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光輪の町、ラベンダーの少女【9】

 


大九郎は焦りと苛立ちを隠せずにいた。

 

 

 

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「どういうことだね? 沢村アキナが剣術部に入部したらしいじゃないか」
「そのようですね。 馬鹿な生徒です。 生徒会長と言う名誉ある地位も捨てて、剣術部などに入るなんて」
「どうするつもりだ? これで4人集まってしまった・・・」
「まだ一人足りません。 ご心配なさらずに」


栗林は冷静さを失わない。


「栗林くん、随分と落ち着いているようだね。 ・・・道場の取り壊しの話は順調に進んでいるだろうね?」
「そのことですが、業者との打ち合わせが難航しておりまして、今すぐに工事に取り掛かれる状態ではありません」
「いつになったら始まるんだい? これ以上、先延ばしにすることなんて出来ないんだよ」
「分かっています。 出来るだけ、迅速に行いますので、今しばらくお待ちください」
「もしかして・・・君、わざとじゃないだろうね」


大九郎は疑いの目で栗林を見た。


「わざと? どういうことでしょうか?」


なかなか始まらない工事といい、剣術部の部員が集まっている様といい、大九郎は栗林を怪しんだ。

このまま、だらだらと勧め、なあなあで剣術部を設立しようとしているのではないか。

心のどこかで剣術にまだ未練があり、自分を欺こうとしているのではないか。

大九郎にとって栗林は忠実な部下であり、決して自分を裏切らない従順な犬。

その犬に手を噛まれることなど、あってはならない。

大九郎の頭の中に8年前の夏、額に汗をかきながら竹刀を振る栗林の残像がフラッシュバックする。

・・・いかん。


「部員がもう一人加わるのは時間の問題だ。 早急に手を打ちなさい」


・・・栗林は小さく頷いた。

 

「生徒たちの暴挙を止めるのは、君の役目だよ。 それが出来ないなら・・・私は君を切らなければならないねぇ」


探るように、圧力をかけるように言った。


「・・・私に提案があります」
「提案? それは私にとっていい提案なんだろうね?」
「愚かな生徒たちに、現実を見せてあげるのです」
「現実? どうするつもりかね?」
「剣術部を作るといっても、素人の寄せ集めにすぎません。 その素人に剣術で現実をみせてあげるのです」
「・・・毒をもって、毒を制すということかな?」
「そうです。 彼女たちに・・・試合をさせるのです」


・・・大九郎の顔が一瞬、強張った。

試合・・・。

その言葉に戸惑いを覚えたが、すぐに我に返り微笑んだ。


「・・・なるほどねぇ」


窓がガタガタと揺れた。

外は強い風が吹いている。


・・・。

 



 

俺は廊下で、剣術部のメンバーと落い合うことにした。


「みんなに、いい報告があるんだ」

「いい報告? なに?」

「沢村? 自分で言った方がいいな」


俺は沢村の肩をポンと叩いた。

 

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「あの・・・選挙の時は、みなさんに大変お世話になりました。 結果はダメだったけど感謝しています」

「生徒会長、残念だったね。 なんて言っていいか分からないけど、沢村さんは頑張ったと思う」

 

「大丈夫です。 もう吹っ切れました。 一晩寝たら、なんだかすっきりしました」


アキナはレイカをチラッと見た。

 

 

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「だから最初から言ってるじゃない。 生徒会長なんてなんの価値もないのよ。 そんなことよりもレイカ会に所属する事の方が何倍も名誉なことなのよ」

「そうですね。 そう思います」


アキナはニッコリと微笑んだ。

 

 

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「でも、いい話ってなんですか?」

「その、私みたいな人間が、みなさんの役に立てるかどうか分かりませんが・・・」


申し訳なさそうに続けた。


「私、剣術部に入ろうと思うんです」

「え!? それ、ほんとなの? でも、どうして?」

「・・・誰かの役に立ちたかったから。 生徒会長になれなかった私を、椿先輩と神山先輩が認めてくれたから」

「じゃあ、ちゃんと挨拶しないとな」

「みなさん、ふつつか者ではありますが、よろしくお願いします!」


沢村は頭を下げた。


「こちらこそよろしく! 沢村さんが入ってくれて、すっごく嬉しいよ」

「ありがとうございます。 私、みなさんの足手まといにならないように出来るだけ頑張ります」

「よろしくです。 沢村さんは頭がいいから、きっとリコよりは役に立ちます」

「そんなぁ・・・。 私、運動が苦手だから剣術が出来るか凄く不安ですけど、よろしくお願いします」

「沢村さん? 剣術部の目的は右近シズルを完膚無きまでに叩きのめすことよ。 頑張ってね」

「・・・それは神山さんの目標でしょ? 私たちは別に・・・」

「何を言ってるの? その為に発足するんでしょ?」


はるかは呆れた顔をしている。


「まぁなんにせよ、これで部員が4人になったんだ。 あと一息だな」

「そうだね。 ここまで増えるなんて思ってもみなかった」

「諦めなきゃなんとかなるもんだな」

「でも、部にするためには、あと1人必要なんですよね。 当てはありますか?」

「・・・それがないんだよな」


ふと見ると、遠巻きに桜木がこちらを見ていた。

窓から吹き込んでくる強い風に、桜木の綺麗な黒髪が揺れている。



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「桜木・・・」

「・・・おめでとう」

「え? あ、ありがとう」


桜木は冷たい目で言い放った。

4人集まった俺たちを、どこか突き放すような、そんな感覚を覚えた。


「なんとか、ここまできたよ」

「・・・ふん」


突き放すように、答えた。


「桜木さん? あなた、そんなクールな顔して、本当は剣術部に入りたいんじゃない?」

「・・・なんだと?」

「私たちがワイワイやってるのを覗き見なんかして、どういうつもりかしら?」

「私はただ廊下を歩いていただけだ」

「あなた、暇なら剣術部に入ったらどう?」


桜木の眉がキュッと歪んだ。


「おい、レイカ! やめろって」


俺は慌ててレイカをとめた。


「だって、この人、仲間に入れてほしそうな目をするんですもの」

「ダメだって・・・。 ヒカルちゃんはダメだよ。 だってヒカルちゃんは・・・」


はるかもレイカをとめる。


「なによ? いいじゃない桜木さんで。 どうかしら?」

「・・・すまんな」


桜木は教室に入ってしまった。


「何よ。 あの態度。 許せないわ」

「桜木先輩、怖い顔してましたね・・・」

「ヒカルちゃんを誘ったらダメだよ。 深い事情があるんだから」

「深い事情とはなんですか?」

「それは・・・その・・・。 宗介?」


はるかは俺に助けを求めた。


「桜木は色々と大変なんだよ。 だから、安易に誘ったりしたらダメだ。 他の人間をあたろう」

「ふーん。 どうせくだらない悩みなんでしょ? バカバカしい」


くだらない悩み・・・。

だったらどれだけ楽だろうか。


『殺したんだ、人を・・・』


あの日の桜木の言葉が頭をよぎった。

それはあまりにも大きすぎる問題で、俺達にはどうすることも出来ないことは分かっていた。

はるかも同じ気持ちだろう。

だが、どこかで桜木のことが頭から離れない。

もしかしたら、入部してくれるかもしれない。

5人目の部員・・・、最後の部員は桜木しかいない・・・。

そう思う自分がいた。

絶対に不可能な事だと分かっていても、俺は桜木が入部することを強く願っている。

そんなジレンマがどうしようもなく辛かった。





俺たちは放課後、これからの作戦を立てるために中庭に集まった。

剣術部のこれからの方針も決めないといけないし・・・。

 

