ゲームを読む。

-ノベルゲーム・タイピング-

CHOAS;CHILD 間に合わぬ愚者の微睡-Fools 《ドラマCD》

このブログは音声を文字起こししていますので、ネタバレを多く含みます。

読んで面白いと思ったら購入し、ぜひご自身で視聴してください。

ご意見・ご要望がありましたら
─メール─ zippydle.scarlet@gmail.com
または
Twitter─ @Zippydle_s
まで連絡下さい。

 

 


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……。

 


私は夢を見ていた。

 

とてもとても……長い夢を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……。

 

男の子「あっ、お姉ちゃん!」

久野里「ん? 今日は調子が良さそうだなジェイク。良かった」

女の子「ジェイクったら、朝からつまらないジョークばっかり言ってるのよ。もう、うるさくって!」

男の子「ベ、ベスこそ、怒ってばっかりでうるさくって……」

女の子「なによ、ちょっとミオが来たからって強がっちゃって!」

久野里「まあまあ、二人とも仲良くしろー。……うん。ベスも調子は悪くなさそうだな」

女の子「まあね! 今日はお天気も良さそうだし、良い気分なの!」

男の子「……変なの。この部屋にいて、天気なんかわかりっこないのに」

女の子「わかるわよ! お天気の良い日はね、髪の毛のパサパサが、いつもより少しマシなの」

男の子「なんだよそれ。そんなのでわかるわけないだろ」

女の子「わかるもん! ミオだって、わかるよね?」

久野里「……ああ、そうだな。ベスは女の子だから、そういう変化には敏感なのかもな」

男の子「なんだよ、女同士でずりぃ」

久野里「それよりほら、お菓子持ってきてやったぞ。今日はジェリービーンズだ!」

女の子「やったぁ! だからミオってだーいすき!」

男の子「あ、ベスばっかりずるい! 僕にも!」

久野里「もちろんジェイクの分もあるぞ。……でもな、言っておくが……。隠しておいて後から食べるんだぞ? それから、他の大人には内緒だ。見つかったら、お前たちまで怒られるんだからな」


男の子
女の子
「はーーい」


……。


ドクター「ん? なんだミオ。もう来ていたのか」

久野里「え、ええ……ドクター。先に様子を見ておこうと思いまして」


(わかってるな……)


男の子
女の子
「えへへへ……」


ドクター「……? ミオ。ちょっといいか?」

久野里「はい……なんでしょう」

ドクター「……こいつらに必要以上に関わるなと言っているだろう」

久野里「……っ……しかし、彼らは……」

ドクター「いいか、彼らは検体だ。検体との無用な接触は実験結果に影響を与えかねない。同情などもってのほかだ」

久野里「私は別に同情なんて……」

ドクター「とにかく。これ以上、奴らとは仲良くなるな。わかったな?」

久野里「……っ」

 

女の子「ミオ……?」


ドクター「お前たちには関係ない。それより注射の時間だ。手を出しなさい」

女の子「………また、苦しくなる……?」

男の子「僕……痛いの、嫌だ……」

ドクター「何度言わせればわかる。これはお前たちの病気を治すために必要な薬だ。……さあ、大人しく腕を出しなさい」

男の子「……っ……!」

久野里「大丈夫。……私が、ついてるから」

男の子「…………」

ドクター「いいか? 動くんじゃないぞ、動くともっと痛くなるぞ?」

男の子「……っ」

ドクター「…………よし。さあ、フォーティーン。お前も」

女の子「……っ……!」

ドクター「…………よし。終わりだ」

男の子「ぅ……っ、ぁ……あぁぁ!」

女の子「ジェイク……? 大丈夫……ぁ……あぁ!」

久野里「……ジェイク……! ベス!?」

ドクター「なにをしている。早く数値を取れ!」

久野里「で、でも」


「あぁぁ……っ……い、痛いよぉ……!」

「あぁ……っ!」

「……っ……助けて……! ……苦しい……」

「あぁ……あ、頭が……! 頭が……!」

「く、苦しいよぉぉ……っ……! ……痛い、痛い痛い痛い!!」

「ミオ……っ……ミオ……助けて……!」


ミオ……!

ミオ………!!

 

──!

 

 

 

 

 

 

 

 


「──っ!?」


はぁ……。

はぁ……。

はぁ……。


また……あの夢か……。

 

 

 


CHAOS;CHILD AUDIO DRAMA

間に合わぬ愚者愚者の微睡-Fools

 

 

 

 

…………。

 

……。

 

 

 

 

 

伊藤「あぁ……いいなぁ。なんで宮代ばっかり! ずりーよなー!」

尾上「うー、真ちゃんってば、また言ってるー」

宮代「しょうがないだろ。僕だって、好き好(この)んで手に入れたわけじゃないんだ。僕を妬むのは筋違いだ」

伊藤「んなこと言ったってさー、"ギガロマニアックス"だぞー? 男なら誰だって一度は憧れる"能力者"だぞ。羨ましくないわけないだろー!」

尾上「男の子って、そういうの好きだよねー。自分だけに特別な力がー! とか、世界を救う運命がー! とか」

来栖「違うわ、世莉架。伊藤くんのことだもの。そんな可笑しな力があったところで、どうせろくな使い方しないんだから」

伊藤「そ、そんなことないって! もしもオレにスゲー力があれば……きっと世の為人の為に──」

有村「あっ、それウソですねー」

伊藤「……ぐぬぬ。おのれ、有村……ここぞとばかりに能力を発揮しやがって……!」

有村「言っときますけど、今の能力とか関係ないですから」

伊藤「……っ……、おい、宮代ぉ! お前も何とか言ってやってくれー!」

宮代「悪いけど。お前のくだらない話に、僕を巻き込まないでくれるか」

伊藤「あー、ズリー! オレとお前の仲だろう!? あの日、夕陽に誓ったオレたちの友情は嘘だったってのか? ずっと一緒にいようね、って……。あの約束は嘘だったっていうのか……」

