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Steins;Gate Drama CD Audio Series - Labmem Number - 004☆Makise Kurisu
7月28日 12時10分
──電話をかける紅莉栖。
紅莉栖「……はぁ……お願い、出て……。出てよ……まさか、こんな……こんなのあんまりよ……。どうして、どうしてこんな事に……。お願いっ、電話に出て……パパ……」
……。
ねえ、パパ。
今日が何の日か、知ってる?
──『秋葉原駅前に人工衛星と思われる物体が墜落した事件で、駅周辺からの避難はほぼ完了したと発表しました。なお、秋葉原を通る公共交通機関は現在、全線が乗り入れを中止しています。また、周辺道路にも警官を配置して、秋葉原方面へ向かう車に注意を呼び掛けているということです……』
別に、特別な記念日だとか……そんなものじゃない。
ただ単に、今日は私が7年ぶりにパパと会う事になっていただけのこと……。
なのに……。
──『えー繰り返します。本日午前11時半ごろ、東京秋葉原駅前に人工衛星と思われる物体が墜落しました。物体はビルの7階と8階の外壁をえぐるような形で墜落しましたが、周囲に大きな被害は無く、消防によると死傷者は今のところ出ていないという情報が入っています。政府は先ほど行われた会見で、物体の爆発の可能性を否定しましたが、一方で万が一に備えて、封鎖区域周辺には近寄らないよう付近の住民に呼び掛けています……』
死傷者はいない……。
そんなことを言われても、自分で確かめるまで信じる気にはなれない。
人工衛星が墜落したあのビルの8階。
パパは、今日の正午からそこでタイムマシンの発表会を行うことになっていた。
ねえ、人工衛星が墜落したとき……。
パパは、そこに……いたの?
紅莉栖「……ねえ、出てよ……! 今どこにいるか教えてよ……」
ニュースで事故のことを知って、そろそろ30分くらい……。
携帯にずっとかけ続けてるのに、パパは出てくれない。
こっちから電話するなんて、これまで一度もなかったけど……。
これだけ連続で何度もかけてるんだから、一度くらいかけ直してくれたっていいのに。
やっぱりパパは、あのビルで……。
紅莉栖「何言ってんのよ、私! そんなわけないでしょ、馬鹿!」
──通話を切る。
ねえ、パパ……。
私ね、パパから7年ぶりに連絡が来たとき……。
結構、嬉しかったのよ。
手紙が届いたのは、いつだったかな。
今から、3ヶ月以上前のこと……。
──《人類史を塗り替える世紀の大発表をするから見に来い!》
自信たっぷりにそう書かれてあって……。
昔の、私が大好きだった頃のパパが、戻ってきたような気がした。
そもそも、パパから手紙をもらったのって初めてだったし。
私はずっと……憎まれてると思ってたから。
かなり意外だった。
ねえ、パパは知らないでしょ?
アメリカで私が、どんな7年間を送ってきたか……。
これでも結構、頑張ってきたのよ。
大学は飛び級で卒業したし、脳科学の研究でサイエンスにも載った。
本当は、パパから招待状が届いたところで……日本に帰ってる暇なんてなかった。
ママにも反対された。
だけど、この機会を逃したら次いつ再会できるかわからなかったから……。
女子校に逆留学するっていう言い訳を自分で手配したりして、ママを何とか説得して。
そうまでして私は今日、秋葉原にいる。
本当のことを言えば、7年ぶりのこの国は居心地があまり良くなかったわ。
私はどこに行っても、ゲスト扱いだったから。
2週間の逆留学で過ごした菖蒲院(あやめいん)の教室でも。
私は天才だともてはやすマスコミの取材を受けているときでも。
いつだって……私は不機嫌な顔をして周囲と距離を置いていた。
いやな女だって、自分でわかってる。
変えるつもりもないし、変えられるとも思ってない。
私の目的は、あくまで……パパに会うこと。
他はどうでもいいの。
なのに……もうすぐ会えるっていう時に、まさか……。
こんなことになるなんて……。
──紅莉栖の携帯が鳴る。
紅莉栖「──! あ……電話……。電話! ……はい! ちょ、あ、はい! あの、ハロー?」
中鉢『何度も電話してくるな! 鬱陶しい!』
紅莉栖「パパ──」
中鉢『くっそぉ、ふざけおって……! あんな人工衛星なんぞのせいで私の晴れ舞台が中止にされたなど、こんなデタラメな話があるか!!』
紅莉栖「わっ、私に当たらないでよ! それより、今どこなの? 怪我とか──」
中鉢『こんな結果は認めん……! 認めんぞ! 私は必ず……!!』
──中鉢が通話を切る。
紅莉栖「あ、ちょっ……! ……っと、うぅ……これはひどい。何なのよ、まったく!」
……7年ぶりの会話が、こんななんてね……。
パパらしいと言えば、パパらしいけど。
私の話、まったく聞こうともしないところは、昔と一緒か。
まあ、私もついマジレスして反論しちゃったわけだが……。
私、もしかして……これまでの鬱憤が溜まっていた……?
