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天使の日曜日 Angel's holiday “ef - a fairy tale of the two.” Pleasurable Box.【10】(終)

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

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「……大変な目にあったわ」


お風呂に入り、ご飯を食べてやることがなくなったところで、水姫が僕の部屋に避難してきた。

1時間以上もお風呂から出てこなかったし、食事中も妙に寡黙になっていたので、気にはなるのだが。


「まあ、なにがあったかは聞かないでおくよ」
「……そうしておいて」


昨日の勉強中のときと同じようなポーズで、水姫はうなだれている。


「それより、水姫の寝床はどうするか訊いた?」

 

 

 

 



「ああ、おばさまのベッドを使ってもいいって。おばさまはおじさまの部屋で寝るから。パジャマも借りれるみたい」
「うちの父親の部屋は洒落にならないから、それがいいだろうね」
「そんなに普通じゃないの、おじさまの部屋って?」
「水姫のおばさんの服装のセンスくらいには」
「ああ、それは重症ね……なんで赤、白、黄色なのかしら。あれだけはよくわからないわ。……っふわ……」


ふいに、水姫があくびを漏らす。


「眠い?」
「う、うーん……色々と考えてたら昨日は眠れなくて」
「僕もあんまり寝てないんだよね」


まだ21時を過ぎたばかりだが、まぶたの重さは自分でも感じていた。


「今日は早く休んで、明日もどこかに行くほうがいいかもね」
「遊びには行く。でも、もうちょっと話していたいから、がんばる」


眠気のせいか子供っぽく言って、水姫がきょろきょろと部屋を見渡す。


「それにしても、レンちゃんの部屋は昔から変わらないわね。片付いてるけど本ばっかり」
「本棚に入りきらなくなりそうだし、学校の図書館に通うようにして、これでも買い控えてるんだけど」
「そうなんだ」
「この部屋は昨日も見たのに、なんで今になって本の話なの?」
「……そんな余裕が昨日あったわけないでしょ」
「あ……そうか、そうだろうね」


水姫の照れた物言いに、そういえばこの部屋で押し倒され、首を噛まれたことを思い出す。

さらに物事が進展しているのに2人きりとう状況もなんだが──いつ母親が顔を覗かせるかわからないので水姫も大人しい。

落ち着かないのは僕も一緒だが、ある意味、母親はあれでストッパーとして有効に機能しているのだろう。

そこで言葉が途切れていることに気づく。

お互いに考え事をしていて──おそらくその内容は一致しているのだろう。

気まずいのだ。


「え、えーと、なにしようか?」
「ゲ、ゲームでもする?」


なぜか、無意味に2人とも明るく叫んでしまう。


「なにがあるの」
「オセロとか将棋とか」
「……もういきなり、テレビゲームですらないのね」
「そういうのは母さんの部屋にあるよ」
「まさか、夜な夜な2人でゲームしてるわけじゃないでしょうね」
「いや、協力プレイだと足を引っ張るし、対戦ゲームだと相手にならないからって誘われもしない」
「別の意味で重症ね」
「…………」
「…………」


また沈黙のまま目があってしまい、お互いに目を逸らしてしまう。


「な、なんか調子でないわね」
「あの、水姫。ちょっと変な質問かもしれないから、答えられなかったら答えなくてもいいんだけど」
「なに?」
「水姫って僕のことが前から好きだったんだよね」
「な、なによ突然!?」
「いや、なんかこう、恋人になってやろうと思ってたことってないのかなって。手持ち無沙汰なら出来ることもあるかもしれないし」
「あ、そういうことか。恋人になろうなろうってことばっかり考えてたけど、その先ねえ……」

 



「っ…………」
「ん?」


まだ黙ってしまったかと思ったら、水姫が顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「え、なに?」
「……き、訊かないで」
「そんな反応をされると逆に気になるんだけど」
「うー。……お、お嫁さん」
「…………」
「ちょっと、自分から言うように仕向けたんだから、なにか反応しなさいよ!」
「いや、なにを言っても自爆になりそうで」
「こういうとき、恋人なら一緒にダメージをうけるべきでしょ!」
「無茶な」


恋人の次がお嫁さんという考えは、一足飛びなようでいて意外と正しい考え方だろうが。


「もう……レンちゃんが変なこと訊くからいけないのよ」
「いや、そんな将来のことじゃなくて、今なにか出来ないかなって話でしょ?」
「なるほど。これは誘ってるわけよね」
「誘ってる?」
「レンちゃん、あんまり大きな声ださないでね」

 



