ゲームを読む。

-ノベルゲーム・タイピング-

光輪の町、ラベンダーの少女【16】

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

ご意見・ご要望がありましたら
─メール─ zippydle.scarlet@gmail.com
または
Twitter─ @Zippydle_s
まで連絡下さい。


--------------------



「両学園、副将、前へっ!!」

 

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052511j:plain



「行ってくる!」


はるかは堂々と試合場に向かった。

堂々と歩むその姿は・・・。

俺の知っている、はるかとは違う・・・。

まさに・・・。

一人の女剣士そのものだった。

新山一同ははるかに声援を送った。


会場からも大きな声がする。


星雲!


  星雲!


    新山!

      新山!


盛り上がりは更に勢いを増していく。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052523j:plain



「いい試合を見れそうですね」
「どうして、彼女たちはここまでして剣術をやる・・・」
「それは剣術が好きだからです。 ・・・好きだから強くなる。 ただそれだけです」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052530j:plain



樹も試合場に入った。

ぴょんぴょんと飛び跳ねている。    


「はるちゃん、いい試合にしようね。 星雲とか、新山とか関係なく、あたしは、はるちゃんともう一度戦いたかったんだ~」

f:id:Sleni-Rale:20220201052540j:plain



「私もだよ。 樹ちゃんに追い付くために頑張った。 だから、今日は負けない」
「そっかぁ。 でもあたし、強いよ」
「知ってるよ。 ・・・でも、私は負けられないの。 宗介のためにも、ヒカルのためにも。 みんなのためにも」


「一本目、初めっ!!」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052549j:plain



せいやぁあああああああ!!」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052557j:plain



「やぁあああああああああ!!」


速攻で樹ははるかの面を狙う。

はるかはそれをかわし、下がりながらコテを狙う。


──ッ!!


浅い・・・。

下がるはるかを樹は追いかけ、面を仕掛けた。

それを防ぎ、はるかはコテから面への連続攻撃に転じる。


──ッ!!


「くっ・・・」


樹は必死でガードする。

二人は互いに距離をとった。


「凄い・・・あの一瞬にこんなに攻撃をしあうなんて・・・」


場内からも歓声が漏れる。

 

「すげぇ・・・」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052606j:plain



「はるか・・・さすがだ。 天性の才能だな」


「ふぅ・・・樹ちゃん、すごいね。 ついていくのがやっとだよ」

「はるちゃん、どのくらい練習したの?」

「まだ・・・一ヶ月くらいかな」

「ありえないっつーの・・・。 あたし、絶対に負けられないかも」


樹の目の色が変わる。


「全力で行くから!」

 

スッと樹は竹刀を上げた。


「たぁあああああああ!!」


重い一撃が、はるかを襲う。

はるかは、華麗にそれをかわし、下がりながら面を打ち込む。

樹は、下がるはるかを追いかけ、コテ、面、胴と連続で叩き込む。

その全てを、はるかはかわす。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・なんなのよ」

「言ったでしょ。 負けられないって・・・」


「学園長? どうしたんです? 顔色がすぐれないみたいですけど」
「・・・どういうことだ。 なぜ・・・あんなにも・・・強いんだ。 この短期間で・・・」
「お忘れですか? 監督はこの私です」


大九郎はワラワラと震えていた。

それは恐怖などではない。

武者震いというものだろうか・・・。

どこかでみた光景。

何年も封じ込めていた感情。


「・・・昔も、こんなことがありましたよね。 学園長?」


はるかの連続攻撃が、樹を襲う。

足さばきが、とてつもなく速い。

はるかは自由自在に動き回って、あらゆる角度から樹を攻撃する。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052616j:plain



「はるかが押している。 これは・・・いけるぞ」

「鈴木さん、想像以上だわ。 これは勝てるわ!」

「こんなに強いなんて・・・鈴木先輩」

「はるかさん、頑張れ~!!」

「気を抜くなよ。 相手はあの樹だぞ」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052625j:plain



はるかは、樹との間合いを詰めた。


「一足一刀の間合い・・・いける!」


「めぇええええええええん!!」


──ッ!!


・・・。


・・・・・・。


「一本! 新山学園!!」


・・・。


・・・・・・。

 

わぁあああああああああああああああ!!!!!!


場内から拍手が溢れた。


「はるかああああ!!!」


「取りました!!!!! 面を取りました!!!!!!」


俺たちは抱き合って喜んだ。


新山!


  新山!


    新山!


観客たちも、いつの間にか新山の応援に変わっている。


「やったわ! ついにポイントを先取したわ」


はるかは深呼吸をしている。

樹の表情が冷たいものに変わった。


新山!


  新山!


    星雲!


      星雲!


「二本目、始めっ!!」


樹はスッと下がり、間合いを取った。


「はるちゃん、あたしを本気にさせたね・・・」


樹は竹刀を頭の上にかかげ、構えた。


「上段の構え・・・」

「なんだあの構え?」


「七星さん、攻めに転じたようですね」
「上段か・・・君の得意だった構えだね」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052638j:plain



「樹・・・本気ね」
「上段で負けた樹先輩を、私は知りません」


「はるか・・・耐えろ」


「こうなったら、もう誰にも止められないよ」


はるかは樹を警戒する。


「めぇええええええええん!!」


──ッ!!


高い位置から竹刀がもの凄い勢いで振り下ろされた。

速いっ・・・。

必死で状態を反らし、竹刀を避ける。


「一本っ!! 星雲学園」


旗が、樹の方へあがる。


「そんな・・・」


はるかは茫然としている。

何が起きたかは、単純だ。

ただ、必死で避けたはるかのスピード、それを越えるスピードで、竹刀が飛んできたのだ。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「はるちゃん、ごめんね。 あたし、負けるの大っきらいなんだよね~!」


「くそっ・・・どうすりゃいいんだよ」

「勝負!!」


樹はまた、竹刀を上段に構えた。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052649j:plain



せいやぁあああああああ!!」

「やぁあああああああああ!!」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052658j:plain



樹の竹刀が上空から飛んでくる。


「はるかっ!!」


・・・。


──目をそらしたらだめ。

一眼二足三胆四力。

技を見ないで足を見よ。

私には何もなかった。

剣術なんて、出来ないと思ってた。

でも、みんながいた。

ヒカルが私に教えてくれた。

栗林先生が私に教えてくれた。

みんなが私に勇気をくれた。

宗介が私を守ってくれた。

ありがとう・・・みんな。

ふと観客をみた。

見慣れた顔があった。

・・・お父さん。

父の姿がそこにあった。

お父さんが・・・応援に来ている。

店があるのに、私の試合を見に来てくれている。

みんなのために・・・。

私は、負けるわけにはいかないんだ。

勝ちたい。

ううん。
誰のためでもなく、自分のために・・・。

私は勝ちたいっ!!!


技を見ないで・・・足を見よ。

樹の足を見た。

すり足が、ゆっくりとあがるのが分かる。


くるっ!!!


はるかは、竹刀を振り上げた。


この一撃に・・・。

すべてを・・・賭ける。

 

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052708j:plain



「めぇえええええええええええええん!!」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052658j:plain

 

樹の上段からの面のタイミングに合わせ、はるかは面をかぶせた。


俺は立ち上がっていた。

みんな、身を乗り出して応援していた。

大九郎さえも我を忘れ、立ち上がる。


──ッ!!


