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-ノベルゲーム・タイピング-

光輪の町、ラベンダーの少女【14】

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

ご意見・ご要望がありましたら
─メール─ zippydle.scarlet@gmail.com
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Twitter─ @Zippydle_s
まで連絡下さい。


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道場に着くと、みんな必死で練習していた。

この光景が普通なものになっていた。

ちょっと前までは考えられなかった光景。

はるかは、初心者とは思えない動きをしている。

リコは、ちょこちょこと竹刀を振る。

もう、面の重さに倒れることもない。

イカはただひたすらに、一つの技を極めようとしている。

沢村は一つ一つの技を確認するように、丁寧に練習している。

・・・みんな変ったな。

この古めかしい道場が、活気づいているように思えた。

桜木と目があった。

まじまじと俺を見ている。

ボロボロの身体を見て、何かを悟ったような目だった。

次第にみな、俺に気付き寄ってきた。

 

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「どうしたのよ、その傷! 何があったの?」

「いや・・・その」

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「あなた、顔が歪んでるわよ! 保健室に行ったほうがいいんじゃない?」

 

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「先輩・・・私、一緒に行きましょうか?」

「大丈夫だから・・・気にすんな」

 

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「口が切れてます。 痛そうですぅ・・・」

「痛くない痛くない!」

 

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「そんな顔で痛くないと言っても説得力がないぞ。 説明しろ。 みんな気になって稽古に身が入らないぞ」

「・・・その、それがさ・・・」

 

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「あなた・・・また問題でも起こしたんじゃないでしょうね?」

「違うって! その・・・空からタライがさ・・・」


俺は適当に誤魔化した。


「タライ?」

「そうそう。 タライが頭に降ってきてさ・・・それで、その・・・」


俺はわけのわからないことを口走る。


「お笑いとかであんじゃん! コントとかでタライが降ってくること。 それで、こんなにボロボロになっちゃって。 ボケすぎちゃったかな俺。 ははは・・・」

 

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みな、不審な顔で俺を見ている。


「マジだって! 俺のことは心配しなくていいから」

 


──「やぁ、剣術部の諸君、頑張っているみたいだね」

「学園長・・・」

 

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大九郎が道場に入ってきた。


「・・・・・・」

「随分と努力してるみたいだね。 噂は聞いてるよ」


タニタと笑う。


「何しに来た。 出ていけ」


桜木がそう言うと、


「まぁ、そう怒らないでくれよ。 君達には期待してるんだから。 地区大会は明後日だからね。 優勝できるといいね」


嫌味のようにまた笑う。

ふと大九郎と目があった。

俺の顔に気付いたようだ。


「ん? 椿くん、その顔、どうしたんだ?」

「・・・なんでもないっす」


・・・白々しいやつめ。

怒りがこみ上げてきた。


「まさか、ケンカしたんじゃないだろうね?」

「違います。 自宅の階段から落ちただけです」


栗林が話に割って入る。


「ふーん。 ならいいんだが。 もし、誰かと揉めたなんてことになったら大会どころではないからね」


・・・こいつ。

まるで何もかも知っているような口ぶりだ。

あんな連中を寄こしやがって、今すぐにでも詰め寄りたい気分だった。

・・・が、我慢した。

いま、俺がこの汚い大人に噛みついてなんになる。

剣術部にとってプラスになどなりはしない。

逆にいちゃもんをつけられて、剣術部を潰す新たな口実にされるだろう。

俺さえ我慢すれば、ことは終わる。

俺さえ我慢すれば・・・。

大九郎はつまらないといった顔をした。


「しっかりと頑張ってくれたまえ。 ・・・落ちこぼれども」


吐き捨てるようにいった。


「・・・稽古、再開しよう」


はるか達は大九郎を無視し、稽古に戻った。


「あんたがどんな手を使おうが、俺たちは屈したりしない」


大九郎は眉をひそめ、そのまま出ていった。

・・・屈したりしない。

それがどれだけ汚く、どれだけ理不尽なことだとしても。


・・・。


練習は進む。

大九郎の言葉に怯むものはここにはもう誰もいない。

おもむろに、栗林が面をつけ始めた。


「へぇ~。 珍しいこともあるもんだな。 監督直々に指導か?」

「そうね。 たまには骨のある練習がしたいんじゃないかと思ってね。 桜木さん?」


栗林は桜木を呼びつけた。

 

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「面をつけなさい。 稽古しましょう」

「あんたとか・・・。 やれやれ、大事な大会のまえに私を潰す気か?」

「そんなことで潰れるあなたじゃないでしょ?」

 

