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【番外編】 G線上の魔王 サウンドドラマ ─償いの章─ 第二巻 《ドラマCD》

このブログは音声を文字起こししていますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身で視聴してください。

ご意見・ご要望がありましたら
─メール─ zippydle.scarlet@gmail.com
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Twitter─ @Zippydle_s
まで連絡下さい。


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G線上の魔王 サウンドドラマ

―償いの章― サウンドドラマ 第二巻

 

 



"権三のもとを離れた男"


……。


K「フェアにいこうじゃないか。俺は依頼人に興味はない。あんたがなぜ宇佐美ハルと時田ユキを殺したがってるのか。どうやって俺を雇う金を用意したのか。そんなことはどうでもいい。その代わり、俺のやり方に口を出すな。分からないか? あんたが園山組とかいうヤクザだろうが、吠えても無駄だと言っている。……はは。なぁに、あんた浅井権三に借りがあるんだろう? だったら借りを返させてやる。近々、浅井権三の葬式があるそうじゃないか。ちなみに葬儀には参列するんだろう? ……そうか。なら俺の支持通りに動け、いいな?」


"K"は携帯電話を切る。


K「……さてさて。浅井権三かぁ、懐かしい名だ……。あの時のことは今でも覚えている。……権三の目。厳しさを湛え、こちらを値踏みし、油断なく何も見逃さぬ、揺るぎない目を」

 

……。


「浅井さん」

「ん? なんだ?」

「実は…」

「なんだ?」

「警察に入り、あなたに従って一年になります」

「なんだ、と聞いている」

「……浅井さん。私はあなたが職権を濫用し、摘発した暴力団から金を受け取っている……。との噂を耳にしています」

「女か、お前は。てめぇの耳と口はどこにある?」

「確信もあるんですがね」

「分かるように話せ」

「……園山組の頭がゲロした。あんたの袖の下に五百ほど包んだってな」

「…………」

「認めるんだな?」

「……お前は物になりそうだと思っていた」

「おかげさまで……。公安からお呼びが掛かりましてね」

「マル暴はもう嫌になったか」

「あんたの下で働くのはごめんだね」

「じゃあ、誰の犬になりたいんだ?」

「……知るか」

「俺の家畜であり続けるのは、楽しいぞ?」

「……いいか。俺だって正義を振りかざすつもりはない。別にあんたがヤクザから金をせしめてたって、それを告発する気もない」

「ほう……。なぜだ?」

「はっきり言おう。あんたの仕返しが恐ろしいからさ」

「賢いな、斉藤。お前は分を知っている。敵と己の力の違いが分かっている。そういう生き物は強い」

「……というわけで。今日はお別れを言いに来たわけですよ」

「おう」

「どうぞお達者で。……あんたのことは忘れない」

「いくらだ?」

「え?」

「金のことだ」

「餞別なんていりませんよ」

「違う。俺がが“お前”を信用するために、いくら払ってくれるんだ?」

「……ぅっ!?」

「監査にチクらねぇと、俺に信じさせるために、お前はいくら払うんだ?」

「なに言って――!?」

「おかしな話だなぁ。悪党は俺なのに、お前は俺を強請ることもできるのに、なぜお前が強請(ゆす)られてるんだ? フッハハハハハ!! フハハハハハハ・・・!!!」

 

……。


K「……権三さんには、色々学ばせてもらったなぁ……。はは……、さてさて……"魔王"は浅井権三の車に爆弾を仕掛けて殺害を謀ったが権三に見破られたという……。権三が死んだ今、誰が止められるかな? ……やはり宇佐美ハル。お前かな?」


……。

 

 

"僕が美少女だったら許される"


……。


藤島「ねぇ相澤くん」
栄一「……あぁ」
藤島「藤島ですよぉ」
栄一「……知ってるよ、どうしたの?」
藤島「あのさぁ僕、心を入れ替えたんですよ」
栄一「……は?」
藤島「友達になって欲しいんだッ」
栄一「はぁ? お前、お前が……? ちょっと、なに?」
藤島「僕、だいぶ面白い自信、あるんですよ」
栄一「……どこが?」
藤島「一発ギャグとか得意ですッ!」
栄一「……何かムカつくなお前」
藤島「多分僕が美少女だったら色々許されると思います」
栄一「うるさい、凄いうるさい」


