♰幻影旅打♰

-ノベルゲーム・タイピング-

逆転裁判 ─逆転のコンビネーション─ 第一話 《ドラマCD》

このブログは音声を文字起こししていますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身で視聴してください。

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逆転裁判 ドラマCD 逆転のコンビネーション  第一話

 

 

……。

 


マヨイ「ねえねえ、ナルホドくん。今朝のニュース見たー?」
ナルホド「ふっふ~ん♪ …………よし! 綺麗になってきたぞー」
マヨイ「この近くで、極道一家同士の抗争があったんだってー。物騒な世の中だよねー」
ナルホド「……え? なにか言った? よく聞こえなかったんだけど」
マヨイ「もう!」
ナルホド「いたたたたっ! こ、こら! 髪の毛引っ張るなよ! 掃除の邪魔だろう」
マヨイ「世の中じゃ色んな事件が起きてるのに、のんびりトイレ掃除なんてしてる場合じゃないでしょー!」
ナルホド「でも、トイレ掃除は大切だよマヨイちゃん! お客さんが来たときに、トイレが汚かったら、それだけで悪い印象を持たれてしまうからね」
マヨイ「……偉そうな事言って、依頼が無いから暇つぶししてるだけでしょー。トイレ綺麗だし」
ナルホド「……っ! まぁ……他にやる事がないのは、確かだけど……」
マヨイ「あーあ。誰か……面倒事に巻き込まれた人が、面倒な依頼をしに来ないかなー。やる事無くて暇だし……」
ナルホド「……結局、暇つぶしがしたいだけか」


──コン、コン……。


ドアをノックする音がする。


マヨイ「って、言ってるそばから来たよー! ……はいはーい! いらっしゃいませー!」


──「失礼する」


マヨイ「って、あぁっ! 御剣(みつるぎ)検事ー!」

ミツルギ「……成歩堂(なるほどう)はいるか?」

ナルホド「御剣ー! お前が僕の事務所に来るなんて、珍しいな」

マヨイ「まあ、まあ。立ち話もなんだし、中に入ってもらおうよ。ほら、ナルホドくん。お茶とお菓子用意して」

ナルホド「ぼ、僕がやるのかよぉ……」

マヨイ「御剣検事は、その間トイレの見学でもどうですか? うちのトイレはピカピカのツルツルですよ──」

ミツルギ「余計な気遣いは無用だ。……それより、成歩堂。君に依頼したい事がある」

ナルホド「……お前が、僕に……依頼?」

ミツルギ「うむ。……その前に、紹介する人がいる」


──「失礼、します……」


マヨイ「わぁ! 御剣検事が、女の人を連れてきたー。……もしかして、御剣検事の恋人ですか!?」

???「こ、恋人だなんて……! そ、そうじゃなくて……。わ、私……う、うさぎ……」

マヨイ「うさぎ?」

ミツルギ「宇鷺(うさぎ)ミウ。彼女の名前だ」

ミウ「……です」

ナルホド「うさぎ……? その名前、どこかで聞いた事あるような……」

ミツルギ「彼女の父親は……現検事局長、宇鷺オイシ。彼女は、その一人娘だ」

ナルホド「け、検事局長! 一人娘……!?」


……。

 

 

 

 

ナルホド「それで……依頼というのは?」

ミツルギ「……来恩寺(らいおんじ)組を知っているか?」

ナルホド「らいおんじぐみ?」

ミツルギ「最近、勢力を伸ばしている極道一家だ」

マヨイ「あ、今朝のニュースで見ましたよ! 抗争事件を起こしているんですよね?」

ナルホド「そんな物騒な連中が、どうしたって言うんだ?」

ミツルギ「来恩寺組の組長には、シシオという跡取りがいるのだが……。その男がここ最近、彼女に付きまとっているらしい」

マヨイ「え!? それって、ストーカーってやつですか!」

ミウ「し、シシオさんは……。そんな人では、ないのですけど……」

マヨイ「シシオさん、って……。宇鷺さん、その人の事をよく知っているんですか?」

ミウ「あ……あの……。えっと、その……し、シシオさんはマイちゃんの……い、いも、いも……」

マヨイ「いも?」

ミツルギ「来恩寺シシオには、三つ年下のマイという妹がいる。この来恩寺マイと彼女、宇鷺ミウは同じ大学の同級生なのだ。……どうやら来恩寺シシオは、彼女が妹と一緒にいる所をたまたま見かけて一目惚れしてしまったらしい」

