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-ノベルゲーム・タイピング-

Steins;Gate DramaCDα -哀心迷図のバベル- ダイバージェンス 0.571016%

このブログは音声を文字起こししていますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身で視聴してください。

ご意見・ご要望がありましたら
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Twitter─ @Zippydle_s
まで連絡下さい。


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Steins;Gate DramaCDα -哀心迷図のバベル- ダイバージェンス0.571016%


それは、未来へのタイムトラベル。

電話レンジでは出来なかったこと。

そして、誰もが出来ること。

伝えられなかった言葉は

いつか、未来へと……届くんだろうか。


……。


紅莉栖「あ、いたいた。岡部、こんなところで何してる?」
岡部「……いや。よくここがわかったな」
紅莉栖「一人になりたいって言ってたから。確率的に見て、ここに一番居そうって解を導き出した」
岡部「だったら……。一人にさせてくれ。わざわざ探さなくていい。俺は迷子の子どもじゃない」
紅莉栖「……なによ。せっかく人が心配して探しに来たのに。……私だって、あんたのことなんて放っておこうかと思った。……ただ、一昨日の岡部……なんだか変だったから。まぁ、いつも変なんだけど! いつも以上に、って意味で! クソまずいオートミールを食べてるときみたいなしょげっぷりじゃない? ……なにがあった?」
岡部「……なにも」
紅莉栖「だったら……。なんでSERNへのクラッキングをやめたの?」
岡部「お前だって……。クラッキングは良くないと言っていただろ」
紅莉栖「タイーホフラグが立ってビビったんですね、分かります」
岡部「せめて遵法精神に目覚めたと言ってくれ」
紅莉栖「全然らしくないな。いつもの独善的な態度はどこへいったのよ? 狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真のくせに──」
岡部「独善的でなんていられるか!」
紅莉栖「……っ」
岡部「……今回ばかりは、独善的じゃいられないんだ。仲間のどちらかを見殺しにするという決断を前にして……独善的でいられたら……。むしろ、どれだけ楽だっただろうな」
紅莉栖「……どちらかを見殺しにって……。どういう意味? 答えて岡部。どういう意味なの……?」
岡部「どうしても言わないとダメか?」
紅莉栖「さんざん相談に乗ってやったでしょ? いまさら遠慮なんてするな」
岡部「だったら、覚悟してくれ。……これから話すことは、相談じゃない……事実だ。お前にとっては、死亡宣告になる」
紅莉栖「え……」
岡部「…………まゆりを救おうとするなら、俺は……お前を見殺しにしないといけないんだ」


……。


Steins;Gate DramaCDα -哀心迷図のバベル- ダイバージェンス 0.571016%


……。


8月15日 15時04分

秋葉原中央通りを歩行中。

どうやら私は、

近い内に世界から消えてしまうらしい。

岡部は、まゆりを助けるために過去を改変して──

現在を書き換えている、って言った。

正確には、元の世界へと軌道修正している……って。

そして最終的に行き着くのは、

私が7月28日に死んだ世界。

その世界線では、

今行きている私の存在は矛盾する。

岡部の選択によって、

私は世界から排除される。

……消えるって、

一体どんな感覚なんだろう。


……。

 

 

 

 

紅莉栖「……この声は、まゆり? ……まゆり! おーい、まゆりー! ……まゆり! ねえ、まゆり! ……っ……ちょっと、通してください! まゆり! こっち! ……ねえ! 聞こえないの!? 私……ここにいるんだよ──」


私、ここにいるのに……。

これが、消える……ってこと……?

だとしたら──


まゆり「あー! 紅莉栖ちゃんだー! おーい!」


──私は……。


……。


フェイリス「お帰りニャさいませ、ご主人様♪」

まゆり「フェリスちゃん! トゥットゥルー♪」

フェイリス「フニャ? まゆしぃ、どうしたニャ? さっきバイト終わって出て行ったばっかりニャのに」

まゆり「えへへー、忘れ物をしちゃったのです」

フェイリス「ニャハー、おっちょこちょいだニャー。でも、そんなまゆしぃに萌え萌えニャーン♪」

まゆり「でねー、すぐそこで紅莉栖ちゃんに会ったから連れてきたのー!」

フェイリス「おぉー! あなたが噂のクリスティーニャ? 話はよく凶真から聞いてるニャ」

紅莉栖「……」

フェイリス「……。まゆしぃ、まゆしぃ。すっごく暗い顔してるんニャけど……?」

まゆり「……うん、紅莉栖ちゃん最近元気ないみたい。オカリンもなんだか変だし……。まゆしぃは心配だよー」

フェイリス「ふむー……。えーっとぉ……クリスティーニャーン♪ おーい! 助手さーん! 蘇った不死身の戦士、腐りかけのゾンビー! セレブサイエンティストー!」

紅莉栖「……っ……それ全部、岡部──アイツが言ってたの?」

フェイリス「やっと反応したニャー」

まゆり「紅莉栖ちゃーん、大丈夫ー?」

紅莉栖「……ええ。なんでもないから。まゆりは、なにも心配しないで」

まゆり「うん……」

紅莉栖「それより、フェイリスさん……だっけ? 直接会うのは初めてよね? 同じラボメンなのに」

フェイリス「そういえばそうニャ! でも……。フェイリスとクリスティーニャンは、すでに魂レベルでは深く繋がっているのニャン♪ なぜなら……前世では決して結ばれない恋人同士という因果が……」

