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-ノベルゲーム・タイピング-

光輪の町、ラベンダーの少女【15】

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

ご意見・ご要望がありましたら
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「でも、これからは、母さんのこと、大事にしたいんだ」


あきらめたくない・・・。

でも、家がこんなことになるなら・・・。

俺は・・・。


「いまさら母さんのこと大事にしようだなんて何を言ってんのよ!」
「え?」
「ふざけたこと言ってんじゃないよ! もう、遅いんだよ!」


母さんは怒鳴った。

・・・だけど。


「あんた、私にどれだけ迷惑かけた? どれだけ母さんを悩ませたのよ!」


・・・。

そうだ。

俺は今まで、たくさん迷惑をかけてきた。

荒れていた時期もあった。

母さんは俺のために、嫌というほど、たくさん頭を下げた。

いろんな人に、下げたくない頭を下げてきた。

俺がこんなことになって・・・どれだけつらい思いをしてきたか。

分かっている。

だから、だからこそ、今度こそ、俺は母親を大事にしたいんだ。

それがダメなのか?


「もう、私のことは気にする必要ないし、あんたに助けてもらうほど、私は弱くないよ!


・・・でも。


「あんたが、今、大事にしなきゃいけないのは、私じゃないでしょ」
「・・・」
「あんたは、今自分が助けられる人を助けなさい。 いま自分が必要とされている人のそばにいなさい。 それがあんたに出来ることでしょ。 違う?」


俺が助けられる人・・・。

俺を必要としてくれている人たち・・・。


「それに・・・あたしを助けられるのは死んだお父さんだけだよ!」


・・・父さん。

俺は涙が溢れてきた。

母さんの言葉に・・・。

母さんの優しさと、その強さに・・・。

涙が溢れて、止まらなかった。


「ごはん、用意しといたから。 さっさと食べて、試合に行きなさい。 まだ間に合うから」
「・・・うん」


家の電話が鳴った。

母さんが出ようとしたが、それを止め、俺は電話に出た。


「・・・もしもし、椿です」
『なんだ・・・いたのか』


その声は、あいつらだった。

この家を滅茶苦茶にした・・・張本人。

母さんを傷つけた、憎らしい男たち。

怒りがこみ上げた。


『気持ちは変わったかい? あ? どうなんだ?』
「・・・」
『さっさと答えろよ。 じゃないと、毎日、電話することになるぞ。 どうなってもしらねーからな』


頭に血が上りかけたが、深呼吸して気を落ち着けた。


「・・・勝手にやってろ」


俺は電話を切った。


「ほら、はやく食べて、行っておいで」


俺は大きく、頷いた。




 

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7時になった。

地区大会の会場は向井台メッセという総合施設で行われる。

向井台メッセは、スケールの大きなイベントや展示会を行える「展示機能」を備えている。

また、陸上競技やバレーボールの会場として使える「アリーナ機能」、そしてコンサートのための「ホール機能」などあらゆる催しに対応できるようになっているのだ。

このクラスの会場で剣術の地区大会を行えるのは、神山グループ・右近コンツェルンが共同で出資したからだ。

新山学園剣術部の生徒たちが会場の前に集まる。

 

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「全員、集まったかしら?」


栗林が部員を確認する。

 

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「それが、まだ神山先輩が来てないんです」

「そういえば、レイカの姿がないな。 まさか・・・寝坊か?」

「どうしたんでしょう・・・。 電話してみたほうがいいと思います」


そこへ、大きなリムジンが横付けするように止まる。

中からレイカが出てきた。

 

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「あら? みなさん、おそろいのようね」

「もう、先輩! 遅刻ですよ!  うちには補欠がいないんだから、ちゃんと来てくれないと心配しちゃうでしょ」

「主役は遅れてくるものよ。 焦らせて、焦らせて、登場した方がインパクトあるでしょ?」

「じゃあ、リコも遅れてくれば良かった・・・」

「試合前にくだらないこと言わないの」


栗林は呆れた顔をしている。


「あれあ? 鈴木さんがいないわよ。 まさか、あの人、遅刻? どういう神経してるのかしら」

「・・・おまえがいうな

「佐田さん? 何か言った?」

「さぁ?」

「はるかは、対戦校を決める、トーナメントの抽選会に行っている」

「もうすぐ戻ってくると思うんですけど・・・」

「ふ~ん。 まぁどんな学園が相手だろうと倒すのみよ」


余裕の表情を浮かべている。


「初戦は大切よ。 緊張しすぎないように、肩の力を抜いて、自分の剣術をしなさい」

 

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抽選を終えたはるかが戻ってくる。


「はるかさん、お帰りです! ・・・あれ? どうしたですか? 元気がないですね」


はるかは力ない様子だ。


「抽選してきたよ・・・。 これ、対戦表・・・」


対戦表を囲んで、みんなが見ている・・・。

 

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みな、口ごもっていた。


「みんな・・・ごめん。 くじ運が悪いこと忘れてた・・・」

「一回戦の相手は・・・星雲学園ですか!?」

「そうみたいですね・・・はい」

「そ、そんな! 何かの間違いよ。 鈴木さん、抽選をやり直してきて!」

「レイカ? 誰が相手でも倒すんじゃないのか?」


・・・。

一同は完全に意気消沈している。


「一回戦から星雲学園だなんて・・・。 どうしたらいいのか分かりません」

「落ち着きなさい。 遅かれ早かれ、当たる相手よ」


どんよりとした空気が流れる。


「そうだよね。 前向きに考えようよ! 私たち、あんなに頑張ったじゃない」

「でも・・・。 はぁ・・・こんなとき、宗介くんがいてくれたら・・・」


みんなが口に出さなかったことを、リコは口にした。


宗介・・・。

 

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「椿宗介は・・・どうしていないのよ。 なんでよ・・・。 こんな大事な時にどうして来ていないのよ」

「わかりません。 ・・・先輩。 早く来てください・・・お願いだから」

「電話しても繋がらないの・・・。 なにかあったのかもしれない」

 

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「私も探したんだが、どこにもいないんだ。 こんな時に、あいつは何をやってるんだ」

「宗介くん・・・不安です。 勝てる気がしません」


さらに空気は悪くなっていく。

 

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「宗介・・・」

「そろそろ会場に入る時間よ。 あなたたち、つらいのは分かるけど、そんなことじゃ誰にも勝てないわ。 行くわよ」


不安な表情を浮かべ、しぶしぶ会場に入ろうとした時だった。

・・・。

・・・・・・。


遠くから足音が聞こえた。

影がどんどんと近づいてくる。

馴染みのある顔が近づいてくる。

 

 

はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。


はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・。


荒い息遣いが聞こえてくる・・・。

顔中傷だらけで無様で、不格好な顔が・・・。

やさしくてたくましくて、一番見たかった顔が・・・。

目の前に現れた。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

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沈んでいた、みんなの顔が晴れていく。


「・・・はぁ、はぁ・・・ごめん。 待たせたな!」


俺はとびきりの笑顔をした。


「宗介・・・」


はるかは泣きそうな笑顔を浮かべた。


「ごめんな、遅れて」

「もう、どこ行ってたのよバカ! でも、私、信じてたよ。 きっと来てくれるって」


はるかは俺の手をとった。


「待ってたですよ! リコは宗介くんがいれば、頑張れます!」

「ありがとうな。 リコ、おまえなら勝てる。 頑張れよ」

「先輩・・・。 私、嬉しいです・・・なんだか、もう会えない気がして・・・」

「そんなわけないだろ。 俺は、いつでもお前らの近くにいるさ」

「遅れてくるなんて、いい御身分ね。 ・・・私を焦らせるなんてどういうつもり?」

「悪かったなレイカ。 でも、主役は遅れてくるもんだろ?」

「そうね。 ・・・随分、ボロボロの主役だけど」

「へへ・・・」

 

俺は傷をさすった。


「ふっ・・・。 怖気づいて逃げたのかと思ったぞ。 でも、どうやらそれは私の勘違いだったようだ」

「もう逃げないよ。 俺、分かったんだ。 誰を守らなければいけないか。 何が一番、大切か」

「そうか。 私もここで、それをはっきりと見つけるつもりだ。 もう逃げない・・・見ていてくれ」

「ああ」

 

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「さすが遅刻王ね。 でも、みんなに免じて、今日だけは見逃してあげるわ」

「さっすが名教師!」

「じゃあ、気合入れて行こう! 打倒! 星雲学園!」

 

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俺たちは手を重ね合い、気合を入れた。


「行くぞ! 誰が相手だろうと、おまえらは勝つ!」


俺たちは会場に入った。


・・・。




 



会場は生徒たちでごった返している。

それぞれの学園が客席を陣取り、荷物を置いていた。


「なんだか、すげー人だな」

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「この地区は玉勇旗の予選の中でも、最も出場校が多い激戦区ですからね」

「そうなのか・・・」


この中で頂点に立つこと。

それが俺たち剣術部の目標。

栗林にとってはクビのかかった運命の戦い。

そして、俺が守りたかったもの。

大切にしたかったもの・・・。

 

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「負けたくないよね。 そのために頑張ってきたんだもん」

「当然よ! 私たちは頂点に立つのよ。 金メダルしか私には似合わないもの」

「メダルをもらえるですか?」


「それはどうだろうな」

 

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「懐かしいわ・・・。 この感じ。 あの日のことが昨日のことのように感じるわ」

「先生も、試合に参加したいんじゃないか?」

「そうね。 代われるものなら代わりたいわね。 でも、これはあなたたちの戦いよ」


栗林は笑った。

 

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「桜木・・・緊張してるのか?」

「武者震いだよ・・・。 ゾクゾクするんだ。 これが都築の血というものか」

「期待してるぜ。 俺はおまえの剣術が好きだからな」


桜木は頷いた。

 

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「こんにちは。 今日は、いい天気ですね。 お互い、悔いの残らない試合をしましょう」


三田さんとセツナが挨拶にきた。


「そうですね。 でも、一回戦で当たるなんて思っても見なかったわ」

「運命のイタズラってやつですかね。 栗林先生」

「甘く見ない方がいいわよ。 三田三四郎さん」

「甘くみたりしていませんよ。 桜木くんもいることだし。 それに・・・あなたが監督だ。 きっと成長してるはずだ」


二人は知り合いなのかな・・・。

 

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「思い出しますよ。 あなたがここで、優勝した日のことを、強かったなぁ。 そして、美しかった」

「・・・見ていたんですね。 光栄だわ」

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「三田? 悪いけど、あなたに遠慮するつもりはないわ。 私たち、勝たせてもらいます!」

「レイカ様・・・随分とお強くなられたようだ。 でも、そう簡単には勝てませんよ。 星雲学園をなめてもらっちゃ困る」

「見てなさい。 私の試合を。 そして後悔することね」


「三田さん、この前はありがとうございました」

「無事で良かった。 ・・・ん? 顔つきが違うな」

「え? そうですか?」

「いい顔だ。 ・・・立派な男の顔だよ」

「ど、どうも」


俺は少し照れた。

 

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「あのぅ・・・。 暁セツナさんですよね? 今日はよろしくお願いします」


三田さんの後ろに隠れていたセツナに挨拶する。


「・・・よろしく」

 

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「セツナさん! おたがい、全力を尽くしましょうね!」

「・・・そうね」


相変わらず、無愛想な奴だな・・・。


「セツナくん、桜木くんに話があるんじゃないのか?」

「え?」


セツナは表情を変えない。


「申し訳ないんだが、みなさん、ちょっとだけ席をはずしてもらえないか? どうやら二人で話したいらしくて」

「ごめんなさい」

「・・・みんな、少しだけ時間をくれ」


栗林はそれを察し、みんなをその場から離した。

見たさんもその場を離れる。

セツナは桜木の元に近づいた。

俺も離れるか・・・。


「椿、一緒にいてくれないか? そばにいて欲しい」

「・・・でも」

「私は二人で話したいの・・・」


俺はやはり、その場を離れようとした。

が、桜木は俺に目で訴えている。


「・・・悪いけど、俺もここに残るよ」


・・・セツナは不満そうな顔をした。


・・・。


・・・・・・。

 

変な沈黙が訪れる。

 

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「用はなんだ?」

「あなた、椿くんに私たちのことを話したのね・・・」

「話したよ。 誰かに話すのは初めてだ。 全部、聞いてもらったよ」

「どうしてよ!」


あからさまに怒りのこもった声だった。


「・・・だからあなたは弱いのよ。 私たちの問題に人を巻き込むなんて・・・」

「言いたいことはそれだけか?」


その場に緊張が走った。

二人は睨みあったまま対峙する。

・・・俺は黙って見ていた。

一触即発の状態だ。

セツナは怒りをあらわにした。


「竹刀を抜きなさい・・・。 ここで終わらせるわ」

 

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突然、持っていた竹刀を構えた。



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桜木はそれに応えるように、竹刀を構えた。


「いいだろう。 セツナ、おまえが望むなら、どこだろうと戦う」


セツナは一瞬、ひるんだ。


「おい、いい加減にしろ」


周りの生徒たちがこっちを見ている。


「ここは客席だ。 おまえらが戦うのはここじゃねーだろ」

「・・・私はもう、逃げない。 さぁ、こい! セツナ!」


セツナは桜木の目から視線を離さない。

 

 

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二人は対峙したまま動かない。


「もう、逃げるのはごめんだ。 おまえからも・・・運命からも・・・」


運命・・・。


「逃げてばかりのあなたが言うセリフとは思えないわ」

「・・・人は変わる」


──ッ!!


