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-ノベルゲーム・タイピング-

CHAOS;CHILD【18】

このブログはゲームのテキストを文字起こし・画像を投稿していますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身でプレイしてください。

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「ふーむ……」


日曜日。


……。

 

 

僕と有村、そして山添の3人は、この前神成さんに言われた通り、父さんの知り合いの病院で、頭から足先まで、全身のメディカルチェックを受けた。

 

 

今、その結果らしき数字や、脳はや心臓のグラフ、MRIの映像などが、連携医院である父さんのPC上にズラリと並んでいる。

もちろん素人の僕らが見ても、何が何やらさっぱりだ。

久野里さんは、かなり年上であるはずの父さんにも物怖じ一つせず、しかも、タメ口で尋ねる。


「おかしな物ってなんですか? ただでさえこんな検査されてむかついてるのに。しかも、今日って友達と約束あったんですよ。女子同士って、一度断ると、後々面倒なんですけど」


有村が腰に手を当て、思いっきり不機嫌に文句を言う。

 



一方、山添はただオドオドして、なるべく久野里さんの視界から隠れようと、僕の背後で息を潜めていた。


「素人は黙ってろ。邪魔だ」

「はぁ!? 冗談じゃないですよ! ここでちゃんと言っとかないと、この先どんな実験をされるか、分かったもんじゃありませんからね!」

「チッ。そういうことを言うド素人が、一番腹が立つ」

 



「なぁ、有村さん、久野里さん。そうやって一日中喧嘩してて、疲れないか?」


神成さんは、いつものように困った顔をしてそう言った。

有村は久野里さんを睨みながら思い切り眉を寄せ、久野里さんは『フンッ』と鼻を鳴らした。


「はぁ……。で、佐久間先生、結果はどうでした?」

「分かったことがあれば、なるべく早くお願いします。出来ればこの後、買い物に行きたいんで」

「ああ、そうするよ。まず、うきちゃんの成長阻害因子に関してだが……これは、すぐには分からん。染色体からホルモンの分泌異常まで、詳しい結果が出るには時間がかかる。で、拓留と有村さんに関しては、身体はどこにも異常なし。どの臓器もすこぶる健康だ。ただし、拓留は食事のバランスが明らかに悪い。特定の栄養素が欠乏してる。これは乃々によ~く言っとくからな」

「げ……!?」

「有村さんは、少し甘い物や油を控えた方がいい。ジャンクフードもやめること。このままだと、確実にメタボへ一直線だ」

「げ……!?」

「身体のことは別にいい。脳はどうなんだ?」

「ああ。これがMRIだが……」


父さんが画面の一つをクリックすると、脳の断層写真がUPになった。

有村は、それが自分の脳の輪切りだと思うとさすがに気持ち悪いのか目をそらしたが、山添の方はそれが何か分からず、僕の後ろから不思議そうに見つめている。

久野里さんは、断層写真をマウスで何度もゆっくり移動させて、細部までチェックしていたが、やがて投げるようにマウスを手から放した。


「……3人ともネガティブだな」

「ああ、ネガティブだよ」

「ネガティブ!? うそ!? 頭悪いってことですか!?」


有村が、世にも恐ろしい宣告をされたように、ヨロヨロと後ずさった。

 

 

「ん? 確かに頭が悪いな。バカすぎる」

「ううっ、そんなぁ」

「いやいや。そういう意味じゃないから」


"ネガティブ"というマイナスなイメージの単語を聞いて不安そうにしている有村を見て、父さんはくっくと笑った。


「久野里くん。君は、聞いていた以上に人が悪いね」

「"ネガティブ"の意味も分からないようなヤツは、バカと断じていいはずだが」

「はは……。こいつは、神成くんの気苦労も分かるねぇ」

「でしょう?」

 



神成さんは、ちょっと疲れたような笑顔を父さんに返した。


「安心していい、有村さん。医学の世界では"ネガティブ"は『陰性』って意味だ。つまり、おかしな症状は出ていないということだよ」

「えっ?」

「君の脳はいたって正常ってことさ」

「な、なんだ! びっくりしたぁ……!」


有村が、珍しく子供っぽい仕草で胸をなで下ろした。

それが有村の『素』の表情なんだと、最近、ようやく分かるようになってきた。

以前、自分でもそれらしいことを言っていたけれど……彼女はいつも、周囲が望むような『有村雛絵』像を演じている。


「ギガロマニアックスと脳の肥大化の間には、結局、因果関係はないのか……?」

「少なくとも、拓留たちに異常は見られない。君の言う、その……ギガロなんとかとの関連性は自分で判断してくれ」

「………」


久野里さんは、難しい顔で考え込んだ。


「でも、一連の殺人事件の犠牲者には特徴があった。被害者の脳に、同一の症状が見受けられた」


そう言うと、久野里さんは自分のタブレットPCを父さんの前に出して見せる。

そこには、僕らとは異なる人の脳の断層写真がいくつも写っていて、有村が再び顔をそむける。


「これを見れば分かるだろう? どれも、大脳新皮質が肥大化している」

「ふーむ、言われれば確かに……」


父さんが、タブレットの画像を見ながらつぶやいた。


「肥大化……大きくなってるってこと?」

「まぁ、な」

「およそ1.2倍といったところか……。そこで今回、お前たちの脳に同様の症状があるのか診せてもらったわけだが……。結果はネガティブだった。お前たちの脳は、通常の人間と変わらない」

「つまり、被害者にだけ、脳を肥大化させる特別な何かが起こった……?」

「さぁ、それはどうだろうな。この程度なら日常生活に支障のあるレベルじゃない。知性や知能にも影響はないだろう。本人も気づいてなかったんじゃないか?」

「つまり、元々そういう脳をしていたのか、死の間際に異常をきたしたのか……あるいは、脳に異常をきたしたせいで死んだのか……断定は出来ないということですか」


父さんは、久野里さんのタブレットを見ながらうなずいた。


「そういうことだね」

「いずれにせよ、考察のためのデータが乏しすぎる。せめてあと2、3人、被害者が出てくれればいいんだが」

「だから、そういうことを口にするのはやめろ」

 



神成さんがたしなめたが、久野里さんの表情は至って真面目で、僕は改めてそら恐ろしさを感じた。

 



「っていうか、つまり今日の私たちの検査は、あんまり意味がなかったってことですかぁ? 冗談じゃないんですけど!」

「いや、そんなことはないさ。有村さんがすこぶる健康で、脳にも異常なしって分かっただけでも収穫じゃないか」


急いで神成さんがフォローに入るものの、


「私に向かって、心にもないこと言っても無駄ですよ」

「う……」

「これだから有村はやっかいだ、って思いましたね、今」

「そんなことあるわけ……あ」


神成さんはあきらめて、頭を軽く下げた。


「すまん」

「あーあ、せっかくの休みが潰れちゃった。私、そろそろ行きますね」


有村は、自分のトートを肩に担いで、診察室を出ていこうとした。


「ちょっと待て」


が、戸口の所で、久野里さんに呼び止められて振り返る。

 



