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あの日、私の彦星さまが復活していれば……。
すべては変わっていたかもしれない。
でも、その時の私は……。
悲しいくらいに傍観者でしかなくて。
手を伸ばせば、空のアークライトにだってきっと届くと……無邪気に思っていた。
鈴羽「オカリンおじさん……。その世界線、“運命石の扉(シュタインズ・ゲート)”は……未知っていうくらいだから、どんな未来が待っているのか誰も知らない。もしかしたら、第三次世界大戦が終結した後で、ディストピアが構築されるかもしれない。……もしかしたら、牧瀬紅莉栖はオカリンおじさんが助けた二日後とかに死んじゃうのかもしれない。……もしかしたら、オカリンおじさんは2025年じゃなくて一週間後に死んじゃうかもしれない。でも同時に、もしかしたら2036年になるまで第三次世界大戦が起きないし、ディストピアも構築されないかもしれない。牧瀬紅莉栖も、他の誰も死なないかもしれない。素晴らしい未来が待っているかもしれない。少なくとも、私がいた2036年でもなく、α世界戦のアタシがいた2036年でもなくなるのは確か。……先が見えない、“完全な未知”。それでも行ってくれるなら、それでもアタシと一緒に7月28日へ飛んでくれるなら……この手を握って」
岡部「……やるよ。結局、俺がお前の手を握るように運命は収束するんだろ?」
鈴羽「……ありがとう、オカリンおじさん。じゃあ、乗って!」
まゆり「オカリン! 絶対帰ってきてね! 行ったまま戻ってこなかったら嫌だよ」
岡部「別に違う世界に行くわけじゃない。過去にちょっと戻ってくるだけだ」
まゆり「……うん」
ダル「……なんかさ、変な感じじゃね? これがタイムマシンです、って言われてもまだ実感が沸かないわけだが。人工衛星って言われたほうがまだ信じれるっつーか……」
まゆり「……」
ダル「……ちょっ! なんかタイムマシンの中からケータイが飛んできた件について!」
まゆり「……え、あっ! これ、オカリンのケータイだ! オカリーン! これどうするのー!?」
岡部「えーと、預かっておいてくれ!」
まゆり「わかったー。……ねえ、ダルくん。タイムトラベルしたら、まゆしぃ達から見たオカリンはどうなっちゃうのかな」
ダル「ど、どうって?」
まゆり「今、この世界から電気のスイッチを切るみたいにブツン、っていなくなっちゃうんだよ? なんだかそれってね、すごく怖いな……。まゆしぃはオカリンのこと、ちゃんと覚えていられるのかな……」
ダル「……うーむ。よくわからんけど、タイムマシンが存在できてる時点でその問題は解決されてんじゃね? それに、戻ってくる時間も自由に決められると思われ。タイムトラベルした1秒後とかを指定すればさ。世界から消えてる時間は、1秒だけってことになるお」
まゆり「……そっか。そうだよね。なにも、心配いらないよね……」
ダル「うおおぉぉっ!? なんか光だしたお! ……いよいよか? いよいよなんか!?」
まゆり「オカリン……! ──わぁっ! はうぅ……すごい光……帽子飛ばされちゃうかと思った……」
ダル「ちょっ!? ま、まま、まゆ氏!! あ、あれ!!」
まゆり「えっ?」
ダル「タイムマシンが……2台に増えてるお!!」
まゆり「あっ……」
──岡部のケータイが鳴る。
まゆり「あれ……この着信音、オカリンのケータイ……」
ダル「いやケータイなんて今はどうでも良くてさ。なんでタイムマシンが分裂したん? 中にいるオカリンたちも二人に増殖しちゃったりしたんかなぁ? ……まゆ氏、どう思う? ……まゆ氏、聞いてる?」
まゆり「……え……ねえ、ダルくん。オカリンのケータイが鳴ってるっての」
ダル「だからそれは今どうでも良くて」
まゆり「でもね、電話をかけてきてるの……“まゆしぃ”みたいなんだ……」
ダル「……え? なんぞそれ。まゆ氏の自作自演?」
まゆり「まゆしぃのケータイはね、ちゃんとここに持ってるよ。ほら、かけてないでしょ?」
ダル「一体、なにが起きてるんだ!?」
まゆり「これ……出たほうがいいのかな?」
ダル「いやわかんねぇ。つーか、タイムマシンも増えたし……。混乱してきたおー!」
まゆり「…………あ、また動き出した!」
ダル「オカリンたちが乗り込んだほうだ!」
まゆり・ダル「うわぁー!?」
ダル「……消えた……? 1台消えたお! えーっと、1台が2台になって……また1台に戻った」
まゆり「…………電話、出てみる……」
ダル「えぇ、マジ? ……なんか、や、ヤバくね?」
岡部のケータイに出るまゆり。
まゆり「……もしもし。あなたは、誰ですか?」
???『……どうか、お願い。落ち着いて。私の話を聞いて』
……。
Steins;Gate DramaCDβ -無限遠点のアークライト- ダイバージェンス 1.130205%
