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ドキドキ文芸部プラス!-DOKI DOKI Literature Club Plus!+-【信頼パート】

 

 

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「よし、みんな! これから文芸部を始めるわ。 みんなが席に着いたら、出席を取るからね!」


・・・。


「あーあ・・・ディベート部が恋しいな・・・。 新しい部活を立ち上げるのが、こんなにも大変だなんて。 もう誰も来ないんじゃないかって、どんどん不安になっってくる・・・。 本当に自信がなくなってきたわ」


モニカは文芸部唯一の部員だ。

新入部員を獲得すべく日々奮闘していたが、実りはなかった。


「これじゃダメなのかしら?」


モニカは自作のチラシを見つめる。

見出しは、『文学は好きですか?』。


「他の部活を差し置いてまで文学に興味がある人は、いないのかもね・・・。 文学が好きな人にだけ売り込んでもダメなんだわ。 文芸部のビジョンよ。 でも、一体どんな・・・?」


モニカは机に顔を伏せ、じっと考え込む。

だが思いつくよりも先に、最近の夜更かしがたたってくる。

穏やかで静かな時、エアコンが心地よく・・・。


・・・。

 

──「あの・・・。 こんにちは・・・?」


突然の声で、モニカはハッと目が覚めた。



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「ああ! ごめんなさい! 寝てたわけじゃないの!」
「えへへ。 ここってお昼寝部?」
「いえ、ここは・・・」


モニカは固まる。

文芸部、と言うのが、何だか恥ずかしくなってしまったのだ。



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「ここは・・・文芸部よ・・・」
「よかったー! 一瞬間違えちゃったかと思った・・・」
「本当にごめんなさい・・・うたた寝なんて、意識が欠けてたわ」
「謝らなくていいよ! わたしはいっつもうたた寝してるもの!」
「あら・・・」
「えーと・・・部活は終わっちゃった? 部員のみんなはどこにいるの?」
「その、部員はね・・・これで全員よ」
「本当に? あなただけ?」
「でも・・・これからもっと部員が増えるわ! 勧誘に一生懸命取り込んでいるところなの!」
「それって、もしかして。 部員があなただけなら・・・」
「・・・」
「副部長はわたしだね!」
「え・・・副部長? えーと・・・何か得意なことはある?」
「うーん、お昼寝ならあなたより得意だよ。 ・・・だったら、わたしが部長の方がいいかも!」
「からかってるの?」
「あっ・・・ごめんなさい・・・」
「もう・・・あなたの名前は?」
サヨリだよ」
「あのね、サヨリ・・・。 私は本当に、ホンットに、この部に全力を尽くしているの。 さっきは間が悪いところをみられてしまったけど・・・。 真剣に考えてくれないと、とっても悲しくなるの。 わかるわよね? 本当に必死でやってきたのよ。 だから、同じような志を持つ人を、私は見つけたいの」
「ええと・・・。 本当にごめんなさい・・・。 気をつける。 約束するから。 わたし、真面目にするのが苦手で・・・。 傷つけるつもりはなかったんだよ。 それと、副部長っていうのも冗談。 わたしなんかがやったら、ひっどいことになっちゃうだろうから・・・」
「いいの、私は・・・」


モニカは安心させるようなことを言おうとしたが、サヨリのことをまだよく知らない今、難しかった。


「・・・まだちゃんとした部活じゃなくて、ごめんなさい。 新入部員が増えて、もしまだ興味があったら・・・」
「増えてからじゃなくって・・・。 今、入部したいな!」
「本当?」
「うん! すっごく楽しそうだし! それに、あなたがどれだけ一生懸命がんばってきたか、伝わったよ。 あなたは今すごいことをやっているんだから、もっと前を向かなきゃ。 でしょ? だから、あなたが疲れちゃうようなことがあっても、楽しく過ごせるようにお手伝いをさせてほしいな。 何にもできないけど、それなら得意だから・・・」
「あはは。 もう、そんなこと言われて断れるわけないじゃない! 本当に優しい人ね、サヨリ。 あっ・・・そうだ、私はモニカよ」
「モニカちゃんって言うんだ! すごく素敵な名前だね!」
「ああ、もう元気づけようとしてくれてるのね・・・」
「でも、モニカちゃん笑ってるよ!」
「ええ、とっても素敵な特技ね」


モニカは、部長である自分の名前が書かれた机の上のチラシに気づく。

そして、それがずっとサヨリの視界に入っていたことにも。


「それじゃ、まず何をしよっか?」
「そうね・・・。 もう遅くなってきたし、今日は家に帰って、部員を勧誘する新しいアイデアを考えましょうか」
「やってみるよ!」
「よかった! あと、この部のビジョンをもっとしっかり考えなきゃって思ってるの。 つまり・・・ミッション、みたいな」
「わたしのミッションは、みんなを幸せにすることだよ」
「あはは。 そう、そんな感じよ。 そういうのを考えなきゃ」
「ねえ、ハグするのは好き?」
「・・・たぶん、好きかも・・・?」


