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ドキドキ文芸部プラス!-DOKI DOKI Literature Club Plus!+-【尊重パート】

 


この部が正式に認められてから、数週間が過ぎた。

それぞれが持つ思い悩みを通じて、現在の部員であるモニカ、サヨリ、そしてユリの3人は、関係を深めていった。

サヨリはユリが読むハイ・ファンタジー小説に触れるようになり、サヨリが勧める詩に皆が興味を持ち始めた。

ある日のこと。

いつもと変わらぬ日常は、突然開いた部室のドアによって破られた。

入ってきたのは、初めて見る少女だ。

 

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「・・・こんにちは」


サヨリは、興奮気味にモニカの袖を引っ張った。

ユリは気づかれないようにと姿勢を変えて、また黙々と読書に戻る。

 

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「文芸部に興味があって来たの?」

「そうよ」

「やった、うれしいわ! 来てくれてありがとう! まだ小さな部だから、新しい子が来てくれてうれしいわ」

「そうだね! 好きなところに座って! わたしの隣でもいいよ」


サヨリは自分の机まで飛び跳ねて、椅子をてのひらで叩く。


「あっ、それとユリちゃんんがお茶を淹れてくれるから!」


「えっちょっ──」


自分に注目を集めたことに抗議するかのように、ユリはサヨリを見上げた。

ナツキは黙って全員を見渡し、それからサヨリの隣に座った。

続いてモニカがそのそばに座る。

突然できた人だかりに、これなら教室の隅でお茶を淹れてる方がいいかもとユリは席を立つ。


「それじゃ、みんなで自己紹介しましょうか?」

「いいけど」

「えっと、私はモニカ。 私がこの部を立ち上げたの。 前はディベート部にいたんだけど、何て言うか、もっと情熱を持てることがしたくなったの。 だから、書いたりとか読んだりとか、文芸関連ならどんな形でもいいからみんなが自由に自己表現できる場として文芸部を始めたの」

「へえ、アンタの部だと思ったわ。 何か、そんな雰囲気あるもんね」

「アハハ。 どんな雰囲気?」

「そうね、何て言うか・・・気にしないで。 会ったばっかりの人を、あれこれ言うつもりはないし」

「すごく・・・大人っぽいね。 わたしはいっつも人のことを決めつけすぎて、思い込みまでしちゃうから」

「あら、そんなことないわよ、サヨリ


サヨリちゃんはそんなことありますよ」


感情のこもらないユリの冗談が聞こえてくる。

ナツキはクスクス笑った。


「わたしは、サヨリ。 好きなことは、みんなと仲良くなって友達になること! あっ、それと詩も好きだよ」

「へぇ、そうなの? すごく大人っぽいじゃない」

「えへへ。 わたしは大人だよ」

 

ユリの電気ケトルから蒸気の吹き出す音が部屋中に響く。


「あ、あの子はユリちゃん」


サヨリは声を落とす。


「恥ずかしがり屋さんだけど、すっごく親切でとっても頭がいいの。 長ーいファンタジーの本とお茶が好き。 わたし、ユリちゃんが大好きなの」

「最後はアタシみたいね。 アタシはナツキ。 好きなことは音楽を聞くことと、繁華街とかをうろつくこと。 それと、大好きなアイスクリームのフレーバーはイチゴ」

「わぁ、アイスクリーム食べに行こうよ! わたしの好きなフレーバーはね・・・」

「クッキー・ドウじゃない? それかチョコレートかも?」

「・・・クッキー・ドウだよ」

「モニカはたぶん・・・バニラね」

「ちょっと、何なの、それ・・・?」

「アタシ、他人の好きなアイスクリームの味を当てるのが得意なの」

「ユリちゃんの好きな味は・・・?」


ナツキは肩をすくめる。


「抹茶じゃない? アハハ! 冗談よ。 ユリのはさっぱりわかんないわ」

「ええと・・・」

「あのさ、かなりガッカリなんだけど。 ここって出かけたりとか、部活的なことをしたりとかしないの?」

「ああ、まあ・・・部活的なこともやるわよ。 ご覧の通り、まだ3人しかメンバーがいないから、あまりかっちりしてないのよ。 だから各々好きなことをして、ゆったり過ごしてるというか。 だけど何か始める時かもって考えてはいるの。 もっとちゃんとした部活動とか。 この部を立ち上げてから、けっこう経ったしね。 というわけで、ナツキ、あなたはどんな種類の文芸が好きなの? この部に興味を持った理由は?」

「あー・・・えっと、アタシは・・・文芸・・・。 まあ、マンガが好きね」

「マンガ・・・?」

「ちょっと何なの、その反応」

「えへへ! わたし、この部でマンガ読みたいな!」

「ちょ、ちょっと待って!」

「すごくいい考えだよ! わたしが今まで読んでたのってさ・・・その・・・」


机のところへ戻ってきたユリは、持ってきたティーカップのトレイを誰も座っていない席に下ろす。


「今までのは・・・こう、内容が深くてハマっちゃうような本だったんだけど、もう少し単純なのでもいいかなって」

「マンガは単純じゃないわよ! そう思うなら、アンタがニュアンスを理解できてないだけよ」

「あっ・・・そういう意味で単純って言ったんじゃないよ!」

「まあ、とにかく・・・。 マンガのことは置いておいて、他にも文学らしいことで興味のあるものはある?」

「えーと・・・何も」

「それなら、アニメ研究会は考えてみた?」

「まさか。 アニメ研究会なんて入る気ないわよ! あそこは巣窟でしょ・・・・・・変なヤツらの。 あのさ、そんな大した話? マンガは文学でしょ。 違う?」

「ええと・・・。 つまり、文学の文字通りの定義を考えた時、厳密には・・・」

「わかったわよ。 ねえ・・・アンタがやってほしい部活動だったら、アタシ何でもやるわ。 だから入れてくれない? 誰にも迷惑かけないから。 ここにアタシのマンガを置かせてくれて、放課後に時間が潰せるなら、どんな部活動でも文字通り何でもやってあげる。 それでいいでしょ?」

