ゲームを読む。

-ノベルゲーム・タイピング-

ef - the latter tale.【22】(終)

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

ご意見・ご要望がありましたら
─メール─ zippydle.scarlet@gmail.com
または
Twitter─ @Zippydle_s
まで連絡下さい。


--------------------

 


Final Chapter.

ef - a fairy tale of the two.
 The separated two will be the one again.

 

 

……。

 

 

俺が教会の扉を叩いてから、どれくらいの時間が過ぎただろう。

何年もの時が流れたように思えるし、ほんの一瞬でしかなかった気もする。

 

「今夜は静かですね」
「まるで、世界には俺たちしかいないみたいだな……」

 



「夕くんと二人だけですか。いいですね、それ。毎日楽しそう。まぁ、いじわるな夕くんのことだから人目がないのをいいことにいじめられそうですけど」
「失礼なことを言うな、お前は」

 



「うふふふっ」

 



「でも、本当に……。今日は……今だけは、誰にも邪魔されたくありません」

 



「俺もだ。やっと……約束を果たせたんだからな」

 



「あの子が、あなたに伝えてくれたんですね。私のこと……。私が、ここにいることを……」

 



「ああ、そうだよ……」


たぶん、他の人間に言われたなら信じなかっただろう。

だけど、あの子の言葉だったから。

優子が命を賭して救った少女の言葉だからこそ、信じてみたくなった。

だから俺はこの街に戻ってきたのだ。

 



「未来も……。もう大きくなってるんでしょうね」
「あの子は今頃……。久瀬と、夏のクリスマスを楽しんでるよ」
「夏のクリスマス?」
「ああ。昔がおまえが言ってたろ、夏のクリスマスを過ごしてみたいって」
「そういえば……。そんなこともありましたね」
「行ってみるか? 今年のクリスマスには間に合わないだろうけど、向こうは夏だ」
「いいえ……。いいんです。未来が夏のクリスマスを楽しんでいるのなら、私にはそれでいい」
「そうか……」


羽山ミズキが久瀬とクリスマスを過ごせるのは、これが最初で最後かもしれない。

その特別な日は──夏のクリスマスなのだ。

俺と優子が不思議なほど惹かれた夏のクリスマス。

これも巡り合わせというものか。


「それにしても、おかしな話ですね。今になって、未来がきっかけで、私たちが再会するなんて……」
「未来だけじゃない。俺やおまえが出逢い、関わってきた人たちがいたから……。たくさんの人たちの想いが、1本の絆になって……俺たちを再び、逢わせてくれたんだ。俺はそんな気がするよ」
「あら、夕くんらしくない、ロマンチックな考え方ですね」
「今日はクリスマスだからな、たまにはこういうのもいいさ」


クリスマスには奇跡が起こる。

まったくもって柄じゃないが、そう信じてみるのもいい。

いや──

信じざるをえない状況だ。

 

「優子」
「はい」


やはり訊かなくてはならない。

今のこの状況をただ受け入れる。

それだけでは、俺は自分が夢を見ているとしか思えない。

だから──確認させてくれ。

 



「なぜ、おまえは昔のままなんだ……。どうしておまえは、ここにいるんだ……。だって、おまえは……」



「ええ、そうです」


優子は小さく頷いた。

少し悲しそうな顔で、それでも確かに頷いた。

 



「雨宮優子という存在は……もうとっくに消えてしまったはずなんです」


ひとりの女の子がいた。

彼女には悲しいことがたくさんあって。

いつもい泣いていたんだと思う。

泣いて泣いて、それでも彼女は優しさを失わなかった。

優しくて、可愛くて──どこにでもいる普通の女の子だった。


「なのに……」


笑顔で毎日を過ごしていけるはずだったのに。

 



「どうしておまえが……優子……ゆう……こ。どこに行っちまったんだよ……っ! 待ってるって……言ったじゃねえかよ……! 約束……しただろ……っ! これから3人で……家族に……。家族に……っ!」