 

香月「──んっ!?」

 

尾上「タクと真ちゃん、って……」

来栖「もしかして、その……。そういう関係だったの……?」

宮代「……!? ち、違う! お前、伊藤!? いきなり何言ってんだよ!」

有村「おっかしいなー、さっきの伊藤先輩の言葉……嘘じゃないみたいなんですよねー?」

宮代「ば、ばば、馬鹿なっ!! ぼ、僕は、そんな約束した覚えなんてないからなっ!?」

香月「………ふ……ふふふ」

尾上「……? 華ちゃん、どうしたの?」

香月「んふふ……っ」

宮代「……ま、待て、香月……。変な想像するな」

有村「ほっほーう? どうやら華も、そっちのほうイケる口ですなー?」

香月「……ん」

伊藤「へっへーん! いつもズルいんだよ、宮代ばっか。こうなったら死なばもろとも、道連れにしてやるっ!」

宮代「お、お前っ!?」



 

──!

-POSITIVE TRIGER ON-

 

 

 

 

世莉架「う? いっけなーい、もうこんな時間!」

有村「どしたー、せり?」

尾上「私、約束あるの忘れてたよー! っていうわけで、ごめんタク、今日は帰るね!」

宮代「……? ま、待てよ。今からまだ──」

来栖「あ、拓留。悪いんだけど……私もそろそろ生徒会に顔出さないと……」

宮代「お、おい……来栖……」

有村「んー……。だったら私も一緒にドロンしちゃおっかな! あでぃおすぐらっしゃー。 ね、華。メロンパン食べて帰らない? アイス入ったやつ!」

香月「ん」


宮代「あ、あぁ……。なんなんだよ、あいつら……」

伊藤「……っ……あの、さ……宮代」

宮代「……なんだよ、伊藤。お前もか? まあいいや。2人じゃどうしようもないし、僕たちも帰──」

伊藤「ち、違うんだ! 宮代……。そうじゃなくて……」

宮代「……違う? なにが違うっていうんだ」

伊藤「いや、その……。なんか2人ってのも、久しぶりだしさ。せっかくだから、ちょっと話でも出来ればなー、って」

宮代「なんだよ? 改まって……。変な奴だな」

伊藤「……変……そう、変なんだよオレ……。なんか最近おかしいんだ……」

宮代「……い、とう……?」

伊藤「なあ! 聞いてくれ、宮代!」

宮代「……っ」

伊藤「オレ……! オレ、さ……。ずっとお前のことが羨ましいって思ってた! スゲー力もあって、それにお前ばっか女の子に囲まれてて……。だから最近、そんなお前見てたら……スゲー、イライラしてさ」

宮代「な……なんだよ……? お前……僕に、嫉妬してたのか?」

伊藤「……嫉妬……。そうなんだ、オレもずっと、そう思ってた……。お前に嫉妬してるんだって……。でもさ……なんかそれ、違ったみたいなんだ……」

宮代「……違った……?」

 

 

 

 

伊藤「俺……ようやくわかったんだ。オレがイラつくのは……女子と楽しそうに話してるお前に対してなんだ、って。宮代の傍にいる尾上や、副部長に対してなんだって……。気づいたらオレ……オレは……。あいつらと代わりたいって思ってるんだ! あいつらの代わりに、お前の傍にいたい、って」

宮代「……っ……!? お、おい……それ、どういう──」

伊藤「わかるだろ……? 宮代っ……!」

宮代「……ま、まま、待て! 冗談だろ!! 冗談だよな!? そんな、だってお前が僕のことを──」

伊藤「こんなこと冗談で言えるかよっ!」


──!


宮代「……は?」

伊藤「…………拓留。もう、オレ以外のやつに笑いかけたりなんかするな……」


──生唾を飲みこむ宮代。

 


伊藤「俺と一緒に夜明けのハムサンド……食べよっ!」

宮代「…………イトゥー?」

伊藤「そうじゃない……だろ?」

宮代「ぁっ……! し……真二……っ!」

伊藤「拓留っ……!」

宮代「……すぃん、ずぃ……!」

 

 

 

 

 



 

 

宮代「うわああああぁぁぁぁぁああああああ!!!!」


来栖「た、拓留!? どうしたの!!」

宮代「……い、いや……なんでもない……っ!」


伊藤「なんだなんだー? また良からぬことでも考えてたんじゃないのかー?」

宮代「──! 元はと言えばお前のせいだぞ、真二!」

伊藤「……な、なんだよ!? つか、なんでいきなり名前呼びだよ?」

宮代「……あ、いや……。今のは、ちょっとした間違いだ。別に、変な意味は、ないぞ……」


来栖「変な意味?」

宮代「……く、来栖も気にするな。わかったな?」

来栖「え、ええ……」

有村「……ん? てか、せり。なんか赤くなってるけど……。どうしたー?」

尾上「……う!? ううん、なんでもないよ……? なんでも……」

来栖「……? まあいいわ。くだらない話はここまで。有村さんも、冗談はほどほどにしときなさい」

有村「へーい……」

尾上「そ、そそ、そうだよね! 冗談だよね! は、ははは……」

香月「…………ち」


──!


