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大逆転裁判 ─成歩堂龍ノ介の冒險─【2】

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

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同日 午前11時38分
大審院 被告人控室 伍号室

 



アソウギ「よくやったな。成歩堂! ミゴトだったぞ!」
ナルホド「……うううう……生きた心地がしないよ」
アソウギ「しかし……信じられぬ。キサマを見ていると……。ヒザはガクガク、アブラ汗はヌラヌラ、ヒトミはオドオド、歯はガチガチ。見るも無残な状態なのに、気がつけば“ムジュン”を見抜いている……。もしかしたら。キサマは弁護士に向いているのかもしれぬ」
ナルホド「やめてくれ。こんなオソロシイ思い……今回だけで、たくさんだよ」
アソウギ「あっはっはっはっ! しかし。ついに引きずり出したな。……《幻の女》を」
ナルホド「……!」
アソウギ「ジェゼール・ブレット嬢。大英帝国からの、留学生……か」
ナルホド「だから! ぼくは最初からずーっと、言ってただろ? あのとき。ワトソン教授は“ヒトリじゃなかった”……。若い女性が、一緒にいたハズだ……って!」
アソウギ「まあ。そうだな」
ナルホド「ぼくはね。“観察眼”だけは多少、自信があるんだよ!」
アソウギ「ああ。よくわかったよ。ちなみに……その“淑女(レディ)”だが。刑事さんの、イキな“はからい”で、現場から消えてしまったワケだが……。キサマは、そのときのコトは見ていなかったのか?」
ナルホド「うん。見ていない」

 



ナルホド「……あの店を出ようとしたとき。ワトソン教授が座っていた食卓の床に……拳銃が落ちているのに気づいたんだ。そして、それを拾い上げたとき……」


……バアン……!


ナルホド「あの銃声が、どこで鳴ったのか……考えるヒマもなかったよ。血相を変えた給仕(ボーイ)さんが、いきなりぼくに飛びかかってきて……。厨房(キッチン)のヨコにある食糧庫にブチこまれちまった」
アソウギ「さすがは“刑事さん”だな。手際よく《逮捕》されたワケだ」
ナルホド「……だから。そのあと、あの現場で何があったのか……。ぼくは、なんにも知らないんだ」
アソウギ「むう……」


……やあ。
ご苦労さまですね。ご両人。

 

アソウギ「あ……! これは、御琴羽教授!」
ミコトバ「どうやら……私の見こんだとおり。キミたちは、いい“組み合わせ(コンビ)”だ。思った以上に、よくやっています」
アソウギ「やはり……これは、教授の“たくらみ”だったのですね。オレを、この裁判の《弁護士》からはずすように仕組んだ」
ミコトバ「…………この国は、まだまだ幼い。その司法は、もっと幼い。だからこそ……。正しい情熱を宿した若者たちが留学することに、意義がある。キミの留学が“中止”になるような事態は、避けたかったのですよ」
アソウギ「……………もし……この、オレが。親友の危機を救うコトもできない、情けない男ならば……今回の留学。自分から辞退させていただきます」

ナルホド「え……! な。なにを言い出すんだ……!」

アソウギ「……やはり、か。キミならば。そう言うのではないかと思っていましたよ」

ナルホド「……亜双義……」

ミコトバ「それでは……すべてはキミしだい、というコトですね」

ナルホド「え! ぼ。ぼく、ですか……」

ミコトバ「キミ自信の《無実》を立証して、この事件の《真相》を、暴く。……私としても、ゼヒ、真実をアキラカにしてほしいのですよ。なにしろ。私にとっても、無関係な事件ではありませんのでね」


(そういえば……御琴羽教授。今朝も、そう言ってたな)


ナルホド「……あの。もしかして、教授は……お知り合いなのですか? ……被害者と」

ミコトバ「……ええ。まあ、そうですね。ジョン.H.ワトソン博士を教授として、勇盟大学に招いたのは……じつは。この私なのですよ」

ナルホド「え……! そうだったのですか……!」

アソウギ「それは……オレも、初耳です」

ミコトバ「……とにかく。これからが“勝負”です。殺害されたのは、大英帝国の教授。社会的に名の知れた“大人物”です。我が国の政府は、一刻も早く、犯人を“断罪”しなければならない」
アソウギ「……しかも。これから、オレたちが相手にするのは……。帝都警察が、必死に隠そうとした、大英帝国の留学生……“淑女”だ」

ナルホド「……!」

ミコトバ「検察側は、持てる“権力”をすべて使って、キミたちを追いつめるでしょう。しかし。キミたちならば。彼らと最後まで、闘える。がんばってください」

ナルホド「……はい!」

ミコトバ「ああ。それから」

 



ミコトバ「おまえは、今からすぐに大学へ行ってきなさい。もしかしたら……必要になるかもしれない」

???「……はい。それでは、一真さま。……ご武運を」


──カカリカン「……被告人ッ!そろそろ、休廷時間が終わる。ただちに法廷に向かうようにッ!」

 



アソウギ「……時間だ。次も頼むぜ、相棒。老人たちの、カチコチの脳ミソを、サッパリ“一刀両断”と行こうか!」
ナルホド「……………なあ、亜双義」
アソウギ「なんだ」
ナルホド「本当に……ありがとう」
アソウギ「……どうした。改まって」
ナルホド「もし。おまえが、ぼくを信じてくれなかったら……きっと。今ごろ。ぼくは、とっくに《有罪》になっていたよ」
アソウギ「……オレは、キサマという男を信じている。弁護士としても、友人としても……な」
ナルホド「亜双義……」


(……この裁判。もし、ぼくが《有罪》になったら……。亜双義は、本気で留学を辞退する。こいつは、そういうオトコだ。これは……もう。ぼくだけの“闘い”じゃない。相手が、誰だろうと……負けるワケには、いかない!)


ナルホド「……わかった。礼のコトバは、この裁判が終わるときまでとっておくよ」
アソウギ「そのときは。大学通りの『勇盟食堂』でいつもの牛鍋をオゴってもらうとしよう。もちろん、大盛りでな!」


……。

 



同日 午後12時9分
大審院 第弐号大法廷

 



 

──ッ!!

 



サイバンチョ「それでは。これより成歩堂龍ノ介の審理を再開する。亜内検事。新しい証人は、どうなったか?」

 



アウチ「はッ! ……なんとか《召喚》に成功いたしました。……現在。どこかの若造のせいで、政府が対応に追われておりますがな」

 



ナルホド「……す。スミマセン……」

 



アソウギ「対応に追われるのが政府のシゴトだ。……なんのモンダイもあるまい」

アウチ「今回の騒動で、大英帝国との関係が悪化するのは避けられますまい。友好条約を破棄されて、大日本帝国が沈没したら、どうするつもりですかな」

ナルホド「……す。スミマセン……」

アソウギ「そんなことでハラを立てる国との友好条約など、しょせん“紙クズ”。……なんのモンダイもあるまい」

アウチ「な。なんだと……」

アソウギ「極秘裁判、外国政府の顔色を見る審理、ずさんな捜査、重要証人の見逃し……。それが、この国の“正義”なのか。大審院は、どこの国のものなのかッ!」

アウチ「だ……黙りなさいッ! この、学生ふぜいがッ! オマエたちは、なにも理解していない! 現在、我が国が置かれている状況を! 列強と肩を並べ、国力を上げる。高度に政治的な駆け引きが必要な時期なのだ! その、地道な外交努力こそが、この国の将来を作るのですぞッ!」

ナルホド「……………たしかに、ぼくは不勉強なシロートの学生です。でも……大審院の、この席に立って……強く、感じていることがあります。法廷に“正義”がない国に将来なんて、あるハズがない……って」

アウチ「……!」

サイバンチョ「……!」

アソウギ「……泳いだ目でよく言った。成歩堂

アウチ「くそおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

──ッ!!