「・・・。 そうね、そういうことなら、それでいいわ」

 

 

 

 

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「やったね、ありがとう。 アンタ、良いヤツね。 マンガは自分のロッカーに詰め込んであるの。 今から取ってくるわ。 いい?」


ナツキが席を立つ。


「手伝おうか?」

「ううん、平気。 ロッカーの中を見られたくないの。 アハハ」

「そうなんだ。 だけど、わたしよりはマシだと思うよ!」

「お互いに、見られないままだといいわね」


ナツキが部室を出て行き、部室が静まり返る。

聞こえるのはユリがお茶をすする音だけだ。


「もう、私ったら何て押しに弱いのかしら・・・」

「ううん、悪いことじゃないよ! ナツキちゃんは、すごく楽しそうだしさ!」

「そうかもしれないけれど・・・。 彼女が、本当に勉学に興味があるとは思えないの。 別にそれでも良いんだけど、あの子、部活動に参加するって言ってるけど義務で仕方なくやるって感じだったわ」

 

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「彼女のお茶が冷めてしまいますね」

「でしょう!? いや・・・お茶の話じゃなくってね・・・」

「でも・・・参加する機会は誰にでも与えられるべきだと思う。 特に、この文芸部でナツキちゃんが楽しんでくれるならね。 それに、あの子はきっと文学を好きになってくれるよ」

「彼女のマンガを読みたいだけじゃないわよね、サヨリ?」

「ねえ、わたしを何だと思ってるの?」

「ごめんなさい・・・そんなつもりじゃなくて。 本当に心配なのよ。 ユリ、何か意見はある?」

「特に何も。 あの人は、私を含め、誰も困らせるつもりはないと言いました。 それなら・・・」

「わたしはユリちゃんを困らせてるってこと?」

「いいえ。 あなたがそばにいてくれるのはうれしいです」

「えへへ~、知ってた~。 ただ褒めてほしかっただけっ」

「そうだと思いました」

「だけど、それでも・・・。 彼女に機会をつくるべきだって、本当にそう思うの」

「ええ・・・そうね。 だけど、そろそろ部活動を本格化させたいのよ」

「お手伝いしますよ」


突然、何かがドアにゴツンとぶつかった音が、3人の耳に飛び込んだ。


「今のって?」


サヨリが立ち上がってドアに歩み寄り、開くと・・・。


「うう・・・ありがと」


マンガが入っているであろう3つの箱を抱えたナツキが、うめき声をあげながらよろよろ部屋へ入ってくる。

それから、ゆっくりかがみ、できるだけ優しくそれを床に落とした。

 

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「すごいコレクションね・・・」


サヨリは楽しくなってクスクス笑う。

息を整えながら、ナツキは返事をした。


「まだ・・・あともう一つあるの・・・自分で・・・片付けられる・・・から・・・マンガの並べ方は決まってるの・・・」


モニカは不安げに、サヨリとユリを見る。

部活として本当に大丈夫なのだろうか?

きっとこれは、部員が現状で満足することなく、部活を本格化していくために必要なことだったのだろう。

ようやくまともな部活を始める時期が来たということなのだ・・・。


・・・。

 

次の部活でのこと。

一番最初にやってきたのはモニカだった。

だがナツキが入部して以来、モニカの気は休まらなくなっていた。

 

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「どうしてこんなにナーバスになっているのかしら・・・?」


モニカは行きつ戻りつし、自身の気持ちを理解しようとする。


「ナツキは、誰かを困らせるつもりはないと言っていたわ──なのに、どうしてこんなにいつもと雰囲気が違うの?」


モニカが考えていると、部室のドアが開き、箱を抱えたナツキが姿を見せた。


「・・・」

「・・・」


モニカは無理やり笑顔を浮かべ、ナツキが物置へ行くまでの道をつくってやる。

ナツキは、御礼の代わりに笑顔を浮かべる。


「・・・手伝いましょうか?」
「ううん、平気だから」


モニカはぎこちなくも会話を始めようとしたが、きっかけをつかみ損ねる。

興味本位で、ナツキがマンガをしまっている物置をのぞき込んだ。

 

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学用品で味気なかった棚は、今や色とりどりのかわいらしいイラストでいっぱいだ。


「ねえ・・・一番上の棚が空いてるわ。 そこに入れるのはどう?」
「そこに入れたら、アタシじゃ手が届かないの! 取り出すのにすごく不便でしょ」
「そうね、でも・・・」


モニカはため息をつく。

 

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「このマンガは何のためにあるんだって先生に聞かれるでしょうね。 そしたら、これは文芸部のものだって言わないといけないわね」
「だから?」
「・・・」