 

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「みんな集まったみたいだな」

「ねぇ? 最後の部員どうしよう?」

「学園には、もうすでに剣術部の噂が広まっています」

「噂っていうのは?」

「学園に歯向かっている組織だと思われていますね。 だから、誰も入部したくないみたいなんです」

「そりゃそうだよな。 俺たちは学園からしたらテロ組織みたいなもんだもんな」

「だから、いかにして私たちがクリーンな活動を行っているかを説明する必要があると思うんです」

「別に悪いことしてるわけじゃないのにね」

「だよな」

「だったら、報酬を与えればいいんじゃない?」

「報酬? それはなんですか?」

「今、剣術部に入部したら多額の賞金を神山グループから進呈するっていうのはどう?」

「お金で解決するのはよくないよ。 やっぱりやりたいと思う人がやるべきだし」

「でも、時間がないのよ? もうお金しか頼れるものはないわ」

「でも、もう学園は神山グループとの契約を解消したって聞きました。 神山先輩も派手に動いちゃうと色々と問題があるんじゃないでしょうか?」


新山学園は正式に右近コンツェルンとの契約に乗り出したようだ。


「今まで散々、投資してきたというのに手のひらを返したように右近に媚びるなんて、許せないわ」

「とにかく、私たちの意見に賛同してくれる人を探さなきゃね」

 

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「あの・・・」

「どうした?」

「剣術は誰が教えてくれるですか?」

「それは・・・」

「リコは出来ませんから、誰かに教えてもらわないと何も出来ません」

「・・・どうしよう。 そういえば誰も経験者っていないんだよね」

「顧問の先生も見つけなきゃいけませんよね。 うまく剣術経験のある先生が見つかればいいんだけど・・・」

「神山グループからコーチを付ければいいじゃない」

「神山グループの人間じゃ、学園側は認めないだろ」

「本を読んで勉強するしかないですよね。 あとで本屋で探しておきます」


・・・指導する人間がいない。

致命的な事に気がついた。

沢村は本を見てやると言ってるが、そんなことではスポーツはうまくいかないことは分かっている。

俺が野球をやっているときには、チームの監督や先輩に色々なことを教わって上手くなっていった。

決して参考書などの力は借りていない。

ましてや剣術なんて専門的なスポーツだ。

いい指導者がいなければ上手くなることなんて不可能だ。


「まだ、色々と問題があるね」

「どうすっかな」

「グジグジ悩んでてもラチがあかないわ。 とりあえず、ケーキを食べに行きましょ? 駅の近くに行きつけのお店があるの」

「ケーキ食ってる場合じゃないんだけどな・・・」

「もういいじゃない。 とりあえず、ケーキを食べましょうよ」

「でも・・・」

「じゃあ、もう剣術はやめてケーキを食べたり、美味しいパスタを食べたりする部に変えたら?」

「は?」

「グルメ部を発足するのよ。 それなら、私、いい店をたくさん知ってるし」

「おまえなぁ・・・」

「そして激マズケーキを右近さんのお宅に送りつけるわ!」

「剣術部じゃないと意味ないですよ!」

「分かってるわよ。 もう、あなた達は冗談が通じないのね」

「いや、半分本気だったろ?」

「そんなことないわよ。 ・・・ちょっと佐田さん? 何やってるの?」


リコは空に手を挙げている。


「どうした?」

「暇だったので、鳥さんたちを集めようとしていました」

「なんで?」

「特に意味はないです。 ただの動物遊びです」

「その遊び、止めてもらっていいか?」

「でも、それはリコの生きがいです」

「・・・」

 

ダメだ・・・。

こんな集団が剣術をやれるとは到底思えない。

やっぱり、部にはしっかりとした経験者が必要だ。

強くて、みんなを引っ張っていけるリーダー的存在。

あいにく、俺は剣術に関してはずぶの素人だ。

・・・経験者。

俺が桜木のことがすぐに浮かんだ。


「ここにいても話が進まないから、とりあえず私のお屋敷で話しましょ。 虫が多くてかなわないわ」


中庭は植物が多いため、蚊やハチが多く飛んでいる。


「虫さんは友達です!」

「私は虫が嫌いなのよ! 友達なんてありえないわ」

「・・・ぐすん」

「じゃあ、神山さんの家に行こうよ」

「あ、俺はいいや。 ちょっと寄りたいところあるからさ」

「寄りたいところですか?」

「ああ。 おまえたちは、これからのこと話しあっててくれ」

「分かりました。 では、神山先輩の家に行きましょう」

「じゃあな」


俺ははるか達と別れ、ある人間の家に向かった。




 

俺は桜木の家の前にいた。

金縛りにでもあったかのように、その場から動けずにいた。

桜木に会うことがどこかで怖かった。

桜木の閉じられた過去の扉を開けるほどの勇気があるわけではない。

だが、今はどうしても桜木と話したかった。

俺たち剣術部の鍵は桜木が握っている。

変な確信があった。


・・・。


・・・なんか緊張するな。

ドアをノックしようとする手が震えた。


──ノックの音が大きく響いた。


俺の心臓も激しく動く。

緊張しながら、桜木の返事を待った。

・・・。

・・・・・・。


返事は待ってもかえってこない。

・・・いないのか?

ドア越しに中の音に耳を澄ます。

・・・・・・。

中からは生活する音が全く聞こえない。

まだ、戻ってないのかな・・・。

ノブに手をかけ、ゆっくりと扉を開けようとした。

・・・ダメだ。

鍵がかかっていて、開かない。

すこしだけ、ほっとした自分がいた。

俺は桜木の家から離れ、家に戻ることにした。


・・・。


気づけば、リコのマンション近くに来ていた。

リコはまだレイカの屋敷にいるのだろうか。

リコがひとりで生活している部屋を下から見上げた。

カーテンは閉められ、電気もついていないようだ。

そういえばリコも一人だったんだよな・・・。

今でこそ、剣術部に入りリコには仲間がいる。

それはリコにとって、大きな収穫だったに違いない。

それだけでも、俺がやってきたことは間違いじゃない・・・。

そう思えた。



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「椿・・・。 こんなところで何やってるんだ?」


私服の桜木が、息を切らして俺の前に現れた。


「わぁ!」


突然の出会いに、俺は驚き声を上げた。


「そんなに驚くこともないだろ」
「いや、そうなんだけどさ」


俺が桜木の家に行ったことを悟られるのではないかと思い、あせった。


「ジョギングか?」
「見れば分かるだろ。 ここはランニングコースに含まれているんだ」
「毎日、走ってるのか?」
「そうだな。 雨の日も雪の日も、一日もかかしたことはない」
「でも、もうスポーツはやってないんだろ? だったらジョギングなんてする必要ないんじゃないか?」


桜木が毎日、ジョギングしているということは、まだ剣術に未練があるんじゃないかと俺は勘ぐった。


「体がなまってしまっては困るからな。 昔からの習慣はそう簡単に抜けない」
「普通の女の子になりたいんじゃなかったのか?」
「普通の女の子だって、ジョギングくらいするだろ」