水羽「相澤くん……。今帰り?」

栄一「あぁ、白鳥。 お前からもコイツに一言言ってやれ!」

水羽「……え、何? 一発ギャグの話? それって、貴方のこと相当好きじゃないとダダ滑ると思う」

栄一「おぉ、良いよ。すごいよ白鳥! そうだよ、ダダ滑りだよ!」

藤島「そうかなぁ? 自信はあるんだけどなー」

栄一「……そういう態度が半分スベってんだよ!」

藤島「この前、パパの車でETCゲートをくぐる時、開くかなって。すっごいドキドキしました」

栄一「……それが何だよ?」

水羽「あ、それ分かるかも」

栄一「食いついてんじゃねェよ!」

水羽「私も未だに駅の改札で、あのピッてやる時、開くかな?って……ドキドキするもの。ETCともなるとかなりのレベルよね」

栄一「……はぁ?」

藤島「僕なんか、ピッてした後に、早く抜けないと挟まれるんじゃないかって! ドキドキしない?」

水羽「で、その後。駅のホームに急いで駆け込んだら、反対側から電車が来るのよ」

藤島「分かります分かります! そういうフルスイングで空振りする感覚、大事だと思います!」

栄一「……ちょ、何なのコイツら」

水羽「で、貴方誰なの?」

藤島「藤島です! 太ってますけど、一応日本人です!」

水羽「あ、でも背後霊は白人って感じよね」

藤島「分かりますか?」

水羽「えぇ、何となく」

栄一「……なんかすげースピリチュアルな話になってきてるよぉ!」


──???「ちょっとごめんよー」


栄一「……っ! 何だ、この人……。どっかで見たことあんぞ? ……なんだっけなぁ、確か、京介の……」

???「あー、アンタ、京介さんのお友達だろう?」

栄一「……あ、は、はい……。(つーか、京介さんってなんだぁ!? こんなおっかねぇ人に“さん”付けさせるとか、どんだけだよ京介ェ!?)」

???「この学園に、宇佐美ハルっていう嬢ちゃんが通ってんだろ?」

栄一「あ……はいぃ。あいつ、何かやらかしましたか……? と、東京湾スか……?」

???「……。コイツを、渡しといてくれねェかなぁ?」

栄一「……手紙、スか?」

藤島「ラブレターなら、僕が!」

???「中身勝手に見たら……。駄目だよぉ?」

藤島「ひィッ!?」

栄一「わー、ま、待て待て! 俺が渡す……」

???「手前は、"堀部"ってモンだから。……じゃ、頼んだよぉ」

栄一「……あ、はい! 頼まれました!」


……。


水羽「……行っちゃったわね」

栄一「……つっても、宇佐美は今日もサボりだし……。ったく、生きてんのかなぁ」

藤島「割と元気そうでしたよ!」

栄一「なんでオメェが知ってんだよ」

藤島「いやぁ、昨日おしかけたんですよ。夜に」

栄一「……お前。それ犯罪」

藤島「だから僕が美少女だったら許されるって言ったじゃないですかぁ」

栄一「うるさい、凄いうるさい!」

水羽「で、ハルはどうだった? 元気そうだった?」

藤島「いやぁ、いきなり殴られまして。……貴女の義理のお姉さんに」

水羽「え……? 姉さんにッ!? 姉さんも、ハルと一緒にいるのね!?」

栄一「ど、どうした、白鳥……?」

水羽「姉さん、警察から帰ってきたかと思ったら、また連絡が取れないのよ!」

藤島「なら、みんなで行ってみますか?」

栄一「オメー、何みんなの輪の中心みたいな空気作ってんだよ!」

藤島「いやぁ、もう大分キャラ立ったと思うんで! そろそろいいかなぁ、って!」

栄一「……っ! なんでもいいけどぉ。オメー、宇佐美にちょっかいかけんじゃねぇぞ」

藤島「心を入れ替えましたんでッ! 大丈夫ですッ!」

栄一「ほんとかねぇ」

藤島「世の中にはぁ、良いストーカーと悪いストーカーがいまして! 僕は、良いストーカーです」

栄一「あのさァ、お前何で俺達の事に首突っ込んでくる訳……?」

藤島「それを話すと、長くなるんですがぁ!」

栄一「……なんかフリくせぇなぁ」

水羽「とにかく、私は姉さんに会いにハルの家に行くわ」

栄一「あ、あぁ。そうだな」

藤島「あれは、僕が学園に入り立ての頃でしたぁ! 当時は、桜の季節で……」

栄一「おぉい! 置いてくぞー」


……。

 

 

 


"線路は続くよ、鈍行だけど"


……。


ユキ「あ……ハル、おかえり」
ハル「ごめんね、留守番頼んで」
ユキ「検査、どうだった?」
ハル「……まぁ」
ユキ「聞くまでもないか……」
ハル「無理だよね」
ユキ「……無理って?」
ハル「……産むのは」
ユキ「あぁ、無理ってことはないでしょうけど」
ハル「信じられないよ……」
ユキ「せめて……京介くんに報告してみたら?」
ハル「そんなこと出来ないよ!」
ユキ「どうして?」
ハル「……京介くんは。子どもの頃、色々あったから……。詳しくは話せないけど……。きっと、子どもにも迷惑かけたくないって、思うはずなんだ」
ユキ「……察するわ。“人殺しの子供”になってしまうものね」
ハル「……やっぱり。堕ろすしかないかな……。……ごめんね、赤ちゃん……。私も、親になる自信……無いんだ」