紅莉栖「……はぁ、なるほど。岡部と同じタイプか。妙な芸名使ってるのも納得した」

フェイリス「なに言ってるニャン? フェイリスは、フェイリスニャン! それ以外の名前はないニャン♪」

紅莉栖「メイド喫茶って、どこもこんな感じなの?」

まゆり「紅莉栖ちゃん興味あるー? だったらここで働いてみるといいよー」

フェイリス「最初は恥ずかしいかも知れないけど、だんだん気持ちよくなってくるニャ♪」

紅莉栖「だが断る

まゆり「今ならネコ耳を三つつけるニャー」

紅莉栖「どんな布団圧縮パックよ……!」

フェイリス「さぁ……ニャ! って言ってみるニャ♪」

紅莉栖「言わんわ!」

フェイリス「むー……残念ニャー」

紅莉栖「……調子狂うなー。そういう気分じゃないのに」

フェイリス「どういう気分ニャ?」

紅莉栖「さあね……」

まゆり「あ、そうだ! まゆしぃは忘れ物を取りに来たんだったよー。休憩室にあるかなー?」

フェイリス「一緒に探してあげるニャー」


……。


フェイリス「ニャー……。また誰かテレビつけっぱなしにしてるニャー。全くもうー」

まゆり「……あー、あったあったー! 探す必要もなかったよー」

紅莉栖「それって、ユリの花束じゃない」

まゆり「そうだよー。おばあちゃんのところに持っていくんだー」

紅莉栖「プレゼント? バースデーが近いとか?」

まゆり「……えっとー……うん、そうなのー」

紅莉栖「……そっか。おばあちゃん思いなのね」

まゆり「……えへへ。それじゃ、お母さんを待たせてるから。まゆしぃはもう行くね」

フェイリス「今度こそ、忘れ物はないかニャ?」

まゆり「大丈夫ー」

紅莉栖「ね、ねぇ……まゆり? 行っちゃうの? 私も──」

フェイリス「クリスティーニャンは、ゆっくりしていくニャー♪」

紅莉栖「ちょ、ちょっとー! くっついてこないで!」

まゆり「じゃあまた明日ね、紅莉栖ちゃん! トゥットゥルー♪」

紅莉栖「ふぇっ!? まゆりー!?」


……。


今日のまゆり……。

よそよそしかったように思うのは、

私の、気のせいよね……。


フェイリス「うぐぅぅぅ……クリスティーニャンは、フェイリスと二人きりなのは嫌かニャ?」
紅莉栖「あ、いや……。別にそういうわけじゃ……ない」
フェイリス「だったら、お店でなにか食べてくかニャ? おもてなしするニャー♪」
紅莉栖「悪いけど、そんな気分じゃないの。……私も退散するわ」
フェイリス「ふぇー、帰っちゃうのニャー?」
紅莉栖「……一人になりたいのよ、今は」


──『だから、私はオカルト研究家でもなければUFO研究家でもないと言っとるだろうが!』


……っ!?


フェイリス「フニャーハハハ……。びっくりしちゃったニャー。テレビは消すのニャー」
紅莉栖「ま、待って!」


─『そんなくだらない事を私に聞くな! ……全くふざけた番組だな!?』


ドクター……中鉢……。


フェイリス「ニャハハハ……。この人、まだこんなことやってるのニャ? 昔っから全く変わってないニャー♪」
紅莉栖「……けっこう、有名なの……?」
フェイリス「有名、っていうかー……。今は黒歴史になってるから、ここだけの秘密ニャんだけど……。フェイリスのパパと、ドクター中鉢は、親友と書いて“マブ”と呼ぶ関係だったのニャー」
紅莉栖「……っ……! ま、またまたご冗談を……」
フェイリス「本当ニャー。パパは15年くらい前まで、ドクター中鉢のとある研究に協力してたのニャ。 スポンサーとして、研究費を出してたくらいニャ♪」
紅莉栖「……本当に?」
フェイリス「うん、フェイリス、嘘つかない」
紅莉栖「……っ……はあぁぁぁッ!? 親友ってなんぞ!? いつから!? きっかけは!? この15年はどうしてたの!? そもそも研究って──」
フェイリス「ニャー!? お、落ち着くニャ!」
紅莉栖「あ……ごめん……」
フェイリス「……もしかしてー……。クリスティーニャンは、ドクター中鉢のファンなのかニャ? ……だとしたらちょっと趣味を疑うニャー……」
紅莉栖「そ、そんなんじゃ……っ……ない。そんなんじゃ……」
フェイリス「ニャ?」
紅莉栖「……ねぇ。フェイリスさんは、ドクター中鉢のこと、なにか知ってる? どんなことでもいいから、教えて」
フェイリス「……ニャ、ニャー……。だったら、家に来るニャー♪ ……実は、歴史の闇に葬られた貴重な資料が存在するのニャ♪」
紅莉栖「えっ……。なにそれ?」
フェイリス「来れば分かるニャー! ニャフフ……」
紅莉栖「……行くわ」
フェイリス「決まりニャー! だったら、もうちょっとでバイトが終わるから待っててニャ♪」
紅莉栖「……」


