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-ノベルゲーム・タイピング-

逆転裁判 ─逆転のコンビネーション─ 第三話 《ドラマCD》

このブログは音声を文字起こししていますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身で視聴してください。

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逆転裁判ドラマCD 逆転のコンビネーション 第三話

 

……。


──コン、コン……。


ミツルギ「入りたまえ」


イトノコ「宇鷺ミウさんを連れて来たッス!」

ミツルギ「ご苦労、糸鋸刑事」

ミウ「あ、あのぉ……。次の作戦、といううのは……」

ナルホド「これまで2回ほど、彼の付きまとい行為を止めさせる為の試みをしましたが、どちらも芳しくない結果に終わりました。そこで僕たちは、もう少し強烈な手を打つことにしました」

ミウ「そ、それは……?」

ナルホド「ミウさんには既に恋人がいるので、シシオくんに諦めてもらう、という作戦です。……と言っても、もちろん恋人がいるフリですが」

イトノコ「言うほど強烈でも無いような気がするッス」

ナルホド「いやいや。ミウさんに恋人がいるとなれば、シシオくんにとっては相当ショックなはずです。下手をすれば、彼は逆上して、その恋人役の男に殴りかかるかもしれないですよ」

イトノコ「たしかにそれはあり得るッスね。あっ! わかったッス! つまりその時の為に、自分にミウさんの恋人役をやれという事ッスね!? いざとなったら、シシオくんと格闘して、ミウさんを守ると!」

ナルホド「さすがに、イトノコ刑事が恋人っていう設定は、問題があるんじゃ……」

イトノコ「どういう意味ッスか?」

ミツルギ「ミウさんと糸鋸刑事では、不釣り合いにも程がある……。そういう意味だ」

ナルホド「み、御剣……。そこまでハッキリ言ったら可哀想だろ。……たしかに、釣り合わないかも知れないけど、蓼(たで)食う虫もなんとやらと言うし」

イトノコ「──! あんたのそのフォローも、全然フォローになってないッス……」

ミツルギ「恋人役は、別の人間に頼む事にした。彼もそろそろここへ来るはずだが……」


……。


イトノコ「あ、あんたは……!?」


──「くっ……生半可な演技じゃ、すぐにバレちまう。 この役目には、酸いも苦いも経験した……人生の深みってヤツがひつようなのさ。……じっくり焙煎した、深煎り豆の様な・・…」


ナルホド「ゴドー検事! 本当にこの役を、引き受けてくれるんですね?」

ゴドー「……くだらん。男が一度イエスと言った以上……確認なんて無意味な事だぜ。まるほどう」

ミツルギ「ミウさん。彼は、ごとう検事という。あなたの恋人役は、この男にやってもらう」

ミウ「ごとう、検事……?」


ナルホド「御剣の奴、また名前を間違えてるぞ……」


ミツルギ「彼にはミウさんの恋人役として、来恩寺シシオと対面してもらう。そのときシシオに、二度と彼女に近づかない様、あらためて説得を試みる。……シシオが承諾すれば良し。万が一、彼が逆上して暴れ出した場合は……」

ゴドー「くっ……。そのときは、このゴドーがコーヒーをおごってやるぜ。とびっきり熱い、ゴドー・ブレンド107号を……頭からな」

ナルホド「余計、逆上しそうな気がしますが……」

ミツルギ「そして、今回は……ミウさんにも同席してもらう」

ミウ「え!? 私も、ですか……?」

ナルホド「ミウさんに恋人がいるという事を、シシオくんにより強烈に印象付けたいんです。その為には、二人で一緒にいるところを見せないと……」

ミウ「で、でも……。あの、その……。えっと……」

イトノコ「大丈夫ッス!万が一、シシオくんの中の獣が目覚めても、自分がミウさんの盾になるッス!」

ミウ「あ……あ、あの、でも……えっと」

ミツルギ「とにかく当日は、ミウさんにも同席してもらう。……よろしいか?」

ミウ「あ……あの、えっと……はい……」

 