サヨリは突然モニカを引き寄せると、親しみを込めて抱きしめ、そして離した。


「ハグって元気をくれるんだって。 それに・・・」


サヨリは大きめの声で囁く。


「ハグエネルギーのおかげで、わたしは全力が尽くせるの!」
「うふふ、ハグエネルギー?」


モニカは笑う。

サヨリは自分とまったく違う性格だが、モニカは気持ちが明るくなってくるのを感じた。

やっと求めていた部員が見つかったのだ。

見つかったのだが・・・。


「うーん、明日が楽しみね。 きっと楽しくなるわ」
「うん! ワクワクする! 今夜は、どうやって部員を集めたらいいか、すっごく一生懸命考えるからね」
「ええ、私もよ」




 

 

 

 

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翌日、文芸部──モニカとサヨリ──が集まる時間がやってきた。

モニカは部長として、一番最初に部室へやって来る。

しかし、なかなかサヨリは姿を見せなかった。


「もう10分経ったのね・・・。 もしかして、サヨリは気が変わっちゃったのかしら? いや・・・そんなことないわよね。 昨日はあんなに楽しみにしてたんだし。 でも不安になってきたわ・・・」


そこへ、サヨリが跳ねるように部室へ入ってきた。

一枚の紙を手にして。



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「遅くなってごめんね! おつかれさま!」
「いいのよ。 おつかれさま」
「そーれーかーらー・・・」


サヨリは素早くモニカのそばへやって来ると、机の上に紙を置いた。


「あら、これは何?」


====================

私の手をとって

私の手をとり、連れてって。
あなたの夢の国へ、連れてって。
足元を気をつけてと教えてくれたら、
足跡はもう見られない。
あなたを見上げているから。
目の前の階段を上がって。
私が前を向けば、見上げていれば、
あなたの役にきっと立てる。

同じペースで歩めるとあなたが信じてくれるなら、
私は信じてついて行く。
あなたが微笑んでくれると信じてくれるなら、
私は信じて微笑み返す。

私の手をとり、連れてって。
あなたの夢の国へ、連れてって。

==================


「ちょっと、すごくいいじゃない! サヨリ、あなたが書いたの?」
「もちろん!」
「あれっ・・・待って、間違えちゃった! 裏面の方だよー!」
「ええ?」
「まだ見せる心の準備ができてなかったのに、恥ずかしい・・・」