モニカは諦め、ぐったり席に座り込んだ。

こんなストレスを感じていては、ここ数週間で積み重ねてきた和やかな雰囲気が部室から追い出されてしまう。

 

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「おつ! かれ! サマー!」


サヨリが部室に飛び込んできた。


「あら、ご機嫌じゃない」

「でしょ! だって・・・これがあるから!」


サヨリは、ラップに包まれたクッキーを見せびらかす。


「お金が出てきたから、クッキーを買ったの! って、わあああ、すっごいかわいい!」


サヨリは物置の奥のカラフルな棚に駆け寄り、目が釘付けになった。

 

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「どこから読み始めようかな?」

「そのクッキー、一口くれたら読んでいいわよ」

「ええっ! あのお金を見つけるのに、運を使い果たしたのに!」

「我が王国に入りたければ税を払うのだ、農民よ」

「むーっ・・・」


降参したサヨリは、クッキーからラップを外し、ナツキのために一口分を割った。

そこへ、ユリが静かに部室に入ってきた。

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「はいはーい、それじゃ、みんな揃ったし・・・」


部員が一人増えただけなのに、どういうわけか賑わいが倍になったように感じる。


「今日はできそうな部活動をいくつか考えてみて、どれから始めてみたいかを決めましょう。 メンバーは4人になったから、グループでできることがあればいいわね。 その方が、みんなにとっていいでしょう?」

「賛成です」

「よかった! アイデアを考えてきたけど、みんなのアイデアも聞かせてほしいの」

「えーと、わたしはみんなの興味あることを聞くのがすっごく楽しかったから・・・。 自分が好きな文学について、毎日一人ずつ発表するのはどうかな?」

「ううん・・・そうね。 それも良いんだけど・・・」


モニカはユリとナツキをちらっと見る。

二人とも明らかに、お互いの興味があるジャンルを考えすらしなさそうだ。


「みんなが同じくらい楽しめるものを考えてみた方がいいかもしれないわね。 ほら、私たちそれぞれが読みたい本に投票する、とかね。 慣れ親しんだことにこだわるんじゃなくて、部のみんなで、興味の幅を広げようとするべきだと思うの」

「何かそれ、アタシに言ってない?」

「ナツキ、部の方針には、何でも従うって言わなかったかしら?」

「まあ、そうだけど、だからって部員の好みを無視していいってわけじゃないでしょ! アタシはサヨリの案が気に入ったわ」

「だよね、わたしも!」

「そうね、でも・・・。 その・・・」


モニカの声が次第に小さくなる。

ナツキを入部させたものの、モニカにはどうも彼女の意見を受け入れられない。

部のことを考えてくれないナツキの意見を、どうにも聞く気にはなれないのだった。


「ナツキ、他にみんなで共有できるような文学は、本当にない? あなたがここにマンガを置いておくのは全然構わないの。 だけど・・・」


ナツキは突然立ち上がり、モニカの言葉を遮る。

 

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「どうやらアタシにいてほしくないみたいね。 辞めるわ。 だけど、だったらもっとはっきり言ってほしかったわね」

「そう。 その場の勢いで判断するのはどうかと思うけど、好きにしてもらって構わないわ」

「・・・」


ナツキはモニカを睨みつけ、部室からまっすぐ出ていった。


「・・・」

「ナツキちゃん・・・」


サヨリはナツキを追いかけて行き、部室にはモニカとユリが残った。

モニカがぐったりと席に座るのは、今日で二度目だ。


「私って、本当に最低・・・・・・ううん、悪いのはあっちよ! そもそも、ナツキのせいなんだから」


モニカは同意を求めてユリを見上げるが、ユリは目をそらす。

 

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「あの子はたぶん、部活動に参加しなくてもいいような小さいクラブを探してたんだわ。 この部のことは何にも尊重しないのに、自分のことは尊重してほしいなんて一体どういうわけ? ユリ、私、間違ってる?」
「私は・・・こういうのが苦手で・・・」


モニカがため息をつく。


「私も苦手・・・。 どうしたらいいか、まったくわからない。 誰も傷つけたくはないけど、部の方針を貫くのは間違ってないと思うの。 だから何て言うか・・・文学への情熱を表現したいと思う人に入部してもらうべきなのよ。 せめて、そうしようとがんばる人がいい。 だから・・・ナツキはこの部に向いていないのよ、きっと」


深く考えずに出したその結論を自分でも受け入れられず、モニカは座り込んで口を閉ざした。

ユリは心配そうにしているが、何かを口にしたいわけではなさそうだった。


「・・・ごめんなさい。 読書を続けて。 あなたには関係ないものね」
「関係あります」
「えっ? どうして?」
「その・・・静かな空気が乱された雰囲気の中では、気持ちよく読書なんてできませんから」
「あっ・・・。 ああ、そう。 じゃあ、私がこの部を台無しにしてるってことよね」
「そう決めつけるのは・・・違うと思います」
「わかってる。 ごめんなさい。 悔しさと・・・何て言うか、罪悪感からちょっと言いすぎちゃっただけ・・・。 不満はナツキのせいだって言っているけれど、罪悪感は私のせいだって言っている感じ。 はあ・・・大事な時に冷静でいるのって、どうしてこんなに難しいのかしら?」
「あなたが冷静さを欠いているとは思いません。 欠いているのはナツキちゃんです。 彼女には、この部に要求する権利はありません。 あなたの部なのですから。 マンガなんておかしなもの、ここには必要ありません。 それでも彼女のために置いているのですから、彼女はあなたに恩を感じるべきです」
「そうね、あなたの言う通り、だけど・・・。 でも・・・その言い方は、少し厳しすぎるんじゃない?」
「あなたも同じ気持ちではないのですか? モニカちゃんは、そういうものとこの部を結びつけないように、いろいろと取り組んでいました。 だから、私は同じように感じているのだと思ったのですが・・・」
「違う! あっ・・・」