でも、もし直接顔を合わせたとき……。
今みたいに強気で話せるかどうか……。
紅莉栖「……いやいや、別に強気で話す必要もなかろうが……。はぁ……まあ、あの様子ならきっと刺しても死ななそうね……」
──『えー只今、消防は記者会見を開き、死傷者はいないことを正式に確認したと発表しました。引き続き──』
紅莉栖「だからって、あんまり心配させないでよっ……! まったく、ぐす……。あれ? ちょ、私ったら……なんで泣いてるんだろう? うん、興味深いわね、これは。β-エンドルフィンの過剰分泌だわ。私の意思と感情が乖離しちゃってる……。必要以上にホッとしてることが、その証明か」
ねえ、パパ……。
私はね、いつだってパパのことになると論理的じゃいられなくなる。
親への無性の愛情だなんて言うつもりはなくて。
むしろ、私はずっと……パパからの無性の愛情を求めているんだと思う。
これは、ただの私のエゴ。
我がまま。
私は、パパに理想を押し付けてるのよ。
その理想の科学者であり、理想の父親像を壊したのは……。
子供の頃の私の無邪気さだった、っていうのにね。
パパからしてみれば、悪意がない分、逆に厄介な娘よね。
──アラームが鳴る。
「……っと、もうこんな時間か」
ねえ、パパ。
これから私、何に出ると思う?
そこで講義をして欲しいって、頼まれたの。
タイムトラベル理論をテーマにして、ね。
最初は断ろうと思った。
でも、依頼をしてきた主催者の人はきっと、全部織り込み済みだったのね。
私とパパの関係も。
パパが昔、学会を干された理由も。
私が物理学を専攻じゃない、っていうことも。
意地悪のつもりなのか、単なる好奇心なのか……。
とにかく、良い気はしなかったけど。
私、逆にOKしてやったわ。
この巡り合わせの良さは、確率論的にはかなり面白い数字だと思わない?
パパのタイムマシン発表会の数時間後に、娘の私もタイムトラベル理論について講義する機会を得た。
これは、学会を見返すチャンスだって思ったくらいよ。
私は、タイムトラベル理論については未だに否定的なんだけど……。
それでもパパなら……。
私にあれだけ自信満々に発表会の招待状を送ってきてくれたパパなら……。
きっと、なんとかしてくれる。
そう信じてた。
一応、私としてはATFの講義で喜んでその最新理論を牧瀬章一の名前と一緒に紹介しよう、って企んでたわけ。
結局、人工衛星が墜落したせいでその機会は失われちゃったけどね……。
ねえ、パパはもしかしたら世紀の大発見をしたかも知れない。
その発表の機会を、一時的に逃しただけなのかも知れない。
娘として、信じたい気持ちもある。
でも、それはそれ。
娘としての感情は理論より先行させれば、私の科学者としての7年間の努力は無意味になるから。
理論が証明されていない限り、今の私はタイムトラベルを肯定することを……できない。
ごめんね、パパ……。
パパは、いつになったら落ち着いてくれるかな?
明日か明後日くらいまでには会って理論を聞かせてもらえるといいんだけど。
そろそろママからも帰って来いって催促がありそうだし。
ねえ、パパ。
どうしてかな?
この国に戻ってきてから、時間が経つのが遅いの。
私には、研究室に閉じこもって研究に没頭している方が性に合ってるのね、きっと。
独り言もずいぶん増えたし。
ふふふ、って……笑えない。
紅莉栖「じゃあ、行ってきます……!」
……。