宮代「……なに残念がってるんだよ、香月……」

伊藤「それにしても……。なーんか、ひさびっさに平和、って感じだよなー!」

尾上「だよねー。『ニュージェネレーションの狂気の再来』事件が起きてから、気が休まることがなかったもんねー」

来栖「なにより平穏なことは良いことね!」

伊藤「そういえば、宮代。事件に関してはまだ進展はないのか?」

来栖「ちょっと伊藤くん! 言ってるそばから蒸し返さないでくれない?」

宮代「……いや、来栖。僕たちだってもう、一連の事件には完全に巻き込まれてしまっているんだ。今さら関係ないっていうわけにはいかないことは、わかってるだろ?」

来栖「……それはそうだけど……」

尾上「でも……。のんちゃんの気持ちもわかるよー。だって、ここのところ……。みんななんか、ちょっとギスギスしてたし……。ほら、とくにあの人……。久野里さんがいると──」

有村「あーもう! やめてよ、せり! やな奴思い出させないでよー!」

来栖「……ねえ。私、まだその久野里さんって人に会ったことないけど……。そんなに、その……感じの悪い人なの?」

有村「そりゃあもう! あの人なにが気に入らないのかしんないけど、私たち能力者のことを目の敵にしてるんすよねー」

来栖「でも、その人って確か……"ケイさん"、なのよね? 渋谷にうずの。とても優しそうな感じだったのに……」

香月「……んー」


『皆さん、ようこそいらっしゃいませ。ごきげんいかがですか? ケイさんです──』


来栖「そうそう、この声! ありがとう、香月」

香月「ん」

来栖「うーん……。やっぱり、すごく優しそうに聞こえるけど……」

尾上「見た目も、すっごく綺麗なんだけど……。でも、外見と中身が違うってのも、よくあることだもんねー」

宮代「……ほんと、とんだ"猫かぶり"だな……」

伊藤「俺はああいうキツいのもアリだけどな……!」

有村「変態だー! みなさーん、変態がここにいまーす!」


──「なんだ、ずいぶん賑やかだな」

 

宮代「……神成さん」

有村「ちょっとー、入るときはノックくらいするのが常識じゃないすか?」

神成「あ……そうだったな。すまない。どうも最近、常識じゃ測れない事件ばっかりなもんで……つい」

来栖「あの……。神成さんが、わざわざ部室にまでなんの用です? ……まさか、また……!」

神成「あぁ、いや……。近くまで寄ったもんで、ついでに挨拶でもと思ってね」

伊藤「なーんだ……。てことは、別に進展があったってわけじゃないすね」

神成「残念ながら……。この前、久野里さんと被害者の脳を調べたんだが……。新たな情報はなにも」

尾上「脳……? うー、想像しちゃったよー……!」


『そういえば皆さんは、今月の頭に起きた事件について、覚えていらっしゃるでしょうか?』


神成「ん? 聞き覚えのある声だな」

宮代「なに言ってるんですか? 久野里さんですよ」

神成「……あ、ああ。なるほど。あ、そういえばそうだ。最近は、あの冷たい声しか聞いてなかったからなー。こんな声も出せるってこと、すっかり忘れてたよ」

来栖「久野里さんって、神成さんにもそんな態度なんですか……?」

神成「そりゃもう、怖いのなんのって! あ……俺がそう言ってたって、彼女には言うなよ?」

有村「頼まれたって言いませんよ」

宮代「……でも、あの人。なんであんなに能力を持ってる人間のこと、嫌ってるんでしょう。……神成さん、なにか知らないんですか?」

神成「彼女がそんなプライベートなことを俺に話すと思うか?」

有村「ほんっと、神成さんも役に立たないっすねー」

神成「……まったくだ。自分でも嫌になる……」

有村「あ、いや……。そんな素直に言われちゃったら、なんか私が悪いみたいじゃないすか」

神成「ははは……」

有村「な、なんですか……?」

神成「あ、いや。有村さんって、意外と良い子だなって」

香月「ん」

有村「……や、やめてくださいよ。私、良い子なんかじゃありませんから」

尾上「そんなことないよー! ひなちゃん、良い子だよ? ねー、タク?」

宮代「有村が良い子……!?」

有村「……なんか先輩に言われるとムカつく」

宮代「なんだよそれ!?」

伊藤「オレは! ねぇ、オレも良い子だよな!?」

来栖「……あぁ、伊藤くんはさすがに良い子とは……。ねぇ?」

伊藤「宮代ー! やっぱオレのことわかってくれるのはお前だけだー!! みやしろぉぉ!」

宮代「──! や、やめろって……! く、くっつくなっ!」

 

香月「ん……」

尾上「わぁ、華ちゃんたら、またニヤニヤしてる~」


伊藤「宮代……!」

宮代「……い、伊藤……っ……!」

 

…………。


……。

 

 

 

 

 

 

 

 

……はは。

 

 


──扉を開く音。

 

 