あの日、忘れもしない8月21日。
オカリンはね、タイムトラベラーの阿万音鈴羽さんと一緒に7月21日へとタイムトラベルしたの。
牧瀬紅莉栖って人を、助けるために。
オカリンは、その人のことが好きだった……みたい。
でも、タイムトラベルして戻ってきたとき……オカリンは。
……。
ダル「うぉっ! もう戻ってきたお! まだ1分も経ってないのに」
まゆり「……オカリン……? オカリン!?」
岡部「……っ……!」
ダル「……ちょっ!? オカリン、血まみれじゃん! どうしたん!?」
鈴羽「父さん! タオルと水! あと服も! 今すぐ手に入れてきて!!」
ダル「……え? ええっ!? どういうことか、説明プリーズ!!」
鈴羽「いいから早く!」
ダル「……わ、わかったお!」
まゆり「オカリン……大丈夫? しっかりして! 死なないで……」
鈴羽「……大丈夫。ケガしてるわけじゃないよ」
岡部「……無駄だったんだ……。なにをやっても無駄だ。……ふ、ふはは……全部決まってしまっていることなんだよ……。同じだ……。まゆりのときと同じなんだ……。どれだけもがいたって……結果は同じになる……! 無駄だよ、無駄なんだ……! なにもかも無駄なんだよ!! ……俺はやっぱり、紅莉栖を助けられないんだ。ふはははは……。ははははは!! ……わかってた、わかってたんだ……。こうなるって予想してたんだ……! ……もう、疲れた……。ずっと、休んでないんだ……。だから、もういいよ……。はははは……」
まゆり「……オカリン……一体なにが……」
岡部「俺が……。俺が、殺した。殺してしまった……。バカみたいだ……全部俺のせいだ!!」
鈴羽「牧瀬紅莉栖をさ……。刺し殺しちゃったんだ」
まゆり「……殺した……? うそ……そんな……」
鈴羽「でも安心して、まだタイムトラベルはできる」
岡部「放っといてくれ……。俺のことなんか……。何度やったって結果は同じだ……!」
鈴羽「……っ……なに言ってんの!? 諦めるつもり!? ……オカリンおじさんの肩にはさ、何十億人っていう人の命がかかってるんだよ!? たった一回の失敗がなんだっていうんだ!」
岡部「紅莉栖はどうやったって助けられない! 世界線の収束には逆らえない……!」
鈴羽「……っ……! こうなったら、ビンタしてでも気合い入れなおして──」
まゆり「駄目だよ! 無理強いするのは、良くないよ……。こんなボロボロになってるオカリン、見てられないもん!」
鈴羽「……でもさ、このままじゃ未来を変えられない」
まゆり「……どうして!? どうして、未来のことをオカリンひとりに押し付けるの!? そんなの……重すぎるよ」
鈴羽「……オカリンおじさんには、世界の観測者としての能力があるからだよ」
まゆり「……オカリンが、望んだわけじゃないのに……。それに、もう一度やったって、またオカリンが傷つくだけだって、思うな……! ……未来のこと、人ひとりで変えようなんて……きっと無理なんだよ」
鈴羽「だから……その為の“運命石の扉(シュタインズ・ゲート)”で……。気持ちはわかるよ……。でもさ、アタシも未来を懸けてここまで来てるんだよね。……どっちにしろ、2036年には戻れないんだ。……そう簡単に諦めるつもりは、ないから」
まゆり「……っ……」
鈴羽「オカリンおじさん、一つだけ忠告しとく。このタイムマシンに残されてる燃料は、有限なの。さっきは往復2回分しか残ってないって言ったけど……。実は、まだそれなりに余裕はある。それでも、移動できる時間は……およそ344日分。片道のタイムトラベルだとしても、今から1年と経たない内に……7月28日には届かなくなる。……覚えといて。その日になったらさ、アタシはたとえ一人ででも、飛ぶよ」
岡部「……っ……!」
そのときの私は……。
あんな状態のオカリンに……もう一度頑張って、だなんて……とても言えなかった。
私に出来たのは、ただ名前を呼んであげることだけ。
昔、私がおばあちゃんを亡くしたときに……オカリンがそうしてくれたみたいに。
まゆり「オカリン……。ねぇ、オカリン……。もう頑張らなくてもいいからね。……泣いても良いんだよ。オカリン。まゆしぃは、そばにいるからね。オカリン……」
それからの一年は、とっても長かったような気もするし……とっても短かったような気もする。
私の中で、あんなにもキラキラと輝いていた秋葉原も……最近はなんだか色褪せたように感じるんだ。
──「まゆりちゃーん!」
まゆり「あれ、るか君ー! どうしたの? なにかまゆしぃに用事だったかなぁ?」
るか「はぁ……はぁ……。そういうわけじゃ、ないんだけど……。あの、今日僕……傘を忘れちゃって」
まゆり「そうなの? 傘に入れていってあげたいところなんだけど……。でもでも、まゆしぃは秋葉原には寄らないのです」
るか「あ、そっかぁ……。今日も神田まで歩くの? 電機大って、神田だよね?」
