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-ノベルゲーム・タイピング-

大逆転裁判 ─成歩堂龍ノ介の冒險─【1】

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

ご意見・ご要望がありましたら
─メール─ zippydle.scarlet@gmail.com
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Twitter─ @Zippydle_s
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●公式サイト●

www.ace-attorney.com

 

 

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大逆転裁判 -成歩堂龍ノ介の冒險-

 

 



……歴史的な“開国”から数十年……


……『文明開化』の大号令のもと

極東の島国に……まさに今

西洋文化の大波が押し寄せていた。

活気に満ちあふれる帝都の民は

“変化”“革新”の熱気にむせかえり、

その“変化”に戸惑う者も飲みこんで

時代は大きなうねりの中にあった。

……そして、今。

そんな時代を舞台に

ひとつの“物語”が幕をひらく。

 

 



第1話

大いなる旅立ちの冒險

 

 



11月22日 午前8時43分
大審院 被告人控室 伍号室


(……こうしている、今も。まだ、とても信じられない。……一見、なんのヘンテツもないこの控室から一歩、出た先に。ほんの数時間で、ぼくの“運命”を決する《大法廷》があるなんて……)

 



カリカン「……なんだ。」


い。いえ……


カリカン「そんな目でニラんでも、ムダだ。この……憎むべき"人殺し"め!」


……………………


……す。スミマセン……

 

(……ぼくの名前は、成歩堂龍ノ介-なるほどう りゅうのすけ-。 大日本帝国、帝都勇盟大学の二年生だ。今から、3日前。恐ろしい事件に巻きこまれて……。今、こうして“裁き”の始まりを待っている)


……待てッ!

 




???「係官。今の“暴言”……見逃すわけにはいかぬ」

カリカン「なんだ……キサマはッ!」

???「オレは、弁護士だ。……この被告人の弁護を担当する」

カリカン「べ。弁護士……だと?」

???「本日の審理が終了して、最終的な《判決》が下るまでは……この者を“罪人”と呼ぶことはできぬ。……係官といえど、無礼は許さん!」

カリカン「ぐ……! 理屈ばかりコネおって。……頭デッカチの、大学生ふぜいが」


……。


???「マトモな理屈すらコネられぬ貴公のアタマよりは、よほどいい。キサマもそう思うだろう? ……成歩堂龍ノ介
ナルホド「え…・・うわッ! す。スミマセンッ!」
???「…………キサマがオレにあやまって、どうする」
ナルホド「あ……そうか。…………本当に、すまない。亜双義(あそうぎ)。キミに、迷惑をかけてしまって……」
アソウギ「あっはっはっはっ! ケッキョク、あやまるワケだ。……キサマらしいがな」
ナルホド「あ……」
アソウギ「今。帝都の新聞には、毎日。キサマの名前が踊っている。《勇盟大学ノ教授、惨殺サル! 下手人ハ、同大学ノ学生カ》……だが。この事件……キサマの仕業ではないのだろう?」
ナルホド「モチロンだ! 信じてくれ! ぼくは……やってないんだ! ……“殺人”なんて……」
アソウギ「それならば、うなだれるな。顔を上げろ。背筋を伸ばせ」
ナルホド「亜双義……」
アソウギ「オレは、キサマを信じている。……成歩堂龍ノ介

 



ぼくの親友、亜双義一真(あそうぎ かずま)。

同じく、勇盟大学の二年生だけど……

ハッキリ言って、ぼくとは大違い。

帝都学府が誇る、優秀な逸材だ。

なにしろ。学生の身でありながら、
《弁護士》の資格を取得したという……


アソウギ「……やめてくれ。この日本に《弁護士》という制度ができたのは、ほんの数年前のこと。司法の場では、まだまだ小さな存在だ。今は、まだ……な」
ナルホド「……3日前。たしか、あのときも言ったけど……。亜双義。ぼくは、友人としてキミを誇りに思うよ」

 

(……3日前……そう……思えば、あのとき。“事件”は始まっていたんだ……)


……。

 



ナルホド「……おめでとう、亜双義! 国際留学の件。ついに、決定したそうだな」
アソウギ「……ああ。ついに、やったぜ! 長年のユメがかなった気分だ。学業の成績と弁護士としての実績を、政府の連中が、やっと認めたようだ」
ナルホド「大日本の弁護士として、世界最高の“司法”を学びにいく、か……。ぼくは、友人として。キミを誇りに思うよ」


(勇盟大学でも、この亜双義の名を知らぬ者はない……。コイツの行くところ……常に。謎の熱い風が吹くという、伝説の男)


アソウギ「オレは、この国の司法を変えたい。だから。そのために……。大海原の向こうにある、ホンモノの司法制度を、この目で見たいのだ」
ナルホド「《大英帝国》……ぼくも、見てみたいものだな」
アソウギ「なんだったら、キサマも来ればいい。女王陛下の国で、ふたりで大暴れするのは、おおいに愉快だ」
ナルホド「……カンタンに言うなよ」
アソウギ「ああ……イカン、こんな時間か。オレはそろそろ、行かねばならん」
ナルホド「ぼくは、セッカクだから、もうすこしゆっくりしていくよ」
アソウギ「それがいい。こんな高級な西洋料理店、めったに来るコトもないからな。それじゃ。明日の英語学の講義で、また会うとしよう……相棒!」

 

……。

 

(……あの、すぐ後だった。事件が“始まった”のは……)


???「……亜双義くん。いいかな?」

 



アソウギ「こ。これは……教授! 来てくださったのですか」
???「私にとっても、無関係な事件ではありませんからね。それより……亜双義くん。今すぐ、裁判長閣下の執務室に出頭したほうがいい」
アソウギ「裁判長の……?」
???「閣下が、先ほどから貴君を探していましたよ。貴君が、急に弁護を買って出たものですからね。今日の法廷の手続きが、少々コンランしているようです」


(……この、紳士……誰だろう。たしか。大学で、見たコトがあるような気もするけど……)


アソウギ「……わかりました。行ってまいります!」

 



???「……お供いたします」


アソウギ「それでは、成歩堂。……法廷で会おう」
ナルホド「……ああ。よろしくたのむよ。亜双義」


………………

 



???「………………」


(ううう……気まずい……)


???「……失礼」
ナルホド「は……はいッ!」

 



???「キミが、今日の被告人……成歩堂龍ノ介くん、ですか」
ナルホド「は……はいッ! そうでありますッ!」
???「私は、御琴羽悠仁(みことば ゆうじん)。勇盟大学で、法医学の教授をしています」
ナルホド「み。ミコトバ教授……(亜双義から、名前は聞いている……。留学のために日本政府にかけあって、チカラを尽くしてくれた、と……)」


ミコトバ「亜双義くんが言っていました。キミは……“親友”だと」
ナルホド「……!」
ミコトバ「そういうことであれば。キミは、知っておくべきコトがあります」
ナルホド「……なんでしょうか」
ミコトバ「知ってのとおり。亜双義くんは、大英帝国の留学が決まっています。しかし……もし。今日の裁判で、“負けた”ということになった場合。留学は即刻“中止”となり……二度とその権利を得ることはないでしょう」
ナルホド「な……なんですって!」
ミコトバ「やはり……どうやら、キミはそれを知らなかったようですね。思ったとおり。亜双義くんは、その“事実”を隠していたようだ」
ナルホド「……!」


(……亜双義のヤツ。それを承知の上で、ぼくの弁護を……)


ナルホド「でも! いったい……どうしてそんなコトになるのですかッ!」
ミコトバ「……数多くの候補の中から、留学生を選定するのは、我が国の政府。その権利を手にするのは、それだけムズカシイ……というコトです」
ナルホド「……そんな…………。でも。ぼくは……本当に、やっていません!“殺人”なんて……!」
ミコトバ「モチロン、そうでしょう。しかし……それを《立証》するのは……かなり困難だと断言できます。なにしろ。今日の法廷は……きわめて《特殊》なのですから」
ナルホド「え……ど。どういうこと、ですか……?」
ミコトバ「それは……裁判が始まれば、イヤでもわかるでしょう」
ナルホド「……! では……ぼくは、いったい。どうすれば……」
ミコトバ「……モチロン。キミに、みすみす《有罪》になれ、と言っているワケではありません」
ナルホド「え……」
ミコトバ「裁判が始まって、すぐ。裁判長は、弁護側にある“質問”をします。キミは……誰よりもはやく、それに『私です』と答えなさい」
ナルホド「……私……です……? あ、あの。いったい、それはどんな“質問”なのですか……? あ……ま。まさか。『犯人は誰ですか?』とか、そういう……」
ミコトバ「そんなワケ、ないでしょう」

 



カリカン「……被告人ッ! 大法廷、開廷の時間である。ただちに、法廷に向かうようにッ!」


ミコトバ「おやおや……どうやら。ナイショ話は、ここまでのようです。とにかく。……これだけは言っておきましょう。亜双義一真は、今日の法廷に《弁護士》としては、立つべきではない。……もちろん。最後に決めるのは、被告人であるキミ自身ですがね」


カリカン「なにをしている! 審理放棄とみなし、《有罪》の判決を下されたいかッ! 無用な能書きをたれる“代言屋”など貴様には必要ない。急げッ!」


ナルホド「……今日の裁判。もし、負けてしまったら……。ぼくは“殺人罪”で《有罪》になる。そして……アイツの海外留学は取りやめになってしまう……」


(……こうして……マッタク先の見えない状態でたった一度の裁判は始まった。一生、忘れることのできない、“運命”の裁判が……!)


……。

 

 

 

 



同日 午前9時
大審院 第弐号大法廷

 



ナルホド「こ。これが……法廷」

 



アソウギ「ああ。《大審院》……この国で最高に権威のある、裁きの庭だ」

 



ナルホド「なんだか……傍聴席のようすがフシギな感じだな」


(軍服や……制服を着たヒトが多いような気がする……)


アソウギ「本日。この法廷は、政府の命により『極秘裁判』に指定されている」
ナルホド「ご。極秘裁判……」
アソウギ「したがって。一般には開廷を知らせず、傍聴人は、軍・政府関係者のみだ」
ナルホド「え! ど。どうして……」

 



アソウギ「……今にわかる。それより……集中しろ、成歩堂。……始まるぞ!」

 

 

──ッ!!

 

 

!?