ミウ「……です」

ナルホド「でも、付きまとわれて迷惑だと感じた。そこで、ミウさんがミツルギに相談した……と」

ミツルギ「相談してきたのは彼女の父上だ。個人的な、内密の相談という形で話があった」

ナルホド「検事局長から直々にか?」

ミウ「み、御剣検事は……とても優秀な方だと……父も普段からよく褒めていますので」

ミツルギ「ゴホン……。来恩寺組は、今も他の組と抗争を繰り広げている。なにかと厄介な連中だ。検事局長の娘が、そこの跡取り息子に付きまとわれているとなれば、マスコミも色々と騒ぎ立てる。……大事になる前に、なんとかしたいという事だろう。それに、宇鷺検事局長は子煩悩で有名な方でな。今回の事にも、ひどく神経質になっている。一人娘の彼女の周囲を、常にSPに守らせているくらいだ」    

ナルホド「いくらなんでも過保護すぎるだろう……」

ミウ「はい……。今回の事も、父が勝手に相談してしまって……。大騒ぎして、困ってしまいます」

ナルホド「これじゃあ、自由になる時間なんて無いんじゃあ……」

ミウ「はい……。でも、子どもの頃からの事なので……慣れてます」

ナルホド「でも、どうして僕のところに来たんだ?」

ミツルギ「はっきり言おう。今回の件、私は専門外だ」

ナルホド「専門外? いや、でもこういうのはむしろ警察の方が……」

マヨイ「まあまあ、ナルホドくん! つまり、御剣検事はこう言いたいんだよー。色恋沙汰の事はよくわからないから……助けてくれ、って」

ミツルギ「……っ!! むぅ……」

ナルホド「……黙っちゃったよ」

ミツルギ「私はただ、検事局長の命令を忠実に遂行する為に……必要な手段を取っているに過ぎない」

ナルホド「単に面倒くさがって、僕に丸投げしてるだけじゃないよな?」

マヨイ「いいじゃん、助けてあげなよナルホドくん! 面倒な依頼で暇も潰せて、願ったり叶ったりだよ。いつも二人とも法廷で睨み合ってばかりなんだから。たまにはタッグを組んで協力し合えばいいじゃない。友達なんだからー」

ナルホド「僕と御剣がタッグを組む、か……。まあ、たしかに今回は事件という訳じゃないしな」

マヨイ「うん、決まり! じゃあ、まずはタッグチームの名前を決めよう」

ナルホド「な、名前? 別に必要ないと思うけど……」

マヨイ「どんなのがいいかなー。御剣検事とナルホドくんで、“ザ・ミツルドくん”っていうのはどうー?」

ナルホド・ミツルギ「却下だ!」

マヨイ「おっ! さっそく息が合ってるねー!」


…………。


……。

 


マヨイ「で、どうやって問題を解決するんですか? 色恋沙汰は慎重にしないとですよ?」

ミツルギ「……うむ、そうだな。どうするのだ? 成歩堂

ナルホド「最初から僕任せかよ! ……お前、ほんと……こういうの苦手なんだな」

ミツルギ「……むぅ」

ナルホド「そうだなぁ、とりあえずそのシシオくんとやらに会ってみたいな」

ミツルギ「来恩寺組に乗り込んで、付きまとうのを止めろと説得するのだな」

ナルホド「い、いやあ……さすがにそれは……。まずは、相手の事を知らないとね。……穏便な方法で」

ミツルギ「シシオがよく出入りする店なら調べがついている。“吐麗美庵(とれびあん)”というフランス料理店だ」

ナルホド「え……。と、吐麗美庵……」

マヨイ「よし! じゃあ、みんなでシシオさんの顔を見に行こうか!」

ミウ「わ、私も……。行った方がいいのでしょうか?」

ナルホド「いや、ミウさんが僕たちと一緒にいるところを見られるとまずいし……。マヨイちゃんと、ここで待機していて下さい」

マヨイ「はーい」


…………。


……。

 