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ヒカルは面をつけ、栗林と対峙した。


「え? ヒカルと栗林先生が試合するの? 凄い!」

「化け物同士の戦いね。 死人が出るわよ!」

「どっちが強いんですか?」

「分かりません! 私のノートにはのってないデータです」

「お前ら、楽しんでない?」

「当たり前でしょ! こんな凄いこと滅多にないんだから」


桜木と栗林が竹刀を交える。

確かに凄いことだ・・・。


「審判は誰がやるんだ?」

「審判はいらないわ。 どちらか一本とった時点で終わり。 いいわね桜木さん」

「好きにしろ」

「手加減するのはやめてちょうだいね・・・」

「ふっ・・・。 あんたに手加減なんかしたら10秒ともたない」


桜木は笑った。

はるかは道場の太鼓を叩いた。


「やぁぁぁあああ!!」

「せぇぃやぁぁああ!!」


気合の入った声が道場にこだまする。


──ッ!!


竹と竹のぶつかる音が響いた。

ガシガシ、ギシギシと。

光のスピードで桜木の面が飛んでいく。

栗林は頭を預けそれをかわし、攻撃に転じる。

大きく、空を飛ぶように、栗林は桜木の面や胴目掛け、次々と攻撃を仕掛ける。


──ッ!!


ガシガシ、ギシギシと・・・。

竹刀が砕けるような音が続く。

全く怯むこともなく、とにかく打ち合いが続く。

相手の呼吸など、まったく無視した凄まじい打ち合い。

息つく暇もない攻防戦。

間合いなど関係ない。

二人にとって、目の前、その周り、全てが攻撃可能な範囲なのだ。

相手の動きを読むために、引くことはない。

心理の読み合いなど、そこには存在していなかった。

ただ、目の前にある獲物をとらえる猛獣のように・・・。

桜木と栗林は・・・本能だけで戦っているように思えた。


「すげぇ・・・」


つい声が漏れた。

みな、その壮絶な試合に息をのんで見入っている。


「これ・・・剣術だよね?」

「ああ。 ・・・これが剣術なんだな」


ふと、二人の動きがピタリと止まった。

 

「さすがだな・・・。 何年も剣術から離れていた人間とは到底思えない」

「光栄ね。 あなたみたいな天才に褒められるなんて」


お互いの竹刀の先が、交差する。

・・・次の一撃で決めるつもりか?


「やぁぁぁあああ!!」

「せぇぃやぁぁああ!!」


──ッ!!


竹刀と竹刀が交差し、二人の体も交差する。


・・・どっちだ。

交差した二人はお互い向き合い、構えた。

道場に沈黙が走る。

・・・。

・・・・・・。


先に竹刀をおさめたのは・・・。

栗林だった。

・・・。

・・・・・・。


栗林は面を取り、ヒカルに近づいた。


「・・・お疲れさま。 久しぶりにいい運動になったわ」


フッ・・・と桜木は笑った。


「・・・どうやら心配はいらなかったようね」


そういうと、栗林は道場から出ていった。

ヒカルは面を取り、大きく息を吐いた。


「ヒカル、凄い!! やっぱりヒカルは凄いよ!! 私、ヒカルみたいになりたい!」

「なれるよ・・・はるかなら」


「何が起こったか、ちっとも分からなかったわ・・・」

「桜木先輩の面が、少しだけ速かったんだと思います。 予想ですけど」

「リコは何も見えませんでした・・・寝てたわけじゃないのに」

「栗林先生は・・・強いな。 偉そうなこと言うだけはあるよ」

「ほら! おまえらも桜木みたいに強くならないとな!」

「負けてられないわっ! 佐田さん、私の技の実験台になって」

「・・・はい」


リコを立たせ、ずっと練習していた抜き胴を試すようだ。


「行くわよ! 佐田さん、絶対に動かないでね!」


リコは頷く。


「桜木さん、見てなさい! 私の技を!」


みな、レイカに注目する。

イカは竹刀を構えた。


「・・・これでトドメよ!! レイカ・エレガンス・デンジャー・アターーーーーーーーーック!!」

「は!?」


──ッ!!