 





 



サイバンチョ「これより、本法廷において成歩堂龍ノ介の審理を開始する。

 



アウチ「検察側。準備完了しております」

 



アソウギ「……弁護側。もとより」

サイバンチョ「審理に先立って……ひとつ、確かめておきたいことがある。弁護側は、昨夜になって、急きょ代理人の変更を申請してきたが……」


アソウギ「……はい。私が提出いたしました」

サイバンチョ「本来。被告の代理人は、審理の2日前に決定するのが通例である。ここで、最終的な確認をしておく。本法廷において。被告人の弁護を行うのは、誰であるか?」

 



(き。来た……! これが“最初の質問”……。この裁判で、ぼくを弁護するのは誰か? ……という質問だ。でも……この質問に『私です』と答える、ということは………………考えているヒマはない。どうする……!)


アソウギ「……裁判長。確認の必要はありません。言うまでもなく、この審理において被告人の弁護を行うのは……」

 



──はいッ!

 

 



 



サイバンチョ「なな、なんであるかッ! ただ今の、場違いなる“大音声(だいおんじょう)”はッ!」

ナルホド「こ……こ。この法廷で、被告人の弁護を、た。担当するのは……こ……こ。この、ぼくこと。成歩堂龍ノ介でありますッ!」

サイバンチョ「え…………」

 

 



えええええええええええええッ!


アソウギ「ど。どういうことだ……成歩堂!」
ナルホド「さっき、聞いたんだ……ゼンブ。ミコトバ教授から」
アソウギ「なんだと……?」
ナルホド「もし。ぼくが《有罪》になったら……おまえの留学は……取り消しになるって」
アソウギ「………………ザンネンだよ。キサマは、このオレを信用していない、というワケか。弁護士として……この裁判で、“負ける”かもしれない、ってな」
ナルホド「ち……違う! 決してそうじゃない。でも……。万にヒトツでも。ぼくのせいで、おまえが……」
アソウギ「……………わかっているさ。キサマなら……かならず、そう言う。だから、黙っていたのだ。御琴羽教授め……よけいなことをしてくれたものだ」

 



──ッ!!


サイバンチョ「……よろしい。本日。被告側の弁護は、被告人自身が行う……そう了解した」


アウチ「ほほお……どうやら。被告人は、罪を認めたようだ。……弁護を自ら放棄するとはねえ」

 



──異議あり


アソウギ「カン違いしないでいただきたい。被告人の無実を最も知る者は、被告人自身……それだけのこと。そうだな? ……被告人!」

ナルホド「え……えッ! そ。そうでございますともッ!」


(……と、言ってみたものの。正直なトコロ……“被告人”本人のアタマの中はもう、真っ白なんだけどな……)


アソウギ「……なんでもいいが、その泳ぎまくった目をなんとかしろ」

 



アウチ「……フン。たかが大学生ふぜいの、つまらぬ事件をこの誇り高き《大審院》で審理とは……。まこと、時節をわきまえぬ狼藉をはたらいてくれたものですな」

 



──ッ!!

 

サイバンチョ「……諸君も知っているとおり。ここは《大審院》の大法廷である。つまり。我が国で最高峰に位置する法の庭にふさわしい審理が求められる。……被告人よ」

ナルホド「は……はいッ!」

サイバンチョ「貴君に、この場に立つ“資格”がありや、なしや……それを問うとしよう」

ナルホド「は……はあ。(……どういうことだ……)」

アソウギ「つまり。キサマを疑っているのだ。……『ちゃんとできるのか?』とな」


(……そこをイチバン疑っているのは、ぼく自身だけどな)


サイバンチョ「それでは。これより当事件について、被告人に、至極カンタンな質問をする」

ナルホド「はは……は。はいッ!」

サイバンチョ「まず、この事件の“被害者”の名前を。すみやかに、述べてみよ」


(……さすがに、それはわかるな。事件があって、何度も聞いたし。……って、あれ?)

 



(キンチョーのあまり出てこない! あの名前……なんだったか……ッ!)


アソウギ「……成歩堂。キサマのことだ。もしかしたら……アタマの中が、まっ白かもしれぬ」

ナルホド「う……(さすがは親友……)」

アソウギ「事件に関する“情報”は……すべて。《法廷記録》の中に記載されている」

ナルホド「ほ。ほうていきろく……?」

アソウギ「《法廷記録》を確認してみるといい。そこに、キサマがウッカリ忘れた“情報”も、すべて記録されている」


(《法廷記録》を確認……か。……よし。やってみよう!)

 



─被害者の情報─


ジョン.H.ワトソン(47)

この事件の被害者。

大英帝国から勇盟大学に招かれた、医学博士。

 

アソウギ「事件に関する情報は、《法廷記録》……コイツは、覚えておくことだな。さあ、裁判長が待っている。コタエを“提示”してやろうぜ」

ナルホド「“被害者”は……その。ジョン.H.ワトソン教授です!」

アウチ「くっくっくっ……。さすがに。自分の大学の教授の名前ぐらいは覚えているようだ」

アソウギ「帝都勇盟大学が、今から3年前。大英帝国から招いた医学博士だ」


サイバンチョ「……そして、それこそが。この事件、最大の“モンダイ”である。“大英帝国”……。我が国にとって、現在。最も重要な外交関係にある国。最近。長きにわたる交渉のすえ、新たな条約を締結したのは知っていよう」

アソウギ「『日英和親航海条約(日英わしんこうかいじょうやく)』……我が国で知らぬ者はありません」

アウチ「ハッ。それを知っていながら英国人の命を奪うとはな! しかも。貴様らは、両名とも帝都勇盟大学の学生ではないか。学びの園の“師”を殺害……恥を知るがよいッ!」

ナルホド「うううううう……(やっていないのに……)」

サイバンチョ「本件は、かの大英帝国からも注目されている、重大事件である。だからこそ。この大審院における、迅速な判決が求められている」

アソウギ「……フン。弱腰な日本政府が、英吉利(イギリス)の顔色を見てシッポを振っている……そういうことだ。キサマは、そのために用意されたツゴウのいい“犯人”というワケだ」

ナルホド「それが……その裁判が《特殊》である理由、ということなのか……?」

アソウギ「そうだ。我が国は、一国も早く、誰かを《処罰》しなければならない。……被害者が《英国人》だからな」


(……英国人。ジョン.H.ワトソン教授……)

 

(“国”とか“条約”なんて、そんなものは関係ない。教授が殺害された、あの場所にぼくは、いたんだ……)

 



アソウギ「ああ……イカン、こんな時間か。オレはそろそろ、行かねばならん」
ナルホド「ぼくは、セッカクだから、もうすこしゆっくりしていくよ」
アソウギ「それがいい。こんな高級な西洋料理店(レストラン)、めったに来るコトもないからな。それじゃ。明日の英語学の講義で、また会うとしよう……相棒!」


(大英帝国……か。本当に、たいしたヤツだよ。………………おや……?)

 



ナルホド「あの方は、大学で見たコトがある。たしか……英国から来た教授だ。お名前は存じ上げないケド。ご挨拶、しておくべきか……」


……そして。ぼくは、あのとき……

 



ナルホド「ワトソン教授の食卓へ、ご挨拶に行ったんだ……」

 



──ッ!!


サイバンチョ「……それでは。次の質問に移るとしよう」

ナルホド「は……はい!」

サイバンチョ「医学博士ジョン.H.ワトソンはいかにして、その命を奪われたか。被害者の“死因”をこの《大審院》に示すように!」


(ワトソン教授の“死因”。もちろん、それは……)


アソウギ「……成歩堂。法廷において。その発言は、すべて《証拠》を使って行われる」

ナルホド「しょ。《証拠》を使って……?」

アソウギ「教授の“死因”を示す《証拠》を探して《つきつける》がいい……今、すぐに!」

 



─遺体検分記録─

午後2時すぎに死亡。
胸部に銃弾を受け失血死。
銃弾は遺体を貫通せず。

 



ナルホド「え。ええと……。こ。コレによると。『じゅうだんによるしっけつし』です!」

アウチ「それぐらい、ちゃんと読みなさい! ……《遺体検分記録》ですな」

ナルホド「は……はいッ! 《けんぶんきろく》ですッ!」

アソウギ「西洋……たとえば、大英帝国では変死体は“解剖”されるのだが……。我が国では、警察医による“検分”によって、死因を判定しているのだ」

ナルホド「な、ナルホド。そういうことか! (……ゼンゼン頭に入ってこない……)」

 



アウチ「……ここに、事件現場にて撮影された《写真(ほとがらひい)》がございます」

 



アウチ「ごらんのとおり。弾痕のまわりが火傷でコゲています。つまり……被害者は、至近距離から撃たれた……そう考えるべきなのです」

サイバンチョ「よろしい。近代的な捜査による《証拠》として、受理するものとする」

 



証拠品《被害者の写真》のデータを法廷記録にファイルした。

 

(こ。これが……《写真》。生まれて初めて見るな……とても“絵図面”とは思えない、驚くべき細密さだ……)

 



──ッ!!


サイバンチョ「……よろしい。《質問》はこのへんにしておこう。それでは。これより、審理に入るものとする」

アウチ「……かしこまりました。それでは……まず、事件のあらましを知っていただくために……事件当時、現場にいた者を参考人として、召喚いたします!」


(ううううう……いよいよ、か……)


アソウギ「……フン。どうやら……教授の考えが読めたぞ」

ナルホド「きょ。教授、って……ミコトバ教授の……?」

アソウギ「この法廷。キサマを弁護するのはキサマ自身だ。しかし……オレが、この場に立ってさえいれば。キサマに《助言》することができる」

ナルホド「あ……(た。たしかに……)」

ナルホド「ミコトバ教授は、こう言ってたよ。今日の裁判。おまえは……“弁護士としては”法廷に立つべきではない……って」

アソウギ「やれやれ……マッタク。手回しのいい教授サマだな」

ナルホド「……よ。よろしく頼む、亜双義ッ!」

アソウギ「その、泳いだ目と冷えた汗……できれば、しまっておいてくれ」


(その、そよいだハチマキと冷えた視線を、しまってくれたらな)

 

アウチ「……それでは。貴公の名前と職業を述べるように」



ホソナガ「……はい。名前は細長 悟(ほそなが さとる)と申します。洋食堂(レストラン)《ラ・クワントス》で給仕長(ボーイ)をしております」

 



ホソナガ「……けふ。……けふ」

 

 

ナルホド「あの。大丈夫ですか。……ナニか、出てますけど……」

ホソナガ「いつものことです。ワタシとしては、モンダイございません」


(……そういうモンダイでもない気がするけど……)


アウチ「数年前。帝都の南東が、外国人居留地として開発されたのは、記憶に新しい。そこは今も、異邦の旅人が投宿するホテルが立ち並ぶ、ハイカラな区画です。事件は、今から3日前。その一角にある洋食堂にて、発生したのです」

サイバンチョ「それでは。そなたの知ることを述べるがよい」

ホソナガ「……かしこまりました」

アウチ「シロートの“弁護士きどり”は、くれぐれもケチを挟まぬように」

ナルホド「は。はい……(気どってるワケじゃないんだけどな)」

ホソナガ「あの日……午後2時すぎ。お客さまの少ない時間帯でした。ランチの混雑も終わり、店内には3組のお客さまだけでございました」


(……たしかに。ぼくたち以外、ほとんど客は、いなかったな……)


ホソナガ「……けふ。……けふ。厨房(キッチン)のほうで、食器の後かたづけをしていた、そのときのコト……。店内に銃声が響きわたり、あわてて飛び出したとき……私は、見ました」

 



ホソナガ「……被害者の英国紳士は、グッタリとイスにもたれており……。そのかたわらに、被告人の学生サマが拳銃を手にして立っていたのです」


──はいッ!