・・・確かにそうだな。

俺は会話に戸惑った。

話したいことはある。

でも、それを伝えるほど、いい空気は流れていない。


「・・・どのくらい走ってるんだ?」
「1時間くらいだ。 たいしたことじゃない」
「1時間? じゅうぶん凄いよ」
「そうか? 昔はもっと走っていたんだが、この町は地面がコンクリートで走りにくい。 だからセーブしてるんだ」
「なるほどね・・・」


なんともギクシャクした時間が過ぎる。


「じゃあ、また・・・」


ヒカルは走り去ろうとした。


「あ、ちょっと待って!」


ヒカルは足を止め、怪訝そうな顔で振り向いた。


「友達は・・・その友達は出来たか?」
「それは私に対する嫌味か?」
「そういうつもりじゃねーけどさ」
「友達か? ・・・一人も出来ていない」
「でも、はるかは?」
「鈴木さんは・・・クラスメイトだ。 友達じゃない。 リコもレイカも沢村も、ただの知り合いだ」
「桜木の友達の基準ってなんだよ?」
「・・・分からない。 ただ分かることは、私には友達を作る才能がないということだ」
「才能か・・・。 今までは友達いたのか?」
「・・・さあな。 遠い昔に、そんな者がいたような気もするが・・・忘れたよ」


桜木は遠くを見つめている。

友達を作る才能・・・。

その言葉がアスファルトに悲しく響いた。


「そういう椿はどうなんだ? 友達はいるのか?」
「・・・」
「・・・すまないな」


桜木は罰の悪そうな顔をした。


「お前だって、私と同じじゃないのか」
「そんなこと・・・ないよ」
「どうしてよりによって剣術部なんだ?」
「・・・まあ、成り行きって言うか」
「裁縫部だったら入ってやっても良かったんだがな」
「ほんとかよ」


冗談とも真剣ともとれる桜木の言葉に心が少しだけ安らいだ。


「こう見えて、裁縫は得意なんだ。 手先はそれなりに器用だからな」
「そうだよな。 料理も得意だしな」
「・・・そのくらいは、女の子らしくしたくてな」
「そんなに気にすることねーよ。 しっかり女の子してるよ。 はぁ~。 剣術部か~。 難しいもんだな」


桜木は俺の言いたい事を察しているように思えた。

察してはいるが、その意に沿えないことに罪悪感を感じているような、そんな目をした。


「もしも、部が出来たらどうするつもりだ?」
「まぁ、試合とかすんじゃないか? その前に基礎が必要だろうし、そういうのもやるかもな」
「随分と他人事のように言うんだな」
「部が出来るまでが俺の仕事だよ。 そっからは、はるか達でなんとかするだろうし」
「・・・なるほど。 出来てしまったら椿は手を引くという事か」
「当たり前だろ。 ずっと付き合っていくわけにはいかないからな」
「剣術をやるからには、全国を目指すのか?」
「そこまでは考えてないんじゃないか? あのメンツだし」
「なんだ? ただの遊びか。 そういう目標をもった人間はいないわけか」


やけに挑発的だな・・・。

でも、全国に行きたいやつなんて今はいないのは事実だ。


「部を作ることになったこと自体、成り行きだしな。 勢いっていうかさ・・・」
「勢いか・・・。 剣術はそんなに甘いもんじゃない」


ヒカルは真剣な顔で話し始めた。


「星雲学園は知ってるだろ? 星雲の連中は毎日、血がにじむ練習をしている。 すべてをかけて、剣術に打ち込んでいるんだ」
「・・・だろうな」
「星雲学園は西都心地区で1、2を争う実力校だ。 全国制覇も有力視されている。 同じ土俵に立つには、あまりにも、甘いんじゃないか?」
「甘い・・・。 そうだな。 桜木の言うとおりだよ。 俺らは甘い」
「遊び半分で剣術をやるのは、止めた方がいい」
「確かに、俺らは甘いよ。 全国になんていけないし、一勝することすら出来ないかもしれねーよ。 でも、部活として勝ち負けはもちろん大切なんだろうけどさ・・・」
「・・・なんだ?」
「同じくらい大切なものが、俺やあいつらのなかに芽生えているような気がするんだ・・・」


俺は自分らしくない言葉を発した。

言った後に後悔したが・・・その言葉は嘘偽りのない、俺の魂の言葉だと感じた。


「今、言ったことは・・・どういう意味だ?」
「よく分からねーけどさ」
「勝つことと同じくらい大切なもの・・・」
「いままで、剣術部に入る前は、みんな・・・一人だったんだ・・・」


桜木は黙ったままだった。


「今は・・・一人じゃない気がして・・・」
「それ以上は言うな。 じゃあな・・・」


そう言うと、走り去って行った。

・・・何言ってんだろ俺。

ただ、確かな事は、俺は桜木に剣術部に入って欲しいという気持ちだけだった。





鈴木青果店はもう、閉まっているようだ。

片づけを終えたはるかが、店先に立っていた。



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「おかえり。 どこ行ってたのかな?」
「ちょっとな」
「私に隠しごと? 小さい頃は宗介のこと全部知ってたのに、最近は秘密が多いね」
「全部ってウソつくな」
「知ってるよ。 宗介のことなら何でも。 一緒にお風呂に入ったことだってあるもんね~」
「・・・おぼえてねぇーよ」


小さい頃は近くの銭湯でよくはしゃいでいた。


「お互い成長したからねぇ。 知らないことが多くなっても普通かな」


成長したはるか・・・。

 

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俺は大きく膨らんだ胸をちらっと見た。


「随分と成長したもんだな・・・」
「・・・変態」
「ち、ちげーよ。 そういう意味じゃなくて」
「目がいやらしいんだけど・・・」
「おいおい・・・」
「ヒカルちゃんのところに行ってたんでしょ?」
「・・・なんで分かるんだ?」
「分かるよ。 でも宗介はヒカルちゃんを剣術部には誘えなかった。 違う?」
「・・・ああ」
「そんなことだと思ったよ」
「何でも分かるんだな」
「分かるよ。 私も同じ気持ちだから。 ヒカルちゃんには剣術部に入ってほしいもん。 他の誰よりも入ってほしい」
「そうだな」
「でも、ヒカルちゃんの気持ちが大事なんだよね。 いつか入ってもらえるように、私、頑張ろうと思うんだ」
「レイカの家でどうだったんだ?」
「うまくいかないよね。 沢村さんは勉強を始めちゃうし、神山さんはケーキばっかり食べるし、リコちゃんは寝ちゃうし・・・」
「先が思いやられるな・・・」

 

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「あの~? お店ってまだやってたりしますか?」

「すいません。 もう終わってしまったんです」

「えっ!! マジで? ありえないんですけど~」

「おまえ、青雲学園の樹か?」

「あ、宗ちゃん、元気? てかもう閉まっちゃったんだってさ~」


樹は後ろにいる連れに話している。

暗くてよく見えなかったが、青雲学園の右近シズルと桐生小梅がいた。

 

 

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「小梅! あなたがモタモタしてるからお店が閉まってしまったようですわ。 開けてちょうだい」