ナツキとのいざこざを思い出し、モニカは気づき始める。


「いや・・・確かに・・・そうかも。 その・・・マンガのことは別にして、私って本当にそんな風に振る舞ってる? この文芸部にマンガは関係ないって、自分を納得させてきただけなのかもしれない。 自分がそうしていたことに、気が動転しているの」


ため息とともに、モニカは物置へと歩み寄った。

モニカは、自分が色鮮やかな棚をじっと見つめていることに気づく。

 

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「ただ・・・これは、私が思っていた文芸部とは違う。 文芸部に反するものは、あるべきじゃないわ」


モニカは再び、自分を正当化し始める。

これは、これまで彼女が考えてこなかった複雑な問題だ。

何を以て文学とするか、線引きはどこにあるのだろうか?

モニカは考え込み、大きめの箱の一つに手を伸ばすと、何を見るでもなく一巻を取り出す。

ミニスカートを履き、かわいらしくも大袈裟なポーズを決めた4人の少女が表紙に描かれている。


「うーん、まあ、ちょっとだけ・・・」


ふざけた感じの表紙を面白がりながら、モニカは本を開いた。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

 

 

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「最悪。 モニカって何であんな最悪なわけ? アイツのバカバカしいクラブに入ってやっただけでも感謝してほしいもんだわ。 他に部員も見つかりそうもないってのに」
「モニカちゃんは、いつでもすごく素敵だよ! クラブの皆が幸せでいられるように、あれこれ気遣ってくれてるの」
「ああ、そう」
「えっと・・・普段はそうなんだよ・・・」
「人の批判に飽きちゃってる時は、そうなのかもね。 アタシがマンガが好きだからって、それが何なの? 誰か一人くらい受け入れてくれていいんじゃないの? あんなに上から目線じゃなくって」
「わたしは受け入れてるよ! かわいいと思うなあ」
「ちょっと! そういうのも上から目線って言うのよ!」
「ごめんね、そんなつもりじゃなくて・・・。 ナツキちゃんを支えてあげたいだけなの」


ナツキはため息をつく。


「わかってる。 ありがと。 ホント最悪だわ」
「わたしから何か、モニカちゃんに話してみようか?」
「結構よ。 アイツの意見は変わりそうもないしね。 例え、アンタが説得したところで・・・。 いまさら、歓迎されてるとは思えないだろうし。 別の部活を探すわ」
「待って、そんなことしなくていいよ! きっと仲直りできるから、ね? その、副部長として・・・ってわたしがそう思ってるだけかもなんだけど・・・。 辞めてほしくないの。 あるがままで幸せになる権利が、誰にだってある。 だから、ナツキちゃんにはここに居場所があるって知ってほしいの」
「・・・」
「ねえ、不思議だったんだけど・・・。 ナツキちゃんは、どうして文芸部に入部しようと思ったの?」
「どうしてって──」


ナツキはためらう。


「くだらない話よ」
「もう、そんなこと言わないで。 新入部員を歓迎してるんだから。 くだらない理由なんて、ないよ」
「アタシは歓迎されなかったけど・・・」
「わたしは歓迎したよ! だから・・・」
「・・・。 誰にも言わないでよ、いい? 特にモニカにはね」
「言わないよ」


ナツキはため息をつく。


「わたしは・・・いつも人から文句を言われることにウンザリしてるの。 自分が夢中になってても、誰かに横柄なことを言われて、楽しめなくなる。 他人の意見を気にしてるってわけじゃないけど。 でも、文芸部のチラシに・・・心を書くとか何とか書いてあったでしょ。 だから、試しに入ってみる価値くらいはあるかなって思ったのよ。 でもウソだったみたいね」


ナツキはシュンとして、つま先で壁を蹴る。


「あと、まあ書くことも好きだし・・・」
「そうなの!? どうしてモニカちゃんに言わなかったの?」
「だって! すごく批判的だったから・・・アイツが喜ぶようなことは言いたくなかった。 アイツを喜ばせたくなかったの。 それに、アタシが書くのが好きって知ったら、他のみんなと同じようなことをさせたでしょうね。 マンガなんかやめてもっと『大人らしい』ことをって・・・」
「うんと・・・」


二人は、しばらく黙っていた。

少なくとも、ナツキが今日部室に戻ることはないとサヨリは理解する。

だが、他のメンバーと同じように、ナツキにも入部の動機がちゃんとあるのだ。

それにこの文芸部は、そういう人をちゃんと歓迎するべきだ。


「ナツキちゃんが言いたいこととか伝えたいことがあれば、他のみんなと同じようにその想いを自由に表現してもいいんだよ。 そのための部活なんだから。 だから・・・ナツキちゃんが入部できるように、わたしができることは何でもやるよ。 約束するから」


・・・・・・。

 

・・・。

 