モニカは紙を裏返す。

裏側に書かれていたのは、新入部員を勧誘するためのアイデア一覧だ。


「ああ! 見せたかったのはこっちだったのね? でも、すごくよかったわ・・・詩はよく書くの?」
「うん! でも・・・。 たぶん、モニカちゃんには全然敵わないと思うな」
「あはは。 そうかしら? 実は私、詩を書くのは本当にダメなの・・・。 満足行くものが書けた試しがないわ。 書いてみて、一週間後にいつも読み直すんだけど、その時の気分と言ったら・・・。 ひどすぎて、びっくりしちゃう。 何て言うか・・・脚色された自分と、なりたい自分が一致しないと言うか・・・」
「うーん・・・。 モニカちゃん、もっと自分に自信を持ったらいいのに! モニカちゃんは文芸部の部長なんだよ!」
「あはは・・・それは間違いないわ。 私がいいお手本にならないとね。 うーん・・・じゃあ部の活動でも提案してみようかしら・・・」
「例えば?」
「ええと・・・自分たちで書いた詩なんかを見せ合うとか」
「わあ! それいい! 詩はきっと良いよ! 相手の書いた詩を読むって、その人のことを深く知るいい方法だと思うの。 私たちには、普段は人に言えないようなすっごくたくさんの感情を抱えてる・・・。 でも、詩だったら表現できるよね!」
「そうね! みんなで詩を見せ合えば、部をもっと団結させるような、これだ!っていうビジョンがきっと見つかるわ。 偶然だったとは言え、詩を見せてくれてよかったわ」
「わたしも! 恥ずかしかったけど、誰かに読んでもらうのっていいなって思えてきたよ。 これからもたくさん見せれるようにがんばるね!」
「楽しみだわ。 ああ、いけない、話がそれちゃったわね・・・。 新入部員勧誘のアイデアについて、ブレインストーミングしましょうか?」
「わたし、すごくがんばって考えたよ! もう、脳がグルグルパンクしそうなくらい回っちゃって。 本当に頭から竜巻が出ちゃったよ」
「あははは! サヨリったらもう。 とにかく、リストを見てみましょう・・・。 ・・・『カップケーキをつくる』」
「お腹空いてたの・・・。 でもいい考えじゃない? でしょ?」
「ううん・・・。 思ったんだけど・・・。 カップケーキを配れるチャンスなんてあるかしら?」
「クラブに来てくれた人に配るんだよ! チラシに『無料カップケーキあります』って書いたらどうかな?」
「うーん・・・それだと、間違った人も来ちゃわないかしら?」
「間違った人?」
カップケーキのためだけに来て、食べたら帰っちゃうような人よ・・・」
「ええっ、誰もそんなことしないよ! そんなのイジワルだもん!」
「でも、私は文芸が本当に好きな人を見つけたいの! 自分が文芸が好きだって、まだ気付いていない人でもいい。 それで、リストの次の項目だけど・・・。 『読書している人を探す』、これはどういうことかしら・・・?」
「学校中を回って、本を読んでる人を探すんだよ。 朝の時間とか、昼休みとか・・・。 それで、そういう人たちに文芸部に来てみてねって言うの!」
「でも、それだと・・・。 課題で本を読んでいる人ばっかりかもね。 好きで読んでるかどうか、どうやって見分けるのかしら?」
「うう・・・えっと、聞いてみるとか・・・。 でもそれだと、宿題をする人たちの邪魔をすることになっちゃうね・・・。 そこまでは考えてなかったよ、ごめんなさい・・・」
「謝らなくていいの。 こんなに思いつくなんて、私よりすごいわ。 ・・・あら、次のアイデアはチラシを壁に貼るんじゃなくて、配るっていうものね。 これは早速始めたら良さそうね」
「わたし、役に立てた!?」
「うふふ。 役に立ってないなんて、一度も言ってないわよ。 考えないといけないのは・・・チラシを渡す時に何て言うかよね。 『文芸部に入ろう!』・・・なんて言いたくないし。 どうやったらもっと人の心がつかめるか、考えてみましょうか」
「部でどんなことをしているかとかを伝えたらどうかな?」
「部でどんなこと、って? ・・・ううん、それを考えるのは、私の仕事よね。 つまり、クラブのビジョンね・・・。 じゃあさ、サヨリ、ちょっと普通の人のふりをして・・・。 あっ! 今のはそういう意味じゃないのよ!」
「あははっ!」
「チラシを受け取る通りすがりの人、って意味ね。 文芸部と聞いて、あなたならどんな反応をする?」
「うーん・・・。 たぶん・・・文芸部なんてホーント、バカらしい。 俺はアニメ研究会に入るよ!」
「ど、どういうこと・・・?」
「あはは! ごめんね、わたしの友達がこんな感じなんだ」
「うーん、じゃあ・・・私たちは読書会や議論をしてるのって言ったら、どう?」
「お昼寝しちゃうかも・・・」
「あなたらしいわ、サヨリ
「でしょ。 でも、たいていの人は面白くなさそうって思っちゃうよ! みんなに興味を持ってもらえるようにしなきゃ」
「はあ・・・。 嫌になるわ。 どうしてこんなに難しいのかしら」
「モニカちゃん・・・。 そんなに落ち込まないで・・・」
サヨリ、あなたは文芸のどこが好き?」
「わたし? えっとね、さっきの詩の話と似てるけど・・・。 自分自身を表現するチャンスを与えてくれるものだと思うんだ。 普段、友達と話してる時とかじゃできない方法で自分を表現するの。 わたしたちは本当にたくさんの考えや気持ちを抱えていて・・・簡単には分かち合えないでしょ? その・・・。 ・・・人にはとても見せられない部分と言うか」
「そうね・・・。 それをどうやってみんなに伝えたらいいかな? 『本当の自分を表現しよう!』・・・とかどうかな?」
「『私たちと、見せられない部分を見せ合いっこしよう!』とかは?」
「えっと、それはちょっと・・・」
「えへへ、冗談だよ。 ・・・あっ、いっけない!」
「何? どうしたの?」
「教室に荷物を全部忘れてきちゃった! 楽しみで楽しみで、急いでここに来たから・・・あーん、わたしのバカバカ・・・」
「急いでって、遅れてきたんじゃ・・・。 まあいいわ・・・それなら取りに行く?」
「今すぐ取ってこないと、忘れちゃうよ!」
「アハハ。 じゃあ、待ってるわ」
「うん、すぐに戻るね!」


サヨリが教室から飛び出して行き、モニカは束の間一人きりになる。

モニカはため息をつき、自分の考えを紙に書き留め始めた。


「自分を表現しよう・・・。 なりたい自分になろう・・・。 新しい友達をつくろう・・・。 新しい自分を・・・見つけよう。 あなたのこころを見つけよう。 違う・・・。 あなたのこころを言葉にしよう。 違うわ・・・。 あなたのこころに向けて書こう。 心へ続く道を書こう。 ・・・文芸部に入部して・・・心へ続く道を書こう。 ・・・うーん、いまいちね・・・」


──「モニカちゃん!!」


「わあっ! びっくりしたじゃない!」
「ごめん! でも大変だよ! 教室に行く途中にね・・・本を読んでる女の子がいたの!」
「女の子?」
「早く勧誘しようよ!」
「待ってよ・・・だからさ、それって宿題しているだけなんじゃ・・・」
「ううん! 絶対に本好き!!」
「ええっと・・・。 うーん、まあ・・・見てみるだけなら・・・」


モニカはチラシを手に取り、席を立ち上がる。

教室を出て、モニカはサヨリの後に続いた。


・・・。




 

 

 

「こっちだよ!」
「ちょっと、走らなくても・・・」


サヨリはとある教室へモニカを連れていき、声をひそめる。


「見て、あそこ!」


モニカは窓から教室をのぞいた。

確かに、一人で座っている少女が、熱心に本を読んでいる。


「何だか不審者みたい・・・」
「ね、あの子に話しかけて来なよ!」
「私が?」
「部長はモニカちゃんだし! わたしが行ったら、きっと怖がっちゃう」
「わかった・・・いいわ、やってみる」