──ッ!!

 

乾いた音が場内に響き渡った。


・・・どっちだ!


・・・判定は・・・。


どっちだ!!


審判はゆっくりと旗を上げた。


「一本っ! 勝者・・・新山学園!!」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052738j:plain



わぁああああああああああ!!

おぉおおおおおおおおおお!!


試合場の床が揺れるような歓声が上がった。

勝敗なんて関係ない・・・。

ただ、二人の試合に温かい拍手がむけられた。


「そんなぁ・・・」


樹はぐったりと頭を垂れた。

はるかは、樹に近づく。


「・・・ありがとう。 私・・・楽しかったよ」


はるかはコテを外し、樹に手を出した。


「うん。 はるちゃん・・・強いね。 今日は、私の完敗って感じ・・・」


樹ははるかの手をしっかりと握った。

二人の雄姿に、場内からまた歓声があがる。


「勝ちましたね。 これで勝敗が分からなくなりました・・・学園長?」
「・・・なんだ、この胸の高鳴りは・・・」


大九郎は静かにうつむいた。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052748j:plain



「三田っちごめん! 負けちった!」
「良くやったね。 相手が悪かっただけだ。 君は弱くない」
「なんだろ。 あたし、超くやしいよ・・・セツナ・・・あとは頼んだよ」


セツナは無言で試合場へと向かった。

・・・。


はるかが俺たちの所へ戻ってきた。

みな、はるかに飛びついた!

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052758j:plain



「はるかさん! あなたはやっぱり天才でした!」

「まぐれだよ、まぐれ・・・」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052808j:plain



「まぐれであんなことできないわ! さすがよ! 私、感動したわ!」

「・・・涙がでそうですぅ」


「ほら、まだ勝ったわけじゃないぞ。 ・・・でも、はるか、良くやった!!!」


俺ははるかに抱きついた。


「ちょっと、宗介・・・苦しいよ」

「すまん、すまん」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052820j:plain



「ヒカル・・・あとは、よろしくね。 私たちの思いを、叶えて」


桜木は黙って頷いた。


「桜木さんが負けるなんて、ありえないわ。 だってあなたは、最強ですもの」

「そうです! ヒカルさんは世界で一番強いです!」

「桜木先輩・・・頑張って」


「・・・相手はセツナだ。 どうなるかな・・・。 だが、一つだけ言える。 私は一人じゃない。 だから・・・勝てる気がするんだ」


場内から歓声が聞こえた。


星雲!


  新山!


    星雲!


      新山!


大将戦を今か今かと待ちわびているようだ。


大将戦・・・。

これですべてが決まる。

2勝2敗。

全ては桜木の試合にかかっているんだ。

ここまでくるのは・・・簡単な道のりではなかった。

でも、桜木がここにいる。

剣術を避けていたあの桜木が・・・。

こんなに多くの人たちの前に立っている。

そして剣術をやる。


・・・嬉しかった。


そのことが、たまらなく・・・嬉しかった。


「両学園、大将、前へ!」


桜木とセツナはお互い礼をして、蹲踞をした。

竹刀と竹刀が向かい合う。


「一本目・・・始めっ!!」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052831j:plain



「やぁああああああ!!」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052839j:plain



せいやぁあああああああ!!」


気合と気合がぶつかり合う。


「桜木!!!!! 行けっ!!!!!!!!」


「・・・やっとあなたと戦えるのね」
「付きまとわれるというのも、迷惑な話だな」
「・・・人殺し」
「・・・」


セツナは竹刀を微かにあげる。


「動くぞ!!」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052849j:plain



「・・・めぇえええええん!!!」


セツナは空を舞い、一直線に桜木の面に向かって攻撃を仕掛ける。


「速いっ!」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052658j:plain

──ッ!!


セツナの竹刀が桜木の面を打つ。


「判定は!?」

 

「面ありっ!!」


観客がどよめく。


「そんなぁ・・・あんなに速いなんて・・・」

「何が起こったの?」

「見えませんでした・・・」

「どうやら、星雲の一本みたいです」


「とんでもねぇな。 セツナ・・・」


「さすが、暁セツナといったところか」

「あんなに速い面を、私は見たことがありません」


「二本目、始めっ!!」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052905j:plain



「どうしたの、都築ヒカル?」
「・・・」
「どうしてよけないの? また逃げるつもり?」
「いい面だな。 懐かしいよ」
「そうね。 でも、あなたはわざと喰らった。 違う?」
「どうしてそう思う?」
「・・・だってあなたは強いもの」
「おまえもな・・・セツナ」
「そうね」


桜木の目つきが変わる。


「もう、逃げないから、安心しろ」
「どうかしら・・・」
「それから、私は都築ヒカルじゃない。 桜木ヒカルだ!!」


桜木はセツナとの間合いを一気に詰める。


「コテぇええええええええ!!」
「くっ」


セツナは必死でガードする。


「めぇえええええん!!」


セツナ下がりながら面を打つ。


「甘い!! たぁあああああ!!」


桜木は軽くかわし、下がるセツナを追う。


「コテ、めぇえええん!!」


──ッ!!


桜木はコテと面を連続でつなげる。


「ヒカルが押してる!!」

「ああ。 スゲー気迫だ」


「くっ・・・」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052916j:plain



二人はつばぜり合いの状態になる。


「やるわね。 桜木ヒカル」
「お前もな」
「どぉおおおおおおっ!!」
「させるか!! 面!!」


お互い、下がりながら攻撃を出す。

両者の技がぶつかる。


──ッ!!

──ッ!!


竹刀の当った音が会場に響く。


「どっち!?」


「面ありっ! 新山学園!」


桜木の方に旗が揚がる。


うおおおおおおおおおおっ!!!


歓声が上がる。


新山!


  星雲!


    新山!


      星雲!


