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-ノベルゲーム・タイピング-

ドキドキ文芸部プラス!-DOKI DOKI Literature Club Plus!+-【バランスパート】

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

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「ナツキちゃあああん~」


物置の棚に置かれたマンガを並べ変えているナツキに、サヨリが後ろから近付いて抱きしめる。

 

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「なんなのよおお」
「おつかれさま~」
「おつかれ」


ナツキが入部し、文芸部はついに本格的にスタートした。

ナツキを含めて、部活には現在4人のメンバーがいる。

サヨリ、ナツキ、ユリ、そしてモニカだ。

部員それぞれが互いに好きな種類の文学について紹介し合う日が設けられた。

一番手となったナツキで、マンガに対する情熱を語った。

続いてサヨリが詩に対する愛、そして彼女の詩の書き方を伝えた。

様々なジャンルの文学を愛するモニカは、今回は短編に絞って話をした。

そして最後に、ユリがサヨリからの応援を受けながら、ファンタジーへのこだわりを何とか披露した。

全員が発表を終えると、モニカは、それぞれが紹介した文芸作品を自由に体験することを来週からの部活動とすることにした。

今までほとんどの時間をユリのファンタジー小説に費やしていたサヨリは、ナツキのマンガコレクションへの旅へ乗り出すとあって、とてもうれしそうだ。


「今日はナツキちゃんと読みたいな。 どれがいいか教えてよ」
「あー・・・そうね、アンタがどんなのが好きかによるわね。 恋愛ものとか、ドラマとか、コメディとか、ミステリーとか」
「どれも全部好きだよ」


サヨリは手を伸ばし、棚から漫画を適当に切り出して表紙を眺める。


「・・・この子、もうちょっと服を着た方が良くない?」

「そっ、それはアンタにオススメしないわね!」


ナツキは慌てふためいてサヨリから本を取り上げ、元の棚の、少し見えにくい位置へそれを戻した。


「いいわ、それじゃあ──これって好みがないのなら、手軽に楽しめるやつから始めましょ。 巻数が多くて、とっつきにくいものばっかりなのよね・・・アンタたちがマンガ好きなら、頼まなくっても読むんだろうけど」
「わたしはヘーキだよ! ユリちゃんの本でも大丈夫だったし」
「・・・アタシはもうちょっと読む人のことを考えてるわよ! アンタがアイツの本に取り組むその集中力には驚かされるけど・・・」
「ううん、私の集中力はドーナツの穴くらいしかないよ! でもわたしはみんなが大好きだから、みんなのためなら何でもできるんだ」
「はいはい、そうね。 ドーナツでも読めるようなヤツを選びなさいよ」
「わたしがドーナツじゃないよ~! 集中力がドーナツの穴くらいって話をしたの! あ、わたしのことをお菓子の名前で呼ぼうとしたのかな? ナツキちゃん、かわいい~!」

 

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「ちがーう! なんでそうなるわけ? あと、アタシのことをそうやって言わないでよ・・・」
「ドーナツって?」
「か・・・かわいいって」
「ええ、どうして?」
「ただ嫌なの。 理由なんてないわ」


ナツキは棚からマンガを引っ張り出し、物置の扉を閉める。


「まったく、やめてって言ったら、黙ってすぐにやめてよね。 何でみんなわかんないのかな!」
「ご・・・ごめんね、ナツキちゃんを傷つけるつもりはなかったの・・・」
「う・・・ゴメン。 アンタに言ったんじゃないの」