まゆり「うん。あ、じゃあこうしよう! お茶の水の駅まで送ってあげる! あ、その先は……えっと、どうしよう」
るか「そこまで行ければ、大丈夫。家に電話して、秋葉原駅に迎えに来てもらうから。でも、まゆりちゃんは迷惑じゃない?」
まゆり「そんなことないよぉ、大歓迎だよ!」
るか「……良かった。じゃあ、お言葉に甘えることにするね」
まゆり「はい、どうぞ! ……えへへー、るか君と相合傘だー!」
るか「なんだか……照れちゃうな」
まゆり「ねえねえ! るか君は短冊に願い事書いたー?」
るか「あ、今日って七夕だもんね。短冊かー、願い事を書いていたのは小学生の頃までだなー」
まゆり「まゆしぃは毎年書いてるよー。笹の葉もね、ちゃんと買ってくるんだー」
るか「本格的なんだねー」
まゆり「うんー。それで、夜になったら天の川を見るのー」
るか「織姫さまと彦星さまの伝説だよね。……でも、今日のこの天気だと……」
まゆり「……うん。今年は、織姫さまと彦星さまは会えないかもしれないねー。織姫さまはね、“ベガ”っていう星のことなんだけど、白くて明るくてとっても綺麗なのー。海外だとねー、“空のアークライト”って呼ばれてるんだー」
るか「さすがまゆりちゃん、お星さま博士だね」
まゆり「あははー、それほどでもー」
るか「でも、アークライトってどういう意味なの?」
まゆり「えっ!? うんとねー、詳しくはわかんないけど……白くて綺麗なライトだよきっと」
るか「……そ、そうなんだ。あははは……。それで、短冊にはどんな願い事を?」
まゆり「……子供の頃からね、ずっとおんなじ願い事を書いてるんだ。……きっと叶う事のない願い事……」
るか「え……?」
まゆり「織姫さまになれますように、って」
るか「まゆりちゃん……」
まゆり「えへへー、まゆしぃはロマンティストの厨二病なのでーす!」
るか「……ねえ、まゆりちゃん」
まゆり「え、なぁに?」
るか「きっと、なれるよ。岡部さんの、織姫さまに……」
まゆり「え……。やだな、まゆしぃは一言も相手がオカリンだなんて言ってないよ?」
るか「僕だって、一年前に岡部さんになにかがあったことくらい……わかるよ?」
まゆり「……」
るか「それ以来、ずっと心配で。僕なりに、岡部さんのことを見てきた。岡部さんの側にいた、まゆりちゃんのことも……。それで、わかったんだ。まゆりちゃんが、どんなに岡部さんのことを想っているか」
まゆり「……」
るか「弱音ひとつ吐かずに、岡部さんを支えているまゆりちゃんを見てね、凄いなって……思ったよ。……岡部さん、明るくなった。一年前とは、別人だと思えるくらい……。それは間違いなく、まゆりちゃんのおかげだから。だから、まゆりちゃんなら絶対に織姫さまになれるよ」
まゆり「……違うよ、るか君」
るか「え……?」
まゆり「オカリンの心の中にいるのは、まゆしぃじゃないの。夜空に浮かぶ星みたいに、どれだけ手を伸ばしても届かない人……」
るか「……それって、どういう……」
まゆり「オカリンにとって織姫さまは……。もう二度と、輝くことは……ないんだ……」
……。
この一年で、私はすっかりラボに足を運ばなくなった。
あの日、去年の8月21日までは……毎日のように通ってたのにね。
その代わりに、今は学校が終わったら大学までオカリンを迎えに行くのが日課になってたんだ。
まゆり「フンフフーン♪」
──「おーい、まゆりー!」
まゆり「あー! オカリーン」
岡部「今日も待ってたのか。全く律儀な奴だな」
まゆり「えへへー。あ、ねえねえ。テスト終わった?」
岡部「ああ。ヤマが上手い具合に当たってな。今日は絶好調だったよ」
まゆり「元々オカリンは頭良いもんねー」
岡部「よせよ、褒めても何も出てこないぞ。……あ、電話だ。はい、もしもし。おー、どうした? なに? 今から飲み会? どこで? え? 鎌田、鎌田って言った? ギャグじゃなくて? なんでそんな遠いところでやるんだよ。……ん-、ちょっと考えさせてくれ。しばらくしたら折り返す。……ああ、誘ってくれてサンキュー。……全く、テストが終わると同時にこれだもんな」
まゆり「オカリンも、すっかりリア充さんだねー」
岡部「なんでそこで寂しそうな顔をする。そもそも、電話の相手は男だ。ゼミで一緒の奴」
まゆり「……最近のオカリンは、とっても楽しそうでまゆしぃは嬉しいな。もう電話に向かって独り言をいうこともないんだね」
岡部「あのなぁ、俺の黒歴史を思い出させるな」
まゆり「黒歴史、かー……」
岡部「……なんだよ。なにか言いたそうだな」
まゆり「ううん……。それで、これから飲み会に行くの?」
岡部「……考え中だ。とりあえず、駅まで行こう」
……。
まゆり「あ、そうだ。一昨日ね、ダル君から面白い写メが送られてきたのー」
岡部「へぇー、どんな?」