もうすぐ自分の存在が消えちゃうっていうのに……。

なんて皮肉……。

いまさらパパのことを知る機会が、

まわってくるなんて……。


……。


フェイリス「さあさあ、遠慮せずに入るニャ」
紅莉栖「……!」
フェイリス「ニャー? どうしたニャ?」
紅莉栖「どうしたもこうしたも……。ここが貴女の家!? 秋葉原駅前の、超高級マンション! しかも最上階じゃない!? メイドがご主人様たちより良いところに住んでるとか、〇〇〇から注意されるレベルよ!?」
フェイリス「ニャフフ……。この窓から下界を見下ろして、フェイリスは日夜……考えてるのニャ。……もっと世界に“萌え”を広めてやるのニャ! ……約束の日、“プロミス・トライアングル”が訪れる……その時までニャー」
紅莉栖「厨二病乙。岡部もここに来たらやりそうね」
フェイリス「クリスティーニャン。なんか飲むかニャ?」
紅莉栖「気を遣わなくていい。この家、広いせいか……やけに静かに感じるわね。ご家族は、外出中?」
フェイリス「今日は黒木が風邪引いちゃって休んでるから、誰もいないニャ」
紅莉栖「黒木?」
フェイリス「うちの執事ニャ♪」
紅莉栖「あー執事ね! あるあr……ねーよ。……今、執事って言った
!? 羊さんじゃなくて!?」
フェイリス「黒木は、うちに20年以上仕える由緒正しい執事なのニャ」
紅莉栖「……あなたと話してると、現実と空想の区別がつかなくなるわ。……っていうか、あなたって家でもメイド服にネコ耳なの? 服とかたくさん持ってそうだけど」
フェイリス「フェイリスはメイド服しか着ないのニャ。ちなみに、クリスティーニャンの来てるその服もすっごく可愛いニャーン♪」
紅莉栖「ああ、これはちょっと制服を改造しただけだから。……私は、この7年間ずっと勉強と研究に明け暮れてて……。服なんて数えるくらいしか持ってなかった」
フェイリス「そうニャの? だったら、フェイリスの服をいくつか譲ってあげるニャー♪」
紅莉栖「ははは……。それも、良いかもね。最後ぐらい、とびっきりのオシャレをして……美味しいご飯を食べたいかも。最後の晩餐、ってやつか」
フェイリス「あっ! でもー……。サイズが合わないかもニャ!」
紅莉栖「……それはバストのことか……? バストのことかー!?」
フェイリス「身長の話ニャー♪」
紅莉栖「あっ……オーマイガ……。今のは忘れて」
フェイリス「……ニャフフフフ」
紅莉栖「その嫌らしい笑顔は、なんなの!?」
フェイリス「おっぱいはー……、モミモミすると大っきくなれるていう科学的な説があるニャー!」
紅莉栖「わー! ちょ、ちょっと! コラー! や、やめて──触るなー!」
フェイリス「ハァ、ハァ……。よいではないか、よいではないかー!」
紅莉栖「やめろっていっとろーがッ!」
フェイリス「もー、照れることないのにー!」
紅莉栖「はぁ、はぁ……。はいはい、セクハラセクハラ! なにが科学的な説よ! バカじゃないの……! ……せれより、早くあなたのお父さんとドクター中鉢のこと、教えて」
フェイリス「クリスティーニャンはお堅いニャ。……じゃあ、わかったニャ。ちょっと待ってニャ♪」


……。


フェイリス「これニャ」
紅莉栖「……これって、"ビデオテープ"? でも……小さい」
フェイリス「"カセットテープ"ニャ。音を録音するものなんだニャ。二十年くらい前は、これで音楽を聴くのが普通だったニャ♪」
紅莉栖「……ふーん、初めて見た。それで、この中にはなにが?」
フェイリス「フェイリスのパパと、ドクター中鉢の会話ニャ」
紅莉栖「……よくそんなもの残ってたわね」
フェイリス「うん! フェイリスのパパは……っ……」
紅莉栖「……なに?」
フェイリス「……ニャハハ……なんでもないニャ! パパは、大学生の頃からボイスレコーダーを日記代わりにしてたのニャ。テープは、本当はもっと沢山あったんだニャ。それこそ、二千本以上なのニャ。でも、十年前にぜーんぶ処分しちゃってもう聴けないニャ……。だけど、この一本だけ、パパが書斎で使ってたテーブルに隠してあったんだニャ。ここに引っ越してくるとき、たまたま見つけたのニャ」
紅莉栖「……このテープ、日付がついてるのね。平成、6年……」
フェイリス「16年前……。パパが28か9の頃だニャ」
紅莉栖「……じゃあ、あなたのお父さんと中鉢って、同い年なのね」
フェイリス「ハニャ? 確かにそうだけど……。なんでクリスティーニャンは中鉢の歳を知ってるのニャ?」
紅莉栖「ふぇっ!? そ、それは、そのー……。ほら、あれよ! 非ユークリッド空間における位相構造を、座標とベクトルから割り出して、射影空間を考えた結果から導き出したというか……なんていうか」
フェイリス「な、なんてことニャ! その計算で出る答えは、悪魔の数字ニャ! クリスティーニャン! それは禁断の数式ニャン! なんでそんなことを……」
紅莉栖「……い、いいから! 早く聴かせてよ!」
フェイリス「……じゃあ、カセットデッキをセットして、っと」
紅莉栖「……よくこんなの残ってたわね」
フェイリス「……パパは、レトロPCやレトロ家電の収集マニアなのニャ♪ っと、準備完了ニャ! クリスティーニャン、覚悟はいいかニャ? これを聴いたら、後戻りできな──」
紅莉栖「そういうのはもういいから」
フェイリス「……冗談を言ってるわけじゃないニャ」
紅莉栖「……どういうこと?」
フェイリス「パパたちは……とんでもないものを、作ろうとしてたのニャ」
紅莉栖「……っ……」
フェイリス「これから聴くことは、誰にも話しちゃ駄目ニャ。それが、テープを聴かせる条件ニャ」
紅莉栖「……安心して。誰にも、言わない。どうせ私はもうすぐ、消えるから……」
フェイリス「ニャ? ……消える?」
紅莉栖「な、なんでもない。とにかく、約束する。誰にも……言わない」
フェイリス「うん……。信じるニャ。ラボメン仲間として。じゃあ、再生するニャ! ポチっとニャ!」