「え! 右近先輩の着替えが遅いからだと思うんですけど」

「あなた、店の方? 開けてもらえるかしら?」

「ごめんなさい。 もう閉めちゃったから。 樹さん、久しぶりだね」

「うん! 元気だった? 野菜ってもう買えないんだよね?  すっごく美味しかったから今日は他のメンバー連れてきたの!」

「すみません、営業終わってるのに来てしまって」

「ちょっと待ってて。 余った野菜ががあるから見てくるね」

「ほんとに! 超うれしいんですけど!」


はるかは店の奥に入って行った。


「残飯を寄こす気かしら? ありえないわ」

「そういう言い方したらダメでしょ! はるちゃんって性格もいいし、可愛いし、宗ちゃん、いい子見つけたね~」

「だから、俺とはるかは、そんなんじゃねーよ」

「かえって迷惑をかけてしまいましたね・・・。 あ、椿さん、沢村さんはお元気ですか?」

「ああ。 もうすっかり元気だぜ」

「良かったぁ。 私の発明のせいで変になっちゃったら申し訳なかったんで」

「その発明のせいかはしらないけど、剣術部に入ることになったんだ」

「え? でも沢村さんに剣術部とかやっていけるんですか?」

「これからだよ。 これから!」

「剣術部? あなたもしかして新山学園の剣術部設立に加担しているのかしら?」

「成り行きだけど・・・」

「なんだか、神山さんが剣術を始めたみたいね。 右近コンツェルン内でも噂になってるわ」

「へ~」

「あのお嬢様が剣術なんて出来るはずがないわ。 ピアノでも負けて、剣術でも負けて、可哀想な神山さん」

「やってみないと分からないだろ」

「分かるわよ。 この私に剣術で勝てるわけがないわ」


はるかが野菜をもって戻ってくる。


「これ、良かったら持っていって」

「いいの? ありがとう!」

「みんな練習で疲れてるでしょ。 これ食べて、頑張ってね!」


樹は、はるかから野菜を受け取った。


「ねぇ? はるちゃんも剣術始めたの?」

「始めたっていっても、入部しただけで部員も足りないし、なんにも出来てないんだよね」

「・・・そうなんだ。 はるちゃん、始めちゃったんだね」


樹は複雑な表情をしている。


「樹、どうした?」

「星雲学園って凄く強いんだよね? 色々と教えてもらえたら嬉しいんだけどなぁ」

「嬉しい? どうして? はるちゃん、剣術始めたんだよね? だったら嬉しいとかじゃないと思うんだけど」

「え? どうして? 同じ剣術やってる者同士、仲良くできるかな~って」

「それは違うよ。 だって私たち、敵同士でしょ?」

「そんなぁ・・・。 敵とかやめてよ。 だって私たちはただの素人だし」

「そんなの関係ないよ。 大会に出れば戦うことになるわけだし・・・」

「そうだけど・・・」

「それに・・・」


樹は口ごもっている。


「樹、はっきり言ったらどう? もう知ってるかもしれないけど」


はっきり?

・・・なんだ?


「何だかよく分からないんだけど・・・今度、うちの剣術部と新山学園の剣術部で交流試合するみたいだよ」

「交流試合? ・・・どういうこと?」

「私たちも突然言われてびっくりしたんですけど、どうやら戦うことになりそうです」

「マジかよ・・・」

「戦うって私たち素人だよ? 星雲学園なんかと試合できるわけないじゃない・・・」

「だいたい、どうして私たちみたいなエリートが、あなたたちみたいな、お遊び集団と試合をしなきゃいけないのかしら。 時間の無駄だわ」

「もしかして、聞いてなかった?」

「そんな話、初めて聞いたよ・・・」

「逃げた方が身のためよ?」

「シズル、余計なこと言わなくていいよ。 ・・・じゃあ、そういうことだから。 あ、野菜ありがとう! 行くよ」


樹たちは店から去っていった。

俺とはるかは顔を見合わせた。


「交流試合って・・・?」
「そんな・・・」


またしても嫌な予感が全身に走った・・・。

 



 

初夏というべきか、夏に突入したというべきか、額が汗ばむ気候が続いてる。

本格的に熱くなるのはこれからだが、その前触れとも思える陽気だ。

制服が汗でじんわりと濡れる。

俺はひとつ、あくびをした。


「最近遅刻が減ったね。 偉い偉い」


屈託のない笑顔を俺に向けてくる。

 

「そりゃそうだろ。 毎日くたくたで逆によく眠れるよ」
「そっかぁ。 剣術部を作ろうとしたことも、まんざら悪い事じゃなかったかもね」
「なぁ、昨日の樹の話なんだけどさ・・・」


星雲学園の連中が帰り際に言ったことが気になっていた。


「星雲学園の剣術部と交流試合をするって話だよね?」
「あれ、本当の話かな?」
「ありえないよ。 だって私たち、まだ正式に部になったわけじゃないし、何より素人の私たちがいきなり試合なんて出来ないもん」
「だよな。 樹はどっか別の学園と聞き間違えたんだろうな」
「きっとそうだよ。 でも、それはいいとして、私たちもいつかは試合をする日が来るんだよね」


心配そうな顔で俺をみる。


「そりゃそうだな。 それまでに様になるように練習しないとな」
「昨日の感じをみて思ったんだけど、もっと厳しくしないと、まとまっていかないよね。 どうしたらいいんだろ」
「はるかが仕切っていくしかないだろ」
「私が? ・・・出来るかな」
「はるかなら出来るよ。 なんせ、はるかはスポーツ万能だからな」
「スポーツ万能か・・・。 でも、ちゃんと一つのスポーツやったことないしなぁ・・・」


はるかは本当にスポーツができるやつだ。

バレー部の助っ人に入ったときは驚いたものだ。

経験がないはずのはるかが、中心っとなってバシバシとアタックを決めていく。

相手の学園側の『あの生徒はなんなんだ!』って困惑した顔が可笑しくて、よく覚えている。

店の都合で時間がとれず、ちゃんと部活に所属したことこそないが、もしも何かやっていたらきっと、もの凄い選手になっていたに違いない。


「俺のストレートをちゃんととれるやつは、はるかだけだよ」
「だってそれは、小さい頃から宗介のキャッチボールの相手してたからだよ」


俺は野球が好きだった。

小さい頃、俺の球は速やすぎてチームの中にしっかりと受け止めてくれるキャッチャーはいなかった。

だから俺は、いつも少しだけ加減して投げていた。

でも、はるかだけは違った。

俺がどんなに速い球を投げてもしっかりと受け止めてくれた。

変化球だってキャッチする。

本当の孤独は天高く投げたボールを誰も受け止めてくれない事だと何かで読んだ。

はるかがボールをつかんでくれる事。

俺はそれがたまらなく嬉しかった。

自分の限界を思う存分はっきできる場所はそこしか無かった。

どんな時も、受け止めてくれたのは、はるかだけだった。


「また、キャッチボールしたいね・・・」


遠慮がちにつぶやいた。


「・・・そうだな。 気が向いたらな」


はるかはホッとした顔で、大きく頷いた。


『生徒の呼び出しをします。 3年Aクラスの椿宗介さん、鈴木はるかさん、佐田リコさん、Bクラスの神山レイカさん・・・』


名前を呼ばれ、スピーカーに耳を傾けた。


『2年Cクラスの沢村アキナさん、学園長室に至急来てください』


「学園長室!?」
「どういうことだろ。 職員室じゃなくて、学園長室って・・・。 私たち、何かしたかな?」


リコにレイカに沢村・・・。

集められたメンツは剣術部設立に加担している人間だ。

学園長が俺らに何の用だよ・・・。

悪い事じゃなきゃいいんだが・・・。


「今、あたしを呼ぶ声が聞こえたのですが夢でしょうか?」

「夢じゃねーよ。 学園長が呼んでるみたいだぜ」

「学園長? あたしはあのオジサンは嫌いです」


リコは学園長に口封じを迫られたことを根にもっているようだ。


「とりあえず、行くしかないよね。 もしかしたら剣術部を作ることを許してくれるのかもしれないし」


あの学園長に限って、そんなうまい話なわけがないだろう。

 