応援にも熱が入る。


「よっしゃ!!」

「桜木さんが、取りましたわ!!」


「なんて試合なの。 まるで全国大会の決勝を見てるようだわ」

「こんな試合、全国大会でも中々みれるもんじゃない」


「これで、ポイント的には並んだってことよね?」

「そうだな。 次の一本取った方が勝ちだ・・・」

「こうなったら、勝つための、おまじないを唱えましょう!!」

「おまじない? そんなものがあるんですか?」

「はい。 とっておきが、あります!」

「そんないいものがあるんだったら、もっと早く唱えなさいよ」

「すいません、すっかり忘れてました」

「リコちゃん、それやろう!! 私たちに出来ることは、ヒカルを応援することぐらいだもん」

「わかりました。 では、みなさんも一緒にやってください」

「どうやるのよ?」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052926j:plain



「はい。 手を上にあげて、両手を合わせます」


リコの言うとおりにする。


「やりましたか?」

「はい。 やりました」

「では、ここで呪文を唱えます!」


リコはクネクネしながら、呪文を唱える。


「かつにゃ~、かつにゃ~、かつですにゃ~・・・みなさんもやってみてください!」

「や、やりましょう」

「う、うん。 少しでもヒカルの力になれるなら」

「かつにゃ~、かつにゃ~、かつですにゃ~」

「かつにゃ~、かつにゃ~、かつですにゃ~」

「レイカさん、もっとクネクネしてください」

「は、はずかしいわ」

「かつにゃ~、かつにゃ~、かつですにゃ~・・・これ、大丈夫でしょうか?」

「やるしかないよ。 かつにゃ~、かつにゃ~、かつですにゃ~」

「はるかさんが一番うまいです。 みなさん、見習ってください」


「「かつにゃ~、かつにゃ~、かつですにゃ~」」


「・・・おい、まわりが見てるぞ」

「恥ずかしがっていては、おまじないの効果が半減してしまいます!」


「賑やかな友達が出来たのね」
「あいつら、試合中だというのに・・・」
「私は苦手だわ。 うるさいもの」
「私も最初はそう思ったんだがな・・・」
「そうよね。 あなたと私は似てるもの」
「でも、今は違う。 くだらない連中だが、いいものだ」
「・・・そう?」
「お前にだって、星雲学園の仲間がいるんじゃないのか?」
「・・・いるわ。 でも、私は所詮、一人だから」
「寂しいやつだな」
「そうね」
「あと一本だ。 悪いが勝たせてもらうぞ」
「・・・私は負けない」


「「かつにゃ~、かつにゃ~、かつですにゃ~」」


クネクネダンスはエスカレートしていく。


「新山学園、応援はもう少し静かにするように」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052936j:plain



「す、すいません」

「怒られました」

「ほらみなさいよ。 注意されたじゃない」

「すまんです」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201052944j:plain



「でも、おまじない届くよね?」


桜木・・・勝ってくれ。

俺たちの夢を・・・叶えてくれ。


「・・・始めっ!!」


「やぁああああああああ!!」

「せいゃあああああああああ!!」

「たぁぁあああああ!!」


仕掛けたのは桜木だ。

桜木のコテがセツナを襲う。


「ハァッ!!」


セツナはコテをはらい、反撃に転じる。


「ダァッ!!」


竹刀を左右に振りながら、面を狙うセツナ。

桜木もかわす。


「タァ!!」


セツナの面が桜木を襲う。


──ッ!!


「あぶねぇ!!」


桜木はセツナの面を首を曲げかわす。


「たぁああああああああ!!」

「コテッ!!」

「たぁあああああああ!!」

「めぇええええええん!!!」

「はぁあ!!」


竹刀がぶつかり合う。


「なんて自在な竹刀さばきなの」
「桜木くん! 行け!」
「学園長・・・」


「やぁああああああ!!」

「たぁっつ!!」


「二人ともすごいよ・・・」


「負けるんじゃない・・・」


大九郎はこぶしを握り締めた。


「みなさん、心でおまじないを唱えましょう!」

「もう、勝っても負けても構いません。 こんないい試合を見れたんですもん」

「何いってるのよ。 桜木さんは負けないわ」


「行けぇえええええええ!!」

「ヒカル、頑張って!!」


「やぁああああああああ!!」

せいやぁああああああ!!」


竹刀が高速でぶつかり合う。

 

「めぇんんんんん!!」

「コテぇえええええええええ!!」


まるで機械の様に正確に打ち続けるセツナ。

セツナがずっと剣先を下げる。


「どう出る・・・」

「どうぅううううううううう!!」


セツナは抜き胴を狙う。

桜木はそれに気づき、面で応戦する。


「めぇえええええええええん!」


──ッ!!


審判は旗をあげない。

両者、決まり手になるほどではない。


「たぁああああああああ!!」

「やぁああああああああ!!」


セツナは竹刀をゆっくりと下げる。


「またか・・・」

「やぁあああああああ!!」


セツナはまた胴を狙う。


「クッ!! たぁあああああああ!!」


桜木は体勢を整えながら面を繰り出す。


──ッ!!

──ッ!!


「また、相打ちか!?」


「あれだけ抜き胴を攻められると、桜木さん、面を打ちにくいわね」

「暁くんは、なにか企んでいるのか?」


セツナの剣先がまた下がる。


「・・・何度もしつこいやつだな」

「どぉおおおおおおおおおおおおお!!!」

「くっ・・・」


桜木はセツナの胴を竹刀でガードする。


「やぁあああああああ!」


「セツナ、胴ばっかり狙ってるな?」

「面じゃヒカルさんに勝てないって思ったんでしょうか?」

「・・・かもな」

「・・・これは」


「どうした? 攻撃が単調だぞ?」
「そうね」
「私と面で勝負するのが怖いのか?」
「怖い? 私は何も怖くない」
「セツナ、おまえはどうして、竹刀を握るのだ?」
「あなたが犯した罪を、裁くためよ」
「私に罰を与えるというのか・・・。 なぜ私が剣術をもう一度始めたか・・・教えてやろう」


セツナは一瞬ひるんだ。


「見えるか? あそこにいる連中が」


──私はひとりだった。

あの日からいつも一人だった。

大切な人を殺した日から、孤独だった。

だが、あそこにいる連中に気づかされたんだ。

はるかの強さに・・・。

沢村の健気さに・・・。

イカの毅然とした態度に・・・。

リコの明るさに・・・。

そして・・・。

椿・・・。

おまえが私を変えてくれた。

おまえが私を強くしてくれた。

だから、私はもう一度竹刀を持った。

暗闇の中にいた私を、おまえたちが救ってくれた。

泥まみれになって、泣き叫んでいた私を。

おまえたちが助けだしてくれたんだ。

だから、今度は私が、

みんなのために、

この試合に勝つ。

それが私にできる、唯一の恩返しだ。


「セツナ・・・おまえにも分かるだろ。 大切な人がいてくれる。 それだけで人は強くなれるんだ」
「私は認めない。 あなたは大切な人を奪った。 私はあなたを許さない!!」
「許さなくてもいい。 許してほしいなどとは思っていない。 それでも私はお前を倒す!!」


セツナはまた剣先を下げる。


「・・・しつこいやつだ!!」
「はぁあ!!」


下げた剣先をゆっくりと上げる。


「また、胴か・・・」


桜木は防御の姿勢を取る。


セツナの剣先は軌道を変える。


「なに!?」

 

「桜木さん!! 面がくるわ!!!」

「何!?」


「もう遅いわ! 勝つのは・・・私よ!!」


セツナの竹刀は面の軌道にスライドする。

桜木も防御から攻撃に転じる。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053003j:plain



「たぁあああああああああああ」
「とぁあああああああああああ!!!!」


「ヒカル!!!!!」


はるかが叫ぶ。


「桜木!!!!!」


大九郎が叫ぶ。


行け!


桜木!!!!!!!!!!!!!!!!


・・・・・・。

 

──ッ!!

──ッ!!


「面ありっ!!!!!!!!」


「どっちだ!」


「勝者、桜木! 新山学園!!」


わぁああああああああああああああ!!!!!


うおぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!


場内が揺れた。

歓声と歓喜の声で・・・。

桜木は振り返り、綺麗な残心をとった。

凛とした、綺麗な立ち姿だった。

試合が終わり、桜木が戻ってくる。

俺たちは走っていた。


桜木の元へ。

誰よりも速く・・・。

俺は走った。

桜木・・・!!!!!!