「なんですか?」

「最後にもうひとつ手伝え。お前の能力が必要だ」

「やです」


「だから、久野里さん。物には頼み方というものが……」


しかし久野里さんは、意にも介さず続ける。


「山添うきの能力について、ちゃんと聞いておきたい」

「え……」

 


いきなり話題の矛先にされた山添は、身を震わせて、僕の背に更に身を隠すようにした。

 

「………」


その様子を見て、父さんが、僕にだけ分かるように困った顔をする。

そして椅子から立つと、『ちょっとトイレな』と言って有村の横をすり抜け、診療室を出ていった。


──出ていく間際、僕だけに聞こえる声で耳打ちをして。

 



「俺は向こうへ行ってるわ。超能力? なんて話は、医者の領分じゃねえ。聞いてるだけで、こっちの頭が変になりそうだ」


父さんが出ていった後、久野里さんは、小さくなっている山添を冷たい目で見ながら言った。


「山添。お前自身にもよく分かっていないようだが……とりあえず、知っていることだけでいい。話してみろ」


その言葉を受け、さらに怯えた様子の山添だったが、僕がそっとうなずいてみせると、勇気を絞り出すようにして口を開いた。


「わ、私は……私は、その……誰かが心に描いたものを形にしてしまう……みたいなんです」

「誰かが心に描いたもの?」

「それは、誰の思考でもか?」

「わ、私の近くにいる人、です」

「形、というのはつまり、実体化させるということだな? 例えば……ここにあるコインを私が思い描いたら」


久野里さんは、ポケットから1セント硬貨を取り出して、山添に突き出した。


「そ、そういう『物』の場合もありますし……そうじゃないものも、あります」

「そうじゃないものっていうと?」

「なんと言えばいいのか分からないですが……たとえば"状態"を……」

「状態?」

「綺麗になりたい、とか、こうなって欲しい、とか……」

「それが現実になるっていうのか?」

「現実……なんでしょうか? 私にもよくわかりません」

「それは、今やろうと思って出来るものなのか?」

「い、いえ……意識して出来るわけではない……です」

「どうだ、有村?」


久野里さんが視線を送ると、有村はそっぽを向いたまま、

 



「はいはい。その子、ウソはついてませんよ。全部、ホントみたいです」

「ふむ。無意識のうちに、他人の思考や願望を現実化(リアルブート)してしまうということだな」

「なるほど。それなら、この前、フリージアから姿を消した方法も説明がつく。百瀬さんの思考がリアルブートされてしまったわけか……」


自分の妄想ではなく、他人の思考や願望を現実化(リアルブート)するだけの能力?

それは、自分の希望を何も持たず、ただ他人のためだけに生きてきた彼女の人生と似ていて……ある意味、とても悲しい力のように思えた。


「好むと好まざるとに関わらず能力を発動してしまうという点では、そこにいる有村雛絵と同じ部類だ。能力自体は大したものだが……不便なものだ」

「ふんっ。不便で悪かったですね」

「で、それはいつからだ、山添?」

「え?」

「いつからそんな能力を身に着けたのか、と聞いている。地下施設での実験中にか?」

「い、いえ……私は劣等生でしたから……」

「なら、いつだ?」

「……あの……たぶん、渋谷の地震の後からだと……」

「……やはりな」

「やはりってのは?」

「こいつらの話と、あと、あんたが調べた被害者たちの過去……それらを総合して考えると、能力に目覚めたと思われる時期が、ほぼ同じだ」

「あの地震が原因だってのか……?」

「まだ仮説だがな」


久野里さんは、自分のタブレットに何かを打ち込み始めた。


「待ってくれ。地震なんて、どこでも頻繁に起こってる。そのたびにギガロマニアックスが生まれてたら、キリがないじゃないか」

「いや。私が言っているのは、地震そのものじゃない」

「あん?」

「あの時、不可思議な現象で渋谷で観測されたのを覚えているか?」


不可思議な現象……?

そういえば、確かに覚えがある。


「もしかして……あの白い光、ですか?」


僕の言葉に、久野里さんは頷いた。


──白い光。


渋谷地震の直後、僕たちを包み込んだ真っ白な輝き。

確か、地震によるプラズマ現象だとかいろんな噂が飛び交っていたけれど、結局あれがなんだったのか、未だに、よく分かっていないと聞く。


「驚いたな。久野里さんが陰謀論者だとは思わなかった」

陰謀論? って、まさか、一時期流行したアレですか?」


僕が言っているのは、地震の直後に出回った『噂』のことだ。

 

 

曰く、『局地的に発生するような地震は異常。日米が極秘裏に開発していた地震兵器の実験、もしくは、実験ミスによる爆発だったとしか考えられない』

曰く、『あの時発生した謎の光は、その爆発によるものである』

曰く、『PTSDの一種と言われているカオスチャイルド症候群は、実は兵器に使用されていた物質による後遺症ではないか?』

@ちゃんねるを中心に流れていたこの陰謀論は、最初こそ盛り上がっていたものの……すぐに飽きられてしまったのか、僕が昏睡から目を覚ました頃には、ぱったりとやんでしまっていた。

いや。飽きられたというよりも、ある時を境に、まるで何者かが情報操作をしたかのように、跡形もなく消えたと言った方がいいかも知れない。

当時の僕はそのことを不審に思い、ネット以外でも色々と調べてみたものだ。

巨大地震にも関わらず、その後の余震がないこと。渋谷のみに集中した被害。観測された震源が浅すぎること──通常の地震とは違い過ぎるその事実に対し、なぜかどの学者も口を閉ざしていた。

そして、誰かが少しでも疑問を差し挟もうとすると、『馬鹿みたいな陰謀論だ』と一蹴されていた。


「ただの陰謀論だったらいいのだかな」

「というと?」

「すべての元凶は、あの『光』自体にあるのではないかと私は考えている。地震は、その副次的なものに過ぎない」

「本気で言ってるのか? じゃあ君は、光の正体をなんだと思ってるんだ」

「それが分かれば苦労しない。ただ、何者かの手によって引き起こされたものだと、私は確信している」

「あー、すいません。そういうのは後でやって下さい。私は、早く事件
を解決してくれれば、それでいいんで」


久野里さんと神成さんの舌戦が始まりそうなのを察して、有村がトートバックを肩にかけ直した。


「私の仕事はもう終わりですよね? じゃあ、さようなら。宮代先輩たちも、また学校で」

「あ、ああ。それじゃあな」

「うきも、またね。てか、もっと元気だせよー」

 



有村は、僕の背中に隠れている山添の頭をポンと軽く叩くと、そのまま診察室を出て行った。

山添は、そんな有村を見つめながら『はい』と小さな声で答えた。


…………。


……。

 

 

 

 



その後、久野里さんは、父さんのPCで僕らのデータを詳細にチェックし、ああでもないこうでもないとブツブツ1人でつぶやいていた。

 



その目は、これまでに見たどの彼女とも違っていて、正直、ちょっとアブナイ感じがした。

マッドサイエンティストというのとも違う。

なんと言ったらいいのか……暗い執念を秘めたような目付き。

こんな目を、僕はどこかで見た覚えがある。

あれはどこでだったろう?


(あ……!)