玄関のドアを叩く音がする。


──栄一「おーい、宇佐美ー。いるかー? いるんならいるって言えー、いないならいないって言え」

水羽「姉さん! いるんでしょ!? いったいどういうつもりなの?」

藤島「藤島です。昨日はご迷惑をおかけしまして! お詫びに饅頭を買ってきましたー!」

栄一「てめぇー! うるせーんだよ! つーか饅頭とかなんだ!」

藤島「福岡名産ですよ、福岡」

水羽「あ、それ大宰府よね、大宰府

藤島「わかりますかー!」

水羽「えぇ、なんとなく」

栄一「……うぜぇなぁ」


ユキ「……なんだか騒がしいわね」
ハル「居留守を使うわけにもいかなそうだね……」


玄関のドアを開く。


ハル「「はい、生きてますよー」

栄一「……おぉ、宇佐美。……元気か?」

ユキ「どうしたの? みんな揃って」

水羽「どうしたのじゃないよ! 姉さんこそ、今までどこで何してたの!?」 

ユキ「ちょっと、用事があってね……。ごめんね、しばらく家には帰らないわ」

水羽「お父さんも……。時田さんも、心配してたよ」

ユキ「心配? むしろ呆れてるんじゃないかしら?」

水羽「迷惑かけてることに変わりはないよ……。帰ってきてよ……」

ユキ「残念だけど。用事が終わるまでは無理!」

水羽「……。じゃあ、せめて……電話には出てね」

ユキ「うん、分かったわ。心配しないで」

栄一「……あー、とりあえず、いいか宇佐美」

ハル「……あぁ、はい。……なんすか、手紙?」

栄一「あのさ、なんつーの、マルヤ? 京介の知り合いの人から」

ハル「え……」

藤島「堀部さんという方からです」

ハル「あー……堀部さん」

栄一「……じゃあ、たしかに渡したからな」

ハル「はい、それでは」

栄一「あー! 待て待て、宇佐美待て」

藤島「そうです、ちょっと待ってください!」

ユキ「なんなの一体!」

栄一「あのよー、お前。ちょっとピンチか?」

ハル「は……?」

栄一「いつもの鬱陶しい顔が、よりデンジャラスになってんよ」

ハル「……そうスかね」

栄一「なんかあったら、人生経験豊富な俺に相談したほうがいいぞ」

藤島「僕もなにかお役に立てればと思ってます」

ユキ「あなたはなんなの?」

藤島「藤島ですー! 今日付けで、栄一さんの子分になりましたー」

栄一「子分ってなんだよ! ……子分なら悪くねーけど?」

水羽「なにか力になれることがあれば……」

ハル「……だ、大丈夫です! もう一発ギャグとかかませるくらいに元気です!」

水羽「本当? じゃあ、やってみてよ」

ハル「……え? せーんろはつづくーよー、鈍行だーけーどー……っ……うぅ……!」

栄一「え?」

藤島「え?」

水羽「……ちょっと、なに? どうしたのハル!?」


ハルは嘔吐をする。


藤島「……腹痛(はらいた)……ですかね?」

栄一「おい……大丈夫か?」

ハル「……っ……! へ……平気、です……」

ユキ「……さあさあ、もう帰った帰った!」

水羽「いや、でも……」

ユキ「ハルの面倒は私が看るから!」

栄一「でも、ただごとじゃないでしょー!」

ユキ「いいから! 帰るのよ、栄一くん!」

栄一「わ……わかりましたよ……」

水羽「じゃ、じゃあ……姉さん。また、電話するね?」

ユキ「……うん。あなたもしっかりしなさい」

水羽「え……? ど、どういう意味?」

ユキ「さあね……。京介くんがいなくなって辛いのは、ハルだけじゃないんだろうなぁ、って……」

水羽「……っ」

藤島「それじゃあ本当、昨日はすみませんでした」


……。


ハル「ごめん、ありがとうユキ……」
ユキ「……いいのよ。それより、手紙だけど」
ハル「あ、うん……。読んでみよう」


"時田彰浩、浅井権三を語る"


……。


タバコの火をつける音──


時田「やあ、織田さん。遅くまで精が出ますね」
織田「ああ、時田さん。お疲れ様です」
時田「だから敬語は使わなくていいよ。君は捜査一課長だろう?」
織田「時田さんは別です」
時田「お堅いねぇ、そんなんでよく出世できたもんだ」
織田「はは……。なにかご用ですか?」
時田「いやいや、例の浅井京介くんの取り調べはどうなったかなぁ、と」
織田「順調すぎるくらいに順調ですよ……」
時田「……おちたかい」
織田「奴は“シロ”です。いや……“魔王”を殺害したことについては“クロ”なんですがねぇ」
時田「釈然としないみたいだね」
織田「……女をかばってるんですよ。これは勘ですがね」
時田「僕が取り調べを代わろうか?」
織田「いえいえ! 時田さんもはお忙しいでしょうに……。それより……」
時田「ん?」
織田「浅井権三の葬儀の葬儀が、近々行われるとか……」
時田「ああ……。よく知ってるねぇ」
織田「今、マル暴の連中が大忙しですよ。園山組も跡目争いでだいぶモメてるみたいで……」
時田「確かに葬式もかなり遅れたしねぇ……」
織田「組の中で『葬式なんていらねェ!』って連中がいたみたいで……」
時田「そりゃまたなんで……」
織田「……“カネ”が。葬式代がかかるからって、信じられますか?」
時田「はは……確かに。浅井の子分らしいなぁ」
織田「時田さんは、浅井権三とはどんな関係で?」
時田「一応は、同期だよ」
織田「じゃあ浅井もキャリアだったんですねぇ」
時田「頭の切れる男だったよ。警察に入るとみんな捜査一課に行きたがるもんだが……。浅井だけは、率先して暴力団担当課を希望したんだ」
織田「……で、ヤクザ連中からしこたま金を貢がせて……。ついには組の一つを乗っ取ったわけですか」
時田「最初からそのつもりで警察に入ったんじゃないかねぇ……。あの男の腹は未だに読めんよ」
織田「…………浅井はどうやら、義理の息子の京介をかばって死んだようなのですが」
時田「どうだろうねぇ。正直、信じられないよ。なにか打算があったと僕は思うねぇ。少なくとも、息子の幸せを願うような男じゃないはずだよ」
織田「……確かに。息子は今、殺人の容疑でブタ箱ですからね。このまま起訴になれば15年はくらうでしょう」
時田「仮釈で頑張っても7、8年かなぁ……。長いねぇ」
織田「ええ。春は遠い……」


……。


"あれはいい女だと思わんか?"


……。


ユキ「浅井権三の葬儀……」
ハル「権三さんの葬儀に、なぜわたしたちが呼ばれるのか……」
ユキ「もちろん、"K"の招待状ってわけね」
ハル「手紙には、葬儀会場を爆破する、とあるね」
ユキ「犯行予告ね」
ハル「とにかく、堀部さんに連絡を取ってみようと思う」
ユキ「うん、そうして。私はもう一度、この手紙の文章から犯人の意図を探ってみるわ」


ハルが電話をかける。


ハル「……もしもし。堀部さんですか?」
堀部「あー宇佐美ちゃんですかい? ご無沙汰でございやす」
ハル「手紙、拝見しました」
堀部「そうッスか。いえね、今日の朝方……。組の事務所にその手紙が届きましてねぇ?」
ハル「あ、はい……。なんで敬語なんですか?」
堀部「いえいえ……。宇佐美ちゃんは京介さんのイロですから。使いっぱしりでもなんでもしますよぉ?手前は」
ハル「……え、ええ。まぁ、いいです。それで、内容なんですが……」
堀部「……まぁたヤバいことですかい」
ハル「権三さんの葬儀会場を、爆破すると……」
堀部「……ほっほぉー。そういうの多いんですわー」
ハル「と、言いますと?」
堀部「ウチの親父は、人気者ですから」
ハル「でも、これはただの脅しじゃないと思います」
堀部「……また"魔王"がらみですかい?」
ハル「はい……。過去に"魔王"に協力していた"K"という男が、私を狙ってるんです」
堀部「"K"……? 何者なんですか?」
ハル「わかりませんが、資金力や行動の計算高さなど……。"魔王"に近いくらいの実力を持っていると思います」
堀部「で、"K"って野郎が親父の葬儀で花火しようってんですかい。……へー、こりゃあ。へっへっへ! へっへっへ!!」
ハル「ほ、堀部さん……?」
堀部「あーいえいえ! この堀部、つい切れちゃうところでしたっ」
ハル「は……はあ……」
堀部「ひとまず了解しましたよ。なぁに、葬式には総和連合一千人の極道が集まるんですわ。ネズミがいたら、その場で踏みつぶすまでですわっ」
ハル「……私と、もう一人の友人も参列させてください」
堀部「あー、そいつはこっちからも招待しようと思ってたんですわ」
ハル「そうなんですか?」
堀部「親父はねー、なんとなく宇佐美嬢ちゃんのこと、気に入ってたような気がするんですわ」
ハル「はあ、恐縮です。でも、どうして?」
堀部「生前、一度だけねぇ。あの親父がね、言ったんですよ。あれは……そうそう、親父が亡くなる夜でしたね。"魔王"に港まで呼び出されたあの夜です。車の中でねぇ、手前は親父の隣に座ってたんですが……」