 

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「宗介? なにか悪さでもしたのか?」



水嶋が心配そうな顔で俺を見る。


「少なくとも、人を殴ったりしてないから大丈夫だろ」

「ならいいんだけどさ。 学園長室に呼ばれるなんて滅多にないことだしさ・・・」

「はるか、リコ、行くぞ」


俺は深呼吸をして、学園長室へ向かった。




 

 

 

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学園長室に入ると、すでにレイカと沢村がいた。

腕組みをした栗林が脇からこっちを見ている。

大きな机の真ん中に、まるで悪の組織の親玉みたいな顔をした新山大九郎がどっしりと座っていた。

気持ちの悪い剥製や、何とも知れない絵画が学園長室の不気味さを更に際立たせていた。

俺たちが何か言葉を発する前に栗林が話し始める。


「みなさん、集まったようね。 学園長からあなたたちにお話があります」


学園長はニコニコとこちらの様子を伺っている。


「おはよう。 私が新山学園長、新山大九郎だ。 と言っても、もう知ってるかな」


不敵な笑いを浮かべながら続けた。

 

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「まぁ、そんなに緊張することはない。 楽にしていていいんだよ」

「話があるなら早くしてもらえないかしら? 私、趣味の悪い部屋に長く居たくないの」


イカがはっきりとした物言いで大九郎に噛みつく。

 

「元気がいいお嬢さんだねぇ・・・。 さすが神山グループの令嬢だけのことはある」

「話ってなんすか?」

「今日は君たちを褒めようと思ってここに呼んだんだ」


褒める?


予想外の言葉に俺たちは顔を見合わせた。


「褒めるってどういうことですか?」

「4人も集まったみたいだね。 たいしたもんだよ」


含みのある笑顔を浮かべる。


「色々と大変だったようだね・・・。 君たちの努力には感服したよ」


心にもないことを言っているのは容易に分かった。


「そこまでして集めた選りすぐりのメンバーならさぞかし、腕の方もいいんだろうね」


俺たちは黙り込んでしまった。


「どうしたの? 顔色が優れないみたいだけど」

「栗林くん、彼女たちは剣術をやろうとしてるんだ。 それなりに腕のたつ生徒なんだよね?」

「学園長。 申し訳ありませんが、彼女たちは剣術が出来るどころか一度もやったことのない素人です」

「なんだって! それはどういうことだ?」


白々しく驚いてみせた。


「私たちは、これから剣術を学ぶつもりでいます」


沢村がはっきりとそう答えた。


「おいおい、今からだって? そんな気持ちで部を作ろうとしていたのかい?」

「それは・・・」

「あなたたち、もしも5人目の部員が集まったとして、それで剣術部といえるのかしら?」


大九郎たちが痛いところを突いてきた。

もともと、剣術部を作るのは、はるかの気持ちを汲むためだった。

もし集められなければ、俺は退学。

部になりさえすればいい。

それから先のことは考えていなかった。


「我が新山学園に部を設立するならば、それなりの実力がないとね・・・」

「実力?」

「そこでだ。 君たちの実力をみてみたくてね。 交流試合をしてもらうことにしたよ」

「交流試合?」

「それはどういうことですか!? 私たちはまだ試合なんて出来ません」

「そうです。 それにまだ部にもなってないですし、試合は早すぎます」

「無理なこと言わないでよ。 試合だなんて、ボケてるのかしら?」


はるかたちは慌て始めた。


「素人とはいえ、剣術部を作ろうとする人間なら、それなりに資質というものがあるはずじゃないのかね?」

「だとしても、いきなり試合なんてできっかよ」


俺は大九郎に突っかかる。


「まだ分からないの? あなたたちが、寄せ集めのなれあい集団だということを自覚してもらうためよ!」


栗林の一言で、俺たちは沈黙する。

特に剣術をやりたいわけでもない四人。

そもそも、やりたいことなんて特にない四人。

なれあいといわれれば、それまでだった。


「あなた達に選択権はないわ。 勝ち抜き戦よ。 それに勝利することが部にする条件よ」

「そんな・・・。 5人集めればいいって条件だったはずです」

「名門である新山学園でスポーツをやるからには、結果をだしてもらわねばならないからねえ」

「オジサン、卑怯です!」

「オジサン!? 佐田さん、学園長になんてこというの!」

「どこからどう見てもオジサンですが・・・。 それともオバサンですか?」

「黙りなさい! とにかく、交流試合は3日後に決まっているわ。 諦めるのね」


交流試合・・・。

この四人が試合なんか出来るはずもない。

ましてや勝つことなんて・・・。

完全にハメられたな・・・。    


「あの・・・交流試合の相手はどこなんですか?」


大九郎は、待ってましたと言わんばかりに口を開いた。


「君たちが戦ってもらう相手は・・・私立星雲学園だ」

「え・・・!?」

「そんな・・・」


私立星雲学園・・・。

昨日、樹が言っていたことは本当だった。

よりによって星雲だなんて・・・。


「星雲学園って・・・右近シズルのいる学園だわ」

「そうだね。 今度は勝たなければね・・・」

「・・・」

「青雲学園・・・。 あんなスポーツ名門校に私たちが勝つことなんて出来ません」

「だったら棄権したらどうかしら? もちろん部は解散ですけど」

「・・・」

「強い学園と戦わなければ、君たちの力も計れないからね」


ここにきて、学園側は本気になってきたようだ。

勝てるはずも無い試合をふっかけて来やがった。

クソッ。


「まあ、そんなに臆することはないよ。 私も鬼じゃない。  相手は百戦錬磨の星雲学園だ。 もし一勝でもできたら、見込み有として、部の設立を認めようじゃないか」

「一勝? そうすれば私たちの勝ちなの?」

「そうだよ。 一勝出来れば君たちの勝ちだ。 剣術部設立を認めよう」

「一回ですか? オジサン、それは本当ですか?」

「オジサンはやめなさい。 分かってると思うけど、全敗すれば、当然剣術部はなくなり、椿宗介は退学よ」

「ちっ・・・」

「試合はさっきも言ったけど、3日後。 学園長があなた達に情けをかけたのよ。 期待にこたえないといけないわね?」

「それまで、道場を開放してあげよう。 練習をしてもいいし、胴着や防具も貸そうじゃないか」


さも、自分は寛大であるかのような、そんな嫌らしい口ぶりだ。


「話は以上よ。 教室に戻りなさい」


俺たちは複雑な思いで学園長室を出た。





四人とも、学園側の行動に困惑しているようだ。

これは完全に剣術部潰しだ・・・。

俺たちが素人だってことが利用されてしまった。

一勝すればというが、あの星雲から俺たちが一勝出来る可能性は限りなくゼロに近い。

5人集まる前に潰しにきやがった・・・。



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「あなたたち、暗い顔してどうしたのよ。 たかだか一勝でしょ? 最初は驚いたけど、なんとかなるんじゃない?」