思い出すと同時に、背筋を悪寒が走った。


(あのパイロキネシスト。南沢泉理かも知れないあの女の目に……そっくりだ)


それは、憎悪と怨嗟(えんさ)に彩られた、復讐者の目にしか見えなかった。


…………。


……。

 



「…………」


渋谷地震と謎の光。

そして、僕らの能力との関連性。

僕はベッドに寝転がりながら、これまでのことを色々と考えていた。

そして、最後にはまた、久野里さんのあのまなざしを思い起こしてしまう。

まるで、パイロキネシストの女と同じような……あの目。


(復讐……か)


南沢泉理は、あの日、僕を恨んだんだろうか?

そして、今でも僕を恨んでるんだろうか?


「そんなバカな。子供の頃の話だぞ。いくらなんでも、そんな昔のことで──」


声に出して否定してみる。

でも……パイロキネシストの女の様子は常軌を逸していた。

正気だとは、とても思えなかった。

理性も善悪の観念も、正しい判断力のかけらすら持ち合わせていない獣(けもの)が、牙をむき出しにして渋谷を徘徊(はいかい)している。そんな感じがする。

そしてなにより、彼女が口にした恐ろしい呪詛のような言葉。

僕を見て、彼女は確かに言った。

『見つけた』って。


(結局、僕は知らないうちに、自分の命をわざわざ危険にさらすような事件に首を突っ込んでしまってたのか?)


考えれば考えるほど、身体中の血液が、冷たくなっていく。

こんなことなら、最初から来栖の言うことをちゃんと聞いておけば……。


「って、何を弱気になってんだ」


ベッドからグイッと立ち上がる。

そう。僕にも能力があるじゃないか。

たとえ、あの女が南沢泉理で……復讐心で僕を殺そうとしているとしても、こっちだって簡単にやられたりしてやるもんか。


(……。ただ……)


たとえば来栖と一緒にいる時に、南沢泉理とおぼしき女に襲われたとしたら──?

さらに、"そうしなければ"、僕と来栖の命が守れないという所まで追いつめられたとしたら──?

果たして僕は、来栖が見ている目の前で、南沢泉理を"殺すこと"が出来るだろうか?


──!


「──!」


突然鳴り響いた音に、思わず飛び上がりそうになってしまった。

慣れない音に驚いたが、僕の新しいスマホの呼び出し音だった。

今日、病院へ検査に行く前に、ついに新しいスマホを入手した。それをすっかり忘れていた。


「………」


以前、伊藤のスマホに、失くしたはずの僕のスマホから電話がかかってきた一件を思い出し、ほんの少し躊躇する。

恐る恐る、画面を見た。

発信者『尾上世莉架』


「なんだ、尾上か……。もしもし?」
『あ、タク? やっほー』
「どうしたんだよ?」
『う? もしかしてご機嫌ななめ? 今日の検査で何かあった?』
「そういうわけじゃないけど」
『ダメだよー、ごまかしても。そういう声の時のタクは、だいたい悩んでる時なんだから』


……どうやら僕の言葉の真偽を読み取れるのは、来栖と有村だけじゃないらしい。


『で? 何を悩んでたの?』
「…………」


言おうかどうしようか迷ったが、相手は世莉架だ。

僕は、たった今考えていた色々なことを、素直に話して聞かせた。


『うーん、白い光……?』
「あの時、尾上も僕と一緒にいたよな? 何か覚えてないか?」
『それがねー、私、倒れて気絶しちゃってたから、光とか見てないんだ。ほら、タクが病院まで運んでくれたでしょう?』
「あ。そういえば、そうだったな……」


気絶した世莉架を背負った時の感触は、実は今でも、記憶の奥に残っている。

それまでは男女の差なんてほとんどなくて、まるで男の子同士みたいにふざけ合い、遊んでいたのに……いつの間にか第二次性徴をむかえていた世莉架を背負ってみて、驚いた。

これが女の子の身体なんだと……初めて知った。


『あの時はごめんね。ありがとう』
「い、いまさらなんだよ。僕とお前の仲だろ」
『えへへぇ。幼馴染ってやっぱりいいねぇ』


世莉架はなにやら幸せそうに言ったが、すぐにその声が沈んで、


『あ、でも……のんちゃんの幼馴染のあの子は、のんちゃんやタクを悩ませてるんだよね。困ったね』
「お前も気をつけろよ。昔、地下施設で南沢泉理を目撃したのは、僕だけじゃないんだからな」
『ん、大丈夫だよ。きっとタクが守ってくれるから』
「え?」
『あれー? もしかして、守ってくれないのー?』
「い、いや、そういうわけじゃない。ただ、その……」


僕が言いよどんでしまうと、電話口の向こうで、得心したように世莉架がうなずくのが分かった。


『あー、そっか。それで迷ってるんだねぇ……』


そして、何も言っていないのに、僕の葛藤──誰かを助けるために、誰かを殺せるのか──を悟ってくれた様子で、じっと考え込む。


『……うーん、でもねタク?』
「んん?」
『たぶんのんちゃんなら、相手が幼馴染でも親友でも……タクを守るために、ためらわないで、やっつけると思うんだ』
「あ……」
『もちろん、私もだよ。タクのためなら、どんなことでもするし……誰にも負けないと思う。絶対に』
「尾上……」
『タクは、どうかなあ?』
「………」


世莉架の言う通りかも知れない。

来栖は、たぶん、かつての親友を殺してでも、僕らを守ってくれようとするだろう。


(でも、そんなこと来栖にさせていいわけない……)


もしあの女が本当に南沢泉理だというのなら……それをやるのは、来栖じゃない。

この僕の役目じゃないのか?

そうだ。ずっと悩まされ続けた、過去のトラウマに克(か)つためにも。


『あ、でも、今日は18日だよね?』
「? どうした、いきなり?」


相変わらず世莉架は、会話があちこちへ飛ぶ。


『あのね。次の事件は、すぐには起きないんじゃないかなぁって』
「すぐに起きない?」


僕は卓上のカレンダーを見て、すぐにピンと来た。


「次は、23日か!」


確かに、今回の猟奇殺人事件が、『ニュージェネの狂気の再来』として企てられているなら、新たな事件が起きるのは23日。

その後は、28日に起きた『美味い手』と、11月4日に起きた『DQNパズル』へと続くわけだが……当面、10月23日さえ乗り越えてしまえば、ひと安心ということになる。


『うん。だから、それまでは安全かも』
「とはいえ、23日になったら、24時間逃げ回らなきゃいけないんだよな」
『だったらその日は、みんなで一緒にいようよ。ずっと。いくら恨みを持ってるからって……みんなのいる場所に堂々と出てくるなんて、出来ないんじゃないかな』
「なるほど。やっぱり、そういう作戦しかないか……」


それで事件を回避出来れば、僕たちの勝ちだ。


『部活のみんなにも協力してもらって、深夜までやってるお店に入っちゃうとか。佐久間先生さえ許してくれれば、青葉寮で合宿してもいいかも』
「尾上。お前、意外と考えてるんだな」
『う? えへへぇ、なんかすっごくほめられちゃった』