「──ぅ!?」


なにをするのかと問い返す前に、すすっと近づいてきた水姫にのしかかられ、唇を塞がれた。


「ん……」


なにか湿った、生温かいものが唇に触れる。

それが水姫の舌だとわかったときには、口の中にまで侵入されていた。


「……っ!」


耳からではなく、頭の中のほうからピチャピチャという水の音が響いた。

あまりに僕が無抵抗だったからか、薄っすらと水姫のまぶたが開く。

 



「はぁ、レンちゃん、身体ガッチガチに固まってる」
「……びっくりした、から」
「やりたいことはなにかって聞かれたでしょ?」
「キスならさっきもしたよ」
「さっきはレンちゃんのほうからだったし。それに、ただキスをしたいってことじゃないわ。キスだけじゃなくて、手を繋いだり、ぎゅっと抱きしめたり、泣きそうな顔を見たり……レンちゃんとエッチなこともしたかったし」
「なにか妙なものが1つ混じっていた気が……」
「……わたしじゃ嫌?」
「い、嫌じゃないけど」
「じゃあ、好き?」
「う……好きとか嫌いとかじゃなくて……その……」


相変わらず質問がストレート過ぎて困ってしまう。


「別に結婚してからとは言わないけど、こういうことは、もうちょっと時間をおいてからのほうがいいと思うんだけど?」


恋人になったからこそ、彼女を大切にしたいと思うのだが。

しかし、水姫は艶っぽい微笑を浮かべたまま小首をかしげる


「あのね、何度も言うけど、レンちゃん相手に待ってたら何年かかると思ってるのよ。まあいいわ。レンちゃんの焦らしになんて慣れてるし。むしろ、そのほうが燃えるし」
「え?」


問い返す前に、水姫がまた覆いかぶさってくる。

 



「ん」
「っあ!?」


唇のほうに来ないと油断していたら、耳に舌を這わせられる。

ちゅく、っと水気のある音が頭の内側のほうに響いた。


「ひ!? ううあっ!?」
「うわ!?」


むずがゆさに足をばたつかせると、水姫が目を丸くする。


「わ、びっくり……耳ってそんなに気持ちいいの?」
「っく……へ、変な、感じで……というか、なんで耳なの?」
「え? そこが弱い人がいるって本に書いてあったから、レンちゃんはどうなんだろうって」
「そんなことが書いてある本なんて読んでるんだ」
「いやまあ、学校で友達と、ほら、色々とあるのよ、付き合いとか」
「そんなこと言いながら、また耳に口を──ぅあ!?」
「うふふ。耳、好きみたいだからもっといじめてあげる」
「あ、っ! ちょ、ダメだって……ぅ……あ!?」
「レンちゃん、しーっ。あんまり声を出すとおばさまに気づかれちゃうよ?」
「そ、そんなこと言われても、これ、声が出ちゃう……耳もベタベタだし……」


耳元で囁かれるだけでも、吐息がかかってくすぐったいのだ。

 



「ああ、もう、可愛いなぁ♪」


耳を唇で撫でるようにしながら、くすくすと水姫が囁く。

あれ?

なんかこういうときの男女の立場って、普通は逆じゃ……?


「もっといじめたくなっちゃうわ」


水姫が足を絡めるようにしてふとももをこすりあげてくる。

というか、股間に膝が──


「ふふ。レンちゃん、ちょっとベッドに座って」
「え、うん」


耳ばかり攻められてふらふらとしていて、ほとんど反射的に言葉を従ってしまう。

 



「つらそうだし、楽にしてあげる」


僕の両足の間にひざまずいて、水姫がズボンに手をかける。


「わ、ちょっと水姫!?」
「もう。今さら形だけの抵抗なんていいから。レンちゃんもしたくないわけじゃないんでしょ?」
「うぅ……」


さっきから唸ってばかりいるが、確かに水姫とエッチなことをしたくないわけではないのだ。

もし本気で抵抗する気があるなら、力づくで逃げることも出来るだろうし。

割り切って、もうちょっと素直になってもいいのだろうが──


「でも、そう簡単には直らない性格なんだよね」
「そんなこと知ってるわよ。ま、お互い徐々に慣れていくしかないよ。うん。……まあ、女は度胸ね」


……。

 



「う、あ……あはは」
「どうしたの急に?」
「い、いや、なんかこう、レンちゃんの顔越しに天井が見えるから。これ、すごく新鮮な見え方だな~って」
「僕は水姫を見降ろしてるのが不思議だけど」
「あはは」
「そうだね。2人とも初めてだし、ちゃんと確認しながらのほうがいいのかも」
「男の人って、もっと最初はがっついてくるって聞いてたんだけどなあ」
「僕にそういうのを期待しても無駄だと思うよ」
「相手がわたしなのもあるしね」