はるかは泣いていた。

イカも泣いていた。

リコも泣いていた。

沢村も泣いていた。

そして・・・俺も泣いていた。

泣いて喜んだ。

悲しみの涙はいくらでも流した。

でも、今は違う。

喜びの涙。

勝利の涙。

セツナはその場から動かなかった。

時間が止まったかのように・・・。


「どうして・・・。 どうして私は負けたんだっ!」


セツナの叫び声が聞こえた。


・・・。


・・・・・・。


俺たちは勝ったんだ。

あの星雲学園に・・・。

勝ったんだ!!!!!!!!!!!!!!

 

・・・。

 

奇跡のようだった。

星雲学園に勝利したこと。

まるで夢のようだった。

・・・だが、奇跡は続かなかった。

あいつらは力を全て使い果たしていた。

・・・その後。

新山学園はかろうじて決勝戦までコマを進めた。

楽しんで剣術ができた。

が、優勝することはできなかった。

・・・それがあいつらの今の、本当の実力だったのかもしれない。

それでも、誇らしげだった。

表彰台に上がったあいつらの顔は、誰よりも輝いていた。

新山学園。

地区大会。

準優勝・・・。


・・・。

 



表彰式が終わり、はるかたちが着替えて出てくるのを待っていた。

俺は一人、会場をみながら物思いにふけっていた。

この中で・・・。

さっきまで、あんな死闘が繰り広げられていたなんて・・・。

どこか夢心地で、俺は信じられずにいた。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053026j:plain



「もうすぐ彼女たちが出てくると思うわ」


栗林が一足早く出てきた。


「・・・お疲れさまでした」
「どうしたの? 私にそんな言葉をかけるなんて」
「一応、感謝してますから」
「ありがとう。 彼女たち、本当によくやってくれたわ・・・」
「準優勝か・・・」
「立派よ。 でも、私が教師でいられるのも今日で最後かもしれないわ」
「・・・」
「この大会が始まる前にね、会わなければならない人の所に行ってきたわ」
「会わなければならない人?」
「私が剣術部の生徒だった頃の、顧問の先生」
「顧問の先生?」
「私が唯一、尊敬する教師よ」
「へぇ~、そんな人がいたんだ」
「私はその人から剣術の全てを学んだ。 今は病院にいるんだけどね」
「病院?」
「彼は事故で、右足が動かなくなってしまったの」
「その先生ってまさか・・・」
「そう。 8年前、バスの事故で右足を負傷して剣術をやめた」
「事故って、新山学園の剣術部が玉勇旗に向かう途中で起きたバス事故のことっすよね」
「そうよ。 彼はそのバスを運転していたわ」
「・・・」
「重症だったのは顧問の教師だけ」
「事故なら仕方ないっすよ。 誰が悪いわけでもないし・・・」
「いいえ。 悪いのは私よ」
「え?」
「剣術部は毎年、新幹線を使って玉勇旗に行っていたの。 でも、その年はバスで行こうってことになったの」
「また、なんで?」
「新山学園は、今みたいにお金があったわけじゃないし、新幹線で行くのは経費がかかりすぎるのよ。 学園長は新幹線で行くように勧めたんだけど、私たちはバスで行くことにした。 浮いた経費を、竹刀や防具のお金に当てたかったから」
「なるほど・・・」
「バスの運転手も学園側は用意してくれたけど、それすらももったいないってことで、顧問の先生が運転することになったの」
「でも、それがなんで栗林先生のせいになるんすか?」
「その話を持ちかけたのは、私だから
「先生が?」
「私が、学園長に無理をいってバスにしてもらったの。 運転手を顧問にしようって言い出したのも私」
「どうしてそんな話が通ったんすか?」
「私はその前の年の玉勇旗で優勝していたから、学園側は私の意見を尊重してくれた。 私があの時、余計な考えを持ち出さなかったら、あの事故は起きなかったのよ」
「そうだったんすか・・・」


栗林は遠い目をしていた。


「事故を起こした顧問の先生はもちろん学園を去ったわ。 学園長は剣術部を廃部にした」
「で、先生も剣術を嫌いになったと」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053037j:plain



「そうよ。 私には剣術をやる資格がなかったから」
「で、なんでそんな先生が顧問やるなんて言い出したんすか?」
「・・・桜木さんの剣術を見てしまったから」
「桜木の剣術?」
「あんな剣術を私は見たことがないわ」
「当たり前っすよ。 桜木の剣術は全国一っすから」
「もう一度、剣術を、やりたいって思ったわ。 どんなに否定しても、否定しきれないものが出てきてしまったの」
「いいことじゃないっすか。 その先生、なんて言ってました?」

「・・・よかった、って」
「え?」
「君から剣術を奪って、僕はずっと悔やんでいたって・・・」
「・・・」
「涙が止まらなかったわ・・・悪いのは私なのに・・・。 あの事故以来、やめていたタバコをふかしながら、病室でそう私に言ってくれたの」


栗林は遠い目をしていた。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053046j:plain


「・・・いい先生っすね」
「ありがとう、椿くん」
「え!?」
「あなたのおかげで、たくさんの人が救われたわ・・・。 それから、今まで・・・ごめんなさい」


栗林は頭を下げた。


「や、やめてくれよ・・・先生らしくない」


フッと栗林の顔が緩んだ。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053120j:plain



「宗介!! おまたせ~!!」

「おせぇよ! どんだけ待たせる気だ?」

「女子は着替えに時間がかかるのよ!」

「二人で何を話してたですか?」

「え? 昔の話だよ」


リコは不思議そうにしている。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053130j:plain



「桜木先輩こっちです~!!」

「すまない。 遅れてしまった」

「ん? あれって、星雲学園じゃないか?」


星雲の連中が会場から出てくるのが見えた。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053142j:plain



「樹ちゃ~ん!!」

「あ、はるちゃん! 準優勝おめでとう」

「ありがとう。 樹ちゃん、また試合したいね!」

「うん。 今度は、絶対に負けないからね! ありがとう。 あたし、初めてライバルっていうのが出来たよ!」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053158j:plain



「リコ、サシミ、ライバル」

「あのぅ・・・ライバルではなくて、友達になってくれませんか?」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053215j:plain



「沢村さん、今日はありがとうございました。 やっぱり剣術は難しいですね。 計算だけじゃわからないことだらけで・・・」

「そうですね・・・。 あ! 今度、発明品見せてください! とっても興味あります」

「はい! でも、私はメガネの沢村さんに興味がありますね」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053225j:plain



「右近さん、今日は勝ってしまってごめんなさいね」

「ふん! あんなのマグレよ・・・といいたいところだけど、私の負けを認めてあげますわ」

「あら、右近さんにしては素直ね」

「まだ一勝一敗よ。 ピアノは私が勝ちましたもの。 だから・・・また勝負よ」

「望むところよ」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053238j:plain



「レイカ様、成長なされましたね」

「三田・・・悪いことは言わないわ。 さっさと神山グループに戻りなさい。 お父様には言っておくから」


三田さんはにっこりと微笑んだ。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053247j:plain