……いや、すっごくほめてはいないからな。

『意外と』とか言っちゃったし。

ただ、世莉架は昔から僕が困ったり悩んだりしたとき、必ず、こうやって話を聞いてくれる。

本当に僕のことをわかってくれる、大切な存在の1人──。

もちろんそんなこと、恥ずかしくて口に出せないし、口にするつもりもないけれど。


『それじゃあ、タク。おやすみー。いい夢みてね』
「ああ。おやすみ」


世莉架との通話を切ると、僕はもう一度、カレンダーに視線を走らせた。


「10月23日。犯人はどう動き、どんな犯罪を犯すんだろう? それは本当に、なんらかのメッセージなんだろうか? そして狙われているのは……この僕か? それとも……?」


…………。


……。

 

予想通り、それからの数日間は何ごともなく過ぎていった。

 



例の女による襲撃もなく、また放火事件も起こっておらず、そのせいか事件に関する情報の更新がない。

 



僕はといえば、迫ってくる審判の日を前に、以前のように浮かれた『能力』の使い方ではなく、どうやったらみんなや自分を護れるか、いろいろ試してみたりしていた。

 



そうして、一見、何の変化もない日常が繰り返される中、僕たちはゆっくりとその日を迎えた。

 

 

 

「とりあえず、今のところは何もなし、か」

「ああ」

 



「よかったっすね、宮代先輩♪ これもわざわざ雛絵ちゃんが付き合ってあげてるおかげっすよ? 感謝のしるしとして、こんど千足屋のマンゴーフルーツパフェ、ごちそうしてくださいねっ」

「何言ってんだ。お前だって狙われてるかも知れないだろ。お互い様ってやつだ」

「うわ~、どケチ~」

 



「ちょっとみんな。気を抜くのが早過ぎるわ。問題はこれからなんだから」

「……っ」


ひとまず、放課後まで何も起きなかった。

もちろん、休み時間も必ず誰かが一緒で、決して1人で行動することのないよう注意した結果だ。

 



「あ、あの……」

「ん? なんだ、山添」

「わ、私も一緒にここにいて、よかったんでしょうか? 学園の生徒でもないのに……」

「今日は特別だ。君だって能力者なんだから、狙われないとも限らないだろう?」

「そういうこと。今日が無事に終わるまで、絶対に私たちと離れてはだめよ?」

「は、はい……」


山添は、慣れない学園の中、居心地が悪そうに小さくなってずっと過ごしていた。

 



「で、これからどうすんだ?」

「そろそろ学校も人が少なくなるし、移動したほうがいいわね」

「渋谷で、遅くまで開いてる店へ行こう。悪いけど、みんなも付き合ってくれるか?」

「しょうがないっすねー。その代わり、宮代先輩の奢りでヨロシク」

「有村。他のメンバーはともかく、お前は割り勘だ」

「えー、先輩ヒドいっ! 鬼っ! 悪魔っ!」


……なんとでも言え。

 



「それで、どこ行くの?」

「カラオケとか?」

「できれば、懐的(ふところてき)に優しいところにしてくれ……」

「ん-、だとすると……行き先はいつものアソコだね」


…………。


……。

 



「よう来たの。ゆるりと過ごして行くがよい」

「どもー」

「お主たちか。好きな席に座ってよいぞ」


そう言われた僕らは、見通しのいい窓際の席に陣取った。

カフェLAXは渋谷の住宅街の近く、洒落た商業ビル2階のフロア全体が店舗になっている。

そのため、窓際の席ならビル周辺の道路が一望でき、あのパイロキネシスト──南沢泉理だと言われている女、が近づいてきても、すぐに発見出来るはずだ。


「閉店まで、ここに居られるね」

「そのためにはたくさん注文しなきゃ。すみませーん!」

「もう一度確認しとくぞ。有村は自腹だからな」

「えー」

 



「ん、どれ? 注文は決まったのか? 忙しいからさっさとオーダーするように」

「あ、あの店員さん? 忙しいなら、私もお店の手伝いをしますので……」

「はぁっ!?」

「こらこら、山添。客は手伝わなくていいんだからな。っていうか、手伝っちゃダメだからな」

 



「え、そうなんですか?」

「そうなんです」

「あ、私はぁ、ここからここまで全部お願いしまーす♪」

「だから、有村。どさくさにまぎれてそういう注文をするな。お前には"絶対に"おごらないからな」

「えー」


……。

 



「う~」

「尾上? 何うなってんだよ?」

「さっき食べたシュークリームのクリームが髪についちゃって……」


その髪の長さで、どうやったらそんな器用な真似が出来るんだ?


「ふぁぁ~」
「くわぁぁ」


「華ってば、大きなあくび」

「伊藤もだ。いくらなんでも、気を抜き過ぎだろ」

「それに、お行儀が悪いわよ」

「んなこと言ったって、しょうがないだろ。何時間も、ただダラッとしてるだけなんだから」

「ん~」


カフェLAXに入店してから、既に4時間が経っていた。

みんな、最初こそ緊張感を保っていたが、さすがにそろそろ限界にきているようだ。

なによりも、当事者である僕や有村が、どこか安心している感があった。

もしこれが1人きりだったら、もっと怯えて過ごしていたかもしれない。けれど、今、ここにはおおぜいの友人たちがいる。

しかも、店員や他の客を合せれば、もっと人数は増えるわけで、そんな中、堂々と襲撃してくるようなやつがいるとは思えなかった。

 

 

 

「おぃこら、おぬしら」


窓の外に気を取られていると、いつの間にか目の前に店員が立っていた。


「いったい何時間ねばるつもりじゃ。これ以上注文せんのなら、いい加減……」

「あ、します。注文! メニューください」


やっぱり、追加オーダーしなきゃダメか……。

当然とはいえ、今月の財政は大ピンチだ。


「ほれ、メニューじゃ」

「ありがとうございます。──タク、なに頼む?」


メニューを受け取った世莉架は、それを僕に手渡してきた。


「ええと、そうだな……」


(なるべく安いもの、安いもの、と……)


そう考えながら、メニューをペラペラと繰っていた僕の目に──


「え……」

 



こ、これは!


力士シー……!



 

ひどいめまいとともに、視界がいびつに歪み始めた。


気分が……悪い。息が……苦しい。


(う、あ……。"あの夜"と……同じだ)


初めて、パイロキネシストの女に襲われた夜。僕と有村の精神をなぶるように蝕(むしば)んだ『11番目のロールシャッハ』が、今また、僕の眼前にあった。

照明がいやに薄暗くなり、僕の視界が奪われていく。


(だ、ダメだ……こんな時、に……!)


たえろ。正気を失っちゃだめだ。


「っ……はぁ、はぁ、はぁっ……はぁ……」


たえるんだ!

 



「……くっ! っ……はぁ、はぁ……。はぁ……はぁ……はぁぁぁ……」

 

 

 

 

よ、よしっ。なんとか、持ちこたえることが出来──

 



「……!?」


そ、そんな? 誰もいない?


おかしい、どうして……?


「……来栖? 尾上? 伊藤?」


どこに……?


「香月!? 有村!? 山添っ!?」


いない……!


来栖たちだけでなく、つい今しがたまでそこに立っていた店員の姿さえも!

誰も! どこにも!