ナルホド「……ミウさん、だいぶ戸惑っているみたいだな。やっぱり、付きまとっている本人に会うのが怖いんだろうか……。いや、それだけじゃないような気がする……。なんだろう、一体……」

 

…………。


……。

 

──コーヒーを飲むゴドー。


ゴドー「……くっ。相変わらず酸っぱいコーヒーだぜ……。あんたも飲んでみたらどうだ?」

ミウ「あ、えっと、でも……。酸っぱいのは、その……」

ゴドー「苦いだけが人生じゃねえ……。大人になるには、酸いも甘いも嚙み分ける必要がある……。コーヒーも、おんなじようなもんさ」

ミウ「は……はあ……」


ナルホド「……相変わらず、意味がわからないんですけど……」

イトノコ「っていうか、ゴドー検事リラックスしすぎッス!」

ナルホド「それにしてもミウさん、だいぶ緊張してるみたいだな……。さっきから落ち着かなそうに、そわそわしっぱなしだ」

イトノコ「これから付きまとっている本人と会うッス。緊張しないほうがおかしいッスよ」

ナルホド「そうですけど……。でも、他にも気になる事があるんですよね」

イトノコ「なんッス?」

ナルホド「例のシシオくんの妹ですよ。また彼女が現れて、邪魔をするんじゃないかって……」

ミツルギ「彼女なら、今日ここへ姿を現さないだろう」

ナルホド「え、なんでわかるんだ?」

ミツルギ「ここへは来られない理由がある。……おそらくだが」

ナルホド「ここへ、来られない理由? それって──」

ミツルギ「話はここまでだ。どうやらお出ましのようだ」


……。


店員「いらっしゃいませ。来恩寺さま」

シシオ「……ほう。こいつは珍しい……。まさかお前がこの店にいるとはなぁ、ミウ

ミウ「あ……! シシオさん……」

シシオ「俺に会いに来てくれたのか? だったら大歓迎なんだが……。どうやらそういうわけでも無さそうだな」

ゴドー「物分かりの良い人間は嫌いじゃねえ……。ついでに、そのまま出て行ってくれると、俺も楽でいい」

シシオ「そうしてやりてぇところだが、そういうわけにもいかねぇ。なにしろテメェはいてはいけない場所に座ってやがる。……ミウの隣の席だ。そこは俺の指定席だぜ? 仮面の兄さんよ」