竹刀を重ね合わせる。

ジリジリと間合いを詰めていくセツナ。


「タイニー・アンドロニックス・・・。 これは復讐の物語よ」

「復讐か・・・。 いくらでもやるがいい。 私はそんなこけおどしには乗る気はない」

「あなたがしたことを、私は絶対に許さない・・・」

「どうするつもりだ?」

「・・・」

「どうする? 私を殺すか?」

「そうね・・・」

「殺せ、今すぐに!」

「・・・いいえ。 殺しはしないわ。 私の一生をかけて、あなたを苦しめる」

「いくらでも相手になってやる。 一生、付き合ってやるよ」

「・・・」

「どうした? 言いたいことはそれで終わりか?」

「そうね・・・」

「かかってくるんだろ? 早くしてもらえないか? みんなが待っているんだ」

「みんな・・・」

「そうだ。 はるかや、リコや、レイカや、沢村が待ってるんだ」

「待ってる・・・」

「もう、一人じゃないんだ」

「あなたが、そんなことを言うなんて・・・」


セツナはあざ笑うような目をした。


「・・・笑えばいいさ。 いくらでも笑え」

「可笑しいわね。 あなたじゃないみたい」

「どういう意味だ?」

「知らない人のようだわ。 ・・・私が追い求めていた誰かとは違う・・・」

「私は私だ・・・」

「いいえ、違うわ。 でも、私はあなたと戦いたい・・・。 そう心が叫んでる」


「もういいだろ・・・」


二人は俺を見た。


「これ以上、ここでやるっていうんだったら、俺が二人ともブッ飛ばす」


・・・。


「・・・それは困るな」

「そうね・・・」


セツナがゆっくりと竹刀を下ろした。


「どうやら、少しはマシになったみたいね。 どういう理由でまた剣術をやろうと思ったかは知らないけど、次は二度と立ち上がれなくなるくらいに叩き潰すわ」

「そう簡単にいくかな?」


セツナは静かにその場から去った。


・・・。


桜木はフッと肩の力を抜いた。

緊張の糸がほどけたんだろう。


「・・・大丈夫か?」
「私の問題に巻き込んですまなかった」


俺はそれを聞いて笑った。


「気にすんな。 俺も最近知ったんだけど、人間なんてそういうもんだろ」
「え?」
「誰かに話すと楽になるんだよ・・・。 どんなにつらいことでもさ。 な? 少しは楽になっただろ?」


俺はまた笑った。

 

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「ああ・・・」
「そういうもんだよ」
「ありがとう」


桜木もまた、笑った。


「さぁ! みんなお前を待ってるぜ! 行こう!」


俺と桜木はみんなの元へ戻った。




 

桜木はみんなの元へ戻り、試合の準備をはじめた。

一回戦は・・・あの星雲学園だ。

勝てるだろうか。

俺は不安だった。

いや、あいつらなら、きっとやってくれる。

俺はそう強く信じた。

客席に座り、会場を見た。

急に客席がざわざわとしだした。

観客たちが身を乗り出して試合上に視線を送っている。

その視線の先・・・。

現れたのは・・・。

星雲学園だ。

 

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場内のボルテージは最高潮に上がる。

堂々とした入場に、観客たちは釘付けだ。

黄色い声援が集まる。

割れんばかりの歓声が会場を包んだ。

優勝候補、星雲学園剣術部。

いや、候補などではない。

もはや、優勝するのが当たり前。

観客の大半は彼女たちの試合を見に来ているといっても過言ではない。

彼女たちは堂々と入場した。

本命中の本命!

賞賛の声。

がんばれ~。

きゃ~!!

その声はとどまることを知らない。

俺はその歓声に圧倒される。



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「今日のお客さんは、いつも以上に盛り上がってますね。 数値にすると、120デシベルっていったところですかね~」


星雲学園、先鋒。

桐生小梅。

二年生でありながら、レギュラーの座を勝ち取る。

その剣術は緻密な計算の上に成り立ち、機械のような正確な太刀さばきを得意としている。

戦歴、無敗。

小梅にとって、負けるというデータは存在しない。

 

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「ムニュー! ケンジュツ、サシミ、ツオイ」


星雲学園、次鋒。

弓刺のぞみ。

突如、星雲剣術部に現れレギュラーとなる。

全てが謎のベールに包まれた不思議少女。

そのスピードは瞬間移動かと目を疑うほど。

まさに神出鬼没のトリッキーファイター・・・。

 

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「見て! みなさん、この美しき私に見とれているわ。 スターとはこういうものよ!」


星雲学園、中堅。

右近シズル。

星雲レギュラー中、もっとも華麗な少女。

彼女の剣さばきは、美しく、可憐な華のようだ。

しかし、その美しさとは裏腹に、おそろしいまでに鋭く相手を突く。

幼少より、剣術の英才教育を受けてきた彼女に付け入る隙など存在しない。

 

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「みんな~! 応援してね~! てか、この歓声~! 超きもちいいんですけど~!」


星雲学園、副将。

星樹

星雲剣術部エース。

持ち前のフットワークの軽さで、相手を翻弄する。

抜群の運動神経から繰り出される技はどんな相手も打ち負かす。

剣術をするために生まれてきた、天才・・・。

 

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「騒がしいわね・・・。 早く試合を・・・始めましょう」


星雲学園、大将。

暁セツナ。

ライバル不在の女王・・・。

彼女の激しい攻撃は、まさに修羅の如し。

他を寄せ付けない圧倒的な強さを誇っている。

誰も彼女を越えることはできない。

彼女は剣の申し子・・。

・・・。


誰もが驚異的な実力を誇る天才集団。

それが、星雲学園だ・・・。

・・・俺はその存在感に圧倒された。

こんな化け物と、俺たちは戦うのだ。

運命のいたずらか・・・。

はじめから、決まっていたことなのかもしれない。

だが、俺たちは立ち向かうしかないのだ。

俺たちの前に立ちはだかった壁がどんなに大きくても。

その壁を意地でも這い上がらなければいけない。

俺達には、それを越えるだけの絆がある。

誰にも負けない・・・絆が。


・・・。



星雲学園への熱狂が冷めやらぬ場内。

俺は客席から試合場に慌てて向かった。


「おまえら、あんまり気負い過ぎんなよ!」

 

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「分かってる。 星雲学園が強いことは、もう、嫌ってほど知ってるから」

「そうだ。相手は強い。 でも、おまえらだって、あんなに頑張ったんだ。 やれるさ!」


俺は必死で発破をかけた。


「みんな、自分の順番は分かってるわよね」


戦う順番は、栗林と桜木が話し合って決めたようだ。

 

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「先鋒は私です。 今まで学んできたことを、全て出し切るつもりです」

「沢村さん? あなたの役目は分かっているわね?」

「先鋒は試合そのものを盛り上げなければいけません。 チームに勢いをつけなきゃいけないし」

 

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「緻密で巧みな試合運びが要求されるポジションだ。 頭のいい沢村にはピッタリだな」

「相手の桐生さんのデータは出来るだけ収集しました。 私、がんばります!」


沢村はノートを再度チェックしている。


「沢村さんの次は佐田さんね。 次鋒はムードを殺さない、元気のいい選手が向いているわ」

「リコが適任だな。 おまえらしく、楽しく戦うんだ」

 