サイバンチョ「……よかろう。大審院は、我が国の最高司法機関であり、大日本帝国の“正義”のために存在する。……それでは。審理を再開の上、本法廷は、次の証人の入廷を命じる。大英帝国より訪れた留学生、ミス・ジェゼール・ブレットを……!」

アウチ「は……はははああああああッ!」


……。

 




アウチ「おお! これはこれは。遠いところからはるばる。ようこそニッポンへ!」

サイバンチョ「誰か、紅茶を! 英吉利(イギリス)人のアイサツは紅茶に始まり、紅茶に終わるとか!」

ナルホド「……そうなのか?」

アソウギ「……知らぬ」

アウチ「ええ・・・・・コホン。それでは、証人。おそれいりますが……。お名前と、職業をおねがいできますか?」

 



ホソナガ「……ハイ。名前は細長 悟と申します。洋食堂(レストラン)《ラ・クワントス》の給仕長は世を忍ぶ、仮の姿。その正体は……」

アウチ「……そなたはもう、どうでもよろしいッ!」

サイバンチョ「『レディ・ファースト!』英吉利は、レディに始まり、レディに終わるとか!」

ナルホド「……そうなのか?」

アソウギ「……知らぬ。そんなコトより、キサマ……つい先刻(さっき)、こう言っていたな。自分は『観察眼だけは自信がある』……とか、なんとか」

ナルホド「ああ……うん。言ったような気がする」

 



アソウギ「……“アレ”を見ておきながら、覚えていたのが“女性”だけ、とは。キサマ……ハッキリ言って“フシ穴”以下だな」

ナルホド「……メンボクない」

アウチ「それでは。あらためて……証人。お名前と、職業を」


……。

 




アウチ「……………」

サイバンチョ「……………」


……………………


アウチ「あ……あの、レデエ。タイヘン失礼ですが……なんと?」

 






ホソナガ「名前はジェゼール・ブレット。英吉利(イギリス)の帝都・倫敦(ロンドン)から来たそうです。身分は『研究留学生』……現在、勇盟大学の医学部に籍を置いています」

アウチ「お。おお……大英帝国のコトバの、なんと豊かなヒビキであることよ! この、亜内。イミはわからずとも、ウツクシサは、伝わっちょりますぞ!」

アソウギ「オレが聞くかぎり……。トナリの刑事の“通訳”は、信用してもよさそうだな」

ナルホド「ああ……たしかにな。さすが、英国に留学するだけあって、顔色ヒトツ、変えないな。亜双義」

アソウギ「キサマこそ。英語学部というのはダテではないようだ。成歩堂

 

──ッ!!


サイバンチョ「……それでは、美しく高貴なる証人よ。恐れ入りますが……いくつか、確認させていただきます」

ジェゼール「…………」

サイバンチョ「3日前。《ラ・クワントス》にて、恐るべき殺人事件が起きた、その際。そなたは……被害者・ワトソン教授とともに、食卓を囲んでいた……。……相違ございませんかな?」

 






ホソナガ「『はい』だそうです」

ナルホド「……メンドくさいな」

アソウギ「あの者……“留学生”のクセに我が国のコトバを話せぬのか」

 






ホソナガ「現場から姿を消してしまい、非常に申しわけないと思っているそうです。あの後、大学で研究発表があったので、やむを得ず、現場を去ったのだとか」

アソウギ「……自分で“見逃した”クセに、よく言いますね」

ホソナガ「……私は、警察本部の《特務指令》に従っただけです」

アウチ「ええ、失礼ながら……レデエ。この《写真(ほとがらひい)》を見ていただきましょう」

 



アウチ「この事件が起こったとき。不幸にも、現場に“いた”ということは……。憎むべき犯行を、そのウツクシイヒトミで“見た”のでしょうかな?」

 



ホソナガ「それは、タイヘン恐ろしく……そして、悲しい光景だったそうです」

サイバンチョ「そ。それでは、やはり……」

ホソナガ「ハイ。その目の前で《犯行》を見たそうです。……そこにいる“被告人”こそが! 無慈悲にも、手にした拳銃で被害者を撃った……その“瞬間”を!」

 



 

──ッ!!

──ッ!!

──ッ!!


サイバンチョ「静粛に! 静粛に! 静粛にッ!」

アウチ「お……お聞きになりましたか! 裁判長閣下ッ! ……これこそ。決定的な《証言》ですぞ!」

サイバンチョ「むううう……」

アソウギ「……どうやら。これでハッキリしたようだな。オレたちの……本当の《敵》が」

ナルホド「……!」

 

──ッ!!


サイバンチョ「恐れながら……証人よ。《証言》をいただけますかな。そなたの目に映った……恐ろしくも、悲しい光景について」

 




……。

 

 

 

 

─証言開始─

~恐ろしくも悲しい光景~

 



ホソナガ『あの日。ワトソン教授と、すこし遅いランチをいただきましたの。教授は、食事ができなかったので……ビフテキをひとつ、注文しました』

 



ホソナガ『やがて……被告人が挨拶に来て、教授と激しく言い争いをしました。その後。被告人は、教授の拳銃を手にして、目の前で発砲したのです』

 



ホソナガ『私自信は、拳銃を持っていなかったので、犯行は絶対に不可能でした』


……。


サイバンチョ「むうううう……たしかにこれは、決定的な証言」

 



──はいッ!


ナルホド「ぼ、ぼくは、断じて! 教授と“言い争い”なんて、やってない!」

 



──異議あり


アウチ「くだらぬクチを挟むなッ! ハラの底までまっ黒なキサマと、花のようにまっ白な、この貴婦人……どっちのコトバを信ずるべきか。まっ黒なキサマにも自明であろうッ!」

ナルホド「ぐ……ッ!」

アソウギ「……キサマも進歩しないな、成歩堂。イタズラに手をあげたところで、状況は変わらぬ……そろそろ、学べ」

ナルホド「うううう……だって。クヤシイから!」

ホソナガ「あのとき。このホソナガも、まさに、現場にいたワケですが。このご婦人と、先ほどの2人の証人の供述を、本部に連絡したところ……。このご婦人は、事件と“無関係”と判断され、お帰りいただいたのです」

アソウギ「先ほどの“2人の証人”の《証言》は、トンでもないシロモノだったが、な」

ホソナガ「……いずれにせよ。この淑女は、事件のあった日も同じふくそうをしておりましたが……。ごらんのように。拳銃を隠す場所など、どこにもありませんでした」


(拳銃のヒトツぐらい、どこにでも隠せそうな気もするけど……)


アウチ「実際に隠した“場所”が立証できないかぎり、ただの《言いがかり》だがねぇ」

ホソナガ『この服は、ポケットもないし、拳銃など、隠せない』……そう、おっしゃっております」


(くそ……あのレディを逆さに振ってたしかめてみたいな)


アソウギ「ブッソウなことを考えるな。成歩堂

ナルホド「……でも! ぼくが撃ってない以上。現場には、他に拳銃があったハズだ」

アソウギ「それは、そのとおりだ。あのレディが、隠し持っていた……か。たしかに、オレたちはそれを“立証”する必要があるな。そのために……この《証言》、なんとしても崩すしかない」

 



 

──ッ!!


サイバンチョ「それでは、弁護人。……《尋問》を命ずる!」

ナルホド「は……はいッ!」


……。


─尋問開始─

~恐ろしくも悲しい光景~


ホソナガ『あの日。ワトソン教授と、すこし遅いランチをいただきましたの』


──はいッ!


ナルホド「午後2時……たしかに、ずいぶん遅い“昼食(ランチ)”ですね」


──異議あり


アウチ「遅めの"ランチ"……それこそが現在、大英帝国の最新流行。……そうですな?」

ジェゼール「No.」

アウチ「……むぐ」

アソウギ「あれが、本場の“のー”か。……なかなかの切れ味だな」

ホソナガ「この淑女は現在、被害者の研究室でお世話になっているそうです。だから。昼食はいつも、ワトソン教授と一緒に、お出かけになっていたとか」

アソウギ「しかし……あの日。被害者は、医者へ行く用事があった……」



(たしか、この《診察票》に記録があったっけな……)


ホソナガ「……そのとおり。“治療”が終わってから出かけたため、あの時間になったそうです」

サイバンチョ「なるほど……スジはとおっている」

アウチ「さすがは、大英帝国。さすがは、レデエ……ですな」

アソウギ「証人たちは、洋食堂を訪れた。そして……どうなったのか」



……。


ホソナガ『教授は、食事ができなかったので……ビフテキをひとつ、注文しました』


──はいッ!


ナルホド「“食事ができなかった”……。それは。教授が《堀田診療所》で、ムシ歯を抜いたから、ですね」

ホソナガ「そのとおりです」


(……今。トナリの淑女に尋ねなかっただろう……)


アソウギ「ところで。レディは、そのことは、ご存じだったのか?」

ホソナガ「……。はい。あの日、ムシ歯を抜くことは、聞いていたそうです」

ナルホド「それでは……」

 



ナルホド「やはり。このビフテキは、あなたが召しあがった……ということですか」

ホソナガ「そのとおりです。この《写真》の光景は、あのときのまま。悲しくて、そして恐ろしい……」


(“あのときのまま”……か)


アウチ「まさに! いたましいコトです。極東の島国に来ていただいて……このような事件に巻きこまれるとは! この亜内。鬼神となりて“真犯人”の顔面に鉄拳をメリこませると誓うッ!」

アソウギ「それでは……被害者のワトソン教授はなにも、クチにしなかったのですか?」

ホソナガ「……はい。ただひとつ……“炭酸水”以外は」

ナルホド「たんさんすい……」

ホソナガ「食事こそ、できませんでしたが。水を飲むことはできたので……。お2人で、グラスでカンパイなさったそうです」


(炭酸水でカンパイ……か)


アソウギ「どうだ? 成歩堂? 今の《証言》は……」

ナルホド「ただ今の、淑女の“おコトバ”……それは重要な意味があると思われます!」

アウチ「ほほお……それは、興味深い。どんな“意味”があるというのかな?」

ナルホド「……………………」

アソウギ「……その“意味”はしかるべき時が来たら、アキラカになるであろう。弁護側は、ただ今の“発言”を《証言》に加えるよう、要請する」

アウチ「……はっ! うまく逃げましたな」

 

──ッ!!