久野里「調子はどうだ? ……宮代」

宮代「……あぁ……久野里さん」

久野里「……? お前もしかして……笑っていたのか? 珍しいな」

宮代「ええ……。ちょっと、昔のことを思い出してしまって……」

久野里「昔のこと……というと? 尾上たちとのことか?」

宮代「……尾上や乃々。それに、新聞部のみんなのことです」

久野里「……そうか。そういう偶然も、まぁあるんだろうな」

宮代「……なんのことです?」

久野里「いや……。その尾上世莉架のことだがな。どうやら、色々な矛盾に気づき始めているらしい。……ついさっき、百瀬さんのところに来たそうだ」

宮代「…………そうですか。言っておきますけど、くれぐれもここには……」

久野里「お前はそれでいいのか?」

宮代「久野里さんらしくないですね。僕の意見を聞くなんて」

久野里「なに……?」

宮代「以前の久野里さんなら……。わざわざ僕にそんなことを確かめたりせず、自分のやりたい様にやったはずです」

久野里「……。確かにそうかもしれないな」

宮代「昔のことを……」

久野里「……?」

宮代「昔のことを思い出していた、って言いましたよね? ……あの頃の久野里さんは、僕たちを目の敵にして……。独善的で高圧的で……本当に嫌な人でした」

久野里「そういうことは普通、本人のいないところで言うものだ」

宮代「過去形ですよ。……だってほら、今ではこんなことを言っても、あまり怒らない」

久野里「お前もずいぶん嫌な奴になったもんだ」

宮代「ずっと久野里さんと一緒だったからですよ」

久野里「私はあの頃となにも変わっていない……。なにもな……」

宮代「……一つ、訊いてもいいですか?」

久野里「くだらんことでなければな」

宮代「久野里さんは……どうしてあんなにも僕たち、ギガロマニアックスのことを嫌っていたんですか?」

久野里「"いた"じゃない……"いる"だ」

宮代「……。じゃあ、訂正します。どうして、そんなに嫌っているんです? なにか、あったんですか? あ、その……過去に、なにか……」

久野里「………」

宮代「……あ……すみません。やっぱり、くだらない話でしたね」

久野里「知り合いに……」

宮代「えっ?」

久野里「私の知り合いに……天才と呼ばれた少女がいた。まぁ、天才と言っても……せいぜい上の下。牧瀬紅莉栖ほどではないがな」

宮代「……まきせ、くりす……?」

久野里「知らないか? サイエンス誌にも論文が載って、一時期ニッポンでも話題になったんだが……」

宮代「あぁ……。そういえば、聞いたことあるような」

久野里「……その知り合いの子はな、ニッポンの小学校を卒業して、アメリカの全寮制スクールに入り、飛び級でハイスクールへと進学した。そしてそこで、牧瀬紅莉栖の論文に感化され……脳科学の研究室に出入りするようになった」

宮代「……優秀、だったんですね」

久野里「中途半端な才能だよ……」

宮代「………」

久野里「続けていいか?」

宮代「はい」

久野里「その脳科学の研究室で才能を認められた彼女は、やがて、精神生理学研究所に迎えられ、"とある研究"に従事するようになる。研究の対象は……子どもたちだった」

宮代「……子どもたち? まさか……」

久野里「歳の近い彼女に、子どもたちはたいそう懐いたらしい。最初は子ども嫌いだった彼女もまた、次第に心を許していったそうだ……。彼女の働きもあって、研究は飛躍的に進んだ。そして、研究成果があがればあがるに従い……次第に……実験の様相も変わっていった。彼女がその実験に疑問を持ち始めるまで、それほどの時間は必要なかった」

宮代「待ってください! 久野里さん、その実験って──」

久野里「特定の脳内伝達物質保有者における……妄想具現化の発現と解析。……それが、その研究所で行われていた実験の実態だ」

宮代「……そ、それは……ギガロマニアックスの……!?」

久野里「……実験は次第に、子どもたちに多大な負荷と苦痛を与えるものへと変わっていった……」

宮代「そ、それで……その人はっ! 彼女は、どうしたんです!?」

久野里「もちろん抵抗した。こんな実験は間違っている、と。……けれど。受け入れられなかった……。そこで思い切った彼女は、一つの行動に出た。投薬の量を減らし、数値を改竄(かいざん)するという行動に……。それが仇となってしまうことも知らずに……」

宮代「……仇?」

久野里「薬物を減らしたことで、当然。実験の経過は芳しくなくなる。一方で、ニッポンで同様の研究を行っていた機関が、ある程度の成果をあげたという報告が入ってきた。……そしてあの日……」

 

 

……。

 

 

 

 


ドクター『さあ、注射の時間だ。手を出しなさい』


女の子『……また、苦しくなる……?』

男の子『僕……痛いの、やだ』

ドクター『何度言わせればわかる? これは、お前たちの病気を治すために必要な薬だ。……さあ、大人しく腕を出しなさい』

女の子『……っ……』

久野里『大丈夫。私がついてる……。終わったら、お菓子持ってきてあげるから』

女の子『ほんと……?』

久野里『ああ』

男の子『……じゃあ、我慢する……』


ドクター『いいかー? 動くんじゃないぞ。動くともっと痛くなるぞ?』

男の子『──! うっ……!』

ドクター『……よし。さあ、フォーティーン。お前も』

女の子『……っ……』

ドクター『……よし。終わりだ』


男の子『……うっ……うぅ! あぁ……あ、あ、あぁっ!』

女の子『……ジェイク! だいじょ……っ……あ、あぁぁ……っ……!』

男の子『あぁぁ……っ……! あぁぁっ!』

久野里『……ジェイク! ベス!?』

ドクター『なにをしている! 早く数値を取れ!』


──泣き叫ぶ男の子と女の子。


久野里『どういうことだ! おかしい……! こんな反応──!』

ドクター『くそぉっ! 多すぎたか!!』

久野里『──!? 多すぎた? まさか……投薬の量を増やしたのか!?』

ドクター『このままでは他に先を越されてしまう! その前に成果をあげなければならない! やむを得ない処置だ!』

久野里『馬鹿なっ……!? そんなこと……ジェイク! ベス! しっかりしろ!』

男の子『あぁぁ……っ……うぁ……!』

女の子『……ぁ……っ、あぁぁ……! た、すけて……!』

ドクター『くそぉっ!!』

久野里『……っ……ジェイク……!』

女の子『……ミオ……ど、どこ……どこにいるのぉ……?』

久野里『ここだ! 私はここにいる!』

男の子『……た、たすけて……っ……!』

久野里「しっかりするんだ! ジェイク!」

女の子『……ミ、ミオ……っ……いたい、よ……ミオ……! ミオ……っ……』


ピーーーーーー……。


久野里『……ジェイク? ベス……?』

ドクター『くそぉっ!! 死んじまいやがった……! これで全部おじゃんだっ!!』

久野里『……あぁ……っ……、う、うぅ……! うぁぁ……! ああぁぁぁぁぁぁぁぁ──』


……。

 