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「はいです。 リコは元気だけがとりえですから」

「中堅は?」

 

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「とうとう私の出番のようね。 中堅は最も美しく、目立つポジション。 オーラのある私にこそふさわしいわ」

「ちょっと違うが、中堅は柱だ。 どんな試合展開にも対応しなければいけない。 これも大事なポジションだ。 レイカ、頼んだぞ」

「私が負けるわけないわ。 ・・・右近さんを倒す・・・必ず」


いつにもまして気合が入っている。

 

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「次は副将ね。 前4人の戦ってきたスコアをよく考えながら、大将に有利なポイントで回せるよう計算しながら戦うことが要求されるわ」


はるかは頷いている。


「冷静沈着で粘り強い人間が適している。 そして、事実上の大将だ。 はるか、やれるな?」

「うん。 どんなに苦しいことだって耐えてきたんだもん。 きっと勝てる」

「はるか、期待してるぞ」

「樹ちゃん、もの凄く強いけど、私だって練習したもん。 宗介・・・応援よろしくね!」

「もちろんだ」


「最後は大将ね・・・桜木さん」

「桜木ヒカルが負けるはずないわ。 だって彼女は最強ですもの」

「そうです。 ヒカルさんはクマよりも強いです!」

「私たちの、心強いリーダーですからね!」

「私たち、ヒカルがいたから、ここまで頑張れた。 だから、今度は私たちがヒカルのために頑張る!」

 

 

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「みんな・・・ありがとう。 私は・・・負けない。 みんなで優勝しよう」


俺たちは輪になった。

手を一つ一つ重ねていく。

みんなの熱が手に伝わる。


「じゃあ、いくよ! 新山・・・」

 

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「「ファイオー!!」」


手を高く、掲げた。



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「元気だねぇ、これから試合だというのに、やけに楽しそうだな」


俺たちの前に姿を現したのは、新山大九郎だった。

「なにしに来たんだよ・・・」

「そんな目で見ないでくれ。 私は学園長だ。 自分の学園の応援をするのは当然のことだろ?」


学園長は薄笑いを浮かべた。


「・・・ふざけやがって」

 

「なんでも、相手はあの星雲学園だそうじゃないか。 栗林くん、勝算はあるのかね?」

「試合の勝敗はやってみなければ分かりません。 誰にも」

「ほう。 それは楽しみだ。 学園の名に恥じないような戦いを期待しているよ」


「・・・黙って見ていたらどうだ? 試合はすぐに始まるんだ」


桜木が大九郎に言い放つ。


「くっ。 ・・・まぁ、一回戦でいきなり星雲と戦うことになるなんて偶然にしては出来すぎていると思わないかい? どうせ負けるんなら早い方がいいだろう? 私のせめてもの親心だよ。 クズども」

「お気遣いありがとうございます。 おかげで、初戦から引き締まった戦いができます」


大九郎は面白くないといった顔をして去って行った。


「学園のことなんて考えるなよ。 俺たちはそんなもんのためにここに来たんじゃない。 楽しもうぜ!」


俺の言葉にみんな頷き、笑顔を浮かべた。


「さぁ、行ってこい!」


・・・。


ついに試合が幕を開ける。


新山学園と星雲学園、両学園が向かい合って並んだ。


「それでは地区大会、第一試合、新山学園 対 星雲学園の試合を開始します。 両学園、礼っ!」


審判の声とともに、お互い礼をした。


「試合時間は4分。 2本先取した方を勝者とする。 なお、大将のみ延長線を採用する」


審判が試合のルールを説明する。


「では、先鋒、前へ!」


面をつけた沢村がこっちを振り返る。


「自分の全部を出してこい。 勉強だけじゃないところを、私に見せてくれ」

「沢村さん、あなたの真面目なところ私知ってる。 きっと勝てる。 だから、頑張って!」

「行ってきます」

「がんばれ、沢村」


沢村はゆっくりと試合場の中心に向かった。


沢村と小梅は竹刀を構え、向き合った。


「一本目、始めっ!」

 

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「やぁああああ!!」

 

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「たぁぁぁああ!!」


お互いの声が会場に響き渡る。

場内から大きな歓声が湧いた。

優勝候補の星雲の試合を見たいギャラリーの「星雲コール」が巻き起こる。


星雲!


  星雲!


    星雲!


「沢村さん~!! 頑張って~!!」


俺たちも負けじと応援を送った。


「ほぅ。 最初は沢村くんか。 勉強しかできない彼女になにができるんだ?」

「今の沢村さんは・・・学園長の知っている沢村さんではありません」


沢村は小梅の動きを見ている。

小梅はじりじりと沢村に近づいた。

 

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「私の計算が間違っていなければ、10秒といったところですね」

「え? 何がですか?」

「沢村さんが、私に一本取られるまでの時間です!」


10秒・・・。

そういった小梅が、沢村の視界から消える。


「!? まずい、沢村! よけろっ!」

「えっ!?」


小梅の竹刀は沢村のガラ空きのコテを狙い撃つ。


──ッ!!


「一本っ!!」


場内からは拍手が巻き起こる。


「そんな・・・」

「動きが見えないわ・・・」

「沢村・・・」


沢村は何が起きたか分からないといった顔をしている。

呆然とする沢村に、審判が戻るように促した。

新山側に焦燥感が漂う。


「くだらん・・・。 全く相手になってないじゃないか」

「まだ、負けたわけではないです。 ただ、一本取られただけ・・・。 これからです」


「沢村っ!! 相手の動きをよく見ろっ! 練習でやったことを思い出せ!!」


練習でやったこと・・・。

思い出していた。

合宿でやったこと。

データを収集し、あらゆる参考書をみたこと・・・。

そうだ・・・私は今まで勉強しかしてこなかった。

生徒会長になる事だけに青春を費やしていた。

でも、剣術に出会えた。

仲間が出来た。

運動なんて出来なくてもいいって思ってた。

でも、今は違う。

私は強くなったんだ。

竹刀をゆっくりと構えた。

学んだことを・・・思い出せ。

・・・一頭一足の間合い。

一歩踏み込めば相手を打突出来る距離であり、一歩さがれば相手の攻撃をかわすことのできる距離。


「二本目、始めっ!」


「間違ってしまいました。 10秒ではなく、5秒でしたね。 次は3秒です!」


小梅の挑発にのらず、沢村は静かに息を吐いた。


「沢村さんが私に勝つ可能性は、0・00001%未満。 これは私の開発した機械がはじけ出した答えです」

「可能性なんて・・・そんなに簡単に分かるもんじゃありません。 何が起こるか分からない。 それが剣術です」

「・・・でも、私の機械に間違いはないです!」

「・・・もう、3秒たちましたよ。 ほら、データが崩れましたね」


小梅はムッとした表情をした。


「では、遠慮なくいかせてもらいますっ!!」


小梅は竹刀を振りかぶる。


「来るぞっ!!」

 

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「め~んっ!!!!!!!」


小梅の竹刀は、沢村の頭を捕える。

・・・がそれを、しっかりとガードしている。


「よしっ!! 攻撃だ!」


沢村は距離を取る。


「一歩踏み込めば相手を攻撃できる距離・・・」


中段に構えた両者の剣先が10センチ程交差した時だった。

 

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「め~んっ!!!!!!!!」


──ッ!!