ナルホド「……相変わらず乙女チック全開の内装だなぁ。ま、それはそれとして。どれがシシオくんなんだ?」

ミツルギ「私が聞いた話では、“いかにもそれっぽい”見た目の男らしい」


──「熱っち!!」


ナルホド「な、なんだ……?」


チンピラ「おいおい姉ちゃんよー、人の顔にスープをぶっかけるなんて……どういうつもりだ!? オラァ!」


ミツルギ「……どうやらさっそく見つけたようだぞ」

ナルホド「た、たしかに……。いかにも、それっぽいヤツだな」


チンピラ「黙ってないでなんとか言えや! ああん!?」

ウエイトレス「ご、ごめんなさい。私、まだウエイトレスのアルバイト……始めたばかりで」

チンピラ「そんなの関係あるかぁ! とりあえず店長呼べやコラァ!」


ナルホド「……ミウさんは、あんなのに付きまとわれてるのか
? そりゃあ、検事局長としてもお前に相談したくなるよな……」


チンピラ「ああん? 聞いてんのかテメェ。痛い目にあいてえのか!? 表出ろやオラァ!」


──「待ちな」


チンピラ「ああん? なんだテメェは」

???「静かにしてくれ。食事中だ」

チンピラ「なんだコラァ!! やろうってのか、あぁん!? 俺様を誰だと思ってやがるんだオラ! 俺様は極道一家、はいえな──」

???「やめときな。組の名前を出したが最後……そこから先は切った張ったのタマの取り合いになっちまう。そうなったら、お前さんが言った通り、ごめんなさいじゃ済まなくなるぞ。……わかったらさっさと失せな。俺の中に棲む、一匹の獣が目を覚ます前に……」


ナルホド「……な、なんだかすごい事言い出したぞ」


チンピラ「な、ナメんなよコラァ!!」


──ッ!!


ナルホド「あ、あぶない!!」


チンピラ「……っ!? ぐはぁ……! い、いてててて! いたいいたいいたい! う、腕がぁ……! 腕が、折れる……! あぁぁぁぁっ……!」

???「まだやるっていうのなら……!」

チンピラ「いでででででで……! わ、わかった……! わかったから、やめて……! はなしてぇぇ……!」

???「……これ以上怪我しないうちに、さっさと失せるんだな。俺の名はシシオ。文句があるならいつでも相手するぜ」

チンピラ「あぁぁぁぁ……! お、おたすけぇ……!」


ナルホド「お、おい聞いたか御剣! いま、たしかにシシオって──あれ……? 御剣!?」


ミツルギ「……貴様が来恩寺シシオか?」


ナルホド「み、御剣!!」


シシオ「……だったらどうした? その偉そうな物腰……さてはテメェ、サツの人間だな?」

ナルホド「い、いや……違うんだ!」

ミツルギ「フッ……似たようなものだがな」

ナルホド「なんでそういう事言うかな……」

シシオ「俺はサツの人間が大っ嫌いなんだよ。飯が不味くなる、テメェらもさっさと失せな。……俺の中に棲む、一匹の獣が……。目を覚ます前に」

ナルホド「……! またそれか……」

ミツルギ「その獣とやらが目を覚ますと、どうなるのだ?」

ナルホド「だからどうしてそういう事訊いちゃうかな……!?」

シシオ「……フッ、そんなに知りてェのなら教えてやろうかい」

ナルホド「い、いや! けっこうです! ほら、行こう……御剣」

シシオ「テメェらのツラ覚えたぜ。……二度と俺の前に現れるんじゃねえぞ。もし現れたらその時は……」

ミツルギ「どうなると言う──」

ナルホド「どうなるとか訊かなくていいから!」


…………。


……。

 

マヨイ「あ、おかえりー! ねえねえ、どうだった? シシオさんには会えたの?」

ナルホド「ああ、うん……。とりあえず、顔は見てきたよ」

ミウ「あ、あの……。どうでしたか……?」

ミツルギ「奴は危険な男だ。ミウさんには不釣り合いと言わざるを得ない」

ナルホド「まあ……そうだな。おしとやかなミウさんには、あの男は……ちょっと」

マヨイ「そんなに危なそうな人だったのー?」

ナルホド「実は、店で一悶着あってね……」


……。


マヨイ「へえ、チンピラも腰を抜かして逃げ出すくらい危ない人なんだー。一体、身体の中にどんな動物を飼っているんだろう。ねえ、宇鷺さん?」

ミウ「え!? あ、あの……。えっと、動物……?」

ナルホド「動物を飼ってるんじゃなくて、獣が棲んでいるだよ……」

ミウ「……です」

マヨイ「で、なにか良い作戦はあるの?」

ナルホド「そうだな……。とにかく、事を大きくしたくないのなら、ミウさんに付きまとわないよう、どうにかして彼を説得するしかないだろう」

ミツルギ「だが、あの男はそう簡単に説得できそうにないぞ」

ナルホド「ああ……。それに、次に僕たちが彼に見つかったら……いろいろとまずいことになりそうだし」

マヨイ「……よーし! ここは、真宵ちゃんの出番だねー!」

ナルホド「い、いやぁ……。真宵ちゃんには荷が重いかな……」

ミツルギ「うむ。あの男には、言い知れない迫力がある。大の男でも逃げ出してしまう程のな」

マヨイ「それじゃあ仕方ないね。あーあ、どんな動物が出てくるか見たかったんだけどなー」

ミツルギ「成歩堂。誰か心当たりの人間はいないのか?」

ナルホド「僕たちの身近にいるじゃないか。ああいった人種とも対等に渡り合う仕事をしていて、ちょっとやそっとじゃ怯まない人間が……」

マヨイ「それって──」

 