……。


堀部「親父、どうしましょう」
権三「……魔王は、おそらく狙撃の瞬間を待っている」
堀部「となると……。迂闊に車の外には出れませんね。……手前が飛び出しましょうか?」
権三「余計なことをするな。……堀部」
堀部「はい」
権三「てめぇ、女はいるか?」
堀部「え? ……あぁ、まあ。何人か」
権三「楽しいか?」
堀部「そりゃあもう……。たらふく遊んでやってますから」
権利「ふ……はっはっは。案外、遊ばれてるのはお前かもしれんぞ」
堀部「そりゃないですよ、親父に仕えてもう十年になります。この堀部がどんな男か、ご存じでしょう?」
権三「そうか……。お前も家畜の域を出なかったな」
堀部「手前は、一生親父の家畜でございやす」
権三「……宇佐美ハルという女だが」
堀部「はい、京介坊ちゃんのお気に入りでしたっけ?」
権三「……かもな」
堀部「まっ……手前の見立てでは、坊ちゃんもまんざらでもないようですからねぇ」
権三「あれはいい女だと思わんか?」
堀部「……あー、はぁ。そうですかねぇ。……どういう意味で?」
権三「あの女は……近い将来、京介を地獄に叩き落す……。という意味だ」
堀部「……は。い、いや……。いつもながら、笑っていいのかどうなのか。親父の考えは、手前なんかにはわかりませんわ」
権三「男という生き物は、男というだけで既に女の家畜なのだ。……京介も、それに気づいて初めて人間になれるのだろうなぁ。……それはいつのことか……あるいは、一生家畜のままか……」
堀部「……親父。なら、手前ら家畜の男どもが、女に食われないようにするには……。どうすればいいんですかい?」
権三「……決まってる……死ぬしかない」


車のドアを開け飛び出す権三。


権三「京介ぇ!!!」


……。


ハル「……京介くんを……地獄に叩き落す……?」
堀部「やたら嬉しそうな顔してましたよ」
ハル「……っ」
堀部「じゃ、会場で会いましょうや」


……。


ユキ「ハル? 電話、終わった?」
ハル「う、うん。なんだか、余裕そうだった」
ユキ「たしかにねー。ヤクザの大親分の葬式を邪魔しようっていうんだから、"K"も相当な自信があるんでしょうね」
ハル「ユキの方は、なにかわかった?」
ユキ「まあ、なんとなくだけどね。もう一度、読み返してみましょう」


===================

宇佐美ハルに、時田ユキ。
元気かな?
近々、浅井権三の葬式が行われる。
ぜひ参列してもらいたい。
なぜなら俺は、葬儀会場に爆弾を仕掛けるつもりだからだ。
ヒントをやろう。
俺の目的はあくまでお前たち二人を殺すことだ。
爆薬は威力を抑えてある。
殺傷範囲はせいぜい、数メートルってところだ。
次のヒント。
当日俺から掛かってくる電話には気をつけたほうがいい。
以上。
あとは当日を楽しみにさせてもらう。

怪人二十面相こと、"K"より

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ユキ「うん……言わなくてもわかると思うけど、"K"は私たちを馬鹿にしてるわね」
ハル「あるいは、そう装っているのかも」
ユキ「手紙から読み取れるのは、"K"が非常に自己顕示欲が強い人間ということよ。……ほら、よく見て。一文一文が、とても短いでしょう? こういう文章を書く人間は、相手に自分の意図するところを理解してもらいたいという意識が強いのよ。さらに言えば、"K"なんてふざけた名前じゃない? 普通なら、"K"の精神年齢は低めだと考えたいところだけど……」
ハル「なにか気になるの?」
ユキ「……はっきりと言えないけど、なんとなく……。名前にこだわっているというか、"K"という呼び名を自分で面白がっているような感じなのよね。……他人事みたく」
ハル「そういえば、電話でやりあったときは夏目漱石の小説がどうとか言ってたのに、今回は怪人二十面相とか……」
ユキ「まあ、大した手がかりじゃないわね。ちなみに、筆跡から手がかりを探る技術は私にはないわ」
ハル「じゃあ、私からもいい?」
ユキ「うん、どうぞ」
ハル「ヒント、ってあるよね? 俺の目的は、あくまでお前たち二人を殺すことだって」
ユキ「うん。爆弾の殺傷範囲は、せいぜいが数メートルらしいわね」
ハル「つまり、爆弾は私たちのすぐそばに仕掛けられるということになる」
ユキ「"K"が与えてくれたヒントに、嘘が無ければね」
ハル「……本当だと思う?」
ユキ「おそらくね……。"K"は、私たちとのやり取りを楽しんでいるわ」
ハル「なるほど……。ただ、どうやって私たちのすぐそばに爆弾を設置するつもりなのかな」
ユキ「それが……不可解よね」
ハル「葬儀会場って、たぶん……相当広いよね。そんな中で、私たちがいる場所を特定して、前もって爆弾を置いておくことなんて出来るのかな」
ユキ「……うーん、まあ……。追々考えていきましょう」
ハル「……そうだね。会場に行って初めて気がつくこともあるかもしれないし」
ユキ「うん。じゃあ、今日は寝ましょう。……つわりは大丈夫?」
ハル「……あんまり、考えないようにしてる」
ユキ「"K"との対決を考えていたほうが……楽?」
ハル「うん……」
ユキ「そう……。うん、じゃあ久しぶりにご飯でも作ってあげるわ」


……。


ハル「……私って、結局……なにもしてなかったんだな」
ユキ「え、なにか言った?」
ハル「ううん、なんでもない。…………"魔王"にも負けて……京介くんの足を引っ張って……。結局、なにも……」


……。


"早く出てこいよ……"


……。


栄一「あー、今日も疲れたなぁ。一日お疲れちゃん、俺様……。……ったくよー。藤島もウゼーわ、宇佐美もウゼーわ……毎日気分わりーわ。なんつーか、これがゲームだったらマジ鬱ゲーだよ。なあ、わかるか? ワニ一号? ……おーそうか、お前も悲しいかー。さすがワニ一号。心の友はお前だけだぜ。……ちっ……心の友、か」