ナツキは首を振り、もう一つの椅子を自分の席へと引き寄せる。


「アタシが言ったのは別のヤツのこと。 急に怒るつもりなんてなかったの」


ナツキは目をそらし、つぶやく。


「アンタは・・・その・・・い、いいヤツだから・・・さっきのは、アンタのことじゃないわよ」
「でもね、大事なことに気づかせてくれた・・・ありがとう」


突然の褒め言葉に、サヨリは少し照れくさそうにそう言った。


「コホン、とにかく・・・! はい、どうぞ。 気が向いたなら読んでみて」
「どんな本なの?」
「コメディみたいなやつよ。 恋愛要素もあるけどね」


サヨリがタイトルを見ると、『愛は運任せ』とある。


「同じ男の子たちのグループと、何度も偶然出くわす女の子の話なんだけど、だんだん──まあ・・・中身は読んでみて。 でも感想を教えなさいよね! アンタの推し、大体見当つくわ。 当たってたら、ウケる」
「オシって何?」
「あ・・・何でもない、まだ気にしなくていいから・・・! ただ・・・感想を教えてってこと」
「あっ、そうだったのね! じゃあ読むね。 ねえ、明日は詩もやろうね!」
「えっ、えーと・・・・・・うん・・・そうね。 でも先にそれを読み終えたいんじゃない?」
「うん、でも両方できるでしょ。 その、もしナツキちゃんが詩が嫌なら・・・わたし、何もしてあげられなくなっちゃう」
「嫌じゃないわよ、ただ・・・。 まあいいわ。 明日考えましょ」


・・・。


部活が終わり、ナツキとユリが帰った後、モニカはサヨリと会話を始める。

 

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「ナツキにマンガを見せてもらってたわね」
「ナツキちゃんともっといい友達になりたいの! ナツキちゃんはすっごく熱心で表情豊かだから。 話も面白いんだよ。 すごくかわ──あっ・・・ナツキちゃんに言っちゃいけないって言われたから、言えないや・・・」
「何を言っちゃいけないの?」
「何でもない! わたしは友達思いの女の子なの! ・・・でも、ナツキちゃんはかわいい女の子だよね。 あ、言っちゃった・・・」
「うふふ。 何がそんなにいけないの?」
「わかんない! でも、心配なことが一つあって・・・。 ナツキちゃんは、本当はわたしのことあんまり好きじゃないんじゃないかなって、不安になることがあるの」
「ええ? そんなことないわ、どうしてそう思うの?」
「うーん、だって・・・。 小さなことだけど、わたしが先にあいさつした時にしかあいさつしてくれないし・・・。 マンガとか、ナツキちゃんが好きなことを話す時だけしか、楽しそうじゃない気がするの。 何か・・・素っ気ないというか。 わたしが詩の話をした時もそうだったし・・・」
「うーん、でもだからってあなたのことが嫌いってことにはならないんじゃない? きっと、恥ずかしがり屋なのよ」
「そうかもしれないけど・・・。 あはは。 わたしの頭って単純だから、わけもなく心配になっちゃったのかな。 よくあるんだよね」
「心配ないわよ! きっとうまくいくわ。 気になることがあったらいつでも言ってね。 いつでもサポートするわ」
「モニカちゃんってば、最高だね」

サヨリはモニカをギュッとハグした。


「わたし、ナツキちゃんが大好きだし、もっと仲良くなりたいから、もう少しがんばってみる」
「あなたならやれるわ」


・・・・・・。


・・・。

 

 

 

 


次の部活。

サヨリはいつものように最後にやってきた。

彼女は駆け足で部室へ入り、物置のそばで一人座ってマンガらしきものを読んでいるナツキを見つける。

ためらうことなく、サヨリは椅子を持ってナツキの隣に座る。

 

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「おつかれさま~」
「おつかれ」
「何読んでるの? わたしも一緒に読んでいい?」


ナツキはサヨリからマンガを隠した。


「途中から読んじゃダメよ、ネタバレになっちゃうでしょ! それに昨日渡したヤツはどうしたの?」
「ごめんね、何読んでるか気になったの」
「とにかく、アタシはこの巻の発売をずーっと待ってて、昨日発売したばっかりだから・・・」
「わあ、すごい! じゃあ邪魔しちゃいけないね」
「ええ」
「でも、隣に座ってもいい?」
「あー・・・うん」