まゆり「見る? 見る? 鈴さんが、白衣を着てるだけの写メなんだけど……全然似合ってないんだよー。鈴さんはね、筋肉質すぎると思うなー。なんとね、腹筋が割れてるのです」
岡部「……鈴羽って、今もラボで寝泊まりしてるのか?」
まゆり「……うん! ベッド買ったら? って毎回言ってるんだけどねー、相変わらずソファで寝てるのー。前は、オカリンもよくあのソファで寝てたよね」
岡部「……」
まゆり「あー、あったあった! この写真」
岡部「ん? ははっ、確かに。似合ってないな。ははははっ」
まゆり「ちなみにね、この写メで着てる白衣はオカリンが普段使ってたやつだよー。ダル君用にって、昔オカリンが買ってきたほうは使ってないからね。ちゃんと保存してあるから」
岡部「別にいいんじゃないか? 使っても構わないぞ俺は」
まゆり「……え?」
岡部「なんだよ?」
まゆり「だって……。半年くらい前に、鈴さんが開けようとしたらオカリン凄く怒ったよ?」
岡部「……そうだったか? あんなの、ただの安物の白衣だろ? ……どうした? 急に立ち止まって」
まゆり「……ねえ、オカリン。ラボのこと忘れようとしてるの?」
岡部「……っ……」
まゆり「無かったことにしようとしてるの?」
岡部「……遊びは、終わったんだよ」
まゆり「遊び……」
岡部「大学の講義だってある。バイトだってある。ガキの遊びをいつまでも続けていられるほど、暇じゃないんだ」
まゆり「本当に……。本気でそう思ってる?」
岡部「……ああ!」
まゆり「でも……。タイムマシ──」
岡部「終わったことなんだよ」
まゆり「……」
岡部「……お前だって、無理しなくていいんだぞ? 毎日、俺のこと待ってるのは大変だろう。今年はお前も受験なんだ。俺に気を遣ってないで、少しは勉強しろよ?」
まゆり「……っ……。ねえ、オカリン。覚えてる? ラボを作った頃のこと」
岡部「……なんだよ、急に」
まゆり「まだダル君もいなくて、オカリンとまゆしぃしだけだった頃……。まゆしぃの方が、学校終わるのが早いから、いつも先に来てオカリンを待ってた。……一人だけど、ちっとも寂しくなんかなかったな。オカリンを待ちながら……ぼんやり待ってるだけで幸せだった。……でもね。今のラボは、なんでかわかんないけど……。泣きたくなるくらい、寂しいの」
岡部「……単なる錯覚だろう。一人でいるだけなら、何も変わらない」
まゆり「……そうだね。なにも、変わってないはずなのに……。前は、もっともっと賑やかだったのにな、って感じちゃうの。あのラボには、もっとたくさんの仲間がいたような気がするの。……ねえオカリン? まゆしぃの感じてることって、オカリンと……牧瀬さんのことと……なにか、関係あるのかな」
岡部「ないよ。あるわけないだろう」
まゆり「だったら。どうしてそんな……苦しそうな顔してるの? オカリ──」
岡部「ないっていってるだろう!」
まゆり「……っ……」
岡部「本当になにもない。そのことは考えるな。俺はもう忘れた。お前ももう忘れろ。……今が正常なんだ。それを壊すような事は、もうしない」
まゆり「…………」
岡部「俺やっぱりさっきの飲み会に行ってくるよ。まゆりは、一人で帰ってくれ」
まゆり「……うん」
岡部「じゃあな……」
まゆり「……オカリンは、嘘をつくのが下手だね」
……。
ダル「おーい、鈴羽たーーーん。ラーブリーマイドーターーー。いるー?」
鈴羽「……。なにそのラブリーマイドーたー、って」
ダル「うは、うは。い、愛しき我が娘って意味だお」
鈴羽「…………そういうこと聞いてるんじゃない」
ダル「なに? 寝てたん?」
鈴羽「ミッションに備えて仮眠してただけ。……今日が何の日か、忘れたわけじゃないよね」
ダル「……忘れるわけ……ないっしょ。餞別代わりに、ケーキ買ってきた」
鈴羽「……ケーキ」
ダル「けっこう奮発したんだお。鈴羽の大好きなショートケーキを、5個も! ゲットしてきたんだ、ぜい!」
鈴羽「……大好きとか、言わないでよ」
ダル「毎日欠かさずケーキを買い食いしてることくらい、お、お父さん、お見通しだお」
鈴羽「……」
ダル「じゃあ、皿とフォークと……。あと、コーラも用意しないとな。鈴羽はケーキ出しといて」
鈴羽「今日、オカリンおじさんは?」
ダル「電話しても着信拒否されたお。まゆ氏と一緒なんじゃね?」
鈴羽「説得できないまま時間切れか……。やっぱ銃を突きつけてでも行くべきかな」
ダル「それはやめとけって。つーか、半年前にそれやって警察沙汰になったじゃん」
鈴羽「銃一丁であそこまで大騒ぎになるなんて思わなかったんだよ。……全く。やりにくい時代だなぁ」
ダル「ふふふーん♪ じゃあ、いただくお! 鈴羽は、2個! 食っていいからな」
鈴羽「で、父さんが残りの3個を食べるわけ?」
ダル「いや、僕は1個」
鈴羽「余った2個は?」
ダル「もしかしたら、来るかもしんないじゃん。オカリンと、まゆ氏……」
鈴羽「……っ……。いただきます」