 

 

 


宮代「…………そんな」

久野里「冷たくなっていく、子どもたちの亡骸を見て……彼女は思った。すべては、ギガロマニアックスという存在のせいだと」

宮代「ギガロマニアックスのせい……」

久野里「この世にギガロマニアックスという存在が……生まれ落ちさえしなければ……。そうすれば、子ども達は犠牲になることはなかった……! やがて彼女の胸には、激しい憎悪の念が残った。……ギガロマニアックスという連中に対しての……」

宮代「そんな……」

久野里「身勝手と言われば、それまでのことだがな」

宮代「……ぁ、あの……。その研究所というのは、今は……?」

久野里「取り潰されたよ。……上層組織である、"委員会"の手によってな」

宮代「……"委員会"」

久野里「…………すまない。思わぬ長居をしてしまったようだな」

宮代「い、いえ……。そんな……」

久野里「……ふ。それにしても、どうかしている。まさかお前に、こんな話を聞かせるとはな」

宮代「そんなこと……。話してくれて、その……嬉しかった」

久野里「くだらない昔話だ。忘れろ」

宮代「それは、出来ません」

久野里「なに?」

宮代「忘れませんよ。……だって、久野里さんが……仲間が話してくれたことですから」

久野里「……仲間?」

宮代「ええ……。今の久野里さんは、僕にとって仲間です。あいつらと、新聞部のみんなと同じ──」

久野里「いい迷惑だな。私はただ、私の為に動いているだけだ」

宮代「……でも。そう考えるのは、僕の勝手でしょ?」

久野里「……ふ。勝手にしろ」


──久野里が病室を出ようとする。


宮代「あの、久野里さん。…………少し、わかるような気がします。その……彼女の気持ち。だって、そんなの……自分ひとりで抱え込むには……大きすぎるから」

久野里「……そうか。それを聞けば……彼女も喜ぶだろうな。……きっと」


…………。


……。

 

 

 




……。


百瀬「はい、コーヒー。薄目にしといたわよ」

神成「あぁ、どうも」

百瀬「……それにしても、立ち聞きとは良くないわね神成ちゃん」

神成「いや……聞くつもりはなかったんですがね。耳に入ってきてしまったもので……」

百瀬「どうだか。人が良さそうに見えて……。あんたも一応、刑事だからね」

神成「一応ってのは酷いな。少なくとも今回の事件で、一人前にはなれたつもりなんですけどね……」

百瀬「そう思った時点で、ようやく半人前ってとこね」

神成「……こいつは手厳しい」

百瀬「ふふふ……。まぁ、でもあんたも良い顔つきになってきたわよ」

神成「顔つきだけは一人前、ですか……。は、そいつは喜んでいいのかどうか」

百瀬「……でも、そう。澪ちゃんがそんなことをね……」

神成「はぁ……驚きましたよ。それも、宮代拓留相手に、ですからね。……しかし、彼女にあんな過去があったなんて。まぁ、正直俺も気にはなっていたんですよ。なにせ、ギガロマニアックスに対してのあの憎しみようときたら……尋常じゃないですから。……百瀬さん?」

百瀬「……ん?」

神成「いや、なんか……難しそうな顔してるから」

百瀬「そんなことないわ。私はいたって普通よ」

神成「普通……ですか」

百瀬「はぁ……。やっぱりさっきのは訂正。あんた、立派な刑事になったわ。それも嫌な、ね」

神成「誉め言葉として受け取っておきます。……で、なにを気にしてるんですか?」

百瀬「……それで終わりだったの?」

神成「それって?」

百瀬「だから、澪ちゃんの話。それで全部だったのかしら?」

神成「……ええ。その後すぐに彼女が出てきたもんだから、誤魔化すのに苦労しましたよ。……それがどうかしましたか?」

百瀬「そう……。それじゃあ、あの子……まだ」

神成「どういうことです?」

百瀬「その話……澪ちゃんの語った話は、あくまで彼女の記憶の中の物語だわ」

神成「……は?」

百瀬「だから……。それはあくまでも"久野里 澪"という少女の、頭の中の記憶に過ぎない、ってこと」

神成「そ……ま、待ってください。もっと、わかりやすく言ってください」

百瀬「真実は人それぞれ違うのよ、神成ちゃん。……とくに、思い出したくないことに関してはね」

神成「それじゃあ……あの話は、彼女がそう思っているだけで、実際は違うっていうことですか?」

百瀬「少なくとも……私の知っている話しとは違うわね」

神成「聞かせてもらえますか? 百瀬さんが知っている、その、"もう一つの真実"ってやつを!」

百瀬「……それを知って、あの子への態度を変えないというなら」

神成「……約束します!」

百瀬「わかったわ。……あの子がアメリカで、ある研究所にいたのは本当のこと。そこで、ギガロマニアックスに関する実験に、従事していたのもね。それから、苦しむ子どもたちを見兼ねて、投薬の量を減らしたのも本当よ。……ただね、知っていたの。あの子も」

神成「……知っていた? なにをですか?」

百瀬「日本の施設が、成果をあげたことに焦りを覚えた研究者たちが、投薬の量を増やした……。そのことを」

神成「な……っ!? それじゃ……彼女は……!」

百瀬「……ええ。あの子も知っていたの。……知っていて、目を背けたのよ」

 