サイバンチョ「……それでは、美しきレディよ。ただ今の“発言”を……《証言》に加えていただけますかな」

 



ホソナガ「……“よろこんで”とおっしゃっております」

ジェゼール「…………」

ナルホド「あ、亜双義! 今の、そのコトバ。よく覚えておくよ」

アソウギ「なんのことだ」

ナルホド「『しかるべき時が来たら』……ね。……なんだか、いろいろベンリそうだ!」

アソウギ「……もう少し、マシな部分を学んでもらえないか、成歩堂……」


……。


ホソナガ「『ビフテキは自分がいただき、教授とは炭酸水のグラスで乾杯いたしました』」


──ッ!


ナルホド「それでは……その“炭酸水”は、おふたりで飲んだのですね!」

ホソナガ「……はい。給仕として、私自身が2つのグラスにそそいだのを覚えております」


(ホントは“刑事”のクセに……)


アソウギ「そして……ビフテキは、ミス・ジェゼールが食した……」

ホソナガ「『この国では、開国まで、ウシを食べる習慣がなかった……』と聞いたそうです」

ナルホド「たしかに、そのとおりです」

ホソナガ「『それはサミシイ国ですね』……だ、そうです」


(サシミのない国から来た淑女が、なんか言ってるぞ……)


アソウギ「どの国にも、ウマいものがある。これから食っていけばいいだけのコトだ」

ナルホド「そうだな。考えてみれば……。はじめて炭酸水をクチに入れたときの衝撃は、ウシ以上だったよ」


(……と、それより。この、ミス・留学生の《証言》……。なんとなく“違和感”があるような気がしたけど……)


アソウギ「……成歩堂。今は、どんな小さなコトも見逃すな。それが、いずれ結びつくかもしれない。オレたちの《大逆転》に……な」

ナルホド「ああ。わかったよ、亜双義」


……。


ホソナガ『やがて……被告人が挨拶に来て、教授と激しく言い争いをしました』


──はいッ!


ナルホド「ぼくは“言い争い”なんてしていない! ただ……教授を見かけたから、ごアイサツに行っただけです!」

ホソナガ「……そのようなコト。この私に言われても困ります」

ナルホド「いやいや。刑事さんじゃなくて、ヨコの淑女に言ったんですよ! そもそも! ぼくと教授は、なにを言い争っていたのですか!」

ホソナガ「…………それは、わかりかねます」

ナルホド「……え」

ホソナガ「ミス・ジェゼールは、日本語がわからないそうですから」

アウチ「おお。おお。そうでしょうそうでしょう。ニホンゴなんてね。ロクでもございませんわ! これからは、エーゴ! エーゴの時代なのですからねえ」

アソウギ「……あの、検事。末代まで、あんな感じなのだろうな」


(……あの“淑女”は、スズシイ顔で大ウソをつく。どんな小さなコトでもいい。まず、スキを見つけないと……)


ホソナガ「とにかく。言い争いのあと、被告人は一度、自分の席へ戻ったそうです」

アソウギ「それについては……たしか、キサマもそう言っていたな」

ナルホド「あ……ああ。珈琲がまだ残っていたからな」

アソウギ「そして。次に、“動き”があったのは……」

ナルホド「ぼくが珈琲を飲み終わって、店を出ようとしたときだったよ」

 



ジェゼール「……………」


……。


ホソナガ『その後。被告人は、教授の拳銃を手にして、目の前で発砲したのです』


──はいッ!


ナルホド「……だから。ぼくは撃っていないッ!」

アソウギ「……だから。そんな“主張”は意味がないのだ成歩堂ッ!」

ナルホド「……まさか、ミカタに怒られるとは思わなかったよ」

アウチ「……しかし。そなたは、認めているハズですな。店内に銃声が響いた、そのとき。《拳銃》を手にしていた、と……!」

ナルホド「は。はい……そうですケド。でも、それはッ! 店を出るとき。教授の足元に《拳銃》が落ちていたから、拾っただけです! むしろ……そうだ! あのとき。ぼくより近くにいた、そこの“淑女”のほうが、よほどアヤシイ……」


──異議あり


アウチ「……そこまでだ。この、汚い学生がッ!」

ナルホド「き。キタナイ……」

アウチ「《証拠》のない“言いがかり”……国際問題になりますぞッ!」

アソウギ「……《証拠》がないと言えば、そちらの《証言》も同じコト、だが……」

アウチ「……くっくっくっ……なんのことやら」

ホソナガ「とにかく。レディは、ご自分が“見た”ことを話しているだけです」


(ぼくにとっては、もうとっくに“国際問題”になってるけどな……)


……。


ホソナガ『私自身は、拳銃を持っていなかったので、犯行は絶対に不可能でした』


──はいッ!


ナルホド「で。でも……! それを“証明”できるのですかっ!」

ホソナガ「……当然。この私が、確認しました」

ナルホド「“確認”……ですか?」

ホソナガ「事件の直後……拳銃を持っていないか、キチンとたしかめたのです。この方は、ハッキリ『持っていない』とおっしゃいました」

ナルホド「……あの。それのどこが“確認”なのですか……?」

アソウギ「警察は、当然。そのレディの“身体検査”を行ったのでしょうね」

ホソナガ「……いいえ」

ナルホド「な。なんですって……!」

アウチ「大英帝国の淑女が、誇りをもって『持っていない』と言ったのですぞ。我が国としては。それ以上、調べる必要など、あるはずがない!」

アソウギ「それとも……調べることは“できなかった”ということか……」

アウチ「……とにかく! このレデエが、拳銃を隠していた……そんなフラチな想像をしているのならば。それをハッキリ、立証してもらおうじゃありませんか」

アソウギ「……つまり。“証拠”を出せ、ということだろうな」

ナルホド「ぐ……」

 



ホソナガ「本来ならば、事件の後も現場に残り、捜査に協力したかったのですが……。大学の研究発表の時間が迫っていたので、戻らざるを得なかった……とのことです」

アソウギ「そして……警察本部へ報告のうえ、その“淑女”を、現場から隠したワケだ」

ホソナガ「……“隠した”のではない。“お帰りいただいた”のですよ。レディも、決して“逃げる”つもりはなかったそうです。だから、こうして正々堂々、証言台に立っているのです」

アウチ「往生際の悪い、どこかの大学生とは大違いですなあ」

ナルホド「………………」

アウチ「コラ! ヒトのヒニクぐらい、ちゃんと聞いてなさいッ!」


……。


アソウギ「……被害者とヒドい口論をして、挙げ句、撃っちまうとは……」

ナルホド「根も葉もミもフタも夢も希望もない大ウソだと断言できるよ」

アソウギ「しかし。その《証言》は、絶対的な“威力”を持っている。なにしろ……。かの大英帝国からやってきた、若く美しく気品に満ちた淑女だからな。ただまっ黒いだけのキサマとは恐れ多くて比べるコトすらできぬ」

ナルホド「……おまえだって、“まっ黒”に赤いヒラヒラがそよいでるだけじゃないか」

アソウギ「とにかく。あの淑女の《大ウソ》を暴く“機会(チャンス)”は、今しかない」

ナルホド「……!」

アソウギ「この《証言》を崩せなければ……その瞬間。審理は終了する。法廷中に満ちた、キョーレツな“殺気”……。ニブいキサマも感じているだろう」

ナルホド「……ああ。正直なトコロ……もう、半分以上“死んでる”気分だよ」


(なにしろ……ハッキリした“ムジュン”が、見当たらない!)


アソウギ「それならば……気になる《証言》をまず、ゆさぶってみるがいい。そこから《突破口》が開く。……かならず、な」


(……舶来美人が、あの“仮面”の下に隠している《正体》……。そいつを、引きずり出すしかない。……この《尋問》で……!)


……。


ホソナガ『ビフテキは自分がいただき、教授とは炭酸水のグラスで乾杯いたしました』


──はいッ!