イカは竹刀を振りかぶり、綺麗にリコの胴を捕え、そのまま抜けていく。


「どうよ!! この華麗な必殺技!!」

「う、うん。 いいと思う」

「これで右近さんを打ち破るわ!」


イカはガッツポーズをした。


「あのぅ・・・エレガンスなんとかアタックってなんですか?」

「この技の名前よ。 素敵でしょ?」

「そういうこと叫ぶと無効ですよ」

「そうなの?」


イカはポカンとしている。


「・・・普通に胴!! って叫べよ」

「確かに、掛け声は余計だが・・・今の胴、使えるかもしれないな」

「え?」

「ヒカル? 疲れたでしょ? みんな、ひとまず休憩にしよう」


栗林との稽古を終えた桜木を気遣ってか、はるかが休憩指示を出す。

皆が休憩に入るのを見て、俺は道場を出た。


・・・。


みんな強くなっている・・・。

俺はそれが嬉しかった。

なんだかんだで、やれば出来るもんだ。

明後日は試合か・・・。

大きく伸びをした。

痛てっ・・・。

傷が痛む。

ふと振り返ると、見慣れた顔があった。

 

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「ボロ雑巾みたいだな・・・その顔」


桜木が立っていた。


「言ってくれるな」
「イケメンが台無しだな・・・」
「思ってもないくせによく言うよ」
「そうでもないぞ。 椿の顔、嫌いじゃない」
「そりゃどーも」
「みんな、強くなったと思うんだ。 最初はどうなることかと思ったが、あいつらは良くやっている」
「そうだな。 俺もそう思うよ」
「・・・椿のおかげかもしれないな」
「え?」
「セツナと戦う覚悟が出来た。 なんだか分からないが、勇気が出たよ。 ありがとう」
「俺は別に・・・」
「感謝している・・・」
「感謝してるんだったら、たまには可愛い顔しろよ」
「・・・その、椿から見て、私は可愛くないか?」
「そ、そんなことないけど」

 

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「もう少し、可愛くなる努力をするよ・・・。 宗介・・・」
「・・・下の名前で呼ぶなよ」
「ごめん・・・。 ちょっと言ってみただけだ。 忘れてくれ」


そう言って、桜木は道場に戻った。

宗介・・・か。

俺も桜木も・・・素直じゃねーよな。

俺も道場に戻るか・・・。

腰をあげると、誰かが近づいてきた。

あの二人は・・・確かレイカ会の生徒だ。


「椿さん、お久しぶりです。 生徒Aです」

「探しましたよ。 あ、生徒Bです」

「お前らって、名字あったよな」

「気にしないでください。 私たちなんて記号で充分です。 その程度ですから」

「自虐的だな・・・レイカなら、中だぞ」

「レイカ様ではなく、椿さんに話があるんです」

「俺? デートの誘いなら間に合ってるぞ」

「違います! もっと大変なことです」

「なんだ?」


生徒A・Bは周りを気にしながら、俺の耳元で話し始めた。


「実は・・・校門のところに怖い人が来てて・・・」

「怖い人?」

「いかにもヤバそうな方々が、椿宗介を呼んで来いと言ってるんです」


俺はすぐにピンときた。

・・・昨日のやつらか。


「先生たちに言ったほうがいいですよね?」

「いや、言わなくていい」


言ったところで意味がない。

黒幕は分かってる。


「おまえら、このことは誰にも話すな。 レイカにもだ。 絶対だぞ」


二人は頷いた。


「報告、サンクスな。 あーあ、とんでもねぇデート相手だぜ」


俺は校門へ向かった。




 

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校門に、数人の男たちがたむろしている。

・・・やっぱり昨日のやつらだ。

俺に気づいて、ニヤニヤしながら近づいてきた。


「昨日は、ずいぶんと舐めたことしてくれたじゃねーか」

「それはこっちのセリフだよ。 俺さ、男とデートする趣味ないんだよね」


男は俺を睨み、顔を殴る。


──ッ!!