……。

 

 

 

 

 

久野里『投薬の量を増やす!? 正気で言っているのか!」

ドクター『このままでは遅れを取りかねん。成果をあげる為には、やむを得ない措置だ』

久野里『でも……! 万が一のことがあったら!』

ドクター『今の状況では、これまでの成果すら無駄に終わってしまうんだぞ! お前はそれでもいいのか』

久野里『……それは……っ』

ドクター『今までの彼らの苦しみすら、意味の無いものに変わってしまう。全てを他の研究者たちに奪われてしまう。科学者として、お前はそれで満足なのか?』

久野里『……っ……!』

ドクター『わかったら余計な口出しはするな。……これは、命令だ!』

久野里『…………』

ドクター『いいか? 動くんじゃないぞ? 動くともっと痛くなるぞ?』

男の子『──! うっ……!』

ドクター『……よし。さあ、フォーティーン。お前も』

女の子『うぅ……うっ……!』

ドクター『よし、終わりだ』

男の子『……うっ……うぅ! あぁ……あ、あ、あぁっ!』

女の子『ジェイク! だいじょ……っ……あ、あぁぁ……っ……!』

男の子『あぁぁ……っ……! あぁぁっ!』

久野里『……ジェイク! ベス!?』

ドクター『なにをしている! 早く数値を取れ!』

久野里『で、でも……!』


──泣き叫ぶ男の子と女の子。


ドクター『──! まずいっ! これは……っ……そっちを押さえろ!!』

男の子『あぁぁ……っ……うぁ……!』

女の子『……ぁ……っ、あぁぁ……! ぃ、いたいょ……!』

久野里『ジェイク……! ……ベス!?』

ドクター『くそっ!!!』

男の子『うぅ……っ……! うぅ……く、くるし、いよ……!』

女の子『あぁぁ、あ……あたまが……っ……!』

男の子『ミ……ミオ……っ……! たす、けてーー!! あぁぁぁ』

女の子『……っ……ミ、ミオ……どこ……? どこにいる、の……?』

久野里『ここだ! ……私はここにいる!』

男の子『ミ……ミオ……ミオ……!』

久野里『しっかりするんだ、ジェイク!』

女の子『……ミオ……ありが、とう……』

久野里『なにを言ってるんだベス! そんな言葉……っ!』

男の子『……っ……ありがとう……ミ、オ……!』

女の子『いま、まで……わたしたちの、ために……ありがとう……』


ピーーーーーー……。


久野里『……ジェイク? ベス……?』

ドクター『くそぉっ!! 死んじまいやがった……! これで全部おじゃんだっ!!』

久野里『……あぁ……っ……、う、うぅ……! うぁぁ……! ああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! わたし、私が殺した……!』

ドクター『お、落ち着け! これは事故だ!』

久野里『わたしが、この子たちを見殺しに……! 私が、殺した!!』

ドクター『責任は誰にもないっ……!』

久野里『お前が……っ私が、私が殺したんだ!! ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』


──ッ!!


ドクター『な、なにをするっ!? やめろぉ!』

久野里『──ああぁぁぁぁ!!』


──ッ!!


ドクター『だ、誰か! 誰か来てくれ! そいつを止めろぉ! 早く!』

久野里『ああぁぁぁぁぁ!! ──は、離せぇ! 私は……私は!! うぅ……ああぁぁぁぁぁぁぁ──』

 

……。

 

 

 

 

 

神成「ちょ、ちょっと待ってください。……それじゃあ、久野里さんは、投薬の量を増やすことを知っていて──」

百瀬「見て見ぬフリをした……。その結果、子どもたちは死んでしまった」

神成「……っ」

百瀬「見境をなくして暴れた彼女は……その後、病院へと移され……。そして、彼女の中で……過去は改竄(かいざん)された。……彼女だけの"真実"というかたちに……」

神成「………なんてこった。それじゃあ、彼女が偏執的なまでにギガロマニアックスを憎むのも……」

百瀬「すべては彼らのせい……。そう思うことで、無意識に自らの心のバランスを保っているのよ」

神成「…………妙だと思っていたんですよ。俺たちから見れば、宮代拓留をはじめとした、"カオスチャイルド症候群者"は……皆、被害者だ。そんな彼らを、あそこまで憎む理由があるのか、って」

百瀬「これで納得がいった?」

神成「腑には落ちましたよ……」

百瀬「納得はいかない……そういう顔ね」

神成「久野里 澪……。彼女もまた犠牲者であり、そして……加害者でもあった」

百瀬「……もう一度言っておくけど、だからってあの子のこと──」

神成「その判断をするべきなのは、たぶん俺じゃない」

百瀬「え……?」

神成「俺はただの傍観者です。決めるのは被害者だ」

百瀬「……あんた……ふっ。ズルくなったわね」

神成「はは……。そうです。俺はズルいんですよ。今ごろ気づきました?」


…………。

 

……。

 




宮代「……つまり、子どもたちは、久野里さんも承知の上で投じられる薬の量を増やされ……。彼女自身も、研究機関に楯突く者として、病院に収容されたと」

神成「そして……亡くなった子どもたちにそんな運命を背負わせた原因は、すべてギガロマニアックスにあると信じ……憎しみを抱いている。それが、彼女が創り出した、彼女なりの"真実"だそうだ」