──玄関のドアが開く。
ダル「あ、まゆ氏! 久しぶりじゃん。つーか、マジで僕の予想大当たり? ……あれー、でも……オカリンは?」
まゆり「……鈴さん。今日、タイムトラベルするんだよね」
鈴羽「予定通りにね」
まゆり「あ……。オカリンは……来ないよ」
鈴羽「……わかってる」
まゆり「ごめんね。まゆしぃは、オカリンのこと説得出来なかったし、説得するつもりもなかったから……」
鈴羽「気にしないで。アタシも、一人で飛ぶ覚悟はしてたから」
まゆり「……ねえ、鈴さん。ちょっと、お話させてほしいんだ」
ダル「おー……? 僕は、お邪魔虫……?」
まゆり「ううん、大丈夫」
鈴羽「話って……?」
まゆり「……2036年の、まゆしぃとオカリンのこと……」
鈴羽「……!」
まゆり「その頃のまゆしぃ達のこと、聞かせてほしい」
鈴羽「……なんで今になって聞くの? この一年、聞く機会はいくらでもあった」
まゆり「…………未来を知るのが、怖かったから」
鈴羽「その恐怖心は、あながち間違いじゃない。未来は、まゆ姉さんにとっては残酷過ぎると思う」
まゆり「……っ……それでも、教えて」
鈴羽「……そうだなぁ。アタシの知ってるまゆ姉さんは、いつもボンヤリと空を眺めてた。……濁った空を見上げてる笑顔は、いつも……寂しそうだったよ」
ダル「まゆ氏は、いくつになっても変わんないんだな。なんか、安心したお」
まゆり「……オカリンは……2025年に死んじゃうって、本当なの?」
鈴羽「……本当だよ」
まゆり「なにが原因で……?」
鈴羽「戦争の真っ只中だったけど、戦死とかじゃなくて……。まゆ姉さんを庇って、強盗に撃たれたんだって」
まゆり「……まゆしぃを……庇って?」
鈴羽「不思議だよね。今のオカリンおじさんは、50億人以上の未来の運命を握ってるのにさ……。14年後に、そんなあっさり殺されちゃうなんて。まゆ姉さんは、その事に責任を感じてるみたいだった。……見てて、痛々しいくらい」
まゆり「……っ……」
鈴羽「それとさ、まゆ姉さんはよくこんな事を呟いてたよ。あの日、私の彦星さまが復活していたら……。全ては変わっていたかもしれない」
まゆり「え……」
鈴羽「私には、どういう意味なのかわかんなかったけど……。っと、時間だ。昔話、じゃなくて……この場合“未来話”か。それはお終い」
ダル「もうちょっと待っても、いいんじゃね?」
鈴羽「別に、オカリンおじさんを待ってたわけじゃない。秋葉原のお店が閉まるのを待ってただけ」
ダル「そっか。ラジ館に忍び込むには、そのほうが都合良いもんな」
鈴羽「そういうこと」
まゆり「ね、ねえ。本当に行っちゃうの? タイムマシンはもう、往復はできないんでしょ?」
鈴羽「まあね。去年の7月28日に、ギリギリ辿り着けるかどうかっていうところ」
まゆり「……一年前に到着して、やっぱり失敗したら……。鈴さんはどうなるの?」
鈴羽「……わかんない」
まゆり「この一年を、また繰り返すのかな」
鈴羽「それはないと思う。この一年を過ごしてきた私と、今から一年前へ飛ぶ私は……。別の私だから。同時に存在することが出来たとしても、父さんやまゆ姉さんの前には……出て来られないだろうし。いつか、世界線の収束で……私っていう歪みは修正されるかもね」
まゆり「修正、って……。やっぱり、行くのはやめようよ。ね? 鈴さんがそこまでする事ないよ!」
鈴羽「……引き留めても無駄。私は、私の使命を果たす」
まゆり「ま、待って! 行っちゃ駄目だよ。ダル君止めて!」
ダル「鈴羽……。頑張ってな」
鈴羽「オーキードーキー。……ケーキ、ご馳走様」
まゆり「……ダル君……どうして?」
鈴羽「じゃあ。状況を開始する」
まゆり「鈴さん!」
……。
ダル「雨……。止んで良かったな」
まゆり「……ねえ。ダル君は、どうしてそんなに落ち着いていられるの? 今からでも追いかけて止めようよ! お父さんなんだからね、止めるべきだよ!」
ダル「……僕は、止めないよ」
まゆり「……っ」
ダル「この一年さ、ずっと疑問だったんだよね。なんで、25年後の僕は、鈴羽をこの時代に送り出したんだろう、って。実の娘に危険な事させてるわけだし。もう二度と会えなくなるかもしれないわけじゃん。……その疑問を、前に鈴羽にぶつけてみたことがあるわけ。……そしたら、なんて答えたと思う?」
鈴羽『アタシをタイムトラベラーに選んでくれたのは、父さんなりの優しさなんだと思ってる。……あの地獄のような2036年はさ、その日生きていくのも命がけだったんだ。私の親しい人は次々に死んでいったし、私も……誰かの親しい人を何人も殺してきた。……それに比べて、この時代は……この場所は……幸せ過ぎるんだ。父さんや母さんと、この時代で過ごしたい。そんな叶わない夢を、つい頭に思い浮かべちゃうくらいに。この時代に来てから、ますます未来を変えたいっていう想いが強くなったよ。だから、私は使命を果たす。この時代が20年後……30年後まで続くように……。その為の、幸せな夢だったんだよ。この一年間の事は……。ありがとう、父さん。感謝してる』