モニカは深く息を吸い込み、恐る恐る教室へ入った。


・・・。


「早かったね!」
「ああもう、すっごく恥ずかしい・・・」
「どうして? どうだったの?」
「ええと・・・。 その、私が教室に入っても、あの子はちっとも本から顔を上げなくて・・・。 だから・・・机にチラシを置いて、出てきたの」
「あははっ! 何か、かわい~」
「・・・」
「けど、あの子ならチラシを見てくれると思うし、クラブに興味をもってくれるよ!」
「そうだといいけれど・・・。 戻りましょうか?」


サヨリは達成感を、モニカは予期せぬ恥ずかしさを覚えながら、部室へと戻った。


・・・。


戻るとすぐに、二人は作戦会議を再開した。

本格的なものからふざけたものまで、勧誘作戦についていろいろと話し合う。

サヨリのリストを一通り見た後には、モニカにも様々な案が浮かび、話し合いはとても実りあるものとなった。


「今日は一日、とっても充実してたわ」
「そうだね! 文芸部が前進してるって感じ~。 あー、早く新入部員来ないかな~。 ・・・ねえ、これって何?」


サヨリは、モニカが先程書き留めた紙をのぞき込む。


「ああ! 気にしないで・・・。 ちょっと考えていただけだから」
「文芸部に入部して・・・心へ続く道を書こう? すっごく素敵!」
「あはは・・・。 ちょっと大げさじゃない?」
「あのさ・・・」


サヨリは少しの間、考え込んだ。


「えっとね・・・。 モニカちゃんには、自信が足りないと思うの」
「え? どういうこと?」
「その・・・。 わからないけど、今日モニカちゃんと話してて、そう感じたの。 間違えることを、悪いことだと思ってるみたい」
「え・・・」
サヨリちゃんって、もしかして完璧主義者?」
「・・・。 ・・・ええ、そう、完璧主義者ね。 自分の中で、こうあるべきだっていう確かな計画がある。 だから、それに合わないものは受け入れられない感じね。 でも、だからこそ何事にも全力を尽くすことができてるから、悪いことだとは思ってない。 このクラブも、きっと私の思い描いた通りの素晴らしいものになるわ。 でも、それはきっと一発勝負だと思う。 だから・・・考えから外れたことをするのが本当に怖いの。 そう、ビジョンから」
「ビジョンって、何?」
「そうね・・・」


モニカはしばらく黙り込み、首を振った。

そして、ため息をつく。


「わからない・・・。 私はただ、みんなに・・・」


モニカの声が消えていく。

笑顔を浮かべ、サヨリは指で紙をそっと叩いた。


『心へ続く道を書こう』


「モニカちゃんがやろうとしているのは・・・。 ・・・誰かのためじゃなくて、"モニカちゃんのため"のクラブにすることじゃない? もちろん、自分のことはモニカちゃんが一番よくわかってるだろうけど。 でもね・・・わたしはモニカちゃんを助けたいからここにいるんだよ」


モニカはサヨリへ笑顔を返した。


サヨリはすごく優しいのね。 私たちなら、きっと最高の文芸部にできるわ」


サヨリはうなずき、二人は少しの間黙って考え込む。

聞こえるのは、エアコンが奏でる、ささやくような規則的な音だけだった。

時が止まったかのような教室の中、雲の切れ間できらめく夕刻の陽の光だけが動いている。

その美しい沈黙は、サヨリの大きなあくびによって破られた。


「そろそろ、お家に帰る時間かしら?」
「聞きたいのはわたしだよー。 モニカちゃんが部長なんだから」
「あははっ」
「それじゃあ、今日の部活はおしまいにしましょう。 また明日ね」
「また明日!」


サヨリはニコニコ笑い、自分の荷物を手にした。


「先に帰ってていいわよ。 私はまだもうちょっとかかるから」
「ええっ、待つよ!」
「大丈夫、ちょっとだけ一人きりになりたいの」
「うーん、そういうことなら・・・」


サヨリはモニカに懸命に手を振る。


「がんばってね~!」


モニカが笑って手を振り返すと、サヨリは部室からあっという間に出ていった。

一人きりになり、モニカはため息をついてぼんやりとする。

サヨリの言葉を受け止める心の準備ができているわけではなかったが、それでもきっと今すべきなのだろうとモニカは決意する。


「私のためのクラブ? わからないわ・・・。 私は、情熱を注げる部活を始めたかっただけ。 誰かを幸せに導く手助けをするために。 そのカギが文芸なの。 文芸は私たちの中にある、本当の自分につながっているはず。 本心を隠して無理して笑ったり、誰かに合わせたり・・・。 そういうことを強いられている人のために・・・。 ・・・例えば、完璧であることを・・・。 ・・・あら?」