宮代「……なるほど。話は分かりました。……でも、神成さんはその話を僕に聞かせて、どうしようっていうんです?」

神成「別に、どうこうしようっていうつもりはないさ。ただ、君は知っておいたほうがいいと思ったんだ」

宮代「そうやって僕に判断を委ねるんですか……。ズルいですね」

神成「だろ? でもな、今回のことで俺は思ったんだ。この事件に関して、所詮俺たちは脇役でしかない。……だから、すべては主役である君たちに委ねるしかない、ってな」

宮代「やっぱりズルいな。……卑怯ですよ、そういうの」

神成「大人ってのはそういうもんさ。……ふ……で、今の話を聞いて、君はどうする? 宮代拓留くん」

宮代「……別にぼくはどうもしませんよ。確かに、久野里さんがどういう経緯(いきさつ)でギガロマニアックスを憎んでいたのか、気になってはいましたけど。……でも、それがわかったからって僕たちの関係性が変わるわけじゃない。久野里さんは久野里さんで……症候群をなくすために協力してくれてる。それだけのことです」

神成「……そうか。君は強くなったな」

宮代「強くなんてありませんよ。ただ……情報に踊らされるのをやめただけです」

神成「情報に……踊らされる……」

宮代「情報っていうのは、厳然とそこにある事実であり、手段です。僕たちはそこに価値を見出し、判断し行動する。……けれど、それがいきすぎると、情報それ自身が手段ではなく、目的になってしまう。情報を得るために新たな情報を求め……やがてはそれに翻弄される。今までの僕は、情報という"怪物"に飲み込まれていただけだ。そしてそれは、とても愚かなことだって、僕は気づいた──あ、いや……気づかされたんですよ。あいつらに」

神成「………はは」

宮代「……? 僕、なにかおかしなこと言いましたか?」

神成「あ、いや……失礼。そういうわけじゃないんだ。ただ……そういう意味じゃ、俺たち刑事ってのは──どこまでもその情報とやらに翻弄されていく生き物なんだろうと思ってな」

宮代「神成さん……」

神成「ま、でも安心したよ。すべてを知っても、君の彼女を見る目は変わらないってわかって」

宮代「もしかして……試したんですか?」

神成「試したんじゃない、信じたんだよ」

宮代「詭弁です」

神成「言ったろ? 大人ってのはズルいんだよ」


──!

 

神成の携帯電話が鳴る。

 


神成「──と、そろそろ持ち場に戻らなきゃならんな。それじゃ、また後で顔出すよ」

宮代「ご苦労さまです」

神成「……ああ、そうそう。これは大人からの忠告。……君は、少しくらいズルさを覚えたほうがいい。この世界で生きていく為には、な。……はは。なんて、今さら言っても遅いか……」


──神成が病室を出る。

 

 

……。

 

 


宮代「……ふぅ。僕だって…………ズルいですよ……」


……そしてその日、僕は夢を見た。

それはとても小さくて、けれど、とても幸せな……そんな夢だった……。

 

…………。


……。

 

 

 

 

 

 

 


来栖「それじゃあ、次回の特集記事は"渋谷の中で見つけた懐かしの風景"。これでいいわね?」

宮代「異議あり!」

来栖「拓留……」

宮代「そんな情報、わざわざ記事として載せる意味ないだろ! やるなら、もっと事件性のあるものにしないと読者の興味は惹けない!」

来栖「……今さら蒸し返さないで。その話は散々して、ようやく今、落ち着きそうになったところでしょう?」

宮代「それは乃々が強引にまとめようとしただけだろ! 皆も考えてみてくれ、そもそも新聞というものがなんなのか。尾上。わかるか?」

尾上「う? えーっと……ん-……なんの話だっけ?」

宮代「……聞いてなかったのかよ。……ゴホン、仕方ない。一席ぶつぞ。そもそも新聞っていうのは、世の中に起こった新たなことを伝えるのを目的とし、人々の情報に対する欲求を満たすものでもある。古くは古代ローマ時代、フォロと呼ばれる政治の中心地に貼り出された──」