ゴドー「人は誰でも……心に仮面を付けているのさ。あんたも仮面の下に、一匹の獣を飼ってるんだろう……?」

ミウ「ぁ……」

シシオ「はっ……。おもしれぇ事を言う兄さんだな。気に入った、一杯奢るぜ」


ナルホド「……な、なんだか……。意気投合しちゃってるみたいだな」


シシオ「……で。その仮面の兄さんは誰なんだ、ミウ?」

ミウ「あ……あの」

シシオ「まさか。お前の恋人なんてことは言い出さないだろうな?」

ミウ「あ……あぁ」

ゴドー「そのまさかだとしたら……どうなんだ?」

シシオ「俺はミウに聞いている。あんたは黙ってコーヒーでも飲んでてくれねえか?」

ゴドー「男には、どうしても口を開かなければならないときがある。コーヒーを飲むときと……無口な恋人の代わりに、事情を説明する時さ」

シシオ「……ほう。やっぱりそうきたか。名前を訊いてもいいかい?」

ゴドー「俺の名はゴドー。ミウの恋人さ……」

シシオ「余計な事は言わなくていい」

ゴドー「こいつは失礼した。だが誰しも、余計な肩書きがくっついてきちまうのさ……。あんたにもそういうのがあるだろう? 来恩寺組の跡取り息子っていう肩書きがよ」 

シシオ「……俺の事を知っているようだな」

ゴドー「ああ……よく知ってるぜ。俺の子猫ちゃんに付きまとっている、飢えたライオンさんよ」

シシオ「俺の子猫ちゃんだと……」

ゴドー「恋人には……そう言える権利ってもんがある。不味いコーヒーを、不味いという権利もな」

シシオ「……正直言って驚いている。まさか、ミウに恋人がいたなんてな」

ミウ「あ……うぅ……」

シシオ「そんな話を聞いたのははじめてだ。……妹からも聞いたことがねえ」

ゴドー「こいつが無口なのはアンタだって知ってるだろう? 女とコーヒーは……無口な方がいい。たまに語りかけてくる程度で、充分さ……」

シシオ「……ふふ、あんたを見ているとまるで自分を見ているようで気持ち悪いな」

ゴドー「似た者同士、ってわけか。……引き際の良さも似ててくれると、助かるぜ」

シシオ「それはミウ次第だ。彼女に訊いてもいいかい?」

ゴドー「ああ。好きにしな。そして俺が、このコーヒーを飲み終える前に……答えを出してくれよ。だが……不味いコーヒーは一杯まで。そいつが俺のルールだ。長くは待たないぜ」

シシオ「ミウ……。本当にこの男は、おまえの恋人なのか?」

ミウ「あ……う、えっと……」

シシオ「どうなんだ、ミウ! おまえはこの男の事が好きなのか! 俺よりも、こんな仮面の男の方が!」

ミウ「あ……あの、私……」


ナルホド「……なんだか、まずい雰囲気になってきちゃったけど……大丈夫か?」


シシオ「答えてくれ、ミウ! こいつがおまえの恋人なのか!? おまえは本当に、俺よりもこの男を選んだっていうのか! どうなんだ、オイ!」

ミウ「……っ……」


──ッ!!


シシオ「──! ……っ………熱っつ……!」


イトノコ「ゴドー検事が、シシオにコーヒーをぶっかけたッス!」

ナルホド「……やっちゃったよ」


シシオ「……っ……! テメェ……! なにしやがる!?」

ゴドー「……興奮して周りが見えなくなった男には……目覚めの一杯をぶっかける……。そいつが俺のルールだぜ」

シシオ「……おもしれぇ。おかげで目覚めそうだぜ。俺の中の、一匹の獣がな!!」


イトノコ「まずいッス! 喧嘩になるッスよ!?」

ナルホド「と、止めなきゃ!」


ミウ「──待った!」

シシオ「ミウ……?」

ミウ「あ……待ってくだ、さい……。わ、わた、私……私!」

ゴドー「……お嬢ちゃん」


ナルホド「何を言うつもりだ……?」


ミウ「う、うう……私、その……ごめんなさい!」

シシオ「ミウ! おい、待て……!」


ナルホド「お、おい! ミウさん、店を飛び出して行っちゃったぞ!?」 

ミツルギ「追うんだ、成歩堂!」

イトノコ「自分も行くッス!」


…………。


……。

 

 

 

 


ナルホド「はぁ……はぁ……。そっちは、どうですか? イトノコ刑事」

イトノコ「駄目ッス、全然姿を見かけねッス……」

ナルホド「とりあえず、僕は一度店に戻って御剣と今後の事を話し合ってきます。イトノコ刑事は引き続き、彼女を探してください」

イトノコ「了解ッス!」


ナルホド「ミウさん……。どうして飛び出して行っちゃったんだ……?」

 

…………。


……。

 

ナルホド「駄目だ、御剣。どこにもいない。引き続きイトノコ刑事に探してもらっているけど……」


──「ふざけんじゃねえぞこの野郎!」

──「す、すみませんっ!」


ナルホド「え、ええ! 来恩寺マイ!? どうして彼女がここに……?」

マイ「そこの仮面野郎! ミウの恋人気取りたぁ、どういう了見だい!?」

ゴドー「くっ……。女に怒鳴りつけられながら飲むコーヒー……。苦えなぁ」


ナルホド「お、おい御剣! どうして、来恩寺マイがここにいるんだ!? 彼女はここには現れないって──」

ミツルギ「状況が変わった。彼女がここに現れる条件が整ってしまったのだ」

ナルホド「彼女が現れる条件……? それって……」


マイ「おい! 人の話を聞いてるのかい? ごとう検事さんよ!」


ナルホド「──!」

ミツルギ「やはりそうか……」


──ッ!!