──携帯電話の音が鳴る。


栄一「……っ、誰だこんな夜中によォ……。……もしもし!? ……! の、のりこ先生じゃないっすかー! あぁ、うん、うん! 元気、元気ー! なになに? なにか悩み事でもあるのー? あー、そうなんだ! 大丈夫、大丈夫。僕に任せてよ! 落ち込んでるならケーキだね。今度美味しい店、連れてってあげるよー! はいはい、じゃあねー! ……わかってる、僕の愛は変わらないよー」


通話を切る。


栄一「はぁー……。たまんねぇわ、のりこは。つーか、完全におちたな。俺のモノになったわ! なんか、俺だけ幸せルート突入って感じだぜ! こいつは気分良いねぇ! ……くそっ。……気分、悪いわ。……ちっ、こりゃあ京介の野郎に本格的に説教くれてやらねーと気がおさまらねえわ。……でも、面会とかなんかアレだよなぁ……。くせーよなぁ。……一筆したためてやっか。……拝啓、京介殿。……あー、なんかちげーな。つか、あいつマジへこみしてたらどうしよう。……くっそー、京介ちゃんよー。やってくれたじゃないの。……うるせーぞ一号! こっちは取り込み中なんだ! あー、えーっと……。お前は……裏の世界でのし上がれや。あ、これカッコいいなー。オレは表の世界でのし上がるから。……決まったな。……あとは、そうそう。のりこをモノにしたぜ! やっぱ見せつけてやんねーとな! あいつの羨ましがる顔が目に……。目に……浮かぶわ……。ざまぁみろ……バカが……。京介の……バカが……。……はぁ、くそっ! ……はやく、はやく……出て来いよ」


……。


ユキ「そう……。京介くんの面会に行くのね?」
水羽「姉さんも、一緒に行かない?」
ユキ「……。遠慮しておくわ」
水羽「そんな……どうして?」
ユキ「一人で行くべきよ。あなた一人だけで言うべきことがあるのだから」
水羽「……でも。今さらなんて言ったらいいか……」
ユキ「素直に自分の気持ちを伝えるべきよ。……後悔のないように」
水羽「……でも、でも……」
ユキ「わかってる。彼の心は、ハルにしかないわ」
水羽「……それでも、それでも! 言いたいの!」
ユキ「バカねぇ……。傷つくだけよ」
水羽「いいの!」
ユキ「……無理だわ。その調子だと、きっと彼の前ではなにも言えないわ」
水羽「そんなことない!」
ユキ「水羽、ダメよ。自分のことばっかり考えてたら」
水羽「……え?」
ユキ「……例えば、あなたが私に会いたがってたのは……。こういった相談がしたかったからでしょう? 私を心配してたとか、そういう気持ちは二の次なんじゃない?」
水羽「……それは……そうかも」
ユキ「ふふ、正直でよろしい」
水羽「ごめんなさい……」
ユキ「あなたは素敵な女の子よ、水羽。……ただ、その純粋な気持ちを京介くんに言い返してもらうには……ちょっと時間が足りなかっただけ」
水羽「……ありがとう、姉さん」
ユキ「タイミングよ。タイミングが悪かっただけ。京介くんと出会う時期が時期だったら、私だってどうなってたかわからないわ」
水羽「……罪な人だよね」
ユキ「全くだわ……。もし、彼に会ったらこう伝えて。借りは、いつ返せばいいの? って」
水羽「わかった……。必ず伝えるよ」
ユキ「ありがとう、おやすみ」
水羽「おやすみ」


……。


"人間の分"


……。


時田「久しぶりだねぇ、斎藤くん」
斎藤「時田さん、ご無沙汰しておりました」
時田「いやぁ、君は変わらないねぇ。いつまでも若々しくて、羨ましい限りだ」
斎藤「時田さんこそ、まだまだ現役じゃないですか」
時田「なに言ってんだ、僕なんかもうロートルだよ。例の"魔王"には、手も足も出なかったからねぇ」
斎藤「いやあれはどうやったって無理でしたよ。犯人側に有利な条件が多すぎた」
時田「……君は、優しいなぁ。浅井の部下だったとはとても思えんよ」
斎藤「ま、途中で公安に逃げ出しましたからね」
時田「……しかし、凄い人手だねぇ。右を見ても左を見ても、片っ端からしょっ引きたくなるような連中ばっかりだ」
斎藤「それだけ、浅井さんに人徳があったってことですよ」
時田「徳というか、業だろうねぇ」
斎藤「手厳しいですね、本当にご友人だったんですか?」
時田「もちろん。少なくとも、僕はそう思ってる」

(……相変わらず、まっすぐな御仁だなぁ……。そんなんだから"魔王"との交渉なんて貧乏くじを引かされるんだ。上層部にいいように使われてるってのに、よくもまぁ警察官なんてやってられるもんだ)

時田「ほら、見てみろよ斎藤くん。マル暴の刑事(デカ)までこぞって参列に来てるぞー」
斎藤「もしこの会場に爆弾でも仕掛けられてたら、明日から街の治安が崩壊しますね」
時田「え?」
斎藤「はい?」
時田「今の……冗談だよね?」
斎藤「えぇ、えぇモチロン。……我ながらつまらないこと言いました」
時田「そうだよねぇ。いやー、僕もトシかなぁ。本気のように聞こえてしまったよぉ。いやぁ、すまん」
斎藤「勘弁してください、未だに時田さんに見つめられるとドキッとしますよ」
時田「すまんすまん。それじゃあ、受付を済まそうか」
斎藤「……はい」

(……恐れ入ったなぁ、さすがにウデは衰えてないか。……ふふ、こりゃあ面白くなってきたぞ……)


……。


ハル「……うわ、凄い人」
ユキ「っていうか、ハル? その喪服姿なんだけど……」
ハル「なに?」
ユキ「お化けみたい」
ハル「失敬な! 上下で五千円もしたんだぞ!」
ユキ「……ぶかぶかじゃないの」
ハル「そんなことより──」