…………。


……。

 

──「失礼するッス! 糸鋸圭介(いとのこぎり けいすけ)、御剣検事殿のお呼びにより、只今参上ッス! 緊急の呼び出しとの事ッスが、どんな用事ッスか?」

ナルホド「実は、イトノコ刑事に折り入って頼みがあるんですが……」

イトノコ「ふう……。嫌な予感しかしねーッス……」


……。


イトノコ「なんッスとー!? そのパンダニ ササオって奴が、この可憐なお嬢さんに付きまとっているッスとー!?」

マヨイ「パンダじゃなくて、ライオンですよ。来恩寺シシオです」

イトノコ「……許せねッす! そんな奴はさっそくしょっ引いてやるッス! 今すぐ組の事務所にガサ入れしてやるッス! 全員、逮捕ッス!」

ミウ「えぇっ!? た、逮捕……?」

ナルホド「そこまでしなくていいでしょ! こっちとしては、付きまとうのを止めてもらえれば、それで……」

ミツルギ「できれば、警察である事も伏せていてもらいたい。あまり事を大きくしたくないのでな」

マヨイ「警察でなければ、どういう立場でシシオさんに近づくわけ?」

ナルホド「そうだな……。ミウさんの、親戚の叔父さんとかどうだろう?」

イトノコ「……自分はそんな歳じゃないッス。せいぜい、親戚のお兄さんッス」

ナルホド「ま、まあ……。そこは、イトノコ刑事の好きなように……」

イトノコ「お嬢さんは、泥船に乗った気になっていいッスよ! 自分に任せておくッス!」

ミウ「は、はあ……。なんだか不安です」

ナルホド「でも、ミウさんはシシオくんに見つかるとまずいので、店には来ないようにしてください」

ミウ「あ、はい……。わかりました」


…………。


……。

 

マヨイ「ねえ、あそこにいるのがシシオさん? けっこうハンサムな人だねー。……イトノコ刑事は?」

ミツルギ「うむ……。そろそろ来るはずだが……」


ウエイトレス「いらっしゃいませ」


マヨイ「あ、来た! ……あれ、イトノコ刑事、今日はいつものスーツじゃなくて私服だ!」

ナルホド「親戚の“お兄さん”という設定だからね」

マヨイ「でも……なんだかずいぶん若々しいというか、若作りしてるというか……」

ミツルギ「……どういうつもりだ?」

 

イトノコ「失礼するッス。来恩寺シシオくんっスね?」

シシオ「……どちらさんだい?」

イトノコ「自分は、糸鋸圭介ッス。宇鷺ミウちゃんを知ってるっスね?」

シシオ「……ミウ、ちゃん……だと?」

イトノコ「自分はミウちゃんの友達ッス」


ナルホド「……友達って。勝手に設定を変えちゃったよ!」


イトノコ「ミウちゃんと、同じ大学に通ってるッス! 歳は二十歳(はたち)ッス!」


ナルホド「……! あの顔で、二十歳!?」

ミツルギ「いくらなんでも、それはないだろう……!」


イトノコ「ミウちゃんの事で、アンタに話があるッス!」

シシオ「……言ってみな」

イトノコ「ミウちゃんに付きまとうのを止めるッス。さもないと……! アンタは不幸になるッス」

シシオ「……あぁ?」


マヨイ「ど、どういう事なの! ナルホドくん!」

ミツルギ「どういう事なんだ、成歩堂……」

ナルホド「ど、どういう事なんだろう……」


イトノコ「彼女は貧乏神に憑りつかれてるッス! 彼女に関わるものには、不幸と不運と不遇が足並み揃えて襲ってくるッス! あっという間にすっからかんの貧乏ッス! 毎日ソーメンしか食えなくなるッスよ……。アンタ、それでも良いッスか!? ソーメンじゃ全っ然、腹は膨れないッスよ!?」