俺は顔を抑え、よろけた。


「ふざけたこといってんじゃねぇぞ!!!! てめぇ自分のおかれてる状況が理解できてんのかよ!!」


一目に付かないように、更に男は俺をいたぶる。

他の男たちも次々に俺に襲いかかってくる。

腹・顔・背中・足・・・。

俺はされるがままに殴られた。

片足を地面につけ、男たちを見た。


「で? だからなによ?」


俺の言葉に、男たちは一瞬ひるんだ。

痛みは麻痺するほどだった。

何も感じない。

いくら殴られても、俺の心は折れなかった。

・・・こういうときに一人は楽だと思った。

黙って耐えていれば、誰にも迷惑がかからない。


「痛くねぇな・・・。 なんも痛くねぇーーよっ!!!」


俺は叫び、不敵に笑った。

それを見て、連中は気味悪そうに俺を見た。

何度も何度も殴らられ、また蹴られた・・・。

きかねぇよ・・・。

俺はやられてもやられても、立ち上がった。


「けっ・・・。 見上げたもんだな。 男としては褒めてやりてぇよ・・・」

「そりゃどうも・・・」


フラフラになりながら答えた。


「だけどな、俺たちもシゴトだからよ。 引くわけにはいかねぇんだ」


・・・シゴトか。

男たちはボロボロの俺を残し、去っていった。

いくらでも来いよ。

・・・何度来たって俺は折れたりはしない。

諦めたりはしないんだ・・・。

俺は校門につかまりながら、必死で立ち上がった。

ふぅ・・・。

あいつらの練習が終わるまで、俺はここで休憩だな。

また座り込み、目を閉じた。


・・・・・・。

 

・・・。

 


目を閉じていた俺を起こしてくれたのは、はるかだった。

俺はそのまま、はるかと帰宅した。

 

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「もう、どんなドジしたらそんなケガするかな~」

「やんちゃだからさ、俺」

「明日、最後の練習だね。 なんだか寂しいな」

「ばーか。 次の試合が全てじゃないだろ。 まだ全国もあるしな」

「全国かぁ・・・。 行ってみたいな、みんなと。 その時は宗介も来てくれるよね!」
「・・・うん」
「明日もよろしくね。 宗介がいてくれると、みんな元気になれるからさ」
「ありがと」
「それじゃあ、おやすみ。 さっさと寝るんだぞ! バイバイ」


はるかは店内に入っていった。

体があまり言うことを聞いてくれない。

・・・ゆっくりと玄関の前に立った。

今日は、はやく寝るか。


・・・ん?

何か嫌な予感がした。

直感というべきか。

とにかく、空気が違うのを感じた。

玄関はやけに静まりかえっている。


「母さん?」


返事がない。


「いるんだろ?」


俺は居間に入った。

俺は居間に入り、愕然とした。

目の前に飛び込んできたのは、恐ろしい光景だった。

 

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どういうことだよ・・・。

俺はガクガクと震えた。

倒れた机に、食器棚。

割れた窓ガラスと照明。

ガラスが至るところに飛び散っている。

薄暗い部屋の中に、母が佇んでいる。


「・・・母さん」


母は俺に気づき、力なく笑った。


「これ、どういうことだよ・・・」
「あら? 宗介帰ってたのね」


何事も無かったかのように、俺を見た。

呆然と突っ立っている俺をしり目に、母はガラスの破片や、落ちた電球を拾っている。


「何があったんだよ・・・」
「なんでもないわよ。 それより、明後日、試合なんだってね。 近所でも評判になってるわよ」
「今、そんなことどーでもいよ! なにがあったか言えよ!!」
「はるかちゃん、勝てるといいわね。 宗介、ちゃんとついていてあげるんだよ」
「母さん・・・」


母の手を見た。

その手に、傷があるのが分かった。

赤い血が流れている。

母の手から・・・血が。

薄暗い部屋の中で母の顔を見た。

よく見れば、頬に青いあざ・・・。

母の頬は腫れていた。


「誰がやったんだ・・・」


母は何も答えない。

ただただ、ガラスを拾っているだけだった。


「ゆるせねぇ・・・。 ゆるせねぇよ!!!!!!!!」


俺は頭に血が上った。

血管が切れた音がした。

そのまま、家を飛び出した。




 

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あいつら・・・。

あいつらが母さんを!

俺に何をしたって構わない。

どんな仕打ちだって耐える覚悟はある。

でも・・・。

母さんだけは・・・。

俺は携帯を取り出し、栗林に電話した。


『もしもし・・・』
「大九郎の連絡先を教えろ!」
『どうしたの?』
「いいから教えろ!!」


俺に圧倒された栗林から、有無も言わさず、大九郎の番号を聞き出した。


「椿くん!? なにがあったの!?」


話半ばで電話を切り、すぐさま大九郎の電話をプッシュする。

何度か呼び出し音がなり、忌々しい声がした。


『誰だ?』
「新山大九郎」
「いかにも。 おまえは誰だ? いきなり呼び捨てとは無礼なやつだ」


ドスの利いた腹黒い声だった。

怒りがあふれ出た。


「どこにいる。 いますぐいって、ぶっ飛ばしてやる」
「・・・その声は椿宗介か」
「てめぇ、俺の母親になにした! 答えろ!」


俺は受話器に怒鳴り散らした。


「・・・何を言ってるんだ?」
「いいから答えろ!」
「知らんな。 くだらん・・・」


しらを切るつもりだろう。

どこまで腐ってやがるんだ!