サヨリはナツキの隣に腰を下ろし、真っ白な紙を取り出す。

ナツキは黙って読み進める。

親指でめくるページの音が、等間隔に聞こえてくるだけだ。

サヨリからは、ペンが走る音が聞こえる。


・・・。


しばらくして・・・

サヨリの紙は殴り書きでいっぱいになり、余白には棒人間が並ぶ。

ナツキは深く息をつき、本を閉じた。


「読み終わったの?」
「ううん、けど切りのいいところだから。 頭がふわふわするわ。 休憩しないと」


ナツキは腕を伸ばす。


「アンタ、退屈じゃないの?」
「ううん! 書き物をしてたから」
「ああ、棒人間しか見えないから、退屈してたのかと思った」
「考え事してる時には、書いちゃうんだ。 みんな、わたしの友達だよ。 この子はキレイな夜空が大好きなんだけど、人前で星を見上げたらみんなに変わってるって思われないかと悲しんでる。 それとこの子は、背中の調子が悪いんだけど、お医者さんはどこが悪いのかわからないんだって」
「アハハッ、何それ。 アンタって変ね」
「わたしが書いてる詩を読みたい?」
「うん、そうね」


サヨリはナツキの方へ紙を滑らせる。

詩を読み進めるうちに、ナツキは眉をひそめる。


「うーん」


サヨリに紙を返す。


「自分が考えてることとか気持ちを、こうやって人に見せるのって何か変な感じしない? アンタの詩って・・・すごく感情的というか」
「いけないかな?」
「ううん。 そう思っただけ」
「みんなが自分の気持ちを表現する方法を見つけたら、もっと仲良くなれると思うんだ」
「でもそれって──」


ナツキは反論しようとするが、自分の考えをうまく言葉にできずにいた。


「それって・・・相手によらない? わかんないけどさ。 人によって違うんでしょうけど、自分の書いた詩を気分よく見せられるような人と会ったことはないわ。 ・・・アンタのことを言ってるわけじゃないから! 今のはアタシがどうかって話で・・・」
「ナツキちゃん、詩を書くの??」
「・・・」
「初めて聞いたよ! 何かもっと違うものを書いてるんだと思ってた!」
「ええ、別のも書いてるわ、けど・・・」
「せっかくなら──その・・・見せたいと思わない?」
「さっきも言ったけど、アタシは思わないわ」
「でも・・・」
「ねえ、他の話しない?」
「ごめん・・・」
「アンタのせいじゃない。 アタシが何か気まずくなっただけ。 どうしようもないのよ」
「それでも、ごめんね」
「別にいいから」
「・・・・・・それじゃ、わたしたち二人とも楽しくなれることをしよっか。 わたしはナツキちゃんから借りたマンガの続きを読むね。 まだまだ全然読めてないから」
「・・・そうね」


・・・。


しばらくの間、部活の時にはいつもの元気さでサヨリは欠かさずナツキに接するようにした。


「ナツキちゃんだあああ!」


・・・。

 

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「ナツキちゃあああん」


・・・。

 

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「やほー、ナツキちゃん!」


・・・。


とある日の部活の終わり、サヨリの『仲良し作戦』に協力していたモニカは、帰り支度するナツキと何気ない会話を始めた。

 

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サヨリと一緒にいてくれてありがとうね。 あの子、あなたとマンガを読む時間がとれてすっごく喜んでたわ」
「そうね」
「あなたも一緒に楽しめてる?」
「まあ、大体はね」
「え?」


ナツキは肩越しにちらりと後ろを見るが、それ以上答えない。


「どうしたの?」
「別に。 アタシは・・・陰口を叩きたくないだけ」
「あっ・・・」


ナツキは黙り込むが、帰り支度を続けず、そわそわしている。

何か言いたいことがありそうだ。


「言いたいことがあるなら行ってくれていいわよ。 これは陰口じゃないんだから」
「かもね。 アタシは"自分がいない時"に叩かれるのが嫌いだから、自分もしないようにしてる」