言葉は喉に詰まって、行き場を無くしてしまう。

どれだけ言葉を尽くしても彼女には──彼女たちには聞こえないのだ。


優子──


俺を……ひとりにしないでくれ。

俺を置いて……どこに行くんだよ……。

なあ、優子。

もう一度。

声を聞かせてくれ。

もう一度──笑ってくれよ。


あのクリスマスの日も寒かったのを覚えてる。

この教会の。

冷たい床の上で。

彼女を抱きしめたときのぬくもりを──

俺は今も忘れていない。

 



「あのとき……。あのとき、おまえは……」


ぐっと唇を噛みしめる。

どんなに認めたくなくても。

俺は彼女の身体に触れたのだ。

だから、優子が二度と笑えないことを──激しい痛みとともに理解してしまった。

 



「未来を、恨まないでくださいね……」
「わかってる……。あの子にはなんの罪もない。おまえがやったことも、誤りなんかじゃないよ」
「そう言ってもらえると……。わたしも、救われます」


目の前で失われようとする命を彼女は救ったのだ。

誰がそれを責められるだろう。

そう割り切るまではずいぶん時間もかかったけれど。

 



「だけど、おまえは……」
「たぶん……。私は雨宮優子ではないんでしょうね」
「いや、おまえは……。紛れもなく優子だよ」
「夕くん……。わたしがいつこの街に戻ってきたのか、よくわからないんです。気がついたらわたしはここにいて、記憶もひどく錯乱していて……。ひとつだけ覚えていた名前が、雨宮優子でした。だから、それが私の名前だと思ったんですよ。でも……今はわかります。私は雨宮優子であって、雨宮優子ではないんでしょう」
「そんなわけが……」

 



「あなたが語ってくれた想い出が、気づかせてくれたんです。わたしは……。たぶん、わたしは雨宮優子と彼女に宿っていた小さな命から生まれた……」
「俺たちの、子ども……」


優子とともに失われたと思ってた命……。

俺と優子と、3人で家族になるはずだった……。


音羽の街に戻ってきたわたしには、やらなければいけないことがありました」
「やらなければいけないこと?」
「いつも優しいわたしでいること。ひとりでも多くの人に、優しくすること。人の為に自分を捧げることが、わたしのお仕事でした。そうしなさい、って言われたんです」
「誰に?」
「さあ……。もしかしたら、神様なのかも知れませんね」
「神様、か……」

 



彼女を失ったあの日。

あの日、見上げた空を──雲の切れ間から差していた美しい光を思い出す。

 



「だったら、おまえは天使ってところか?」
「天使……。ええ、そうなのかも知れません」


優子は満面の笑みを──


本当に、天使のような透き通った笑顔を浮かべた。

 

「あなたは昔、神様なんているはずない、そう言いましたね」
「ああ」
「今でもそう思っていますか?」


彼女の問いをゆっくりと噛みしめる。

優子がここにいるということは、本来あり得ないことだ。

あるいは、"奇跡"なんて呼ばれることなのかもしれない。

そして、出てきた答えは──


「俺は自分と、自分の周りにいる人たちを見つめて……信じて生きていくよ」
「……本当に、あなたらしい」
「俺は俺のまま生きていくことしかできないからな」


奇跡を示されたくらいで自分の考えを変えられるものか。

俺は、それでいいと思う。


「なあ」
「はい」
「俺にとって、おまえはやっぱり優子だよ……。そう呼ばせてほしい」
「ありがとう……」

優子の目に涙が滲んでいる。

透明で、きらきら光っていて、本当に綺麗な涙──


「優子……。昔、おまえに言えなかった言葉があるんだ」


照れくさくて、一度も言えなかった言葉。

今なら言える。

まごころを込めて。

 



「優子……。俺はおまえを、愛してる」
「夕、くん……」
「愛してる、優子。ずっと言えなくて、すまなかった……」
「夕くん……違いますよ、それ」
「違う?」

 