堀部「嬢ちゃーん! こちらですよー! こっちで名前を書いてくださいー。…………あれ? そっちの姉ちゃんは確か……」

ユキ「あ、こんばんは。西条の一件以来ですね」

堀部「あー、そうだったそうだった! 時田、ユキ……だっけ」

ユキ「ええ」

堀部「あんたの親父も、参列に見えられてるよ」

ユキ「え!? 父さんが?」

堀部「あのオマワリも、昔はウチの親父の友人だったそうな」

ユキ「友人……? 権三さんと……。なんだか意外ね、そんな話は初めて知ったわ」

ハル「堀部さん、ちょっと確認したいんですが」

堀部「はいはい」

ハル「やっぱり、権三さんの葬式ともなると……チェックは厳しいみたいですね」

堀部「もちろんですよ。悪いんですが、嬢ちゃんがたにも手荷物とボディーチェックをさせていただきやす」

ハル「……会場内で武器を持っているのは?」

堀部「身内だけですねぇ」

ハル「そうですか……」

堀部「"K"とかいう野郎が爆弾を持ち込むのは、まず無理です」

ハル「前もってこの会場に潜入し、爆弾を仕掛けていたということも考えられます」

堀部「ウチらも前もってこの会場におかしなモンが仕掛けられてないか、徹底的に探してますから」

ハル「となると……」

堀部「ま、坊主の念仏が始まるまで少し時間がありますから……。どうぞ、ごゆっくり」

ユキ「なんだか、余裕そうね」

ハル「胸騒ぎがする……」


……。


斎藤「時田さん、ちょっとトイレに行ってきます」
時田「あぁ、ここで待ってるよ」
斎藤「……ああ、すみません。時田さん、携帯をお持ちですか?」
時田「ああ……。なんだい? 持ってないのかい?」
斎藤「どうも忘れてきたみたいで……。ついでに電話を一本、かけたいんですが」
時田「減点だなぁ、君は警官だろう。非番でも、携帯は所持してなきゃ!」
斎藤「いやー、返す言葉もありません。……このことは上には内緒に……」
時田「わかってるよ、冗談だよ。ほら。使い方はわかってるよね?」
斎藤「ありがとうございます、すぐ戻ってきますんで」
時田「どうぞ、ごゆっくり」


……。


斎藤「……あんたが依頼人だな?」
???「お前が殺し屋か? ずいぶんと──」
斎藤「挨拶は省かせてもらう。手筈通りやれ……。時田に渡す"贈り物"は持ってきたな?」
???「ああ……。ここに。コイツの中身はなんだ?」
斎藤「決まってるだろ。……ズドン、ってやつだ」
???「だがお前を雇ったのは俺だぞ。……なぜ依頼人の俺にこんな仕事をさせる? ……これは報酬から引かせてもらうからな」
斎藤「……前にも話したと思うが、俺は金に対して興味がない」
???「待て、俺は──」
斎藤「これも前に話したが、俺は依頼人に興味はない」
???「……じゃあなぜこんな仕事をしている?」
斎藤「面白いからだ」
???「……ふっ、わからんやつだ。まあいい、では後ほど」


……。


斎藤「浅井権三よ……。あんたの言う通り、俺は俺の分を知っている。あんたも死に、"魔王"も死んだ。だが、俺はまだまだ生きている。……人生の勝負というものは、最後の最後までわからないもんだなぁ」


……。

 

 

 

 


"ハル対K PART2"


……。


ユキ「……とりあえず、私たちの座っている椅子の周りにはおかしなものは無いわね」
ハル「うん……」
ユキ「顔色が悪いわよ? それとも、考え事?」
ハル「"魔王"と同じように、私と遊びたがっている」
ユキ「え? どうしたの、急に」
ハル「最初の電話のやり取りもそうだった。……なんとなく"魔王"のときと似てる。次にこの爆破予告……。花音のときと似ている」
ユキ「あのときはたしか……。スケート会場を爆破すると見せかけて……」
ハル「実際に狙われたのは権三さんだった」
ユキ「"K"は"魔王"の協力者だったから、モチロン過去の"魔王"の犯罪を知っているはずよね」
ハル「つまり、今回も狙われるのは……実は私たちではなく……」


時田「ユキじゃないか!」


ユキ「え? ……やだ、父さん!?」

時田「なんでお前がこんなところにいるんだ!?」

ユキ「い、いやー……それは……」

時田「まったくお前ときたら……家にも帰らないで……!」

ユキ「ちょ、ちょっと落ち着きましょ。落ち着いて、話し合いましょう」

時田「いやー今日という今日は絶対に許さん! そもそも私は、お前のしつけを間違っていた! 自由奔放に育ててやろうと思っていた、親心が仇になったのだ!」

ユキ「自由奔放? ……それって、父さんがただ仕事が忙しかった言い訳じゃない!?」

時田「口ばっかりは達者になりおって! それも"魔王"に教えてもらったのか!」

ユキ「……っ、確かに……事件を起こしたのは謝るわ。父さんにも迷惑をかけた。それは申し訳ないと思ってる」

時田「本当にそう思っているんなら……。な、なぜ家に帰ってこないんだ? 教えたろう? 人間の言葉に、惑わさるなと」

ユキ「はいはい、『言葉は嘘をつく、行動は嘘をつけない』」

時田「わかってるならなぜ!」

ハル「あ、あのー!」

ユキ「なに!? 邪魔しないで!」

ハル「……そろそろ、式が始まるみたいだよ」

時田「いいかユキ。後で話がある! 逃げるなよ!」

ユキ「わかった! ……わかったわよ、みっともない。……もう、口うるさい父さんだわ」

ハル「でも、いいお父さんだよ。ユキのこと心から心配してる」

ユキ「それはわかってるんだけど……。口論になると、なんか負けたくないって思っちゃうのよね」

ハル「……いいお父さんだよ。ちょっと羨ましい」

ユキ「あ……ハル……」

ハル「……あんなお父さんだったら、幸せだったんだろうなぁ。私も……、京介くんだって」


……。


斎藤「……しっかし、トイレの個室にまで監視カメラか……。さすがに物々しい警備だなぁ。……ま、しかし。カメラってのは常に死角がある。…………よーし、よし出来た。あとはコイツを……」