 

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幸高「あ、あー……。テス、テス。今日の秘密会議は、秋葉原の喫茶店にて」

──「こら幸高。そこは"相対性理論超越委員会"だろうが」

幸高「わかったから座ってろよ、章一」
章一「……っ……。私を本名で呼ぶな!」

──「芸名か……。アタシも前はそんなことしてたな」

幸高「そうなんですか? 橋田教授!」

章一「どんな名前だったんです?」

橋田「それは秘密」

 

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フェイリス「ちなみに、幸高っていうのがフェイリスのパパで、章一っていうのがドクター中鉢の本名ニャ」
紅莉栖「……知ってるわよ、そんなこと」
フェイリス「橋田教授は……。誰かわかんなかったニャ。黒木もあったことないっていう、謎の人物ニャ」
紅莉栖「橋田、って……。まさか、あのスーパーハカーの親戚? もしかして、母親とか」
フェイリス「ダルニャンのお母さんには会わせてもらったことあるけど、全然違う声だったニャ」
紅莉栖「一先ず、この件は捨て置くわ。先を聴かせて」
フェイリス「了解ニャ!」

 

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章一「私のことは、"プロフェッサー中鉢"と呼びなさい。それが今の私の世を忍ぶ名だ」

幸高「君がプロフェッサーだと、橋田教授と被るじゃないか。……あ、ドクターとかに変えないか?」

橋田「私はプロフェッサーと名乗るつもりはないよ、秋葉 幸高」

章一「そもそも科学者としては、ドクターというのは違和感がある」

幸高「そうか? ドクター中鉢……。なかなか悪くない語感だと思うが……。だったら本名にするか」

章一「それは危険だ。タイムマシンが完成したら、きっと学会の刺客が私の命を狙ってくるだろう。それではこの中鉢の名をくれた師匠に申し訳がない」

幸高「その師匠って誰だい?」

橋田「アタシだったりして」

章一「それはない」

橋田「じゃあ誰?」

章一「秘密です」

幸高「つまり、いつもの妄想なんだろう?」

章一「も、妄想とは失礼な! 私の心の師匠は昔からアインシュタインと決まっている!」

橋田「そもそもさー、なんで"中鉢"なの?」

章一「鉢の中心は宇宙を示す究極の形だと気づいたのだ」

幸高「……はい。というわけで、定例会議を始めよう」

章一「おい! 無視するな!」

幸高「ドクター中鉢、聞かせてくれ。研究が始まってかれこれ8年ほどは経とうとしているが……。まだアレの完成は見えないのかい?」

章一「そもそもたった8年で"カー・ブラックホール"を作ろうなど、無理に決まっとるだろう……。もっと長いスパンで考えろ」

橋田「そうだよ、秋葉 幸高。ドクター中鉢くんは良くやってくれてる」

章一「……二人とも、ドクターと呼ぶのはやめてくれないか」

幸高「最近、不況のせいで僕の会社も厳しくなりつつある。資金提供はなるべく続けたいが……」

橋田「…………潮時かなぁ」

章一「……へ? 橋田教授? どういうことです?」

橋田「これ以上続けても、無駄だってこと」

章一「そんな……!?」

章一「中鉢くんは良くやってくれたけど……。やっぱさ、個人の研究じゃ限界があったんだ……。ごめんね。8年前、アタシが学生だった君たちを焚きつけなければ──」

幸高「それは教授のノートを勝手に見た中鉢がきっかけです! 責任を感じる必要はありませんよ!」

章一「……っ! そのことは、もう時効だろう! だが教授、私は諦めたくない! 私たちの研究は、タイムマシンを作ることは全人類の夢なんだ! 考え直してください!」

幸高「……いずれにしても、資金はこれまで通りには出せない。研究規模は縮小になる」

章一「……っ……」

橋田「そういえばさ、まだ聞いていなかったっけ。中鉢くんはどうしてタイムマシンを作りたいの?」

章一「そ、それは……。トップシークレットだ。敢えて言うなら、ただ名誉のために」

橋田「ケチ、教えてくれてもいいじゃん」

章一「国家機密というやつですよ。それに、世の中には決して触れてはいけない
ことがある」

幸高「教授、彼は人類が火を起こした瞬間を見たいそうですよ」

章一「こ、こら! 幸高! 余計なことを!」

幸高「別に隠すことじゃないだろう?」

橋田「中鉢くん……。君さ、ロマンティストだね」

章一「あれほど言うなと……。そういう幸高はどうなのだ?」

幸高「ビジネスだよ。それ以外になにがあるっていうんだ」

章一「……夢もロマンもない奴め」

幸高「失敬な! ビジネスだって夢とロマンに溢れているんだぞ!」

橋田「確かにそういう現実的な視点は必要だよね。秋葉 幸高らしいや」

幸高「橋田教授は、どうして?」

橋田「アタシは……」