翌日の昼休み。

食堂と廊下は、友人と会ったり、限られた休憩時間を無駄にしないようにと急ぐ生徒たちでにぎわっていた。

 

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「あの子はどこかしら・・・?」


モニカもそのうちの一人で──いつもなら昼食は教室で食べるのだが──今日は別に用事があた。

ナツキがもう部室に来なくなるのではないかと思い、モニカはナツキに謝ろうと彼女を探していたのだった。


・・・。


しばらくして、ようやくナツキが見つかった。

ナツキの明るい髪のおかげで、人混みの中から背丈の小さな彼女を見つけ出すことができた。


「どうしよう・・・」


突如気まずさを感じて、モニカは近付くのが怖くなる。

ナツキはモニカの知らない友人と一緒にいて、元気いっぱいにおしゃべりをしていた。

彼女たちに割り込むのは、ずいぶんと無神経であるように思える。

 

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「ああそうだ、文芸部だっけ? 入ることにしたんでしょ?」

「は? 当然でしょ。 入らない理由がある?」

「ほらね! 言ったでしょ!」

「アハハ! アンタがアニメ研究会の文句を言いまくるから、ナツキは文芸部に行くしかなくなったんでしょ」

「アニメ研究会なんてくだらない部活には絶対入りたくないって言ってるでしょ!」

「まあ、そうだよね~」

「あんなくだらないものを捨てて、やっと大人になろうとしてるんだもの。 褒めてあげないとね」

「アハハ、ホント。 やっと中学生卒業だねー。 ナツキちゃん、オメデトー」

「うっさいな、ほっといてよ」

「ちょっと真に受けないでよ、冗談でしょ、冗談。 私たちみーんな、あんたの味方なのよ?」

「そうそう。 文芸部に入って、アンタがいつか有名な作家になったら、一番最初に本を買ってあげちゃうんだから」

「は? アンタ、エッチな二次創作買う気?」

「アハハハ! 当然よ! サイン入りのやつがいいわね!」

「それは何年も前の話でしょ! 今はもうやめたんだってば」

「だーかーらー。 冗談だって言ってんでしょ? それに、アンタがあれから成長したって証拠でしょ。 成長できたのは誰のおかげ? 私たちでしょ? だったら冗談くらい言う権利あると思わない?」

「・・・そうね」

「あーあ。 いつの間にやらアンタも立派な大人になったのね、涙が出ちゃう」


その時、ナツキがモニカの方を見た。

モニカは不意に視線をそらし、その場を離れた。


・・・。


「何あれ・・・? ひどい・・・。 ナツキをかばうべきだったのに! どうして私は逃げてしまったの・・・・・・でも、私に何か言う資格もないわ。 私も同じようなことをしてたんだから・・・。 最低・・・私、間違ったことしかしてない」


・・・・・・。


・・・。

 

放課後、モニカはぼんやりと部室へ向かった。

すでにユリは部室に来ていて、いつも通り本を読んでいる。

モニカは適当な席に、ぐったりと腰を下ろす──最近は、この座り方が多くなっているようだ。


「ユリ、私に部長は無理だわ。 自分の思い通りにいかないことに、全然うまく対処できない」


ユリは本から顔を上げる。

 

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「文芸部は自分を表現できる場所・・・でもそれは、私が気に入らない手段でない限りは、という条件付きだった。 本当に自分が嫌になる。 特に腹が立つのは、自分がやっていることを振り返って考えられていなかったことね。 なんて幼稚なの。 ごめんなさい、こんな風に大声で愚痴を言うべきじゃないわね。 ただ、頭の中がごちゃごちゃで」
「いえ・・・」
「え?」
「聞いていて楽しいです」
「そう??」
「ええ」
「・・・どうして?」


ユリは肩を竦める。


「ただ・・・気分がいいんです」
「えーと。 そうね、じゃあ・・・続けようかしら」


ユリはうなずく。


「そうね・・・。 その・・・あの子の性格なんだろうけど、ナツキって何かぶっきらぼうなところがあるじゃない? だから、部のことを真面目に考えてないんだって思ったの。 入部の理由もちゃんとわかってないくせに。 昼休みにね、廊下でナツキが友達と話しているのを見たの・・・ナツキ、すごい意地悪されてた。 大人になれとか何とか言われてて。 文芸部に入れば、幼稚なマンガから卒業できるってね。 すっごく頭に来て。 ・・・そんなの、楽しませてあげればいいじゃない。 ナツキがマンガを読んで幸せになれるなら、どうしてそれを奪おうとするのって。 その時わかったの。 言い方は遠回しだけど、私も同じことをしてたんだって・・・。 何かに情熱を持つのは良いことなんだって、彼女が感じられるようにすべきだった。 なのに、私は撥ねつけた。 いや、実際はそれを認めることを避けていた。 ユリ、あなたが初めて入部した時も同じようなことをしてたの!」
「そう・・・なんですか?」
「ええ、覚えてるわ。 私はファンタジーが全然好きじゃないから、撥ねつけようとしたの。 だけどサヨリが飛び込んできて、会話を引き継いでくれた。 その時、反省すべきだったのに、しなかった。 ただサヨリに丸投げしてただけ。 それで今、また同じ失敗をしてる。 しかも今回は、ナツキを傷つけてしまった」