「でも、その一勝が果てしなく厳しいものだと思うんです」

「何言ってるのよ。 4対1なのよ。 楽勝じゃない。 周りをみんなで取り囲めばいいのよ」


どうやらレイカは剣術のルールを良く分かっていないようだ。

 

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「星雲学園って強いんだよね?」

「全国制覇してるもんな」

「でも、運が良ければもしかしたら一勝くらいは出来るかもしれないよ」


はるかは相変わらず前向きだが、そこには根拠が存在していない。


「一回だから平気です。 とりあえず、はるかさんが勝ちますから」


リコはへらーっとして、まるで他人事のようだ。


「私が勝つの? あんまり自信ないな・・・」

「そうですよ。 鈴木先輩は運動神経がいいから、いけますって!」

「う~ん・・・・。 まあ、一勝だもんね。 なんだかいける気がしてきた!」

「そうそう。 イケるわよ! ねぇ? 試合の話もかねてお茶でもしない? 私、いい紅茶を手に入れたのよ」

「紅茶飲みたいです!」

「じゃあ、道場に行って飲みましょうか? 学園長室にいたせいか、すごく疲れましたから」

「そうだね。 3日しかないし、竹刀とか握ってみたいし、放課後に道場に集合ね!」

「なんだか、ワクワクしますね。 みんなで道場でティータイムです!」


・・・こいつら。

甘く考え始めた連中に、苛立ちを覚えた。

こんなことで勝てるのか・・・。

俺はただひたすら不安になった。





放課後になり、予定通り俺たちは道場の前に集合した。

 

 

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「凄く趣のある建物だね。 旅館に来たみたい」

「家族で旅行に行ったときに、こういう建物見たことありますね」

「紅茶は持ってきたわよ。 中でゆっくりしましょうよ」

「遠足みたいですね」


四人は道場を目の前にして、浮かれている。


「おまえら、遊びじゃねーぞ」

「分かってるって。 紅茶はあとにして、とりあえず中に入ろうよ」


俺たちは道場の中に入る。




 

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道場内に入るとすえた臭いがした。

剣術の防具の臭いだろうか?

それとも長年使っていなかったからの臭いか。

カビ臭さもする。

独特の空気感に身が引き締まった。

・・・のは俺だけのようで、四人は興味津々のようだ。


「見て! 胴着ってあれじゃない?」


はるかが指差した先に、胴着や袴がたたんで置いてあった。

その横には、面や胴もある。


「剣術ってこれを身につけて戦うんですよね」


沢村は小手を手にとって見ている。


「ちょっと・・・・。 ここ臭いんだけど。 消臭剤ないのかしら?」

「ここでティータイムはちょっときついです」


それぞれ胴着を手に取ったり、道場内の臭いに愚痴ったりしている。


「まあ、そういわずに着てみない?」


はるかが皆をなだめるように切り出した。

 

「リコは猫さんの耳がついてる面を被りたいです」

「・・・あのなぁ。 試合まで、3日しかないんだぞ。 さっさと練習した方がいいんじゃないか?」

「分かってるわよ。 椿宗介、なにをそんなにカリカリしてるのかしら?」

「うっせーよ。 そんなことはいいから、さっさと胴着に着替えろよ」


俺は悠長な4人に焦りを感じていた。


「宗介? これ、どうやって着るの?」」

「上の胴着を着てから、袴じゃないのか? しらねーけど」

「ほんとにこれ地味ね。 こんなものを着て人前に出なきゃいけないなんて、まるで罰ゲームだわ」

「はじめて着るです。 ドキドキ、ドキドキ」

「いいから着替えろ!」


4人は一斉に俺を見た。

 

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「あのぉ・・・。 椿先輩?」

「なんだ?」

「先輩がいると、その、着替えられないんですけど」

「え? あ、そっか・・・」

「宗介、どさくさに紛れて着替えを覗こうとしてたんでしょ?」

「し、してねーよ」

「最低ね! いやらしい人だわ」

「覗き・・・いやぁぁ!!」

「出て行って頂戴!!」

「わかったよ」

「着替えたら、呼びますから」

「はいはい・・・」


しぶしぶ道場を出た。


・・・。


ったく、ひでぇ~扱いだな。

 

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「宗介? こんな所でなにやってんの?」
「水嶋! いや・・・中ではるか達が、剣術着に着替えてんだよ」
「え!? この中で!? 部になったの?」
「まだだけどさ、いろいろあって・・・。 あ、覗くなよ」
「・・・それはフリ? ・・・気になる」


中から声が聞こえてきた。

 

「沢村さん? これってどうやって結ぶの?」

「内側に紐がありますね。 それを先に結んで、あとから外側の紐を結ぶんじゃないですか?」

「ああ、これね。 なるほど~。 ありがとう! さっすが沢村さん!」

「は、はるかさん!」

「え? なに?」

「ど、どでかいです!」

「え? 何が?」

「む、胸が・・・どでかいです!」

「そ、そんなことないよ」

「あら、鈴木さん、あなた顔に似合わずご立派なものをもってるのね」

「神山さん、声が大きいよ。 普通だから・・・」

「いいえ、普通ではありません。 うらやましや」

「その剣術着じゃ、苦しくありませんか?」

「大丈夫。 ギュってすれば、しまるから・・・あっ、ちょっと苦しいかも・・・」

「はるかさん、竹刀が挟めそうです」

「佐田先輩、なんてこというんですか!」

「冗談ですよ」

 

「おい! とんでもない会話が繰り広げられてるぞ!」
「・・・ああ」
「中が、見たい・・・」
「我慢しろよ。 絶対に見ちゃダメだ」
「それは、フリだよな?」
「・・・」

 

「沢村さん、私の袴の紐を結んでちょうだい」

「もう。 紐くらい自分で結んでくださいよ」

「無理よ。 だって私、後ろで紐を結んだことないもの」

「後ろで結ぶのって難しいよね」

「ブラジャーのホックだって生徒Aにやらせてるのよ」

「そんなことまでさせてるんですか!?」

「ほら、沢村さん、早く結んで」

「分かりました。 後ろ向いてください」

「あっ、あんっ、く、苦しいわ」

「あ、すいません」

「もう少し緩くむすんで、あっ・・・」

「このくらいですか?」

「あ、ダメ、きついわ・・・あっ、あん、そのくらいが、いいわ」

「リコのも結んでください」

「私がやってあげるね。 ・・・このくらいでいい?」

「もっと、強くです!」

「こう?」

「もっと、もっとです!!」

「こ、こう?」

「もっとです。 もっとリコをしめて下さい」

「・・・このくらいでいいよね?」

「もっと! もっときつくです!!」

「・・・これ以上は無理だよ」

 

「よく分からないけど、中、楽しそうだね」
「・・・そうだな」


着替えるだけでこれだ。

何だか先が思いやられるな・・・。


「ねぇ宗介? なんか友達増えてない?」
「え?」
「剣術部作ったりして、前の宗介じゃ考えられないことだよね」
「勘違いしないで欲しいんだけど、剣術部作ってるのは退学になりたくないからであって、友達とか仲間とかそんなんじゃないから」
「ほんとかな? なんか昔の宗介じゃないみたいに見えるけど」
「そんなんじゃないから!」