章一「そもそもタイムマシンが作れると私たちに教えてくれたのは、教授……あなたです。前から思っていたが貴女まるで、実物のタイムマシンを見たことがあるかのようだ。……もしかして、既にタイムマシンは存在している?」

橋田「……アタシはただ、過去へ……。いや、未来に……。忘れ物を届けに行きたいだけ。……孤独にその時を待ち続けるのってさ……けっこうキツいんだ」

幸高「……なんの話です?」

橋田「いつかわかるかもね。君たちにも」

章一「……ともかく、私たちは今もタイムマシンに夢を抱いている! それを捨てるのは嫌だ!」

橋田「だけどさ中鉢くん。君だって家族がいるんだし、いつまでも夢を追っているわけにはいかないでしょ?」

幸高「それは確かに。不幸だよ、不幸。年頃の娘さんにとって君のような男が父親なんだからな」

章一「ハハハハッ! そんなことはない! 我が娘は幸せいっぱいだ! 聞いて驚け? この前なんと足し算の数式に興味を示していたのだ! まだ2歳だというのに! これは凄いことだぞ、さすが私の娘! 将来有望だ! はっははははは!」

幸高「ドクターは親バカだね」

章一「お前の娘はどうなんだ幸高。去年生まれたばかりだろ?」

幸高「いやぁ、仕事でなかなか一緒にいてやることができなくてね。あまり顔も見てやれない」

章一「タイムマシンを作れば、娘の生まれた直後にだって戻ることができるぞ。なあ、それはとても素晴らしいことだと思わないか?」

橋田「……うん。そうだね。そんなロマンティストな中鉢くんの娘さんは……幸せ者だ」

 

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フェイリス「……ここまでニャ」
紅莉栖「この三人がやろうとしていたことは、未来ガジェット研究所と……。私たちと同じだ……」
フェイリス「タイムマシンを作ろうとしてたなんて、驚きだニャ……。あ、そういえばこの前、ラジ館でタイムマシン完成発表会をやろうとして、中止になったんじゃなかったかニャ? あれから、どうなったかニャー」
紅莉栖「……っ……」


いつからだろう。

私とパパの仲が、険悪になったのは……。

私はただ、パパに褒められたかった。

そのためにパパの論文を読み漁り、

内容を理解するために、独学で物理を勉強した。

でも、あの日……。

私の、11歳の誕生日……。


中鉢『満足か……。その歳でことごとく私の論文を論破して、満足なのか!? ふざけるな!! お前など、この世に生まれてこなければ良かったのだ! 私はお前が否定したタイムマシンを絶対に完成させてやる! そしてお前という存在をこの世から消し去ってやるからな!!』


もう……7年も前のこと。

それ以来、私はパパと会っていない。


フェイリス「このテープ、久々に聴いたけど……。ドクター中鉢って、凶真に似ているって思わないかニャ?」
紅莉栖「岡部に……? 言われてみれば、そうかも……。私って、もしかしてとんでもないファザコンだったのかな」
フェイリス「で、クリスティーニャンは中鉢さんとはどんな関係なのニャ?」
紅莉栖「それは……。あなたには関係ない。詮索しないでくれると助かる」
フェイリス「んニャー……。せっかく極秘のテープを特別に聴かせてあげたのにー!」
紅莉栖「……。ねぇ、フェイリスさんは大好きな人に酷いこと言われたことある? お前なんか消えてしまえ、とか。そんな様なこと……」
フェイリス「……え?」
紅莉栖「あなたは、自分がこの世界に必要な人間だって……。断言できる?」
フェイリス「……」
紅莉栖「私は……わからない。わからなくなった……。誰かに自分という存在を認めてもらいたくて、忘れてもらいたくなくて。でも、本当は必要とされていないんじゃないかって……。凄く不安で……」
フェイリス「消えてしまえ、か……。たしかにひどい言葉ニャ。でも、絶対! それは本心じゃないニャ」
紅莉栖「……そうかしら」
フェイリス「言った本人も、後悔しているはずニャ……絶対に……」
紅莉栖「……」
フェイリス「……フニャー! もどかしいニャ! 悩んでても、なにも始まらないニャ! そういうときは、話し合ったほうがいいニャ♪ いきなり仲直りは出来なくても、想いを伝えれば、あとは時間が解決してくれるニャ!」
紅莉栖「時間は……。もう残ってないのよ」
フェイリス「……よくわかんないけど、電話ならすぐニャ♪ とにかく、話をしてみるのニャ! 向こうも、後悔しているかもしれないニャ。さあ、善は急げニャ!」
紅莉栖「そ、それは……。無理よ……。だって、この前電話したときもかけてくるなって言われたし……」
フェイリス「想いは伝えたのかニャ?」
紅莉栖「……伝えてない、けど」
フェイリス「今度こそ伝えるニャ! ほら!」
紅莉栖「どうせ……。無駄だと思う」
フェイリス「……クリスティーニャン?」
紅莉栖「…………だから、一方的に一言。謝るだけにする」
フェイリス「……うん。それで充分ニャ」
紅莉栖「どうせ、失うものなんて……もう無いしね……」