 



「ちょっと……ちょっと、待ってくださいッ! たしかに、床に落ちていた拳銃は拾いましたけど……。ぼくは……ぼくは。断じて撃っていないッ!」


──異議あり

 



アウチ「……よけいな口出しは無用。そう言ったはずですぞ。今は、この者が見たコトを聞くときなのだ……シロートめッ!」

ナルホド「で。でも……!」

サイバンチョ「次にまた、邪魔をするようならば。《罰則》をカクゴするがよい」

アソウギ「……成歩堂。反撃の機会は、いずれ必ず、おとずれる。今は、あの者のコトバを聞いておくのだ」

ナルホド「うううう……」

アウチ「……給仕長。ヒトツ、確認しておきます。被害者のそばに、拳銃を手にした被告人が立っていたのですね?」

ホソナガ「……はい。間違いございません」

アウチ「それでは……被告人の“他”に……被害者のそばには、誰かいましたかな?」

ホソナガ「……いいえ。亡くなった英国紳士と学生サマ以外、誰もおりませんでした」

 

(え……今……なんて言った……? ……被害者のそばに、“誰もいなかった”……だと?)


アソウギ「……どうした? 成歩堂

ナルホド「そんな……そんなハズは、ないんだよ……!」

 



ナルホド「……ぼくが、ワトソン教授にご挨拶に行った、あのとき……」



ナルホド「教授の向かい側のイスには、“女性”が座っていた……!」


アソウギ「……なんだと……それを……給仕のアイツが知らなかったハズはない!」


(……クチを挟むな、と言われているけど……どうする?)


──はいッ!


ナルホド「あのとき……ワトソン教授は、ヒトリではなかった! たしか……いっしょの食卓に、女性が座っていたはずです!」

──異議あり


アウチ「……やれやれ。困ったものですねえ。弁護士など、審理の流れを手前勝手にさえぎる、ペテン師のようなもの。ましてや。そこの被告人の学生サマは、弁護士ですらないときたものだ」

ナルホド「で。でも……!」

アソウギ「給仕長。間違いありませんか。あなたの、その“記憶”……」

ホソナガ「……………ございません。被害者の英国紳士は……あのとき。おヒトリで来店されました」

ナルホド「……そんな、馬鹿な……!」

 



ホソナガ「……けふ。……けふ。ここに。あのときの店内のようすを書きとめておきました。……よろしければ。ご確認ください」

 



サイバンチョ「これは……現場の《見取図》のようであるが……」

ホソナガ「なにぶん、“緊急事態”でしたので。……ワタシの名刺のウラでございますが。見てのとおり。お客さまは、おヒトリだったのでございます」

サイバンチョ「なかなか感心な給仕であるな。そこまで気が回るとは」

ホソナガ「……恐れ入ります」

 



──ッ!!


サイバンチョ「それでは。そなたの書いた“見取図”……念のため、提出を命ずる」

 



ホソナガ「え……そ。それは……」

サイバンチョ「どうした? 早く、提出するのだ!」

ホソナガ「は。は……はい。かしこまりましてございます」


アソウギ「……なんだ? 今まで落ち着き払っていたのに」


(たしかに……すこし“動揺”したように見えたぞ)

 



証拠品《ボーイの名刺》のデータを法廷記録にファイルした。


アウチ「恐れながら……以上が、事件の“あらまし”でございます」

サイバンチョ「……現場となった洋食堂に銃声が響いた、その瞬間。被害者の“至近距離”にいたのは、この被告人だけ……。どうやら。この審理の《結論》はすでに、見えたようである」

アソウギ「……!」

サイバンチョ「被告人。成歩堂龍ノ介よ」

ナルホド「は。はい……」

サイバンチョ「今。そなたが《罪》を認めれば、情状酌量の余地がある」

アウチ「……つまり。多少なりとも《罰》が軽くなるということですな。……この者は、あくまでも事件のあらましを述べるための、参考人。これ以上、審理を続けると言うのであれば……。検察側には、決定的な《目撃証人》の用意があることを伝えておきますぞ」

ナルホド「……………なあ。亜双義……どうすればいいと思う?」

アソウギ「なんのことだ」

ナルホド「……いや。これ以上、続けてもどうせ《有罪》になるなら……今、《罪》を認めたほうが、トクなのかもしれない、と思って……」

アソウギ「………………」

ナルホド「だって……みんな、言ってるだろ。この裁判は“特殊”だ、って。おまえも、ミコトバ教授も、あの裁判長さんも、検事さんも……。このまま、続けたら……何を言われるか……怖いんだ」

アソウギ「………………最初に言ったはずだ。オレは、キサマを信じている、と。それなのに、キサマは……。その、オレの信頼を裏切るつもりなのか?」

ナルホド「え……」

アソウギ「もし。被告人が《無実》なのであれば。弁護士は、あらゆる手段を使って、それを立証する義務がある。……キサマは、自分自身に対して。その義務を放棄するというのか? まだ、その闘いは始まってすらいないというのに」

ナルホド「……!」


──ッ!!

 



アソウギ「……弁護側は、あくまで《無実》を主張するものである! 検察側は、もったいぶらずに、さっさと連れてくるがいいだろう」

 



アソウギ「……その、決定的な《目撃証人》とやらを……な」

 



──ッ!!


サイバンチョ「……よろしい。それでは、亜内検事よ。このまま《審理》を続けるがよい」

アウチ「……愚かな若者たちだ。おのれの分をわきまえぬとは。ホトケと呼ばれた、この亜内。鬼となるカクゴを決めましたぞ」

ナルホド「ううううう……」

アウチ「……これより、数瞬の後。若造のナマイキなクチを、永久に閉じて進ぜよう。検察側は、《証人》の入廷を要請するものであります!」

 



──ッ!!


サイバンチョ「……それでは、係官! 検察側の《証人》を、ここへ!」

アウチ「……それでは、証人。それぞれ名前と職業を」

 



ウズクマル「我こそはッ! ホコリ高き帝国軍人、渦久丸泰三(うずくまる たいぞう)軍曹、そのヒトであるッ!」

 



ソノヒグラシ「……拙者は、古き良き時代の骨董の神髄を帝都に語りつぐ、時の商人……。帝都・二丁目カドの《ぽんこつ堂》亭主、園日暮三文(そのひぐらし さんもん)と申す者也」


サイバンチョ「骨董屋と、軍人……“珍妙”なる組み合わせであるな」

アウチ「この両名は、事件当日。現場の洋食堂にいたそうです」

アソウギ「……先ほどの給仕長の言葉にあった、“三組目の客”というワケか」

ソノヒグラシ「拙者。午後のヒトトキは、かの洋食堂で薫り高き珈琲(こおひい)を楽しむと決めておる。そして、我が珍宝の興趣(おもむき)を解す者との玄妙(げんみょう)なる会話をたしなむのが常也」


(……ナニを言ってるのかサッパリわからないな……)


アソウギ「あの老人は、骨董屋の主人だ。《ラ・クワントス》の常連のようだな。骨董に興味のありそうな客を探しては、“商談”をふっかけているのだろう。高級な西洋料理店でランチを食らう連中には、金持ちが多いからな」

ナルホド「なるほど……。でも。正直なトコロ……。あの軍人さん。どちらかと言えば、“買う”より“売る”ほうに見えるな」

アウチ「そして。そなたたちは……非道なる事件の、その“瞬間”を目撃した。……相違ありませんな?」

 



ウズクマル「諾ッ! 嗚呼! 暴戻不遜(ぼうれい ふそん)にして悪逆非道(あくぎゃくひどう)たる所業……我が帝国軍人は刮目(かつもく)せりッ! 左様ッ! そこの、漆黒にして暗澹(あんたん)たる制服の学童が、凶弾を放ったのである!(おぎゃあ)」


(こっちも、ナニを言ってるのかサッパリわからないな……。それに……今。最後になにか、妙な“音”が聞こえたような……)


アソウギ「……やはり。この者どもが決定的な《目撃証人》というワケか。キサマが被害者を撃った“瞬間”を見た。……あの軍人は、そう言っている」

ナルホド「え……」

アソウギ「……どうだ? 愉快だとは思わないか?」

ナルホド「……正直なトコロ。愉快だとは思わないよ」

 



──ッ!!


サイバンチョ「……それでは。諸君らの《証言》を聞くとしよう。事件が起こった、その瞬間……諸君らが見た、その《事実》をッ!」

ウズクマル「御意ッ! 軍曹・渦久丸泰三。ここに御報告いたす所存ッ!」

ソノヒグラシ「……思い出したくもない、非道なる午後の記憶である也……」


─証言開始─


~目撃したこと~

ウズクマル「我、かの洋食堂にてビフテキを食らい、ご老人との語らいを楽しんでおった」

ソノヒグラシ「拙者、黄金のキラメキをまとう珍宝の美について、トクトクと語りし也」

ウズクマル「そのとき。銃声、一閃ッ! 我が眼ははッとし捕らえたり……その一瞬をッ! 漆黒の学童が、英国紳士に発砲せり! 卑劣にも……その背後から、突然にッ!」

ソノヒグラシ「そのとき。拙者は、消えた我が珍宝の行方を案じて、床に這いつくばって也」

 

サイバンチョ「そ。それでは、帝国軍人よ……そなたは“目撃”したというのか! この、被告人が……その手に拳銃を持ち、被害者を撃った、その瞬間を……!」

 



ウズクマル「左様ッ! 憎むべき真犯人は、学童にして悪童たる貴様なのだッ!(おぎゃあ)」

 



ソノヒグラシ「……このご時世に、英国紳士を射殺するとは……」


ナルホド「そ……そんな、バカな! ぼくは、撃っていない……!」

アソウギ「……本当なのだな? 成歩堂

ナルホド「ぼくは、あのとき……ただ、落ちていた拳銃を拾っただけなんだ!」

 



「……ワトソン教授に、ご挨拶した後。ぼくは、席に戻って珈琲を飲んだ。そして、帰ろうと思って、店の出口へ向かったとき……。教授の座っているイスのそばに、英国製の“拳銃”が落ちているのが見えた」

 



「……もしかしたら。教授が落としたものかもしれない……。その拳銃を拾い上げて、教授に渡そうとした、その瞬間……」


……バアン!……


アソウギ「……それが本当ならば。他に、犯人がいるはずだ。そして。その“手がかり”は……この者たちの《証言》の中にある」

ナルホド「え……」

アソウギ「成歩堂! 今すぐ、《尋問》の権利を主張するのだ」

ナルホド「じ。“じんもん”……?」

アソウギ「……急げ!」


アウチ「さて。裁判長閣下。ただ今、お聞きのとおり……。ただ今の《証言》こそ、反論の余地なく被告人の犯行を立証しております。……今こそ。この憎むべき大学生に正義の裁きを願うものであります!」

サイバンチョ「たしかに……これで、完全にギモンの余地は消え失せた。……それでは本法廷は、これにて《結審》に……」


──はいッ!