「俺をどこまでいたぶれば気がすむんだよっ!! 俺は絶対に、お前を許さない!!」


半狂乱になりながら、叫んだ。


「いたぶる? ふっ。 笑わせるな。 ゴミなどをいたぶる趣味はない」


鼻で笑うような態度だった。


「下衆め・・・」
「偉そうに・・・私は忙しいんだよ。 おまえのような罪人に構ってる暇はない。 切るぞ」


通話は途絶えた。

くそったれ!!

俺は携帯を投げた。

あたりにあるモノ全てを壊したくなった。

くそっ、

くそっ、

くそっ、

俺は怒りにまかせて、自販機を蹴りまくった。

足が馬鹿になるほど、蹴り倒した。

くそっ、

くそっ、

くそっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


俺は大声で叫んだ。

叫び散らした。

まるで昔の不良に戻ったみたいに、俺は全てにキレていた。

荒れまくっていたあの頃のように・・・。

涙も出なかった。

何も感じなくなっていた。


・・・ふざけんな。


ふざけんな。


ふざけんな・・・よ。

地面に膝をついた。

そのまま、倒れた。


・・・。

 

・・・・・・。


・・・・・・。

 

次第に自責の念に駆られていった。

傲慢だった。

黙って耐えていれば、誰にも迷惑がかからない・・・?

とんでもない自己満足だ。

初めて思い知った。

もう、どうすればいいかわからなかった。

人は一人では生きていけない・・・。

一人で生きてるヤツなんていない。

それは分かってる・・・。

こんなことって・・・。

もう全てがどうでもよくなっていた。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

いつの間にか寝ていた。

溢れたゴミの中で、寝ていた。

家を、居場所を失くした、憐れな人間のように・・・。

世界を捨てた人間のように、俺はぐったりとしていた。

今の俺の目は死んでいるだろう。

生きることの意味を忘れていた。

ただ呆然と死んだようにそこにいた。

夜は更けていく。

家出少年のように、俺は町の闇に身を任せた。


・・・。


・・・・・・。

 

 

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「うっ・・・」


気が付けば、辺りは明るくなっていた。

ポケットにある、携帯電話がブルブルと震えている。

震えては止まり、また震えた。

生臭い異臭が鼻を突いた。

飲食店が出した生ゴミだ・・・。

思った以上に、朝のこの町は汚い。


「・・・・・・」


頭が重い・・・。

携帯が俺を呼んだ。


「・・・うるせぇ」


・・・。


・・・・・・。

 

動けずに、その場所でまた目を閉じる。

町を行き交う人々は俺をチラチラ見ている。

見るな・・・。


・・・。


俺はおもむろに携帯を見た。

着信が無数に入っていた。

桜木、はるか、リコ、レイカ、沢村・・・。

留守電が残っているようだった。


・・・ちっ。


俺はその伝言さえ聞く気になれなかった。

もうどうでもよかった・・・。

もう・・・。

もう誰とも関わりたくない。

やっぱり・・・一人でいい・・・。


亡霊のように立ち上がった。

ふらふらと墓場でも徘徊するかのように町を彷徨った。

意味もなく店に入り、また店を出た。

不良きどりだった頃、溜まり場にしていたゲーセンに入る。

苛立ちながらゲーム台の前に立ち、コインを入れた。

ゲーム台が壊れるほどに、俺はボタンを押す。

・・・くそっ。

格闘ゲームのようだった。

俺は負けてはまた、コインを入れ、再開する。

その度にゲーム台を叩いた。

・・・くそっ。

時間を無駄に浪費していた。

目は釣り上がり、画面を睨んだ。

ガキが向こうの台に座り、乱入してくる。

・・・ちっ。

俺は適当にゲームをこなした。

不審な俺に気付き、ガキは仲間を集め俺の周りを囲んだ。

まるでカモを見つけたかのように。

見んな・・・。

ガキどもはキャップを斜めに被ったり、ダボついたズボンを履いている。

いきがりやがって・・・。

数年前の自分を見ているようだった。

ガキどもは、ジリジリと俺に近づく。

俺はガキをキッと睨んだ。

自分を抑える自信がない。

俺に構うな・・・。

暴走しそうな気持ちをガキに送った。

鋭い視線に恐れたのか、ガキたちは散っていく。

俺はまた無心でゲーム台を叩いた。

時間は無情に過ぎていった。


・・・・・・。


・・・。

 