モニカは首を横に振る。


「自分が苦手だからって拒否するのはもう止めにする。 バカだった。 ほんの少しでも自分の好きなことを誰かに伝えられるだけで、ナツキはきっとうれしいのよ・・・。 ナツキがあんな風に言われていて、本当に腹が立つわ。 やり返してやる」
「やり返す・・?」
「そうよ。 やり返すの・・・文芸部を、ナツキが望むようなものにすることでね。 彼女たちが望むような部にはしない」


突如、サヨリが飛び込んできて、モニカとユリは飛び上がる。

珍しく厳めしい顔をして、モニカの机へツカツカと歩いてくると、サヨリはその隣に座った。

 

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「意見があります! わたしは副部長だから、いいでしょ?」

「ナツキのこと?」

「そうです!」

「ええ・・・わかってるわ。 私が間違っていたわ。 本当にごめんなさい。 そのことについて、ちょうどユリと話していたの」

「ホント??」

「私がナツキの情熱を否定してしまったから、ここに自分の居場所がなくなったと思ってしまったんだわ。 文芸部が目指すものと正反対のことをしてたんだ。 ・・・申し訳ないわ。 お詫びをしないと」

「や・・・・・・やった、やったあ!」

「うふふ、意見してくれてありがとう、サヨリ。 同じ考えでうれしいわ」

「また友情の勝利だね! それで、どうやってナツキちゃんに埋め合わせするの?」

「・・・考えがあるの。 サヨリ、ナツキが今日部活に来るかどうかわかる?」

「たぶん・・・来ないと思う・・・」

「そう・・・」


モニカはそれを一番恐れていた。

自分の計画に支障が出るからではなく、自分が思わず引き起こした問題を目の当たりにすることになるからだ。

だが、正しいことをするためには、正面から向き合うしかない。

衝突から逃げ、嵐が過ぎるのを待つのは本当に簡単だ。

けれど、それではいけない。

傷つけてしまった相手の心に寄り添うことは、その人と向き合い、自分の問題点を認めるということだ。

今回の問題点は、この部の方針を間違えたことではなく──ナツキの気持ちを軽視したことにある。


「わかったわ。 それじゃあ、明日、ここにナツキを連れて来てくれる?」

「できるよ!」

「よかった、助かるわ。 ユリ、何も心配いらないわ。 でも友達でいてくれてありがとう。 あなたは聞き上手ね」

 

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「・・・・・・」


髪の毛をいじりながら、ユリは顔を向けて笑顔を隠す。


「それじゃ、今日は静かな部活になると思うわ。 私はちょっと出かけるけど、大丈夫?」

「うん、ユリちゃんと本を読んでるね! あれ、これってナツキちゃんの本? どうしてここにあるの?」


サヨリが隣の席にあったマンガを手に取る。


「ああ・・・それ? ナツキがうっかり置き忘れて行ったのかも・・・」

「でもナツキちゃんはクラブに来てなかったと思うんだけどな・・・?」

 

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「実は、モニカちゃんが・・・」

「ねえ、ユリ、この教室を使った誰かが置いていったんじゃないかしら。 そうよね?」

「・・・」


モニカはサヨリとユリに微笑みかける。

それから、手を振って部室を出て行った。


・・・。


「あの本を片付け忘れるなんて、うっかりしてたわ・・・。 サヨリが知ったら、間違いなくナツキにしゃべっちゃって、もっと気まずいことになっちゃう・・・。 さて・・・音楽室で借りられるピアノはあるかしら?」




 


次の部活の時間がやってきた。

最初に部室へやってきたのはモニカとユリだった。

 

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「本当に心配だわ。 サヨリはナツキを連れてきてくれると思う?」
「連れてきてくれます」
「どうしてそう思うの?」
「・・・。 だって・・・サヨリちゃんですから」
「うん・・・。 そうね、あなたの言うとおりよ」


時間がゆっくりと過ぎていく。

モニカは椅子に座り、立ち上がって部屋を歩き周り、また座り直す。

ユリは本から目を離さない。

それから、ついにドアが開く。

その後ろから、ナツキが重たい足取りで続き、緊張した様子で部屋を見渡す。

 

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「待ってたわ! 戻ってきてくれたのね」


部長であるモニカは、立ち上がり、二人に笑顔で呼びかける。

サヨリが座ったその隣に、ナツキは腰を下ろした。

部員の顔を見渡すと、モニカは部を立ち上げようとしていた日々を思い出す・・・。

こんな風に前に立って、ここにどんな人が集まるんだろうと毎日想像していた。

だが、現実は想像をはるかに超えており、こんなにも多種多様な趣味や性格を持つ部員が集まるなんて思いもしなかった。

そして、それぞれの悩みや葛藤がある中で、モニカがおぼろげながらも確かに定めようとしていた『ビジョン』と同じようなものを、それぞれが探し出し、見い出した。

彼女たちは信じ合うことや・・・

分かり合うこと。

そして、思いやることをもたらしてくれた。

次は、文芸部は彼女たちに何をもたらすだろうか?