モニカは明るい笑顔を浮かべた。


「ナツキは、本当に思いやりがあるのね」
「う──ありがと・・・でも、そんなんじゃないっていうか・・・」
「信じてくれていいのよ」


ナツキはそわそわしながら、しばし声もなく立ち尽くす。


「何か、ちょっと息苦しいっていうか。 会っていきなりこんなに気にかけてくれるのって、慣れてないの。 アイツと一緒にいるのは楽しいけど・・・。 ペースがつかめないのよ。 会っていきなりアタシは親友になれないし、自分のことを全部見せられない。 そういうわけにはいかないの! 時々は、ほっといてほしいのよ」
「ああ・・・気づかなかったわ、そういうことだったのね!」
「いいの、仕方ないわ」
「いえ、私はサヨリをよく知ってるから、私が気づくべきだった」


サヨリが何をしようとしていたかモニカは知っていたし、それを後押しもしていた。

だから、モニカは少し申し訳ない気持ちになった。

事情を知らなかったにせよ、少しばかりの責任を感じずにはいられなかった。


「あの子に話をしてみましょうか?」
「ううん、いいの」
「私なら・・・たぶん、あの子に他の活動をお願いしたりとかできるけど・・・」
「やめてよ。 そんなのずるいし、卑怯だって」
「ごめんなさい、そこまで考えていなかったわ・・・」
「それに、愚痴ったからって、アタシの問題を解決してほしいって頼んだわけじゃないから」
「そうよね・・・。 ごめんなさい。 私ったら、お呼びじゃないのに無意識に問題を解決したがってしまうのよね」
「別にいいの。 サヨリい話したら、アタシたちの関係が変なことになっちゃうかもしれない・・・。 アイツがいつもアタシの顔色を窺うことになるんじゃないかって。 ただ、普通にしていたいだけなのに、どうしたらいいかわからない」
「そうね・・・。 あなたが自分の気持ちをうまく伝えれば、サヨリもきっとわかってくれると思う。 サヨリは他の人のためにがんばりたい子なの。 あなたがあの子ともっと仲良くなりたいって知ったら、すごく喜ぶわ」
「・・・かもね」
「あー、ホンットにヤな気分。 友達のつくり方を、誰かと話するだなんて。 変なの・・・何か、ダサいわ」


モニカは肩を竦める。


「だって文芸部だもの」


それから、クスクスと笑いながらつぶやく。


「イケてる部じゃないわ」
「ちょっと!」
「うふふ、ごめんなさい。 何か、言いたくなっちゃった。 ねえ・・・あなたが今すごく困ってて、自分の気持ちをうまく伝えるのも難しいってこともわかる。 だけど、あなたには自分を客観視して、分析できる力があると思う。 自分でそうは思ってなくてもね。 その力は、今の問題を乗り切るうえで、きっと一番大切なものよ。 だから、あなたなら、きっと正しい方法を見つけられるわ」
「あのさ──」


ナツキは本能的に褒め言葉を拒もうとしたが、その言い訳が見つからなかった。


「・・・ありがと」


ナツキは荷物をまとめ、それからポツポツと自分の考えを話し始めた。


「時々おかしなこともあるけどさ、入部してよかったって思うわ」


モニカは微笑みを返したが、ナツキはそれを待たずに背中を向けて行ってしまった。

慣れない方法で感謝の気持ちを表したナツキだったが、その思いはモニカに伝わった。

きっと何もかもがうまくいくだろうと、モニカは感じた。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

 

 

昼休み。

サヨリは、いつものように昼食を買いに食堂へ向かっていた。

お得意の空想スキルのおかげで、サヨリには生徒たちの賑やかな声や喧騒は耳に入らない。

しかし、見覚えのあるピンク色の髪の少女を見つけたことで、その空想は途切れた。

 

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「あっ、ナツキちゃんだ! 文芸部の子と学校で会うのって初めて! ナツキちゃああああん~!」


サヨリはつま先で立ち、手を振る。

ナツキは友人と話しながら忙しなく歩いていて、すぐにはサヨリに気づかなかった。

ナツキがサヨリの方を向いた。

サヨリは元気良く手を振った。

 

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「──っ!」


ナツキは友人に続いて、さっさと角を曲がってしまった。


「ちょ、ちょっと! 今、絶対に目が合ったのにな・・・」


・・・。

 