 

ナルホド「…………」


サイバンチョ「だ、だから、なんであるかッ! この、いたたまれぬ奇天烈な“間”はッ!」

ナルホド「ぼ。ぼくは……いえ。べ。弁護側は……」

 

ナルホド「“じんもん”のけんりをしゅちょうします!」


アウチ「……やれやれ。『トナリのハチマキに言わされました』という感じが、なんとも哀れですな」

ナルホド「え……(……バレたか……)」

アウチ「検察側は、異議を申し立てる! 時間のムダであるのは、アキラカ……。弁護の経験のない者に、《尋問》など、できるワケがない!」


──異議あり



アソウギ「……弁護側は、正当な“権利”を主張している。できようが、できまいが……“権利”を無視することは、できぬ!」

アウチ「ぐ……ッ!」


(亜双義……なんて、カッコいいんだ……!)


サイバンチョ「……よろしい。それでは、弁護側に《尋問》を命じるものとする!」

アソウギ「さあ。いよいよ、ここからが本当の闘いだぞ……成歩堂!」

ナルホド「で。でも……《尋問》と言われても。いったい、なにをすれば……」

アソウギ「決まっているだろう。連中の《証言》の“ウソ”を暴く」

ナルホド「え……」

アソウギ「キサマは撃っていないのだから、あんなの、ウソに決まっているだろう」

ナルホド「そ。それは、そうだけど……」

アソウギ「すべてのカギを握っているのは……《証拠》だ」

ナルホド「……しょうこ……」

アソウギ「ヤツらの“ウソ”を暴く、決定的な《証拠》を、つきつけてやるんだ。……とにかく。まずはやってみることだ……弁護士サマ!」

ナルホド「わ。わかった!(カクゴを決めるしかない、か……)」


~目撃したこと~


ウズクマル「我、かの洋食堂にてビフテキを食らい、ご老人との語らいを楽しんでおった」


──はいッ!


ナルホド「ええと………………」

 



ウズクマル「なな。なんだッ! この、いたたまれぬ“間”はッ!」

ナルホド「……ナニを聞けばいいのか考えていませんでした……」

アソウギ「とにかく。気になったことを聞いてみるがいいだろう」

ナルホド「ええ……それでは……。“ビフテキ”というのは、その。どのような料理なのですか……?」

ウズクマル「喝ッ!」

ナルホド「わッ!」

ウズクマル「子牛の肉片を、カンカンに熱した鉄板にてカッと焼き上げた逸品である!」

ナルホド「はあ……」

ウズクマル「この世で、“カツレツ”の次に美味なる西洋料理と思い知るがいいッ!」

ナルホド「なるほど! わかりました! ええと……それでは、次に………………“カツレツ”というのは、その。どのような料理なのですか……?」

ウズクマル「喝ッ!」

ナルホド「わッ!」

ウズクマル「子牛の肉片に白き粉をまぶし、食用油にてカラリと揚げた逸品である! 《有罪》判決を食らい、罪をつぐない、出所したアカツキに、まず食らえッ!(おぎゃあ)」

ナルホド「なるほど! わかりました!」

アソウギ「……おい。もうすこし、事件に関係のあることを聞いた方がいいだろうな」

ナルホド「お……おお。わかった! やってみるとも! ……それでは、もうひとつ。さっきから聞こえている、『おぎゃあ』というのは、いったい……」


ウズクマル「喝ッ! 裂ッ!」

ナルホド「……とりあえず、あの軍曹は大のカツレツ好きみたいだぞ」

アソウギ「……そいつは大きな収穫だな」


(……“質問をする”というのも、なかなかムズカシイものだな……)


ソノヒグラシ「拙者、黄金のキラメキをまとう珍宝の美について、トクトクと語りし也」


──はいッ!


ナルホド「ナニを言ってるのかサッパリわかりませんッ!」

ソノヒグラシ「……小判じゃよ」

ナルホド「こばん……」

ソノヒグラシ「あの前日。『宝永(ほうえい)』の上物が拙者の店に入ったのでな。フトコロに忍ばせて、あの洋食堂へおもむいた次第。高値をつける“目利き”が現れるかもしれぬ……そう思ったワケじゃな」

ナルホド「ええと……つまり。“小判”を売りつけようとしたワケですかッ! その……洋食堂で会った、おトナリの渦久丸軍曹さんに」

アウチ「……ああ。アンタの言いたいコトならわかりますぞ。ハッキリとな。つまり。こんなビンボー軍人ふぜいが、小判など買えるワケがないだろう、と。そう言いたいワケですな?」

ナルホド「え………あ」

ウズクマル「……小僧。どうやら……。“殺人”のみならず、“不敬罪”をも上乗せしたいようだなッ! 滅! 殺!」

ナルホド「いえいえッ! なんにも言ってませんッ!」

(……とはいえ。たしかに、おカネは持ってなさそうだけど……)


ソノヒグラシ「まあ……すでに、“らんち”の時間は過ぎておったからな。あのとき。店内に、拙者のハナシを聞いてくれそうな者は……焼いた子牛の肉片と格闘しておったこの者ぐらいしかいなかった也」

ナルホド「……はあ……」


ウズクマル「そのとき。銃声、一閃ッ! 我が眼は、はッとし捕らえたり……その一瞬をッ!」


──はいッ!


ナルホド「そのとき……見たと言うのですか? この“ぼく”を……!」

ウズクマル「嗚呼、そうだ! キサマだ。キサマだともさッ! 禍々しき拳銃で英国紳士をヒタと狙い、ブキミに笑っておったではないか!」

ナルホド「そ。そんなコト、ありません! ぼくは、ただ……」

アソウギ「……ヒトツ。確認させていただきたい」

ウズクマル「嗚呼、なんだ若造よ」

アソウギ「貴公の、ただ今の《証言》。よくよく考えてみると……。銃声を聞いた“後”……被害者の食卓に目を向けたように聞こえるのですが」

ウズクマル「だったら、どうだと言うのだッ!」

アソウギ「……その場合。犯人が拳銃を“撃った”瞬間は“見ていなかった”ことになります」

ウズクマル「………………喝ッ! そして、裂ッ! ……波動だ」

ナルホド「はどう……?」

ウズクマル「我は、キサマの発した“殺気”の波動を感じたのだ! そして。発砲の瞬間、そのホンの一瞬手前に、キサマを見たのであるッ!」

ナルホド「そ……そんなコトが可能なのですか……」

ウズクマル「……殺気の波動を感ぜずして軍人がつとまると思ったかッ!(おぎゃあ)」

アソウギ「どうやら……あの軍人さんは、キサマを“見た”とホンキで思いこんでいるようだな……」


(ヤッカイだな……)


ウズクマル「漆黒の学童が、英国紳士に発砲せり! 卑劣にも……その背後から、突然にッ!」


──はいッ!


ナルホド「ええと……その“漆黒の学童”というのは……」

ウズクマル「喝ッ! ……そらっトボけるのもイイカゲンにするがいい、ボウズ。貴様以外、いったいどこに“漆黒”の学童がおるかッ!」


(とりあえず、ぼくのトナリにヒトリ、立ってるケド……)


ウズクマル「嗚呼。そう、貴様だ! 貴様だともさ、この若造めがッ! 日本男児たる者! 背後から敵を狙うなど、恥と知るがよいッ!(おぎゃあ)」


ナルホド「………………」

アソウギ「どうかしたか? 成歩堂

ナルホド「いや……ハッキリしないんだけど……。あの、軍人さんのコトバ。なにか、“引っかかる”ような……」

アソウギ「……それならば。《証拠品》の情報を確認してみるといいだろう。もし、そこに“食いちがい”があれば……エンリョはいらぬ。その《証拠》を、あの軍人のノド元に、つきつけてやれ!」

 

ソノヒグラシ「そのとき。拙者は、消えた我が珍宝の行方を案じて、床に這いつくばって也」


──はいッ!


ナルホド「あの。どういうことですか? 床に……?」

ソノヒグラシ「這いつくばっておったのじゃ。……“探し物”のためにな」

アソウギ「探し物……というのは?」

 



ソノヒグラシ「小判じゃよ! 上物の、『宝永(ほうえい)』の小判じゃ! あのとき。肉片を食いちぎる軍人に、我が珍宝を見せつけておったのじゃが。フト目を離したスキに、そいつがふい、と消えッちまったのじゃ!」

アウチ「小判が……消えた……」

ソノヒグラシ「それで、どこかに落としたかと、床を探しておった、そのとき」

アソウギ「店内に、銃声が響き渡った……というわけですか」

ソノヒグラシ「左様ッ! 拙者に言わせれば『知ったことか』のヒトコト也。血マナコになって、床を這いずり回っておった也ッ!」

ナルホド「それでは……ご老人は、事件の起こった“瞬間”を見ていないわけですね……?」

ソノヒグラシ「……そういうことになる也」


(うううう……どうしていいか、わからない!)