「三田さん、また会いましょう。 この次は私と勝負なんてどうかしら?」

「いえいえ遠慮しておきますよ。 あなたと試合をすると疲れそうだ。 しかし・・・いい生徒をもちましたね」

「そうですね。 この子たちに教えられてばかりです」


栗林は笑った。


「桜木・・・」


俺は背中をポンと押した。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053257j:plain



「・・・」

「・・・私の負けね」

「すまない」

「・・・あなたは強いわ。 今の私じゃ勝てない。 だから、もっともっと強くなる」

「すまなかった・・・」

「・・・そうね」

「セツナ・・・」

「・・・あなたが言っていたことが少しだけ分かったわ」


「え?」


「あなたの強さの秘密よ」


セツナははるかたちを見た。


「・・・仲間」


・・・。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053309j:plain



「セツナ~! そろそろ行くよ! あたし、超おなかすいたんですけど~」

「だったら、うちでパーティーやりましょ。 ローストビーフを用意するわ」

「う~ん。 高級料理って気分じゃないですね」

「ナベ! クウ!」

「そうだよね~! 鍋だよ! じゃあ、小梅の家で鍋やろ~!!」

「うちですか!? でもガラクタがいっぱいで、みんな入れるかなぁ」

「ちょっと待ちなさい! そう言えば、あなたたち、前に私を省いてパーティーやったらしいわね」

「え? よくわかんな~い」

「小梅! 白状しなさい!」

「おぼえてないです・・・」

「もう、いいじゃん昔のことは! セツナ~!! 小梅の家で鍋やるよ~!」


「・・・」

「呼んでるぞ」


・・・。


「セツナ・・・。 いるじゃないか。 おまえにも・・・仲間が」
「・・・そうね」


セツナが笑った気がした。

星雲学園の連中は、はしゃぎながら去って行った。


「じゃあ、俺たちも帰るか・・・」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053319j:plain



「ちょっと待ちなさい」

「学園長・・・」

「すみません学園長。 優勝は出来ませんでした。 約束通り・・・」

「明日、みんなそろって学園長室に来なさい・・・いや、来てくれないか? 君たちを表彰したい」

「表彰!? 私たちがですか?」

「そうだ・・・。 よく頑張った・・・それから・・・色々と申し訳なかった」


そう言うと、学園長は停めてあった車に乗り込み去って行った。


・・・。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053328j:plain



「えっと、みんな、その・・・準優勝、おめでとう!!」

「私たち、やったのね。 優勝は出来なかったけど・・・最高の気分だわ」

「私、みなさんに会えて、本当に良かったです」

「これからも、リコの友達でいてください」

「本当におめでとう・・・。 剣術をやって良かった・・・」

「みんな、おめでとう。 俺は直接戦力にはなれなかったけど、みんなのそばにいられて本当に嬉しかった。 はるか、さすがは俺の幼馴染。 できる女だと思ってたよ」

「宗介・・・」

「沢村・・・。 名前で呼んでもいいか?」

「は、はい。 いやじゃありません」

「そうか、アキナ。 おまえは唯一の後輩だけど、部をまとめてくれた。 ありがとう」

「先輩、いまアキナって呼んでくれましたね」

「あ、やっぱり嫌だったか?」

「いやじゃないですよ。 今までずっと名字でよばれてたから、距離が縮まった気がして嬉しいです」

「リコ、本当に強くなったな。 おまえはもう弱くない。 自信を持てよ」

「はい! でも、みんなのおかげです」

「そう思えるのも、きっとお前が強くなったからさ」

「レイカ、ただの我がままお嬢様だと思っていたのに、気づけば一人前の剣士だな」

「私に対して上から目線なんて、あなたじゃなければ許さないところよ」

「そりゃ光栄だな」

「ヒカル・・・」


ヒカル・・・。

そうだ、ヒカルは光だ。

俺たちにとっての・・・希望の光。


「・・・宗介」


「ヒカル、俺はずっと信じてた。 もう一度、剣を握ったお前なら、どんなものも乗り越えられるって・・・」

「おまえが信じてくれたから、私も自分を信じることができたんだ」


「椿くん、お疲れ様。 さっきもいったけどあなたのおかげで、たくさんの人が救われた。 本当に感謝しているわ」

栗林は5人のほうを向いた。

その横顔は、今までに見たことがないような、本当に優しいものだった。


「みんなお疲れ様。 そして、おめでとう」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053341j:plain



5人は抱き合って喜びをわかちあった。

青春だな・・・

うん。

これが、あるはずもないと思っていた、

俺が忌み嫌っていた青春だった。


・・・・・・。

 

・・・。

 

 

俺はみんなが帰ったあとも、その場から離れられずにいた。

一人、勝利の余韻に浸っていたかった。

勝ったんだ・・・。

剣術部が・・・。

俺たちの剣術部が・・・。

ふと、影から近づいてくるのが分かった。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053355j:plain



それはヒカルだった。


「どうしたんだ? 帰らないのか?」
「なかなか、帰る気になれなくてな」
「そうか。 俺もそうなんだ」
「うちに来ないか・・・。 お礼にキュウリをご馳走したい」
「え?」
「その・・・いやならいいんだ。 キュウリじゃ来ないよな」


俺は少しだけ考えた。


「じゃあ、キュウリご馳走になろうかな」


ヒカルは嬉しそうな顔をした。


・・・。




 

f:id:Sleni-Rale:20220201053407j:plain



「適当に座ってくれ」
「ああ」
「・・・宗介、本当にありがとう。 私は・・・その・・・おまえのおかげで変われた」
「俺はなにもしてないよ」
「そうじゃない。 おまえに会えて・・・本当に良かった。 私はそう思っている」
「ヒカル・・・」
「普通の女の子になりたかった。 でも普通なんてものはこの世界にはない。 強くて女らしくない私だが・・・それが私の普通だった」
「今のままでいいよ。 今のままのヒカルが・・・俺は・・・」


俺は口ごもった。

この感情はずっと伏せてきた。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053416j:plain



「私は・・・その・・・宗介が好きだ。 はっきり言う、もう隠す必要はない。 宗介、好きだ」


好きだ・・・。

嬉しかった。

そうだ・・・。

俺も、ヒカルが・・・。


「ヒカル・・・。 俺もお前が好きだ!」
「ば、ばか! そんな大声でいうな、ただでさえこの家の壁は薄いんだ」
「す、すまん」
「でも・・・嬉しいよ」


俺はヒカルを抱きしめた。

優しく、そっと・・・。


・・・。

 

布団の上で俺たちは向き合った。

俺たちはお互いを求め合った・・・。


・・・・・・。


・・・。

 

幸せだった。

全てが満たされていた。

剣術部を作ろうとした日から、俺の人生は180度かわった。

なにも無くて、真っ暗だった生活が、色をつけた。

生きていることが楽しいと初めて思えた。

・・・俺は生きている。

幸せの中、俺は眠りについた。

全てを忘れるように・・・。


・・・・・・。


・・・。

 

 

翌朝。

俺たちは学園長に呼び出され、学園長室に通された。

前に呼び出された時から何も変わっていない、悪趣味な学園長室。

けれど、大九郎の態度はこれまでとは違った。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053428j:plain



「よく来てくれたね」


穏やかなまなざしだった。

彼が変わったのは知っている。

ヒカルがセツナを打ち負かしたとき、手を叩いて感動していたことを知っている。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053437j:plain



「本当に、よく来てくれたね」

「学園長・・・」

「いいんだ。 いままで、すまなかった。 私が間違っていたんだ・・・」


深々と、頭を下げる。


「おじさん・・・」

「君たちは、一人一人、よくがんばってくれたね」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053446j:plain