ふと、モニカは床に落ちているファイルに気付いた。


サヨリの忘れ物かしら? 宿題が入っていないといいんだけど・・・」


心配になって、モニカはファイルを開いた。


「詩・・・」


ファイルには詩が入っていた。


===================

花にならなきゃ

喜びとは 地面から摘んだ花。
その色 その香り。 髪飾りにしたら、とってもかわいい。
毎日、私のためだけに咲いた花を摘む。
安らげる一生を、健やかな一生を、一瞬で引き抜く。
私のためだけに、喜びのためだけに。
もっとほしい。
もっと喜びがほしい。 もっと幸せがほしい。
摘んで、摘んで、摘み続ける。 毎日。
摘んで、摘んで、摘み続ける。 かわいい髪飾り。
摘んで、摘んで、摘み続ける。 あなたも死ぬし、あなたも死ぬ。

最後の花が、私を足元で手招きする。
茎をねじり、絡みつく根から解き放ち、
最後の喜びを、私は手元で閉じ込める。
でも、この喜びは何のため?
あたりを見渡せば、
あんなに豊かな花園が、
ただの荒れ地と化している。
私の労働の果実。 私の喜びの殺戮。

だから私は

決めたんだ

私が

花にならなきゃって。

====================

 

「これは・・・? 何これ・・・サヨリ・・・?」


・・・。




 


あっという間に一日が過ぎ、次の部活がやってきた。

モニカは今日の部活の予定を考えなければならなかったが、サヨリの詩を読んでからの罪悪感と不安が振り払えなかった。

 

 

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「私って本当にバカね・・・。 自分のことばかり考えて・・・。 こんな気持ちを抱えたサヨリに、私は慰められてたんだ・・・。 そんな部長がどこにいるっていうの? サヨリの気持ちを聞こうなんて、一度も考えもしなかった。 くだらないビジョンのことばっかり考えて」


いつもの笑顔を浮かべて、サヨリが部室に入ってきた。

しかし、ふさぎ込んだモニカを見るや否や、笑顔は消えて心配の表情に変わる。



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「モニカちゃん・・・? 大丈夫?」
「・・・・・・本当にごめんなさい。 私、本当にひどい友達よね」
「えっ?? えっと・・・何の話? モニカちゃんは素敵な友達だよ!」


モニカは首を横に振る。


「私はこの部を自分のために立ち上げたのよ・・・。 昨日あなたに言われたわよね。 文芸部を、自分のための部にしようとしてるって。 でも・・・私の問題は・・・本当に・・・つまらないことだわ・・・あなたに比べたら」


サヨリは静かに答える。


「何の話?」


返事をしたサヨリの表情は暗い。

モニカの沈黙に、彼女はつぶやく。


「・・・わたし、ファイルをここに忘れたんだね・・・」


モニカは、何と答えればよいかわからず、ただぼう然と立っていた。


「・・・まだ、心の準備ができてなかったのにな。 心配してくれてるんだろうけど・・・そんなの、してほしくないの」
「どうして? ・・・私たちは友達でしょう?」


何も言わずに、サヨリはただうなずく。


「友達は互いを気遣い合うものでしょう? あなたが私のためにここにいてくれるように、私もあなたのためにここにいたいの」


再度、長い沈黙が流れる。

空気はひどく重い。


「違うよ。 私がここにいるのは、モニカちゃんのためだけじゃない──クラブのためでもある。 それに・・・昨日は本当に楽しかったのに、急にこんなの、止めてよ。 こんなこと、してほしくない。 わたしは楽しいのが好きなの。 だから・・・モニカちゃんがこんなことをするのは・・・。 ・・・自分勝手だよ」
「・・・」


モニカは頭を抱え、このパラドックスに葛藤する。

サヨリがあの詩を分かち合う準備ができていないのは無理もない。

だが・・・おせっかいであったとしても、友人の苦しみに目をつむることもできない。


「勝手に見てごめんなさい。 見せたくないものだったのに」
「ううん・・・見たことを責めてるんじゃない。 誰の物か確認しないといけなかっただろうし」
「ええ・・・」


モニカは深く息を吸った。


「・・・いいわ。 あなたが私に心配されたくないのはわかった。 話を前に進めるために、この話題はいったん置いておきましょう。 でも・・・約束してほしいことがあるの」
「約束?」


モニカは黙り込み、考えをまとめる。


「・・・ここは文芸部よ。 人が、普段はできない方法で自分自身を表現する場所。 それが文芸部のビジョン。 私たちのビジョンよ。 心へ続く道を書こう・・・ということ。 だから・・・覚えておいてほしいの。 今すぐでなくてもいい・・・あなたが必要とする時、私はいつでもそばにいる。 そうありたいと、思ってる」