俺はつい、声を荒げてしまった。

 

「・・・頼むよ」
「・・・分かってるから」
「じゃあ、俺、行くよ。 試験の勉強が残ってるからさ」
「あいつらの練習、見ていかないのか?」
「あいにく、試験がちかくてさ。 じゃあね」
「ああ。 またな」


水嶋はこっちを振り向かず、手だけをあげて道場から去っていった。


「椿先輩!! 着替え終わりました。 入ってもいいですよ」





沢村と共に道場内に入る。


「おおぉ!!」


目の前に、剣術部らしい光景が広がった。

 

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「どう? 似合う?」

「ああ。 なんだか剣術部っぽさ出てきてんじゃね? てか、レイカだけ違うし・・・。 まぁ、似合っちゃいるけど・・・」

「当然よ。 私はなんでも着こなすわ」


・・・こいつ、こっそり自前で用意してたのか。

そのわりに地味だなんだと言ってたのか。

これ以上派手な胴着って、逆にちょっと見てみたいな・・・。


「剣術の格好って思った以上に重たいんですね」

「そうだね。 みんな初めてだから、慣れるのに時間かかりそうだね」

「でも、誰か一人勝てばいいんだから大したことないわ」

「レイカも少しは頑張れよ」

「汗をかかない程度に頑張るわ」

「すでに暑いです。 そして重さで押しつぶされそうです」

「面を被ったら蒸し風呂状態だね」

「どんどん自信がなくなっていきますね」

「袴を踏んで、転ばないように注意しなければ」

「みんな、頑張ろうよ!! はじめての剣術、楽しもう!」


楽しもう。

はるかの言ってることは正しいが、楽しんでいる時間は残されていない。


「竹刀を持ってみたらどうだ?」

「そうだね。 でも、これってどうやって持つんだろ」

「そんなの適当でいいのよ」


イカは竹刀を持った。


「えいっ!!」


適当に竹刀を振り回す。


「そんな感じですよね剣術って」


アキナも適当に振り回している。


「足はどうすればいいのかな?」


リコがバタバタと道場内を駆け回った。


「ここはリコの部屋よりも広いです~。 わ~い!」

「ほら! 走り回るなって。 ちゃんとやれよ」

「面! とか言わなきゃいけないのよね?」

「言う必要ないわ。 適当でいいのよ」

「レイカさん! 面です!!」


リコはレイカ目掛けて竹刀を振る。

イカはギリギリで竹刀を避けた。


「ちょっと! 何考えてるのよ! そういうのは人のいないところでやりなさいよ!」

「ご、ごめんなさいです!」

「人に当たったら危ないでしょ!」

「・・・当てないと勝てないんだけどな」

「こんなんでいいのかな? ・・・剣術って特殊だからやり方がイマイチ分からないんだよなぁ」


まずいな・・・。

俺は焦っていた。

こんな練習をいくらしても意味が無い。

4人は各々、竹刀をやみくもに振り回し始めた。


・・・。


──「・・・何をやってるんだか」


呆れたような声がした。

栗林が入口から練習をみている。

 

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「神聖な道場が、こんなことに使われるなんて・・・。 情けないことね」

「・・・」


栗林はそのまま立ち去ってしまった。

やっぱり駄目だ。

ちゃんとした練習方法を確率しなきゃ勝てるどころか試合にすらならない。

なんとかしねーと。

俺は道場を抜けだし、図書室に向かった。




 

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どんなことでもいい、相手の事を知る必要があると俺は考えた。

どんな強い相手でも、必ず弱点があるはずだ。

負けた試合の情報でもあれば、弱点も見つけやすいだろう。

こっちは素人、そこを突くしか勝機はない。

図書室で星雲学園の記事の載っている雑誌や新聞をあさり、目を通した。

なになに・・・?

剣術雑誌には星雲学園の特集が組まれていた。


『最強の星雲学園剣術部に死角なし!』


見出しから不安になる記事だ。


『全国剣術大会、玉勇旗の優勝候補、今年も優勝は確実視されている』
『今年のメンバーは、星雲史上最強の5人・・・』
『個々の実力もさることながら、チームワークは抜群』
『計算された動きで完全勝利を目指す桐生小梅。 彼女のガードを崩せる者はいない・・・』
『美しき最強剣士、右近シズル。 多彩な技を華麗に決める天才・・・』
『天然スーパー女剣士、七星樹。 スピード・スタミナ・パワー。 全てにおいてパーフェクト・・・』
『そして、いわずとしれた剣の申し子・・・暁セツナ。 今の剣術界に彼女を倒せる者はいない・・・』


おいおい・・・。

特集っぽい軽いノリの文体とは違い、記事の中身は星雲がいかに強いか、これまでの試合結果や優勝した大会のデータとともに書かれている。

記事を読み勧めていくにつれ、不安は増していく。


『だれが彼女たちに勝つことができるだろうか・・・』


特集はそう締めくくられていた。

戦慄が走った。

素人がどうにか出来る相手ではない。

いや、経験者でも勝てる相手じゃない。

どうすればいいんだよ・・・。

俺はうなだれながら、道場に戻った。




 

道場に戻ると、はるかたちは疲れたのか、座り込んでお喋りをしている。


「あ、宗介おかえり。 こっちに来てお茶でも飲む?」


見ると、レイカが用意した紅茶をすすっている。

・・・。

俺はムッとした。



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「この紅茶美味しいですね。 どこで買ったんですか?」

「海外から取り寄せたわ。 とっても貴重な紅茶よ。 葉っぱが違うのよね~」

「神山さん、いつもこんな美味しいもの飲んでるんだね~。 羨ましいかも」


・・・おいっ!


俺は心の中で叫んだ。


「佐田先輩もこっちに来ませんか?」


リコをみると犬を集めて戯れている。

 

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「犬さん、犬さん、今度、遊園地に行きましょう!」

「リコちゃん、犬は入れないと思うよ!」

「あらら。 残念です。 では、公園で遊びましょう」


リコは犬に頬ずりしている。

おい・・・。


「どうしたの? 椿宗介もこっちに来たら?」

「・・・」


俺はあからさまに不機嫌な表情をした。


「宗介?」

「そんなんで・・・そんなんで勝てるのか?」

「焦ってもどうにもなりませんし・・・」

「・・・少しはやる気あるかと思ったけど、俺の勘違いだったようだな」


俺は後ろを向いて、道場を出ようとした。


「どこかに行くですか?」

「頭いてぇーから、先に帰るわ。 おまえらはお茶でもしてろ」


俺は道場を出た。


「宗介・・・」


・・・。

 




 