電話をかける紅莉栖。


……。


──『誰だ?』


紅莉栖「……っ……! あ、あの……」
中鉢『紅莉栖か……』
紅莉栖「……っ! なんで、わかったの……?」
中鉢『わからないはずがないだろう。その声……忘れられんよ』
紅莉栖「そう……そうだよね! 親子だもんね!」
中鉢『勘違いするな』
紅莉栖「……え?」
中鉢『もう電話するなと言っただろ。そうか……。また笑うつもりなんだな? 今度はバラエティ番組に出た私をあざ笑うのか? もう研究者でもなくなってしまったこの私がそんなに可笑しいか!?』
紅莉栖「ち、ちがうの! パパ、聞いて!」
中鉢『いいか……。タイムマシンの理論はもう出来ているのだ。絶対に完成させてやるぞ! 完成したら、過去に遡って全てを無かったことにしてやるからな!』
紅莉栖「……パパ。パパ聞いて、私──」
中鉢『よく覚えておけ……。貴様という存在はもうすぐ消えてなくなるのだ!』
紅莉栖「……ねぇ、パパ……。私のこと、憎んでる……?」


……ガチャ。

……ツー。……ツー。


紅莉栖「それが、パパの望みなら……もうすぐ叶うから……。だから、私のことなんて……。二度と、思い出さなくても……いいよ」


電話を切る紅莉栖。


フェイリス「……クリスティーニャン?」
紅莉栖「……っ……。やっぱり、駄目だった」
フェイリス「諦めたら駄目ニャ! このままじゃ、きっと後悔する──」
紅莉栖「もう放っといて」
フェイリス「なに言ってるニャ! そんなこと出来るわけないニャ!」
紅莉栖「いいの! どうせあなたももうすぐ、私がここにいたことを忘れるから。……無駄なの。そんなに干渉したって意味がない。エネルギーの無駄よ」
フェイリス「……っ」
紅莉栖「そもそも私、なんで貴女みたいなニャンニャン語で喋る変な人にマジレスしてるんだろ」
フェイリス「……クリスティーニャン」
紅莉栖「その呼び方も嫌い……」
フェイリス「……フェイリスは、フェイリスはクリスティーニャンが心配ニャン!」
紅莉栖「……今日は、ありがとう。貴女のお父さんのテープ……。聴かせてくれて。もう、帰るわ」
フェイリス「あ…………また、いつでも──」
紅莉栖「もう二度と会うこともない」
フェイリス「えっ……」
紅莉栖「……さよなら。元気で」
フェイリス「く、クリスティーニャン!」


……。


私……。

最低だ……。


……。


このままじゃ、

私はどんどん最低な女になっていく気がする……。

だから私は、秋葉原を離れることに決めた。

岡部には……私じゃなくて、まゆりを助けてほしいから。

まゆりを……見殺しにしてほしくないから。


私は──


……。

 

紅莉栖「見送りは、ここまででいい」


8月17日 7時2分。

秋葉原駅


岡部「本当に、行ってしまうのか?」
紅莉栖「辛気臭い顔してんじゃないの。らしくないな、鳳凰院凶真ともあろう男が」
岡部「……通勤客に紛れて、というのが慌ただしいな」
紅莉栖「……しょうがないよ」
岡部「……しょうがないか」
紅莉栖「なに、ジッと見てるのよ」
岡部「……俺は、お前が好きだ」
紅莉栖「……うん。ねえ、岡部。今のアンタの顔、鏡で自分で見てみたら? きっと死にたくなると思うから」
岡部「……っ……紅莉栖」
紅莉栖「……悩んで……悩んで……。悩み続けて、どうにか私を助ける方法を考え続けて……。憔悴して……でも、駄目だった。……そんな顔。泣き出しそうな、子どもみたいな顔。岡部、私は…………なんでもない。岡部がそこまで悩んでくれて……。ゆうべ、私にキスをしてくれたから。もう、我がままは言わない。これ以上誰にも憎まれたくないの……。岡部やまゆりとは、今の良い関係のままで、終わりたいの……。私が黙って消えていけば、全部が丸く収まる。岡部……! まゆりを、お願いね」
岡部「……ああ、任せておけ」
紅莉栖「それじゃあ」
岡部「まゆりとダルは、本当に呼ばなくていいのか?」
紅莉栖「……なんだか、みんなに見送られると辛くなるから。岡部だけなら、なんの躊躇いもなく日本を発てる! ……ジョークよ」
岡部「……手土産だ、持っていけ」
紅莉栖「……? これ、未来ガジェット?」
岡部「2号機の、"タケコプカメラー"だ」
紅莉栖「……ふ、いらねぇ。でもしょうがないから、受け取っておく」
岡部「青森、一緒に行けなかったな」
紅莉栖「……うん。でも、この2週間……なんだかんだで楽しかった。まゆりや、橋田によろしくね。……岡部、頑張って」
岡部「……元気で」