沢村の竹刀がまっすぐと、正確に小梅の面を襲い、その勢いのまま沢村が小梅の横をすり抜ける。

一瞬、場内が静まる。


「判定は?」


審判をみるが、誰も旗をあげてはいない。


「くそっ」


沢村はまだ後ろを向いたままだ。


「相手に後ろを見せては、負けも同然です! め~んっ!!!!!」


沢村は追いかけるように小梅が面を繰り出す。


「よけろ沢村っ!!」

「えっ!?」


桜木の声に気づき、必死でガードする。


──ッ!!


「防いだ!!」


しかし、衝突の勢いで沢村は吹っ飛ばされ、倒れてしまった。


「沢村さん!!」

「待てっ!!」


審判が試合を止めた。


「君、大丈夫か?」

「は、あひ。 大丈夫です。 ですが・・・ちょっと目が・・・」


沢村は目に異常があることを訴えた。


「どうしたんだ?」


試合は一時中断し、沢村は面をつけ直すために脇に戻った。


「おいおい、みっともない試合だね~。 これ以上、新山学園の看板に泥を塗られてはかなわんな」

「まだ負けたわけではありません。 ・・・今、彼女は必死で戦ってます」


小梅も星雲サイドに戻った。

 

 

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「桐生くん、君はなにをやってるんだ?」

「え? それはどういうことですか?」

「相手が初心者だと思ってなめているのか? さっきの面でなぜトドメを刺さなかった」

「・・・そのつもりだったんですけどねぇ。 ちょっと計算が狂っちゃいました」

「計算に溺れると、痛い目をみる。 剣術に科学は必要ない。 何が起こるかわからない。 それが剣術だ」

「すいません・・・わかりました」


・・・。


戻ってきた沢村は面を外した。


「大丈夫か?」

「大丈夫です・・・。 ただ、さっき倒れた時にコンタクトが外れてしまって」


沢村は目をいじっている。


「それは不味いな。 新しいコンタクトは持ってるのか?」

「いいえ。 メガネしか持ってません」

「メガネ!?」


アキナはメガネを取り出した。


「まさか・・・かけるのか?」

「仕方ありません。 これしかないから」

「お、おいっ!!」


沢村はゆっくりとメガネをかけた。


「うぐぐぐぐぐぅぅぅぐあああ・・・」

「沢村?」

 

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「・・・なんや、こんなところで登場とはアキナも無茶言うわ・・・」

「沢村!」


他のメンバーは何が起こったか分からないといった様子だ。


「せやけど、アキナの努力はうちが一番良くしっとる。 うちらは二人で一人や。 行ってくる」


「なんだかよく分からんが、随分と逞しくなったな」

「ああ。 あいつは手強いぞ」


沢村は試合に戻った。

 

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「審判、さあ、試合続行や。 いくで」


ビシッと竹刀を構えた。


「あれ? なんだかさっきと雰囲気が違うような・・・」

「そやな。 もう負けんで」


「二本目、始めっ!」


「やぁああああ!!」

「たぁぁぁああ!!」


──ッ!!


沢村は審判の声とともに、すかさずコテを打つ。


「くっ・・・」

「先手必勝や・・・ていうても、なかなか当たらんな」

「どうやら舐めると負けてしまうようですね」


小梅の目つきが変る。


「たぁぁぁああ!! 胴っ!!!!!!」


「くるぞ!!」


──うちは、アキナのためにも・・・負けるわけにはいかんのや。


引込み思案で姉のことばかり気にしとったアキナが、

みんなに会って変わったんや。

うちに出来ることは、アキナの努力に恥じんように戦うだけや。


──ッ!!


「えっ!!」


沢村は竹刀で小梅の胴を払いのけた。


せいやぁぁぁぁ!!」


続けざまにコテを狙う。

 

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「コテッ~!!!!」


小梅をそれを必死でかわす。


「たぁぁぁっ~!」


──ッ!!


お互いの竹刀が、ぶつかり合う。


「凄い、星雲学園と・・・渡り合ってる」

「ああ。 いい剣術だ」


沢村が攻めると小梅は防御し、

小梅が攻撃すると、沢村はそれを防御する。

激しい攻防が繰り広げられた。


「・・・どういうことだ、これは」

「沢村さんはもっとも真面目で、合宿も必死でこなしました。 その成果が今出ている・・・それだけです」

「・・・ふん」


「はぁ、はぁ、はぁ・・・なんや、全国大会優勝チームのメンバーは手強いな」

「はぁ、はぁ、はぁ・・・あなた、一体誰なんです。 こんな剣術をするなんて・・・私の計算にない・・・」

「言ったやろ? 剣術は計算やない。 気合と根性や!」


──ッ!!