サヨリは穏やかに微笑む。


「モニカちゃんが約束してくれるなら、わたしも約束するよ」


こらえきれず、モニカはサヨリに微笑み返す。


「約束する」
「わたしも」


会話が終わり、部屋の雰囲気は軽やかになる。

問題が過ぎ去り、クラブ活動へと移った。


「それで、今日は・・・詩を教えてくれないかな?」
「えっ?? でも・・・勧誘は?」
「いいの・・・勧誘する時間はいくらでもあるわ。 でも今は、あなたに詩を教わりたい気分なの。 あなたを必要としてるの。 約束したでしょう?」
「えへへ。 それなら断れないね。 大したことは教えられないよ? たくさん書いてはいても、学者とかそういうのじゃないし」
「それでいいの。 何か書き始めるモチベーションというか、そういうのが足りないんじゃないかって思っていて・・・。 と言うのも、詩を書く時にどこから始めればいいか、全然わからないの」
「始めるのはそんなに難しくないよ! 自分の気持ちを書けばいいだけ。 あとは、どんな文章になるのか見届ければいいの」
「ええ、だけど・・・いい言葉が思いつかないの」
「いい言葉じゃなくていいんだよ。 詩を書くなら、モニカちゃんは自分の完璧主義に立ち向かわないといけないかな。 えへへ。 自分の感情を書くところから始めて、そう感じさせるものが何なのかを考えるの。 そしたら、自分の気持ちをちょっとした物語に変えられるよ」
「うーん・・・」
「まず自分の気持ちを書き留めて、後からいい感じの言葉に直してあげればいいんだよ。 何て言うかなあ・・・端から端まで決まった線路を敷くようなこととは全然違うの。 どっちかと言うと、コラージュみたいに、自分が入れたいものを全部入れて、うまく並べ替えていくみたいな。 わたしのやり方はとりあえずそうなんだけど・・・一つしかないわけじゃないよ。 だけど始めていきなり詰まったりはしないから、いい方法だと思う」
「わかったわ・・・。 うん・・・私はきれいに書けてるかってことばっかり気にしちゃって、大事なことを忘れちゃうのよね・・・」


モニカはペンと紙を取り出し、書き始める。


「『完璧主義を止めなさい』・・・。 『おバカさん』。 あはは、なんちゃって」


モニカは書いた『おバカさん』を見えないように塗りつぶす。


「ダメ、残さずに消して!」
「え、どうして? 私がおバカさんって言いたいの?」
「違うよ! 大事なのは・・・モニカちゃんの気持ちを抑え込まないことなの。 好きなだけ心を解放して」
「アハハ。 でも、私はただ・・・。 ええと・・・そうよね・・・」


今塗りつぶしたその下に『おバカさん』と書き直し、モニカは紙を見つめる。

書いた言葉もモニカを見つめ返している。


「自分への悪口を書き出すなんて、変な感じ・・・。 これは慣れるまで時間がかかるわね」
「わたしはモニカちゃんを信じてるよ」
「ありがとう・・・私もよ。 自分を信じてる。 でももちろん、サヨリのこともよ」
「えへへ」


モニカは思考を書き留めながら、練習を続ける。

深く考えすぎずに書くのは、驚くほど難しい。

だがしばらくすると、サヨリのアドバイスと励ましのおかげで、思いつきで埋め尽くされた、モニカの感情で満ちあふれるメモ書きができた。


「ふぅ・・・」


モニカは紙を上から下まで眺める。


「ああ・・・これを見てると、何だかすっごくそわそわする。 嫌な気分。 でも、解放された気分にもなるわね」
「ふむふむ。 モニカちゃんががんばったのが、すごく伝わるよ。 わたしも、うれしい。 モニカちゃんは、きっと詩がうまくなるよ」
「アハハ。 買い被りすぎよ。 もっともっと、一生懸命がんばらないと・・・。 でも・・・楽しめそうな気がするわ。 サヨリとならね」


サヨリは目を輝かせる。


「詩を書く練習はここまでにするけど、時間はまだあるから・・・。 クラブの新しいチラシに取りかかりましょう。 言葉選びは深くこだわり過ぎないようにする」
「やったー! やってみよう!」


モニカとサヨリは作業を進める。

日が経つにつれ、二人は段々と部に自信が持てるようになってきた。

それは、勧誘の計画だけではなく、文芸部のビジョンも形になりつつあったから。

二人の関係が確かなものになるほどに、文芸部の軸も定まっていった。

ついに、新入部員がやってくるのも時間の問題だと心から感じ始めたのだった。


・・・。

 



 

 

 

 