──紅莉栖が歩き出す。


岡部「……俺は! 牧瀬紅莉栖のことを、牧瀬紅莉栖の温もりを、絶対に忘れない!」

紅莉栖「……ありがとう、岡部。でも私は、世界から否定された人間だから……。ここに存在したらいけない人間だから……。お願い、私のことを……忘れて。そしたら、私も……スッパリと……諦められる」


……。

 

 

 

 


8月17日 12時──

えっと……何分でもいいか。

あれからもう、5時間近く経ってるのに、

なんで秋葉原にいるんだか……。

たぶん、どこに行ったって私にとっては意味はないんだけど。

岡部は、まだ世界戦を変えてないのね。

変えたら、私は消えてしまうはず。

こうして何かを考えることも出来なくなる。

……まるで、死刑執行を待ってる気分。

ねえ、岡部。

早く、私を消して──


──「こんなところにいたんだ」


紅莉栖「……? フェイリスさん……」
フェイリス「ひどい顔。ゾンビみたい」
紅莉栖「……」
フェイリス「隣、空いてるよね?」
紅莉栖「……座っていいなんて言ってない」
フェイリス「駅のホームにあるベンチは、貴女のものじゃないよ。それに、猫はきまぐれなの」
紅莉栖「なんで、ここに……?」
フェイリス「迷い猫を探してた」
紅莉栖「私は迷い猫じゃない」
フェイリス「じゃあ、野良猫」
紅莉栖「案外、ヒマなのね」
フェイリス「今頃は、雲の上かと思ってたけど?」
紅莉栖「……キャンセル待ち」
フェイリス「ここは空港じゃなくて、秋葉原駅だよ」
紅莉栖「……悪い?」
フェイリス「あ、開き直った」
紅莉栖「悪い?」
フェイリス「……悪くない」
紅莉栖「いつものニャンニャン語はどうしたのよ」
フェイリス「秋葉 留未穂。……よろしくね」
紅莉栖「……は?」


留未穂「私の名前」
紅莉栖「……この前、私が言ったことを気にしてるなら謝る。だから放っといて」
留未穂「やだ!」
紅莉栖「……やだ、って。一体なんなのよ?」
留未穂「あなたを探してたのはね、あなたと中鉢さんのこと……放っておけないから」
紅莉栖「……余計なお世話よ。あの事はもう解答が出てる」
留未穂「あれから、一度も電話してないの?」
紅莉栖「……するわけない」
留未穂「……怖いんだ」
紅莉栖「悪い!? 私はもう、どこにも行き場がないの。何をしたって、もう肯定はされないのよ!」
留未穂「……まったく、しょうがない子だなぁ。これ、貴女にあげる」
紅莉栖「なに、これ? ……きれいなラッピングだけど。……ちょっと潰れてるわけだが」
留未穂「あげる、っていうか。返す、って言ったほうが正しいかも」
紅莉栖「……どういうこと?」
留未穂「開けてみて」
紅莉栖「ここで?」
留未穂「ここで!」
紅莉栖「なにも、こんなところで」
留未穂「いいから!」
紅莉栖「……もう。……これ、フォーク? ちょっと子どもっぽいけど。……そういえば、岡部に話したことあったっけ。私が今一番欲しい物はマイフォークだ、って。……まさか、アイツから聞いたの? それで私に気を利かせて?」
留未穂「ううん。それ、私からじゃないよ」
紅莉栖「え?」
留未穂「これ。リボンのところに挟んであったカード。読んでみて」
紅莉栖「……11歳の誕生日、おめでとう……っ……! パパより……」
留未穂「牧瀬章一……。ドクター中鉢の本名をググったら、すぐ出てきたよ。……親子だったんだね。……まあ、この前一緒にテープを聴いたときから薄々はそうじゃないかって思ってたけど」
紅莉栖「……11歳の誕生日プレゼントということは、7年前……。パパに、私の存在を否定された日……」
留未穂「実は、そのプレゼント……。今朝、黒木から渡されたんだ。貴女の11歳の誕生日……。たぶん貴女とケンカした後、家に来たんだって……中鉢さんが。そのプレゼントを握りしめたまま……疲れた顔してたって。黒木が言ってた」
紅莉栖「……パパが?」
留未穂「……中鉢さん、かなり荒れてたみたい。娘にプレゼントを買ったのに、無駄になったって」
紅莉栖「この箱のへこみ、きっと床にでも叩きつけたのね……。それが答えよ。あの日、私は決定的にパパの憎しみを買った。もう修復なんてできない。……証明終了」
留未穂「それは違うよ! って、わたしはそう言いにきたの」
紅莉栖「なにが違うの? この前の電話、聞いてたでしょ!?」
留未穂「貴女は、否定なんてされてない!」
紅莉栖「されたじゃない! それに今さらそんなの、どうでもいいわ!」
留未穂「どうでもいいなんて! 言っちゃ駄目だよぉ!」
紅莉栖「……なんで? なんで、そんなに干渉してくるの!? いくら父親同士が友達だったとはいえ、所詮は他人の家族の問題でしょ!?」
留未穂「……他人事じゃないからっ! ……私のパパね、もう……いないの」
紅莉栖「……えっ?」
留未穂「10年前……。死んじゃった。飛行機事故でね。私の、8歳の誕生日に」
紅莉栖「……っ……」
留未穂「……私が、最後にパパに言った言葉……なんだと思う? ……『パパなんて、死んじゃえばいいんだ』……」
紅莉栖「……!」
留未穂「そしたら、飛行機事故に遭って……本当にそうなっちゃった。私はもう、パパに謝ることもできないの!」
紅莉栖「……っ………」
留未穂「だから、貴女を見てると他人事だと思えなくて……。貴女の苦しみも、後悔も、どっちも……わかるから」
紅莉栖「私は……」
留未穂「だけど、それだけじゃないよ。ちゃんと、根拠はあるの」
紅莉栖「根拠?」
留未穂「この前、私の家で聴いたテープ……覚えてる? 実はあれ、もう一度聴いてみたら、B面にもちょっとだけ声が吹き込まれてたんだ。……7年前に家を訪ねてきた中鉢さんは、パパのテープを懐かしそうに聴いてたらしくて。だから、きっとそこに吹き込まれていた言葉は、あなたのお父さんが7年前に言えなかった言葉だと思う」
紅莉栖「言えなかった、言葉……」
留未穂「携帯型のカセットプレイヤー、持って来たんだ! 凄いでしょ? こういうレトロ家電は家に一通り揃ってるんだよ。……さあ、聴いてみて」
紅莉栖「……」