堀部「そろそろ式が始まりますんで! お早めに」

斎藤「あーすみません。どうも腹を下したようでね」

堀部「親父の怨念かもしれませんねぇ」

斎藤「はは、違いない」

堀部「それでは、お早めに会場にお戻りください」

斎藤「…………さて、もう戻るとしよう」


……。


ハル「……あれ? 見てよ、ユキ」
ユキ「なに?」
ハル「あの前の方の席に座ってるの、お父さんだよね?」
ユキ「うん、そうね…………あ……組関係の人が父さんに近づいて、なにか渡してるけど……」
ハル「スーツケース……だね」
ユキ「……みたいね」
ハル「なんでだろう、どうしてこんなときに。一体、中身は……っ……! しまった! まずい!」


……。


斎藤「……お待たせしました」
時田「ずいぶん長かったね」
斎藤「携帯、お返しします」
時田「当ててみよう。彼女さんだろ?」
斎藤「……時田さんに隠し事はできませんね。早く帰ってこいとうるさくて」
時田「お互い、苦労が絶えないね。僕もさっき、バッタリ娘に出くわしてさ」
斎藤「おや? どうして、こんなところに」
時田「それを後でみっちりと問い詰めてやろうと思ってるんだ。君も、協力してくれたまえ」
斎藤「すみませんが、大至急彼女の実家に帰らなくちゃならなくて……」
時田「実家? ……なんだい、結婚するのかい」
斎藤「いやぁ、まだどうなるか……。まぁ、とにかく焼香だけ済まして帰ります」
時田「そうか、残念だけど仕方ないね」
斎藤「ところで、そのスーツケースはなんです?」
時田「おぉ、これかい? 僕もよくわからないんだが、さっき組の人間から頂いてね」
斎藤「……ほほぉ?」
時田「なんでも、浅井の形見らしいよ。友人だった僕と、娘のユキに渡したいんだそうな……」
斎藤「へぇ……。中身が気になりますね」
時田「案外、爆弾だったりしてなぁ。どう思う? 斎藤くん」
斎藤「……はは、まさか」
時田「どう、思う? ……斎藤くん」
斎藤「……え」
時田「浅井権三は稀代の大物だよ。警察もね、葬儀でなんの事件も起きないとは思っていないんだ。……言っている意味が、わかるかい?」
斎藤「え……いや……どういう」
時田「例のテロ事件以来……。私は"魔王"の関係者を徹底的に洗っていたんだ。主に、警察内部の人間をね」

(こいつ……)

時田「君の略歴は調べさせてもらっている。ハッキリ言って、君はもう公安には在籍していない人間だ。なのに……」

(最初から俺を疑っていたのか……)

時田「それと、君と顔を合わせて話をさせてもらって……。いくつか気になる点が浮かんだ。君はなんらかの嘘をついている。……まず、君に彼女なんていないと私は思っている」

(……いやはや、ちょっとだけ甘くみていたな……。権三の葬儀に誘うため五年ぶりに電話をかけてきたのか)

時田「斎藤くん、安心したまえ。私は君のことをまだグレーだと思っている。そしてこの事は、警察内でも私しか知らない。今のところはね」

(面白いじゃないか……)

時田「だが、この会場には私の娘がいる。かつての友、浅井権三がいる。……無礼な真似をしたら、承知しないよ?」

(……面白い。 そう、まだまだ恐ろしくはない。時田彰浩……。お前はまだまだ俺の理の範疇に入る……)

時田「さあ、そろそろ君の番だよ。……焼香に行っといで。浅井の霊前で君は何を思うのかなぁ」
斎藤「はは……」
時田「言っておくが……。そのまま逃げ出したりしたら、グレーが限りなく黒に近づくよ」
斎藤「俺も、ひとつだけ言っておきましょう」
時田「うん?」
斎藤「"魔王"は生前、あなたを殺しておくべきだったと言っていましたよ」


……。


ユキ「あのスーツケースの中身が爆弾?」
ハル「それ以外に、会場に爆弾を持ち込む手段が考えられない」
ユキ「ということは、さっきスーツケースを渡したのは……」
ハル「おそらく"K"の協力者だ。園山組の人の中に、共犯がいたんだ」
ユキ「じゃあ"K"から届いた手紙はなんだったの? ヒントの意味は?」
ハル「あれは陽動……。花音のときと同じ、さも私たちを狙っているように見せかけて、本当の狙いは別のところにある」
ユキ「まさか……父さん!? 父さん!! そのケースを捨てて! 父さん!!」

堀部「静粛に! 静粛にお願いします!」

 

斎藤「……ふふ、爆発までもう少しってとこか。早めに退散させてもらうとしよう」

ハル「堀部さん! あのスーツケースです! あれをどこか遠くへ!!」

斎藤「いいぞー、宇佐美ももっと時田彰浩の近くまで来い。……そして娘も。……もう父親のそばを離れるんじゃないぞ。……さてさて。そろそろ、宇佐美と遊んでやるとしよう」


……。


時田「ユキ! 騒ぐんじゃない!」

ユキ「だって!」

時田「落ち着くんだ! 冷静さを失ったら負けだと、教えただろう」

ユキ「じゃあ、どうしろっていうのよ!」


──ハルの携帯電話が鳴る


K「元気かな? 宇佐美」
ハル「……"K"」
K「その様子じゃあ大変そうだなぁ。式場はまさに地獄絵ってところか?」
ハル「お前もなにやら移動中みたいだな」
K「なかなか冷静だな。……教えてやろう。既に俺は会場にはいない」
ハル「既にということはさっきまではいたんだな」
K「よーしよし、頭は鈍ってないな。ヒントもたっぷり与えたことだし、今回は爆発を阻止してみてくれ」
ハル「なにがヒントだ……!」
K「浅井権三は死んだ。フィギュアスケートのときとは違う。今回はお前ひとりだ。……言ってる意味がわかるな?」
ハル「……ああ。あのとき私は権三さんの力を借りて、なんとか"魔王"と引き分けることができた」
K「……そういうことだ。ちなみにスーツケースの中身は、あと3分もしないうちに爆発する」
ハル「……っ!」
K「さらに良いことを教えてやろう。スーツケースを開けると、中に目立つように赤のコードと緑のコードが伸びている」
ハル「まさか、どちらかを切れば爆発を止めることができるとでも?」
K「そのまさかだ。ドラマみたいで面白いだろ?」
ハル「いいのかな、そんなに余裕で」
K「ちなみにヒントはもう与えてある」
ハル「……なんだと?」
K「たーのしみだなぁ」
ハル「いいだろう。覚えていろ……」
K「じゃあな。……本日は、ご愁傷様でした」


ユキ「ハル!? こんなときに誰と電話? まさか……」

ハル「"K"だ。スーツケースを開けよう」

時田「ちょっと待ちなさい! 危険過ぎる!」

ハル「"K"が言うには、中に赤いコードと緑のコードがのびていて、そのどちらかを切れば……爆発は止まるらしいです」

時田「なんだって……!?」

ハル「…………開けます」

ユキ「……たしかに……。赤と緑……って、もう時間が……!? あと2分!?」


(騙されないぞ……。今度ばかりは、絶対に……! 考えろ……"K"は"魔王"の犯罪を踏襲している。……ということは……ということは……! ヒントは、ヒントはもう……与えてある……。ヒントなんてあったか……?)