アソウギ「……いいか、成歩堂。これから、この《証言》に潜んでいる連中の“ウソ”を暴くぞ」

ナルホド「それは、わかったけど。……いったい、どうやって!」

アソウギ「さっきも言ったが。カギを握っているのは……《証拠品》だ。連中の《証言》と、証拠品の《情報》を……ひとつひとつ、見くらべてみるんだ。そこには、決定的な食いちがい……すなわち《ムジュン》があるはずだ」

ナルホド「む。《ムジュン》……」

アソウギ「食いちがう《証言》と《証拠》が見つかったら……。《つきつける》……連中に“トドメ”を刺すことができる」

ナルホド「……!」

アソウギ「だが。やみくもにつきつければ、《罰則》を受けることになってしまう。《罰則》を受け続けると……弁護側の主張はしりぞけられ、《有罪》となる。いいな。《証拠》の記録を見ながら、《証言》と食いちがう部分を探すんだ!」

ナルホド「……わかった。やってみるよ」

アソウギ「連中の《証言》は、何度でもくりかえし聞くことができる。あせらず、ジックリ攻めていこうぜ……相棒!」


……。


ウズクマル「漆黒の学童が、英国紳士に発砲せり! 卑劣にも……その背後から、突然にッ!」


──はいッ!

 



ナルホド「………………」



ウズクマル「………………」

 



アウチ「………………」

 



サイバンチョ「………………」

 



ウズクマル「な。なんだ……今のは。いきなり、目の前に『写真(ほとがらひい)』をたたきつけられたようだが……」


ナルホド「む…………《ムジュン》です。その…………そう。いわゆる《ムジュン》なのですッ!」

アウチ「……この期におよんで、ナニを言ってるのだか……。今さら。この、現場の写真(ほとがらひい)がなんだというのかッ!」

ナルホド「そ。それは……! だから、その……!」


(……言いたいコトはわかっているのに、コトバにならない……!)


アウチ「……フン! これでおわかりでしょう、裁判長。我らが大審院の弁護席に、シロート学生は無用である、とッ!」

サイバンチョ「むうううう……」


ナルホド「ぐ………(く。クヤシイ……)」


──ッ!!

 



アソウギ「……やれやれ。まさか。このテイドのことに、わざわざ“説明”が必要とは……。大審院が、聞いてあきれるッ!」

ナルホド「あ。亜双義……?」

アウチ「……なんですと……」

 



アソウギ「弁護人が提示した、この《写真》。ひとめ見れば、アキラカであろう。その軍人の《証言》は……ムジュンしている、とな!」

アウチ「え……」

アソウギ「……渦久丸軍曹殿」

ウズクマル「な。なんだッ!」

アソウギ「貴公は……ただ今の《証言》で、こう発言している。『漆黒の学童が、英国紳士に発砲せり。卑劣にも……その背後から、突然に』」

ウズクマル「そうだッ! この、2つのマナコにかけて……我、目撃せりッ!」


──はいッ!


ナルホド「でもッ! それって、オカシイじゃないですか!」

ウズクマル「……ナニを言うかッ!」

ナルホド「だ。だって……だって。なあ、亜双義!」

アソウギ「……この《写真》。もう一度。よく見ていただこう」



アソウギ「被害者、ワトソン教授は……“胸部”を撃たれて死亡している」

ウズクマル「あ……」

アソウギ「……軍曹。貴公の《証言》によれば。犯人は、被害者を“背後”から撃ったコトになっているが……。この《ムジュン》……どう説明するおつもりかッ!」

 



ウズクマル「……うぐ……ぬぬ……ううう……ぬぐぐ……うう……ぬぬうぐぐ……」




(な……なんだ……? 今。なにかがハミ出て、そして、押しこまれたような……)


サイバンチョ「……たしかに。これは明白なムジュンである。いかがか? ……渦久丸軍曹よ!」

ウズクマル「……………たしかに……今、思えば。認めざるを得ないようであります」

 

ウズクマル「銃声が響いた、その瞬間まで。我が、2つのマナコは……。《ラ・クワントス》名物のビフテキに“クギづけ”だったとッ!」

アウチ「な。なんですと……!」

アソウギ「……ただ今の《証言》で、ある“事実”が立証された。この証人。帝国軍人・渦久丸軍曹は……。被告人が、拳銃を発砲したというその“瞬間”は、目撃していなかった!」

アウチ「うううう……こ。こんな、馬鹿なコトが……」

アソウギ「……これで、おわかりいただけたかな……? 我らが大審院の席に、シロート検事は無用である、とッ!」

 



アウチ「く……くそおおおおおおおおおッ!」


(たったヒトコトで、法廷の空気が変わってしまった……。……これが、“弁護士”……!)


ウズクマル「……しかしッ! 我は、たしかに見たのだッ! あの学童がッ! 背を向けた被害者に卑怯にも拳銃を向けていたのを!」


──はいッ!


ナルホド「……でも! ぼくは、撃っていません! ぼくは、ただ。床に落ちていた拳銃を拾っただけなのです!」

サイバンチョ「むうううう……。……ご老人よ。そなたは、目撃していないのであろうか……?」

ソノヒグラシ「………………拙者は、先ほども述べたとおり。“銃声”など、そっちのけで、床に這いつくばっておった也」

ナルホド「たしか……“小判”を探していたのでしたね?」

ソノヒグラシ「そう! そうなのじゃ! 上物の、『宝永(ほうえい)』の小判なのじゃ! それで、どこかに落としたかと、床を探しておった、そのとき……」

アソウギ「店内に、銃声が響き渡った……というわけですか」

ソノヒグラシ「左様ッ! ワシはかまわず、『宝永(ほうえい)』を探しておったのじゃ。……全身、血マナコと化してッ!」

アソウギ「ちなみに……。その“小判”は、その後。見つかったのでしょうか……?」

ソノヒグラシ「………………見つからなかった」

アソウギ「そう、ですか……」

ソノヒグラシ「あの日。……拙者は、上物の《宝永小判(ほうえいこばん)》を失って候。何者か、けしからぬ輩がネコババしたのじゃろうかのお……?」

ウズクマル「……………」

 



──ッ!!


サイバンチョ「……諸君も知ってのとおり。本件は、迅速なる《解決》が何より求められている事件である。本日の午後までに、政府を通じて大英帝国へ報告の打電をせねばならぬ」

アソウギ「しかし! ただ今の《証言》は、“決定的”ではなかった! 我が国の政府が、いかに英国に対してアタマが上がらないとしても……。……このまま《判決》を下すことは、決して許されぬッ!」

サイバンチョ「むううう……どうなのか、亜内検事よ」

アウチ「くっくっくっ……。どうか……ご安心ください、裁判長」

ナルホド「……!」

アウチ「この者たちの《証言》は……まだ終了しておりません」

サイバンチョ「……どういうことか」

アウチ「次の《証言》を聞けば……今度こそ。ハッキリするでしょう。……この、ニクむべき凶行が可能だったのは……ただヒトリ! ……そこの、ニクむべき大学生。成歩堂龍ノ介であるとッ!」

ナルホド「な。なんですって……!」

アソウギ「……ずいぶんと憎まれたものだな。キサマも」

ナルホド「ううううう……」

 



──ッ!!


サイバンチョ「本法廷は、この証人たちにいま一度。《証言》を求めるものとする。被告人が“犯人”である……そう断定する《根拠》について。……よいな?」

ソノヒグラシ「……この《ぽんこつ》のコトバ。高くつきましょうぞ……」

ウズクマル「御意ッ! 軍曹・渦久丸泰三。ふたたび、ご報告いたす所存ッ!」

ナルホド「……あの。背中から、なにかのぞいでますけど……」

 



ウズクマル「彼こそはッ! 我が渦久丸家の最後の希望……その名も九朗丸ッ!」

アソウギ「……どうやら。子守りをやとう余裕もないようだな」

 



ウズクマル「我が子、九朗丸よ……そこで、見ているがいい。父が、悪を討つ……その瞬間を! いざ、刮目せよッ!」


─証言開始─

~真犯人の《根拠》~


ウズクマル「たとえ、発砲の“瞬間”ではなかったとしても……同じようなものであるッ!」

ソノヒグラシ「黒き小僧が、白き紳士に拳銃を向けていた……それは、拙者も覚えている也」

ウズクマル「そして、あのとき。洋食堂には、我らの他に、たったヒトリの客もなし!」

ソノヒグラシ「……左様。白き紳士は、あの食卓で、ひとり静かに食事を楽しんでおった」

ウズクマル「ゆえに! その悪童の他に、かの紳士を撃てる者はナシ。……報告、終わりッ!」


サイバンチョ「む。むううう……これは、たしかに。決定的な」


──はいッ!


ナルホド「待ってください! そんな……そんな、馬鹿なッ! 被害者は……ワトソン教授はヒトリじゃなかったはずです!」

アウチ「コラ! 被告人……控えぬかッ!」

ナルホド「でも! 女性が……若い女性が一緒にいたハズなんです!」

 



ナルホド「みなさんは、見ているハズだ! ……ゼッタイに!」


──異議あり


アウチ「……《弁護人》を名乗るのならば。規則にのっとり、発言するべし。ここは、キサマの戯言を聞く場所ではないのだッ!」

ナルホド「ぐ……ッ!」

アウチ「事件が起こった時。被害者がヒトリきりだったのは、間違いない。……ここに、それを立証する《写真》がございます」

サイバンチョ「これは……事件現場を撮影した《写真》であるか」

 



アウチ「……現場を捜査した者が、被害者の食卓を撮影した《写真》でございます。食卓の上には……ヒトリぶんの食事しか、ございません」

サイバンチョ「……たしかに。この《写真》を見るかぎり……。被害者に、“連れ”はいなかった。そう考えるのが自然であろう」

ナルホド「……ぐ……(そんな、馬鹿な……)」

サイバンチョ「その《写真》の提出を命じる。《証拠品》として受理するものとする!」

 



証拠品《現場写真》のデータを法廷記録にファイルした。

─現場写真─

被害者の食卓には、炭酸水の瓶と、ランチのビフテキの皿がある。

 

ナルホド「……そんな……」


(いったい……どういうことなんだ……)

 



(……誰も、“彼女”を見ていない、なんて……!)


アソウギ「……先ほどの給仕長も、同じコトバを吐いていたな。被害者……ワトソン教授は『ヒトリで来店した』……と」

ナルホド「……でも。それは、違う。ぼくは……見たんだ……本当に。見たのに……」

アソウギ「………………」

サイバンチョ「……どうやら。大英帝国への打電は、予定どおり行うことができるようだ。ただ今の《証言》……今度こそ、疑う余地は、なし!」

アウチ「なにしろ。英国とは、条約を締結したばかりの、微妙な時期ですからな。この亜内。両国の友好関係に一役買うことができて、光栄に存じますぞ」

 



ナルホド「…………………」


(なんてことだ……これで……裁判が、終わってしまう……!)


……顔を上げろ、成歩堂。まだ終わっていない。


ナルホド「え……」


アソウギ「……キサマのコトバが真実ならば。この“裏”に、何が潜んでいるのか……。引きずりだしてやろうではないか。……《尋問》でな」

ナルホド「あ。亜双義……」

 



──ッ!!