伊藤「あーもう! わかった、わかった!」

宮代「なんだよ伊藤! 僕の話はまだ──」

伊藤「わかったって! オレも宮代の意見には賛成だ。副部長の提案するような記事は、わざわざ学校の新聞で扱うようなことじゃない」

来栖「どうして? 普段気づかないような些細なことに目を向けることだって、新しい発見という意味では重要なことじゃないかしら?」

伊藤「確かにそうかもしれんけどさー……。でも、なんつーか……こう、つまんねーじゃん。内容もババ臭いってかさ」

来栖「ば、ば、ば……。ちょっと、伊藤くん……? それ、どういう意味?」

伊藤「い、いや! 別に、副部長がババ臭いっていう意味じゃ──」

来栖「完っ全にそう聞こえました、けど?」

尾上「ま、まぁまぁ……。のんちゃんも真ちゃんも、落ち着いてー?」

伊藤「そういうお前は、どんな記事にしたいんだよ?」

尾上「……私? うー、私はタクがやりたい記事で……」

有村「はーい! 私は、流行りのスイーツ特集が良いと思いまーす!」

宮代「……お前には聞いてないし、有村……。大体、そんなの甘いモノとお洒落にしか興味ない"スイーツ女子"しか興味ないだろ」

有村「ははぁ、そういう情報に疎いからリアルが充実しないんすよ、先輩がたはー」

宮代「──ぐ! い、伊藤はともかく! 僕はリア充だと何度も言ってるだろ!」

伊藤「おい待て、宮代! オレはともかくっていうのはどういうことだ!」

有村「はいはい! 目くそ鼻くそ、目くそ鼻くそ!」


宮代「だれが目くそだ!」
伊藤「だれが目くそだよっ!」


宮代「いや待て。その二つなら目くそは僕だろ!」

伊藤「あー? オレが目くそで宮代が鼻くそだろ! どっちかっていうと!」

宮代「なんだそれは!」

伊藤「あー!?」


尾上「もう、2人ともやめなよー」


宮代「尾上! お前はどう思う? 伊藤のほうが鼻くそっぽいよな、断然!」

伊藤「いや、誰がどう考えても宮代だろ! なぁ、尾上!」


尾上「うー、そんなこと言われても困るよー!」


宮代「お前が鼻くそだろ!!」

伊藤「なあ尾上! オレが目くそだよなっ!?」


尾上「雛ちゃーんっ!」

有村「どっちも鼻くそでいいんじゃないっすかー……?」


宮代「ダメだ! こういうのはハッキリさせておかないと後々の遺恨になる!」

伊藤「はーなくそ!!」


──くだらない言い合いを続ける宮代と伊藤……。


尾上「うー……」

香月「……んー!」

来栖「香月……あなたはどう思う?」

香月「ん……私も、どっちが目くそでもかまわない……。それこそ、目くそ鼻くそ……」

来栖「そうじゃなくて、記事の話。香月はなにかやりたいことないの?」

香月「ん……私的には、新しいネトゲのレビューとか、いい、かも……」

来栖「……それこそ、香月くらいしか喜ばないんじゃない?」

香月「ん……じゃあ、なんでもいい、かも……」


宮代「お前が鼻くそだ!!」

伊藤「いーや! 誰がどう考えても宮代だろ!!」


尾上「これじゃあ、いつまで経ってもまとまんないねー……」


──扉を開く音。

 


久野里「……全く。お前たちはいつも賑やかだな。声が廊下まで聞こえていたぞ」

来栖「久野里さん! いいところに!」

久野里「言っておくが、次の記事についてなら私はノータッチだぞ」

来栖「そんなこと言わないで、力を貸してください。そもそも、この部の起こりは、久野里さんの『渋谷にうず』なんですから!」

有村「そうっすよー。久野里さんからビシッと言ってくれたら、この残念男子2人もちょっとは反省するんすからー!」

久野里「まったく……。いい加減、引退した人間を頼るのはやめてほしいもんだな。……まあ、でもしょうがない──」 


宮代「お前が鼻くそだーー!!!」

伊藤「鼻くそって言ったやつが鼻くそなんですぅー!!」

宮代「はっはっは。ならお前も鼻くそって言ってるだろ!」

伊藤「──!? おま、そういう揚げ足取りばっかりしてるから女子にモテねーんだよー!!」

宮代「ふっ、お前にだけは言われたくな──」


──ッ!!


久野里「うるっさーーーーい!!!」

 

 


宮代「うわっ!?」
伊藤「うわっ!?」


久野里「さっきから、くそくそくそくそうるさいぞ! このくそったれども! いつまで子どもみたいな言い合いしてるんだ!!」


宮代「……あれ、久野里……さん?」

伊藤「い、いつの間に……」

久野里「いつの間に、じゃない。これ以上くだらん言い争いをするようなら、頭開いて脳みそに電極ぶっ刺してやるからな!!」


宮代「ひぃっ!? ごめんなさーい!」
伊藤「ひぃっ!? ごめんなさーい!」


久野里「……ふん!」

有村「いやいや、見事な鶴の一声! さっすが影の女帝と囁かれるだけのことはありますなー!」

久野里「……なんだそれは?」

有村「あれ、知らないんすか? 表の女帝、来栖乃々を裏で操る影の女帝、久野里澪……。中には2人の関係を怪しむ声すらあるんすよぉ?」

宮代「……関係を、怪しむ? どういうことだ?」

有村「やだなぁ、女同士の怪しい関係といえば! ……決まってるじゃないすか!」

 

 

──!

-POSITIVE TRIGER ON-

 

 

 

 

 

 

久野里『ごきげんよう。乃々』

来栖『あ……お姉さま。ごきげんよう。今日も麗しゅう』

久野里『ああ、お待ちなさい。乃々』

来栖『……?』

久野里『ほら……。リボンが曲がっていてよ』

来栖『あ、ありがとう、ございます……』

久野里『……とても可愛い耳をしてるのね。食べちゃいたいくらい。……ううん。本当に食べちゃおうかしら』

来栖『あ……ダメです、お姉さま……。そ、そんな……あぁっ……』


……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来栖「な、なんなのよそれ!」

有村「なんなのと言われましても……。そういう噂でして」

尾上「そういえば私も聞いたことあるかもー!」

有村「でしょでしょ?」

宮代「……お姉、さま……」

伊藤「キマシタワー!」

来栖「あなたたちも想像しない!」

香月「……ん……んふふふ」

来栖「香月も喜ばない!」

有村「おっ! 華ってば、そっちもイケる口?」

香月「ん!」 

尾上「で、実際のところはどうなの? のんちゃーん!」

来栖「実際もなにも、そんなこと……断じてありません!」

久野里「おや? 来栖は私と噂になるのがそんなに嫌なのか?」

来栖「え、べ、別に嫌とか……そういうわけじゃないですけど……」

久野里「ふふ、慌てた来栖も……可愛いな」

来栖「え?」

有村「スクープだ、せり! はやくカメラをっ!」

尾上「おっけぃ!!」

来栖「んもう、みんな! いい加減にしなさい!」

久野里「……ふふっ」

来栖「もう……あはは……」


──みんなで笑い合う。


……。

 

 

 

 


──プルルルル……。

 

 

 

「……ん…………夢……?」


──久野里が電話に出る。


「……久野里だ…………尾上が……? …………わかった、通してくれ」


…………。

 

"あの頃の夢"以外の夢なんて、久しぶりだな……。


それにしても……私が碧朋に……か。


……ふん、くだらん妄想だ……。


……。