チンピラA「おい、ここか!? 吐麗美庵(とれびあん)とかいう店は!!」

チンピラB「シシオとかいう奴はどこだ!?」


ナルホド「な、なんだあいつらは!?」

ミツルギ「……どうやら、ハイエナ組の連中らしいな……」


チンピラA「おい! 出てこいシシオ! この間はよくも恥をかかせてくれたなぁ! あん!?」


ナルホド「あ、あいつ……! あのときの、ウエイトレスに絡んでた奴か!」

ミツルギ「どうやら、子分を引き連れて先日の仕返しに来たようだな」


チンピラA「おい、そこの金髪のねーちゃん! ちょっと訊きてえ事があるんだが、オイ!」

マイ「う、うるさいね。こっちは今、取り込み中なんだ!」

チンピラA「おいおい。やけに威勢のいいねーちゃんだな、オイ。俺らをハイエナ組の人間と知ってのことか、ああ!?」


ナルホド「まずいぞ御剣! 来恩寺組とハイエナ組は、今抗争の真っ最中なんだろ!? もし彼女が来恩寺マイだとバレたら、ただじゃ済まないぞ」

ミツルギ「彼女が本物の、来恩寺マイマイならな……」

ナルホド「ど、どういう事だ……?」

ミツルギ「まだわからないのか? 成歩堂。私には彼女の正体がわかったぞ」

ナルホド「彼女の、正体……?」

ミツルギ「考えてみろ。どうして彼女がこのタイミングで店に現れたのかを……」

ナルホド「このタイミングって……。ミウさんが店を飛び出して、それが……」

ミツルギ「これまで彼女が我々の邪魔をしたのは、今回を含めると3回だ。いずれも、ある条件のときにしか彼女は姿を現さない。いや、その条件のときにしか姿を現す事ができないのだ」

ナルホド「さっきも、そんな事言ってたよな」

ミツルギ「その条件とは、宇鷺ミウが……我々の前にいないときに、だ」

ナルホド「ミウさんが、いないとき……。言われてみれば、確かに」

ミツルギ「さらに。彼女は常に我々の作戦を知っていた。それはなぜだと思う?」

ナルホド「それは、ミウさんが彼女に作戦を漏らしていたから……」

ミツルギ「この場合、もう一歩推理を進めるべきだろう。例えば、そう……。彼女自身が、最初から作戦会議に参加していた……というようにな」

ナルホド「……それって! ──まさか!」

ミツルギ「今回の作戦。私はあえてゴドー検事のことを間違えて呼んだ。案の定、彼女は彼の事を“ごとう検事”と呼んだぞ」

ナルホド「あっ……!」

ミツルギ「そう考えると、すべての符号が一致する。彼女が現れるタイミング。我々の作戦を知っている理由。冥の正体を知っていた事。そして! ゴドー検事の名前を間違えたこと……」

ナルホド「つ、つまり……。あの金髪の子の正体は……」


チンピラA「ごちゃごちゃ言ってると、たとえ女でも容赦しねーぞコラ!」

マイ「あ、あう……」

ゴドー「やめな……。女は怒鳴りつけるもんじゃねえ。可愛がるもんさ」

チンピラA「スカしてるんじゃねーぞ、仮面野郎!  テメェもハイエナ組に楯突こうってんのなら、痛い目にあわせっぞ!! コラァ!!」


ナルホド「とにかく……! 彼女とゴドー検事を助けないと!!」

ミツルギ「糸鋸刑事は、まだ戻って来ないのか!」

ナルホド「彼を待っている余裕は無い! 僕たちで助けるんだ!」

ミツルギ「……えぇい、仕方あるまい」


チンピラA「メンドくせぇ! おいお前ら! かまわねぇから、コイツらごと店を滅茶苦茶にしてやれ! 憂さ晴らしってやつだ。テメェらも、恨むのならシシオって奴を恨むんだな!!」