サイバンチョ「弁護側には、《尋問》の権利がある。……はやく、済ませるように」

アウチ「マッタク。“規則”というのは、なかなかメンドウなものですなあ」

ナルホド「ううううう……」

 

 

 

 


─尋問開始─

~真犯人の《根拠》~


ウズクマル「たとえ、発砲の“瞬間”ではなかったとしても……同じようなものであるッ!」


──はいッ!


ナルホド「いやいや! 同じじゃありません! だって。ぼくは……撃っていないのですから!」

ウズクマル「それは、大学生ふぜいと帝国陸軍軍人の“見解の相違”というヤツであろう」

ナルホド「……違うと思います……」

アウチ「……被告人。たとえば……こう考えてみてはどうかな? たった今。私は“まばたき”をした」

ナルホド「ま。まばたき……ですか……?」

アウチ「その瞬間を。アナタ、《目撃》しましたかな?」

ナルホド「見えませんでしたッ!」

アウチ「しかしッ! 私が“まばたき”をしたのは、たしかな“事実”である! ……そういうコトなのですよ」

ナルホド「……そういうコトなのですか……?」

 



ウズクマル「……喝ッ! とにかく! 我が耳に、銃声が轟いた、その次の瞬間! キサマは、あの英国紳士に拳銃を向けていたのであるッ!」

アウチ「それが、すべてを物語っている。……そうは思わんかね」

ナルホド「ぐ……」

アウチ「そして。その“姿”は、《ぽんこつ堂》の主人も目撃している。……そうですな? ご主人」

ソノヒグラシ「………………」


……。


ソノヒグラシ「黒き小僧が、白き紳士に拳銃を向けていた……それは、拙者も覚えている也」


──はいッ!


ナルホド「たしかに、あのとき。ぼくは拳銃を手にしていましたが……それは、本当に……床に落ちていたものを、拾っただけなのです!」

アウチ「……そりゃ、“ハンニン”としては、そう言い抜けるしかないでしょうな」

ナルホド「珈琲を飲み終えて、あの洋食堂を出ようとしたとき……」

 



ナルホド「……ワトソン教授の足元に落ちていた拳銃を、ぼくは拾った。……そして、そのとき……」


……バアン……!


ナルホド「店内に、銃声が響いた……」

ソノヒグラシ「……フン。人生、なかなかままならぬものであるな」

ナルホド「え。どういうことですか……?」

 



ソノヒグラシ「キサマは、落ちていた拳銃を拾ったばかりに、そんなザマじゃ。その一方で、拙者は……落としたはずの『宝永』の小判が見つからぬゆえ、こんなザマ也」

ナルホド「………………」

ソノヒグラシ「とにかく……小僧。拙者は、たしかに“見た”のじゃ。キサマは拳銃を手にして、あの白い紳士のそばに立っておった」


……。


ウズクマル「そして、あのとき。洋食堂には、我らの他に、たったヒトリの客もなし!」


──はいッ!


ナルホド「ワトソン教授の食卓には、もうひとり。女性がいたはずです!」


──異議あり


アウチ「さっきから、とりつかれたようにそれを連呼しているが……。そんな人物を見た者は、誰ヒトリとして、存在しないのだ!」

ナルホド「ぐ……ッ!」


(店内に、もっと客がいれば。きっと、見た者がいたはずなのに)


アソウギ「……あのとき。すでに時刻は午後2時をまわっていた。“らんち”と“でぃなー”の狭間。スキ間のような時間帯だったのだ」

ナルホド「ほとんど客がいなかったのは、いたしかたがない、というコトか……」

サイバンチョ「たしかに。午後2時といえば、やや中途半端な時間であるが……。被害者が、その時間。ヒトリで食事をしたのは、なにか理由があるのか……」

アウチ「ああ……それならば。“理由”が、あったようです」

ナルホド「え……」

 



アウチ「コチラは、被害者の上着のポケットに入っておったのですが……」

サイバンチョ「それは……なんであるか?」

アウチ「《診察票》のようです。被害者は、あの洋食堂を訪れる前、医者に行っていたようです」


サイバンチョ「《堀田診療所》……たしかに、診療の日時が記されている。『……11月19日、正午ヨリ午後1時スギマデ……』」

アソウギ「まさに、事件が起こった日付だ……」

アウチ「治療が終わって、遅い昼食を食べに来た……というトコロでしょう。……まあ。本件とは無関係なので、特に報告いたしませんでしたが」

アソウギ「ううむ……どう思う? 成歩堂

ナルホド「え? ……まあ、たしかに。事件とは関係なさそうだと思うけど」

アソウギ「必要であれば。《証拠》として提出するよう、要求できるのだが」

(ワトソン教授の《診察票》……《証拠》として要求するべきか?)


──はいッ!


ナルホド「その《診察票》……《証拠》として提出していただけますか……?」

アウチ「なんのために?」

ナルホド「え……」

アウチ「すでに、決定的な《証言》がある。よけいな《証拠》など、必要ない。それに。事件の前の被害者の行動など、本審理には、関係ありませんからな」


──異議あり


アソウギ「……関係がないか、どうか……我々にも、それを調べる権利がある」

アウチ「な。なんだと……」

アソウギ「正当な要求を貴公の判断で拒否することはできぬ」

サイバンチョ「……よろしい。本法廷は、弁護側の要求を認めるものとする」

アウチ「……くッ! 最近の若者は、おのれの権利ばかり主張する……嘆かわしい風潮ですな!」

 



──ッ!!


サイバンチョ「……被害者の《診察票》を《証拠》として受理する」

 



証拠品《診察票》のデータを法廷記録にファイルした。

─診察票─

堀田診療所の診察票。
被害者のポケットから
発見された。

 

アソウギ「……今。オレたちは、新しい“手がかり”が必要なんだ。それが一見“無関係”であっても……見逃すべきではない」

ナルホド「わ……わかっているとも!」

アウチ「フン……審理を長びかせようとしても、ムダと知るがいい。なにしろ……《証言》はハッキリしていますからな。……いかがですかな? 《ぽんこつ堂》のご主人」


……。


ソノヒグラシ「……左様。白き紳士は、あの食卓で、ひとり静かに食事を楽しんでおった」


──はいッ!


ナルホド「あなたは……それを“見た”のですか。被害者……ワトソン教授が“ひとりで”食事しているのを」

ソノヒグラシ「…………………そう、じゃな。キサマには、モウシワケないが」

ナルホド「………………」

アウチ「この老人も、軍人も……そして、給仕長も、そう《証言》している。さらに。……こうして、アキラカなる《証拠》もあるのですよ」

 



アウチ「……ごらんのとおり。食卓の上には、ヒトリぶんの“ビフテキ”があるだけでございます」

ナルホド「……そんな……」

アソウギ「………………骨董屋の主人、帝国陸軍の軍曹、そして……さっきの給仕長。証人たちが、全員“ウソ”をついている可能性は、ある。しかし……いったい、その“理由”は、なんなのか……?」

ナルホド「……正直なトコロ。ぼくには、見当もつかないよ」


……。


ウズクマル「ゆえに! その悪童の他に、かの紳士を撃てる者はナシ。 ……報告、終わりッ!」


──はいッ!


ナルホド「どうして……本当のコトを言ってくれないのですか」

ウズクマル「な。なんだと……」


(あのとき……ワトソン教授の向かい側には、女性が座っていた……)


ナルホド「……証人がヒトリなら。“見落とし”ということも、あるかもしれません。でも。ふたりとも“見ていない”なんて……ゼッタイに、おかしい!」

 

……………………

 

サイバンチョ「……ザンネンだが。“ふたり”だけではないようだ」

ナルホド「え……」

サイバンチョ「先ほどの給仕長も、ハッキリ言っていたハズだ。……『被害者は、ヒトリだった』と」

ナルホド「あ……」

アウチ「そのとおり! つまり……“マボロシの女”の存在を主張しているのは……キミだけなのだよ」

ナルホド「そ。それは……」

アウチ「そんな者がいたというのならば。“立証”してもらおうではないか!」

ナルホド「………………」

アウチ「それが、できないのであれば。二度と“マボロシの女”をクチに出さないでもらいたい! ……時間のムダですからな」


(……言い返せない……)


アソウギ「……………」

アウチ「……くっくっくっくっ……」


……。


アソウギ「よくやったな、成歩堂! 新しい情報を引き出したぞ」

ナルホド「あ、ああ……でも。状況は、あまり変わらないような気がするよ。やっぱり。これといった“ムジュン”は見当たらないし……」

アソウギ「そんなことはない。さっき、手に入れた『診察票』……ちょっと、見せてくれないか」

 



ナルホド「ああ……これ、か?」

アソウギ「セッカク手に入れた、新しい“手がかり”だ。……もうすこし、詳しく調べてみるべきかもしれない」

ナルホド「詳しく……って。いったい、どうやって……?」

アソウギ「《証拠品》をタテから、ヨコから自由にニラみつけてやるといい。“手がかり”がないか、探るんだ。……それでは、成歩堂。手始めに、この《診察票》……。なにか、新しい“情報”がないか、よく調べてみようではないか」

ナルホド「ああ……わかった。やってみよう!」

 



ナルホド「……診察表には《堀田診療所》と書かれている。
『診療所』は、『病院』と『医院』の次にキライなコトバだ」

アソウギ「いずれも同じようなものだろう」

ナルホド「5才のころ、たった一度カゼをひいたときのことだ。弱ったぼくのウデに、無慈悲にも注射針を突き立てた、あの仕打ち。ぼくは一生、忘れないだろう。ああ、忘れないとも!」

アソウギ「うっとうしい健康優良児だな。……どうやら。この診療所は、《内科》ではないようだな。ほかに“手がかり”がないか、よく調べてみるがいいだろう」

 



ナルホド「この、《診察票》……ずいぶん以前に発行されたみたいだ。“かかりつけ”というヤツだな。治療に時間がかかっているのだろう」

ナルホド「信じられないな。ぼくは、死にでもしないかぎり、医者にはかからないぞ」

アソウギ「死んだら医者にはかかれないだろう。……キライなのか? 医者が」

ナルホド「だって。連中は、イタい注射を打ち、ニガいクスリを飲ませ……。その上、カネまでムシりとるんだぜ。こっちが弱っているのにつけこんで!」

アソウギ「………………健康をコジらせた、メンドウなヤツだ。キサマの、そのガンコなアタマごと、ニガいクスリにつけこんでおくといい」

 



「こ。これは……医師の“記録”のようだ。……事件当日の治療内容が書かれている。『麻酔薬ヲ用イテ、抜歯術ヲ施ス』……」

ナルホド「“ばっし”……歯を抜く、ってコトだよな」

アソウギ「どうやら。ワトソン教授は、事件の前に“虫歯”を抜いたようだな。“笑気瓦斯(しょうきガス)”を使ったのだろうか。……西欧(ヨーロッパ)の、最新の医療技術だ」

ナルホド「“マスイ”……ウワサは聞いたコトがあるけど。(“痛みを感じない”なんて。とても信じられないな……)」

アソウギ「……最後に、医師からの“注意書”が添えられている。『麻酔ノ残留ニヨリ 施術ヨリ参(さん)時間 水以外ノ飲食ハ 厳禁トスル』……」

ナルホド「……なんだって……」

アソウギ「どうやら。この“情報”は、《記録》しておくべき……だな」

 



証拠品《診察票》のデータを更新した。

─診察票─

歯科診療所の診察票。被害者は
事件当日、抜歯の治療を受け
水以外の飲食を禁じられていた。


(……この新しい“情報”があれば……。あの《証言》の“意味”は、まるで変ってくるぞ……!)