そう言って、俺たち一人一人に目を向けてきた。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053455j:plain



「沢村くん・・・」

「はい・・・」

「負けたとはいえ、善戦していたよ。 ずぶの素人から、よくあそこまで戦ったものだ・・・」

「あ、ありがとうございます・・・」

「君ほどの逸材が、生徒会長になっていたらと思うと・・・本当にすまなかったね」

「いいんです。 いまは逆に生徒会長になれなくてよかったと思っていますから」


アキナは微笑んでいた。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053505j:plain



「佐田くん・・・」

「はい?」

「ご両親の件はうかがっているよ。 なんとか会えるよう、全力をつくさせてもらえないだろうか?」

「え、い、いいんですか?」

「もちろんだ。 君はそれだけの試合を見せてくれた。 私の錆ついた心が再び熱くなるきっかけをくれた」

「あ、ありがとうです・・・」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053515j:plain



「神山くん」

「はいはい。 わかってるわよ。 右近コンツェルンに乗り換えて失敗しましたわね?」

「まったく、言葉もないな・・・まさか、君があの右近くんに勝つとは予想だにしなかったよ」

「当然の結果ですわ。 これに懲りて私の学園を盛り上げていってちょうだい」


偉そうにふんぞり返るレイカだが、大九郎は苦笑するばかりだ。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053523j:plain



「鈴木くんも、よくやったね。 思えば君がきっかけで、剣術部ができたんだったな」

「私じゃなくて、宗介が・・・」

「うんうん、誰かのためにがんばる・・・そんな気持ちを、私も忘れていたよ・・・」


感慨深く言いながら、俺と栗林に目をやった。

彼は昔、栗林の試合を熱心に応援していたのだという。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053538j:plain



「桜木くん・・・」

「・・・あ、はい」

「私から何か言えることがあるとすれば・・・」


なにやら照れくさそうに言い淀んだ。


「君が勝ってうれしい。 私はひそかに君のお父上のファンだったんだ」

「は、はあ・・・」

「過去の事件のことは知っている。 そんな君を差別していた自分をいまは恥じている・・・」


再び頭を下げる大九郎。


「わたしのことはいいので・・・あなたが頭を下げるべきは・・・」

「そうだね・・・」


俺を見た。


「椿くん・・・」

「いいよ、いいよ。 改まるんじゃねえよ」

「しかし・・・」

「別にあんたが気に入らなくて、みんながんばったんじゃない」


・・・そりゃ、最初は気に入らなかったけど、そのうちにどうでもよくなった。


「そうか・・・いや、そうだね。 いまになって私にどうこう言われる筋合いもないか・・・」


噛み締めるように言った。


「ただ、これからも応援させてほしい。 君たち新山学園剣術部を」

「もちろんです、学園長。 ありがとうございます」


栗林の声もどこか震えていた。

大九郎と栗林は、俺たちよりも長いつき合いなのだ。

胸に染み入るような気持ちになった。

彼らも少し前の俺たちと変わらなかったんだ。

一人で、あがいて、わめいて、どうにもならない捨て鉢のような毎日を送ってきていたんだろう。


「そうと決まれば、剣術部に多額の予算を配ろうと思う」

「学園長、いきなりですか・・・?」

「道場の設備も整えて、内外に部員募集の告知を出そう。 なんだかわくわくしてきたよ」

「まったく・・・」


栗林はどこかうれしそうに苦笑していた。


「みんな、要望はないかね」

「キュウリをくれ」

「おい・・・」


「ミルティーchanのDVDが欲しいです」

「とりあえずシャワールームが欲しいわね」

「わかった。 なんでも買ってあげよう」


いいのかよ・・・おい。


「あのぅ・・・」


はるかが恐る恐る、手を上げた。


「君の青果店のことも心配ないよ。 これからは学食の野菜の仕入先にするつもりだ」

「ありがとうございます。 でもそうじゃなくて・・・」

「ん?」

「宗介のこと、どうにかなりませんか?」


「・・・あ」:

「そうです。 先輩のこと・・・学園長は顔が広いというお話ですよね?」

「なんだったら、神山グループから圧力をかけてもいいわ」


みんな、それまでの笑顔を崩している。

俺のために・・・。

大九郎は眉間にしわを寄せていった。


「・・・どうなるかはわからないが、動いてみるよ」

「ぜひ、お願いする」

「お願いするわ。 いっしょに食事もできないなんて、不便じゃない?」

「リコも、宗介くんのお家で遊びたいです」

「わかった。 できるだけのことはしてみよう」


なんだか、気まずくなってきたな・・・。


「俺のことはいいよ。 いまはひとまず、準優勝おめでとうって話だろ? なあ、カメラないか? 記念写真とってやるよ」

「カメラ・・・もちろんあるよ」


大九郎は学園長机の引き出しを漁りだした。

俺はカメラを受け取った。


「よーし、じゃあ、みんなそこに並べ」

「ちょっと宗介・・・」

「いいから、ほら・・・栗林も地区大会準優勝の賞状持てよ。 ほら、ヒカルが真ん中だ。 みんな寄れよ」

「強引だな・・・」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053553j:plain



しぶしぶといった様子で、みんな部屋の奥に集合していく。


「宗介、宗介も入ってよ」

「そうです、先輩も」

「宗介くんがいっしょじゃないと、意味ないです」

「こっちに来なさいよ」

「なにしてるの? カメラは学園長に任せて、ほらあなたも・・・」


「椿くん、ご指名だよ」


大九郎が俺の隣でささやいた。

・・・なんか照れくさいな。


「宗介のおかげで、いまがあるんだ」


いままではわからなかった。


「宗介くんに感謝です」


誰かに感謝されたり、


「つらいと、支えてくれたじゃない」


許されたり、認めてもらったり、


「先輩がいるからこその剣術部なんです」


必要とされることが、


「ありがとう、宗介。 ありがとう・・・」


──こんなにも、嬉しいなんて・・・。


「さ、行きたまえ・・・カメラは私に任せて・・・」

「うん・・・」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053606j:plain



みんなが俺を招いてくれる。

笑顔で迎えてくれる。

俺が剣術部を通して得たもの・・・。

言葉にするとしたら、それは・・・。

絆、だろう。


「みんなありがとなっ・・・!」


目に見えないものに導かれるように俺は歩き出した・・・。


・・・。


──ッ!!