(嘘……だろっ?)


「誰か!? 誰かいないのか!?」


店の奥に声をかけても、人の気配すらしない。


「くそっ! なんでだよっ!?」


──!

 



「……!?」


こ、この音──。


(この音は……!)


どうしたことか、世界中から音が消えていた。

店内に静かに流れていたBGMも、時折、外から聞こえていた車の音もない。

そんな、不自然な静寂と薄暗い世界の中。

聞こえてくるのは、たったひとつ。

この、恐ろしい音──。


「ひ……!」


のぼってくる!


あの足音が、カフェに続く階段を!


僕は恐怖に震える足を強引に動かして、カフェのドアをそっと開け……身を隠すようにして、階段の踊り場まで出た。


恐る恐る、一階へと続く階段を覗き込む。


そこに姿を見せていたのは──。

 



「………」

「う……っ」


(あ、あいつは……っ!)

 



「…………」


(うわああああああああああああ!)


目が合った!


一瞬、目が!


顔全体にだらりと垂れている髪の毛の間から……こちらを見上げている、あの冷たい炎のような瞳。


間違いない。あれは……!


(あれは、この前のパイロキネシスト……南沢、泉理!)


まるで、僕が抱いている恐怖心を読めるかのように。


「…………」


南沢泉理は僕を見て、嬉しそうに嗤(わら)った。

それは、獲物を見つけた獣の笑みだった。

 



「……みーつけ、た……」


……。

 

 

 

第8章

侵食して行く事件の錯綜

-Betrayal-


……。

 


(あ、あっ、うあああああっ!)


僕は、悲鳴を上げないよう痛いほどに歯をくいしばりつつ、再びカフェの中に逃げ込んだ。

 



音を立てないように、ドアを閉める。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ……」


──怖い。


──怖い。怖い。


──殺される。殺される。殺される。


僕は。殺される。

あの女──南沢泉理に。

 



 



「だ、誰か……誰かっ……」


助けを求めたくても、喉がひきつって声が出ない。

いや、仮に声が出たところで、誰にも助けなんて求められない。

来栖もいない。世莉架もいない。

伊藤も、有村も、香月も、山添も。

店員の姿すら、どこにも見えない。

そして、やはり照明が黄色く色あせて見え、店内がいつもよりずっと薄暗い。


「どうしてッ?」


(どうして、誰もいないんだ……ッ?)


恐怖のあまりほとんど言葉を発することが出来ず、ただ後ずさるだけの僕は、ついに壁際まで追い詰められて、逃げ場を失った。

 



(そ、そうだ! 能力……僕の能力をっ……!)


パイロキネシスなんて、また弾き返してやる!

そう考えて、必死に自分を鼓舞しようとした。


でも──!


「な、なんで!?」


どこにも見えない!


ディソードが!


ディソードが現れてくれない!


(なんなんだよ、こんな時にぃっ!)


いくら精神を集中しようとしても、恐怖がそれに勝ってしまっているのか、ディソードが現れる気配が全くない!

 

その間にも、ヒールの甲高い音、そして、ズルリ、ズルリ……と、足を引きずるような音が、ドアの向こうから聞こえてくる。

僕に向かって、無慈悲な死を運んで来ようとしている。


(だ、ダメだっ……ど、どこかっ、どこか隠れる場所っ……!)


蒼白になりながら左右を見回すと、ふと、厨房の向こうの扉が目に入った。

従業員用トイレのドアだ。


「くっ!」


壁を蹴るようにして、こけつまろびつ、ドアの中へ飛び込む。


震える手でカギをかけた。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」


トイレには窓がない。

電灯をつけるヒマもなく飛び込んだため、完全な暗闇。

そんな密閉空間の中、激しい恐怖のせいで心臓がバクバクと鳴り、呼吸が勝手に荒くなっていく。


「はぁっ、はぁぁっ!」


だめだ、これじゃ気づかれる!

息を潜めなきゃ、だめだ!

呼吸を強引におさえこもうと、手で口をグイッとふさいだ。


「むぐっ……うぐっ……!」


く、苦しい……息が詰まる。

でも、息を殺さなきゃ、見つかって──襲われる!


「……っ」


南沢泉理と思われる女の足音が──。


とうとう、この階まで上がってきた。


そこで足音はピタリと止まり……ついで、不気味な静寂が訪れる。


まるで、僕の気配を探っているかのように、全てがシンと静まり返る。


「…………」


い、行ってくれ! そのまま!


どこかへ、行ってくれ!


──カラン、カラン……。

 

 

(う、うわぁっ!)


必死に祈ったけれど、それは全くの無駄だった。

入ってきた! 店内に!


足音は、再び動き出した。


ゆっくりとゆっくりと……。


(き、き、来た……)


女は、そのまま店の中をうろうろと歩き回る。


ズルリ、ズルリと足を引きずる音が、右へ左へ……僕の心をいたぶるかのようにうろつき、その度にグラスやカップが床に落ちて割れる。


「うあ……あ……うああ……」


僕に出来るのはもう、絶叫しそうになるのをただひたすらこらえる事だけだった。


『ニュージェネの狂気の再来』事件──『こっち見んな』や『音漏れたん』『回転DEAD』『ごっつぁんデス』──で、これまでに行われた残忍な殺害方法が頭をよぎる。


僕も、あんなふうに苦悶の表情を浮かべながら、人としての尊厳すら奪われるような残虐な死を強いられるのか?


いやだ! あんな死に方は、いやだ!


「…………」


そうして、どれくらいの時間が経っただろうか。

店内をウロウロと歩き回っていた南沢泉理の足音が、ふいに遠ざかり始めた。


(……え?)


ここからでは確認出来ないが、店の外へ出て行こうとしているように聞こえる。


(も、もしかして……助かる!?)


僕は全神経を耳に集中させて、不気味な足音に耳を澄まし続けた。


──カラン、カラン……。


ドアが開(あけ)閉(た)てされ、ズルッズルッという不快な音は、先ほどとは逆に階段をゆっくりと下り始めた。


そして……やがて……。


何も、聞こえなくなった。


「はっ、はああっ! はあああーっ!」


安堵の息が、激しく口からもれ出てしまう。


(や、やった、逃げ切った……!)


これで、『ニュージェネの狂気の再来』の被害者にならずに──

 

トン、トントン、トン……。


「うわぁっ!」



 

トイレのドアが──突然、ノックされた。


完全に不意をつかれ、僕は、こらえていた悲鳴をつい上げてしまった。


ノックの音が、一瞬だけやむ。


薄いドア一枚を挟んで、間違いなく、こちらの様子をうかがっているのが分かる。


(そんなバカな! 今、階段を下りて行ったはずだろ! なのに、なんで!?)


トン、トントン、トン……。


──再び、ドアが叩かれ始めた。


(あ……あの時のノックだ……ホテルで聞いた、あのノックの音……!)


それはゆっくりと、でも、執拗に続く。

まるで、極限状態の僕の精神を破壊しようとするかのように、規則正しくトン、トントン、トン、と。


僕は顔をひきつらせ、なるべくドアから離れようと身を引いた。


でも、トイレの中は狭く、そんなことをしても逃れることなど出来ない。


(く、く、くそおっ! こうなったら、やってやる! 能力なんか使えなくたってっ!)