アソウギ「……さて。それでは、もう一度。《証言》を聞いてやるとしようか」

ナルホド「ああ!」


……。


ソノヒグラシ「……左様。白き紳士は、あの食卓で、ひとり静かに食事を楽しんでおった」


──はいッ!


ナルホド「……え。ええと……つまり……なんというか」

ソノヒグラシ「さっきから、なんじゃ! ベンゴシのクセに!」


(……“ベンゴシ”以前に、まず“被告人”なのに……)


アソウギ「……成歩堂。コトバに詰まるのは、仕方のないこと。気にする必要はない」

ナルホド「亜双義……」

アソウギ「さっきの《尋問》を見て、オレにはハッキリ、わかった。キサマが、その手をまっすぐあげた、そのとき。キサマのアタマの中には、『言うべきコト』が存在している」

ナルホド「……!」

アソウギ「コトバを選ぶ必要はない。思ったまま、言えばいい」

ナルホド「………………わかった。やってみるよ」

 



ナルホド「……証人。これは、被害者の《診察票》です」

ソノヒグラシ「ほお……それがなんだと言うのじゃ、小僧」

ナルホド「ここに書かれているコトと、証人の《証言》には……。なんだか。ヘンなところがあると思いますっ!」


──異議あり


アウチ「……やれやれ。ワタシのコトバをお忘れかな?」

ナルホド「な。なんですか……」

アウチ「審理の常識も知らぬシロートが、クチを挟むな! というコトですよ」

ナルホド「え……」

アウチ「よろしいかな? 被害者は、午後2時すぎ。あの西洋料理店で殺害された。それよりも“以前”の行動など……事件とは、マッタク関係ないのだ」

ナルホド「ぐ……ッ! そ。それは……その」

アソウギ「……成歩堂。コトバを選ぶ必要はない。思ったことを、そのまま言ってやれ」

アウチ「裁判長! おわかりでしょう。これ以上、審理の必要はない」

サイバンチョ「むうう……」

アウチ「なにしろ……ただ今の《証言》で、すべてハッキリしたのですからな。《診察票》など、なんの意味もない。……なぜならば! そこの、真っ青な大学生以外。犯人である可能性は、あり得ないと──」


──バンッ!!

 



ナルホド「……この《診察票》が、事件と関係ない……? ……ホンキで、そう考えているのですか?」

 



アウチ「な……なんだ、急に。おどかすなッ! 考えるまでもないッ! “関係ない”に決まってる!」

ナルホド「この《堀田診療所》が……“歯科医院”だったとしても?」

アウチ「は。歯、だと……? そんなの、知ったことではないワ!」

ナルホド「その歯科医院で……“被害者が歯を抜いていた”としても?」

ソノヒグラシ「……! な。なんじゃと……」

ナルホド「……そして。そのせいで、被害者が“食事を禁じられていた”としても?」

アウチ「……!」

ソノヒグラシ「……!」

ウズクマル「……! ちょ……ちょっと待て。キサマ……何を言っておる……。食事が……“禁じられていた”……いったい、なんのことだ!」

ナルホド「……すべて、ここに書かれているとおりです。『麻酔ノ残留ニヨリ 施術ヨリ参(さん)時間 水以外ノ飲食ハ 厳禁トスル』……」

アウチ「なんだと……ッ! そんな、馬鹿な……」

ナルホド「……ご老人!」

ソノヒグラシ「な。なんじゃ……」

ナルホド「お聞きのとおりです。あの事件が起こった、午後2時すぎごろ……被害者は、食事をすることができなかったのです」

ソノヒグラシ「馬鹿な……ッ!」

ナルホド「そして……もうひとつ」

ウズクマル「な。なんだ……」

ナルホド「あなたがたは、自信タップリに“断言”していました。被害者は、ヒトリで“食事を楽しんだ”……と。……しかし。そんなコトは、あり得ないんだッ!」

ウズクマル「ぐ……お」

ナルホド「……だって。被害者は……“麻酔”で歯を抜いたばっかりだったのだもの!」

 



ぎゃはああああああ!!


アソウギ「よくぞ言ったな。……相棒!」


──異議あり


アウチ「な……ナニを言い出すか。この……小僧めッ!」

ナルホド「…………」

アウチ「くだらぬ“言いがかり”だッ! み……見ろッ! この《写真》を!」

 



アウチ「このとおり……たしかに、被害者の食卓には、ビフテキがある……!」


──異議あり


アソウギ「……愚かな。それこそが“ムジュン”なのだ。……わからんのか」

アウチ「な……なんだと……!」

アソウギ「たった、今。状況は、大きく“一変”したのだ。そうだな? 成歩堂

ナルホド「え! も。モチロンそうですともッ!」

サイバンチョ「……被害者は、抜歯術の直後で、『食事ができなかった』……もし、そうであれば。次なる“ギモン”は、ただひとつ! このビフテキは、いったい、誰が食したのか……?」

 



──ッ!!


サイバンチョ「弁護側の考えを聞くとしよう。……よいな? 弁護人よ!」

ナルホド「…………………え! あ! いわゆる、ぼくですねッ!」

アソウギ「いいか。この《コタエ》こそが“始まり”なのだ。キサマの……《大逆転》。見せてやるがいい!」

ナルホド「……わ。わかりました! え。ええと……。……このビフテキを食べたと考えられる人物とはッ! もちろん! あのとき、被害者の食卓にいた、もうヒトリの人物です!」


──異議あり


アウチ「何度も言わせるなッ! そんな人物はいなかったのだ!」


──はいッ!


ナルホド「何度だって言います! ぼくは……見ているんです!」

アソウギ「……事件が起こったとき。被害者は、食事ができない状態だった。しかし。食卓にはビフテキがあり、途中まで、食べられている。……つまり! 『誰か、他の人物がいた』……そう考えるのが自然である!」

アウチ「ぐ……ううううッ……!」

アソウギ「ここまで明白な《証拠》がある以上。先ほどの《証言》は、信用できぬ。……このまま、強引に《判決》に持ちこむつもりならば……。我々は、司法省(しほうしょう)に訴え出る。そして……トコトン、追及してやる!」

ナルホド「あ。亜双義……」

アウチ「き。キサマ……大日本帝国の司法を相手に戦えると思っているのかッ!」

アソウギ「我々の相手は、貴公ではない」

アウチ「な。なんだと……」

アソウギ「……キサマたちだ。証人ッ!」

ソノヒグラシ「な。なんじゃと……!」

ウズクマル「ど。どういうコトだ……!」

アソウギ「……《証拠》が示しているとおり。被害者は、ヒトリではなかった。もし。キサマらが、故意にウソの《証言》をしたのであれば。キサマたちは……当然。《偽証》の罪に問われるコトになる」

ウズクマル「ぎ。ぎしょう……」

アソウギ「……しかも。これは《殺人事件》の審理だ。キサマらは……当然。殺人の《共犯》ということになる」

ソノヒグラシ「さ。さつじん……ばば……」


ばかなあああああああああ!!


──待った!


ウズクマル「かかか、喝ッ! そ……そ。そんなハナシ。聞いておらぬぞッ! 我は、ただ! 命じられたとおり《証言》しただけだッ!」

ソノヒグラシ「そ。そうじゃ! そのとおりなのじゃッ! あの“淑女(レデエ)”を『見なかった』コトにしろ、と……そう、言われ……て……………………あ」


(……なんだって……)


ナルホド「証人……ご主人! 今。なんて言いましたか……?」

 



ソノヒグラシ「い、いや、そのお……」

ナルホド「“命じられたとおり”《証言》した……?」

ソノヒグラシ「ま。待ってくれ! だから、それは……」

アソウギ「“淑女(レディ)”を『見なかった』コトにした……?」

ウズクマル「ぐ………ッ!」

アソウギ「“淑女(レディ)”ということは……つまり。キサマらが見たのは……『外国人の女』ということか」

ナルホド「あ……!」


──異議あり


アウチ「いったい……こ。これは、どういうコトなのだ……! この《証人》たちが……ぎ。“偽証”だと……? ……そうなのかッ! ご両人ッ!」

ソノヒグラシ「………………」

ウズクマル「………クチが……ただ…・・ひたすら、クチが。スベっちまったあああああああああッ!」

 



──ッ!!

──ッ!!

──ッ!!

 


サイバンチョ「静粛に! 静粛に! 静粛にッ! これは……どういうことかッ!」

アソウギ「やはり……キサマたちが証人どもに“口止め”をしたのかッ!」

アウチ「し……知らぬッ! 検察局は、関知しておらん!」

ナルホド「それでは……みなさんは、いったい誰に、クチを封じられたのですか!」


ソノヒグラシ「そ。それは……」

 



ウズクマル「い。言えるかッ!」

アソウギ「殺人の“共犯”にされてもかまわぬと言うつもりかッ!」

ウズクマル「そ。そんなの……信じられるかッ!」

アソウギ「……成歩堂。彼らの、あのようすを見ると。どうやら……連中は、強大な“権力”によって口止めされているようだな。そして……あの検事サマは、そのことを知らされていなかったようだ」

ナルホド「な。なんだって……。でも。そんな“権力”なんてかぎられているぞ!」


(“大日本政府”か、“軍”か……それとも。“警察”、か……)


アソウギ「どうだ? 成歩堂。 彼らを“口止め”した人物に、心当たりはないか? その者を《名指し》できれば……。さらに“追及”できる!」


(……2人の証人を“口止め”した人物を《指摘》する……)


アソウギ「……当然。その場合、《証拠》が必要になるだろうがな。そいつが持っている“権力”を立証する《証拠》が……!」

ナルホド「しょ。《証拠》だって? そんなの、あるワケが……」

アソウギ「……待て、成歩堂。さっきのコトを思い出すんだ」

ナルホド「え……」

アソウギ「さっき。《診察票》を調べて、新しい“手がかり”を見つけたな?」

ナルホド「……あ、ああ。そうだったな」

アソウギ「オレたちは、他にも《証拠》を持っている。なにか“手がかり”がないか……調べてみるべきかもしれぬ! ……今、すぐにな!」


……。

 



アソウギ「コイツは。驚いたな……」

ナルホド「どうかしたか? 亜双義」

アソウギ「……ここだ。あの証人の名前が書かれている。『細長 悟』……」

ナルホド「そりゃそうだろ。なんたって“名刺”なんだから」

アソウギ「……モンダイは、名前じゃない。“肩書き”だよ」

ナルホド「“かたがき”……あッ! 『帝都警察 第壱捜査係 刑事部長 細長 悟』……。ど。どういうことだよ。『刑事』って……」

アソウギ「……………それは、わからないが。《警察》という“権力”があれば。多少“強引なコト”も、できそうだな」


証拠品《ボーイの名刺》のデータを更新した。

─ボーイの名刺─

ウラには現場の見取図。
オモテには、細長の身分が
刑事だと記されている。


……。

 



──ッ!