 



ナルホド「……………そうだッ! ヒトツ、確認させてください。……この、《写真》なんですけどッ!」

 


ナルホド「……今。おっしゃいましたよね。ここに写っている、“光景”……『あのときのまま』だ……って」

ホソナガ「……『そのとおりです』とおっしゃっております」

ナルホド「でもっ! それは……その。ヘンなんです! とっても!」

アウチ「……ヘンなのは、弁護台ヒトツまともに叩けない、そなたのほうだ」

ナルホド「ぐ」

アソウギ「その《写真》……いったい、なにが“ヘン”だというのだ?」

ナルホド「……それは、モチロン。『カンパイ』ですッ!」

アウチ「か。『かんぱい』……?」

ナルホド「今。そのレディは言いましたよね? 『教授とグラスで乾杯をした』……と。……それならば! この食卓には、グラスが……2コ。あるはずだと、そう思うワケです!」

サイバンチョ「あ……」

ホソナガ「……!」

サイバンチョ「たしかに……ここにはグラスがヒトツしか、ない……!」


──異議あり


アウチ「なにかと思えば……そんな、ササイなコトですか。グラスの1つぐらい、事件にたいした影響など、考えられぬ!」


──異議あり


アソウギ「ササイなこと……だと? まさか。そこの淑女を“隠す”ために、警察がグラスを片づけたのか……?」

ホソナガ「……馬鹿なことを! 私は、そのような愚かなコトはしておりません」

ナルホド「でも! グラスは……2コ、あったハズですよね! なにしろ……だって、ホラ! 『カンパイ』したワケですから!」

ホソナガ「……………たしかに、それはそうです。給仕長として、私はあの食卓にグラスを2つ、運んだのですが……」

 

サイバンチョ「……刑事! レディは、なんと……?」

 

 

ホソナガ「グラスを現場から持ち去ったのは、ミス・ジェゼールだそうです」

ナルホド「なんですって……!」

ホソナガ『目の前で起こった事件があまりに恐ろしかったので……。あの場にいたことを、つい隠そうとしてしまった』……とのことです」

サイバンチョ「な。なんという……」

 



ジェゼール「……Sorry.」

 



アウチ「ほ……ホラ、ごらんなさい。やはり、たいしたコトではなかった!」

ナルホド「え……」

アウチ「このレデエの目の前で、この大学生によって、英国人が殺害されたのですぞ? グラスの1つや2つ、隠したくなるのもムリはない!」

ナルホド「そ。そんな、馬鹿な!」

アウチ「それとも、キサマは。か弱い、若く美しい異国の女性の“ちゃめっ気”を責めると言うかッ!」

ナルホド「ええええ! いやいや! “ちゃめっ気”ですまさないでくださいッ!」

アソウギ「……ちなみに。その淑女は、どのようにグラスを“持ち去った”のだろうか」

 



ホソナガ「手にしていた小型の“手鞄(ハンドバッグ)”に入れて持ち帰ったそうです」

サイバンチョ「……“手鞄(ハンドバッグ)”……」

ホソナガ「大英帝国の淑女が持っている、ハイカラな“小物入れ”です」

アウチ「事件の現場から、レデエがグラスを持ち去ったことが判明しました。しかし! そのグラス自体は、事件にはマッタク関係ありません!」

サイバンチョ「むううう……」

アウチ「リクツっぽい大学生の、最後の“悪あがき”にすぎぬ。これ以上。事件に無関係の“言いがかり”を聞く必要はないッ!」

 

──ッ!!


サイバンチョ「たしかに。レディがグラスを持ち去った“理由”もわかった以上……この件は、事件とは無関係である。……そう考えるべきであろう。それで、よいな? 弁護人よ」

ナルホド「え! そ。それは……(ど。どうなんだろう……)」

アソウギ「……これ以上。この問題の“深追い”をするのならば。そこに、なにか《重要な問題》がある……それを示す必要がある」

ナルホド「そ。そうだよな……」


(グラスを“手鞄”で持ち去った。そこに、《重要な問題》は……)


ナルホド「ちょっと待ってください! ……“手鞄”に、グラスを入れた……?」

アウチ「さよう。……ごく自然なコトですな。大英帝国の淑女ならば、みなさん手にしているものなのですから」



ナルホド「たしか……さっき。ミス・ジェゼールはこう言っていましたよね。『この服装では、拳銃を“隠す”場所など、どこにもなかった』……しかし! “手鞄”があったのならば。その中に、拳銃を“隠し持つ”コトができたじゃないですか!」

サイバンチョ「な……なんと……!」

アソウギ「……さすが、我が“相棒”だ。キサマも、そこに気がついたか」

アウチ「どういうことだ! この、ウス汚い学生め……」

アソウギ「……カンタンなコトだ」

 



アソウギ「被告人……成歩堂龍ノ介が、床に落ちた拳銃を拾ったとき、銃声が響いた。つまり。現場には……もう1挺。別の《拳銃》があったと考えられる。……本物の《凶器》がな」

アウチ「ま……まさか。キサマは……」

ナルホド「……け。刑事さん!」

ホソナガ「なんでしょうか」

ナルホド「ミス・ジェゼールの“手鞄”……その中身を、調べましたか?」

ホソナガ「……いいえ。調べておりません」


(やっぱり……そうだ!)


ナルホド「つまり。もう1挺の拳銃は……ホンモノの《凶器》は……ミス・ジェゼールの“手鞄”の中に入っていた可能性があります!」

 



アウチ「な……なんだってえええええええええッ!」

 

 

──ッ!!

──ッ!!

──ッ!!

サイバンチョ「静粛に! 静粛に! 静粛にッ!」

アウチ「け……刑事ッ! これは……どういうことですかッ!」

ホソナガ「なんのことですか? ……亜内検事殿」

アウチ「なぜ、その“手鞄”の中を見せていただかなかったのだッ! キサマの不注意のせいで! レデエにくだらぬ“言いがかり”が……!」

アソウギ「やったな……相棒! これで、あのレディの仮面をひきはがす《機会》をつかんだ!」

ナルホド「ほ。ホントか、亜双義……!」

 



「……けほ。……けほ。……げほほ! げほ! げほほほッ! ……ふう……やれやれ。警察も、信用がないのですね」

ナルホド「……!」

ホソナガ「たしかに。私は、淑女の“手鞄”の中を見せていただきませんでした。なにしろ……その“必要”がなかったものですからね」

ナルホド「ど。どういうことですか……?」

ホソナガ「そこの、学生弁護人さんには礼を言わねばなりませんね。提出しようと思って、忘れていた《証拠》があったのですよ」

 



ホソナガ「……コチラの《写真》です」

 



「……これは、事件が起こった直後、私が念のため、撮影したものですが……。ハッキリと、ミス・ジェゼールの“手鞄”が写っております」


サイバンチョ「こ。これは……。“手鞄”の《中》がハッキリ、見えるではないかッ!」

ホソナガ「……そのとおりでございます。これは、革紐を編み上げた“手鞄”で、倫敦(ロンドン)の社交界の“流行”なのだそうです」

サイバンチョ「……“手鞄”の中が、見える……」

ホソナガ「だから、調べるまでもないのです。なにしろ……もしも、拳銃が入っていたら……目立ってしかたがありませんからね」

ナルホド「あ……」

ホソナガ「つまり。ミス・ジェゼールはやはり、《無実》ということになります。《立証》してくれて、礼を言います。……学生諸君」

 



ナルホド「う………うおおおおおおおおおおおおおおおッ!」

 

 

 

 

──ッ!!

──ッ!!

──ッ!!


サイバンチョ「静粛に! 静粛にッ! ……刑事よ。その《写真》の提出を命ずる!」

ホソナガ「……かしこまりました」

 



─ハンドバッグの写真─

事件発生後、細長が撮影。
被害者の食卓付近のイスに
ジェゼールの手鞄がある。

証拠品《ハンドバッグの写真》の
データを法廷記録にファイルした。

 

 

──ッ!!


サイバンチョ「……以上で、この証人に対する《尋問》を終了する」

 



ナルホド「…………」

 

サイバンチョ「ただ今、すべての証拠がそろった……本法廷は、そう考える。新たな証拠である、この《写真》に問題がない以上……これにて、すべての《ギモン》は消えた……そう判断せざるを得ない」

アウチ「……つまり。《結論》は……ただ、ひとつ。そこに突っ伏している大学生の他に、犯人は“あり得ない”というコトですな」


(……こ。こんな……いよいよ《大逆転》が始まるかと思ったら……始まる前に、前よりヒドくフッ飛ばされていた……!)