お互い一歩も引かず、打ち合う。

試合終了の笛が鳴った。


「時間か?」

「止めっ!! 勝者、星雲学園、桐生小梅!!」


旗が小梅の方に上がった。

場内から歓声が湧き上がる。


「くそっ・・・時間切れか」


沢村はゆっくりと俺たちの元に戻ってきた。


「すまんな。 ・・・勝てんかった」

「何言ってんだよ。 あんなすげー試合して、謝るな」

「せやけど・・・。 アキナになんて言ったらいいか・・・」

「心配するな。 俺がしっかり伝えておくよ。 おまえは頑張ったってな」


「ふん、負けてしまったようだね」


栗林は表情を変えない。


「栗林くん、君も新しい就職先を考えた方がいいようだねぇ」

「まだ一敗です・・・。 答えを出すのはまだ先でもいいのでは?」


沢村は笑い、メガネをとった。

はるかたたちが近づいてくる。


「凄いよ、沢村さん!!」


沢村はぼんやりしている。


「え? でも・・・私負けたんですよね」

「あなたは良くやったわ。 十分、戦ったわ。 恥じることなんてなにもないわ」

「そうだ。 沢村。 こっちはまだ、4人いる。 ひとりで戦ってるわけじゃない」

「・・・みなさん。 ・・・でも、私、悔しくて・・・。 勝てるなんて本当は思ってなかったけど、でも、やっぱり負けると悔しくて」


沢村は目に涙をためた。


「相手は星雲だ。 簡単に勝てる相手じゃない。 だけど、俺の心には響いたぜ、沢村の試合」

「先輩・・・」

「沢村さん、よく頑張ったわね。 あの桐生小梅から一本しか取られなかったのよ。 胸を張りなさい」


沢村は大きく頷いた。


「さぁ、試合はまだ始まったばかりだ。 リコ、次はおまえだ!」

「はいです! 頑張るです!」

「リコちゃん、明るく元気に、自分らしくね!」

「そうよ。 華麗に戦ってきなさい!」

「リコは弱いですけど、弱いなりに戦います」

「リコは、リコが思っている以上に強い子だ」

「リコは強い子?」

「そうだ。 強い子だ」

「・・・はいです!!」


「沢村、星雲の次鋒のデータはあるか?」

「つい最近、星雲に入部したみたいなので、公式戦のデータがまだないんです」

「あいつは・・・確かに謎だ」

「そうか、リコ、いいか? 相手がどんな選手だろうが、絶対にスキができる」

「スキ、ですか?」

「そうだ。 そのスキをつくんだ。 相手が面を打ってくるだろ? その瞬間に実は一瞬のスキが出来る。 そこを狙え」


桜木はリコの手をもつ。


「面がきたらしっかりガードだ。 隙をみて攻撃。 難しいことは考えるな。 思い切っていけ」

「面がきたらガード、隙をみて攻撃・・・」


リコの手をもち、一緒に振ってみせる。

ちょうどその時、審判からリコに声がかかる。


「リコ、行くです!!」


チョコチョコとリコは竹刀を構えた。

サシミも竹刀を構える。


「一本目、始めっ!」

 

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「にゃあああああああああ!!」

 

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「むにゅうううううううう!!」


星雲!


  星雲!


    星雲!


会場から、再び「星雲コール」が巻き起こる。

くそっ・・・。

完全にアウェー状態だ。


「なんだか、おかしな二人が出てきたな・・・こんなものは茶番だよ」

「佐田リコをあなどると、痛い目をみることになりますよ」


リコとサシミは、微動だにしない。


「リコちゃーん!! 頑張って!!」

「頑張れ~!!」

「やっつけてしまいなさい!!」

「はーいです!」


リコはこっちに手を振っている。


「君、構えて!」

「す、すいません」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ~!!」

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「むにゅうううううううう!!」

「がぁぁああああああああ!!」

「ふもおおおおおおおおお!!」

「チュンチュン!! チュンチュン!!」

「きょええええええ~!!」

「こっこっこっこっこっこ!!!」


突然、掛け声対決がはじまる。


「リコ、攻めろ!!」

「分かったです!! 行くです!! メーーーン!!」


リコの竹刀が、サシミの面に飛んでいく。

ひょろひょろとしているが、しっかりとサシミへ向う。


「いったか!!!」

「むむむぅぅぅぅぅぅ」

「え!?」


突然、サシミの体が消えた!?

いや、正確には消えたように見えた。

リコの竹刀は空を切る。


「ありゃ?」

「後ろだ!!」


──ッ!!


サシミの面がリコを捕えた。


「一本っ!!」


「うぅぅぅ・・・」


リコは頭を押さえている。

今にも泣きだしそうな顔だ。


「きゃははははは」


サシミは大声で笑っている。


「笑うんじゃない!」


三田さんの声にサシミは振り返った。


「試合中だ。 真面目にやれ。 真面目にやる気がないんだったら、今すぐに戻ってこい」

「・・・」


サシミは、しゅんとしている。


「これは勝負にならないようだな。 あの佐田くんに剣術など無理だったのだよ」

「そんなことはありません。 誰にだって平等に剣術をやる資格があります」


リコは俺に泣きそうな目を向けた。


「リコ、そんな目をするなよ・・・。 おまえは強い子だ」

「リコは強い子・・・」

「そうだ。 泣いたらそこで負けだ」

「はいです!」


──あたしは強い子。

そうです。

リコは、何もできない子だったけど、

みんなに会って、勇気をもらいました。

友達もいっぱい出来ました。

だから・・・。

だから・・・リコは、もう一人じゃないんです。

みんなのためにも、勝ちたいんです!


「二本目、始めっ!!」


「やぁああああああああ!!」


気合の入った声をあげた。

今までで一番、力強い声をあげた。

腹の底から、声をあげた。

小さな体で出せるだけの声を。


「やああああああああああ!!」


サシミも負けじと声をあげる。


「めぇえええええええええん!」


リコは再度、面を打つ。

さっきとは比べものにならないほどのスピードで。

が、サシミはそれをかわしコテに転じる。


「こてぇぇぇええええええ!!」


──ッ!!


「浅いっ!!」


審判は反応しない。

もっと強く。

もっと強く。

リコは心に命じた。


「どおおおおおおおおおう!!」


リコの胴はサシミに届かず、空を切る。


「めええええええええん!!」


「よけろ!!」


サシミの面は確実にリコを捕えていた。


「面がきたらガード、隙をみて攻撃・・・。 面がきたらガード、隙をみて攻撃・・・」

 

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──ッ!!


「・・・ムニュ?」


リコは面を竹刀で防ぐ。


「よし!!」

「面がきたらガード、そして、隙をみて攻撃!」

「リコ、そこだ!!」

「はいです!!」


リコは攻撃に転じる。

 

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「めええええええええん!!!!!」


リコの竹刀はサシミの隙間から、面に向かって伸びていく。

しっかりと力強く。

あの弱々しかったリコが、こんなにも声を張り上げて。

のどが枯れるほどの声を上げているのだ・・・。

にゃーにゃー言ってたあのリコが、今は立派な剣士に見えた。


──ッ!!


「当たった!!」

「もらったか!?」


審判をみる。


「いっぽ・・・」


審判は旗を下で交差させる。


「え? どういうこと?」

「・・・だめだ、浅いか?」


リコの面はあと少しのところで無効となった。

サシミは茫然としていたが、審判の判定を確認し攻撃をくりだす。

 

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「こてぇええええええええ」


──ッ!!


「一本!!」

「・・・うぎゃ」


サシミの竹刀がリコのコテを打っていた。


「それまでっ!! 勝者、星雲学園!!」


うおぉぉおおおおお!!!!!


場内から拍手が巻き起こった。

二人の試合をねぎらうような拍手だった。

リコは黙ったまま、戻ってきた。

 

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「リコ・・・良くやったな」

「すいません、なにも出来ませんでした」

「そんなことないよ。 リコちゃんの面、すっごく惜しかったよ」

「そうよ。 まさかあなたに、あんな攻撃が出来るなんて驚きよ」

「でも・・・負けてしまっては意味がないです」

「ちゃんと言う通りに出来たな。 ただし、踏み込みが甘い」


リコは泣きそうな目でヒカルをみた。


「もっと練習すれば、次は勝てるよ」


リコの目から、涙が溢れそうになった。


「悔しいか? だったら泣けばいい」


「いいえ・・・リコは泣きません! 泣いたってどうしようもないです。 だから泣きません! それに、まだみんながいます」

「そうですよ。 みんなで戦ってるんですもん。 先輩たち、私たちの雪辱を晴らしてください」

「当然よ。 2敗はしたけど、あと3試合あるのよ。 全勝すれば新山の勝ちよ!!」

 