 



くすくすと水姫が笑みを浮かべる。

正直、彼女がこんなときでも笑ってくれることが、なによりも嬉しい。


「あ、ごめん、変なところで笑っちゃって」
「ううん。いいよ」

 

僕たちはお互いを求め合った……。


…………。


……。

 



「うっふっふ」


汗だくになった服を脱いでベッドに潜りこんでいると、水姫が嬉しそうに寄り添ってくる。


「というか、そのままでしちゃってた……」
「あー、まあ、そうね」
「でも、いきなりだったから避妊具とか持ってなかったしなあ」
「実はコ〇ドームがあるんだけどね」
「え?」
「いや、餞別にもらって。お財布に入ってるの」


あっけらかんと水姫は頷く。


「餞別って誰から? それより、あったんなら使えばよかったのに」
「いやだよー♪」


なぜか満面の笑みを浮かべたまま、ぎゅーっと水姫が抱きついてくる。


「最初だけは、やっぱりレンちゃんと素のままで繋がりたかったもの。それに、赤ちゃんが出来てもなんの問題もないでしょ?」
「う、う~ん……」


どうしてか、そうなったらうちの母親も水姫の両親も大喜びしそうな情景が思い浮かび、頭を抱えてしまう。

公認すぎるのも、なんだか妙な感じだ。


「まあ、でもそういうのはもうちょっと先の話よね」
「さすがに、そこはちゃんとしておきたいかな」
「しばらくは我慢してね?」
「いや、僕より水姫のほうが……」
「ああ……そうね、気をつける」


彼女のほうが襲いかかってしまいそうだ、という自覚はあるらしい。


「それにしても、相談していたときに、そんなものまでもらってたんだね」
「レンちゃんが我慢できなくて襲ってきたとき用に渡されてたんだけどなあ」


誰に相談したのかは知らないが、まさかこういう展開になるとはその人も思っていなかっただろう。

 



「ん……ふわ……ぅ……」
「さすがに寝たほうがいいかもね」
「うん……ちゃんとできて安心したのかも」


ごしごしと目元をこすりながら、水姫が相変わらず素直な物言いで頷く。


「ところでレンちゃん」
「なに?」
「寝る前に、もう1回、したくない?」
「え?」


…………。


……。

 



「ん……」


まぶしい光に目を覚ますと、すぐ間近に幸せそうに眠っている水姫の顔があった。


「すぅ……すぅ……」

「……酷い目にあった」


天井を見上げながら、盛大にため息をついてしまう。

4回目あたりで僕のモノがたたなくなり、それでも水姫はねだってきた。

水姫を起こさないように上半身を起こすと、シーツにこすれたモノに痛みが走った。


「……うう」


情けなくて泣きそうになってしまう。


──「昨夜はお楽しみでしたね」


「……え?」

 



顔をあげると、母が部屋の中にいてこちらを楽しそうに見つめていた。


「………………??」


錯覚だろうかと目をこすり、再び顔をあげるが、やはりそこに母親がいる。

 



「………………え???」
「朝ごはん出来てるけど、食べられる?」
「こ、ここ、これは……!」
「なにどもってるのよ。あんなに大声でやってたのに、今さら弁解もなにもないでしょうが」
「…………」


そう言われてしまえば、途中から声の大きさのことはすっかりと忘れていた。


「ま、水姫ちゃんも寝たふりしてないで、食べられるような朝ごはん食べに来てね。じゃーねー」


ぱたりと──本当にいつもの調子で、母親は部屋から出て行ってしまった。

あまりにも反応が薄いので、それはそれで物足りないような気もしてしまう。


「で、水姫、起きてるの?」

「うーん、おばさまにはばれてたか」


上半身を起こすと、水姫は気持ちよさそうに笑った。

 



「おはよう、レンちゃん。今日もいい天気ね」


…………。


……。

 



僕だけが気まずい朝食を済ませてから、二人で家を出る。

昨日の約束の通り、今日も水姫とデートをすることにしたのだ。


「あー、今日も恨めしいくらい暑いわね」


青空を見上げながら、どこか嬉しそうに水姫が言う。


「どこか遊びに行くか考えてる?」
「うーん、やっぱりないかも」
「じゃあ、映画でも観に行こうか?」
「え? あの恋愛映画じゃないやつを?」
「ううん。あの恋愛映画のことだよ」
「なんで?」
「いい話だったから、水姫にも観て欲しくて」