 



アソウギ「………………」

ナルホド「……あ。亜双義……?」

アソウギ「………………すまない、成歩堂……」

ナルホド「……!」

アソウギ「あの証人の《尋問》が終了した、今。……審理を続けることは、不可能だ」

ナルホド「な。なんだって……! じゃあ……《判決》は……」

アソウギ「……………」

アウチ「くっくっくっ……まあ、世間知らずの学生にしては、よくやったのではないでしょうか。……しかし。公正(フェア)な裁きの前に、あらゆる抵抗は、ムダなのですよ。牢獄の中で、その事実を心ゆくまで、噛みしめるがいいッ!」


(これで……ぼくは、犯してもいない罪で《有罪》になるのか……? そして……コイツにも。大英帝国への留学の“夢”をあきらめさせるコトになるのか……)


ナルホド「…………なあ、亜双義」

アソウギ「……なんだ。成歩堂

ナルホド「本当に……残っていないのか? 《大逆転》の“可能性”は……」

アソウギ「……たった今、裁判長が言ったとおりだ。あの刑事が提出した《写真》に問題がない以上……。オレたちが、審理を続けさせるコトは……不可能、なのだ」

ナルホド「………………」


サイバンチョ「……それでは。これよりただちに、《判決》の申し渡しに移るものとする」

アウチ「……どうやら。大英帝国政府へは無事、報告ができそうですな」

アソウギ「く……くそ……ッ!」

サイバンチョ「ここに。被告人、成歩堂龍ノ介に、《判決》を言い渡すものと」

 

──はいッ!


ナルホド「待ってください。裁判長閣下……!」

アソウギ「な……成歩堂……?」

ナルホド「……今。《判決》を下すことは……できないと思います!」


──異議あり


アウチ「な……何を言い出すのだ、このシロートめ! 裁判長が、すべての審理が終了したと判断した時点で、《判決》が下される。それが、この大審院における最も基本的な“規則”なのだッ!」


──はいッ!

 



ナルホド「……裁判長閣下は、さっき。こう言いました。『新たな証拠である、この《写真》に問題がない以上……すべての《ギモン》は消えた……そう判断せざるを得ない』……つまり。その証拠に、なにか大きな“問題”がある場合は……。この審理を終了しては……ダメだ、ということです!」


──異議あり


アウチ「なにを“世迷い事”を! この《写真》は……あの日、レデエが手にしていた“手鞄”を撮影しただけのもの。……問題など、あるハズがないッ!」

ナルホド「…………」

アソウギ「き。キサマは……」

サイバンチョ「むううう……弁護側の主張は、理解できる。たしかに。刑事の提出した《写真》について、詳しい検討はしていないが……この“手鞄”に、新しい手がかりがあるとは、思えぬ」

アウチ「……はっ! そんなもの、あるはずがないッ! 学生の、苦しまぎれの言いがかりは、聞き飽きましたぞッ!」


(……きっと、これは……“苦しまぎれ”なんかじゃない。この《写真》には……たしかに。気になる部分がある……!)

 



──ッ!!


サイバンチョ「それでは……弁護側に、最後の《機会》を与えるものとする」

ナルホド「……!」

アウチ「な。なんですと……!」



サイバンチョ「そなたの“回答”しだいで、この審理は、即刻……終了する。……よいな?」

ナルホド「……わかりました」

サイバンチョ「先ほど、細長刑事によって提出された、この《写真》……」

 



サイバンチョ「ここに写っている、大きな“問題”とはなにか……《指摘》するようにッ!」


──はいッ!

 



ナルホド「……ここを見てください。被害者の《手首》に……奇妙な“跡”があります」

サイバンチョ「……たしかに……これは、まるで。“ヤケド”のような……」

 



ジェゼール「……!」


──異議あり


アウチ「……なにを言い出すかと思えば。被害者の手首のヤケド、ですと……? レデエの“手鞄”と、なんの関係もないではないかッ!」

ホソナガ「たしかに……これは、ヤケドの“跡”です」

ナルホド「……!」

サイバンチョ「どういうことか? 刑事よ」

ホソナガ「じつは。遺体を検分する際、警察でも気づいてはいたのですが……。死因とは無関係ということで、《記録》には残さなかったのです」

アウチ「……それは、そうでしょうな。そもそも。被害者が、いつ。このヤケドを負ったのか……。それすら、ハッキリさせるのは不可能でしょうからねえ」

 



サイバンチョ「……見れば見るほど、なんとも、フシギな“跡”であるが……。しかし。亜内検事の言うとおり。本件との“関連”が示されないかぎり。この“ヤケド”について、検討をする必要は認められない」

ナルホド「……!」

 



ホソナガ「……恐れながら、裁判長閣下。そろそろ、大学長たちとの会食の時間が迫っているそうです。よろしければ。証人の《退廷》をお許し願いたいのですが」

アウチ「おおモチロン! なーんの問題もございませんぞ! 裁判長閣下が、今すぐ。《決着》をつけてくださるでしょうッ!」

サイバンチョ「……………」

アソウギ「……成歩堂。どういうことだ? その“ヤケド”が……事件と関係があるというのか?」

ナルホド「……じつは、ぼくも、よくわからないんだ。でも……。立ち止まってしまったら、すべてが終わってしまう。だから……とにかく。前へ進まないと……そう思って」

アソウギ「……………たしかに……そのとおりだな」

ナルホド「亜双義……!」

アソウギ「この“ヤケド”と、今回の事件。結びつけることができれば……。閉じた《トビラ》をコジ開けることができるかもしれぬ!」

ナルホド「……!」

アウチ「なにを、今さら! そんなコト、できるワケがないッ!」

サイバンチョ「……この期におよんで、根拠のない“推測”を聞き入れることは、できぬ」

アソウギ「……つまり。《証拠》があれば、よいのですね? 裁判長。被害者の“ヤケド”と、事件を結びつける《証拠》が……!」

サイバンチョ「……そういうことです」

アソウギ「正直なトコロ。オレは、この奇妙な“ヤケド”を見落としていた。しかし。さっき、キサマがそれを“指摘したとき……。あのレディの顔色が変わるのは、見落とさなかった」

ナルホド「……なんだって……!」

 



(“ヤケド”と事件の《関係》……そいつを、立証するしかない。……ここが《正念場》だ……。あの、“ヤケド”の正体を示す《証拠》を探すんだ……!)

 



──ッ!!


サイバンチョ「……それでは。弁護側に、《証拠》の提示を命じる。被害者の“ヤケド”と、今回の事件を結びつける《証拠》とは……!」


──はいッ!

 



サイバンチョ「こ、これは。またしても、《写真》……!」

ナルホド「《写真》……なんというか、タイヘンな『発明』だと思います。人間の目では、見落としてしまうようなことを……。こうして、永遠に“記録”して、とどめておけるのですから」

アウチ「……それで? いったい。この《写真》が、なんなのですかな? これ以上。意味もなく、レデエの足止めをするワケには、いきません」

ナルホド「もう少しだけ、おつきあいください。……ミス・ジェゼール」

ジェゼール「…………」

ナルホド「……この《写真》には、ハッキリ、写っているのです。被害者が、なぜ、このような奇妙な“ヤケド”をしたのか……? ……その《原因》が」

ホソナガ「……なんですって……」


──異議あり


アウチ「この亜内に、妙な“ハッタリ”など。……通用しませんぞ! それならば……ふたたび。《指摘》してみるがいい! 被害者のヤケドの《原因》とは……いったい、なんなのかッ!」


──はいッ!


アウチ「び。ビフテキ……ですと?」

ナルホド「重要なのは。ニクがのっている“鉄板”です」

サイバンチョ「“てっぱん”………あ。ああああああああああ……」

アウチ「い。いかがなされましたか! 裁判長閣下……」

 



ナルホド「……この“鉄板”には、《刻印》があります。おそらく。《ラ・クワントス》の“商標(マーク)”なのでしょう」

 



ホソナガ「あ……!」

 



ナルホド「この、“鉄板”の《刻印》と……」

 



ナルホド「そして、被害者の“ヤケド”は……。完全に“一致”しているのです!」

アウチ「ああああああああ……ッ!」

アソウギ「な。成歩堂……! キサマというヤツは……」

ホソナガ「……た。たしかに……」

ナルホド「……つまり! 被害者の、この“ヤケド”は《ラ・クワントス》で負ったのです!」

 

 

──異議あり


アウチ「……し。しかしッ! だからと言って……。それが、事件当日のコトとはかぎらないではないかッ! 事件の前日か、その前の日か……無関係の日に決まっている!」

ナルホド「……そ。それは……その」


──異議あり


アソウギ「ザンネンだが、亜内検事。その可能性は、かなり低いだろう」

ナルホド「亜双義……」

アウチ「な……なぜだッ!」

アソウギ「これだけハッキリとした“ヤケド”となれば……。それはある種“大事件”。店内は、大騒ぎになったハズ。細長刑事! ……いかが、お考えだろうか」

ホソナガ「……そのような“大惨事”。たしかに、見逃すハズがございません」

アウチ「な。なんだと……」

 



ホソナガ「このキズを見たところ……まだ、新しいものだと思われます。そして。キズは小さいですが、ここまでハッキリ跡が残るとなると……。ヤケドとしては、決して軽いものではないようです」

ナルホド「……それって、どういうコトですか……?」

ホソナガ「たとえば……そうですね。摂氏90度に熱した“鉄板”であれば。3秒ほど押しつけられるぐらいです」

サイバンチョ「文字どおり“絶叫”はまぬがれないであろう」

ホソナガ「私が潜入捜査を始めて、数週間。そのような“絶叫”は、聞かなかった。《ラ・クワントス》の給仕長として。ハッキリ、断言できます!」

アウチ「き。キサマ……給仕長である以前に、刑事ではないのかァァァッ!」


──はいッ!