最初に部室にやってきたのはモニカだった。

そのあと、続いてナツキがやってきた。

廊下の窓から部室にいるナツキの姿を認めたサヨリは、部室に入れないままナツキを盗み見ていた。



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「ナツキちゃん、わたしにすごくよそよそしかった。 わたしと友達になりたがってるなんて、バカなこと思っちゃってたな。 ナツキちゃんは、マンガを一緒に読めて喜んでただけ・・・。 マンガがなかったら、別にわたしのことなんて! 今日は帰ろ・・・」

 

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「あの・・・。 もしもし、中に入らないのですか?」
「入らないよ!」
「・・・どうしてですか?」
「わたし、不機嫌なの!」
「あら・・・。 では、お邪魔してすみませんでした。 失礼します」
「だめぇ、置いてかないでえええ!!」
「え、ええ・・・なら行きませんので・・・」
「ナツキちゃんを困らせるのが怖くて、中に入りたくないの。 今日のお昼にナツキちゃんを見つけて、手を振って呼んだんだけど、あいさつもせずに逃げちゃって」
「そうなのですか? うーん、大した悩みじゃないですね・・・」
「ちょっとぉ!!」
「ご、ごめんなさい! すみません! 冗談です! ただ・・・私がこう・・・不安な気持ちからやってしまいそうな行動のように思えたので」
「不安な気持ちから・・・?」
「自分に注意を向けられるのが・・・好きではないので」
「ああ・・・。 ユリちゃんのことだったら、それはわかるよ! でもナツキちゃんはそんなに恥ずかしがり屋じゃないよ! わたしたち、友達だと思ってたのに・・・。 ナツキちゃん、仲良くなるどころか、どんどん距離を置こうとしているように感じちゃって。 部活でマンガを読んでる時だけ一緒にいてくれるけど、本当は別に友達になりたくないんだって考えちゃうの」
「ええと・・・。 その、状況があまりよくわからないのですが・・・。 あなたが近づいた時、ナツキちゃんは何かしていましたか?」
「ううん、ナツキちゃんは友達と歩いてただけ」
「友達と・・・」


ユリは少し考え込む。


「何と言いましょうか・・・。 サヨリちゃん、あなたは友達が大好きですよね? いつも一緒にいたいと思いますね?」
「もちろんだよ! それが何より大切なことだもん。 一日で一番楽しいのって、友達といるときで・・・。 それに、一人ぼっちは本当に嫌だから・・・」
サヨリちゃんは一人ぼっちが嫌なんですよね?」


サヨリはうなずく。


「私たちはみんな、まったく違う人間です・・・。 私にとっては、一人の時間は何にも代えがたく、大切です。 ですから、思うに・・・。 一人の時間を取りたいのに、それを邪魔されそうなときは・・・すごく嫌な気分になります」
「うん、だけどそれはナツキちゃんと関係ないよ! ナツキちゃんには友達がいて、一人ぼっちになろうとしてたわけじゃないんだから」
「いえ、似ていると思います・・・。 その・・・私たちはみんな、部活の友人です。 ですが、部活外でも、それぞれの生活があります。 考えてみてください・・・。 新しい友人をつくることは、日常的に起きる出来事ではありません。 友人関係とはすわなち、人生をともに歩んでいこうという決断でもあります。 それができる心のキャパシティは、きっと人によって違います。 一緒に遊ぶためだけの友人もいれば、毎日のように話をして日々のすべてを分かち合うための友人もいます。 友人関係を深めたいならば、相手の心の状態を考慮することが重要ではないでしょうか。 つまり・・・私たちは部活外でのナツキちゃんの生活について、あまりよく知りませんから・・・。 彼女は新しい友人関係を一足飛びではなく、彼女自身のペースでつくる必要があるのかもしれません」
「でも・・・。 それって、わたしがナツキちゃんを困らせてるってことだよね? ナツキちゃんと友達になりたくて、あんな感じで接していたの。 それが本当はナツキちゃんにとって迷惑だったの?」
「わ、私には・・・わかりません。 ごめんなさい。 私の考えは、私自身が必要だと思っていることに基づいているだけですので・・・。 ナツキちゃんと私はまったく違います。 だから・・・」
「わたしって、自分勝手だったのかな? もしそれが全部ホントなら、わたしはやっぱりナツキちゃんに迷惑かけてるってことだよ・・・。 間違えてたんだね、わたしって。 ユリちゃん。 わたし、ユリちゃんと友達になる時は、本当に気をつけてユリちゃんが必要なものを理解しようとしたの。 でもナツキちゃんの時は全然気にしてなかった。 だって、ナツキちゃんってすっごく人付き合い良さそうに見えたから。 ちょうどいいバランスなんか考えないで、自分が全部振り回してただけなんだ。 それでナツキちゃんを傷つけて、わたしとはもうしゃべりたくないって思ってるんだ・・・。 何でこうなっちゃったんだろう」
「えっと・・・サヨリちゃん・・・。 思うのですが・・・えっと、以前、あなたは頭で考えてることと現実とは違うと教えてくれましたよね・・・。 最悪の事態を想定するのは簡単なことですが、私にはナツキちゃんがあなたに嫌な気持ちを抱いているとは思えません・・・。 だから、状況を現実的に考えて、誰がどんな気持ちになるか・・・えっと・・・こ、こういうのは苦手で・・・すみません・・・。 人を安心させたり励ましたりするのは、サヨリちゃんの方が私よりずっと上手ですし・・・」