ダル「……あのクールな鈴羽がさ、微笑みながらそんな事を言ったんだお。あんな顔されたら、引き留める事なんか出来ないっつーか……。だから、僕も覚悟を決めたわけ。胸張って、鈴羽を見送るって。僕は、僕に出来ることを……やるって」
まゆり「ダル君の、出来ること……?」
ダル「……僕は、25年後に……人類初のタイムマシンを完成させるらしいのだぜ……!」
まゆり「……まゆしぃは、どうすれば良いのかな……。どうすれば良かったのかな……。なにかしたいけど、なにも出来てない……。まゆしぃもラボメンなのに……」
ダル「まゆ氏は、オカリンを立ち直らせたじゃん。それで、十分じゃね?」
まゆり「あの日、私の彦星さまが復活していたら。全ては変わっていたかもしれない……。あれって、どういう意味だと思う?」
ダル「未来のまゆ氏が言ってた、か……。まあやっぱ、誰かの事を指してるんじゃね?」
まゆり「……誰か……」
ダル「それが誰かはともかく。まゆ氏に出来ることはさ、どっちかしかないと思われー。リスクを負うか、安定を望むか。リスクを負うならさ、覚悟を決める必要があるのだぜ。まゆ氏にとっても、その彦星さまにとっても……。辛い結果になるかも知れんし。……オカリンは、リスクを覚悟して、一年前……失敗した。鈴羽も、失敗覚悟でもう一度飛ぼうとしてる! 未来の僕は、娘に二度と会えなくなった。まゆ氏は、どうする? どっちを選んだって、誰も責めたりしないお」
まゆり「まゆしぃは……」
私にとっての彦星さまは……一人だけ。
おばあちゃんを亡くして、立ち直れなくなってたときに……。
岡部『……まゆりは、俺の人質だ! 人体実験の生贄なんだ! どこにも逃がさないからな! フハ、フハハハハハハ!』
そうして、人質になったときから……鳳凰院凶真は私の日常になったの。
オカリンも、鳳凰院凶真も……どっちも私の大好きな岡部倫太郎なんだよ……。
優しいオカリンと、強引な鳳凰院凶真……。
でももう、遊びは終わったって……オカリンは言ってた。
一年前のあの日から、なにかが欠けている気がしてたの。
とっても大事なものが、失われちゃった気がしてたの。
寂しくて泣きたくなるくらい……私は求めてる。
心の底から、望んでいる事がある。
まゆり「ねえ、ダル君……。まゆしぃはね……まゆしぃは、鳳凰院凶真に会いたいよ……。あの偉そうな高笑いを、また聞きたいよ……。たとえ、まゆしぃは織姫さまになれないってわかってても……。それでも、まゆしぃにとっての彦星さまは……。これまでも、これからも、岡部倫太郎以外にはいないもん」
ダル「……つまりそれが、まゆ氏の選択、ってことだ。だったらさ! 迷うことなんか、ないんじゃね?」
そう。
チャンスは、目の前に転がってるんだ。
未来の私の、26年間の後悔を……無駄にしちゃいけないよね。
あのときの鳳凰院凶真が、なんの躊躇いもなく抱き締めてくれたみたいに……。
私も……!
まゆり「ダル君! 鈴さんを追いかけよう! まゆしぃは、今日だけ人質をやめようと思います!」
……。
鈴羽「……っ……! 風が強いな……。……さて、働いてもらうよ、“C203”……」
──「いったいどんなカラクリだ?」
鈴羽「誰っ!? って、オカリンおじさん!?」
岡部「こんなデカくて目立つものが、一年間ずっと誰にも見つからなかったなんて……。おかしいだろ」
鈴羽「……私がこの一年さ、ただボーっと過ごしてたと思う? 秋葉原の有力者に協力を取り付けてあるんだよね。例えば、秋葉留未穂とか」
岡部「……なるほどな」
鈴羽「それで、オカリンおじさんはなんでここに?」
岡部「お前に、タイムマシンを使わせるわけにはいかない」
鈴羽「……例え相手がオカリンおじさんでも、このミッションの邪魔はさせないよ」
岡部「どうせ失敗する。……お前のやろうとしてることは全部、無駄な事だ。わかるだろ? わからないとは言わせない。お前は、俺が失敗したのをその目で見たんだからな!」
鈴羽「……世界線の収束を回避する方法は、きっとある。見つけられてないだけで」
岡部「いいや! “運命石の扉(シュタインズ・ゲート)”なんて、単なる妄想だ!」
鈴羽「……アタシは、父さんの指示に従ってる。父さんを信じているから……」
岡部「そんなのただの思考停止だろ! ディストピアになった未来と、なにも変わらない!」
鈴羽「ディストピアがなんなのかを知らない、父さんが妄想を言ってるかどうかも、興味はない。……アタシは、アタシの意志で父さんを信じたんだ!」
岡部「……このアマ……! 力づくでも止めてやるぞ!」
鈴羽「……ふぅん。やってみなよ」
岡部「やってやるよ! この──」
鈴羽「遅い!」
──ッ!!