 

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ゲーセンを出た頃には、夕方になっていた。

これからどうするか・・・。

なにも考えずにいた。

・・・携帯を見た。

着信の量だけは増えていく・・・。

ふと、母の顔が顔に浮かんだ。

怒りと悲しみが溢れた。

誰かに怒りをぶつけないことには収まりそうもなかった。

誰でもいい。

サラリーマンでも、学生でも・・・。

俺の頭は狂っているかもしれない。

絡む相手を見つけようとしていた。


・・・・・・。


あいつにするか・・・。

がらの悪そうな男が時計を見ていた。

・・・俺がその男に近づこうとしたそのとき・・・。

背後から声がした。

 

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「ち~す!」


振り返ると、そこにいたのは水嶋だった。

水嶋は俺の顔を見るなり、普通じゃないことを悟ったようだ。


「どうしたの? こんなところでフラフラしちゃって」
「別に・・・」
「ふ~ん。 なんか雰囲気違うから何かあったのかと思ってさ。 何もないなら別にいいけど」
「ああ・・・」
「俺、たったいま試験から帰ってきました! つらかったよ~! でも偉いでしょ? 褒めて~!」


屈託のない笑顔を浮かべた。

試験・・・。

勉強してたもんな・・・。


「あれ? なんかノリ悪くない? 目も怖いし~! 俺、なんか宗介の気に障ること言っちゃったかな?」


・・・。


「心配するなって! 俺が天才になって、出世しても宗介から離れたりしないからね~」


水嶋は俺の肩を叩いた。


「・・・」
「てかさ、最近全然遊んでないよね~。 久々に遊びたいな~。 ダーツでも行く?」
「・・・やめとく」


俺は下を向いた。


「・・・悩みあるなら、聞くよ。 ま~大したアドバイス出来ないかもしれないけどさ~」
「え?」


何もかも見透かされている気がした。


「どうしたの? 何があったのか話してよ」
「・・・実は」


俺は溢れ出そうな気持ちを吐露した。
剣術部のこと、母親のこと、家が荒らされたこと、そして明日が地区大会であること。

全てを吐き出した。

目の前にいる水嶋に・・・。


「俺、どうしたらいいか分からないんだ。 部を辞めなきゃ、家族がめちゃくちゃにされる・・・。 でも、剣術部のみんなを見守っていたい。 なぁ? 俺どうしたらいいんだ? なぁ、教えてくれよ」


水嶋は真剣な顔で俺の話を聞いている。

 

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「・・・難しいことだけど、親には代えられないんじゃないか?」
「・・・でも」


頬にアザを作った母の痛々しい顔が脳裏に浮かんだ。


「だって、親だぞ。 友達の縁よりももっと深い絆があるだろ・・・」


友達よりも・・・深い絆。


「友達なんて、何度でも作れるよ。 無くなったとしても何度でも。 ・・・でも親の縁は切れないからね~」
「・・・でも」
「剣術部を心配する気持ちは分かるよ。 そばで試合を見ていたいんだよね?」
「・・・うん」
「そうだよね。 今まで一緒にいたんだもんね。 でも、やっぱり親は大事にしなきゃ。 たったひとりの息子なんだろ?」
「うん・・・」
「まぁこれは、俺の考えだから、そうしろって言ってるわけじゃないよ。 ごめんね、俺チャラいからシリアスとかマジ無理でさ~。 大したアドバイスできてないよね」
「そんなことねーよ」
「最終的には宗介が決めることだから」
「アイツラ・・・桜木たちは・・・俺がいなくても、大丈夫かな?」
「大丈夫だよ・・・仲間を信じなよ」


信じる・・・。

その言葉が心強かった。

水嶋はなんだかんだで、俺のことを心配している。

それが嬉しかった。


「ありがとう。 助かったよ」
「たいしたことしてないよ。 俺、宗介のこと大好きだからさ!」


・・・。


「いや~、俺って便利くんだよね~。 おまえのピンチには都合よく助けにくる、みたいな?」


俺はフッと笑った。


「んじゃ、元気出せよ~! つらい時はいつでも相談に乗るからさ~」


そう言って、水嶋は去っていった。


・・・。

そうだ。

俺がいなくても・・・あいつらは大丈夫だ。


・・・。

 



 