突然、サヨリがユリを優しく抱きしめた。

 

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「えっ──!」
「ユリちゃんってば、最高だよ。 わたしのことで負担をかけてゴメン。 わたしのために一生懸命がんばってくれて、ユリちゃんってホントに優しい」
「わ・・・私はただ──負担なんかではありません。 私は、人の話を聞くのが好きなんです。 それに、私の友人には幸せになってもらいたいですし」


サヨリは目を輝かせる。


「それじゃ・・・ナツキちゃんとベタベタしない方がいいね。 ナツキちゃんは、ナツキちゃんのやりたいことをやるべきだよね。 それでも、わたしと友達になりたいと思ってくれるなら・・・ナツキちゃんの気持ちを考えて、いい距離感で付き合う。 そうだよね・・・それが一番だよ。 罪悪感とか、もうこれ以上感じたくないの。 ・・・その分だけ、ナツキちゃんを幸せにしなきゃって必死になって、でも失敗したらどうしようって焦っちゃう。 でもナツキちゃんはそれを求めてないんだよね。 自分にしっかり言い聞かせなきゃ。 とってもつらいけど、わたしも成長しないといけないってことだよね。 ・・・人として成長したいって、心から思うよ。 それが友達にとっていいことなら、そうする」
「・・・サヨリちゃんはしっかり者ですね」
「えへへ。 そう、わたしは、しっかり者!」


サヨリはつま先で飛び跳ねる。


「それで・・・今日はいえに帰るんですか?」


サヨリは首を横に振った。


「ナツキちゃんの自由を大切にするぞってところを見せなきゃね。 今日の部活は一人で過ごそうかな」


ユリは理解してうなずく。


「お先にどうぞ」
「わかりました。 ・・・ドアから離れてもらっていいですか」
「あっ」


サヨリは脇に避ける。


「ところでね・・・」


ユリが部室へ入る前に、サヨリが一言添えた。


「ユリちゃんさっき、ナツキちゃんと自分はまったく違うって言ったけど、そうは思わないな。 二人とも、いろんなところがすごく似てるよ」


ユリは笑って首を振る。


サヨリちゃん、そんなことないですよ。 時々、すごくおかしなことを言いますね」


そう言ってユリは部室へ入って行った。

ひとつ間を置いて、サヨリも続いた。


・・・。

 

部室は静かだ。

サヨリが入ると、ナツキが目を向ける。

サヨリは笑顔を浮かべてナツキへ軽く手を振ってから、部屋の反対側に座る。

ユリはすでに本の世界へと入ってしまった。

サヨリはマンガの続きを読むのが一番いいと決め、それを取り出す。

しかし、今日のナツキはマンガを読んでいないようだ。

ナツキは紙を広げ、机をペンでコツコツ叩きながら、にらみつけている。


・・・。


「あら、今日は書き物をしてるの?」


モニカは部室の静けさを妨げないよう静かな声でそう言って、ナツキの席の前に膝をつく。

 