岡部「うぐっ!?」
──ッ!!
岡部「がはっ……! ゲホ、ゲホ……!」
──銃を突きつける鈴羽。
岡部「……っ……!? 銃なんか出しても脅しになるもんかよ。お前には、撃てない! 絶対に! なぜなら、俺が死ぬのは、14年後だと確定しているからだ!」
鈴羽「……そうだね」
──ッ!!
岡部「ぐあぁ……っ!」
鈴羽「でも、こうして足を撃ち抜いて動きを止めることはできる」
岡部「……っ……! お前……!?」
──「待って!!」
まゆり「鈴さん、やめて!」
ダル「うおぉ!? なんで、オカリンがここにいるん!?」
岡部「まゆり……ダル……!」
鈴羽「……二人とも、どうして追ってきたの。やっぱり邪魔するつもり? その場合、誰だろうと全力で排除する──」
まゆり「違うよ」
鈴羽「……だったら、なに?」
まゆり「……私も、行く!」
岡部「なっ……!?」
まゆり「鈴さん、連れてって。……あの日、去年の8月21日へ」
岡部「まゆり……! お前までなにを言っているんだ!?」
ダル「鈴羽……。僕からも頼むわ。連れてってやって」
岡部「おいダル!! お前まで!?」
鈴羽「7月21日じゃなくて、8月21日へ飛ぶって……」
まゆり「そう……。鈴さんとオカリンがタイムトラベルして、世界から消失していたあの1分間に行きたいの。……あの瞬間じゃなきゃね、意味がないんだ……」
岡部「まゆり……お前、門限過ぎてるだろ!? おじさんとおばさんが心配して──」
鈴羽「オカリンおじさんは黙って! ……まゆ姉さん、それは、確信があって言ってる?」
まゆり「……うん」
鈴羽「戻って来られないかも知れないんだよ? ……世界に、消されるかもしれないんだよ? ……それでも、行くの?」
まゆり「……私の彦星さまを、無かったことにしたくないから。26年間の後悔を、無かったことにしたくないから」
鈴羽「……わかった。乗って」
岡部「待て! 待ってくれ! まゆり、行くな!!」
まゆり「ごめんね、オカリン。……でも、決めたの」
岡部「……っ……くそ、くそー!! なんでだよ……なあ鈴羽! なんでお前はあのとき、俺の前に現れたんだよ!! 俺はこの結末を、受け入れようとしていたのに! ……なんで中途半端に希望を与えたんだよ……! そのうえ、今度はまゆりまで連れて行くのか! なあ、まゆり……。お前はなにもしなくていい。なにかしたら駄目なんだよ? でないと、みんなの想いを犠牲にしたことが無駄になる……! 紅莉栖の死が……無駄になってしまう……。そんなの俺は……」
まゆり「……だからってね、無かったことにしたら駄目だよ!」
岡部「……まゆり」
まゆり「雨が降っても……。星は、世界から消えちゃうわけじゃないもん。雲の向こうで、変わらずに輝き続けてるんだもん」
岡部「……なにを……?」
まゆり「ねえ、オカリン! 今日はね、年に一度だけ彦星さまと織姫さまが会える日なんだよ! ……というわけで、私がオカリンの空を覆っている雨雲を取り払ってくるー! ちょっとだけ待ってて!」
岡部「まゆり……待って、まゆり!!」
……。
鈴羽「……いいの?」
まゆり「……行こう」
鈴羽「……オーキードーキー。しっかり掴まって!」
……。
これは、私の独善。
私の、我が儘。
私の、望み。
私の、選択。
会いに行こう。
あの日の、なにも知らなかった……まゆしぃに。
……。
まゆり「……もしもし? あなたは、誰ですか?」
『……どうか、お願い。落ち着いて私の話を聞いて』
まゆり「どうして、まゆしぃのケータイ持ってるの? 誰なの?」
『それは、言えない……。ごめんね。ねえ、あなたは鳳凰院凶真のこと、好き?』
まゆり「えぇっ!? いきなりそんなこと言われても、困っちゃうよ……」
『これから1分後に、オカリンは牧瀬さんの救出に失敗して戻ってくるの』
まゆり「え……ウソ……」
『そのときに……。どんなことをしてでも、あなたにとっての彦星さまを呼び覚ましてほしいんだ』
まゆり「……彦星さま……って鳳凰院──」
『鳳凰院凶真』
まゆり「──凶真……」
『このままじゃ、オカリンの中から鳳凰院凶真の思い出が消えちゃうから……。だから、オカリンの折れた心を蹴飛ばしてでも立ち直らせて! ……ただ名前を呼ぶだけじゃ届かない。鳳凰院凶真が生み出された瞬間のことを思い出して!』
まゆり「……生み出された、瞬間……」
──『あと30秒……! そろそろ退散しないと……!』
『……26年と、1年分の想い……! あなたに託したからね!』
まゆり「ね、ねえ! 一つだけ聞かせて! “運命石の選択(シュタインズ・ゲート)”は……あるよね!? あるんだよね!?」
──『飛ぶよ! 掴まって!!』
『……うん。きっとある! 私はそう信じてる。あなたも信じて。オカリンと、仲間と、そして……自分自身のことを、信じて……。あとはよろしくね! トゥットゥル──』
──ッ!!