不意に、背後で激しい音がした。

ドアが蹴破られるような音と、風圧が背中に突き刺さる。


「おめでとう、準優勝おめでとう」


パチパチと、手を叩いていた。


「やあ、みなさんおそろいで」


どこか楽しげな声。


「なにやってんの?」


不敵で、不気味だった。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053615j:plain



目の前の少女たちは、突然のことに声も出ないようだった。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053624j:plain



栗林も大九郎も顔を青くしている。


「なにやってんのかなぁ? ねえ、なにやってんのかなぁ!?」


水嶋の声に、徐々に狂気めいた怒気が含まれていく。


「ねぇ、宗介ぇ・・・」


甘ったれたような声は、しかし、いつもの水嶋のものとは思えなかった。


「もしかしてさぁ、すげぇ言いにくいんだけどさあ、お友達作っちゃったわけ? みんなでカメラで記念写真撮って、思い出とか作るつもりだったわけ? いい加減、俺もかばいきれないよぉ」


背後に忍び寄るように近づいてくるのが、気配でわかった。


「宗介、お前に聞いてるんだよ」


肌が粟だった。

殺気めいた威圧感が伝わってくる。


「俺が試験に行っている間、お前どこ言ってた?」


声が、出ない・・・。


「メールよこさないとか、どういうことだ?」


嫌な汗が背筋を伝う。


「みんなで寝泊まりとか、許されると思ってるのか?」


いっしょに食事はしてない・・・。

寝る場所も隣の部屋だった・・・。

そんな言い訳を打ち消すように、水嶋が言った。


「寝たろ、お前」

「・・・っ」

「このなかの誰とは言わないけど、セックスしただろ!?」

「・・・・・・」


もう、なにも言い返せない。

あざむけるわけがなかった。

知らなかったで通るわけがなかった・・・。


「許されると思ってるのか?」


はっきりとした殺気が息の届く距離にあった。


「破ったな・・・」


肩にいつの間にか手が置かれていた。

 

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053635j:plain



「義務を──!!」


ちらりと眼だけで背後を見た

スーツ姿の水嶋。

胸に光る、金のバッジ。

冬に咲く向日葵。

この国における司法の番人。


"特別高等人"の証・・・。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053644j:plain



「み、水嶋・・・俺は・・・」

「マコトでいいよ。 昔みたいにさ」


まるで次元の違う威圧感があった。

俺と同じ年齢とは思えない。

この場にいる誰もが感じているに違いない。


「思い出してくれよ、昔のことを。 自分が犯罪者だってことを」


それもそのはずだった。

水嶋は・・・水嶋マコトは、特別高等人の試験に受かったのだ。

想像を絶するような超難関の試験をかいくぐった、この国のエリート中のエリート。


「お前のようなできの悪い被更生人にはもう一度指導しなきゃならんらしいな。 通称、"絆を持てない義務"、だろ?」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053653j:plain



この国では罪を犯せば、義務を負う。

義務を背負った犯罪者を管理、教育するのが"特別高等人"だ。

水嶋は、ついこの間まで特別高等人の候補生だった。

最終試験の一環として俺を監督していたらしい。

そして、どういう地獄をかいくぐってきたのか、夏休みが明けると試験に受かっていたのだ。

水嶋の胸に輝く栄誉のバッジがそれを証明している。


「他人と寝食をともにしてはならない・・・これが大法典に書かれた主な内容だったな・・・。 それに加えて、俺はお前に、部屋に人を入れるなと命じた」


ふざけたメールのやりとりだったが、こいつはしっかりと俺を監督していたらしい。


「お前は犯罪者なんだ。 過去に友人を自分の都合で見捨てたことがある」


水難事故・・・。

俺は目の前の水嶋マコトを見捨てたんだ。


「たしか、あのときは揉めたよな? お前のやったことはやむをえないものとして、罪に問われないはずだった・・・」


だが、水嶋の家は法曹界の有名な家系だった。

水嶋は俺を許したが、水嶋の親が許さなかった。


「俺はお前を許していたさ、あの一件に関してはな。 同情もしている」


かたやどこにでもいるような船乗りの息子と、名門の一人息子。


「うちの母親がヒステリックなのは知ってるだろう?」


権力を手中にした大人が制裁を与えるには十分な理由だった。

結果、俺は罪に問われ、以後何年も他人と飯を食ったことがないし、水嶋に指導されてからは親すらも部屋に上げたことがない。

胸と肩に義務を表現するバッジをつけさせられた。

誰もが、俺を一目で犯罪者だとわかる。

理不尽だと、恨んだ。

世間を憎んで、挙げ句、どうでもよくなるくらいの月日が流れた。


「だが、お前は、また俺を裏切った」

「・・・・・・」

「大人しく一人ぼっちの不良でいてくれれば、多少のことは大目にみてやっていたのに・・・」

「・・・お、俺は・・・」

「お前のせいで、死ぬような思いをして取ったこの金バッジが剥奪されるかもしれないんだぞ?」

「そ、そんなつもりはない・・・いや、なかった・・・俺は、いや、俺だって、お前には悪いとずっと思ってて・・・」

「黙れよ、見苦しい」


刺し殺すような声に、胃が縮みあがった。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053705j:plain



「これから正式に質問させてもらう」


まるで別人だった。

凍てついた目つきに、どっしりとした立ち姿。

振り返って見た水嶋には他人を圧倒するような威圧感があった。


「どんな理由があろうと、お前は義務を破った。 剣術部を通して絆を育み、異性と愛をつむいだ・・・だろ?」

「・・・・・・」


次の瞬間、顔面に衝撃が走った。


「ぐっ・・・!?」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053717j:plain



「訊いてるんだよ、答えろ。 義務を破ったと認めるか?」


まるで見えないパンチだった。

いつ殴られたのかもわからなかった。


「認めないでほしいなぁ・・・お前が認めたら、監督人としての俺の立場もまずいことになるんだよ」

「・・・くっ・・・!」


吊り上がる口元。

しかし、目だけは笑っていない。

まるで機械のように、人間を人間として見ていないような目だった。


「当然、義務を破ったお前はただじゃすまない。 わかるな?」

「・・・・・・」


・・・強制収容所

更生に失敗した者、あるいは更正の見込みのない犯罪者が入れられる施設。

そこでは人間はモノとして扱われ、許可されていない新薬の投与や生物兵器の実験台にさせられるという。


「おい、どうなんだ?」


再び拳が飛んできた。

俺はあえぎ、うめいて、床に尻もちをついた。


「嘘だよな、宗介。 まだ間に合う。 認めないでくれよ」


恐ろしかった。

クラスの馴れ馴れしい友達の顔はどこにも見当たらない。

再び水嶋の手が上がったときだった。


「やめろっ・・・!」


ヒカルが猛然と突進してきた。

水嶋の暴力的な腕を抑えるべく、手を伸ばすのが見えた。

が、なにが起こったのかわからなかった。

宙に舞う、ヒカルの肢体。


「あぐっ・・・」


気づいたときには、受け身も取れず、床にたたきつけられたヒカルの姿があった。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053735j:plain



「ごめんねぇ、ヒカルちゃん。 俺が学ばされた格闘技ってさ、ヒカルちゃんがやってるようなスポーツじゃないんだよねぇ」

「ヒ、ヒカル・・・」


ヒカルは、意識がもうろうとしているのか、まるで起き上がってこない。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053745j:plain