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「ちょ、ちょっと!」


ナツキは急いで紙を腕で隠す。


「ごめんなさい・・・盗み見する気じゃなかったの」
「まあ、いいけど」
「どうしてるのかなと思ってね」
「問題ないわ」


ナツキは素っ気なく返事をする。

そしてマンガに集中しているサヨリへ目を向ける。

モニカはナツキの視線を追った。


サヨリはわたしのこと怒ってるんだろうな・・・」
「どうして?」
「い、今は忙しいの。 後にして」


モニカは黙り込んだ。

ナツキは隠していた紙を見つめる。

ナツキは、モニカに腕を少しずつ動かし、紙が見えるようにした。

そこには、「サヨリへ」と書かれていた。

それを見て、モニカは微笑んだ。

ナツキの肩に手を置き、優しくささやく。


「応援してるからね、ナツキ」
「・・・・・・」


ナツキは目をそらしたが、モニカの手を払いのけようとはしなかった。

モニカはナツキの肩をポンと叩き、立ち上がってその場を離れる。


・・・・・・。


・・・。

 

部活が終わったその後のこと。

ユリは一足先に帰っていた。

モニカも、サヨリとナツキに遅くなりすぎないようにと伝えて帰っていく。

あと少しでその巻を読み終わりそうだったから、サヨリは読み終えてから帰ろうと決めていた。

だが、ナツキもどういうわけか遅くまで残っていて、部室には静かな緊張感が漂う。

マンガを読み終えたサヨリは、物置へ行き、それを片付けた。

戻ってきたサヨリを、ナツキが見つめていた。

ナツキは立ち上がり、マンガを取り出して正しい場所に戻した。

 

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「ごめん・・・。 元の場所がわからなかったの」
「いいのよ」


二人は再び黙り込み、目を合わせないようにする。

二人とも言いたいことがあるのに、どちらも沈黙を破れない。

そのまま時が過ぎていく。


「じゃ・・・帰るね。 また明日!」
「うん・・・」


サヨリは傷ついた表情を隠そうと背を向け、物置から離れた。

きっとナツキは、自分と友達になんかなりたくないのだ。

サヨリは打ちひしがれ、部室を後にした。


・・・。

 

 


廊下に出ると、サヨリは頭をスッキリさせようと深呼吸し、頬を両手で叩いた。

 

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「あ、あのさ──!」


突然、ナツキが後ろから口ごもった声でサヨリを呼んだ。


「ナツキちゃん?」


驚いてサヨリは振り返り、ナツキと顔を合わせる。

 

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ナツキはもじもじしながら、不安そうに震える声で続ける。


「ア、アタシ、言いたいことがいっぱいあって──」
「わ、わたしも! じゃ、じゃあ・・・お先にどうぞ・・・」


ナツキは唇を噛みしめ、そわそわしている。

 

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「その、まず・・・」


彼女はつっかえながら、必死で続けようとする。

言葉を絞り出そうとし、足を踏みならしては、少しだけ跳ねる。


「昼休みの時はゴメン。 それと、最近感じ悪くてゴメン。 アタシにとっては、ホントに大変っていうか──その──アタシ、何て言うか、居心地悪くなるような感じが苦手なのよ。 特にそれが・・・その、気持ちのこととか、そういうことになると・・・。 だから・・・」

 

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顔が燃えるように熱くなり、ナツキは再び黙り込む。

話の続きの代わりとして、彼女はサヨリに紙を差し出した。


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世界で一番ステキな場所

自分のベッドルームが好き。
キラキラのもの、フカフカのものでいっぱいなの。
太陽の陽が差し込んで、すべてが輝いてる。
ここは世界で一番ステキな場所。

そこには私の宝物が全部あるの。
本も、コレクションも、思い出も。
夢も全部、この部屋から生まれたの。
ここは世界で一番ステキな場所。

そこには私の秘密が全部あるの。
失敗も、恐怖も、感情も。
時々、そっと触れただけでもドアが壊れちゃうくらいドアが脆いんじゃないかって思える。
それでもここは世界で一番ステキな場所。