──「やめろ! テメェらー!!」


チンピラA「──! ……し、シシオ……!」

シシオ「テメェらの狙いは俺だろうが。カタギの人間に手を出すんじゃねぇ!! この、ハイエナどもが!!」

チンピラA「ちょうどいいところに来やがったな、コラ! 袋叩きにしてやるよ!」

シシオ「ふん、おもしれぇ……! やれるもんならやってみな。お前らは目覚めさせちまったようだぜ……? 俺の中に棲む、一匹の獣をよ……!」

チンピラA「……や、やっちまえ! オラ!」


チンピラの子分たちがシシオに襲い掛かる。


──ッ!!


瞬く間にチンピラたちを蹴散らす。


シシオ「はっ、口ほどにもない野郎どもだぜ」


ナルホド「い……一瞬で……!? 5人も……!」


チンピラA「す……すびばせんでした……!」


……。


シシオ「大丈夫かい? お嬢さん」

マイ「あ、あの……。わ、私……」

シシオ「どうやら腰が抜けちまったようだな。ほら、掴まんな」

マイ「あ、ありがとう……。シシオさん……」

シシオ「──! その声……。まさか、おまえは……。ミウ、なのか?」

マイ「あ……」

シシオ「……やはり。そうかい」

ナルホド「来恩寺マイは、宇鷺ミウさんが変装していたんですね」

ミウ「き、気づいてたの、ですか……」

ナルホド「ええ、まあ……。気づいたのは、ついさっきですけどね」

シシオ「ちょいと待ってくれ。俺はまだ事情がよくわかってねーんだ。誰か、説明してくれねーか?」

ナルホド「うん。僕が最初から説明するよ」


…………。


……。

 

シシオ「そうか……。そんな事になってやがったのか」

ナルホド「でも、まだわからない事もあります。……一体どうして、こんな真似を?」

ミウ「そ、その……。えっと……」

シシオ「なんでなんだい? 聞かせてくれよ」

ミウ「じ、実は……その……! ち、父への……反発だったのです!」

ミツルギ「どういう事でしょうか?」

ゴドー「厳格な父親に反発したい、箱入り娘……。そんなところだろうさ」

ミウ「はい……。私は、自分の気持ちをいつも押し殺してきました。やりたい事も、我慢して……。言いたい事も言えず……父に反抗する事もなく生きてきました。だから……一度くらい、厳格な父に反抗してやりたかったんです!」

シシオ「……ミウ

ナルホド「変だなぁ……」

ミツルギ「どうした? 成歩堂

ナルホド「御剣。なにかが、おかしいと思わないか?」

ミツルギ「どういうことだ?」

ナルホド「彼女は、父親を困らせる為にこんな芝居を打った。……今の証言に、ムジュンがあるような気がするんだ」

ミツルギ「ムジュンだと……?」

ミウ「シシオさん。私は、こんな女です。だから、もう二度と……私に近づかないでください……。これ以上は、あなたに迷惑がかかるから……。マイマイにだって」

シシオ「ミウ……!」

ミウ「シシオさん……!」


──異議あり


ミウ「え……!?」

ナルホド「ミウさん。あなたは嘘をついている!」

ミウ「う、うそ……? 私は、ウソなんてついてません!」

ナルホド「厳格な父親に反抗したかったという、あなたの気持ちは本当でしょう。ですが、その為だけにシシオくんの気持ちを利用したという証言は、ある証拠品と……ムジュンするのです!」

ミツルギ「ど、どういう事だ! 成歩堂

ゴドー「くっ……。だったらそいつを示してもらおうか。まるほどう。おまえの言う証拠品ってやつを」

ナルホド「ええ。もちろんです」


──くらえ!