サイバンチョ「……さあ、どうなのかッ! 《証言》の“操作”など……立証されれば、《重罪》であるぞッ!」

アウチ「おま……お待ちください、裁判長閣下ッ! この、亜内。天地神明に誓って、知らされておりませんでしたぞッ! 天地神明に誓ってェェェェェェッ!」

サイバンチョ「では、被告人……いや、弁護人よ。貴公の考えは、どうか!」

ナルホド「は……はいィィィィィッ!」


(うううう……ダメだ! もう、考えている時間はない! とにかく。思い当たる“人物”の名を、目を閉じて叫んでみるんだ! 検事さん以外で、証人たちの《証言》を操作する“権力(ちから)”を持つ人物とは……)


──はいッ!


ナルホド「え。ええと……その名前は。『細長 悟』ではないでしょうか!」

サイバンチョ「“ホソナガ”……と、言えば。さきほどの、給仕長……」


──異議あり


アウチ「バカバカしいッ! 料理店の給仕長が、なんのために証人の“口止め”をすると言うのだッ! それに。給仕長ごときに、そのようなチカラがあるはずがない!」

アソウギ「たしかに、そのとおりだろう。もしも……あの者の正体が、本当に“給仕長”ならば……な」

アウチ「な。なんだと! あの者の……“正体”……?」

アソウギ「……さあ、成歩堂。ヤツの鼻先に、たたきつけてやれ。給仕長『細長 悟』……その“正体”を示す《証拠》をな!」


──はいッ!


サイバンチョ「これは……あの者が書いた“見取図”であるな。たしかに、よく気の回る給仕長だとは思ったが……」

ナルホド「いえッ! そっちは……“ウラ”なのです! 重要なのは、むしろ! その“ウラ”の“ウラ”なのです!」

サイバンチョ「ん?」

ナルホド「あ。いえ! だから、そのッ! “オモテ”なのかな? そう……つまるところ。“ウラ”の“オモテ”だったのですッ!」

サイバンチョ「……………この大学生は、いったいナニを言っているのか」

アソウギ「細長 悟は、その“見取図”を自らの《名刺》のウラに書いた。……名刺には、当然。その者の“身分”が書かれている」

サイバンチョ「給仕長の……“身分”ですと……? お……おおおおおおおおおおッ……!」

アソウギ「……そう。『帝都警察 第壱捜査係 刑事部長』……とな」

アウチ「な……なんだって! あの給仕長が……帝都警察の、刑事! き。聞いておらぬ……この、亜内。聞いておらぬぞッ!」

アソウギ「帝都警察といえば、市民にとって圧倒的にして、絶対的な“権力”。……証人たちよ」

ウズクマル「…………!」

ソノヒグラシ「…………!」

アソウギ「貴公たちは……あの“給仕長”から命じられたのではないだろうか? 現場で目撃した“淑女(レディ)”の存在を、黙っているように……と」

ウズクマル「そ。それは……」

ソノヒグラシ「……………」


──待った!


ナルホド「ほ。ホソナガ“刑事”……」

 



ホソナガ「……じつは。イヤな予感がしておりました。あの“見取図”の提出を求められたときに……」


……。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


サイバンチョ「それでは。そなたの書いた“見取図”……念のため、提出を命ずる」

ホソナガ「え……そ。それは……」

サイバンチョ「どうした? 早く、提出するのだ!」

ホソナガ「あ。は……はい。かしこまりましてございます」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

(……そういえば、あのとき。“名刺”の提出を求められて、ためらっているように見えたな……)


ホソナガ「『どうせやるならカンペキな捜査を』……それが、私の“信条”でして。つい、あのような不用意な“書き取り”をしてしまったのです。あれは、大失敗でございました」

アウチ「それでは、そなたは……本当に、刑事だったのですか!」

ホソナガ「………………」

ナルホド「しかし……なぜ、帝都警察の刑事が、洋食堂で給仕長をしていたのですか。あッ! も。もしかして! 刑事って。意外に、お給料が安いので」

ホソナガ「《潜入捜査》というヤツです」

ナルホド「せ。せんにゅうそうさ……?」

ホソナガ「あの洋食堂では、現在……ちょっとした“事件”が起こっているのです。それを調査するため、給仕の姿で現場に潜入していたのです」

アソウギ「洋食堂の……“事件”? それは、いったい。どのような……」

ホソナガ「……捜査上の秘密を明かすことはできません。今回の殺人事件と“無関係”であることは、断言できます」

サイバンチョ「むうううう……。それでは……細長刑事よ。ひとつ、確認する」

ホソナガ「……なんなりと。裁判長閣下」

サイバンチョ「ただ今。この証人たちは、新たな“事実”をクチにしました。事件当時……被害者の食卓には、もうヒトリの“人物”がいた……と」

ホソナガ「…………」

サイバンチョ「……もし、それが本当のコトであれば。当然……彼らの給仕をした貴公自身も、それを知っていたはず。しかし……貴公は、それを《証言》しなかったばかりか……。刑事としての《権力》を使って、証人たちの“口止め”をした。……以上、相違ないか?」

 



ホソナガ「……けふ。……けふ。……………相違ございません」

ナルホド「な。なんですって……!」

アソウギ「……やはり、か……」

ホソナガ「…………銃声を聞いて、急いで厨房から飛び出したとき。私が見たのは……。グッタリした被害者と、そのトナリに立った、拳銃を手にした大学生と……。食卓の向かい側に座っていた……英国人と思われる、ご婦人でした」

アソウギ「やはり……そうだったか」

ホソナガ「私は、すぐに店内を封鎖して、警察本部に事件の報告をしました。そのとき……私は、本部からある《特務指令》を受けたのです」

ナルホド「と。《特務指令》……それは、もしかして……!」

ホソナガ「『現場ノ 英国婦人ヲ タダチニ 現場ヨリ 退去サセヨ』……………。あの場に、英国婦人がいた“事実”を、完全に隠しとおす……。それが、警察本部からの絶対的な命令でした」

ナルホド「で、でも! もしも、その英国婦人が“犯人”だとしたら……」

ホソナガ「……それ以上。クチにしない方がいいでしょう」

ナルホド「……!」

ホソナガ「我が国にとって、英国との友好関係は、なによりも重要な、最優先事項。英国人が殺害され、その容疑者として英国人の女性の名が挙がることなど……。完全無欠なる《根拠》がないかぎり、あってはならぬコトなのです」

アソウギ「つまり……それが、《幻の女》の消えた“理由”というワケですか」

ナルホド「そんな……」

ホソナガ「…………」

アウチ「…………」

サイバンチョ「…………」

アソウギ「…………ひとつ。思い当たることがある」

ナルホド「亜双義……?」

アソウギ「我が勇盟大学は、大英帝国からの留学生をうけいれている。現在も、医学部の研究室に、英国人の留学生がいるはずだ。たしか……。若い女性だったはずだ」

ナルホド「な……なんだって!」

ホソナガ「……さすがは優秀な学生弁護士ですね。自身が《司法留学生》に選ばれるだけのことはある」

ナルホド「……! そ。それでは……」

ホソナガ「あの英国婦人を、事件の現場から退去させたとき……。念のために、その身元だけは確認しておきました」

サイバンチョ「……その者の名を申し述べるがよい!」

ホソナガ「教授の食卓にいた英国婦人の名は、ミス・ジェゼール・ブレット……。勇盟大学、医学部……被害者の研究室にいる、留学生だそうです」

アウチ「な……な、なんですってええええ……ッ!」

ホソナガ「……私は、警察本部の指令により、英国婦人の“存在”を隠し……この者たちにも、そのクチを閉ざすよう、圧力をかけたことを認めます。……あとは、裁判長閣下のご判断に任せます」

サイバンチョ「……………」

 



──ッ!!


サイバンチョ「……よろしい。それでは、本法廷の見解を述べる。本件は、ある《大前提》をもとに審理されてきたものと考える。すなわち。被害者は事件当時、“ヒトリで食事をしていた”……」

ナルホド「……!」

サイバンチョ「しかし。その大前提が崩れたということになれば……本法廷は、その“事実”を無視して《判決》を下すことはできない」


──異議あり


アウチ「さ……裁判長! しかし、それでは……。午後までに、大英帝国へご報告の打電ができませぬ! そうなれば。大日本政府も黙っていないかと……」

サイバンチョ「控えるがいい。亜内検事。我が大審院の判断は、日本政府の影響を受けることはない」

アウチ「……ッ!」

サイバンチョ「……細長刑事よ」

ホソナガ「はっ」

サイバンチョ「大至急。ジェゼール・ブレット嬢の身柄を確保のうえ、出頭させるように」

ホソナガ「……かしこまりました」

アウチ「刑事! 本部の《特務指令》にそむくことになりますぞ……!」

ホソナガ「………………先ほども、申し上げましたが。『どうせやるならカンペキな捜査を』……それが私の信条なのです」

ナルホド「それで、刑事さんの立場は……大丈夫なのですか?」

 



ホソナガ「……げほほッ!  …げほほッ! ……ドンと来い、です」



──ッ!!

サイバンチョ「……審理は、ここでいったん中断する。検察側は、英国人留学生、ジェゼール・ブレットの召喚を命じる。……よいな」

アウチ「は………はははああああああッ!」

サイバンチョ「それでは。これより本法廷は、30分間の休廷に入るものとする」

 

──ッ!!


つづく