だけどね、誰かがノックしてきたら、私は怖くなっちゃうの。
ゆるんだ蝶番を腕で抑えちゃうの。
お願い、壊さないで、入ってこないで。 準備ができてないの。
ここは、私だけの世界で一番ステキな場所なの。

ノックは止まない。
家具でドアを塞いじゃおう。
鍵穴からのぞいて、パニックになる。
私は世界で一番ステキな場所に閉じ込められた。

この大好きな場所をお披露目する用意がまだないの。
秘密をキレイに片付けなきゃ。 悪夢をベッドに隠さなきゃ。
そうするために、秘密に、悪夢に、また触れなきゃ。 また見なきゃ。
やることがありすぎて怖いの。 用意がまだないの。
それでもここは大好きな場所。
お披露目だってしたいの。
あなたが待っててくれるなら、どんなに時間がかかっても、
きっとドアを開くから。
そして、世界で一番ステキな場所を見せるから。

==================

 

「これって・・・詩・・・。 けど、わたし──」
「アンタと仲直りするために我慢して書いたんだからね! だから・・・喜びなさい。 ・・・いい?」


サヨリは心の底から、微笑んだ。


「言葉にできないくらい、うれしいよ。 すっごく怖いけど、すっごくうれしい。 ナツキちゃんがこんなことしてくれるなんて。 今日の部活の前にね、わたし、間違ったことをしちゃってたって気づいたの。 ナツキちゃんと仲良くなりたいって思ってばっかりで、ナツキちゃんの求めてることを考えられてなかった。 それに、わたしたちはみんな、友達のつくり方が違うんだってことも」
「うん・・・。 その・・・友達関係、っていうか・・・。 えっと・・・」
「いいんだよ。 わかってるから。 ナツキちゃんは無理に話さなくていいよ。 ナツキちゃんの詩が伝えてくれたからね。 だから、伝える言葉がまとまるまで、無理しなくてもいいからね?」


ナツキはうなずく。


「ナツキちゃんが悪いなんて思わないで。 わたしが悪かったんだから。 謝るのはこっちだよ。 今日も、怒ってたとかそんなんじゃ全然ないの。 申し訳ないなって思って、ナツキちゃんと距離を置いてたんだ。 いっつもナツキちゃんに付きまとうのはおかしいから、ナツキちゃんが来たいときに来てくれるのを待つ方が良いなって。 ナツキちゃんがホッとするなら何でもいいの。 わたしはこれからそれを大事にする。 友達ってそういうことから始まるもんね。 バランス、だよね」


ナツキは再びうなずいた。


「あの、一つだけ・・・」
「え?」
「その・・・アンタといつも一緒にいたいってわけじゃない。 ただ、程よい距離感でいたいのよ。 アンタが言ったみたいにね」


サヨリはうなずく。

「そうだね。 一緒に確かめていこうね」

「まあ、それより・・・」


共通の認識を見つけられた今、ナツキはまた気軽に話せるようになったと感じた。


「詩を書いたら必ず見せるとかさ、そういうことはしないわよ。 でも・・・たまになら構わないわよ。 最高傑作だけね! だから、アンタも精進しなさい。 じゃないとアタシの気が変わっちゃうかもよ」
「わたしはナツキちゃんがすることは何でも好きだよ」
「あの──い、いや、何でもない」
「それよりさ、もっと大事な話があってね・・・。 わたしの新しい彼氏のことを話したいなって」

 

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「はぁ!? あっ! マンガの話ね!! 待って、誰か当てるわ!」
「絶対に当てられないよー」


二人は一緒に廊下を歩いていく。


「ああもう、話したいことが山ほどあるわ。 最後の二章はとっておくように言っておけばよかった。 あそこを読んだ時の、アンタの反応が見たかったのに!」
「うー、ナツキちゃんと楽しみたかったよ! すっごくかわいいな~」
「もう、黙ってなさいよ」
「えへへっ」


・・・。