辺りはとっくに暗くなっていた。

・・・俺はまだ気持ちが揺らいでいた。

水嶋はああ言ってくれたが、どこかで悩んでいる自分がいた。

何をしていたかもわからないのに、時間はどんどんとすぎていく。

 

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何をするでもなく、無駄な時間だけが過ぎた。

帰り道もずっと電話は鳴り続いていた。

・・・こんな時間まで。

大事な地区大会前だっていうのに。

携帯を手にとり、恐る恐る留守電を聞いた。


『椿・・・どうしたんだ? 電話も繋がらない・・・。 具合でも悪いのか? キュウリでも持っていこうか?』

『宗介、とにかく連絡ちょうだい。 何時でもいいから・・・お願い』

『椿宗介、命令よ。 道場に顔をみせなさい。 まったく・・・どこにいるのよ! このまま現れないなら神山グループの捜索隊に頼むことになるわよ』

『リコですぅ・・・明日は試合です。 朝7時に集合です。 遅れないように来てください』

『先輩! 私、なにか閃きました! 明日は多分、善戦できると思います。 だから、来てくださいね!』

『あなたマネージャーでしょ? なにがあったか知らないけど、みんな心配してるわよ』


どうしてだよ・・・。

体が震えた。

別に、俺は試合に出る選手じゃない・・・。

なのにどうして・・・。

みんな俺を必要とするんだ・・・?

俺になにを求めてるんだ・・・?

わからない・・・。

わからなかった。

あいつらの・・・気持ちが。

ただ、やりきれない気持ちでいっぱいで、身が引き裂かれる思いだった。


「こんなに苦しいなら、最初から、ずっと一人でいればよかった・・・。 誰とも、関わりなんて持つんじゃなかった・・・」


俺は呟いていた。

留守電に残ったメッセージを・・・。

・・・全て消去した。

もう、やめよう。

俺はあいつらとの緑を切ろうと心に決めた。

家は静まり返っていた。

母さん・・・。

俺は恐る恐る家に入った。

 

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部屋に入ると、母さんがぽつんとそこにいた。

・・・母さん。

俺に気づいたようだ。


「・・・おかえり」


俺を待っていたのか・・・。

こんな時間まで。

母さんの顔はやつれているように見えた。

もしかして・・・ずっと。

寝ずに俺の帰りを待っていたのか?

・・・そう思うと、それすらもつらかった。


「どこに行ってたのよ」
「・・・別に」
「どこに行ってたのかって聞いてるのよ!」


母さんは大きな声をあげた。


「・・・どこでもいいだろ」
「あんた、なにやってんのよ!」


母さんは怒っていた。


「・・・フラフラしてた」
「馬鹿なことばっかりやってんじゃないよ! はるかちゃんから何度も電話きてたわよ!」
「・・・」
「顧問の先生も心配して、家までいらしてたわよ」
「栗林が?」
「剣術部の人たちも、みんなあんたのこと心配してたのよ。 それなのにあんたは!」
「・・・」
「明日、地区大会なんでしょ? そんな大事な時に・・・馬鹿だよ。 ほんとに・・・」


・・・明日、日付は変わっているから正確には今日が大会だ・・・でも・・・。

 


「そのことなんだけど・・・俺、剣術部・・・辞めることにしたよ」


・・・力なく俺は切りだした。

もう、あいつらに俺は必要ないと思う。

仕方がなかった。

考えたくもなかった。

生きている限り、必ず誰かと関係を持っている。

誰を一番大事にするか、決めなきゃいけないんだ・・・。

母さんはじっと俺の目を見ている。

・・・。


・・・・・・。


・・・それで、いいのか。

後悔は、ないのか。

俺は自分の気持ちを・・・もう一度だけ思い返した。


「やっぱり母さんのことを一番に考えたいんだ・・・。 だから剣術部は辞めるよ」


苦渋の選択だった。

でも、家族はなんにも代えられない。

俺は母さんを見捨てたり出来ない。

血はどこまでも繋がっているんだ。

母さんは悲しそうな目で、俺を見ている。

水嶋の言葉を思い出した。

友達は何度でも作れる。

・・・おまえの言う通りだよ。

マ・・・。

家の電話が鳴った。

母さんが出ようとしたが、それを止め、俺は電話に出た。


「・・・もしもし、椿です」
『なんだ・・・いたのか』


その声は、あいつらだった。

この家を滅茶苦茶にした・・・張本人。

母さんを傷つけた、憎らしい男たち。


『気持ちは変わったかい? あ? どうなんだ?』
「・・・」
『さっさと答えろよ。 じゃないと、毎日、電話することになるぞ。 どうなってもしらねーからな』

「・・・剣術部は・・・辞める。 だから、もう俺たち家族に関わらないでくれ」

 