「み、水嶋くん・・・暴力はやめなさい」

「聞けませんねえ。 特別高等人は被更生人に対して暴力を含めた制裁が許されていますので」

「さ、桜木くんは犯罪者じゃないだろう。 ただの学園生だ」

「もう少しで犯罪者になるところだったんですよ。 特別高等人を殴ったりしたら、宗介が背負っているような義務じゃ済みませんからね」


大九郎が震える声で言った。


「たしかに君のことは、お父上からよろしく頼まれている。 だからといってどんな無法も通るとは思わないでくれ」

「あれれ、こんなクズどもをかばうんですか、学園長? この新山学園は過去に特別高等人を何人も輩出した名門校だっていうのに」

「ここは私の学園だ。 桜木くんも椿くんも私の生徒だ」


そう言って、俺とヒカルをかばうように、水嶋の前に立ちはだかった。


「そこをどいてください。 どかなきゃ、殺しますよ」


平然と言った。

冗談でも脅しでもないのだと、この場にいる誰もが肌で感じた。


「どいてくれ・・・」


俺は大九郎を押しのけて、水嶋の前に立った。


「いいぞ、宗介。 これは俺とお前の問題だからな」

「おい、水嶋。 こいつらに手ぇ出すなよ」

「お前が俺の言いつけを守っていれば、ヒカルちゃんも傷つくことがなかったんだぜ? 誰かと絆を持つってことは、誰かを傷つけるってことだろ?」

「それは・・・」


違うと思った。

違うに決まっている。


「で、認めるのか?」

「・・・・・・」

「被更生人、椿宗介は義務に違反したと自認するのか?」

「・・・・・・」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053756j:plain



「最低ね・・・」


ふと、レイカが眉を吊り上げていた。


「なんなのあなた。 あなたが特別高等人だからって、むやみに人を殴っていいわけないでしょう?」

「神山レイカ・・・たしかに、神山グループはうちの家も一目置いているよ。 でも特別高等人に刃向かえるほどの権力があるかどうか、うちに帰ってお父様に聞いてみるといい」

「なによ、なにが言いたいのよ?」

「君が得意のわがままができないくらい、落ちぶれた生活を味あわせてあげようかと言ってるんだ」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053807j:plain



「水嶋くん、やめてください・・・暴力は、ひどいです」

「リコちゃんも大変だねえ。 君のご両親は南方の激戦区に配属されてるんでしょ?」

「そんなこと知らないです。 ただ、いつもの水嶋くんに戻って欲しいです」

「俺もいままでのリコちゃんが好きだったなぁ。 嘘つきのリコちゃんが。 戻れるなら戻ってよ」

「・・・そんなのぜったい嫌です」

「なんなら俺が取り計らってご両親に合わせてやろうか。 現地総督の法月アリィ氏とはうちの親が知り合いでね」

「い、いりません!」

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053817j:plain



「水嶋先輩・・・もう、やめてください。 いまは、みんなで写真撮るところだったんです。 大切な思い出を作ろうって、笑ってたところなんですっ!」

「だから、それをぶっ壊しに来たんだよ、アキナちゃん」

「・・・なっ!」

「君のお姉さんてさ、こちら側の人間なんだよ? 海外で法律の勉強して、いずれそれをこの国に持ちかえって役立てるわけよ?」

「そんな・・・お姉ちゃんは、違います・・・」

「まあ、いずれわかるよ。 また会えるといいねぇ」


水嶋は冷笑し、また俺を見据えた。


「いいなぁ、宗介は。 みんなにかばってもらってさあ」

「・・・・・・」

「みんな、お前が好きだってさ。 ねえ、はるかちゃん?」


はるかは、震えていた。


「宗介・・・や、ヤダよ・・・」


離れたくないと、目で訴えていた。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053827j:plain



「お、お願い、水嶋くん・・・」

「え?」

「見逃してもらうことって、できないのかな? いままでだって、多少のことは目をつぶってくれてたんでしょ?」

「まあねえ。 たとえば自分の部屋に人を入れてはいけないが、宗介が人の部屋に上がるのは許してたしね」

「だ、だったら・・・」

「ひどいよはるかちゃん。 俺の進退がかかってるって言ってるでしょ? 宗介が助かれば、俺がどうなってもいいっていうの?」

「そうじゃなくて・・・そんな、こんな急に・・・」


「わかった、水嶋・・・」


さきほど投げ飛ばされたヒカルが言った。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053836j:plain



「私たちは、椿のことなんてなんとも思っていない。 これでどうだ?」

「あ、いいねえ、そういうの」

「私たちは、椿の友達でもないし、仲間でもない。 ましてや恋人の関係なんてあるはずもない」


冷静だが、どこか声がうわずっていた。


「・・・関係ないんだ、そう・・・っ、他人なんだ・・・」


つらいのが痛いほどわかった。

俺との絆を否定するのが、ヒカルにとって苦痛なのだった。


「だから・・・なにもない。 椿は孤独だし、私も孤独だ・・・剣術部は・・・その、学園長に仕返ししてやりたい一心で作ったんだ。 そこに友情なんてなかった・・・」


下手すぎる嘘だった。

けれど、必死に言葉をつむぐ桜木に、目頭が熱くなった。

ふと、水嶋の口が悪魔のように裂けた。


「あははははっはははっ──!」


水嶋が、いったいなにが面白いのか、わかるような気がした。

自分より弱いものが必死になるから、笑えるのだ。


「いやあ、ちょっと嫌なこと思い出しちゃってさあ。 特別高等人の試験にさ、そういう科目があってさ。 自分の好きな人とか恩人とか親をさ、思いっきり否定しなきゃいけないのよ。 もうこれ以上出ない声で、かつ少しも揺るぎない目つきで、大嫌いだとか、死ねとか叫ばされるんだよね。 できるまで何十時間も続くんだよ」


水嶋の顔から笑みが消えた。


「ちょっと同じことやってもらおうか・・・ヒカルちゃん・・・いま・・・ここで・・・」

「・・・っ」

「できねぇよ・・・できるわけねえんだよ・・・女がよ、調子乗るんじゃねえぞ」


くぐってきた修羅場の差とでもいうべきか。

水嶋は、彼のなかで絶対に間違わず、ぶれない心を持っているに違いない。

見てられなかった。


「もういい、ありがとう」


みんな、ありがとう。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053847j:plain



「な、なんだ椿、お前に礼を言われる筋合いなんて・・・」

「ありがとう。 はるかも、アキナも、レイカも、リコも・・・」

「ちょっと、宗介? ヤダよ・・・ぜったいヤダよ・・・」

「宗介くん、どうなっちゃうんですか? どこか行くんですか?」

「ちょっと待ちなさいよ。 なに達観したような顔してるのよ!?」

「先輩、嘘ですよね? これから、いっぱい練習しなきゃいけないんですよ? 先輩がいなかったら・・・」


聞きたくなかった。

これ以上、みんなのつらい顔をみたくなかった。


「認めるよ・・・」


かといって、みんなの気持ちを否定することは断じてできない。

絆を忘れるなんて、絶対にできなかった。


「俺は義務を破った・・・」


水嶋は、さもわかっていたかのようにうなずいた。


「そうか・・・やっぱり、そうなるか・・・」


どこか達観したように言った。

とたんに目の前が暗くなっていくような気がした。

俺の未来を暗示しているようだった。


「来てもらおうか・・・」


誰かがわめいた。

泣いて、取り乱して、その場に崩れ落ちた。

 

f:id:Sleni-Rale:20220201053857j:plain



俺は、どんどん、視界が小さくなっていった。

仲間たちが泣く声も、聞こえなくなっていく。

だから、忘れずに言いたかった。


「・・・いままで、ありがとう」


騒然となった仲間たちに向けて言った。

言葉が誰かに届くよう、それだけを願った。

けれど、すぐに願うのをやめた。

言わなくてもわかってもらえる・・・そんな絆を俺は手にしているんだ・・・。


・・・。