 

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中鉢「2003年 7月25日 だい……だい……何回目だったかな。とにかく、相対性理論委員会……。もう、幸高も橋田教授もいない……。二人とも亡くなってしまった……。あの頃の私たちはあんなにもタイムマシンを作ろうという夢に溢れていたのに……。あの頃に戻りたいよ。そしたら、今度こそ絶対にタイムマシンを作ってみせる。……娘に論破されないような、完璧なタイムマシンを……。なあ、幸高。それでだ……私は、俺は、タイムマシンを使ってやりたいことがあるんだ。今日、娘にひどいことを言ってしまった……。あの瞬間に戻って、自分に言ってやるんだ。娘を、紅莉栖を傷つけるなと……。感情に身を任せて、家族の絆を壊すなと……。俺はあんなこと、言いたくなかったんだ……」

 

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紅莉栖「パパ……っ」
留未穂「ね? あなたは存在を否定されたりなんて、してないんだよ。あなたは、ここにいてもいいの!」
紅莉栖「……っ……うぅ……!」


言えなかった言葉。


伝えられなかった気持ち。


その時、思い浮かんだ顔は──


紅莉栖「フェイリスさん……。ううん、留未穂さん。私ね、私もパパみたいに、伝えてない気持ちがあるの。言えなかった言葉がある。それは、伝えちゃいけない言葉なんだ、って思ってた。伝えないまま、心の中に閉じ込めて……消し去ろうとしてた。でも……」
留未穂「……紅莉栖さん。忘れ去られた言葉はね、伝えられなかった言葉はね、それでも残しておけば……。いつかきっと、誰かが見つけてくれるはずだよ! パパが死んじゃった後、私がこのテープを見つけたように。7年前のお父さんの言葉を……。今、貴女がこうして聴けたように。伝えたい、って思っていれば……それはきっと届くよ! だから、今から行っておいでよ。凶真のところ!」
紅莉栖「……全部お見通しなのね」


フェイリス「それこそが、フェイリスの魔眼"チェシャ猫の微笑(チェシャー・ブレイク)"の、能力なのニャン!」


紅莉栖「はいはい! ……走れば、間に合うかな」
フェイリス「大丈夫、きっと!」
紅莉栖「じゃあ……行ってくる!」
フェイリス「いってらっしゃい! それで、またこの町に遊びに戻ってきてね。クリスティーニャン♪」
紅莉栖「ふふ、私はクリスティーニャンでも助手でもないわよっ!」
フェイリス「うん! ふふ」


……。

 

ねえ、岡部……。

私は……勘違いしていた。

勘違いしたまま、自分の殻の中で自分を憐れんでいた。

でも、今さらわかったの。

パパが教えてくれたの。

私は、ここにいてもいいんだって。

私の大好きな人たちがいる。

大好きだって言ってくれた人たちがいる。

岡部も、まゆりも、留未穂も。


あとついでに橋田も


岡部……。

こんなの全然論理的じゃないし、それこそファンタジー丸出しで……。

これまでの私なら考えもしなかったけど……。

ラボメンとして、この秋葉原で二週間を過ごしてきた今の私は。

今の私だから……岡部を信じる。

岡部なら、きっと幸せな結末にしてくれるって。

私も消えなくていい。

まゆりも死なない。

そんな世界に辿り着いてくれるって。

そのときまでのお別れをする前に……。

まだ伝えていない、さよならを言わなきゃ。

私の中に、この二週間で芽生えた……。

大切な気持ちを、伝えなきゃ。

私の現在が消えてしまっても……。

私が過去に残した言葉はきっと、未来へと届くはずだから。


そう、これは──


未来へのタイムトラベル。

電話レンジでは出来なかったこと。

そして、誰もが出来ること。

あんたの心に残しておきたい。

いつか……。

どこかの世界線の私を、見つけてもらうために。


……。

 

「さよなら! 私も、岡部のことが──大好き!」