ある日のこと。

いつものように、一番乗りでモニカが部室にやってくる。

モニカとサヨリが思いついた新しいアイデアすべてを詰め込んだ、文芸部の新しいチラシを手にして。


「この前、本を読んでいた女の子に渡したチラシが、これだったら・・・。 前のより、もっともっと良くなってる。 でも・・・」


チラシの真ん中には、新しいキャッチフレーズが堂々と書いてある。


『心へ続く道を書こう!』


普通に考えれば、"心へ続く道"ではなく、"心から始まる道"を書こう、が正しいかもしれない。

だが、届けたいメッセージは、書くことで自分自身を見つけられるということだ。

このメッセージなら、生徒の好奇心をくすぐることができるのではないかとモニカとサヨリで考えたものだ。


「どうしてこれを見ると、ちょっと不安になるのかしら?」


モニカは前の部活で、詩を書く練習をした時のことを思い返す。


「私って、自分を表現するのがこんなに苦手だったのね。 ・・・クラブがどうあるべきかも示さないのに、よくも部長になろうと思ったものね」


文芸部は、ついに形になり初めてきたのだ。

しかしそのせいで、モニカの肩の重荷はどんどん増える一方だった。

ディベート部では、相手を説得すべく、完璧な主張と反論を練り、常に隙のない理論が求められた。

つまり、自分の"外側"にいる人のことだけ考えていればよかったのだ。

だからこそ、モニカはディベートが得意だった。

彼女が得意とする領域にある範囲のことだけ考えれば良かったのだから。


「・・・息が詰まりそう。 この心の壁を乗り越えないと。 自分自身を・・・心から表現する方法を学ばないと」


モニカは紙を取り出し、ペンを握る。

ペン先を紙に力強く押しつけた。

・・・。

・・・だが彼女の手は動かない。

代わりに、ペン先の周りにインクの小さな染みができる。

モニカはペンを浮かし、それをじっと見つめる。

モニカは、そのインクの染みを消したい気持ちに駆られた。

指先でこすると、黒いインクが紙を汚し、モニカのキャンバスを台無しにした。

モニカは書き始める。


====================

 ■ ■■■■
  ■■■■ ■
完全なものを追い求め、私が手に入れたもの。
それは、ただのインクの染み。

 


====================

 

「・・・」


モニカは、机の上の紙をどけて、そこに顔を伏せた。


・・・。


今日のエアコンは、いつもよりうるさく聞こえる。


──「おつかれさま~」


「おつかれさま」


サヨリの足音が近付いてくるのが聞こえるが、少しして止まる。

モニカの詩を読んでいるのだろう。

それから、サヨリは隣の席に腰を下ろす。


「嫌なことでもあった?」
「うん」
「わたしも」
「あなたも」
「新しいチラシ、すごく良いね。 一生懸命がんばったもんね。 クラブもそうだし・・・他のことも」
「・・・詩が掛けないの。 ごめんなさい。 難しすぎて・・・何もかも嫌になる」
「うーん」


サヨリはモニカの机から紙を手に取る。

そこに何かを書き、しばらく見つめている。


「あなたを信じていい?」
「もちろん。 私のすべてを信じてくれていいわ」


サヨリは悲しそうな目でモニカをじっと見る。

サヨリの様子を察し、モニカは彼女の席から紙を取り、それに目を走らせた。


====================

 ■ ■■■■■
  ■■■■■ ■
時々死にたくなる

 

 


====================

 

 

 

 

 

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サヨリ・・・」
「・・・わたし・・・本当に・・・本当に辛いんだ」


サヨリの声が震えている。


「だから、わたしにもできるなら・・・・・・モニカちゃんにもできるよ。 だって・・・わたしよりもずっとずっと、すごい人なんだから」
「そんなことないわ」


サヨリは深呼吸をして、気持ちを静めようとする。


「それは、今まで誰にも話したことのない、わたしのことなんだ。 今も・・・頭の中で、見せちゃだめ、やめてって叫んでる」
「待って! ・・・無理しないで。 昨日約束したじゃない・・・」
「違うの。 わたしが、そうしたいの。 正しいことだって・・・思うから。 わたしがこの部に来たのも、こうするためだったのかもしれない。 自分自身を自由に表現する部活、それが文芸部だもんね。 わたし、怖いの。 でもそれ以上に、モニカちゃんを信じてる」


サヨリの言葉を聞き、モニカは立ち上がる。

サヨリは、こうするための勇気を、何日もかけて絞り出したに違いない。

モニカのくだらなくも直向き努力が、一人助けを求めていたサヨリの背中を押したのだろうか?

サヨリの静かな息遣いが、エアコン越しに聞こえてくる。

サヨリの言葉の続きを、モニカは静かに黙って待っていた。


・・・。


「わたし・・・誰かに心配されすぎちゃうと、気持ちがおかしくなるの。 そうなったら、自分ではどうすることもできなくなって・・・。 どうしてわたしなんかを心配することにエネルギーを使うの? 使わなければ、あなたは幸せでいられるのに、って思っちゃう。 だから、こんなことを考えてるなんて、絶対誰にも言わないんだ。 笑顔で、みんなが幸せになるのをお手伝いしている方が、ずっとずっと楽なの」
「でもそれって・・・」


とても辛いこと。

それは、モニカが言いたい言葉そのものだったが、それは口にしてはならないと思えた。


「そのことを知ったら・・・みんな、今とは同じように接してくれなくなると思う。 わたしが笑ってない時は必ず、心配して大丈夫か聞いてくるだろうし。 わかってるの・・・ずっとそうだったから」


サヨリは口をつぐみ、過去に思いを巡らせた。


「わたしはみんなに幸せでいてほしいだけ。 わたしにとって、それが一番大切なことなの。 それに・・・わたしの頭の中を見たって、誰も幸せにならないし」


サヨリは再び口を閉ざす。

彼女の重苦しい表情は、まるで別人のようだった。


「私に伝える勇気が持てたのはどうして? 私も・・・同じように接するんじゃないかって心配しなかったの?」
「心配だよ。 これを話している自分がすごく嫌だって思う気持ちもあるの。 でも・・・今回は違うって思っている自分もいる。 モニカちゃんと部活の方向性をいっしょに話してたら、これが正しい、こうすべきなんだって思うようになったの。 それに、モニカちゃんも、一生懸命自分の意思や気持ちを表現しようとしてるのを見てたら、なおさらそう思えた。 だから、モニカちゃんは絶対に誰にも言わないでくれるだろうし、わたしたちの友情も絶対に変わらないんだって。 あはは。 とっても変だよね・・・二人しかいない部活だけど、もうわたしには大きな意味があるんだ」