照れくさかったが──彼氏らしくしてみようと、まっすぐ、きっぱりと口にしてみた。


「それに、ほら。あれは恋人同士で観に行くべき映画だと思うし」
「なるほど、いいアイデアね。そうしましょう」


僕の提案を、水姫は嬉しそうに──無条件に同意してしまう。

彼女の無鉄砲さは直したほうがいいだろう。

でも、その前向きな行動力は、僕が見習うべき素晴らしいものだと思った。


「ねえ、レンちゃん。やっぱりわたし、レンちゃんの作るお話が聞きたい」
「どうしたの、急に?」
「あの雪だるまの話だけど、わたし、ずっと続きを考えてたの」
「続き?」
「そう。赤道で消えそうになった雪だるまだけど、彼は今まで助けてきた人たちに、今度は助けられるの。その後、赤道がゴールだなんて知らない雪だるまは、さらに南を目指す旅を続けて──やがて、自分の故郷とは反対にある冬の世界にたどりつくのよ」
「ああ」


その考えはなかったので、素直に感心してしまう。

僕は地球で一番暑い赤道直下を旅の終わりと考えてしまったが、確かにその通りだ。

そこは“ゴール”ではない。

世界の果ては存在せず、彼の目の前には今までと同じように世界が広がっているのだ。

 



「それは……それは、いいなあ」
「ね、悪くないでしょ? なんなら、さらにぐるっと回って元の場所に戻ってもいいんだし」
「そうだね。やるならそこまでやったほうが面白そうだ」
「やりたいことをやるのがいいと思うのよね。うちのお母さんもそう言ってるし。ちゃんと夢は叶うわ。だから、レンちゃんもなりたいモノになればいいのよ」


彼女がなにを言ってるかを察して、苦笑してしまう。


「そうだね……来年の進路希望調査のときまでに、ちょっと考えておくよ」


小説家、か。

それは“夢”で──だから“現実”にはならないと諦めていたけれど。


「夢は叶えるためにある、か」


多分、どこまで成長しても、僕の根本的なところはあまり変わらないだろうけど。

でも、大丈夫な気がしてきた。

隣に彼女がいる限り、無理矢理にでも前を向かされてしまいそうだから。


「足して2で割るとちょうどいい感じだもんね」
「? なんだかわからないけど、レンちゃんがいいんなら、いいんじゃない? それより、早く行こう」

 



水姫が手を差し出してくる。

僕はその手をとり、肩を並べて歩いていく。

世界はなにも変わっていないけれど、世界を見ている僕らは常に変化している。

彼女が言うように、『めでたしめでたし』で終わる話を目指していこう。

なにはともあれ──

今日もいい日になるような気がした。


……。

 

──────


────

 

──

 

 

The end of the fairy tale.
 The opening of the new world.

 

……。

 

──「おい……おい……」


「うー……にー……」

 



「ウニじゃない。……こんなところで寝てると、風邪をひくぞ」

「ん-……?」
「目が覚めたか?」
「……あれ、火村さん。おはようございます……」

 



「こんばんは、だ。……はあ。こんな寒いところで、よく眠れるな」
「……そうですね。あ、そうだ。優子さんは一緒じゃないんですか?」
「まだ寝惚けてるだろ」
「……あ、あれ? ……あ」

 



「……あれが夢か……あんなに幸せだったんだ……」

 



「久瀬から、俺と優子のことを聞いたんだな。それで、変な夢をみたわけか……」
「ああ……ええ。……あの、火村さんと優子さんはお付き合いしていたんですね」
「ああ」
「あの南の音羽の教会で話していたときには、私のことにも気付いていたんですね」
「……ああ。今さら蒸し返す必要はないぞ。謝る必要もない」
「……ええ」
「……そうだ。昼間は忘れていたが、今度会ったときにこれを渡そうと思ってたんだ」
「なんですか?」

 



「羽根?」
「天使の羽根さ」
「天使の?」
「俺が持っていようと思ったが、多分……君が持っていたほうが良いと思ってね」
「天使の羽根……うん」
「貰ってくれるか?」
「ああ、喜んで。……まあ、火村さんに天使の羽根とかメルヘンなものって、ほんっっっとに似合わないですもんねー」
「ふ……。ほっとけ」


……。


「うう……。さすがに寒くなってきましたねー」
「だから言ったろうが」
「えへ、ですね。あったかいお家に帰りましょー」
「じゃあな」

 



「火村さん!」

 



「また明日です!」

「……ふっ。ああ、また」


…………。


……。

 



「天使を探しに来て、いつか天使になれる子に出会うというのも変わり種」

 



「さて、次の御伽噺(おとぎばなし)までもうちょっと時間が空くけれど」

 



「あなたとの素敵な出会いを祝しまして。まずは、アリスから贈り物を!」

 



──────

 

 

────

 

 

──

 

 





END