ナルホド「……そうともッ! コイツは絶対、オカシイッ! ……刑事さんが、言ったとおり。アツアツのビフテキの“鉄板”に3秒間、手首を押しつけられたら……誰だって“絶叫”する。……それは、間違いないと思います」

アソウギ「しかし。細長刑事は、事件の日まで教授の“絶叫”を聞いていないのだぞ」

ナルホド「……奇妙なのは……事件の当日。ぼく自身、それを“聞いていない”ことなんだよ」

アソウギ「な……なんだと……」

ナルホド「あの日、教授がウッカリ、ビフテキの鉄板に3秒、手が触れたのならば……」

サイバンチョ「……それは、“ウッカリ”の領域から大きくハミ出していると思われる」

ナルホド「そのとき店内にいた、ぼくや……軍人さんや、骨董品屋のご主人も。当然。その“絶叫”を聞いていなければならない……。そうですよね? 検事さん」

アウチ「え! そ……それは、その。たしかに……」

ナルホド「……それでは、なぜ。ワトソン教授の“絶叫”を、誰も聞いていないのでしょうか……?」

アウチ「…………!」

ホソナガ「…………!」

サイバンチョ「…………!」

アソウギ「ま。まさか……成歩堂! キサマ……」


(……まさか……こんな《結論》になるなんて、自分でも、思ってもみなかった。……でも。もしかしたら、ぼくたちは……トンでもない《ワナ》にはまっていたのかもしれない!)


ナルホド「……この《ムジュン》を解決する“可能性”が、ヒトツ。考えられます。事件当日。手首に“ヤケド”をしたとき。ワトソン教授は……。焼けたビフテキの鉄板が、3秒間も押しつけられたのに、沈黙を守るなんて。そんなことは、不可能です。……ただヒトツの場合をのぞいて」

サイバンチョ「“ただひとつの場合”……そ。それは、もしかして……!」

ナルホド「当然。その人物が……すでに“死んでいる”場合です」

アウチ「す。すでに……」

サイバンチョ「し。死んでいる……」

ジェゼール「………………」

ナルホド「……かくなる上は。こう考えるしかないと思います。あの日。ワトソン教授の食卓に、ビフテキが運ばれたとき。ワトソン教授は……もう、“亡くなっていた”のです!」

アウチ「な、そ。そんな……馬鹿なあああああァァァァァッ!」

 



──ッ!!

──ッ!!

──ッ!!

サイバンチョ「静粛に! 静粛に! 静粛に! これは、いったい。どういうことか……。被害者は……《銃弾》によってイノチを奪われたのではないのですかッ!」

アウチ「そ。そのとおりです! 相違ございませんぞ、裁判長閣下! モノの道理をわきまえぬ大学生の“世迷い事”にすぎぬッ!」


──異議あり


アソウギ「……モノの道理をわきまえぬは、貴公のほうだ……亜内検事!」

アウチ「な。なにを……!」

アソウギ「被害者が、《ラ・クワントス》においてヤケドを負ったと判明した時点で……。事件の状況は、大きく“一変”した。それが、わからぬかッ!」

アウチ「ぐ……ぬぬぬ……ッ!」

アソウギ「裁判長! もう一度……この証人に《証言》を求めるべきです。……あの“銃声”よりも以前に、被害者が死んでいたのであれば……この《証人》は、そのことを知っていた“可能性”がある!」

 



ジェゼール「…………」

サイバンチョ「……まさか……審理が、このような事態になろうとは、想像もしなかった」

 



──ッ!!


サイバンチョ「申しわけありませんが……ミス・ジェゼール。大学長たちとの会食は、あきらめていただきましょう」

アウチ「な。なんですと……!」

ジェゼール「…………」

サイバンチョ「我が国の裁判は、まだまだ未熟ではありますが……あからさまな疑問を残したまま《判決》を下すワケにはいかない」

ナルホド「さ。裁判長……!」

 



ジェゼール「…………」


(“レディ”が……笑った!)

 



ジェゼール「……Yes, of course……Ah……よろこんで、ご協力、いたしますわ。我が国と、貴国……大日本帝国との《友好》のために」


ナルホド「………!」

アウチ「………!」

サイバンチョ「………!」

アウチ「あ……あの。ミス・ブレット。話せたのですか? 日本語を……」

ジェゼール「Oh, アタリマエでしょう? ワタクシ……留学生なのですから」

サイバンチョ「で。では! いったい、なぜ。“通訳”などと……!」

ジェゼール「“Queen's English”……英国語こそは、最も美しい言語です。美しくない言語で、この口を汚すなど、淑女として忍びがたいこと」

ナルホド「……………」

アウチ「……………」

ジェゼール「……どうやら。この国の紳士は、《騎士道精神》を持たぬようです。ですから。ワタクシ自身のコトバでお話しするしかございませんわ」

アウチ「お。おおお……さ、さすがは大英帝国の淑女でございます! そのココロの広さ。まさに、大海原のごとしッ!」

サイバンチョ「……………よろしい。それでは、ミス・ジェゼール。《証言》をお願いいたします。被害者の“死”について……貴女がご存じのことを!」

ジェゼール「……………」

アソウギ「淑女が、いよいよ自分のコトバで語る……か。面白くなってきたな。……成歩堂!」


……。


─証言開始─

~被害者の“死”~


ジェゼール「あの方が、いつヤケドを負ったのか……ザンネンですが、ワタクシは存じません。ビフテキをいただいたとき。ワタクシ、教授とカンパイをいたしましたのよ?遺体検分の結果もい、銃弾で撃たれた以外、死因は考えられないと聞いておりますわ。なんの《痕跡》も残さずに、命を奪う“手段”があれば……見せてくださいな。まあ……貴国の未熟な捜査では、新しい《証拠》の提示など、ムリでしょうけど」


……。


サイバンチョ「……思わず聞きほれる、大審院史上に残る、ウツクシイ《証言》であった」


(……ホメすぎだろう……)


ジェゼール「美しくない言語をクチにするのは、これが最後にしたいものですわね。 Ah……気を悪くされたらごめんあそばせ」

アウチ「いやいや! おコトバをいただけただけで、ありがたきシアワセッ! やはり。ヤボな“ヤケド”など、事件とは無関係なのでしょうぞッ!」

ジェゼール「本日のことは、貴国の司法大臣にご報告させていただきますわね」

アウチ「し。司法大臣……ッ!」

ジェゼール「そこの、迷惑なゴロツキ学生の刑が、すこしでも重くなりますように。 ……Amen.」

ナルホド「え……あ。どうも。(“アーメン”と来たか……)」

アソウギ「“迷惑”ついでに、もう一度。《尋問》に、つきあっていただく」

ジェゼール「……!」

アソウギ「おそらく、貴女もお気づきでしょう。この、“ゴロツキ学生”は……なかなか“優秀”である……と」

ジェゼール「……………」

 

──ッ!!


サイバンチョ「言うまでもないコトであるが。これが、最後の《尋問》である。この証人の《証言》に問題がなかったときは……。今度こそ、審理は終了する。……よいな? 弁護人よ」

ナルホド「……………わかりました」

サイバンチョ「それでは。……《尋問》を命じる!」


……。

 

 

 

 

 


─尋問開始─

~被害者の“死”~


ジェゼール「あの方が、いつヤケドを負ったのか……ザンネンですが、ワタクシは存じません」


──はいッ!


ナルホド「で、でも。鉄板に3秒間ですよ! “気づかない”なんて、あり得ない!」

ジェゼール「……それでは。逆に、お尋ねいたしますわ」

ナルホド「え」

ジェゼール「裁判が始まってから、ずっと……そして。今現在も、なお。貴方の、その黒いズボンのジッパーは“開いたまま”なのですが。……気づいてまして?」

ナルホド「え。え。ええええええええええええッ!」

 



ジェゼール「……Ha! あり得ませんわ」

アウチ「そういうコトですぞ! ……被告人ッ!」

アソウギ「オレも。友人としてハズカシイぞ。成歩堂

ナルホド「……気づいていたのなら言ってくれ……」

ジェゼール「ワトソン教授こそは、まさにホンモノの“英国紳士”でしたわ。“絶叫”するより“沈黙”を選んだ。……そうは考えられませんの?」

アウチ「……なるほどッ! 考えられるかもしれませんぞッ!」


──はいッ!