モニカは、胸が締め付けられるような心地がした。

また、二人の間でお互いの感情が輝いてつながっているような心地もした。


「私もよ。 あなたが来てくれるまで・・・すごく不安だったわ。 あなたは強いわ、サヨリ。 あなたは強くて、勇気がある人。 私なんて比べ物にならないくらい」


モニカは、サヨリの方へと歩み寄る。


「でも・・・あなたにハグエネルギーをあげることくらいなら、私にもできる。 あなたが受け取ってくれるなら」

 

 

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黙ったまま、笑顔もなく、サヨリは額をモニカの肩に乗せる。

頭の中を駆け巡る、ほとばしるような彼女の思考が、その額越しに感じられる。

その瞬間、部室は魔法に包まれた。

そして、モニカはその魔法に魅せられ・・・どうか今日だけは誰も部室に新入部員が来ませんようにと、心の底から望んでいることに気がついた。

モニカはサヨリに静かに語りかける。


「あなたは・・・私がこれまで出会った人の中で、一番優しい人よ。 何でも言って。 絶対にあなたを責めたりしないから。 約束する」


サヨリの呼吸が震え始める。

何度か深く息をし、何とか懸命に話し始めようとする。

そしてついに、これまで言えなかったことを、こもった声で口にした。


「わたしなんか・・・ただの役立たず。 だから、いない方がみんなにとっていいの」


サヨリの頬を、堪えようとした涙が伝う。

 

 

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「わたしは・・・みんなに迷惑をかけているだけ。 何もうまくできないから、みんなわたしに我慢してるって感じる。 それが嫌。 嫌なの」


話すほどに、胸の奥から押し寄せる圧倒的な悲しみに押し流され、サヨリの声の調子が狂っていく。


「こんな気持ち、いらないの。 こんな気持ち、消えてほしい。 今もモニカちゃんを我慢をさせてるし、もう死にたいのよ!」


モニカは、冷静さを失ったサヨリを目にし、自分だけは絶対に冷静でいようと決意した。

彼女はただ、サヨリが今必要としているものになりたかった。

だから、自分の悲しみを一切見せはしないと決めた。

モニカの声が、穏やかに優しく響く。


「我慢なんかしてない。 私はあなたの友達だから」


モニカは慰めの言葉を口にする。

モニカにはわかっていた。

サヨリが言う通り、今彼女が抱えているその気持ちは、あるべきものではない。

だが、モニカにはその気持ちを魔法のように取り払うことはできない。

できることは、サヨリがその気持ちに立ち向かえるよう、支えになってあげることだけ。

そう、親友がするように。


「あなたは役立たずなんかじゃないわ。 私にとっても、あなたの他の友達にとってもね。 あなたのおかげで、今、この文芸部があるの。 本当に、心からそう思っているわ。 あなたがここに来てくれたことは、今までで一番最高の出来事だった。 他の部員が入らなかったとしても・・・それでも私は幸せよ。 私にその気持ちを運んできてくれたのは、あなたなの。 私たちにビジョンと・・・幸せを運んできてくれた。 それは、あなたの好きなこと・・・でしょう?」


サヨリは答えないが、かすかにうなずいたのをモニカは感じる。

二人の間に、言葉はもういらない。


モニカは、サヨリが必要とするだけ、彼女を抱きしめ続けた。

呼吸が落ち着き、すすり泣きが収まると、サヨリは頭を上げて涙を拭った。

 

 

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「わたし、その言葉がほしかったんだと思う。 どうしても辛くなる日があって」
「あなたが必要な時はいつでもいるからね。 でもそれ以外の時は・・・いつも通りにしているわ。 あなたがそれで幸せだって感じるなら」
「うんっ。 ありがとね。 モニカちゃんは最高だね」
「ううん、サヨリが最高なのよ」


二人は笑顔を交わす。


「その・・・急にこんなことを言っていいかわからないけど・・・専門家の人に話そうと考えたことはあるの?」


サヨリはうなずく。


「怖いよ。 人に話すのは本当に大変だから・・・」
「そうね。 もちろん、お医者さんにかかるかどうかは、あなたが選ぶことだけど、その勇気が必要な時には全力でサポートするわ」
「ありがとう。 モニカちゃんがそうしてくれるってわかってるだけで、助かるよ」


サヨリは突然あくびをし、伸びをする。


「うーん、疲れちゃった! それにお腹もすいたし・・・」
「あはは。 やる気がないなら、今日はサヨリに何もお願いしないでおこうかしら」
「ヤダ! やりたい! やることがあったら、絶対に幸せな気持ちになれるもの」


モニカは笑う。


「・・・でもその前に、お菓子を食べたいかなあ」


その時、ドアが開く音が聞こえ、二人は振り返る。

ドアは途中まで開いたところで止まり、それから顔がのぞいた。

それはどこかで見覚えのある・・・。


・・・。