簡単に殺されてなんか、やるものか!


逆に、殺人犯をこの手で捕えてやる!


パイロキネシスト相手に、素手なんかで殴りかかって勝負になるのか?


そんな考えも、一瞬、頭をよぎる。


けれど、今のこの恐怖にじっと耐えていることなんて、もう出来そうになかった。


限界だった。


「このおおォォォ!!」


僕は絶叫すると、ノックの続いているドアのカギを開け、それに全身でぶつかった。


──ッ!!


バンという大きな音とともに、トイレのドアが全開になる。

 

 

「きゃあっ!?」

「うわあああぁぁ!」


──!


恐怖に逆上していた僕は、絶叫しながら、無我夢中で目の前の相手を床に押し倒した。


──が!


「なにしてるの、拓留っ!?」


すんでのところで、真横から頭をぎゅっと抱きかかえられた。


フワリと、よく知ったいい香りが僕の鼻腔に溶ける。


「あ!?」

 



「どうしたの、いったい!?」

「来、栖……?」


僕を横から抱くようにして止めていたのは、来栖だった。


そして、



 

「お、重いよ、タク……つぶれる……中身が出る……」

「う? わっ!」


僕が身体の下に組み敷いていたのは、世莉架だった。

あやうく怪我をさせてしまう所だった。

 



「宮代先輩、すげー大胆! こんな場所でせりの『初めて』を奪おうとするなんて!」

「ち、ち、違う! そんなことより──!」


僕は、来栖の腕を解くと、跳ねるように立ち上がった。


「あ、あ、あの女はっ!?」

「あの女?」


来栖たちが、一様に不思議そうな顔をする。

世莉架もお尻をさすりながら立ち上がり、キョロキョロと周りを見渡した。

 



「あの女って、誰~?」

「だから、今ここにいたろ! 僕を殺そうとして──っていうか、お前らこそ、今までどこにいたんだよ!?」

「あ? どこって。ずっと、ここにいたぞ?」


窓際のソファに座っていた伊藤が、腰を浮かせながらそう言った。

その隣のソファでは、同じように驚いた様子で、山添と香月がこっちを見ていた。

 



「のう、おぬしら? 少しばかり騒がしいの。これ以上迷惑になるようなら、即刻出て行ってもらうが?」


さっきまでいなかったはずの店員まで、ひょっこりと顔を出す。


「そん、な……」


(た、確かに僕は襲われたんだ……しかも、店には誰もいなくて……)


あ、あれは……ただの夢?


(いや、違う、夢なんかじゃない。なにもかもリアルだった)



 

女が足を引きずって歩き回る音や、ドアのノックまではっきりとこの耳に残っている。

思い起こすだけで、背筋がゾッとなる。


(ってことは、これもあの女の──南沢泉理の能力なのか? 偽のカフェLAXを作り出し、僕だけを閉じこめて……)


発火能力(パイロキネシス)だけだと思ってたのに、そんなことまで出来る?


(いや、それとも……彼女の手助けをしている能力者がいるのか?)


どちらにしても、新聞部のミーティングで僕らが考えた可能性は、"悪い意味で"正しかった……。

 

 


「ちょっと大丈夫、拓留? ひどい汗よ?」


来栖はポケットからハンカチを出し、僕の額や頬から滴り落ちている汗を、優しくふきとり始めた。

 

 

──が、すぐにギョッとしたようにその手が止まった。


真っ青な顔をして僕の顔を見つめている。


「た、拓留っ! あなた、目から血が──!」

「え?」


僕は驚いて、自分の両目に手を当てた。

涙をぬぐうようにこすると、ヌルリ……という感触とともに、両の手が真っ赤に染まる。

あまりの恐怖と緊張に力が入りすぎて、目の周りの血管でも切れたのだろうか──来栖のハンカチにも、僕の血の染みが広がっていた。

 



「どうしたの、それっ!?」

「大丈夫か、宮代!?」

「あ、ああ……」

「父さんに診てもらわなきゃ!」

「行こう、タク!」


来栖と世莉架が僕の手を引いて、カフェから連れ出そうとする。

伊藤と有村と香月、そして山添が、どうしていいのかオロオロしているのが視界の端に見えた。

僕は、そちらへ首をめぐらすと、

 



「伊藤、有村、香月、山添っ。お前たちも一緒に」

「え? あ、はい」

「私もいいんですか、こんな時間に?」

「遠慮なんかしてる場合じゃない。能力者がターゲットにされてるのは間違いないんだ。『今日』が終わるまで、とにかく離れちゃダメだ!」


僕らはそのままカフェLAXを後にすると、青葉医院に向かった。


…………。


……。

 

 

 

 

「ふーむ、特に目に異常はねーな。角膜もキレイなもんだし、血圧もほぼ正常、と」

 


父さんが、僕の診察をしながら頷いた。



「頭痛はするか? 身体のどこかが痺(しび)れるとかは?」
「特には……」
「視界の一部が欠けてたり、狭くなったりもしてないな?」
「うん」
「そっか。なら、大丈夫だ」

 



「ほんとうに? もっとよく診て」

「さっきからそればっかだな、お前」

「だって……」

「瞼(まぶた)の裏に血管があって、まれにそれが切れることがある。ひどい緊張や興奮をして力が入ったり、踏ん張ったりするとな。──覚えがないか、拓留?」


カフェLAXで襲撃された事を思い返し、背筋を冷たいものがまた走り抜けた。

けれど、父さんにはそれを悟られないよう、静かに首肯(しゅこう)する。


「だろう? それが原因だよ。心配ない」


父さんは、僕がこの医院で昏睡していた時からの電子カルテを開き、キーボードで何かを打ち込んだ。


「………」

「おいおい乃々。そんな、おっかない顔で睨むなって」

「拓留に何かあったらどうする気……?」

「……。分かった分かった」


父さんは手を止めると、カルテとは別のページを開く。


「拓留。紹介状を書いてやるから、明日また、頭ん中の写真撮ってこい」

「え、でも……」

「いいから行けって。『可愛い娘』が怒って、口利いてくれなくなったら困るんだよ」

「……うん」


そうして、父さんが、この前と同じ病院の脳外科に紹介状を書いてくれたことで、ようやく来栖も納得したようだった。

 



「ああ、そうだ、乃々?」

「ん?」

「お前、自分もまだ病み上がりだってこと忘れんなよ?」

「あ……うん。そうね。ごめんなさい」

「分かってりゃいい」


そう言って父さんは笑った。

僕と来栖は、父さんに礼を言って診察室を出ると、みんなが待っている青葉寮のダイニングへと階段を上がる。


……。

 



「ああ、うき。私、アップルティー

「私も」

「分かりました。伊藤さんは?」

「コーヒー。ブラックで」


ダイニングに入ると、例によって、山添がみんなの世話を焼いて回っているところだった。

時計を見ると、そろそろ午後11時になろうとしている。

『10月23日』が終わるまで、あと1時間……。

 

 