気持ちだけが先走っていることに気づき、モニカは深呼吸をして現実に戻る。

 

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「・・・よし、みんな! これから文芸部を始めるわ。 今日はやろうと思っていることがあるの」


モニカは黒板の方を振り向く。

そこに、大きな文字で『マンガ』と書いた。


「今日は、特殊な文学の形式である・・・マンガについて、専門家から学びましょう」

「ちょっと! こんなのおかしくない? アンタがこんなことしたくないなんて、わかってる。 だから・・・」


モニカは首を横に振る。


「ナツキ・・・」


逃げ出したくなるような瞬間だった。

ここまで何とか頑張っていろんなことを乗り越えてきたのだ。

この問題は切り上げて、さっさと次に進んでしまってもいいのかもしれない。

だが、それでは満足できない。

満足してはならない。


「謝りたいの。 せっかく私の部活に興味を示してくれたのに、私は真面目に取り合わなかった。 間違ってたわ。 どうしてそんなことをしたんだろうと考えたら、自分がマンガに偏見を持っていたことに気づいたの。 それで、あなたにもひどい態度を取ってしまった。 ごめんなさい。 でも、あなたの情熱はみんなで分かち合えると思う。 ・・・だから、お詫びをしたいの」

「ああ、そう。 でもさ・・・サヨリに言われたから、そう言ってるだけなんでしょ」

「待って、違うよ! これ全部、モニカちゃんが一人で考えたの! モニカちゃんとは話もしてない」

「私もです・・・」

「これがこの文芸部なの。 この文芸部は、誰もが自分らしくいられる場所。 私たちはみんな、それぞれ興味のあることや、違いがある。 それを自由に表現できるようにするのが、私のビジョン。 そして・・・自由に表現できるように、みんなを思いやることが、私の目標。 だから、あなたを幸せにするものについて、知りたいの。 他のみんなと同じように、あなたにも幸せを感じてほしいの。 ・・・ダメかしら?」


ナツキは目をそらし、口ごもる。


「けど・・・。 本当にくだらないのよ。 アタシがハマってるものなんて」


モニカは笑う。

ナツキの席の前に膝をつくと、モニカは彼女の目を真っ直ぐに見つめる。

 

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「あなたが好きなことなら・・・くだらないことなんて、ないわ」

「えっと、ナツキちゃんはきっとわたしのこと好きだけど、わたしって割とくだらないかも・・・」

サヨリ、あなたもくだらなくないわよ」

「アハハッ、何なのよいったい。 アンタたちって、ホントおかしいんだから。 いいわ、何冊か紹介してあげる。 マンガは文学だって認めてくれたからね」


ナツキは立ち上がる。


「ああ、それと、前は言わなかったけど・・・。 ホントは、文章を書くのも好きなの。 プロ並みよ。 でも、それだけでアタシのことを気に入ってほしくなかったの」

「ええっ、そうなの? ・・・私、あなたのことを本当に誤解していたのね」

「まあ、いいわよ。 今日のテーマはこんな話じゃないでしょ? マンガについて、ね。 準備はいいかしら?」


・・・・・・。

 

・・・。

 


ナツキが文芸部に戻ってきてから、一週間が過ぎた。

あの日から、部活動が本格的に始まった。

自分の好きなジャンルの文学について紹介する日が、部員それぞれに設けられたのだ。

ある日の部活の終わり際、モニカは教室から出ようとするナツキに声をかけた。

 

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「ナツキ、何か急いで帰らなきゃいけない用事があったりする?」
「アタシ? 別にないけど、何で?」
「えっと・・・時間があるなら、見せたいものがあるの」
「いいわよ、何?」
「ここじゃなくてね・・・音楽室まで一緒に来てくれる?」
「音楽室? 何で?」
「見てのお楽しみよ」

 



 

 

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「あのね、私考えたんだけど──文芸部が私とサヨリだけだった時、どんな部にしたいかって話していたの。 私たち二人とも、誰もが自分を表現できる場所であることを大切にしてた。 それから、サヨリはおかしなことも言ってたわ・・・モニカは、文芸部を他の誰よりも自分が必要な部活にしようとしてるって。 あなたが入部して、ようやくその言葉の意味がわかった。 あなたのおかげで、私自身のことについてたくさん気づけた。 いつも意地っ張りで、物事をなかなか認められない自分、とかね」



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「ちょっと、何言ってんの? アタシ、何もしてないわ。 アタシはただ・・・マンガを山ほど持ってきて、思い通りにならなくて、ぐずっただけ。 そんなことで大騒ぎして、ホントにバカだった」
「いいえ・・・それが私にとっては、大切なことだったの。 あなたが傷ついてると知って、初めて自分の間違いに気づけたの。 それに、あなたの気持ちはちっともおかしくなんかない! 人に伝えたい想いがあるなら、それはちゃんと真剣に聞いてもらって、尊重されるべきよ」
「・・・でも・・・なかなかそうは思えないの。 だから、その・・・そもそも他の人がどう思うかなんて考えなくっていいんだと思う。 でも・・・人から責められるとそうはいかなくなって。 それでだんだん、そうか、"アタシに問題があるんだ"って感じるようになる。 アタシがみんなを楽しませることができてないんだって。 ありのままの自分を好きになってほしいだなんて・・・ただの高望み? ・・・そんなはずないよね。 たまにはみんなが、"本当のアタシ"を認めてくれないかなって思ってる」


ナツキの言葉に耳を傾けながら、モニカは彼女の友人たちがどう接していたか──その場のノリだけでナツキをからかっていた彼女たちを、鮮明に思い出していた。

彼女はどれほどの間、自分のために戦い、他人のために変わることを拒んできたのだろう?