俺は力なく言った。


『最初からそう言えばいいんだよ』


そう言って男は電話を切った。

母さんは何も言わず、ただ俺を見ていた。

そんな目で見ないでくれ・・・。

俺は悪いことなんて・・・していない。

これが俺に出来る最善の策だ。

そう思いたかった。

俺は黙って居間を出て、そのまま自分の部屋へ上がった。


・・・。

 

俺はベッドに横になった。

何もかもが終わった気がした。

呆然と、布団の中にうずくまっていた。

・・・これでよかったのか。

・・・わからない。

俺は色々なことを思い出した。

剣術部をつくることになったあの日のこと・・・。

星雲学園との交流試合のこと・・・。

合宿で見た、海のこと・・・。

今となってはどうでもいい思い出だ。    

・・・。

でも、あいつの顔が頭から離れない。

それは・・・。

 

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頭の中に浮かんだ顔。

凛とした少女の顔。

公園で見た、あの少女。

桜木ヒカル・・・。

桜木の顔が、頭に浮かんだ。


俺はおもむろに、電話をした。

今の気持ちを、あいつにだけは伝えたい。

受話器を握る手が汗ばんでいた。

・・・だが電話には出ない。

何度コールしても・・・。

俺は部屋を出て、道場に向った。

もしかしたら、まだ練習しているかもしれない。




 

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フラフラと辿り着いた道場に、その姿があった。

一人、竹刀を構えている桜木の姿が・・・。

桜木・・・。

・・・桜木は俺に気づき、近づいてくる。


「・・・。 椿・・・どこに行ってたんだ? みんな心配していたぞ」
「・・・それが」


俺の顔を見て、察したように言った。

 

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「酷い顔だな。 まるで精気がない・・・何があったんだ?」
「それが・・・」


俺は話を切り出せないでいた。

・・・言えない。

そんな俺を見かねたのか、桜木は黙って俺に抱きついてきた。


「え!?」
「・・・何も言うな。 もう、何も・・・」


優しい匂いがした。

ラベンダーの澄んだ匂い。

俺は桜木の胸に顔をうずめた。


「何があったかは知らない。 ・・・私でよければ・・・」


桜木の目を見つめた。


「俺・・・俺・・・」


桜木はそっと俺の頬にキスをした。


「・・・ヒカル」


俺は名前で呼んでいた。

無意識に・・・。


「宗介・・・」


俺たちは見つめ合っていた。

誰もいない道場で・・・。

俺は理性を失っていた。

ヒカルを・・・自分のものにしたい。

二人は道場という神聖な場所で、淫らな行為へと身を沈めていった。


・・・。


俺はヒカルの胴着の胸元をはだけさせ、袴をたくし上げた。


「宗介・・・」


恥ずかしそうに、甘えるように、ヒカルが俺の名を呼ぶ。

・・・。


俺たちは、お互いを求め合った・・・。


・・・・・・。


・・・。

 

 


俺とヒカルは、しばらくの間そのままのかっこうで、息を切らしていた。

俺たちは黙って寄り添っていた。

・・・。


「なぁ・・・俺な・・・」


俺はボソボソと切りだした。


「俺、剣術部を・・・辞めるよ」


・・・・・・。


・・・。

 

 

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あれから、数ヶ月が過ぎた。

俺は誰とも関わらず、息を止めたように・・・。

ひっそりと、沈没したように・・・生活していた。

剣術部の人間とは意識的に距離をとった。

大好きだったあいつとも・・・もう会うことは許されない。

地区大会の一回戦で敗退したという知らせを、風の便りで聞いた。

むなしかったが、今となってはどうでもいいことだった。

剣術なんて・・・くだらねぇ・・・。

俺は母と二人・・・静かに生きていこうと心に決めていた。

携帯を取り出した。

メールがきていた。

マコトか・・・。


『おはよう!! 元気かな~!? やっぱり宗介は私だけのもの・・・だね! ところで今日は何があったかな? 返信待ってま~す!! ラブリーマコトより!』


俺はメールを返した。


『何もない、一日だったよ・・・。 ほんとうに・・・何もない・・・日々だ・・・』


空が、落ちてくるような気分だった。

・・・これで。

・・・これで良かったのか?

考えるのはやめよう。

これでいいんだ。

光のないこの町で・・・。

俺は死んだように生きていくんだ・・・。


BAD END