「んで? さっき何があったのか、ちゃんと説明してくれるんですよね、宮代先輩?」


有村がアップルティーをすすりながら、僕の顔を見た。

態度そのものは、学園でいかにもJKをやっている時の彼女だけれど、目付きだけが違う。

僕の身に起こった異変を彼女なりに推測しているらしく、初めて出会った頃のような仄暗(ほのぐら)い瞳をしていた。


「……話すよ。例の……パイロキネシストのことだから」

「南沢泉理?」

「う、うん……」


一瞬だけ来栖の方を見る。

昔の親友が猟奇殺人犯かも知れないなんて話、聞きたくないだろうと思ったからだ。


「来栖……もしイヤなら……」

「………」

「自分の部屋に戻っててくれ。父さんか結衣の所へ行っててもいいし」

「……ううん。ちゃんと聞かせて」

「来栖?」

「聞きたいの。だからここにいる」

「………。そっか。じゃあ」


僕はダイニングの椅子に腰を下ろすと、ほんの少しためらった後、カフェLAXで体験したことを、ゆっくりと話し始めた。


話していくうちに、僕はジワリとさっきの恐怖を思い出し、いつしか手に不快な汗を握りしめていた。

みんなにみっともないと思われてるかも知れないけれど、ついつい声も震えてきてしまう。


「……それで、その後は……知っての通りだ。ドアを飛び出したら……外はいつも通りのカフェに戻ってた」

「…………」

「…………」

「…………」


話を終えても、しばらくは全員、黙り込んでいた。


「…………」

「…………」


特に有村は、真剣な表情で何かを必死に考えている。

それも当然のことで、この中で南沢泉理に狙われる可能性があるのは、僕か山添か有村なんだから。


「殺されてたまるか」


低い声で呟(つぶや)くなり、突然、有村が空(くう)に手をかざした。


「……!?」

「お、おい?」


──!

 

 



僕と山添は、驚いて後ずさった。

有村がいきなりディソードを引き抜いたからだ。


「お前……何を?」

「決まってるでしょう。武器ですよ」

「武器?」

「あんたも出せるんだよね、うき? もしあいつが現れたら戦う。手伝いなさい」

 



「た……戦うって……わ、私……そんな」

「いいから、早く」

「う……うう……」


山添はいやいやをするように頭を振ったが、恫喝の目を向けられ、観念したのか下唇をかんだ。

そして、おずおずと宙に手をかざす。


──!

 



 

山添の手にも、巨大な剣が現れた。


「………」

「宮代先輩も、早く」

「そ、そんなこと急に言われても。どうやって抜いたらいいか分からないんだ、それ」

「………役に立ちませんね」

「…………」

 



はっきりと舌打ちされた。

久しぶりに、出会った頃の有村の冷めた本性を見せられた気がする。

 



「ね、なに? どうしたの?」

「いったいなんの話してんだよ?」


他のメンバーにはやはりディソードは見えていないらしく、僕と山添がうろたえている姿の方にばかり、目が行っている。


「私たち、この前、南沢泉理に襲われました。そして、今日も宮代先輩が──こんなのもう我慢できない。だから……」


そして、有村は手にしたディソードを見ながら獰猛に笑った。


「この手で事件を終わらせてやります。"南沢泉理を殺して"」

「ちょ、ちょっと待ってっ」


思わず──といった様子で来栖が口を開くと、全員の注目が集まった。

自分が私情を挟んでいることは承知の上なんだろう──来栖は、いつもの彼女からは考えられないほど、歯切れ悪く続けた。


「あ、あのね……泉理が犯人って、その……本当のことなの?」

「証拠はまだ……あのIDカードと、僕らの証言しかない。けど……」

「慰霊碑には、あの子の名前がちゃんとあるのよ?」

「それは何かのミスじゃないですか。『AH東京総合病院』のデータでは、『行方不明』になっていたんですよね」

「けど……。私、見たんだもの。私の目の前で……泉理はガレキにつぶされて……」


つらい思い出が蘇ってきたのだろう。

来栖は、自分の胸のあたりを、爪を立てて強く握った。

 



しかし、その瞬間、有村の眉がはっきり分かるほど跳ね上がった。


「来栖先輩」

「……?」

「どうして、"ウソ"をつくんですか?」

「え?」

「あ……?」


僕らは驚いて、有村と来栖の顔を交互に見た。

有村は、怪しむような目で来栖をじいっと見つめている。

それに対して、来栖の表情は変わらない──不自然なくらいに。


「来栖先輩の"今の言葉"はウソです」


有村の能力は、相手の言葉の真偽を見抜く。


──つまり、来栖は間違いなく嘘をついている。


だが、彼女は有村の視線を真っ向から受け止めて言い返した。


「ウソなんかじゃないわ」

「いいえ。先輩は、"南沢泉理が死んだところ"を見ていません」

「あなたの『能力』というのがどのくらい正確なのか、私は知らない。けれど、彼女はもうこの世にはいないわ」

「そう信じたいだけじゃないんですか? あるいは、南沢泉理が『実は生きている』のを知っているとか」

「………」


二人は、僕を間に挟んでにらみ合った。

 



「……もし、仮に……」

「はい」

「仮に、泉理が生きのびていたとしても……あの子に殺人なんて出来るはずがない」


来栖の言葉はいつしか哀惜(あいせき)の色を伴って、僕らの間を抜けていく。


「泉理は……とっても臆病な子だった。小さな虫を殺すことも出来ないくらい気が弱くて、何かあるとすぐに泣きべそをかいて……だから、いつも誰かの後をついて回っていたわ。もちろん暴力なんて嫌いだったし、血を見るのすら苦手だった。そんな泉理が猟奇殺人なんて……私にはどうしても納得がいかない。ありえないわ」

「………どうやら、今度は本当のことを言っているようですね」

「だから!」


来栖は珍しく気色(けしき)ばんだが、何を言っても無駄だと思ったのか、いったん口をつぐんだ。


「……とにかく。泉理が犯人じゃないとしたら、拓留たちの憶測は完全に間違ってしまっているわ。真犯人が他にいたらどうする気なの?」

「そ、それは……」


その可能性は、もちろん考えていた。

例の『複数犯』説。

南沢泉理とともに犯行を続けている、別の能力者の存在。


「でも……。だとしても、今日が終わるまでに誰も殺されなければ、僕らの勝ち──」


──「きゃああああぁぁぁっ!」


「は!?」
「う!?」
「んっ!?」

 



いきなり廊下で響き渡った悲鳴に、全員が弾かれたように飛び上がった。


今のは──!


結衣の声!?


「結衣っ!」


来栖が真っ先に廊下へ飛び出し、階段を数段跳びで駆け降りて行った。

そのすぐ後を、僕らも追う!