「・・・ナツキ、私もあなたくらい強かったらよかったのにな。 あなたは自分自身にとても正直だわ。 私は・・・いつも他人の前では完璧な自分でいなきゃって思ってる。 だから、何か問題が起こりそうな時には、つい逃げ出してしまう。 でも、あなたのおかげで、自分のことを真剣に考えられるようになった。 見つめ直そうって、あなたを見て強く思ったの」
「でもさ──さっきも言ったけど・・・アタシは何もしてないからね」
「そう。 あなたは、ただそこにいてくれただけ。 私には、それで十分だったの。 あと・・・もう一つ・・・」
「ん?」


モニカは深呼吸する。


「えーっと、あのね・・・。 私、あなたのマンガをちょっとだけ読んじゃった"かも"・・・」
「え? アンタが? どういうこと? 何で言わなかったの?」
「ごめんなさい! いや、その・・・知られたくなかったって言うか・・・。 マンガのことできつくあたった後だったし」
「あははっ。 よりにもよってアンタが、アタシに内緒でマンガを読んでたなんてね。 すっごくおかしいわ」
「ええ、まあ・・・。 興味本位でパラパラめくってたんだけど、結局全部読んじゃって。 でも、登場人物の一人が文芸部だったの! すごい偶然じゃない?」
「アンタ、『パフェガールズ』読んだんだ!? へえ、いい趣味してるじゃない!」
「その──1巻だけよ! それに、適当に手に取っただけだし・・・」
「それじゃ、いい勘してるってことね! 気に入った場面、全部教えてよね!」
「あはは。 まあ・・・何だか不思議なつながりを感じたわ。 だって文芸部にいるだけじゃなくって・・・ピアノを演奏するんだもの。 不思議よね、だって私もずっとピアノをやってみたいと思ってたんだから。 そのキャラクターは・・・私がずっとつながりがっていたような、自分の行動を絶対に後悔しない、完璧な人間だった」

 

モニカはピアノへと向かい、椅子に座る。

 

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「私はいつも、自分の一番完璧なところ──人を感心させたり、もっと好きになってもらえるようなところだけを見せようとしてた。 でも、あなたが入部してから、そういう考えが自分をいかに苦しめるか、心から理解できたの。 私たちが何かを共有するのは、自分自身を表現したいから。 体験を共有することは、気持ちを共有するということ。 それで・・・あなたがいなかったら、ピアノを始めることはなかっただろうから、あなたに見てほしいって思ったの」
「アハハ。 ねえ、それってアタシじゃなくて『パフェガールズ』のおかげでしょ」
「いいえ・・・。 まあ、確かに『パフェガールズ』のおかげで思いついたかもしれないけれど・・・。 それでも、毎日練習を続けようと思ったのは、あなたのおかげ」
「毎日・・・?」
「だって・・・あなたのおかげで、私はやりたいことをやるべきだって思えるようになったの! まあ、まだ始めたばかりだけど・・・。 それにうまくもないしね。 全然まだまだ。 だけど・・・文芸部のために曲をつくったの。 本当に一生懸命がんばったの。 歌詞も何もないけど・・・でも、ねっ」


・・・。

 

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「・・・こういう曲」
「すっごくよかったわ」
「本当・・・?」
「ええ。 ビックリしたわ、プロ並みよ」
「アハハ! 全然!」
「タイトルは? 文芸部の曲だって言ってたわよね? なら・・・」
「タイトルは・・・。 "My song, Your note" これはね・・・。 みんな、この部にかけがえのないものをもたらしてくれた。 私が最初に想像していたのとはまったく違うものになったけれど。 それはきっと・・・私が自分勝手な完璧主義者だったから。 自分のためじゃなくて、みんなのためにあるべきなの。 この部がどういうものにしていくかは、みんなでやること。 それは絶対に変えはしない」
「えっと・・・本当に思ってくれてるんだって思うけど。 ちょっと褒めすぎって言うか。 アタシ、そこまで思いやってもらうような人間じゃないって言うか・・・。 入部した時、アタシも短気だったし。 だから、アタシも謝らないといけない気がするの。 ホントにたくさんのことにうんざりしてて、この部でも思い通りにならなかったから、腹を立てたんだと思う。 だから・・・そうね。 アンタに八つ当たりする気はまったくなかったの。 ホントに子どもっぽかったわ。 ふふ。 頑固なアタシに謝罪させてるんだから、アンタ、なかなかやるわね」
「いいの。 気にしてないわ。 おあいこよ。 でも、そんなこと考えてくれてたのね。 うれしいわ。 そんなことをじっくり考えるなんて、ナツキは大人だわ」
「それは──ふん、誰のおかげかしらね!」
「ふふっ」
「まあ、もうわかったわ。 とにかく、アンタが部室にマンガを置かせてくれる限り、アタシたちは貸し借りなしよ。 マンガも文学の一つの形って認めたでしょ。 あれ、もう取り消せないからね」
「ええ。 物置は全部あなたのものよ」
「えへへっ。 じゃあ、明日、文芸部のためにちょっとしたものを持ってこようかな。 ちょっとしたお返しよ」
「へえ、どんなもの?」
「お楽しみだってば。 でもガッカリはさせないわ」


・・・・・・。

 

・・・。

 


その次の部活で、4人の文芸部員たちは楽しい時間を過ごした。

そう、ナツキのつくったお菓子をみんなで囲みながら。


・・・。