俺は部屋に閉じこもった。

どうしようもなくてイライラがおさまらない。

なんなんだよ・・・あいつら。

なんのために俺は剣術部を作ろうとしていたか分からなくなった。

いくら素人とはいえ、もっとやり方があるだろ・・・。

くそっ。

俺はテレビゲームのスイッチをつけた。

・・・。

・・・・・・。


もくもくとRPGを進めていく。

ストーリーが頭に入ってこない。

敵が現れ、それを倒す。

まるで作業のように、ただ無造作に手だけを動かした。

・・・・・・。

つまんねぇ・・・。

俺はコントローラーを投げて、ベッドに寝転んだ。

なにもかもがくだらない。

あいつら、ほんとにただの寄せ集めじゃねえかよ。

オトモダチごっこなんて、まっぴらごめんだ。

桜木と出会う前の生活を思い出した。

ただ学園に行き、沈んだように生活する毎日。

熱くなることなんてなかった自分・・・。

だが、こんなにイラつくことなんてなかった。

もうなにもかもが、どうでもいい気持ちになった。

おもむろにメールを打つ。


『マコトへ。 お元気ですか? 俺はあまり元気がありません。 今日は、一人で過ごしてました。 剣術部なんてくだらない・・・。 一人で過ごすことの方が、何倍も楽ですね。 はっきりとそれが分かった気がします。 マコトへ』


「やっぱりお前が正しいよ。 信じられるのはマコトの言う事だけだよ・・・」


俺はメールを送り携帯を閉じた。

そのまま深い眠りにつこうとした時だった。


──携帯が鳴る。


俺はとっさに電話に出た。

「もしもし?」
「もしもし、桜木だ」
「桜木!?」


俺はベッドから飛び起きた。


「今、椿の家の前にいるんだ」
「え? うちの前!?」
「ジョギング途中に前を通りかかったから・・・」


窓を開け下をみると、携帯を持った桜木がこっちを見ていた。

 

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「おい! 降りてきてくれないか? 椿に話したいことがある」

「・・・分かったよ」


俺は何の迷いもなく、外に出た。





「もう寝てたのか? 電気が消えてたみたいだが」
「もうすぐ寝ようかと思ってさ。 どうした?」
「特に深い話じゃないんだが・・・」
「なんだ?」
「さっき、ジョギング途中に学園の前を通りかかったんだ。 そしたら道場に電気が付いていてな」
「道場?」
「気になって覗いてみたんだ。 道場では鈴木さんたちが練習していたよ」
「え!? あいつらまだ道場にいるのか?」
「事情は訊いたよ。 星雲学園と交流試合をするんだってな」
「そうなんだ・・・」
「やっかいなことになってしまったな」


それ以上は言わなかったが、どうしようもないといった顔をしている。


「こんな時間まで、何やってるんだよ」
「練習・・・してたぞ」
「え?」
「それから、鈴木さんからの伝言だ」
「はるかから?」
「さっきは悪かった。 やる気が無いわけじゃない」
「・・・」
「ただ、これ以上、宗介には迷惑をかけられない、そう言っていた」
「・・・あいつら」
「なんのことかは分からないが・・・伝えたぞ」


俺は唇を噛みしめた。

次の瞬間、俺の足は道場に走っていた。





道場につく。

目に飛び込んできたのは、はるかが必死で竹刀を握っている姿だった。

汗だくになりながらも、何度も何度も振っている。

はるか・・・。

その横でアキナは参考書のようなものを読んでいる。

俺は声を掛けようとした。

 

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「待て。 見守ってやれ」
「桜木・・・ついてきたのかよ」
「違う。 私はただジョギングの続きをしてるだけだ」


イカはフラフラになりながら腹筋をしているようだ。

あのレイカが腹筋・・・。

異様な光景だった。


「さっき見たときは腕立てをやっていたぞ。 あのお嬢様が腕立てか。 笑えるな」


イカは息をきらし、ゆっくりだが、諦めず、必死で続けている。


「沢村が見ている本は剣術の基本が書いてある書物だ。 もうずっとあの調子だ」


沢村・・・。

はるかが合間、合間に声を掛け、周りに発破を掛けている。

はるかを中心に練習をこなしているのか・・・。


「鈴木さんはリーダーに向いているかもしれないな。 みんなよく言うことを聞いていた。 不格好な竹刀の振り方だが・・・悪くない」


はるかは汗をぬぐいながらも、竹刀を振る手をとめない。

リコは道場の隅で寝ている。


「リコのやつ・・・」
「リコはさっきまでずっと走ってたんだ。 ちょうど私のジョギングとかぶってな。 離されまいと必死でついてきたよ・・・」


リコがジョギング・・・?


「なかなかいいペースで走ってたんだが、諦めずよく走っていた」
「そうか・・・。 あいつ、自分の足で走ったのか・・・」


俺は胸が熱くなった。

もう諦めたとばかり思っていた。

やる気なんてどこにもないんだと思っていた。

もう、誰も信じられないと・・・。

でも今目の前に広がっている光景は現実だ。

付け焼刃でめちゃくちゃな練習だが、みんな一生懸命だった。


「・・・邪魔しちゃ悪いよな」


俺は練習に水をさすことを避けた。

だから何も声をかけずに家に戻ることにした。

桜木も黙って俺のあとについて来た。




 

俺は満足感でいっぱいだった。

あいつら・・・。

ちゃんとわかっててくれたのか。

いままでのことが、少しだけ報われた気がした。



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「桜木、教えてくれてありがとうな」
「・・・ジョギングのついでだ」
「またまたぁ。 教えに来てくれたんだろ」


桜木は浮かない顔をした。

その変化に俺は一瞬、ぞっとした。


「椿? お前は星雲学園との交流試合に勝てると思ってるのか?」


冷たく、突き放すような聞き方だった。


「どうだ? 勝てると思ってるのか? 勝てないと、退学なんだろ?」
「そりゃ・・・勝つのは難しいと思う」
「練習していた彼女たちをみて安心したのか?」
「ああ・・・」
「はっきり言おうか? 鈴木さんたちが星雲学園に勝つことは絶対に出来ない。 可能性はゼロだ」
「・・・言われなくても分かってるよ」


桜木の言っていることは正しいのだろう。

だが、俺は言い方が気に食わなかった。


「いや、椿はそういいながらも、もしかしたら一勝くらいなら出来るかもしれないと思っているだろ?」


・・・。


・・・奇跡を信じちゃダメなのかよ。


「奇跡なんてものを信じているのか? 剣術はそんなに甘いものじゃない。 奇跡は信じるな」


桜木は強い口調で俺に詰め寄った。


「・・・分かってるから」
「あんな練習じゃ無理だ。 あれは剣術じゃない。 ただのお遊びだ」


桜木はなぜか焦っているように感じた。


「剣術は厳しい。 そして深い世界だ」


まるで自問自答しているようだ。


「無駄だ。 鈴木さんたちのやっていることは・・・無駄以外の何ものでもない」


そうだな・・・。


「でも、俺はうれしかったんだ」
「・・・嬉しい?」
「一生懸命に練習してる、あいつらをみて、なんていうか、嬉しかったんだ」



 

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桜木の顔が歪んだ。

俺は桜木の目を見つめた。

桜木は今にも泣きそうな顔になって、何も言わずに去っていった。


・・・。


・・・最後の桜木の顔が脳裏に焼きついた。

やるせないような、哀しいような顔。

どれだけ可能性が無いことでも、あいつらは頑張っていた。

だから、俺も俺に出来ることで、可能性を変えたい。

ゼロをゼロではなく1にでも2にでもしたい。

俺があいつらに出来ること。

奇跡を起こすこと・・・。

それは・・・・・・。

桜木を・・・・・・。

桜木を剣術部に入れることだ・・・。


・・・。