ナルホド「……考えられません!」

ジェゼール「Anyway……とにかく」


……。


ジェゼール「ビフテキをいただいたとき。ワタクシ、教授とカンパイをいたしましたのよ?」


──はいッ!


ナルホド「先ほども《証言》していましたね。たしか……“炭酸水”でしたっけ」

アウチ「ワトソン教授は、あのとき。水しか飲むことができなかった。だから、炭酸水を注文したのです。……そうですね? 給仕長」

ホソナガ「……ハイ、たしかにそのとおりでございます。しかし……」

アウチ「し。“しかし”……?」

ホソナガ「ビフテキを運んだとき。教授が、炭酸水を召しあがっていたか……。……それは、記憶にございません」

サイバンチョ「むうううう……」

ジェゼール「……God damn you……」

アウチ「おお。それならば知っておりますぞ! 『神の祝福あれ』……ですな!」


(むしろ“逆”だと思うけど……)


ジェゼール「Anyway……とにかく」


……。


ジェゼール「遺体検分の結果も、銃弾で撃たれた以外、死因は考えられないと聞いておりますわ」


──はいッ!

 



ナルホド「たしかに。《記録》にも書いてあります。『銃弾による失血死』……って」

ジェゼール「……Yes.」

アウチ「幸い、ニンゲンたるもの。ちっぽけなヤケドで死ぬコトなど、あり得ない。その他に、死因と考えられる《痕跡》が、遺体に存在しない以上……。キサマの撃った銃弾以外、被害者の息の根を止めるコトは不可能なのだッ!」

ナルホド「で、でも! ビフテキの鉄板でヤケドしたのなら……食卓に運ばれて“すぐ”だったハズです」

アソウギ「たしかに、そうだろう。少しでも冷めてしまったら、ヤケドしたくても、できなくなる」

ナルホド「運ばれた鉄板に、たまたま手首が触れた結果、ヤケドをしたのなら……。やはり。そのときはすでに“死んでいた”ハズじゃないですか!」


──異議あり


アウチ「しかし! 現実に、被害者は《銃弾》で死んでいるのだッ! それを覆す《証拠》がないかぎり。こんなギロンは、ムダなのだッ!」

サイバンチョ「……たしかに。亜内検事の言うとおりである」


(くそ……!)


ジェゼール「……………」


……。


ジェゼール「なんの《痕跡》も残さずに、命を奪う“手段”があれば……見せてくださいな」


──はいッ!


ナルホド「《痕跡》……ですか」

ジェゼール「拳銃で撃つ、クビを締める、ナイフで刺す、突き落とす……。ヒトの命を奪えば、かならず。その《痕跡》が残るものですわ」

アウチ「まさしく。そのとおりですぞッ! 我が国の警察は、すべての可能性を調べあげた……そう断言できる。なあ! ホソナガ刑事ッ!」

ホソナガ「……ワタシなりに、“カンペキ”を目ざしました」


(……たしかに。どれも、遺体に《痕跡》が残るけど……。そうじゃない“殺害方法”は存在しないのだろうか……?)


ジェゼール「……もし、万が一。このワタクシを疑うのであれば。教授の命を奪った“手段”を見せていただきませんと……。おハナシになりませんわね」

ナルホド「……!」

アウチ「めめ。メッソウもないッ! 可憐なる英国淑女を疑うなどッ! そんな、フラチな輩……この亜内。一刀両断してくれますぞッ!」


(遺体に《痕跡》の残らない殺害方法、か……)


アソウギ「……立証するには、なにか《証拠》が必要だな」


(……《証拠》ねえ……)


……。


ジェゼール「まあ……貴国の未熟な捜査では、新しい《証拠》の提示など、ムリでしょうけど」


──はいッ!


ナルホド「“未熟”……とは、どういうことですか」

ジェゼール「大英帝国では、現場に残されたものはすべて、警察が保存して調査をします。でも。この国では、捜査は一度きりでオシマイ……そうでしょう?」

アウチ「はッ! 《ラ・クワントス》は、本日もバッチリ、営業しております!」

 



ジェゼール「だから。状況が変わっても、新しい《証拠》など、提出できるハズもない。そして、未熟な刑事たちも、なんのギモンも感じていない……。よろしいですわね。なんというか……おおらかで。」

ホソナガ「……!」

アウチ「たはァ! これは、イタいトコロを突いてきますなあ! さすがですなあ!」

ナルホド「なんだか……。あの検事さん。気のせいか、逆に“大人物”に見えてきたぞ」

アソウギ「……完全に、気のせいだと思うぞ」


(……それにしても。今の、ジェゼールさんの《証言》……。どこかで、一瞬。気になるコトがあったような……)


ホソナガ「…………」


……。


アソウギ「……どうだ? 成歩堂

ナルホド「だ。ダメだ……! いくら、ゆさぶっても……なんだか、手ごたえがない」

アソウギ「思ったとおり……なかなか、したたかな女だな。なにか手を打たなければ……《尋問》が終わってしまう」

ナルホド「そ。そんな……! (なにか、ないのか……)」


(あの、舶来美女の《証言》を崩す“手がかり”は……!)


ナルホド「……………なあ、亜双義」

アソウギ「なんだ? 成歩堂

ナルホド「……じつは、ひとつ。気になったコトがあるんだけど……」

アソウギ「“気になったコト”……それは……あのレディか?」

ナルホド「それが……違うんだ。その、トナリ。……ホソナガ刑事なんだよ」

アソウギ「……刑事……?」

ナルホド「最後の《証言》で……なんか、気になる“反応”をしたんだ。なにか、利用できないかな。……刑事さんの、あの“反応”……」

アソウギ「……………ひとつ。オレに、考えがある。もう一度。あのレディの最後の《証言》を、ゆさぶってみよう」

ナルホド「え……」

アソウギ「オレたちの、今度の《標的》はあの、すましたレディじゃない。……そのヨコの、刑事さんだ」

ナルホド「あ……ああ、わかった。(亜双義……なにか、思いついたな)」


(レディの、最後の《証言》……もう一度。ゆさぶってみよう!)


……。


ジェゼール「なんの《痕跡》も残さずに、命を奪う“手段”があれば……見せてくださいな」


──はいッ!


ナルホド「《痕跡》……ですか」

ジェゼール「拳銃で撃つ、クビを絞める、ナイフで刺す、突き落とす……。ヒトの命を奪えば、かならず。その《痕跡》が残るものですわ」

アウチ「まさしく。そのとおりですぞッ! 我が国の警察は、すべての可能性を調べあげた……そう断言できる。 なあ! ホソナガ刑事ッ!」

ホソナガ「……ワタシなりに、“カンペキ”を目ざしました」


(……たしかに。どれも、遺体に《痕跡》が残るけど……。そうじゃない“殺害方法”は存在しないのだろうか……?)


ジェゼール「……もし、万が一。このワタクシを疑うのであれば。教授の命を奪った“手段”を見せていただきませんと……。おハナシになりませんわね」

ナルホド「……!」

アウチ「めめ。メッソウもないッ! 可憐なる英国淑女を疑うなどッ! そんな、フラチな輩……この亜内。一刀両断にしてくれますぞッ!」


(遺体に《痕跡》の残らない殺害方法、か……)


アソウギ「……立証するには、なにか《証拠》が必要だな」


(……《証拠》ねえ……)


ジェゼール「まあ……帰国の未熟な捜査では、新しい《証拠》の提示など、ムリでしょうけど」


──はいッ!


ナルホド「“未熟”……とは、どういうことですか」

ジェゼール「大英帝国では、現場に残されたものはすべて、警察が保存して調査をします。でも。この国では、捜査は一度きりでオシマイ……そうでしょう?」

アウチ「はッ! 《ラ・クワントス》は、本日もバッチリ、営業しております!」

ジェゼール「だから。状況が変わっても、新しい《証拠》など、提出できるハズもない」

ホソナガ「……!」


(そう……ここだ! ミス・ジェゼールのコトバに、刑事さんが“反応”している……!)


アソウギ「……さっきまで。あの刑事は、彼女の《通訳》として、証言台に立っていた。しかし……今。状況は、大きく変わった。細長刑事は……レディの《証言》を“聞く”立場になったのだ。もしかしたら……コイツは絶好の“好機(チャンス)”かもしれぬ」

ナルホド「ど。どういうことだ」

アソウギ「人は、自ら《証言》しているときは、スキを見せまいと身構えているもの。しかし……他の者のコトバを聞くとき。彼らは“無防備”になる」

 



ナルホド「た。たしかに……(すっかり、考えこんでいるぞ……)」

アソウギ「……今こそ。あの刑事を《といつめる》としよう」

ナルホド「と。《といつめる》……?」

アソウギ「……成歩堂。これから他の証人を見る《照準(カーソル)》について説明する」


(《照準》……)

 



アソウギ「オレたちは今、《証言》をしているあのレディを“注目”している。油断している証人のスキを突けば、新しい情報が引き出せるやもしれぬ。アヤシイ気配を感じたら、迷わず《みまわす》……覚えておくといい」


(……よし。やってみよう!)