まゆり「わあっ!」
ダル「ちょっ!? 2台目も消えたー!? い、いい一体何が起きてるんです……!? 誰かー、説明プリーーーズ!! つーか、まゆ氏、まゆ氏! 今の電話、誰からだったん?」
まゆり「……信じるよ、ありがとね! ……未来の、まゆしぃ」
──ッ!!
ダル「うおぉっ!? もう帰ってきたお! ……まだ、1分も経ってないのに」
まゆり「…………オカリン……? オカリン!」
岡部「……っ……!」
ダル「……ちょっ! オカリン、血まみれじゃん! どうしたん!?」
鈴羽「父さん、タオルと水! あと服も! 今すぐ手に入れてきて!」
ダル「え? えぇ!? どういうことか、説明プリーズ!」
鈴羽「いいから早く!」
ダル「わ、わかったおー!」
まゆり「……オカリン……大丈夫? しっかりして! 死なないで……」
鈴羽「大丈夫。怪我してるわけじゃないよ」
岡部「無駄だったんだ……。なにをやっても無駄だ……。ははは……。全部決まってしまっている事なんだよ……。同じだ。まゆりのときと同じなんだ……。どれだけもがいたって、結果は同じになる……! ……無駄だよ。無駄なんだ! なにもかも無駄なんだよ……! 俺はやっぱり……。紅莉栖を助けられないんだ……。ははははは……ははははは! ……わかってた。わかってたんだ……。こうなるって予想してたんだ! ……もう疲れた……。ずっと休んでないんだ……。だから、もういいよ。はははは……」
まゆり「オカリン!!!」
──ッ!!
岡部「……っ……!? ……なに、を……?」
まゆり「……オカリンは、途中で諦める人じゃないよ。まゆしぃは知ってるもん。いつもね、絶対に最後まで諦めたりしない。覚えてる? まゆしぃがおばあちゃんのお墓の前で……。毎日、助けてって心の中で呟いていたとき。オカリンも、毎日まゆしぃに会いに来てくれたよね。雨の日も、雪の日も、諦めずにまゆしぃの横にきて……まゆしぃの名前ずっと呼び続けてくれたよね。……まゆしぃはね、オカリンが最後までそばにいてくれたから……。おばあちゃんと、しっかりお別れすることが出来たんだよ。……ね? だからオカリン……。まゆしぃはよくわからないけど……諦めちゃ、駄目だよ。元気、出してほしいよ……」
岡部「……でも、俺が殺してしまったんだ……。俺が、殺した……」
まゆり「……オカリン」
岡部「無駄なんだ……」
鈴羽「……無駄じゃないよ」
──岡部のケータイが鳴る。
……。
鈴羽「……ぐっ……ごめん、まゆ姉さん……。やっぱ無事には戻れそうにないみたい……! タイムパラドックスを避けるためにあそこから飛んだのはいいけど……。一年後まで戻る燃料は、もう残ってない……。かといってさ、一度タイムトラベルに入ったら……途中下車も出来ない……。カーブラックホールが作り出した特異点内から、どこに弾き出されるかは……運次第だね。一日後なのか、一年後なのか……百年後なのか……一億年後なのか……。とりあえず言えるのは、このタイムマシンは今、制御不能状態だって事」
まゆり「……ありがとう、鈴さん。あの日に連れてってくれて。後はきっと、向こうのまゆしぃと私の彦星さまがね……。なんとかしてくれるはず」
鈴羽「……あーあ、リーディングシュタイナーが私にもあれば良かったのに……。世界線の変動を観測出来ないのってさ、もどかしいよ」
まゆり「……ねえ、オカリン。世界が真っ暗闇になって、無限の影に怯えても。目を閉じないで。諦めないで。鳳凰院凶真を、殺さないで……。そうすれば、想いはきっと届くよ。何百年、何千年っていう時間を旅してきた……。あの星の光みたいに。……オカリン。次は、“運命石の扉(シュタインズ・ゲート)”で会おうね。まゆしぃはあのラボで、いつだって……あなたを、みんなを、待ってるから!」
……。