「佐田さんの面、あと少し腕が伸びていれば一本でしたね」

「・・・だが、負けは負けだ」

「あの佐田さんが、こんなにも頑張っているんですよ。 学園長はなにも感じませんか?」
「・・・」


大九郎は視線をそらした。

 

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「サシミ、あなた、危うく一本取られるところだったわね」

「ムムム」

「あんな無様な試合、星雲の名前に傷がついたわ」

「リコ、ツオカッタ、サシミ・・・アブナカッタ」

「私はあんなみっともない試合はいたしませんわ。 星雲の剣術の恐ろしさ、神山さんに思い知ってもらうわ」

「あんまり舐めないほうがいいかもね~。 なんだか、この前の交流試合とは全然ちがうし~」

「素人がいくら必死になったところで、所詮は素人よ。 私で決めますわ。 樹やセツナの出番はないわね」


右近はニヤニヤしている。

 

 

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「うぬぼれは身を滅ぼすぞ。 どんな相手にも全力を尽くせ」

「お言葉ですが、突然就任されたような監督に指図されるおぼえはないわ。 私は私の剣術をするまでよ。 右近シズルの剣術を」


先鋒戦 星雲学園

次鋒戦 星雲学園


現段階で新山学園は2敗だ。

次で負けたら・・・。

イカはその重さを感じているようだった。

 

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「レイカ、緊張してるのか? 肩に力が入ってるぞ」

「足が・・・なぜだか分からないけど・・・足が震えるの」


桜木はレイカの肩を両手でもった。


「怖くなんてない。 レイカ、リラックスしろ。 きっと勝てる」

「桜木さん・・・」

「そうですよ! 神山先輩には、あれがあるじゃないですか!」

「スーパー、ミラクル、トドロキ、スペシャルアタックです!」

「違う!! レイカ・エレガンス・デンジャー・アタックよ!!」

「そうでしたか?」


イカは呆れたような顔をした。


「あれ? ちょっと緊張が解けたんじゃない?」

「だって佐田さんがくだらないことばっかり言うんですもん」

「さすがムードメーカーだな」


俺たちは笑った。


「あとのことは考えるな。 レイカはレイカらしく、戦え」

「もちろんよ。 でも、私はあなたたちのために戦うわ」


イカ・・・。


「両学園、中堅、前へ」


「右近さんにだけは、負けたくないわ。 行ってきます」


イカは堂々と試合に向かった。


「神山のお嬢様のお出ましか。 ・・・右近コンツェルンとの企業対決だな。 これは楽しみだ」

「企業の戦いではありません。 これは人と人との戦いです」


右近が客席に手を振りながら登場した。


シズル!


  シズル!


    シズル!


シズルコールが場内に起こる。

シズルLOVEと書かれた鉢巻をした、親衛隊のような連中が客席に溢れている。


「右近さんってすごい人気なんだね」

「そうみたいですよ。 剣術界のアイドルみたいです」

「レイカだって新山のアイドルだぞ」

「そうです! レイカ! レイカ! レイカ!」


俺たちはレイカに必死でエールを送った。


「あら? 神山さん、こんなところに何しに来たのかしら?」


イカは黙っている。


「あなたのような人間が来る場所じゃないわよ。 聞こえるかしら? このシズルコールが」


シズル!


  シズル!


    シズル!


「私のいい引き立て役になってくださいね」

「・・・誰が引き立て役ですって。 あなたのその曲がりくねった根性を叩き直してあげるわ!」


イカは竹刀を右近に突きつけた。


「いい度胸だわ。 でも、大恥をかくのはあなたよ。 ピアノでも負けて、剣術でも負けて、みっともない人」

「・・・」

 

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お互い、竹刀を構えた。


「一本目、始めっ!」


「やぁあああああああ!!」


イカの声だけが響く。


「声だけは一人前なのね、声だけは」


右近は余裕をかましているのか、全く声をださない。


「どこからでもかかってきなさい」


右近は竹刀をおろした。


「あいつ、馬鹿にしやがって、レイカ! 行け!!」

 

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「めえぇぇぇぇえん!」


イカの竹刀が右近に伸びる。


右近はサラリとそれをかわす。


シズル!


  シズル!


    シズル!


「それはなに? まさか面だなんていうんじゃないわよね?」

「くっ・・・」


イカは唇を噛みしめた。


「ほら? はやく攻撃してきなさいよ。 神山さん?」


右近は、いらっしゃい? といった感じで両手を広げた。

イカは頭にきたのか、何度も何度も右近に面を打っていく。


・・・が、当たる寸前のところでかわされる。

何度も何度も・・・。

イカは必死で右近を追いかけるが、全く当たらない。

まるで鬼ごっこでもしているかのように、右近はよける。

次第に体力を失い、レイカの動きは鈍くなっていく。


「こっちよ神山さん! こっちこっち! はやくいらっしゃい!」


右近は馬鹿にしたように言った。

場内からは笑いがこぼれた。


「あいつ、完全に遊んでやがる」

「あんなことするなんて・・・酷い」


イカが追いかけると、右近は逃げる。


「ちょろちょろと動きまわって・・・卑怯よ!」

「卑怯? 私に触れることのできない、あなたの実力を恨んだら?」


会場はさらに笑いに包まれた。


「めぇえええええええええん!」

「なによそれ? それが面だとでもいいたいの?」


小馬鹿にしながら右近はさらりとかわした。

勢い余って、レイカは場外に出てしまった。


「待てっ! 新山学園、場外!」


審判はレイカの方を指差し、指導する。


「場外になるとどうなるんですか?」

「反則を取られる。 2度、場外に出れば、一本だ」

「そんなぁ・・・」

「卑怯です! こんなの剣術じゃない!」


「この試合は見ていられないな・・・。 右近シズル・・・おそろしい選手だよ」

「あんなものは剣術ではありません・・・。 少なくとも私は認めない」


フラフラしながら、レイカは竹刀を構えた。


「始めっ!!」


シズル!


  シズル!


    シズル!


「まだやるつもり? あなたって案外、恥をかくのが得意みたいね」


右近は呆れた顔をしている。


「・・・」


──右近シズル。

強い・・・。

私の竹刀が全く当たらない。

イカは絶望の淵に立っていた。

経験の違いを恨んだ。

・・・負けたくない。

負けたくない!

負けたくない!

何度も心で叫んだ。

右近シズルだけには・・・。

イカのプライドは、すでにズタボロだった。

観客の視線が痛かった。

さらし者になっている・・・。

この私が・・・。

神山グループの令嬢たる、この神山レイカが・・・。


「レイカ! がんばれ!」


声がした。

振り返ると、仲間たちの顔が見えた。

 

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沢村さん・・・。

 

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鈴木さん・・・。

 

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佐田さん・・・。

 

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桜木さん・・・。


そして・・・。

椿宗介・・・。


「変ね・・・。 こんなに恥をかいているというのに、全然悔しくないわ」

「なんですって? 強がりはよしたらどう?」

「ウソじゃないわ。 むしろ心地いいわ。 ・・・私を応援してくれる人たちがいるもの。 利害関係とか、お金とか・・・関係のない人たちがいるもの」

「だったら、もっと恥をかかせてあげるわ」


右近は竹刀をレイカに向けた。

 

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「さぁああああああああ!」

「やぁああああああああ!」


シズル!