……。

 



ジェゼール「だから。状況が変わっても、新しい《証拠》など、提出できるハズもない」

 



──ちょっと!

 



ホソナガ「ぐはああああああああああッ! な。な。なんですか! ナニゴトなのですかッ! げほほ! げほ! げほほほッ!」


ナルホド「…………す。スミマセン。まさか、そこまで驚かれるとは……」


(おそるべし。ココロの“スキ”……)


アソウギ「今。なにか、深く考えこんでおられたようですね。……トナリのレディの《証言》を聞いて」

ナルホド「あの。なにか言いたいことがあったら……聞かせてください!」


──異議あり


アウチ「な……なんですか、これはッ! 今、《証言》をしているのは、かの英国のレデエですぞッ! そのコトバに問題がなければ、《尋問》は即刻、終了すべしッ!」

ナルホド「あ……そ。そうなのですか……」

アソウギ「……そうはいかない」

アウチ「え……」

アソウギ「《証言台》に立っている以上。細長刑事も、リッパな証人である!」

ナルホド「そ。それに! この刑事さんは、事件の“関係者”でもあります!」

 



──ッ!!


サイバンチョ「……細長刑事よ」

ホソナガ「は……ッ!」

サイバンチョ「なにか、申し述べるコトがあるか。……ただ今の《証言》について」

ホソナガ「………………それでは……恐れながら。申し上げたいと存じます」

ジェゼール「……………」

ホソナガ「たしかに。我が国の帝都警察の捜査は、まだまだ未熟です。だからこそ! この、ワタシ。ホソナガは! ホソナガだけはッ! 『常に、カンペキでありたい』……そう願っているのであります!」

ナルホド「“カンペキ”……ですか」

ホソナガ「だからこそ! この、ワタシ。ホソナガは! あの事件現場から……。手当たりしだい、持ち出してやりました。『現場保存』を振りかざして……」

 



ホソナガ「たとえ“現場ドロボー”と呼ばれようと。ワタシは……やってやりましたよッ! ごほ! ごほ! ごほ!」


ナルホド「“現場ドロボー”……」

アソウギ「……どうやら。レディのコトバは、刑事の《自尊心(プライド)》をキズつけたようだな」

 



ホソナガ「たとえば……コイツです!」

ジェゼール「……!」

ナルホド「そ。それは……もしかして!」

ホソナガ「あの日。ワタシが被害者の食卓に運んだ《炭酸水》です。あれから、3日。今では、すっかりただの“水”になってしまいましたが。コイツは! かつて《炭酸水》だった! そう。誰がなんと言おうともッ!」


(ボトルの中に、まだ残っているみたいだな……“水”が)


ホソナガ「いずれ。来るべき新世紀には、我が国の警察は、世界一になる……。ワタシは! ホソナガは! そう信じているのです! ごほ! ごほ! ごほ!」

 



──ッ!!


サイバンチョ「……証人自身は理解できないが、その“主張”は理解した。その、ウツクシイ硝子瓶(がらすびん)を《証拠》として受理するものとする!」

 



─炭酸水のボトル─

被害者とジェゼールが
事件当日に飲んだ炭酸水。
被害者の食卓にあった。

証拠品《炭酸水のボトル》の
データを法廷記録にファイルした。


サイバンチョ「むうう……恐れながら、ミス・ジェゼールよ。そなたと、被害者が事件当日に飲んだものに、間違いないであろうか」

ジェゼール「……ええ。その《硝子瓶》でしたわ」


(なんだろう……今……“目をそらした”ように見えたような……)

 



──ッ!!


サイバンチョ「……それでは。《尋問》に戻るものとする。刑事は、もうすこし自分をおさえるように」

ホソナガ「……けふ」


……。

ジェゼール「まあ……貴国の未熟な捜査では、新しい《証拠》の提示など、ムリでしょうけど」


──はいッ!

 



サイバンチョ「こ。これは……先ほどの《硝子瓶》であるか」

ナルホド「被害者に、殺害の《痕跡》が残らない“手段”が……ヒトツ、考えられます」

ジェゼール「………………」

ナルホド「それは、モチロン……《毒》です」

アウチ「ど。どく……」

ナルホド「被害者のワトソン教授は、あの日。この《炭酸水》を飲みました。その中に……《毒》が入っていたのではないでしょうか」

ジェゼール「……………」

ナルホド「そして、それを飲んだとき。教授は、亡くなった……」

 



──ッ!!

──ッ!!

──ッ!!

サイバンチョ「静粛に! 静粛に! 静粛に!」

ナルホド「あの日。被害者と同じ食卓にいて、《毒》を入れることができた者は……ヒトリしか、存在しません。それは、モチロン……ジェゼール・ブレットさん! ……あなたです!」

ジェゼール「……………」


──異議あり


アウチ「き、キサマ……根拠もなく、なんというコトを! 学生ふぜいでも、現在、我が国が置かれた立場は、わかっておろう! 我が大日本帝国は、大英帝国と友好条約を結んだばかりなのだぞ! キサマの、無謀な《告発》によって……その関係を破壊する気かッ!」


──異議あり


アソウギ「ここは、政治の場ではない。ヒトの《罪》を裁く“法廷”である」

アウチ「……なんだと……!」

アソウギ「大英帝国の淑女だろうが、関係ない。《罪》があるか、ないか……それだけだ」

アウチ「ぐ……ッ!」

ジェゼール「あの……ヒトコト、よろしいかしら」

アウチ「レデエへの“ブジョク”……この、亜内。黙っておりませんぞ!」

 



──Shut up!


ジェゼール「黙るのは……アナタ、ですわ」

アウチ「……は。はは。はははああああああっ!」


(……な。なんだ……この、異様なハクリョクは……)


ジェゼール「先ほどは……たいへん、失礼なコトを申し上げましたわ。……わたくし。ココロより、おわびいたします」

サイバンチョ「そ。それは……なんのコトですかな?」

 



ジェゼール「この国の警察の捜査は、“未熟”だ、と……。しかし。いくら“未熟”とはいえ。さすがに……調べましたわね? ……この、硝子瓶の中に、《毒》が混入しているか、否か……」

ホソナガ「………………当然でございます」

ナルホド「え……」

ホソナガ「先ほど、申し上げたはずです。この、ホソナガ……。『常に、カンペキでありたい』……そう願っている、と」

ナルホド「ま。まさか……」

ホソナガ「当然。この硝子瓶の中身は、“検査”をしております」

サイバンチョ「なんと……それで、結果は!」

ホソナガ「現在、我が国で可能な毒物検査をすべて、行った結果。この《炭酸水》には、いかなる《毒》も、混入しておりません!」

アソウギ「なんだと! 間違いないのですかッ!」

ホソナガ「帝都警察・監察医長がじきじきに検査した結果です」

ナルホド「な………なんですってえええええええええッ!」

ジェゼール「……この国のみなさまに、お礼を言わせていただきますわ。このワタクシの“潔白”を立証してくださったのですわね。……感謝いたします」

アウチ「も……モチロン、そのとおり。礼など無用ですぞ、レデエ殿ッ!」

ナルホド「……………」


(なんというコトだ……)


アソウギ「こんな……馬鹿な! “毒殺”と考えれば。すべて、スジが通るというのに……!」

 



──ッ!!

 



サイバンチョ「……どうやら。この《尋問》ですべてがハッキリしたようである。やはり。この凶器の《銃弾》以外、殺害の“手段”は存在しなかった。そして……その犯行は、凶器を手にしていた被告人以外、不可能であるッ!」


(もう……ダメ、だ……)


サイバンチョ「……レディよ。時間をとらせてしまい、大変、申しわけありません」

ジェゼール「Don't mind. ……わかれば、よろしいのです」

サイバンチョ「……弁護人よ。念のため、カクニンしておくが。この他に、なにか“提出”する新しい《証拠》は……あるか?」

ナルホド「……亜双義……」

アソウギ「……………すまない、成歩堂。《証拠》は……もう、ない」

ジェゼール「それでは、みなさま……これにて、失礼いたしますわ」


……。

 



──待った!

 



???「……お待ちくださいまし!」


ナルホド「………! (あの子は……)」

サイバンチョ「そなたは……何者であるかッ!」

???「審理を中断させてしまい、申しわけございません。被告側弁護人の《法務助士》。御琴羽寿沙都(みことば すさと)と申します」


(……“ミコトバ”……?)


(追いつめられた、最後の瞬間。彼女は、凛として現れた……。……その手に、小さな“風呂敷包み”を握りしめて……)


つづく