「愛してた、でしょ……」
「優子……」
「わたしはね、夕くん。わたしは、幸せでした。ありがとう……。あなたに出逢えて、本当によかった。あなたとの約束、この場所でまた逢えて、本当に嬉しいんです。だから、もういいの……。もう、わたしはあなたからたくさんのものをもらいました……」
「……行っちまうんだな」
「……ごめんなさい」
「謝るなよ……」

 



謝るようなことはなにもない。

一瞬だけでも彼女が戻ってきてくれた。

永い時の中で朽ち果てるはずだった、彼女への想いと言葉。

それを伝えられただけで満足するべきなんだ。

これ以上、なにも望んではいけない……。

 



「ねえ、夕くん……」
「なんだ?」
「愛してくれてありがとう。たくさんの幸せを、ありがとう」
「それは俺の言葉だよ」
「この街で、わたしができることはなにもない。だから、わたしは行かなくちゃいけないんです」
「そうか……。俺もちゃんと前に進むよ」
「ええ、それでこそ夕くんです。あなたはちゃんと、自分で決められる人だから……。どこまでも進んでいって」
「ああ……」
「あなたがわたしにくれた幸せを、他の人にもあげてください。想いも幸せも巡って、いつかあなたのもとに……。そして、再びわたしのもとへもやってくるかも知れない……」
「届くよ、きっと。想いも幸せも、果てしなく遠いところまで届く」

 



「そうだ、これ……。これ、おまえに渡そうと思って、渡しそびれてたクリスマスプレゼントだ」
「ありがとう……。でも、わたし……わたしにはなにも返せるものがないのに」

 



「いいんだ、受け取ってくれ。俺は、もうとっくにもらってるんだ」

 



「あ……それ」
「ちぎれちまって、もう首には巻けないけど……。ずっと、大切にしてきた」
「……馬鹿ですね」
「誰にだって、捨てられないものはあるさ……」

 



「今日は楽しかった。まるで夢でも見てるみたい……」
「夢なんかじゃねえよ」
「思い出は愛しいけれど、あなたはいつも未来を見つめていてください」
「わかってる……。もう、振り返ることはないよ」
「ええ、振り返らないでください。どうか、決して振り返らずに……あなたは」

 



「……俺も、行かなくちゃな」

 



「どうか、幸せでいてください……。それが、それだけが……わたしの望みです。さようなら。わたしはずっと、ずっと。あなたを愛していました」

 



「ずっと一緒に……生きていきたかったよ……」

 





「天使にだって、安らげる日が欲しいよな……。──行くか」

 

 

……。

 

 



この街の朝はこんなにも穏やかだっただろうか。

それも当然だ。

街は変わり続けている。

変えていくのだ。

この街に住む者たちが。

そう、幸せになるために。

昔、言えなかった言葉を彼女に伝えられた。

彼女は幸せだったと──

そう言ってくれた。

そう、あのときとは違う。

いつの日か、彼女を忘れてしまうかもしれない。

それでもいいんだと思う。

俺は行くよ。

おまえにもらった幸せがあるから、

背中を押してくれたから、俺は迷わず行けるんだ。

ありがとう。

そして、今度こそ別れを告げよう。

もう一度歩き始めるその前に。

 

優しかった日々と、愛しい人にさようなら。


……。

 



街を風が吹き抜けていく。

風は冷たく、時には立ち止まってしまいそうになるけれど。

そういうときは、ゆっくりでもいいから進んでほしい。

いつかたどり着けるから。

必ず──たどり着けるから。


悲しいことがあっても大丈夫。

手を伸ばせば、そこには誰かがいて。

ぬくもりを分け合うことができるから。

ひとりでは辛い道のりも、つないだ手を離さなければきっと乗り越えられる。

そして、いつの日か気づいてほしい。

あなたが歩いてきた道の途中に、いくつもの幸せがあったことを。

忘れないで。

あなたはひとりぼっちじゃない。

 

 

 

 

 

翼がなくても、きっと行ける

いつか夢見た、光あふれる明日へと──

 

END