……。

 



「あ、あ……あ……」


結衣は医院の受付付近で、腰を抜かしてへたり込んでいた。

顔面は蒼白で、歯の根も合わないほど震えている。

 



「お姉ちゃん! ねぇ、どうしたのっ!?」

「結衣!? 大丈夫か、結衣!?」


結人と父さんが力いっぱい抱きしめても、まだブルブルと全身の震えがおさまっていない。

完全な恐慌に陥っているようだった。

 



「何があったの、結衣!」

「あ、う……ああ……乃々、おねえ、ちゃん……」

「しっかりしなさいっ!」


来栖が結衣の頬を両手でしっかり包み、叫んだ。


「……わ、わ、私……寝ようと、思って……父さんにおやすみの挨拶、して……」

 

 

 



『お休みなさい。父さんも無理しないで、もう寝たら?』
『そう思うんだったら、乃々に意見しといてくれ。あいつのせいで余計な仕事が一つ増えたんだよ』
『あはは。乃々姉えは、拓留兄のことになると人が変わるから』
『違いねぇな。んじゃ、おやすみ』
『うん、おやすみ!』

 



「そ、それで、私っ……部屋へ戻ろうとして……診察室を出たんだけど……その時……げ、玄関のドアから……音が……っ」


トン、トントン、トン……。

 

 

「ノックの音が……っ! わ、私……急患の人かな、って思って……それで、返事を、したの……」

 

 

 

『すみません。今日の診察は終わりなんです。急患でしたら、夜間診療のある病院をご紹介しますけど?』


トン、トントン、トン……。

 

 

『あの? どうなさいました? 救急車、呼んだ方がいいですか? ……』


トン、トントン、トン……。


『……い、いったい、なんなんですか? いたずらなら、やめて下さい』


トン、トントン、トン……。


『だから、やめて下さいっ!』

 

 

 

「私……ものすごく怖くなって……だけど……外を……外を──見たのっ!!」

 

 

──!

 

 


『きゃああああぁぁぁっ!』

 

 

 

「はあぁっ、はあぁっ、はぁ……っ」

「もう大丈夫。大丈夫よ、結衣」


来栖がやさしく頭をなでると、結衣はついに堰を切ったように号泣を始めた。


「乃々姉え……乃々姉えぇ……!」



そんな結衣の泣き声を聞きながら、僕、伊藤、そして有村、世莉架、山添、香月は、全員、蒼白になった顔を見合わせていた。

特に、僕と有村の顔は、結衣にも比肩するほど血の気が引き、真っ青といってもいいありさまだった。


……ノックの……音……


それは間違いなく──カフェで僕を襲ったのと同じ。

 



「やっぱり、追いかけて来たんだ……」

「あ、ああ」


膝頭が、みっともなくカタカタと震えだしていくのが分かる。

カフェで追ってきた足音とノックが脳裏に蘇って来て、僕の心を恐怖に染め上げていく。

すぐにでも絶叫しながら、どこかへ逃げ出したい衝動にかられる。

でも、先に緊張と恐怖の限界を超えてしまったのは──意外にも、僕より有村の方が先だった。

 



「くぅぅっ!」


彼女は、ギリッと音が聞こえるほど奥歯をかみしめると、いきなり玄関に向かって走り出した。


「おい、有村っ!」

「ひなちゃんっ!?」

「くあぁぁぁぁぁ!」


医院の玄関の鍵をむしり取るように開くと、そのままドアを激しく開け放った。

錯乱したようにディソードを振り回しながら、路上へ飛び出す。

 



「南沢泉理ィィッ! 私はここにいるっ! くだらない小細工なんかやめてっ、さっさと殺しに来いよっ!」

 

有村は、街灯が作る家々の影や、闇のわだかまりに向かってディソードを滅茶苦茶に振るい続けた。

 


「私はもう、逃げも隠れもしないっ! 殺せるもんなら、殺してみろって言ってんだっ!」
「やめろ、有村っ! 何やってるんだよっ!」


明らかに正気を失っている有村に、僕は、背中から飛びかかった。

ディソードは、まだ現実化(リアルブート)されておらず、僕の身体に当たってもすり抜けてしまうだけだった。

そうでなければ、きっとただでは済まなかっただろう。


「やっ、いやだっ! 放してッ! 殺されるのはイヤあっ!」
「お、落ち着けっ! あいつは僕らがパニックになるのを狙ってるんだっ! 冷静にならなきゃ負けだっ」
「なんで、こんな目に遭わなきゃならないのっ!? 『能力』なんてなければ良かった! こんなものさえなければ!」


その様子を見て、僕は自分が勘違いをしていたことに気づいた。

有村のこと、最近、少しは分かってきたと思っていたけれど、それは違ったんだ。

いつも生意気で、なんでもかんでも理解しているような、大人ぶった後輩──。

また、ある時は、妙に子供っぽい笑顔ではしゃいでみせる、ごく普通の女の子──。

その表情や態度の変化にはいつも驚かされて……でも、きっと素顔の彼女は"こうなんだ"と勝手に思ってみたりもした。

けれど、本当はそれも違った。

自分ではどうすることも出来ない事実に翻弄され、ただ泣きじゃくるだけの弱い存在……それが、彼女の素顔なんだと、やっと理解出来た。


(……そうだ。『能力』なんてなければ……誰もこんなことに巻き込まれることはなかった……)


誰かが殺されることも……あんな地下施設で拷問みたいな実験が行われることも……なかった。

僕は、ほんの一時でも『能力』と得意に思ってしまった自分を、責め苛(さいな)んでいた。

『能力』なんて……どうして、こんなものがあるんだ?

いったい誰が、なんのために、こんなものを……?


「うっ、ううっ……うう……っ!」


後ろから抱き止めた有村の身体は、ずっと小刻みに震えている。

そして情けないことに、僕自身もそれと同じくらい、恐怖による身体の震えを止められずにいた。


──「おい、宮代、有村っ!」


道端に座り込んだ僕らの所へ、伊藤が駆け寄ってきた。

その後ろから、世莉架と山添と香月も走ってくる。

 



「大丈夫か!?」

「あ、ああ。なんとか落ち着いた」


心配をかけないよう、ついついウソをつく。


「それより部屋で戻ろう。ここにいたら危ない。いつ襲われるか──」


……と。伊藤が、僕の言葉をさえぎって、自分のスマホをこちらへ差し出して来た。

ギョッとなって、思わず身を引く。


(ま、まさか……また正体不明の電話がかかってきたのか!?)


そんな僕の気持ちを察したのか、伊藤は慌てて首を横に振った。


「違う。よく見ろ宮代」

「え?」


伊藤のスマホの画面をじっと見つめる。

いつもの待ち受け画面。並んでいるアプリ。

特に変わったところは、何も──


「あっ!!」

「気がついたか?」

「尾上っ、お前のも見せてくれっ!」

「うん!」


世莉架がポケットからスマホを出して、僕の前にかざしてくれた。

そこにも、伊藤のものと全く同じ『数字』が表示されていた。


──現在時刻。

『10月24日。午前0時3分』


10月23日は……終わっていた。


「……た、助かった、のか?」


僕のつぶやきに、有村が首をめぐらし──彼女は、そのまま世莉架のスマホをひったくった。

 



指がおこりのように震えているせいで、画面の文字がちゃんと追えないらしい。

何度も何度も画面を見返す。そして。

 



「あ、あ、ああ……っ。ああ、あああああああ……」


僕に全てを預けるようにして、彼女のか細い身体からぐったりと力が抜けた。

そして、そのまま……失神した。


10月23日。

『ニュージェネの狂気の再来』の日。

僕たちは、生き残った。


……。