ナルホド「……あれで説得してるつもりなのか……?」

ミツルギ「貧乏話だけは、妙にリアリティがあるがな……」

マヨイ「もしかしてイトノコ刑事、ああやって宇鷺さんの悪いところを言って、シシオさんに諦めさせようとしてるんじゃないのかなー?」

ナルホド「はぁ……そうなのか……?」


イトノコ「それが嫌なら、ミウちゃんに付きまとうのを止めるッス! ……でないとアンタ自身が、貧乏の“ズンドコ”に落ちるッスよ!」


ナルホド「……! どん底だろう……」


イトノコ「どうッスか? 不幸になりたくないなら、ミウちゃんを諦めるッス!」

シシオ「……ミウと付き合うと、不幸になるか……。奇遇だな、俺にも似たようなジンクスがあるぜ。俺に関わった女は、どんな女だろうと……必ず幸せになるっていう」


マヨイ「おぉっ!? ああいうセリフに、女の子はコロッといっちゃったりするんだよねー。ナルホドくん」

ナルホド「そ、そうかな? なんだか、白々しいセリフのような気もするけど……」


シシオ「糸鋸さんとやら。ミウに伝えておいてくれ、お前がもたらす不幸も貧乏も……全て俺が打ち消してみせる。だから、さっさと俺のもとに飛び込んできな、ってな」


ナルホド「か、かっこいい……」

ミツルギ「貴様がコロッといってどうする」


シシオ「ふん……。俺にミウの事を諦めさせようという魂胆だろうが、そうはいかねぇぜ。誰に頼まれたか知らねえが、無駄なことは止めるんだな」


ミツルギ「……どうやら、こちらの意図は読まれているようだな」


イトノコ「ま、待つッス! 自分は本気でアンタに忠告してるッス! とにかく、彼女に関わったせいで不幸になった人間はごまんといるッス! みんな絶望のズンドコに落とされたッス! アンタもいい加減に気づくッス! あの女は本当にひどい女ッス!」

シシオ「おい……! その辺にしておきな……! これ以上ミウの事を悪く言うようなら、容赦しねえぜ……」

イトノコ「で、でもッス……」

シシオ「さっさと失せな……! 俺の中に棲む、一匹の獣が……目を覚ます前に」


ナルホド「で、でた……!」

マヨイ「一体、どんな動物が飛び出すのかなー?」

ナルホド「マヨイちゃん……。もしかして、わくわくしてないか?」

ミツルギ「成歩堂。この作戦、まだ続けるのか? 引き際を間違えると、無用なトラブルをおかしかねんぞ」

ナルホド「そ、それもそうだな……。イトノコ刑事を、連れ戻しに行こう」


──シシオの携帯電話が鳴る。


シシオ「……ちょっと待ちな。……俺だ、どうかしたのか?」


マヨイ「……あっ、電話しに無効に行ったよ!」

ナルホド「今のうちに、イトノコ刑事に作戦中止を伝えよう!」


……。


ミツルギ「イトノコ刑事!」

イトノコ「……なんスか、まだ説得の途中ッスよ!」

ナルホド「彼にはもう、こちらの作戦はバレてます! ……それに、こう言ってはなんですが、さすがにミウさんの事を悪く言い過ぎです!」

イトノコ「こういう時は、少しぐらい大げさに言っておいたほうがいいんスよ。それに、これからが本番ッス! 見てるッスよ、必ずミウさんを諦めさせて──」


──待った!


ナルホド「な、なんだ……?」

イトノコ「一体、誰ッス……?」

???「やいやいやいやい……! このスットコドッコイのホラ吹き共が! さっきから聞いてりゃ、嘘八百並べやがって! んなことはお天道様が許しても、このアタイが黙ってないぜ!」

ナルホド「な、なんだこの子……? 金髪に、サングラス……?」


???「おい、そこの貧乏面したオッサン!」

イトノコ「……! 自分の事じゃないッスよね? 自分は、二十歳の大学生ッスから!」

???「テメェだよ、テメェ。それとそっちのトンガリ頭!」

ナルホド「……! ぼ、僕の事じゃ、ないよな……?」

イトノコ「今のはどう考えてもアンタの事ッス」

???「テメェら二人、表に出やがれ!」

イトノコ「……なんなんスか? 自分らは大事な話の真っ最中ッスよ!」

???「ごちゃごちゃ言ってんじゃねーよ!」

ナルホド「ちょ、ちょっと待ってくれ! そんな急に──わ、いって! いててててて!」

イトノコ「痛いッス! 腕を引っ張らないでほしいッス!」

ナルホド「か、髪の毛を引っ張るのは止めてくれー!」

 


マヨイ「み、御剣検事! ナルホドくん達が、女の人に無理やり連れてかれちゃいましたよー!?」

ミツルギ「……誰だ? 今の女性は……」

マヨイ「わかりません。金髪にサングラス、外国の人かな? ……とにかく、私達も追いかけましょう!」


つづく