよ。 あなたが生徒会長になりたいのはこの学園のためでもなんでもない。 ただの私情よ」

「・・・」


アキナの顔が歪む。


「そんな人にこの学園のリーダーになられたら迷惑だわ」

「・・・そうですよね。 私みたいな人間は生徒会長になんてなれない・・・」

「・・・どうするの? 生徒会長になれなかった沢村さんは価値のない人間?」

「・・・そうですね。 私にはもうなにもありませんから・・・」


いまにも泣きそうだった。


「そんなことねぇーよ」

「え?」

「沢村がなにもできなかったとしても、沢村という人間の価値とは、なんの関係もない」

「・・・」

「そうね。 良かったわね。 少なくとも椿宗介も私もあなたを見捨てたりしないわ」

「・・・生徒会長になれなかった私でも?」

「そうだ。 お前の姉ちゃんがどんな凄い人間か知らないけど、俺は沢村のこと、いいヤツだと思うし、生徒会長になれなかったからって今までと何も変わらねーよ」

「椿先輩・・・」

「あなたのお姉さんだって、あなたと比べたりされるのは嫌だと思うわよ」

「違うんです・・・。 私・・・、私・・・」


沢村は苦しそうにつぶやいた。


「本当はお姉ちゃんが大好きで、ずっと一緒にいたかったし、恨んだりなんてしたことなかった。 ただ・・・お姉ちゃんに近づきたくて・・・」

「お前はお前でいいんだよ。 誰でもない・・・沢村らしく生きればそれでいいんだ・・・」

「私、お姉ちゃんが外国に行った日、一人で泣きました・・・。 寂しくて・・・。 どうしようもなくて・・・」

「大丈夫よ。 あいにく、私は外国にはいかないし、椿宗介もずっと、ここにいるもの」


沢村は流れる涙を抑えられないでいた。


「私を・・・一人ぼっちにしないでください・・・お願いします・・・」


俺とレイカは、沢村が泣きやむまで、何も言わずにそこにいた。

その姿は外国に行った姉との別れの涙のように見えた。

 




俺は部屋に戻った。

俺には兄弟がいない。

いたらどうだったんだろう。

兄弟は俺を裏切らないだろうか?

深い絆が生まれるだろうか?

一人っ子の俺には想像もつかない世界だが、沢村が少しだけ羨ましく思えた。


──携帯が鳴る。


「もしもし?」
「レイカよ。 今、いいかしら?」
「ああ。 大丈夫だよ。 さっきはありがとうな」
「なんのことかしら?」
「沢村のことだよ。 沢村を元気にするために、わざとニセの看板用意したんだろ?」
「ち、違うわよ。 あれは私の復讐よ。 それに、私、ああいうタイプの人には、言わなきゃ気がすまないたちなの」
「ふ~ん。 そうかそうか」
「な、なによ! 私は別に沢村さんのことなんて考えてないわ」
「わかったよ。 で? 用件はなんだ?」
「実は沢村アキナが、剣術部に入りたいって言い出したのよ」
「え!? それマジか?」
「洗脳装置が今ごろになって効き始めたようね」
「それは考えにくいな・・・」
「生徒会長になれなかったから、暇になったんじゃない? 私の作戦が成功したのよ」
「てことは、あと1人か・・・」
「これで右近シズルを叩きのめす作戦に一歩近づいたわね」


・・・あの沢村が剣術部に入部か・・・。


俺は少し嬉しくなり、ほっとした。


「あと、沢村さん、なんだか知らないけど、私になついてきて困るのよね」
「レイカになつく?」
「そうなのよ。 気味が悪いわ」
「もしかして、レイカのことお姉ちゃんと思ってるんじゃないか?」
「やめてよ! 私、姉妹とかそういう面倒臭い関係はうんざりよ」
「まぁ、なんにせよ。 結果オーライってことで」
「用件はそれだけよ。 おやすみなさい椿宗介」
「レイカ。 ありがとな」
「・・・うん」

 

俺は電話を切った。

あと1人で部になるのか・・・。

部を作る計画が、だんだんと現実味を帯びてきたな。

俺は手に持った携帯でメールを打つ。

相手は・・・。

もちろん、マコトだ。


「マコトへ。 今日は生徒会長選挙があったよ。 後輩が立候補したんだけど、落選してしまいました。 でも、それで良かった気がするんだ・・・。 なんでか分からないけどさ・・・。 それから、今、新山学園では女子剣術部を作る動きがあるんだ──」


俺は一瞬手を止めたが、そのまま続けた。


「まぁ、俺には関係ない事だけど・・・」


俺はメールを送信する。

あと、一人・・・。

あと、一人・・・。

念仏のように唱えた。


・・・。