ミウ「あっ……!」

ミツルギ「それは……」

シシオ「お、俺の……写真!」

ナルホド「この写真は、以前……来恩寺マイが落としていったものです。お兄さんの事が大好きな彼女なら、写真くらい持ち歩いていてもおかしくは無いと思いました。しかし、実際にこの写真を持っていたのは来恩寺マイに変装した、ミウさんだったのです」

ミウ「そ、それは……。あの、その……」

ナルホド「もし本当にミウさんが父親を困らせる為だけに変装していたのであれば……。こんな写真まで、持ち歩いている必要はありません!」

ミウ「あぁ……! ううう……きゃああああああああああああ!!」

ミツルギ「……フ、そういう事か。私にもわかったぞ成歩堂

シシオ「お、おい! どういう事なんだ?」

ナルホド「それは、僕ではなく……ミウさん自身の口から、言うべきだと思う」

ミウ「……でも!」

ミツルギ「真実を話してみるといい。あなたの、正直な気持ちを……」

ナルホド「さあ、ミウさん。シシオくんも聞きたいはずだよ?」

ミウ「でも……そんな事をしたら、シシオさんになにをするか……!」

シシオ「ミウ! 俺の事は心配しなくていい。俺なら、大丈夫だ! 聞かせてくれよ。おまえの気持ちを」

ミウ「……わかりました。私は……私は……シシオさんの事が、す……好き、です……」

シシオ「ミウ……!」

ミウ「シシオさんに、出会ってからずっと憧れてきました。私とは違う、自由で奔放な生き方に……。でも、もしその事が父に知られたら……。あなたにもっともっと迷惑がかかる。そうこうしてるうちに、父が、シシオさんの事を御剣検事さんに相談してしまい……。シシオさんを、遠ざけようと……。だから、私……マイマイの真似をして御剣検事さんたちの邪魔を……! ごめんなさい」

シシオ「おまえが謝ることはない。……だが、危ねぇ真似しやがって」

ミウ「だ、だって……。こうでもしないと、私シシオさんと引き離されちゃう! そんなの、嫌だから……。私、頑張って……。怖かったけど、頑張ったの……」

シシオ「ミウ……」

ゴドー「くっ……。まいったなぁ……甘すぎて飲めやしねぇぜ。このスペシャブレンドは……」

ナルホド「……ふー。これで、問題解決かな──」

ミツルギ「根本的な問題はなにも解決していないぞ、成歩堂

ナルホド「ど、どういうことだ?」

ミツルギ「たとえお互いの気持ちが判明したとしても、極道一家の跡取り息子と検事局長の一人娘という立場が変わったわけではない。いずれにせよ、2人が結ばれる可能性はゼロに等しい」

ナルホド「そ、それは……」

ミツルギ「加えて、彼女はもうすぐお見合いをする事になっている。宇鷺検事局長の意向でな」

シシオ「お、おい……。そいつは、本当なのか」

ミウ「はい……。実はお見合い……今日なんです」

ミツルギ「間も無く、SPと共に迎えの車が来ることだろう」

ナルホド「そんなぁ……!」

ミツルギ「……来恩寺シシオ」

シシオ「……なんだい?」

ミツルギ「最早、時間が無い。覚悟を決めるのだな」

シシオ「……見合いを止める術は無いんだな? ……ふっ、それじゃあ……仕方無ぇな」

ミウ「え……! そ、そんな……」

シシオ「今、この場で……おまえを搔っ攫っていくより仕方無ぇ!!」

ミウ「ああっ……! し、シシオさん!?」

シシオ「俺と一緒に行こうぜ、ミウ!」

ミウ「えっ……!?」

シシオ「おまえが一緒に来てくれるなら、俺は組なんていらねえ! 組は、妹のマイに任せるさ! どうだ? ミウ

ミウ「……はい! 私、一緒に行きます! シシオさんと一緒に、地の果てまでも!」

シシオ「……よーし! しっかり掴まってろよ!」


……。


ミツルギ「……行ってしまったな」

ナルホド「ああ。今度こそ、めでたしめでたし……って事で、いいのかな」

ミツルギ「うむ……。彼女は、ようやく父親の呪縛から解き放たれて、本当の自分を曝け出す事が出来たのだ。……それは、喜ぶべき事だろう」

ナルホド「おまえ、ひょっとして……。見合いの事を話したのはシシオくんを焚きつける為だったのか──」

ミツルギ「なんの事だか良くわからんな」

ナルホド「ふふ、お前でもたまにはそういう事をするんだな。でも、いいのか?」

ミツルギ「……? なにがだ」

ナルホド「そもそもおまえ、検事局長に頼まれて……ミウさんからシシオくんを引き離そうとしてたんだろう?」

ミツルギ「……あ」

ナルホド「今気づいたのかよ……」

ミツルギ「……ぐぬぬ。……むう。検事局長になんと説明したものだろうか……!」


…………。


……。

 