堀部「おおおい、宇佐美ちゃん!? どっちなんだ!?」

(わからない……!)

ユキ「ハル……!」

(わからない……わからない……!)

時田「もういい! 君たちは、速やかに遠くに逃げるんだ!」

(権三さんもいない……。京介くんもいない……。私はひとり……!)

堀部「逃げろぉ!!」

(わからない、どっちだ……! どっちなんだ!? ……私はもう、ひとりなんだ……)


ピーーーーーー……


ハル「え……」

ユキ「爆発、は……?」

堀部「不発に、終わったのか……?」

ハル「そんな……」

堀部「……ったく、驚かせやがってぇ……!」

ユキ「"K"の、ミス……?」

ハル「いや、そんなハズは……。ここまで用意周到に段取りを組んでおいて、肝心の爆弾に問題があるなんて……」

堀部「じゃあ"K"ってやろうは一体何がしたいんだ!? ……たしかに、おかげで葬式は滅茶苦茶になったがよぉ……!」

ハル「それが……それがわからないんです。でも、これで終わりじゃないハズです! "K"は必ず……」

(これで終わりじゃないはずだ……。ヒントは、かかってくる電話に注意……。電話はさっき"K"からかかってきた。さっきの"K"との電話の中で、"K"はなにか……重要なことを言っていたか……。思い出せ……思い出せ……!)


──時田の携帯電話が鳴る。


(携帯……? 違う! そういうことか……!)


ユキ「父さん? 携帯鳴ってる……」

ハル「その携帯を捨てるんだ!!」

時田「ユキー!! どけー!!」


──ッ!!


…………。

 

……。


"ジョーク"


……。


"K"「……ふふ、ヒント……。電話には気をつけたほうがいい……。別に、"誰に"とは言ってないからな」

???「おい、殺し屋……。どういうことか説明しやがれ……!」
K「携帯型爆弾だ。着信と同時に電流が流れて爆発する仕組みになってる」
???「そんなものいつの間に……」
K「ちょっとトイレに籠ってる間にな。昔から手先は器用な方でねぇ」
???「じゃあオレに運ばせたスーツケースは?」
K「あれはジョークアイテムだ。ジャガーノートって映画知ってるか?」
???「なぜこんな回りくどいことをする!?」
K「面白いから、だ」
???「ふざけるな……」
K「いや、会場は盛り上がったと思うよ? どっちのコードを切ればいいのか悩んで、苦しんで。当てずっぽうな推理を働かせて……。その挙句、思わぬところで爆発が起こるんだからな。……さて、ニュースニュース、と。……死傷者数名か……。ま、時田彰浩が死んだのは間違いないよな」
???「時田ユキと宇佐美ハルは!?」
K「生きてるかもなぁ……。手紙のヒント通り、爆弾の殺傷範囲はせいぜいが数メートルってところが限界なんだ」
???「……この野郎……! とっとと仕事を──」
K「優先順位、って知ってるか? 宇佐美や時田ユキなんていつでも殺せるんだ。"魔王"もそのへんをキチンとわかってた。だから浅井権三を先に殺したんだよ」
???「いいからやることをやれ!!」
K「……ははは」
???「……なに笑ってやがる!?」
K「言ったはずだ。俺のやり方に口を出すな……」
???「……お、おい……! なんだ、なんの真似だ!?」
K「人間には、分ってモノがある。みんなそれぞれ出来ることと出来ないことがある。依頼人には依頼人の……。殺し屋には殺し屋の分、ってもんが……!」
???「なっ!? やめろ──」


──ッ!!


K「のこのこと殺し屋の家にお邪魔しちゃダメだろう? ……安心しろ。お前の望み通り、宇佐美と時田は殺してやる。…………さてさて、首尾よく時田彰浩を殺せたことだし。俺を疑う奴はもういない。鬱陶しい依頼人も死んだことだし、ちょっと羽目をはずさせてもらうかな。……まだまだ遊んでやるとしよう。次はもっと派手に……!」


……。

"復讐の連鎖"


……。


ハル「……あ、ユキ……。お父さん、どうだった?」
ユキ「……意識不明、面会謝絶。……助かっても、もう起き上がることはできないだろう、って」
ハル「……っ! ごめん……」
ユキ「謝ること、ない……」
ハル「でも……ごめん……!」
ユキ「……ごめん、って……。なにアナタ? もし、もう一度京介くんに会ったときもそうやって謝るの?」
ハル「え……」
ユキ「なに? そうやって、赤ん坊にまで謝ってるわけ?」
ハル「……っ!」
ユキ「許されようとしないで。子どもを作ったのは、あなたと京介くんでしょ? 許されようとしても、なんの慰めにもならないわ……っ……!」
ハル「……ユキ」
ユキ「……ごめん……ちょっと、私。おかしい……無視して……。どっか……どっか行って!」
ハル「……うん。……じゃあ、後で……」


……。


ユキ「……っ……うぅ………父さん……。ごめんね、父さん……。なんにもしてあげられなくて……。……うぅ……」


(みんな辛いんだ……。私だけじゃない。"魔王"が死んで、終わったと思ったのに……。終わってなかった。"K"……。憎むべき敵……。私はモチロン、ユキも"K"を許さないだろう。……でも、この復習の連鎖は……。一体いつまで続くのか……。この子を……どうすればいいの……? 京介くん……)


……。

 

 

─償いの章─ 第二巻 end