  シズル!


    シズル!

 

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「めえええええええええん!」


右近の面がレイカを襲った。


「危ない!!」


──ッ!!


「うっ・・・」


場内がどよめく。

イカは苦悶の表情を浮かべている。

審判は旗をあげていない。


「はずれたか・・・」


右近の竹刀はレイカの面の少し横にずれ、肩のあたりに当たった。


「あら、私としたことがミスしてしまったわね」


イカは痛みを堪えているようだ。


「今のって・・・」

「わざとだな・・・。 右近はわざと面をはずした」

「そんな・・・」


わざとだと・・・。

ふざけやがって!

俺は怒りが込み上げてきた。


「・・・なんだか穏やかではないね、この試合」

「私はこれを剣術とは認めません。 私たちがやってきた剣術はこんな汚いものじゃない」

「それは君が主将だった時のことかな?」

 

「レイカ! がんばれ! そんな卑怯なやつに負けるな!」


右近はレイカに再度攻撃を仕掛ける。


コテ、胴、面・・・。


そのどれもが、ギリギリで外れている。

イカは痛みをグッとこらえた。


「ごめんなさいね。 私、どうもコントロールが悪いみたい」


・・・。

痛い・・・。

体が・・・。

イカの体は限界に来ていた。


「こんなの、もう試合じゃねーよ!」


俺は試合を止めようと身を乗り出した。

が、俺の手を誰かがグッとつかむ。


桜木だった。


「待て。 試合を止めたら私たちの負けだ」

「でもさ・・・」

「レイカを信じろ。 まだ目は死んではいない」


イカの目をみた。


苦悶の表情を浮かべているが、その目には小さな炎がともっているように見えた。


「・・・」


右近は容赦なく、レイカを打ち叩く。

それでもレイカは必死で立っていた。


「な、なによその目! 気に入らないわ!」


イカは気力だけで立っていた。


「レイカ・・・」

 

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「これは、あんまりです・・・三田監督」


三田さんは腕を組んでじっと試合を見ている。


「なにもいわないのね」


三田さんは口を開かず、ただレイカを見ていた。


シズル!


  シズル!


    シズル!


「さっさと降参したらどうかしら? もう、あなたに勝ち目はないわ!」

「言ったでしょ。 私には応援してくれる人がいるって。 だから、負けるわけにはいかないのよ」


場内の片隅から、小さな声が聞こえた。

イカ・・・。

確かに、レイカという声が、客席から聞こえてくる。

その声は次第に大きくなっていった。


イカ


  レイカ


    レイカ


「レイカ! レイカ! レイカ!」


どんどんと、レイカを応援する人間の数が増えていく。


「なんなのよ・・・これは・・・」

「どうやら、本当のヒーローは、私だったようね」

「ふざけないで! 小梅! あと試合時間は何分よ!」

「あと20秒です」

「そろそろ止めをさしてあげるわ。 さようなら神山さん」

「負けるのは私じゃない、あなたよ右近さん!」


右近は大きく振りかぶり、レイカの面を恐ろしいスピードで狙い打つ。

 

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「めぇえええええええええん!!!」


竹刀が空気を切りながら、レイカを襲う。


・・・ふぅ。

大きく息を吐いた。

イカは心を落ち着かせ、右近の動きを目で追った。


「レイカ!! そこだ!!!!!!」


──ッ!!


イカは右近の竹刀を止めて、そのまま斜めにスライドさせた。

イカの竹刀は綺麗に右近の胴を捕えている。


「なんですって!」


右近の顔から血の気がひいた。

 

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「どぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

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──ッ!!


イカの体は右近の横を流れるように抜けていった。

場内が静まり返る。


「レイカ・エレガンス・デンジャー・アタックです!!!」


「い、一本っ!」


審判が、レイカの方に旗を上げている!


うおぉおおおおおおおおおおおお!!


場内が一斉に沸き立った。


「レイカ!!!!!!」


と、同時に試合の終わりを告げる、笛が鳴った・・・。


「勝者、新山学園、神山レイカ!!」


わぁああああああああ!!


場内からレイカに歓声と拍手が送られる。

俺も立ち上がり、拍手を送る。

 

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「・・・私、勝ったの?」


フラフラとレイカが戻ってきた。


「そうだ。 レイカの勝ちだ!!」


「良かった・・・」


イカは気を失い、そのまま崩れ落ちた。

俺はそれを受け止めた。

ボロボロになったレイカを・・・。

良くやった・・・。

はるかや、リコも飛び跳ねて喜んでいる。


「君、はやく戻りなさい」


・・・右近は茫然と立ち尽くしていた。

そこへ三田さんが近づいていった。

 

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「戻りなさい。 君は負けたんだ」

「ウソよ。 今のはまぐれ・・・私は負けてない!」

「負けたんだよ。 レイカ様の勝ちだ。 なぜ負けたか、分かるか? 君が剣術を侮辱したからだ」

「・・・」


三田さんは右近を連れ、戻っていった。

 

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「・・・まさか、神山くんが勝つなんて・・・」

「いい抜き胴でしたね。 現役時代を思い出します」

「そんな・・・あれが、あの神山くんだというのか・・・」

「・・・人は変わります」


大九郎は額から流れる汗をぬぐった・・・。

 

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「神山先輩? 大丈夫ですか?」

「・・・ん?」

「気がついたか?」

「・・・私。 ・・・あ、試合は! 試合はどうなったの?」


「神山さん、勝ったんだよ! 神山さんの胴が・・・」


はるかは目に涙を浮かべた。


「そう・・・。 私、勝ったのね・・・」

 

 

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「練習した甲斐があったな。 完璧な胴だった」

「これで1勝2敗です。 まだ勝負は終わってません」

「あとは私たちに任せろ。 な、はるか」

「うん。 神山さんに、あんなに活躍されたら、プレッシャーだよ」

「なにを言ってるのよ。 鈴木さんは才能があるわ。 認めたくないけど、認めざるをえないわね」

「神山さん・・・」

「私、あなたのこと、好きじゃなかったけど、あなたのことは認めてるわ。 ・・・お願い、勝って」

「もちろんだよ。 勝って、ヒカルにつなげるから」

「そうだ。 ・・・はるかなら、やれるよ」


はるかは笑顔を浮かべた。


新山学園のまさかの一勝は、場内の空気を変えていた。

盛り上がりも異様なものになっている。

ただの地区大会一回戦・・・。

そんなことを忘れさせるほどに・・・。

1勝2敗・・・。

まだ俺たちが逆転する可能性は十分にある。

はるか・・・。

頼む。

俺たちの夢を繋いでくれ。


・・・。