ミツルギ「──と言うわけで……。皆に協力してもらったが、結局こんな結果になってしまった」

マヨイ「まあ、2人が幸せになったんだから結果オーライだよ」

ゴドー「今ごろ、どこかの国で……。楽しくやってるだろうぜ」

ナルホド「狩魔検事は不服そうだけど──」


──ッ!!


ナルホド「いってぇ!!」

カルマ「……成歩堂龍一……。それに、怜侍。私に恥をかかせた代償は高くつくわよ」

ミツルギ「う、うむ……。覚えておこう」

ナルホド「……。そういえば、御剣。検事局長への説明は、どうなったんだ?」

ミツルギ「それが……。事情を説明している途中で、検事局長が泡を吹いて、倒れてしまったのだ……」

ナルホド「えぇー!?」

マヨイ「よっぽどショックだったんだろうねー。……でも、可愛がってた一人娘が駆け落ちしちゃったんだから、仕方無いかー」

ナルホド「……ミツルギは、後で大目玉だな」

カルマ「来月の給与査定が楽しみね、怜侍」

ミツルギ「──! ぐっ……」 

イトノコ「御剣検事、いざとなったら自分に相談するッス。ソーメンが安く食える店なら教えてあげられるッスよ」

ミツルギ「……うむ、気持ちだけ受け取っておこう」

イトノコ「でも、これで……。2人のコンビも解消ッスね」

ナルホド「そうですねー。……それにしても、御剣と組む事になるとは思いませんでしたよ」

マヨイ「え? なに言ってるのー? まだコンビ解消には気が早いよ」

イトノコ「どういう事ッスか?」

ナルホド「そうだよ、もう依頼は達成したじゃないか」

マヨイ「ふっふっふ……。優秀な助手である真宵ちゃんを、ナメちゃ駄目だよー? “ザ・ミツルドくん”の為に依頼をたっくさん受けてきてるんだからー!」

ナルホド「え」

マヨイ「えーっと、まずは逃げ出したオウムの捜索でしょ?」

ナルホド「はぁ?」

マヨイ「あとは……真宵ちゃんの部屋の、大掃除! あ、これなんかどうかな! トノサマンヒーローショー! トノサマンとアクダイカーンのキグルミを着て、屋上で勝負するの!」

ミツルギ「……トノサマン、だと」

ナルホド「あの、さ……。どの依頼も、僕たちがやつ必要性、まったく無いよね!?」

マヨイ「まあ、まあ。細かい事は言わない! 他にも依頼はガンガン募集中だよ」

ゴドー「くっ……。ちょうどいい。2人には今度、俺の捜査を手伝ってもらうとするか」

ナルホド「ええー!?」

カルマ「それじゃあ……。私もなにか依頼しようかしら」

ミツルギ「お、おい……。冥まで……!」

マヨイ「イトノコ刑事は、なにか無いんですか?」

イトノコ「そう、ッスね。自分は腹が減ったッス」

マヨイ「それじゃあ、2人にご飯をご馳走してもらうとか!」

イトノコ「おっ! いいッスねー!」

ナルホド「──! 御剣……。ここはやっぱり、叫んでおくべきかな?」

ミツルギ「うむ……。私もそんな気分だ」

イトノコ「おぉっ!? やっぱこれがないと締まらないッスね!」

マヨイ「では、力いっぱい、どうぞ!」


ミツルギ「では……」

ナルホド「お言葉に甘えて……」


──異議あり!!


……。


おわり